(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】油圧ダンパ、油圧調整装置及び油圧ダンパを制御する方法
(51)【国際特許分類】
F16F 9/34 20060101AFI20250107BHJP
F16F 9/20 20060101ALI20250107BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20250107BHJP
E04H 9/02 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
F16F9/34
F16F9/20
F16F9/32 T
E04H9/02 311
(21)【出願番号】P 2024163911
(22)【出願日】2024-09-20
【審査請求日】2024-09-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆介
(72)【発明者】
【氏名】栗野 治彦
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-163502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/34
F16F 9/20
F16F 9/32
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、
前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、
前記第1油圧室及び前記第2油圧室のそれぞれに接続された油圧調整部と、を備え、
前記油圧調整部は、
前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、
一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、
前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、
前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を有
し、
前記油圧調整部は、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第1油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が開放であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第2油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁の一方が開放であり、他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を切り替えるものであり、
前記油圧調整部は、前記第1油圧回路構成、前記第2油圧回路構成及び前記第3油圧回路構成の順に切り替える、油圧ダンパ。
【請求項2】
作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、
前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、
前記第1油圧室及び前記第2油圧室のそれぞれに接続された油圧調整部と、を備え、
前記油圧調整部は、
前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、
一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、
前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、
前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を有し、
前記油圧調整部は、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第1油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が開放であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第2油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁の一方が開放であり、他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力に基づいて相互に切り替え、
前記油圧調整部は、
前記ピストンの移動に応じて、前記第1油圧室の圧力が高まっているとき、前記第1油圧回路構成とし、
前記ピストンの移動の向きが逆転したとき、前記第1油圧回路構成から、前記相互開閉制御弁が開放であり前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第2油圧回路構成に切り替え、
前記第1油圧室の圧力と前記第2油圧室の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、前記第1開閉制御弁が開放であり前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第3油圧回路構成とする、油圧ダンパ。
【請求項3】
作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、を備えた油圧ダンパのための油圧調整装置であって、
前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、
一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、
前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、
前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を備
え、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第1油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が開放であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第2油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁の一方が開放であり、他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を切り替えるものであり、
前記第1油圧回路構成、前記第2油圧回路構成及び前記第3油圧回路構成の順に切り替える、油圧調整装置。
【請求項4】
作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、を備えた油圧ダンパのための油圧調整装置であって、
前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、
一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、
前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、
前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を備え、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第1油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が開放であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第2油圧回路構成と、
前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁の一方が開放であり、他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力に基づいて相互に切り替え、
前記ピストンの移動に応じて、前記第1油圧室の圧力が高まっているとき、前記第1油圧回路構成とし、
前記ピストンの移動の向きが逆転したとき、前記第1油圧回路構成から、前記相互開閉制御弁が開放であり前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第2油圧回路構成に切り替え、
前記第1油圧室の圧力と前記第2油圧室の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、前記第1開閉制御弁が開放であり前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第3油圧回路構成とする、油圧調整装置。
【請求項5】
作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、を備えた油圧ダンパを制御する方法であって、
前記ピストンの移動に応じて、前記第1油圧室の圧力が高まっているとき、前記第1油圧室及び前記第2油圧室からの前記作動油の流出を禁止する第1ステップと、
前記ピストンの移動の向きが逆転したとき、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動を許可する第2ステップと、
前記第1油圧室の圧力と前記第2油圧室の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動を禁止すると共に前記第1油圧室の圧力を開放する第3ステップと、を有する、油圧ダンパを制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ダンパ、油圧調整装置及び油圧ダンパを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ダンパは、建物の揺れを低減するための制震装置として使用される。一般的な油圧ダンパは、減衰定数を一定に保つための調整弁を備えている。減衰定数を一定に保つ油圧ダンパの性能をより高めたダンパが特許文献1~3に開示されている。特許文献1~3に開示された油圧ダンパは、シリンダと、シリンダの内部で往復移動するピストンと、ピストンの両側に設けられた油圧室と、両油圧室をつなぐ流路に設けられた開閉制御弁とを備える。特許文献1、2に開示された油圧ダンパは、開閉制御弁を開閉制御することにより、油圧ダンパのエネルギ吸収量の向上を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3397199号公報
【文献】特許第4358091号公報
【文献】特許第6000872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献3に開示された油圧ダンパは、回生したエネルギを揺れの低減に転用することによって、特許文献1、2に開示された油圧ダンパよりもエネルギ吸収量をさらに向上させることを目的としている。そのため、特許文献3に開示された油圧ダンパは、シリンダ、ピストン及び開閉制御弁に加えて、補助油圧タンクを更に備える。その結果、特許文献3に開示された油圧ダンパは、例えば特許文献1、2に開示された油圧ダンパのように補助油圧タンクを有していない油圧ダンパに比べて機構が複雑化するので、コストが増加する場合がある。さらに、特許文献3に開示された油圧ダンパは、比較的大きな補助油圧タンクが必要となるため、油圧ダンパの設置個所が制限される場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることが可能な油圧ダンパ、油圧調整装置及び油圧ダンパを制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、[1]「作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、前記第1油圧室及び前記第2油圧室のそれぞれに接続された油圧調整部と、を備え、前記油圧調整部は、前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を有する、油圧ダンパ」である。
【0007】
一形態である油圧ダンパの油圧調整部は、相互開閉制御弁と、第1開閉制御弁と、第2開閉制御弁とを有している。このような構成では、例えば、高圧側の第1油圧室の油圧が低下し始めたときに、相互開閉制御弁を開放とすることが可能となる。これにより、高圧側の第1油圧室の作動油が低圧側の第2油圧室に移動するので、第1油圧室に蓄えられたエネルギの一部を第2油圧室へ直接に移動させることができる。その結果、第1油圧室に蓄えられたエネルギを回生するための付加的な油圧回路要素を備える必要がないので、油圧回路の構成を簡易にすることができる。さらに、油圧調整部は、相互開閉制御弁を閉じた後に第1開閉制御弁を開放することによって高圧側であった第1油圧室の圧力を第2油圧室の圧力より低下させることができる。これにより生じる第1油圧室及び第2油圧室の差圧は、建物に作用する地震のエネルギの吸収量をさらに増加させることに寄与する。つまり、油圧ダンパの荷重にオフセットを与えてエネルギ吸収量を向上させることを、簡易な構成によって実現することができる。
【0008】
本発明の一形態は、[2]「前記油圧調整部は、前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第1油圧回路構成と、前記相互開閉制御弁が開放であり、前記第1開閉制御弁が閉鎖であり、前記第2開閉制御弁が閉鎖である第2油圧回路構成と、前記相互開閉制御弁が閉鎖であり、前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁の一方が開放であり、他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を相互に切り替える、上記[1]に記載の油圧ダンパ」であってもよい。この構成であっても、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0009】
本発明の一形態は、[3]「前記油圧調整部は、前記第1油圧回路構成、前記第2油圧回路構成及び前記第3油圧回路構成の順に切り替える、上記[2]に記載の油圧ダンパ」であってもよい。この構成であっても、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0010】
本発明の一形態は、[4]「前記油圧調整部は、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力に基づいて、前記第1油圧回路構成、前記第2油圧回路構成及び前記第3油圧回路構成を相互に切り替える、上記[2]又は[3]に記載の油圧ダンパ」であってもよい。この場合、例えばピストンの移動方向に基づかなくとも第1油圧回路構成、第2油圧回路構成及び第3油圧回路構成を相互に切り替えることができる。
【0011】
本発明の一形態は、[5]「前記油圧調整部は、前記ピストンの移動に応じて、前記第1油圧室の圧力が高まっているとき、前記第1油圧回路構成とし、前記ピストンの移動の向きが逆転したとき、前記第1油圧回路構成から、前記相互開閉制御弁が開放であり前記第1開閉制御弁及び前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第2油圧回路構成に切り替え、前記第1油圧室の圧力と前記第2油圧室の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、前記第1開閉制御弁が開放であり前記第2開閉制御弁が閉鎖である前記第3油圧回路構成とする、上記[4]に記載の油圧ダンパ」であってもよい。この構成であっても、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0012】
本発明の別の形態は、[6]「作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、を備えた油圧ダンパのための油圧調整装置であって、前記第1油圧室に対して第1開放流路を介して接続されると共に前記第2油圧室に対して第2開放流路を介して接続され、前記第1油圧室の圧力及び前記第2油圧室の圧力を開放するための圧力開放部と、一方の端部が前記第1油圧室に接続され、他方の端部が前記第2油圧室に接続された相互流路に設けられ、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動及び前記第2油圧室から前記第1油圧室への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、前記第1開放流路に設けられ、前記第1油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、前記第2開放流路に設けられ、前記第2油圧室から前記圧力開放部への前記作動油の移動を許可する開放と前記作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁と、を備える、油圧調整装置」である。この油圧調整装置によっても、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0013】
本発明のさらに別の形態は、[7]「作動油が充填された内部空間を有するシリンダと、前記シリンダの内部に配置され、前記内部空間を第1油圧室と第2油圧室とに分割し、前記シリンダの内部を往復移動するピストンと、を備えた油圧ダンパを制御する方法であって、前記ピストンの移動に応じて、前記第1油圧室の圧力が高まっているとき、前記第1油圧室及び前記第2油圧室からの前記作動油の流出を禁止する第1ステップと、前記ピストンの移動の向きが逆転したとき、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動を許可する第2ステップと、前記第1油圧室の圧力と前記第2油圧室の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、前記第1油圧室から前記第2油圧室への前記作動油の移動を禁止すると共に前記第1油圧室の圧力を開放する第3ステップと、を有する、油圧ダンパを制御する方法」である。この油圧ダンパを制御する方法によっても、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることが可能な油圧ダンパ、油圧調整装置及び油圧ダンパを制御する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る油圧ダンパが建物に設置された状態の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す油圧ダンパの油圧回路の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す油圧ダンパの具体的な断面構造の例示である。
【
図4】
図4(a)は、第1状態であるときの建物構造部及び制震構造部を模式的に示す図である。
図4(b)は、第1状態であるときの油圧ダンパを模式的に示す図である。
図4(c)は、第1状態であるときの油圧ダンパを示す力学モデルである。
図4(d)は、第2状態であるときの建物構造部及び制震構造部を模式的に示す図である。
図4(e)は、第2状態であるときの油圧ダンパを模式的に示す図である。
図4(f)は、第2状態であるときの油圧ダンパを示す力学モデルである。
図4(g)は、第3状態であるときの建物構造部及び制震構造部を模式的に示す図である。
図4(h)は、第3状態であるときの油圧ダンパを模式的に示す図である。
図4(i)は、第3状態であるときの油圧ダンパを示す力学モデルである。
【
図5】
図5(a)は、第4状態であるときの建物構造部及び制震構造部を模式的に示す図である。
図5(b)は、第4状態であるときの油圧ダンパを模式的に示す図である。
図5(c)は、第4状態であるときの油圧ダンパを示す力学モデルである。
図5(d)は、第5状態であるときの建物構造部及び制震構造部を模式的に示す図である。
図5(e)は、第5状態であるときの油圧ダンパを模式的に示す図である。
図5(f)は、第5状態であるときの油圧ダンパを示す力学モデルである。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は、躯体連結部に生じる変位と内部荷重との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、油圧ダンパを制御する方法の一例を示すフローチャート図である。
【
図8】
図8は、第1実施例に係る油圧ダンパの油圧回路を示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施例に係る油圧ダンパの油圧回路を示す図である。
【
図10】
図10は、第3実施例に係る油圧ダンパの油圧回路を示す図である。
【
図11】
図11は、第4実施例に係る油圧ダンパの油圧回路を示す図である。
【
図12】
図12は、第5実施例に係る油圧ダンパの油圧回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示すように、実施形態の油圧ダンパ1(オイルダンパ)は、建物100に適用される。油圧ダンパ1は、例えば建物100の任意の階(層間)に設置される。
図1は、建物100の一部を簡易的に示す。建物100は、鉛直方向に設けられる柱101a、101bと、柱101a、101bの間に掛け渡される梁102a、102bとにより構成されている。上側の梁102aと柱101aの連結部には、ブレース103aの上端が連結されている。上側の梁102a及びブレース103aが互いに連結された部位を、躯体連結部110cと称する。さらに、下側の梁102b及び柱101aが互いに連結された部位を、躯体連結部110dと称する。梁102aと柱101bの連結部には、ブレース103bの上端が連結されている。ブレース103a、103bの下端同士は、互いに連結されている。ブレース103a、103bの下端同士が互いに連結した部位を、ブレース連結部103cと称する。このブレース連結部103cと柱101bとの間に、油圧ダンパ1が設けられている。より詳細には、油圧ダンパ1は、第1の端部1aがブレース連結部103cに連結され、第2の端部1bが柱101bに連結されている。以下の説明において、柱101a、101b及び梁102a、102bをまとめて建物構造部110と称する。さらに、ブレース103a、103b及び油圧ダンパ1をまとめて制震構造部120と称する。
【0018】
例えば、地震や風等の振動外力F100によって建物100に横揺れが作用すると下層の梁102bに対して上層の梁102aの水平方向の位置がずれる(
図4(d)参照)。油圧ダンパ1は、水平方向のずれをもたらすエネルギを吸収する。その結果、建物構造部110に生じるこの水平方向のずれを抑制することができる。以下、油圧ダンパ1についてさらに詳細に説明する。
【0019】
図2は、油圧ダンパ1の構成を模式的に示す図である。
図3は、
図2に示す油圧ダンパ1の具体的な構成の例示である。油圧ダンパ1は、ダンパモジュール2と、油圧調整モジュール3(油圧調整部、油圧調整装置)と、を有する。ダンパモジュール2は、第1油圧室21および第2油圧室22を備えている。第1油圧室21および第2油圧室22には、作動油200が充填されている。油圧調整モジュール3は、第1油圧室21における内部圧力と第2油圧室22における内部圧力とを制御する。この内部圧力の制御によって、ダンパモジュール2は、地震によるエネルギを吸収することができる。
【0020】
<ダンパモジュール2>
ダンパモジュール2は、シリンダ23と、ピストン24と、一対のピストンロッド25a、25bと、を有する。シリンダ23は、例えば円筒状に形成されている。シリンダ23は、シリンダ23の内部に、内部空間20を有する。内部空間20には、油圧ダンパ1を作動するための作動油200が充填されている。
【0021】
ピストン24は、シリンダ23の内部に配置されている。ピストン24は、例えばシリンダ23の中心軸に沿う方向から見た場合に、円板状に形成されている。ピストン24は、内部空間20を第1油圧室21と第2油圧室22に分割している。ピストン24は、シリンダ23の内部を往復移動する。
【0022】
<油圧調整モジュール3>
油圧調整モジュール3は、作動油200を移動させるためのいくつかの管路と、作動油200の移動の許可と禁止とを相互に切り替えるためのいくつかの油圧回路要素と、を有する。具体的には、油圧調整モジュール3は、第1開放流路P1と、第2開放流路P2と、相互流路P3と、を有する。さらに、油圧調整モジュール3は、第1開閉制御弁31と、第2開閉制御弁32と、相互開閉制御弁33と、を有する。さらに、油圧調整モジュール3は、ダンパモジュール2の内部圧力を調整するためのアキュムレータ38(圧力開放部)を有する。
【0023】
第1開放流路P1は、第1油圧室21とアキュムレータ38とを相互に接続する。つまり、第1開放流路P1は、第1油圧室21からアキュムレータ38に作動油200を移動させる機能と、アキュムレータ38から第1油圧室21に作動油200を移動させる機能と、を有する。第2開放流路P2は、第2油圧室22とアキュムレータ38とを相互に接続する。つまり、第2開放流路P2は、第2油圧室22からアキュムレータ38に作動油200を移動させる機能と、アキュムレータ38から第2油圧室22に作動油200を移動させる機能と、を有する。
【0024】
図2の例示では、第1開放流路P1は、第2開放流路P2と共通する部位を含む。この共通する部位は、共用流路部Pcと称する。共用流路部Pcの第1の端部は、アキュムレータ38に接続されている。共用流路部Pcの第2の端部には、第1分岐流路部P1aと、第2分岐流路部P2aとが接続されている。第1分岐流路部P1aの端部は、第1油圧室21に接続されている。第2分岐流路部P2aの端部は、第2油圧室22に接続されている。このような共用流路部Pcの第2の端部を共用接続点C1と称する。つまり、第1開放流路P1は、共用流路部Pcと第1分岐流路部P1aとを含む。第2開放流路P2は、共用流路部Pcと第2分岐流路部P2aとを含む。
【0025】
第1分岐流路部P1aは、第1の端部が共用接続点C1に接続され、第2の端部が第1油圧室21に接続されている。第1分岐流路部P1aの第2の端部を、油圧調整モジュール3の第1入出力部C3aと称する。第2分岐流路部P2aは、第1の端部が共用接続点C1に接続され、第2の端部が第2油圧室22に接続されている。第2分岐流路部P2aの第2の端部を、油圧調整モジュール3の第2入出力部C3bと称する。
【0026】
相互流路P3は、第1の端部が第1分岐流路部P1aに接続されており、第2の端部が第2分岐流路部P2aに接続されている。第1分岐流路部P1aにおいて相互流路P3の第1の端部が接続された部位を第1分岐接続点C2aと称する。同様に、第2分岐流路部P2aにおいて相互流路P3の第2の端部が接続された部位を第2分岐接続点C2bと称する。つまり、相互流路P3は、第1分岐流路部P1aから第2分岐流路部P2aに作動油200を移動させる機能と、第2分岐流路部P2aから第1分岐流路部P1aに作動油200を移動させる機能と、を有する。第1分岐流路部P1aは第1油圧室21に接続されており、第2分岐流路部P2aは第2油圧室22に接続されている。従って、相互流路P3は、第1分岐流路部P1a及び第2分岐流路部P2aと協働して、第1油圧室21から第2油圧室22に作動油200を移動させる機能を有する。さらに、相互流路P3は、第1分岐流路部P1a及び第2分岐流路部P2aと協働して、第2油圧室22から第1油圧室21に作動油200を移動させる機能を有する。
【0027】
第1開放流路P1の第1分岐流路部P1aには第1開閉制御弁31が設けられている。より詳細には、第1開閉制御弁31は、共用接続点C1と第1分岐接続点C2aとの間に設けられている。第1開閉制御弁31は、第1油圧室21からアキュムレータ38への作動油200の移動を許可する開放状態と、当該作動油200の移動を禁止する閉鎖状態とを相互に切り替える。第1開閉制御弁31は、電気式でもよい。また、第1開閉制御弁31は、作動油200の油圧の変動に応じて動作する方式でもよい。
【0028】
第2開放流路P2の第2分岐流路部P2aには第2開閉制御弁32が設けられている。より詳細には、第2開閉制御弁32は、共用接続点C1と第2分岐接続点C2bとの間に設けられている。第2開閉制御弁32は、第2油圧室22からアキュムレータ38への作動油200の移動を許可する開放状態と、当該作動油200の移動を禁止する閉鎖状態とを相互に切り替える。第2開閉制御弁32は、電気式又はパッシブ式のどちらでもよい。
【0029】
相互開閉制御弁33は、相互流路P3に設けられている。相互開閉制御弁33は、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油200の移動及び第2油圧室22から第1油圧室21への作動油200の移動を許可する開放と、作動油200の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える。相互開閉制御弁33は、第1開閉制御弁31と同様に、電気式でもよいし、作動油200の油圧の変動に応じて動作する方式でもよい。
【0030】
アキュムレータ38は、第1油圧室21に対して第1開放流路P1を介して接続されている。また、アキュムレータ38は、第2油圧室22に対して第2開放流路P2を介して接続されている。
【0031】
なお、
図2では図示を省略しているが、
図3に図示するように油圧調整モジュール3は、いくつかの付加的な要素を備えてもよい。
【0032】
油圧調整モジュール3は、第1付加流路P4と第2付加流路P5と、を有する。第1付加流路P4は、第1分岐流路部P1aと共用流路部Pcとに接続されている。具体的には、第1付加流路P4の第1の端部は、第1分岐流路部P1aにおいて第1開閉制御弁31と第1入出力部C3aとの間に接続されている。第1付加流路P4の第2の端部は、共用流路部Pcにおいて共用接続点C1とアキュムレータ38との間に接続されている。第2付加流路P5は、第2分岐流路部P2aと共用流路部Pcとに接続されている。具体的には、第2付加流路P5の第1の端部は、第2分岐流路部P2aにおいて第2開閉制御弁32と第2入出力部C3bとの間に接続されている。第2付加流路P5の第2の端部は、共用流路部Pcにおいて共用接続点C1とアキュムレータ38との間に接続されている。
【0033】
さらに、油圧調整モジュール3は、第1逆止弁34と、第1オリフィス35と、第2逆止弁36と、第2オリフィス37と、を有する。第1逆止弁34は、第1付加流路P4に設けられている。具体的には、第1逆止弁34の入力側は、共用流路部Pcを介してアキュムレータ38に接続されている。第1逆止弁34の出力側は、第1分岐流路部P1aを介して第1油圧室21に接続されている。第1逆止弁34は、アキュムレータ38から第1油圧室21への作動油200の移動を許可するが、第1油圧室21からアキュムレータ38への作動油200の移動を禁止する。第1オリフィス35は、第1逆止弁34に対して並列となるように第1付加流路P4に設けられている。第2逆止弁36は、第2付加流路P5に設けられている。具体的には、第2逆止弁36の入力側は、共用流路部Pcを介してアキュムレータ38に接続されている。第2逆止弁36の出力側は、第2分岐流路部P2aを介して第2油圧室22に接続されている。第2逆止弁36は、アキュムレータ38から第2油圧室22への作動油200の移動を許可するが、第2油圧室22からアキュムレータ38への作動油200の移動を禁止する。第2オリフィス37は、第2逆止弁36に対して並列となるように第2付加流路P5に設けられている。
【0034】
油圧調整モジュール3は、第1油圧回路構成H1と、第2油圧回路構成H2と、第3油圧回路構成H3とを相互に切り替えることができる。第1油圧回路構成H1(
図4(b)等参照)は、相互開閉制御弁33が閉鎖であり、第1開閉制御弁31が閉鎖であり、第2開閉制御弁32が閉鎖である。第2油圧回路構成H2(
図4(h)等参照)は、相互開閉制御弁33が開放であり、第1開閉制御弁31が閉鎖であり、第2開閉制御弁32が閉鎖である。第3油圧回路構成H3(
図5(b)等参照)は、相互開閉制御弁33が閉鎖であり、第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32の一方が開放であり、他方が閉鎖である。
【0035】
図4、
図5及び
図6を参照しつつ、油圧ダンパ1の動作プロセスを説明する。以下の説明では、アキュムレータ38の容量は十分大きく、アキュムレータ38の初期圧力(プレストレス)は、建物100の振動によって第1油圧室21又は第2油圧室22に発生する圧力と比較して無視できるほど小さいものとする。
【0036】
<第1状態>
図4(a)は、地震等が発生しておらず、建物100が変形していない第1状態ST1であるときの建物構造部110を示す。例えば、第1状態ST1であるときのブレース連結部103cは、位置La1である。この後の説明では、建物100に地震が作用することによって、建物構造部110に変形が生じる。以下の説明において、建物構造部110の変形は、相対変位δ(
図4(d)参照)として定義する。相対変位δは、躯体連結部110dを基準とした躯体連結部110cの変位である。
【0037】
建物100が変形していない第1状態ST1であるとき、
図4(b)に示すように油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1である。第1油圧回路構成H1であるとき、各制御弁の状態は下記のとおりである。なお、
図4(b)において、制御弁が閉じていることは、制御弁を示す記号を黒く塗りつぶすことによって示す。制御弁が開いていることは、制御弁を示す記号を白く塗りつぶすことによって示す。
・第1開閉制御弁31:閉鎖
・第2開閉制御弁32:閉鎖
・相互開閉制御弁33:閉鎖
【0038】
第1状態ST1であるとき、ピストン24は、シリンダ23のほぼ中央に位置していてもよい。そして、第1状態ST1であるとき、第1油圧室21の圧力は、第2油圧室22の圧力とほぼ同じである。
図4(b)において、第1油圧室21及び第2油圧室22の圧力の程度を、ハッチングの濃淡によって図示する。相対的に高い圧力である状態は、濃いハッチングによって示される。相対的に低い圧力である状態は、薄いハッチングによって示される。第1状態ST1であるときの第1油圧室21及び第2油圧室22の圧力は、優位な差異がないから、第1油圧室21のハッチングの濃さは、第2油圧室22のハッチングの濃さと同じである。また、第1状態ST1であるとき、第1油圧室21の圧力は、アキュムレータ38の圧力とも同じであるし、第2油圧室22の圧力も、アキュムレータ38の圧力とも同じである。
【0039】
ここで、
図4(c)等に示す油圧ダンパ1の力学モデルK120について説明する。
図4(c)は、ブレース103aの剛性を模擬する弾性要素E103aと、油圧ダンパ1の剛性を模擬する弾性要素E1と、油圧ダンパ1の減衰係数Cを模擬する減衰要素D1と、をこの順に直列につないだ力学モデルK120を示す。以下の説明で用いる
図4(f)等の力学モデルK120では、弾性要素E103a、E1を一つの合成弾性要素E120として図示する。合成弾性要素E120は、直列に接続された弾性要素E103a及び弾性要素E1の剛性と等価な剛性を有している。
【0040】
油圧ダンパ1の力学モデルK120は、合成弾性要素E120及び減衰要素D1が直列に接続されたMaxwellモデルとして表現できる。この力学モデルK120は、ブレース103aの剛性が考慮されている。減衰要素D1は、相互開閉制御弁33、第1開閉制御弁31又は第2開閉制御弁32の開閉により、減衰係数(Cmax)又は減衰係数(Cmin)に切り替わる。すなわち、本実施形態のMaxwellモデルとして示される力学モデルK120は、減衰要素D1の非線形性を有する。ここで、相互開閉制御弁33、第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32が全て閉鎖の場合、減衰要素D1は、減衰係数(Cmax)である。相互開閉制御弁33が開放である場合、減衰要素D1は、減衰係数(Cmin)である。なお、以下の説明では、減衰係数(Cmax)は無限大、減衰係数(Cmin)はゼロであると仮定する。
【0041】
図4(c)は、第1状態ST1であるときの建物構造部110の力学モデルK120を示す。第1状態ST1であるとき、相対変位(δ)はゼロである。第1状態ST1であるとき、合成弾性要素E120のばね長さLd1は自然長である。つまり、相対変位(δ)がゼロであるから、合成弾性要素E120には、なんらの弾性力も発生していない。また、躯体連結部110cの水平方向の速度がゼロであるから、減衰要素D1にもなんらの減衰力も発生していない。
【0042】
ここで、躯体連結部110cにおける相対変位(δ)と制震構造部120に生じる内部荷重との関係に注目する。
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は、躯体連結部110dに対する躯体連結部11cの水平方向の相対変位(δ)と、制震構造部120に発生する内部荷重F120との関係を示す。例えば、
図6(a)等の横軸は、相対変位(δ)である。
図6(a)等の縦軸は、
図4(c)等に示す力学モデルK120の合成弾性要素E120に生じる内部荷重F120に相当する。第1状態ST1では、相互開閉制御弁33、第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32が全て閉鎖であるから、減衰要素D1は、減衰係数(C
max)は無限大である。つまり、減衰要素D1は、剛体であるとみなせる。この仮定によれば、内部荷重F120は、相対変位(δ)と合成弾性要素E120の剛性(K)との積であるとみなしてよい。なお、内部荷重F120は、
図4(b)等のダンパモジュール2で言えば、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力の差圧とピストンの断面積との積である。上述したように、第1状態ST1では、相対変位(δ)はゼロである。この状態(第1状態ST1:δ=0)は、
図6(a)に示すポイントGP1によって示される。
【0043】
<第2状態>
図4(d)は、地震等により
図4(a)に示す建物構造部110が変形によって躯体連結部110cに相対変位(δ)が生じた後に、当該変位の方向が反転する直前である第2状態ST2を示す。第2状態ST2であるとき、躯体連結部110dに対する躯体連結部110cの位置は、相対変位(δ)として示すことができる。一方、油圧ダンパ1は相互開閉制御弁33が閉じているので、第1油圧室21と第2油圧室22との間において作動油の移動は生じない。つまり、ピストン24は実質的に動かないとみなせる。従って、ブレース連結部103cも位置L1aを維持する。そうすると、相対変位(δ)の影響は、ブレース103aとブレース103bとに及ぶ。具体的には、ブレース103aには圧縮力、ブレース103bには引張力が作用する。そして、この圧縮力に応じるために、第1油圧室21の圧力が高まる。なお、第1状態ST1から第2状態ST2に至るまでの間、躯体連結部110cは一方向に移動し続けており、逆方向には移動しないものとする。
【0044】
建物構造部110が第1状態ST1から第2状態ST2に変形するまでの間、
図4(e)に示すように油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1を維持し続ける。より具体的には、躯体連結部110cの移動方向が一方向に移動し続けている間は、油圧ダンパ1は第1油圧回路構成H1を維持し続ける。すなわち、躯体連結部110cの移動方向が逆転するまでの間は、油圧ダンパ1は第1油圧回路構成H1を維持する。このとき、第1油圧回路構成H1では全ての制御弁が閉じられており、ブレース103aを介した力が作用するので、第1油圧室21の圧力は上昇し続ける。一方、第2油圧室22の圧力は、維持される。その結果、第1油圧室21の圧力は、第2油圧室22の圧力よりも相対的に高くなる。
図4(e)では、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力よりも高いことを示すために、第1油圧室21のハッチングの濃さが第2油圧室22のハッチングの濃さよりも濃く示されている。
【0045】
上述のとおり、油圧ダンパ1は、躯体連結部110cが一方向に移動し続けている間は、油圧ダンパ1は第1油圧回路構成H1を維持する。第1油圧回路構成H1を維持することは、躯体連結部110cが移動していることを条件としてもよいし、別の条件に従ってもよい。例えば、第1油圧回路構成H1を維持することは、第1油圧室21の圧力が上昇していることを条件としてもよい。すなわち、躯体連結部110cの移動方向が一方向に移動し続けている間は、第1油圧室21の圧力は高まり続けるため、第1油圧室21の圧力が高まっているとき、油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1を維持してもよい。換言すると、第1油圧室21の圧力が下がり始めるまでの間は、第1油圧回路構成H1を維持してもよい。
【0046】
図4(f)は、第2状態ST2であるときの建物構造部110の力学モデルK120を示す。第2状態ST2では、躯体連結部110c、110dの間に相対変位(δ)が生じている。第2状態ST2では、全ての制御弁が閉じられているため、減衰要素D1の状態は、減衰係数(C
max)である。上述のとおり、減衰係数(C
max)は無限大の大きさであると仮定しているから、減衰要素D1は剛体としてみなすことができる。その結果、油圧ダンパ1は、合成弾性要素E120だけを含むモデルとして模擬できる。
【0047】
ここで再び躯体連結部110cにおける相対変位(δ)と制震構造部120に生じる内部荷重との関係に注目する。
図6(a)において、第1状態ST1から第2状態ST2への移行は、線分GL2によって示される。そして、第2状態ST2は、ポイントGP2によって示される。第2状態ST2では、躯体連結部110cにおける相対変位(δ)は、躯体連結部110cに生じる水平変位と躯体連結部110cに生じる水平変位の差分である。その結果、制震構造部120に生じる内部荷重F120は、相対変位(δ)と合成弾性要素E120の剛性(K)との積として示される。
【0048】
<第3状態>
図4(g)は、第3状態ST3であるときの建物構造部110を示す。より詳細には、
図4(g)は、第3状態ST3である期間において、次の第4状態ST4に移行する直前の様子を示す。第3状態ST3であるときの躯体連結部110cの位置は、
図4(d)に示す第2状態ST2と同じ位置である。
図4(g)に示す躯体連結部110cの位置は、例えば躯体連結部110cの折り返し位置を示しているとも言える。
【0049】
躯体連結部110cの移動の向きが逆転したことをきっかけとして、
図4(h)に示すように油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1から第2油圧回路構成H2に切り替わる。第2油圧回路構成H2であるとき、各制御弁の状態は下記のとおりである。
・相互開閉制御弁33:開放
・第1開閉制御弁31:閉鎖
・第2開閉制御弁32:閉鎖
【0050】
つまり、相互開閉制御弁33を閉鎖から開放に切り替える。第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32は閉鎖を維持する。これにより、第1油圧室21から第2油圧室22に作動油200が移動する。この結果、第1油圧室21と第2油圧室22の差圧が解消される。このとき、第2油圧室22の圧力が上昇した結果、第2油圧室22の圧力はアキュムレータ38の圧力よりも高くなる。第2状態ST2から第3状態ST3に変化するとき、躯体連結部110cの位置が維持された状態であって、ブレース連結部103cの位置が相対変位(δ)と同じ距離だけ移動するので、位置L1aから位置La2に移る。その結果、内部荷重F120がゼロになる。第1油圧室21から第2油圧室22に作動油200が移動する間に、合成弾性要素E120に蓄えられていたひずみエネルギは熱となって消費される。
【0051】
なお、第1油圧回路構成H1から第2油圧回路構成H2への切り替え動作は、第1油圧室21の圧力に基づいて行ってもよい。すなわち、第1油圧室21の圧力が下がり始めたときに第1油圧回路構成H1から第2油圧回路構成H2に切り替えてもよい。
【0052】
図4(i)は、第3状態ST3であるときの建物構造部110の力学モデルK120を示す。第3状態ST3では、躯体連結部110cの相対変位(δ)は第2状態ST2と同じである。一方、第3状態ST3では、相互開閉制御弁33が開放されることにより、第1油圧室21と第2油圧室22の差圧が解消される。この現象は、合成弾性要素E120の縮みが解消されて、自然長に戻ることによって表現することができる。
図4(f)は、縮んでいる合成弾性要素E120をばね長Ld2として図示する。
図4(i)は、自然長に戻った合成弾性要素E120をばね長さLd1として図示する。
【0053】
ここで再び躯体連結部110cの相対変位(δ)と制震構造部120に生じる内部荷重F120との関係に注目する。
図6(b)において、第2状態ST2から第3状態ST3への移行は、線分GL3によって示される。そして、第3状態ST3は、ポイントGP3によって示される。第3状態ST3では、躯体連結部110cの相対変位(δ)は、切替が短時間であるために、第2状態ST2であるときの躯体連結部110cの相対変位(δ)から変化しない。一方、制震構造部120に生じる内部荷重F120は、所定の値からゼロに変化する。従って、第2状態ST2から第3状態ST3への移行は、
図6(c)において、Y軸に平行な線分GL3として示される。そして、第3状態ST3を示すポイントGP3は、X軸上の点として示される。
【0054】
<第4状態>
図5(a)は、油圧ダンパ1を第2油圧回路構成H2から第3油圧回路構成H3に切り替えたときの建物構造部110の第4状態ST4を示す。第4状態ST4では、第1油圧室21からアキュムレータ38に作動油200を移動させる。その結果、第1油圧室21の圧力が下がるので、第2油圧室22の圧力が第1油圧室21の圧力より高い状態となる。この状態であるとき、差圧に基づく内部荷重F120が第2油圧室22から第1油圧室21に向かってピストン24に作用する。具体的には、第3状態ST3から第4状態ST4に変化し始める状態(
図6(c)のGP3の状態)では、内部荷重F120はゼロである。ピストン24には、第1油圧室21の作動油200がアキュムレータ38に移動するに伴い増大する第2油圧室22との差圧による内部荷重F120が、躯体連結部110cの移動の向きと逆方向に作用する。このとき、ピストン24は、内部荷重F120に応じる距離だけ移動する。つまり、油圧ダンパ1は、内部荷重F120に応じる距離だけ延びる。これにより、ブレース連結部103cは、位置La2から位置La3に移動する。その結果、内部荷重F120に応じるひずみエネルギが合成弾性要素E120に蓄えられる。この動作にかかる時間は建物の振動に比べて短時間であり、建物変形によるピストン24の動きは無視できる。
【0055】
第4状態ST4であるとき、
図5(b)に示すように油圧ダンパ1は、第2油圧回路構成H2から第3油圧回路構成H3に切り替わる。第3油圧回路構成H3であるとき、各制御弁の状態は下記のとおりである。
・第1開閉制御弁31:開放
・第2開閉制御弁32:閉鎖
・相互開閉制御弁33:閉鎖
【0056】
具体的には、まず、相互開閉制御弁33が開放から閉鎖に切り替わる。この動作によって、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油200の移動が禁止される。その後、第1開閉制御弁31が閉鎖から開放に切り替わり、第2状態ST2において高圧側であった第1油圧室21とアキュムレータ38がつながる。。第1開閉制御弁31が閉鎖から開放に切り替わる直前であるとき、第1油圧室21の圧力は、アキュムレータ38の圧力よりも高い。第1開閉制御弁31が閉鎖から開放に切り替わると、この動作によって、第1油圧室21からアキュムレータ38に作動油200が移動する。
図5(b)は、第1開閉制御弁31が開放であるときの様子を図示している。その結果、第1油圧室21の圧力は、アキュムレータ38の圧力と等しくなる。この動作を、第1油圧室21の圧力を開放すると称する。そして、第1油圧室21の圧力がアキュムレータ38の圧力と等しくなったときに、第1開閉制御弁31が開放から閉鎖に切り替わる。この切り替えによって、第3油圧回路構成H3から第1油圧回路構成H1に切り替わる。
【0057】
一方、第2開閉制御弁32は、閉鎖を維持する。この動作によれば、第2油圧室22の作動油200は、第1油圧室21およびアキュムレータ38のいずれにも移動することができない。つまり、第2油圧室22の圧力は維持される。そうすると、第1開閉制御弁31が閉鎖から開放に切り替わる直前は、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力と等しい状態であった。そして、第1開閉制御弁31が閉鎖から開放に切り替わることによって第1油圧室21の圧力だけが低下する。その結果、第1油圧室21と第2油圧室22の間に差圧が生じる。具体的には、第2油圧室22の圧力が第1油圧室21の圧力より大きい。そして、この差圧に起因する内部荷重F120が、第2油圧室22から第1油圧室21に向かってピストン24に作用する。
【0058】
図5(c)は、第4状態ST4であるときの建物構造部110の力学モデルK120を示す。上述したように、第3状態ST3から第4状態ST4への切り替えによって、第2油圧室22の圧力が第1油圧室21の圧力より大きくなる状態の変化が生じ、それに応じてピストン24は紙面右向きである差圧に基づく内部荷重F120を受ける。力学モデルK120において、この差圧に基づく内部荷重F120は、合成弾性要素E120の紙面右向きである伸びとして示すことができる。その結果、合成弾性要素E120は、ばね長さLd1からばね長さLd4に延びる。
【0059】
ここで再び躯体連結部110cの相対変位(δ)と制震構造部120に生じる内部荷重F120との関係に注目する。
図6(c)において、第3状態ST3から第4状態ST4への移行は、線分GL4によって示される。そして、第4状態ST4は、ポイントGP4によって示される。第4状態ST4における動作は極めて短時間であるから、躯体連結部110cの相対変位(δ)は、第3状態ST3であるときの躯体連結部110cの相対変位(δ)から変化しない。一方、制震構造部120に生じる内部荷重F120は、ゼロから所定の値に変化する。ここでいう所定の値は、差圧に基づく内部荷重F120である。この差圧に基づく内部荷重F120は、合成弾性要素E120を伸長させるものであるから、
図6(c)ではマイナスの符号によって示される。
【0060】
<第5状態>
図5(c)に示すように、第4状態ST4から第5状態ST5に切り替える直前の状態は、合成弾性要素E120がすでに内部荷重F120の方向に所定の長さだけ伸びた状態である。この状態から、ピストン24には、紙面左向きである躯体連結部110cの相対変位(δ)が作用する。
【0061】
図5(f)は、内部荷重F120による変位(Ld4)の状態から躯体連結部110cの相対変位(δ)によってピストン24が紙面左側に移動している様子を示す力学モデルK120である。合成弾性要素E120に作用する荷重が増大することは、内部荷重F120により自然長であるばね長さLd1より長いばね長さLd4の状態から躯体連結部110cの相対変位(δ)によってさらに合成弾性要素E120が紙面左向きに伸びることによって示される。
【0062】
図5(e)に示すように、第1開閉制御弁31、第2開閉制御弁32、相互開閉制御弁33の全てが閉鎖した状態でピストン24が移動しているときには、再び油圧ダンパ1は、バネのような挙動を示す。つまり、この移動に応じて、第2油圧室22の圧力はさらに高まる。
【0063】
図5(f)に示すように、ピストン24の移動は、躯体連結部110cの相対変位(δ)の変化によって示される。さらに、合成弾性要素E120に作用する荷重もさらに増大する。このことは、合成弾性要素E120が紙面左向きにさらに伸びることによって示される。その結果、合成弾性要素E120は、ばね長さLd4からばね長さLd5に延びる。
【0064】
ここで再び、躯体連結部110cの相対変位(δ)と制震構造部120に生じる内部荷重F120との関係に注目する。
図6(c)において、第4状態ST4から第5状態ST5への移行は、線分GL5によって示される。上述したように、第5状態ST5では、躯体連結部110cは、紙面左向きに移動するので、
図6(c)においてX軸の値が次第に小さくなるように線分GL5が延びる。さらに、第5状態ST5では、合成弾性要素E120が紙面左向きにさらに伸びる(
図5(f)参照)ので、この伸びによって内部荷重F120の絶対値も次第に大きくなる。
【0065】
注目すべきは、第5状態ST5の始点は、所定の圧力を有している点である。このような状態からピストン24の紙面左向きの移動が開始され、移動が終了したときである第5状態ST5の終点は、第1状態ST1であるときの圧力よりも高い圧力をとる。これは、第3状態ST3から第4状態ST4に移行するときに生じた差圧による内部荷重F120に起因するものと考えられる。
【0066】
[油圧ダンパを制御する方法]
図7を参照しつつ、本実施形態の油圧ダンパ1を制御する方法を説明する。ここで、油圧ダンパ1を制御する方法は、2つの動作態様によって実現できる。
【0067】
第1の態様は、油圧調整モジュール3を構成する油圧回路要素の機能によって、第1開閉制御弁31、第2開閉制御弁32および相互開閉制御弁33の開閉制御が実行されるものである。第1の態様では、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力を計測するセンサや、センサから得たデータを用いて各制御弁のための制御信号を生成するコントローラを必要としない。第2の態様は、油圧ダンパ1がセンサ及びコントローラを備えており、コントローラが出力する制御信号によって、第1開閉制御弁31、第2開閉制御弁32および相互開閉制御弁33の開閉制御が実行されるものである。第1の態様として動作する油圧ダンパ1の具体例は、第1実施例として後述する。また、第2の態様として動作する油圧ダンパ1の具体例は、第2実施例として後述する。
【0068】
以下、第1の態様で動作する油圧ダンパ1を例に、油圧ダンパを制御する方法について説明する。以下の説明では、油圧ダンパ1の動作を「ステップS」として示す。「ステップS」として説明する油圧ダンパ1の動作とは、あらかじめ設定された油圧ダンパ1の機能によって生じる能動的な動作である。さらに、油圧ダンパ1の動作のきっかけとなる事象を「イベントN」として示す。
【0069】
まず、地震が発生していない第1状態ST1(
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)参照)であるとき、油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1となる(ステップS1)。ステップS1は、第1開閉制御弁31を閉鎖することと(ステップS11)と、第2開閉制御弁32を閉鎖することと(ステップS12)と、相互開閉制御弁33を閉鎖すること(ステップS13)と、を含む。これらのステップS11、S12、S13は、任意の順番で実行してよい。
【0070】
次に、地震が発生したとする(イベントN1)。地震の発生によって、ピストン24が第1油圧室21側に移動を開始する第2状態ST2(イベントN2:
図4(d)、
図4(e)及び
図4(f)参照)となる。第2状態ST2であるとき、油圧ダンパ1は第1油圧回路構成H1を維持する(ステップS2)。
【0071】
次に、外部荷重の方向が逆転する(イベントN3)。その結果、ピストン24の移動方向が逆転する(イベントN4)。ピストン24の移動方向が逆転する状態は、第3状態ST3(
図4(g)、
図4(h)及び
図4(i)参照)である。第3状態ST3となったとき、油圧ダンパ1は、第1油圧回路構成H1から第2油圧回路構成H2に切り替わる(ステップS3)。ステップS3は、第1開閉制御弁31の閉鎖を維持すること(ステップS31)と、第2開閉制御弁32の閉鎖を維持すること(ステップS32)と、相互開閉制御弁33を閉鎖から開放に切り替えること(ステップS33)と、を含む。これらのステップS31、S32、S33は、任意の順番で実行してよい。
【0072】
次に、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力とが均衡する(イベントN5)。第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力とが均衡したとき、油圧ダンパ1は、第2油圧回路構成H2から第3油圧回路構成H3に切り替わる(ステップS4)。ステップS4は、相互開閉制御弁33を開放から閉鎖に切り替えること(ステップS41)、第1開閉制御弁31を閉鎖から開放に切り替えること(ステップS42)、第2開閉制御弁32の閉鎖を維持すること(ステップS43)と、を含む。ステップS41は、ステップ42よりも先に実行される。ステップS43は、閉鎖状態の維持であるからステップS41,S42との順は関係ない。
【0073】
第1油圧室21の圧力を開放する。第1油圧室21の圧力を開放する状態は、第4状態ST4である(
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c)参照)。油圧ダンパ1の第1開閉制御弁31は、閉鎖から開放に切り替わる(ステップS42)。その結果、第1油圧室21の圧力が低下し、第2油圧室22との間に生じた差圧に基づく内部荷重F120によってピストン24は第2油圧室22から第1油圧室21の方向に移動する(ステップN6)。
【0074】
第1油圧室21の圧力がアキュムレータ38の圧力と均衡した状態となったとき(イベントN7)、油圧ダンパ1は、第3油圧回路構成H3から第1油圧回路構成H1に切り替わる(ステップS5)。ステップS5は、第1開閉制御弁31を開放から閉鎖に切り替えること(ステップS51)、第2開閉制御弁32の閉鎖を維持すること(ステップS52)、相互開閉制御弁33の閉鎖を維持すること(ステップS53)と、を含む。これらのステップS51、S52、S53、は任意の順番で実行してよい。
【0075】
第1開閉制御弁31、第2開閉制御弁32、相互開閉制御弁33の全てが閉鎖した第5状態ST5(イベントN8:
図5(d)、
図5(e)及び
図5(f)参照)では、油圧ダンパ1は第1油圧回路構成H1となる。その後、ステップS2~ステップS5が再度実行される。なお、
図5(d)において破線にて示す位置Lb1は、建物100が変形していない第1状態ST1であるときの躯体連結部110cの位置である。
【0076】
[作用及び効果]
これまで詳細に説明した実施形態は、地震や風等の振動外力F100による建物の揺れを低減するために使用される制震用の油圧ダンパであって、開閉制御弁を制御する油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法、及びその方法に使用される油圧ダンパに関するものである。
【0077】
構造物に適用される制震技術が検討されている。例えば、制震技術には、構造物に取り付けたオイルダンパによって、地震等に起因して構造物に与えられるエネルギを吸収する技術がある。一般に、オイルダンパの減衰係数は一定である。その結果、制震装置自身が有する剛性だけでなく、制震装置を構造物に取り付ける連結部材の剛性や、制震装置が設けられる周囲の架構の変形に起因する剛性による制約の理由から、吸収可能なエネルギの量には限界が存在する。
【0078】
特開2002-013310号公報は、制震構造物用可変減衰装置を開示し、特開2006-153068号公報は減衰係数切替型油圧ダンパを開示する。これらの装置は、オイルダンパの流路に設けられた開閉制御弁を有する。そして、開閉制御弁の開度を、全開及び全閉のいずれに制御することにより、エネルギの吸収量の向上を図る。この制御によれば、上述した剛性に起因する制約下において、エネルギの吸収量を最大化することができる。
【0079】
特開2014-163502号公報は、油圧ダンパ開閉制御弁の制御方法を開示する。この制御方法が適用される装置は、油圧ダンパ及び開閉制御弁に加えて、さらに油圧タンクを有する。この油圧タンク及び開閉制御弁によれば、構造物に与えられたエネルギを回生するとともに、回生したエネルギを制震に転用することができる。その結果、エネルギの吸収量がさらに向上する。
【0080】
特開2014-163502号公報に開示された装置は、エネルギ回生のための構成要素として、油圧タンクと3個の開閉制御弁とを備えている。従って、油圧ダンパへの付加構成要素の構造が複雑化する。
【0081】
そこで、本実施形態は、油圧タンクを追加することなく、アキュムレータと油圧室を利用することでマックスウェルモデルの理論上最大となるエネルギ吸収量を上回る油圧ダンパ及び油圧ダンパの制御方法を説明したものである。
【0082】
油圧ダンパ1は、作動油が充填された内部空間20を有するシリンダ23と、シリンダ23の内部に配置され、内部空間20を第1油圧室21と第2油圧室22とに分割し、シリンダ23の内部を往復移動するピストン24と、第1油圧室21及び第2油圧室22のそれぞれに接続された油圧調整モジュール3と、を備え、油圧調整モジュール3は、第1油圧室21に対して第1開放流路P1を介して接続されると共に第2油圧室22に対して第2開放流路P2を介して接続され、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力を開放するためのアキュムレータ38と、一方の端部が第1油圧室21に接続され、他方の端部が第2油圧室22に接続された相互流路P3に設けられ、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油の移動及び第2油圧室22から第1油圧室21への作動油の移動を許可する開放と作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁33と、第1開放流路P1に設けられ、第1油圧室21からアキュムレータ38への作動油の移動を許可する開放と作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁31と、第2開放流路P2に設けられ、第2油圧室22からアキュムレータ38への作動油の移動を許可する開放と作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁32と、を有する。
【0083】
油圧ダンパ1の油圧調整モジュール3は、相互開閉制御弁33と、第1開閉制御弁31と、第2開閉制御弁32とを有している。このような構成では、例えば、高圧側の第1油圧室21の油圧が低下し始めたときに、相互開閉制御弁33を開放とすることが可能となる。これにより、高圧側の第1油圧室21の作動油を低圧側の第2油圧室22に移動させ、第1油圧室及び第2油圧室の一対の油圧室同士の油圧を均衡させることができる。また、油圧調整モジュール3は第1開閉制御弁31を有しているので、第1油圧室21及び第2油圧室22の差圧が解消されたときに、第1開閉制御弁31を閉鎖から開放に切り変えて、高圧側であった第1油圧室21の作動油をアキュムレータ38に移動させることができる。これにより、第1油圧室21及び第2油圧室22に差圧を生じさせることができる。この結果、油圧ダンパ1の荷重にオフセットを与えてエネルギ吸収量を大きくすることができる。
【0084】
また、油圧ダンパ1は、補助油圧タンクを有していないため、油圧回路の構成を簡素化することができる。以上より、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。また、圧力開放部として、一般的な油圧ダンパに備えられているアキュムレータ38を適用することができるため、一般的な油圧ダンパに対して大きくなることを抑制すると共に、コストの増加を抑制することもできる。
【0085】
油圧調整モジュール3は、相互開閉制御弁33が閉鎖であり、第1開閉制御弁31が閉鎖であり、第2開閉制御弁32が閉鎖である第1油圧回路構成と、相互開閉制御弁33が開放であり、第1開閉制御弁31が閉鎖であり、第2開閉制御弁32が閉鎖である第2油圧回路構成と、相互開閉制御弁33が閉鎖であり、第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32の一方が開放であり他方が閉鎖である第3油圧回路構成と、を相互に切り替える。この構成によれば、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0086】
油圧調整モジュール3は、第1油圧回路構成、第2油圧回路構成及び第3油圧回路構成の順に切り替える。この構成によれば、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0087】
油圧調整モジュール3は、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力に基づいて、第1油圧回路構成、第2油圧回路構成及び第3油圧回路構成を相互に切り替える。これにより、例えばピストンの移動方向に基づかなくとも、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力に基づいて第1油圧回路構成、第2油圧回路構成及び第3油圧回路構成を切り替えることができる。
【0088】
油圧調整モジュール3は、ピストン24の移動に応じて、第1油圧室21の圧力が高まっているとき、第1油圧回路構成とし、ピストン24の移動の向きが逆転したとき、第1油圧回路構成から、相互開閉制御弁33が開放であり第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32が閉鎖である第2油圧回路構成に切り替え、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、第1開閉制御弁31が開放であり第2開閉制御弁32が閉鎖である第3油圧回路構成とする。この構成によれば、適切にエネルギ吸収量を向上させることができる。すなわち、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、第1開閉制御弁31が開放であり第2開閉制御弁32が閉鎖である第3油圧回路構成とすることで、第1油圧室21及び第2油圧室22に差圧を生じさせることができる。この差圧は、ピストン24の移動方向とは逆向きに働く。この結果、荷重にオフセットを与えてエネルギ吸収量を大きくすることができる。
【0089】
すなわち、建物が変形し、第1油圧室21の圧力が高まっているときは、油圧ダンパ1及びブレース103a、103bのバネに建物の振動エネルギを蓄えさせ、建物100の振動が逆転するタイミング(すなわち第1油圧室21の圧力が低下し始めたとき)で一気に第2油圧室22へ作動油を移動させ、第1油圧室21及び第2油圧室22の圧力を均衡させる。その後、第1開閉制御弁31を開いてアキュムレータ38に第1油圧室21の作動油を移動させ、第1油圧室21と第2油圧室22との間に急激に差圧を生じさせる。これにより、油圧ダンパ1の荷重にオフセットを与え、エネルギ吸収量を大きくする。
【0090】
油圧ダンパを制御する方法は、ピストン24の移動に応じて、第1油圧室21の圧力が高まっているとき、第1油圧室21及び第2油圧室22からの作動油の流出を禁止する第1ステップと、ピストン24の移動の向きが逆転したとき、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油の移動を許可する第2ステップと、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力との差圧が閾値より小さくなったとき、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油の移動を禁止すると共に第1油圧室21の圧力を開放する第3ステップと、を有する。この油圧ダンパを制御する方法によっても、油圧ダンパ1と同様に、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0091】
<第1実施例>
図8は第1実施例に係る油圧ダンパ1Aが備える油圧調整モジュール3Aの油圧回路図である。油圧調整モジュール3Aは、主要な要素として、第1開閉弁51と、第2開閉弁52と、を有する。第1開閉弁51は、相互開閉制御弁33として機能する。第1開閉弁51の動作を切り替えるための要素として、油圧調整モジュール3Aは、パイロット操作弁54を有する。また、これらの要素を接続する流路には、バッファ62と、オリフィス60、63、64と、可変オリフィス65と、逆止弁66、67と、リリーフ弁68とが設けられている。第2開閉弁52は、方向切換弁55の位置に応じて第1開閉制御弁31又は第2開閉制御弁32として機能する。方向切換弁55の位置は、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力の関係に従う。さらに、油圧調整モジュール3Aは、第1切換弁53を有する。第1切換弁53は、バッファ62に蓄積された圧力を開放する要素として機能する。また、油圧調整モジュール3Aは、第1油圧室21の過大な圧力を逃がすためのリリーフ弁39と、第2油圧室22の過大な圧力を逃がすためのリリーフ弁40と、を有する。
【0092】
油圧調整モジュール3Aは、さらに、方向切換弁55を有する。方向切換弁55は、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力の関係に応じて、第1開閉弁51に第1油圧室21及び第2油圧室22の一方を接続し、第2開閉弁52に第1油圧室21及び第2油圧室22の他方を接続する。
【0093】
<第1油圧回路構成>
第1油圧回路構成H1は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2開閉弁52も閉じている状態である。第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力より高い状態であるとする。この状態では、方向切換弁55の左面55aに作用する圧力よりも右面55bに作用する圧力が大きいことによって、第1油圧室21が第1開閉弁51の前面51aに接続されるとともに第2油圧室22が第2開閉弁52の前面52aに接続される。第1油圧室21の圧力が高い状態であり、かつ、第1油圧室21の圧力が上昇している状態では、パイロット操作弁54の左面54aに作用する圧力が、パイロット操作弁54の右面54bに作用する圧力とバネの圧力の合計よりも小さいので、パイロット操作弁54は、閉じている。このとき、第1開閉弁51は、閉じた状態である。また、第1開閉弁51は、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油200の移動を禁止しているから、相互開閉制御弁33として機能する。また、第2開閉弁52は、第1油圧室21からアキュムレータ38へ作動油200の移動を禁止しているから、第1開閉制御弁31として機能する。
【0094】
第2開閉弁52の背面52bには、バッファ62に蓄積された第1油圧室21の圧力が作用する。第2開閉弁52の背面52bに作用する第1油圧室21の圧力は、第2開閉弁52の前面52aに作用する第2油圧室22の圧力よりも高いので、第2開閉弁52は閉じる。このとき、第2開閉弁52は、第2油圧室22からの作動油200の移動を禁止しているから、第2開閉制御弁32として機能する。
【0095】
<第2油圧回路構成>
第2油圧回路構成H2は、第1開閉弁51が開いており、かつ、第2開閉弁52も閉じている状態によって実現される。第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力より高い状態であるが、第1油圧室21の圧力が下がり始めた状態であるとする。バッファ62と第1油圧室21との間の流路には、逆止弁66が設けられている。この逆止弁66によれば、バッファ62は、高圧の状態を維持する。この状態では、パイロット操作弁54の左面54aに作用するバッファ62からの圧力(第1油圧室21の最大圧力)が、パイロット操作弁54の右面54bに作用する第1油圧室21の圧力よりも高くなる。その結果、パイロット操作弁54が開く。パイロット操作弁54が開くと、第1開閉弁51の背面51bに作用する圧力が第1開閉弁51の前面51aに作用する圧力よりも低くなるので、第1開閉弁51は、開く。その結果、第1油圧室21から方向切換弁55及び第1開閉弁51を経由する流路が形成される。この流路は、
図2に示す相互流路P3に対応する。このとき、第1開閉弁51は、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油200の移動を許可しているから、相互開閉制御弁33として機能する。
【0096】
なお、第2開閉弁52の背面52bに作用するバッファ62からの圧力(第1油圧室21の圧力最大値)は、第2開閉弁52の前面52aに作用する下がりつつある第1油圧室21の圧力より高い。したがって、第2開閉弁52は閉じている。このとき、第2開閉弁52は、第2油圧室22からの作動油200の移動を禁止しているから、第2開閉制御弁32として機能する。つまり、方向切換弁55の状態に応じて、第2開閉弁52が第1開閉制御弁31として機能するか、第2開閉制御弁32として機能するかが決まる。従って、第1実施例では、
図2等に示す第1開閉制御弁31及び第2開閉制御弁32を一つの第2開閉弁52によって実現している。
【0097】
<第3油圧回路構成>
第3油圧回路構成H3は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2開閉弁52が開いている状態によって実現される。第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力と均衡し、さらにわずかに第2油圧室22の圧力が第1油圧室21の圧力よりも大きい状態に至ったとする。この状態では、まず、方向切換弁55の左面55aに作用する圧力が右面55bに作用する圧力が大きいことによって、第1油圧室21が第2開閉弁52の前面52aに接続されるとともに第2油圧室22が第1開閉弁51の前面51aに接続される。この間に、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力と均衡した状態に至ると、第1切換弁53の左面53aと右面53bとに作用する圧力も均衡する。その結果、第1切換弁53は、バッファ62をアキュムレータ38に接続される。そうすると、パイロット操作弁54の左面54aに作用する圧力は、パイロット操作弁54の右面54bに作用する圧力と均衡し、右面54bのバネにより、パイロット操作弁54は閉じる。その結果、第1開閉弁51は閉じる。このとき、第1開閉弁51は、第2油圧室22から第1油圧室21への作動油200の移動を禁止しているから、相互開閉制御弁33として機能する。また、バッファ62に蓄積されていた圧力が開放されると、第2開閉弁52の背面52bに作用する圧力が、第2開閉弁52の前面52aに作用する均衡状態に至った第1油圧室21の圧力よりも低くなる。したがって、第2開閉弁52は開くので、第1油圧室21からアキュムレータ38に至る流路が形成される。この流路は、
図2に示す第1開放流路P1に対応する。このとき、第2開閉弁52は、第1油圧室21からアキュムレータ38への作動油200の移動を許可しているから、第1開閉制御弁31として機能する。
【0098】
第1実施例に係る油圧ダンパ1Aであっても、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様の動作を行うことができる。したがって、第1実施例に係る油圧ダンパ1Aは、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様に、油圧ダンパ1の構成を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0099】
<第2実施例>
図9は第2実施例に係る油圧ダンパ1Bの油圧回路図である。油圧ダンパ1Bは、第1開閉弁51及び第2開閉弁52の開放及び閉鎖の制御が、コントローラ71によって実行される。第2実施例に係る油圧ダンパ1Bは、セミアクティブ型である。
【0100】
第2実施例の油圧調整モジュール3Bは、油圧回路を構成する要素として、第1開閉弁51と、第2開閉弁52と、方向切換弁55と、第1電磁弁69と、第2電磁弁70と、を有する。さらに、第2実施例の油圧調整モジュール3Bは、第2開閉弁52に付随するオリフィス74及び可変オリフィス75をさらに有する。第1開閉弁51、第2開閉弁52および方向切換弁55の配置や機能は、第1実施例とおおむね同じであるから詳細な説明は省略する。第1電磁弁69は、第1開閉弁51の背面51bとアキュムレータ38との間に接続されており、第1開閉弁51の開放と閉鎖とを相互に切り替える。第2電磁弁70は、第2開閉弁52の背面52bとアキュムレータ38との間に接続されており、第2開閉弁52の開放と閉鎖とを相互に切り替える。なお、第2実施例の油圧調整モジュール3Bは、ピストンロッド25の変位を測定するための変位計79を有してもよい。
【0101】
第1電磁弁69及び第2電磁弁70は、コントローラ71から与えられた第1制御信号C69及び第2制御信号C70に応じて、開放と閉鎖とを相互に切り替える。例えば、第1電磁弁69が閉鎖であるとき、第1開閉弁51も閉鎖である。第1電磁弁69が開放であるとき、第1開閉弁51も開放である。
【0102】
第2実施例の油圧調整モジュール3Bは、油圧回路を制御する要素として、コントローラ71と、第1圧力センサ72と、第2圧力センサ73と、を有する。第1圧力センサ72は、第1油圧室21の第1圧力値D21を得るとともに、第1圧力値D21をコントローラ71に渡す。第2圧力センサ73は、第2油圧室22の第2圧力値D22を得るとともに、第2圧力値D22をコントローラ71に渡す。
【0103】
コントローラ71は、第1圧力値D21及び第2圧力値D22を用いて、第1制御信号C69及び第2制御信号C70を生成する。そして、コントローラ71は、第1制御信号C69を第1電磁弁69に与えるとともに第2制御信号C70を第2電磁弁70に与える。
【0104】
<第1油圧回路構成>
コントローラ71は、以下の条件を満たすときに、第1油圧回路構成H1を実現するように第1制御信号C69及び第2制御信号C70を制御する。
・条件:第1圧力値D21及び第2圧力値D22が互いに等しく、かつ、第1圧力値D21及び第2圧力値D22がアキュムレータ38の圧力とも等しいとき。または、第1圧力値D21及び第2圧力値D22が共に所定の閾値以下のとき。
・条件:第1圧力値D21及び第2圧力値D22の一方が時間の経過とともに高まっているとき。
【0105】
<第2油圧回路構成>
コントローラ71は、第1制御信号C69を第1電磁弁69に出力する。コントローラ71は、第2制御信号C70を第2電磁弁70に出力しない。その結果、第1開閉弁51が開くとともに第2開閉弁52は閉じるので、第2油圧回路構成H2が実現される。コントローラ71は、以下の条件を満たすときに、第2油圧回路構成H2を実現するために、第1制御信号C69を出力し、第2制御信号C70を出力しない。
・条件:第1圧力値D21及び第2圧力値D22のうち値が大きいほうの圧力値がその最大値から時間の経過とともに下がり始めたとき。
【0106】
<第3油圧回路構成>
コントローラ71は、第1制御信号C69を第1電磁弁69に出力しない。コントローラ71は、第2電磁弁70を開く第2制御信号C70を第2電磁弁70に出力する。その結果、第1開閉弁51が閉じるとともに第2開閉弁52は開くので、第3油圧回路構成H3が実現される。コントローラ71は、以下の条件を満たすときに、第3油圧回路構成H3を実現するために第1制御信号C69を出力せず、第2制御信号C70を出力する。
・条件:第1圧力値D21及び第2圧力値D22が互いに等しく、かつ、第1圧力値D21及び第2圧力値D22がアキュムレータ38の圧力より高いとき。または、第1圧力値D21及び第2圧力値D22が共に所定の閾値よりも高いとき。
【0107】
第2実施例に係る油圧ダンパ1Bであっても、コントローラ71の指示によって、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様の動作を行うことができる。第2実施例に係る油圧ダンパ1は、電磁弁、圧力センサ及びコントローラ等によって構成されることにより、全体として油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。また、第1変形例に係る油圧ダンパ1Aに比べて、相互開閉制御弁33を制御するためのパイロット操作弁54及びバッファ62等を含む制御回路等が不要となるため、油圧ダンパの機構をさらに簡素化することができる。
【0108】
<第3実施例>
図10は第3実施例に係る油圧ダンパ1Cである。油圧ダンパ1Cは、第1開閉弁51の開放及び閉鎖の制御がパイロット操作弁54によって実行され、第2開閉弁52の開放及び閉鎖の制御がコントローラ71によって実行される。第3実施例に係る油圧ダンパ1Cは、ハイブリッド型である。
【0109】
第3実施例の油圧調整モジュール3Cは、油圧回路を構成する要素として、第1開閉弁51と、第2開閉弁52と、方向切換弁55と、パイロット操作弁54と、第2電磁弁70と、を有する。さらに、第3実施例の油圧調整モジュール3Cは、第2電磁弁70に付随する可変オリフィス75をさらに有する。これらの要素の配置や機能は、第1実施例及び第2実施例とおおむね同じであるから詳細な説明は省略する。
【0110】
第2電磁弁70は、コントローラ71から与えられた第2制御信号C70をうけたとき、閉鎖から開放に切り替わる。第2電磁弁70が閉鎖であるとき、第2開閉弁52も閉鎖である。第2電磁弁70が開放であるとき、第2開閉弁52も開放である。
【0111】
<第1油圧回路構成>
第1油圧回路構成H1は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2開閉弁52も閉じている状態である。第1開閉弁51を閉じる仕組みは、第1実施例で説明したものと同じである。第2開閉弁52を閉じる仕組みは、第2実施例で説明したものと同じである。
【0112】
<第2油圧回路構成>
第2油圧回路構成H2は、第1開閉弁51が開いており、かつ、第2開閉弁52は閉じている状態である。第1開閉弁51を開く仕組みは、第1実施例で説明したものと同じである。第2開閉弁52を閉じる仕組みは、第2実施例で説明したものと同じである。
【0113】
<第3油圧回路構成>
第3油圧回路構成H3は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2開閉弁52は開いている状態である。第1開閉弁51を閉じる仕組みは、第1実施例で説明したものと同じである。第2開閉弁52を開く仕組みは、第2実施例で説明したものと同じである。
【0114】
第3実施例に係る油圧ダンパ1Cであっても、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様の動作を行うことができる。したがって、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様に、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0115】
<第4実施例>
図11は第4実施例に係る油圧ダンパ1Dである。第4実施例の油圧ダンパ1Dは、第1実施例の油圧ダンパ1Aの油圧調整モジュール3Aにおいて、第2開閉弁52を第2切換弁78に置き換えたものである。第2切換弁78は、例えばスプール弁である。
【0116】
第4実施例の油圧調整モジュール3Dは、油圧回路を構成する要素として、第1開閉弁51と、方向切換弁55と、パイロット操作弁54と、第1切換弁53と、第2切換弁78と、を有する。第1開閉弁51、パイロット操作弁54、方向切換弁55および第1切換弁53の配置や機能は、第1実施例とおおむね同じであるから詳細な説明は省略する。
【0117】
第2切換弁78は、
図3に示す第1開閉制御弁31又は第2開閉制御弁32に対応する。第2切換弁78は、方向切換弁55とアキュムレータ38との間に配置されている。第2切換弁78は、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力との関係に応じて、第1油圧室21又は第2油圧室22をアキュムレータ38に接続する。具体的には、第2切換弁78は、第1油圧室21又は第2油圧室22をアキュムレータ38に接続する構成と、第1油圧室21又は第2油圧室22をアキュムレータ38から切断する構成と、を切り替える。第2切換弁78は、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力より高いとき、第2油圧室22をアキュムレータ38から切断する。また、第2切換弁78は、第2油圧室22の圧力が第1油圧室21の圧力より高いとき、第1油圧室21をアキュムレータ38から切断する。さらに、第2切換弁78は、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力と等しいとき、第1油圧室21又は第2油圧室22をアキュムレータ38に接続する。
【0118】
<第1油圧回路構成>
第1油圧回路構成H1は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2切換弁78も閉じている状態である。換言すると、第1油圧回路構成H1は、第1油圧室21及び第2油圧室22のうち低圧側の油圧室とアキュムレータ38との間の流路を閉じている状態である。第1開閉弁51を閉じる仕組みは、第1実施例で説明した第1開閉弁51と同じである。例えば、第1油圧室21の圧力が高まっている第2状態ST2であるとき、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力より高い状態であるから、第2切換弁78は閉じている。
【0119】
<第2油圧回路構成>
第2油圧回路構成H2は、第1開閉弁51が開いており、かつ、第2切換弁78は閉じている状態である。第1開閉弁51を開く仕組みは、第1実施例で説明したものと同じである。第1開閉弁51が開いたのちに、例えば、相対的に圧力が高い第1油圧室21から相対的に圧力が低い第2油圧室22へ作動油200が移動しているとき、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力の差圧は時間の経過とともに小さくなるものの、第1油圧室21の圧力は第2油圧室22の圧力よりも高い状態である。したがって、第2切換弁78は閉じている。
【0120】
<第3油圧回路構成>
第3油圧回路構成H3は、第1開閉弁51が閉じており、かつ、第2切換弁78は開いている状態である。第1開閉弁51を閉じる仕組みは、第1実施例で説明したものと同じである。例えば、第1油圧室21の圧力と第2油圧室22の圧力の差圧が時間の経過とともに小さくなった結果、第1油圧室21の圧力が第2油圧室22の圧力と等しくなったとき、第2切換弁78の左面78aに作用する圧力と第2切換弁78の右面78bに作用する圧力とが等しくなる。その結果、第2切換弁78は開く。
【0121】
第4実施例に係る油圧ダンパ1Dであっても、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様の動作を行うことができる。したがって、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様に、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0122】
<第5実施例>
図12は第5実施例に係る油圧ダンパ1Eである。第5実施例の油圧調整モジュール3Eは、第1開閉弁51Eがポペット弁51pに加えて、さらにスプール弁51sを有する。また、第5実施例の油圧調整モジュール3Eは、第1開閉弁51Eに付随するオリフィス79、80を有する。さらに、第5実施例の油圧調整モジュール3Eは、第2開閉弁52に付随する逆止弁81を有する。
【0123】
スプール弁51sは、第1油圧室21と第2油圧室22を繋ぐ流路P9に配置されている。スプール弁51sは、風に起因する振動などの微小振動時において第1油圧室21と第2油圧室22との間の作動油の移動を許可する。すなわち、風に起因する振動などの微小振動時においては、パイロット操作弁54が開いたとしてもポペット弁51pが開かず、第1油圧室21と第2油圧室22との間の作動油の移動が許可されない場合がある。このようにパイロット操作弁54が開いておりポペット弁51pが閉じている場合に、スプール弁51sは流路P9における第1油圧室21と第2油圧室22との間の作動油の移動を許可する。スプール弁51sは、ポペット弁51pが開いた場合には、流路P9における第1油圧室21と第2油圧室22との間の作動油の移動を禁止する閉鎖に切り替える。
【0124】
第5実施例に係る油圧ダンパ1Eであっても、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様の動作を行うことができる。したがって、実施形態に係る油圧ダンパ1と同様に、油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させることができる。
【0125】
第1開閉弁51は、ポペット弁51pとスプール弁51sとを有している。これにより、ポペット弁51pが動作しない微小な振動が作用したとき、スプール弁51sによって第1油圧室21と第2油圧室22との間の作動油の移動を許可する開放と、当該作動油の移動を禁止する閉鎖とを切り替えることができる。よって、微小な振動が作用したときの油圧ダンパのエネルギ吸収量を向上させることができる。
【0126】
<変形例>
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、アキュムレータ38は、アキュムレータの代わりに油圧タンクであってもよい。また、高圧側の第1油圧室21から低圧側の第2油圧室22に作動油を移動させる代わりに、第1油圧室21から油圧タンクに作動油を移動させてもよい。
【0127】
<付記>
本開示は、以下の構成も含む。
【0128】
本開示は、[1]「シリンダと、このシリンダ内を往復動するピストンと、このピストンの両側に設けられた油圧室と、この両油圧室をつなぐ流路に接続され、開放と閉鎖が切り替えられる第1開閉制御弁を備えた油圧ダンパにおいて、
前記油圧ダンパは、前記油圧シリンダに接続され、圧油を蓄え可能なアキュムレータと、
前記油圧ダンパの両油圧室とアキュムレータをつなぐ流路に接続され、開放と閉鎖が切り替えられる第2開閉制御弁と、を備え、
片側の油圧室の圧力が上昇中は、全制御弁が閉鎖を維持すると共に、バッファに圧力を蓄圧し、当該油圧室の圧力が低下し始めると、前記第1開閉制御弁を開放とすることで左右の油圧室の差圧が解消すると再び前記第1開閉制御弁が閉鎖となるように動作する油圧ダンパにおいて、
左右シリンダ室とアキュムレータをつなぐ流路に備えた前記第2開閉制御弁を開放とすることで一方のシリンダ室の圧力を急速に低下させることで再び差圧を生じさせ、その後第2開閉制御弁を閉鎖とする機構が組み込まれていることを特徴とする減衰係数切替型油圧ダンパ。」である。
【0129】
本開示は、[2]「上記[1]に記載の油圧ダンパにおいて、油圧ダンパに設けた圧力計の信号を受信し、開閉制御弁をパイロット操作する電磁弁を制御するコントローラを備え、上記[1]に記載のタイミングで前記第2開閉制御弁の開閉制御を可能としたことを特徴とする減衰係数切替型油圧ダンパ。」である。
【0130】
本開示は、[3]「上記[1]に記載の油圧ダンパにおいて、左右シリンダ室の圧力差によって移動するスプール弁もしくはこのスプール弁によるパイロット操作により開放となる調圧弁を前記第2開閉制御弁として開閉制御を可能としたことを特徴とする減衰係数切替型油圧ダンパ。」である。
【符号の説明】
【0131】
1,1A,1B,1C,1D,1E…油圧ダンパ、20…内部空間、21…第1油圧室、22…第2油圧室、23…シリンダ、24…ピストン、25a,25b…ピストンロッド、3,3A,3B,3C,3D,3E…油圧調整モジュール(油圧調整部、油圧調整装置)、31…第1開閉制御弁、32…第2開閉制御弁、33…相互開閉制御弁、38…アキュムレータ(圧力開放部)、200…作動油、H1…第1油圧回路構成、H2…第2油圧回路構成、H3…第3油圧回路構成、P1…第1開放流路、P2…第2開放流路、P3…相互流路。
【要約】
【課題】油圧ダンパの構造を簡素化しつつ、エネルギ吸収量を向上させる。
【解決手段】油圧ダンパ1の油圧調整モジュール3は、第1油圧室21の圧力及び第2油圧室22の圧力を開放するためのアキュムレータ38と、第1油圧室21から第2油圧室22への作動油の移動及び第2油圧室22から第1油圧室21への作動油の移動を許可する開放と当該作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える相互開閉制御弁と、第1油圧室21からアキュムレータ38への作動油の移動を許可する開放と作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第1開閉制御弁と、第2油圧室22からアキュムレータ38への作動油の移動を許可する開放と作動油の移動を禁止する閉鎖とを相互に切り替える第2開閉制御弁32と、を有する。
【選択図】
図2