(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-06
(45)【発行日】2025-01-15
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体および工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20250107BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20250107BHJP
C22C 29/16 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
C22C29/16 A
(21)【出願番号】P 2024564644
(86)(22)【出願日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2024024936
【審査請求日】2024-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 侑生
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】道内 真人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 雄太
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/025291(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/025293(WO,A1)
【文献】特開2010-089223(JP,A)
【文献】特開2014-198637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
B23B 27/14
C22C 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、
クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、
炭化タングステンと、
コバルトと、
アルミニウムと、を含み、
前記第一化合物において、クロムの原子数N
Crおよびコバルトの原子数N
Coの合計に対する、クロムの原子数N
Crの割合N
Cr/(N
Cr+N
Co)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折パターンを、横軸が回折角2θであり、かつ、縦軸が回折強度cpsである座標系に示した第一グラフにおいて、
立方晶窒化硼素のピーク強度I
BNと、前記第一化合物のピーク強度I
aとは、0.0010≦I
a/I
BN≦0.300の関係を示す、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
前記ピーク強度I
BNと、前記ピーク強度I
aとは、0.01≦I
a/I
BN≦0.10の関係を示す、請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記N
Cr/(N
Cr+N
Co)は、0.20以上0.90以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記N
Cr/(N
Cr+N
Co)は、0.50以上0.90以下である、請求項4に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項6】
前記第一化合物において、
クロムおよびコバルトの合計含有率は、10原子%以上であり、
炭素の含有率は、5原子%以上であり、かつ、
クロム、コバルトおよび炭素の合計含有率は、40原子%以上である、請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項7】
前記立方晶窒化硼素焼結体の前記第一化合物の含有率は、0.1体積%以上29体積%以下である、請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項8】
前記第一化合物は、窒素、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の第一元素を含む、請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項9】
前記結合材は、さらに、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、および、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる第二化合物を含む、請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項10】
前記結合材は、さらに、珪素を含む、請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項11】
請求項1
または請求項2に記載の立方晶窒化硼素焼結体を含む工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化硼素焼結体および工具に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」とも記す。)焼結体は、非常に高い硬度を有するとともに、熱的安定性および化学的安定性にも優れることから、切削工具や耐磨工具に利用されている。立方晶窒化硼素焼結体では、用途に応じた特性を得るために、cBN粒子の含有率および結合材の種類などが検討されている。
【0003】
特許文献1には、結合材の適切な選択により、立方晶窒化硼素焼結体を用いた工具において、突発的な欠損の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、
クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、
炭化タングステンと、
コバルトと、
アルミニウムと、を含み、
前記第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
工具材料として用いた場合に、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することのできる立方晶窒化硼素焼結体が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、工具材料として用いた場合に、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することのできる立方晶窒化硼素焼結体、および、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、工具材料として用いた場合に、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することのできる立方晶窒化硼素焼結体、および、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を提供することが可能となる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、
クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、
炭化タングステンと、
コバルトと、
アルミニウムと、を含み、
前記第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0010】
本開示によれば、工具材料として用いた場合に、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することのできる立方晶窒化硼素焼結体、および、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を提供することが可能となる。
【0011】
(2)上記(1)において、前記立方晶窒化硼素焼結体のX線回折パターンを、横軸が回折角2θであり、かつ、縦軸が回折強度cpsである座標系に示した第一グラフにおいて、
立方晶窒化硼素のピーク強度IBNと、前記第一化合物のピーク強度Iaとは、0.0010≦Ia/IBN≦0.300の関係を示してもよい。
【0012】
これによると、工具寿命が更に向上する。
【0013】
(3)上記(2)において、前記ピーク強度IBNと、前記ピーク強度Iaとは、0.01≦Ia/IBN≦0.10の関係を示してもよい。
【0014】
これによると、工具寿命が更に向上する。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記NCr/(NCr+NCo)は、0.20以上0.90以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記NCr/(NCr+NCo)は、0.50以上0.90以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0017】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記第一化合物において、
クロムおよびコバルトの合計含有率は、10原子%以上であり、
炭素の含有率は、5原子%以上であり、かつ、
クロム、コバルトおよび炭素の合計含有率は、40原子%以上であってもよい。
【0018】
これによると、工具寿命が更に向上する。
【0019】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記立方晶窒化硼素焼結体の前記第一化合物の含有率は、0.1体積%以上29体積%以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0020】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、前記第一化合物は、窒素、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の第一元素を含んでもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0021】
(9)上記(1)から(8)のいずれかにおいて、前記結合材は、さらに、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、および、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる第二化合物を含んでもよい。これによると、切削工具の耐欠損性がさらに向上する。
【0022】
(10)上記(1)から(9)のいずれかにおいて、前記結合材は、さらに、珪素を含んでもよい。これによると、切削工具の耐摩耗性がさらに向上する。
【0023】
(11)本開示の工具は、上記(1)から(10)のいずれかを含む工具である。これによると、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することが可能となる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0025】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0026】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。
【0027】
本開示において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形は、オープンエンドの用語である。オープンエンドの用語は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズドの用語である。ただしクローズドの用語で表現される構成であっても、通常において付随する不純物であったり、対象技術に無関係であったりする付加的な要素は含み得る。
【0028】
本発明者等は、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することのできる立方晶窒化硼素焼結体の開発にあたり、まず、従来の立方晶窒化硼素焼結体を含む工具を用いて焼結合金の加工を行い、工具の損傷状態を観察した。その結果、以下の知見を得た。加工に伴い、立方晶窒化硼素焼結体において、cBNより低硬度である金属系結合材が選択的に損耗し、cBN粒子が浮き彫りになる。次に、cBN粒子間の結合が切れてcBN粒子が脱落する。結果として工具の刃先稜線が丸まり、被削材にバリなどが発生し、工具寿命に至る。
【0029】
本発明者等は、上記の知見に基づき、特に、耐摩耗性およびcBN粒子間の結合力に着目して、鋭意検討を行い、本開示の立方晶窒化硼素焼結体を得た。本開示の立方晶窒化硼素焼結体および工具の具体例を、以下に説明する。
【0030】
[実施形態1:立方晶窒化硼素焼結体]
本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)に係る立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、該結合材は、クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、炭化タングステンと、コバルトと、アルミニウムと、を含み、該第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。
【0031】
本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、工具材料として用いた場合に、焼結合金の加工においても、長い工具寿命を有する工具を提供することができる。この理由は、以下の通りと推察される。
【0032】
(i)本開示の立方晶窒化硼素焼結体は、優れた強度および靱性を有する立方晶窒化硼素粒子を70体積%以上99体積%以下含む。このため、立方晶窒化硼素焼結体も優れた強度および靱性を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具は、焼結合金の加工においても、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有することができる。
【0033】
(ii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は、クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物を含む。第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である。第一化合物は高い硬度を有するため、第一化合物を含む立方晶窒化硼素焼結体も高い硬度を有することができる。従って、該立方晶窒化硼素焼結体を含む工具は、焼結合金の加工においても、優れた耐摩耗性を有することができる。
【0034】
(iii)本開示の立方晶窒化硼素焼結体に含まれる第一化合物は、立方晶窒化硼素焼結体の製造時に、立方晶窒化硼素粒子の溶解および晶出を促進させるために、原料粉末に添加されたコバルトおよびクロムに由来する。原料粉末にコバルトおよびクロムを添加すると、焼結時に立方晶窒化硼素粒子のネッキングを成長させ、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率を向上させることができる。よって、得られた立方晶窒化硼素焼結体を含む工具では、焼結合金の加工においても、熱亀裂の発生が抑制される。
【0035】
<立方晶窒化硼素焼結体の組成>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える。結合材は、クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物、炭化タングステン、コバルト、並びに、アルミニウム、を含む。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、からなってもよい。
【0036】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の含有率は、70体積%以上99体積%以下である。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の下限は、硬度向上の観点から、70体積%以上であり、80体積%以上でもよく、または、90体積%以上でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の上限は、靭性向上の観点から、99体積%以下であり、または、95体積%以下でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率は、80体積%以上99体積%以下でもよく、90体積%以上99体積%以下でもよく、または、90体積%以上95体積%以下でもよい。
【0037】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材の含有率は、1体積%以上30体積%以下でもよく、1体積%以上10体積%以下でもよく、または、5体積%以上10体積%以下でもよい。
【0038】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素粒子および結合材の合計含有率は、71体積%以上99.9体積%以下でもよく、81体積%以上99.9体積%以下でもよく、または、95体積%以上99.9体積%以下でもよい。
【0039】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体における立方晶窒化硼素粒子および第一化合物の合計含有率は、70.1体積%以上99.1体積%以下でもよく、73体積%以上99体積%以下でもよく、90.1体積%以上95体積%以下でもよく、または、91体積%以上95体積%以下でもよい。
【0040】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を損なわない限り、不可避不純物を含んでもよい。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、不可避不純物と、からなってもよい。不可避不純物としては、たとえば、窒素、酸素が挙げられる。立方晶窒化硼素焼結体が不可避不純物を含む場合は、立方晶窒化硼素焼結体の不可避不純物の含有率は0.1質量%以下とすることができる。立方晶窒化硼素焼結体の不可避不純物の含有率は、二次イオン質量分析(SIMS)により測定することができる。
【0041】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子、第一化合物、炭化タングステン、コバルト、および、アルミニウムからなることができる。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、第一化合物、炭化タングステン、コバルト、および、アルミニウムに加えて、後述の第二化合物、珪素単体、および、原材料、製造条件等に起因する不純物を含むことができる。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子、第一化合物、炭化タングステン、コバルト、アルミニウム、第二化合物および珪素の一方または両方、並びに、不可避不純物からなることができる。
【0042】
立方晶窒化硼素焼結体におけるcBN粒子の含有率(体積%)および結合材の含有率(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商品名))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(Octane Elect(オクタンエレクト)EDSシステム)(以下「SEM-EDX」とも記す。)を用いて、立方晶窒化硼素焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0043】
立方晶窒化硼素焼結体の任意の位置を切断し、立方晶窒化硼素焼結体の断面を露出させ、断面を研磨する。立方晶窒化硼素焼結体の切断には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。立方晶窒化硼素焼結体が工具の一部として用いられている場合は、立方晶窒化硼素焼結体の部分を、ダイヤモンド砥石電着ワイヤー等で切り出して、立方晶窒化硼素焼結体の断面を含む試料を露出させる。
【0044】
次に、断面をSEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像において、例えば、cBN粒子が存在する領域は最も濃い黒色領域となり、結合材が存在する領域は灰色領域または白色領域となる。
【0045】
次に、反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF 2018」)を用いて、cBN粒子のみが抽出されるように二値化処理を行う。二値化の閾値はコントラストにより変化するため、画像ごとに設定する。二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、立方晶窒化硼素焼結体におけるcBN粒子の含有率(体積%)を求めることができる。暗視野に由来する画素がcBN粒子に由来することは、立方晶窒化硼素焼結体に対してSEM-EDXによる元素分析を行うことにより確認することができる。
【0046】
二値化処理後の画像から、測定視野の面積に占める明視野に由来する画素(結合材に由来する画素)の面積比率を算出することにより、立方晶窒化硼素焼結体における結合材の含有率(体積%)を求めることができる。明視野に由来する画素が結合材に由来することは、立方晶窒化硼素焼結体に対してSEM-EDXによる元素分析を行うことにより確認することができる。
【0047】
上記のcBN粒子および結合材の面積百分率の測定を、互いに重複しない5つの測定視野で行い、5つの測定視野のcBN粒子および結合材の面積百分率の平均を算出する。本開示において、5つの測定視野のcBN粒子の面積百分率の平均が、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)に該当する。本開示において、5つの測定視野の結合材の面積百分率の平均が、立方晶窒化硼素焼結体の結合材の含有率(体積%)に該当する。
【0048】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子および結合材の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0049】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体において、第一化合物の含有率は、0.1体積%以上29体積%以下であってもよい。立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率の下限は、硬度向上の観点から、0.1体積%以上でもよく、0.15体積%以上でもよく、0.2体積%以上でもよく、または、0.3体積%以上でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率の上限は、29体積%以下でもよく、15体積%以下でもよく、10体積%以下でもよく、9体積%以下でもよく、または、3体積%以下でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率は、0.15体積%以上15体積%以下でもよく、0.2体積%以上9体積%以下でもよく、または、0.3体積%以上3体積%以下でもよい。
【0050】
本開示において、立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製の「JEM-ARM300F2」(商標))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(日本電子社製のデュアルSSDシステム)(以下「TEM-EDX」とも記す。)を用いて、以下の手順で測定される。
【0051】
(A1)立方晶窒化硼素焼結体をアルゴンイオンスライサー(日本電子社製の「クライオイオンスライサーIB-09060BCIS」(商標))を用いて、加速電圧6kV、仕上げ2kVの条件で、30~100nmの厚みに薄片化して測定用試料を作製する。
【0052】
(B1)次に、測定用試料をTEMを用いて、加速電圧200kVの条件で、2万倍で観察することにより、第1画像を得る。
【0053】
(C1)第1画像中に10μm×10μmの矩形の測定視野を設定する。測定視野において、TEM-EDXで元素分布分析を行う。測定条件は、加速電圧200kV、カメラ長10cm、画素数512×512pixel、デュエルタイム0.5ms/pixelである。元素分布分析結果に基づき、各画素にクロム、コバルトおよび炭素のそれぞれの原子基準の含有率(原子%)が記された512×512pixel(以下「512×512画素」とも記す。)から構成される行列を得る。
【0054】
(D1)得られた512×512画素から構成される行列の各画素において、クロム含有率とコバルト含有率とを加算した後に、二値化処理を行い、クロムおよびコバルトの少なくとも一方を含む画素が抽出された第1二値化画像を得る。閾値の設定条件には周知の自動閾値決定法の一つである「大津の二値化法」を適用する。
【0055】
(E1)次に、得られた512×512画素から構成される行列の各画素において、炭素含有率に基づき、二値化処理を行い、炭素を含む画素が抽出された第2二値化画像を得る。閾値の設定条件には「大津の二値化法」を適用する。
【0056】
(F1)第1二値化画像および第2二値化画像に基づき、512×512画素のうち、第1二値化画像および第2二値化画像のいずれにおいても抽出された画素(以下「第1画素」とも記す。)を特定する。以下、512×512画素のうち、第1画素に対応する領域を領域R1とも記す。
【0057】
(G1)領域R1を構成する第1画素のそれぞれにおいて、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)を算出する。領域R1を構成する全ての第1画素のNCr/(NCr+NCo)の中央値Aを算出する。
【0058】
(H1)上記中央値Aの算出を、互いに重複しない5つの測定視野で行い、5つの測定視野のNCr/(NCr+NCo)の中央値Aの平均Bを算出する。本開示において、平均Bが0.10以上0.90以下である場合、5つの測定視野中の領域R1は、NCr/(NCr+NCo)が0.10以上0.90以下である第一化合物に該当すると判断される。
【0059】
(I1)5つの測定視野の全ての画素の数NAに対する、5つの測定視野の全てにおける第一化合物に該当する領域R1を構成する第1画素の数N1の百分率(N1/NA)×100を算出する。本開示において、百分率(N1/NA)×100が、立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)に該当する。
【0060】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0061】
<立方晶窒化硼素粒子>
≪立方晶窒化硼素粒子の組成≫
実施形態1において、立方晶窒化硼素粒子は立方晶窒化硼素からなる。立方晶窒化硼素粒子は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、立方晶窒化硼素とともに、不純物を含むことができる。立方晶窒化硼素粒子が不純物を含む場合は、立方晶窒化硼素粒子の不純物の含有率は0.1質量%以下とすることができる。立方晶窒化硼素粒子の不純物の含有率は、二次イオン質量分析(SIMS)により測定することができる。
【0062】
≪立方晶窒化硼素粒子の平均粒径≫
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径は特に制限されず、従来の立方晶窒化硼素焼結体に用いられる一般的な平均粒径とすることができる。立方晶窒化硼素粒子の粒径は、例えば、0.1μm以上10μm以下であってもよい。
【0063】
本開示において、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径は、以下の手順で測定される。立方晶窒化硼素焼結体の立方晶窒化硼素粒子の含有率の測定手順と同一の方法で、cBN焼結体の断面を露出させ、断面を研磨する。
【0064】
次に、研磨面をSEMにて10,000倍で観察して、SEM画像を得る。SEM画像中に、12μm×15μmの矩形の測定視野を設定する。SEM画像を画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF ver.7.4.5」)を用いて処理することにより、測定視野内に観察される各cBN粒子の円相当径を得る。測定視野内の全てのcBN粒子の円相当径の算術平均を算出する。該算術平均が、測定視野におけるcBN粒子の平均粒径に該当する。
【0065】
上記の測定を、互いに重複しない5つの測定視野で行う。5つの測定視野のcBN粒子の平均粒径の算術平均を算出する。本開示において、5つの測定視野の平均粒径の算術平均が、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径に該当する。
【0066】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素粒子の平均粒径の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0067】
<第一化合物>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は第一化合物を含む。第一化合物はクロム、コバルトおよび炭素を含み、第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である。第一化合物は、CrCoCで示される化合物でもよい。
【0068】
NCr/(NCr+NCo)の下限は、立方晶窒化硼素焼結体の製造時に、立方晶窒化硼素粒子の溶解および晶出が促進され、立方晶窒化硼素粒子のネッキングの成長が促進されるという観点から、0.20以上0.90以下でもよく、0.30以上0.90以下でもよく、0.50以上0.90以下でもよく、または、0.65以上0.80以下でもよい。
【0069】
本開示において、NCr/(NCr+NCo)は、上記の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)の測定方法に記載の手順(A1)~(H1)に従って求められる5つの測定視野のNCr/(NCr+NCo)の中央値Aの平均Bに該当する。
【0070】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物において、クロムおよびコバルトの合計含有率は、10原子%以上であり、炭素の含有率は、10原子%以上であり、かつ、クロム、コバルトおよび炭素の合計含有率は、40原子%以上でもよい。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物において、クロムおよびコバルトの合計含有率は、10原子%以上であり、炭素の含有率は、5原子%以上であり、かつ、クロム、コバルトおよび炭素の合計含有率は、40原子%以上でもよい。
【0071】
第一化合物におけるクロムおよびコバルトの合計含有率は、立方晶窒化硼素粒子のネッキングの成長が促進されるという観点から、10原子%以上90原子%以下もよく、20原子%以上80原子%以下でもよく、または、30原子%以上70原子%以下でもよい。
【0072】
第一化合物における炭素の含有率の下限は、第一化合物が炭化物として高い硬度を有するという観点から、5原子%以上でもよく、10原子%以上でもよく、または、15原子%以上でもよい。第一化合物における炭素の含有率の上限は、立方晶窒化硼素粒子のネッキングの成長の抑制を低減するという観点から、90原子%以下でもよく、80原子%以下でもよく、または、70原子%以下でもよい。第一化合物における炭素の含有率は、5原子%以上90原子%以下もよく、10原子%以上80原子%以下でもよく、または、15原子%以上70原子%以下でもよい。
【0073】
第一化合物におけるクロム、コバルトおよび炭素の合計含有率は、本開示の効果を十分に発揮するという観点から、40原子%以上100原子%以下もよく、50原子%以上90原子%以下でもよく、または、60原子%以上80原子%以下でもよい。
【0074】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体において、第一化合物は、クロム、コバルトおよび炭素に加えて、窒素、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の第一元素を含んでもよい。第一元素が窒素の場合、第一元素はCrCoCNであってもよい。窒素は、第一化合物の製造工程において、第一化合物に混入する可能性がある元素である。窒素は、CrCoCに固溶していてもよい。第一元素がチタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウムおよび珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の場合、これらの元素は、CrCoCに固溶していてもよい。
【0075】
第一化合物における第一元素の合計含有率は、0原子%以上25原子%以下でもよく、3原子%以上15原子%以下でもよく、5原子%以上10原子%以下でもよい。
【0076】
本開示において、第一化合物における、クロム、コバルト、炭素および第一元素のそれぞれの含有率(原子%)は、以下の手順で測定される。上記の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)の測定方法に記載の手順(A1)~(H1)に従って、NCr/(NCr+NCo)が0.10以上0.90以下である第一化合物に該当する領域R1を特定する。領域R1を構成する全ての第1画素に対して、TEM-EDXで元素分布分析を行い、測定結果に基づき、領域R1におけるクロム、コバルト、炭素および第一元素のそれぞれの含有率(原子%)の平均値を算出する。領域R1におけるクロム、コバルト、炭素および第一元素のそれぞれの含有率(原子%)の平均値が、第一化合物におけるクロム、コバルト、炭素および第一元素のそれぞれの含有率(原子%)に該当する。
【0077】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、第一化合物におけるクロム、コバルト、炭素および第一元素のそれぞれの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0078】
第一化合物は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、クロム、コバルト、炭素および第一元素以外の他の元素を含んでいてもよい。例えば、他の元素は、硼素、酸素、アルミニウムでもよい。
【0079】
<炭化タングステン>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は、炭化タングステンを含む。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率の下限は、硬度向上の観点から、0.1体積%以上でもよく、0.2体積%以上でもよく、または、0.3体積%以上でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率の上限は、29体積%以下でもよく、10体積%以下でもよく、7体積%以下でもよく、6体積%以下でもよく、または、3体積%以下でもよい。立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率は、0.1体積%以上29体積%以下でもよく、0.2体積%以上10体積%以下でもよく、0.2体積%以上7体積%以下でもよく、0.2体積%以上6体積%以下でもよく、または、0.3体積%以上3体積%以下でもよい。
【0080】
本開示において、立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率は、以下の手順で測定される。
【0081】
(A2)上記の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)の測定方法に記載の手順(A1)~(C1)に従って元素分布分析を行い、各画素に炭素およびタングステンのそれぞれの原子基準の含有率(原子%)が記された512×512画素から構成される行列を得る。
【0082】
(B2)得られた512×512画素から構成される行列の各画素において、炭素含有率に基づき、二値化処理を行い、炭素を含む画素が抽出された第2二値化画像を得る。閾値の設定条件には「大津の二値化法」を適用する。
【0083】
(C2)得られた512×512画素から構成される行列の各画素において、タングステン含有率に基づき、二値化処理を行い、タングステンを含む画素が抽出された第3二値化画像を得る。閾値の設定条件には「大津の二値化法」を適用する。
【0084】
(D2)第2二値化画像および第3二値化画像に基づき、512×512画素のうち、第2二値化画像および第3二値化画像のいずれにおいても抽出された画素(以下「第2画素」とも記す。)を特定する。
【0085】
(E2)5つの測定視野の全ての画素の数NAに対する、第2画素の数N2の百分率(N2/NA)×100を算出する。本開示において、百分率(N2/NA)×100が、立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率(体積%)に該当する。
【0086】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体の炭化タングステンの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0087】
<コバルト>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、コバルトを含む。該コバルトは、コバルト単体からなるコバルト相として存在し、第一化合物に含まれるコバルトとは区別される。
【0088】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率の下限は、靱性向上の観点から、0.1体積%以上でもよく、0.5体積%以上でもよく、または、1.0体積%以上でもよい。立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率の上限は、29体積%以下でもよく、17体積%以下でもよく、14体積%以下でもよく、5体積%以下でもよく、または、3体積%以下でもよい。立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率は、0.1体積%以上29体積%以下でもよく、0.5体積%以上17体積%以下でもよく、1.0体積%以上14体積%以下でもよく、1.0体積%以上5体積%以下でもよく、または、1.0体積%以上3体積%以下でもよい。ここで、コバルトの含有率は、コバルト単体の含有率である。
【0089】
本開示において、立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率は、以下の手順で測定される。
【0090】
(A3)上記の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)の測定方法に記載の手順(A1)~(C1)に従って元素分布分析を行い、512×512画素から構成される行列において、コバルトのみが存在する画素(以下「第3画素」)を特定する。
【0091】
(B3)5つの測定視野の全ての画素の数NAに対する、第3画素の数N3の百分率(N3/NA)×100を算出する。本開示において、百分率(N3/NA)×100が、立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率(体積%)に該当する。
【0092】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体のコバルトの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0093】
<アルミニウム>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体は、アルミニウムを含む。アルミニウムは、アルミニウム単体からなるアルミニウム相として存在する。
【0094】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率の下限は、靱性向上の観点から、0.1体積%以上でもよく、0.2体積%以上でもよく、または、0.3体積%以上でもよい。立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率の上限は、29体積%以下でもよく、10体積%以下でもよく、または、3体積%以下でもよい。立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率は、0.1体積%以上29体積%以下でもよく、0.2体積%以上10体積%以下でもよく、または、0.3体積%以上3体積%以下でもよい。ここで、アルミニウムの含有率は、アルミニウム単体の含有率である。
【0095】
本開示において、立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率は、以下の手順で測定される。
【0096】
(A4)上記の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物の含有率(体積%)の測定方法に記載の手順(A1)~(C1)に従って元素分布分析を行い、512×512画素から構成される行列において、アルミニウムのみが存在する画素(以下「第4画素」)を特定する。
【0097】
(B4)5つの測定視野の全ての画素の数NAに対する、第4画素の数N4の百分率(N4/NA)×100を算出する。本開示において、百分率(N4/NA)×100が、立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率(体積%)に該当する。
【0098】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、立方晶窒化硼素焼結体のアルミニウムの含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0099】
<第二化合物>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は、さらに、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、および、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素および酸素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる第二化合物を含んでもよい。これによると、切削工具の耐欠損性がさらに向上する。
【0100】
第二化合物は、AlN、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、TiN、ZrN、HfN、VN、NbN、TaN、CrN、TiCN、ZrCN、HfCN、NbCN、TaCN、Al2O3、および、ZrO2からなる群より選ばれる少なくとも1種でもよい。
【0101】
<その他の成分>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は、珪素を含んでもよい。珪素は珪素単体として存在し、第一化合物に含まれる第一元素としての珪素とは区別される。これによると、切削工具の耐摩耗性がさらに向上する。
【0102】
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の結合材は、ニッケルを含んでもよい。これによると、立方晶窒化硼素焼結体の靱性が向上する。
【0103】
<X線回折パターン>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体のX線回折パターンを、横軸が回折角2θであり、かつ、縦軸が回折強度cpsである座標系に示した第一グラフにおいて、立方晶窒化硼素のピーク強度IBNと、第一化合物のピーク強度Iaとは、0.0010≦Ia/IBN≦0.350の関係を示してもよく、0.0010≦Ia/IBN≦0.300の関係を示してもよく、0.01≦Ia/IBN≦0.10の関係を示してもよい。
【0104】
Ia/IBNは、0.01以上0.300以下でもよく、または、0.02以上0.10以下でもよい。
【0105】
本開示において、立方晶窒化硼素焼結体のX線回折パターンは、以下の手順で取得される。立方晶窒化硼素焼結体をダイヤモンド砥石電着ワイヤーで切断し、切断面を観察面とする。
【0106】
X線回折装置(Rigaku社製「MiniFlex600」(商品名))を用いて立方晶窒化硼素焼結体の切断面のX線回折パターンを得る。このときのX線回折装置の条件は、下記の通りとする。
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 40kV
管電流: 15mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法
【0107】
得られたX線回折パターンを、横軸が回折角2θであり、かつ、縦軸が回折強度cpsである座標系に示して、第一グラフを得る。第一グラフにおいて、立方晶窒化硼素のピーク強度IBN、および、第一化合物のピーク強度Iaを測定する。立方晶窒化硼素のピーク強度IBNを示すピークは、理論上は回折角2θが43.37°に存在する。ただし、測定上のばらつきや、第一化合物におけるクロムとコバルトとの原子比率により、ピーク強度IBNを示すピークの回折角2θが43.37°から±0.3°の範囲でシフトしている場合がある。この場合は、ピーク強度IBNを示すピークの回折角2θが43.37°となるように、第一グラフ上のX線回折パターンを規格化する。
【0108】
立方晶窒化硼素のピーク強度IBNは、回折角2θが43.37°でのピーク強度からバックグラウンドを除いた強度である。X線回折パターンを規格化後の第一グラフにおいて、第一化合物のピーク強度Iaを示すピークは、回折角2θが39.08°±0.5°に存在する。第一化合物のピーク強度Iaは、回折角2θが39.08°±0.5°でのピーク強度からバックグラウンドを除いた強度である。
【0109】
<立方晶窒化硼素焼結体の製造方法>
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法について説明する。実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体の製造方法は、原料粉末準備工程と、混合工程と、焼結工程とを含むことができる。
【0110】
≪原料粉末準備工程≫
原料粉末としては、立方晶窒化硼素粉末、第一原料粉末、および第二原料粉末を準備する。
【0111】
立方晶窒化硼素粉末は、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる立方晶窒化硼素粒子の原料粉末である。立方晶窒化硼素粉末は、六方晶窒化硼素粉末に触媒(Li、Ca、Mg、及びこれらの窒化物、硼化物、硼窒化物)を添加した後、加熱加圧を行い作製してもよいし、市販のcBN粉末を準備してもよい。
【0112】
第一原料粉末は、例えば、アトマイズ法により製造したCoCr合金と炭素粉末とを混合し、窒素雰囲気にて焼成して得ることができる。CoCr合金および炭素粉末に第一元素粉末を添加して混合して、窒素雰囲気にて焼成して、第一原料粉末を得てもよい。
【0113】
第一元素粉末は、チタン粉末、バナジウム粉末、ジルコニウム粉末、ニオブ粉末、モリブデン粉末、ハフニウム粉末、タンタル粉末、タングステン粉末、レニウム粉末および珪素粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種でもよい。
【0114】
第一原料粉末は、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル、およびジェットミルなどで混合する。これによると、均質な第一原料粉末を得ることができる。各混合粉砕方法は、湿式でもよく乾式でもよい。第一原料粉末の平均粒径は、例えば、0.05μm以上3μm以下でもよい。本開示において、原料粉末の平均粒径とは、FSSS(Fisher Sub-Sieve Sizer)法により測定される平均粒径を意味する。該平均粒径は、Fisher Scientific社製の「Sub-Sieve Sizer モデル95」(商標)を用いて測定される。原料粉末の粒径の分布は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0115】
第二原料粉末は、炭化タングステン粉末、コバルト粉末およびアルミニウム粉末を混合後、均一化のために焼成し粉砕して得ることができる。炭化タングステン粉末、コバルト粉末およびアルミニウム粉末に、更に、珪素粉末、第二化合物原料粉末、ニッケル粉末などを加えて、混合後、焼成し粉砕して第二原料粉末を得てもよい。
【0116】
第二化合物原料粉末は、AlN粉末、TiC粉末、ZrC粉末、HfC粉末、VC粉末、NbC粉末、TaC粉末、TiN粉末、ZrN粉末、HfN粉末、VN粉末、NbN粉末、TaN粉末、CrN粉末、TiCN粉末、ZrCN粉末、HfCN粉末、NbCN粉末、TaCN粉末、Al2O3粉末、および、ZrO2粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種でもよい。
【0117】
混合は、ボールミル、ビーズミル、遊星ミル、およびジェットミルなどを用いることができる。これによると、均質な第二原料粉末を得ることができる。各混合粉砕方法は、湿式でもよく乾式でもよい。第二原料粉末の平均粒径は、例えば、0.05μm以上3μm以下でもよい。
【0118】
≪混合工程≫
立方晶窒化硼素粉末、第一原料粉末と第二原料粉末とを所定の比率で混合して混合粉末を得る。混合は、エタノール、アセトン等を溶媒に用いた湿式ボールミル混合とする。混合粉末の調製後は自然乾燥もしくは真空湯煎乾燥によって溶媒を除去する。さらに混合粉末に対して、熱処理(たとえば、真空下で200℃以上)をすることができる。これにより、表面に吸着された水分等の不純物を除去することができる。
【0119】
≪焼結工程≫
上記混合粉末を焼結することにより、実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体を得る。具体的には、真空封止された混合粉末を、超高温高圧装置を用いて焼結する。焼結温度は、1600℃以上1900℃以下である。焼結圧力は、5.5GPa以上8.0GPa以下である。保持時間は、10分以上50分以下である。
【0120】
[実施形態2:工具]
本開示の一実施形態(以下「実施形態2」とも記す。)に係る工具は、実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体を含む工具である。工具はそれぞれ、その全体が立方晶窒化硼素焼結体で構成されていてもよいし、その一部(たとえば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化硼素焼結体で構成されていてもよい。さらに、各工具の表面にコーティング膜が形成されていても良い。工具としては、切削工具および耐摩工具などを挙げることができる。
【0121】
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイトなどを挙げることができる。
【0122】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサーなどを挙げることができる。研削工具としては、研削砥石などを挙げることができる。
【0123】
[付記1]
70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記結合材は、
クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、
炭化タングステンと、
コバルト単体と、
アルミニウム単体と、を含み、
前記第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体。
【実施例】
【0124】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0125】
<立方晶窒化硼素焼結体の作製>
以下の手順で、各試料の立方晶窒化硼素焼結体を作製した。
【0126】
≪原料粉末準備工程≫
原料粉末として、立方晶窒化硼素粉末、第一原料粉末、第二原料粉末を準備した。
【0127】
第一原料粉末は、アトマイズ法により製造したCoCr合金と炭素粉末と第一元素粉末とを表1および表2の「第一原料粉末」の「CoCr」、「C」および「第一元素粉末」欄に記載の比率で混合し、真空中で焼成して得た。ただし、試料29のみ、窒素雰囲気で焼成した。各試料で用いたCoCr合金におけるCoとCrとの原子数の比は、表5および表6の「第一化合物」の「Co含有率」と「Cr含有率」との比と同一であった。第一原料粉末は、湿式でボールミルで混合した。第一原料粉末の平均粒径は0.1μm以上3μm以下であった。表中「-」との記載は、該当の粉末を用いなかったことを示す。
【0128】
第二原料粉末は、表1および表2の「第二原料粉末」欄に記載の組成の粉末を準備した。例えば、試料1では、炭化タングステン(WC)粉末、コバルト(Co)粉末およびアルミニウム(Al)粉末を準備した。これらの粉末を混合後、焼成し粉砕して、第二原料粉末を得た。第二原料粉末は、湿式でボールミルで混合した。第二原料粉末の平均粒径は、0.1μm以上3μm以下であった。
【0129】
≪混合工程≫
立方晶窒化硼素粉末と第一原料粉末と第二原料粉末とを、表1および表2の「原料粉末」の「cBN粉末」、「第一原料粉末」および「第二原料粉末」の「配合量」欄に記載の質量比率で混合して混合粉末を得た。混合は、エタノールを溶媒に用いた湿式ボールミル混合とした。混合粉末の調製後は自然乾燥によって溶媒を除去した。
【0130】
≪焼結工程≫
上記混合粉末を焼結することにより、各試料の立方晶窒化硼素焼結体を得た。具体的には、真空封止された混合粉末を、超高温高圧装置を用いて焼結した。焼結温度は1700℃、焼結圧力は7GPa、保持時間は15分とした。
【0131】
【0132】
【0133】
<立方晶窒化硼素焼結体の評価>
≪組成≫
各試料の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の含有率(体積%)をSEM-EDXで測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3および表4の「cBN焼結体」の「cBN粒子」欄に示す。
【0134】
各試料の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN焼結体の第一化合物の含有率(体積%)、第一化合物のクロム含有率(原子%)、コバルト含有率(原子%)および炭素含有率(原子%)、第一化合物に含まれる第一元素の種類をTEM-EDXで測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。cBN焼結体の第一化合物の含有率を、表3および表4の「第一化合物」欄に示す。第一化合物のクロム含有率、コバルト含有率および炭素含有率、第一化合物に含まれる第一元素の種類を、表5および表6の「Cr」、「Co」、「C」、「第一元素」欄に示す。
【0135】
各試料の立方晶窒化硼素焼結体の第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)を測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表5および表6の「NCr/(NCr+NCo)」欄に示す。
【0136】
各試料の立方晶窒化硼素焼結体において、cBN粒子および第一化合物以外の成分の組成をTEM-EDXで特定した。結果を表3および表4の「結合材」欄に示す。結合材は、第一化合物および「結合材」欄に記載される成分からなる。全ての立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子と、第一化合物および「結合材」欄に記載される成分からなる結合材と、からなる。
【0137】
各試料の立方晶窒化硼素焼結体において、炭化タングステンの含有率(体積%)、コバルトの含有率(体積%)、および、アルミニウムの含有率(体積%)を測定した。ここで、コバルトの含有率は、コバルト単体の含有率であり、アルミニウムの含有率は、アルミニウム単体の含有率である。具体的な測定方法は、実施形態1に記載の通りである。結果を表3および表4の「WC」、「Co」および「Al」欄に示す。
【0138】
≪X線回折パターン≫
実施形態1の立方晶窒化硼素焼結体のX線回折パターンを取得し、これを横軸が回折角2θであり、かつ、縦軸が回折強度cpsである座標系に示した第一グラフを得た。第一グラフにおいて、Ia/IBNを算出した。結果を表5および表6の「Ia/IBN」欄に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
<切削試験>
各試料の立方晶窒化硼素焼結体からなる工具(型番:2NU-CNGA120408)を用いて、以下の切削試験を行った。
【0144】
被削材:焼結合金 F-08C2相当(150HV)
切削速度:V=205m/min.
送り:f=0.1mm/rev.
切込み:ap=0.2mm
湿式/乾式:湿式
切削方法:連続切削
切削距離5.9kmでの刃先の脱落体積を測定した。刃先の脱落体積は切削前の刃先稜線の位置からの後退幅とした。表5および表6の「切削試験」欄において、脱落体積が150000μm3未満の場合を「A」と記し、脱落体積が150000μm3以上200000μm3未満の場合を「B」と記し、脱落体積が200000μm3以上300000μm3未満の場合を「C」と記し、脱落体積が300000μm3超の場合を「D」と記す。脱落体積が小さいほど、工具寿命が長いことを示す。
【0145】
<考察>
試料1、試料3~試料4、試料7~試料11、試料13~試料27、および、試料29~試料61の立方晶窒化硼素焼結体および工具は実施例に該当する。試料2、試料5~試料6、試料12、および、試料28の立方晶窒化硼素焼結体および工具は比較例に該当する。実施例の工具は、比較例の工具に比べて、工具寿命が長いことが確認された。
【0146】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
70体積%以上99体積%以下の立方晶窒化硼素粒子と、結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、前記結合材は、クロム、コバルトおよび炭素を含む第一化合物と、炭化タングステンと、コバルトと、アルミニウムと、を含み、前記第一化合物において、クロムの原子数NCrおよびコバルトの原子数NCoの合計に対する、クロムの原子数NCrの割合NCr/(NCr+NCo)は、0.10以上0.90以下である、立方晶窒化硼素焼結体である。