(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】機能性編地および靴下
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
D04B1/14
(21)【出願番号】P 2024169735
(22)【出願日】2024-09-30
【審査請求日】2024-09-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399046924
【氏名又は名称】西垣靴下株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174780
【氏名又は名称】小野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】西垣 和俊
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057391(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180801(WO,A1)
【文献】特開2020-084372(JP,A)
【文献】特開2001-115302(JP,A)
【文献】国際公開第2006/038415(WO,A1)
【文献】特表2018-503754(JP,A)
【文献】登録実用新案第3227096(JP,U)
【文献】登録実用新案第3136618(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B11/00-11/14
D04B1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1糸と第2糸と第3糸とを用いて添え糸編みされ、第1面と第2面とを有する機能性編地であって、
前記第2糸は機能性を有する機能性糸であり、
前記第1面側に前記第1糸が位置し、前記第2面側に前記第3糸が位置するとともに、
前記第1糸と前記第3糸との間に前記第2糸が位置するように編まれ、
前記第3糸が前記第1糸よりも細
く、
前記第2面側に前記第2糸が露出することにより、前記第2面に前記機能性を有する機能性編地。
【請求項2】
第1糸と第2糸と第3糸とを用いて添え糸編みされた靴下であって、
前記第2糸は滑りを抑制する機能を有する機能性糸であり、
前記第1糸が身体に接触しない表面側に位置し、前記第3糸が前記身体に接触する裏面側に位置するとともに、前記第1糸と前記第3糸との間に前記第2糸が位置するように編まれ、
前記第3糸が前記第1糸よりも細
く、
前記裏面側に前記第2糸が露出することにより、前記裏面に前記滑りを抑制する機能を有する靴下。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性を有する糸を用いた機能性編地および靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機能性を有する糸を用いた編地を用いて、衣類や靴下,手袋等に機能性を持たせることが行われてきた。例えば、抗菌,防臭,滑り止め等の機能性を持つ靴下が知られている。ここで滑り止めについて言えば、スポーツソックスの場合には、運動能力を最大限に発揮させるために靴と足(靴下)との間の滑りを小さくする必要がある。また、日常生活においても、床面と靴下との間の摩擦が小さい場合には足が滑りやすく、転倒する危険性が高まるため、やはり靴下が床面に対して滑りにくくする必要がある。さらに、靴下や手袋の場合には、これらが身体に対して滑りやすい場合には、装着中にずれ落ちが生じやすくなるため、これらが身体に対して滑りにくくする必要がある。
【0003】
このような課題を解決するために様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、少なくとも一部に、ポリウレタンベア糸が編糸と共に編み込まれた滑り止め性を有する編地を有し、前記編地の滑り止め面におけるポリウレタンベア糸の、表面からの平均突出長さが70μm以上で、平均太さが70μm以上であることを特徴とする編成物が開示されている。この編成物では、編地の滑り止め面にポリウレタン糸が突出することによって、編地が接触面に対して滑りにくくなっている。
【0004】
また、特許文献2には、表糸を割繊糸としたパイル編み構造に、弾性糸を鹿の子調に挿入した構造であり、滑り止めを行う対象物に対し起毛したループを備えない面を接触させること、を特徴とする機能性編地が開示されている。この機能性編地では、表糸として割繊糸を用いているため、機能性編地のループを備えない側とそこに接触する対象物との間の摩擦が大きくなり、滑りにくくなっている。また、摩擦係数が大きな弾性糸が鹿の子調に挿入されているため、機能性編地のループを備える側もそこと接触する対象物との間が滑りにくくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-014865号公報
【文献】特開2021-075817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1,2の編地では、摩擦係数が大きな糸を用いることによって、編地とそこに接触する対象物との間が滑りにくくなっている。しかしながら、これらの編地では主に靴下の表面(靴や床と接触する側の面)の滑り止めを目的としたものであるため、靴下の裏面(身体と接触する側の面)の滑り止め効果は期待できない。なお、特許文献2には身体との間の滑り止め効果を有する旨が記載されているものの、弾性糸と身体との接触部分が小さいため、滑り止め効果は十分ではないと考えられる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面または裏面に機能性を発揮させることができる機能性編地および靴下を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る、第1糸と第2糸と第3糸とを用いて添え糸編みされ、第1面と第2面とを有する機能性編地は、前記第2糸は機能性を有する機能性糸であり、前記第1面側に前記第1糸が位置し、前記第2面側に前記第3糸が位置するとともに、前記第1糸と前記第3糸との間に前記第2糸が位置するように編まれ、前記第3糸が前記第1糸よりも細く細く、前記第2面側に前記第2糸が露出することにより、前記第2面に前記機能性を有している。
【0009】
この構成では、機能性を有する第2糸が第1糸と第1糸よりも細い第3糸とによって挟まれたいわゆる3層構造となった状態で添え糸編みされている。そのため、第2糸は第3糸側、すなわち、第2面側に露出しやすくなっている。これにより、第2面側に機能性を発揮させることができる。例えば、滑りを抑制するという機能性を持つ機能性編地では、第2面と第2面との接触対象物との間が滑りにくくなる。
【0010】
また、本発明は、第1糸と第2糸と第3糸とを用いて添え糸編みされた靴下をも権利範囲としており、そのような靴下は、前記第2糸は滑りを抑制する機能を有する機能性糸であり、前記第1糸が身体に接触しない表面側に位置し、前記第3糸が前記身体に接触する裏面側に位置するとともに、前記第1糸と前記第3糸との間に前記第2糸が位置するように編まれ、前記第3糸が前記第1糸よりも細く、前記裏面側に前記第2糸が露出することにより、前記裏面に前記滑りを抑制する機能を有している。
【0011】
この構成では、第2糸が裏面側に露出しやすくなるため、靴下が身体に対して滑りにくくなっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明に係る機能性編地と靴下の実施形態を説明する。
図1は本実施形態における機能性編地の概略図である。図に示すように、本実施形態における機能性編地Aは表糸1(本発明における第1糸の例)と機能性糸2(本発明における第2糸の例)と裏糸3(本発明における第3糸の例)とを用いて平編プレーティングとして編まれている。この図では、上側が表面(本発明における第1面の例)であり、下側が裏面(本発明における第2面の例)である。なお、本発明に係る機能性編地や靴下が有する機能は、第2糸が露出することによって発揮されるものである。本実施形態では、摩擦係数が大きな第2糸が露出することによって発揮される滑りの抑制を機能として説明する。
【0014】
図に示すように、機能性編地Aは3層構造になっている。具体的には、表面側に表糸1、裏面側に裏糸3、表糸1と裏糸3との間に機能性糸2が位置している。表糸1や裏糸3としては従来用いられている糸を用いることができ、素材は特に限定されない。一方、機能性糸2の詳細は後述するが、上述した通り、滑りの抑制という機能を有するものである。
【0015】
本発明に係る機能性編地Aは、上述したような3層構造となっているのに加えて、表糸1と裏糸3との太さの関係に特徴がある。具体的には、表糸1と裏糸3との太さが異なっている。本実施形態では、裏糸3の方が表糸1よりも細くなっている。このような構成とすることにより、機能性糸2は表面側よりも裏面側に露出しやすくなる。なお、裏糸3を細くするほど機能性糸2の裏面側への露出の度合いが大きくなり、裏糸3を太くするほど(ただし、表糸1よりも細い)機能性糸2の裏面側への露出の度合いが小さくなる。すなわち、裏糸3の太さによって裏面側に発揮される機能の程度を制御することができる。
【0016】
図2は、機能性編地Aを編むための丸編機Bの部分概略斜視図である。図に示すように、丸編機Bは、釜部材5と板状のシンカー6と編み針7とを備えている。釜部材5は略円筒状であり、その円周上に等間隔で複数のシンカー6が取り付けられている。また、複数の編み針7は隣接するシンカー6の間に取り付けられている。なお、
図2では、一部のシンカー6と編み針7のみを表している。
【0017】
釜部材5は図示しない駆動機能によって平面視で反時計回りに回動するように構成されている。また、シンカー6は釜部材5の半径方向に進退可能となっており、編み針7は上下方向に進退可能となっている。
【0018】
釜部材5は上面近傍にリング状金具(図示せず)が設けられている。このリング状金具の裏面には略円環溝状のシンカー道(図示せず)が形成されている。また、釜部材5の側面近傍には編み針7を上下方向に進退移動させるためのカム機構(図示せず)が設けられている。なお、釜部材5が回動する際にリング状部材とカム機構とは回動しない。
【0019】
シンカー6は板状部材であり、径外側の端部にバット61が形成されている。詳細は省略するが、釜部材5の回転に伴ってバット61がリング状部材のシンガー道内に案内されることによって、シンカー6が半径方向に進退移動するように構成されている。
【0020】
編み針7は略棒状部材であり、下端にバット71が形成されている。詳細は省略するが、釜部材5の回転に伴ってバット71がカム機構と係合することによって、編み針7が上下方向に進退移動するように構成されている。
【0021】
このように、丸編機Bでは、釜部材5の回転とシンカー6の半径方向の進退移動と編み針7の上下方向の進退移動とによって機能性編地Aを編むことができる。
【0022】
次に、丸編機Bを用いて機能性編地Aを編む方法を説明する。
図2に示すように、丸編機Bは3つの糸道91,92および93が形成された給糸部材9を備えており、各々の糸道91,92および93を通って表糸1,機能性糸2および裏糸3が編み針7に給糸されている。なお、本実施形態における機能性糸2は、単体の糸ではなく、芯糸21と添え糸22とから構成されている。本実施形態では、芯糸21はポリウレタン糸であり、その大きな摩擦係数から滑りの抑制機能を生じさせることができる。一方、表糸1,添え糸22,裏糸3は公知の糸を用いることができ、その用途に適したものを選択すればよい。ただし、本実施形態では、裏糸3は表糸1よりも細いものを使用している。
【0023】
本実施形態では、機能性糸2は給糸の過程で芯糸21に添え糸22を巻き付けて給糸するように構成されている。具体的には、芯糸21は添え糸22を巻回保持している糸巻き22aの内部を下方から上方に向かって引き出され、そこから周囲に添え糸22が巻き付いた状態で糸道92へと案内される。
【0024】
図に示すように、糸道91,92および93は、釜部材5の回転方向(反時計回り)において上流側から糸道91,92,93の順となるように配置されている。そのため、編み針7は表糸1,機能性糸2,裏糸3の順にかぎ取ってゆく。編み針7は、釜部材5の回転に伴って下降する際に各々の糸をかぎ取ってゆくため、この順序で掻き取られた各々の糸は上から表糸1,機能性糸2,裏糸3の順に位置する。このように位置している3本の糸を平編みすることにより
図1に示したような機能性編地Aを編むことができる。
【0025】
この機能性編地Aを靴下とする場合には、裏面が身体に接触する側として、表面が靴や床面等に接触する側とすることができる。そのため、この機能性編地Aから作られた靴下では、靴下と身体(足)との間の摩擦力が大きくなり、靴下に対して足が滑りにくくなる。なお、靴下全体を機能性編地Aとすることもできるし、足裏に接触する部分等の滑りを抑制したい部分のみを機能性編地Aとすることもできる。また、このような靴下の靴や床等に接触する部分に強い滑り止め効果を付与したい場合には、シリコン,アクリル,塩化ビニル等の樹脂を貼り付けることができる。
【0026】
スポーツソックスの場合には、表面(靴等に接触する面)側が十分なす滑り止め効果を有していたとしても、靴下に対して足が滑りやすいと、急な動きの変更の際に力が削がれたりバランスを崩したりしてパフォーマンスの低下を招くことがある。また、高齢者用靴下の場合には、フローリング等の滑りやすい床等を歩く際に、靴下の表面は他の滑り止め効果のために滑りが抑制されても、靴下に対して足が滑りやすい場合には転倒のおそれがある。これに対して、本実施形態における機能性編地Aを用いた靴下では、靴下と足との間に滑り止め効果が出やすくなっているため、靴下に対して足が滑りにくくなっている。これにより、パフォーマンスの低下や転倒のおそれを抑制することができる。
【0027】
上述の実施形態における機能性編地や靴下の構成とは反対に、表糸1を裏糸3よりも細くすることも可能である。この場合には、表糸1が第3糸、裏糸3が第1糸、表面が第2面、裏面が第1面に相当する。また、機能性糸2は表面側に露出しやすくなるため、機能性糸2の機能は表面で発揮されやすくなる。このような構成の機能性編地や靴下は、表糸1と裏糸3との糸の太さを変更するだけで、上述の実施形態におけるものと同じ編み方で生産することができる。つまり、本発明に係る機能性編地や靴下は、表糸1と裏糸3との太さの関係を変更するだけで、編み方を変えることなく、機能性を発揮する面を表側または裏側とすることができる。
【0028】
上述の説明は飽くまで実施形態における例示であるため、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではなく、本発明の作用効果を奏する限りにおいて変更は可能である。
【0029】
〔別実施形態〕
【0030】
(1)上述の実施形態では、機能性糸2としてポリウレタン糸を用いたが他の摩擦係数の大きい素材の糸を用いても構わない。また、機能性糸2に他の機能を要求する場合には、その機能に応じた素材の糸を用いればよい。
【0031】
(2)上述の実施形態では、機能性糸2を芯糸21と添え糸22とから構成したが、単一の糸によって構成しても構わない。
【0032】
(3)上述の実施形態では、釜部材5の回転方向において、それぞれの糸を供給する糸道の位置を異ならせることによって、編み針7が掻き取った3本の糸の順序を決定したが、他の方法で3本の糸の順序を異ならせても構わない。例えば、3つの糸道の高さを異ならせることによっても、編み針7が掻き取った糸の順序を決定することができる。
【0033】
(4)上述の実施形態では、表糸1と機能性糸2と裏糸3との3本の糸で編んだがそれ以上の数の糸を用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、機能性を有する編地、特に、機能性を有する機能性糸が編地の表面または裏面に露出することによってその機能性が発揮される機能性編地に利用することができる。また、本発明は、滑り止めという機能性を有する機能性編地を用いた靴下や手袋等の身体に装着する物品に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
A:機能性編地
B:丸編機
1:表糸
2:機能性糸
21:芯糸
21a:糸巻き
22:添え糸
3:裏糸
5:釜部材
6:シンカー
61:バット
7:編み針
71:バット
9:給糸部材
91:糸道
92:糸道
93:糸道
【要約】
【課題】表面または裏面に機能性を発揮させることができる機能性編地および靴下を提供する。
【解決手段】表糸1と第2糸と裏糸3とを用いて添え糸編みされ、第1面と第2面とを有する機能性編地または靴下において、前記第2糸は機能性を有する機能性糸2であり、第1面側に表糸1が位置し、第2面側に裏糸3が位置するとともに、表糸1と裏糸3との間に機能性糸2が位置するように編まれ、裏糸3が表糸1よりも細くなっている。
【選択図】
図1