IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア フード リサーチ インスティテュートの特許一覧

特許7614395口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物
<図1A>
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図1A
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図1B
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図2A
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図2B
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図2C
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図3A
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図3B
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図4A
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図4B
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図4C
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図4D
  • 特許-口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物 図4E
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断およびリスクの予測方法またはそのための組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20250107BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20250107BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALI20250107BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20250107BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250107BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20250107BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/6874 Z
C12N15/115 Z
G01N33/53 N
G01N33/53 M
G01N33/50 G
G01N33/50 P
G01N33/569 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023560663
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 KR2022007164
(87)【国際公開番号】W WO2022245146
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0064496
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519359723
【氏名又は名称】コリア フード リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イム,ミヨン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スンピョ
(72)【発明者】
【氏名】ナム,ヨンド
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジヨン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-521763(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0003348(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0003330(KR,A)
【文献】Am. J. Cancer Res.,2015年,Vol.5, No.10,pp.3111-3122
【文献】Respirology,2019年,Vo.24, Suppl.2,p.272, LB1884
【文献】Journal of Thoracic Oncology,2019年,Vol.14, No.10S,pp.S374-S375, P1.01-44
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7, No.5867,pp.1-10
【文献】J. Thorac. Dis.,2019年,Vol.11, No.1,pp.280-291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)唾液から抽出したDNAに対して16S rRNA遺伝子の配列解析(sequencing)を行う段階と;
(b)前記配列解析を通して口腔マイクロバイオームの豊富度を基準値と比較する段階と;を含む、
肺がんの診断、発症リスクの予測または予後の予測のための情報提供方法であって、
前記口腔マイクロバイオームにおいてモギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)およびブレイディア属(Bulleidia)から成る群から選ばれる2種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が前記基準値と比較して増加すると、肺がんではないか、または肺がんの発症リスクが低いと判断し、
前記基準値は、健康な対照群における口腔マイクロバイオームの豊富度である、
情報提供方法
【請求項2】
前記唾液は、非喫煙者から採取されたものである、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
前記配列解析は、次世代塩基配列解析法(NGS,next generation sequencing)で行われる、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項4】
前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれる、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項5】
口腔マイクロバイオームを検出できる製剤を含む、肺がんの診断または発症リスクの予測用組成物であって、
前記口腔マイクロバイオームにおいてモギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralston
ia)およびブレイディア属(Bulleidia)から成る群から選ばれる2種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が基準値と比較して増加すると、肺がんではないか、または肺がんの発症リスクが低いと判断し、
前記基準値は、健康な対照群における口腔マイクロバイオームの豊富度である、
組成物
【請求項6】
前記製剤は、口腔マイクロバイオームに特異的なプライマー、プローブ、アプタマーおよび抗体から成る群から選ばれる、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれる、請求項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の組成物を含む、肺がんの診断または発症リスクの予測用キット。
【請求項9】
前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、およびELISAキットから成るグループから選ばれる、請求項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔微生物情報を用いた肺がんの早期診断、リスクまたは予後の予測のための情報提供とそのための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんは、最も多いがんの1つであり、2020年に全世界的に約2,207万人の患者が発生し、がん死亡の最も一般的な原因で、2020年に全世界で1,796万人が肺がんで死亡した(非特許文献1)。
【0003】
肺がんは、組織学的類型によってSCLC(small cell lung cancer、小細胞肺がん)とNSCLC(non-small cell lung cancer、非小細胞肺がん)に分類され、それぞれは、全体肺がんの10~15%および80~85%を占めている(非特許文献2)。NSCLCは、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)の3つのサブタイプに細分化される。これらのうち、肺腺がん(lung adenocarcinoma)は、肺がんで最も一般的に観察されるサブタイプであり、全体肺がんの中で略40%がこのサブタイプである(非特許文献2;および非特許文献3)。
【0004】
喫煙は、肺がんの主な危険因子であるが(非特許文献4)、男性肺がん患者の15~20%が非喫煙者であり、女性肺がん患者の50%以上が非喫煙者であり、喫煙以外の危険因子も、肺がんの発生に重要な役割をすると推定することができる(非特許文献5)。特に、アジアでは、女性肺がん患者のうち非喫煙者の割合が60~80%と高く報告された(非特許文献6)。非喫煙者において最も多く発生する肺がんのサブタイプは、肺腺がんである(非特許文献2)。非喫煙者の肺がんの発生を高める危険因子としては、ラドン、大気汚染、職業的危険、間接喫煙、感染または炎症に対する露出などが提示された(非特許文献7)。しかしながら、このような危険因子は、非喫煙者の肺がんの発症を完全に説明することができない。
【0005】
最近、マイクロバイオームの変化が肺がんの危険因子の1つと認識されている(非特許文献8)。先行研究は、口腔マイクロバイオームの変化が肺がんと関連していることを示す。Yan et al.は、肺がん患者の唾液においてナイセリア属(Neisseria)の豊富度が減少し、カプノサイトファーガ属(Capnocytophaga)、セレノモナス(Selenomonas)およびベイヨネラ属(Veillonella)の豊富度が増加したと報告した(非特許文献9)。他の研究では、女性非喫煙肺がん患者の唾液にスフィンゴモナス属(Sphingomonas)およびブラストモナス属(Blastomonas)微生物が顕著に豊富になり、アシネトバクター属(Acinetobacter)およびストレプトコッカス属(Streptococcus)微生物が少なく豊富になったことを報告した(非特許文献10)。また、口腔マイクロバイオーム多様性の減少と口腔マイクロバイオームのLactobacillales豊富度の増加が、肺がんの危険度の増加と関連していることが報告された(非特許文献11)。
【0006】
これまでに報告された研究によると、肺がん関連微生物の種類が全ての研究において一致するわけではない。このような相違は、制限されたサンプル数と患者の特性の違いに起因していると見られる。このような限界にもかかわらず、前記研究は、肺がん患者のマイクロバイオームが健常者のものと顕著に異なっていることを示した。
【0007】
最近では、微生物自体あるいは微生物を調節できる物質を新しい抗がん治療剤として活用できるという可能性が提示されている(非特許文献12)。また、粘膜炎、下痢および便秘のような抗がん化学療法の副作用が人体マイクロバイオームの変化と関連していると思われ、マイクロバイオーム調節を通じて抗がん治療の副作用を緩和する方法も活発に探索されている。特に、口腔マイクロバイオームの変化は、悪性腫瘍患者において化学療法によって誘導された口腔粘膜炎と関連していることが報告され(非特許文献13)、肺がんに対する抗がん化学療法の効果が特定腸内マイクロバイオーム種(species)の増加あるいは減少と関連していることが報告された(非特許文献14)。
【0008】
前記研究は、人体マイクロバイオームが、がんの進行状態のモニタリング、抗がん治療剤の開発、あるいは抗がん療法副作用の最小化などの多様な応用可能性があることを示す。これより、本発明者らは、大規模な並列シーケンス(massive parallel sequencing)を通じて非喫煙患者の口腔マイクロバイオームを健康な個体と比較して肺腺がんに関連した微生物を調査し、マイクロバイオーム情報に基づいて肺がん患者と健康な個体を区分することができるかどうかを確認した。また、治療患者と非治療患者の間に口腔マイクロバイオームの相違を調査し、マイクロバイオームデータを用いて肺がん患者の生存率を予測できるかを確認した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】International Agency for Research on Cancer.Global Cancer Observatory:Cancer Today.Fact sheets on cancer from IARC
【文献】American Cancer Society.About Lung Cancer.Accessed Dec 16,2020
【文献】Nat Commun 2020;11(1):2285
【文献】Transl Lung Cancer Res 2018;7(3):220-33
【文献】CA Cancer J Clin 2005;55(2):74-108
【文献】Clin Lung Cancer 2012;13(1):75-9
【文献】Transl Lung Cancer Res,7(2018)220-233
【文献】Nat Med 2019;25(3):377-88
【文献】Am J Cancer Res,5(2015)3111-3122
【文献】Front Oncol,8(2018)520
【文献】Thorax 2021;76(3):256-63
【文献】Science,359(2018)1366-1370
【文献】Clin Microbiol Infect,19(2013)E559-567
【文献】Thorac Cancer,12(2021)66-78
【文献】Chest 2017;151(1):193-203
【文献】Nat Biotechnol,37(2019)852-857
【文献】Nat Methods,13(2016)581-583
【文献】Appl Environ Microbiol,72(2006)5069-5072
【文献】Microbiome,6(2018)90
【文献】J Mach Learn Res,12(2011)2825-2830
【文献】Journal of Open Source Software 2019;4(36):1230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、(a)唾液から抽出したDNAに対して16S rRNA遺伝子の配列解析(sequencing)を行う段階と;(b)前記配列解析を通して口腔マイクロバイオームの豊富度を基準値と比較する段階と;を含む肺がんの診断、発症リスクの予測または予後の予測のための情報提供方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、口腔マイクロバイオームを検出できる製剤を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記組成物を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)唾液から抽出したDNAに対して16S
rRNA遺伝子の配列解析(sequencing)を行う段階と;(b)前記配列解析を通して口腔マイクロバイオームの豊富度を基準値と比較する段階と;を含む、肺がんの診断、発症リスクの予測または予後の予測のための情報提供方法を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態において、前記唾液は、非喫煙者から採取されたものであってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記配列解析は、次世代塩基配列解析法(NGS,next generation sequencing)で行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明の一実施形態において、前記口腔マイクロバイオームにおいてモギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)およびブレイディア属(Bulleidia)から成る群から選ばれる1種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんではないか、または肺がんの発症リスクが低いと判断することができる。
【0017】
本発明の一実施形態において、前記口腔マイクロバイオームにおいてベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる1種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんであるか、または肺がんの発症リスクが高いと判断することができる。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記口腔マイクロバイオームにおいてストレプトコッカス属(Streptococcus)およびメガスファエラ属(Megasphaera)から成る群から選ばれる1種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんに対する予後が悪いと判断することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記口腔マイクロバイオームの豊富度が基準値と比較して類似性が高い場合、肺がんに対する予後が良いと判断することができる。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung
cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明は、口腔マイクロバイオームを検出できる製剤を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用組成物を提供する。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記製剤は、口腔マイクロバイオームに特異的なプライマー、プローブ、アンチセンスオリゴヌクレオチド 、アプタマーおよび抗体から成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記口腔マイクロバイオームは、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ブレイディア属(Bulleidia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれるものであってもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung
cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、本発明は、前記組成物を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用キットを提供する。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、ELISAキットおよびラピッド(rapid)キットから成るグループから選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0027】
本発明による組成物または方法は、唾液から分離したサンプルから口腔マイクロバイオームの豊富度を確認することによって、迅速かつ正確な肺がんの早期診断、発症リスクまたは予後の予測が可能で、肺がんの予防または治療に有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1Aは、健康な個体(対照群)と肺がん患者の間の口腔マイクロバイオームの多様性を示す結果であり、左パネルは、シャノン多様性の結果であり、右パネルは、PCoA(principal coordinate analysis)plotの結果であり、対照群と肺がん患者の間の比較結果である(*p<0.05、**p<0.01)。
図1B図1Bは、健康な個体(対照群)と肺がん患者の間の口腔マイクロバイオームの多様性を示す結果であり、左パネルは、シャノン多様性の結果であり、右パネルは、PCoA(principal coordinate analysis)plotの結果であり、対照群、非治療グループ(Treatment-)および治療グループ(Treatment+)の間の比較結果である(*p<0.05、**p<0.01)。
図2A図2Aは、健康な個体(対照群)と肺がん患者の間の口腔マイクロバイオームの差別的な豊富な属(genus)を確認した結果であり、左パネルは、Log10に変換された相対的豊富度の結果であり、右パネルは、差別的な豊富な属の一般化された倍数変化の結果であり、全ての肺がん患者と対照群の間の結果である(q<0.1)。
図2B図2Bは、健康な個体(対照群)と肺がん患者の間の口腔マイクロバイオームの差別的な豊富な属(genus)を確認した結果であり、左パネルは、Log10に変換された相対的豊富度の結果であり、右パネルは、差別的な豊富な属の一般化された倍数変化の結果であり、非治療グループと対照群の間の結果である(q<0.1)。
図2C図2Cは、健康な個体(対照群)と肺がん患者の間の口腔マイクロバイオームの差別的な豊富な属(genus)を確認した結果であり、左パネルは、Log10に変換された相対的豊富度の結果であり、右パネルは、差別的な豊富な属の一般化された倍数変化の結果であり、治療グループと対照群の間の結果である(q<0.1)。
図3A図3Aは、口腔マイクロバイオームによる肺がん予測結果であり、肺がん患者、治療グループ、非治療グループおよび対照群の間を区別する予測モデルのROC(Receiver operating characteristic)曲線である。
図3B図3Bは、口腔マイクロバイオームによる肺がん予測結果であり、予測モデル(Bayesian Ridge)の正規化された係数を示す結果である(係数が上位5%および下位5%の属を表示する)。
図4A図4Aは、肺がん患者において口腔マイクロバイオームプロファイルの予後的影響を確認した結果であり、口腔マイクロバイオームのPCoA plotを示す結果である(肺がん患者は、Bray-Curtis distancesに基づいて2つのグループに分類される)。
図4B図4Bは、肺がん患者において口腔マイクロバイオームプロファイルの予後的影響を確認した結果であり、類似性が最も高い対照群までの距離に基づく口腔マイクロバイオーム群集の密度プロットを示す結果である。
図4C図4Cは、肺がん患者において口腔マイクロバイオームプロファイルの予後的影響を確認した結果であり、口腔マイクロバイオームプロファイルの2つの群集に対する生存曲線を示す結果である。
図4D図4Dは、肺がん患者において口腔マイクロバイオームプロファイルの予後的影響を確認した結果であり、Cluster1とCluster2を区別する予測モデルのROC(receiver operating characteristic)曲線を示す結果である。
図4E図4Eは、肺がん患者において口腔マイクロバイオームプロファイルの予後的影響を確認した結果であり、予測モデル(Bayesian Ridge)の正規化された係数を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
本発明は、(a)唾液から抽出したDNAに対して16S rRNA遺伝子の配列解析(sequencing)を行う段階と;(b)前記配列解析を通して口腔マイクロバイオームの豊富度を基準値と比較する段階と;を含む、肺がんの診断、発症リスクの予測または予後の予測のための情報提供方法を提供する。
【0031】
前記用語「口腔マイクロバイオーム」は、口腔に棲息したり共存する微生物とその遺伝情報全体を含む微生物群集を意味する。
【0032】
前記用語「診断」は、病理状態の存在または特徴を確認することを意味する。本発明の目的上、肺がんの発症の有無を確認することを意味し、肺がんの発展および軽減などを判断することをも含む。
【0033】
前記用語「予後(prognosis)」は、疾患を診断して判断された将来の症状または経過に対して展望することを意味する。がん患者において予後は、通常、がんの発症または外科的手術後に一定期間内の転移の有無または生存期間を意味する。予後の予測は、がんの化学治療の有無をはじめとして将来がん治療方向に対する手掛かりを提示するので、非常に重要な臨床的課題である。
【0034】
本発明において、前記唾液は、非喫煙者から採取されたものであってもよい。
【0035】
本発明において、前記配列解析は、次世代塩基配列解析法(NGS,next generation sequencing)で行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明において、前記口腔マイクロバイオームは、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ブレイディア属(Bulleidia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる1種以上であってもよい。
【0037】
また、前記口腔マイクロバイオームにおいてモギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)およびブレイディア属(Bulleidia)から成る群から選ばれる1種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんではないか、または肺がんの発症リスクが低いと判断することができる。好ましくは、前記口腔マイクロバイオームにおいてモギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)およびブレイディア属(Bulleidia)から成る群から選ばれる2種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんではないか、または肺がんの発症リスクが低いと判断することができる。
【0038】
また、前記口腔マイクロバイオームにおいてベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる1種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんであるか、または肺がんの発症リスクが高いと判断することができる。好ましくは、前記口腔マイクロバイオームにおいてベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる2種以上の口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんであるか、または肺がんの発症リスクが高いと判断することができる。
【0039】
本発明において、前記口腔マイクロバイオームは、ストレプトコッカス属(Streptococcus)およびメガスファエラ属(Megasphaera)から成る群から選ばれるものであってもよく、ここで、前記ストレプトコッカス属(Streptococcus)およびメガスファエラ属(Megasphaera)から成る群から選ばれる口腔マイクロバイオームの豊富度が増加すると、肺がんに対する予後が悪いと判断するこ
とができ、前記ヘモフィルス属(Haemophilus)の豊富度が増加すると、肺がんに対する予後が良いと判断することができる。
【0040】
本発明において、前記口腔マイクロバイオームの豊富度が基準値と比較して類似性が高い場合、肺がんに対する予後が良いと判断することができ、反対に、前記口腔マイクロバイオームの豊富度が基準値と比較して類似性が高くない場合、肺がんに対する予後が悪いと判断することができる。
【0041】
本発明において、前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれるものであってもよい。
【0042】
また、本発明は、口腔マイクロバイオームを検出できる製剤を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用組成物を提供する。
【0043】
本発明において、前記検出できる製剤は、口腔マイクロバイオームに特異的に結合するプライマー、プローブ、アンチセンスオリゴヌクレオチド 、アプタマーおよび抗体から成る群から選ばれるものであってもよく、好ましくは、口腔マイクロバイオームの16S
rRNAに特異的なプライマー、プローブまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0044】
前記用語「プライマー」は、短い自由3末端水酸基(free 3’ hydroxyl group)を有する塩基配列であり、相補的なテンプレート(template)と塩基対を形成することができ、テンプレート鎖コピーのための開始点として作用する短い塩基配列をいう。プライマーは、適切な緩衝溶液および温度で重合反応のための試薬(すなわち、DNAポリメラーゼまたは逆転写酵素)および異なる4種のヌクレオシド三リン酸の存在下でDNA合成を開始することができる。PCR条件、センスおよびアンチセンスプライマーの長さは、本発明の属する分野において一般的に知られている技術によって適切に選択することができる。
【0045】
前記用語「プローブ」は、遺伝子に特異的に結合することができるRNAまたはDNAなどの核酸断片を意味し、標識されていて、特定遺伝子の存在の有無および発現量を確認することができる。プローブは、オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)プローブ、一本鎖DNA(single strand DNA)プローブ、二本鎖DNA(double strand DNA)プローブ、RNAプローブなどの形態で製作することができる。適切なプローブの選択およびハイブリダイゼーション条件は、 本発明の属する分野において一般的に知られている技術によって適切に選択することができる。
【0046】
前記用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、特定mRNAの配列に相補的な核酸配列を含有しているDNAまたはRNAあるいはこれらの誘導体であり、mRNA内の相補的な配列に結合し、mRNAのタンパク質への翻訳を阻害する作用をする。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、前記遺伝子のmRNAに相補的であり、前記mRNAに結合できるDNAまたはRNA配列を意味する。
【0047】
前記用語「アプタマー」は、それ自体で安定した三次構造を有し、標的分子に高い親和性と特異性をもって結合できる特徴を有する特別な種類の一本鎖核酸(DNA、RNAまたは修飾核酸)で構成されたポリヌクレオチドの一種を意味する。アプタマーは、抗体と
同一に抗原性物質に特異的に結合することができ、かつタンパク質より安定性が高く、構造が簡単で、合成が容易なポリヌクレオチドで構成されているので、抗体の代わりに用いることができる。アプタマー生産は、本発明の属する分野において広く知られている技術を用いて容易に製造することができ、製造されて商業的に販売される抗体を用いることができる。
【0048】
前記用語「抗体」は、抗原性部位に対して指示される特異的な免疫グロブリンを意味し、多クローン抗体、単クローン抗体、組換え抗体およびこれらの組み合わせを全て含む。
また、多クローン抗体、単クローン抗体、組換え抗体および2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、および抗体分子の機能的な断片、例えば、Fab,F(ab’)、F(ab’)2およびFvを全て含む。抗体の生産は、本発明の属する分野において広く知られている技術を用いて容易に製造することができ、製造されて商業的に販売される抗体を用いることができる。
【0049】
本発明において、前記肺がんは、非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer)、小細胞肺がん(small cell lung cancer)、腺がん(adenocarcinoma)、扁平上皮がん(squamous cell carcinoma)および大細胞がん(large cell carcinoma)から成る群から選ばれるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明において、前記口腔マイクロバイオームは、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ブレイディア属(Bulleidia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれるものであってもよい。好ましくは、前記口腔マイクロバイオームは、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ブレイディア属(Bulleidia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる2種以上であってもよく、より好ましくは、前記口腔マイクロバイオームは、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ブレイディア属(Bulleidia)、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)から成る群から選ばれる3種以上であってもよい。
【0051】
また、本発明は、前記組成物を含む肺がんの診断または発症リスクの予測用キットを提供する。
【0052】
前記キットは、口腔マイクロバイオームを検出するためのプライマー、プローブ、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、または抗体などの検出製剤を含むだけでなく、分析方法に適した1つ以上の他の構成成分組成物、溶液、または装置が含まれ得る。
【0053】
本発明において、前記キットは、RT-PCRキット、DNAチップキット、ELISAキットまたはラピッド(rapid)キットであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
前記RT-PCRキットは、試験管または他の適切なコンテナ、プライマー、反応緩衝
液、デオキシヌクレオチド(dNTPs)、Taq-ポリメラーゼおよび逆転写酵素のような酵素、DNase、RNAse抑制剤、DEPC水(DEPC-water)、または滅菌水などを含んでもよい。
【0055】
前記DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に該当するcDNAまたはオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)が付着している基板、および蛍光標識プローブを製作するための試薬、製剤、酵素などを含んでもよい。また、基板は、対照群遺伝子またはその断片に該当するcDNAまたはオリゴヌクレオチドを含んでもよい。
【0056】
前記ELISAキットは、タンパク質に対する特異的な抗体を含む。抗体は、各マーカータンパク質に対する特異性および親和性が高く、他のタンパク質に対する交差反応性が殆どない抗体であり、単クローン抗体、多クローン抗体または組換え抗体である。また、ELISAキットは、対照群タンパク質に特異的な抗体を含んでもよい。その他、ELISAキットは、結合した抗体を検出できる試薬、例えば、標識された二次抗体、発色団(chromophores)、酵素(例:抗体とコンジュゲートされる)およびその基質または抗体と結合できる他の物質などを含んでもよい。
【0057】
前記ラピッド(rapid)キットは、5分以内に分析結果を知ることができる迅速な検定を行うために必要な必須要素を含むキットであり、タンパク質に対する特異的な抗体を含む。抗体は、各マーカータンパク質に対する特異性および親和性が高く、他のタンパク質に対する交差反応性が殆どない抗体であり、単クローン抗体、多クローン抗体または組換え抗体である。また、ラピッドキットは、対照群タンパク質に特異的な抗体を含んでもよい。その他ラピッドキットは、結合した抗体を検出できる試薬、例えば、特異抗体と二次抗体が固定されたニトロセルロースメンブレン、抗体付きビーズに結合したメンブレン、吸収パッドとサンプルパッドなど他の物質などを含んでもよい。
【実施例
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明することとする。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1.実験方法
1.1.実験設計およびサンプル収集
本発明では、2018年4月から2019年8月の間に国立がんセンター(韓国、高陽市)で喫煙履歴がなく、肺腺がん(lung adenocarcinoma)と診断された合計100人の患者を募集した。がんの組織学的類型は、肺腫瘍に対する2004 WHO(World Health Organization)分類によって決定された。TNM(tumor-node-metastasis)段階は、肺がん病期決定システムの第8版に基づく(非特許文献15)。本発明は、韓国国立がんセンターの機関監査委員会の承認下に行われた(承認番号:NCC2016-0208)。全ての参加者は、書面同意書を提出した。
【0060】
唾液サンプルは、サンプル収集前の1時間の間食品、飲料の摂取、および歯磨きをしないように要請した後に収集した。患者の唾液は、水で口をゆすいだ後、50mlのチューブに2~5mlの唾液を吐き出して収集した。唾液サンプルは、使用前まで-80℃で保管した。
【0061】
対照群は、非喫煙者(never-smoking)を選択し、年齢および性別を患者と一致させて、既存の韓国マイクロバイオーム研究から選別した。多様な慢性疾患、臨床的に重要な疾患、主な胃腸疾患またはがんの病歴がある被験者;およびサンプル採取前の
3ヶ月以内に抗生剤を投与された被験者は、韓国マイクロバイオーム研究に含まれなかった。対照群の16S rRNA遺伝子シーケンシングのための唾液サンプリングの全過程は、患者のサンプルに用いられた同じ過程で行われた。
【0062】
予測モデルの検証のために、41人の韓国NSCLC(non-small cell
lung cancer)患者と612人の健康な韓国人の口腔マイクロバイオームデータを用いて独立したデータセットを構成し、練習に用いられた対照群を除外した。
【0063】
1.2.DNA抽出、16S rRNA遺伝子シーケンシングおよびシーケンシングデータ分析
唾液サンプルの全DNAは、製造社の指示に従ってQIAamp DNA Microbiome Kit(Qiagen)を用いて抽出した。唾液サンプルから抽出した全DNAは、16S Metagenomic Sequencing Library Preparation Illumina protocol(Part # 15044223 Rev.B,Illumina,San Diego,CA,USA)に従って16S rRNA V3-V4 library preparationを行った。シーケンシングは、Illumina MiSeq instrument(Illumina)を用いて行った。16S rRNA遺伝子シーケンシングデータの初期データは、QIIME2(2019.10 version)を用いて処理された(非特許文献16)。配列品質管理および表の構成は、q2-dada2 pluginで行われた(非特許文献17)。アルファおよびベータ多様性マトリックスは、1サンプル当たり10,000配列の均一なサンプリング深さでq2-diversity pluginを用いて計算された。分類は、q2-feature-classifier pluginとともにGreengenes 13_8 99% OTUsに対するpre-trained naive Bayes classifierを用いてASV(amplicon sequence variants)に割り当てられた(非特許文献18;および非特許文献19)。
【0064】
1.3.統計的分析
肺腺がん(lung adenocarcinoma)患者と健康な対照群の間の有意差は、Student’s t-testまたはFisher’s exact testで評価した。グループ間のマイクロバイオームのシャノン多様性(Shannon diversity)は、ウィルコクソンの順位和検定(Wilcoxon rank sum test)またはクラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)を用いて比較した。ベータ多様性と肺がんの関連性は、Bray-Curtis
distanceに対するvegan R packageでAdonis functionを用いてPERMANOVA(permutational multivariate analysis of variance)により評価された。被験者グループ間の差別的な属(genus)の豊富度は、ウィルコクソンの順位和検定を用いて確認され、実験は、最大豊富度が0.001より高い属で行われた。P値は、Benjamini-Hochberg FDR methodを用いて調整され、q<0.1を有する微生物の特徴が報告された。
【0065】
1.4.がん状態(cancer status)に対する予測モデル
がん状態は、個人が非疾患集団に属する場合を1とし、がん患者に属する場合を0で記録した。微生物の相対的豊富度は、0.00005を加算した後、下が10の対数関数を使用して変換した。Scikit-learn package(Version 0.22.1)にあるBayesian Ridge methodが変換された微生物豊富度を用いてがん状態を予測するのに用いられた(非特許文献20)。
【0066】
5分割交差検証法は、予測力を評価するのに用いられた。交差検証法は、データセットを学習および検定セットに分割することによって示される偏差を減らすために5回繰り返された。各検定セットの偽陽性の割合と陽性の割合は、ROC(receiver operating characteristic)曲線およびAUC(average area under curve)を測定するために用いられた。各予測モデルに対する各微生物の寄与度を評価するために、Bayesian Ridge modelの係数が抽出され、モデルの最大絶対係数で割って正規化した。
【0067】
独立データセットにおいて予測力の測定のために、Bayesian Ridge modelをファイルに保存した。モデルは、独立データセットのがん状態を予測するのに用いられ、ROC AUCは、モデルの性能を測定するために各予測モデルに対して測定された。独立データセットの相対的豊富度データは、微生物をモデルの学習に使用されたものと一致させた後、モデルの入力に用いられた。
【0068】
1.5.予後の分析
肺がん患者は、PyClustering software package(v.0.10.1)のPAM(partition around medoids)アルゴリズムを用いてBray-Curtis distancesに基づいて2つのグループに分けた(非特許文献21)。Kaplan-Meier曲線で示し、ログランク検定(log-rank test)は、survminer R packagesを用いて生存率を分析した。予測モデルは、2つの肺がん患者グループに対するデータセットで行われた。
【0069】
実施例2.対象患者の特性
本発明には、合計100人が登録され、合計91人の患者が含まれた(1人は中断;8人は品質管理失敗)。多くの患者は、女性(n=84,92.3%)であり、4期肺がん(n=81、89.0%)であった。マイクロバイオームサンプリング時点に、39人の患者は、肺がん治療を受けず、52人の患者は、初めて肺がんの診断を受けた後、肺がんに対する化学治療療法や標的化薬物治療を1回以上受けた。91人の対照群は、患者と年齢および性別が一致した健康な非喫煙の韓国人が選択された。対象患者の特性は、下記表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例3.肺がん患者において口腔マイクロバイオーム多様性の減少
本発明者は、肺がん患者と健康な個体(対照群)において口腔マイクロバイオームの多様性を調査した。その結果、患者グループのシャノン多様性は、対照群より顕著に低いことを確認した(p=0.015)(図1A)。また、がん患者の全体口腔マイクロバイオームの構造は、対照群と統計的に有意差があった(Adonis、R=0.014、P<0.001)(図1A)。
【0072】
また、本発明者らは、がん治療が口腔マイクロバイオームの変化と関連があるか否かを確認した。患者は、化学治療療法または標的化薬物の治療グループ(Treatment+、n=52)と非治療グループ(Treatment-、n=39)に分けた。その結果、治療グループ(Treatment+)のシャノン多様性は、対照群に比べて顕著に低いことを確認した(図1B)。また、非治療グループ(Treatment-)のマイクロバイオームは、対照群より多様でないが、統計的に有意でなかった。治療グループ(Treatment+)と非治療グループ(Treatment-)のmedoidは、PCoA(principal coordinate analysis)プロットで互いに近く位置した(図1B)。
【0073】
前記結果から、肺がん患者では、健康な個体に比べて口腔マイクロバイオームの多様性が減少したことを確認した。また、化学治療療法または標的化薬物治療のような肺がん治療を受けた肺がん患者(Treatment+)では、健康な個体や治療を受けない肺がん患者(Treatment-)に比べて多様性が減少する傾向を示した。
【0074】
実施例4.肺がんと口腔微生物の関連性
本発明者らは、肺がん患者において豊富度が変化した口腔微生物を確認した。全ての肺がん患者と対照群の口腔微生物の相対的豊富度を属(genus)レベルで比較した。その結果、肺がん患者では、対照群に比べて、ベイヨネラ属(Veillonella)の相対的豊富度が高いのに対し、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、チリビブリオ属(Butyrivibrio)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)、ケトネラ属(Catonella)、ブ
レイディア属(Bulleidia)およびオリバクテリウム(Oribacterium)を含む15個の属(genus)の相対的豊富度が顕著に低かった(ウィルコクソンの順位和検定、FDR<0.1)(図2A)。
【0075】
また、治療グループ(Treatment+)および非治療グループ(Treatment-)を対照群とそれぞれ比較したとき、両方のグループでは、対照群に比べて前述した7個の属の微生物が著しく少ない豊富度を示した(図2Bおよび図2C)。一部の分類群では、治療条件とさらに特異的に関連した。治療グループ(Treatment+)では、オルセネラ属(Olsenella)がさらに豊富であるのに対し、非治療グループ(Treatment-)では、ベイヨネラ属(Veillonella)がさらに豊富であることが確認された(図2Bおよび図2C)。また、治療グループ(Treatment+)では、カンピロバクター(Campylobacter)があまり豊富でないのに対し、非治療グループ(Treatment-)では、パルディバクター属(Paludibacter)、トレポネーマ属(Treponema)、タンネレラ属(Tannerella)およびSHD-231属の微生物があまり豊富でないことが確認された(図2Bおよび図2C)。非治療グループと対照群の比較において差別的に現れた属微生物は、全体がん患者と対照群の比較において差別的に豊富に現れた属微生物に全部含まれた(図2Aおよび図2B)。
【0076】
実施例5.口腔マイクロバイオームプロファイルを用いた肺がんの予測
その後、本発明者らは、口腔マイクロバイオームの組成からがん状態を予測することができるか否かを調査した。本発明者らは、対照群と全ての肺がん患者の口腔マイクロバイオームの構成を用いてがん状態を予測するために、機械学習アプローチ(machine
learning approaches)を用いた。その結果、ROC AUCが0.95であり、予測モデルが対照群から肺がん患者を区別することができることを確認した(図3A)。
【0077】
また、本発明者らは、41人の進行性NSCLC患者と612人の健康な韓国人が含まれた独立データセットを用いて予測モデルの性能を評価した。その結果、独立データセットにおける予測力は、ROC AUCが0.88であり、非常に高いことを確認した。これにより、予測モデルは、健康な個体から肺がん患者を区別することができることを確認した。
【0078】
予測モデルによれば、モギバクテリウム属(Mogibacterium)、バリオボラックス属(Variovorax)、ラルストニア属(Ralstonia)およびブレイディア属(Bulleidia)の豊富度が予測に重要であることが示され、このような属(genus)の高い豊富度を有するサンプルは、健康な個体であることが予測された(図3B)。一方、ベイヨネラ属(Veillonella)、アクチノミセス属(Actinomyces)、スラッキア属(Slackia)およびシュワルチア属(Schwartzia)の高い豊富度は、肺がん患者と予測される確率が高いことを確認した(図3B)。
【0079】
対照群と治療グループ(Treatment+)の口腔マイクロバイオームプロファイルで練習された予測モデルは、ROC AUCが0.96であり、対照群と非治療グループ(Treatment-)の口腔マイクロバイオームプロファイルで練習された予測モデル(ROC AUC=0.88)よりがん状態をさらに良好に区別することができた(図3A)。2つの予測モデル(Control vs Treatment-;およびControl vs Treatment+)の間で予測力に差があるとしても、同様の微生物のセットが両方のモデルに用いられ、モデルにおける係数が互いに類似していることが示された(図3B)。
【0080】
実施例6.マイクロバイオームプロファイルによる肺がんの予後の予測
本発明者らは、肺がん患者の生存結果を分析し、マイクロバイオームプロファイルの予後影響力を評価した。患者は、口腔マイクロバイオームの類似性によって2つのグループに分けた(図4A)。第一のグループ(以下、「Cluster1」という)は、第二のグループ(以下、「Cluster2」という)に比べて、対照群とさらに類似しないマイクロバイオームプロファイルを有していた(図4B)。また、非治療グループ(Treatment-)において、Cluster2患者は、Cluster1に比べてさらに長く生存する傾向を示した(p=0.14)(図4C)。ただし、治療グループ(Treatment+)では、Cluster1およびCluster2の間の生存率に有意差がなかった(図4C)。
【0081】
さらに、本発明者らは、Cluster1およびCluster2を分離できる口腔微生物分類を確認した。その結果、さらに悪い生存結果を示したグループであるCluster1では、Cluster2に比べて、ストレプトコッカス属(Streptococcus)およびメガスファエラ属(Megasphaera)の微生物がさらに豊富であるのに対し、ヘモフィルス属(Haemophilus)微生物は、あまり豊富でないことが示された(図4Dおよび図4E)。
【0082】
前記結果から、肺がん治療を受けない患者のうち、口腔マイクロバイオームのプロファイルが対照群(健康な個体)と類似性が高い場合、肺がんに対する予後が良いと予測することができ、類似性が低い場合、肺がんに対する予後が悪いと予測することができることを確認した。
【0083】
また、ストレプトコッカス属(Streptococcus)およびメガスファエラ属(Megasphaera)の微生物がさらに豊富であり、ヘモフィルス属(Haemophilus)微生物があまり豊富でない肺がん患者は、肺がんに対する予後が悪いと予測することができることを確認した。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E