(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】遊星歯車機構
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20250108BHJP
F16H 57/08 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H57/08
(21)【出願番号】P 2021048076
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】横田 貴也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-80069(JP,A)
【文献】特開平11-280853(JP,A)
【文献】特開2015-83329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16H 57/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽歯車と、複数の遊星歯車と、内歯車を有する遊星歯車機構であって、
前記複数の遊星歯車は前記太陽歯車の周りに不等配に配置されていて、
前記複数の遊星歯車を軸支する該複数の遊星歯車と同本数の複数のピンを有するキャリアを有し、
前記複数のピンのうち、いずれか1本のピン以外のピンの端面に、該キャリアの位相を特定するためのキャリア側マーカーが施されてい
て、該いずれか1本のピンの端面には該キャリア側マーカーが施されていないことを特徴とする遊星歯車機構。
【請求項2】
前記キャリア側マーカーは、前記ピンの端面に施されたくぼみであることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車機構。
【請求項3】
前記キャリアの反対側に取り付けられて前記遊星歯車の脱落を防止するプレートを有し、
前記プレートには、前記キャリアに対する該プレートの位相を特定するためのプレート側マーカーが施されていて、
前記プレート側マーカーは、前記太陽歯車の軸を中心と
し、前記複数のピンに対応する多角形の頂点のうち、前記キャリア側マーカーと対応する頂点に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の遊星歯車機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、内歯車とを有する遊星歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動装置では、遊星歯車機構が用いられることがよく知られている(例えば特許文献1)。遊星歯車機構では、複数の遊星歯車がキャリアに組付けられ、歯車の脱落防止用部材としてプレートが組付けられる。これにより、遊星歯車はキャリアとプレートによって挟まれた状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な遊星歯車機構では、複数の遊星歯車が内歯車内に等間隔で配置される(等配)。等配の場合には、キャリアにおいて遊星歯車を支持するピンの位置も等配となる。したがって、キャリアのピンを加工する際には、どのピンを基準としても位置決めを行うことができる。またプレートにはキャリアのピンと嵌め合わせる穴が開けられているが、その組立を行う際に、どのピンを基準としてもよい。
【0005】
しかしながら、設計によっては、複数の遊星歯車が内歯車内に等間隔ではなく不等間隔で配置されることがある(不等配)。不等配の場合、キャリアの複数のピンの間隔に長辺と短辺が発生してしまう。また、一般的にキャリアの素材は、経済的に安価とするために加工量が少ない形状としたダイキャスト(鋳物)や鍛造とし、不等配の場合は素材のピンの位置も不等配となる。よって、不等配のキャリアにおいてピンの加工を行う場合に、キャリアの位置決め方向を間違えるとピンを正しく切削加工・研削加工することができず、加工不良が発生してしまう。
【0006】
また組立を行う場合にも、不等配のキャリアや不等配のプレートの位置決め方向を間違えると、ピンと穴の位置が合わなくなるため、嵌め合わせることができない。すると、プレートを組み付けるときに組立性の悪化が懸念される。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、複数の遊星歯車が不等配に配置される場合であっても、キャリアの加工時の位置決めを正確に行うことができ、且つキャリアにプレートを組み付ける際の位置決めを容易に行うことが可能な遊星歯車機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる遊星歯車機構の代表的な構成は、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、内歯車を有する遊星歯車機構であって、複数の遊星歯車は太陽歯車の周りに不等配に配置されていて、複数の遊星歯車を軸支する複数の遊星歯車と同本数の複数のピンを有するキャリアを有し、複数のピンのうち、いずれか1本のピン以外のピンの端面に、キャリアの位相を特定するためのキャリア側マーカーが施されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、キャリア側マーカーを確実に検出し、これを基準として、キャリアの等配・不等配および位相を判別することができる。したがってピンを正確に加工することができ、加工不良の発生や加工性の悪化を防ぐことが可能となる。
【0010】
上記キャリア側マーカーは、ピンの端面に施されたくぼみであるとよい。かかる構成によれば、キャリア側マーカーを容易に形成および検出することが可能となる。
【0011】
上記キャリアの反対側に取り付けられて遊星歯車の脱落を防止するプレートを有し、プレートには、キャリアに対するプレートの位相を特定するためのプレート側マーカーが2つ施されていて、2つのプレート側マーカーは、太陽歯車の軸を中心とする三角形の2つの頂点に配置されているとよい。かかる構成によれば、プレートの等配・不等配および位相を判別することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の遊星歯車が不等配に配置される場合であっても、キャリアの加工時の位置決めを正確に行うことができ、且つキャリアにプレートを組み付ける際の位置決めを容易に行うことが可能な遊星歯車機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態にかかる遊星歯車機構を説明する分解斜視図である。
【
図2】本実施形態にかかる遊星歯車機構を説明する正面図および部分断面図である。
【
図3】遊星歯車機構における遊星歯車の配置について説明する図である。
【
図4】キャリア側マーカーの検出を説明する図である。
【
図5】キャリア側マーカーの検出における比較例を説明する図である。
【
図6】プレート側マーカーの検出を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1および
図2は、本実施形態にかかる遊星歯車機構100を説明する図である。
図1は、各部品を分解した状態の遊星歯車機構100の全体斜視図である。
図2(a)は、すべての部品を組み付けた状態の遊星歯車機構100をプレート150側から観察した正面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のA-A断面図である。
【0016】
図1および
図2(a)(b)に示すように、本実施形態の遊星歯車機構100は、キャリア110、3つの遊星歯車120、太陽歯車130、内歯車140およびプレート150を含んで構成される。なお、本実施形態では遊星歯車機構100が3つの遊星歯車120を有する構成を例示しているが、これに限定するものではなく、遊星歯車120の数は任意に変更することが可能である。
【0017】
キャリア110は、基材112、およびその表面に配置されて遊星歯車120を軸支する3つ(複数の遊星歯車120と同本数)のピン114を有する。キャリア110は、ピン114に遊星歯車120を軸支した状態で回転可能である。
【0018】
遊星歯車120および太陽歯車130は、外周面に歯122・132がそれぞれ形成されている。内歯車140は内周面に歯142が形成されている。太陽歯車130の歯132は、遊星歯車120の歯122と噛み合っていて、太陽歯車130は、
図2に示す回転中心Rを中心として回転する。遊星歯車120の歯122は、太陽歯車130の歯132および内歯車140の歯142と噛み合っていて、遊星歯車120は太陽歯車130の回転に連動して回転する。
【0019】
プレート150は、キャリア110の反対側に取り付けられて、遊星歯車120の脱落を防止する部材である。プレート150には、ピン114が挿入される穴152が形成されている。ピン114の外周面には、Cリング160が嵌め込まれる円周溝114aが形成されている。
図2(b)に示すように、ピン114に遊星歯車120とプレート150を挿入した後に、円周溝114aにCリング160を嵌めることにより、遊星歯車機構100の組み立てが行われる。
【0020】
図1および
図2(a)に示すように、キャリア側マーカー116は、本実施形態においては3本のうち2本のピン114の端面に設けている。すなわち本実施形態の遊星歯車機構100では、太陽歯車の回転中心Rを中心とする三角形(3本のピン114から成る三角形)の頂点のうち2つにキャリア側マーカー116が設けられている。
【0021】
上記の「三角形」について、厳密には、等配の場合の3本のピン114は正三角形を形成する。不等配の場合は、3本のピン114は正三角形に近い二等辺三角形を形成する。しかし、ピン114が等配であっても不等配であっても、ピン114の位置が極端に異なるわけではなく、キャリア110のピン114の間の間隔の長辺と短辺の差は小さい。したがって等配または不等配のいずれであっても、キャリア側マーカー116は後述するセンサ102(検出器)の検出範囲内に配置されている。
【0022】
なお、本実施形態では、3本のピン114のうち、2つのピン114にキャリア側マーカー116を設ける構成を例示した。ただし、これに限定するものではなく、複数のピンのうち、いずれか1本のピン以外のピン114の端面にキャリア側マーカー116を設ければよい。例えば4本のピン114を有する構成であれば、そのうち3本のピン114の端面にキャリア側マーカー116を設ければよい。
【0023】
また本実施形態の遊星歯車機構100では特に、キャリア側マーカー116は、ピン114の端面に施されたくぼみである。これにより、キャリア110の素材をダイキャストで成型する際にキャリア側マーカー116も同時に形成することができるため、キャリアを切削加工・研削加工する前にキャリア側マーカー116を容易に形成することができる。
【0024】
一方、プレート150には、キャリア110に対するプレート150の位相を特定するためのプレート側マーカー154が施されている。プレート側マーカー154は、太陽歯車130の回転中心Rを中心として形成される三角形の2つの頂点に配置されている。
【0025】
プレート側マーカー154は、穴形状となっている。これにより、穴152をプレス加工する際に同じプレス加工にてプレート側マーカー154を形成することができるため、容易に形成することができる。
【0026】
図3は、遊星歯車機構100における遊星歯車120の配置について説明する図である。
図3(a)に示す遊星歯車機構10では、遊星歯車120は、太陽歯車130に対して等間隔に配置されている。したがって、遊星歯車120を支持するピン114の間隔は等間隔となる。
【0027】
一方、
図3(b)に示すように、本実施形態の遊星歯車機構100では、遊星歯車120は、太陽歯車130に対してそれぞれの遊星歯車120の角度が異なっていて、不等配に配置される。このような構成であると、隣接するピン114の間隔が異なり、かかる間隔において長辺および短辺が生じる。このような不等配のピンを等配のピンと同様に加工しようとすると、ピン114を研削・研磨する際に加工面がピン114の中心からずれてしまったり、カッターや砥石がピン114の端面にあたってしまったりして、加工不良や加工性の悪化が生じるおそれがある。
【0028】
そこで本発明においては、上記したように、太陽歯車の回転中心Rを中心とする三角形の2つの頂点にキャリア側マーカー116やプレート側マーカー154を配置している。そして、ピン114の加工装置には、三角形の2つの頂点でキャリア側マーカー116を検出する2つのセンサ102を設ける。また、遊星歯車機構100の組立装置には、三角形の2つの頂点でプレート側マーカー154を検出する2つのセンサ104を設ける。
【0029】
センサ102,104は、キャリア側マーカー116およびプレート側マーカー154がくぼみである場合には磁気誘導式などの測距センサを用いることができる。キャリア側マーカー116およびプレート側マーカー154に塗料を用いる場合には、センサ102,104として反射型光センサを用いることができる。ただし、マーカーを塗料で形成すると別途の塗装装置で追加の工程が必要であり、塗料の乾燥時間も必要になり、なにより塗装装置においてもキャリア110やプレート150の位相あわせが必要になるため、上記したようにくぼみで形成した方が好ましい。
【0030】
図4はキャリア側マーカーの検出を説明する図である。
図4(a)に示すように、加工装置のセンサ102がキャリア側マーカー116を全く検出しない、すなわちピン114にキャリア側マーカー116が形成されていない場合には、遊星歯車機構100における遊星歯車120の配置が等配であると判断することができる。
【0031】
一方、
図4(b)に示すように、センサ102が2か所のキャリア側マーカー116を検出したら、「遊星歯車120の配置は不等配であり、且つキャリア110の位相が正しい」と判断することができる。
【0032】
また遊星歯車機構100における遊星歯車120の配置が不等配であった場合において、
図4(c)および(d)に示すようにセンサ102が2か所のキャリア側マーカー116のうち1か所のキャリア側マーカー116のみを検出した場合、遊星歯車120が不等配に配置されるキャリア110であり、かつその位相がどの回転方向側に間違っていると判断することができる。したがって、キャリア110を回転させることで位相合わせを行うことができる。
【0033】
図5は、キャリア側マーカー116の検出における比較例を説明する図である。
図5(a)(b)は、キャリア側マーカー116が1つであって、加工装置のセンサ102も1つであった場合を示している。
図5(a)に示すように、運良くセンサ102がキャリア側マーカー116を検出すれば、キャリア110が不等配であって位相が正しいことを判断することができる。しかしながら
図5(b)に示すように、センサ102がキャリア側マーカー116を検出しないとき、等配であるのか不等配であるのかの判別がつかず、また不等配であるとしてもどちら側に位相がずれているのかを判断することができない。したがって、キャリア側マーカー116とセンサ102が1つずつの場合は、誤検出および誤加工する可能性がある。
【0034】
図5(c)(d)は、キャリア側マーカー116が1つであって、センサ102が2つである場合を示している。
図5(c)に示すようにキャリア側マーカー116が2つのセンサ102のうちのいずれか一方において検出されれば、キャリア110が不等配であって位相が正しいことを判断することができる。しかしながら
図5(d)に示すように、2つのセンサ102の両方においてキャリア側マーカー116が検出されなかった場合、等配であるのか不等配であるのかの判別がつかない。したがって、キャリア側マーカー116が1つ、センサ102が2つの場合も、誤検出および誤加工する可能性がある。
【0035】
これらに対し、本実施形態の遊星歯車機構100によれば、3つの遊星歯車120を軸支するピン114のうち2つのピン114にキャリア側マーカー116を形成している。そしてこれらを2つのセンサ102で検出している。これにより、等配か不等配か、およびキャリア110の位相のずれを確実に判断することができる。したがって、キャリア110を正しい位相に位置決めすることができ、ピン114を正確に加工することが可能となる。
【0036】
また、遊星歯車機構100を組み立てる際にも、組立装置のキャリア側マーカー116用のセンサ(不図示)によって、同様にキャリア側マーカー116を検出することにより、キャリア110を正しい位相に位置決めすることができ、ピン114に遊星歯車120を円滑に嵌入することができる。
【0037】
図6はプレート側マーカーの検出を説明する図である。上述したように、プレート側マーカー154は、太陽歯車130の回転中心Rを中心として形成される三角形の2つの頂点に配置されている。そして組立装置のセンサ104は、三角形の2つの頂点においてセンシングを行う。
【0038】
図6(a)に示すように、組立装置のセンサ104において2つのプレート側マーカー154が検出された場合、プレート150が不等配であり、キャリア110に対するプレート150の位相が正しいと判断することができる。一方、
図6(b)に示すように、組立装置のセンサ104において1つのプレート側マーカー154が検出された場合、プレート150が不等配であり、キャリア110に対するプレート150の位相がずれていると判断することができる。なお、センサ104によってプレート側マーカー154が検出されない場合は、プレート150は等配であると判断することができる。
【0039】
したがって、上記構成によれば、プレート150を正しい位相に位置決めすることができ、ピン114をプレート150の穴152に円滑に挿入することができる。総じて、遊星歯車機構100を円滑かつ確実に組み立てることができる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、内歯車とを有する遊星歯車機構として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10…(等配の)遊星歯車機構、100…(不等配の)遊星歯車機構、102…センサ、104…センサ、110…キャリア、112…基材、114…ピン、114a…円周溝、116…キャリア側マーカー、120…遊星歯車、122…歯、130…太陽歯車、132…歯、140…内歯車、142…歯、150…プレート、152…穴、154…プレート側マーカー、160…Cリング、R…回転中心