(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20250108BHJP
【FI】
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2020138994
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019150774
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514232719
【氏名又は名称】株式会社カーブスジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】武政 徹
(72)【発明者】
【氏名】麻見 直美
(72)【発明者】
【氏名】武田 紘平
(72)【発明者】
【氏名】沼田 治
(72)【発明者】
【氏名】田中 喜代次
(72)【発明者】
【氏名】中内 夢二
(72)【発明者】
【氏名】窪田 昌佳
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012659(JP,A)
【文献】特表2016-518450(JP,A)
【文献】特開2018-100238(JP,A)
【文献】EGUCHI. T. et al.,Black Tea High-Molecular-Weight Polyphenol Stimulates Exercise Training-Induced Improvement of Endurance Capacity in Mouse via the Link between AMPK and GLUT4,PLOS ONE,2013年,Vol.8, No.7,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K、A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物を有効成分とする、運動による
生活体力年齢の減少効果の増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎えた我が国や諸外国において、中高年の加齢に伴う生活動作の遂行能力の低下を防ぎ、生活体力を維持ないし増進させることは、健康寿命の延伸を図る上で重要であること、そのためには運動することが効果的であることは論を俟たない。しかしながら、中高年にとって運動できる範囲は限られていると言え、無理は禁物である。従って、無理のない範囲で運動することで生活体力の維持ないし増進効果を得ることが肝要であるが、運動による効果を手軽な方法で、例えば運動による効果を増強する成分を服用したり飲食したりする方法で増強することができれば、中高年にはこの上ない。けれども、運動による効果を増強する成分についてこれまでに提案されたことは、本発明者らの知る限りにおいてない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意検討を行った結果、茶に由来する高分子ポリフェノールを含む組成物に、運動による生活体力の維持ないし増進効果を増強する作用があることを見出した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物を有効成分とする、運動による生活体力年齢の減少効果の増強剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物を用いて、運動による生活体力の維持ないし増進効果を増強することができる。有効成分とする高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物は、天然の茶から調製されるものであるので、安心安全である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例において実験に用いた茶抽出物に含まれる高分子ポリフェノールの高速液体クロマトグラフィーのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物を有効成分とする、運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤である。ここで、生活体力は、例えば、機能的に自立して日常生活を円滑に過ごすための身体的動作能力と定義付けることができる(種田行男:高齢者の生活体力、総合リハビリテーション、26:439-444、1998)。
【0009】
本発明において、運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤の有効成分とする高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物は、茶抽出物の形態、例えば、烏龍茶や紅茶などの発酵茶葉の水溶出液(水、沸騰水、熱水、水蒸気などで抽出することで溶出する成分)から調製される抽出物の形態であってよい。茶由来組成物に含まれる高分子ポリフェノールとしては、例えば、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでおり、数平均分子量が9000~18000である高分子ポリフェノールが挙げられる。この高分子ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数個有する化合物、例えば、フラボノイド系ポリフェノールであるカテキン類が高度に重合することで生成すると考えられている公知の物質であり、本発明者である沼田治の研究グループによってミトコンドリア活性化作用(特許第5439644号)や筋肉遅筋化促進作用(特開2010-37323)などを有することが見出されている。その調製方法としては、特開2012-5413に記載の、発酵茶葉の水溶出液と親水性ビニルポリマーを材質とする吸着剤を混合した後、吸着剤の非吸着成分を除去してから、水を含んでいてもよいエタノールを用いて吸着剤の吸着成分を溶出させる方法などが挙げられるが、この高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物は市販品として入手することもできる(例えば日本アムウェイ社から商品名コレスパートで販売されている茶抽出物)。ここで、カテキン類とは、C6-C3-C6骨格にフェノール系水酸基を複数個有するフラバン-3-オール骨格を持つ下記の化学構造を有する化合物群を意味し、その具体例としては、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどが挙げられる。
【0010】
【0011】
プロシアニジン構造とは、カテキン類のC環と他のカテキン類のA環が結合した構造である。高分子ポリフェノールは、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造の他に、カテキン類のB環と他のカテキン類のA環が結合した構造などを含んでいてもよい。高分子ポリフェノールが有する部分構造の具体例としては以下に示すものが挙げられる。なお、以下に示す部分構造はあくまで例示に過ぎず、高分子ポリフェノールは、ベンゾトロポロン、ベンゾキノン、ナフトキノンなどを含む部分構造をはじめとする様々な部分構造を有していてもよい。
【0012】
【0013】
茶由来組成物中の高分子ポリフェノールの含量は、茶由来組成物の調製方法などによって異なるが、例えば10~50重量%であってよく、残りは、カテキン類を含むフラボノイド系化合物やテアフラビンなどから構成されていてよい。
【0014】
本発明の運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤の投与対象者としては、例えば、運動することによって加齢に伴う生活動作の遂行能力の低下を防ぎ、生活体力を維持ないし増進させることが望ましい中高年(40歳以上)が挙げられる。
【0015】
投与対象者への本発明の運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤の投与は、経口投与により行うことができる。投与に際しては経口投与に適した剤型に製剤化すればよい。製剤形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤などが挙げられ、これら製剤の調製は、必要に応じて、無毒性の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、矯味剤などの添加剤を使用して自体公知の方法にて行うことができる。無毒性の添加剤としては、でんぷん、ゼラチン、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ペトロラタム、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物の投与量は、投与対象者の年齢や性別や体重や健康状態などにより広範に調整することができるが、一般に1日当り0.01~300mg/Kgとすることができ、1日1回または数回に分けて投与すればよい。また、本発明の運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤は、各種の飲食品に添加し、飲食品の形態で飲食してもよい。
【0016】
投与対象者が行う運動は、ウォーキングや散歩などの手軽なものの他、テニスや水泳などのスポーツ、健康づくりを目的とした体操教室で行うトレーニングなど、どのようなものであってもよい。日々の生活において自身に見合った運動を行うとともに、本発明の運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤を服用したり飲食したりすることで、投与対象者は運動による生活体力の維持ないし増進効果を効率的に享受することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0018】
実験例1:運動による生活体力の維持ないし増進効果に対する高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物の作用
(実験方法)
約80日の実験期間中、株式会社カーブスジャパンが運営する女性だけの30分健康体操教室「カーブス」におけるサーキットトレーニング(有酸素運動と筋力トレーニングを30秒間隔で24分間繰り返し、6分間のストレッチを行う)を週2回以上実行することに同意した55~69歳の女性70名を、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物投与群(35名)とプラセボ投与群(35名)に分け、二重盲検試験を行った。運動による生活体力の維持ないし増進効果に対する高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物の作用は、実験期間の前後における生活体力年齢(Physical Fitness Age)の変化によって評価した。生活体力年齢は、被験者の、筋力、筋持久力、バランス調節力、俊敏力、柔軟性、器用性などを総合的に評価できる指標であり、本発明者である田中喜代次の研究グループによって提案されたものである(例えば、藪下典子、吉川和利、坂井智明、中村容一、田中喜代次:高齢男性における体力年齢推定式の提案、民族衛生、70:196-206、2004や、藪下典子、重松良祐:健康づくりのための体力測定評価法、株式会社金芳堂発行、[編著]田中喜代次、木塚朝博、大藏倫博、2007)。
【0019】
高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物としては、日本アムウェイ社から商品名コレスパートで販売されている茶抽出物を用いた。用いた茶抽出物には、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでおり、数平均分子量が1.36×104である、以下に示す部分構造を有する高分子ポリフェノールが含まれていることを、特開2010-37323に記載の分析方法で確認した。用いた茶抽出物の組成を表1に示す。高分子ポリフェノールの含量(34重量%)は後述する高速液体クロマトグラフィーによる方法で求め、その他の成分の含量はそれぞれの成分について知られている標準的な方法で求めた。
【0020】
【0021】
【0022】
プラセボとしては、デンプンを用いた。
【0023】
高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物投与群には、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物300mgを充填したハードカプセルを服用してもらい、プラセボ投与群には、デンプン300mgを充填したハードカプセルを服用してもらった。1日に服用してもらうカプセルの個数は、体重が40kg未満の被験者が8個、体重が40kg以上50kg未満の被験者が9個、体重が50kg以上70kg未満の被験者が10個、体重が70kg以上の被験者が11個とし、被験者には朝食後と昼食後の2回に(ほぼ)均等に分けて服用してもらった。
【0024】
生活体力年齢は、握力、起立時間、閉眼片足立ち、長座位体前屈、連続上腕屈伸、8の字歩行、ファンクショナルリーチ、30秒椅子立ち上がりの8項目を測定し、前出の、藪下典子、重松良祐:健康づくりのための体力測定評価法、株式会社金芳堂発行、[編著]田中喜代次、木塚朝博、大藏倫博、2007に記載の、以下に示す中高年女性向けの算出式で求めた。
【0025】
生活体力年齢=-4.7×生活体力スコア+0.47×暦年齢+36.4
【0026】
生活体力スコア=0.047X1-0.331X2+0.019X3+
0.019X4+0.055X5-0.074X6+
0.042X7+0.116X8-2.692
ここで、X1:握力(kg)
X2:起立時間(秒)
X3:閉眼片足立ち(秒)
X4:長座位体前屈(cm)
X5:連続上腕屈伸(回/30秒)
X6:8の字歩行(秒)
X7:ファンクショナルリーチ(cm)
X8:30秒椅子立ち上がり(回/30秒)
【0027】
(実験結果)
高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物投与群およびプラセボ投与群のそれぞれにおける、X1~X8の8項目それぞれの、各被験者の実験期間の前後の変化の平均は表2の通りであり、この数値を用いて両投与群の生活体力年齢を算出すると、プラセボ投与群では、実験期間後は実験期間前より1.48歳減少した(若返った)のに対し、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物投与群では、実験期間後は実験期間前より3.01歳減少した(若返った)。以上の結果から、株式会社カーブスジャパンが運営する女性だけの30分健康体操教室「カーブス」におけるサーキットトレーニングによる生活体力の維持ないし増進効果が確認されるとともに、高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物は当該効果を増強する(生活体力年齢を運動のみの場合と比較して約2倍若返らせる)ことがわかった。この実験で用いた茶由来組成物に含まれる高分子ポリフェノールは、上述の通り、ミトコンドリア活性化作用や筋肉遅筋化促進作用を有することが知られているが、筋力、筋持久力、バランス調節力、俊敏力、柔軟性、器用性などの総合的な評価指標である生活体力年齢を、この高分子ポリフェノールを含む茶由来組成物が、運動のみの場合と比較して約2倍若返らせることは、ミトコンドリア活性化作用や筋肉遅筋化促進作用からは予測できない(これらの作用から増加が期待される握力について増加が認められなかったことからも説明がつかない)結果であり、驚くべき事実であった。
【0028】
【0029】
(実験に用いた茶抽出物に含まれる高分子ポリフェノールの含量の求め方)
茶抽出物(20mg)を水(4.0mL)に溶解し、これを濃縮乾固した後、得られた濃縮乾固物を0.1%トリフルオロ酢酸を含む60%EtOH(10.0mL)に溶解し、得られた溶液の一部(5.0μL)を高速液体クロマトグラフィーにかけることで求めた。カラムはCosmosil 5C18-PAQカラム(長さ:250mm×内径:4.6mm、粒子径:5μm)を用い、溶出は50mM H
3PO
4にCH
3CN濃度を10~23%(28分間)→25~80%(2分間)→その後80%均一で勾配させて流速1.0mL/minで行った。高分子ポリフェノールはUV270nmで検出した。高速液体クロマトグラフィーのチャートを
図1に示す(横軸は時間(分))。同一条件での高分子ポリフェノールの標品の分析結果から、高分子ポリフェノールは、溶出開始から20~50分の間に存在するなだらかな丘状の部分であり(tR=33.4分)、この部分の面積(ベースラインより上の面積で突き出ているピークの面積は除く)に基づいて含量を求めた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、運動による生活体力の維持ないし増進効果の増強剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。