(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】加工性に優れた冷間圧延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20250107BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250107BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
(21)【出願番号】P 2023537690
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 KR2021019101
(87)【国際公開番号】W WO2022139309
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2020-0179383
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ミンホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ヤン-クワン
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209727(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157760(WO,A1)
【文献】特開平11-302782(JP,A)
【文献】国際公開第2017/029814(WO,A1)
【文献】特開2013-133496(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0105403(KR,A)
【文献】特開2008-202113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%でC:0.012乃至0.060%、Si:0.03%以下(0%を除く)、Mn:0.1乃至0.4%、Al:0.015乃至0.050%、P:0.015%以下(0%を除く)、S:0.015%以下(0%を除く)及びN:0.006%以下(0%を除く)を含み、残部は、Fe及び他の避けられない不純物
からなり、
下記式1で定義される強化指数が1.0乃至3.0であり、
下記式2で定義される結晶粒形状比が1.25乃至2.50であり、
再結晶面積比が3%以下であり、
平均結晶粒径が8乃至12μmである加工性に優れた冷間圧延鋼板。
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
[式2]
結晶粒形状比=(圧延方向平均結晶粒直径)/(厚さ方向平均結晶粒直径)
【請求項2】
Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下及びMo:0.03重量%以下中の1種以上をさらに含む請求項1に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板。
【請求項3】
転位密度が2.5X10
15/m
2以下である請求項1または請求項2に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載された冷間圧延鋼板及び前記冷間圧延鋼板の片面または両面に位置するメッキ層を含むメッキ鋼板。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法であって、
重量%でC:0.012乃至0.060%、Si:0.03%以下(0%を除く)、Mn:0.1乃至0.4%、Al:0.015乃至0.050%、P:0.015%以下(0%を除く)、S:0.015%以下(0%を除く)及びN:0.006%以下(0%を除く)を含み、残部は、Fe及び他の避けられない不純物
からなり、下記式1で定義される強化指数が1.0乃至3.0であるスラブを製造する段階;
スラブをAr
3以上で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する段階;
前記熱延鋼板を600乃至700℃で巻き取る段階;
巻取られた熱延鋼板を20乃至60%の圧下率に冷間圧延して冷間圧延鋼板を製造する段階;及び
前記冷間圧延鋼板を400乃至580℃の温度で焼鈍する段階を含む加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法。
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
【請求項6】
前記熱延鋼板を製造する段階以前にスラブを1150℃以上で加熱する段階をさらに含む請求項5に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を製造する段階においてAr
3以上で熱間仕上げ圧延する請求項5または請求項6に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍する段階以降、焼鈍板を0.4乃至2.0%の圧下率に調質圧延する段階をさらに含む請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項5~請求項8のいずれか一項に記載された方法で冷間圧延鋼板を製造する段階;及び
前記冷間圧延鋼板の片面または両面に溶融メッキ乃至電気メッキしてメッキ層を形成する段階を含むメッキ鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施例は、加工性に優れた冷間圧延鋼板及びその製造方法に関するものである。より詳しくは、加工前と後の加工性が全て優れて加工中間段階の部品を作製することに容易な冷間圧延鋼板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延鋼板は、製造後の様々な段階の機械的または熱的加工を経て最終的な構造物で作製されて使用される。一般に、機械的加工を経ると、延性が低下して加工性が悪くなるため、1次機械的加工後、中間段階で熱的加工を通じて加工性を再び向上させた後、2次機械的加工を通じて最終的な形状を得る場合が多い。このような場合、冷間圧延鋼板の製造直後の機械的性質のみならず、機械的加工と熱的加工後の機械的性質も重要である。主に冷間圧延鋼板の製造直後には、1次機械的加工のための延性が要求され、熱的加工後には、2次機械的加工のための延性のみならず、機械的加工後の最終的な強度が確保されなければならないため、一定水準以上の強度も要求される。また、熱的加工後から最終加工時までの時効による延性低下が起こることができるので、十分な加工性確保のためには一定水準以上の低時効特性も要求される。
【0003】
最終加工品の作製時、形状維持のために鋼板素材に強度を付与する方法として、固溶強化、析出強化、加工硬化、硬質相制御などの様々な方法が使用されている。しかしながら、熱的加工後延性が十分に確保されるためには、熱的加工条件に適した強度付与の方法を使わなければならない。熱的加工は、一般に時間及び温度を制御して行うのに、時間が短く、温度が低いほど制御に容易であり、経済的な側面がある。機械的加工後の延性を著しく回復するためには、熱による再結晶を起こすことが最も効果的であるため、低い温度で短時間にわたって再結晶が起こる鋼板が熱的加工に容易である。
【0004】
前記方法中、まず固溶強化は、最も単に強度を増加させることができる方法として、固溶可能な合金元素を添加する方法である。固溶強化は、加工時と熱的加工後にもその効果がそのまま維持されるため、最終製品の強度確保に有効に活用されることができる。しかしながら、一般に望む効果を得るために活用されるMn、Siなどの置換型元素は、多量に添加しなければならなくて経済性を落とし、C、Nなどの侵入型元素の場合、時効による加工性の低下を起こす傾向が増加している。
【0005】
加工硬化は、常温での機械的加工により強度が増加する現像である。しかしながら、加工硬化により強度を増加させても、熱的加工時に再結晶が起こり、大部分は強度増加効果がなくなるので、最終成形品の強度を増加させることには活用できない。また、加工硬化時には、延性が大きく低下するため、機械的加工性を要求する素材に対しては積極的な活用が困難である。延性低下を克服するため、低炭素鋼に対して加工硬化後、低い温度で焼鈍を行う方法が提案された。しかしながら、単に初期強度と延伸率とを確保するためのものが主目的であり、鋼板加工時と熱的加工後に望む物性が得られるためには、初期鋼板の状態と加工時の熱的加工条件による物性変化の相関関係を綿密に把握する必要がある。
【0006】
析出強化は、高温で安定した微細析出物を通じて強度を増加させる方法である。しかしながら、高温で非常に安定した析出物は、再結晶を邪魔するので再結晶を起こすためには、非常に高い温度または長い時間が要求されて不適である。再結晶温度の向上効果の高いTi及びNbを活用してTiN、NbC、TiCを微細に析出させ、回復焼鈍を行うことにより高強度鋼を製造する方法が提案されたが、再結晶温度の上昇により熱的加工の設備的な制約が相対的に高くて経済性が落ちる。
【0007】
硬質相制御の場合には、鋼板の製造時に主に速い冷却速度を通じて準安定相を望む程度に形成させる方法である。硬質相を活用して800MPa以上の高い強度を確保する方法が提案された。該方法は、再結晶時に維持されにくく、再結晶後の相を得るためには熱的加工時に冷却速度、また、精密な制御が必要であって、熱的加工を行う用途に活用することが困難である。また、殆ど非常に高い強度を要求しながら相対的に低い延伸率を要求する用途に活用されるため、成形性が著しく低下する短所がある。
【0008】
したがって機械的加工及び熱的加工後に望む物性が得られる鋼板を製造するためには、前記強化方法の特性をよく組み合わせて活用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一実施例は、加工性に優れた冷間圧延鋼板及びその製造方法を提供しようとする。より詳しくは、加工前と後の加工性が全て優れて加工中間段階の部品を作製することに容易な冷間圧延鋼板とその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、重量%でC:0.012乃至0.060%、Si:0.03%以下(0%を除く)、Mn:0.1乃至0.4%、Al:0.015乃至0.050%、P:0.015%以下(0%を除く)、S:0.015%以下(0%を除く)及びN:0.006%以下(0%を除く)を含み、残部は、Fe及び他の避けられない不純物を含む。
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、下記式1で定義される強化指数が1.0乃至3.0であり得る。
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、下記式2で定義される結晶粒形状比が1.25乃至2.50であり得る。
[式2]
結晶粒形状比=(圧延方向平均結晶粒直径)/(厚さ方向平均結晶粒直径)
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、再結晶面積比が3%以下であり得る。
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、平均結晶粒径が8乃至12μmであり得る。
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下、Ti:0.01重量%以下、及びMo:0.03重量%以下中の1種以上をさらに含むことができる。
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、転位密度が2.5X1015/m2以下であり得る。
本発明の一実施例によるメッキ鋼板は、冷間圧延鋼板及び冷間圧延鋼板の片面または両面に位置するメッキ層を含む。
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法は、重量%でC:0.012乃至0.060%、Si:0.03%以下(0%を除く)、Mn:0.1乃至0.4%、Al:0.015乃至0.050%、P:0.015%以下(0%を除く)、S:0.015%以下(0%を除く)及びN:0.006%以下(0%を除く)を含み、残部は、Fe及び他の避けられない不純物を含み、下記式1で定義される強化指数が1.0乃至3.0のスラブを製造する段階;スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を600乃至700℃で巻き取る段階;巻き取られた熱延鋼板を20乃至60%圧下率で冷間圧延して冷間圧延鋼板を製造する段階;及び冷間圧延鋼板を400乃至580℃の温度で焼鈍する段階を含む。
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
熱延鋼板を製造する段階以前に、スラブを1150℃以上で加熱する段階をさらに含むことができる。
熱延鋼板を製造する段階においては、Ar3以上で熱間仕上げ圧延を行うことができる。
焼鈍する段階以降、焼鈍板を0.4乃至2.0%の圧下率に調質圧延する段階をさらに含むことができる。
本発明の一実施例によるメッキ鋼板の製造方法は、冷間圧延鋼板を製造する段階;及び冷間圧延鋼板の片面または両面に溶融メッキ乃至電気メッキしてメッキ層を形成する段階を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、鋼板自体の機械的加工が容易であり、熱的加工後延性が更に増加し、強度が適切であって、追加的な機械的加工を行うことに容易な加工用冷間圧延鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1、第2及び第3等の用語は、様々な部分、成分、領域、層及び/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限らない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにだけ使用される。したがって、以下に記載する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションで言及されることができる。
【0013】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態らは、語句がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態らも含む。本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0014】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0015】
本発明の一実施例における追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を振替えて含むことを意味する。
【0016】
別途に定義しなかったが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常、使用される辞書で定義された用語は、関連技術文献と現在開示されている内容と一致する意味を持つものとして追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味として解釈されない。
【0017】
以下、本発明の実施例に対して、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかしながら、本発明は、様々な相違する形態で実施されることができ、ここで説明する実施例に限らない。
【0018】
本発明の一実施例は、機械的加工及び熱的加工を通じて成形後の各種構造材として使用される冷間圧延鋼板に関するものであり、当該用途の素材は初期加工性に優れるのみならず、熱的加工時の追加的な加工性向上が可能でありながら構造材として一定以上の水準の強度が確保されなければならない。そのために初期素材の物性のみならず、機械的加工及び熱的加工による物性変化を同時に考慮し、段階別加工を容易にし、また、最終物性を満たす必要がある。
【0019】
本発明者は、前記の目的を達成するために、合金元素の種類及びその含有量、製造条件の最適化を通じて、前記の目標物性を有する冷間圧延鋼板が製造されることができるものを見出し、本発明に至った。
【0020】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、重量%でC:0.012乃至0.060%、Si:0.03%以下(0%を除く)、Mn:0.1乃至0.4%、Al:0.015乃至0.050%、P:0.015%以下(0%を除く)、S:0.015%以下(0%を除く)及びN:0.006%以下(0%を除く)を含み、残部は、Fe及び他の避けられない不純物を含む。
【0021】
以下、まず、本発明の一実施例で提供する冷間圧延鋼板の成分組成について詳しく説明する。その際、特に記載のない限り、各成分の含有量は重量%を意味する。
【0022】
炭素(C):0.0120乃至0.0600重量%
Cは、含有量が低い場合、強度が低くて構造材として使用されることが困難であり、含有量を過度に低くためには精錬工程が追加的に必要であって生産性を落とすため、0.012重量%以上含むことができる。Cは、少ない含有量でも強度を効果的に高めることができるが、過剰な場合には加工性を大きく低下させることができるため、その上限を0.060重量%以下に制限することができる。より具体的には、Cは、0.0035重量%以下で含まれることができる。より具体的には、Cは、0.0130乃至0.0550重量%含まれることができる。
【0023】
ケイ素(Si):0.03重量%以下
Siは、脱炭剤として用いることができる元素であり、固溶強化による強度の向上に寄与できるため、完全に排除しにくい。しかしながら、過剰な場合、焼鈍時の表面にSi系酸化物が生成し、メッキ時の欠陥を誘発してメッキ性を低下させることができる。したがって、これを考慮して上限は0.03重量%以下に制限することができる。より具体的には、Siは0.015重量%含まれることができる。より具体的には、Siは0.005乃至0.015重量%含まれることができる。
【0024】
マンガン(Mn):0.100乃至0.400重量%
Mnは、鋼中の固溶Sと結合してMnSで析出することにより固溶Sによる赤熱脆性(Hot shortness)を防止する元素である。このような効果を出すために0.1重量%以上含まれることができる。また、鋼内に固溶されてCとともに鋼の強度を高める効果もある。しかしながら、過剰な場合、鋼の加工性が低下するため、0.4重量%以下に制限することができる。より具体的には、Mnは0.150乃至0.390重量%含まれることができる。
【0025】
本発明の一実施例におけるCとMnの含有量の相関性は、強度及び加工性の確保に重要である。強化効果を示す指標として、下記関係式1で定義される強化指数が1.000乃至3.000の場合、望む強度及び加工性が得られるということを見出した。
【0026】
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
【0027】
より具体的には、強化指数は1.500乃至2.700であり得る。
【0028】
アルミニウム(Al):0.015乃至0.050重量%
Alは、脱酸効果が非常に大きい元素であり、鋼中のNと反応してAlNを析出させることにより、固溶Nによる成形性が低下することを防止する。したがって、Alを0.015重量%以上含むことができる。しかしながら、多量に添加する場合、延性が急激に低下するため、含有量を0.05重量%以下に制限することができる。より具体的には、Alを0.020乃至0.048重量%含むことができる。
【0029】
リン(P):0.0150重量%以下
一定量以下のPの添加は、鋼の延性を大きく減少させずに、強度を上げることができる元素であるが、0.015重量%を超えて添加すると結晶粒系に偏析して鋼を過度に硬化させて延伸率が低下するため、0.015重量%以下に制限することができる。より具体的には、Pは0.015重量%以下で含むことができる。より具体的には、Pは0.0010乃至0.0100重量%含むことができる。
【0030】
硫黄(S):0.0150重量%以下
Sは、固溶時の赤熱脆性を誘発する元素であるため、Mnの添加を通じてMnSの析出が誘導されなければならない。また、過剰なMnSの析出は、鋼を硬化させるため、本発明における鋼の軟質化側面では望ましくない。したがって、Sの上限を0.015重量%に制限することができる。より具体的には、Sは0.0010乃至0.0100重量%含むことができる。
【0031】
窒素(N):0.0060重量%以下、
Nは、鋼中に避けられない元素として含まれているが、固溶された状態で存在するNは時効を発生させて加工性を大きく低下させる。時効の発生による延性低下を最少化するために、その上限を0.0060重量%以下に制限することが望ましい。より具体的には、Nを0.0035重量%以下で含むことができる。より具体的には、Nを0.0010乃至0.0050重量%含むことができる。
【0032】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下及びMo:0.03重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0033】
前記組成以外の残部は、Fe及び避けられない不純物を含むことが望ましく、本発明の鋼材は、他の組成の添加を排除するものではない。前記避けられない不純物は、通常の鉄鋼製造過程においては原料または周囲環境から意図せずに混入されることができるものであって、これを排除することはできない。前記避けられない不純物は、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば理解できる。
【0034】
以下では、本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板の集合組織特性に対して具体的に説明する。
【0035】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、下記式2で定義される結晶粒形状比が1.25乃至2.50であり得る。
【0036】
[式2]
結晶粒形状比=(圧延方向平均結晶粒直径)/(厚さ方向平均結晶粒直径)
【0037】
圧延方向(RD方向)平均結晶粒直径は、任意の長さの圧延方向に対して当該長さに存在する結晶粒の個数を分けて求めることができる。厚さ方向(ND方向)平均結晶粒直径も鋼板厚さに対して存在する結晶粒の個数を分けて求めることができる。
【0038】
結晶粒形状比が小さすぎると、望む強度確保が困難であり、再結晶駆動力が小さくて熱処理時の再結晶が困難であり得る。結晶粒形状比が大きすぎると、圧延方向と圧延直角方向の加工性差が大きすぎて、成形性が悪くなる問題が発生することができる。より具体的には、結晶粒形状比は1.30乃至2.00であり得る。
【0039】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、転位密度が2.50X1015/m2以下であり得る。転位密度は、XRD(X-ray Diffraction)を通じて測定できる。転位密度が高すぎると、加工時のクラックが発生する問題があり得る。より具体的には、転位密度は1.00乃至2.00X1015/m2であり得る。
【0040】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、再結晶面積比が3%以下であり得る。本発明の一実施例における再結晶と未再結晶は、光学観察を通じて圧延による延伸組織から新たに核生成及び成長した結晶粒の確認を通じて区分する。再結晶面積比は、鋼板の圧延面(ND面)と平行する面を基準に測定することができる。面積比が高すぎると強度が低くなり、再結晶された部位は、加工後の再結晶駆動力が不足して再結晶にならないことがある。より具体的には、再結晶面積比は2.5%以下であり得る。
【0041】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板は、平均結晶粒径が8.0乃至12.0μmであり得る。平均結晶粒径が小さすぎると、強度が過度に高い問題が発生することができる。平均結晶粒径が大きすぎると、局所的な材質偏差が大きくて加工時の欠陥が発生することができる。平均結晶粒径とは、圧延面(ND面)と平行する面を基準に測定することができ、結晶粒と同一の面積の円に対して、その円の直径を測定する方法で決定することができる。より具体的には、平均結晶粒径は8.3乃至11.5μmであり得る。
【0042】
上記記載したように、本発明の一実施例による冷間圧延鋼板は、強度及び加工性が同時に優れており、併せて、加工後にも強度及び加工性が同時に優れる。具体的に加工前降伏強度は650.0MPa以下であり得るし、延伸率は7.0%以上であり得る。より具体的には、加工前降伏強度は450.0乃至650.0MPaであり得るし、延伸率は7.5乃至12.0%であり得る。
【0043】
加工後降伏強度は180.0MPa以上であり得るし、延伸率は25.0%以上であり得る。より具体的には、加工後降伏強度は180.0乃至250.0MPaであり得るし、延伸率は25.0乃至35.0%であり得る。その際、加工は20%延伸する機械的加工後、740℃まで50℃/secの速い速度に昇温後、-5℃/secで25℃まで徐々に冷却する加工であり得る。
【0044】
本発明の一実施例によるメッキ鋼板は、冷間圧延鋼板及び冷間圧延鋼板の片面または両面に位置するメッキ層を含む。
【0045】
本発明の一実施例による加工性に優れた冷間圧延鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;熱延鋼板を巻き取る段階;熱延鋼板を冷間圧延して冷間圧延鋼板を製造する段階;及び冷間圧延鋼板を焼鈍する段階を含む。
【0046】
以下においては、各段階別に具体的に説明する。
【0047】
まず、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
【0048】
スラブの合金組成については上記記載した冷間圧延鋼板と同じなので、重なる説明は省略する。冷間圧延鋼板の製造過程においては合金成分が実質的に変動しないので、スラブと冷間圧延鋼板の合金組成は実質的に同じである。
【0049】
スラブを熱間圧延する前に1150℃以上の温度に再加熱することができる。鋼中に存在する析出物を殆ど再固溶させなければならないため、1150℃以上の温度が必要となる場合がある。より具体的には、析出物をよく固溶させるために1200℃以上に加熱することができる。
【0050】
徐冷したスラブをAr3以上の温度で熱間仕上げ圧延を行って熱延鋼板を製造する。熱間圧延仕上げ温度をAr3以上に限定する理由は、オ-ステナイト単相領域で圧延を行うためである。
【0051】
Ar3温度は、下記式のように計算されることができる。
Ar3=910-(310×[C])-(80×[Mn])-(20×[Cu])-(15×[Cr])-(55×[Ni])-(80×[Mo])-(0.35×(25.4-8))
[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]及び[Mo]は、それぞれ鋼板内のC、Mn、Cu、Cr、Ni及びMoの含有量(重量%)である。含まない場合は、0と計算する。
【0052】
より具体的には、仕上げ圧延温度は900℃以上であり得る。
【0053】
熱延鋼板を600乃至700℃で巻き取る。巻き取り温度により熱延鋼板結晶粒の大きさが変わるが、低い場合は結晶粒が細緻であり、高い場合は粗大に形成される。本発明では熱延鋼板結晶粒の大きさが重要であるが、本発明においては、冷間圧延後の焼鈍過程で完全再結晶が起こらない特徴があるため、熱延鋼板の結晶粒の大きさが最終鋼板物性に直接的な影響を与える。望む鋼板の加工性及び強度を得るためには、熱延鋼板の巻取り温度を600.0乃至700.0℃に制御することが望ましい。より具体的には、巻取り温度は610.0乃至690.0℃であり得る。
【0054】
次に、熱延鋼板を冷間圧延する。
【0055】
その際、20.0乃至60.0%の圧下率で冷間圧延して冷間圧延鋼板を製造する。圧下率は、冷間圧延鋼板の最終厚さを決定するだけでなく、冷間圧延時の加工硬化により鋼板の強度を増加させることができる。望む強度を得るためには20%以上の冷間圧下率が必要である。しかしながら、過度に高い場合、強度が高くて加工が難しくなったり、焼鈍時の再結晶を促進して強度が大きく低下したりする現像が発生する。再結晶を防ぐために焼鈍温度をさらに下げなければならないが、通常の鋼板の焼鈍温度より過度に低い場合には、様々な種類の鋼板を生産する際に鋼板間の焼鈍温度差が大きくなって生産性を低下させる。これを考慮して上限は60%以下に制御することが望ましい。より具体的には、圧下率を35.0乃至56.0%に調節することができる。
【0056】
次に、冷間圧延鋼板を400.0乃至580.0℃の温度で焼鈍する。本発明の一実施例における焼鈍温度は、通常の再結晶焼鈍温度より低く、冷間圧延時の鋼内に蓄積された転位の一部を除去する回復焼鈍温度に相当する。回復を通じて冷間圧延時の蓄積された転位の相当量を除去する理由は、延伸率を向上させるためである。400℃未満で焼鈍する場合には、冷間圧延時の生じた転位が十分になくならなくて延性が低下し、580℃を超える時に再結晶が起こり、強度が大きく減少する。より具体的には、430.0乃至575.0℃の温度で焼鈍を行うことができる。
【0057】
以降、冷間圧延鋼板の片面または両面に溶融メッキ乃至電気メッキしてメッキ層を形成してメッキ鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を通じて本発明をより詳しく説明する。しかしながら、このような実施例は、単に本発明を例示するものであり、本発明がそれに限定されるものではない。
【0059】
実施例
下記表1の組成を有する鋼を製造し、成分は実績値を表記したものである。このような表1の組成を含み、残部は、Fe及び避けられない不純物を含む鋼スラブを製造した。
【0060】
【0061】
前記スラブを1230℃に再加熱して900℃以上で熱間圧延を行い、下記表2の製造条件のように巻取り、冷間圧延、焼鈍を行って厚さ1mmの焼鈍鋼板を得た。その際、焼鈍は、コイル状態で連続焼鈍する方法により当該温度で昇温後、1分間維持後に常温に冷却した。比較鋼3の場合には、熱延時のクラックが発生して冷間圧延及び焼鈍を行わなく、これにより、後続物性測定を省略した。
【0062】
【0063】
製造された前記焼鈍鋼板に対して下記表3のように強化指数、結晶粒形状比、転位密度、再結晶面積比、平均結晶粒径を測定し、計算により示した。前記強化指数は、下記関係式1のように定義し、鋼の成分から計算して示した。また、光学微細組織観察から平均結晶粒径を測定し、再結晶粒面積を測定し、再結晶面積比を測定して共に示した。
下記関係式2で定義される結晶粒形状比を光学微細組織観察から統計的に計算して示し、転位密度はXRD(X-ray Diffraction)を通じて測定して示した。
【0064】
[式1]
強化指数=[([C]/12.011)×6+([Mn]/54.938)]×100
(式1における[C]、[Mn]は、各成分含有量の重量%を意味する)
【0065】
[式2]
結晶粒形状比=(圧延方向平均結晶粒直径)/(厚さ方向平均結晶粒直径)
【0066】
【0067】
表4には素材の降伏強度と延伸率を測定して示し、機械的加工及び熱的加工後の物性変化を確認するために、加工後の降伏強度と延伸率を共に測定して示した。加工は、常温で20%延伸する機械的加工後、740℃まで50℃/secの速い速度に昇温後、-5℃/secに25℃まで徐々に冷却する熱的加工を順次に行った。機械的加工時の物性を測定して降伏強度と延伸率が基準を満たさない場合には、熱的加工を行わなかった。熱的加工後の物性は、加工時点を基準として1ヶ月後に測定したが、これは部品の運送と保管により使用前の時間が経過することによる時効効果を考慮するためである。
【0068】
【0069】
表4の開発鋼1乃至14は、強化指数、結晶粒形状比、転位密度、再結晶面積比及び結晶粒径を適切に満たし、降伏強度が650MPa以下の降伏強度と7%以上の延伸率を有するため、構造材として機械的加工を行うことに適した水準である。また、前記開発鋼は、全て上記記載した機械的加工及び熱的加工後の180MPa以上の降伏強度と25%以上の延伸率を有する。25%未満の延伸率は、複雑な成形をすることに不適であり、180MPa未満の降伏強度は、構造材としての形態維持に不適である。
【0070】
比較鋼1は、C含有量が0.012重量%未満で強化指数が1.0未満である。これにより、加工後降伏強度が180MPa未満で低くために不適である。逆に、比較鋼2は、C含有量が0.060重量%を超え、強化指数が3.0を超えた。これにより、焼鈍鋼板の降伏強度が650MPaを超え、延伸率は7%未満であるため、上記記載のように形成をすることが困難である。
【0071】
比較鋼3は、Mn含有量が0.1重量%未満として、熱間圧延時のSによる脆性が発生して熱延鋼板にクラックが発生した。鋼内のSがMnと結合してMnSの形態で十分に析出される場合は脆性が抑制されるが、Mnが十分ではない場合は脆性が強く現れる。比較鋼4は、Mnが0.4重量%を超え、強化指数が3.0を超え、降伏強度が650MPaを超えて延伸率が7%未満で低い。
【0072】
比較鋼5は、Nの含有量が0.006重量%を超え、これにより、加工前物性が良好であり、加工後降伏強度も180MPa以上に優れるが、Nによる時効により延伸率が25%未満で低い短所がある。
【0073】
比較鋼6及び7は、強化指数が1.0未満として、加工後降伏強度が180MPa未満で低くて形状保持が困難である。逆に、比較鋼8乃至9は、強化指数が3.0を超え、焼鈍鋼板の強度が650MPaを超えて延伸率が7%未満で低いことを確認することができる。
【0074】
比較鋼10は、巻取り温度が600℃未満として、巻取り温度が低くなることにより、結晶粒大きさが7.8μmで小さく形成された。このような場合、機械的加工後の熱的加工時、再結晶過程における生じる結晶粒また、小さく形成され、強度は十分な水準に高いが、延伸率が25%以下で低い側面があって不適である。
【0075】
逆に、比較鋼11は、巻取り温度が700℃を超えることにより、結晶粒大きさが13.7μmで非常に大きい。結晶粒が大きい場合には、熱的加工を行っても再結晶が簡単に起こらない。これにより、機械的に加工した応力が十分に解消されることができなくて強度は非常に高いが、延伸率が20%未満で大きく低くなって使用が困難である。
【0076】
比較鋼12は、冷間圧下率が20%未満で低い場合として、結晶粒形状比が1.25未満で低い特徴がある。冷間圧下率が低い時に初期強度が低く、延伸率が高くて機械的加工に有利な側面がある。しかしながら、熱的加工時の再結晶が十分に起こらず、加工後の延伸率が15%以下で低くて使用することに不適である。
【0077】
逆に、比較鋼13のように冷間圧下率が60%を超えて高い場合には、結晶粒形状比が2.5を超え、転位密度も2.5X1015/m2を超える特徴がある。このように再結晶駆動力の高い場合、冷間圧延鋼板を焼鈍時、再結晶が部分的に起こるため、結果的に再結晶面積比が3%を超えた。冷間圧延鋼板の焼鈍後の再結晶粒が形成された部分は、応力が殆ど解消されたため、機械的加工と熱的加工後にも再結晶が起こるための再結晶駆動力が相対的に低い。このような原因により、熱的加工後再結晶が十分に起こらないため、延伸率が20%未満で低くなることを確認することができる。
【0078】
比較鋼14は、冷間圧延鋼板の焼鈍温度が400℃未満で低くて回復が十分に起こらなくて結晶粒径が小さい。これにより、焼鈍後の延伸率が7%未満で低くて加工性が低下する。逆に、比較鋼15は、焼鈍温度が580℃を超えて一部再結晶が活発に起こって3%を超える再結晶面積比を有する。これにより、上記記載したように再結晶が起こった部分では機械的加工を行っても、再結晶駆動力が十分ではなくて熱的加工後再結晶が起こらなくて延伸率が20%以下で低いことを確認することができる。
【0079】
本発明は、実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態に製造されることができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に実施されることができるということを理解するはずである。したがって、上記記載した実施例はすべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。