(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】流下物捕捉構造体及び流下物捕捉構造体の設置方法
(51)【国際特許分類】
E02B 7/02 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
E02B7/02 B
(21)【出願番号】P 2021007030
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-12-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 嶋丈示及び鳴海正寿が、2020年度砂防学会研究発表会概要集の第327頁及び328頁にて、嶋丈示及び鳴海正寿が発明した、流下物捕捉構造体及び流下物捕捉構造体の設置方法について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000173681
【氏名又は名称】一般財団法人砂防・地すべり技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【氏名又は名称】小林 義孝
(74)【代理人】
【識別番号】100206195
【氏名又は名称】山本 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100224650
【氏名又は名称】野口 晴加
(74)【代理人】
【識別番号】100175662
【氏名又は名称】山本 英明
(74)【代理人】
【氏名又は名称】葛西 さやか
(72)【発明者】
【氏名】嶋 丈示
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 正寿
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-065825(JP,U)
【文献】特開2019-116781(JP,A)
【文献】特開2005-120802(JP,A)
【文献】特開2009-299321(JP,A)
【文献】特開2019-090307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂防堰堤の本堤を越流する流下物を捕捉する流下物捕捉構造体であって、
前記本堤より下流側の前庭保護工の上方空間、且つ、前記本堤の水通し部よりも下方に設置される捕捉体
と、
前記水通し部の下部から、前記捕捉体に向かって斜め下方に傾斜し、前記流下物を前記捕捉体に導く導流体とを備え、
前記捕捉体は、流水を透過可能であり、前記流下物を捕捉可能であ
り、
前記導流体は、その下端が前記捕捉体の上端よりも下流側に位置する、流下物捕捉構造体。
【請求項2】
砂防堰堤の本堤を越流する流下物を捕捉する流下物捕捉構造体であって、
前記本堤より下流側の前庭保護工の上方空間、且つ、前記本堤の水通し部よりも下方に設置される捕捉体と、
前記水通し部の下部から、前記捕捉体に向かって斜め下方に傾斜し、前記流下物を前記捕捉体に導く導流体とを備え、
前記捕捉体は、流水を透過可能であり、前記流下物を捕捉可能であり、
前記導流体の傾斜角度は、前記本堤の傾斜角度よりも緩く、
前記捕捉体の傾斜角度は、前記導流体の傾斜角度よりも緩い、流下物捕捉構造体。
【請求項3】
前記捕捉体及び前記導流体は、可撓性の網状構造を有する、
請求項1又は請求項2記載の流下物捕捉構造体。
【請求項4】
少なくとも1つの捕捉体固定部材を更に備え、
前記捕捉体固定部材は、前記前庭保護工の側壁護岸に設置されて前記捕捉体を前記側壁護岸において支持する、請求項1から請求項3のいずれかに記載の流下物捕捉構造体。
【請求項5】
前記捕捉体は、前記側壁護岸から脱着自在に構成されている、請求項4記載の流下物捕捉構造体。
【請求項6】
前記捕捉体及び前記導流体の少なくとも一方は、張力調整部材を更に備える、請求項3記載の流下物捕捉構造体。
【請求項7】
砂防堰堤における流下物捕捉構造体の設置方法であって、
前庭保護工の側壁護岸に、第1の挿入孔を複数個穿孔する工程と、
前記砂防堰堤の本堤の下流側の法面における水通し部の下部と、前記側壁護岸との各々に、第2の挿入孔を複数個穿孔する工程と、
アンカーボルト等の軽量部品で構成される第1の固定部材を挿入した前記第1の挿入孔、及び、前記第1の固定部材と同様に構成される第2の固定部材を挿入した前記第2の挿入孔の各々に樹脂を注入して、前記第1の固定部材及び前記第2の固定部材の各々を固着する工程と、
ワイヤーロープを用いた網状構造物からなる捕捉体を、前記第1の固定部材の各々を介して、前記前庭保護工の上方の空間に設置する工程と、
ワイヤーロープを用いた網状構造物からなる導流体を、前記第2の固定部材の各々を介して、前記下部から、前記捕捉体に向かって斜め下方に傾斜するように設置する工程とを備え
、
前記導流体を設置する工程は、横方向の前記ワイヤーロープを前記第2の固定部材の各々を介して前記側壁護岸に固定すると共に、縦方向の前記ワイヤーロープの上方端部を前記第2の固定部材の各々を介して前記水通し部の前記下部に固定し、縦方向の前記ワイヤーロープの下方端部を前記横方向の前記ワイヤーロープに連結する工程を含む、流下物捕捉構造体の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流下物捕捉構造体及び流下物捕捉構造体の設置方法に関し、特に既設の砂防堰堤に後付けで設置される流下物捕捉構造体及び流下物捕捉構造体の設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳等の渓流において土砂災害防止のために用いられる施設として、砂防堰堤が知られている。砂防堰堤は、水を通過させる一方、土石流や洪水に含まれて運ばれる土砂礫や流木といった流下物を捕捉し、下流域の保全対象を守る働きをしている。
【0003】
しかし近年、大型化する台風や洪水の影響により発生した大量の流下物を砂防堰堤のみでは捕捉できず、砂防堰堤を流下・越流した流下物が下流域の保全対象まで到達してしまう事例が発生している。
【0004】
このような事例に対応するものとして、従来、砂防堰堤の水通し部に捕捉体を設けたものが存在する(特許文献1)。
【0005】
図13は、従来の堰堤の正面図及び側面図であり、
図14は、
図13で示した堰堤を上流から見た斜視図である。
【0006】
これらの図を参照して、堰堤70は、本体71と、捕捉体72とを備えている。本体71は例えば、コンクリートによって構築されその底部が地盤に埋設されており、河川を横切るように河川の幅方向に沿って延在するように構築されている。
【0007】
本体71における河川の幅方向に沿った中央近傍の上端部には、周囲よりも上端部が低くなるように切り欠かれた(凹んだ)水通し部73が形成されている。水通し部73は、上流から流れてくる流水を本体71の中央近傍に集約して下流に流すために形成されている。
【0008】
捕捉体72は、河川の上流から流れてくる流木を捕捉して流水を通すものであり、本体71の上流壁部74に、河川の幅方向に沿って設けられている。捕捉体72は、本体71の幅方向(河川の幅方向)に沿って延在する1本の梁部75と、この梁部75の延在方向に沿って所定間隔おきに連結された複数の柱部76とを備えている。梁部75と柱部76は、例えば、鋼管によって形成されている。柱部76は、第1の脚部76aと、第2の脚部76bとを備えている。第1の脚部76aは、上端が梁部75に溶接等にて接合されている。第2の脚部76bは、上端が第1の脚部76aの長手方向中央部に溶接等にて接合されている。
【0009】
捕捉体72の設置にあたっては、上流壁部74に埋設及び固定したアンカーボルトに、クレーン等で吊るした捕捉体72の第1の脚部76a及び第2の脚部76bの下端に設けられているフランジ部を通し、ナットで捕捉体72を固定する。
【0010】
尚、他の態様として、砂防堰堤である本堤より下流側の水叩き部に設置された流体物捕捉体から構成されている流体物捕捉構造体が存在する(特許文献2)。
【0011】
図15は、従来の流体物捕捉構造体の使用状態を示す概略断面図である。
【0012】
図を参照して、砂防堰堤である本堤81より下流側に、流体物捕捉構造体80が設けられている。流体物捕捉構造体80より下流側には、本堤81と基本的に同様の構成を有する下流側の砂防堰堤である副堤83が位置する。
【0013】
本堤81は、例えばコンクリートからなり、流水方向に直交する幅方向中央周辺に形成され流水91を通過させる水通し部84を備える。本堤81より下流側の河床には、本堤81(水通し部84)から落下する流水91による洗堀等から防護するための例えばコンクリートからなる平坦な水叩き部86が形成されている。水叩き部86における、本堤81から落下する流水91の河床接触部87(落下する流水91が河床に到達する予定の箇所)の上方には、流体物捕捉体82が設置され、流体物捕捉構造体80を構成している。
【0014】
流体物捕捉体82は、流木や礫等の流体物92を捕捉する捕捉部材88と、捕捉部材88を水叩き部86に固定すると共に、捕捉部材88に対する流体物92の落下の衝撃及び堆積した流下物92の載荷荷重から支持する支持部材89とから主に構成されており、流水91と共に落下する流体物92の衝突による衝撃や堆積した流体物92の載荷荷重等の外力に耐え得る強度の鋼材や木材等の材料、構造からなる。捕捉部材88は、落下してきた流体物92や、落下後に流水91と共に流され運ばれてきた流体物92を流水91と分離して捕捉する。支持部材89は、鋼製荷台であり、アンカーボルトを用いて、水叩き部86に脱着自在に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2018-127880号公報
【文献】特開2019-90307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述の堰堤70に用いられる捕捉体72や、流体物捕捉構造体80に用いられる流体物捕捉体82はいずれも水中(通水断面内)に設置されるものであるため、設置により砂防堰堤内の水深を変化させ得るものであった。したがって、施工にあたり水深の再計算、及び、再計算の結果次第では既設の砂防堰堤の改築を要するものであった。
【0017】
又、捕捉体72は鋼管からなる、流体物捕捉体82は鋼材や木材等からなる重量物であって人力のみでの運搬及び施工が困難なものであった。すなわちこれらの運搬及び施工には車等の車両やヘリコプター等の運搬手段、クレーン等の施工用重機、加えて車両や重機を乗り入れる為の作業用道路の建設等を要し、経済的なものではなかった。更にこれらは、車両や重機の乗り入れが困難なアクセス性の悪い土地に構築された砂防堰堤への施工には不向きでもあった。
【0018】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、捕捉体が下流側の通水断面を閉塞しない軽量で施工が容易な流下物捕捉構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、請求項1記載の発明は、砂防堰堤の本堤を越流する流下物を捕捉する流下物捕捉構造体であって、本堤より下流側の前庭保護工の上方空間、且つ、本堤の水通し部よりも下方に設置される捕捉体と、水通し部の下部から、捕捉体に向かって斜め下方に傾斜し、流下物を捕捉体に導く導流体とを備え、捕捉体は、流水を透過可能であり、流下物を捕捉可能であり、導流体は、その下端が捕捉体の上端よりも下流側に位置するものである。
【0020】
このように構成すると、捕捉体が下流側の通水断面を閉塞しない。又、長辺が水の流れ方向に沿うように流れる流下物が、導流体から捕捉体に移動する際に、横転しやすくなる。更に、水通し部と捕捉体との間に、流水の落下角度よりも傾斜角度が緩い箇所ができる。
【0021】
請求項2記載の発明は、砂防堰堤の本堤を越流する流下物を捕捉する流下物捕捉構造体であって、本堤より下流側の前庭保護工の上方空間、且つ、本堤の水通し部よりも下方に設置される捕捉体と、水通し部の下部から、捕捉体に向かって斜め下方に傾斜し、流下物を捕捉体に導く導流体とを備え、捕捉体は、流水を透過可能であり、流下物を捕捉可能であり、導流体の傾斜角度は、本堤の傾斜角度よりも緩く、捕捉体の傾斜角度は、導流体の傾斜角度よりも緩いものである。
【0022】
このように構成すると、捕捉体が下流側の通水断面を閉塞しない。又、長辺が水の流れ方向に沿うように流れる流下物が、導流体から捕捉体に移動する際に、横転しやすくなる。更に、水通し部と捕捉体との間に、流水の落下角度よりも傾斜角度が緩い箇所ができる。
【0023】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の構成において、捕捉体及び導流体は、可撓性の網状構造を有するものである。
【0024】
このように構成すると、軽量且つ安価な捕捉体及び導流体となる。
【0025】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の構成において、少なくとも1つの捕捉体固定部材を更に備え、捕捉体固定部材は、前庭保護工の側壁護岸に設置されて捕捉体を側壁護岸において支持するものである。
【0026】
このように構成すると、既設構造物を用いての施工となる。
【0027】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成において、捕捉体は、側壁護岸から脱着自在に構成されているものである。
【0028】
このように構成すると、捕捉体の交換が容易である。
【0029】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明の構成において、捕捉体及び導流体の少なくとも一方は、張力調整部材を更に備えるものである。
【0030】
このように構成すると、張力調整によって捕捉体又は導流体の空間的位置が安定する。
【0031】
請求項7記載の発明は、砂防堰堤における流下物捕捉構造体の設置方法であって、前庭保護工の側壁護岸に、第1の挿入孔を複数個穿孔する工程と、砂防堰堤の本堤の下流側の法面における水通し部の下部と、側壁護岸との各々に、第2の挿入孔を複数個穿孔する工程と、アンカーボルト等の軽量部品で構成される第1の固定部材を挿入した第1の挿入孔、及び、第1の固定部材と同様に構成される第2の固定部材を挿入した第2の挿入孔の各々に樹脂を注入して、第1の固定部材及び第2の固定部材の各々を固着する工程と、ワイヤーロープを用いた網状構造物からなる捕捉体を、第1の固定部材の各々を介して、前庭保護工の上方の空間に設置する工程と、ワイヤーロープを用いた網状構造物からなる導流体を、第2の固定部材の各々を介して、下部から、捕捉体に向かって斜め下方に傾斜するように設置する工程とを備え、導流体を設置する工程は、横方向のワイヤーロープを第2の固定部材の各々を介して側壁護岸に固定すると共に、縦方向のワイヤーロープの上方端部を第2の固定部材の各々を介して水通し部の下部に固定し、縦方向のワイヤーロープの下方端部を横方向のワイヤーロープに連結する工程を含むものである。
【0032】
このように構成すると、設置に要するものが軽量物と既設構造物とになる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、請求項1記載の発明は、捕捉体が下流側の通水断面を閉塞しないので、施工にあたっての水深の再計算、及び、既設構造物の改築が不要となる。又、長辺が水の流れ方向に沿うように流れる流下物が、導流体から捕捉体に移動する際に、横転しやすくなる。更に、水通し部と捕捉体との間に、流水の落下角度よりも傾斜角度が緩い箇所ができるので、流下物の捕捉率が向上する。
【0034】
請求項2記載の発明は、捕捉体が下流側の通水断面を閉塞しないので、施工にあたっての水深の再計算、及び、既設構造物の改築が不要となる。又、長辺が水の流れ方向に沿うように流れる流下物が、導流体から捕捉体に移動する際に、横転しやすくなる。更に、水通し部と捕捉体との間に、流水の落下角度よりも傾斜角度が緩い箇所ができるので、流下物の捕捉率が向上する。
【0035】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明の効果に加えて、軽量且つ安価な捕捉体及び導流体となるので、搬入及び施工が人力で行え、且つ、経済的なものとなる。
【0036】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明の効果に加えて、既設構造物を用いての施工となるので、施工に伴う既設構造物の改築や新たな用地買収等が不要となり、経済的且つ工期の短縮が望めるものとなる。又、捕捉体の支持状態が安定する。
【0037】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加えて、捕捉体の交換が容易であるので、保守性に優れたものとなる。
【0038】
請求項6記載の発明は、請求項3記載の発明の効果に加えて、張力調整によって捕捉体又は導流体の空間的位置が安定するので、流下物の捕捉率が向上する。
【0039】
請求項7記載の発明は、設置に要するものが軽量物と既設構造物とになるので、設置に要する部材の搬入及び施工が人力のみで可能となり、経済的且つ工期短縮が望める設置方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】この発明の第1の実施の形態による流下物捕捉構造体を砂防堰堤に設置した状態の平面図である。
【
図2】
図1で示した流下物捕捉構造体を砂防堰堤に設置した状態の右側面模式図である。
【
図3】
図1で示した捕捉体を砂防堰堤に設置した状態を示す平面図である。
【
図5】
図3で示したV-Vラインの矢視拡大模式図である。
【
図6】
図1で示した導流体を砂防堰堤に設置した状態を示す平面図である。
【
図9】
図6で示したIX-IXラインの矢視拡大模式図である。
【
図10】
図1で示した流下物捕捉構造体の設置工程を示す模式図である。
【
図11】
図1で示した流下物捕捉構造体により流下物を捕捉する過程を示す模式図である。
【
図12】
図1で示した流下物捕捉構造体により流下物が横転する過程を示す模式図である。
【
図15】従来の流体物捕捉構造体の使用状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、この発明の第1の実施の形態による流下物捕捉構造体を砂防堰堤に設置した状態の平面図であり、
図2は、
図1で示した流下物捕捉構造体を砂防堰堤に設置した状態の右側面模式図である。
【0042】
これらの図を参照して、砂防堰堤50に、流下物捕捉構造体1が設置されている。
【0043】
砂防堰堤50は、河川において上流側に位置する本堤51と、本堤51より下流側に設けられる前庭保護工52と、前庭保護工52より下流側に位置する副堤53とを備える。
【0044】
本堤51は、例えばコンクリートからなり、流水方向に直交する幅方向中央周辺に形成され流水を通過させる水通し部54を備える。尚、後に詳述するが、本堤51で捕捉しきれなかった流木を主とする流下物も、水通し部54を通過して下流側に流れていく。
【0045】
本堤51より下流側の河床には、水通し部54から落下する流水等による洗堀等から防護するための例えばコンクリートからなる平坦な水叩き部55が形成され、水叩き部55の流水方向の両端部から立ち上がる、例えばコンクリートからなる一対の側壁護岸56a及び56bと共に前庭保護工52を構成している。
【0046】
副堤53は、基本的に本堤51と同様の構成を有する。
【0047】
流下物捕捉構造体1は、捕捉体10と導流体30とを備える。捕捉体10は、前庭保護工52の上方空間、且つ、本堤51の水通し部54よりも下方に設置されており、流水を透過可能であって流下物を捕捉可能とするものである。このように構成すると、捕捉体10及び後述する蓄積した流下物が下流側の通水断面を閉塞しないので、施工にあたっての水深の再計算、及び、既設構造物である砂防堰堤50の改築が不要となる。特に、水通し部54の断面を阻害することが無いので、水通し部54に新たな断面を設けるための水通し部54周辺(袖部)の嵩上げが不要となる。又、本堤51にかかる静水圧も変化しないので、本堤51の増厚も不要となる。尚、捕捉体10の構成の詳細については後述する。
【0048】
又、導流体30は、水通し部54の下部59から捕捉体10に向かって斜め下方に傾斜するように設置される。導流体30の構成の詳細及びこのように構成したことによる効果は後述する。
【0049】
図3は、
図1で示した捕捉体を砂防堰堤に設置した状態を示す平面図であり、
図4は、
図3で示した“X”部分の拡大図であり、
図5は、
図3で示したV-Vラインの矢視拡大模式図である。
【0050】
まず、
図3を参照して、捕捉体10は、複数本のワイヤーロープ11を格子状に配置し、交点の各々にてワイヤーロープ11同士を連結したものからなる、可撓性の網状構造を有する捕捉部12を主とする網状構造物であって、捕捉部12において流水を透過可能であり、流下物を捕捉可能とするものである。このように構成すると、軽量且つ安価な捕捉体10となるので、搬入及び施工が人力で行え、且つ、経済的なものとなる。又、捕捉体10にかかる外力は捕捉体10の全体に分散できるため個々の構成部材には高い強度が要求されず、捕捉体10のコストが抑えられる。更に、捕捉部12の各構成部材の径が小さく捕捉部12における水の接触面積が少ないこと、及び、後述するように捕捉された流下物に流水が当たらないことから、設置にあたって水圧を考慮しなくてよい。加えて、捕捉された流下物が流水に当たって再流出する虞も無い。
【0051】
尚、
図1及び
図2にて示した捕捉部12の網目間隔D
1及びD
2は、後述する流下物の想定長さの1/√5より小さく設定されている。例えば、捕捉体10では流下物の想定長さを5mとし、D
1及びD
2は、2.2m以下の切りの良い数値である2mに設定されている。このように構成したことによる効果は後述する。
【0052】
次に、
図4を参照して、横方向(流水方向に直交する方向)のワイヤーロープ11aと、縦方向(流水方向)のワイヤーロープ11bとは平面視十字状に交差し、その交点においてクロスクリップ13を用いて連結されている。ワイヤーロープ11aの一方端部14aには張力調整部材としてのターンバックル15aが連結されている。このように構成したことによる効果は後述する。ワイヤーロープ11aの一方端部14aにはターンバックル15a及びシャックル17aが取り付けられている。これに対し他方端部16aには、シャックル17bが取り付けられている。
【0053】
前庭保護工52の側壁護岸56aの天端57aには、アンカーボルト21と金属製の固定プレート22との軽量部品にて構成される捕捉体固定部材(第1の固定部材)20aが設置されている。尚、側壁護岸56bの天端57bにおいて捕捉体固定部材20aと横方向において対向する位置にも、捕捉体固定部材20aと同様の構成よりなる捕捉体固定部材20bが設置されている。ワイヤーロープ11aはシャックル17a及び17bを介して捕捉体固定部材20a及び20bの各々に脱着自在となっている。
【0054】
次に、
図5を参照して、縦方向のワイヤーロープ11bの一方端部(下流側端部)14bには、張力調整部材としてのターンバックル15bが連結されている。ターンバックル15bを介したワイヤーロープ11bの一方端部14b及び他方端部(上流側端部)16bは、それぞれ三方クリップ18a及び18bを介して、横方向のワイヤーロープ11c及び11dの各々とワイヤーロープ11bとが平面視T字状に交差するように連結されている。
【0055】
尚、
図3を参照して、他のワイヤーロープ11においても、横方向に配置されたものは
図4にて示したワイヤーロープ11aと、縦方向に配置されたものは
図5にて示したワイヤーロープ11bと、それぞれ同様の構成を有する。加えて、側壁護岸56a及び56bにおける他の横方向のワイヤーロープ11の配置位置に対応した箇所の各々にも、
図4にて示した捕捉体固定部材20a及び20bと同様の構成の捕捉体固定部材20が設置されている。したがって、捕捉体10は、側壁護岸56a及び56bから脱着自在に構成されたものとなっている。このように構成すると、捕捉体10の交換が容易であるので、保守性に優れたものとなる。
【0056】
又、捕捉体固定部材20の各々は、側壁護岸56a及び56bの各々に設置されて捕捉体10を側壁護岸56a及び56bにおいて支持するものとなっている。このように構成すると、既設構造物である側壁護岸56a及び56bを用いての施工となるので、捕捉体10の施工に伴う既設構造物(砂防堰堤50)の改築や新たな用地買収等が不要となり、経済的且つ工期の短縮が望めるものとなる。又、捕捉体10の支持状態が安定する。
【0057】
図6は、
図1で示した導流体を砂防堰堤に設置した状態を示す平面図であり、
図7は、
図6で示した“Y”部分の拡大図であり、
図8は、
図6で示した“Z”部分の拡大図であり、
図9は、
図6で示したIX-IXラインの矢視拡大模式図である。
【0058】
まず、
図6を参照して、導流体30は、複数本のワイヤーロープ31を格子状に配置し、交点の各々にてワイヤーロープ31同士を連結したものからなる、可撓性の網状構造を有する導流部32を主とする網状構造物であって、導流部32において流下物を一時的に受け止めつつ流水を透過可能とするものである。このように構成すると、軽量且つ安価な導流体30となるので、搬入及び施工が人力で行え、且つ、経済的なものとなる。又、導流体30にかかる外力は導流体30の全体に分散できるため、個々の構成部材には高い強度が要求されず、導流体30のコストが抑えられる。更に、導流部32の各構成部材の径が小さく導流部32における水の接触面積が少ないことから、設置にあたって水圧を考慮しなくてよい。
【0059】
尚、
図1及び
図2を参照して、導流体30の設置位置は上述の通りであるから、導流体30に一時的に受け止められた流下物は導流体30の傾斜に沿って捕捉体10に導かれる。このように構成したことによる効果は後述する。又、導流部32の網目間隔d
1及びd
2も後述する流下物の想定長さの1/√5に設定されており、それぞれ2mに設定されている。このように構成したことによる効果も後述する。
【0060】
次に、
図7を参照して、横方向のワイヤーロープ31aと、縦方向のワイヤーロープ31bとは平面視十字状に交差し、その交点においてクロスクリップ33を用いて連結されている。ワイヤーロープ31aの一方端部34aには張力調整部材としてのターンバックル35aが連結されている。このように構成したことによる効果は後述する。ターンバックル35aを介したワイヤーロープ31aの一方端部34a及び他方端部36aは、それぞれ三方クリップ38a及び38bを介して、縦方向のワイヤーロープ31c及び31dの各々とワイヤーロープ31aとが平面視T字状に交差するように連結されている。
【0061】
次に、
図8を参照して、横方向のワイヤーロープ31eと、縦方向のワイヤーロープ31cとは平面視T字状に交差し、その交点において三方クリップ38cを用いて連結されている。ワイヤーロープ31eの一方端部34bにも、張力調整部材としてのターンバックル35bが連結されている。ワイヤーロープ31eの一方端部34bにはターンバックル35a及びシャックル37aが取り付けられている。これに対し他方端部36bには、シャックル37bが取り付けられている。
【0062】
前庭保護工52の側壁護岸56aの天端57aには、アンカーボルト41と金属製の固定プレート42との軽量部品にて構成される導流体固定部材(第2の固定部材)40aが設置されている。尚、側壁護岸56bの天端57bにおいて導流体固定部材40aと横方向において対向する位置にも、導流体固定部材40aと同様の構成よりなる導流体固定部材40bが設置されている。ワイヤーロープ31eはシャックル37a及び37bを介して導流体固定部材40a及び40bの各々に脱着自在となっている。
【0063】
次に、
図9及び
図2を参照して、縦方向のワイヤーロープ31bの一方端部(下方端部)34cは、三方クリップ38cを介して、横方向のワイヤーロープ31eとワイヤーロープ31bとが平面視T字状に交差するように連結されている。ワイヤーロープ31bの他方端部(上方端部)36cにはシャックル37cが取り付けられている。
【0064】
本堤51の下流側の法面58における水通し部54の下部59には、導流体固定部材40aと同様の構成よりなる導流体固定部40cが設置されている。ワイヤーロープ31bはシャックル37cを介して導流体固定部材40cに脱着自在となっている。
【0065】
尚、
図6を参照して、他のワイヤーロープ31においても、
図8にて示したワイヤーロープ31e以外の横方向に配置されたものは
図7にて示したワイヤーロープ31aと、縦方向に配置されたものは
図9にて示したワイヤーロープ31bと、それぞれ同様の構成を有する。加えて、法面58における他の縦方向のワイヤーロープ11の配置位置に対応した箇所の各々にも、
図9にて示した導流体固定部材40cと同様の構成の捕捉体固定部材40が設置されている。したがって、導流体30は、側壁護岸56a、56b及び法面58から脱着自在に構成されたものとなっている。このように構成すると、導流体30の交換が容易であるので、保守性に優れたものとなる。
【0066】
又、導流体固定部材40の各々は、側壁護岸56a、56b及び法面58の各々に設置されて導流体30を側壁護岸56a、56b及び法面58において支持するものとなっている。このように構成すると、既設構造物である側壁護岸56a、56b及び法面58を用いての施工となるので、導流体30の施工に伴う既設構造物(砂防堰堤50)の改築や新たな用地買収等が不要となり、経済的且つ工期の短縮が望めるものとなる。又、導流体30の支持状態が安定する。
【0067】
更に、導流体30は、その設置幅が水通し部54の幅よりも広くなるように設置されているので、後述する水通し部54を通り抜ける流水及び流下物が、導流体30の上部に流れ着きやすい。
【0068】
尚、ここまで述べてきた捕捉体10、捕捉体固定部材20、導流体30及び導流体固定部材40の各々を構成する部材はいずれも、腐食対策として溶融亜鉛めっき処理等が施されている。
【0069】
図10は、
図1で示した流下物捕捉構造体の設置工程を示す模式図である。
【0070】
まず、
図10(1)を参照して、砂防堰堤50において、前庭保護工52の側壁護岸56a及び56bに第1の挿入穴23を、捕捉体固定部材20の設置数に応じて複数個穿孔する。又、本堤51の下流側の法面58における水通し部54の下部59と、側壁護岸56a及び56bとの各々に第2の挿入穴43を、導流体固定部材40の設置数に応じて複数個穿孔する。
【0071】
次に、第1の挿入孔23に捕捉体固定部材20のアンカーボルト21を、第2の挿入孔43に導流体固定部材40のアンカーボルト41をそれぞれ挿入した状態で、第1の挿入孔23及び第2の挿入孔43の各々にエポキシ樹脂を注入し、捕捉体固定部材20及び導流体固定部材40の各々を固着する。
【0072】
次に、
図10(2)を参照して、捕捉体固定部材20の各々を介して捕捉体10を、前庭保護工52の上方の空間である、側壁護岸56aの天端57aと側壁護岸56bの天端57bとの間に設置する。この際、捕捉体10が必要以上に撓まないように、
図3にて示したターンバックル15により張力を調整する。このように構成すると、張力調整によって捕捉体10の部材間隔が開きにくくなると共に、後述する流下物が接触した際の捕捉体10の空間的位置が安定するので、流下物の捕捉率が向上する。
【0073】
最後に、
図10(3)を参照して、導流体固定部材40の各々を介して導流体30を、水通し部54の下部59から捕捉体10に向かって斜め下方に傾斜するように設置する。尚、導流体30の傾斜角度θは約45°に設定され、導流体30の下端は捕捉体10の上端よりも下流側に位置している。このように構成すると、導流体30と捕捉体10とに重複部分が生じ導流体30と捕捉体10との間に隙間が生じなくなるので、流下物の捕捉率が向上する。この際、導流体30が必要以上に撓まないように、
図6にて示したターンバックル35により張力を調整する。このように構成すると、張力調整によって導流体30の部材間隔が開きにくくなると共に、後述する流下物が接触した際の導流体30の空間的位置が安定するので、流下物の捕捉率が向上する。
【0074】
このようにして、流下物捕捉構造体1の設置工程を終了する。このように構成すると、流下物捕捉構造体1の設置に要するものがワイヤーロープやアンカーボルト等の軽量部品よりなる軽量物と既設構造物とになるため、設置に要する部材の搬入及び施工が人力のみで可能となる。すなわち、搬入用の車両等や施工用の重機、これらを乗り入れるための道路等及び設置場所の用地、砂防堰堤50の改築のいずれもが不要となり、経済的且つ工期短縮が望める設置方法となる。
【0075】
図11は、
図1で示した流下物捕捉構造体により流下物を捕捉する過程を示す模式図である。
【0076】
図を参照して、水通し部54を通り抜けて本堤51を越流した流水(水、細粒土砂等)61及び流下物(主に流木)62は、導流体30の上部に流れ着く。ここで、導流体30の設置位置は
図10(3)に示した通りであるから、導流体30の傾斜角度θは、水通し部54を通り抜けると放物線を描いて落下する流水61の落下角度よりも緩いものとなっている。言い換えれば、導流体30が流水61の落下軌跡と交差するように設置されているため、導流体30によって、水通し部54と捕捉体10との間に流水61の落下角度よりも傾斜角度が緩い箇所ができる。したがって、水通し部54を通り抜けた流水61は導流体30を透過してそのまま放物線を描いて直接捕捉体10に衝突せずに落下するが、流下物62は、自身の傾きが傾き始めから流水61の落下角度に等しくなる前に導流体30に接触するので、導流体30の網目をすり抜けずに導流体30の傾斜に沿って傾いて導流体30に一時的に受け止められる。
【0077】
このようにして流水61と分離された流下物62は、導流体30の傾斜により導流体30を滑り落ちるようにして捕捉体10に導かれる。尚、流下物62は導流体30の傾斜に沿った、流水61に乗って落下するときよりも緩い傾きで捕捉体10にまで導かれる。すなわち、流下物62は捕捉体10の網目をすり抜けにくい姿勢で捕捉体10に導かれる。
【0078】
捕捉体10は側壁護岸56a及び56bに支持されるものであって導流体30よりも更に傾斜が緩やかなものであるから、捕捉体10に導かれた流下物62の推進力は次第に衰え、流下物62は捕捉体10内にて停止し捕捉される。このように構成すると、流下物62の捕捉率が向上する。又、流下物62の落下距離が短くなるため、導流体30及び捕捉体10の受ける衝撃が小さくなり、導流体30及び捕捉体10が傷みにくい。特に、導流体30を介することで捕捉体10には直接流下物62が衝突しないため、捕捉部10への負荷が低減する。更に、捕捉体10に捕捉され蓄積した流下物62は下流側の通水断面を閉塞しないので、施工にあたっての水深の再計算及び既設構造物の改築が不要となる。
【0079】
図12は、
図1で示した流下物捕捉構造体により流下物が横転する過程を示す模式図である。
【0080】
まず
図12(1)を参照して、流木を主とする流下物62が、長辺が流水方向に沿うようにして流れて導流体30に到達し、その向きのまま導流体30を滑り落ちている。ここで上述したように、導流部32の網目間隔d
1及びd
2は、流下物62の想定長さLに対し、L/√5以下となるように設定されている。すなわち、網目間隔d
1及びd
2は流下物62の想定長さLの1/2以下であり、又、三平方の定理より、並列する二つの網目の対角線の長さ:d
1:2d
2=√5:1:2ともなるから、流下物62が導流体30を滑り落ちる際には、流下物62の少なくとも2箇所が常に導流部32に接触する。このように構成すると、流下物62が導流体30を滑り落ちている間に導流部32の網目からすり抜けて落下しにくい。
【0081】
尚、
図12(1)に示す流下物62と異なり、流下物62が横方向で導流体30を滑り落ちる場合においては、網目間隔d
1及びd
2がL/2に設定されていれば、流下物62の少なくとも2箇所が常に導流部32に接触し、流下物62が安定して滑り落ちる。よって、網目間隔d
1及びd
2はL/2以下に設定されるのが望ましく、L/√5以下に設定されるのがより望ましい。
【0082】
このようにして導流体30から捕捉体10に導かれる流下物62は、導流体30から捕捉体10に移動する間に導流部32の横方向のワイヤーロープ31又は捕捉部12の横方向のワイヤーロープ11に衝突する。そして衝突の衝撃により、衝突したワイヤーロープ31又は11よりも上方に位置する導流部32の横方向のワイヤーロープ31に支えられながら横転する。
【0083】
次に
図12(2)を参照して、横転した流下物62は捕捉体10を転がり、やがて捕捉体10内にて停止して捕捉される。ここで上述したように、捕捉部12の網目間隔D
1及びD
2も流下物62の想定長さLに対し、L/√5となるように設定されている。したがって網目間隔D
1及びD
2も流下物62の想定長さLの1/2以下に設定されており、又、三平方の定理より、並列する二つの網目の対角線の長さ:D
1:2D
2=√5:1:2ともなるから、流下物62は、少なくとも2箇所が常に捕捉部12に接触した状態で捕捉体10を転がる。このように構成すると、流下物62は、捕捉体10を転がっている間に捕捉部12の網目からすり抜けて落下しにくい。又、流下物62の捕捉率が向上する。
【0084】
尚、流下物62が横向きで捕捉体10を転がる場合、網目間隔d1及びd2と同様に、網目間隔D1及びD2がL/2に設定されていれば、流下物62の少なくとも2箇所が常に捕捉部12に接触し、流下物62が安定して転がる。よって、網目間隔D1及びD2もL/2以下に設定されるのが望ましく、L/√5以下に設定されるのがより望ましい。
【0085】
尚、上記の第1の実施の形態では、流下物捕捉構造体は捕捉体と導流体とを備えるものであったが、捕捉体のみで構成されてもよい。
【0086】
又、上記の第1の実施の形態では、捕捉体の捕捉部及び導流体の導流部は、ワイヤーロープを用いて構成されていたが、他の部材を用いて構成されてもよい。例えば、チェーンや、チェーンリンク間にゴム材を介在させてチェーン全体をゴム材で被覆した弾性チェーン等を用いて構成されてもよい。
【0087】
更に、上記の第1の実施の形態では、各ワイヤーロープの直径は特に設定されていないが、設置する護岸の幅や捕捉する計画流木量に応じて16mm~30mmの範囲で設定されていればよい。
【0088】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉体は特定構成からなる可撓性の網状構造を有していたが、流水を透過可能であり、流下物を捕捉可能であれば他の構成及び構造であってもよい。例えば、鋼板に水抜き穴やスリットを設けたもの、金属棒を格子状に組んだもの、透水性を有するスクリーン状のもの等であってもよい。
【0089】
更に、上記の第1の実施の形態では、導流体は特定構成からなる可撓性の網状構造を有していたが、水通し部の下部から捕捉体に向かって斜め下方に傾斜し、流下物を捕捉体に導けるものであればよい。例えば、流水を透過しない滑り台状の構造物であってもよい。
【0090】
更に、上記の第1の実施の形態では、導流体は特定の傾斜角度で設置されていたが、概ね45°以上の角度に設定されていればよく、流水の軌跡が導流体に交わるまでの平均勾配に設定されていれば尚よい。
【0091】
更に、上記の第1の実施の形態では、導流体の下端が捕捉体の上端よりも下流側に位置し、導流体と捕捉体とに重複部分が生じるように導流体が設置されていたが、流下物を捕捉体に導けるのであれば、導流体の下端が捕捉体の上端よりも上流側に位置していてもよい。
【0092】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉部及び導流部ではワイヤーロープは格子状に配置されていたが、網目間隔が流下物の想定長さの1/2以下、より望ましくは1/√5以下に設定されていれば、ながれ十字や斜め等、他の形状に配置されていてもよい。
【0093】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉部及び導流部の網目間隔は特定寸法に設定されていたが、流下物の想定長さの1/2以下、より望ましくは1/√5以下に設定されていればよく、網目間隔が小さければ小さいほど流下物の捕捉確率が更に向上する。
【0094】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉体は側壁護岸を介して設置されるものであったが、前庭保護工の上方空間、且つ、水通し部よりも下方に設置されてれいばよい。
【0095】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉体は側壁護岸に設置される複数の捕捉体固定部材により支持されていたが、少なくとも1つの捕捉体固定部材により支持されていれば他の固定部材を併用してもよい。又、捕捉体固定部材以外の固定部材のみに支持されてもよく、側壁護岸以外の場所にて支持されてもよい。
【0096】
更に、上記の第1の実施の形態では、捕捉体固定部材及び導流体固定部材は特定の樹脂を用いて固着されていたが、他の手段により固着されてもよい。
【0097】
更に、捕捉体は側壁護岸から脱着自在に構成されていたが、側壁護岸に固着していてもよい。
【0098】
更に、導流体は側壁護岸及び本堤の法面から脱着自在に構成されていたが、これらに固着してもよい。
【0099】
更に、捕捉体及び導流体は、張力調整部材としてターンバックルを備えるものであったが、他の部材が張力調整部材として用いられてもよい。例えば、チェーンリンク間に塑性変形しやすいゴム材よりなる緩衝部を挿入させたラバーリンク構造により一部に張力を持たせ、捕捉体又は導流体の全体を張らせるシステムを用いてもよい。尚、ラバーリンク構造を用いると、衝撃緩和効果も付与可能となる。又、捕捉体及び導流体の少なくとも一方に張力調整部材を備えていればよく、更には、いずれも張力調整部材を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…流下物捕捉構造体
10…捕捉体
11、11a、11b…ワイヤーロープ
12…捕捉部
15a、15b…ターンバックル
20、20a、20b…捕捉体固定部材(第1の固定部材)
21…アンカーボルト
23…第1の挿入孔
30…導流体
31、31a、31b、31c、31d、31e…ワイヤーロープ
32…導流部
35a、35b…ターンバックル
40、40a、40b、40c…導流体固定部材(第2の固定部材)
41…アンカーボルト
43…第2の挿入孔
50…砂防堰堤
51…本堤
52…前庭保護工
54…水通し部
56a及び56b…側壁護岸
57a及び57b…天端
58…法面
59…下部
61…流水
62…流下物
尚、各図中同一符号は同一又は相当部分を示す。