(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】オープンシールド工法用コンクリート函体
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
E21D9/06 331
(21)【出願番号】P 2023084399
(22)【出願日】2023-05-23
【審査請求日】2024-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000189903
【氏名又は名称】植村 誠
(73)【特許権者】
【識別番号】501200491
【氏名又は名称】植村 賢治郎
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【氏名又は名称】久保 司
(74)【代理人】
【識別番号】100186864
【氏名又は名称】尾関 眞里子
(72)【発明者】
【氏名】植村 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 賢治郎
(72)【発明者】
【氏名】日浦 正一
(72)【発明者】
【氏名】小谷 幸玄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】村澤 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】近田 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元晶
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-156635(JP,A)
【文献】特開平05-132941(JP,A)
【文献】実開平05-010596(JP,U)
【文献】特開2018-053467(JP,A)
【文献】特開2017-106189(JP,A)
【文献】特開2017-106239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート函体間の内面のジョイント部に所定の目地間隔を保持して、それぞれ、上下方向、水平方向に複数の溝形鋼材またはH型鋼材をジョイント部の接続部材として横架しインサートボルトで固定することを特徴としたオープンシールド工法用コンクリート函体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市街地に上下水道、地下道等の地下構造物を施工するオープンシールド工法およびそれに使用するコンクリート函体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オープンシールド工法は、開削工法(オープンカット工法)とシールド工法の長所を生かした合理性に富む工法である。
図13~
図15にその概略を示す。
【0003】
図中1はオープンシールド機で、
図17に示すように左右の側壁板とこれら側壁板に連結する底板とから成る上面を開口したフロント部1aおよび、前記フロント部1aと同様に左右の側板、底版から成り上面を開口したテール部1bで構成されるシールド機である。
【0004】
前記オープンシールド機1の左右の先端刃口には前方に向けて伸長するスライド土留板6を装着し、また、フロント部1a後端からテール部に向けて伸長する推進ジャッキ3を後方に向け上下に並べて配設されている。
【0005】
前記オープンシールド機1はフロント部1a後端にテール機1bが嵌入して相互の嵌合部で中折れ部2を形成して曲線施工が可能とした。
【0006】
図中1はフロント部であり、フロント部前方の刃口部の切羽地山を、前方に配置した掘削機7で、
図18,
図19の図示のとおり法面を形成しながら掘削し、前記掘削機7の後方に配置した残土搬出用ダンプトラックに掘削土を積み込み搬出する。掘削に伴ってスライド土留板6を前方に伸長し、法面をつけた地山側部の緩みを防止する。
【0007】
オープンシールド機1の推進は、前記掘削機7による切羽地山の掘削しながら、オープンシールド機1に装着したシールドジャッキ3をプレスバー8に当接して前記シールドジャッキ3伸長し、後方のコンクリート函体にオープンシールド機1の推進反力をとって、前方へ推進させる。推進に伴って、オープンシールド機1の後方ではシールド機の板厚分相当の空隙が地山に発生するため、コンクリート函体4に予め設置してあるグラウトホールよりその空隙へ裏込注入材17を二次注入として充填する。
【0008】
1函体長分、オープンシールド機が掘進後、シールドジャッキ3を縮め、プレスバー8をテール部1b内から撤去し、コンクリート函体4を据え付けるスペースができる。コンクリート函体4をテール部内に据え付ける前に、後方の敷設済みコンクリート函体4と、さらにその後方のコンクリート函体4とをPC鋼棒14を
図20の図示のように挿入・緊結する。
【0009】
これにより、敷設函体全体をほぼ一体化構造にすることができる。したがって、前記オープンシールド機1の推進反力は、後方の敷設済みの複数のコンクリート函体4へスムーズに伝達されることになる。
【0010】
前記作業の後、
図13に示すように、オープンシールド機1の後方に配置した揚重機13によりコンクリート函体4をテール部内へ吊り下ろし、据え付ける。据え付け後、前記コンクリート函体4の前方の端面にプレスバー8を当接するように設置する。そして、据え付けたコンクリート函体4とテール部1b内面との間のテールクリアランス(隙間)へ裏込注入材17を一次注入として充填する。充填後、再度オープンシールド機1を掘進させる。
【0011】
なお、オープンシールド機1のテール部1bのすぐ後方の敷設済みコンクリート函体上部の埋め戻し作業は、前記オープンシールド機1の掘進作業と並行して行う。
【0012】
以上の作業を繰り返しながら、コンクリート函体4を地中に埋設していく。なお、前記オープンシールド機1は発進立坑10で組立て、その後、進行方向前方鏡切後に支圧壁12に推進反力をとりながら推進するが、この作業と初期掘進等や到達立坑への到達作業は通常のシールド工法とほぼ同様の作業であり、詳細は省略する。
【0013】
コンクリート函体4は鉄筋コンクリート製で、
図16に示すように左側版4a、右側版4bと頂版4cと底版4dとからなる一体のもので、接続端面は、オープンシールド機1の推進反力がプレスバー8を介して当接するコンクリート函体4の両側版全体へ均等に分散伝達できるように平滑面となっている。グラウトホール24が設けてある。またハンチ部には明示はしていないが、PC鋼棒14の挿入孔があり、そこへPC鋼棒を挿入する。なお、前後面は開口として開放されている。
【0014】
コンクリート函体4に関しては、下記特許文献は曲線施工など特にコンクリート函体の接合端面に推力が不均一に加わる場合であっても、作業効率を悪化させることなく、また、コンクリート函体の破損も生じることなく、コンクリート函体同士のズレ及び目開きを防止でき、更に、コンクリート函体に推力が加わることがなくなった後には金物類などの部品を容易に取り外して再利用できるコンクリート函体の接続方法として提案されたものである。
【文献】特開2009-114642号公報
【0015】
この特許文献1は
図17に示すように、コンクリート函体4の外周面または内周面に埋め込むアンカーボルト121の上端を、固定金具120に螺子止めすることにより固定金具120の起立部124をコンクリート函体4表面に起立させ、全ネジボルト122の螺子端部を起立部124に貫通させて隣接するコンクリート函体4を跨いで架渡し、これを螺子止めすることにより、全ネジボルト122と固定金具120とアンカーボルト121とを互いに着脱自在として両コンクリート函体4を連結固定する。
【0016】
なお、コンクリート函体(ボックスカルバート)の接合に同様な連結金具(ターンバックル等)を使用したものは、下記特許文献にも見られる。
【文献】実開昭49-113221号公報
【文献】実開昭49-113221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これら特許文献はコンクリート函体同士のズレ及び目開きを防止できることを目的としたものであり、コンクリート函体で、その接続端面が凹形側に別のコンクリート函体の接続端面が凸形側を嵌めこんでコンクリート函体同士を接続する、所謂“印籠型”のコンクリート函体の場合は、その勘合部で推進反力の受圧面積が前記の接続端面が平滑面であるコンクリート函体より小さいため、その箇所に作用する応力が大きくなり、篏合部でのコンクリートの割れやクラックが生じやすい。
【0018】
さらに近年、採用が増加している耐震性能を有する個々の函体に可撓性を持たせた、印籠型の開削用コンクリート函体もそのままではオープンシールド機後方のコンクリート函体に推進反力がスムーズに伝達できないので、敷設は困難である。
【0019】
しかし、印籠型の開削用コンクリート函体はその凹部側の端面に別のコンクリート函体の凸部の端面を嵌め込むに当たって、所定の目地間隔を確保できるように、凹部端面先端部と凸部端面先端部が当接せず、一定の間隔を保持している状態となるよう製作される。
【0020】
そのため、特に凹部端面での鉛直方向の寸法精度や鉛直面の平滑状態までは考慮されていない。したがって、前記鉛直方向や面凹凸などの平滑状態によっては、鋼製枠体プレスバーと凹部の製作精度等によっては鋼製枠体プレスバーに一部に非接触となる部分が生じて接触箇所に推進反力による局部応力が発生・集中し、接触箇所にクラックやコンクリートの割れが生じてしまう場合が想定される。
【0021】
つまり、オープンシールド機推進反力がコンクリート函体の凹部接触部全体に均等にその反力が分散されず、クラック等が生じる可能性が大きくなる。
【0022】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、推進反力が大きく受ける条件で使用され、壁厚が小さく接続端面が平滑面であるオープンシールド工法用のコンクリート函体だけでなく、通常の印籠型の開削用コンクリート函体や耐震性能を有する個々の函体に可撓性を持たせたコンクリート函体でもコンクリート函体の接続端面やその近傍にクラックや割れなどが生ずることなく敷設できる、オープンシールド工法用コンクリート函体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、コンクリート函体間の頂版および、側版、底版、の内面のジョイント部に所定の目地間隔を保持して、それぞれ、上下方向、水平方向に複数の溝形鋼材またはH型鋼材をジョイント部の接続部材として横架しインサートボルトで固定することを要旨とするものである。
【0024】
請求項1記載の本発明によれば、先頭のコンクリート函体とその後方に敷設する複数のコンクリート函体間のジョイント部に、所定の目地間隔を保持して複数の溝形鋼材またはH型鋼材をジョイント部の接続部材として横架しインサートボルトで固定するので、オープンシール機1の推進反力はコンクリート函体ジョイント部接続端面には作用せず、前記接続部材を介して順次、後方の敷設したコンクリート函体ヘ伝達される。
【0025】
したがって、大きな推進反力が作用すると想定される条件に対して比較的壁厚の小さい接続端面が平滑なコンクリート函体や、印籠型の開削用コンクリート函体でも側壁端面部のクラックや割れなどの心配がなく、かつ、所定の目地間隔を保持するように接続部材をインサートボルトで固定するので、オープンシールド機1を用いてそれらのコンクリート函体を安全かつ確実に敷設することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、オープンシールド機の掘進に伴う推進反力は従来のオープンシールド工法のように敷設したコンクリート函体の接続端面に伝達することなくなく、反力伝達部材や接続部材とそれらを固定するインサートボルトを介して敷設コンクリート函体に伝達することができる。
【0027】
したがって、コンクリート函体端面やその近傍のクラックや割れが生じることなく、所定の目地間隔を保持して、かつ、大きな推進反力が作用すると想定される条件に対して比較的壁厚の小さい接続端面が平滑なコンクリート函体や印籠型の開削用コンクリート函体を、安全かつ確実に敷設することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の1実施形態を示す横断平面図である。
【
図3】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の1実施形態を示す縦断側面図である。
【
図5】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の1実施形態を示す拡大横断平面図である。
【
図6】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の1実施形態を示す縦断正面図である。
【
図8】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の他の実施形態を示す横断平面図である。
【
図9】本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の他の実施形態を示す縦断正面図である。
【
図11】座屈防止材の取付状況を示す平面図である。
【
図12】座屈防止材の取付状況を示す正面図である。
【
図13】オープンシールド工法の施工状況を示す斜視図である。
【
図14】オープンシールド工法の概要を示す平面図である。
【
図15】オープンシールド工法の概要を示す縦断図である。
【
図16】オープンシールド工法用のコンクリート函体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に述べる本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明のオープンシールド工法用コンクリート函体の1実施形態を示す横断平面図で、図中1はオープンシールド機で、これは先に説明した通りである。
【0030】
図中18は反力伝達部材、21は接続部材で、反力伝達部材18は押角8(プレスバー)の後面の当接する平面状部材と、その後面から後方へ突き出し前記先頭のコンクリート函体29の両側壁の内面に当接する平面部材から成り、リブ材で補強されている。
【0031】
先頭のコンクリート函体29の内面に当接する平面状部材には固定用ボルト20を通す孔が複数あけてあり、また前記先頭のコンクリート函体29には予め、インサート19が埋め込まれてあり、前記固定用ボルト20を挿入して反力伝達部材18を固定する。
【0032】
そして、反力伝達部材18は前記先頭のコンクリート函体29の両側版の上下方向に複数配置され、ボルト等で上下方向に連結されている。
【0033】
反力伝達部材18の押角8(プレスバー)の後面の当接する平面状部材の前面は、前記先頭のコンクリート函体29の前方の側版端面より前方へ位置するように前記反力伝達部材18が固定さる。
【0034】
オープンシールド機1の推進において、シールドジャッキ3が伸長し、押角8を後方へ向けて押し付けると、前記押角8の後面は前記反力伝達部材18の前記平面状部材に押し当てられる。
【0035】
したがって、前記オープンシールド機1の推進による推進反力は、先頭のコンクリート函体29の両側版端面には伝達されず、前記反力伝達部材18を介して前記先頭のコンクリート函体29の内面の両側版の固定ボルト20とインサート19からそのコンクリート函体内部ヘ伝達されることになる。
【0036】
本発明のコンクリート函体4は、コンクリート函体間の頂版および、側版、底版、の内面のジョイント部に所定の目地間隔を保持して、それぞれ、上下方向、水平方向に複数の溝形鋼材またはH型鋼材をジョイント部の接続部材21として横架しインサートボルトで固定する。
【0037】
前記接続部材21は固定用ボルト20を挿入する孔が設けられていて、コンクリート函体内面の各面の横架される所定の位置に予め設置されたインサート19に固定用ボルト20を挿入して堅固に固定される。
【0038】
図4~
図7は接続部材21として溝形鋼材を用いた例であり、オープンシールド機1の推進に伴う推進反力は、先行のコンクリート函体29に設置された反力伝達部材18を介して前記反力伝達部材18を固定した固定用ボルト20とインサート19から、前記先頭のコンクリート函体29の内部から後方へ向けて伝達され、さらに各ジョイント部に横架・固定された接続部材21を介して順次、後方へ伝達される。
【0039】
以上より、前記推進反力は各コンクリート函体間のジョイント部の接続端面には伝達されないので、接続端面部でのクラックや割れの生じる危険はない。また、印籠型の開削用函体でも安全に敷設することが可能となる。
【0040】
なお、前記の各図では頂板、側板、底版の内面のジョイント部すべてに接続部材21が横架されているが、推進反力の大きさ等によっては、接続部材21の設置数を調整するか、あるいは接続部材の設置箇所を両側版と底版にするなど変更しても良い。
【0041】
図8から
図10は接続部材22としてH型鋼材を用いた例である。推進反力の伝達メカニズム等は、前述の接続部材21を設置した場合と同様であるため、説明は省略する。
【0042】
推進反力が大きな場合に各コンクリート函体4間のジョイント部に設置した接続部材22自体に局部座屈が生じる恐れがある場合に、
図11、
図12に示すように、水圧ジャッキまたは強力サポートによるサポート23で前記接続部材22を抑えることにより局部座屈が生じないようにすることができる。
【0043】
前記サポートはオープンシールド機1掘進時の函体ジョイント部のズレ止めも兼ねることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…オープンシールド機 1a…フロント部
1b…テール部 2…中折れ部
3…推進ジャッキ(シールドジャッキ)
4…コンクリート函体 4a…左側版
4b…右側版 4c…頂版
4d…底版 4f…ハンチ部
6…スライド土留板
7…掘削機 8…プレスバー(押角)
9…止水バー 10…発進立坑
11…鋼矢板 12…支圧壁
13…揚重機 14…PC鋼棒
15…埋戻土 16…残土搬出用ダンプトラック
17…裏込注入材 18…反力伝達部材
19…インサート 20…固定用ボルト
21…接続部材(溝形鋼) 22…接続部材(H型鋼材)
23…サポート(水圧ジャッキまたは強力サポート)
24…グラウトホール 25…埋戻し用重機
27…連結用ボルト・ナット 30…目地