(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 5/08 20060101AFI20250107BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20250107BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20250107BHJP
B62D 21/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
B21D5/08 P
B21J15/00 P
B23K26/21 G
B62D21/02 Z
(21)【出願番号】P 2024001888
(22)【出願日】2024-01-10
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591214527
【氏名又は名称】株式会社ジーテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】市村 康
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535407(JP,A)
【文献】国際公開第2002/064284(WO,A1)
【文献】米国特許第06141935(US,A)
【文献】特表2022-507959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/08
B21J 15/00
B23K 26/21
B62D 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる板材を予め定めた長さに切断する切断工程と、
前記板材にこの板材の一端を囲むようにロールフォーム成形を施すことにより、前記一端が突き当てられた断面T字状のT字接合部と、このT字接合部を挟む2つの閉断面部を含む少なくとも2つの閉断面部とを有するフレーム部品を成形する成形工程と、
前記フレーム部品に形状が保持される仮接合処理を行う仮接合工程と、
前記仮接合処理が終了した前記フレーム部品を待機させる待機工程と、
前記待機工程で待機している前記フレーム部品を一貫して溶接する本接合工程とを有し、
前記成形工程は、前記板材の前記一端を有する壁が前記2つの閉断面部で共有されて前記2つの閉断面部の境界となるように実施され、
前記仮接合工程で実施する前記仮接合処理は、互いに重なり合う板材どうしを、溶融して混ざり合うことなく密着する状態に保持する接合処理であり、
前記本接合工程においては、前記板材の前記一端を含む壁の一部と、前記一端が突き当てられた前記板材の壁の一部とが溶融して混ざり合う溶接が実施され、
前記切断工程は、前記成形工程より前と、前記仮接合工程より後であって前記待機工程より前とのいずれか一方に実施され、
前記成形工程で前記フレーム部品が成形されているときに、前記待機工程にある他の前記フレーム部品に前記本接合
工程の前記溶接が施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記フレーム部品は、断面柄杓状に形成されて前記一端が柄杓の開口端に位置する柄杓状部と、前記柄杓を収容する断面カップ状に形成され、前記柄杓と協働して前記T字接合部を挟む2つの前記閉断面部を形成する外枠部とを有し、
前記仮接合工程は、少なくとも、前記柄杓の底に前記外枠部が重なる部分と、前記
柄杓の柄に前記外枠部が重なる部分とに前記仮接合処理を行うことにより実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
さらに、前記成形工程より前に前記板材における前記仮接合処理が行われる位置にリベット孔を穿設する穿孔工程が実施され、
前記仮接合工程は、前記成形工程を実施するロール成形装置より前記フレーム部品の送り方向下流側に設置されたリベット打ち込み装置を用いて前記リベット孔にリベットを打ち込むことにより実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記成形工程における前記ロールフォーム成形は、前記フレーム部品が圧縮変形するように成形応力が付与され、
前記仮接合工程における前記仮接合処理は、前記フレーム部品が前記成形応力に起因するスプリングバックにより正規の形状に復元したときに実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記成形工程で前記板材にロールフォーム成形が実施されるより前に、前記板材に前記一端が嵌合する溝を形成する溝形成工程が実施され、
前記成形工程において、前記溝に前記一端が嵌合することにより前記T字接合部が最終形状に形成されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記成形工程で前記板材にロールフォーム成形が実施されるより前に、前記板材にその一部が厚み方向の一方へ偏って位置するように段部を形成する段部形成工程が実施され、
前記成形工程において、前記段部に前記一端が係合することにより前記T字接合部が最終形状に形成されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記仮接合工程における前記仮接合処理は、前記T字接合部が前記最終形状に形成されている状態で実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記本接合工程は、前記T字接合部を前記フレーム部品の外側からレーザー溶接によって溶接することにより実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記レーザー溶接は、前記仮接合工程で前記リベット打ち込み装置により打ち込まれたリベットと前記フレーム部品の長手方向に隣接する位置にも実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記切断工程は、前記成形工程が実施されるより前に実施され、
前記仮接合工程で実施する前記仮接合処理は、前記フレーム部品の長手方向の両端部において前記板材どうしが重ね合わされる部分をクランプによって挟持することにより実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、
前記仮接合工程で実施する前記仮接合処理は、前記フレーム部品の一方の外端部と他方の外端部とを前記板材の他端部が挟まれるように挟圧部材によって挟んで緊縛することにより実施されることを特徴とするロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される部品は、強固なフレーム部品に支持させる必要がある。フレーム部品の剛性を高くするためには、フレーム部品に複数の断面四角形の枠が連続して並ぶ閉断面部を設けることが考えられる。このようなフレーム部品は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に開示されたフレーム部品は、上述した閉断面部を形成するにあたり、複数の板材を使用して行っている。すなわち、このフレーム部品は、断面S字状の成形部を有する第1の板材と、この第1の板材の両側に溶接された第2、第3の板材とによって形成されている。
【0003】
一方、複数の断面四角形の枠を有するフレーム部品としては、例えば特許文献2に記載されたものがある。特許文献2に開示されているフレーム部品は、ロールフォーム成形によって1枚の板材を断面略B字状に曲げて形成されている。板材の一端と他端は、B字の最下部において突き合わせられており、高周波溶接によって溶接されている。また、B字の上下方向の中間部は、B字の左側に向けて解放される凹部となるように形成されている。この凹部の底部分は板材どうしが重ねられており、スポット溶接が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-96385号公報
【文献】米国特許第7197824号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたフレーム部品では、断面日の字状や目の字状の閉断面部のように隣接する複数の断面四角形の枠が連続して並ぶ閉断面部を形成するにあたって、複数の板材の位置決め、溶接などの製造ステップの数が多く、生産性が低いという問題があった。
特許文献2に開示されたフレーム部品は、B字の上下方向の中間部に凹部が形成されているために、剛性が不十分で、自動車のバッテリーを収容するフレームには適用することができない。
【0006】
また、特許文献2に示すフレーム部品の板材の一端と他端とを高周波溶接により溶接するにあたっては、スプリングバックによって一端と他端とが離れることを防いで溶接精度を高くするために、治具が必要になることがある。この治具としては、フレーム部品をB字の左右両側から挟むような箱型の溶接治具が考えられる。このため、ロールフォーム成形によってフレーム部品を製造するにあたっては、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くすることが要請されている。
【0007】
本発明の目的は、複数の閉断面部を有する剛性が高いフレーム部品を生産性よく製造できるとともに、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くすることが可能なロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明に係るロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法は、金属からなる板材を予め定めた長さに切断する切断工程と、前記板材にこの板材の一端を囲むようにロールフォーム成形を施すことにより、前記一端が突き当てられた断面T字状のT字接合部と、このT字接合部を挟む2つの閉断面部を含む少なくとも2つの閉断面部とを有するフレーム部品を成形する成形工程と、前記フレーム部品に形状が保持される仮接合処理を行う仮接合工程と、前記仮接合処理が終了した前記フレーム部品を待機させる待機工程と、前記待機工程で待機している前記フレーム部品を一貫して溶接する本接合工程とを有し、前記切断工程は、前記成形工程より前と、前記仮接合工程より後であって前記待機工程より前とのいずれか一方に実施され、前記成形工程で前記フレーム部品が成形されているときに、他の前記フレーム部品に前記本接合が施される方法である。
【0009】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記フレーム部品は、断面柄杓状に形成されて前記一端が柄杓の開口端に位置する柄杓状部と、前記柄杓を収容する断面カップ状に形成され、前記柄杓と協働して前記T字接合部を挟む2つの前記閉断面部を形成する外枠部とを有し、前記仮接合工程は、少なくとも、前記柄杓の底に前記外枠部が重なる部分と、前記柄杓の前記柄に前記外枠部が重なる部分とに前記仮接合処理を行うことにより実施されてもよい。
【0010】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、さらに、前記成形工程より前に前記板材における前記仮接合処理が行われる位置にリベット孔を穿設する穿孔工程が実施され、前記仮接合工程は、前記成形工程を実施するロール成形装置より前記フレーム部品の送り方向下流側に設置されたリベット打ち込み装置を用いて前記リベット孔にリベットを打ち込むことにより実施されてもよい。
【0011】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記成形工程における前記ロールフォーム成形は、前記フレーム部品が圧縮変形するように成形応力が付与され、前記仮接合工程における前記仮接合処理は、前記フレーム部品が前記成形応力に起因するスプリングバックにより正規の形状に復元したときに実施されてもよい。
【0012】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記成形工程で前記板材にロールフォーム成形が実施されるより前に、前記板材に前記一端が嵌合する溝を形成する溝形成工程が実施され、前記成形工程において、前記溝に前記一端が嵌合することにより前記T字接合部が最終形状に形成されてもよい。
【0013】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記成形工程で前記板材にロールフォーム成形が実施されるより前に、前記板材にその一部が厚み方向の一方へ偏って位置するように段部を形成する段部形成工程が実施され、前記ロールフォーム成形工程において、前記段部に前記一端が係合することにより前記T字接合部が最終形状に形成されてもよい。
【0014】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記仮接合工程における前記仮接合処理は、前記T字接合部が前記最終形状に形成されている状態で実施されてもよい。
【0015】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記本接合工程は、前記T字接合部を前記フレーム部品の外側からレーザー溶接によって溶接することにより実施されてもよい。
【0016】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記レーザー溶接は、前記仮接合工程で前記リベット打ち込み装置により打ち込まれたリベットと前記フレーム部品の長手方向に隣接する位置にも実施されてもよい。
【0017】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記切断工程は、前記成形工程が実施されるより前に実施され、前記仮接合工程で実施する前記仮接合処理は、前記フレーム部品の長手方向の両端部において前記板材どうしが重ね合わされる部分をクランプによって挟持することにより実施されてもよい。
【0018】
本発明は、前記ロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法において、前記仮接合工程で実施する前記仮接合処理は、前記フレーム部品の一方の外端部と他方の外端部とを前記板材の他端部が挟まれるように挟圧部材によって挟んで緊縛することにより実施されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、複数の閉断面部を有する剛性が高いフレーム部品を生産性よく製造できるとともに、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くすることが可能なロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係るロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法の一実施の形態を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、ロールフォーミング成形機の側面図である。
【
図3】
図3は、保管場所と本溶接機の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、ロールフォーミングの過程を段階的に示す板材の断面図である。
【
図7】
図7は、ロールフォーミングの過程を段階的に示す板材の断面図である。
【
図8】
図8は、ロールフォーミングの過程を段階的に示す板材の断面図である。
【
図9】
図9は、スプリングバックを説明するための断面図である。
【
図10】
図10は、仮接合工程が実施されたフレーム部品の断面図である。
【
図11】
図11は、穿孔工程を有するフレーム部品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、仮接合工程を説明するための断面図である。
【
図13】
図13は、成形工程で圧縮されたフレーム部品の断面図である。
【
図14】
図14は、圧縮変形が復元する際のリベット孔の位置を示す正面図である。
【
図17】
図17は、溝形成工程を有するフレーム部品の製造方法を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、溝を形成する方法を説明するための断面図である。
【
図19】
図19は、溝に板材の一端が嵌合するときの溝の移動経路を示す断面図である。
【
図20】
図20は、段部形成工程を有するフレーム部品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図21】
図21は、レーザー溶接による溶け込み部分の形状を説明するための断面図である。
【
図22】
図22は、本接合工程が終了したフレーム部品の斜視図である。
【
図23】
図23は、複数の仮接合部分どうしの間にレーザー溶接が施されたフレーム部品の斜視図である。
【
図24】
図24は、切断工程を仮接合工程の後に実施するフレーム部品の製造方法を実施するロールフォーミング成形機の側面図である。
【
図25】
図25は、切断工程を仮接合工程の後に実施するフレーム部品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図26】
図26は、板材の重なり合う部分を挟むクランプで仮接合処理が施されたフレーム部品の斜視図である。
【
図27】
図27は、板材の重なり合う部分を挟むクランプで仮接合処理が施されたフレーム部品の正面図である。
【
図28】
図28は、フレーム部品の全体を挟むクランプで仮接合処理が施されたフレーム部品の正面図である。
【
図29】
図29は、フレーム部品の他の例を示す断面図である。
【
図30】
図30は、板材の一端が嵌合する溝を有するフレーム部品の他の例を示す断面図である。
【
図31】
図31は、板材の一端が係合する段部を有するフレーム部品の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施の形態)
以下、本発明に係るロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を
図1~
図23を参照して詳細に説明する。
(フレーム部品の製造方法の概略の説明)
この実施の形態によるロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法は、
図1のフローチャートで示すように、切断工程S1と、成形工程S2と、仮接合工程S3と、待機工程S4と、本接合工程S5とをこの順序で実施する方法である。この製造方法によって製造するフレーム部品は、図示していない自動車等の車載部品を支持するための部品や、車体の骨格の一部を構成する部品などとして使用することができるものである。
【0022】
切断工程S1と、成形工程S2と、仮接合工程S3は、
図2に示すロールフォーミング成形機1によって実施する。待機工程S4は保管場所2(
図3参照)で実施し、本接合工程S5は、本溶接機3(
図3参照)によって実施する。
ロールフォーミング成形機1は、
図2において最も左に位置する切断装置4から金属製の板材5を
図1において右側に送り、所定の形状の製品を製造するものである。切断装置4は、切断工程S1を実施するための装置である。この切断装置4は、所定の幅を有する金属製の板材5を予め定めた長さに切断する機能と、板材5に穿孔加工や溝加工、プレス加工などを行う機能と、板材5を送り方向の下流側に送る機能などを有している。
【0023】
切断装置4より板材5の送り方向下流側には多段ロール成形機6が配置され、多段ロール成形機6より板材5の送り方向下流側には仮接合装置7が配置されている。
多段ロール成形機6は、成形工程S2を実施するための装置である。この実施の形態においては、多段ロール成形機6が本発明でいう「ロール成形装置」に相当する。この多段ロール成形機6は、多数のロール6aを使用してロールフォーミング成形により板材5を所定の形状に曲げ、
図4および
図5に示すフレーム部品8を成形する。
図4は
図5に示す仮想平面Aでフレーム部品8を切断したときの断面図を示す。
図5に示す仮想平面Aには左下がりのハッチングを施してある。ロールフォーミング成形の説明は後述する。
【0024】
仮接合装置7は、仮接合工程S3を実施するための装置である。この仮接合装置7は、多段ロール成形機6によって形成されたフレーム部品8に形状が保持される仮接合処理を行う。この実施の形態による仮接合装置7は、リベット打ち込み装置9によって構成される。この実施の形態による仮接合処理は、板材5どうしが重ね合わされた部分のリベット接合である。仮接合処理の詳細な説明は後述する。
【0025】
仮接合装置7による仮接合処理が終了した後、フレーム部品8はロールフォーミング成形機1から取り出され、保管場所2に移される。多段ロール成形機6は、仮接合処理が終了したフレーム部品8を連続して作成する。このため、
図3に示すように、保管場所2には、次工程である本接合工程S5による処理を待機するために、複数のフレーム部品8が保管されるようになる。このように保管場所2でフレーム部品8が次の処理を待機する工程が待機工程S4となる。
本接合工程S5においては、保管場所2で待機しているフレーム部品8を本溶接機3に供給し、フレーム部品8に形状の変化を規制する本接合を施す。この実施の形態による本接合工程S5は、レーザー溶接が実施される。レーザー溶接の詳細な説明は後述する。
【0026】
(フレーム部品の製造方法の具体的な説明)
(成形工程S2の説明)
図4に示すフレーム部品8は、板材5にこの板材5の一端11を囲むようにロールフォーム成形を施すことによって成形されている。このようにロールフォーム成形を行うことにより、板材5の一端11が突き当てられた断面T字状のT字接合部12が形成される。T字接合部12は、詳細は後述するが、本接合工程S5でレーザー溶接が施される。なお、フレーム部品8の各部の説明を行うに当たっては、便宜上、
図4の上側をフレーム部品8の上部とし、
図4の左側をフレーム部品8の左側部として行う。
【0027】
この実施の形態によるロールフォーム成形は、T字接合部12を挟む第1の閉断面部13および第2の閉断面部14と、
図4に示すフレーム部品8の下側に位置する第3の閉断面部15とが形成されるように実施している。第1~第3の閉断面部13~15を成形するにあたっては、先ず、ロールフォーム成形の初期に板材5の一端11を含む断面柄杓状の柄杓状部16を成形する。
柄杓状部16は、板材5の一端11を有し、一端11から
図4において左側に延びる第1の横壁21と、第1の横壁21の左端から下方に延びる第1の縦壁22と、第1の縦壁22の下端から右側に延びる第2の横壁23と、第2の横壁23の右端から下方に延びる第2の縦壁24とによって構成されている。柄杓状部16は、板材5の一端11が柄杓の開口端に位置し、第1の縦壁22が柄杓の底となり、第2の縦壁24が柄杓の柄となるように形成されている。
【0028】
この実施の形態によるフレーム部品8は3つの閉断面部(第1~第3の閉断面部13~15)を有しているために、柄杓状部16を成形した後に柄杓状部16と協働して第1~第3の閉断面部13~15が形成されるように外周枠17を成形する。外周枠17は、柄杓状部16の柄杓を収容する断面カップ状の外枠部18を含んでいる。外枠部18は、柄杓状部16の柄杓と協働して、T字接合部を挟む2つの閉断面部(第1、第2の閉断面部13,14)を形成する部分である。
【0029】
外周枠17は、第2の縦壁24の下端(柄杓の柄の先端)から柄杓の底側と柄杓の開口側とを経て柄杓状部16を囲むように成形されている。詳述すると、外周枠17は、第2の縦壁24の下端から左側に延びる第3の横壁25と、第3の横壁25の左端から上方に延びて第1の縦壁22と重なる第3の縦壁26と、第3の縦壁26の上端から右側に延びる第4の横壁27と、第4の横壁27の右端から下方に延びて板材5の一端11と第2の縦壁24とに重なる第4の縦壁28とによって形成されている。
外枠部18は、第3の縦壁26と、第4の横壁27と、第4の縦壁28とによって構成されている。
【0030】
図4に示すフレーム部品8をロールフォーミング成形法によって成形する際の成形順序は、例えば
図6(A)~(G)、
図7(A)~(D)および
図8(A)~(D)に示すようになる。ロールフォーム成形は、
図1に示すロールフォーミング成形機1の多段ロール成形機6によって行う。
図6(A)~(G)、
図7(A)~(D)および
図8(A)~(D)は板材5の長手方向から見た断面図である。
【0031】
フレーム部品8を成形するためには、先ず、
図6(A)~
図7(B)に示すように柄杓状部16が成形される。すなわち、平板状態の板材5の一端11を含む第1の横壁21が曲げられ、第1の縦壁22、第2の横壁23、第2の縦壁24がこの順序で成形される。各壁どうしの間の湾曲部29(
図4参照)の曲率半径は、剛性や衝突性能に応じて多段ロール成形機6によって調整できる。そして、
図7(C)~
図8(D)に示すように、第3の横壁25、第3の縦壁26、第4の横壁27、第4の縦壁28がこの順序で成形される。
【0032】
詳述すると、
図7(D)に示す工程で第3の縦壁26と第1の縦壁22とが2重壁を形成するように重ねられる。そして、
図8(A)~(B)に示す工程で第3の縦壁26が湾曲部29を形成しながら曲げられて第4の横壁27が形成される。その後、
図8(C)~(D)に示す工程で第4の縦壁28が板材5の一端11と第2の縦壁24とに重ねられてT字接合部12が形成される。なお、
図7(D)に示す工程で第3の縦壁26を第1の縦壁22に重ねた後、
図7(E)に示すように第3の縦壁26を図において左側に曲げ、図において外周枠17の左側の上部に断面四角形の枠17aを形成する工程を追加することができる。
【0033】
この断面四角形の枠17aは、第3の縦壁26を図において時計方向に曲げて成形され、最終的に第3の縦壁26が下方に向けて延びる状態で上記の左側に曲げた部分と重なるように成形して、外側にも閉断面を追加する。このように断面四角形の枠17aを成形した後、第3の縦壁26を先端が図において右方を指向するように曲げ、
図8(B)に示す状態とする。
このようにロールフォーミング成形を行うと、湾曲部29にスプリングバックが生じ、成形後にフレーム部品8が
図9に示すように変形することがある。スプリングバックが生じると、第4の縦壁28が板材5の一端11および第2の縦壁24から離れ、第1の縦壁22が第3の縦壁26から離れる。このように変形すると、後工程でT字接合部12にレーザー溶接を行うことができなくなってしまう。このようなスプリングバックによる変形を防ぐために、成形工程S2の後に仮接合工程S3を実施する。
【0034】
(仮接合工程S3の説明)
仮接合工程S3は、少なくとも、柄杓状部16における柄杓の底(第1の縦壁22)に外枠部18(第3の縦壁26)が重なる第1の重なり部分31(
図4参照)と、柄杓の柄(第2の縦壁24)に外枠部18(第4の縦壁28)が重なる第2の重なり部分32とに仮接合処理を行うことにより実施される。この実施の形態においては、仮接合工程S3は、成形工程S2を実施する多段ロール成形機6よりフレーム部品8の送り方向下流側に設置されたリベット打ち込み装置9を用いて実施される。
【0035】
リベット打ち込み装置9は、
図10に示すように、ブラインドリベット33によってリベット接合を行うものである。
図10は、
図5に示すフレーム部品8を仮想平面Bで切断したときの断面図である。
図5に示す仮想平面Bには右下がりのハッチングを施してある。リベット接合は、ブラインドリベット33をフレーム部品8の外側からフレーム部品8のリベット孔34に挿入してリベット接合を行うものである。リベット孔34は、板材5の所定の位置に切断装置4によって穿設することができる。すなわち、この実施の形態による切断工程S1は、
図11に示すように、リベット孔34を穿設する穿孔工程S1Aを含んで実施される。
【0036】
リベット孔34は、フレーム部品8の外枠部18(第3、第4の縦壁26,28)に形成される外側のリベット孔34aと、第1、第2の縦壁22,24に形成される内側のリベット孔34bとによって構成されている。外側のリベット孔34aの孔径は、内側のリベット孔34bの孔径より大きい。
ブラインドリベット33は、
図12(A)~(C)に示すように、筒状の本体部35と、本体部35の中に移動自在に挿入されたシャフト部36とによって構成されている。本体部35の一端にはフランジ35aが設けられている。シャフト部36は、本体部35を貫通している。シャフト部36における、本体部35のフランジ35aとは反対側に突出した端部には、外径が本体部35の外径と同等の頭部36aが設けられている。
【0037】
このブラインドリベット33を用いて仮接合工程S3を実施するためには、先ず、
図12(A)に示すようにブラインドリベット33をフレーム部品8の外側からリベット孔34に挿入し、フランジ35aを第3、第4の縦壁26,28に押し付けた状態でシャフト部36をフレーム部品8の外側に向けて引く。このようにシャフト部36が引かれることにより、
図12(B)に示すように本体部35の先端35bが頭部36aによって押し広げられる。その後、シャフト部36をさらに所定の長さだけ引いて本体部35の先端35bが
図12(C)に示すように大きく変形した状態で、シャフト部36をフランジ35aから突出した部分で切断する。
このように仮接合処理が行われることにより、それ以降のスプリングバックによる変形が規制されることになり、T字接合部12において板材5の一端11が第4の縦壁28に突き当てられた状態で保持されるようになる。
【0038】
スプリングバックは、多段ロール成形機6による成形が終了したときから始まる。このため、仮接合処理が実施されるまでの間に生じたスプリングバックが原因で外側のリベット孔34aと内側のリベット孔34bとが位置ずれを起こす可能性がある。この実施の形態による外側のリベット孔34aは、内側のリベット孔34bより孔径が大きくなるように形成されているから、スプリングバックによる位置ずれに対して許容範囲を広くとることができる。
【0039】
仮接合処理が実施されるより前に生じたスプリングバックで外側のリベット孔34aが内側のリベット孔34bに対して位置ずれを起こすことを防ぐためには、ロールフォーム成形をフレーム部品8が正規の形状より圧縮変形されるように成形応力を付与することが考えられる。すなわち、フレーム部品8の外周枠17を成形する際にフレーム部品8の一部を
図13に示すように弾性変形させ、成形後の応力開放によるスプリングバックの過程で正規形状になるように成形を行う。
図13に示すフレーム部品8は、柄杓状部16の第1、第2の横壁21,23が右下がりに傾斜し、フレーム部品8の下部が圧縮により左右方向に潰れたように変形している。
図13は、変形を理解し易くするために、フレーム部品8を実際より大きく変形させて描いてある。
【0040】
このように成形後の応力開放を考慮したロールフォーム成形が実施されることにより、フレーム部品8は、成形後に応力開放に起因するスプリングバックにより正規の形状、すなわち
図4に示す形状に復元する。ロールフォーム成形でフレーム部品8が圧縮変形される場合、成形直後は
図14(A)に示すように外側のリベット孔34aと内側のリベット孔34bとが位置ずれを起こしている。しかし、スプリングバックによりフレーム部品8が正規の形状に復元すると、
図14(B)に示すように外側のリベット孔34aと内側のリベット孔34bとの位置ずれが解消される。このときに仮接合処理を行うことにより、ブラインドリベット33によるリベット接合が正しく実施される。
【0041】
このようにリベット接合を行うためには、フレーム部品8が多段ロール成形機6から仮接合装置7に送られる間に正規の形状に復元するように仮接合装置7を配置すればよい。これを実現するためには、多段ロール成形機6と仮接合装置7との間隔D(
図2参照)を、フレーム部品8が成形後に正規の形状に復元するまでの間に移動する距離とすることが考えられる。この構成を採ることにより、ロールフォーム成形で圧縮変形されたフレーム部品8が応力開放に起因するスプリングバックにより正規の形状に復元したときに、仮接合処理が実施されるようになる。
【0042】
ロールフォーム成形でフレーム部品8を圧縮変形させる場合、フレーム部品8が復元する過程でT字接合部12において板材5の一端11が第4の縦壁28に必ず突き当てられるようにするためには、
図15および
図16に示す構成を採ることが考えられる。
図15に示すT字接合部12は、第4の縦壁28に形成された溝37に板材5の一端11が嵌合する構造が採られている。
図15に示す溝37は、第4の縦壁28の内側の側面28aに連なる案内形状部38と、案内形状部38に接続された溝底部39とによって形成されている。案内形状部38は、側面28aから溝37の中に向けて延びる傾斜面によって形成されている。傾斜面は、溝37の外に向かうにしたがって次第に溝37の開口幅が広くなるように傾斜している。溝底部39は、溝37の深さ方向に延びる側面39aと、溝底となる底面39bとによって構成されており、断面形状が角張ったC字状の溝となるように形成されている。溝底部39の溝幅は、板材5の一端11が嵌合する幅である。
【0043】
図15に示す溝37は、切削や成形によって形成することができる。溝37を第4の縦壁28に切削あるいは成形により形成する溝形成工程は、成形工程S2で板材5にロールフォーム成形が実施されるより前に実施される。例えば、
図17に示すように、切断工程S1と成形工程S2との間で溝形成工程S6を実施することができる。
溝37を切削によって形成する場合は、
図18(A)に示すように回転する切削ツール41を板材5に押し付けて実施する。切削ツール41は切断装置4に設けることができるし、切断装置4と多段ロール成形機6との間に配置することもできる。
【0044】
溝37を成形によって形成する場合は、
図18(B)に示すように溝形成用のロール42を板材5に押し付けて実施する。溝形成用のロール42は、多段ロール成形機6のロールフォーム成形が実施される前の位置に設けることができる。ロール42の外周部には溝加工部43が設けられている。このロール42を板材5に押し付けて回転させることにより、溝加工部43の形状が板材5に転写されて溝37が形成される。なお、溝37は、第4の縦壁28の内面(側面28a)の一部が凹む形状に形成されているが、この凹みが形成される部位の外面には、凸形状が露出してもよい。このように凸形状が露出すると、レーザー溶接の目印になる。
【0045】
図15に示すT字接合部12においては、ロールフォーム成形により第4の縦壁28が板材5の一端11に接近する過程で
図19に示すように一端11の角部分44が案内形状部38を通過した直後に、溝底部39の隅部分45に嵌まるようになる。そして、この隅部分45を中心にして第4の縦壁28が図において時計方向に傾くようになり、板材5の一端11が溝底部39に嵌合する。このように溝37に板材5の一端11が嵌合することにより、最終形状のT字接合部12が形成される。
【0046】
図16に示すT字接合部12は、第4の縦壁28に形成された段部46に板材5の一端11が係合する構造が採られている。段部46は、第4の縦壁28にその一部が厚み方向の一方に偏って位置するように形成されている。
図16に示す段部46は、第4の縦壁28における板材5の一端11より上に位置する部分が左方に偏って位置するように形成されている。この段部46は、切断装置4のプレス機能を用いてプレス成形により形成することができる。
【0047】
段部46を第4の縦壁28に形成する段部形成工程は、成形工程S2で板材5にロールフォーム成形が実施されるより前に実施される。例えば、
図20に示すように切断工程S1と成形工程S2との間で段部形成工程S7を実施することができる。第4の縦壁28に形成された段部46に板材5の一端11が係合することにより、最終形状のT字接合部12が形成される。
【0048】
(本接合工程S5の説明)
本接合工程S5は、仮接合処理が施されて保管場所2に移されたフレーム部品8を順次本溶接機3に投入して実施される。すなわち、本接合工程S5においては、成形工程S2でフレーム部品8が成形されているときに、待機工程S4で待機している他のフレーム部品8(待機工程S4にある他のフレーム部品8)にレーザー溶接が施される。レーザー溶接は、待機工程S4で待機しているフレーム部品8について、同一の溶接で一貫して行われる。
本接合工程S5は、複数の本溶接機3を使用して複数のフレーム部品8に同時にレーザー溶接を施すことが望ましい。この理由は、T字接合部の両側に2つの閉断面を設けたフレーム部品の断面形状を規制する接合(レーザー溶接)は、ロールフォーム成形に較べると作業時間が長く必要で、複数のフレーム部品8に同時にレーザー溶接を実施することにより生産性を高くすることができるからである。
レーザー溶接は、
図21に示すように、T字接合部12にフレーム部品8の外方から(第1の横壁21とは反対側から)レーザー光Lを照射して実施する。
図21は溝37を使用する場合のT字接合部12を示しているが、溝37を使用しない場合であっても同様である。
【0049】
レーザー光Lは、第4の縦壁28の外側面28bであって、第1の横壁21(板材5の一端11)と対応する位置に照射する。このようにレーザー光LがT字接合部12に照射されることにより、第4の縦壁28の一部と第1の横壁21の一部とが溶融して混ざり合い、これらが溶接される。レーザー溶接が行われることにより、
図21中に左下がりのハッチングを施して示す弾頭形状の溶け込み部分47が生成される。溶け込み部分47の弾頭形状は、レーザー照射面(外側面28b)から第1の横壁21に向けて延びる凸形状である。弾頭形状の溶け込み部分によりレーザー照射方向からの荷重に対して第1の横壁21は倒れ易くなり、第1の横壁21が倒れることにより湾曲部29に荷重が集中し易くなって衝撃吸収量が増加する。
【0050】
レーザー溶接は、
図22において溶接部を符号48で示すように、フレーム部品8の長手方向の一端部から他端部まで連続的に実施される。
本接合工程S5が終了することにより、形状の変化が規制された最終形状のフレーム部品51が完成する。なお、レーザー溶接は、
図23に示すように、仮接合工程S3でリベット打ち込み装置9により打ち込まれたブラインドリベット33とフレーム部品8の長手方向に隣接する位置にも実施することができる。
図23に示すフレーム部品8には、長手方向に所定の間隔をおいて並ぶ複数の仮接合処理部(ブラインドリベット33)どうしの間に直線状に溶接部52が形成されるようにレーザー溶接が実施されている。
【0051】
(第1の実施の形態による効果の説明)
この実施の形態によるロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法は、金属からなる板材5を予め定めた長さに切断する切断工程S1と、板材5にロールフォーム成形を施して断面T字状のT字接合部12およびこのT字接合部12を挟む第1、第2の閉断面部13,14および第3の閉断面部15を有するフレーム部品8を成形する成形工程S2と、フレーム部品8に形状が保持される仮接合処理を行う仮接合工程S3と、フレーム部品8を待機させる待機工程S4と、待機工程S4で待機しているフレーム部品8に一貫して本溶接を施す本接合工程S5とを有し、成形工程S2でフレーム部品8が成形されているときに、待機工程S4にある他のフレーム部品8に本溶接が施される方法である。
【0052】
この製造方法によれば、T字接合部12を挟むように互いに隣り合う複数の閉断面(第1、第2の閉断面部13,14)を形成できるため、剛性が高いフレーム部品51を製造することができる。このフレーム部品51は、電動自動車用バッテリーを収容するバッテリーケースのサイドフレームとして使用できる。
ロールフォーム成形の後に仮接合処理を行っているから、ロール成形後に待機工程S4を実施してもスプリングバックでフレーム部品8が変形するようなことはない。このため、ロール成形後の本溶接精度を箱型溶接治具などを使わない、簡素な手法により向上できる。
【0053】
ロール成形に要する時間よりもT字接合部の両側に2つの閉断面を設けたフレーム部品の断面形状を規制する接合(レーザー溶接)時間は長くなるので、待機工程S4を設けることで、ロール成形速度を落とさずに生産が可能になり、生産性を向上できる。
したがって、この実施の形態によれば、複数の閉断面部を有する剛性が高いフレーム部品を生産性よく製造できるとともに、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くすることが可能なロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を提供することができる。
【0054】
この実施の形態によるフレーム部品の製造方法によって成形されたフレーム部品8は、断面柄杓状に形成されて板材5の一端11が柄杓の開口端に位置する柄杓状部16と、柄杓を収容する断面カップ状に形成され、柄杓と協働してT字接合部を挟む2つの閉断面部(第1、第2の閉断面部13,14)を形成する外枠部18とを有している。仮接合工程S3は、少なくとも、柄杓の底に外枠部18が重なる部分と、柄杓の柄に外枠部18が重なる部分とに仮接合処理を行うことにより実施される。
【0055】
この実施の形態においては、成形工程S2より前に板材5における仮接合処理が行われる位置にリベット孔34を穿設する穿孔工程S1Aが実施される。仮接合工程S3は、成形工程S2を実施する多段ロール成形機6よりフレーム部品8の送り方向下流側に設置されたリベット打ち込み装置9を用いてリベット孔34にブラインドリベット33を打ち込むことにより実施される。
ロールフォーム成形は複雑な閉断面を形成できるので、T字接合部12を含んだ複雑な閉断面を容易に作れる。しかし、オーバーベンドできない部位は、断面の圧縮変形の状態であるため、スプリングバックで戻ってしまう。したがって、その部位を仮接合処理によって仮結合する。すなわち、T字接合部12周辺の折り曲げ点(第2の縦壁24と第3の横壁25との接続部分、第4の横壁27と第4の縦壁28との接続部分)は、T字接合部12を形成した後、オーバーベンドできないため、スプリングバックにより正規位置よりも開口した状態になる可能性がある。そこで、柄杓の開口部がT字接合部12となる構成とし、柄杓の底となる部分と柄となる部分とに仮接合処理を施すことで、スプリングバックを抑制できる。
T字接合部12を含んだ複雑な閉断面は、挟みスポット溶接による仮接合ができないが、リベットを使用することによって片側接合ができる。また、仮接合処理をフレーム部品8の両側で行う場合であっても、リベット打ち込み装置9によってフレーム部品8の両側からリベットを打ち込むことができるから、仮接合処理に要する時間が短くてよい。仮接合をフレーム部品8の両側に行うことにより、仮接合の強度が安定する。
【0056】
この実施の形態による成形工程S2におけるロールフォーム成形は、フレーム部品8が圧縮変形されるように成形応力を付与することが考えられる。仮接合工程S3における仮接合処理は、フレーム部品8が応力開放に起因するスプリングバックにより正規の形状に復元したときに実施される。
この実施の形態によれば、本接合工程S5において正規の形状のフレーム部品8についてレーザー溶接を実施できるから、品質が高いフレーム部品を製造できる。
【0057】
この実施の形態において、板材5に一端11が嵌合する溝37を形成し、成形工程S2で溝37に板材5の一端11を嵌合させる場合は、スプリングバックによりT字接合部12が接合されないことを防ぐことができる。また、閉断面内でロールフォーム成形を行いながらの嵌合が可能となる。
【0058】
この実施の形態において、板材5にその一部が厚み方向の一方へ偏って位置するように段部46を形成し、成形工程S2で段部46に板材5の一端11を係合させる場合は、スプリングバックによりT字接合部12が接合されないことを防ぐことができる。また、閉断面内でロールフォーム成形を行いながらの係合が可能となる。
【0059】
この実施の形態において、仮接合工程S3における仮接合処理は、T字接合部12が最終形状に形成されている状態で実施される。
このため、T字接合部12に隣接する閉断面の製品形状を維持できる。
【0060】
この実施の形態による本接合工程S5は、T字接合部12をフレーム部品8の外側からレーザー溶接によって溶接することにより実施される。
T字接合部12は、閉断面の内側にあるが、レーザー溶接であればフレーム部品8の片側から溶接が可能となる。したがって、剛性の高いフレーム部品を製造できる。
【0061】
この実施の形態において、レーザー溶接をリベットとフレーム部品8の長手方向に隣接する位置にも実施する場合は、最終製品の形状が変化することを確実に防ぐことができる。
【0062】
(第2の実施の形態)
切断工程S1は成形工程S2の後に実施することができる。この構成を採る場合の一実施の形態を
図24および
図25によって説明する。
図24および
図25において、
図1~
図23によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0063】
この実施の形態を採る場合のロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法は、
図24に示すロールフォーミング成形機61を使用し、
図25のフローチャートに示すように実施される。
ロールフォーミング成形機61は、
図24において最も左に位置するアンコイラ62から金属製の板材5を
図24において右側に送り、所定の形状の製品を製造するものである。アンコイラ62には、金属製の板材5がコイル状に巻かれた状態で装着されている。
【0064】
アンコイラ62より板材5の送り方向の下流側には、先穴プレス63、多段ロール成形機64、仮接合装置65および切断機66などの装置がこの順序で並べて配置されている。
先穴プレス63は、板材5に穴開け加工、切削加工、プレス加工などの機械加工を施す。リベット孔34や溝37、段部46などは、この先穴プレス63によって形成することができる。
【0065】
切断機66は、筒状に成形された板材5を仮接合処理の後に所定の長さとなるように切断する。切断機66で板材5が切断されることにより、フレーム部品51となるフレーム部品8が形成される。フレーム部品8は、
図3に示す保管場所2に送られ、順次本溶接機3に投入される。
この構成を採る場合は、
図23に示すように、成形工程S2と仮接合工程S3とが終了した後に切断工程S1が実施され、その後、待機工程S4と本接合工程S5とが順次実施される。すなわち、切断工程S1は、この実施の形態に示すように仮接合工程S3より後であって待機工程S4より前と、上述した実施の形態のように成形工程S2より前とのいずれか一方に実施される。
切断工程S1を仮接合工程S3の後に実施することにより、筒状に成形された板材5をスプリングバックによる変形が抑制された状態で切断することができる。
【0066】
(仮接合処理の他の実施の形態)
第1の実施の形態を採る場合の仮接合処理はブラインドリベット33によって実施されている。しかし、仮接合処理は、
図26~
図28に示すようにクランプ71,72によって実施することができる。
図26~
図28において、
図1~
図23によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0067】
図26に示すフレーム部品8は、成形工程S2が実施されるより前に所定の長さに切断された板材5が成形工程S2で成形されたもので、長手方向の両端部にそれぞれクランプ71が取付けられている。クランプ71は、
図27に示すように、板材5どうしが重ね合わされる部分を厚み方向に挟持し、板材5どうしが密着する状態に保持するものである。
図27に示すクランプ71は、フレーム部品8の第1の縦壁22と第3の縦壁26とが重なる部分と、フレーム部品8の第2の縦壁24と第4の縦壁28とが重なる部分とにそれぞれ取付けられている。
【0068】
図28に示すクランプ72は、本発明でいう「挟圧部材」に相当するもので、フレーム部品8の一方の外端部8a(左側の端部)と他方の外端部8b(右側の端部)とを板材5の他端部73(第4の縦壁28の下端部)が挟まれるように挟んで緊縛する構造が採られている。
図28に示すクランプ72による仮接合処理は、板材5が個々のフレーム部品8に切断されていない状態であっても実施できるし、板材5が個々のフレーム部品8に切断された後であっても実施することができる。すなわち、
図28に示す大型のクランプ72による仮接合処理は、切断工程S1が成形工程S2より前に実施される場合と、切断工程S1が仮接合工程S3より後であって待機工程S4より前に実施される場合とのいずれであっても実施することが可能である。
【0069】
(フレーム部品8の変形例)
上述した各実施の形態においては、第1~第3の閉断面部13~15を有するフレーム部品8をロールフォーム成形により成形する例を示した。しかし、本発明は、
図29~
図31に示すように、T字接合部12の両側に位置する第1、第2の閉断面部81,82のみを有するフレーム部品83をロールフォーム成形により成形する場合にも適用可能である。
図29~
図31において、
図1~
図23によって説明したものと同一もしくは同等の部材については、同一符号を付し詳細な説明を適宜省略する。
【0070】
図29~
図31に示すフレーム部品83は、第1の横壁21から第1の縦壁22、第2の横壁23を成形した後、第1の横壁21の先端(板材5の一端11)と重なるように板材5を上に曲げて第5の縦壁84を成形する。そして、第1の横壁21と平行に第5の横壁85を成形した後、下方に延びる第6の縦壁86を成形する。第6の縦壁86の下端が板材5の他端になる。この第6の縦壁86は、第1の縦壁22に重なるように成形される。この実施の形態においては、第1の縦壁22と第6の縦壁86とが重なり合う重なり部分87に仮接合工程S3で仮接合処理が施される。
【0071】
図30に示すフレーム部品83の第5の縦壁84には、板材5の一端11が嵌合する溝37が形成されている。
図31に示すフレーム部品83の第5の縦壁84には、板材5の一端11が係合する段部46が形成されている。
図29~
図31に示すように第1、第2の閉断面部81,82のみを有するフレーム部品83を成形する場合であっても、
図1~
図28に示す実施の形態と同様に複数の閉断面部を有する剛性が高いフレーム部品を生産性よく製造できるとともに、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くすることが可能なロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を提供することができる。
【0072】
仮接合処理は、上述したようにブラインドリベット33やクランプ71,72によって実施する他に、接着剤(図示せず)を使用して行うことができる。
一貫して溶接する本接合工程は、レーザー溶接以外にMIG溶接や摩擦攪拌接合などでもよい。
なお、上述した実施の形態においてフレーム部品8は、柄杓の柄の先端から柄杓の底側と柄杓の開口側とを経て柄杓状部16を囲むように成形された外周枠17を有するが、柄杓の開口側と柄杓の底側とを経て柄杓状部16を囲むようにしてもよく、外周枠17に限定されず、開口があってもよい。例えば、杓状部16を成形した後に第4の縦壁28→第4の横壁27→第3の縦壁26という順序でロールフォーム成形を行うことにより、外枠部18を形成する。この外枠部18は、柄杓状部16の柄杓を収容する、下方に向けて開口する断面カップ状に形成され、柄杓と協働してT字接合部12を挟む2つの閉断面部(第1、第2の閉断面部13,14)を形成することになる。
前記実施の形態では、第3の閉断面部15を柄杓の柄(第2の縦壁24)の左側に設けたが、柄杓の柄の右側に設けてもよく、第4、第5の閉断面部を上下または左右に設けてもよい。また、柄杓状部16に対して、時計回りにロールフォーム成形したが、反時計回りにロールフォーム成形してもよい。
【符号の説明】
【0073】
5…板材、8,51,83…フレーム部品、9…リベット打ち込み装置、11…一端、12…T字接合部、13…第1の閉断面部、14…第2の閉断面部、15…第3の閉断面部、16…柄杓状部、17…外周枠、18…外枠部、31…第1の重なり部分、32…第2の重なり部分、33…ブラインドリベット、34…リベット孔、37…溝、46…段部、71…クランプ、72…クランプ(挟圧部材)、S1…切断工程、S1A、穿孔工程、S2…成形工程、S3…仮接合工程、S4…待機工程、S5…本接合工程、S6…溝形成工程、S7…段部形成工程。
【要約】
【課題】複数の閉断面部を有する剛性が高いフレーム部品を生産性よく製造できるとともに、スプリングバックを簡単な手法で抑制して溶接精度を高くできるロールフォーム成形で成形されたフレーム部品の製造方法を提供する。
【解決手段】金属からなる板材5を切断する切断工程S1と、断面T字状のT字接合部12および少なくとも2つの閉断面部を有するフレーム部品を成形する成形工程S2と、仮接合工程S3と、待機工程S4と、本接合工程S5とを有する。切断工程S1は、成形工程S2より前と、仮接合工程S3より後であって待機工程S4より前とのいずれか一方に実施される。成形工程S2でフレーム部品が成形されているときに、他のフレーム部品に本接合が施される。
【選択図】
図1