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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】繊維製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/71 20060101AFI20250107BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20250107BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20250107BHJP
   A01N 41/04 20060101ALI20250107BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20250107BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20250107BHJP
   D06M 15/244 20060101ALI20250107BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20250107BHJP
   D06M 15/356 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
D06M11/71
A01N25/10
A01N37/06
A01N41/04 Z
A01P1/00
D06M13/256
D06M15/244
D06M15/263
D06M15/356
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023011547
(22)【出願日】2023-01-30
(65)【公開番号】P2024107560
(43)【公開日】2024-08-09
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】アウンデ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510087564
【氏名又は名称】積水マテリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 里恵
(72)【発明者】
【氏名】増田 亘児
(72)【発明者】
【氏名】大原 弘平
(72)【発明者】
【氏名】大石 貴之
(72)【発明者】
【氏名】福井 竜也
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-285485(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157942(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/191322(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/261798(WO,A1)
【文献】特開2013-087386(JP,A)
【文献】国際公開第2014/102980(WO,A1)
【文献】特開2021-014650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 23/18
A01P 1/00 - 23/00
A01N 1/00 - 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製品であって、
繊維基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に存在する樹脂層とを含み、
前記基材には、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.0~3.0g/m2、及び2.0~5.0g/m2の量で付着しており、
前記樹脂層は、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)を、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.2~4.0g/m2、及び2.9~3.9g/m2の量で含んでおり、
ここで、前記抗ウイルス成分(B)が、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)、及び、カルボキシ基を有する有機酸(b2)を含むものである、繊維製品。
【請求項2】
前記スルホン酸基の塩を有する化合物が、線状高分子と、前記線状高分子に結合している芳香環と、前記芳香環に直接又は間接的に結合しているスルホン酸基とを含んでおり、
前記カルボキシ基を有する有機酸が、分子内にカルボキシ基を複数個有する、
請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
前記基材がシート状であり、
前記樹脂層が、前記シート状基材の片面に間隔をあけて配置されており、
前記基材の片面の総面積に対する、前記樹脂層の総面積の割合が、10%以上60%以下である、請求項1又は2に記載の繊維製品。
【請求項4】
繊維製品を製造する方法であって、
(I) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C1)を含む分散液に、繊維基材を浸漬した後、分散液から繊維基材を取り出して、乾燥する工程、
(II) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C2)を含む組成物を用いるプリント加工により、前記基材の表面の少なくとも一部に樹脂層を形成する工程
を含み、ここで、
前記工程I及びIIにおける抗ウイルス成分(B)が、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)、及び、カルボキシ基を有する有機酸(b2)を含んでおり、
前記工程Iによって前記基材に付着されるリン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)の量が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.0~3.0g/m2、及び2.0~5.0g/m2であり、
前記工程IIによって形成される樹脂層に含まれるリン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)の量が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.2~4.0g/m2、及び2.9~3.9g/m2である、
方法。
【請求項5】
工程IIの後、前記基材を湯洗いする工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性繊維製品及び前記繊維製品を製造するための方法に関する。より具体的には、本発明は、抗アレルゲン性及び抗ウイルス性を有する繊維製品並びに前記繊維製品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉やダニによって引き起こされるアレルギー症状や、インフルエンザウイルス等によるウイルス感染症への対策に関心が高まっており、繊維製品の分野においても、抗アレルゲン性や抗ウイルス性を有する機能性繊維製品の需要が増加している。
【0003】
このため、出願人は、以前にも、抗アレルゲン性と抗ウイルス性とを有する繊維製品を開発している(特許文献1)。特許文献1の繊維製品は、自動車用シート等に使用するのに適しており、優れた抗アレルゲン性及び抗ウイルス性を示すが、洗濯耐久性については検討されていない。ユーザーが洗濯を行う繊維製品については、洗濯した後でも、抗ウイルス性及び抗アレルゲン性を高レベルで維持することが要求されるため、洗濯耐久性の高い繊維製品が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/157942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
それゆえ、本発明は、洗濯後でも、高い抗ウイルス性及び抗アレルゲン性を維持できる繊維製品及び、前記繊維製品を製造するための方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、布帛等の繊維基材を、リン酸ジルコニウム及び特定の抗ウイルス成分を含む分散液に浸漬して、繊維基材に、リン酸ジルコニウムと抗ウイルス成分を付着させた後、繊維基材の表面の少なくとも一部に、リン酸ジルコニウム及び前記特定の抗ウイルス成分を含む樹脂層を形成することにより、洗濯を繰り返した後でも、高い抗ウイルス性及び抗アレルゲン性を示す繊維製品を開発することに成功した。
【0007】
前記課題を解決できる本発明は、以下の構成を有する。
[1]
繊維製品であって、
繊維基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に存在する樹脂層とを含み、
前記基材には、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.0~3.0g/m2、及び2.0~5.0g/m2の量で付着しており、
前記樹脂層は、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)を、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.2~4.0g/m2、及び2.9~3.9g/m2の量で含んでおり、
ここで、前記抗ウイルス成分(B)が、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)、及び、カルボキシ基を有する有機酸(b2)を含むものである、繊維製品。
[2]
前記スルホン酸基の塩を有する化合物が、線状高分子と、前記線状高分子に結合している芳香環と、前記芳香環に直接又は間接的に結合しているスルホン酸基とを含んでおり、
前記カルボキシ基を有する有機酸が、分子内にカルボキシ基を複数個有する、[1]に記載の繊維製品。
[3]
前記基材がシート状であり、
前記樹脂層が、前記シート状基材の片面に間隔をあけて配置されており、
前記基材の片面の総面積に対する、前記樹脂層の総面積の割合が、10%以上60%以下である、[1]又は[2]に記載の繊維製品。
[4]
繊維製品を製造する方法であって、
(I) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C1)を含む分散液に、繊維基材を浸漬した後、分散液から繊維基材を取り出して、乾燥する工程、
(II) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C2)を含む組成物を用いるプリント加工により、前記基材の表面の少なくとも一部に樹脂層を形成する工程
を含み、ここで、
前記工程I及びIIにおける抗ウイルス成分(B)が、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)、及び、カルボキシ基を有する有機酸(b2)を含んでおり、
前記工程Iによって前記基材に付着されるリン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)の量が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.0~3.0g/m2、及び2.0~5.0g/m2であり、
前記工程IIによって形成される樹脂層に含まれるリン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)の量が、基材の単位面積当たり、それぞれ、1.2~4.0g/m2、及び2.9~3.9g/m2である、
方法。
[5]
工程IIの後、前記基材を湯洗いする工程をさらに含む、[4]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗濯後でも、高い抗ウイルス性及び抗アレルゲン性を維持できる繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る繊維製品は、繊維基材と、その表面の少なくとも一部に存在する樹脂層とを含み、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)が前記繊維基材に付着されており、且つ、前記樹脂層にもリン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)が含まれている。
【0010】
このような繊維製品は、上述の通り、以下の工程を含む方法によって製造することができる:
(I) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C1)を含む分散液に、繊維基材を浸漬した後、分散液から繊維基材を取り出して、乾燥する工程、及び
(II) リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C2)を含む組成物を用いるプリント加工により、前記基材の表面の少なくとも一部に樹脂層を形成する工程。
【0011】
工程Iは、いわゆるDIP-NIP加工と呼ばれる工程であり、例えば、繊維基材を分散液に浸漬した後、分散液から繊維基材を取り出し、マングルローラー等を使用して水分を繊維基材から絞り出した後、繊維基材を乾燥(例えば、120~170℃の温度にて)することにより、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)を繊維基材に付着させることができる。
【0012】
工程Iにより基材に付着されるリン酸ジルコニウム(A)の量は、基材の単位面積当たり、1.0~3.0g/m2である。リン酸ジルコニウムの量が少なすぎると、抗アレルゲン性が不十分になり、多すぎると、チョークマークが発生しやすくなる。リン酸ジルコニウム(A)の付着量は、より好ましくは1.5~2.5g/m2であり、特に好ましくは1.7~2.3g/m2である。
【0013】
工程Iにより基材に付着される抗ウイルス成分(B)の量は、基材の単位面積当たり、2.0~5.0g/m2であることが好ましい。抗ウイルス成分(B)の付着量は、より好ましくは2.4~4.0g/m2であり、特に好ましくは2.9~3.6g/m2である。
【0014】
工程Iにおいて使用される樹脂(C1)は、リン酸ジルコニウム(A)及び抗ウイルス成分(B)を基材に付着させる役割を果たす。前記樹脂としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が使用できる。ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂がより好ましく、ポリエステル系樹脂が特に好ましい。工程Iにより基材に付着される樹脂の量は、ポリエステル系樹脂の場合は、0.4~1.5g/m2が好ましく、0.5~1.0g/m2がより好ましい。ウレタン系樹脂及びアクリル系樹脂の場合は、0.05~1.5g/m2が好ましく、0.1~0.8g/m2が特に好ましい。
【0015】
工程IIは、いわゆる樹脂プリント加工と呼ばれる工程であり、例えば、リン酸ジルコニウム(A)、抗ウイルス成分(B)、及び樹脂(C2)を混合し、必要に応じて増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系増粘剤)で適切な粘度に増粘した組成物を準備し、スクリーン印刷(例えば、ロータリースクリーン等)により、基材表面の少なくとも一部に前記組成物を塗布して、基材表面上の少なくとも一部に、(A)及び(B)を含む樹脂層を形成する。工程Iのみを行い工程IIを行わない場合、洗濯後に、繊維製品の抗アレルゲン性及び抗ウイルス性が低下し、所望の特性を維持できないため、工程IIは洗濯耐久性を有する繊維製品を製造するために必須である。
【0016】
前記樹脂層は、間隔をあけて基材上に配置されることが好ましい。例えば、所定の形状の樹脂層が、基材表面上で間隔をあけて繰り返し配置されることにより、基材表面に、樹脂層からなる繰り返し模様(パターン模様)が形成されてもよい。例えば、基材が布帛等のシート状である場合、前記樹脂層は、シート状基材の片面の全体に形成されたパターン模様の形状であってもよい。前記基材の片面の総面積に対する前記樹脂層の総面積の割合は、10%~60%であることが好ましく、10%~40%であることがより好ましく、10%~20%であることが特に好ましい。基材表面に、部分的に樹脂層を形成することにより、基材表面全体を樹脂層でコーティングする場合と比べて、布帛の風合いを柔らかく保つことができる。また、布帛自体の伸びが制限されにくいため、シートへの仕立て性が良くなり、シワ・ツノ等の外観品質や縫製性の向上が見込める。
【0017】
工程IIにおいて形成された樹脂層中のリン酸ジルコニウム(A)の量は、基材の単位面積当たり、1.2~4.0g/m2であることが好ましい。リン酸ジルコニウムの量が少なすぎると、抗アレルゲン性が不十分になる。チョークマークを考慮すると、樹脂層中のリン酸ジルコニウムの量は、3.8g/m2以下が好ましい。より好ましい樹脂層中のリン酸ジルコニウム(A)の量は、2.0~3.7g/m2であり、特に好ましくは2.2~3.5g/m2である。
【0018】
工程IIにおいて形成された樹脂層中の抗ウイルス成分(B)の量は、基材の単位面積当たり、2.9~3.9g/m2であることが好ましい。2.9g/m2を下回っても、3.9g/m2を上回っても、洗濯後の繊維製品の抗ウイルス性が不十分になる。樹脂層中の抗ウイルス成分(B)の量は、より好ましくは3.0~3.8g/m2であり、特に好ましくは3.2~3.6g/m2である。
【0019】
工程IIにおいて使用される樹脂(C2)としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が使用できる。難燃性の点からポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂がより好ましい(アクリル系樹脂を使用する場合は難燃剤と併用することが好ましい)。風合い、摩擦堅牢度、及び洗濯耐久性等を考慮すると、ウレタン系樹脂が特に好ましい。樹脂層中の樹脂の量は、ウレタン系樹脂の場合は、基材の単位面積当たり、2.0~5.0g/m2が好ましく、2.5~4.0g/m2が特に好ましい。ポリエステル系樹脂の場合は、1.5~4.0g/m2が好ましく、2.0~3.0g/m2が特に好ましい。アクリル系樹脂の場合は、2.0~2.8g/m2が好ましい。樹脂の量が少なすぎても多すぎても、繊維製品を洗濯した後、抗アレルゲン性及び/又は抗ウイルス性が低下する傾向がある。
【0020】
工程Iの樹脂(C1)と工程IIの樹脂(C2)は同じであっても異なっていてもよいが、抗アレルゲン性・抗ウイルス性だけでなく、布帛の風合い、難燃性、チョークマーク等の他の特性も考慮すると、工程Iではポリエステル系樹脂を、工程IIではウレタン系樹脂を、それぞれ上述した量で使用することが好ましい。
【0021】
工程IIの後、任意で湯洗い(工程III)を行ってもよい。工程IIIでは、樹脂層が形成された繊維基材を、65~90℃(より好ましくは70~90℃、特に好ましくは75~85℃)の温水で洗浄する。この工程により、余分な界面活性剤や増粘剤等を除去することができ、繊維製品のキワ付きを改善することができる。湯洗い後は布帛を乾燥する。適切な乾燥条件は、例えば110~170℃、特に120~160℃で1~5分程度である。
【0022】
本発明に係る繊維製品は、洗濯した後でも、優れた抗アレルゲン性及び抗ウイルス性を有するため、例えば、乗り物(自動車、電車、航空機等)用のシートカバー、インテリア用品(例えば、家具用カバー、カーテン等)などの洗濯される可能性のある繊維製品に特に適している。
【0023】
以下、本発明で使用される繊維基材、リン酸ジルコニウム、及び抗ウイルス成分についてより詳しく説明する。
繊維基材
本発明の繊維基材としては、天然繊維(綿、麻、羊毛、絹等)、再生繊維(レーヨン等)、半合成繊維(アセテート等)、合成繊維(ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリロニトリル系)から選択される1種又は2種以上の繊維からなる繊維基材が挙げられる。繊維基材はシート状であってもよく、例えば、布帛(織物、編物、フェルト、不織布等)が使用できる。特に、ポリエステル系繊維からなる布帛が好ましい。
【0024】
(A)リン酸ジルコニウム
工程I及び工程IIで使用されるリン酸ジルコニウム(A)としては、その結晶が層状構造を有しているα-リン酸ジルコニウムが好ましい。前記リン酸ジルコニウム(A)としては、例えば、東亞合成株式会社から販売されているアレリムーブ(登録商標)ZK-200が使用できる。リン酸ジルコニウムの平均粒子径は、0.5~1.5μmが好ましく、0.8~1.3μmが好ましい。平均粒子径が0.5μm未満では、再凝縮し、安定したペースト又は分散液に調製し難く、1.5μmを超えると、チョークマークが生じやすくなる。上記平均粒子径は、散乱式粒子径分布測定装置(例えば、散乱式粒子径分布測定装置LA-950[堀場製作所製])を用いて測定することができる。
【0025】
(B)抗ウイルス成分
工程I及び工程IIで使用される抗ウイルス成分(B)は、ウイルス感染阻止効果(ウイルスの細胞への感染力をなくすもしくは低下させる効果、又は、感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう)を有する。このような抗ウイルス成分(B)として、(b1)スルホン酸基の塩を有する化合物、及び、(b2)カルボキシ基を有する有機酸を含む組成物を使用することができる。
【0026】
スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)は、分子中にスルホン酸基の塩(-SO3X:Xは、金属元素又はNH4+)を含む。スルホン酸基の塩を有する化合物は、特に、エンベロープを有するウイルスに対して優れたウイルス感染阻止効果を有する。スルホン酸基の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0027】
スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)の例として、線状高分子(例えば炭素鎖)と、前記線状高分子に結合された芳香環と、前記芳香環に直接又は間接的に結合しているスルホン酸基とを含む化合物が挙げられる。芳香環は、単環状の芳香環であっても、縮合芳香環(複数の単環状の芳香環が縮合したもの)であってもよい。芳香環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられ、ベンゼン環が特に好ましい。スルホン酸基は、芳香環に直接結合していることがより好ましい。スルホン酸基が、芳香環に間接的に結合している場合、スルホン酸基の塩は、炭素数が1~4のアルキレン基(好ましくは、メチレン基又はエチレン基)を介して芳香環に結合していることが好ましい。
【0028】
スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)の別の例として、線状高分子(例えば炭素鎖)と、その先端に結合したスルホン酸基とを含む化合物が挙げられる。
【0029】
線状高分子としては、例えば、炭素鎖、ポリエステル鎖、ポリウレタン鎖が挙げられ、特に炭素鎖が好ましい。
【0030】
スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)の好ましい例としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、線状高分子(主鎖)の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体、α-オレフィンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0031】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、10~25が好ましく、11~20がより好ましく、12~18がより好ましい。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の好ましい例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、トリデシルベンゼンスルホン酸塩、テトラデシルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられ、特に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0032】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩としては、例えば、アルキル基の炭素数がC6~C18であるアルキルフェニルエーテルのナトリウム塩、カルシウム塩などが挙げられ、特に、C12のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0033】
線状高分子(主鎖)の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体としては、特に、炭素鎖、ポリエステル鎖、及びポリウレタン鎖から選択される主鎖と、スルホン酸基が直接又は間接的に結合している芳香環を含む側鎖とを有する重合体が好ましい。このような重合体として、スチレンスルホン酸塩成分を含有する重合体が挙げられ、例えば、スチレンスルホン酸塩単独重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩、スチレン成分を含む重合体のベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩などが挙げられる。スチレンスルホン酸ナトリウム(特に、p-スチレンスルホン酸ナトリウム)の単独重合体、又は、スチレンスルホン酸ナトリウム(特に、p-スチレンスルホン酸ナトリウム)とスチレンとの共重合体がより好ましい。
【0034】
α-オレフィンスルホン酸塩としては、例えば、C12~C18のオレフィンスルホン酸のナトリウム塩、カルシウム塩などが挙げられ、特に、C14のテトラデセンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0035】
有機酸(b2)は、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)におけるスルホン酸基の塩の遊離を促進させることにより、ノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。また、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)は、ノンエンベロープウイルスのカプシド(タンパク質の殻)を弱体化させ、有機酸(b2)によるノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。このように、抗ウイルス成分(B)は、(b1)及び(b2)を含むことにより、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対して、向上したウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0036】
有機酸(b2)は、スルホン酸基の塩を有する化合物における一部又は全てのスルホン酸基の塩の遊離を促進させることができる有機化合物であり、分子中に、カルボキシ基(-COOH)を有する。有機酸(b2)は、分子内にカルボキシ基(-COOH)を複数個有していることが好ましい。有機酸(b2)が分子内にカルボキシ基(-COOH)を複数個有していると、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)における一部又は全てのスルホン酸基の塩の遊離をより確実に維持又は促進させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果をより向上させることができる。なお、有機酸は、スルホン酸基の塩を含有していないことが好ましい。
【0037】
有機酸(b2)は、25℃におけるpKaが5.5以下であることが好ましく、4.0~5.0であることがより好ましく、4.2~4.6であることが特に好ましい。有機酸のpKaは、有機酸と水酸化ナトリウムを使用して25℃において滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)での25℃におけるpHを測定することで求めることができる。
【0038】
有機酸(b2)は、高分子であることが好ましく、例えば、重量平均分子量が3,000~1,000,000、好ましくは5,000~900,000、より好ましくは10,000~800,000、特に好ましくは100,000~500,000の高分子である。本発明において、高分子の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値を意味する。特に好ましい高分子有機酸として、線状高分子(主鎖、例えば、炭素鎖、ポリエステル鎖、又はポリウレタン鎖、特に炭素鎖)に、カルボキシ基が側鎖として結合しているポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、例えば、アクリル酸とアクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル等)を重合させることにより製造することができる。アクリル酸とアクリル酸エステルの質量部は、例えば、90~99:10~1とすることができる。
【0039】
抗ウイルス成分(B)における、スルホン酸基の塩を有する化合物(b1)と、有機酸(b2)との質量割合は、b1:b2=5~45:95~55であることが好ましく、5~30:95~70がより好ましく、7~15:93~85が特に好ましい。
【0040】
上述した抗ウイルス成分(B)は、添加剤、溶媒等の他の成分と混合された状態で、抗ウイルス剤として販売されている。このような抗ウイルス剤は、例えば、積水マテリアルソリューションズ株式会社から購入することができる。
【0041】
次に、比較例及び実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
使用したリン酸ジルコニウム、抗ウイルス剤、樹脂(バインダー)、及び増粘剤は以下の通りである。
工程I及び工程IIで使用したリン酸ジルコニウム及び抗ウイルス剤
・α-リン酸ジルコニウム:商品名 アレリムーブZKー200(東亜合成株式会社)
・抗ウイルス剤:商品名 ウィルテイカーBAC(積水マテリアルソリューションズ株式会社。抗ウイルス成分(B)として、スチレンスルホン酸塩を含む重合体(スルホン酸基の塩を有する化合物(b1))、及び多価カルボン酸(カルボキシ基を有する有機酸(b2))を、(b1):(b2)=約1:10の質量割合で含む)
【0043】
工程I及び工程IIで使用した樹脂
・ポリエステル系樹脂:プラスコートZ(互応化学株式会社)
・ウレタン系樹脂:エバファノールHA(日華化学工業株式会社)
・アクリル系樹脂:ニューコートACR(新中村化学工業株式会社)
工程IIで使用した増粘剤
・セルロース系増粘剤:SI-1314(伸葉株式会社)
【0044】
工程I DIP-NIP加工
リン酸ジルコニウム、抗ウイルス剤、及び樹脂を水に添加して混合し、DIP-NIP用水分散液を調製した。前記水分散液に、ポリエステル布帛(ポリエステル100%、目付250g/m2)を浸漬し、次いで、ロール間圧力3.0kgf/cm2のマングルで絞り、その後加熱乾燥した。
【0045】
工程II 樹脂プリント加工
リン酸ジルコニウム、抗ウイルス剤、及び樹脂を水に添加して混合し、セルロース系増粘剤で増粘させて、樹脂プリント用組成物を調製した。ロータリースクリーンを用いて、工程I後の布帛の片面に、前記組成物をスクリーン印刷して、樹脂層からなるパターン模様を形成した。布帛片面の総面積に対する、パターン模様(樹脂層)の総面積の割合は、約12%であった。
【0046】
工程III 湯洗い
工程II後の布帛を、80℃の温水で洗浄した後、乾燥した。
【0047】
[試験1]
工程III後の布帛(以下、加工布帛)について、抗スギ花粉アレルゲン性、抗ダニアレルゲン性、及び抗ウイルス性を測定した。
その後、JIS L 0217 103法 2項(普通)洗浄方法(洗剤は、JAFET標準洗剤を用いた)に準拠して、洗濯を5回繰り返し、洗濯後の加工布帛について同じ試験を行った。評価方法は以下の通りである。
【0048】
<抗アレルゲン性(スギ)>
試験管に5cm×2.5cmの加工布帛を投入し、スギアレルゲン6.7ng/mlに調整した溶液を、2.25ml滴下し、20℃、24時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、以下の式により不活性率を算出する。なお、スギ花粉アレルゲン量とは、Cryj I 量から換算した総タンパク量を示す。
不活性率=[(投入したアレルゲン量-養生後に測定したアレルゲン量)×100]/投入したアレルゲン量
不活性率(抗アレルゲン性)70%以上を合格とする。
【0049】
繊維製品の各性能評価方法は、以下の通りである。
<抗アレルゲン性(ダニ)>
試験管に5cm×2.5cmの加工布帛を投入し、ダニアレルゲン47ng/mlに調整した溶液を、2.25ml滴下し、37℃、8時間養生させた。その液中のアレルゲン量をELISA法により測定し、以下の式により不活性率を算出する。なお、ダニアレルゲン量とは、Derf II 量から換算した総タンパク量を示す。
不活性率=[(投入したアレルゲン量-養生後に測定したアレルゲン量)×100]/投入したアレルゲン量
アレルゲン不活性率(抗アレルゲン性)91%以上を合格とする。
【0050】
<抗ウイルス性>
1.ウイルス懸濁液(A型インフルエンザウイルス[マウスH1N1]懸濁液)を調製する。
2.3cm角にカットした加工布帛(0.4g)に、ウイルス懸濁液0.2mLを滴下し、25℃で2時間放置する。
3.その後、加工布帛を遠心管に入れ、1.8mlの維持培地を添加し、遠心し、反応液1mlを抽出する。
4.抽出した反応液を維持培地で希釈し、希釈系列(10倍、100倍、1000倍、1万倍、10万倍)を作成する。
5.希釈系列を、宿主細胞(MDBK細胞:ウシ腎細胞由来)に接種し、50%の細胞が感染する希釈倍率(TCID50:Median tissue culture infectious dose)を求める(この値をウイルス感染価Vcとする)。
6.未加工布帛のウイルス感染価をVbとし、ウイルス減少率を以下の式Iにより求める。
式I:ウイルス減少率(%)=[(Vb-Vc)×100]/Vb
ウイルス減少率99.9%以上で合格と判定する。
【0051】
結果を表1に示す。表1中に記載の各成分の数値は、布帛の単位面積(m2)あたりの、各成分の固形分での質量(g)である(表2についても同じ)。洗濯5回後に、抗アレルゲン性(スギ及びダニ)及び抗ウイルス性のすべてが目標値を上回った場合、総合評価を「良」とし、いずれか1つでも目標値を下回った場合は「不良」とする。
【0052】
【表1】
【0053】
表1から明らかなように、工程Iのみを行った布帛(No.1)は、洗濯後の抗アレルゲン性及び抗ウイルス性が低く、目標値を達成できなかった。工程Iに加えて工程IIを行った場合も、工程IIにおけるリン酸ジルコニウム及び抗ウイルス成分の量が少ない布帛(No.2)は、洗濯後の抗アレルゲン性及び抗ウイルス性が目標値に達しなかった。また、工程IIにおける抗ウイルス成分の量が少ない場合(No.6及び7)だけでなく、多い場合も(No.10)、洗濯後に所望の抗ウイルス性を維持することができなかった。また、工程Iにおける抗ウイルス成分の量が少ない場合(No.11)は、洗濯後に、抗ダニアレルゲン性が目標値に達しなかった。
【0054】
[試験2]
次に、黒色又はグレー色に染色したポリエステル布帛(ポリエステル100%、目付250g/m2)を、上述と同じようにして、工程I~IIIにかけた。得られた加工布帛について、白化、チョークマーク、摩擦堅牢度、剛軟性、耐摩耗性、及び難燃性のうちの1つ以上を評価した。各評価方法は、以下の通りである。また、上述と同じようにして、洗濯5回後の抗アレルゲン性及び抗ウイルス性を評価した。
【0055】
<白化>
各加工布帛について、工程Iを行う前の布帛(以下、未加工布帛)と比べた色の変化(白化)を確認し、以下の基準で級判定した。3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0056】
<チョークマーク>
未加工布帛と比べてチョークマーク(傷による白化)が悪化するか確認するために、加工布帛と未加工布帛それぞれの表面を爪で軽くこすり、傷による白化の程度を比較し、以下の基準で級判定した。3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 全く色の変化が無い
・4級 ほとんど色の変化がわからない
・3級 やや色に変化がみられる
・2級 容易に色の変化がみられる
・1級 色の変化が著しい
【0057】
<摩擦堅牢度>
JIS L0849(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に準じて、各加工布帛について、乾燥試験(DRY)と湿潤試験(WET)を行った。汚染の判定は、汚染用グレースケール(JIS L0805)を用いて、1~5級の判定を行った。乾燥試験で4級以上、湿潤試験で3.5級(3級と4級の間)以上を合格と判定する。
【0058】
<剛軟性>
剛軟性は、いわゆるカンチレバー法で測定した。具体的には、幅25mm、長さ200mmの試験片を、加工布帛からたて方向(長軸方向)及びよこ方向(長軸方向に直交する方向)にそれぞれ3枚ずつ採取し、一端が45度の斜面をもつ表面の滑らかな水平台の上に、台に沿って置き、試験片の一端を水平台の斜面側の一端に正確に合わせ、試験片の他端の位置(A)をスケールで読む。次に、試験片とほぼ同じ大きさのおさえ板で、試験片を軽くおさえながら、斜面の方向に約10mm/sの速度ですべらせ、試験片の一端が、斜面と接したときの他端の位置(B)をスケールで読み取る。剛軟性は、試験片の移動距離(A-B)で表される(剛軟性の数値が小さいほど布帛は柔らかく、数値が高いほど布帛は硬い)。表には、たて方向試験片及びよこ方向試験片それぞれについて、3回の測定値の平均値(mm)を示す。120以下を合格とする。
【0059】
<耐摩耗性>
JIS L1096(織物及び編物の生地試験方法)に準じて、各加工布帛について試験を行った。具体的には、各加工布帛から直径130mmの円形試験片を採取し、その中心に6mmの穴をあけ、テーバー摩耗試験機を用い、試験片の表面を上にして試料ホルダに取り付ける。CS-10の摩耗輪を試験片の上にのせ、4.9Nの荷重をかけ、70rpmの回転速度で試験を行い、試験片表面の摩耗程度を調べる。以下の基準で級判定を行い、試験回数1000回で3級以上、3000回で3級以上を合格と判定する。
判定 内容
・5級 変化が認められない
・4級 変化がわずかに認められる
・3級 変化が明らかに認められる
・2級 変化がやや著しい
・1級 変化が著しい
<難燃性>
米国連邦自動車安全基準(FMVSS:Federal Motor-Vehicle Safety Standard)に定められている「内装材料の燃焼性」に準じて試験を行い、難燃性能を判定した。
「自己消火」は、炎がA標線を越えた後、燃焼距離50mm以内、燃焼時間60秒以内で消火したことを示す。上記「自己消火」の基準を満たさなかった加工布帛については、表中に燃焼速度(mm/分)を記載し、81mm/分以下を合格と判定する。
【0060】
結果を表2に示す。なお、剛軟性、耐摩耗性、難燃性は、布帛の色調によって変化しないため、グレー色の布帛について試験を行った場合、黒色の布帛については試験を省略した。
【表2】
【0061】
表2に示すように、工程IIにおけるα-リン酸ジルコニウムの量が多いと(No.14)、濃色(黒)の布帛で、チョークマークが目標値に達しなかった。工程IIにおける樹脂をアクリル系樹脂に変更すると(No.15~17)、難燃性が目標値に達しなかった。工程IIで使用するウレタン系樹脂の量を増やすと、目標値は達成できるものの、濃色(黒)の布帛では、白化とチョークマークが生じやすくなる傾向が見られた(No.18黒とNo.19黒の比較)。工程Iにおける樹脂をウレタン系樹脂(No.20)及びアクリル系樹脂(No.21)に変更した場合も、目標値は達成できるものの、濃色(黒)の布帛では、チョークマークが生じやすくなる傾向が見られた。工程IIの樹脂をポリエステル系樹脂にした場合(No.22)は、目標値は達成できるものの、他の加工布帛(No.3~No.21)と比べて、洗濯後の抗スギアレルゲン性が低かった。なお、工程Iにおけるリン酸ジルコニウムの量が少ない(1.0g/m2未満)場合はアレルゲン性が低下し、多い(3.0g/m2を超える)場合は、チョークマークが発生しやすかった(データは示さない)。
【0062】
これらの試験の結果から明らかなように、本発明によれば、工程I及びIIで使用するリン酸ジルコニウム(A)と抗ウイルス成分(B)の量を、布帛の単位面積当たり所定の量とすることにより、洗濯を5回繰り返した後でも、洗濯前と同等の抗アレルゲン性・抗ウイルス性を維持することができる。また、前記(A)及び(B)の量に加えて、工程I及びIIで使用する樹脂の種類及び量を適切に調節することにより、表2に示す他の特性についても、目標値を達成することができる。抗アレルゲン性及び抗ウイルス性だけでなく、他の特性についても優れている繊維製品を得るためには、工程Iではポリエステル系樹脂を、工程IIではウレタン系樹脂を使用することが特に好ましい。