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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】パルス整形装置及びパルス整形方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/35 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
G02F1/35
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021567092
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044173
(87)【国際公開番号】W WO2021131487
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019239404
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」受託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】錦野 将元
(72)【発明者】
【氏名】森 道昭
(72)【発明者】
【氏名】ヂン タンフン
(72)【発明者】
【氏名】小島 完興
(72)【発明者】
【氏名】北村 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 登
(72)【発明者】
【氏名】近藤 公伯
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506489(JP,A)
【文献】特開平09-246648(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0170858(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0083407(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103259180(CN,A)
【文献】XIE, N. et al.,Improvement of temporal contrast for ultrashort laser pulses by cross-polarized wave generation,OPTIK,2012年,Vol. 123,pp. 565-568
【文献】JULLIEN, A. et al.,Two crystal arrangement to fight efficiency saturation in cross-polarized wave generation,OPTICS EXPRESS,2006年04月03日,Vol. 14, No. 7,pp. 2760-2769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H01S 3/00-3/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を備え、
前記少なくとも3個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、
第2非線形光学結晶と第3非線形光学結晶の間には、偏光子が配置されず、
前記第3非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、前記第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、前記第3非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a3が設定されている、
ことを特徴とするパルス整形装置。
【請求項2】
前記非線形光学結晶群から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、前記入力パルスレーザの相対エネルギー揺らぎの5倍以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のパルス整形装置。
【請求項3】
前記第3非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a3が設定されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパルス整形装置。
【請求項4】
前記第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、第1非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、前記第2非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a2が設定されている、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のパルス整形装置。
【請求項5】
前記第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a2が設定されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のパルス整形装置。
【請求項6】
第1非線形光学結晶における、前記入力パルスレーザから、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザへのエネルギー変換効率が最大になるように、前記第1非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a1が設定されている、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のパルス整形装置。
【請求項7】
レーザ光源にて生成されたパルスレーザの光路上に配置された第1偏光子と、前記第1偏光子を透過したパルスレーザの光路上に配置された第1レンズと、前記第1レンズを透過したパルスレーザの光路上に配置されたピンホールと、前記ピンホールを透過したパルスレーザの光路上に配置された第2レンズと、前記第2レンズを透過したパルスレーザの光路上に配置された第2偏光子と、を更に備え、
前記非線形光学結晶群は、前記ピンホールと前記第2レンズとの間に配置されており、
前記第1偏光子は、前記非線形光学結晶群に入力される前記入力パルスレーザを透過し、前記第2偏光子は、前記非線形光学結晶群から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザを透過する、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載のパルス整形装置。
【請求項8】
前記第1非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換し、
前記第2非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶を通過して前記第2非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換し、
前記第3非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶および前記第2非線形光学結晶を通過して前記第3非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換する、請求項4~6の何れか一項に記載のパルス整形装置。
【請求項9】
入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を用いて、前記入力パルスレーザのコントラスト比を向上させる、パルス整形方法であって、
前記少なくとも3個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、
第2非線形光学結晶と第3非線形光学結晶の間には、偏光子が配置されず、
前記第3非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、前記第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、前記第3非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a3が設定されている、
ことを特徴とするパルス整形方法。
【請求項10】
1非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換し、
前記第2非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶を通過して前記第2非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換し、
前記第3非線形光学結晶は、前記第1非線形光学結晶および前記第2非線形光学結晶を通過して前記第3非線形光学結晶に入射する、前記入力パルスレーザの偏光の一部を前記入力パルスレーザの偏光方向と直交する偏光方向の光に変換する、請求項9に記載のパルス整形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスレーザのコントラスト比を向上させるための装置であるパルス整形装置に関する。また、本発明は、パルスレーザのコントラスト比を向上させるための方法であるパルス整形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チャープパルス増幅法の開発により、高強度・超短パルスレーザの生成が容易となった。チャープパルス増幅法では、レーザ光がナノ秒程度のパルス幅で増幅された後、パルス圧縮器により時間的に圧縮される。チャープパルス増幅法により得られるパルスレーザは、TW(1兆すなわち1012W)を超えるため、TNSA(Target Normal Sheath Acceleration)等のイオン加速への利用が期待されている。
【0003】
しかしながら、チャープパルス増幅法により得られるパルスレーザには、自然放出光と呼ばれる背景光成分や増幅過程で発生するプリパルス成分など、メインパルスに対してナノ秒程度先行して標的物質に到達する低強度成分が含まれる。これらの低強度成分は、メインパルス到達前に標的物質を変質させるなどして、メインパルスと標的物質との相互作用を阻害するため、実用上問題となる。例えば、標的物質が金属である場合、メインパルス到達前にプリパルスによってプラズマが形成される。このようなプラズマの形成を抑えるためには、プリパルスの強度を電離閾値強度(100億すなわち1010W/cm程度)以下に低下させる必要がある。
【0004】
パルスレーザにおけるメインパルスとプリパルスとの強度比は、コントラスト比と呼ばれる。パルスレーザのコントラスト比を向上させるための技術としては、プラズマミラー法、可飽和吸収体法、光パラメトリックチャープパルス増幅法、直交偏波発生法などが知られている。
【0005】
パルスレーザを標的物質に照射すると、破壊閾値を超えた箇所で高密度プラズマが発生する。プラズマミラー法は、この高密度プラズマを用いて、パルスレーザのコントラスト比を向上させる方法である。しかしながら、プラズマミラー法には、メインパルスを高密度プラズマの反射光として取り出すため、メインパルスの反射率や安定性が低いという問題があった。また、ミラーの同じ場所を用いてプラズマミラーとして機能する高密度プラズマを繰り返し生成することができない問題があった。
【0006】
可飽和吸収体は、低強度のプリパルスを吸収すると共に、高強度のメインパルスを透過させる。可飽和吸収体法は、この可飽和吸収体を用いて、パルスレーザのコントラスト比を向上させる方法である。しかしながら、可飽和吸収体法には、レーザ光の吸収による発熱に起因して可飽和吸収体が損傷を受け易いという問題があった。また、メインパルス到達前に入射する低強度成分(プリパルス)については、その強度を十分に低下させることができるが、メインパルス到達後に入射する低強度成分については、その強度を十分に低下させることができないという問題があった。可飽和吸収体は、一旦パルスを透過する過飽和状態になると、強度が低下してもパルスを透過し続けるためである。
【0007】
光パラメトリックチャープパルス増幅法は、原理上、光パラメトリック現象が起こる強度の励起パルスが存在している時だけしか被増幅パルスの増幅が行われないため、パルスレーザの高コントラスト化に有効な技術である。実際、光パラメトリックチャープパルス増幅法を用いれば、最大12桁のコントラスト比を有するパルスレーザを得られることが実証されている。しかしながら、光パラメトリックチャープパルス増幅では、励起パルスと被増幅パルスとの時間ジッターにより、出力エネルギーが不安定になることが知られている。
【0008】
直線偏光を非線形光学結晶に入力すると、その直線偏光の一部が直交偏光(偏光方向がその直線偏光に直交する直線偏光)に変換される。この変換の変換効率は、入射する直線偏光の強度の3乗に比例する。したがって、パルスレーザを非線形光学結晶に入力すると、相対的に強度の高いメインパルスは、相対的に強度の低いプリパルスよりも高い変換効率で直交偏光にされる。したがって、非線形光学結晶から出力されるパルスレーザのコントラスト比は、非線形光学結晶に入力されるパルスレーザのコントラスト比よりも高くなる。直交偏波発生法は、非線形光学結晶のこのような性質を用いて、パルスレーザの高コントラス化を実現する方法である。直交偏波発生法を用いれば、10~11桁のコントラスト比を有するパルスレーザを得られることが、近年報告されている。
【0009】
直交偏波発生法では、直線偏光から直交偏光への変換効率が入射強度の3乗に比例する。このため、直交偏波発生法は、入射強度が非線形光学結晶の損傷閾値に近い設定で実施されることが多い。このため、自己位相変調により非線形光学結晶が白色発光するという問題や非線形光学結晶が損傷するという問題を生じることがある。
【0010】
パルスレーザのコントラスト比を向上させるための技術を開示した文献としては、例えば、特許文献1~3や非特許文献1~3などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特開2008-299155号公報
【文献】日本国特開2009-053505号公報
【文献】日本国特開2014-138047号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Efficient generation of cross-polarized femtosecond pulses in cubic crystals with holographic cut orientation、Appl. Phys. Lett. 92、 231102 (2008).
【文献】High-fidelity front-end for high-power、high temporal quality few-cycle lasers、Appl. Phys. B 102: 769-774(2011).
【文献】Two crystal arrangement to fight efficiency saturation in cross-polarized wave Generation、Opt. Exp. 14、2760(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、直交偏波発生法は、パルスレーザのコントラスト比を格段に向上させることができる、極めて有用なパルス整形技術である。特に、非特許文献3などに開示された、2個の非線形光学結晶を用いたパルス整形技術は、20%程度の変換効率を達成することができるので、イオン加速をはじめとした、高コントラスト比・高強度レーザが必要とされる各分野への応用が期待されている。
【0014】
しかしながら、1個又は2個の非線形光学結晶を用いたパルス整形技術には、得られるパルスレーザのエネルギー揺らぎが大きいという問題があった。ここで、パルスレーザのエネルギー揺らぎとは、そのパルスレーザに関して、パルス毎に測定されたエネルギーの分散のことを指す。
【0015】
例えば、イオン加速では、標的に照射するパルスレーザのエネルギー揺らぎが大きいと、加速されるイオンのエネルギーや粒子数などが不安定になる。したがって、イオン加速を安定運用するためには、パルスレーザのエネルギー揺らぎを抑えることが重要になる。
【0016】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、非線形光学結晶を1個又は2個用いた従来のパルス整形技術よりも、エネルギー揺らぎの小さいパルスレーザを得ることが可能なパルス整形技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様に係るパルス整形装置においては、入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を備えている、という構成が採用されている。
【0018】
本発明の一態様に係るパルス整形方法においては、入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を用いて、前記入力パルスレーザのコントラスト比を向上させる、という手法が採用されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、非線形光学結晶を1個又は2個用いた従来のパルス整形技術よりも、エネルギー揺らぎの小さいパルスレーザを得ることが可能なパルス整形技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るパルス整形装置の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係るパルス整形方法の流れを示すフローチャートである。
図3】第1非線形光学結晶におけるエネルギー変換効率、及び、第1非線形光学結晶から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎの、第1非線形光学結晶の回転角依存性を示すグラフである。
図4】第1非線形光学結晶及び第2非線形光学結晶におけるエネルギー変換効率、及び、第2非線形光学結晶から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎの、第2非線形光学結晶の回転角依存性を示すグラフである。
図5】第1非線形光学結晶、第2非線形光学結晶、及び第3非線形光学結晶におけるエネルギー変換効率、及び、第3非線形光学結晶から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎの、第3非線形光学結晶の回転角依存性を示すグラフである。
図6】非線形光学結晶群を3個の非線形光学結晶により構成した場合について、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を22.5°に固定し、第2非線形光学結晶M2の回転角a2、及び、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を独立に変化させた場合に非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザのエネルギーの回転角依存性を示すグラフである。
図7】非線形光学結晶群を3個の非線形光学結晶により構成した場合について、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を22.5°に固定し、第2非線形光学結晶M2の回転角a2、及び、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を独立に変化させた場合に非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎの回転角依存性を示すグラフである。
図8】非線形光学結晶群を1個の非線形光学結晶により構成した場合、2個の非線形光学結晶により構成した場合、及び、3個の非線形光学結晶により構成した場合について、非線形光学結晶群のエネルギー変換効率の入力エネルギー依存性を示したグラフである。
図9図1に示すパルス整形器の一変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(パルス整形装置の構成)
本発明の一実施形態に係るパルス整形装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、パルス整形装置1の構成を示す斜視図である。
【0022】
パルス整形装置1は、図1に示すように、第1偏光子P1と、第1レンズL1と、ピンホールCと、非線形光学結晶群Mと、第2レンズL2と、第2偏光子P2と、を備えている。パルス整形装置1は、レーザ光源2から出力されたパルスレーザPLのコントラスト比を向上させるための装置である。本実施形態においては、レーザ光源2として、超短パルスレーザを出力可能なチタンサファイアレーザを用いている。
【0023】
なお、以下の説明においては、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLの進行方向に平行なz軸、z軸に直交するx軸、並びに、z軸及びx軸の両方に直交するy軸を有する直交座標系を用いる。また、以下の説明においては、偏光方向(電界の振動方向)がx軸と平行であり、且つ、進行方向がz軸と平行である直線偏光をx偏光と記載し、偏光方向がy軸と平行であり、且つ、進行方向がz軸と平行である直線偏光をy偏光と記載する。レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLには、x偏光であるパルスレーザPLxとy偏光であるパルスレーザPLyとが含まれているものとする。
【0024】
レーザ光源2から出力されたパルスレーザPLは、第1偏光子P1に入力される。第1偏光子P1は、入力されたパルスレーザPLのx偏光成分を選択的に透過させる。したがって、第1偏光子P1を透過するパルスレーザは、x偏光であるパルスレーザPLxとなる。本実施形態においては、第1偏光子P1として、消光比の高いキューブ型グランテーラープリズムを用いている。なお、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLがx偏光ある場合には、第1偏光子P1を省略することも可能である。
【0025】
第1偏光子P1を透過したパルスレーザPLxは、第1レンズL1に入力される。第1レンズL1は、入力されたパルスレーザPLxを集光する。換言すると、第1レンズL1は、入力されたパルスレーザPLxを、平行光束又は発散光束から収斂光束へと変換する。したがって、第1レンズL1を透過したパルスレーザPLxは、収斂光束となる。本実施形態においては、第1レンズL1として、焦点距離が例えば1000mmの平凸レンズを用いている。なお、第1偏光子P1を透過するパルスレーザPLxが収斂光束である場合には、第1レンズL1を省略することもできる。
【0026】
第1レンズL1を透過したパルスレーザPLxは、ピンホールCに入力される。ピンホールCは、入力されたパルスレーザPLxの近軸成分を選択的に透過させる。すなわち、ピンホールCは、空間フィルタ(Spatial Filter)の役割を果たす。ピンホールCは、第1レンズL1を透過したパルスレーザPLxの集光点に配置されている。したがって、ピンホールCを透過したパルスレーザPLxは、発散光束となる。本実施形態においては、ピンホールCとして、光彩絞りを用いている。なお、第1レンズL1を透過するパルスレーザPLxの波面歪みが十分に小さい場合には、ピンホールCを省略することもできる。
【0027】
ピンホールCを透過したパルスレーザPLxは、非線形光学結晶群Mに入力される。非線形光学結晶群Mは、ピンホールCを透過したパルスレーザPLxの一部を、y偏光に変換する。したがって、非線形光学結晶Mから出力されるパルスレーザPL’は、x偏光であるパルスレーザPL’xとy偏光であるパルスレーザPL’yとを含む。ここで、非線形光学結晶群MにおけるパルスレーザPLxからパルスレーザPL’yへの変換効率は、パルスレーザPLxの強度の3乗に比例する。このため、相対的に強度の高いパルスレーザPLxの中心部分(メインパルス)は、相対的に強度の低いパルスレーザPLxの裾野部分(プリパルス)よりも高い変換効率でy偏光に変換される。したがって、非線形光学結晶群Mから出力されるy偏光であるパルスレーザPL’yのコントラスト比は、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLのコントラスト比よりも高くなる。なお、非線形光学結晶群Mの構成については、後述する。
【0028】
非線形光学結晶群Mから出力されたパルスレーザPL’は、第2レンズL2に入力される。第2レンズL2は、入力されたパルスレーザPL’をコリメートする。換言すると、第2レンズL2は、入力されたパルスレーザPL’を、発散光束から平行光束へと変換する。したがって、第2レンズL2を透過したパルスレーザPL’は、平行光束となる。本実施形態においては、第2レンズL2として、焦点距離が1000mmの平凸レンズを用いている。また、本実施形態において、パルスレーザPLは、第2レンズL2を透過したパルスレーザPL’が最短パルスとなるように予め調整されている。
【0029】
第2レンズL2を透過したパルスレーザPL’は、第2偏光子P2に入力される。第2偏光子P2は、入力されたパルスレーザPL’のy偏光成分を選択的に透過させる。したがって、第2偏光子Pから出力されるパルスレーザは、y偏光であるパルスレーザPL’yとなる。本実施形態においては、第1偏光子P1として、消光比の高いキューブ型グランテーラープリズムを用いている。
【0030】
以上のように、レーザ光源2から出力されたパルスレーザPLをパルス整形装置1に入力すると、そのパルスレーザPLよりもコントラスト比の高いパルスレーザPL’yがパルス整形装置1から出力される。すなわち、パルス整形装置1によれば、レーザ光源2から出力されたパルスレーザPLのコントラスト比を向上させることができる。
【0031】
(非線形光学結晶群の構成)
非線形光学結晶群Mの構成について、引き続き図1を参照して説明する。
【0032】
非線形光学結晶群Mは、パルスレーザPLの光路上に並んで配置されたn個の非線形光学結晶M1~Mnにより構成することができる。ここで、nは、3以上の任意の自然数である。本実施形態において、非線形光学結晶群Mを構成する非線形光学結晶M1~Mnの個数nは、3である。また、実施形態においては、非線形光学結晶M1~M3として、厚み1.0mmの円盤状に加工されたBaF結晶であって、結晶軸が厚み方向に直交するBaF結晶を用いている。非線形光学結晶M1~M3は、それぞれ、主面がxy平面と平行になるように、且つ、パルスレーザPLの光軸が主面の中心を通るように配置される。このため、非線形光学結晶M1~M3の結晶軸は、それぞれ、xy平面と平行になる。
【0033】
第1非線形光学結晶M1は、x偏光であるパルスレーザPLxの一部を、y偏光に変換する。したがって、第1非線形光学結晶M1から出力されるパルスレーザPL1は、x偏光であるパルスレーザPL1xとy偏光であるパルスレーザPL1yとを含む。同様に、第2非線形光学結晶M2は、x偏光であるパルスレーザPL1xの一部を、y偏光に変換する。したがって、第2非線形光学結晶M2から出力されるパルスレーザPL2は、x偏光であるパルスレーザPL2xとy偏光であるパルスレーザPL2yとを含む。同様に、第3非線形光学結晶M3は、x偏光であるパルスレーザPL2xの一部を、y偏光に変換する。したがって、第3非線形光学結晶M3から出力されるパルスレーザPL3は、x偏光であるパルスレーザPL3xとy偏光であるパルスレーザPL3yとを含む。なお、上述したように、本実施形態においては、非線形光学結晶群Mが3つの非線形光学結晶M1~M3により構成されている。したがって、本実施形態においては、第3非線形光学結晶M3から出力されるパルスレーザPL3が、非線形光学結晶群Mから出力されるパルスレーザPL’に相当する。
【0034】
ピンホールCから第1非線形光学結晶M1までの距離d1、第1非線形光学結晶M1から第2非線形光学結晶M2までの距離d2、及び、第2非線形光学結晶M2から第3非線形光学結晶M3までの距離d3は、それぞれ、独立に設定することが可能である。また、第1非線形光学結晶M1の回転角a1、第2非線形光学結晶M2の回転角a2、及び、第3非線形光学結晶M3の回転角a3は、それぞれ、独立に設定することが可能である。ここで、各非線形光学結晶Miの回転角aiとは、その非線形光学結晶Miの結晶軸とx軸(パルスレーザPLxの偏光方向と平行な軸)との成す角度である(i=1,2,3)。
【0035】
距離d1は、第1非線形光学結晶M1において自己位相変調による白色光が発生せず、且つ、第1非線形光学結晶M1にダメージが発生しない範囲で、パルスレーザPLxからパルスレーザPL1yへのエネルギー変換効率η1を最大化するように設定される。また、回転角a1は、距離d1を上記のように設定したうえで、エネルギー変換効率η1を最大化するように設定される。なお、自己位相変調による白色光が発生しないことは、例えば、CCDカメラや目視等による発光の有無の観察、或いは、分光計測によるスペクトルの観察によって確認することができる。また、ダメージが発生していないことは、例えば、CCDカメラや目視等による観察、或いは、出力低下の検出によって確認することができる。
【0036】
ここで、エネルギー変換効率η1は、η1=(パルスレーザPL1yのエネルギー/パルスレーザPLxのエネルギー)により定義される。第1非線形光学結晶M1の結晶方位が[100]である場合、エネルギー変換効率η1は、概ねsin(4×a1)に比例する。したがって、この場合、エネルギー変換効率η1は、回転角a1が概ね22.5°、67.5°、112.5°、又は157.5°の何れかに設定された場合に最大値を取る。
【0037】
距離d2は、距離d1及び回転角a1を上記のように設定したうえで、第2非線形光学結晶M2において自己位相変調による白色光が発生せず、且つ、第2非線形光学結晶M2にダメージが発生しない範囲で、パルスレーザPLxからパルスレーザPL2yへのエネルギー変換効率η2を最大化するように設定される。また、回転角a2は、距離d2を上記のように設定したうえで、パルスレーザPL2yのエネルギー揺らぎσ2がパルスレーザPL1yのエネルギー揺らぎσ1よりも小さくなるように設定される。より好ましくは、エネルギー揺らぎσ2を最小化するように設定される。
【0038】
ここで、エネルギー変換効率η2は、η2=(パルスレーザPL2yのエネルギー)/(パルスレーザPLxのエネルギー)により定義される。また、エネルギー揺らぎσ2は、パルスレーザPL2yに関して、パルス毎に測定されたエネルギーの標準偏差により定義される。非線形光学結晶M1~M2の結晶方位が[100]である場合、エネルギー変換効率η2は、概ねsin(2×a2)に比例する。また、この場合、エネルギー揺らぎσ2は、概ねsin(2×a2-22.5°)に比例する。したがって、この場合、エネルギー揺らぎσ2は、回転角a2が概ね67.5°又は157.5°の何れかに設定された場合に最大値を取る。
【0039】
距離d3は、距離d1,d2及び回転角a1,a2を上記のように設定したうえで、第3非線形光学結晶M3において自己位相変調による白色光が発生せず、且つ、第3非線形光学結晶M3にダメージが発生しない範囲で、パルスレーザPLxからパルスレーザPL3yへのエネルギー変換効率η3を最大化するように設定される。また、回転角a3は、距離d3を上記のように設定したうえで、パルスレーザPL3yのエネルギー揺らぎσ3がパルスレーザPL2yのエネルギー揺らぎσ2よりも小さくなるように設定される。より好ましくは、パルスレーザPL3yのエネルギー揺らぎσ3を最小化するように設定される。
【0040】
ここで、エネルギー変換効率η3は、η3=(パルスレーザPL3yのエネルギー)/(パルスレーザPLxのエネルギー)により定義される。また、エネルギー揺らぎσ3は、パルスレーザPL3yに関して、パルス毎に測定されたエネルギーの標準偏差により定義される。非線形光学結晶M1~M3の結晶方位が[100]である場合、エネルギー変換効率η3は、概ねsin(2×a3)に比例する。また、この場合、エネルギー揺らぎσ3は、概ねsin(2×a3-22.5°)に比例する。したがって、この場合、エネルギー揺らぎσ3は、回転角a3が概ね67.5°又は157.5°の何れかに設定された場合に最大値を取る。
【0041】
なお、エネルギー変換効率η2は、エネルギー変換効率η1以上にすることができる(エネルギー変換効率η1の最大4倍程度にすることができる)。これは、第2非線形光学結晶M2に入力されるパルスレーザPL1xがカーレンズ効果によって第1非線形光学結晶M1において集光されるためである。また、これにより、第2非線形光学結晶M2において蓄積される位相シフト量が増加し、その結果、パルスレーザPL1yと第2非線形光学結晶M2にて生成されるy偏光とが互いに強め合うように干渉する条件が整うからである。また、同様の理由により、エネルギー変換効率η3は、エネルギー変換効率η2以上にすることができる。
【0042】
距離d1~d3及び回転角a1~a3を上記のように設定すれば、パルス整形装置1から出力されるパルスレーザPL’y(本実施形態においては、第3非線形光学結晶M3から出力されるパルスレーザPL3yに相当)のエネルギー揺らぎを、従来のパルス整形装置から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎ(レーザ光源から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎの5倍程度)よりも小さく抑えることができる。
【0043】
なお、パルス整形装置1は、各非線形光学結晶Miを、パルスレーザPLの光軸を回転軸として回転可能に保持するホルダを更に備えていることが好ましい。これにより、各非線形光学結晶Miを回転させて、回転角aiを調整することが容易になる。また、パルス整形装置1は、各非線形光学結晶Miを、パルスレーザPLの光軸に沿って平行移動可能に保持するホルダを更に備えていることが好ましい。これにより、各非線形光学結晶Miを平行移動させて、距離diを調整することが移動することが容易になる。
【0044】
(距離d1~d3及び回転角a1~a3の設定方法の具体例)
距離d1~d3及び回転角a1~a3の設定方法の具体例について、図2を参照して説明する。図2は、本具体例に係る設定方法S1の流れを示すフローチャートである。
【0045】
設定方法S1は、図2に示すように、第1非線形光学結晶M1に関する工程S101~S104、第2非線形光学結晶M2に関する工程S105~S108、及び、第3非線形光学結晶M3に工程S109~S112を含んでいる。
【0046】
工程S101は、ピンホールCから第1非線形光学結晶M1までの距離d1を調整する工程である。一例として、初期値をd1=0として、距離d1を予め定められた増分Δだけ増加させる工程である。この場合、工程S101がm回繰り返されると、距離d1がΔ×mに設定される。工程S102は、下記の条件1a~1cが満たされているか否かを判定する工程である。工程S101は、工程S102にて下記の条件1a~1cの全てが満たされている旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0047】
条件1a:第1非線形光学結晶M1におけるエネルギー変換効率η1が最大となる。
【0048】
条件1b:第1非線形光学結晶M1において自己位相変調による白色光が発生しない。
【0049】
条件1c:第1非線形光学結晶M1にダメージが生じない。
【0050】
なお、第1非線形光学結晶M1に入力されるパルスレーザPLのパワー密度が20GW/cm以下であれば、通常、第1非線形光学結晶M1において、白色光が生じることも、ダメージが生じることもない。したがって、条件1b及び条件1cは、それぞれ、下記の条件1dに置き換えてもよい。
【0051】
条件1d:第1非線形光学結晶M1に入力されるパルスレーザPLのパワー密度が20GW/cm以下である。
【0052】
工程S103は、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を調整する工程である。一例として、初期値をa1=0として、回転角a1を予め定められた増分δだけ増加させる工程である。この場合、工程S103がm回繰り返されると、回転角a1がδ×mに設定される。工程S104は、下記の条件1eが満たされているか否かを判定する工程である。工程S103は、工程S104にて下記の条件1eが満たされる旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0053】
条件1e:第1非線形光学結晶M1におけるエネルギー変換効率η1が最大となる。
【0054】
工程S105は、第1非線形光学結晶M1から第2非線形光学結晶M2までの距離d2を調整する工程である。一例として、初期値をd2=0として、距離d2を予め定められた増分Δだけ増加させる工程である。この場合、工程S105がm回繰り返されると、距離d2がΔ×mに設定される。工程S106は、下記の条件2a~2cが満たされているか否かを判定する工程である。工程S105は、工程S106にて下記の条件2a~2cの全てが満たされている旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0055】
条件2a:第1非線形光学結晶M1及び第2非線形光学結晶M2におけるエネルギー変換効率η2が最大となる。
【0056】
条件2b:第2非線形光学結晶M2において自己位相変調による白色光が発生しない。
【0057】
条件2c:第2非線形光学結晶M2にダメージが生じない。
【0058】
なお、第2非線形光学結晶M2に入力されるパルスレーザPL1のパワー密度が20GW/cm以下であれば、通常、第2非線形光学結晶M2において、白色光が生じることも、ダメージが生じることもない。したがって、条件2b及び条件2cは、それぞれ、下記の条件2dに置き換えてもよい。
【0059】
条件2d:第2非線形光学結晶M2に入力されるパルスレーザPL1のパワー密度が20GW/cm以下である。
【0060】
工程S107は、第2非線形光学結晶M2の回転角a2を調整する工程である。一例として、初期値をa2=0として、回転角a2を予め定められた増分δだけ増加させる工程である。この場合、工程S107がm回繰り返されると、回転角a2がδ×mに設定される。工程S108は、下記の条件2eが満たされているか否かを判定する工程である。工程S107は、工程S108にて下記の条件2eが満たされる旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0061】
条件2e:第2非線形光学結晶M2から出力されるパルスレーザPL2yのエネルギー揺らぎσ2が最小になる。
【0062】
工程S109は、第2非線形光学結晶M2から第3非線形光学結晶M3までの距離d3を調整する工程である。一例として、初期値をd3=0として、距離d3を予め定められた増分Δだけ増加させる工程である。この場合、工程S109がm回繰り返されると、距離d3がΔ×mに設定される。工程S110は、下記の条件3a~3cが満たされているか否かを判定する工程である。工程S109は、工程S110にて下記の条件3a~3cの全てが満たされている旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0063】
条件3a:第1非線形光学結晶M1、第2非線形光学結晶M2、及び第3非線形光学結晶M3におけるエネルギー変換効率η3が最大となる。
【0064】
条件3b:第3非線形光学結晶M3において自己位相変調による白色光が発生しない。
【0065】
条件3c:第3非線形光学結晶M3にダメージが生じない。
【0066】
なお、第3非線形光学結晶M3に入力されるパルスレーザPL2のパワー密度が20GW/cm以下であれば、通常、第3非線形光学結晶M3において、白色光が生じることも、ダメージが生じることもない。したがって、条件3b及び条件3cは、それぞれ、下記の条件3dに置き換えてもよい。
【0067】
条件3d:第3非線形光学結晶M3に入力されるパルスレーザPL2のパワー密度が20GW/cm以下である。
【0068】
工程S111は、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を調整する工程である。一例として、初期値をa3=0として、回転角a3を予め定められた増分δだけ増加させる工程である。この場合、工程S111がm回繰り返されると、回転角a3がδ×mに設定される。工程S112は、下記の条件3eが満たされているか否かを判定する工程である。工程S111は、工程S112にて下記の条件3eが満たされる旨の判定がなされるまで繰り返される。
【0069】
条件3e:第3非線形光学結晶M3から出力されるパルスレーザPL3yのエネルギー揺らぎσ3が最小になる。
【0070】
なお、上述した設定方法S1は、上述した増分Δ,δを小さくしながら、繰り返し実施してもよい。例えば、増分Δ=1mm、増分δ=1°に設定して設定方法S1を実施した後、増分Δ=0.1mm、増分δ=0.1°に設定して設定方法S1を再度実施することなどが考えられる。これにより、距離d1~d3及び回転角a1~a3の設定をより高い精度で実施することが可能になる。
【0071】
(パルス整形装置の実施例)
パルス整形装置1の一実施例について、図3図8を参照して説明する。なお、本実施例においては、レーザ光源2として、中心波長810nm、パルス幅40fs、繰り返し周波数100HzのパルスレーザPLを生成するチタンサファイアレーザを用いた。このパルスレーザPLに関して、パルス毎に測定されたエネルギーの平均値(以下、「平均エネルギー」とも記載する)は、約80μJであった。また、このパルスレーザPLのエネルギー揺らぎσ(パルス毎に測定されたエネルギーの標準偏差)は、平均エネルギーに対して2.4%であった。
【0072】
上述した工程S101~S102を実施した結果、ピンホールCから第1非線形光学結晶M1までの距離d1は、90mmに設定された。
【0073】
上述した工程S101~S102を実施した後、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を変化させながら、第1非線形光学結晶M1におけるエネルギー変換効率η1と、第1非線形光学結晶M1から出力されるパルスレーザPL1yのエネルギー揺らぎσ1と、を測定した。図3は、その結果を示すグラフである。なお、図3においては、エネルギー揺らぎσ1そのものの代わりに、パルスレーザPL1yの平均エネルギーに対するエネルギー揺らぎσ1の比を相対エネルギー揺らぎΣ1とし、この相対エネルギー揺らぎΣ1をプロットしている。
【0074】
図3に示すように、エネルギー変換効率η1は、90°を一周期として回転角a1に正弦的に依存し、a1=22.5°,67.5°,112.5°,157.5°のときに最大値(約7.5%)を取る。このため、上述した工程S103~S104を実施すると、回転角a1は、これら4つの角度のうちの何れかに設定される。本実施例においては、a1=67.5°に設定された。
【0075】
続いて、上述した工程S105~S106を実施した結果、第1非線形光学結晶M1から第2非線形光学結晶M2までの距離d2は、90mmに設定された。
【0076】
上述した工程S105~S106を実施した後、第2非線形光学結晶M2の回転角a2を変化させながら、第1非線形光学結晶M1及び第2非線形光学結晶M2におけるエネルギー変換効率η2と、第2非線形光学結晶M2から出力されるパルスレーザPL2yのエネルギー揺らぎσ2と、を測定した。図4は、その結果を示すグラフである。なお、図4においては、エネルギー揺らぎσ2そのものの代わりに、パルスレーザPL2yの平均エネルギーに対するエネルギー揺らぎσ2の比を相対エネルギー揺らぎΣ2とし、この相対エネルギー揺らぎΣ2をプロットしている。
【0077】
図4に示すように、エネルギー揺らぎσ2は、180°を一周期として回転角a2に正弦的に依存し、a2=67.5°,157.5°のときに最小値を取る。このため、上述した工程S107~S108を実施すると、回転角a2は、これら2つの角度のうちの何れかに設定される。本実施例においては、a2=67.5°に設定された。このとき、エネルギー変換効率η2は、約11%であり、相対エネルギー揺らぎΣ2は、約9%であった。
【0078】
続いて、上述した工程S109~S110を実施した結果、第2非線形光学結晶M2から第3非線形光学結晶M3までの距離d3は、110mmに設定された。
【0079】
上述した工程S109~S110を実施した後、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を変化させながら、第1非線形光学結晶M1、第2非線形光学結晶M2、及び第3非線形光学結晶M3におけるエネルギー変換効率η3と、第3非線形光学結晶M3から出力されるパルスレーザPL3yのエネルギー揺らぎσ3と、を測定した。図5は、その結果を示すグラフである。なお、図5においては、エネルギー揺らぎσ3そのものの代わりに、パルスレーザPL3yの平均エネルギーに対するエネルギー揺らぎσ3の比を相対エネルギー揺らぎΣ3とし、この相対エネルギー揺らぎΣ3をプロットしている。
【0080】
図5に示すように、エネルギー揺らぎσ3は、180°を一周期として回転角a3に正弦的に依存し、a3=67.5°,157.5°のときに最小値を取る。このため、上述した工程S111~S112を実施すると、回転角a3は、これら2つの角度のうちの何れかに設定される。本実施例においては、a3=67.5°に設定された。このとき、エネルギー変換効率η3は、約16%であり、相対エネルギー揺らぎΣ3は、約1.4%であった。
【0081】
図3によれば、1個の非線形光学結晶M1を備えた従来のパルス整形装置では、得られるパルスレーザPL1yの相対エネルギー揺らぎΣ1を、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPlの相対エネルギー揺らぎΣ以下にし得ないことが確認される。同様に、図4によれば、2個の非線形光学結晶M1~M2を備えた従来のパルス整形装置では、得られるパルスレーザPL2yの相対エネルギー揺らぎΣ2を、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPlの相対エネルギー揺らぎΣ以下にし得ないことが確認される。一方、図5によれば、3個の非線形光学結晶M1~M3を備えたパルス整形装置1では、得られるパルスレーザPL3yの相対エネルギー揺らぎΣ3を、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLの相対エネルギー揺らぎΣと同等にし得ることが確認される。以上のことから、3個の非線形光学結晶M1~M3を備えたパルス整形装置1では、従来のパルス整形装置よりも相対エネルギー揺らぎの小さいパルスレーザPL3yが得られることが実証された。また、3個の非線形光学結晶M1~M3を備えたパルス整形装置1では、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLと同等に小さい相対エネルギー揺らぎを持つパルスレーザPL3yが得られることが実証された。
【0082】
図6によれば、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を22.5°に固定し、第2非線形光学結晶M2の回転角a2、及び、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を独立に変化させた場合に非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザのエネルギーは、180°を一周期として回転角a2およびa3はそれぞれ正弦的に依存し、(a2, a3)=(67.5°,67.5°)付近または(67.5°,157.5°)付近または(157.5°, 67.5°)付近または(157.5°, 157.5°)付近のときに最大値を取る。
【0083】
図7によれば、第1非線形光学結晶M1の回転角a1を22.5°に固定し、第2非線形光学結晶M2の回転角a2、及び、第3非線形光学結晶M3の回転角a3を独立に変化させた場合に非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザのエネルギー揺らぎσ3は、180°を一周期として回転角a2およびa3はそれぞれ正弦的に依存し、(a2, a3)=(67.5°,67.5°)付近または(67.5°,157.5°)付近または(157.5°, 67.5°)付近または(157.5°, 157.5°)付近のときに最小値を取る。図7においては、エネルギー揺らぎσ3そのものの代わりに、パルスレーザPL3yの平均エネルギーに対するエネルギー揺らぎσ3の比を相対エネルギー揺らぎΣ3とし、この相対エネルギー揺らぎΣ3をプロットしている。本実施例においては、(a2,a3)=(54°,162°)に設定された。このとき、相対エネルギー揺らぎΣ3は、約2.3%であった。
【0084】
図8は、以下のエネルギー変換効率の入力エネルギー依存性を示したグラフである。
【0085】
(1)第1非線形光学結晶M1からなる非線形光学結晶群におけるx偏波からy偏波へのエネルギー変換効率、
(2)第2非線形光学結晶M2からなる非線形光学結晶群におけるx偏波からy偏波へのエネルギー変換効率、
(3)第3非線形光学結晶M3からなる非線形光学結晶群におけるx偏波からy偏波へのエネルギー変換効率、
(4)2個の非線形光学結晶M1,M3からなる非線形光学結晶群におけるx偏波からy偏波へのエネルギー変換効率、
(5)3個の非線形光学結晶M1~M3からなる非線形光学結晶群におけるx偏波からy偏波へのエネルギー変換効率。
【0086】
図8によれば、1枚の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群におけるエネルギー変換効率は、5%程度であることが分かる。また、図8によれば、2枚の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群におけるエネルギー変換効率は、10%程度であることが分かる。また、図8によれば、3枚の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群におけるエネルギー変換効率は、15%程度であることが分かる。すなわち、図8によれば、非線形光学結晶群を構成する非線形光学結晶の枚数を1枚増すごとに、非線形光学結晶群におけるエネルギー変換効率が5%程度ずつ増加することが確かめられる。また、図8は、入力エネルギーを±20%変化させても、この傾向が維持されることを示している。したがって、3個の非線形光学結晶M1~M3を備えたパルス整形装置1は、長期運用において入力エネルギーの変動が生じても、コントラストが高く、エネルギー揺らぎの小さいパルスレーザを、高いエネルギー変換効率で出力し続ける堅牢性を有していることが分かる。
【0087】
(非線形光学結晶のバリエーション)
なお、非線形光学結晶群Mを構成する非線形光学結晶M1~Mnは、BaF結晶に限定されず、任意の非線形光学結晶を用いることができる。なかでも下記の表1に示す非線形光学結晶は、高い異方性(χ)を有すると共に、レーザ光源2から出力されるパルスレーザPLの波長において高い透過率及び小さい群速度を示すので、非線形光学結晶群Mを構成する非線形光学結晶M1~Mnとして好適である。
【表1】
【0088】
(パルス整形装置の変形例)
パルス整形装置1の一変形例について、図9を参照して説明する。図9は、本変形例に係るパルス整形装置1Aの構成を示す斜視図である。
【0089】
本変形例に係るパルス整形装置1Aは、図1に示すパルス整形装置1に以下の変更を加えたものである。すなわち、パルス整形装置1においては、平凸レンズにより実現されていた第1レンズL1及び第2レンズが、パルス整形装置1Aにおいては、凹面鏡を用いて実現されている。これに伴い、パルス整形装置1においては、I字型であったパルスレーザの光路が、パルス整形装置1Aにおいては、第1レンズL1及び第2レンズL2において折れ曲がったZ字型になっている。
【0090】
本変形例に係るパルス整形装置1Aによれば、図1に示すパルス整形装置1と同様の効果が得られる。また、本変形例に係るパルス整形装置1Aには、図1に示すパルス整形装置1よりも小型化が容易であるというメリットがある。
【0091】
(パルス整形装置の応用例)
高強度・超短パルスレーザは、幅広い産業分野で使用されている。例えば、レーザ加工に高強度・超短パルスレーザを用いることで、熱的影響を抑制した加工が可能になる。その照射時間の短さから、照射箇所の周囲に原子振動により熱が伝わり難いからである。この特性を活かし、高強度・超短パルスレーザによるレーザ加工は、航空機や自動車部品などの精密加工の分野で利用されている。また、構造発色を得るため、或いは、濡れ性向上や摩擦低減などの表面改質のために材料表面に微細構造を形成する際にも、高強度・超短パルスレーザが用いられている。このように、高強度・超短パルスレーザの適用範囲は多岐に亘る。商業用のチタンサファイアレーザを代表とする高強度・超短パルスレーザにパルス整形装置1を適用することによって、高品質のパルスを高安定に供給することが可能になる。
【0092】
また、パルス整形装置1は、次世代技術への利用も見込まれる。高強度・超短パルスレーザが照射された標的の裏面には、TV/m級の高強度電場が生成される。この大きな電場勾配を有するレーザ方式を用いることで、従来の高周波方式の加速器の大幅な小型化を図ることができる。加速器の小型化が期待される分野としては、重粒子線がん治療装置(量子メス)が挙げられる。重粒子線がん治療装置の小型化がなされることにより、現在、大都市に偏在した治療施設が全国各地に普及し、より多くの患者に対してより高度な治療を施せるようになる。
【0093】
また、高強度・超短パルスレーザによるイオンの加速メカニズムは、TNSA(Target Normal Sheath Acceleration)と呼ばれる。TNSAは、高強度・超短パルスレーザが照射された標的の裏面に生成された高強度電場によって、標的の裏面にあるイオンを真空中へ引き出し加速する技術である。効率良くイオンを加速するには、標的の裏面に強い電場勾配を発生させる必要がある。パルスレーザのコントラスト比が低いと、メインパルスが標的に到達する際に標的の裏面に形成される電場勾配の急峻さが損なわれる。パルス整形装置1を用いれば、標的に照射するパルスレーザのコントラスト比を向上させることができるので、TNSAの高効率化を図ることが可能になる。また、パルス整形装置1を用いれば、標的に照射するパルスレーザのエネルギー揺らぎを小さく抑えることができる。この点は、加速するイオンのエネルギー及び粒子数の安定化へとつながるため、将来の医療用加速器の安定的な運用を考える上で重要になる。
【0094】
(付記事項1)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。上述した実施形態に含まれる個々の技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0095】
(付記事項2)
本明細書には、以下の発明も記載されている。
【0096】
発明1:入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも2個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を備えており、前記少なくとも2個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、第1非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、第2非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a2が設定されている、ことを特徴とするパルス整形装置。
【0097】
発明1によれば、前記非線形光学結晶群を用いてパルスレーザのコントラスト比を向上させることができる。しかも、上記の構成によれば、従来のパルス整形装置(第2非線形光学結晶における、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と平行なパルスレーザから、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザへのエネルギー変換効率を最大化するように角度a2が設定されている)と比べて、前記非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを小さく抑えることができる。
【0098】
発明2:第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a2が設定されている、ことを特徴とする前記発明1に記載のパルス整形装置。
【0099】
発明2によれば、前記非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを更に小さく抑えることができる。
【0100】
発明3:入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも2個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を用いて、前記入力パルスレーザのコントラスト比を向上させるパルス整形方法であって、前記少なくとも2個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、第1非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、第2非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a2を設定する設定工程を含んでいる、ことを特徴とするパルス整形方法。
【0101】
発明3によれば、前記非線形光学結晶群を用いてパルスレーザのコントラスト比を向上させることができる。しかも、発明3によれば、従来のパルス整形方法(第2非線形光学結晶における、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と平行なパルスレーザから、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザへのエネルギー変換効率を最大化するように角度a2が設定されている)と比べて、前記非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを小さく抑えることができる。
【0102】
発明4:前記設定工程において、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a2を設定する、ことを特徴とする発明3に記載のパルス整形方法。
【0103】
発明4によれば、前記非線形光学結晶群から出力されるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを更に小さく抑えることができる。
【0104】
(付記事項3)
【0105】
本発明の態様1に係るパルス整形装置においては、入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を備えている、という構成が採用されている。
【0106】
上記の構成によれば、非線形光学結晶群を用いてパルスレーザのコントラスト比を向上させることができる。しかも、上記の構成によれば、非線形光学結晶群が少なくとも3個の非線形光学結晶により構成されているので、非線形光学結晶群が2個以下の非線形光学結晶により構成された従来のパルス整形装置と比べて、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを小さく抑えることが可能になる。
【0107】
なお、パルスレーザの相対エネルギー揺らぎとは、そのパルスレーザの平均エネルギーに対する、そのパルスレーザのエネルギー揺らぎの比のことを指す。ここで、パルスレーザのエネルギー揺らぎとは、そのパルスレーザに関してパルス毎に測定されたエネルギーの分散のことを指す。また、パルスレーザの平均エネルギーとは、そのパルスレーザに関してパルス毎に測定されたエネルギーの平均値のことを指す。
【0108】
本発明の態様2に係るパルス整形装置においては、態様1に係るパルス整形装置の構成に加えて、前記非線形光学結晶群から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、前記入力パルスレーザの相対エネルギー揺らぎの5倍以下である、という構成が採用されている。
【0109】
上記の構成によれば、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、入力パルスレーザのエネルギー揺らぎの5倍以下に抑えられる。
【0110】
本発明の態様3に係るパルス整形装置においては、態様1又は2の何れかに係るパルス整形装置の構成に加えて、前記少なくとも3個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、第3非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、第3非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a3が設定されている、という構成が採用されている。
【0111】
上記の構成によれば、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、従来のパルス整形装置よりも小さく抑えられる。
【0112】
本発明の態様4に係るパルス整形装置においては、態様3に係るパルス整形装置の構成に加えて、第3非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a3が設定されている、という構成が採用されている。
【0113】
上記の構成によれば、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、更に小さく抑えられる。
【0114】
本発明の態様5に係るパルス整形装置においては、態様1~4の何れかに係るパルス整形装置の構成に加えて、前記少なくとも3個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、第1非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎよりも小さくなるように、第2非線形光学結晶の結晶軸と前記入力パルスレーザの偏光方向との成す角度a2が設定されている、という構成が採用されている。
【0115】
上記の構成によれば、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、従来のパルス整形装置よりも小さく抑えられる。
【0116】
本発明の態様6に係るパルス整形装置においては、態様5に係るパルス整形装置の構成に加えて、第2非線形光学結晶から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが最小になるように、前記角度a2が設定されている、という構成が採用されている。
【0117】
上記の構成によれば、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎが、更に小さく抑えられる。
【0118】
本発明の態様7に係るパルス整形装置においては、態様1~6の何れかに係るパルス整形装置の構成に加えて、前記少なくとも3個の非線形光学結晶のうち、前記入力パルスレーザの上流側から数えてi番目の非線形光学結晶を第i非線形光学結晶として、第1非線形光学結晶における、前記入力パルスパルスレーザから、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザへのエネルギー変換効率が最大になるように、第1非線形光学結晶の結晶軸と前記直線偏光の偏光方向との成す角度a1が設定されている、という構成が採用されている。
【0119】
上記の構成によれば、非線形光学結晶群における、入力パルスレーザから、偏光方向が入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザへのエネルギー変換効率を、従来のパルス整形装置と同程度に保つことができる。
【0120】
本発明の態様8に係るパルス整形装置においては、態様1~7の何れかに係るパルス整形装置の構成に加えて、レーザ光源にて生成されたパルスレーザの光路上に配置された第1偏光子と、前記第1偏光子を透過したパルスレーザの光路上に配置された第1レンズと、前記第1レンズの光路上に配置されたピンホールと、前記ピンホールを透過したパルスレーザの光路上に配置された第2レンズと、前記第2レンズを透過したパルスレーザの光路上に配置された第2偏光子と、を更に備え、前記非線形光学結晶群は、前記ピンホールと前記第2レンズとの間に配置されており、前記第1偏光子は、前記非線形光学結晶群に入力される前記入力パルスレーザを透過し、前記第2偏光子は、前記非線形光学結晶群から出力される、偏光方向が前記入力パルスレーザの偏光方向と直交するパルスレーザを透過する、という構成が採用されている。
【0121】
上記の構成によれば、簡単な構成でパルスレーザのコントラスト比を向上させることができる。
【0122】
本発明の態様9に係るパルス整形方法においては、入力パルスレーザの光路上に並んで配置された少なくとも3個の非線形光学結晶からなる非線形光学結晶群を用いて、前記入力パルスレーザのコントラスト比を向上させる、という手法が採用されている。
【0123】
上記の手法によれば、非線形光学結晶群を用いてパルスレーザのコントラスト比を向上させることができる。しかも、上記の構成によれば、非線形光学結晶群が少なくとも3個の非線形光学結晶により構成されているので、非線形光学結晶群が2個以下の非線形光学結晶により構成された従来のパルス整形方法と比べて、得られるパルスレーザの相対エネルギー揺らぎを小さく抑えることが可能になる。
【符号の説明】
【0124】
1 パルス整形装置
P1 第1偏光子
L1 第1レンズ
C ピンホール
M 非線形光学結晶群
M1~Mn 非線形光学結晶
L2 第2レンズ
P2 第2偏光子
1A パルス整形装置(変形例)
2 レーザ光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9