IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許7614491原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法
<>
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図1
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図2
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図3
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図4
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図5
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図6
  • 特許-原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】原料の流れ込み判定方法、流れ込み判定プログラム、流れ込み判定装置及び高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20250108BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C21B5/00 312
C21B7/24 302
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021033949
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134660
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】三尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】中野 薫
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-241711(JP,A)
【文献】特開2018-035398(JP,A)
【文献】特開2006-265647(JP,A)
【文献】特開昭59-177308(JP,A)
【文献】特開昭60-021310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00-7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を、原料の装入を開始してから装入を終了するまでの時間以下である所定時間が経過するたびに測定し、
この測定領域内の一部の領域において、前記所定時間が経過する前後における前記表面形状の変化量が基準量以上であるとき、前記堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定することを特徴とする原料の流れ込み判定方法。
【請求項2】
前記測定領域を複数の判定領域に区画したときの前記各判定領域において、前記変化量を求めることを特徴とする請求項1に記載の原料の流れ込み判定方法。
【請求項3】
前記基準量以上の前記変化量が前記表面形状の堆積高さの下降を示す前記判定領域の位置と、前記基準量以上の前記変化量が前記表面形状の堆積高さの上昇を示す前記判定領域の位置とに基づいて、原料の流れ込みの方向を特定することを特徴とする請求項2に記載の原料の流れ込み判定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の流れ込み判定方法によって、原料の流れ込みが発生していることを判定したとき、この流れ込み後における前記堆積層の表面形状に基づいて、高炉内の通気性又は還元性が改善するように原料の装入方法を調整することを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項5】
高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を、原料の装入を開始してから装入を終了するまでの時間以下である所定時間が経過するたびに測定する工程と、
この測定領域内の一部の領域において、前記所定時間が経過する前後における前記表面形状の変化量が基準量以上であるとき、前記堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定する工程と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする原料の流れ込み判定プログラム。
【請求項6】
高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を測定する表面形状測定器から、この測定結果を、原料の装入を開始してから装入を終了するまでの時間以下である所定時間が経過するたびに取得し、
前記表面形状測定器の測定領域内の一部の領域において、前記所定時間が経過する前後における前記表面形状の変化量が基準量以上であるとき、前記堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定することを特徴とする原料の流れ込み判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉に装入された原料の堆積層において、原料の流れ込みが発生していることを判定する方法、プログラム及び装置と、高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炉内では、還元ガスが炉下部から炉頂部に向かう際に、炉高方向と直交する平面内において、還元ガスが通過しやすい領域と、還元ガスが通過しにくい領域とが発生することがある。還元ガスが通過しやすい領域では、鉱石の還元が促進されることにより原料(鉱石やコークス)の降下速度が速くなるが、還元ガスが通過しにくい領域では、鉱石の還元量が少なくなることにより原料(鉱石やコークス)の降下速度が遅くなる。
【0003】
これにより、原料の堆積層の表面形状に高低差が生じることがあり、この高低差が拡大すると、原料が荷崩れして流れ込みと呼ばれる現象が生じる。原料の流れ込みが発生した場所では、鉱石及びコークスの比率(О/C)が変化し、還元ガスの分配比率が変化することにより、炉内の通気性や還元性が悪化してしまう。炉内のガス流れを安定化させるためには、まず、原料の流れ込みが発生しているか否かを把握する必要がある。原料の流れ込みが発生している場合には、この流れ込みを考慮して原料の装入方法を調整することにより、炉内のガス流れを安定化させることができる。
【0004】
特許文献1には、高炉における原料の流れ込みの発生を検出する高炉操業方法が記載されている。具体的には、高炉炉口部の同一平面に設置された複数の超音波センサを用いて、1チャージ分の原料の装入前における複数の測定点の温度と、1チャージ分の原料の装入後における複数の測定点の温度とを測定する。そして、原料の装入後において関連する2以上の測定点の温度が、原料の装入前に対して所定温度以上低下した場合に、関連する2以上の測定点の位置に対応した原料堆積層の位置に原料が流れ込んだことを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6575467号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】鉄と鋼、第73年(1987)第1号、「ベルレス装入法における装入物分布推定モデルの開発」、第91~98頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、原料の流れ込みを判断するために、2以上の測定点の温度を測定しており、これらの測定点の温度に基づいて、原料の流れ込みが発生したか否かを間接的に判断している。また、2以上の測定点における原料の装入前後の温度変化は、原料の流れ込みに起因しないことがあるため、特許文献1に記載の方法によれば、原料の流れ込みが発生したか否かを誤って判断するおそれがある。
【0008】
原料の流れ込みは、原料の堆積層の表面において、原料が移動するものである。この点に着目することにより、本願発明者らは、原料の流れ込みが発生していることを直接的に判定する方法を見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1の発明である原料の流れ込み判定方法では、まず、高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を所定時間が経過するたびに測定する。そして、この測定領域内の一部の領域において、所定時間が経過する前後における表面形状の変化量が基準量以上であるとき、堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定する。上述した「高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状」とは、高炉内で積層される複数の堆積層のうち、最上部に位置し、1チャージの原料(鉱石又はコークス)の装入によって形成される堆積層(鉱石層又はコークス層)の表面形状である。
【0010】
ここで、測定領域を複数の判定領域に区画したときの各判定領域において、上述した変化量を求めることができる。また、基準量以上の変化量が表面形状の堆積高さの下降を示す判定領域の位置と、基準量以上の変化量が表面形状の堆積高さの上昇を示す判定領域の位置とに基づいて、原料の流れ込みの方向を特定することができる。
【0011】
本願第2の発明である高炉の操業方法では、本願第1の発明である流れ込み判定方法によって、原料の流れ込みが発生していることを判定したとき、この流れ込みの状態に基づいて、原料の装入方法を調整する。ここで、原料の流れ込みの状態としては、原料の流れ込み先の位置や、原料の流れ込み元の位置や、原料が流れ込んだ方向がある。
【0012】
本願第3の発明である原料の流れ込み判定プログラムは、以下に説明する工程をコンピュータに実行させる。まず、高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を所定時間が経過するたびに測定する。次に、測定領域内の一部の領域において、所定時間が経過する前後における表面形状の変化量が基準量以上であるとき、堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定する。
【0013】
本願第4の発明である原料の流れ込み判定装置は、高炉内の最も上方に位置する原料の堆積層の表面形状を測定する表面形状測定器から、この測定結果を所定時間が経過するたびに取得する。そして、表面形状測定器の測定領域内の一部の領域において、所定時間が経過する前後における表面形状の変化量が基準量以上であるとき、堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所定時間が経過する前後における堆積層の表面形状の変化量に着目することにより、堆積層の表面において原料の流れ込みが発生していることを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】高炉の炉頂部の構造と、原料の流れ込みの発生を判定する装置の構成を示す図である。
図2】原料の流れ込みの発生を判定する処理を示すフローチャートである。
図3】判定領域に関する第1の区画方法を説明する図である。
図4】判定領域に関する第2の区画方法を説明する図である。
図5】判定領域に関する第3の区画方法を説明する図である。
図6】2つの判定領域の位置を示す図である。
図7】2つの判定領域における堆積高さの経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態は、高炉に原料を装入することによって形成された堆積層の表面において、局所的な原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりするものである。ここで、原料にはコークスや鉱石があり、高炉内では、コークスの堆積層(以下、「コークス層」という)と鉱石の堆積層(以下、「鉱石層」という)とが炉高方向において交互に形成される。本実施形態では、コークス層及び鉱石層のそれぞれについて、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりすることができる。
【0017】
まず、高炉の炉頂部の構造と、原料の流れ込みの発生を判定する装置の構成について、図1を用いて説明する。図1に示す高炉1は、ベルレス式高炉である。
【0018】
高炉1の頂部には、シュート2が設けられており、シュート2は、矢印Aで示すように、回転軸RAを中心に旋回する。ここで、回転軸RAは、炉中心と一致している。また、シュート2は、回転軸RAに対して傾斜する角度(以下、「傾動角」という)θを変更することができる。シュート2には、原料を収容するホッパ(不図示)から原料が供給され、シュート2が旋回することにより、シュート2の先端から炉内に原料が装入される。
【0019】
表面形状測定器10は、高炉1の炉頂部に配置されており、炉内の最も上方に位置する堆積層Sの表面形状を測定する。表面形状測定器10としては、例えば、2Dプロファイルメータや3Dプロファイルメータを用いることができる。表面形状測定器10は、無線又は有線を介して判定装置20に接続されており、表面形状測定器10の測定結果(堆積層Sの表面形状)が判定装置20に送信される。
【0020】
判定装置20は、表面形状測定器10の測定結果に基づいて、堆積層Sの表面において、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりする。判定装置20は、演算部21及びメモリ22を有する。
【0021】
次に、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりする処理について、図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0022】
ステップS101において、判定装置20は、表面形状測定器10から堆積層Sの表面形状の測定結果(以下、「表面形状情報」という)を取得する。表面形状情報には、基準位置から堆積層Sの表面までの高さ(以下、「堆積高さ」という)が含まれる。取得した表面形状情報は、メモリ22に記憶される。
【0023】
また、判定装置20の演算部21は、表面形状測定器10によって測定された測定領域Rmを複数の判定領域Rdに区画する。測定領域Rmとは、堆積層Sの表面全体の領域のうち、表面形状測定器10による測定対象となる領域である。また、判定領域Rdとは、測定領域Rmを区画することによって形成された複数の領域のそれぞれである。上述した表面形状情報には、測定領域Rmにおける表面形状が含まれているが、測定領域Rmを複数の判定領域Rdに区画することにより、各判定領域Rdにおける表面形状を特定することができる。
【0024】
ここで、測定領域Rmを複数の判定領域Rdに区画する方法(3つの例)について、以下に説明する。なお、判定領域Rdは、原料の流れ込みが発生する位置(すなわち、測定領域Rm内の位置)を特定するために用いられるだけであるため、判定領域Rdを区画する方法は、以下に説明する方法に限るものではない。
【0025】
第1の区画方法について、図3を用いて説明する。図3は、表面形状測定器10によって測定された測定領域Rmを示し、炉高方向と直交する平面内の領域に相当する。測定領域Rmの外縁は、高炉1の炉壁の内周面に相当し、測定領域Rmの中心は、高炉1の炉中心に相当する。
【0026】
図3に示すように、測定領域Rmは、複数の区画線(点線)DLによって、複数の判定領域Rdに区画(分割)されている。1つの判定領域Rdは、複数の区画線DLによって囲まれた領域である。区画線DLには、測定領域Rmの径方向(すなわち、炉径方向)に延びる区画線DLと、測定領域Rmの中心(すなわち、炉中心)を中心とする円であって、炉周方向に延びる区画線DLとが含まれる。なお、区画線DLの数や判定領域Rdの数は、適宜決めることができる。
【0027】
第2の区画方法について、図4を用いて説明する。図4は、表面形状測定器10によって測定された測定領域Rmを示し、炉高方向と直交する平面内の領域に相当する。測定領域Rmの外縁は、高炉1の炉壁の内周面に相当し、測定領域Rmの中心は、高炉1の炉中心に相当する。
【0028】
図4に示すように、測定領域Rmは、複数の区画線(点線)DLによって、複数の判定領域Rdに区画(分割)されている。1つの判定領域Rdは、複数の区画線DLによって囲まれた領域である。区画線DLには、第1方向(図4の上下方向)に延びる区画線DLと、第1方向と直交する第2方向(図4の左右方向)に延びる区画線DLとが含まれる。なお、区画線DLの数や判定領域Rdの数は、適宜決めることができる。
【0029】
第3の区画方法について、図5を用いて説明する。図5は、表面形状測定器10によって測定された測定領域Rmを示し、炉高方向と直交する平面内の領域に相当する。測定領域Rmの外縁は、高炉1の炉壁の内周面に相当し、測定領域Rmの中心は、高炉1の炉中心に相当する。
【0030】
図5に示すように、測定領域Rmは、複数の区画線(点線)DLによって、複数の判定領域Rdに区画(分割)されている。複数の判定領域Rdには、1つの区画線DLによって囲まれた判定領域Rd(測定領域Rmの中心に位置する判定領域Rd)や、測定領域Rmの径方向(すなわち、炉径方向)において隣り合う2つの区画線DLによって囲まれた判定領域Rdが含まれる。各区画線DLは、測定領域Rmの中心(すなわち、炉中心)を中心とする円であり、炉周方向に延びている。なお、区画線DLの数や判定領域Rdの数は、適宜決めることができる。
【0031】
図2に示すステップS102において、判定装置20は、ステップS101の処理で表面形状の測定結果を取得したタイミングから所定時間Δtが経過したか否かを判別する。所定時間Δtが経過するまで待機し、所定時間Δtが経過した場合には、ステップS103の処理に進む。所定時間Δtは、適宜決めることができるが、例えば、20[sec]とすることができる。
【0032】
所定時間Δtは、後述する変化量ΔHmを求めるための期間であり、変化量ΔHmは、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりするためのパラメータとなる。ここで、所定時間Δtが長くなりすぎると、変化量ΔHmには、原料の流れ込みに起因する変化量の他に、炉内における堆積層の荷下がりに起因する変化量や、新たな原料の装入に起因する変化量が含まれることになってしまい、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりすることが難しくなってしまう。この点を考慮して、所定時間Δtを決めることができる。例えば、所定時間Δtは、1ダンプの原料(コークス又は鉱石)の装入において、装入を開始してから装入を終了するまでの時間以下とすることができる。
【0033】
ステップS103において、判定装置20は、表面形状測定器10から表面形状情報(堆積高さを含む)を取得する。取得した表面形状情報は、メモリ22に記憶される。また、上述したように、判定装置20の演算部21は、表面形状測定器10によって測定された測定領域Rmを複数の判定領域Rdに区画する。
【0034】
ステップS104において、判定装置20の演算部21は、ステップS101,103の処理で取得した表面形状情報に基づいて、堆積高さの変化量ΔHmを算出する。ここで、変化量ΔHmの算出は、測定領域Rm内の同一位置にある判定領域Rdを対象とする。変化量ΔHmは、各判定領域Rdにおいて、ステップS101の処理で取得した表面形状情報に含まれる堆積高さH1から、ステップS103の処理で取得した表面形状情報に含まれる堆積高さH2を減算した値(ΔHm=H2-H1)である。
【0035】
1つの判定領域Rd内では、堆積高さが一定ではなく、堆積高さの分布(ばらつき)が発生していることがある。そこで、各判定領域Rdの堆積高さ(上述した堆積高さH1,H2)としては、1つの判定領域Rdに対して1つの堆積高さを規定する必要がある。1つの堆積高さを規定する場合としては、例えば、判定領域Rd内に含まれるすべての堆積高さの平均値、判定領域Rd内に含まれる堆積高さの最高値、又は、判定領域Rd内に含まれる堆積高さの最低値を規定することができる。
【0036】
変化量ΔHm(ΔHm=H2-H1)については、負の値を示す場合と、正の値を示す場合とがある。すなわち、堆積高さH1が堆積高さH2よりも高い場合には、変化量ΔHmが負の値となり、堆積高さH1が堆積高さH2よりも低い場合には、変化量ΔHmが正の値となる。
【0037】
ステップS105において、演算部21は、ステップS104の処理で算出された変化量ΔHmの絶対値が基準量(正の値)ΔHref以上であるか否かを判別する。上述したように、変化量ΔHmは負の値を示す場合と正の値を示す場合とがあるため、基準量ΔHrefとの比較においては、変化量ΔHmの絶対値を用いる。また、基準量ΔHrefとしては、正の値が用いられる。ここで、変化量(絶対値)ΔHmが基準量ΔHref以上である場合には、ステップS106の処理に進み、変化量(絶対値)ΔHmが基準量ΔHref未満である場合には、ステップS107の処理に進む。
【0038】
基準量ΔHrefは、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりするための値であり、適宜決めることができる。基準量ΔHrefに関する情報は、メモリ22に記憶しておくことができる。基準量ΔHrefを決める方法としては、例えば、以下に説明する3つの決定方法のいずれかを採用することができる。
【0039】
第1の決定方法では、過去の操業実績を考慮して予め定めた量を基準量ΔHrefとすることができる。ここで、基準量ΔHrefは、判定領域Rd毎に決めることができ、複数の判定領域Rdにおける基準量ΔHrefは互いに異なっていてもよい。
【0040】
第2の決定方法では、炉径方向の位置が同一である複数の判定領域Rd(言い換えれば、炉周方向に並ぶ複数の判定領域Rd)でそれぞれ算出された変化量ΔHmのうち、最大の変化量ΔHmを特定し、所定期間内で特定された複数の変化量ΔHm(最大量)を平均化した値を基準量ΔHrefとすることができる。
【0041】
第3の決定方法では、上記非特許文献1に記載の装入物分布推定モデルから推定される堆積高さの変化量を基準量ΔHrefとすることができる。上述した装入物分布推定モデルを用いれば、原料の流れ込みが発生しないことを前提として、原料を装入したときの堆積高さの変化量ΔHeを推定することができる。そして、この変化量ΔHeを基準量ΔHrefとすることができる。
【0042】
なお、ステップS104の処理で算出された変化量(絶対値)ΔHmが変化量ΔHeよりも大きい場合には、原料の流れ込みの分だけ、堆積高さが上昇又は下降していることになる。具体的には、原料の流れ込み先(移動先)の位置においては、原料の流れ込みの分だけ、堆積高さが上昇することになる。また、原料の流れ込み元(移動元)の位置においては、原料の流れ込みの分だけ、堆積高さが下降することになる。
【0043】
ステップS106において、判定装置20は、堆積層Sの表面において、原料の流れ込みが発生していることを判定する。ステップS107において、判定装置20は、堆積層Sの表面において、原料の流れ込みが発生していないことを判定する。
【0044】
変化量(絶対値)ΔHmが基準量ΔHref以上であって、この変化量ΔHmが正の値である場合には、堆積高さH2が堆積高さH1よりも高くなるため、堆積高さが上昇していることを意味する。変化量ΔHmが正の値である判定領域Rdに着目すれば、原料の流れ込みが発生したときの流れ込み先(移動先)の位置を把握することができる。
【0045】
一方、変化量(絶対値)ΔHmが基準量ΔHref以上であって、この変化量ΔHmが負の値である場合には、堆積高さH2が堆積高さH1よりも低くなるため、堆積高さが下降していることを意味する。変化量ΔHmが負の値である判定領域Rdに着目すれば、原料の流れ込みが発生したときの流れ込み元(移動元)の位置を把握することができる。
【0046】
上述したように、原料の流れ込み元(位置)及び流れ込み先(位置)が分かれば、原料の流れ込みの方向を把握することができる。すなわち、流れ込み元(位置)から流れ込み先(位置)に向かう方向が、原料の流れ込みの方向となる。
【0047】
原料が流れ込む方向としては、炉壁側から炉中心側に向かう方向(以下、「炉径方向」という)や、炉周方向がある。図3図4に示すように複数の判定領域Rdを区画すれば、原料が流れ込む方向として、炉径方向や炉周方向を特定することができる。図5に示すように複数の判定領域Rdを区画した場合には、原料が流れ込む方向として、炉径方向を特定することができる。
【0048】
図2に示すフローチャートによれば、所定時間Δtが経過するたびに、変化量ΔHmが算出され、変化量(絶対値)ΔHm及び基準量ΔHrefの比較に基づいて、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりする。なお、図2に示すフローチャートでは、ステップS106及びステップS107の処理を行っているが、ステップS106の処理を行い、ステップS107の処理を省略することができる。この場合には、原料の流れ込みが発生していることを判定するだけとなる。
【0049】
図6及び図7には、変化量ΔHmの算出方法の一例を示す。
【0050】
図6には、測定領域Rm内に位置する2つの判定領域Rdを示しており、一方の判定領域Rdは、無次元半径が0.2[-]である位置にあり、他方の判定領域Rdは、無次元半径が0.4[-]である位置にある。無次元半径とは、高炉1において、炉中心から炉壁の内周面までの実際の距離を1.0として規格化した値である。なお、図6に示す点線は、炉径方向に延びる線である。
【0051】
図7には、図6に示す2つの判定領域Rdについて、炉内に原料が装入されてからの堆積層Sの堆積高さの経時変化を示す。ここで、原料が装入されたタイミングを0[sec]としている。図7に示すように、変化量ΔHmは、所定時間Δtが経過する前の堆積高さ(上述した堆積高さH1)と、所定時間Δtが経過した後の堆積高さ(上述した堆積高さH2)とから求められる。
【0052】
なお、本実施形態では、ステップS102の処理において、判定装置20が所定時間Δtの経過の有無を判別しているが、これに限るものではない。例えば、表面形状測定器10から判定装置20に表面形状の測定結果(表面形状情報)を送信する周期を上述した所定時間Δtとすることができる。これにより、判定装置20は、所定時間Δtが経過するたびに、表面形状測定器10から表面形状の測定結果(表面形状情報)を取得することができる。
【0053】
また、本実施形態では、各判定領域Rdにおいて変化量ΔHmを算出しているが、これに限るものではない。具体的には、互いに隣接する複数の判定領域Rdを1つの判定領域Rd_gとし、この判定領域Rd_gにおける変化量ΔHmを基準量ΔHrefと比較することにより、原料の流れ込みが発生していることを判定したり、原料の流れ込みが発生していないことを判定したりすることができる。
【0054】
ここで、判定領域Rd_gにおける変化量ΔHmを求めるときには、判定領域Rd_gに含まれる複数の判定領域Rdにおける堆積高さの平均値(又は合計値)を求め、この平均値(又は合計値)の差分を変化量ΔHmとすることができる。また、変化量ΔHmを求めるときの堆積高さの値(上述した平均値又は合計値)に応じて、基準量ΔHrefを決めればよい。
【0055】
ステップS106の処理において、原料の流れ込みが発生していることを判定した場合には、後述する原料の装入方法を調整するためのアクションを行うことを通知することができる。この通知の手段としては、音声やディスプレイでの表示が挙げられる。また、原料の装入方法を調整するために、原料の流れ込み元(位置)や流れ込み先(位置)に関する情報も通知することができる。
【0056】
原料の流れ込みが発生した場合には、この流れ込みの状態に応じて原料の装入方法を調整することにより、高炉内の通気性や還元性が悪化することを抑制できる。以下、原料の装入方法の調整について、一例を説明する。
【0057】
鉱石(原料)を炉内に装入した後、炉中心側への鉱石の流れ込みが発生した場合には、次に装入されるコークスを炉中心側に過剰に装入することができる。
【0058】
具体的には、炉中心部に装入されるコークス(以下、「中心コークス」という)について、この装入量を増加させることができる。一方、シュート2の傾動角θを変更しながらシュート2を旋回させることにより、炉中心部以外の領域にコークス(以下、「周辺コークス」という)を装入する場合において、炉中心側の位置(ノッチ)でのシュート2の旋回数を増加させることができる。シュート2の旋回数の増加によって、炉中心側の領域に対する周辺コークスの装入量を増加させることができる。
【0059】
炉中心側への鉱石の流れ込みが発生した場合であって、炉壁側の領域において、鉱石層の堆積高さの変化量ΔHmが小さい場合には、次に装入される鉱石を炉壁側の領域に過剰に装入することができる。具体的には、シュート2の傾動角θを変更しながらシュート2を旋回させることにより、鉱石を装入する場合において、炉壁側の位置(ノッチ)でのシュート2の旋回数を増加させることができる。シュート2の旋回数の増加によって、炉壁側の領域に対する鉱石の装入量を増加させることができる。なお、鉱石層の堆積高さの変化量ΔHmが小さいか否かは、予め基準量を決めておけばよい。
【0060】
コークスを炉内に装入した後、炉中心側へのコークスの流れ込みが発生した場合には、次に装入されるコークスを炉壁側に過剰に装入することができる。具体的には、上述したように周辺コークスを装入する場合において、炉壁側の位置(ノッチ)でのシュート2の旋回数を増加させることにより、炉壁側の領域に対するコークスの装入量を増加させることできる。
【0061】
なお、上述したように原料(コークスや鉱石)を増加させる量は、変化量ΔHmに基づいて決めることができる。例えば、原料の増加量と変化量ΔHmの相関関係を予め決めておけば、算出した変化量ΔHmに対応する原料の増加量を決めることができる。
【0062】
炉周方向に原料(鉱石又はコークス)の流れ込みが発生した場合には、炉周方向に配置された複数の羽口から吹き込まれる還元ガスの送風量を調整することができる。具体的には、原料が流れこんだ位置(堆積高さが上昇した位置)に対して炉高方向の下方に位置する羽口については、送風量を変化させずに、他の羽口については、送風量を低下させる。複数の他の羽口における送風量を低下させる場合には、すべての他の羽口における送風量の合計量が所定量だけ低下するように、他の羽口の送風量を調整することができる。
【0063】
図2で説明した処理(いわゆる機能)は、プログラムによって実現可能である。具体的には、各機能を実現するために予め用意されたコンピュータプログラムを補助記憶装置に格納しておき、CPU等の制御部が補助記憶装置に格納されたプログラムを主記憶装置に読み出し、主記憶装置に読み出されたプログラムを制御部が実行することにより、各機能を動作させることができる。各機能は、1つの制御装置で動作させることもできるし、互いに接続された複数の制御装置によって動作させることもできる。
【0064】
上記プログラムは、コンピュータで読取可能な記録媒体に記録された状態において、コンピュータに提供することも可能である。記録媒体としては、CD-ROM等の光ディスク、DVD-ROM等の相変化型光ディスク、MO(Magnet Optical)やMD(Mini Disk)などの光磁気ディスク、フロッピー(登録商標)ディスクやリムーバブルハードディスクなどの磁気ディスク、コンパクトフラッシュ(登録商標)、スマートメディア、SDメモリカード、メモリスティック等のメモリカードが挙げられる。また、本発明の目的のために特別に設計されて構成された集積回路(ICチップ等)等のハードウェア装置も記録媒体として含まれる。
【実施例
【0065】
高炉の炉頂部に設置された3Dプロファイルメータ(図1に示す表面形状測定器10)を用いることにより、炉内に装入された堆積層Sの表面形状を20秒(所定時間Δt)の周期で測定した。20秒のカウントを開始したタイミングの表面形状(堆積高さ)と、20秒が経過したタイミングの表面形状(堆積高さ)とに基づいて、変化量ΔHmを算出し、変化量(絶対値)ΔHmが基準量ΔHref以上であるか否かを判別した。ここで、基準量ΔHrefは250mmとした。
【0066】
鉱石を装入したとき、無次元半径が0.2である位置の判定領域Rdにおいて、変化量ΔHmが350mmとなり、基準量ΔHref(250mm)よりも大きくなった。また、測定領域Rmに含まれる複数の判定領域Rdにおける変化量ΔHmをそれぞれ確認したところ、鉱石が炉壁側から炉中心側に流れ込んだことを確認した。
【0067】
そこで、次のコークスを装入するときに、中心コークスの装入量を0.3トンだけ増加させた。この結果、通気性の悪化や出銑の円周偏差を引き起こすことなく、安定した操業を続けることができた。
【符号の説明】
【0068】
1:高炉、2:シュート、10:表面形状測定器、20:判定装置、21:演算部、
22:メモリ、S:堆積層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7