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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6477 20110101AFI20250108BHJP
【FI】
H01R13/6477
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023042952
(22)【出願日】2023-03-17
(65)【公開番号】P2024132244
(43)【公開日】2024-09-30
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000177690
【氏名又は名称】山一電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】茎田 啓明
(72)【発明者】
【氏名】大久保 美穂
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110336162(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0033482(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0218169(US,A1)
【文献】中国実用新案第218123877(CN,U)
【文献】特表2005-531121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/646
H01R 12/00
H01R 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置され、差動伝送を行う一対の信号コンタクトと、
前記一対の信号コンタクトの両側部にそれぞれ並列に配置された一対のグランドコンタクトと、
各前記信号コンタクト及び各前記グランドコンタクトを収容するハウジングと、
を備え、
前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされ、
前記信号コンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状と、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状とが異なり、
並列に配置された一対の前記グランドコンタクトに対して直交する方向における前記グランドコンタクトに接触する樹脂の厚さを、並列に配置された一対の前記信号コンタクトに対して直交する方向における前記信号コンタクトに接触する樹脂の厚さよりも薄くすることによって、前記信号コンタクトの前記周囲に存在する空間よりも、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する空間の方が大きくされているコネクタ。
【請求項2】
前記信号コンタクト及び/又は前記グランドコンタクトが変位する側には、空間が形成されている請求項記載のコネクタ。
【請求項3】
並列に配置され、差動伝送を行う一対の信号コンタクトと、
前記一対の信号コンタクトの両側部にそれぞれ並列に配置された一対のグランドコンタクトと、
各前記信号コンタクト及び各前記グランドコンタクトを収容するハウジングと、
を備え、
前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされて、
前記信号コンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状と、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状とが異なり、
前記信号コンタクトの前記周囲に存在する空間よりも、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する空間の方が大きくされて、
前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされている領域において、板状とされた前記グランドコンタクトの平面部に面する両側方には、該平面部の幅方向の全領域にわたって空間が形成されているコネクタ。
【請求項4】
並列に配置され、差動伝送を行う一対の信号コンタクトと、
前記一対の信号コンタクトの両側部にそれぞれ並列に配置された一対のグランドコンタクトと、
各前記信号コンタクト及び各前記グランドコンタクトを収容するハウジングと、
を備え、
前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされ、
前記信号コンタクトの前記周囲に存在する樹脂の比誘電率よりも、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する樹脂の比誘電率の方が小さくされているコネクタ。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記信号コンタクトを収容保持する第1ブロック体と、前記グランドコンタクトを収容保持する第2ブロック体とを備えている請求項1、3及び4のいずれかに記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動伝送を行うコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
5G(第5世代移動通信システム)の普及やビッグデータ、人工知能(AI)、IoTなど、クラウド上で膨大するデータを、より速くかつ安定して通信することが必要とされている。
【0003】
例えばPAM4(4値パルス振幅変調)を用いた112Gbpsのデータ伝送に対応したコネクタが開発されている。このような高速伝送コネクタは、差動伝送を行う一対の信号コンタクト(S)の両側方にグランドコンタクト(G)がGSSGのように配列されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-187844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
信号コンタクトの側部にグランドコンタクトが配置されたコプレーナ構造の場合、グランドコンタクトが信号コンタクトと結合した際に共振が生じる場合がある。この共振を修正するために、導電樹脂や金属片などの追加部品を使用し、共振周波数を必要帯域外へ移動する手法が考えられる。
【0006】
しかし、導電樹脂や金属片などの追加部品を使用することは、コストアップの原因となり、製造工程が複雑になり、さらには製品の小型薄型化の妨げとなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、導電樹脂や金属片などの追加部品を使用することなく共振を抑制することができるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るコネクタは、並列に配置され、差動伝送を行う一対の信号コンタクトと、前記一対の信号コンタクトの両側部にそれぞれ並列に配置された一対のグランドコンタクトと、各前記信号コンタクト及び各前記グランドコンタクトを収容するハウジングと、を備え、前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされている。
【0009】
信号コンタクトの周囲の比誘電率を、グランドコンタクトの周囲の比誘電率と異ならせることによって、信号コンタクトとグランドコンタクトの電気長を変更することで、共振を抑制することができる。本発明者等は、信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも、グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方を小さくすることによって共振を抑制できることを見出した。
コンタクトの周囲の構造や材料特性を変えることによってコンタクト周囲の比誘電率を変更できるので、導電樹脂や金属片などの追加部品を使用することなく、共振を抑制することができる。
なお、比誘電率を決めるコンタクトの周囲の物理的領域は、伝送信号によって形成される電磁波が存在する範囲とされる。
【0010】
本発明の参考例としての一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクトの周囲の比誘電率をε、前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率をεとした場合、これらの比誘電率の比であるε/εは、1.2以上1.4以下とされている。
【0011】
本発明者等が検討したところ、信号コンタクトの周囲の比誘電率εとグランドコンタクトの周囲の比誘電率εとの比(ε/ε)が、所定の範囲で共振を効果的に抑制できることを見出した。
【0012】
本発明の一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状と、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する樹脂及び空間の形状とが異なる。
【0013】
コンタクトの周囲に存在する樹脂及び空間の形状を異ならせることで、周囲の比誘電率を異ならせることができる。
【0014】
本発明の参考例としての一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクトに接触する樹脂の面積よりも、前記グランドコンタクトに接触する樹脂の面積の方が小さくされている。
【0015】
コンタクトの樹脂が接触する面積が小さいほど、コンタクトに接する空間部分が相対的に大きくなるので、比誘電率が大きくなる。そこで、信号コンタクトに接触する樹脂の面積をグランドコンタクトに接触する樹脂の面積よりも大きくすることで、信号コンタクトの周囲の比誘電率よりもグランドコンタクトの周囲の比誘電率の方を小さくすることとした。
【0016】
本発明の一態様に係るコネクタでは、並列に配置された一対の前記グランドコンタクトに対して直交する方向における前記グランドコンタクトに接触する樹脂の厚さを、並列に配置された一対の前記信号コンタクトに対して直交する方向における前記信号コンタクトに接触する樹脂の厚さよりも薄くすることによって、前記信号コンタクトの前記周囲に存在する空間よりも、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する空間の方が大きくされている。
【0017】
コンタクトの周囲に存在する空間が大きいほど比誘電率が小さくなる。そこで、信号コンタクトの周囲に存在する空間よりも、グランドコンタクトの周囲に存在する空間の方を大きくすることとした。例えば、信号コンタクトに接触する樹脂の厚さよりも、グランドコンタクトに接触する樹脂の厚さを小さくする。
【0018】
本発明の一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクト及び/又は前記グランドコンタクトが変位する側には、空間が形成されている。すなわち、信号コンタクト及び/又はグランドコンタクトのいわゆる摺動側には樹脂が無い空間を形成する。
【0019】
本発明の一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも前記グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方が小さくされている領域において、板状とされた前記グランドコンタクトの平面部の両側には、該平面部の幅方向の全領域にわたって空間が形成されている。すなわち、板状とされたグランドコンタクトの平面部の両側(上面側及び下面側)には樹脂が無い空間を形成する。
【0020】
本発明の一態様に係るコネクタでは、前記信号コンタクトの前記周囲に存在する樹脂の比誘電率よりも、前記グランドコンタクトの前記周囲に存在する樹脂の比誘電率の方が小さくされている。
【0021】
コンタクトの周囲に存在する樹脂の比誘電率を異ならせることによって、信号コンタクトの周囲の比誘電率よりも、グランドコンタクトの周囲の比誘電率の方を小さくすることとしても良い。例えば、ハウジングを構成する樹脂として用いられるLCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)の種類を異ならせる。
【0022】
本発明の一態様に係るコネクタでは、前記ハウジングは、前記信号コンタクトを収容保持する第1ブロック体と、前記グランドコンタクトを収容保持する第2ブロック体とを備えている。
【0023】
信号コンタクトとグランドコンタクトとをそれぞれ異なるブロック体で収容保持することとした。これにより、各ブロック体を組み立てることによってハウジングが構成される。各コンタクトを収容保持するブロック体を異なる比誘電率とすれば、比誘電率を変更したハウジングを容易に構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
導電樹脂や金属片などの追加部品を使用することなく共振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るコネクタを示した斜視図である。
図2図1のコネクタの分解斜視図である。
図3A図1の切断線X-Xにおける断面図である。
図3B図1の切断線Y-Yにおける断面図である。
図4A】ハウジングを後方から見た斜視図である。
図4B図4Aの縦方向当接部周りの部分拡大斜視図である。
図5】コンタクトピンの接触領域を示したコネクタの部分拡大背面図である。
図6】コネクタの挿入損失を示したグラフである。
図7A】参考例のコネクタのクロストークを示したグラフである。
図7B】実施形態のコネクタのクロストークを示したグラフである。
図8】NEXT1、NEXT2及びFEXT1の定義を示した斜視図である。
図9】実施例に係るコネクタのコンタクトピン周りの計算モデルを示した斜視図である。
図10図9の計算モデルのシミュレーション結果を示したグラフである。
図11A】誘電率の比を変更した場合のシミュレーション結果を示したグラフである。
図11B図11Aのグラフの一部を拡大したグラフである。
図12A】実施例21の計算モデルを示した斜視図である。
図12B】実施例22の計算モデルを示した斜視図である。
図13A】実施例21及び実施例22のシミュレーション結果を示したグラフである。
図13B図13Aのグラフの一部を拡大したグラフである。
図14】実施例31の計算モデルを示した斜視図である。
図15】実施例31のシミュレーション結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係るコネクタについて、図面を参照して説明する。
【0027】
図1に示すように、本実施形態のコネクタ1は、データセンタ等の通信システムに用いられ、例えばPAM4(4値パルス振幅変調)を用いた112Gbpsのデータ伝送に対応している。なお、本実施形態のコネクタ1は、112Gbps以上のデータ伝送にも用いることができる。
【0028】
図1では、コネクタ1の後方R側が示されている。コネクタ1は、下方の実装基板(図示せず)に実装されるとともに機器が前方F側から差し込まれるコネクタである。すなわち、コネクタ1は、実装基板と機器とを電気的に接続するコネクタである。機器は光トランシーバモジュールであり、コネクタとの接続部は、電極を有した基板やコンタクトピンを有したプラグコネクタが例示される。
【0029】
コネクタ1の後方R側には、トップピン群3の一部が露出している。図2に示すように、コネクタ1は、ハウジング2、トップピン群3及びボトムピン群5を備えている。
【0030】
ハウジング2は、略直方体の外形状をなす部品であり、トップピン群3と、トップピン群3の下方に位置するボトムピン群5とを収容保持している。ハウジング2は、樹脂等の非導電性の材料とされ、例えばLCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)が用いられる。ハウジング2は、同一の材料を用いて一体的に成形されている。
【0031】
ハウジング2の前方Fには、ハウジング2の内部に形成された挿入空間2a(図3A及び図3B参照)が開口している。挿入空間2aには、電極を有した機器(図示せず)の先端側が差し込まれる。
【0032】
図2に示すように、トップピン群3は、複数のコンタクトピン7が幅方向Wに並べられて構成されている。各コンタクトピン7は、長手方向に延在する細長い金属製の板状体が複数箇所で屈曲されて形成された形状とされている。各コンタクトピン7の延在方向は、ハウジング2の挿入空間2aに挿抜する機器の挿抜方向Lに一致している。トップピン群3は、高速信号が伝送されるシグナルピン(信号コンタクト)7Sと、接地されるグランドピン(グランドコンタクト)7Gとを備えている。グランドピン7Gの一部は、電力を供給する電源ピンとして使用される。シグナルピン7Sとグランドピン7Gとは同一形状とされている。
【0033】
シグナルピン7Sは、例えば差動ペア(ディファレンシャルペア)とされており、差動ペアに対応して両側方にそれぞれグランドピン7Gが設けられている。図2では、後方R側から見て左方から順に、GGSSGGGGSSG(Gはグランド、Sはシグナルを示す。以下同じ。)の11本のピンが並列に配置されている。
【0034】
コンタクトピン7は、先端側から基端側(図2において右側から左側)に向かって、先端部7a、接触部7b、ばねビーム部7c、圧入部7d、起立部7e及び実装部7fを有している。
【0035】
先端部7aは、直線状とされ、接触部7bから斜め上側に向かって屈曲されている。接触部7bは、挿入された機器の電極と電気的に接触する。ばねビーム部7cは、機器を挿抜する動作に応じて弾性変形する部分であり直線状とされている。圧入部7dは、ハウジング2に対して圧入されて固定される部分であり、幅方向に突出する複数の突出部を有している。起立部7eは、圧入部7dに対して略直角に屈曲されて高さ方向Hに延在し、直線状とされている。実装部7fは、実装基板(図示せず)に対してはんだ付け等によって固定される。
【0036】
ボトムピン群5は、複数のコンタクトピン9が幅方向Wに並べられて構成されている。各コンタクトピン9は、長手方向に延在する細長い金属製の板状体が複数箇所で屈曲されて形成された形状とされている。各コンタクトピン9の延在方向は、ハウジング2の挿抜方向Lに一致している。
【0037】
ボトムピン群5は、高速信号が伝送されるシグナルピン(信号コンタクト)9Sと、接地されるグランドピン(グランドコンタクト)9Gとを備えている。グランドピン9Gの一部は、電力を供給する電源ピンとして使用される。シグナルピン9Sとグランドピン9Gとは同一形状とされている。
【0038】
シグナルピン9Sは、例えば差動ペア(ディファレンシャルペア)とされており、差動ペアに対応して両側方にそれぞれグランドピン9Gが設けられている。図2では、前方F側からみて左方から順に、GSSGGGGGSSGの11本のピンが並列に配置されている。なお、トップピン群3及びボトムピン群5の中央のグランドピン7G,9Gの位置に、及び/又は、トップピン群3の端(例えば後方R側から見て左端)のグランドピン7Gの位置に、制御信号を配置する事も可能である。
【0039】
ボトムピン群5のコンタクトピン9は、先端側から基端側に向かって、先端部9a、接触部9b、平行ビーム部9c、ばね折曲部9d、圧入部9e、起立部9f及び実装部9gを有している。
【0040】
先端部9aは、直線状とされ、接触部9bから斜め下側に向かって屈曲されている。接触部9bは、機器の電極と電気的に接触する。平行ビーム部9cは、機器が挿入される前の状態で機器と平行になるように略直線状とされている。ばね折曲部9dは、外部端子を機器の挿入方向へ配置するために略180°折り曲げられた形状とされている。圧入部9eは、ハウジング2に対して圧入されて固定される部分であり、幅方向に突出する複数の突出部を有している。起立部9fは、圧入部9eに対して略直角に屈曲されて高さ方向Hに延在し、直線状とされている。実装部9gは、実装基板(図示せず)に対してはんだ付け等によって固定される。
【0041】
図3A及び図3Bに示すように、トップピン群3及びボトムピン群5がハウジング2に組み付けられた状態で、トップピン群3の接触部7bは、挿入空間2aで、ボトムピン群5の接触部9bと対向するように配置されている。
【0042】
図3Aには、図1の切断線X-Xにおける断面図が示されている。すなわち、図3Aは、グランドピン7Gに相当する位置で切断した断面図である。図3Bには、図1の切断線Y-Yにおける断面図が示されている。すなわち、図3Bは、シグナルピン7Sに相当する位置で切断した断面図である。図3A及び図3Bを比較すると分かるように、コンタクトピン7の起立部7eにおけるハウジング2との接触状態が異なる。具体的には、図3Aのグランドピン7Gでは、起立部7eのうちの高さ寸法H1に相当する領域のみがハウジング2の樹脂に接触しているのに対し、図3Bのシグナルピン7Sでは、起立部7eのうちの高さ寸法H2(>H1)にわたる領域がハウジング2の樹脂に接触している。
【0043】
図4Aには、トップピン群3(コンタクトピン7)及びボトムピン群5(コンタクトピン9)を取り外した状態のハウジング2の後方R側が示されている。ハウジング2の背面側には、シグナルピン7Sに相当する位置に、上下方向に延在する縦方向当接部2bが一体的に形成されている。縦方向当接部2bは、幅方向に延在する幅方向当接部2cから上方に延びている。図4Bには、縦方向当接部2b周りが拡大して示されている。縦方向当接部2bは、一対のシグナルピン7Sの中央に位置するように設けられ、本実施形態では2つ設けられている。縦方向当接部2bに対して、シグナルピン7Sの起立部7eが接触する。幅方向当接部2cは、シグナルピン7S及びグランドピン7Gの両方に接触する。
【0044】
図5には、コンタクトピン7に対してハウジング2の樹脂が当接する領域がハッチングにて示されている。同図から分かるように、幅方向当接部2cによって接触領域S2にてシグナルピン7S及びグランドピン7Gの両方に接触し、縦方向当接部2bによって接触領域S1にわたってシグナルピン7Sに接触する。
【0045】
このように、シグナルピン7Sの起立部7eは、グランドピン7Gの起立部7eよりも多くの面積がハウジング2の樹脂に接触している。また、コンタクトピン7の他の領域では、シグナルピン7S及びグランドピン7Gのハウジング2に対する接触状態及び周囲の樹脂及び空間の形状は同一となっている。したがって、シグナルピン7Sの周囲の比誘電率εよりも、グランドピン7Gの周囲の比誘電率εの方が小さい。ここで、シグナルピン7S及びグランドピン7Gの周囲の物理的領域は、伝送信号によって形成される電磁波が存在する範囲とされる。
【0046】
比誘電率の比(ε/ε)は、1.1以上1.6以下とするのが好ましい。
伝送信号の波長に依存するが、コンタクトピン7の全長のうち10%以上、好ましくは15%以上の連続区間の範囲でコンタクトピン7の比誘電率の差異を上記のように設ければ、共振を抑制する効果が得られる。
【0047】
なお、シグナルピン7Sとグランドピン7Gとの形状は基本的に同一であるが、上述のようにコンタクトピン7の周囲の比誘電率が変更されるので、インピーダンス調整のために形状の微調整が行われることは許容される。インピーダンス調整は、例えば、コンタクトピン7の幅や厚さを変更することによって行われる。
【0048】
図6には、本実施形態のコネクタ1及び参考例のコネクタの挿入損失を計測した実験結果が示されている。同図において、横軸は周波数[GHz]、縦軸は挿入損失[dB]とされている。実線が本実施形態を示し、破線が参考例を示す。参考例は、本実施形態の縦方向当接部2bが除去されたコネクタであり、シグナルピン7Sとグランドピン7Gのハウジング2に対する接触状態が同一の場合である。
【0049】
図6から分かるように、参考例(破線)では12GHzあたりに生じていた共振(リップル)が本実施形態(実線)ではこの共振が殆ど確認できないまで抑制されている。なお、23GHzあたりにみられる挿入損失は、インピーダンス不整合によるものであり、共振ではない。
【0050】
図7A及び図7Bには、本実施形態のコネクタ1及び参考例のコネクタのクロストークを計測した実験結果が示されている。同図において、横軸は周波数[GHz]、縦軸はクロストーク[dB]とされている。実線がNEXT1を示し、破線がNEXT2を示し、一点鎖線がFEXT1を示す。
【0051】
NEXT1、NEXT2及びFEXT1の定義は、図8の通りである。同図では、送信2に入力したときの定義を示す。送信2に入力された信号は、コンタクトピンを伝送して出力信号(受信2)として光トランシーバへ信号伝送される。
【0052】
図7Aは参考例のコネクタのクロストークを示し、NEXT1、NEXT2及びFEXT1の何れにおいても12GHzあたりで-30dB程度のクロストークが発生している。これに対して、本実施形態のコネクタ1を示した図7Bを参照すると、12GHzあたりで-45dBまでクロストークが減少している。
【実施例
【0053】
次に、本発明の実施例について、図を用いて説明する。上記の実施形態では、コンタクトピン7の周囲の比誘電率を変化させるために、ハウジング2とコンタクトピン7との接触面積を変更することとした。本実施例では、上記実施形態のコネクタ1のようにコプレーナ構造を有する場合の比誘電率の変化と共振の抑制についてさらに検討した。
【0054】
図9には、シミュレーションに用いた計算モデルが示されている。同図に示されているように、一対のシグナルピン7Sと、その両側方のそれぞれに設けられたグランドピン7Gとが並列に配置されている。各シグナルピン7Sの周囲にはハウジング2である樹脂部2Sが形成されており、その樹脂部2Sの比誘電率はεとされている。各グランドピン7Gの周囲にはハウジング2である樹脂部2Gが形成されており、その樹脂部2Gの比誘電率はεとされている。各コンタクトピン7(シグナルピン7S及びグランドピン7G)の先端は、基板11のパッド12に接触している。各コンタクトピン7の長さは50mmとした。樹脂部2Sと樹脂部2Gは同一形状とした。樹脂部2Sが各シグナルピン7Sを覆う範囲と樹脂部2Gが各グランドピン7Gを覆う範囲も同一とした。
【0055】
図10には、図9に示した計算モデルのシミュレーション結果が示されている。同図において、横軸は周波数[GHz]を示し、縦軸は挿入損失[dB]を示す。比較例01(L01)はε及びεがともに3.1の場合を示し、実施例1(L1)はεが3.1でεが2.5の場合でインピーダンス調整前を示し、実施例2(L2)はεが3.1でεが2.5の場合でインピーダンス調整後を示す。すなわち、比較例01(L01)はシグナルピン7S及びグランドピン7Gの周囲の比誘電率を変化させない場合であり、実施例1(L1)及び実施例2(L2)は、シグナルピン7Sよりもグランドピン7Gの比誘電率を小さくした場合である。
【0056】
図10から分かるように、比較例01(L01)では30GHzまで複数の共振(リップル)が発生しているのに対し、実施例1(L1)及び実施例2(L2)では、30GHzまでの共振が抑制されている。また、実施例2(L2)はインピーダンスが調整されているので、実施例1(L1)のように波打っておらず反射損が抑えられている。
【0057】
図11Aは、比誘電率であるεとεの比を変更した場合のシミュレーション結果が示されている。同図における縦軸及び横軸は図10と同様である。εとεの比は次表の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
図11Bは、図11Aから比較例02及び比較例03を削除し、横軸及び縦軸を拡大したものである。
【0060】
図11A及び図11Bから分かるように、シグナルピン7Sの比誘電率εに対してグランドピン7Gの比誘電率εを大きくすると、比較例03(L03)のように共振が大きくなり、その逆にシグナルピン7Sの誘電率εに対してグランドピン7Gの比誘電率εを小さくすると、実施例11,12,13,14のように共振が小さくなる。また、比誘電率の比(ε/ε)についても適正な範囲が存在し、実施例11,12,13,14から判断すると、1.1以上1.6以下の範囲が好ましい。また、実施例12及び13が最も好ましく、比(ε/ε)は1.2以上1.4以下がさらに好ましい。
【0061】
次に、コンタクトピン7の周囲の全体が樹脂で覆われていない場合について検討する。図12Aの計算モデルは実施例21を示し、図9に示した計算モデルに対して、グランドピン7Gの上方および下方の樹脂部2Gの厚さがシグナルピン7Sの樹脂部2Sよりも薄い。すなわち、グランドピン7Gの上方の樹脂部2Gの上およびグランドピン7Gの下方の樹脂部2Gの下に空気層が形成されている場合である。図12Bのモデルは実施例22を示し、図12Aの実施例21に対してグランドピン7Gの上方の樹脂部2Gを削除し、グランドピン7Gの上方が空気層のみの場合である。但し、樹脂部2Sの比誘電率ε及び樹脂部2Gの比誘電率εは、共に3.1とした。
【0062】
図13Aには、実施例21(L21)と実施例22(L22)のシミュレーション結果が示されている。同図において、横軸は周波数[GHz]を示し、縦軸は挿入損失[dB]を示す。比較例として、図9の計算モデルの比較例01(L01:ε及びεがともに3.1の場合)を示している。図13Bは、図13Aのグラフを部分的に拡大したものである。
【0063】
図13A及び図13Bから分かるように、実施例21のように樹脂部2Gを薄くして空気層を追加することによってグランドピン7Gの周りの誘電率を低下させることにより、共振(リップル)の抑制効果を確認できた。また、実施例22のようにグランドピン7Gの上方を空気層のみとした場合には、共振がさらに抑制できるとともに、反射損のみが確認できた。すなわち、実施例21及び実施例22から、コンタクトピン7に接触する樹脂部の面積を変更するだけでなく、コンタクトピン7の周囲の構造を変更することによって誘電率を変化させても共振を抑制できる。
【0064】
次に、図14の計算モデル(実施例31)に示すように、コンタクトピン7が摺動する場合を想定した形状について検討した。同図に示すように、コンタクトピン7が摺動する場合はシグナルピン7S及びグランドピン7Gの下方は摺動方向となるため樹脂が存在せず空気層のみとなる。実施例31は、図12Bに示した実施例22に対してさらに樹脂を削除したものであり、具体的には、シグナルピン7Sの上方にのみ樹脂部2Sがあり、グランドピン7Gの上方及び下方には樹脂がなく空気層のみとされている。
【0065】
図15には、実施例31(L31)のシミュレーション結果が示されている。同図において、横軸は周波数[GHz]を示し、縦軸は挿入損失[dB]を示す。併せて、実施例22(L22)のシミュレーションも示されている。同図から分かるように、実施例31のようにコンタクトピン7の下方を空気層のみとしても共振を抑制することができる。
【0066】
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
シグナルピン7Sの周囲の比誘電率よりも、グランドピン7Gの周囲の比誘電率を小さくすることによって共振を抑制できる。コンタクトピン7の周囲の構造や材料特性を変えることによってコンタクトピン7の周囲の比誘電率を変更できるので、導電樹脂や金属片などの追加部品を使用することなく、共振を抑制することができる。
【0067】
本発明者等が検討したところ、信号コンタクトの周囲の比誘電率εとグランドコンタクトの周囲の比誘電率εとの比(ε/ε)は、1.1以上1.6以下の範囲で共振を効果的に抑制できることを見出した。
【0068】
コンタクトピン7の周囲に存在する樹脂及び空間の形状を変更することにより、コンタクトピン7の周囲の比誘電率をコントロールできる。
【0069】
コンタクトピン7の樹脂が接触する面積が小さいほど、コンタクトピン7に接する空間部分が相対的に大きくなるので、比誘電率が小さくなる。そこで、シグナルピン7Sに接触する樹脂の面積をグランドピン7Gに接触する樹脂の面積よりも大きくすることで、シグナルピン7Sの周囲の比誘電率よりもグランドピン7Gの周囲の比誘電率の方を小さくすることとした。
【0070】
コンタクトピン7の周囲に存在する空間が大きいほど比誘電率が小さくなる。そこで、シグナルピン7Sの周囲に存在する空間よりも、グランドピン7Gの周囲に存在する空間の方を大きくすることとした。例えば、シグナルピン7Sに接触する樹脂の厚さよりも、グランドピン7Gに接触する樹脂の厚さを薄くする。
【0071】
また、シグナルピン7Sの周囲に存在する樹脂の比誘電率よりも小さい比誘電率の樹脂をグランドピン7Gの周囲に設けることで、コンタクトピン7の周囲の比誘電率を異ならせることができる。
同じ比誘電率の樹脂の形状を変えてシグナルピン7Sの周囲とグランドピン7Gの周囲の比誘電率を異ならせるのと同様に、シグナルピン7Sの周囲に存在する樹脂の比誘電率と異なる比誘電率の樹脂をグランドピン7Gの周囲に設ける場合でも、樹脂の形状を変えてコンタクトピン7の周囲の比誘電率を異ならせることも可能である。
【0072】
なお、上述した実施形態では、トップピン群3について比誘電率の差異を設けることとしたが、ボトムピン群5に対しても比誘電率の差異を設けても良い。
【0073】
また、図9等のように樹脂部2S,2Gの比誘電率をコンタクトピン7の周囲ごとに変更する場合には、シグナルピン7Sを収容保持する第1ブロック体と、グランドピン7Gを収容保持する第2ブロック体とによって構成することができる。シグナルピン7Sとグランドピン7Gとをそれぞれ異なるブロック体で収容保持することによって、各ブロック体を組み立てることでハウジング2が構成される。そして、各コンタクトを収容保持するブロック体を異なる比誘電率とすれば、比誘電率を変更したハウジング2を容易に構成することができる。
また、共通のハウジング2を用い、用途に合わせて比誘電率を調整したブロック体を入れ替えることができる。ブロック体は、コンタクトピンと一体化しているものと分離しているものがあり、この両者を適用することができる。
第1ブロック体と第2ブロック体の形状を異ならせることで、コンタクトピン7の周囲の比誘電率を異ならせることもできる。
図9等に示した樹脂部のようにブロック体の形状は直方体でも良いし、円柱状でも良く様々な形態をとることができる。
比誘電率を変更する場合には、例えば、ハウジング2を構成する樹脂として用いられるLCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)の種類を異ならせることによって実現できる。
【符号の説明】
【0074】
1 コネクタ
2 ハウジング
2a 挿入空間
2b 縦方向当接部
2c 幅方向当接部
2G 樹脂部
2S 樹脂部
3 トップピン群
5 ボトムピン群
7 コンタクトピン
7G グランドピン(グランドコンタクト)
7S シグナルピン(信号コンタクト)
7a 先端部
7b 接触部
7c ばねビーム部
7d 圧入部
7e 起立部
7f 実装部
9 コンタクトピン
9G グランドピン(グランドコンタクト)
9S シグナルピン(信号コンタクト)
9a 先端部
9b 接触部
9c 平行ビーム部
9d ばね折曲部
9e 圧入部
9f 起立部
9g 実装部
11 基板
12 パッド
F 前方
H 高さ方向
L 挿抜方向
R 後方
S1 接触領域
S2 接触領域
W 幅方向
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15