(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】セルロース繊維を含む不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/013 20120101AFI20250107BHJP
A45D 44/22 20060101ALI20250107BHJP
D04H 1/28 20120101ALI20250107BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20250107BHJP
D04H 3/11 20120101ALI20250107BHJP
【FI】
D04H3/013
A45D44/22 C
D04H1/28
D04H1/492
D04H3/11
(21)【出願番号】P 2023515542
(86)(22)【出願日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2022018609
(87)【国際公開番号】W WO2022225056
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2021073602
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】米良 勇二
(72)【発明者】
【氏名】梅 翔午
(72)【発明者】
【氏名】石川 奈那
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特許第4548814(JP,B2)
【文献】特開2021-123819(JP,A)
【文献】特開2017-101341(JP,A)
【文献】特許第3559533(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
A45D 44/22
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 19/00 - 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布であって、
乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式:
摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100
により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下であ
り、かつ、該不織布に対するセルロース繊維の含有量が80重量%以上100重量%以下であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
前記セルロース繊維は連続長繊維である、請求項
1に記載の不織布。
【請求項3】
乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.05以上0.3以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
乾燥状態における、前記不織布のおもて面の表面粗さが10μm以上60μm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項5】
前記不織布の目付が10g/m
2以上150g/m
2以下であり、かつ、厚みが0.1mm以上1.0mm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項6】
湿潤状態における、前記不織布のタテ方向の初期抗張力が0.1N/50mm以上3.0N/50mm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項7】
乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.05以上0.35以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項8】
乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.05以上0.35以下である、請求項
3に記載の不織布。
【請求項9】
前記摩擦係数の差が30%以上50%以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項10】
乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.13以上0.17以下であり、かつ、乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.17以上0.35以下である、請求項
9に記載の不織布。
【請求項11】
前記不織布に対するセルロース繊維の含有量が95重量%以上100重量%以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の不織布を含むフェイスマスク。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の不織布を含む美容用トナーパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を含む不織布に関する。より詳しくは、本発明は、湿潤状態において高い取扱性と密着性を有するセルロース繊維不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
吸液性に優れる不織布として、コットンやパルプ、レーヨンなどのセルロース繊維からなるセルロース繊維不織布が挙げられる。そして、セルロース繊維不織布は、液体を吸収して使用する用途、例えば、美容用のフェイスマスク、対人向けのウェットワイパーや対物向けのウェットワイパー、液体拭き取り用のドライワイパー等に広く用いられている。
【0003】
このようなセルロース繊維不織布の湿潤状態での取扱性の向上や意匠性の付与のために、不織布表面に杉綾柄の凹凸模様を付与することが知られている。例えば、以下の特許文献1では、杉綾織の支持体上で繊維材料を水流交絡処理し、杉綾柄の凹凸模様を付与することで、タテ方向とヨコ方向の強力バランス、手持ち感を向上することを提案している。また、以下の特許文献2では、不織布に見掛け密度の異なる凹凸模様を杉綾柄に施すことで、不織布間の分離性を高め、積み重なった不織布を取り出す際に次に続く不織布を一緒に取り出してしまう“ズル”という現象を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3559533号公報
【文献】特許第4548814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した従来技術の不織布には以下の問題がある。
杉綾柄の凹凸模様がある不織布は、対象面に沿ってすべらす動作をする際に、対象面に対する不織布のすべりやすさと、操作する手に対する不織布のすべりやすさが同じであるため、対象面に沿ってすべらそうとしても手からもすべってしまい、不織布をうまく操作できない。したがって、フェイスマスクとして用いる場合は、肌面に密着させた後にフェイスマスクの位置を微調整するために肌面に対してすべらそうとしても、操作する手からも不織布がすべってしまい、不織布の操作性が悪い。また、ワイパーとして用いる場合は、拭き取りたい対象面に対して、不織布をすべらせて汚れを拭きとろうとしても、操作する手からも不織布がすべってしまうため、不織布の操作性が悪い。
【0006】
かかる問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、湿潤状態において高い取扱性と密着性を有する、セルロース繊維を含む不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、杉綾柄の高繊維量領域を有するセルロース繊維を含む不織布の、表裏面の摩擦係数の差を10%以上に調整することで、湿潤状態における不織布の取扱性が高く、さらに高い密着性を有することを予想外に見出し
本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布であって、
乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式:
摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100
により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下であることを特徴とする不織布。
[2]前記不織布に対するセルロース繊維の含有量が80重量%以上100重量%以下である、前記[1]に記載の不織布。
[3]前記セルロース繊維は連続長繊維である、前記[1]又は[2]に記載の不織布。
[4]乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.05以上0.3以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の不織布。
[5]乾燥状態における、前記不織布のおもて面の表面粗さが10μm以上60μm以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の不織布。
[6]前記不織布の目付が10g/m2以上150g/m2以下であり、かつ、厚みが0.1mm以上1.0mm以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の不織布。
[7]湿潤状態における、前記不織布のタテ方向の初期抗張力が0.1N/50mm以上3.0N/50mm以下である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の不織布。
[8]乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.05以上0.35以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の不織布。
[9]前記摩擦係数の差が30%以上50%以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の不織布。
[10]乾燥状態における、前記不織布のおもて面の摩擦係数が0.13以上0.17以下であり、かつ、乾燥状態における、前記不織布の裏面の摩擦係数が0.17以上0.35以下である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の不織布。
[11]前記不織布に対するセルロース繊維の含有量が95重量%以上100重量%以下である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の不織布。
[12]前記[1]~[11]のいずれかに記載の不織布を含むフェイスマスク。
[13]前記[1]~[11]のいずれかに記載の不織布を含む美容用トナーパッド
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るセルロース繊維を含む不織布は、湿潤状態での取扱性、特に折りたたんだ不織布を広げる際の不織布の分離性と、不織布を対象面に沿ってすべらせる際の不織布の操作性が高く、かつ、対象面に対する密着性が高い不織布であるため、例えば、フェイスマスク、トナーパッド、ウェットワイパー、ドライワイパー等の湿潤シートの基材として好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】高繊維量領域(A)と低繊維量領域(B)から構成される本実施形態のセルロース繊維を含む不織布における、杉綾柄を説明するための図面に代わる写真である。
【
図2】本実施形態のセルロース繊維を含む不織布における、杉綾柄を説明するための図面に代わる写真である。
【
図3】本実施形態のセルロース繊維を含む不織布における、杉綾柄を説明するための図面に代わる写真である。
【
図4】実施例1のセルロース繊維不織布を得るために使用した特殊杉綾織のネットの図面に代わる写真である(経線が緯線を7本乗り越して織られたもの)。
【
図5】実施例3で得られたセルロース繊維不織布(杉綾柄)の図面に代わる写真である。
【
図6】比較例1で得られたセルロース繊維不織布(メッシュ柄)の図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の1の実施形態は、繊維の集積量の多い高繊維量領域と、該高繊維量領域に比べて繊維の集積量が相対的に少ない低繊維量領域により杉綾柄を呈する、セルロース繊維を含む不織布であって、
乾燥状態において、該不織布のおもて面と裏面の摩擦係数が異なり、摩擦係数がより小さい面をおもて面、摩擦係数がより大きい面を裏面としたとき、以下の式:
摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数}×100
により算出される摩擦係数の差が10%以上80%以下であることを特徴とする不織布である。
【0012】
本実施形態の不織布に含まれるセルロース繊維としては、特に制限はなく、例として、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、テンセル(リヨセル)、ポリノジック等の再生セルロース繊維、コットン、パルプ、麻等の天然セルロース繊維が挙げられる。その中でも、再生セルロース繊維が好ましく、より好ましくは銅アンモニアレーヨン、テンセル(リヨセル)、特に好ましくは銅アンモニアレーヨンである。再生セルロース繊維は天然セルロースよりも、吸液性が高く、湿潤状態における糸の剛性が低いため、湿潤シートとして用いる場合に、不織布がしなりやすく密着性が高い。また、不織布に含まれるセルロース繊維の量が少ないと、密着性や吸液性が十分ではない。不織布に対するセルロース繊維の含有量は80重量%以上が好ましく、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。本明細書中、用語「セルロース繊維不織布」とは、セルロース繊維の含有量が80重量%以上である不織布をいう。
【0013】
本実施形態の不織布に含まれるセルロース繊維は、連続長繊維でも短繊維でも構わないが、連続長繊維の方が好ましい。連続長繊維は短繊維に比べて繊維の自由度が低く、水流交絡処理時に下層ネットの凹部に沿って繊維束を形成しやすく、不織布の下層ネットに接する面の凹凸が大きくなりやすいことから、不織布表裏の摩擦係数に差が出やすいためである。さらに、連続長繊維の方が不織布の厚み方向よりも平面方向に配向する繊維の割合が多く、対象面に接する繊維の面積が大きいため密着性が高く、好ましい。尚、本明細書中、用語「連続長繊維」とは、繊維長が50mm以上の繊維をいう。
【0014】
本実施形態のセルロース繊維不織布の構造を
図1~
図3により説明する。但し、本実施形態のセルロース繊維不織布の構造は
図1~
図3に限定されるものではない。セルロース繊維不織布は高繊維量領域(A)と低繊維量領域(B)から構成される。ここで、高繊維量領域とは、繊維の集積量の多い領域を指し、低繊維量領域とは、高繊維量領域と対比して、相対的に繊維の集積量の少ない領域のことを指し、両者は相対的な関係によって規定されるものである。高繊維量領域では、低繊維量領域に比べて、多くの繊維が集積し、繊維が束状に存在し、厚み方向に凸となっている。厚み方向に凸な高繊維量領域が存在することで、不織布を折りたたんだ際に、凸同士が接して不織布の分離性が高く、湿潤状態でも取り扱いやすいシートとなり、さらに、積み重なった不織布を取り出す際にも、凸の高繊維量領域同士が接して、不織布の分離性が高く、湿潤状態でも取り出しやすいシートとなる。
【0015】
束状に繊維が集積した高繊維量領域が、ある一定のパターンを構成することで、不織布の柄が発現する。
本明細書中、用語「杉綾柄」とは、
図1に例示するように、タテ方向に対し3°~87°傾いている高繊維量領域(A-1)と、タテ方向に対し-3°~-87°傾いている高繊維量領域(A-2)が存在し、両領域が交差し、構成される柄をいう。両高繊維量領域が、互いに異なる角度で斜めに存在することで、高繊維量領域同士の交差点(C)が複数生じる。本実施形態のセルロース繊維不織布は、高繊維量領域の交差点で多くの繊維が自己接着するため、不織布全体の強度が高くなり、剛性が高く手持ち感に優れる。
ここでいう、「タテ方向」とは、製造工程のライン方向に沿った向きのことであり、セルロース繊維不織布を構成する繊維が正弦波を描く場合の周期の進行方向と同方向の状態を言う。また「ヨコ方向」は製品の幅方向であり、「タテ方向」と直交した向きのことである。セルロース繊維に限らず、不織布はその製法上、製造工程のライン方向(タテ方向)に構成繊維が配向するので、不織布のヨコ方向に伸びやすい傾向、すなわち、不織布のヨコ方向の初期抗張力が小さい傾向にある。不織布のライン方向が不明の場合は、初期抗張力の最も小さい方向をヨコ方向、ヨコ方向と直行した方向をタテ方向と定義してもよい。
【0016】
タテ方向に対して、両高繊維量領域が傾く角度は3°~87°又は-3°~-87°が好ましく、タテヨコの強度バランスの点から、5°~30°又は-5°~-30°がより好ましい。タテ方向に対して傾きが小さすぎると、両高繊維量領域がタテ方向とほぼ平行に走るため、両高繊維量領域の交差点が少なくなり、不織布全体の強度が十分ではなくなるため、好ましくない。また、タテ方向に対して傾きが大きすぎると、両高繊維量領域がヨコ方向とほぼ平行に走るため、同様に両高繊維量領域の交差点が少なくなり、不織布全体の強度が十分ではなくなるため、好ましくない。
【0017】
本発明の好ましい形態の1つとして、杉綾織りのネット上でセルロース繊維が水流交絡処理された不織布が挙げられる。但し、本発明はこれに限定されるものではない。杉綾織りのネットとは、経線と緯線が一定の間隔を保ち、相互に2本以上ずつ乗り越して織られたネットであり、経線が緯線に2本上、2本下と交差するパターン、経線が緯線に2本上、1本下と交差するパターン等が挙げられる。不織布が上述した杉綾柄を構成するためには、経線が緯線を5本以上乗り越して織られたネットがより好ましい。経線が緯線を4本以下で乗り越したネットを用いると、上述した両高繊維量領域の傾く角度にすることが困難になるからである。
【0018】
本実施形態のセルロース繊維不織布は、杉綾柄の高繊維量領域を有することで分離性が高く、折りたたんだ状態から容易に開くことができる。さらに、紡糸・水流交絡条件等の製造方法を制御することにより、表裏の摩擦係数の差を有することで、不織布を対象面に対して平行方向にすべらす際の操作性に優れ、かつ対象面に対する密着性にも優れる。
【0019】
本実施形態のセルロース繊維不織布のおもて面とは、不織布の表裏の2面のうち、摩擦抵抗がより小さい面を指し、裏面とは摩擦抵抗がより大きい面を指す。摩擦係数が小さい面(表面、おもて面)と密着させる対象面との摩擦抵抗と、摩擦係数が大きい面(裏面)と操作する手との摩擦抵抗に差があることにより、操作する手に不織布がひっかかりやすく、対象面に対してはすべりやすいため、不織布の操作がしやすい。さらにおもて面は摩擦係数が小さい、すなわちなめらかな形状をしているため、対象面への密着面積が大きく密着性が高い。
【0020】
本実施形態のセルロース繊維不織布の、乾燥状態における表裏の摩擦係数は10%以上異なり、好ましくは15%以上異なり、より好ましくは20%以上異なり、さらに好ましく30%以上異なる。表裏の摩擦係数の差が小さすぎると、不織布のすべりやすさの違いが表れず、操作がしにくくなる。さらに、本実施形態のセルロース繊維不織布の乾燥状態における表裏の摩擦係数の差は、80%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。摩擦係数が高すぎると、操作する手へのひっかかりが強くなりすぎて、対象面に不織布を貼り付けることが困難となるため、操作性が悪くなり、好ましくない。
尚、乾燥状態における表裏の摩擦係数の摩擦係数の差は下記式:
摩擦係数の差(%)={(裏面の摩擦係数-おもて面の摩擦係数)/おもて面の摩擦係数×}100
により算出される。
尚、本明細書中、用語「乾燥状態」とは、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置した状態を意味する。
【0021】
また、乾燥状態における表裏の摩擦係数の差が30%以上50%以下であれば、湿潤シートの乾燥が進行した場合であっても、表裏の不織布のすべりやすさの違いが維持される傾向にある。
【0022】
また、本実施形態のセルロース繊維不織布をフェイスマスクとして使用する場合、化粧液を浸透させたい顔などの肌面と不織布のおもて面とが接し、不織布の裏面とフェイスマスクを操作する手が接する。顔などの肌面と不織布おもて面の間の摩擦抵抗よりも、不織布の裏面と手の間の摩擦抵抗が大きいため、不織布が手と一体となって動き、フェイスマスクを顔にきれいに貼り付けるための微調整の操作がしやすい。さらに顔などの肌面と接している不織布のおもて面は摩擦係数が低く、ざらつきが少ないなめらかな形状をしているため、顔などの肌面との密着性が高く、化粧液を効率的に浸透させることが可能である。
【0023】
本実施形態のセルロース繊維不織布をワイパーとして使用する場合、汚れを拭き取りたい対象面と不織布のおもて面とが接し、不織布の裏面とワイパーを操作する手が接する。汚れを拭き取りたい対象面と不織布のおもて面との間の摩擦抵抗よりも、不織布の裏面とワイパーを操作する手との間の摩擦抵抗が大きいため、手と不織布が一体となって動き、拭き取りの操作がしやすい。さらに対象面と接している不織布のおもて面は摩擦係数が低く、ざらつきが少ないなめらかな形状をしているため、対象面との密着性が高く、対象面についた汚れを効果的に拭き上げることが可能である。
【0024】
本実施形態のセルロース繊維不織布を美容用トナーパッド(以下、パッドともいう。)として使用する場合、顔などの肌の角質や毛穴汚れをかき取る際は、顔などの肌面と不織布の裏面とが接するように貼り付け、不織布で肌をこする。裏面の凹凸が大きいため、繊維が毛穴などの細かい凹凸に入り込み汚れを効果的にかき取ることができる。その後、肌に化粧液を移行させ美容成分を浸透させる際は、顔などの肌面と不織布のおもて面とが接するように貼り付け、肌面上で不織布を滑らせる。肌面と不織布おもて面の間の摩擦抵抗よりも、不織布の裏面と手の間の摩擦抵抗が大きいため、不織布が手と一体となって動き、パッドをすべらせる操作がしやすい。さらに肌面と接している不織布のおもて面は摩擦係数が低く、ざらつきが少ないなめらかな形状をしているため、顔などの肌面との密着性が高く、化粧液を効率的に浸透させることが可能である。
パッドは、おもて面と裏面とに異なる機能性を付与するために、不織布を積層しパッドの基布として使用することがある。しかし、本実施形態のセルロース繊維不織布は単層でおもて面と裏面の機能が異なっているため、積層せずに単層のままでパッドとして使用でき、加工の手間を省くことが可能である。
【0025】
本実施形態のセルロース繊維不織布の、乾燥状態でのおもて面の摩擦係数は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.20以下、特に好ましくは0.17以下である。おもて面の摩擦係数が上記範囲であると、不織布表面のざらつきが小さく、対象面への密着性が良好となる。また、フェイスマスクとして使用する場合では、密着させたい肌面に対して不織布がすべり落ちることなく適度に貼り付くという観点から、おもて面の摩擦係数は好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.10以上、特に好ましくは0.13以上である。
【0026】
本実施形態のセルロース繊維不織布の、乾燥状態でのおもて面の表面粗さは好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。表面粗さが上記範囲であると、不織布のおもて面の凹凸が小さく、対象面への密着性が良好となるとともに、肌に接したときにチクチク感が少なく、肌触りも良好となる。また、折りたたんだ不織布を広げる際の不織布の分離性のために、不織布のおもて面が適度に凹凸を有するという観点から、おもて面の表面粗さは好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは25μm以上である。
【0027】
また、本実施形態のセルロース繊維不織布の、乾燥状態での裏面の摩擦係数は好ましくは、0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.17以上である。裏面の摩擦係数が上記範囲であると、不織布の凹凸がはっきりと生じて、不織布の分離性が高くなる。さらに、不織布を手でつまんだ際の肌触りの観点から、裏面の摩擦係数は好ましくは0.35以下、より好ましくは0.30以下、さらに好ましくは0.25以下である。
【0028】
本実施形態のセルロース繊維不織布の目付は、好ましくは10g/m2以上、より好ましくは15g/m2以上、さらに好ましくは20g/m2以上である。目付が上記範囲であると、高繊維量領域の繊維が十分に集積し、杉綾柄が明確に発現する。また、本実施形態のセルロース繊維不織布の目付は、好ましくは150g/m2以下、より好ましくは120g/m2以下、さらに好ましくは90g/m2以下である。上記範囲であると、低繊維量領域の繊維量が適度に少なく杉綾柄が明確に発現する。
【0029】
本実施形態のセルロース繊維不織布の厚みは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上である。上記範囲であると、不織布を手でつかみやすくなり、不織布の分離性が高くなる。また、本実施形態のセルロース繊維不織布の厚みは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.8mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下である。上記範囲であると、不織布の剛性が十分に低く、対象面の凹凸や曲面に追従して対象面へ密着する。
【0030】
本実施形態のセルロース繊維不織布の、湿潤状態でのタテ方向の初期抗張力は、好ましくは0.1N/50mm以上、より好ましくは0.2N/50mm以上、さらに好ましくは0.3N/50mm以上である。上記範囲であると、小さい力を加えただけでは不織布が伸びないため、不織布の変形が小さい。また、本実施形態のセルロース繊維不織布の、湿潤状態でのタテ方向の初期抗張力は、好ましくは3.0N/50mm以下であり、より好ましくは2.0N/50mm以下であり、さらに好ましくは1.5N/50mm以下である。上記範囲であると、不織布を密着させたい対象面に小さな凹凸や曲面があった場合でも、適度な力を加えて不織布を伸ばすだけで、凹凸や曲面に追従させることが可能である。
尚、本明細書中、用語「湿潤状態」とは、不織布をISO3696に準拠した3級の水に20℃±2℃で1時間浸漬した状態を意味する。
【0031】
以下、本実施形態のセルロース繊維不織布の製造方法について述べる。
不織布の製造においては、紡糸された繊維を積層させる下層ネットの形状で、高繊維量領域が構成する柄を変えることが可能である。さらに、下層ネットのスピードを変えることにより、不織布の柄の明瞭さ、不織布の摩擦係数、不織布の強度を変えることが可能である。
例えば、高繊維量領域を明瞭にする方法の一つとして、下層ネットのスピードを遅くし、柄付けのプロセスである穴明時間を長くすることがある。しかし、下層ネットに杉綾織のネットを用いた場合は、穴明時間を長くすると不織布が下層ネットに強く食い込みすぎて、不織布の表裏両面の凹凸が大きくなってしまい、表裏の摩擦係数の差を10%以上にすることが難しい。この場合、おもて面と裏面のすべりやすさに違いがないため操作性が悪くなることや、対象面に対する密着性が低下する傾向が観察され、さらに、繊維の集積の偏りが大きくなり、低繊維量領域に存在する開孔部が大きくなることで、不織布の強度が悪化する傾向が観察される。このように、不織布として求められる使いやすさを維持した上で、優れた密着性や不織布強度を達成することは難しい。
【0032】
本実施形態のセルロース繊維不織布の製造方法においては、高圧水流を吐出するノズルに角度を設けて穴明を行い、下層ネットへの不織布の食い込みを調整することで、杉綾柄の高繊維量領域を明瞭にしながら、表裏の摩擦係数の差を所定の値以上にすることが可能となった。これにより、優れた不織布の分離性や対象面への密着性を発揮すると同時に、予想外に不織布を対象面に平行にすべらせる際の操作性が向上した。
尚、ここでいう、穴明とは、紡糸されたシートに高圧水流やニードル等を貫通させることにより、繊維同士を交絡させる工程である。穴明により、不織布の強度を向上させたり、不織布の風合いを向上させたり、柄付けを行ったりすることが可能である。
【0033】
本実施形態のセルロース繊維不織布の穴明方法の好ましい実施形態の1つは、穴明ノズルを下層ネットに対して斜めに設置し、不織布の厚み方向に対し斜めの方向に交絡水流を打つことである。斜め方向に交絡水流を打つことで、杉綾織の下層ネットに食い込む不織布裏面の凸部が大きく生じる。一方で、不織布の厚み方向に対して斜めに交絡水流が貫通するため、不織布表面の開孔部の面積が小さくなることから、反対面(おもて面)は凸部が小さくなる。さらに、低繊維量領域に存在する開孔部が小さくなり、不織布の繊維同士の交絡力が高まることで、不織布の強度も維持することが可能である。但し、穴明方法はこれに限定されるものではない。例えば、穴明ノズルと下層ネットの間の長さを変える、穴明ノズルに対し下層ネットが曲線を描いて進行する、などでもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、実施例及び比較例において用いた測定方法等を説明する。ここで、既に薬液など液体に浸漬された状態の不織布に関しては、一度純水で洗浄し、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置した上で、乾燥状態での測定を行うこととした。
【0035】
(1)摩擦係数(-)
3cm×27cmの不織布を、カトーテック社製摩擦感テスター(KES-SE)を用いて、金属摩擦子(10mm角ピアノ線ワイヤー、標準仕様)と試料のおもて面とその反対面である裏面をタテ方向に沿って摩擦したときの平均摩擦係数MIUを測定した。測定条件は荷重:25g、スピード:1mm/sで、測定は3回行い、その平均値を摩擦係数(-)とした。
尚、上記の測定方法に則したサンプルサイズが得られない場合、3cm×5cm以上の試料があれば、両端に継ぎ布をして計測することができる。
【0036】
(2)乾燥状態の表面粗さ(μm)(DRY表面粗さSa(μm))
表面粗さとは、計測領域中の各点の高さの絶対値の平均値である。ここで、「高さ」とは計測表面における各点の基準表面からの距離を表している。乾燥状態の5cm四方の不織布を、キーエンス社製ワンショット3D形状測定機(VR-3000)を用いて3D形状を測定し、不織布の乾燥状態の表面粗さを下記条件により測定した。尚、測定は3回行い、その平均値を表面粗さ(μm)とした。
(測定条件)
3D形状測定倍率:12倍
計測前処理:面形状補正
表面粗さ計測対象領域:全領域
Sフィルター:なし
Lフィルター:なし
【0037】
(3)目付(g/m2)
0.05m2以上の面積のセルロース不織布を、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定し、不織布の1m2当たりの質量(g)を求めた。尚、測定は5回行い、その平均値を目付(g/m2)とした。
【0038】
(4)厚み(mm)
乾燥状態の不織布を、JIS-L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。尚、測定は20回行い、その平均値を厚み(mm)とした。
【0039】
(5)湿潤状態での初期抗張力(N/50mm)
湿潤状態の5cm×10cmの不織布を、オリエンティック社製テンシロン引張り試験機を用いて、300mm/minの一定速度で測定し、その際の不織布のタテ(MD)方向5%伸長時の強力を測定した。尚、測定は5回行い、その平均値を初期抗張力(N/50mm)とした。尚、上記の測定方法に則したサンプルサイズが得られない場合、5cm×5cmで代用し、比較することができる。
【0040】
(6)繊維径(μm)
不織布を、走査型電子顕微鏡、日本電子製JSM-6380を用いて10000倍の倍率で観察し、任意の50本を選び、測定した平均値を繊維径とした。
【0041】
(7)不織布の分離性
15cm角の不織布を裏面が内側になるように2つ折りにした後、2つ折りを直角に交わる方向に折って4つ折りにし、水を25ml含浸させた。このサンプルを用いて、不織布同士の広げやすさを、以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果を平均し、平均値を不織布の分離性の指標として算出した。尚、平均値が3点未満の評価を、不織布の分離性が好ましくないものとした。
<評価基準>
5点:ほとんど時間がかからず、すぐに広げられる
4点:少し時間はかかるが、すぐに広げられる
3点:従来通りの時間で広げることができる
2点:非常に時間がかかるが、広げることができる
1点:広げることができない。
【0042】
(8)不織布の操作性
5cm角の不織布に、水を15ml含浸させたサンプルを用いて、不織布のおもて面を肌面に貼り付けた後にすべらす操作をした場合の操作性を、以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果を平均し、平均値を不織布の操作性の指標として算出した。尚、平均値が3点未満の評価を、不織布の操作性が好ましくないものとした。
<評価基準>
5点:操作する手に不織布がひっかかり、とても簡単に動かすことができる
4点:操作する手に不織布がややひっかかり、簡単に動かすことができる
3点:普通
2点:操作する手に不織布があまりひっかからず、簡単に動かすことはできない
1点:操作する手から不織布がすべり、動かすことが困難。
【0043】
(9)不織布の密着性
10cm角の不織布に、水を25ml含浸させたサンプルを用いて、不織布のおもて面と肌面への密着性を以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果を平均し、平均値を密着性の指標として算出した。尚、平均値が3点未満の評価を、密着性が好ましくないものとした。
<評価基準>
5点:不織布と肌面が隙間なくぴったりと貼り付いている
4点:不織布と肌面に少し隙間はあるが、ぴったりと貼り付いている
3点:普通
2点:不織布と肌面が貼り付いてはいるが、隙間が多くみられる
1点:不織布と肌面が貼り付いていない。
【0044】
(10)乾燥進行時の操作性 5cm角の不織布を、ISO3696に準拠した3級の水に20℃±2℃で1時間浸漬した後、水から取り出し、20℃、65%RHの恒温室に30分放置し、疑似的に乾燥進行時の状態とした。このサンプルの不織布のおもて面を肌面に貼り付けた後にすべらす操作をした場合の操作性を、以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果を平均し、平均値を不織布の操作性の指標として算出した。尚、平均値が3点未満の評価を、不織布の操作性が好ましくないものとした。
<評価基準>
5点:操作する手に不織布がひっかかり、とても簡単に動かすことができる
4点:操作する手に不織布がややひっかかり、簡単に動かすことができる
3点:普通
2点:操作する手に不織布があまりひっかからず、簡単に動かすことはできない
1点:操作する手から不織布がすべり、動かすことが困難。
【0045】
<パッド用途での評価>
(1)重ねた時の取り出しやすさ
直径4cmの円型に打ち抜いた不織布に水を3ml含浸させたサンプルを4枚作成し、おもて面が上向きになるようにして4枚を重ねた。4枚重ねのサンプルの上から1枚ずつ不織布をはがして取り出す作業を3回繰り返し、重ねた時の取り出しやすさを以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果で最も多かった評価を取り出しやすさの指標とした。
<評価基準>
〇:パッド同士がくっつかず、容易に取り出せる
△:パッド同士がややくっつくが、取り出すことは可能
×:パッド同士がくっついて、取り出すことが困難。
【0046】
(2)パッドの操作性
直径4cmの円型に打ち抜いた不織布に水を3ml含浸させたサンプルを用いて、不織布のおもて面を肌面に貼り付けた後にすべらす操作をした場合の操作性を、以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果で最も多かった評価をパッドの操作性の指標とした。
<評価基準>
〇:操作する手にパッドがひっかかり、簡単にすべらせることができる
△:操作する手にパッドがあまりひっかからず、すべらせにくい
×:操作する手からパッドがすべり、すべらせることが困難。
【0047】
(3)パッドおもて面の密着性
直径4cmの円型に打ち抜いた不織布に水を3ml含浸させたサンプルを用いて、不織布のおもて面が肌面側となるように貼り付け、密着性を以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果で最も多かった評価をパッドおもて面の密着性の指標とした。
<評価基準>
〇:パッドと肌面が隙間なくぴったりと貼り付いている
△:パッドと肌面が貼り付いてはいるが、隙間が多くみられる
×:パッドと肌面が貼り付いていない。
【0048】
(4)パッド裏面の汚れかき取り性
直径4cmの円型に打ち抜いた不織布に水を3ml含浸させたサンプルを用いて、パッドの裏面が肌面側となるように貼り付けてから、肌上でパッドをすべらせた。その際の、角質や毛穴汚れなどの汚れのかき取り性を以下の評価基準に基づき判定した。モニター10名の判定結果で最も多かった評価をパッド裏面の汚れかき取り性の指標とした。
<評価基準>
〇:汚れがきれいにかき取れている
△:汚れの一部はかき取れている
×:汚れがかき取れていない。
【0049】
(5)パッド総合評価
上記(1)~(4)のパッド評価の結果を総合し、パッド総合評価を、以下の評価基準に基づき判定した。
<評価基準>
〇:(1)~(4)の評価の結果、〇が4個
△:(1)~(4)の評価の結果、〇が3個
×:(1)~(4)の評価の結果、〇が2個以下
【0050】
[実施例1]
コットンリンターを銅アンモニア溶液で溶解し(コットンリンター10wt%、アンモニア7wt%、銅3wt%)紡糸原液を準備した。紡糸原液を流下緊張下で連続してネット上に5層重ねで紡糸してシートを形成させ、得られたシートを希硫酸で再生し、シートを水洗した。その後、特殊杉綾織のネット上にて3MPaの交絡水流を不織布厚み方向に対し3°傾けて打ち付け、繊維を交絡させながら、シートに凸部を形成させ柄をつけた。最後に、100℃の熱風で乾燥を行い、セルロース繊維不織布を得た。使用した特殊杉綾織のネットは、
図4に示すような、経線が緯線を7本乗り越して織られたものであり、経線は56本/25.4mm、緯線は25本/25.4mmであった。尚、ネットスピードは47m/minであった。得られたセルロース繊維不織布は、目付が22.7g/m
2、厚みが0.18mm、繊維径が11.6μmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0051】
[実施例2]
不織布の目付が30.1g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.23mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0052】
[実施例3]
不織布の目付が37.7g/m
2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の柄を
図5に示す。得られた不織布の厚みは、0.30mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0053】
[実施例4]
不織布の目付が45.2g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.33mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0054】
[実施例5]
不織布の目付が49.4g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.37mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に、得られた不織布のパッド用途の評価結果を以下の表2に示す。
【0055】
[実施例6]
不織布の目付が80.9g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.55mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に、得られた不織布のパッド用途の評価結果を以下の表2に示す。
【0056】
[実施例7]
不織布の目付が30.4g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変え、繊維径が5.87μmとなるように、紡糸原液吐出孔の形状を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.22mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0057】
[実施例8]
不織布の目付が37.8g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例7と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.25mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0058】
[実施例9]
旭化成せんい(株)製のベンベルグ(登録商標)短繊維(素材名キュプラ)1.4dex×38mmの綿を用いて、スパンレース製造設備を用いて21.9g/m2のカードウエブを作製した。得られたカードウエブを特殊杉綾織のネット上にて3MPaの交絡水流を不織布厚み方向に対し3°傾けて打ち付け、繊維を交絡させながら、シートに凸部を形成させ柄をつけた。その後、100℃の熱風で乾燥を行い、セルロース繊維不織布を得た。使用した特殊杉綾織のネットは実施例1と同じものであった。ネットスピードは47m/minであった。得られた不織布の厚みは、0.18mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0059】
[実施例10]
コットンリンターをNメチルモルホリンNオキシドで溶解した紡糸原液から作製した短繊維を用い、さらにカードウエブを40.1g/m2となるように繊維量を変えた以外は、実施例9と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.26mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に、得られた不織布のパッド用途の評価結果を以下の表2に示す。
【0060】
[実施例11]
コットンリンターをNメチルモルホリンNオキシドで溶解した紡糸原液から作製した短繊維を85質量%、ポリエステルから作製された短繊維を25質量%の配分とし、さらにカードウエブを25.1g/m2となるように繊維量を変えた以外は、実施例9と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.19mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0061】
[実施例12]
コットンリンターをNメチルモルホリンNオキシドで溶解した紡糸原液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の目付は、35.0g/m2、厚みは0.25mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0062】
[実施例13]
交絡水流の傾きを不織布厚み方向に対し1°とした以外は、実施例2と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の目付は30.2g/m2、厚みは0.29mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0063】
[実施例14]
ネットスピードを55m/minに変え、不織布の目付が28.9g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは0.19mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0064】
[実施例15]
ネットスピードを40m/minに変え、不織布の目付が90.0g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは0.58mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0065】
[実施例16]
ネットスピードを55mm/minに変え、交絡水流の傾きを不織布厚み方向に対し1°とし、さらに不織布の目付が34.8g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは0.22mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例17]
ネットスピードを40m/minに変え、交絡水流の傾きを不織布厚み方向に対し5°とし、さらに不織布の目付が140.2g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは0.94mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0067】
[実施例18]
不織布の目付が63.3g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.47mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0068】
[実施例19]
不織布の目付が65.8g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変え、交絡水流の傾きを不織布厚み方向に対し5°とした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.48mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0069】
[実施例20]
ネットスピードを32m/minに変え、交絡水流の傾きを不織布厚み方向に対し5°とし、さらに不織布の目付が112.0g/m2となるように、紡糸原液の吐出量を変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の厚みは、0.75mmであった。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0070】
[比較例1]
特殊杉綾織のネットの代わりに平織のネットを使用した以外は、実施例3と同様の方法で不織布を得た。尚、平織のネットは、経線と緯線が1本ずつ交互に織られたものであり、経線は40本/25.4mm、緯線は30本/25.4mmであった。得られた不織布の目付は38.4g/m
2、厚みは0.32mm、柄は高繊維量領域がタテ方向とヨコ方向に対して垂直に走るメッシュ柄であった。得られた不織布の柄を
図6に示す。実施例3と比較し、不織布の操作性や密着性は問題なかったが、メッシュ柄であるため不織布の分離性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に、得られた不織布のパッド用途の評価結果を以下の表2に示す。
【0071】
[比較例2]
特殊杉綾織のネットの代わりに平織のネットを使用した以外は、実施例10と同様の方法で不織布を得た。尚、用いた平織のネットは、比較例1と同じものであった。得られた不織布の目付は39.2g/m2、厚みは0.29mm、柄は高繊維量領域がタテ方向とヨコ方向に対して垂直に走るメッシュ柄であった。実施例10と比較し、不織布の操作性や密着性は問題なかったが、メッシュ柄であるため不織布の分離性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0072】
[比較例3]
交絡水流を不織布厚み方向に対し垂直に打ち付けた以外は、実施例2と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の目付は29.8g/m2、厚みは0.28mm、表裏の摩擦係数の差は8%であった。実施例2と比較し、不織布の分離性は問題がなかったが、表裏の摩擦係数の差が小さいため、不織布の操作性に支障をきたし、表裏の摩擦係数がどちらも大きいため密着性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0073】
[比較例4]
特許第3559533号の実施例1を参考に、一般的な製法で不織布を得た。得られた不織布の目付は41.4g/m2、厚みは0.30mm、表裏の摩擦係数の差は4%であった。不織布の分離性は問題がなかったが、セルロース繊維以外の繊維が入っているために、吸液性が落ち、密着性に支障をきたしていた。表裏の摩擦係数の差が小さいため、不織布の操作性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に、得られた不織布のパッド用途の評価結果を以下の表2に示す。
【0074】
[比較例5]
コットンリンターをNメチルモルホリンNオキシドで溶解した紡糸原液から作製した短繊維を用いた以外は、比較例4と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の目付は38.9g/m2、厚みは0.29mm、表裏の摩擦係数の差は5%であった。不織布の分離性や密着性は問題がなかったが、表裏の摩擦係数の差が小さいため、不織布の操作性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0075】
[比較例6]
繊維を天然コットンから作製された短繊維に変え、カードウエブを62.5g/m2となるように繊維量を変え、交絡水流を不織布厚み方向に対し垂直に打ち付け、特殊杉綾織のネットの代わりに平織のネットを使用した以外は、実施例10と同様の方法で不織布を得た。用いた平織ネットは比較例1と同じものであった。得られた不織布の厚みは、0.37mm、柄は高繊維量領域がタテ方向とヨコ方向に対して垂直に走るメッシュ柄で、表裏の摩擦係数の差は3%であった。実施例10に比べ、密着性は問題がなかったが、メッシュ柄であるため不織布の分離性に支障をきたし、表裏の摩擦係数の差が小さいため、操作性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0076】
[比較例7]
支持体を特殊杉綾織のネットに変えた以外は、特開2021-50434の実施例21と同様の製法で不織布を得た。得られた不織布の目付は37.6g/m2、厚みは0.32mm、表裏の摩擦係数の差は4%であった。不織布の分離性や密着性は問題がなかったが、表裏の摩擦係数の差が小さいため、不織布の操作性に支障をきたしていた。得られた不織布の特性と評価結果を以下の表1に示す。
【0077】
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るセルロース繊維を含む不織布は、湿潤状態での取扱性、特に折りたたんだ不織布を広げる際の不織布の分離性と、不織布を対象面に沿ってすべらせる際の不織布の操作性が高く、かつ、対象面に対する密着性が高い不織布であるため、例えば、フェイスマスク、トナーパッド、ウェットワイパー、ドライワイパー等の湿潤シートの基材として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
(A) 高繊維量領域
(A-1) タテ方向に対し3°~87°傾いている高繊維量領域
(A-2) タテ方向に対し-3°~-87°傾いている高繊維量領域
(B) 低繊維量領域
(C) 高繊維量領域(A-1)と高繊維量領域(A-2)の交差点