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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250107BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023138192
(22)【出願日】2023-08-28
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-17618(JP,A)
【文献】特開2021-125471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理方法であって、
(a)前記基板を処理チャンバに収容する工程と、
(b)前記処理チャンバに処理流体を供給して前記処理チャンバを大気圧から亜臨界状態となる第1圧力に昇圧する工程と、
(c)前記第1圧力に昇圧された前記処理チャンバに前記処理流体を供給して前記処理チャンバを前記超臨界状態となる第2圧力に昇圧する工程と、
(d)前記工程(b)の開始から前記処理チャンバが前記超臨界状態となるまでの昇圧期間内において前記基板に振動を付与することで、前記液盛り状態を維持しつつ前記液膜の膜厚を減少させる工程と、
を備えることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記工程(a)は、
(a-1)支持トレイに設けられた複数の支持ピンで前記基板の周縁部を下方から支持した後で、前記複数の支持ピンによる前記基板の支持を継続しつつ前記複数の支持ピンを前記基板に向けて移動させることで、前記基板を水平方向から前記複数の支持ピンで挟み込んで保持する工程と、
(a-2)前記複数の支持ピンで前記基板を保持したまま前記支持トレイを前記処理チャンバ内に移動させる工程と、
を有し、
前記工程(d)では、前記複数の支持ピンを、前記基板の挟み込みを行う挟み込み位置と、前記挟み込み位置から離間した開放位置との間で、往復移動させることで、前記基板への前記振動の付与が実行される、基板処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記工程(a)は、
(a-3)支持トレイに前記基板を載置する工程と、
(a-4)前記基板を載置した状態で前記支持トレイを前記処理チャンバ内に移動させる工程と、
を有し、
前記工程(d)では、前記支持トレイに取り付けられた振動子を作動させることで、前記基板への前記振動の付与が実行される、基板処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記工程(a)は、
(a-3)支持トレイに前記基板を載置する工程と、
(a-4)前記基板を載置した状態で前記支持トレイを前記処理チャンバ内に移動させる工程と、
を有し、
前記工程(d)では、前記処理チャンバに取り付けられた超音波振動子を作動させることで、前記基板への前記振動の付与が実行される、基板処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記工程(d)での前記基板への前記振動の付与は、前記亜臨界状態で実行される、基板処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記基板の表面は、パターンが形成されたパターン形成面であり、
前記工程(a)を実行する前に、液体が付着している前記パターン形成面への前記有機溶剤の供給により前記パターン形成面に付着する前記液体を前記有機溶剤に置換した後で、前記パターン形成面に前記液膜を形成する液膜形成工程が実行され、
前記工程(d)では、前記基板への前記振動の付与により、前記液膜の薄膜化と並行し、前記パターンに残留する前記液体が前記有機溶剤に混合される、基板処理方法。
【請求項7】
有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理装置であって、
前記基板を収容する処理チャンバと、
前記処理チャンバに処理流体を供給する流体供給部と、
前記処理チャンバに収容された前記基板に振動を付与する振動付与部と、
大気圧状態の前記処理チャンバへの前記処理流体の供給により前記処理チャンバを亜臨界状態となる第1圧力を経由して前記超臨界状態となる第2圧力に昇圧するように前記流体供給部を制御するとともに、前記処理流体の供給の開始から前記処理チャンバが前記超臨界状態となるまでの昇圧期間内において前記基板に振動を付与することで、前記処理チャンバが大気圧から前記第1圧力に昇圧される間に前記基板に振動を付与するように前記振動付与部を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理チャンバ内で基板を乾燥させる技術に関するものであり、特に液膜で覆われた基板を超臨界状態の処理流体で処理するプロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる湿式処理が従来から広く行われている。近年では、当該湿式処理後の基板を乾燥させるために、超臨界状態の処理流体を用いた処理も実用化されている。特に、微細パターンが形成されたパターン形成面を有する基板の乾燥処理においては、有益である。というのも、超臨界状態の処理流体は、液体に比べて表面張力が低く、パターンの隙間の奥まで入り込むという特性を有しているからである。当該処理流体を用いることで、効率よく乾燥処理を行うことが可能である。また、乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減させることも可能である。
【0003】
例えば特許文献1に記載の基板処理装置では、本発明の「有機溶媒」の一例であるIPA(イソプロピルアルコール:isopropylalcohol)で形成された液膜を有する基板を超臨界状態の二酸化炭素(処理流体)で乾燥している。当該液膜はIPAを基板の表面に液盛り状態に盛ったものである。そのため、基板の表面はIPAで濡れた状態で維持される。そして、液盛り状態が維持されたまま基板は本発明の「基板処理装置」の一例に相当する基板乾燥装置に搬送され、超臨界状態の処理流体による乾燥処理が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-103636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記基板処理装置では、処理チャンバ内が超臨界状態の処理流体で満たされることで、基板を覆うIPAが超臨界状態の処理流体により置換される。基板の表面から遊離したIPAは処理流体に溶け込んだ状態で処理流体と共に処理チャンバから排出される。こうして、基板は超臨界乾燥処理を受ける。したがって、超臨界乾燥処理に要する時間を短縮するためには、超臨界状態の処理流体と接触する前に液膜を薄肉化することが有益であると考えられる。しかしながら、従来において、上記アプローチによる処理時間の短縮を図ったものはなかった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理方法および基板処理装置において、乾燥時間の短縮を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一の態様は、有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理方法であって、(a)基板を処理チャンバに収容する工程と、(b)処理チャンバに処理流体を供給して処理チャンバを大気圧から亜臨界状態となる第1圧力に昇圧する工程と、(c)第1圧力に昇圧された処理チャンバに処理流体を供給して処理チャンバを超臨界状態となる第2圧力に昇圧する工程と、(d)工程(b)の開始から処理チャンバが超臨界状態となるまでの昇圧期間内において基板に振動を付与することで、液盛り状態を維持しつつ液膜の膜厚を減少させる工程と、を備えることを特徴としている。
【0008】
また、この発明の他の態様は、有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理装置であって、基板を収容する処理チャンバと、処理チャンバに処理流体を供給する流体供給部と、処理チャンバに収容された基板に振動を付与する振動付与部と、大気圧状態の処理チャンバへの処理流体の供給により処理チャンバを亜臨界状態となる第1圧力を経由して超臨界状態となる第2圧力に昇圧するように流体供給部を制御するとともに、処理流体の供給の開始から処理チャンバが超臨界状態となるまでの昇圧期間内において基板に振動を付与することで、処理チャンバが大気圧から第1圧力に昇圧される間に基板に振動を付与するように振動付与部を制御する制御部と、を備えることを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、処理チャンバに処理流体を供給して昇圧している昇圧期間に、液膜に処理流体が溶解して液膜の表面張力が低下する。したがって、液膜の一部が基板から流れ落ちて液膜の膜厚はある程度薄くなる。ここで、当該昇圧期間内に振動が基板に付与されることで膜厚の減少量が大幅に増大し、薄膜化が促進される。その後で、薄膜化された液膜に対して超臨界状態の処理流体が接触し、これによって基板が乾燥される。
【発明の効果】
【0010】
上記のように、本発明によれば、昇圧期間内における基板への振動の付与によって、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る基板処理装置の第1実施形態を装備する基板処理システムの概略構成を示す図である。
図2A】湿式処理装置の全体構成を示す側面図である。
図2B】湿式処理装置の動作を説明するための図である。
図3】超臨界処理装置の構成を示す側面図である。
図4】支持トレイの構造を示す斜視図である。
図5】支持ピンの構成および動作を模式的に示す図である。
図6】第1実施形態に係る基板処理システムにより実行される処理の概要を示すフローチャートである。
図7】処理チャンバ内の圧力変化、支持ピンの動作ならびにパターン内部の様子を示す図である。
図8A】液膜形成処理後の液膜で発生する課題を模式的に示す図である。
図8B】振動付与による上記課題の解消を模式的に示す図である。
図9】本発明に係る基板処理装置の第2実施形態を示す図である。
図10】本発明に係る基板処理装置の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係る基板処理装置の第1実施形態を装備する基板処理システムの概略構成を示す図である。この基板処理システム1は、例えば半導体ウエハなどの各種基板の上面に処理液を供給して基板を湿式処理し、その後に基板を乾燥させるための処理システムであり、本発明に係る基板処理方法を実施するのに好適なシステム構成を有している。基板処理システム1は、その主要構成として、湿式処理装置2、基板搬送装置3、超臨界処理装置4および制御装置9を備えている。
【0013】
湿式処理装置2は、被処理基板を受け入れて所定の湿式処理を実行する。処理の内容は特に限定されない。湿式処理には、現像処理や洗浄処理などが含まれるが、現像処理などを行った後で、基板のパターン形成面にIPA液などの有機溶媒を盛った液盛り状態が作り出される。基板搬送装置3は、液盛り状態が維持されたまま基板を湿式処理装置2から搬出して搬送し、超臨界処理装置4に搬入する。超臨界処理装置4は、本発明に係る基板処理装置に相当するものであり、搬入された基板に対し超臨界状態の処理流体を用いた乾燥処理(超臨界乾燥処理)を実行する。これらはクリーンルーム内に設置される。したがって、基板搬送装置3は大気雰囲気、大気圧下で基板Sを搬送することとなる。
【0014】
制御装置9は、これらの各装置の動作を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御装置9は、CPU91、メモリ92、ストレージ93、およびインターフェース94などを備えている。CPU91は、各種の制御プログラムを実行する。メモリ92は、処理データを一時的に記憶する。ストレージ93は、CPU91が実行する制御プログラムを記憶する。インターフェース94は、ユーザや外部装置と情報交換を行う。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0015】
CPU91が所定の制御プログラムを実行することにより、制御装置9には、湿式処理装置2の動作を制御する湿式処理制御部95、基板搬送装置3の動作を制御する搬送制御部96、超臨界処理装置4の動作を制御する超臨界処理制御部97などの機能ブロックがソフトウェア的に実現される。なお、これらの機能ブロックの各々は、その少なくとも一部が専用ハードウェアにより構成されてもよい。
【0016】
本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明する。しかしながら、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0017】
また、以下の説明において、一方主面のみにパターンが形成されている基板を例として用いる。ここで、パターン等が形成されている主面の側を「表面」と称し、その反対側のパターンが形成されていない主面を「裏面」と称する。また、下方に向けられた基板の主面を「下面」と称し、上方に向けられた基板の主面を「上面」と称する。尚、以下においては上面を表面として説明する。
【0018】
図2Aおよび図2Bは湿式処理装置の構成例を示す図である。より具体的には、図2Aは湿式処理装置の全体構成を示す側面図であり、図2Bは湿式処理装置の動作を説明するための図である。この湿式処理装置2は、基板Sの上面に処理液を供給して基板を処理する装置である。湿式処理装置2の動作は、制御装置9の湿式処理制御部95により制御される。
【0019】
湿式処理装置2は、基板Sの表面(パターン形成面)Saに処理液を供給して基板Sの表面処理や洗浄等の湿式処理を行う。この目的のために、湿式処理装置2は、処理チャンバ200の内部に、基板保持部21、スプラッシュガード22、処理液供給部23,24を備えている。これらの動作は制御装置9に設けられる湿式処理制御部95より制御される。基板保持部21は、基板Sとほぼ同等の直径を有する円板状のスピンチャック211を有し、スピンチャック211の周縁部には複数のチャックピン212が設けられている。チャックピン212が基板Sの周縁部に当接して基板Sを支持することにより、スピンチャック211はその上面から離間させた状態で基板Sを水平姿勢に保持することができる。
【0020】
スピンチャック211はその下面中央部から下向きに延びる回転支軸213により上面が水平となるように支持されている。回転支軸213は処理チャンバ200の底部に取り付けられた回転機構214により回転自在に支持されている。回転機構214は図示しない回転モータを内蔵しており、制御装置9からの制御指令に応じて回転モータが回転することで、回転支軸213に直結されたスピンチャック211が1点鎖線で示す回転軸線AXまわりに回転する。図2においては上下方向が鉛直方向である。これにより、基板Sが水平姿勢のまま回転軸線AXまわりに回転される。
【0021】
基板保持部21を側方から取り囲むように、スプラッシュガード22が設けられる。スプラッシュガード22は、スピンチャック211の周縁部を覆うように設けられた概略筒状のカップ221と、カップ221の外周部の下方に設けられた液受け部222とを有している。カップ221は制御装置9からの制御指令に応じて昇降する。カップ221は、図2Aに示すようにカップ221の上端部がスピンチャック211に保持された基板Sの周縁部よりも下方まで下降した下方位置と、図2Bに示すようにカップ221の上端部が基板Sの周縁部よりも上方に位置する上方位置との間で昇降移動する。
【0022】
カップ221が下方位置にあるときには、図2Aに示すように、スピンチャック211に保持される基板Sがカップ221外に露出した状態になっている。このため、例えばスピンチャック211への基板Sの搬入および搬出時にカップ221が障害となることが防止される。
【0023】
また、カップ221が上方位置にあるときには、図2Bに示すように、スピンチャック211に保持される基板Sの周縁部を取り囲むことになる。これにより、後述する液供給時に基板Sの周縁部から振り切られる処理液がチャンバ200内に飛散することが防止され、処理液を確実に回収することが可能となる。すなわち、基板Sが回転することで基板Sの周縁部から振り切られる処理液の液滴はカップ221の内壁に付着して下方へ流下し、カップ221の下方に配置された液受け部222により集められて回収される。複数の処理液を個別に回収するために、複数段のカップが同心に設けられてもよい。
【0024】
処理液供給部23は、処理チャンバ200に固定されたベース231に対し回動自在に設けられた回動支軸232から水平に伸びるアーム233の先端にノズル234が取り付けられた構造を有している。回動支軸232が制御装置9からの制御指令に応じて回動することによりアーム233が揺動し、アーム233先端のノズル234が、図2Aに示すように基板Sの上方から側方へ退避した退避位置と、図2Bに示すように基板S上方の処理位置との間を移動する。
【0025】
ノズル234は処理液供給源238に接続されており、処理液供給源238から適宜の処理液が送出されると、ノズル234から基板Sに向けて処理液が吐出される。図2Bに示すように、スピンチャック211が比較的低速で回転することで基板Sを回転させながら、基板Sの回転中心の上方に位置決めされたノズル234から処理液L1を供給することで、基板Sの表面Saが処理液L1により処理される。処理液L1としては、現像液、エッチング液、洗浄液、リンス液等の各種の機能を有する液体を用いることができ、その組成は任意である。また複数種の処理液が組み合わされて処理が実行されてもよい。
【0026】
もう1組の処理液供給部24も、上記した第1の処理液供給部23と対応する構成を有している。すなわち、第2の処理液供給部24は、ベース241、回動支軸242、アーム243、ノズル244等を有しており、これらの構成は、第1の処理液供給部23において対応するものと同等である。回動支軸242が制御装置9からの制御指令に応じて回動することによりアーム243が揺動する。アーム243先端のノズル244は、基板Sの表面Saに対して処理液を供給する。
【0027】
この実施形態において、第2の処理液供給部24は、湿式処理後の基板Sに対して乾燥防止用の液膜を形成する目的に使用される。すなわち、湿式処理後の基板Sは超臨界処理装置4に搬送されて超臨界乾燥処理を受けるが、搬送の間に基板Sの表面が露出して酸化したり、表面に形成された微細パターンが倒壊したりするのを防止するために、基板Sは表面がパドル状液膜で覆われた状態で搬送される。
【0028】
液膜を構成する液体としては、洗浄処理に用いられる処理液の主成分である水よりも表面張力の小さい物質、例えばイソプロピルアルコール(IPA)またはアセトンなどの有機溶媒が用いられる。これらの有機溶媒は有機溶剤供給源248から供給される。
【0029】
ここでは、湿式処理装置2に2組の処理液供給部が設けられているが、処理液供給部の設置数やその構造、機能についてはこれに限定されるものではない。例えば、処理液供給部は1組のみであってもよく、また3組以上設けられてもよい。また、1つの処理液供給部が複数のノズルを備えてもよい。例えば1つのアームの先端に複数のノズルが設けられてもよい。また、上記のようにノズルが所定の位置に位置決めされた状態で処理液を吐出する態様のみでなく、例えば基板Sの表面Saに沿ってノズルが走査移動しながら処理液を吐出する態様が含まれてもよい。
【0030】
図1に戻って、説明を続ける。基板搬送装置3には、伸縮・回動自在のアームの先端にハンド31が設けられた搬送ロボット30が設けられる。ハンド31は基板の下面に部分的に当接することで基板を支持可能であり、図1に点線で示すように、湿式処理装置2および超臨界処理装置4の双方に対し進退移動自在となっている。これにより、湿式処理装置2および超臨界処理装置4のそれぞれに対して、基板の搬入および搬出を行うことができる。搬送ロボット30の動作は制御装置9の搬送制御部96により制御される。この種の搬送ロボットとしては多くの公知技術があり、本実施形態でもそれらを適宜選択して用いることができるので、詳しい説明を省略する。
【0031】
図3は超臨界処理装置の構成を示す側面図である。超臨界処理装置4は、本発明に係る基板処理装置の第1実施形態に相当しており、湿式処理後の基板Sに対し超臨界状態の処理流体を用いた乾燥処理を施す装置である。より具体的には、超臨界処理装置4は、湿式処理後の基板Sを受け入れて、超臨界状態の処理流体によって基板Sに残留する液体を置換した後、処理流体を排出することで、最終的に基板Sを乾燥状態に至らせるための装置である。
【0032】
超臨界処理装置4は、処理ユニット41、移載ユニット43および供給ユニット45を備えている。処理ユニット41は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものである。移載ユニット43は、基板搬送装置3により搬送されてくる湿式処理後の基板Sを受け取って処理ユニット41に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット41から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット45は、処理に必要な化学物質、動力およびエネルギー等を、処理ユニット41および移載ユニット43に供給する。これらの動作は制御装置9、特に超臨界処理制御部97により制御される。
【0033】
処理ユニット41は、台座411の上に処理チャンバ412が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ412は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ412の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口421が形成されている。開口421を介して、処理空間SPと外部空間とが連通している。処理空間SPの断面形状は、開口421の開口形状と概ね同じである。すなわち、処理空間SPはX方向に長くZ方向に短い断面形状を有し、Y方向に延びる空洞である。
【0034】
処理チャンバ412の(-Y)側側面には、開口421を閉塞するように蓋部材413が設けられている。蓋部材413が処理チャンバ412の開口421を閉塞することにより、気密性の処理容器が構成される。これにより、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材413の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ415が水平姿勢で取り付けられている。支持トレイ415の上面は、基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材413は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
【0035】
蓋部材413は、供給ユニット45に設けられた進退機構453により、処理チャンバ412に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構453は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有している。このような直動機構が蓋部材413をY方向に移動させる。進退機構453は制御装置9からの制御指令に応じて動作する。
【0036】
蓋部材413が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ412から離間し、点線で示すように支持トレイ415が処理空間SPから開口421を介して外部へ引き出されると、支持トレイ415へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ415への基板Sの載置、および支持トレイ415に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材413が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ415は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ415に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ415とともに処理空間SPに搬入される。
【0037】
図4は支持トレイの構造を示す斜視図である。支持トレイ415は、トレイ部材416と、複数の支持ピン417とを有している。トレイ部材416は、例えば平板状の構造体の水平かつ平坦な上面に、基板Sの平面サイズに対応した、より具体的には円形の基板Sの直径より僅かに大きい直径を有する窪み418を設けた構造を有している。
【0038】
窪み418は部分的にトレイ部材416の側面まで延びている。つまり、窪み418の側壁面は円形ではなく、部分的に切り欠かれている。このため、この切り欠き部分では、窪み418の底面418aの一部は直接側面に接続している。この例では、支持トレイ415のX側両端部および(+Y)側端部にこのような切り欠き部分が設けられており、これらの部位において、底面418aが側面に直接接続している。
【0039】
また、底面418aのうち移載ユニット43のリフトピン437に対応する位置には、リフトピン437を挿通させるための貫通孔419が穿設されている。貫通孔419を通ってリフトピン437が昇降することで、基板Sが窪み418に収容された状態と、これより上方へ持ち上げられた状態とが実現される。
【0040】
窪み418の周縁部には複数の支持ピン417が配置されている。支持ピン417の配設数は任意であるが、基板Sを安定的に支持するという点からは3以上であることが望ましい。本実施形態では、3つの支持ピン417が、上方からの平面視で底面418aを取り囲むように、トレイ部材416に取り付けられている。
【0041】
複数の支持ピン417はいずれも同一の構成を有している。したがって、以下においては、一の支持ピン417の構成について説明し、その他の支持ピン417の各部については、同一符号を付して説明を省略する。支持ピン417は、図5に示すように、トレイ当接面417aを有している。このトレイ当接面417aは、トレイ部材416の上面で径方向Dに沿って移動可能となっている。支持ピン417では、トレイ当接面417aの上方に下側当接面417bが設けられている。下側当接面417bは中心線BX側に向かう方向(+D)に進むにしたがって下方に傾斜している。ここで、「中心線BX」とは、図4に示すように、窪み418の中心を通過する鉛直線を意味しており、後で説明するように複数の支持ピン417により基板Sをチャックしたとき、基板Sの中心を通過する。
【0042】
この下側当接面417bの(-D)方向側の端部から湾曲当接面417cが上方に設けられている。この湾曲当接面417cは、中心線BX側を向く曲面に仕上げられている。さらに、湾曲当接面417cの上方端から上側当接面417dが上方に延設されている。この上側当接面417dは、中心線BX側に向かう方向(+D)に進むにしたがって上方に傾斜している。より詳しくは、図5に示すように、湾曲当接面417cは、上側当接面417dと下側当接面417bとの間に配置された状態で、上側当接面417dと下側当接面417bとに直接的に連続している。したがって、上側当接面417d、湾曲当接面417cおよび下側当接面417bが繋がって基板Sと当接する基板当接部位417eを径方向Dと直交する水平方向から見ると、基板当接部位417eは略C字形状を有している。つまり、支持ピン417は、基板当接部位417eを中心線BXに向けた状態で、径方向Dに沿って往復移動可能となっている。
【0043】
支持ピン417はピン駆動部417fと接続されている。ピン駆動部417fは、超臨界処理制御部97からの指令に応じて、支持ピン417を径方向Dに移動させる。例えば基板搬送装置3との間で基板Sの受渡しを行う際には、図5(b)に示すように、ピン駆動部417fは支持ピン417を方向(-D)に移動させ、非チャック位置(本発明の「開放位置」の一例に相当)に位置決めする。このとき、湾曲当接面417cおよび上側当接面417dは中心線BXから基板Sの半径よりも若干離れている。一方、下側当接面417bは基板Sの下方に位置している。したがって、基板Sは、同図(b)に示すように、下側当接面417bのみで、しかも下側当接面417bのうち湾曲当接面417cから(+D)方向側に離れた位置で支持される。
【0044】
一方、基板Sをチャックする際には、図5(a)に示すように、ピン駆動部417fは支持ピン417を方向(+D)に移動させ、チャック位置(本発明の「挟み込み位置」の一例に相当)に位置決めする。このように支持ピン417を非チャック位置からチャック位置に移動させることで、下側当接面417bでの基板Sの支持位置が(-D)方向にシフトする。この支持ピン417のチャック位置への移動が完了すると、基板Sが下側当接面417b、湾曲当接面417cおよび上側当接面417dで支持される。つまり、基板チャックが完了する。
【0045】
基板Sのチャックを開放する際には、上記とは逆の手順で支持ピン417が移動するとともに、下側当接面417bでの基板Sの支持位置が(+D)方向にシフトする。
【0046】
また、下側当接面417bでの基板Sの支持位置が径方向Dに移動することで、鉛直方向Zにおける基板Sの高さ位置が距離dzだけ変位する。したがって、超臨界処理制御部97がピン駆動部417fに往復移動指令を与えると、支持ピン417が径方向Dに往復移動するとともに、それに同期して基板Sの昇降が繰り返される。つまり、基板Sに対して上下方向の振動を与えることが可能となっている。本実施形態では、この振動付与を利用して本発明の目的を達成している。この点については、基板処理システム1の動作説明と一緒に、後で詳述する。
【0047】
蓋部材413が(+Y)方向に移動し開口421を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材413の(+Y)側側面と処理チャンバ412の(-Y)側側面との間にはシール部材422が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材422は例えばゴム製である。また、図示しないロック機構により、蓋部材413は処理チャンバ412に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材413は、開口421を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態(実線)と、開口421から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態(点線)との間で切り替えられる。
【0048】
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット45に設けられた流体供給部457が、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の処理流体、例えば二酸化炭素を送出し、さらに処理流体を処理チャンバ412内で加圧することで超臨界状態に至らせる。処理流体は気体または液体の状態で処理ユニット41に供給される。二酸化炭素は、比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧(臨界圧力)が7.38MPa、温度(臨界温度)が31.1℃である。
【0049】
処理流体が処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、処理空間SPは超臨界状態の処理流体で満たされる。こうして基板Sが処理チャンバ412内で超臨界状態の処理流体により処理される。供給ユニット45には流体回収部455が設けられており、処理後の流体は流体回収部455により回収される。流体供給部457および流体回収部455は、超臨界処理制御部97により制御されている。
【0050】
処理空間SPは、支持トレイ415およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ415の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ415と基板Sとを合わせた高さよりも大きい概略矩形の断面形状と、支持トレイ415を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ415および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有している。ただし、支持トレイ415および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は比較的少なくて済む。
【0051】
流体供給部457は、基板Sの(+Y)側端部よりもさらに(+Y)側で、処理空間SPに対して処理流体を供給する。一方、流体回収部55は、基板Sの(-Y)側端部よりもさらに(-Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間および支持トレイ415よりも下方の空間を流通してくる処理流体を排出する。これにより、処理空間SP内では、基板Sの上方と支持トレイ415の下方とのそれぞれに、(+Y)側から(-Y)側に向かう処理流体の層流が形成されることになる。
【0052】
制御装置9の超臨界処理制御部97は、図示しない検出部の検出結果に基づいて処理空間SP内の圧力および温度を特定し、その結果に基づき流体供給部457および流体回収部455を制御する。これにより、処理空間SPへの処理流体の供給および処理空間SPからの処理流体の排出が適切に管理され、処理空間SP内の圧力および温度が予め定められた処理レシピに応じて調整される。
【0053】
移載ユニット43は、基板搬送装置3と支持トレイ415との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット43は、本体431と、昇降部材433と、ベース部材435と、複数のリフトピン437とを備えている。昇降部材433はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、本体431に対してZ方向に移動自在に支持されている。昇降部材433の上部には、略水平の上面を有するベース部材435が取り付けられている。ベース部材435の上面から上向きに、複数のリフトピン437が立設されている。リフトピン437の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを水平姿勢で安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン437が設けられることが望ましい。
【0054】
昇降部材433は、供給ユニット45に設けられた昇降機構451により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構451は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材433をZ方向に移動させる。昇降機構451は制御装置9からの制御指令に応じて動作する。
【0055】
昇降部材433の昇降によりベース部材435が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン437が上下動する。これにより、移載ユニット43と支持トレイ415との間での基板Sの受け渡しが実現される。より具体的には、図4に点線で示すように、支持トレイ415がチャンバ外へ引き出された状態で基板Sが受け渡される。この目的のために、支持トレイ415にはリフトピン437を挿通させるための貫通孔419が設けられている。ベース部材435が上昇すると、リフトピン437の上端は貫通孔419を通して支持トレイ415の上面よりも上方に到達する。この状態で、搬送ロボット30により搬送されてくる基板Sが、搬送ロボット30のハンド31からリフトピン437に受け渡される。リフトピン437が下降することにより、基板Sはリフトピン437から支持トレイ415へ受け渡される。基板Sの搬出は、上記と逆の手順により行うことができる。なお、本実施形態では、基板Sの搬入出時においては、複数の支持ピン417は開放位置に位置決めされる。一方、それ以外においては、複数の支持ピン417は挟み込み位置に位置決めされる。ただし、次に説明する薄膜化処理においては、開放位置と挟み込み位置との切替が繰り返される。
【0056】
図6は第1実施形態に係る基板処理システムにより実行される処理の概要を示すフローチャートである。この基板処理システム1は、処理対象の基板Sを受け入れて、処理液を用いた湿式処理および超臨界処理流体を用いた超臨界乾燥処理を順番に実行する。具体的には以下のステップS101~S111dが実行される。処理対象の基板Sは、基板処理システム1を構成する湿式処理装置2に収容される(ステップS101)。基板Sの搬入は、外部の搬送装置により直接行われてもよく、また外部の搬送装置から搬送ロボット30を介して搬入される態様でもよい。
【0057】
湿式処理装置2は、所定の処理液を用いて基板Sに対し湿式処理を施す(ステップS102)。この湿式処理では、現像液や洗浄液などを供給して所定の処理を行った後に、DIW(脱イオン水:De-ionized water)などのリンス液が基板Sの表面Saに供給される。したがって、湿式処理の完了直後においては、基板Sの表面Saにリンス液が本発明の「液体」の一例として付着している。そこで、湿式処理後に、例えばIPAなどの有機溶剤を基板Sに供給することで、基板Sの表面Saに付着しているリンス液を有機溶剤に置換するとともに、有機溶剤を盛った液盛り状態を作り出す。つまり、液膜LFが基板Sの表面Saに形成される(ステップS103:液膜形成処理)。
【0058】
液膜形成処理の技術的意義は次のとおりである。例えば基板Sの表面Saに形成されたパターンPTの内部にDIWが存在すると、DIWの表面張力によってパターンPTの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面Saにウォーターマークが残留する場合がある。さらに、基板Sの表面Saが外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面Saを、有機溶剤で覆っている。有機溶剤としては、DIWより表面張力が低く、かつ基板Sに対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等のDIWに対して相溶性を有するものを用いるのが好適である。以下においては、リンス液としてDIWを用いるとともに、有機溶剤としてIPAを用いたケースについて説明する。
【0059】
液膜形成処理により基板Sの表面Saに液膜LFが形成されている。基板Sは、液盛り状態のまま、基板搬送装置3により湿式処理装置2から超臨界処理装置4に搬送される(ステップS104)。
【0060】
超臨界処理装置4に搬送されてきた基板Sは、液盛り状態にまま、処理チャンバ412に収容される。具体的には、基板Sはパターン形成面(表面Sa)を上面にして、しかも該パターン形成面が薄い液膜LFに覆われた状態で搬送されてくる。図3に点線で示すように、蓋部材413が(-Y)側へ移動し支持トレイ415が引き出された状態で、リフトピン437が上昇する。搬送装置は基板Sをリフトピン437へ受け渡す。リフトピン437が下降することで、基板Sは開放位置に位置決めされている支持ピン417に載置される。それに続いて、支持ピン417が挟み込み位置に移動して基板Sを保持する。こうして、支持トレイ415での基板Sの受け取りが完了する(ステップS105)。
【0061】
支持トレイ415および蓋部材413が一体的に(+Y)方向に移動すると、基板Sを支持する支持トレイ415が処理チャンバ412内の処理空間SPに収容されるとともに、開口421が蓋部材413により閉塞される。
【0062】
基板Sの収容が確認される(ステップS106で「YES」)と、液盛り状態のまま、処理流体としての二酸化炭素が、気相の状態で処理空間SPに導入される。つまり、処理チャンバ412への処理流体の導入が開始される(ステップS107)。基板Sの搬入時に処理空間SPには外気が侵入するが、気相の処理流体を導入することで、これを置換することができる。さらに気相の処理流体を注入することで、処理チャンバ412内の圧力が大気圧から上昇し、処理チャンバ412の内部は大気圧状態となる。
【0063】
なお、処理流体の導入過程において、処理空間SPからの処理流体の排出は継続的に行われる。すなわち、流体供給部457により処理流体が導入されている間にも、流体回収部455による処理空間SPからの処理流体の排出が実行されている。これにより、処理に供された処理流体が処理空間SPに滞留することなく排出され、処理流体中に取り込まれた残留物などの不純物が基板Sに再付着することが防止される。
【0064】
処理流体の供給量が排出量よりも多ければ、処理空間SPにおける処理流体の密度が上昇しチャンバ内圧が上昇する。逆に、処理流体の供給量が排出量よりも少なければ、処理空間SPにおける処理流体の密度は低下しチャンバ内は減圧される。このような処理流体の処理チャンバ412への供給および処理チャンバ12からの排出については、予め作成された給排レシピに基づいて行われる。すなわち、制御装置9が給排レシピに基づき流体供給部457および流体回収部455を制御することによって、処理流体の供給・排出タイミングやその流量等が調整される。さらに、処理チャンバ412内の圧力変化に応じて支持ピン417が往復移動され、薄膜化処理が実行される。
【0065】
図7は、処理チャンバ内の圧力変化、支持ピンの動作ならびにパターン内部の様子を示す図である。処理流体が二酸化炭素である場合、その臨界温度は室温とあまり変わらないため、処理中の温度変化もさほど大きくない。ここで、より変化が顕著であるチャンバ内圧力に着目して現象を説明する。処理空間SPが大気開放され内部の気圧が大気圧Paである状態から、処理空間SPが密閉された後の時刻T1に処理流体の導入が開始され、内部の圧力は上昇し始める。
【0066】
処理空間SP内で処理流体の圧力が上昇する。本実施形態では、処理チャンバ412内の圧力が亜臨界状態となる圧力(以下「亜臨界圧力」という)Psを経由して臨界圧力Pcを超過するまで、加圧は継続される。処理流体である二酸化炭素の供給により、液膜LF構成するIPAに二酸化炭素が混合される。これにより、液膜LFが増加するが、混合液(=IPA+二酸化炭素)の表面張力が小さくなり、例えば処理チャンバ412内の圧力が亜臨界圧力Ps近傍に到達すると、液膜LFを構成する混合液の一部が基板Sから垂れ落ちて液膜LFの膜厚が薄くなる。ここで、表面張力が小さくなった段階で基板Sに振動を与えると、基板Sから混合液の一部が追加的に垂れ落ちて液膜LFの更なる薄膜化が可能となる。
【0067】
そこで、本実施形態では、処理チャンバ412内の圧力が亜臨界圧力Psに達したとき(ステップS108で「YES」:時刻T2)で、超臨界処理制御部97からピン駆動部417fに往復移動指令が与えられる。すると、図7の中段グラフに示すように、ピン駆動部417fは支持ピン417を径方向Dに往復移動させる。これに伴って、基板Sは昇降を繰り返し、基板Sに対して上下方向の振動を与える。これによって、液膜LFの液盛り状態を維持しつつ、液膜LFが厚みdzだけ薄肉化される(ステップS109:薄膜化処理)。なお、処理チャンバ412内の圧力が亜臨界圧力Psに達する時刻T3を超えると、処理流体はチャンバ内で超臨界状態となる。したがって、振動を与える期間、つまり振動付与期間の終端は時刻T3未満に設定する必要がある。これに対し、振動付与期間の始端は時刻T2に限定されるものではなく、液膜LFの表面張力が十分に低下したタイミングに設定すればよい。また、振動付与期間における支持ピン417の往復移動の回数、つまり振動数は任意である。
【0068】
こうして薄膜化処理を実行した後も、昇圧処理は継続される。したがって、チャンバ内が臨界圧力Pcに到達する時刻T3において、処理流体はチャンバ内で超臨界状態となる。すなわち、処理空間SP内での相変化により、処理流体が気相から超臨界状態に遷移する。処理空間SPが超臨界状態の処理流体で満たされることで、基板Sを覆うIPAが超臨界状態の処理流体により置換される。基板Sの表面から遊離したIPA等は処理流体に溶け込んだ状態で処理流体と共に処理チャンバ412から排出され、基板Sから除去される。すなわち、超臨界状態の処理流体は、基板Sに付着するIPAを置換対象液としてこれを置換し、処理チャンバ412外へ排出する機能を有する。
【0069】
処理流体が確実に超臨界状態に遷移している時刻T3以降、処理空間SPが超臨界状態の処理流体で満たされた状態を所定時間継続することで(ステップS110、S111)、基板Sに付着していた置換対象液を完全に置換しチャンバ外へ排出することができる。なお、図7では時刻T3を超えた時刻T4まで昇圧を継続させた後で、超臨界状態でのチャンバ内圧力Pmを一定として示しているが、臨界圧力Pc以下とならない範囲で圧力の変動があってもよい。
【0070】
時刻T4において、処理チャンバ412内での超臨界状態の処理流体による置換対象液の置換が終了すると(ステップS112)、処理空間SP内の処理流体を排出して基板Sを乾燥させる。具体的には、処理空間SPからの流体の排出量を増大させることで、超臨界状態の処理流体で満たされた処理チャンバ12内を減圧する(ステップS113)。
【0071】
減圧プロセスにおいて、処理流体の供給は停止されてもよく、また少量の処理流体が継続して供給される態様でもよい。処理空間SPが超臨界状態の処理流体で満たされた状態から減圧されることで、処理流体は超臨界状態から相変化して気相となる。気化した処理流体を外部へ排出することで、基板Sは乾燥状態となる。このとき、急激な温度低下により固相および液相を生じることがないように、減圧速度が調整される。すなわち、時刻T5において減圧を開始した後、圧力が臨界圧力Pcを確実に下回る時刻T6までは、比較的低い減圧速度で減圧が実行される。これにより、処理空間SP内の処理流体は超臨界状態から直接気化して外部へ排出される。
【0072】
処理流体が完全に気化した時刻T6以降は減圧速度が高められ、これにより短時間で大気圧Paまで減圧することができる。こうすることで、減圧が開始される時刻T4からチャンバ内が大気圧Paまで低下する時刻T7までの期間の全てにおいて、処理流体が液化することはなく、乾燥後の表面が露出した基板Sに気液界面が形成されることは回避される。
【0073】
このように、この実施形態の超臨界乾燥処理では、処理空間SPを超臨界状態の処理流体で満たした後、気相に相変化させて排出することにより、基板Sに付着する液体を効率よく置換し、基板Sへの残留を防止することができる。しかも、不純物の付着による基板の汚染やパターン倒壊等、気液界面の形成に起因して生じる問題を回避しつつ基板を乾燥させることができる。
【0074】
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS114)。すなわち、蓋部材413が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ415が処理チャンバ412から外部へ引き出され、移載ユニット43を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。こうして1枚の基板Sに対する処理が完結する。次に処理すべき基板がある場合には、ステップS101に戻って新たな基板Sが受け入れられ、上記処理が繰り返される。
【0075】
以上のように、第1実施形態によれば、液膜LFを薄膜化した後で、超臨界状態の処理流体により基板乾燥を実行しているため、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0076】
また、振動付与により以下の作用効果が得られる。以下、図8Aおよび図8Bを参照しつつ説明する。
【0077】
図8Aは液膜形成処理後の液膜で発生する課題を模式的に示す図である。また、図8Bは振動付与による上記課題の解消を模式的に示す図である。液膜形成処理(ステップS103)を行った後に、図8Aに示すように、パターンPTの内底面にリンス液(DIW)の一部が残留することがある。このように残留する液体(以下「残留液」という)を残したまま基板Sに超臨界状態の処理流体による乾燥処理を実行すると、次のような問題が発生することがある。つまり、液膜を構成する液体成分と超臨界状態の処理流体との置換が不完全になりやすい。そのため、それをカバーするために、処理流体の使用量を増大させるという対応策が考えられる。しかしながら、これはランニングコストの増大を招くとともに、大きな環境負荷を社会に与えてしまう。
【0078】
これに対し、本実施形態では、薄膜化処理の実行により、基板Sに振動が付与される。このため、パターンPTに残留する液体(DIW)が移流拡散して液膜LFを構成する混合液(=IPA+二酸化炭素)に混合される。したがって、パターンPTの内底面での残留液が存在しない状態、いわゆる残留液フリーで、超臨界状態の処理流体による乾燥処理が実行される。その結果、処理流体の消費量を削減しながら歩留まりの向上を図ることができる。
【0079】
また、昇圧中に基板Sから垂れ落ちた混合液の一部が貫通孔419に付着することがあり、これが乾燥性能に悪影響を及ぼすおそれがある。しかしながら、本実施形態では、薄膜化処理における基板Sへの振動付与によって、貫通孔419に付着した混合液を落下させて除去することができる。その結果、乾燥性能を高めることができる。
【0080】
さらに、第1実施形態では、基板Sに振動を付与するために、径方向Dにおける支持ピン417の往復移動が利用されている。つまり、支持ピン417が、基板Sの側端部を挟み込んで基板Sを保持するという機能以外に、振動付与機能を発揮する。したがって、振動付与機能を専門的に担う構成を追加する必要がないため、装置コストの低減を図ることができる。
【0081】
上記したように、第1実施形態では、DIWおよびIPAが、それぞれ本発明の「液体」および「有機溶媒」の一例に相当している。また、亜臨界圧力Psおよび臨界圧力Pcがそれぞれ本発明の「第1圧力」および「第2圧力」の一例に相当している。また、基板Sの表面Saが本発明の「パターン形成面」に相当している。また、ステップS105、S106が本発明の「工程(a)」の一例に相当し、ステップS107、S108が本発明の「工程(b)」の一例に相当し、ステップS110、S111が本発明の「工程(c)」の一例に相当し、ステップS109が本発明の「工程(d)」の一例に相当している。また、液膜形成処理(ステップS103)が本発明の「液膜形成工程」の一例に相当し、ステップS109が本発明の「工程(d)」の一例に相当している。また、時刻T1から時刻T4までの期間が本発明の「昇圧期間」の一例に相当している。また、超臨界処理制御部97が本発明の「制御部」の一例に相当している。
【0082】
ところで、第1実施形態では、薄膜化処理を実行するために支持ピン417をD方向に往復移動させている。つまり、支持ピン417およびピン駆動部417fが本発明の「振動付与部」として機能しているが、振動付与部の構成はこれに限定されるものではない。例えば支持ピン417による鉛直方向Zに沿った振動付与(以下「上下振動付与」という)を行うことなく、別途追加した構成により基板Sに振動を付与してもよい。例えば振動子415a(図9)や超音波振動子(図10)などにより支持トレイ415を直接的または間接的に振動させ、支持トレイ415の振動によって基板Sを振動させるように構成してもよい。
【0083】
図9は本発明に係る基板処理装置の第2実施形態を示す図である。この第2実施形態では、振動子415aが支持トレイ415に取り付けられている。振動子415aは超臨界処理制御部97からの振動指令に応じて振動する。このように第2実施形態では、振動子415aが本発明の「振動付与部」の一例に相当している。ここで、振動子415aの取付位置は支持トレイ415に限定されるものではなく、蓋部材413に取り付けてもよい。
【0084】
図10は本発明に係る基板処理装置の第3実施形態を示す図である。この第3実施形態では、超音波振動子412aが、支持トレイ415の下面と対向するように、処理チャンバ412に取り付けられている。超音波振動子412aは超臨界処理制御部97からの振動指令に応じて振動する。このように第2実施形態では、超音波振動子412aが本発明の「振動付与部」の一例に相当している。
【0085】
以上のように、第2実施形態や第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、超臨界状態の処理流体による乾燥処理に先立って、薄膜化処理(ステップS109)が実行される。したがって、乾燥時間の短縮などの作用効果が得られる。
【0086】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。1枚の基板Sに対して超臨界乾燥処理を施すのに当たって、薄膜化処理を1回だけ実行しているが、薄膜化処理を複数回、実行してもよい。
【0087】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0088】
この発明は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を乾燥させる技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
4…超臨界処理装置(基板処理装置)
97…超臨界処理制御部(制御部)
412…処理チャンバ
412a…超音波振動子(振動付与部)
415…支持トレイ
415a…振動子(振動付与部)
417…支持ピン(振動付与部)
417f…ピン駆動部(振動付与部)
LF…液膜
PT…パターン
S…基板
Sa…上面(パターン形成面)
Z…鉛直方向
【要約】      (修正有)
【課題】有機溶剤の液膜が液盛り状態で表面に形成された基板を超臨界状態の処理流体により乾燥させる基板処理方法および基板処理装置において、乾燥時間の短縮を図る。
【解決手段】処理チャンバに処理流体を供給して前記処理チャンバを大気圧から亜臨界状態となる第1圧力に昇圧する工程中に、液膜に処理流体の一部が混合される。これにより、液膜の表面張力が小さくなり、液膜を構成する混合液(=有機溶媒+処理流体)の一部が基板から垂れ落ちて液膜の膜厚が薄くなる。ここで、表面張力が小さくなった段階で基板に振動を与えることで、基板から混合液の一部が追加的に垂れ落ちて液膜はさらに薄膜化される。この薄膜化処理の後で、超臨界状態の処理流体による基板乾燥が実行される。
【選択図】図7
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10