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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】構造スリット部材及び壁躯体の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 9/10 20060101AFI20250107BHJP
   E04G 15/06 20060101ALI20250107BHJP
   E04B 2/86 20060101ALI20250107BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
E04G9/10 104D
E04G15/06 Z
E04B2/86 611S
E04H9/02 321H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023173844
(22)【出願日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板橋 靖
(72)【発明者】
【氏名】庭野 究
(72)【発明者】
【氏名】杉山 晴香
【審査官】眞壁 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-85169(JP,A)
【文献】実開平4-16243(JP,U)
【文献】特開2002-13311(JP,A)
【文献】特開平7-139159(JP,A)
【文献】特許第7504159(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/10
E04G 15/06
E04B 2/84
E04B 2/86
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の壁躯体の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材であって、
前記壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリットと、
前記構造スリットに沿って前記壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部と、
前記構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備え、
前記固定手段は、前記構造スリットの貫通穴の延長線上に配置される固定具であって、
前記固定具は、前記トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられ、
前記固定具は、前記中間支持材と前記トラス筋の上端筋とに跨って取り付けられることを特徴とする構造スリット部材。
【請求項2】
前記固定具は、本体部と前記本体部に挿通される押圧部材とを有し、
前記中間支持材と前記上端筋とが交差する交差部において、前記押圧部材により前記上端筋及び前記中間支持材が前記本体部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の構造スリット部材。
【請求項3】
前記本体部は、一対の挟持部と前記一対の挟持部同士を連結させる連結部とを有し、
前記押圧部材は前記連結部に挿通され、
前記一対の挟持部には、前記上端筋と前記中間支持材のいずれか一方が嵌合される嵌合部が形成され、
前記上端筋と前記中間支持材のいずれか一方が前記嵌合部に嵌合された状態で、前記押圧部材による押圧力が前記上端筋と前記中間支持材のいずれか他方に付与されることにより前記上端筋及び前記中間支持材が前記本体部に固定されていることを特徴とする請求項2に記載の構造スリット部材。
【請求項4】
前記構造スリットに対する前記中間支持材の軸方向への移動を規制する規制部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の構造スリット部材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、
前記構造スリット部材を前記柱躯体との境界となる位置に配置する工程と、
前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、
前記トラス部が配置されるとともに配筋がされた前記壁躯体の型枠の内側に、前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする壁躯体の構築方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、
前記柱躯体の配筋に前記構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作する工程と、
前記柱用ユニットを吊り上げて、前記構造スリット部材が前記壁躯体の側縁に位置するように配置する工程と、
前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、
前記壁躯体の型枠の内側に前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする壁躯体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物などの構造物の壁躯体の側縁に沿って配置される構造スリット部材、及びそれを使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、鉄筋コンクリート造の建築物の柱や梁と壁との縁を切ることを目的として構造スリットが設けられることが知られており、地震発生時に建物の脆性破壊を防止する役割を担っている。
【0003】
構造スリットは、1981年の建築基準法「新耐震基準」で耐震設計の一手法として盛り込まれており、主に鉄筋コンクリート造のマンションに広く採用されている。一般的な構造スリットは、コンクリートの側圧に対して一定の高さ(例えば1.0m-1.5m程度)までしか形状の保持や固定が難しく、構造スリットの両側にコンクリートを順々に打ち上げる施工方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-186925号公報
【文献】特開2012-67495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、構造スリットの取り付け不良やコンクリート打設中の施工管理が適切に行われなかった場合に、構造スリットの曲がりやズレが生じ、施工後に是正が必要となることがある。
【0006】
そこで本発明は、コンクリート打設中の施工管理の負担が軽減できるうえに、構造スリットに曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる構造スリット部材、及びそれを使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の構造スリット部材は、構造物の壁躯体の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材であって、前記壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリットと、前記構造スリットに沿って前記壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部と、前記構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備え、前記固定手段は、前記構造スリットの貫通穴の延長線上に配置される固定具であって、前記固定具は、前記トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられ、前記固定具は、前記中間支持材と前記トラス筋の上端筋とに跨って取り付けられることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記固定具は、本体部と前記本体部に挿通される押圧部材とを有し、前記中間支持材と前記上端筋とが交差する交差部において、前記押圧部材により前記上端筋及び前記中間支持材が前記本体部に固定されている構成とすることができる。また、前記本体部は、一対の挟持部と前記一対の挟持部同士を連結させる連結部とを有し、前記押圧部材は前記連結部に挿通され、前記一対の挟持部には、前記上端筋と前記中間支持材のいずれか一方が嵌合される嵌合部が形成され、前記上端筋と前記中間支持材のいずれか一方が前記嵌合部に嵌合された状態で、前記押圧部材による押圧力が前記上端筋と前記中間支持材のいずれか他方に付与されることにより前記上端筋及び前記中間支持材が前記本体部に固定されている構成とすることができる。さらに、前記構造スリットに対する前記中間支持材の軸方向への移動を規制する規制部をさらに備える構成とすることができる。
【0009】
また、壁躯体の構築方法の発明は、上記したいずれかの構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、前記構造スリット部材を前記柱躯体との境界となる位置に配置する工程と、前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、前記トラス部が配置されるとともに配筋がされた前記壁躯体の型枠の内側に、前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに別の壁躯体の構築方法の発明は、上記したいずれかの構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体の構築方法であって、前記柱躯体の配筋に前記構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作する工程と、前記柱用ユニットを吊り上げて、前記構造スリット部材が前記壁躯体の側縁に位置するように配置する工程と、前記固定手段に対して、前記柱躯体側から挿入された中間支持材を接続する工程と、前記壁躯体の型枠の内側に前記壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の構造スリット部材は、構造スリットに沿って配置される基板及びトラス筋によって長尺状に形成されたトラス部と、構造スリットの貫通穴に通した中間支持材を接続する固定手段とを備えている。すなわち、構造スリットの剛性を高めるために付加されたトラス部は、壁躯体の外側から固定手段に接続される中間支持材によって支持できるうえに、トラス筋を介して後から充填される壁躯体のコンクリートと一体化できる。このため、コンクリートの大きな側圧にも耐えられるようになり、一度に高くコンクリートを打設するなどして、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。さらに、構造スリットは、剛性の高いトラス部に支えられるので、曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる。
【0012】
特に、中間支持材の固定手段となる固定具が、トラス部の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられていれば、壁躯体の側縁に配置される構造スリットを、高さ方向に偏りなく支持させることができる。さらに、固定具が中間支持材とトラス筋の上端筋とに跨って取り付けられる構成であれば、固定具が上端筋などを中心に回転するのを防ぐことができるようになるので、中間支持材の接続作業が実施しやすくなる。
【0013】
また、上端筋と中間支持材とが交差する交差部において、押圧部材により上端筋と中間支持材とが本体部に固定されるため、上端筋と中間支持材が単に固定具に取り付けられている状態よりも上端筋を中間支持材に強固に固定することができる。
【0014】
さらに、本体部は一対の挟持部を有し、この挟持部に形成された嵌合部に上端筋と中間支持材のいずれか一方が嵌合された状態で上端筋と中間支持材のいずれか他方に対して押圧部材により押圧力が付与されるため、上端筋を中間支持材により強固に固定して中間支持材により構造スリット部材を安定的に支持させることができる。
【0015】
また、構造スリットに対する中間支持材の軸方向への移動を規制する規制部材が設けられているため、柱側からのみならず壁側からもコンクリートの打設を開始することができる。
【0016】
また、壁躯体の構築方法の発明では、構造スリット部材を配置して、柱躯体側から挿入された中間支持材を固定手段に接続した後に、壁躯体の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する。
【0017】
このように、剛性の高いトラス部が中間支持材によって支持された構造スリット部材を使用することで、壁躯体の高さを一度のコンクリート打設によって構築することができるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。
【0018】
さらに、地組みなどで柱躯体の配筋を行って構造スリット部材を取り付けた柱用ユニットを製作するのであれば、施工性が向上するので、より効率的に柱躯体及び壁躯体を構築することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1の実施形態に係る構造スリット部材を使用した柱躯体に隣接する壁躯体を構築する工程の説明図である。
図2】第1の実施形態に係る構造スリットが配置される建物の壁躯体及び柱躯体の概略構成を示した説明図である。
図3】第1の実施形態に係る構造スリット部材の構成を拡大して説明する斜視図である。
図4】(a)は固定具の正面図、(b)は固定具の側面図である。
図5】(a)は交差部周辺を示す拡大図、(b)は(a)のA矢視図である。
図6】第1の実施形態に係る構造スリット部材の全体構成を説明する斜視図である。
図7】柱躯体との境界付近を拡大して示した説明図である。
図8】柱躯体に対して直交する壁躯体を構築する場合の第1の実施形態に係る構造スリット部材の使用例を示した説明図である。
図9】従来の柱と壁のコンクリートの打設順序を例示した説明図である。
図10】第2の実施形態に係る構造スリット部材の構成を拡大して説明する斜視図である。
図11】(a)は第2の実施形態に係る規制部の側面図、(b)は第2の実施形態に係る中間支持材の一部拡大図である。
図12】第2の実施形態に係る壁躯体に対して直交する柱躯体を構築する場合の構造スリット部材の使用例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、第1の実施形態に係る構造スリット部材2を使用して、構造物となる建物1の柱躯体11及びそれに隣接する壁躯体12を構築する工程を説明する図である。また、図2は、構造スリット3が配置される建物1の壁躯体12及び柱躯体11の概略構成を示した説明図である。
【0021】
大きな地震が発生した際に、ビルや集合住宅などの建物1の柱や梁のせん断破壊という脆性破壊を防止する目的で、図2に示すように、柱と壁の境界などに構造スリットが配置される。図示した構造スリット3は、柱躯体11と壁躯体12との縁を切る部材で、鉛直スリット、垂直スリット、耐震スリットなどと呼ばれることもある。
【0022】
構造スリット3は、柱躯体11との境界となる壁躯体12の側縁12aに配置される。壁躯体12は、主要な構造部材とは異なる、袖壁、腰壁、垂れ壁などのいわゆる雑壁と呼ばれる躯体である。一方、梁躯体13と壁躯体12との縁を切る目的で配置される構造スリットは、水平スリット15と呼ばれる(図2参照)。
【0023】
第1の実施形態に係る構造スリット部材2は、図3,6に示すように、帯板状の構造スリット3と、構造スリット3に沿って長尺状に形成されるトラス部4と、トラス部4に取り付けられる固定手段となる固定具6とを備えている。
【0024】
構造スリット3は、発泡スチロール、発泡ウレタン、ポリスチレンフォーム、フェノールフォームなどの材料からなる長方形板状の部材である。構造スリット3は、壁躯体12の高さと同程度の長さの長尺状に形成される。
【0025】
構造スリット3は、図7に示すように、幅が壁躯体12の壁厚(150mm-230mm程度)より狭く、壁躯体12の壁厚方向の両側の端縁には、それぞれ枠材32が取り付けられる。両側に溝が形成された枠材32の一方の溝には、構造スリット3の端縁が嵌め込まれるとともに、他方の溝には、壁型枠72に固定される直方体状の目地棒33が嵌め込まれる。
【0026】
図7に示すように、一対の壁型枠72,72の柱躯体11との境界となる位置には、上述した構造スリット3と枠材32と目地棒33とによって形成された仕切りが配置されて、壁躯体12や柱躯体11を構築するために充填されるコンクリートの流れは、この仕切りによって堰き止められる。
【0027】
トラス部4は、構造スリット3の長手方向(鉛直方向)に沿って、壁躯体12の内部側に長尺状に形成される。第1の実施形態に係るトラス部4は、図3に示すように、基板41とトラス筋42とによって形成される。
【0028】
基板41は、構造スリット3の一面に密着させる帯板状の部材で、デッキプレートや波板などによって形成される。基板41は、幅及び長さが構造スリット3の幅及び長さと同程度であって、基板41を構造スリット3の一面に接着剤やビスや両面テープなどによって接合させることで、トラス部4と構造スリット3とを一体に扱うことができる。
【0029】
一方、トラス筋42は、上端筋421と一対の下端筋422とこれらを繋ぐ波形の一対のラチス筋423とによって、平面視二等辺三角形状に形成される(図7参照)。トラス筋42には、様々な形態のものがあり、上端筋421については一対のラチス筋423により形成される二等辺三角形の頂点付近に配置されることになるが、下端筋422の位置やラチス筋423の形状については、様々なものが使用できる。
【0030】
要するにトラス部4は、基板41と、基板41の一面に平面視二等辺三角形(図7参照)の底辺部が接合されるトラス筋42とによって、剛性の高い長尺状部材に形成されていればよい。例えば、薄い亜鉛メッキ鋼板によって形成される基板41と、細径の鉄筋(421,422,423)を組み合わせて形成されるトラス筋42とによって製作されたトラス部4は、剛性が高いうえに軽量であるため、取り扱いがしやすい。
【0031】
ここで図7に示すように、壁躯体12の一方の壁面を第1壁面121とし、それに対向する他方の壁面を第2壁面122とする。トラス部4は、第1壁面121と第2壁面122との間の壁躯体12の内部に配置される。トラス筋42の周囲に、壁躯体12を形成するために現場打ちされたコンクリートが充填されることによって、トラス部4と壁躯体12とは一体化する。
【0032】
また、トラス部4には、図3に示すように、中間支持材61の固定手段となる固定具6が取り付けられる。この固定具6に対峙する構造スリット3及び基板41の位置には、貫通穴31が穿孔されている。すなわち、構造スリット3及び基板41の貫通穴31の延長線上に、中間支持材61の固定具6が配置される。
【0033】
図4(a)は固定具6の正面図であり、図4(b)は固定具6の側面図である。固定具6は、本体部600と、押圧部材としての固定ネジ620とを有して構成されている。本体部600は、側面視コ字状に形成されており、一対の挟持部601と、挟持部601同士を連結する連結部610により構成されている。連結部610には、固定ネジ620が挿通される挿通孔611が形成されている。
【0034】
各挟持部601は平板状に形成され、挟持部601には厚み方向に貫通する嵌合部602が形成されている。嵌合部602は、ガイド溝602aと、両端が円弧状をなす長孔602bとを有して構成されている。長孔602bは、正面視で固定ネジ620と重なる位置に形成され、固定ネジ620の挿通方向に沿って延びている。ガイド溝602aは、長孔602bと一体的に形成されている。
【0035】
図5(a)は、中間支持材61と上端筋421との交差部Xを拡大して示す図であり、図5(b)は図5(a)のA矢視図である。中間支持材61は水平方向に沿って延び、上端筋421は鉛直方向に沿って延びており、ほぼ直交して配置されている両者を固定するように固定具6が取り付けられる。中間支持材61と上端筋421は、何れか一方が一対の挟持部601間に配置され、何れか他方が長孔602bに挿入されて交差した状態で固定具6により連結される。具体的には、中間支持材61が水平方向に沿って延びる一対の挟持部601間に配置され、上端筋421が嵌合部602に嵌合されている。
【0036】
上端筋421は、ガイド溝602aにより長孔602bに案内される。中間支持材61は、上端筋421と接した状態で一対の挟持部601間に配置されている。固定ネジ620の挿通方向への移動に伴い、中間支持材61が上端筋421を長孔602bの延びる方向に沿って押圧されるとともに、上端筋421が長孔602bの一端に当接する。即ち、固定ネジ620により、中間支持材61の軸方向と直交する方向(図5(b)の白抜き矢印方向)に押圧力が付与され、中間支持材61が上端筋421と接した状態で中間支持材61及び上端筋421が固定具6に対して強固に固定される。
【0037】
なお、挟持部601が上下方向に沿って延びた状態で、固定具6が中間支持材61と上端筋421とを挟み込むように固定してもよい。即ち、上端筋421が一対の挟持部601間に配置され、中間支持材61が嵌合部602に嵌合された状態で、固定ネジ620により上端筋421の軸方向と直交する方向に押圧力が付与され、上端筋421が中間支持材61と接した状態で中間支持材61及び上端筋421が固定具6に対して強固に固定されることとしてもよい。
【0038】
固定具6は、図6に示した中間支持材61の位置からも分かるように、トラス部4の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられる。例えば、鉛直方向に200mm-400mm程度の間隔を置いて、トラス部4に固定具6が取り付けられる。
【0039】
固定具6に対しては、柱躯体11側から挿入される中間支持材61の端部が接続され、この中間支持材61によって構造スリット部材2を支持させることができる。中間支持材61は、鉄筋、セパレータ、全ネジなどの棒状材料によって形成することができる。また、中間支持材61は、1本の棒状材料によって形成されるものに限定されるものではなく、途中に継手があるなど複数の棒状材料を組み合わせて形成されるものであってもよい。
【0040】
そして、コンクリートの側圧が大きくなる構造スリット部材2の下部における固定具6の配置間隔は、上部よりも密にすることが好ましい。例えば図6では、構造スリット部材2の下部の配置間隔を200mmとし、中間部から上部の配置間隔を400mmとした例を示している。
【0041】
第1の実施形態に係る構造スリット部材2は、固定具6に通される中間支持材61によって、柱躯体11と接続されることになる。従来の構造スリットを設ける耐震構造では、柱と縁切りされる壁の転倒などを防ぐために振れ止め筋を配置する必要があったが、中間支持材61を介して壁躯体12が柱躯体11に接続されるようになる構造スリット部材2を使用することで、中間支持材61に振れ止め筋の機能を持たせることができる。
【0042】
次に、第1の実施形態に係る構造スリット部材2を使用した柱躯体11に隣接する壁躯体12の構築方法について説明する。第1の実施形態では、図1又は図8に示すように、柱躯体11に隣接して壁躯体12を構築する場合について説明する。
【0043】
柱躯体11の柱配筋111は、鉛直方向に延伸される主鉄筋の外側を囲むように、せん断補強鉄筋となる帯鉄筋が配筋される。また、平面視略長方形の帯鉄筋の内空を区切るように、せん断補強鉄筋となる中間帯鉄筋が架け渡される(図1参照)。
【0044】
構造スリット部材2を所定の位置に据え付ける前に、壁躯体12の一方の壁面を形成する壁型枠72を組み立てておく。例えば図1に図示した柱型枠71に連続する図の上方の壁型枠72を、先に設置する。型枠(71,72)は、単管や桟木などを使って組み立てられる支保工7、せき板、セパレータ52などによって形成される。
【0045】
そして、柱型枠71の内側には柱配筋111が組み立てられ、壁型枠72の内側には壁配筋123が組み立てられることになる。また、壁配筋123の両側縁には、構造スリット部材2が設置される。
【0046】
ここで、構造スリット部材2の配置方法には、2通りの方法がある。第1の方法としては、まず、構造スリット部材2を柱躯体11との境界となる位置に配置した後に、壁配筋123を組み立てる方法である。
【0047】
第2の方法としては、柱用ユニット(不図示)を地組みによって組み立てる方法である。例えば、作業ヤードにおいて柱配筋111を組み立てる。作業ヤードなどの広い場所で施工できる地組みであれば、効率よく柱配筋111を組み立てることができる。
【0048】
そして、地組みされた柱配筋111の壁躯体12との境界となる位置に、それぞれ構造スリット部材2を取り付ける。このようにして製作された柱用ユニット(上述した第1の方法であれば構造スリット部材2)は、ホイストやクレーンなどで吊り上げられて、所定の位置に据え付けられる。トラス部4によって剛性が高められた構造スリット部材2は、軽量なので柱配筋111に取り付けても重量の増加が少なく、柱用ユニットとして柱配筋111と一緒にクレーンなどで吊り上げて設置することができる。
【0049】
壁配筋123は、下の階の梁躯体13上に形成された床面に、水平スリット15を介して配置される。すなわち、壁躯体12と床面とは、水平スリット15によって縁切りされた状態になる(図2参照)。
【0050】
柱躯体11との境界となる位置に配置された構造スリット部材2に対しては、図1に示すように、柱配筋111側から貫通穴31(図3参照)を通って壁躯体12側に突出した中間支持材61の一端が、固定具6に接続される。
【0051】
図1に示した建物1では、中間支持材61の他端も、柱躯体11を挟んで反対側に構築される壁躯体12用の構造スリット部材2の固定具6に接続される。要するに、中間支持材61によって、柱躯体11を挟んだ両側の構造スリット部材2,2の間隔は、保持されることになる。
【0052】
一方、図8に示した建物1Aでは、柱躯体11に対して、互いに直交する2つの方向に壁躯体12が設けられており、一端が固定具6に接続された中間支持材61の他端は、柱型枠71を支持する支保工7に定着させることになる。
【0053】
このようにして柱配筋111及び壁配筋123を組み立てた後に、残りの柱型枠71及び壁型枠72を据え付ける。ここで、壁型枠72,72間は、図1,8に示すように、セパレータ52によって連結する。このようにして、場所打ちコンクリートを充填できる状態にする。
【0054】
ここで、図9を参照しながら、従来の建物a1における柱と壁と梁のコンクリートの打設順序について説明する。この建物a1では、柱と両脇の壁との間に、構造スリットa2を介在させる。
【0055】
まず最初に、柱の下部のコンクリートを打設する。コンクリートは、充填時には流動体であるため、図9の左側の壁の中央に部分的なイメージとして例示したように、打設高さに応じた側圧が構造スリットa2に作用することになる。
【0056】
構造スリットa2自体は、発泡スチロールなどによって成形された剛性の低い板材なので、大きなコンクリートの側圧が作用すると、曲がったりズレたりする可能性がある。そこで、まずは柱の高さの1/3程度のコンクリートを打設する。
【0057】
続いて、柱の左右の壁の下部にも、同程度の高さまでコンクリートを充填する。そして、柱及び左右の壁の中間部のコンクリートを打設し、その後に柱及び左右の壁の上部のコンクリートを打設する。そして、最後に梁のコンクリートを打設することになるが、コンクリートの打設工程は、10工程にもなる。
【0058】
これに対して、第1の実施形態に係る構造スリット部材2は、剛性の高いトラス部4を備えているうえに、トラス部4が柱躯体11側から接続された中間支持材61によって支持されている。
【0059】
中間支持材61は、図6に示した貫通穴31に挿入されることになるが、トラス部4の鉛直方向の端部だけでなく中間部にも配置されるので、全長に亘って均等に構造スリット部材2を支持することができる。
【0060】
このため、図2に図示したように、SL(Slab Line)から梁下端(2.5m程度)までであれば、柱躯体11のコンクリートを連続して一度に打設することができる。また、柱躯体11の左右の壁躯体12に対しても、壁躯体12の高さに至るまで連続してコンクリートを充填することができる。
【0061】
そして、最後に梁躯体13のコンクリートを打設することになるが、コンクリートの打設工程は、4工程で済むことになる。要するに、従来のコンクリートの打設工程と比べて、6工程も削減することができる。
【0062】
次に、第1の実施形態に係る構造スリット部材2、及びそれを使用した柱躯体11に隣接する壁躯体12の構築方法の作用について説明する。
【0063】
このように構成された第1の実施形態に係る構造スリット部材2は、構造スリット3に沿って配置される基板41及びトラス筋42によって長尺状に形成されたトラス部4と、構造スリット3の貫通穴31の延長線上に配置される中間支持材61の固定具6とを備えている。
【0064】
すなわち、剛性を高めるために構造スリット3に付加されたトラス部4は、壁躯体12の外側から固定具6に接続される中間支持材61などによって支持できるうえに、トラス筋42を介して後から充填される壁躯体12のコンクリートと一体化できる。
【0065】
こうしてコンクリートの大きな側圧にも耐えられるようになれば、一度に1.5mを超えるような高さまでコンクリートを連続して打設することができるようになるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができるようになる。
【0066】
さらに、構造スリット3は、剛性の高いトラス部4に支えられるので、曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる。特に、中間支持材61の固定具6が、トラス部4の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられていれば、壁躯体12の側縁12aに配置される構造スリット3を、高さ方向に偏りなく支持させることができる。
【0067】
また、固定具6が中間支持材61とトラス筋42の上端筋421とに跨って取り付けられる構成であれば、固定具6が上端筋421などを中心に回転するのを防ぐことができるようになるので、中間支持材61の接続作業が実施しやすくなる。
【0068】
また、上端筋421と中間支持材61とが交差する交差部Xにおいて、押圧部材としての固定ネジ620により上端筋421及び中間支持材61が本体部に固定されるため、上端筋421及び中間支持材61が単に固定具6に取り付けられている状態よりも上端筋421を中間支持材61に強固に固定することができる。
【0069】
さらに、本体部は一対の挟持部601を有し、この挟持部601に形成された嵌合部602に上端筋421と中間支持材61のいずれか一方が嵌合された状態で上端筋421と中間支持材61のいずれか他方に対して押圧部材としての固定ネジ620により押圧力が付与されるため、上端筋421を中間支持材61により強固に固定して中間支持材61により構造スリット部材2を安定的に支持させることができる。
【0070】
また、第1の実施形態に係る壁躯体の構築方法では、軽量で扱いやすい構造スリット部材2を配置して、柱躯体11側から挿入された中間支持材61の端部を固定具6に接続した後に、壁躯体12の高さに至るまで連続してコンクリートを充填する。
【0071】
このように、軽量で剛性の高いトラス部4が中間支持材61によって支持された構造スリット部材2を使用することで、壁躯体12の高さを一度のコンクリート打設によって構築することができるので、コンクリート打設中の施工管理の負担を軽減することができる。
【0072】
さらに、地組みなどで柱躯体11の配筋を行って構造スリット部材2を取り付けた柱用ユニット20を製作するのであれば、型枠が接近した狭い場所で作業するよりも施工性が向上するので、より効率的に柱躯体11及び壁躯体12を構築することができるようになる。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る構造スリット部材102について、図10乃至図12を参照して説明する。なお、以下では、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0074】
上記第1の実施形態では、先ず柱側のコンクリートを打設し、次に壁側のコンクリートを打設することとした。一方、第2の実施形態では、先ず壁側のコンクリートを打設し、次に柱側のコンクリートを打設することとする。
【0075】
図10は、規制部8が構造スリット3に取り付けられた状態を示す図であり、図11(a)は、規制部8の側面図であり、図11(b)は、中間支持材61を一部拡大して示す図である。図10に示すように、基板41に対して固定具6とは反対側において構造スリット3に規制部8が取り付けられている。即ち、基板41の柱配筋111側に規制部8が取り付けられている。
【0076】
図11(a)に示すように、規制部8は、保持板81とナット82とが一体化されて構成されている。規制部8には、保持板81の厚み方向に貫通する雄ネジ部8aが形成されている。規制部8は、中間支持材61の軸方向に関して雄ネジ部8aと貫通穴31とが重なるように構造スリット3に設けられる。
【0077】
図11(b)に示すように、中間支持材61の軸方向に沿った一部には、雄ネジ部8aに螺合する雌ネジ部61aが形成されている。中間支持材61が貫通穴31と雄ネジ部8aを貫通した状態で、雄ネジ部8aと雌ネジ部61aが螺合する。これにより、中間支持材61の基板41に対する移動が抑制される。
【0078】
なお、壁型枠72の端部と中間支持材61との端部とが離間している場合には、図10に示すように延長部材62を設け、中間支持材61と延長部材62とを連結具9により連結することで、壁型枠72の端部までの距離を確保することができる(図12参照)。
【0079】
このように、第2の実施形態に係る構造スリット部材102では、構造スリット3に対する中間支持材61の軸方向への移動を規制する規制部8が設けられている。規制部8には、雄ネジ部8aが形成され、この雄ネジ部8aに雌ネジ部61aが形成された中間支持材61が挿入されることにより、雄ネジ部8aと雌ネジ部61aが螺合して中間支持材61の軸方向への移動が規制される。これにより、柱躯体11側への構造スリット3の孕み出しを抑えることができる。従って、壁側からのコンクリートの側圧にも耐えることができ、柱側からのみならず壁側からもコンクリートの打設を開始することができる。
【0080】
以上、図面を参照して、本発明の各実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は、これらの実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0081】
例えば、前記実施形態で説明した構造スリット3及び枠材32の材質や形状は例示であって、これに限定されるものではなく、様々な形態の構造スリットに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1,1A :建物(構造物)
11 :柱躯体
111 :柱配筋
12 :壁躯体
12a :側縁
2,102 :構造スリット部材
20 :柱用ユニット
3 :構造スリット
31 :貫通穴
4,4A,4B :トラス部
41 :基板
42 :トラス筋
421 :上端筋
422 :下端筋
43,44 :鋼板(基板)
6,6A :固定具(固定手段)
600 :本体部
601 :挟持部
602 :嵌合部
602a :ガイド溝
602b :長孔
610 :連結部
611 :挿通孔
620 :固定ネジ
61 :中間支持材
61a :雌ネジ部
72 :壁型枠(型枠)
8 :規制部
8a :雄ネジ部
X :交差部
【要約】
【課題】コンクリート打設中の施工管理の負担が軽減できるうえに、構造スリットに曲がりやズレが生じるのを防ぐことができる構造スリット部材を提供する。
【解決手段】建物1の壁躯体12の側縁に沿って構造スリットを配置するための構造スリット部材2である。そして、壁躯体の側縁に配置される帯板状の構造スリット3と、構造スリットに沿って壁躯体の内部側に、基板とトラス筋とによって長尺状に形成されるトラス部4と、構造スリットの貫通穴に通した中間支持材61を接続する固定具6とを備えている。固定具6は、構造スリット3の貫通穴31の延長線上に配置され、トラス部4の長手方向に間隔を置いて複数が取り付けられ、中間支持材61とトラス筋の上端筋421とに跨って取り付けられる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12