IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7614441マルチヘッド測定モデルを用いる確率的状態追跡
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】マルチヘッド測定モデルを用いる確率的状態追跡
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/03 20100101AFI20250107BHJP
   G01S 19/44 20100101ALI20250107BHJP
   G01S 19/14 20100101ALI20250107BHJP
   G01S 19/07 20100101ALI20250107BHJP
【FI】
G01S19/03
G01S19/44
G01S19/14
G01S19/07
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2024500701
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2022001873
(87)【国際公開番号】W WO2022209184
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】17/216,846
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーントープ,カール
(72)【発明者】
【氏名】グレイフ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ディ・カイラノ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】キム,キョン・ジン
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-175721(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0269223(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0302274(US,A1)
【文献】国際公開第2019/171629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-G01S 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全地球航法衛星システム(GNSS)によって送信される衛星信号から受信される情報と、車両の無線周波数(RF)受信機で受信される情報とを使用して、前記車両の状態を追跡するための確率的システムであって、前記確率的システムは、
入来した測定値を前記車両の状態に関連付ける確率的マルチヘッド測定モデルを格納するように構成されたメモリを備え、前記確率的マルチヘッド測定モデルは、測定ノイズの影響を受ける前記衛星信号の測定値を、前記車両の状態に対するビリーフに関連付ける第1ヘッドと、推定ノイズの影響を受ける前記車両の状態の推定値を、前記車両の状態に対するビリーフに関連付ける第2ヘッドとを含み、前記確率的システムはさらに、
前記確率的システムのモジュールの実行可能な命令を処理するように構成された少なくとも1つのプロセッサを備え、前記モジュールは、
GNSS受信機に動作的に接続され前記衛星信号の測定値および前記測定ノイズを求めるように構成された、GNSS測定モジュールと、
前記車両のRF受信機で受信される情報に含まれる、前記車両の状態の推定値および前記推定ノイズを示すデータを受信するように構成された、RF測定モジュールと、
前記測定ノイズの影響を受ける前記衛星信号の測定値と、前記推定ノイズの影響を受ける前記車両の状態の推定値とのうちの1つまたは組み合わせを受け入れるマルチヘッド測定モデルに基づいて、前記車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に更新することにより、前記車両の状態に対するビリーフを生成するように構成された確率的フィルタとを含む、確率的システム。
【請求項2】
前記確率的フィルタは、プロセスノイズの影響を受ける前記車両の状態遷移の運動モデルに従って、前記車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に伝搬させ、マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドおよびマルチヘッド測定モデルの前記第2ヘッドのうちの1つまたは組み合わせの出力を受けて、前記確率分布のパラメータを更新する、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項3】
前記車両の状態は、衛星信号の伝搬のアンビギュイティと、大気遅延における残留誤差を捕捉する1つまたは複数の状態バイアスとを含む、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項4】
前記確率的フィルタは、前記衛星信号の測定値および前記測定ノイズを受けて、マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドを実行することにより、
前記衛星信号の測定値に適合する前記車両の状態の測定値を推定して前記車両の測定状態を生成し、
前記測定ノイズを、前記車両の測定状態の共分散を表す第2モーメントに変換し、
前記車両の状態に対するビリーフを、前記共分散を用いて測定された前記車両の測定状態と比較して、比較結果を出力する、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項5】
前記マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドの出力は、前記車両の測定状態と、前記測定ノイズの共分散の影響を受ける前記測定モデルに挿入された前記車両の状態に対する現在のビリーフとの間の誤差を含む、請求項4に記載の確率的システム。
【請求項6】
前記出力は、前記車両の測定状態と、前記測定モデルに挿入された前記マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドに与えられた前記状態の現在のビリーフと、前記測定ノイズの共分散とを含む、請求項4に記載の確率的システム。
【請求項7】
前記確率的フィルタは、前記車両の状態の推定値および前記推定ノイズを受けて、前記マルチヘッド測定モデルの前記第2ヘッドを実行することにより、
前記受信された車両の状態の推定値を前記車両の推定状態に変換し、
前記受信された推定ノイズを、前記車両の測定状態の共分散に適合する前記車両の推定状態の共分散に変換し、
前記車両の状態に対する現在のビリーフと、前記車両の推定状態の共分散を用いて推定された前記車両の推定状態とを比較して、比較結果を出力する、請求項4に記載の確率的システム。
【請求項8】
前記車両の状態の前記受信された推定値は、前記車両の状態の第1モーメントであり、前記受信された推定ノイズは、前記車両の状態の第2モーメントである、請求項7に記載の確率的システム。
【請求項9】
前記車両の推定状態の共分散は、前記車両の状態の推定値の第2モーメントと、前記車両の状態に対するビリーフの確率分布の第2モーメントとの重み付けされた組み合わせとして求められる、請求項8に記載の確率的システム。
【請求項10】
前記車両の推定状態の共分散は、前記車両の状態の推定値の受信された前記第1および第2モーメントによって定義される確率分布と、前記確率的フィルタによって維持される前記パラメータによって定義される前記車両の状態に対するビリーフの確率分布との間の差に基づいて求められる、請求項8に記載の確率的システム。
【請求項11】
前記車両の推定状態は、前記車両の状態に対するビリーフと、前記車両の状態の受信された前記第1モーメントとの重み付けされた組み合わせとして求められ、前記重み付けは前記推定ノイズの共分散を含む、請求項8に記載の確率的システム。
【請求項12】
前記確率的フィルタは、各時点における前記車両の状態の確率分布のパラメータを伝搬し、現在の時点について、前記マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドの出力または前記第2ヘッドの出力に基づいて、前記車両の状態の確率分布のパラメータを更新する、請求項2に記載の確率的システム。
【請求項13】
前記確率的フィルタは、各時点における前記車両の状態の確率分布のパラメータを伝搬し、現在の時点について、前記マルチヘッド測定モデルの拡張出力になるようにマージされた、前記マルチヘッド測定モデルの前記第1ヘッドの出力と前記第2ヘッドの出力との組み合わせに基づいて、前記車両の状態の確率分布のパラメータを更新する、請求項2に記載の確率的システム。
【請求項14】
前記受信されたデータは、前の時点についての前記車両の状態の推定値および前記推定ノイズを示し、現在の時点において前記車両の状態の確率分布のパラメータを更新するために、前記前の時点についての前記車両の状態の推定値および前記推定ノイズは、時間伝搬のモデルを使用して、前記現在の時点まで伝搬される、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項15】
前記時間伝搬のモデルは、前記車両の運動モデル、Singerモデル、定加速度モデル、およびシングルトラック車両モデルのうちの、1つまたは組み合わせを含む、請求項14に記載の確率的システム。
【請求項16】
前記確率的フィルタは、混合整数拡張カルマンフィルタ、混合整数線形回帰カルマンフィルタ、線形カルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、粒子フィルタのうちの、1つまたは組み合わせである、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項17】
前記RF測定モジュールは、路側機(RSU)によって送信された前記車両の状態の推定値および前記推定ノイズを受信する、請求項1に記載の確率的システム。
【請求項18】
全地球航法衛星システム(GNSS)によって送信される衛星信号から受信される情報と、車両の無線周波数(RF)受信機で受信される情報とを使用して、前記車両の状態を追跡するための確率的方法であって、前記方法は、
入来した測定値を前記車両の状態に関連付ける確率的マルチヘッド測定モデルを格納するメモリに結合されたプロセッサを使用し、前記確率的マルチヘッド測定モデルは、測定ノイズの影響を受ける前記衛星信号の測定値を、前記車両の状態に対するビリーフに関連付ける第1ヘッドと、推定ノイズの影響を受ける前記車両の状態の推定値を、前記車両の状態に対するビリーフに関連付ける第2ヘッドとを含み、前記プロセッサは、前記方法を実現する、格納された命令に結合され、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると前記方法のステップを実行し、前記方法のステップは、
GNSS受信機を使用して、前記衛星信号の測定値および前記測定ノイズを求めるステップと、
前記車両のRF受信機で受信される情報に含まれる、前記車両の状態の推定値および推定ノイズを示すデータをRF受信機から受信するステップと、
前記測定ノイズの影響を受ける前記衛星信号の測定値と、前記推定ノイズの影響を受ける前記車両の状態の推定値とのうちの1つまたは組み合わせを受け入れるマルチヘッド測定モデルに基づいて、前記車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に更新することにより、前記車両の状態に対するビリーフを生成するステップとを含む、確率的方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、全地球測位システム(GPS:global positioning system)または準天頂衛星システム(QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)などの測位システムに関し、より具体的には、情報の非同期連携を使用して車両の状態を分析することに関する。
【背景技術】
【0002】
全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)は、地球に対するモバイル受信機の地理的な位置を求めるために使用することができる、衛星のシステムである。GNSSの例は、GPS、Galileo、Glonass、QZSS、およびBeiDouを含む。モバイル受信機の地理的な位置のより迅速でより正確な計算を実現するという目的で、GNSS衛星からGNSS信号データを受信するため、これらのGNSSデータを処理するため、GNSSデータからGNSS補正を計算するため、および、これらの補正をモバイル受信機に提供するために構成された、さまざまな全地球航法衛星(GNS:global navigation satellite)補正システムが知られている。
【0003】
さまざまな位置推定方法が知られており、それらの方法においては、位置計算は、地球ベースのGNSS受信機によるいわゆる擬似距離および搬送波位相観測可能量の反復測定に基づいている。「擬似距離」または「コード」観測可能量は、GNSS衛星信号の送信時間とこの衛星信号のローカル受信時間との差を表しており、したがって、衛星の無線信号によってカバーされる幾何学的距離を含む。受信されたGNSS衛星信号の搬送波と、受信機の内部で生成されたそのような信号のコピーとの間のアライメントの測定は、衛星と受信機との間の見かけの距離を求めるための別の情報源を提供する。対応する観測可能量は「搬送波位相」と呼ばれ、これは、送信衛星と受信機の相対運動によるドップラー周波数の積分値を表す。
【0004】
いかなる擬似距離観測も必然的な誤差の寄与を含み、その中には、受信機および送信機のクロック誤差、ならびに大気の非ゼロ屈折率によって引き起こされる追加的な遅延、機器遅延、マルチパス効果、および検出器ノイズがある。いかなる搬送波位相観測も、未知の整数の信号サイクル、すなわち整数の波長をさらに含み、これは、この信号アライメントへのロックインが得られる前に経過している。この数は「搬送波位相アンビギュイティ」と呼ばれる。通常は、観測可能量は、受信機によって離散的な連続時間に測定、すなわちサンプリングされる。観測可能量が測定される時間の指標は「エポック」と呼ばれる。周知の位置決定方法は、一般的に、連続するエポックでサンプリングされた観測可能量の測定値に基づく、距離および誤差成分についての動的数値推定および補正スキームを含む。
【0005】
GNSS信号が連続的に追跡され、ロックロスが発生しないとき、追跡段階の開始時に解決された整数アンビギュイティを、GNSS測位の範囲全体にわたって維持することができる。しかしながら、GNSS衛星信号は、たとえば「アーバンキャニオン」という環境の建物に起因して、時折陰に隠れる場合がある、または、たとえば受信機が橋の下もしくはトンネルを通過するときのように瞬間的に遮断される場合がある。そのような場合、整数アンビギュイティ値は失われてしまい、再決定されなければならない。このプロセスには数秒から数分を要する可能性がある。実際、擬似距離または搬送波位相のいずれかの1つ以上の測定値における著しいマルチパス誤差またはモデル化されていない系統的なバイアスの存在は、現在の商用測位システムでアンビギュイティを決定することを困難にする場合がある。受信機間の距離(すなわち、基準受信機と、その位置が求められているモバイル受信機との間の距離)の増加に伴い、距離依存バイアス(たとえば軌道誤差ならびに電離層および対流圏効果)が大きくなり、結果として、確実なアンビギュイティの決定(または再初期化)がさらに大きな課題となる。さらに、サイクルスリップと呼ばれる、信号に対する受信機の連続位相ロックの不連続性に起因して、ロックの損失が生じる可能性もある。例として、サイクルスリップは、電力損失、受信機ソフトウェアの故障、または誤動作している衛星発振器によって引き起こされる可能性がある。加えて、サイクルスリップは、電離層条件を変化させることによって引き起こされる可能性がある。
【0006】
GNSS拡張は、一般的にはナビゲーションに使用される衛星のネットワークである全地球測位システムまたは他の全地球航法衛星システムによって提供される測位情報の精度を改善するために使用される技術を意味する。たとえば、いくつかの方法は、衛星間の区別、受信機間の区別、エポック間の区別、およびそれらの組み合わせに基づいた、区別する技術を使用する。衛星と受信機との間の一重および二重差は、誤差のソースを低減するが解消しない。
【0007】
それゆえに、GNSS測位の精度を高める必要がある。この問題に対処するために、いくつかの異なる方法は、GNSS測位の精度を高めるために、複数のGNSS受信機の連携を利用する。しかしながら、適切な連携のために、複数のGNSS受信機を同期させる必要があり、それらの動作を制約する必要がある。たとえば、米国特許第9,476,990号は、機械的に接続された複数のモジュールによる連携GNSS測位推定について記述している。しかしながら、GNSS測位の精度の連携的向上に対するそのような制約は、必ずしも実用的ではない。
【発明の概要】
【0008】
いくつかの実施形態は、全地球航法衛星システム(GNSS)から受信した衛星信号に基づいて車両の状態を追跡する現在の方法が、車両の内部モジュールに基づく個別のもしくは集約化された推定、または、厳密に制御および/または同期された方法で状態推定を実行する分散推定のいずれかを想定する、という認識に基づいている。そのような分散推定の例は、状態追跡の異なる態様を決定しコンセンサスに達することによって車両の状態を推定する、分散システム、一方のタイプの追跡が他方のタイプよりも優勢である一方で、システムの状態を独立して追跡する不均衡システム、および、好ましくは相互に固定された距離を隔てて位置する複数の同期されたGNSS受信機を含む分散システムを含む。
【0009】
いくつかの実施形態は、移動車両の内部モジュールが外部で決定されたいくつかの追加情報を使用する場合の連携状態追跡の利点を認識している。しかしながら、いくつかの実施形態は、そのような外部情報が常に利用可能であるとは限らない、という認識に基づいている。したがって、追跡が車両の内部モジュールによって実行されるがそのような情報を利用できるときは外部情報をシームレスに統合することができる場合に、連携的であるが非同期の状態追跡が必要である。
【0010】
いくつかの実施形態は、車両の状態を再帰的に追跡するさまざまな確率的フィルタが2つのパーツを含む、という認識に基づいている。第1のパーツは車両の状態のサンプルを推定し、第2のパーツはこれらの推定されたサンプルに基づいて状態の確率分布を更新する。一見すると、一方のパーツは他方のパーツなしでは実行されないので、これら2つのパーツは相互に統合されている。しかしながら、いくつかの実施形態は、これらの2つのパーツが時間的な依存性ではなく因果的な依存性によって関係付けられる、という認識に基づいている。具体的には、確率的更新は、新たな状態サンプルが推定されるとき、その到着が更新をトリガするはずであるという意味で、状態サンプル推定の存在に依存する。しかしながら、状態サンプルがいつどのように推定されるかは、確率分布の更新とは無関係である。
【0011】
いくつかの実施形態は、確率的状態推定を明確にしパーツを更新するためにこの認識を利用する。このアンビギュイティ除去は、状態サンプルが推定される時間および方法に関係なく確率的更新を再利用することを可能にする。それ故に、状態推定値は、GNSS測定値に基づく車両の内部モジュールにより、または、車両の外部のモジュールが利用できるときにはそのようなモジュールにより、求めることができる。状態推定の原理に関係なく、確率的更新は同じ態様で機能し、その品質は、新たな情報の到着頻度ではなく、その推定の品質に依存する。このようにして、内部および外部状態推定器は、非同期方式で動作することができる。
【0012】
これらの理解に基づいて、いくつかの実施形態は、確率的フィルタが車両の状態に対するビリーフ(belief(信念))を更新するために異なるソースを使用することを可能にするマルチヘッド測定モデルを開示する。マルチヘッド測定モデルは、異なるタイプの出力を生成するが同一の確率的構造を有する複数の経路を含む。たとえば、いくつかの実装形態において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドを含む。第1ヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付け、第2ヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける。それ故に、測定モデルは、異なる情報および異なるタイプのノイズを含むが、異なるヘッドの出力を個別にまたは共同で使用することを可能にする確率的フィルタによって許容される同様の構造を有する。
【0013】
このようにして、いくつかの実施形態における、確率的フィルタは、各更新ステップにおいて、プロセスノイズの影響を受ける車両の状態遷移の運動モデルに従った車両の状態の確率分布のパラメータを、再帰的に伝搬し、マルチヘッド測定モデルの第1ヘッドおよびマルチヘッド測定モデルの第2ヘッドの一方または組み合わせの出力を受けると確率分布のパラメータを更新する。
【0014】
たとえば、第1ヘッドは、状態推定の精度および/または品質に影響を及ぼす特定の不確実性、バイアス、およびアンビギュイティを有するGNSS測定値を使用して、車両の状態のビリーフを更新することを可能にする。第1ヘッドの出力は、通常、確率的フィルタの更新の頻度で利用可能である。これに対し、第1ヘッドは、時折受信され得るだけであるが状態推定のより高い精度を有し得る外部情報を使用して、車両の状態のビリーフを更新することを可能にする。たとえば、第2ヘッドは、外部測定モジュールから受信した状態推定値を処理することができる。それ故に、第2ヘッドは、より低い頻度で情報を受信する可能性があるが、マルチヘッド測定モデルの第1および/または第2ヘッドの実行頻度に関係なく、第1および第2ヘッドの出力は、確率的フィルタの確率的保証を断つことなく、シームレスに統合される。
【0015】
いくつかの実施形態は、外部測定モジュールが、受動的、能動的、またはその両方であり得ると、いう理解に基づいている。受動モードにおいて、外部測定モジュールは、内部測定モジュールによって実行されるGNSS測定から独立して求められる車両の状態の推定を受ける。たとえば、車両は、さまざまな遠隔測定技術を使用して車両の状態を推定するように構成された路側機(RSU:roadside unit)の近くを通過することができる。能動モードにおいて、車両は、RSUでもあり得るリモートサーバに、車両の状態の現在の情報を送信し、それに応じて、内部測定値の補正に基づいて得られた外部測定値を受けることができる。ここで、現在の情報は、車両の状態推定値の平均、車両の状態の推定値の共分散、その内部状態を更新するために内部測定モジュールが使用するコードおよび搬送波位相測定値のセットを含む。
【0016】
そのため、いくつかの実施形態の目的は、確率的状態推定によって使用されるのに適した車両の状態の、連携的であるが非同期の状態推定を提供することである。いくつかの実施形態の別の目的は、内部確率的フィルタの実行とは異なる可能性がある更新レートで外部アクティブモジュールが実行するときに、そのような連携的で非同期の推定を提供することである。
【0017】
いくつかの実施形態は、GNSS測位問題が、衛星の1つのまたはいくつかのコンステレーションから受信された一組のコードおよび搬送波位相測定値から受信機の状態を推定することに関係する、という認識に基づいている。関与する測定方程式は、時間とともに変化し、受信機の位置について非線形であり、さまざまなバイアスおよび整数のアンビギュイティを組み込んでいる。搬送波位相測定において、各衛星からの各搬送波位相測定値に固有のアンビギュイティとして知られている整数バイアスが存在する。これらのバイアスを時間的に考慮する場合、これらのバイアスは、一般的に「サイクルスリップ」と呼ばれる、新たな整数値への散発的かつ互いに独立したジャンプの前には一定のままである、整数ジャンププロセスに従う。そのため、GNSS測位問題は、(各タイムステップに含まれる新たな整数バイアスを伴う)絶えずサイズが増加する混合整数問題を解く混合整数GNSS測位問題とみなすことができ、結果として得られるアルゴリズムを実現可能にするためにこの推定問題を最適に緩和する方法を注意深く考慮する必要がある。
【0018】
いくつかの実施形態は、確率的フィルタの設定において、たとえばサイクルスリップに起因する整数アンビギュイティの不確実性が、車両の状態の確率分布の二次モーメントに、すなわち共分散に反映される、という認識に基づいている。そのため、外部測定モジュールのアクティブモードから利益を得るために、いくつかの実施形態は、確率分布のパラメータを送信することで、リモートサーバがこの情報を修正することを可能にする。リモートサーバは、近接する他の車両から同様の情報を収集し、受信した情報を融合して車両の状態の確率分布のパラメータを修正し、更新された確率的パラメータを車両に返送することができる。外部測定モジュールは、更新された確率的パラメータを受信すると、更新されたパラメータと一致する現時点における車両の状態を推定し、確率的フィルタの実行をトリガする。たとえば、外部測定モジュールは、車両の運動モデルに基づいて確率分布の平均を時間的に伝搬させ、伝搬させた平均および受信された分散によって定められる、更新された確率分布をサンプリングし、サンプリングされた状態推定とともに確率的フィルタを使用して、車両の状態の確率分布を更新することができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、車両の状態は、車両の位置、車両の速度、特定の衛星からの車両の搬送波位相測定値に関連付けられる整数アンビギュイティ、および、大気、たとえば電離圏および対流圏の遅延をモデル化する残留バイアス状態を含む。たとえば、いくつかの方法は、衛星間の区別、受信機間の区別、エポック間の区別、およびそれらの組み合わせに基づいた、区別する技術を使用する。衛星と受信機との間の一重および二重差は、誤差のソースを低減するが、それらを解消する訳ではなく、それによって状態推定の精度を低減する。
【0020】
いくつかの実施形態は、電離層誤差などの状態バイアスを無視することは、状態推定のわずかな不正確さにつながり得る、という認識に基づいている。これは、バイアスが通常、GNSS測定値の一重または二重差分によって除去されるためである。この解決策は、車両の位置推定のための所望の精度がメートルのオーダである場合にうまく機能するが、所望の精度がセンチメートルのオーダである場合に問題となり得る。そのため、いくつかの実施形態は、車両の状態における状態バイアスを含み、確率的フィルタによって提供される状態追跡の一部としてそれらを決定する。
【0021】
いくつかの実施形態は、外部サーバとの非同期であるが連携的な通信を可能にするマルチヘッド測定モデルが、リモートサーバで求められた外部状態推定価が十分に正確であるときに、状態推定の精度の問題に対処することができる、という認識に基づいている。しかしながら、そのサーバが所望の精度で状態を判断する必要性がなおも存在する。
【0022】
いくつかの実施形態は、個々の車両について確率的フィルタが整数アンビギュイティの不確実性および大気遅延の両方を解決する必要があるので、個々の車両について大気時間遅延を正確に求めることは非現実的であると認識する。しかしながら、互いに十分に近い、たとえば2~10km離れた車両について、大気遅延は同様である。それ故に、複数の車両から同様の情報を収集する外部アクティブモジュールの場合、異なる車両の状態間には著しい重複があり、その結果、外部測定モジュールは、個々の車両の確率的フィルタができないやり方で個々の車両の状態を更新することができる。たとえば、電離層状態バイアスを、互いに近接する車両間で共有することができる。
【0023】
それに加えてまたはその代わりとして、いくつかの実施形態は、確率的フィルタによって求められた状態推定値の不正確さが、アンビギュイティおよび残留遅延だけでなく測定ノイズによっても引き起こされ得る、という認識に基づいている。いくつかの実施形態は、複数の車両の状態が連携して求められる場合、車両の状態は重複する可能性も重複しない可能性もあり、アンビギュイティまたは遅延は重複する可能性も重複しない可能性もあるが、異なる車両の測定ノイズは連携状態推定によって探索できる相関関係を有する、という認識に基づいている。たとえば、車両の異なるペアの測定値の誤差は互いに関連する可能性がある。
【0024】
そのため、いくつかの実施形態は、異なる車両からの情報を組み合わせて拡張ドメインにする拡張確率的フィルタに基づいて、複数の車両の確率的追跡を実行する。たとえば、拡張確率的フィルタは、複数の車両の状態を融合して拡張状態にし、複数の車両の衛星信号の測定値を融合して、非対角共分散行列によって定義される拡張測定ノイズの影響を受ける拡張状態の拡張測定値にする。この非対角共分散行列は、異なる車両の測定ノイズ間の相関関係を捕捉する非ゼロの非対角要素を有する。この相関関係は、複数の車両の状態を共同で追跡するために拡張確率的フィルタが探索できる追加情報である。
【0025】
いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、混合整数最小二乗カルマンフィルタであり、非線形測定方程式は、その電流推定値の周囲で線形化され、混合整数拡張カルマンフィルタをもたらす。他の実施形態は、EKFにおける線形化が不正確な場合があることを認識する。それ故に、いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、混合整数線形回帰カルマンフィルタである。そのようなフィルタは、確率分布の第1および第2モーメントをより正確に表すが、計算費用が非常に高くなる。
【0026】
一実施形態において、車両の状態の部分、たとえば整数アンビギュイティは、モデルにおいて線形であるが、位置は非線形であることが認識される。それ故に、第1および第2モーメントの部分は分析的に求めることができるが、他の部分は線形回帰カルマンフィルタを用いて推定される。
【0027】
GNSS測位問題は、(各タイムステップに含まれる新たな整数バイアスを伴う)絶えずサイズが増加する混合整数問題を解く混合整数GNSS測位問題とみなすことができ、結果として得られたアルゴリズムを実現可能にするためにはこの推定問題を如何にして最適に緩和するかについて注意深く考慮する必要がある。とりわけ、複数の車両からの情報を組み合わせるときの状態の外部推定の場合、結果として生じる推定問題は、非常に高次元であり、したがって計算費用が高い。
【0028】
いくつかの実施形態において、緩和は、関連するが別々である2つの確率分布を求めることによって解決され、一方の分布は、実数値パラメータのみを考慮し、すなわちアンビギュイティが実際は整数であることを無視し、第2の分布は、最適化問題を解くことによって第1の分布から求められた整数アンビギュイティに基づいて、求められる。
【0029】
したがって、一実施形態は、全地球航法衛星システム(GNSS)によって送信される衛星信号から受信される情報と、無線周波数(RF)チャネルを介して送信される情報との非同期連携を使用して、車両の状態を追跡するための確率的システムを開示する。確率的システムは、入来した測定値を車両の状態に関連付ける確率的マルチヘッド測定モデルを格納するように構成されたメモリを備え、確率的マルチヘッド測定モデルは、測定ノイズの影響を受ける衛星信号の測定値を、車両の状態に対するビリーフに関連付ける第1ヘッドと、推定ノイズの影響を受ける車両の状態の推定値を、車両の状態に対するビリーフに関連付ける第2ヘッドとを含み、さらに、確率的システムのモジュールの実行可能な命令を処理するように構成された少なくとも1つのプロセッサを備える。
【0030】
確率的システムのモジュールは、GNSS受信機に動作的に接続され衛星信号の測定値および測定ノイズを求めるように構成された、GNSS測定モジュールと、車両のRF受信機に動作的に接続され車両の状態の推定値および推定ノイズを示すデータを受信するように構成された、RF測定モジュールと、測定ノイズの影響を受ける衛星信号の測定値と、推定ノイズの影響を受ける車両の状態の推定値とのうちの1つまたは組み合わせを受け入れるマルチヘッド測定モデルに基づいて、車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に更新することにより、車両の状態に対するビリーフを生成するように構成された確率的フィルタとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】いくつかの実施形態に係る、全地球航法衛星システム(GNSS)の概略図を示す。
図1B】GNSS受信機を備えた2つの追加の車両140および150が存在する例を示す図である。
図1C】いくつかの実施形態に係る、運動および/または測定モデルのモデル化において単独でまたは組み合わせて使用される各種変数を示す図である。
図1D】マルチパスが受信機に対する信号を妨害するシナリオの図を示す。
図1E】いくつかの実施形態によって使用される確率的フィルタの概念図を示す。
図1F】いくつかの実施形態に係る、異なる信号の非同期受信の図を示す。
図1G】いくつかの実施形態に係る、マルチヘッド測定モデルの構造の図を示す。
図1H】一実施形態に係る、ある時間インスタンスにおける状態推定の第1および第2モーメントを更新する方法の一例のフローチャートを示す図である。
図1I】別の実施形態に係る、状態推定の第1および第2モーメントを更新するための方法の別のフローチャートを示す図である。
図1J】別の実施形態に係る、状態推定の第1および第2モーメントのみが特定の時間インスタンスにおいて受信された、逆の状況を示す図である。
図1K】手順の一例のフローチャートを示す図である。
図2A】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための方法のフローチャートを示す図である。
図2B】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
図2C】いくつかの実施形態に係る、推定値を求める(240a)ための方法の一例のフローチャートを示す図である。
図2D】いくつかの実施形態に係る、車両の状態に対するビリーフを求めるための方法の一例を示す図である。
図3A】いくつかの実施形態に係る、車両の状態推定のための、具体例としての実装形態の方法の、フローチャートを示す図である。
図3B】いくつかの実施形態に係る、搬送波位相アンビギュイティを求めるための方法のフローチャートを示す図である。
図3C】一実施形態に係る、運動モデルおよびそのプロセスノイズと整合する浮動値をサンプリングする方法の、具体例としての実装形態のフローチャートを示す図である。
図3D】いくつかの実施形態によって使用されるいくつかの原理を示す概略図である。
図4】一実施形態に係る、車両の状態の確率分布のパラメータを更新するために確率的フィルタを実行するための方法のフローチャートを示す図である。
図5A】いくつかの実施形態に係るシナリオを説明する、ある交通シナリオを示す図である。
図5B】IEEE高精度時間プロトコル(PTP)ベースの同期における同期メッセージ交換を示す図である。
図5C】いくつかの実施形態に係る、情報の非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
図5D】別の実施形態に係る交通シナリオを示す図である。
図6A】いくつかの実施形態に係る、複数の車両からの複数の送信を使用して車両の状態の第1および第2モーメントを求めるための再帰的方法のフローチャートを示す図である。
図6B】いくつかの実施形態に係る、リモートサーバにおいて拡張状態のパラメータを更新するための再帰的方法のフローチャートを示す図である。
図6C】いくつかの実施形態に係る、車両の複数の状態を拡張状態と融合させるための方法のフローチャートを示す図である。
図6D】いくつかの実施形態に係る、状態空間の重複の一例を示す図である。
図6E】いくつかの実施形態に係る、拡張状態を車両の状態と融合させるための方法のフローチャートを示す図である。
図6F】一実施形態に係る、相互共分散を求めるための方法のフローチャートを示す図である。
図6G】いくつかの実施形態に係る、複数の送信からの測定値を含む完全測定モデルの測定ノイズにおける相互共分散の一例を示す図である。
図6H】測定ノイズ行列が図6Gの構造となるように測定ノイズ行列を求めるための方法のフローチャートを示す図である。
図7】いくつかの実施形態に係る、RFチャネルを介して送信される車両から受信された情報の非同期連携を使用して複数の車両の状態を追跡するための確率的システムを示す図である。
図8】一実施形態に係る、状態推定に基づく車両間(V2V)通信および計画の一例を示す。
図9】一実施形態に係る、事故回避シナリオのための複数車両隊列成形の概略図である。
図10】いくつかの実施形態に係る、混合自律走行車両の直接および間接制御のためのシステム1000のブロック図を示す。
図11A】いくつかの実施形態に係る、直接的または間接的に制御される車両1101の概略図を示す。
図11B】いくつかの実施形態に係る、システム1000から制御されたコマンドを受信するコントローラ1102と車両1101のコントローラ1100との間のやり取りの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1Aは、いくつかの実施形態に係る、全地球航法衛星システム(GNSS)の概略図を示す。例として、N番目の衛星102は、120および121コードと搬送波位相測定値とを、一組の受信機130および131に送信する。たとえば、受信機130は、N個の衛星101、103、104、および102から信号110、120を受信するように配置される。同様に、受信機131は、N個の衛星101、103、104、および102から信号121および111を受信するように配置される。
【0033】
さまざまな実施形態において、GNSS受信機130および131は、異なるタイプである可能性がある。たとえば、図1Aの具体例としての実施形態において、受信機131は、その位置がわかっている基地局受信機である。例として、受信機131は、地上に設置された受信機である可能性がある。これに対し、受信機130は、移動するように構成されたモバイル受信機である。例として、受信機130は、携帯電話、自動車、またはタブレットに搭載されている可能性がある。いくつかの実装形態において、第2の受信機131は、任意であり、大気の影響ならびに受信機および衛星の内部クロックの誤差などの、さまざまな原因に起因する、不確実性および誤差を取り除くまたは少なくとも低減するために、使用することができる。いくつかの実施形態において、コードおよび搬送波位相信号を受信する複数のGNSS受信機が存在する。
【0034】
図1Bは、GNSS受信機を備えた2つの追加の車両140および150が存在する例を示す。衛星は、これらの受信機がコードおよび搬送波位相信号の同じソースを共有するように、コードおよび搬送波位相信号をいくつかの受信機に送信することができる。たとえば、衛星104は受信機140と受信機150の両方に信号を送信することができ、衛星101は受信機130、140、および150の両方に信号を送信することができる。それに加えてまたはその代わりとして、GNSS信号の受信機は、電波161上で情報を互いにやり取りすることができる。
【0035】
いくつかの実施形態の目的は、GNSS受信機を備える車両の状態の衛星ベースの追跡を改善するためのシステムおよび方法を開示することである。別の目的は、衛星信号から受信した情報の非同期連携を使用するそのようなシステムおよび方法を提供することである。いくつかの実施形態の他の目的は、確率的である、すなわち確率的外乱および誤差源を考慮する、そのようなシステムおよび方法を提供することである。他の実施形態の目的は、衛星信号のみに依拠するのではなく、異なるソースからの異なる情報を使用して、車両の状態を追跡することである。たとえば、いくつかの実施形態において、車両の状態は、GNSS受信機を使用して衛星から受信したGNSS信号と、無線周波数(RF)受信機を使用してリモートサーバから受信した車両の状態の確率分布の第1および第2モーメントとを使用して、追跡されることになる。
【0036】
それに加えてまたはその代わりとして、いくつかの実施形態の目的は、確率的であるフィルタを提供することである。このフィルタは、運動モデルおよび測定モデルに基づいて状態推定値を提供する状態推定フィルタのような確率的フィルタである。
【0037】
状態推定器の一例はカルマンフィルタであり、カルマンフィルタは、統計的ノイズおよび他の不正確さを含む、経時的に観察された一連の測定値を使用し、各時間フレームごとに変数の共同確率分布を推定することによって、単一の測定値のみに基づくものよりも正確になる傾向がある、未知の変数の推定値を生成する。カルマンフィルタは、システムの推定された状態および推定の不確実性を追跡する。推定値は、状態遷移の運動モデルおよび測定値を使用して更新される。いくつかの実施形態は、GNSS受信機のプロセスノイズの影響を受ける運動モデルと、測定ノイズの影響を受ける衛星信号の測定モデルとを使用する、カルマンフィルタベースのシステムを使用する。いくつかの実施形態において、測定モデルは、確率的かつマルチヘッドである、すなわち、異なるタイプの出力を生成する複数の経路を含む。いくつかの実装形態において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドを含む。第1ヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付け、第2ヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける。それ故に、測定モデルは、異なる情報および異なるタイプのノイズを含むが、異なるヘッドの出力を個々にまたは共同で使用することを可能にする確率的フィルタが許容可能な、同様の構造を有する。
【0038】
このように、いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、各更新ステップにおいて、プロセスノイズの影響を受ける車両の状態遷移の運動モデルに従う車両の状態の確率分布のパラメータを、再帰的に伝搬させ、マルチヘッド測定モデルの第1ヘッドおよびマルチヘッド測定モデルの第2ヘッドの一方または組み合わせの出力を受けて、確率分布のパラメータを更新する。
【0039】
【数1】
【0040】
いくつかの実施形態において、アンビギュイティは車両の状態に含まれる。また、他の実施形態は、大気遅延、たとえば電離層遅延における残留誤差を捕捉するバイアス状態を含む。互いに十分に近い受信機の場合、電離層遅延は、異なる車両に対して、同一または非常に似ている。いくつかの実施形態は、この関係を利用して、これらの遅延および/またはアンビギュイティを解決する。
【0041】
【数2】
【0042】
いくつかの実施形態において、確率的フィルタは、受信機の位置を示す受信機の状態を推定するために搬送波位相一重差(SD:single difference)および/または二重差(DD:double difference)を使用する。1つの衛星から送信された搬送波信号を2つの受信機が受信する場合、第1の搬送波位相と第2の搬送波位相との差を、搬送波位相の一重差(SD)と呼ぶ。これに代えて、SDを、ある受信機に到達する2つの異なる衛星からの信号と信号と間の差として定義することができる。たとえば、この差は、第1の衛星がベース衛星と呼ばれる場合、第1および第2の衛星から生じる可能性がある。たとえば、衛星101からの信号110と衛星102からの信号120との差は、1つのSD信号であり、この場合、衛星101はベース衛星である。図1Aの受信機131および130の対を使用すると、2つの衛星からの無線信号から得られる搬送波位相におけるSD間の差は、搬送波位相の二重差(DD)と呼ばれる。搬送波位相差を波長数に換算すると、たとえば、L1 GPS(および/またはGNSS)信号の場合、λ=19cmとなり、これは、分数および整数部分によって分離される。分数部分は位置決め装置によって測定することができるが、位置決め装置は整数部分を直接測定することができない。したがって、整数部分は、整数バイアスまたは整数アンビギュイティと呼ばれる。
【0043】
概して、GNSSは、受信機状態を決定するために複数のコンステレーションを同時に使用することができる。たとえば、GPS、Galileo、Glonass、およびQZSSを同時に使用することができる。衛星システムは、典型的には、最大3つの異なる周波数帯域で情報を送信し、各周波数帯域について、各衛星は、コード測定および搬送波位相測定を送信する。これらの測定値は、一重差分または二重差分のいずれかとして組み合わせることができ、一重差分は、基準衛星と他の衛星との間の差分をとることを含み、二重差分は、対象の受信機と既知の静的位置を有する基地局受信機との間の差分も含む。
【0044】
【数3】
【0045】
【数4】
【0046】
それに加えてまたはその代わりとして、いくつかの実施形態は、電離層誤差のような状態バイアスを無視すると、状態推定のわずかな不正確さにつながり得る、という認識に基づいている。なぜなら、バイアスが通常GNSS測定値の一重または二重差分によって除去されるからである。この解決策は、車両の位置推定の所望の精度がメートルのオーダである場合にはうまく機能するが、所望の精度がセンチメートルのオーダである場合には問題となり得る。そのため、いくつかの実施形態は、車両の状態の状態バイアスを含み、確率的フィルタによって提供される状態追跡の一部としてそれらを求める。
【0047】
特定のシナリオの場合、たとえば深いアーバンキャニオンの場合、衛星信号の複数の歪みが存在し、そのため、コードおよび搬送波位相信号に含まれる情報が、高精度の状態推定を実行することを困難にする。例として、図1Dはあるシナリオの図を示し、この場合、マルチパスが受信機101dに対する信号を妨害する。受信機101dは、衛星110dおよび120dからさまざまな信号109dおよび119dを受信する。信号128d、129d、138d、139dを送信する他の衛星130dおよび140dが存在するが、障害物170d、例として都市部の建築物が原因で、これらの信号は受信機に直接送信されない。
【0048】
以前、衛星140dから送信された信号138dは利用できなかったが、突然に、衛星信号139dはマルチパス102dの後に受信機に到達する。そのようなシナリオは、車両の状態を追跡する際の確率的フィルタの性能を著しく損なう可能性がある、なぜなら、推定器が誤ったアンビギュイティ推定値にロックオンすることで、大きな推定誤差を引き起こすからである。しかしながら、そのような問題がない他の受信機が近くに存在する可能性があり、たとえば、ある受信機がマルチパスを有し大型の建築物の影になるので可視衛星は少数の場合があるが、数ブロック離れている車両は良好な推定性能を有する。いくつかの実施形態において、これは、GNSS測定モジュールからの測定値ならびに車両の状態の遠隔推定値を使用して、確率的フィルタにおける確率分布のパラメータを更新することによって利用され、遠隔推定値は、複数の車両からのデータを使用することによって求められる。
【0049】
確率的フィルタの一例はカルマンフィルタである。図1Eは、状態推定のためにいくつかの実施形態によって使用されるカルマンフィルタ(KF)の概略図を示す。KFは、線形状態空間モデルにおける状態推定のためのツールであり、ノイズ源が既知でありかつガウス型である場合に最適な推定器であり、この場合、状態推定値もガウス型分布である。KFは、ガウス分布の平均および分散を推定するが、その理由は、平均および分散が、ガウス分布を記述するために必要な、2つの量、十分な統計量であることにある。
【0050】
KFは、状態の平均およびその分散111eを求めるために、状態の初期知識110eから開始する。次に、KFは、車両の運動モデル等のシステムのモデルを使用して、次の時間ステップへの状態および分散を予測して(120e)、状態の更新された平均および分散を取得する(12le)。次に、KFは、システムの測定モデルを使用する更新ステップ140eにおいて測定値130eを使用して、状態の更新された平均および分散141eを求める。次に、出力150eが得られ、この手順は、次の時間ステップ160eについて繰り返される。
【0051】
いくつかの実施形態は、KFのさまざまな変形、たとえば拡張KF(EKF:extended KF)、線形回帰KF(LRKF:linear-regression KF)、たとえばアンセンテッドKF(UKF:unscented KF)を含む、確率的フィルタを使用する。KFの複数の変形が存在するにもかかわらず、それらは、図1Eによって例示されるように概念的に機能する。特に、KFは、確率的測定モデルによって記述される測定値130eを使用して、対象の確率分布の第1および第2モーメント、すなわち平均および共分散を更新する。いくつかの実施形態において、確率的測定モデルは、KFにおける測定更新の原理を満たすように構造化されたマルチヘッド測定モデルである。
【0052】
いくつかの実施形態は、いくつかの実施形態のマルチヘッド測定モデルの異なるヘッドの出力が同期している必要はなく、異なる時間ステップにおいて信号が受信されることを可能にする、という認識に基づいている。他の実施形態は、KFをそのまま実行するためには、KFが測定モデルを受け入れることができるように測定モデルを構築する必要がある、という理解に基づいている。
【0053】
図1Fは、いくつかの実施形態に係る、異なる信号の非同期受信の図を示す。時間の進行に沿い、GNSS信号が、ある時間ステップにおいて受信され、第1および第2モーメントが、いくつかの他の時間ステップにおいて受信される。たとえば、GNSS信号ならびに第1および第2モーメントの両方が、時間110fにおいて受信される。しかしながら、第2のGNSS信号は、時間120fにおいて受信され、第1および第2モーメントは、時間130fにおいて受信される。すなわち、これらの信号は、同時に受信されることも、同時に受信されないこともある。場合によっては異なる時間ステップで受信されるそのような信号を処理するために、測定モデルは、KFにおいて異なる信号を互いに独立して使用できるような形態となるように構築される。
【0054】
そのために、いくつかの実施形態において、測定モデルは、確率的かつマルチヘッドである、すなわちいくつかの部分を含み、第1ヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付け、第2ヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける。それ故に、測定モデルは、異なる情報および異なるタイプのノイズを含む。
【0055】
一実施形態において、測定ノイズの影響を受ける測定モデルの第1ヘッドは、GNSS測定値を車両の状態のビリーフに関連付けるために使用され、測定ノイズの影響を受ける測定モデルの第2ヘッドは、車両の状態の推定値を他の手段によって受信された車両の状態のビリーフに関連付けるために使用される。
【0056】
いくつかの実施形態は、測定モデルを使用して測定値を処理し、測定値130eおよび測定モデルを使用して第1および第2モーメントを訂正および更新する(140e)、という原理に基づいている。KFを使用するために、測定モデルおよび測定ノイズを確率的形式で記述して、これらをバランスのとれた方法で処理できるようにし、測定値が第1および第2モーメントを不正確にスケーリングしないようにしなければならない。
【0057】
他の実施形態は、確率的構造を、測定モデルの第1ヘッドと第2ヘッドとの間で一致させる必要がある、という認識に基づいている。具体的には、車両の状態の確率分布の更新ステップ140eが、GNSS信号を使用して行われるか、または、第1および第2モーメントとして表される、車両の状態の受信された推定値と推定ノイズとを使用して行われるかに関係なく、出力は同じ構造を有する。
【0058】
図1Gは、いくつかの実施形態に係る、マルチヘッド測定モデル100gの構造の図を示す。マルチヘッド測定モデルは、入力を受け、GNSS測定値を、測定モデルの第1ヘッド110gを使用する車両の状態のビリーフに関連付け、車両の状態の代替推定値を、第2ヘッド120gを使用する車両の状態のビリーフに関連付ける。たとえば、マルチヘッド測定モデルは、GNSS測定値130gおよび測定ノイズ140gを受ける。次に、マルチヘッド測定モデルは、測定ノイズ140gを、測定ノイズを表す(150g)第2モーメントに変換する。たとえば、測定ノイズは、ゼロ平均および共分散Rを有するガウス分布を使用して表される(150g)。測定ノイズの表現150gを使用して、第1ヘッド110gは、測定値130gを車両の状態に対するビリーフ160gに関連付ける(111g)。測定モデルの第1ヘッドからの出力112gは、KFが受け入れることができる形態である。たとえば、一実施形態において、出力112gは、測定値と、測定モデルに挿入された状態に対するビリーフと、測定ノイズとの間の誤差として記述される関係111gである。別の実施形態において、出力112gは、測定値、測定モデルに挿入された状態に対するビリーフ、および測定ノイズ共分散に分解される、関係111gである。
【0059】
【数5】
【0060】
いくつかの実施形態は、出力112gおよび122gの同じ確率的形式の表現が、更新情報が112gか122gかに関係なく、すなわち情報が第1ヘッドから生じたか第2ヘッドから生じたかに関係なく、同じ原理で行われるKFにおける更新を可能にする、という理解に基づいている。
【0061】
他の実施形態は、第1ヘッドを用いた更新と第2ヘッドを用いた更新とを逐次的にまたは一緒に行うことができる、という認識に基づいている。図1Hは、一実施形態に係る、ある時間インスタンスにおいて第1および第2モーメントを更新する方法の一例のフローチャートを示す。マルチヘッド測定モデルからの出力112gを使用し、この方法は、測定モデルの第1ヘッドを使用して第1および第2モーメントを更新する(110h)。次に、更新されたモーメント111hは、再び、第2ヘッドからの出力122gを使用して更新され(120h)、更新されたモーメント121hをもたらす。
【0062】
他の実施形態は、図1Fに例示されるように、車両の状態のGNSS測定値および受信された推定値、ならびに推定ノイズが、同時に受信されない場合がある、という理解に基づいている。図IIは、たとえばKFを使用して第1および第2モーメントを更新するための方法の別のフローチャートを示す。測定モデルの第1ヘッドからの出力112gを使用して、この方法は、モーメント111hを更新する(110h)。
【0063】
図1Jは、第1モーメントおよび第2モーメントのみが特定の時間インスタンスにおいて受信されている、逆の状況を示す。したがって、一実施形態は、測定モデルの第2ヘッドからの出力122gを使用してモーメント111jを更新する(110h)。
【0064】
他の実施形態は、第1および第2ヘッドを使用する更新が、一緒にすなわち同時に行われ得る、という認識に基づいている。図1Kは、そのような手順の一例のフローチャートを示す。第1ヘッドからの出力112gおよび第2ヘッドからの出力122gを使用し、この方法は、第1および第2ヘッドを使用してモーメントを更新し(110k)、更新されたモーメント111kをもたらす。一実施形態において、共同更新は、測定モデルの2つのヘッドを積み重ねることによって行われ、結果として、増大した測定モデルの出力が得られる。すなわち、車両の状態のGNSS測定値および推定値と、関連付けられる関係とが、統合され、結果として、共同の大規模な更新をもたらす。
【0065】
図2Aは、いくつかの実施形態に係る、情報の非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための方法のフローチャートを示す。実施形態において、情報は、全地球航法衛星システム(GNSS)によって送信され、また、無線周波数(RF)チャネルを通して送信される衛星信号から受信される。最初に、この方法は、いくつかの実施形態に係る、一組の衛星101、102、103、104から送信された信号を、GNSS受信機209aから受信する(210a)。信号は、コード信号および搬送波位相信号を含み、各搬送波信号は、衛星101、102、103、または104と車両130との間で送られる搬送波信号の、未知の整数の波長としての搬送波位相アンビギュイティを含む。GNSS信号215aを使用して、この方法は、衛星信号の測定値および対応する測定ノイズ225aを求める(220a)。この方法はまた、RF信号235aを介して車両のRF受信機229aから車両の状態の推定値および外部サーバによって求められた推定ノイズを受信する(230a)。さまざまな実施形態において、推定値および推定ノイズ235aは、車両の状態の第1モーメントおよび車両の状態の第2モーメント235aとして、確率的に求められる。それに加えてまたはその代わりとして、推定値および推定ノイズ235aを、さまざまな確率的技術を使用して、車両の状態の第1モーメントと車両の状態の第2モーメントとに変換することができる。
【0066】
第1および第2モーメントを使用して、この方法は、車両の状態の推定値および車両の状態の推定値の関連する推定ノイズを求める(240a)。推定値245a、測定値225a、およびマルチヘッド測定モデル249aを使用して、この方法は、GNSS測定値225aを、測定ノイズの影響を受ける、測定モデルの第1ヘッドを使用する車両の状態に対するビリーフに関連付け(250a)、状態の推定値を、測定モデルの第2ヘッドを使用する、推定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける(250a)。関連付けられた測定値および推定値255aを使用して、この方法は、車両の状態の確率分布のパラメータを再帰的に更新して(260a)、車両の状態に対するビリーフ265aを生成する。
【0067】
図2Bは、いくつかの実施形態に係る、航法衛星システム(GNSS)によって送信された衛星信号209から受信された情報と無線周波数(RF)チャネル239を介して送信された情報との非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための確率的システム200を示す。確率的システムは、衛星信号209を受信するためのGNSS受信機220を含む。一実施形態において、信号は、コード信号、搬送波位相信号、タイムスタンプ、航法メッセージ、および衛星信号に影響を及ぼすさまざまな遅延および外乱を求めるために必要な、観測メッセージを含む。例として、航法メッセージは、大気遅延を求めるために必要なパラメータを含み得る。たとえば、Klobuchar大気遅延モデルが使用される場合、航法メッセージは、大気遅延モデルによって求められる信号伝搬に対する電離圏の影響に従って電離圏時間遅延を求めるためのパラメータを含む。他の実施形態において、そのようなメッセージは、SBAS遅延モデルに従って電離層遅延を求めるためのパラメータを含み得る。
【0068】
このシステムは、到来する測定値を車両の状態に関連付ける確率的マルチヘッド測定モデルを格納する(281)メモリ280を含む。いくつかの実施形態において、マルチヘッド測定モデルは2つのヘッドからなる。第1ヘッドは、衛星信号の測定値を、測定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける。第2ヘッドは、車両の状態の推定値を、推定ノイズの影響を受ける車両の状態に対するビリーフに関連付ける。メモリはまた、そのような関係を求める方法に関する命令を格納し(283)、メモリは、本発明のいくつかの実施形態に係る確率的フィルタを実行するための命令を格納する(284)。メモリはまた、車両の状態に対する以前のビリーフを、運動モデルに従う車両の状態の予測に関連付ける確率的運動モデルを格納する(285)。たとえば、運動モデルは、車両動力学モデル、定加速度モデル、定位置モデル、連携旋回モデル、Singerモデル、運動学的車両モデル、動的車両モデル、または異なるモデルの組み合わせであってもよい。
【0069】
いくつかの実施形態において、衛星信号の測定値を状態に対するビリーフに関連付けること、および状態の推定値を状態に対するビリーフに関連付けることは、測定モデルの第1および第2ヘッドにそれぞれ上記量を挿入することによって行われる。
【0070】
GNSS受信機は、GNSS測定モジュールに動作的に接続され(250)、GNSS測定モジュールは、上記遅延および外乱を求めた後に、衛星信号の測定値および関連する測定ノイズを求める。例として、一実施形態において、測定ノイズは、衛星の仰角の関数でスケーリングされた、メモリ282に格納された公称測定ノイズに基づいて求められる。
【0071】
確率的システム200は、RFチャネルを介して送信される情報239を受信するRF受信機260に動作的に接続された(250)RF測定モジュール240を含む。いくつかの実施形態において、情報は、車両の状態の第1モーメントを含む。他の実施形態において、情報は、車両の第1モーメントおよび第2モーメントを含む。他の実施形態において、情報は、車両の状態の一般的な確率分布を形成するための高次モーメントを含む。他の実施形態において、情報は、車両の状態の推定値および推定ノイズを示すデータを、たとえばサンプルとして第1および第2モーメントを含み、代わりに高次モーメントを含む。さらに他の実施形態において、情報を受信する時間は、情報が決定された時間とは異なる。たとえば、いくつかの実施形態において、アクティブリモートサーバは、第1および第2モーメントを求めるための命令と、場合によってはリモートサーバとRF受信機との間の通信時間に結合される、そのような命令の実行とを含む。この目的のために、いくつかの実施形態において、情報239は、第1および第2モーメントが求められた時間のタイムスタンプを含む。
【0072】
さまざまな実施形態において、GNSS測定モジュールおよびRF測定モジュールは、現在の時点における車両の状態に対するビリーフに関連するそれらの推定値を生成する。たとえば、GNSS信号が受信され、信号を受信すると、プロセッサ230は、現在の時間ステップで測定値を求める(231)。しかしながら、いくつかの実装形態において、RF測定モジュールは、前の時間ステップについて、たとえばリモートサーバが上記命令の実行に時間をかけたときに求められた、車両の状態の第1および第2モーメントを受信する。これは求められた測定につながり、受信された第1および第2モーメントは同じ時点に対応しない。
【0073】
この問題に対処するために、運動モデルを使用して、いくつかの実施形態は、前の時間ステップの状態の第1および第2モーメントを、時間における現在の時間ステップにおける状態に対するビリーフに関連付けて、現在の時点における車両の状態に対するビリーフを示す状態の推定値を求める。たとえば、一実施形態は、時間伝搬のモデル、たとえば、車両のメモリに格納された運動モデルを使用して、現在の時点までの時間における車両の状態の第1および第2モーメントを伝搬する。時間伝搬のモデルの例は、Singerモデル、定加速度モデル、シングルトラック車両モデルを含む。時間伝搬において両方のモーメントを使用することは、単に第1モーメントを伝搬するよりも有利である、なぜなら、不確実性の伝搬、したがって状態に対するビリーフを更新するときに第1モーメントがどれだけ信頼されるべきかが考慮されるからである。他の実施形態において、時間伝搬は、車両の運動モデルと車両の測定値との組み合わせによって行われる。
【0074】
いくつかの実施形態は、車両の状態の第1および第2モーメントを受信する時間インスタンスに関係なく、測定ノイズの影響を受ける状態の推定値で確率分布のパラメータを更新するときに、状態に対するビリーフの確率分布が、受信された状態の第2モーメントの確率分布に収束するように、推定ノイズが構成されることを、保証する必要がある、という認識に基づいている。いくつかの実施形態は、受信された第2モーメントの共分散と、状態に対する現在のビリーフの確率分布の共分散とのバランスをとることによって、収束特性を保証することができる、という認識に基づいている。言い換えると、状態および関連する測定ノイズの推定は、バランスが収束を維持するように、求められる。
【0075】
いくつかの実施形態において、プロセッサ230は、確率分布のパラメータを更新し、車両の状態の推定値を求める(233)ために使用される確率的フィルタ232を実行する。
【0076】
いくつかの実施形態は、確率分布のパラメータを、受信された第1モーメントおよび第2モーメントのパラメータを合致させるように直接設定することは魅力的である可能性がある、という理解に基づいている。しかしながら、収束特性を実施することは、車両側から同じ確率的フィルタを使用して確率分布のパラメータを更新することができることを保証するので、有利である。加えて、車両は、たとえば車両の追加の車載センサからの追加の測定値を処理することができるので、受信された第1モーメントおよび第2モーメントを直接使用することは、車両の更新された状態推定値に不連続性を引き起こす可能性がある。車両を制御するために推定値を使用するとき、制御の連続性が失われるため、そのような不連続性は有害となり得る。
【0077】
図2Cは、いくつかの実施形態に係る、推定値を求めるための方法240aの一例のフローチャートを示す。最初に、車両の状態の推定値を示す受信された情報と推定ノイズとに基づいて、この方法は、車両の状態の推定値の分布を求める(210c)。たとえば、この方法は、第1および第2モーメントをガウス確率密度関数に挿入することによって分布を求める。次に、この方法は、車両の状態に対するビリーフの分布を求める(220c)。例として、この方法は、車両の状態の確率分布のパラメータを挿入し、確率分布は予め定められた形状に従うと仮定される。例として、ガウス分布の場合、確率分布のパラメータは第1および第2モーメントである。例として、生徒tの分布を想定すると、パラメータは、第1モーメント、スケール、および自由度である。車両の推定の分布215cおよび状態に対するビリーフの分布225cを使用して、この方法は、分布215cと225cとの間の差を求める。最後に、求めた差235cを使用して、この方法は、推定ノイズの共分散を求める(240c)。
【0078】
差を求めること230cは、いくつかの方法で行うことができる。たとえば、ガウス分布の場合、差は、第2モーメントをスケーリングし第1モーメントをシフトして同じ分布を実現する量として定義することができる。いくつかの実施形態において、この差は、周知のKullback-Leiber発散によって求められる。
【0079】
いくつかの実施形態は、基本的な分布がガウス分布でない場合でも、典型的には最初の2つのモーメントが分布を十分に記述する、という認識に基づいている。いくつかの実施形態において、この認識は、RF測定モジュールによって受信された第2モーメントと車両の状態の確率分布の第2モーメントとの重み付けされた組み合わせとして、推定ノイズの共分散を求める(240c)際に、利用される。他の実施形態において、車両の状態の推定値は、車両の状態に対するビリーフと車両の状態の推定の受信された第1モーメントとの重み付けされた組み合わせとして求められ、重み付けは推定ノイズの共分散を含む。
【0080】
【数6】
【0081】
【数7】
【0082】
いくつかの実施形態は、測定モデルの第2ヘッドの1つの目的が、測定モデルの第1ヘッドを使用するときに行われるのと同じ原理を使用して確率分布のパラメータを更新できるようにすることであることを、認識する。いくつかの実施形態は、受信された第1および第2モーメントを使用して求められた車両の状態の推定値を使用して確率分布のパラメータを更新するために、測定モジュールの第2ヘッドは、車両の状態に対するビリーフの収束が車両の状態の推定値に収束することを確実にするために、特定の特性を保証しなければならないことを認識する。例として、一実施形態において、測定モデルの第2ヘッドは、車両の推定状態と、前の反復中に求められた車両の状態に対するビリーフとを、推定ノイズの共分散で重み付けされた差として含む。例として、一実施形態において、測定モデルの第2ヘッドは、z=x+rであり、式中、zは車両の状態の推定値であり、xは車両の状態に対するビリーフであり、rは推定ノイズであり、kは反復における時間ステップである。
【0083】
いくつかの実施形態は、確率的フィルタを使用して確率分布のパラメータを更新するためには、確率的フィルタが、車両の状態の一部が実数値であり一部が整数値であるという事実を考慮することによってパラメータを更新することができなければならない、という認識に基づいている。これは、ある部分、たとえば車両の位置が状態に含まれて実数値であるのに対し、アンビギュイティが状態に含まれ整数値であるからである。
【0084】
【数8】
【0085】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタが、最適化方法に頼る必要なく混合整数推定問題を解くことができるフィルタである、という理解に基づいている。他の実施形態は、最適化方法に頼る必要がないようにするために、粒子フィルタは計算上法外なものになり得る多数の粒子を必要とすることを理解する。このために、いくつかの実施形態は、混合整数拡張KFを採用することによって、再帰的な混合整数重み付け最小二乗問題を解く。他の実施形態は、混合整数線形回帰KFを解く。
【0086】
図3Aは、車両の状態推定のための具体例としての実装形態の方法のフローチャートを示し、この方法は、マルチヘッド測定モデルを含む状態の測定値および推定値を受信する(310a)。各搬送波信号は、衛星101、102、103、または104と受信機130との間で送られる搬送波信号の未知の整数の波長として搬送波位相アンビギュイティを含む。次に、この方法は、車両の前の状態を車両の現在の状態に関連付ける運動モデルと、搬送波信号の搬送波位相アンビギュイティを使用して、搬送波の測定値およびコード信号を車両の状態に対する現在のビリーフに関連付け、車両の状態の推定値を車両の状態に対するビリーフに関連付ける、マルチヘッド測定モデルとを、メモリから取り出す(322a)。両方のモデル、すなわち運動モデルおよび測定モデルは、確率的である。たとえば、運動モデルはプロセスノイズの影響を受ける確率モデルであり、測定モデルは測定ノイズの影響を受ける確率モデルである。
【0087】
次に、この方法は、プロセスノイズおよび測定ノイズの一方または組み合わせによって定められる境界内の運動モデルおよび測定モデル322aの1つまたは組み合わせに従って、搬送波およびコード信号の測定値と一致する搬送波位相アンビギュイティの整数値325aの可能な組み合わせのセットを決定する320a。このステップは、状態推定を実行するために搬送波位相アンビギュイティを求めようと試みる代わりに、状態推定のための搬送波位相アンビギュイティの異なる可能な組み合わせを、決定しテストすることが有益であるという理解に基づく。このように、最良の搬送波位相アンビギュイティは、状態推定のニュアンスをより良く反映する確率モデルを使用して選択することができる。
【0088】
そのため、この方法は、運動モデルおよび測定モデル322bを一緒に使用することによって車両の状態を求める一組の状態推定器を実行する(320a)。各状態推定器は、その対応する搬送波位相アンビギュイティの整数値の組み合わせを含み、運動モデルおよび測定モデル322aに対する車両の状態の共同確率分布335aを求める。このようにして、少なくともいくつかの異なる状態推定器の測定モデルは、一組の可能な組み合わせ325aから選択された搬送波位相アンビギュイティの整数値の異なる組み合わせを含むので、搬送波位相アンビギュイティの整数値の組み合わせを、確率的に評価することができる。次に、この方法は、搬送波およびコード信号の測定値と、マルチヘッド測定モデルを用いる車両の状態の推定値とに従い、車両の状態の最も高い結合確率を有する状態推定器を用いて車両の状態を求める(340a)。
【0089】
そのため、いくつかの実施形態は、搬送波位相アンビギュイティの可能な整数値の範囲の推定と、その範囲からの搬送波位相アンビギュイティの整数値の選択とを、測定モデルの第1ヘッドのノイズおよび測定モデルの第2ヘッドのノイズの確率密度関数(PDF:probability density function)に対する運動モデルおよび測定モデルの整合性を使用して、確率的に行うことができる、という認識に基づいている。
【0090】
図3Bは、いくつかの実施形態に係る、搬送波位相アンビギュイティの整数値の可能な組み合わせを求めるための方法320aのフローチャートを示す。この方法はプロセッサを使用して実現することができる。運動モデルのプロセスノイズと一致する車両の少なくとも1つの状態に対して、この方法は、少なくとも1つの衛星についての搬送波位相アンビギュイティの浮動値を、搬送波位相アンビギュイティ、状態、搬送波およびコード信号の測定値のノイズレスフィットを中心とする測定ノイズのPDF上で、測定モデルおよび状態の推定値にサンプリングする(310b)。
【0091】
いくつかの実施形態において、測定ノイズのPDFは、たとえばGNSS受信機の特徴に基づいて、予め決定される。本明細書で使用されるノイズレスフィットは、搬送波およびコード信号の得られた測定値が正しいと仮定される場合の、搬送波位相アンビギュイティ、位置、ならびに搬送波およびコード信号の測定値のフィットである。すなわち、搬送波およびコード信号の測定値は正しいと仮定され、残りの誤差は搬送波位相アンビギュイティに起因する。このようにして、ノイズレスフィットは、PDFのサンプリングが運動および測定モデルの確率的ノイズを強調せず位置推定値に対する搬送波位相アンビギュイティの効果を強調する位置に、PDFを配置する。言い換えると、搬送波位相アンビギュイティ、位置、ならびに搬送波およびコード信号の測定値を測定モデルに挿入した後の測定モデルへのフィットにおける誤差は、搬送波位相アンビギュイティにおける誤差に起因する。
【0092】
次に、この方法は、サンプリングされた浮動値の和集合を形成して(320b)、サンプリングされた浮動値のすべてを含む和集合を生成し(321b)、浮動値の和集合を整数ベースで離散化して(310b)、一組のGNSS衛星についての搬送波位相アンビギュイティの可能な整数値331bを生成する。最後に、この方法は、すべての衛星について搬送波位相アンビギュイティの可能な整数値331bを使用して、整数値の一組の可能な組み合わせ325aを生成する(340b)。
【0093】
図3Cは、一実施形態に係る、浮動値をサンプリングする方法310bの、具体例としての実装形態のフローチャートを示す。しかしながら、浮動値のサンプリング310bは、異なる実施形態によっていくつかの方法で実現される。図3Cの方法は、運動モデルおよびそのプロセスノイズと一致する浮動値をサンプリングする(309c)。この方法は、サンプリングされた搬送波位相アンビギュイティ、推定された状態、ならびに搬送波およびコード信号の測定値を、測定モデルに挿入することによって、コードおよび搬送波位相信号の測定値との整合性を判断する(311c)。測定値との整合性に基づいて、この方法は、サンプリングされた各浮動値を、プロセスノイズおよび測定ノイズの関数として訂正し(312c)、訂正後の測定値との整合性に基づいて、各アンビギュイティの確率を更新し(313c)、搬送波位相アンビギュイティの訂正後のサンプリングされた浮動値を取り除くことで、しきい値を超える測定モデルに適合する確率を有する搬送波位相アンビギュイティの浮動値を保存する(314c)。
【0094】
図3Dは、いくつかの実施形態によって使用されるいくつかの原理を示す概略図である。具体的には、いくつかの実施形態は、搬送波位相アンビギュイティの有限数の可能な整数値が、車両の状態を追跡するための可能な整数値の異なる組み合わせを求めること(340d)を可能にする、という認識に基づいている。そのような認識は、車両の状態330dの推定320dのための搬送波位相アンビギュイティの評価310dを、搬送波位相アンビギュイティの異なる組み合わせ340dを使用して求められる(350d)の車両の異なる状態の評価360dに置き換えること(380d)を、可能にする。この置き換えは、受信機の運動の確率的性質が、搬送波位相アンビギュイティのような位置の導関数をテストするよりも、位置をテストする方に適しているので、有利である。このように、車両の運動の確率的性質を使用して選択された最良の状態370dは、そのような状態370dを求めるために使用される搬送波位相アンビギュイティの対応する組み合わせを自動的に示す。
【0095】
いくつかの実施形態は、粒子フィルタは計算上法外なものになる可能性があり、計算上の理由から最適化ソルバを埋め込むカルマン型フィルタが有利となる可能性がある、という認識に基づいている。
【0096】
図4は、一実施形態に係る、パラメータが分布の第1および第2モーメントであるときに、車両の状態の確率分布のパラメータを更新するために確率的フィルタを実行するための方法260aのフローチャートを示す。この方法は、マルチヘッド測定モデルを含む状態の測定値および推定値を受ける(410a)。各搬送波信号は、衛星101、102、103、または104と車両130との間を移動する搬送波信号の未知の整数の波長のとしての搬送波位相アンビギュイティを含む。次に、この方法は、搬送波信号の搬送波位相アンビギュイティと、車両の状態のビリーフに対する車両の状態の推定値とを使用して、車両の以前の状態を車両の現在の状態に関連付ける運動モデルと、搬送波およびコード信号の測定値を車両の状態の現在のビリーフに関連付けるマルチヘッド測定モデルとを、メモリから取り出す(422a)。両方のモデル、すなわち運動モデルおよび測定モデルは確率的である。たとえば、運動モデルはプロセスノイズの影響を受ける確率モデルであり、測定モデルは測定ノイズの影響を受ける確率モデルである。マルチヘッド測定モデル、測定値255a、運動モデル、および前の反復中に求めた確率分布のパラメータを使用して、この方法は、確率分布の第1および第2モーメントを更新するKFを実行する(420a)。ここで、状態に含まれるアンビギュイティの更新された第1モーメントは実数値である。次に、この方法は、アンビギュイティを整数値を有するように固定する重み付き最小二乗最適化問題を解く(430a)。ここで、最適化問題コスト関数は、カルマンフィルタ420aによって求められた実数値推定値425aに対する状態の第1モーメントの偏差の二乗ユークリッドノルムである。結果として得られた整数アンビギュイティ435aを使用して、この方法は、次に、第1モーメントの実数値部分および第1モーメントの整数値部分で初期化されたカルマンフィルタを実行し(440a)、その結果、確率分布のパラメータが更新される(445a)。
【0097】
いくつかの実施形態において、KFは拡張KFであり、運動および測定モデルの非線形部分は、状態の現在のビリーフを中心として線形化される。他の実施形態において、KFは、線形回帰KF、たとえば、アンセンテッドKF、立体求積KF(cubature KF)、またはスマートサンプリングKFである。線形回帰KFは、拡張KFにおけるような現在の状態推定値を中心とする線形化を回避し、概ねより正確であるが、計算上はより複雑である。線形化の代わりに、線形回帰KFは、一組の重み付けされた積分点によって関与するモーメント積分を解き、確率分布の他のパラメータ、たとえば、高次モーメントを求めるためにも使用することができる。そのような高次モーメントは、第1および第2モーメント、基礎となる分布を十分に表さない状況において、有用となる可能性がある。
【0098】
RF受信機から受信された第1モーメントおよび第2モーメントは、複数のソースから受信された情報である可能性がある。たとえば、いくつかの実施形態において、カメラを備えた受動路側機(RSU)は、高精度のコンピュータビジョンアルゴリズムを使用して、車両の状態の一部、たとえば、位置および速度を求める。他の実施形態において、RSUは、RSUに対する車両の相対的な位置および速度を直接測定する距離センサ、たとえばレーダーまたはライダを備える。直接的な検知を使用して状態の一部を高精度で直接分解することができる場合、RSUは、車両の状態の残りの部分を求めて車両に送信することができる。
【0099】
図5Aは、いくつかの実施形態に係るシナリオを説明する、ある交通シナリオを示す。いくつかの実施形態は、アクティブリモートサーバがエッジコンピューティングデバイスとしてクラウド内に位置し、車両とクラウドとの間の通信を確立するためには、クラウドと車両との間の情報伝達が、図5Aに示すようにコアインフラストラクチャネットワークおよびRSUを通して行われる必要があり、車両V1 510aとクラウド520aとの間の通信は、RSU530aおよびコアネットワーク540aを通して行われる必要がある、という認識に基づいている。
【0100】
他の実施形態は、クラウド内での計算が大きな通信遅延を引き起こすことを認識する。そのような状況では、エッジコンピューティングデバイスを直接RSU内に持つことが有利である。
【0101】
いくつかの実施形態は、車両と通信するリモートサーバの使用は、異なるデバイスに対して異なるクロックを使用することを必要とし、そのようなクロック間の同期が必要である、という認識に基づいている。
【0102】
車両のクロックは、車両のGNSS受信機と通信しているGNSSのクロックに同期させることができる。しかしながら、いくつかの実施形態は、GNSSのクロックに対して車両のクロックを個々に同期させることは、異なる車両が有し得る異なるクロックオフセット誤差が原因で、車両通信ネットワークにおける車両の同期を保証しない、という認識に基づいている。加えて、GNSS同期は、都市環境における衛星信号のマルチパスによる悪影響を受ける可能性がある。加えて、車両通信ネットワーク内のいくつかの車両はGNSS受信機を備えていない場合がある。
【0103】
さまざま規格がクロックの相互同期のためのプロトコルを提供する。たとえば、IEEEは、高精度時間プロトコル(PTP:precision time protocol)ベースの同期規格を開発してきた。しかしながら、これらのプロトコルは、同期デバイス間の情報交換を必要とし、これは、多用途車両通信ネットワークの文脈では、非実用的になる可能性がある。
【0104】
いくつかの実施形態は、車両通信ネットワークが、参加する車両に対して特別な要件を有する、という認識に基づいている。他のネットワークにおけるノードとは異なり、車両通信ネットワーク内の車両は、その存在を周期的に告知する。たとえば、車載無線通信(WAVE:Wireless Access in Vehicular Environments)のためのIEEE専用狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communications)の場合、車両は100ms毎にハートビートメッセージを送信してその存在を周辺車両に知らせる必要がある。ハートビートメッセージの属性は、一時ID、時間、緯度、経度、高度、位置精度、速度および送信、進行方向、加速度、ステアリングホイール角度、ブレーキシステムステータス、および車両サイズのうちの1つまたは組み合わせを含む。
【0105】
いくつかの実施形態は、このハートビートメッセージが、必要な同期データを含み、したがって同期のために使用され得る、という認識に基づいている。この手法は、ネットワークトラフィックを低減し、干渉を緩和する。同期データが自動的に送信されることによって、車両は、従来の同期方法において実行されるメッセージ交換なしでサイレント同期を実現することができる。
【0106】
たとえば、いくつかの実施形態は、車両のクロックオフセットおよび車両の位置が未知であるという仮定の下で、複数のハートビートメッセージにおいて受信された情報の三辺測量に基づいて車両のクロックを他の車両のクロックに同期させることができる、という認識に基づいている。その理由は、2種類の方法で車両の三辺測量を行うことができることにある。1つの方法は、未知のクロックオフセットの関数であるハートビートメッセージの送信時間と受信時間との間に光が移動する距離を使用する。もう1つの方法は、複数の車両の位置の間の距離と、ハートビートメッセージを送信する時間と、特定の時間における車両の未知の位置とを使用する。これらの2種類の距離を比較することによって、特定の時間における車両の未知のクロックオフセットおよび未知の位置を同時に求めることが可能である。
【0107】
【数9】
【0108】
いくつかの実施形態において、車両の状態の確率分布のパラメータは、GNSS測定値とともにリモートサーバに送信される。
【0109】
図5Cは、いくつかの実施形態に係る、航法衛星システム(GNSS)によって送信された衛星信号209から受信された情報と無線周波数(RF)チャネル239を介して送信された情報との非同期連携を使用して車両の状態を追跡するための確率的システム200を示す。システムは、確率分布のパラメータおよび衛星測定信号511cをリモートサーバに送信する送信機510cを含む。
【0110】
他の実施形態では、複数の車両が、確率分布のそれらのパラメータおよびGNSS測定信号をリモートサーバに送信している。パラメータは、車両の状態の確率分布の第1モーメントおよび第2モーメントを含む。そのような情報送信は、たとえばRSU内またはクラウド内に位置するリモートサーバが追加の検知機能を持たない場合に有益となり得る。そのような場合、リモートサーバは、複数の車両から受信された情報を使用して、そのような情報をマージし、したがって、各車両の状態の推定を改善し、第1および第2モーメントを車両に送信することができる。言い換えると、車両の確率的システムは、衛星測定値とともに確率分布のそのパラメータを送信し、送信に応じて車両の状態の第1および第2モーメントを受信する。いくつかの実施形態において、リモートサーバは、複数の車両の状態に基づいて拡張状態を形成する。
【0111】
いくつかの実施形態において、拡張状態は、複数の車両の状態の和集合である。たとえば、拡張状態は、車両の位置および速度、搬送波位相アンビギュイティ、ならびに残留バイアス状態、たとえば電離層残留遅延を含む。互いの距離が十分に近い車両、たとえば、3~10km未満離れている車両の場合、電離層遅延は、異なる車両について同一であるとみなすことができる。たとえば、図5Dを参照すると、領域510d内の車両は、非常に類似した電離層遅延を有する。そのため、いくつかの実施形態において、そのような電離層遅延は複数の車両について同じであるという理由から、拡張状態の次元はすべての車両の状態の合計よりも小さい。
【0112】
GNSSアプリケーションの大半において、残留バイアスは、一重または二重差演算によって抑制され、これらのアプリケーションの焦点は、GNSS測定値の一部を形成する整数アンビギュイティを回復させることにある。しかしながら、いくつかの実施形態は、GNSS信号の伝搬の物理学の性質に起因して、残留バイアスが依然としてGNSS測定値に影響を及ぼしている、という認識に基づいている。しかしながら、これらのバイアスは、単一のGNSS受信機のみから求めることはできないが、複数の受信機を測定する複数の衛星からの複数の測定値の測定値拡張を使用する。その理由は、整数アンビギュイティが衛星-車両の組み合わせごとに固有であるが残留バイアスは固有ではないことにある。たとえば、電離層遅延は、状態における残留バイアスとして含まれ、これは、互いに近接して測定される車両について同じである。そのため、これらの残留バイアスを回復させるために、測定ノイズを、整数アンビギュイティ推定というタスクと大きく異なるタスクである衛星信号の複数の車両の測定値間の相関関係を求めるために、推定しなければならない。
【0113】
いくつかの実施形態は、残留バイアスを推定するそのようなタスクは、多くの未知数が存在するため、個々の車両のレベルで対処することが困難である、という認識に基づいている。その理由は、各車両は複数の衛星から複数のGNSS信号を受信し残留バイアスは異なるGNSS信号について同様であるが、アンビギュイティなそうではないことにある。したがって、単一の受信機であっても、より多くの測定値を使用することは、残留バイアスを推定することに関して非常に役に立つものではない。
【0114】
他方、複数の車両の複数の測定値を使用する場合、そのような測定値は同じ衛星から生じるので、異なる車両のGNSS測定値間に相互相関関係がある。
【0115】
図6Aは、いくつかの実施形態に係る、複数の車両の連携状態追跡のための再帰的方法600のフローチャートを示す。この方法は、リモートサーバのプロセッサ、たとえば、RSUまたはクラウド内のエッジデバイスによって実行される。リモートサーバは、複数の車両からの複数の送信605aを受信する(610a)。車両からの各送信605aは、車両で受信された衛星信号の測定値および車両の状態の確率分布のパラメータを含む。
【0116】
リモートサーバは、対応する確率分布のパラメータによって定義される複数の車両の状態を融合して、複数の車両の拡張状態625aを形成する(620a)。一実施形態において、方法600は、ベクトル、行列またはテンソルにおいてすべての状態を一緒に連結するだけである。しかしながら、いくつかの他の実施形態において、近傍車両のいくつかの残留バイアスは同一であり、方法600は、複数の車両の状態の和集合として拡張状態625aを形成すること(620a)を取り除き、したがって、拡張状態の次元は、複数の車両のそれぞれの状態の次元の合計よりも小さい。
【0117】
加えて、方法600は、複数の車両の衛星信号の測定値を、拡張測定ノイズ635aの影響を受ける拡張状態の拡張測定値に融合する(630a)。いくつかの実施形態は、異なる車両の測定ノイズの依存性の認識に基づいている。したがって、拡張測定ノイズ623aは、非ゼロ非対角要素を有する非対角共分散行列によって定義され、各非ゼロ非対角要素は、対応する車両の対の測定値における誤差を関連付ける。
【0118】
方法600は、拡張測定ノイズの影響を受ける拡張測定値に基づいて拡張状態を更新する(645a)確率的フィルタを実行する(640a)。状態変数の冗長性および測定ノイズの相互相関の1つまたは組み合わせに起因して、個々の車両の各々についての更新された拡張状態645aの精度は、個々に求められた車両の状態の精度よりも大きくなり得る。
【0119】
制御の不連続性を回避するために、方法600は、複数の車両の少なくともいくつかの状態の確率分布のパラメータを、更新された拡張状態645aの対応する部分と融合して(650a)、複数の車両の少なくともいくつかの状態の確率分布の融合されたパラメータ(655a)を出力する。融合されたパラメータ655aは、車両に送信され、車両の制御のために、および状態推定を利用する他の目的のために、使用することができる。
【0120】
確率的フィルタの実行640aは、マルチヘッドまたはシングルヘッド測定モデルなどの異なる測定モデルを使用して、ならびに等速運動モデル、等加速度運動モデル、Singerモデル、運動学的車両モデル、および動的車両モデルなどのさまざまな運動モデルを使用して、いくつかの方法で行うことができる。確率的フィルタの例は、粒子フィルタまたは混合整数カルマンフィルタを含む。
【0121】
いくつかの実施形態は、個々の車両の確率的追跡の原理と同様の確率的推定の原理を使用して、複数の車両の状態を共同で追跡することができる、という理解に基づいている。一見すると、そのような共同追跡は、明らかな利益を即時にもたらすことなく追跡問題の次元を増大させるので、意味をなさない。その理由は、大部分のGNSSアプリケーションの焦点である、異なる車両の整数アンビギュイティが、そのような集合的追跡において互いに独立しているため、集合的追跡はアンビギュイティを解決するのに役立たないと思われることにある。
【0122】
しかしながら、いくつかの実施形態は、複数の車両の集合的状態推定中に、複数の車両の、本開示では拡張状態と呼ばれる集合状態に課される測定ノイズが、実際に、拡張状態の推定についての不確実性を低減するために探索することができる、異なる車両の状態の測定値のノイズ間の有用な相互相関関係を有する、という認識に基づいている。たとえば、衛星が2つの車両を測定するとき、2つの測定値は同じソースから生じ、したがって同様のノイズ特性を有するので、2つの測定値間に直接的な相互相関関係がある。
【0123】
いくつかの実施形態は、拡張状態推定が、個々の車両によって実行される状態推定を訂正または少なくとも改善することができる、という理解に基づいている。しかしながら、車両の制御の不連続性を回避するために、拡張状態追跡および個別状態追跡の結果をソフトマージする必要がある。その理由は、個々の車両がより速い速度で更新することができ、異なる情報を提供することができる追加の搭載センサ、たとえば慣性測定ユニットおよびホイールエンコーダを有することができることにある。したがって、単に拡張状態からの結果を直接使用することは、推定の連続性の喪失をもたらす可能性があり、これは車両安全性に有害となる可能性がある。そのため、いくつかの実施形態は、個々の車両の状態自体の更新とは対照的に、個々の車両の状態の確率分布のパラメータを、更新された拡張状態の対応する部分と融合させる。このように、結果として得られる推定値は、相関測定ノイズなどの追加情報と、サーバによって使用される残留バイアスの類似性との間のトレードオフであり、個々の車両推定値を常に使用することによって滑らかさが提供される。
【0124】
それに加えてまたはその代わりとして、いくつかの実施形態は、拡張状態を追跡するそのような高次元確率的フィルタの計算の負荷を低減する必要性を認識する。例として、車両の状態は、推定される残留バイアスの数、および現在車両を測定している衛星の数に応じて、最大100次元の状態次元を有し得る。一方、車両の周辺には数百台の車両が存在する可能性があり、最悪の場合、拡張状態の次元は数万になる可能性がある。したがって、リモートサーバに関連する計算は、計算要求がより厳しく、特に、多数の整数アンビギュイティが固定される必要がある、混合整数推定問題の解法は、法外になる。いくつかの実施形態は、拡張状態の混合整数最小二乗問題を解くためには混合整数カルマンフィルタを使用する必要があることを認識する。
【0125】
いくつかの実施形態は、再帰的混合整数推定器を設計する場合に、状態の現在の推定値が整数値の履歴全体に依存するので、これは、サイズが絶えず増加する混合整数問題を解く必要性を暗示する、という理解に基づいている。したがって、このような大規模な推定問題を解くためには、さもなければ時間とともに複雑さが指数関数的に増大するため、さまざまな緩和を行う必要がある。
【0126】
一実施形態は、混合整数推定問題を緩和する方法が、整数アンビギュイティを実数値アンビギュイティからの最適化によって求め、その後、上記整数アンビギュイティに基づいて分布のパラメータを更新する代わりに、2つの確率分布のパラメータを再帰的かつ共同で求めることが、有益であり、ある分布は実数値状態でのみ機能し、ある分布は整数のアンビギュイティをモデル化する、という理解に基づいている。その理由は、2つの分布を使用する場合、実数値推定が混合整数推定と混合されず、したがって、実数値状態の真の分布が汚染されないことにある。
【0127】
図6Bは、いくつかの実施形態に係る、リモートサーバにおいて拡張状態の確率分布のパラメータを更新するための再帰的方法620aのフローチャートを示す。複数の送信の測定値605aを使用して、この方法は、二組の分布パラメータを一緒に更新し、一方は実数値を使用して制約されず、一方は整数値としてアンビギュイティを有するように制約される。最初に、運動モデルおよび測定モデル622bを使用して、この方法は、無制約拡張状態の確率分布のパラメータのワンステップ予測を求める(620b)。次に、この方法は、衛星測定値を使用して無制約拡張状態の確率分布のパラメータを更新する(630b)。
【0128】
この方法は、アンビギュイティの実数値パラメータを使用して、アンビギュイティを固定し(640b)、制約付きのアンビギュイティおよび測定モデル622bを使用して、衛星測定値とアンビギュイティを整数として有する拡張状態との間の関係を求めることによって拡張状態に制約を課し(619b)、制約付きの関係をもたらす。この方法は、次に、制約付き拡張状態の確率分布のパラメータのワンステップ予測を求め(639b)、最後に、制約付き拡張状態の確率分布のパラメータを更新する(649b)。
【0129】
【数10】
【0130】
【数11】
【0131】
【数12】
【0132】
【数13】
【0133】
【数14】
【0134】
図6Cは、いくつかの実施形態に係る、車両の複数の状態を拡張状態と融合させるための方法630aのフローチャートを示す。一般的に車両の状態と拡張状態とは同じ次元ではないので、状態は、異なる状態を等しく表す共同状態空間に変換される必要がある。一実装形態において、方法630aは、車両の状態のパラメータを拡張状態のパラメータと同じ状態空間に変換する(610c)。
【0135】
【数15】
【0136】
【数16】
【0137】
図6Dは、いくつかの実施形態に係る、状態空間の重複の一例を示す。図6Dの左部分において、状態空間は、3つの異なる車両610d、620d、630dと拡張状態640dとの間で同様である、すなわち、2つの間で変換は不要である。図6Dの中央部分において、状態空間は全く交わっておらず、右の図において、状態間に重複がある。
【0138】
上述の融合規則は、拡張状態と車両の状態との間の相互共分散を考慮していないので、保守的である。
【0139】
図6Eは、いくつかの実施形態に係る、拡張状態を車両の状態と融合させるための方法620cのフローチャートを示す。必要であれば、たとえば図6Dにおける第3の場合のように、この方法は、共同状態空間に変換されたパラメータ610eおよび衛星測定値の測定モデル615eを使用して、車両の状態と車両の状態および拡張状態との間の相互共分散を再帰的に更新する。最後に、この方法は、求められた相互共分散に従って第1および第2モーメントを融合する(630e)。
【0140】
相互共分散を再帰的に求めること(620e)は、複数の方法で行うことができる。たとえば、一実施形態は、カルマンフィルタ、たとえば、拡張カルマンフィルタ、線形回帰カルマンフィルタ、混合整数拡張カルマンフィルタ、または混合整数線形回帰カルマンフィルタが使用される場合、相互共分散は、推定の各時間ステップkにおいて再帰的に求めることができることを、認識する。これは、このようなフィルタにおける確率分布が、最初の2つのモーメントによってガウス分布の形で表されるためである。
【0141】
図6Fは、一実施形態に係る、相互共分散を求めるための方法620cのフローチャートを示す。運動モデルと拡張状態および車両の状態の測定モデル615fとを使用して、この方法は、関与するカルマンフィルタのカルマンゲインを求める610f。たとえば、一実施形態は、車両に対するカルマンゲイン、および拡張状態を推定するカルマンフィルタに対するカルマンゲインを求め、カルマンゲインは、十分に確立された技術に従って求められる。
【0142】
【数17】
【0143】
【数18】
【0144】
【数19】
【0145】
【数20】
【0146】
それに代えてまたはその代わりに、カルマンゲインは、車両から受信された情報215aの一部である。
【0147】
他の実施形態は、粒子フィルタを使用するときには相互共分散を再帰的に計算することが問題となり得るものであり、その理由が、そのような手法において、分布は第1および第2モーメントとしてのパラメータによってのみ表されるのではなく、ガウス混合としての第1および第2モーメントの混合として表されることにある、という認識に基づいている。しかしながら、他の実施形態は、粒子フィルタについて、最も可能性の高い粒子についてのカルマンゲインが代わりに使用され得ることを認識する。
【0148】
【数21】
【0149】
一実施形態は、パラメータの融合に関与する潜在的に非常に高次元の行列のいくつかの反転があることを認識する。一実施形態は、融合共分散を生成するために反転される必要がある行列のサイズを低減するためにSchur補数を使用する。
【0150】
他の実施形態は、複数の車両からの測定値を使用する場合、測定値から推定することができる余分な情報が存在する場合があるという理解に基づく。
【0151】
図6Gは、いくつかの実施形態に係る、複数の車両からの複数の送信からの測定値を含む完全測定モデルの測定ノイズにおける相互共分散の一例を示す。図6Gは、測定ノイズの共分散の要素を表す行列を示す。拡張状態の拡張測定モデルをもたらす測定値を積み重ねるときに、衛星が車両間で共有されない場合、対角線610gは、非ゼロ成分を有する唯一の部分となる。しかしながら、車両が、差分衛星測定値、すなわち、一重差または二重差を生成する際に使用される同じ衛星を共有する場合、非対角線620gおよび630gは、適切にモデル化される場合、非ゼロ成分640gを有し得る。そのような非ゼロ成分は、拡張状態推定値の知識を高めるために確率的フィルタによって利用される。
【0152】
いくつかの実施形態は、測定ノイズ行列Rが形成されたときに、非対角非ゼロ要素が存在するか否かに関係なく、それらがKFにおいて自動的に使用され得ることを理解する。しかしながら、非ゼロ非対角、すなわち、非ゼロ相互共分散を有するとき、KFは、これを利用して、測定誤差に基づいて第1および第2モーメントの更新を決定するカルマンゲインをより適切に求めることができる。
【0153】
一実施形態において、測定ノイズ行列は、測定値間に相互共分散が存在するような原理を使用して、コードおよび搬送波位相測定値の一重および/または二重差によって形成される。たとえば、いくつかの実装形態において、非ゼロ非対角要素640は、車両のペアに対応し、車両の対応するペアの共分散の組み合わせによって決定される。
【0154】
図6Hは、測定ノイズ行列が図6Gの構造となるように測定ノイズ行列を求めるための方法のフローチャートを示す。この方法は、衛星測定値をソートし(610g)、ソートされた衛星測定値の構造を形成する(615h)。たとえば、測定値は衛星の仰角に従ってソートされ、最も高い仰角を有する衛星は最も高く、二番目に高い仰角を有するものは二番目に高く、最も低い仰角を有する衛星は最後にソートされる。
【0155】
【数22】
【0156】
【数23】
【0157】
【数24】
【0158】
【数25】
【0159】
図7は、いくつかの実施形態に係る、たとえば、RFチャネル709を介して送信される車両から受信された情報の非同期連携を使用して複数の車両の状態を追跡するためのサーバ700を示す。サーバは、第1および第2モーメントと、衛星測定値と、複数の車両からの複数の送信からの上記測定値の対応する測定ノイズとを受信するためのRF受信機760を含む。
【0160】
システムは、入来した衛星測定値を車両の状態に関連付ける確率的測定モデルを格納する(781)メモリ780を含む。メモリはまた、車両の以前の状態を運動モデルによる車両の状態の予測に関連付ける確率的運動モデルを格納する(782)。たとえば、運動モデルは、積み重ねられた車両動力学モデル、積み重ねられた定加速度モデル、積み重ねられた定位置モデル、積み重ねられた連携ターンモデル、積み重ねられたSingerモデル、または異なる積み重ねられたモデルの組み合わせとすることができ、積み重ねは、複数のモデルを互いに積み重ねることを意味する。
【0161】
メモリはまた、本発明のいくつかの実施形態に係る確率的フィルタを実行するための命令783を格納する。
【0162】
確率的システム700は、複数の車両からRFチャネルを介して送信される情報709を受信するRF受信機760に動作的に接続された(750)RF測定モジュール740を含む。いくつかの実施形態において、情報は、複数の車両の第1モーメントおよび第2モーメントを含む。他の実施形態において、情報は、上記車両から受信された衛星信号を含み、信号は、衛星測定値、位置情報、およびタイミング情報を含む。
【0163】
いくつかの実施形態は、運動モデルを使用して、前の時間ステップにおける状態の第1および第2モーメントを現在の時間ステップにおける状態の第1および第2モーメントに関連付ける。たとえば、一実施形態は、運動モデルを使用する時間伝搬のモデルを使用して、車両の状態の第1および第2モーメントを現在の時点まで伝搬させる。時間伝搬のモデルの例は、Singerモデル、定加速度モデル、およびシングルトラック車両モデルを含む。時間伝搬において両方のモーメントを使用することは、不確実性の伝搬、したがって、状態を更新するときに第1モーメントがどれだけ信頼されるべきかが考慮されるので、第1モーメントだけを伝搬するよりも有利である。他の実施形態において、時間伝搬は、車両の運動モデルと車両の測定値との組み合わせによって行われる。
【0164】
さまざまな実施形態において、確率的システムは、第1および第2モーメントおよび衛星測定値を使用し、複数の車両からの複数の送信から受信された情報を使用して、第1および第2モーメントを更新する。たとえば、GNSS信号が受信され、信号を受信すると、プロセッサ730は、確率的フィルタ732を使用して、更新された第1および第2モーメントを求める(733)。
【0165】
他の実施形態において、確率的システム700は、車両に対応する更新された第1および第2モーメント、すなわち平均および共分散を送信する(739)ためのRF送信機770を含む。たとえば、車両1の平均および共分散が車両1に送信される。
具体例としての実施形態
【0166】
図8は、一実施形態に係る状態推定に基づく車両間(V2V)通信および計画の例を示す。本明細書で使用される各車両は、乗用車、移動ロボット、またはローバーを含む、任意のタイプの移動輸送システムであってもよい。たとえば、車両は自律的または半自律的であってもよい。
【0167】
この例では、複数の車両800、810、820が所与の高速道路801上を移動している。各車両は、多くの運動を行うことができる。たとえば、車両は、同じ経路850、890、880に留まることができ、または経路(またはレーン)860、870を変更することができる。各車両は、それ自体の感知能力、たとえばライダ、カメラ等を有する。各車両は、その近隣車両と情報を送受信する830、840可能性を有し、および/またはリモートサーバを介して他の車両を介して間接的に情報を交換することができる。たとえば、車両800および880は、車両810を介して情報を交換することができる。このタイプの通信ネットワークでは、情報は、高速道路または高速道路801の大部分にわたって送信することができる。
【0168】
いくつかの実施形態は、以下のシナリオに対処するように構成される。たとえば、車両820は、その経路を変更することを所望し、その経路計画においてオプション870を選択する。しかしながら、同時に、車両810も、車線を変更することを選択し、オプション860に従うことを所望する。この場合、2つの車両が衝突するかもしれない、または最適な車両810が車両820との衝突を回避するために緊急ブレーキを実行しなければならないことになる。本発明はこの場合に役立つことができる。そのため、いくつかの実施形態は、車両が現在の時刻tにおいて車両が検知するものを送信するだけでなく、それに加えてまたはその代わりとして、車両が時刻T+δにおいて実行を計画しているものを送信することを可能にする。
【0169】
図8の例において、車両820は、計画しその計画の実行をコミットした後に車両810に車線変更する計画を通知する。したがって、車両810は、δの時間間隔において、車両820が左870への移動を計画していることを知る。したがって、車両810は、860の代わりに、すなわち同じ車線に留まる動き890を選択することができる。
【0170】
それに加えてまたはその代わりとして、車両の運動は、連携的に決定された状態推定に基づいて、リモートサーバによって共同で制御することができる。たとえば、いくつかの実施形態において、共同状態推定のために判断される複数の車両は、共有制御目的で共同制御される車両の隊列走行を形成し、潜在的に形成し得る車両である。
【0171】
図9は、一実施形態に係る事故回避シナリオのための多車両隊列走行整形の概略図である。たとえば、高速道路901上を移動する車両930、970、950、960のグループを考える。ここで、突然、ゾーン900において車両隊列走行の前方に事故があるとする。この事故は、車両が移動するゾーン900を危険にする。車両920、960は、たとえばカメラを用いて問題を検知し、この情報を車両930、970に伝達する。次に、隊列走行は、分散最適化アルゴリズム、たとえば、形成維持マルチエージェントアルゴリズムを実行し、これは、事故ゾーン900を回避し、また車両の流れを中断しないように維持するために、隊列走行の最適な形状を選択する。この具体例において、隊列走行の最適な形状は、整列してライン995を形成し、ゾーン900を避けることである。
【0172】
図10は、いくつかの実施形態に係る、混合自律走行車両の直接および間接制御のためのシステム1000のブロック図を示す。システム1000は、RSUの一部としてリモートサーバ上に配置されて、自律車両、半自律車両、および/またはマニュアル駆動車両を含む通過する混合自律車両を制御することができる。システム1000は、システム1000を他の機械およびデバイスに接続するいくつかのインターフェイスを有し得る。ネットワークインターフェイスコントローラ(NIC)1050は、バス1006を介してシステム1000を混合自動車両に接続するネットワーク1090にシステム1000を接続して、同一方向に走行する混合自動車両のグループの交通状態を受信するように構成された受信機を含み、混合自動車両のグループは、隊列形成に参加する意思のある制御車両と、少なくとも1つの非制御車両とを含む。交通状態は、グループ内の各車両および制御車両の状態を表す。たとえば、一実施形態において、交通状態は、混合自動車両の現在の車道、現在の速度、および現在の加速度を含む。いくつかの実施形態において、混合自動車両は、隊列走行中の隣接する制御車両から予め定められた範囲の中に、すべての非制御車両を含む。
【0173】
また、NIC1050は、ネットワーク1090を介して制御車両に制御コマンドを送信するように適合させた送信機を含む。そのために、システム1000は、ネットワーク1090を介して混合自律走行車のグループ内の制御車両に制御コマンド1075を与えるように構成された出力インターフェイス、たとえば制御インターフェイス1070を含む。このようにして、システム1000を、混合自動車両と直接的または間接的に無線通信するリモートサーバ上に配置することができる。
【0174】
また、システム1000は、その他の種類の入出力インターフェイスを含み得る。たとえば、システム1000は、ヒューマンマシンインターフェイス1010を含み得る。ヒューマンマシンインターフェイス1010は、コントローラ1000を、キーボード1011およびポインティングデバイス1012に接続することができ、ポインティングデバイス1012は、とりわけ、マウス、トラックボール、タッチパッド、ジョイスティック、ポインティングスティック、スタイラス、またはタッチスクリーンを含み得る。
【0175】
システム1000は、格納されている命令を実行するように構成されたプロセッサ1020と、プロセッサが実行可能な命令を格納するメモリ1040とを含む。プロセッサ1020は、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、コンピューティングクラスタ、または任意の数の他の構成であってもよい。メモリ1040は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、または任意の他の好適なメモリマシンを含み得る。プロセッサ1020は、バス1006を介して1つ以上の入出力デバイスに接続することができる。
【0176】
プロセッサ1020は、命令を格納するとともに、命令によって使用される処理データを格納するメモリ記憶装置1030に動作的に接続される。記憶装置1030は、メモリ1040の一部を形成することができる、またはメモリに動作的に接続することができる。たとえば、メモリは、混合自律走行車の拡張状態を追跡し、交通状態を混合自律走行車の目標車道に変換するように訓練された確率的フィルタ1031を格納するように、かつ、車両の運動を説明するように構成された1つまたは複数のモデル1033を格納するように構成することができる。たとえば、モデル1033は、運動モデル、測定モデル、交通モデルなどを含み得る。
【0177】
プロセッサ1020は、非制御車両も間接的に制御する、制御車両に対する制御コマンドを決定するように構成される。そのために、プロセッサは、制御生成器1032を実行することにより、車両の状態に基づいて制御コマンドを決定するように構成される。いくつかの実施形態において、制御生成器1032は、個々のおよび/または車両の隊列走行のための拡張状態から制御コマンドを生成するように訓練された深層補強学習(DRL:deep reinforcement learning)コントローラを使用する。
【0178】
図11Aは、いくつかの実施形態に係る、直接的または間接的に制御される車両1101の概略図を示す。本明細書で使用車両1101は、乗用車、バス、またはローバーのような、任意の種類の車輪付き車両とすることができる。また、車両1101は、自律車両または半自律車両とすることができる。たとえば、いくつかの実施形態は、車両1101の動きを制御する。運きの例は、車両1101のステアリングシステム1103が制御する車両の横方向の運きを含む。一実施形態において、ステアリングシステム1103は、システム1000と通信するコントローラ1102によって制御される。それに加えてまたはそれに代えて、ステアリングシステム1103は、車両1101のドライバーによる制御が可能である。
【0179】
また、車両は、コントローラ1102によりまたは車両1101の他の構成要素により制御可能なエンジン1106を含み得る。また、車両は、周囲環境を検知するための1つ以上のセンサ1104を含み得る。センサ1104の例は、距離レンジファインダー、レーダー、ライダ、およびカメラを含む。また、車両1101は、その現在の動き量および内部ステータスを検知する1つ以上のセンサ1105を含み得る。センサ1105の例は、全地球測位システム(GPS)、加速度計、慣性計測装置、ジャイロスコープ、シャフト回転センサ、トルクセンサ、たわみセンサ、圧力センサ、および流量センサを含む。センサは情報をコントローラ1102に提供する。車両は、有線または無線通信チャネルを通してコントローラ1102の通信機能を可能にするトランシーバ1106を備えていてもよい。
【0180】
図11Bは、いくつかの実施形態に係る、システム1000から制御されたコマンドを受信するコントローラ1102と車両1101のコントローラ1100との間のやり取りの概略図を示す。たとえば、いくつかの実施形態において、車両1101のコントローラ1100は、車両1100の回転および加速度を制御する、ステアリングコントローラ1110およびブレーキ/スロットルコントローラ1120である。このような場合、コントローラ1102は、車両の状態を制御するために、コントローラ1110および1120に制御入力を出力する。また、コントローラ1100は、ハイレベルコントローラを、たとえば予測コントローラ1102の制御入力をさらに処理するレーンキープアシストコントローラ1130を含み得る。いずれの場合も、コントローラ1100は、予測コントローラ1102の出力をマッピングして使用し、車両のハンドルおよび/またはブレーキのような、車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御することにより車両の動きを制御する。車両マシンの状態xtは、位置、方位、および前進速度/横速度を含み得るものであり、制御入力utは、横加速度/前進加速度、ステアリング角度、およびエンジン/ブレーキトルクを含み得る。このシステムに対する状態制約は、レーンキープ制約と障害物回避制約とを含み得る。制御入力制約は、ステアリング角度制約と加速度制約とを含み得る。収集されるデータは、位置、方位、速度プロファイル、加速度、トルク、および/またはステアリング角度を含み得る。
【0181】
本発明の上記実施形態は、非常に多くのやり方のうちのいずれかのやり方で実現することができる。たとえば、実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、またはその組み合わせを用いて実現してもよい。ソフトウェアで実現する場合、ソフトウェアコードは、任意の適切なプロセッサ上で、または、1つのコンピュータに設けられていても複数のコンピュータに分散されていてもよいプロセッサの集合体上で、実行することができる。このようなプロセッサは、1つ以上のプロセッサが集積回路構成要素内にある集積回路として実現されてもよい。とはいえ、プロセッサは、任意の適切なフォーマットの回路を用いて実現されてもよい。
【0182】
また、本明細書で概要を述べた各種方法またはプロセスは、さまざまなオペレーティングシステムまたはプラットフォームのうちのいずれか1つを採用した1つ以上のプロセッサ上で実行可能なソフトウェアとして符号化されてもよい。加えて、このようなソフトウェアは、いくつかの適切なプログラミング言語および/またはプログラミングもしくはスクリプトツールのうちのいずれかを用いて記述されてもよく、また、フレームワークもしくは仮想マシン上で実行される、実行可能な機械言語コードまたは中間符号としてコンパイルされてもよい。典型的に、プログラムモジュールの機能は、各種実施形態において所望される通りに組み合わせても分散させてもよい。
【0183】
また、本発明の実施形態は方法として実施されてもよく、その一例が提供されている。この方法の一部として実行される動作の順序は任意の適切なやり方で決定されてもよい。したがって、実施形態は、例示されている順序と異なる順序で動作が実行されるように構成されてもよく、これは、いくつかの動作を、例示の実施形態では一連の動作として示されているが、同時に実行することを含み得る。
【0184】
本発明を、好ましい実施形態の例によって説明してきたが、本発明の精神および範囲の中でその他さまざまな適合化および修正が可能であることが理解されるはずである。したがって、添付の請求項の目的は、本発明の真の精神および範囲に含まれるこのような変形および修正すべてをカバーすることである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B