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特許7614512カチオン硬化性組成物、硬化物および接合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】カチオン硬化性組成物、硬化物および接合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20250108BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20250108BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250108BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C08G59/40
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021563798
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2020041710
(87)【国際公開番号】W WO2021117396
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019223752
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 寛人
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/059002(WO,A1)
【文献】特開2018-145322(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094584(WO,A1)
【文献】特開2013-023545(JP,A)
【文献】特開2007-002073(JP,A)
【文献】特開2002-284966(JP,A)
【文献】特開平7-268065(JP,A)
【文献】特開昭61-081005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/40
C09J 163/00
C09J 11/06
C09J 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)~(E)成分を含み、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、(B)成分を10~95質量部含み、(E)成分を12~100質量部含む、カチオン硬化性組成物:
(A)成分:芳香族エポキシ樹脂
(B)成分:芳香族エポキシ樹脂の芳香環を核水素化して得られる水素化エポキシ樹脂(B1)および式(1)で表される官能基を有する脂環式エポキシ樹脂(B2)の少なくとも一方
【化1】

(C)成分:光カチオン重合開始剤
(D)成分:熱カチオン重合開始剤
(E)成分:3官能以上の水酸基を有し、分子量が1700以下であるポリカプロラクトンポリオール。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対して、(B)成分を10~80質量部含む、請求項1に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項3】
前記(D)成分が、芳香族スルホニウム系熱カチオン重合開始剤、芳香族ヨードニウム系熱カチオン重合開始剤、およびアミン塩を含む熱カチオン重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が、4級アンモニウムカチオンを有する塩を含む熱カチオン重合開始剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項5】
前記(C)成分が、芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩の少なくとも一方を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、芳香族ビスフェノールA型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および芳香族ビスフェノールE型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項7】
前記(B)成分が、前記芳香族エポキシ樹脂の芳香環を核水素化して得られる水素化エポキシ樹脂(B1)および前記式(1)で表される官能基を有する脂環式エポキシ樹脂(B2)のいずれか一方のみを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項8】
前記(B)成分が、前記芳香族エポキシ樹脂の芳香環を核水素化して得られる水素化エポキシ樹脂(B1)および前記式(1)で表される官能基を有する脂環式エポキシ樹脂(B2)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項9】
接着剤に用いられる、請求項1~8のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項10】
被着体がアルミダイキャストまたはPPSである接着剤に用いられる、請求項1~9のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物の硬化物。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物を用いて被着体を接着してなる接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン硬化性組成物、硬化物および接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂等を含有するカチオン硬化性組成物は、接着性、封止性、高強度、耐熱性、電気特性、耐薬品性に優れることから、接着剤、封止剤、ポッティング剤、コーティング剤、導電性ペースト等の様々な用途で用いられてきた。また、その対象は多岐にわたり、特に電子・電気機器においては、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、タッチパネル等のフラットパネルディスプレイ、ハードディスク装置、モバイル端末装置、半導体、カメラモジュール等に用いられている。
【0003】
特開昭59-204676号公報には、エポキシ樹脂と、紫外線等の活性エネルギー線の照射によりルイス酸を発生する光カチオン重合開始剤とを含有する光カチオン重合性樹脂組成物が開示されている。また、国際公開第2005/059002号(米国特許出願公開第2007/0208106号明細書に相当)には、エポキシ樹脂成分、光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤、および充填剤を含有するカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物が開示されている。
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、特開昭59-204676号公報に開示されたカチオン重合性樹脂組成物は、光が当たらない箇所を硬化させることができないという問題があった。この問題を解決するためには、200℃程度まで加熱することで、カチオン開始剤から酸を発生させ、硬化させることもできるが、あまりに高温の硬化条件である為、熱により劣化しやすい液晶表示素子や有機EL素子等の用途への適用が難しいという問題があった。一方で、国際公開第2005/059002号(米国特許出願公開第2007/0208106号明細書に相当)に開示されたカチオン硬化型エポキシ樹脂組成物は、光が当たらない箇所については、比較的低温で硬化できるように熱カチオン重合開始剤が処方され改善されているものの、近年、電子・電気部品モジュール、車載部品の材質として多用されているアルミダイキャスト、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等に対する接着性が劣るものであった。
【0005】
本発明の目的は、上述の問題点を解決すること、即ち、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物を提供することにある。
【0006】
本発明は、上述した従来の問題点を克服するものである。すなわち、本発明は以下の要旨を有するものである。
【0007】
[1]下記の(A)~(E)成分を含み、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、(E)成分を12~100質量部含む、カチオン硬化性組成物:
(A)成分:芳香族エポキシ樹脂
(B)成分:水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)の少なくとも一方
(C)成分:光カチオン重合開始剤
(D)成分:熱カチオン重合開始剤
(E)成分:3官能以上の水酸基を有し、分子量が1700以下であるポリカプロラクトンポリオール。
【0008】
[2]前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対して、(B)成分の含有量が10~80質量部である、上記[1]に記載のカチオン硬化性組成物。
【0009】
[3]前記(D)成分が、芳香族スルホニウム系熱カチオン重合開始剤、芳香族ヨードニウム系熱カチオン重合開始剤、およびアミン塩を含む熱カチオン重合開始剤からなる群より選択される少なくとも1種である、上記[1]または[2]に記載のカチオン硬化性組成物。
【0010】
[4]前記(D)成分が、4級アンモニウムカチオンを有する塩を含む熱カチオン重合開始剤である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0011】
[5]前記(C)成分が、芳香族ヨードニウム塩および芳香族スルホニウム塩の少なくとも一方を含む、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0012】
[6]前記(A)成分が、芳香族ビスフェノールA型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および芳香族ビスフェノールE型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0013】
[7]前記(B)成分が、水素化エポキシ樹脂(B1)および前記脂環式エポキシ樹脂(B2)のいずれか一方のみを含む、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0014】
[8]前記(B)成分が、水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)を含む、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0015】
[9]接着剤に用いられる、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0016】
[10]被着体がアルミダイキャストまたはPPSである接着剤に用いられる、上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物。
【0017】
[11]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物の硬化物。
【0018】
[12]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載のカチオン硬化性組成物を用いて被着体を接着してなる接合体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。
【0020】
<カチオン硬化性組成物>
本発明のカチオン硬化性組成物に含まれる(A)~(E)成分は、下記のとおりである。
【0021】
(A)成分:芳香族エポキシ樹脂
(B)成分:水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)の少なくとも一方
(C)成分:光カチオン重合開始剤
(D)成分:熱カチオン重合開始剤
(E)成分:3官能以上の水酸基を有し、分子量が1500以下であるポリカプロラクトンポリオール。
【0022】
<(A)成分>
本発明の(A)成分である芳香族エポキシ樹脂とは、活性エネルギー線の照射または加熱によりカチオン重合開始剤から発生するカチオン種により架橋反応を起こす化合物である。(A)成分の種類としては、特に制限されないが、例えば、芳香族ビスフェノールA型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールF型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールE型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールA型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、芳香族ビスフェノールF型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、芳香族ビスフェノールE型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、芳香族ノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性芳香族エポキシ樹脂、窒素含有芳香族エポキシ樹脂、ポリブタジエン又はニトリルブタジエンゴム(NBR)等を含有するゴム変性芳香族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が得られるという観点から、芳香族ビスフェノールA型エポキシ樹脂、芳香族ビスフェノールF型エポキシ樹脂、または芳香族ビスフェノールE型エポキシ樹脂が好ましい。
【0023】
芳香族エポキシ樹脂の市販品の例としては、例えばjER(登録商標、以下同じ)825、jER827、jER828、jER828EL、jER828US、jER828XA、jER834、jER806、jER806H、jER807、jER807ST、jER604、jER630(以上、三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON(登録商標、以下同じ)830、EPICLON EXA-830LVP、EPICLON EXA-850CRP、EPICLON 835LV、EPICLON HP4032D、EPICLON 703、EPICLON 720、EPICLON 726、EPICLON HP820、EPICLON N-660、EPICLON N-680、EPICLON N-695、EPICLON N-655-EXP-S、EPICLON N-665-EXP-S、EPICLON N-685-EXP-S、EPICLON N-740、EPICLON N-775、EPICLON N-865(以上、DIC株式会社製)、アデカレジン(登録商標、以下同じ)EP4100、アデカレジンEP4000、アデカレジンEP4080、アデカレジンEP4085、アデカレジンEP4088、アデカレジンEP4100HF、アデカレジンEP4901HF、アデカレジンEP4000S、アデカレジンEP4000L、アデカレジンEP4003S、アデカレジンEP4010S、アデカレジンEP4010L(以上、株式会社ADEKA製)、デナコール(登録商標、以下同じ)EX-614B、デナコールEX-411、デナコールEX-314、デナコールEX-201、デナコールEX-212、デナコールEX-252(以上、ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これら芳香族エポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
<(B)成分>
本発明の(B)成分は、水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)の少なくとも一方であり、活性エネルギー線の照射または加熱によりカチオン重合開始剤から発生するカチオン種により架橋反応を起こす化合物である。水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)は、それぞれ単独で用いてもよいし、水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂を併用してもよい。水素化エポキシ樹脂(B1)および脂環式エポキシ樹脂(B2)を、それぞれ単独で用いる場合、より一層、アルミダイキャストとの接着性に優れることから好ましい。また、これらを併用する場合、光硬化性および低温硬化性のバランスに優れ、各種部材に対して適度な接着性を維持できることから好ましい。なお、水素化エポキシ樹脂(B1)とは、芳香族エポキシ樹脂の芳香環を核水素化して得られる不飽和結合が無い化合物である。
【0025】
水素化エポキシ樹脂(B1)の種類としては、特に制限されないが、例えば、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールE型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型のアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、水素化フェノールノボラックエポキシ樹脂、水素化クレゾールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が得られるという観点から、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、または水素化ビスフェノールE型エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、jER YX-8000、jER YX-8034(以上、三菱ケミカル株式会社製)、EPICLON EXA-7015(DIC株式会社製)、ST-3000(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、リカレジンHBE-100(新日本理化株式会社製)、デナコールEX-252(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。また、水素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えばYL-6753(三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0027】
脂環式エポキシ樹脂(B2)とは、以下の式(1)で表される官能基を有する化合物が挙げられる。より具体的な例としては、特に制限されないが、例えば、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3’,4’-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、エポキシエチルジビニルシクロヘキサン、ジエポキシビニルシクロヘキサン、1,2,4-トリエポキシエチルシクロヘキサン、リモネンジオキサイド、脂環式エポキシ基含有シリコーンオリゴマー等が挙げられる。これらの中でも、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が得られるという観点から、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3’,4’-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル、3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、または1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
脂環式エポキシ樹脂(B2)の市販品としては、特に限定されないが、例えば、セロキサイド(登録商標)2081(3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、セロキサイド(登録商標)2021P(3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、セロキサイド(登録商標)2000(1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン)、セロキサイド(登録商標)3000(1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン)、EHPE3150(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物)(以上、株式会社ダイセル製)、TTA21(Jiangsu TetraChem社製)、X-40-2670、X-22-169AS、X-22-169B(以上、信越化学工業株式会社製)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0030】
(B)成分の添加量は、特に制限されないが、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量100質量部に対して、(B)成分を10~95質量部であることが好ましく、20~90質量部であることがより好ましく、30~85質量部であることがさらに好ましい。また、前記(A)成分100質量部に対して、(B)成分の水素化エポキシ樹脂の添加量は特に制限されないが、好ましくは50~700質量部の範囲であり、より好ましくは100~600質量部の範囲であり、さらに好ましくは150~550質量部の範囲である。また、前記(A)成分100質量部に対して、(B)成分の脂環式エポキシ樹脂の添加量は特に制限されないが、好ましくは20~300質量部の範囲であり、より好ましくは50~250質量部の範囲であり、さらに好ましくは70~200質量部の範囲である。(B)成分の添加量を上記の範囲内にすることで、より一層、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が提供され得る。
【0031】
なお、(B)成分として水素化エポキシ樹脂(B1)と脂環式エポキシ樹脂(B2)とを併用する場合は、水素化エポキシ樹脂(B1)100質量部に対して、脂環式エポキシ樹脂(B2)を好ましくは10~300質量部、より好ましくは30~150質量部、さらに好ましくは40~100質量部の範囲で使用することが好ましい。(B)成分として水素化エポキシ樹脂(B1)と脂環式エポキシ樹脂(B2)とを併用する場合、(A)成分と(B)成分との割合は、上記の通りである。(B1)成分および(B2)成分の使用量を上記の範囲内にすることで、光硬化性および低温硬化性のバランスがよく、各種部材に対して適度な接着性を維持できることができる。
【0032】
<(C)成分>
本発明の(C)成分は、光カチオン重合開始剤であり、活性エネルギー線の照射によりカチオン種を発生する化合物である。(C)成分の種類としては、特に限定されないが、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩等のオニウム塩を挙げることができる。(C)成分は単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、活性エネルギー線および熱の両方に活性を有するカチオン重合開始剤は、本発明において(C)成分として扱うこととする。
【0033】
また、前記芳香族ヨードニウム塩としては、ヨウ素原子に結合している2つの基が、アリール基であるヨードニウムイオンを含む塩が挙げられる。より具体的には、例えば、ジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4-ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0034】
前記芳香族ヨードニウム塩の市販品としては、例えば、Omnicat(登録商標)250(IGM Resins B.V.社製)、Bluesil PI 2074(ローディア社製、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート)、B2380(ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスファート)、B2381、D2238、D2248、D2253、I0591(以上、東京化成工業株式会社製)、WPI-113(ビス[4-n-アルキル(C10~13)フェニル]ヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、WPI-116(ビス[n-アルキル(C10~13)フェニル]ヨードニウム・ヘキサフルオロアンチモネート)、WPI-169、WPI-170(ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、WPI-124(ビス[4-n-アルキル(C10~13)フェニル]ヨードニウム・テトラキスフルオロフェニルボレート)(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
前記芳香族スルホニウム塩としては、硫黄原子に結合している3つの基のすべてが、アリール基であるスルホニウムイオンが挙げられる。より具体的には、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4’-ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロホスフェート、4,4’-ビス〔ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4’-ビス〔ジ(β-ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド-ビスヘキサフルオロホスフェート、7-〔ジ(p-トルイル)スルホニオ〕-2-イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート、7-〔ジ(p-トルイル)スルホニオ〕-2-イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-フェニルカルボニル-4’-ジフェニルスルホニオ-ジフェニルスルフィド-ヘキサフルオロホスフェート、4-(p-ter-ブチルフェニルカルボニル)-4’-ジフェニルスルホニオ-ジフェニルスルフィド-ヘキサフルオロアンチモネート、4-(p-ter-ブチルフェニルカルボニル)-4’-ジ(p-トルイル)スルホニオ-ジフェニルスルフィド-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート,4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等を挙げることができる。ただし、これらに限定されるものではない。これら芳香族スルホニウム塩は、単独でもまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
芳香族スルホニウム塩の市販品としては、例えば、アデカアークルズ(登録商標、以下同じ)SP-150、アデカアークルズSP-170、アデカアークルズSP-172(以上、株式会社ADEKA社製)、CPI-100P、CPI-101A、CPI-110B、CPI-200K、CPI-210S(以上、サンアプロ株式会社製)、T1608、T1609、T2041(トリス(4-メチルフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスファート)、T2042(トリ-p-トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホナート)(以上、東京化成工業株式会社製)、Cyracure UVI-6990、Cyracure UVI-6974(以上、ユニオンカーバイド社製)、DTS-200(みどり化学株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
本発明のカチオン硬化性組成物における(C)成分の配合量は、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.1~30質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5~15質量部の範囲内である。(C)成分の含有量が(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して0.1質量部以上であれば、十分な光硬化性が得られ、また30質量部以下であれば、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるとの観点から好ましい。
【0038】
<(D)成分>
本発明の(D)成分としては、熱カチオン重合開始剤であり、加熱によりカチオン種を発生する化合物である。その種類は、特に限定されないが、例えば、芳香族スルホニウム系熱カチオン重合開始剤、芳香族ヨードニウム系熱カチオン重合開始剤、アミン塩を含む熱カチオン重合開始剤等が挙げられ、中でも、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が得られるという観点からアミン塩を含む熱カチオン重合開始剤が好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記アミン塩を含む熱カチオン重合開始剤としては、例えば、4級アンモニウムカチオンを有する塩を含む熱カチオン重合開始剤等が挙げられる。より具体的な4級アンモニウムカチオンを有する塩としては、4級アンモニウムカチオンとボレートアニオンとからなる塩、4級アンモニウムカチオンとアンチモンアニオンとからなる塩、4級アンモニウムカチオンとホスフェートアニオンとからなる塩等が挙げられる。これらの中でも、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れることから4級アンモニウムカチオンとボレートアニオンとからなる塩、または4級アンモニウムカチオンとアンチモンアニオンとからなる塩が好ましい。
【0040】
前記のボレートアニオンとしては、テトラフルオロボレートアニオン、テトラキス(パーフルオロフェニル)ボレートアニオン等が挙げられる。前記のアンチモンアニオンとしては、テトラフルオロアンチモンアニオン、テトラキス(パーフルオロフェニル)アンチモンアニオン等が挙げられる。前記のホスフェートアニオンとしては、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリフルオロ[トリス(パーフルオロエチル)]等が挙げられる。
【0041】
前記アミン塩を含む熱カチオン重合開始剤の市販品としては、例えば、K-PURE(登録商標、以下同じ)CXC-1612(King Industries社製、4級アンモニウムカチオンとボレートアニオンとからなる塩を含有する熱カチオン重合開始剤)、K-PURE CXC-1821(King Industries社製、4級アンモニウムカチオンとアンチモンアニオンとからなる塩を含有する熱カチオン重合開始剤)等が挙げられる。
【0042】
前記芳香族スルホニウム系熱カチオン重合開始剤の市販品としては、サンエイド(登録商標、以下同じ)SI-60、サンエイドSI-60L、サンエイドSI-80、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100、サンエイドSI-100L、サンエイドSI-180L、サンエイドSI-B2A,サンエイドSI-B3A(以上、三新化学工業株式会社製)、CI-2624(日本曹達株式会社製)等が挙げられる。また、前記芳香族ヨードニウム系熱カチオン重合開始剤としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート(試薬)等が挙げられる。
【0043】
本発明のカチオン硬化性組成物における(D)成分の配合量は、特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.1~30質量部の範囲内であることが好ましく、0.5~15質量部の範囲内であることがより好ましい。(D)成分の配合量が、前記(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して0.1質量部以上であれば、十分な低温硬化性が得られ、また30質量部以下であれば、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるとの観点から好ましい。
【0044】
<(E)成分>
本発明の(E)成分としては、3官能以上の水酸基を有し、分子量が1700以下であるポリカプロラクトンポリオールであれば特に制限されない。本発明の(E)成分は、本発明のその他の成分と組み合わせつつ、後述する所定の配合範囲にすることにより、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるという顕著な効果を有することができる。(E)成分の分子量は、より好ましくは200~1500の範囲であり、特に好ましくは250~1000の範囲である。分子量の測定は JIS K1557-1:2007に準じて測定したポリカプロラクトンポリオールの水酸基価を測定し求めた値である。
【0045】
前記(E)成分は、特に制限されないが、例えば、下記の一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【0046】
【化2】
【0047】
(E)成分の具体的な化合物としては、例えば、ポリカプロラクトントリオール、ポリカプロラクトンテトラオールなどが挙げられる。また、(E)成分の市販品としては、プラクセル(登録商標、以下同じ)303、プラクセル305、プラクセル308、プラクセル309、プラクセル312、プラクセル400(株式会社ダイセル製)などが挙げられる。
【0048】
本発明のカチオン硬化性組成物は、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、(E)成分を12~100質量部含むことを特徴としており、好ましくは15~70質量部であり、より好ましくは17~50質量部である。上記の範囲内とすることで、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物が得ることができる。
【0049】
<任意成分>
さらに本発明のカチオン硬化性組成物は、本発明の特性を損なわない範囲において、シランカップリング剤、着色剤、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物、増感剤、過酸化物、チオール化合物、保存安定剤等の添加剤を適量配合してもよい。また、本発明のカチオン硬化性組成物は、本発明の特性を損なわない範囲において、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、タルク、シリカ、アルミナ、ガラス、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、および酸化マグネシウム等の平均粒径が0.001~100μmの無機充填剤;銀等の導電性粒子;難燃剤;アクリルゴム、シリコンゴム等のゴム;可塑剤;有機溶剤;フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の酸化防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;消泡剤;発泡剤;離型剤;レベリング剤;レオロジーコントロール剤;粘着付与剤;硬化遅延剤;ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂類、シアネートエステル類、ポリ(メタ)アクリレート樹脂類、ポリウレタン樹脂類、ポリウレア樹脂、ポリエステル樹脂類、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)などのポリマーや熱可塑性エラストマー等の各種添加剤を適量配合してもよい。これらの添加により、樹脂強度、接着強さ、難燃性、熱伝導性、作業性等に優れたカチオン硬化性組成物およびその硬化物が得られる。
【0050】
シランカップリング剤は、(A)~(E)成分の相溶性を向上させ、より低温硬化性を向上させつつ、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるカチオン硬化性組成物をもたらすることができる化合物である。シランカップリング剤としては、特に制限されないが、具体的には、例えば、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、その他γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、グリシジル基含有シランカップリング剤が好ましく用いられ、グリシジル基含有シランカップリング剤の中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、シランカップリング剤の配合量は、特に限定されるものではないが、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対し、好ましくは0.1~30質量部の範囲であり、より好ましくは0.5~15質量部の範囲である。
【0051】
着色剤としては、顔料、染料等が挙げられるが、中でも、耐久性の観点から顔料が好ましい。さらに顔料の中でも、隠蔽性に優れるという観点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、黒酸化チタン、銅クロムブラック、シアニンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。これらの中でも、隠蔽性と本発明の(A)成分に対する分散性という観点から、カーボンブラックが好ましい。本発明のカチオン硬化性組成物における着色剤の配合量は、特に制限されないが、(A)成分と(B)成分との合計量100質量部に対して、0.01~30質量部の範囲内であることが好ましく、0.05~10質量部の範囲内であることがより好ましく、0.1~5質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0052】
オキセタン化合物としては、例えば、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-(メタ)アリルオキシメチル-3-エチルオキセタン、(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン、4-フルオロ-[1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、[1-(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)エチル]フェニルエーテル、イソブトキシメチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-エチルヘキシル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチルジエチレングリコール(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラヒドロフルフリル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラブロモフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、2-テトラブロモフェノキシエチル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタクロロフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタブロモフェニル(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、エチレングリコースビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールトリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジトリメチロールプロパンテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル等を挙げることができる。オキセタン化合物の市販品としては、例えば、アロンオキセタン(登録商標、以下同じ)OXT-212、アロンオキセタンOXT-221、アロンオキセタンOXT-213、アロンオキセタンOXT-101(東亞合成株式会社製)等が挙げられる。
【0053】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジビニエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ノルマルプロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、ノルマルブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル,ジエチレングリコールモノビニルエーテル,4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。ビニルエーテル化合物の市販品としては、例えば、NPVE、IPVE、NBVE、IBVE、2-EHVE、CHVE(以上、日本カーバイド工業株式会社製)、HEVE、DEGV、HBVE(以上、丸善石油化学株式会社製)、VEEA、VEEM(以上、株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
【0054】
増感剤としては、例えば、9-フルオレノン、アントロン、ジベンゾスベロン、フルオレン、2-ブロモフルオレン、9-ブロモフルオレン、9,9-ジメチルフルオレン、2-フルオロフルオレン、2-ヨードフルオレン、2-フルオレンアミン、9-フルオレノール、2,7-ジブロモフルオレン、9-アミノフルオレン塩酸塩、2,7-ジアミノフルオレン、9,9’-スピロビ[9H-フルオレン]、2-フルオレンカルボキシアルデヒド、9-フルオレニルメタノール、2-アセチルフルオレン、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー、ニトロ化合物、色素等が挙げられる。増感剤の添加量は、特に制限されるものではないが、吸収波長およびモル吸光係数を参考に、適宜決定すればよい。
【0055】
<硬化方法>
本発明のカチオン硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化することができる(光硬化性)。また、本発明のカチオン硬化性組成物は、低温条件下で硬化することができる(低温硬化性)。さらに、本発明のカチオン硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射および低温条件下で硬化することができる。ここで、活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。活性エネルギー線の波長は、150~830nmが好ましく、200~600nmがより好ましく、250~380nmがさらに好ましい。
【0056】
また、上記「低温」は、本発明のカチオン硬化性組成物の硬化可能温度が低いことを意味し、実際には本発明のカチオン硬化性組成物の硬化方法の加熱条件に相当する。当該加熱条件(硬化可能温度)は、特に限定されないが、例えば、45℃~150℃であり、45℃以上150℃未満の温度が好ましく、50℃以上140℃未満の温度がより好ましく、55℃以上130℃未満の温度であることがさらに好ましい。45℃以上150℃未満の加熱硬化温度の場合には、加熱時間は3分以上5時間未満の範囲が好ましく、10分以上3時間以下の範囲がより好ましい。また、活性エネルギー線の照射により、本発明のカチオン硬化性組成物を硬化させることができる。この場合の活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられるが、特に制限されない。活性エネルギー線の積算光量は、例えば300~100000mJ/cmであり、好ましくは500~50000mJ/cm、より好ましくは1000~10000mJ/cm、さらに好ましくは2000~5000mJ/cm、特に好ましくは3000mJ/cmである。活性エネルギー線の波長は、150~830nmが好ましく、200~600nmがより好ましく、250~380nmがさらに好ましい。
【0057】
<接着方法>
本発明のカチオン硬化性組成物は、被着体の接着に用いることができる。具体的な接着方法としては、例えば、本発明のカチオン硬化性組成物を一対の被着体の間に配置する工程1と、前記カチオン硬化性組成物に対して活性エネルギー線を照射する工程2と、前記照射後45℃以上150℃未満の温度で加熱する工程3と、を有する被着体の接着方法を挙げることができる。以下、工程毎に説明する。
【0058】
[工程1]
本発明のカチオン硬化性組成物は、一対の被着体の間に配置される。具体的には、例えば、カチオン硬化性組成物を一方の被着体に滴下または塗布等して配置し、もう一方の被着体を当該配置したカチオン硬化性組成物上に配置し、任意に一対の被着体の位置を合わせて位置決めする。塗布には、例えば公知のシール剤や接着剤で用いられる塗布方法が用いられてもよい。具体的な塗布方法としては、例えば、自動塗布機を用いたディスペンシング、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディッピング、スピンコート等の方法を用いることができる。被着体としては、例えば、金属、ガラス、プラスチック等を用いることができるが、本発明のカチオン硬化性組成物と相性がよいとの観点から、好ましくは、アルミダイキャスト、PPSが挙げられる。
【0059】
[工程2]
工程1で配置されたカチオン硬化性組成物に対して、活性エネルギー線が照射され、カチオン硬化性組成物の硬化が進行し、一対の被着体が仮接着される。活性エネルギー線の照射によるカチオン硬化性組成物の硬化は、特に当該組成物表面およびその近傍において進行する。照射は、配置されたカチオン硬化性組成物に直接行われてもよいし、特に被着体が透明または半透明の場合、被着体を介して間接的に行われてもよい。
【0060】
[工程3]
工程2の活性エネルギー線の照射後、配置されたカチオン硬化性組成物は、さらに所定温度で加熱され、カチオン硬化性組成物が完全に硬化し、一対の被着体が完全に接着(本接着)される。加熱によるカチオン硬化性組成物の硬化は、特に当該組成物表面およびその近傍以外の、当該組成物の内部において進行する。上記工程2の照射による硬化反応を工程3の加熱による硬化反応よりも先に行うことで、樹脂組成物の硬化(架橋)反応が速やかに開始され、その後に続く工程3の加熱による硬化反応により活性エネルギー線が当たらないカチオン硬化性組成物の内部の反応が速やかに進行し、カチオン硬化性組成物の完全な硬化を達成できる。工程3での加熱温度は、好ましくは45℃~150℃、より好ましくは45℃以上140℃未満、さらに好ましくは50℃以上130℃未満、特に好ましくは55℃以上125℃未満である。
【0061】
<カチオン硬化性組成物の用途>
本発明のカチオン硬化性組成物の用途としては、特に制限されないが、例えば、接着剤、封止剤、コーティング剤、ポッティング剤、導電性ペースト等が挙げられる。また、本発明のカチオン硬化性組成物が適用可能な分野としては、特に制限されないが、例えば、スイッチ部分、ヘッドランプ、エンジン内部品、電装部品、駆動エンジン、ブレーキオイルタンク等の自動車分野;液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス、タッチパネル、プラズマディスプレイ、発光ダイオード表示装置等のフラットパネルディスプレイ分野;ビデオディスク、CD、DVD、MD、ピックアップレンズ、ハードディスク周辺部材、ブルーレイディスク等の記録分野;電子部品、電気回路、継電器、電気接点あるいは半導体素子等の封止材料、ダイボンド剤、導電性接着剤、異方性導電性接着剤、ビルドアップ基板を含む多層基板の層間接着剤等の電子材料分野;CMOSイメージセンサー等などのカメラモジュール;Li電池、マンガン電池、アルカリ電池、ニッケル系電池、燃料電池、シリコン系太陽電池、色素増感型太陽電池、有機太陽電池等の電池分野;光通信システムでの光スイッチ周辺、光コネクタ周辺の光ファイバー材料、光受動部品、光回路部品、光電子集積回路周辺の等の光部品分野;モバイル端末装置;建築分野;航空分野等が挙げられる。
【0062】
本発明のカチオン硬化性組成物は、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れることから、電子・電気部品モジュール、車載部品などの組み立て用接着剤として特に好適に用いることができる。前記電子・電気部品モジュールとしては、ディスプレイ筐体、パソコンの筐体、光ピックアップモジュール、モバイル機器筐体、HDDの筐体、カメラモジュール、プロジェクター筺体、CD,DVDプレーヤー筺体、ヒートシンク、リレー、コネクタ、モジュールケース等が挙げられる。また、前記車載部品としては、ECUケース、車載カメラモジュール、車載センサーモジュール(車載レーダーモジュール、車載ライダーモジュール等)、コンデンサケース、パワーモジュール、コネクタ、点火コイル等が挙げられる。
【実施例
【0063】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。
【0064】
<カチオン硬化性組成物の調製>
・実施例1
(A)成分として、芳香族ビスフェノールF型エポキシ樹脂(a1)(三菱ケミカル株式会社製、jER807ST)20質量部と、
(B)成分として、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(b1)(三菱ケミカル株式会社製、jER YX-8000)50質量部、および3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(b2)(株式会社ダイセル製、セロキサイド2021P)30質量部と、
(C)成分として、4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(c1)(ローディア社製、Bluesil PI-2074)3質量部と、
(D)成分として、4級アンモニウムカチオンとボレートアニオンからなる塩を含有する熱カチオン重合開始剤(d1)(King Industries社製、K-PURE CXC-1821)2質量部と、
(E)成分として、3官能の水酸基を有し、分子量が550であるポリカプロラクトントリオール(e1)(株式会社ダイセル製、プラクセル305)25質量部と、
シランカップリング剤として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量部と、
を添加し、遮光下で常温(25℃)にてプラネタリーミキサーで60分混合し、実施例1のカチオン硬化性組成物を得た。
【0065】
・実施例2
実施例1において、(a1)成分20質量部を50質量部に変更し、(b1)成分を使用せず、(b2)成分30質量部を50質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製し、実施例2のカチオン硬化性組成物を得た。
【0066】
・実施例3
実施例1において、(b1)成分50質量部を80質量部に変更し、(b2)成分を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして調製し、実施例3のカチオン硬化性組成物を得た。
【0067】
・比較例1
実施例1において、(a1)成分を除き、(b1)50質量部を70質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例1のカチオン硬化性組成物を得た。
【0068】
・比較例2
実施例1において、(e1)成分を除いたこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例2のカチオン硬化性組成物を得た。
【0069】
・比較例3
実施例1において、(e1)成分25質量部を10質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例3のカチオン硬化性組成物を得た。
【0070】
・比較例4
実施例1において、(e1)成分を、2官能の水酸基を有し分子量が500であるポリカプロラクトンポリオール(e’1)(株式会社ダイセル製、プラクセル205)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例4のカチオン硬化性組成物を得た。
【0071】
・比較例5
実施例1において、(e1)成分を、3官能の水酸基を有し分子量が2000であるポリカプロラクトンポリオール(e’2)(株式会社ダイセル製、プラクセル320)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例5のカチオン硬化性組成物を得た。
【0072】
・比較例6
実施例1において、(d1)成分を除いたこと以外は、実施例1と同様にして調製し、比較例6のカチオン硬化性組成物を得た。
【0073】
<光硬化性試験>
幅25mm×長さ100mm×厚さ5mmのガラス製テストピース上に、カチオン硬化性組成物を0.01g滴下した。その後、紫外線照射装置(株式会社ジャテック製、モデル番号:JUL-M-433AN-05、紫外線波長:365nm)により積算光量3000mJ/cmの活性エネルギー線を照射し試験片を得た。次に、先端が尖ったガラス製の棒を試験片に接触させ、カチオン硬化性組成物の硬化性を下記基準に基づき評価した。下記基準において○であれば、硬化性が良好であると言える。
【0074】
[評価基準]
○:棒に付着物がない
×:棒に付着物がある。
【0075】
<低温硬化性試験>
100℃に設定したホットプレート上に、各カチオン硬化性組成物を0.1g滴下して、30分後に先端が尖ったガラス製の棒を硬化物に接触させ、組成物の硬化性を下記基準に基づき評価した。下記基準において○であれば、低温硬化性が良好であると言える。
【0076】
[評価基準]
○:棒に付着物がない
×:棒に付着物がある。
【0077】
<アルミダイキャストに対する引張せん断接着強さ試験>
幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmのアルミダイキャストADC12製テストピースに、実施例、および比較例のカチオン硬化性組成物を塗布した。その後、別のアルミダイキャストADC12製テストピースを、オ-バーラップ面が25mm×10mmになるように貼り合わせてクリップで固定した。そして、120℃に設定した熱風乾燥炉にて60分硬化させ試験片を得た。そして、試験片を用いて25℃にて万能引張試験機(引っ張り速度50mm/min.)にて引張せん断接着強さ(単位はMPa)をJIS K6850:1999に従い測定した。引張せん断接着強さは最大強度時の値とした。なお、本発明のカチオン硬化性組成物を電子・電気部品モジュール、車載部品などの組み立て用接着剤に用いるためには、引張せん断接着強さは5.0MPa以上が好ましい。
【0078】
<ポリフェニレンサルファイド(PPS)に対する引張せん断接着強さ試験>
幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmのPPS製テストピースに、実施例、および比較例のカチオン硬化性組成物を塗布した。その後、別のPPS製テストピースを、オ-バーラップ面が25mm×10mmになるように貼り合わせてクリップで固定した。そして、120℃に設定した熱風乾燥炉にて60分硬化させ試験片を得た。そして、試験片を用いて25℃にて万能引張試験機(引っ張り速度50mm/min.)にて引張せん断接着強さ(単位はMPa)をJIS K6850:1999に従い測定した。引張せん断接着強さは最大強度時の値とした。なお、本発明のカチオン硬化性組成物を電子・電気部品モジュール、車載部品などの組み立て用接着剤に用いるためには、引張せん断接着強さは5.0MPa以上が好ましい。
【0079】
上記の試験結果をまとめて、下記表1に示す。なお、下記表1中の「-」は測定していないことを示す。
【0080】
【表1】
【0081】
上記の表1から明らかなように、実施例1~3のカチオン硬化性組成物は、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れることがわかった。
【0082】
比較例1は、本発明の(A)成分を含まないカチオン硬化性組成物であるが、PPSとの接着性が劣ることがわかった。また、比較例2は、本発明の(E)成分を含まないカチオン硬化性組成物であるが、アルミダイキャストおよびPPSとの接着性が劣ることがわかった。また、比較例3は、本発明の(E)成分の所定範囲から外れた添加量の場合のカチオン硬化性組成物であるが、アルミダイキャストおよびPPSとの接着性が劣ることがわかった。また、比較例4、5は、本発明の(E)成分ではないポリオールを用いた場合のカチオン硬化性組成物であるが、アルミダイキャストとの接着性が劣ることがわかった。比較例6は、本発明の(D)成分を含まないカチオン硬化性組成物であるが、低温硬化性試験において劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のカチオン硬化性組成物は、本発明は、光硬化性および低温硬化性を維持しながら、アルミダイキャスト、PPS等との接着性に優れるので、電気電子部品のモジュール部材の接着用途等、広い分野に適用可能であることから産業上有用である。
【0084】
本出願は、2019年12月11日に出願された日本特許出願番号第2019-223752号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。