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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
G01N29/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020155241
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049170
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2022-08-26
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
【合議体】
【審判長】南 宏輔
【審判官】瓦井 秀憲
【審判官】▲高▼見 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174131(JP,A)
【文献】特開2019-194541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料で形成されている構造物の内部の発生源で発生した第1の弾性波が前記構造物の表面の第1の位置に到達したときに前記表面で前記構造物に隣接する媒体内へ放出される第2の弾性波を検出する第1の検出器と、
前記表面の第2の位置に設けられ、前記発生源から前記第2の位置に直接伝搬する前記第1の弾性波を検出する第2の検出器と、
前記第1の検出器で検出された前記第2の弾性波の到着時間から前記媒体内での前記第2の弾性波の伝搬時間を差し引いた弾性波の到着時間と前記第2の検出器で検出された前記第1の弾性波の到着時間との到着時間差を算出し、前記到着時間差に基づいて前記発生源の深さに関する情報を得る情報処理装置と、
を備え、
前記情報処理装置は、
前記弾性波の到着時間を算出する際に、前記媒体内での前記第2の弾性波の速度、前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度、前記表面から前記第1の検出器が設置されている位置までの高さによって、前記第2の弾性波の伝搬時間を算出し、
前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度は、次に示す(1)式によって算出される、
測定装置。
【数1】
(1)式において、
φ:前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度、
air :前記媒体内での前記第2の弾性波の速度、
ae :前記第1の弾性波が前記構造物の表面の第1の位置に到達してから前記表面に沿って伝搬する表面波の速度、
である。
【請求項2】
前記第1の検出器は、
前記第2の弾性波を検出する指向性センサを有し、
前記指向性センサの指向性を表す軸線は前記表面の法線に対して所定の前記角度で傾斜している、
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記第1の検出器は、
前記法線に沿って見たときに前記表面の所定の中心位置に対して放射状に配置された複数の前記指向性センサを有する、
請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
固体材料で形成されている構造物の内部の発生源で発生した第1の弾性波が前記構造物の表面の第1の位置に到達したときに前記表面で前記構造物に隣接する媒体内へ放出される第2の弾性波を検出し、
前記発生源から前記表面の第2の位置に直接伝搬する第1の弾性波を検出し、
検出した前記第2の弾性波の到着時間から前記媒体内での前記第2の弾性波の伝搬時間を差し引いた弾性波の到着時間前記第2の位置で検出した前記第1の弾性波の到着時間との到着時間差を算出し、前記到着時間差に基づいて前記発生源の深さに関する情報を取得し、
前記弾性波の到着時間を算出する際に、前記媒体内での前記第2の弾性波の速度、前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度、前記表面から前記第1の検出器が設置されている位置までの高さによって、前記第2の弾性波の伝搬時間を算出し、
前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度を次に示す(1)式によって算出する、
測定方法。
【数2】
(1)式において、
φ:前記表面に対して側面視で前記第2の弾性波が同位相で伝搬する角度、
air :前記媒体内での前記第2の弾性波の速度、
ae :前記第1の弾性波が前記構造物の表面の第1の位置に到達してから前記表面に沿って伝搬する表面波の速度、
である。
【請求項5】
前記第2の弾性波を、前記表面の法線に対して所定の前記角度で傾斜している方向を軸線として検出する、
請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記法線に沿って見たときに前記表面の所定の中心位置に対して径方向外側且つ周方向の複数の位置から前記第2の弾性波を検出する、
請求項5に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば橋梁等の構造物の長期使用では構造物に疲労亀裂が発生する場合があり、時間の経過とともに疲労亀裂が進展し、構造物が劣化する。
構造物の劣化を検出する方法として、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:AE)方式による疲労亀裂が発生した位置に関する位置評定解析が提案されている。位置評定解析では、構造物の表面に設置された4つ以上のセンサで3次元位置を推定することが可能である。しかしながら、例えば構造物が橋梁或いは石油タンク等であるときのように構造物が相当な厚みを有すると、構造物の表面に設置されたセンサのみでは構造物の損傷源の深さに関する情報を取得できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/119498号
【文献】特許第3450063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、所定値以上の厚みを有する構造物における損傷源の深さに関して測定することができる測定装置及び測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の測定装置は、第1の検出器と、第2の検出器と、情報処理装置と、を備える。第1の検出器は、固体材料で形成されている構造物の内部の発生源で発生した第1の弾性波が前記構造物の表面の第1の位置に到達したときに前記表面で前記構造物に隣接する媒体内へ放出される第2の弾性波を検出する。第2の検出器は、前記表面の第2の位置に設けられ、前記発生源から前記第2の位置に直接伝搬する前記第1の弾性波と、前記発生源から前記第1の位置に伝搬する前記第1の弾性波が前記第1の位置に到達したときに変換されて前記表面に沿って伝搬する表面波と、を検出する。情報処理装置は、前記第1の検出器で検出された前記第2の弾性波の到着時間と前記第2の検出器で検出された前記第1の弾性波の到着時刻及び前記表面波の到着時間に基づいて、前記第2の位置への前記第1の弾性波の到着時間と前記表面波の到着時間との到着時間差を算出し、前記到着時間差に基づいて前記発生源の深さに関する情報を得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の測定装置の構成の一例を示す側面図。
図2】構造物で発生した弾性波について説明する側面図。
図3】位置評定解析を行うための構成の一例を示す側面図。
図4】構造物内の発生源の深さに対する到着時間差の変化の数値計算結果を示すグラフ。
図5】構造物の表面から放出される音波について説明する側面図。
図6】構造物の表面から放出される音波を検出する構成の一例を示す側面図。
図7】第1の実施形態の測定方法の流れの一例を示すフローチャート。
図8】第1の実施形態の測定装置を用いて測定した到着時間差と算出した構造物内の発生源の深さとの関係を示すグラフ。
図9】第1の実施形態の第1の変形例の構成の一例を示す側面図。
図10】第1の実施形態の第1の変形例の構成の一例を示す平面図。
図11】第1の実施形態の第2の変形例の構成の一例を示す側面図。
図12】第1の実施形態の第2の変形例の構成の一例を示す平面図。
図13】第2の実施形態の測定装置の構成の一例を示す側面図。
図14】深さD11=65mmの場合の弾性波及び表面波の振幅値の時間変化の数値計算結果を示すグラフ。
図15】深さD11=165mmの場合の弾性波及び表面波の振幅値の時間変化の数値計算結果を示すグラフ。
図16】第2の実施形態の測定方法の流れの一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の測定装置及び測定方法を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、互いに同一又は類似の機能を有する構成に互いに同一の符号を付す。また、互いに同一又は類似の機能を有する構成の重複する説明を省略する場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の測定装置101の側面図である。第1の実施形態の測定装置101及び測定方法は、図1に示すように構造物10の内部で弾性波(第1の弾性波)の発生源200の深さDに関する情報を取得するための装置及び方法である。本明細書でいう「発生源200の深さに関する情報」は、構造物10の表面10Aから発生源200までの深さ10Tの値に限らず、深さ10Tが所定の深さよりも深いか否かという相対的な評価結果等を含み、深さ10Tに関する絶対的及び相対的な情報を意味する。
【0009】
構造物10は、固体材料で形成されている。固体材料は、特に限定されないが、例えばコンクリートや鉄、アルミ、セラミックス等の他、炭素繊維強化プラスチック等の複合材料であってもよい。構造物10は、所定の厚みを有する。所定の厚みは、センサで検出する対象の周波数と固体材料固有の物性である弾性波伝搬速度によって決まる波長(即ち、伝搬速度/周波数)よりも大きい厚みを意味する。構造物10は、例えば道路床版や橋梁である。本明細書でいう「橋梁」とは、河川や渓谷等の上に架設される構造物に限らず、例えば高速道路の高架橋のように地面よりも上方に設けられる種々の構造物を広く含む。
【0010】
図1に示すように、第1の実施形態の測定装置101は、超音波センサ(第1の検出器)111と、AEセンサ(第2の検出器)112と、増幅器121、122と、バンドパスフィルタ(BPF)131、132と、信号処理装置(情報処理装置)150と、を備える。
【0011】
超音波センサ111は、表面10Aで構造物10に隣接する空気(媒体)中に設けられ、構造物10の内部の発生源200で発生した弾性波が表面10Aに到達したときに励起される表面波202を選択的に検出する。後述する原理に基づいて表面波202を選択的に検出するために、超音波センサ111は、指向性超音波センサ(指向性センサ)113を有する。指向性超音波センサ113は、弾性波が表面10Aに到達したときに、表面10Aで構造物10に隣接する空気(媒体)に対して放出する弾性波(第2の弾性波)203を検出し、後述するように表面波202から生成される弾性波203を選択的に検出する。AEセンサ112は、表面10Aに設けられ、弾性波を検出する。なお、超音波センサ111は、後述のように表面波202を選択的に検出可能であれば、指向性超音波センサ113以外の検出器を用いてもよい。
【0012】
次いで、表面波202を用いて発生源200の深さDに関する情報を得る第1の原理について説明する。図1は、構造物10で発生した弾性波について説明する側面図である。構造物10の固体材料中で疲労亀裂或いは地盤の振動や外力によって亀裂が生じると、図1に示すように亀裂が生じた局所的位置又は表面10Aからの最深位置を発生源200として、弾性波が発生する。この弾性波は、構造物10中を固体材料に固有の速度で伝搬する。構造物10中を伝わる波には、発生源200から放射状に伝搬する実体波(Body wave)201と、表面10Aを伝わる表面波(Surface wave)202とが存在する。実体波には、P波(縦波と呼ばれる場合がある)221と、S波(横波と呼ばれる場合がある)とが含まれる。表面波には、ラブ(Love)波と、レイリー(Rayleigh)波232とが含まれる。
【0013】
構造物10の固体材料のポアソン比vが正であるとき、P波221の速度をVとし、S波の速度をVとし、レイリー波の速度をVとすると、次に示す(2)式及び(3)式に示す関係が成り立つ。
【0014】
【数1】
【0015】
【数2】
【0016】
構造物10を形成する固体材料がコンクリートである場合、ポアソン比vが0.2程度である。P波221の速度Vを基準とすると、レイリー波232の速度Vは、次に示す(4)式で表される。
【0017】
【数3】
【0018】
(4)式に示すように、レイリー波232の速度Vは、P波221の約65%の速度である。前述の説明内容をふまえ、構造物10の内部の発生源200から発生するAEに着目する。
【0019】
AEセンサ112は、表面10Aの到着位置115に設けられ、初動において発生源200から直接伝搬するP波221を検出する。以下、P波222は、P波221のうち、発生源200からAEセンサ112に直接且つ最短距離で到達するP波を表す。P波223は、P波222以外のP波221を表し、検出される前に表面10Aに到達する。図1には、P波223のうち、P波223-1、223-2を例示する。P波223-1は、発生源200から表面10Aの法線12に対して角度θで傾斜している進行方向に沿って伝搬し、到着位置116で表面10Aに到達する。P波223-2は、発生源200から表面10Aの法線12に対して平行に伝搬し、到着位置117で表面10Aに到達する。即ち、P波223-2の進行方向は、表面10Aの法線に対して0°をなして傾斜していない。
【0020】
第1の実施形態では、表面波202としてレイリー波232を用いる。図1には、レイリー波232のうち、レイリー波232-1、232-2を例示する。レイリー波232-1は、到着位置116から生じ、表面10Aに沿って伝搬する。レイリー波232-2は、到着位置117から生じ、表面10Aに沿って伝搬する。
【0021】
構造物10を形成する固体材料がコンクリートである場合、P波222の速度Vは、約4000m/sである。発生源200からP波222と同時に放出されたP波223-1、223-2は、到着位置116、117で表面10Aに到達し、レイリー波232-1、232-2に変換(以下、P-R変換と称する)される。
【0022】
P-R変換では、表面10Aの法線に角度θで入射したP波223の波長の水平方向(例えば、表面10Aに平行な方向)の成分がレイリー波232の波長と一致する条件において、レイリー波232が最も効率良く生成される。つまり、次に示す(5)式が成り立つときに、レイリー波232の効率が最大になる。
【0023】
【数4】
【0024】
(5)式が成り立つとき、効率良く生成されたレイリー波232の進行方向が表面10Aの法線に対して傾斜する角度θoptは、次に示す(6)式で表される。
【0025】
【数5】
【0026】
コンクリートにおけるP波222の速度V及びレイリー波232の速度Vを考慮した場合、(6)式に示すように、表面10Aの法線に対して約40.1[deg.]で傾斜した進行方向に沿って発生源200から伝搬するP波223によって、レイリー波232が最も効率良く生成される。以下、図1に示すP波223-1の進行方向が発生源200から表面10Aの法線12に対して角度θoptで傾斜し、レイリー波232の中でレイリー波232-1が最も効率良く生成されると想定する。
【0027】
ここで、発生源200とAEセンサ112との水平方向の離間距離をLとする。発生源200と到着位置115との離間距離をlとする。発生源200と到着位置116との離間距離をlp_rとする。到着位置115と到着位置116との離間距離をlr_rとする。表面10Aから発生源200までの深さをDとする。図1に示すように、幾何学的に求められる距離として、次に示す(7)式及び(8)式が得られる。
【0028】
【数6】
【0029】
離間距離Lは、従来の位置評定解析によって、表面10Aに配置された複数のセンサ302(例えば、AEセンサ112を兼ねてもよい)へのP波221の到達時間差(Δt)に基づいて求められる(図3参照)。その結果、離間距離Lは、表面10Aからの発生源200の深さDの関数として求められる。発生源200からAEセンサ112にP波222が直接到着する時間と、発生源200から表面10Aの到着位置116に到着したP波223-1がP-R変換によって変換されたレイリー波232-1がAEセンサ112に到着する時間との到着時間差Δtp-rは、幾何学的に求められる上述の各種距離と、各波の伝搬時の速度から算出される走時の差分とによって求められる。即ち、到着時間差Δtp-rは、次に示す(9)式で表される。
【0030】
【数7】
【0031】
例えば、離間距離Lが300mmである場合、深さDの変化に対する到着時間差Δtp-rの変化は、図4に示すグラフで表される。図4に示すグラフからわかるように、実体波201であるP波222と表面波202であるレイリー波232-1との到着時間差Δtp-rに基づいて発生源200の表面10Aからの深さDを算出可能である。
【0032】
次いで、弾性波の伝搬によって構造物に隣接する空気中へ音波(第2の弾性波)が放出される現象について説明する。上述の第1の原理で説明したように表面10Aでレイリー波232-1が生成されると、レイリー波232-1の進路と重なる表面10Aに面する構造物10の固体材料の原子又は分子、及びその近傍の原子又は分子が振動する。固体材料の原子又は分子の個々の振動を点音源230として、ホイヘンス=フレネルの原理によって、図5に示すように、表面10Aで構造物10に隣接する空気中に音波(第2の弾性波)231が放出される。音波231は、空気中において音速(第2の弾性波の速度)Vairで拡散及び伝搬する。点音源230は、速度Vaeで表面10Aに沿って構造物10中を伝搬する。点音源230が構造物10中を伝搬する速度Vaeは、前述のレイリー波232-1の速度Vに相当する。なお、図5には、矢印の方向に伝搬する点音源230及び点音源230から放出される音波231のうち、いくつかの点音源230及び音波231のみが図示されている。図5の破線は、点音源230の各々から放出される音波231において同位相である波面233を表す。
【0033】
時刻tから時刻t´だけ時間が経過した場合、伝搬途中の複数の点音源230の各々から放出された音波231は、表面10Aに対して側面視で角度φだけ傾斜した線上で同位相である波面234を形成する。角度φは、次に示す(1)式のように表される。
【0034】
【数8】
【0035】
構造物10を形成する固体材料がコンクリートである場合、前述のように速度Vは約4000m/sであるため、レイリー波232の速度Vは約2578m/sである。空気中の音速Vairが340.29m/sであると想定した場合、角度φairは上述の(1)式に基づいて次に示す(11)式のように表される。
【0036】
【数9】
【0037】
上述のように、構造物10中で発生源200からP波223-1が伝搬することに伴ってレイリー波232-1から空気中に音波231が発生する。また、表面10Aに対して音波231の波面234が傾斜する角度φは、構造物10中でP波221が伝搬する速度Vと空気中での音速Vairとの比によって決まる。したがって、図6に示すように、表面10Aに対して角度φに応じて検出方向を傾斜させた状態で空気中に指向性超音波センサ113を配置することによって、レイリー波232-1によって生成される音波231-1を検出し、音波231を介してレイリー波232-1を選択的に検出することができる。即ち、指向性超音波センサ113の指向性が最大となる方向を表し且つ波面234に略直交する受信軸(指向性を表す軸線)235は、構造物10の表面10Aの法線15に対して角度(所定の角度)φで傾斜している。具体的には、受信軸235は、法線15に対して角度φair±10°をなして傾斜している。
【0038】
次いで、測定装置101の各構成要素について、上述の原理説明をふまえて詳しく説明する。図1に示すように、指向性超音波センサ113は、構造物10の表面10Aの法線15に対して角度φair傾斜して表面10Aから放出される音波231を検出する。指向性超音波センサ113の検出方向を表す受信軸235が法線15に対して角度φair傾斜していることによって、レイリー波232-1に起因する音波231を選択的に検出する。指向性超音波センサ113は、検出した音波231を電圧信号に変換して出力する。指向性超音波センサ113には、指向性を有する公知の超音波センサを用いることができる。指向性超音波センサ113として、公知のように測定対象の物体に自身から超音波を発信してその反射波を検出する送受信兼用方式の超音波センサよりも、例えば測定対象の物体からの音波のみを検出可能な受信専用方式の超音波センサが好ましい。指向性超音波センサ113の音圧半減角(半値角)は、0°以上10°以下であることが好ましい。指向性超音波センサ113は、10kHz以上1MHz以下の範囲にピーク感度を有することが好ましい。
【0039】
AEセンサ112は、発生源200から発生するP波222が表面10Aに到着する所定の位置(例えば、図2では到着位置115)でP波222を検出する。図1に示すように、AEセンサ112は、圧電素子を有し、検出したP波222を電圧信号に変換して出力する。AEセンサ112は例えば10kHz以上1MHz以下の範囲に感度を有する圧電素子を有することが好ましい。AEセンサ112には、例えば前述の周波数の範囲内に共振ピークを持つ共振型のAEセンサ、及び共振が抑えられた広帯域型のAEセンサ等の何れかの種類のAEセンサを用いることができる。
【0040】
増幅器121は、指向性超音波センサ113から出力された音波231に関する電圧信号を所定の利得(例えば、電圧利得)で増幅する。増幅器122は、AEセンサ112から出力されたP波222に関する電圧信号を所定の利得(例えば、電圧利得)で増幅する。増幅器121の所定の利得及び増幅器122の所定の利得は、音波231の振幅や強度及びP波222の振幅や強度の相対比、等を考慮して適宜設定されている。例えば、増幅器121の利得が80[dB]である場合、増幅器122の利得が40[dB]であってもよい。このような設定では、音波231に関して指向性超音波センサ113から出力される出力電圧がP波222に関してAEセンサ112から出力される出力電圧よりも低い場合でも、後述する信号処理装置150での処理や計算の精度が低下しない。なお、増幅器121は、指向性超音波センサ113に内蔵されていてもよい。増幅器122は、AEセンサ112に内蔵されていてもよい。
【0041】
BPF131、132は、増幅器121、122で増幅され出力された電圧信号を受信し、入力された電圧信号の所定の帯域外のノイズ成分を除去し、所定の帯域以内の電圧信号を出力する。BPF131、132の種類は、前述の動作を実行できるBPFであれば特に限定されない。
【0042】
信号処理装置150は、指向性超音波センサ113で検出されたレイリー波232-1に関する情報とAEセンサ112で検出されたP波222に関する情報とに基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDを算出する。信号処理装置150は、第1プロセッサ151と、第2プロセッサ152と、第3プロセッサ153と、第4プロセッサ154と、を備える。第1から第4のプロセッサ151、152、153、154は、次に説明する各々の処理や演算等を実行可能に構成された計算機等であり、例えば各々の処理や演算等を実行する大規模集積回路(Large-Scale Integration:LSI)、或いは各々の処理や演算等を実行するプログラムが内蔵されたコンピュータである。
【0043】
第1プロセッサ151は、BPF131から出力された電圧信号に基づいて音波231の到着時間(Time of Arrival:TOA)を決定する。詳しく説明すると、信号処理装置150では、不図示のクロック源からの信号に基づき、装置全体の電源投入時からの累積の時刻情報が生成される。第1プロセッサ151は、前述の累積の時刻情報を基準として、BPF131から出力された電圧信号を受信した時刻情報を検出し、音波231のTOAを決定し、出力する。
【0044】
第2プロセッサ152は、BPF132から出力された電圧信号に基づいてP波222のTOAを決定する。第2プロセッサ152は、第1プロセッサ151と同様に不図示のクロック源からの信号に基づく累積の時刻情報を基準として、BPF132から出力された電圧信号を受信した時刻情報を検出し、P波222のTOAを決定し、出力する。
【0045】
第3プロセッサ153は、第1プロセッサ151から出力された音波231のTOAの情報及び第2プロセッサ152から出力されたP波222のTOAの情報を受信し、受信した各情報に基づいて到着時間差Δtp-rを算出する。到着時間差Δtp-rを算出する際の「発生源200から発生したP波222がAEセンサ112に直接到着する時間」は、P波222のTOAに相当する。到着時間差Δtp-rを算出する際の「発生源200から発生したP波223-1が表面10Aの到着位置116に到着してP-R変換によって変換されたレイリー波232-1がAEセンサ112に到着する時間」は、例えば音波231のTOAに基づいて算出することができる。
【0046】
第1プロセッサ151から出力された音波231のTOAには、P波223-1が発生源200から到着位置116に伝搬した時間と、到着位置116(即ち、表面10A)から空中に放出された音波231が指向性超音波センサ113で検出されるまでの時間が含まれている。構造物10の固体材料の種類に関係する物性パラメータ、音速Vair、角度φair、及び表面10Aから指向性超音波センサ113が設置されている位置までの高さは、既知である。第3プロセッサ153は、これらの既知のパラメータを用いて、表面10Aから指向性超音波センサ113までの音波231の伝搬時間を算出する。第3プロセッサ153は、第1プロセッサ151から出力された音波231のTOAから音波231の伝搬時間を差し引き、残りをP波223-1が発生源200から到着位置116まで伝搬した時間として取得可能である。
【0047】
AEセンサ112と表面10Aに設けられた不図示のAEセンサとを用いた位置評定解析によって、到着位置115と到着位置117との離間距離Lが算出される。離間距離Lの算出は、第3プロセッサ153が上述の複数のAEセンサから電圧信号を適宜受信し、自身で行うことができる。なお、第3プロセッサ153は、別体のプロセッサ(例えば、前述の複数のAEセンサで位置評定解析を実行する解析装置内のプロセッサ)等で算出された離間距離Lをそのプロセッサから受信してもよい。離間距離Lに基づいて図2に示す幾何学的関係等を用いて離間距離lr_rを算出し、レイリー波232-1の速度Vを用いれば、到着位置116においてP-R変換によって変換されたレイリー波232-1がAEセンサ112に到着する時間が算出される。第3プロセッサ153は、前述の「P波223-1が発生源200から到着位置116まで伝搬した時間」と「レイリー波232-1が到着位置116からAEセンサ112(即ち、到着位置115)に到着するまでの時間」との和によって到着時間差Δtp-rを算出し、出力する。
【0048】
第4プロセッサ154は、第3プロセッサ153から出力された到着時間差Δtp-rの情報と、第3プロセッサ153又は別体のプロセッサから出力された離間距離Lの情報とを受信し、受信した各情報に基づいて深さDを算出する。具体的には、第4プロセッサ154は、受信した到着時間差Δtp-r及び離間距離Lを前述の(9)式に代入し、表面10Aからの発生源200の深さDを算出する。第4プロセッサ154は、算出した深さDを付属のディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ)等(図示略)の表示装置に出力及び表示してもよく、有線又は無線で別体の表示装置(図示略)に送信して表示させてもよい。
【0049】
上述の構成及び処理等によって、測定装置101は、指向性超音波センサ113で検出された音波231のTOAの情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDの情報を得る。
【0050】
次いで、測定装置101を用いて発生源200の深さDに関して測定する測定方法について、説明する。
【0051】
図7は、第1の実施形態の測定方法の流れの一例を示すフローチャートである。図7に示すように、初めに、構造物10の表面10Aよりも上方の空気中で法線15に対して受信軸235を角度θair傾斜させた指向性超音波センサ113を用いて、音波231を検出する(ステップS301)。続いて、構造物10の表面10Aの到着位置115に設けられたAEセンサ112を用いて、P波222を検出する(ステップS302)。なお、ステップS301とステップS302とは、互いに同時に行われてもよく、上述とは逆の順序で行われてもよい。
【0052】
次に、音波231のTOA及びP波222のTOAを算出する(ステップS303)。算出した各波のTOAに基づいて、音波231を生成するレイリー波232-1とP波222との到着時間差Δtp-rを算出する(ステップS304)。算出した到着時間差Δtp-rと予め位置評定解析によって求められた離間距離Lを前述の(9)式に代入することによって、発生源200の深さDを算出する(ステップS305)。
【0053】
上述の流れによって、指向性超音波センサ113を用いて検出した音波231のTOAの情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDの情報を得ることができる。
【0054】
以上説明したように、第1の実施形態の測定装置101は、超音波センサ111と、AEセンサ112と、信号処理装置150とを備える。超音波センサ111は、例えばコンクリート等の固体材料で形成されている構造物10の内部で発生したP波(第1の弾性波)223-1が構造物10の表面10Aに到達したときにP-R変換によって励起されるレイリー波(表面波)232-1を選択的に検出する。AEセンサ112は、構造物10の表面10Aの到着位置115に設けられ、発生源200から直接伝搬するP波222を検出する。信号処理装置150は、超音波センサ111で検出されたレイリー波232-1の到達時間の情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDに関する情報を得る。
【0055】
第1の実施形態の測定装置101によれば、超音波センサ111と、AEセンサ112と、信号処理装置150とを持つことにより、音波231を生成するレイリー波232-1とP波222との到着時間差Δtp-rを算出し、従来の位置評定解析等の方法では測定が困難であった所定値以上の厚みを有する構造物10内の亀裂等の発生源200(即ち、損傷源)の深さDを測定することができる。
【0056】
第1の実施形態の測定装置101では、超音波センサ111は、P波223-1が表面10Aに到達したときに表面10Aで構造物10に隣接する空気に対して放出される音波(第2の弾性波)231を検出する指向性超音波センサ(指向性センサ)113を有する。指向性超音波センサ113の受信軸(指向性を表す軸線)235は表面10Aの法線15に対して角度θ(具体的には角度θair)で傾斜している。角度θは、前述の(1)式で表され、音波の速度Vair及びレイリー波232の速度Vによって決まる。
【0057】
第1の実施形態の測定装置101によれば、指向性超音波センサ113を持つことにより、表面10Aに対して所定の角度で傾斜して放出される音波231の進行方向に対して受信軸235を合わせて指向性超音波センサ113を配置することができる。このことによって、受信軸235が音波231の進行方向に合っていない場合に比べて、指向性超音波センサ113で検出する音波231の選択性を高くすることができる。また、第1の実施形態の測定装置101によれば、所定の角度が音波の速度Vair及びレイリー波232の速度Vによって(1)式のように決まるので、構造物10の固体材料及び表面10Aで構造物10と隣接する媒体の種類に応じて、指向性超音波センサ113で検出する音波231の選択性を高くすることができる。
【0058】
第1の実施形態の測定方法によれば、P波223-1に加えて、表面波202であるレイリー波232-1に起因する音波231を検出することにより、レイリー波や音波を検出せずに弾性波のみを検出する測定方法では困難であった深さDに関する測定を実行することができる。
【0059】
次いで、第1の実施形態の測定装置101の実施例について、説明する。なお、測定装置101の構成は、以下に説明する実施例で用いた条件及び数値によって限定されることはない。
【0060】
図1に示すように表面10Aに沿って一定の厚みを有するコンクリート構造物と測定装置101と同様の構成を備える深さ測定装置を用意した。コンクリート構造物の厚み(即ち、法線15に沿った方向の大きさ)は、180[mm]であった。コンクリート構造物の平面視でも深さDも互いに異なる5カ所に亀裂を生じさせ、弾性波の発生源1~5を形成した。深さ測定装置の指向性超音波センサには、市販の指向性超音波センサを用いた。深さ装置のAEセンサ及び位置評定解析用のAEセンサには、市販のAEセンサを用いた。
【0061】
図8は、上述のコンクリート構造物に形成された発生源1~5の各々について、発生源から直接検出したP波のTOAと発生源からコンクリート構造物の表面の法線に対して約40.1[deg.]をなして傾斜する方向に進行したP波に起因する音波のTOAとの到着時間差を縦軸にとり、コンクリート構造物における表面からの発生源の深さを横軸にプロットしたグラフである。図8のグラフの実線は、構造物の固定材料としてコンクリートの物性値を用いた場合の理論値を表す。
【0062】
発生源1~5について、測定した音波のTOA及びP波のTOAに基づいて、到着時間差を算出した。到着時間差の算出結果は、基準として設定した時刻に対して、発生源1;22.5[μs]、発生源2;19[μs]、発生源3;8[μs]、発生源4;8[μs]、発生源5;-2[μs]、であった。また、コンクリート構造物の表面に沿った方向で発生源とAEセンサとの離間距離を90[mm]とした。到達時間差及び離間距離をふまえ、コンクリート構造物に形成した発生源1~5の深さD1~D5の測定結果は、D1=0.045[m]、D2=0.065[m]、D3=0.105[m]、D4=0.125[m]、D5=0.165[m]であった。図8に示すように、深さD1~D5に応じて到着時間差が変化することを確認した。即ち、到着時間差から発生源の深さを算出できることを確認した。
【0063】
次いで、第1の実施形態の測定装置101の第1の変形例について、説明する。図9は、測定装置101の第1の変形例の構成を示す側面図である。図10は、測定装置101の第1の変形例の構成を示す平面図である。第1の実施形態の測定装置101は、1つの指向性超音波センサ113を備えるが、第1の変形例として、図9及び図10に示すように、複数の指向性超音波センサ113-1、・・・、113-nを備えてもよい。図10には、一例として8個(即ち、n=8)の指向性超音波センサ113-1、・・・、113-nを例示する。なお、指向性超音波センサ113の数は、8以外でもよく、特定の数に限定されない。以下の説明において、指向性超音波センサ113-1、・・・、113-nの各々に共通する説明をする際には、これらの指向性超音波センサをまとめて113nと記載する。
【0064】
図9に示すように、指向性超音波センサ113nの受信軸235は、法線15に対して角度φで傾斜し、構造物10が表面10Aで空気に隣接しているため、角度φairで傾斜している。即ち、指向性超音波センサ113nが音波231を感知する方向は、法線15に対して予め角度φをなして傾斜している。指向性超音波センサ113nの受信軸235は、表面10Aの所定の中心位置240に集約され、中心位置240で表面10Aと交差している。法線15に沿って構造物10を平面視したとき、図10に示すように、指向性超音波センサ113nは、中心位置240の同心円(図10において破線で示す環状線)上に、周方向で互いに等間隔をあけて配置されている。言い換えると、法線15に沿って見たときに中心位置240に対して径方向外側且つ周方向の複数(図10では8個)の位置から音波231を検出する。
【0065】
第1の変形例の測定装置によれば、指向性超音波センサ113nを持つことにより、表面10Aに沿う表面方向(即ち、水平方向)であらゆる方向から放出される音波231を、指向性超音波センサ113の姿勢を調節する必要なく、1つの指向性超音波センサ113のみを備える場合に比べて効率良く検出することができる。
【0066】
次いで、第1の実施形態の測定装置101の第2の変形例について、説明する。図11は、測定装置101の第2の変形例の構成を示す側面図である。図12は、測定装置101の第2の変形例の構成を示す平面図である。第2の変形例では、第1の変形例と同様に、複数の指向性超音波センサ113nが設けられている。法線15に沿って構造物10を平面視したとき、図12に示すように、指向性超音波センサ113nは、中心位置240の同心円(図12において破線で示す環状線)上に、周方向で互いに等間隔をあけて配置されている。
【0067】
第2の変形例では、図11に示すように、AEセンサ112は、指向性超音波センサ113nの各々の受信軸235と交差せず、指向性超音波センサ113nによる音波231の検出の妨げにならないように、中心位置240近傍の表面10Aに配置されている。また、法線15に沿って構造物10を平面視したとき、指向性超音波センサ113nが配置されている同心円内に配置されている。このことによって、第2の変形例の測定装置によれば、指向性超音波センサ113nが配置されている同心円に囲まれた領域内に配置されたAEセンサ112を持つことにより、AEセンサ112及び指向性超音波センサ113nを含む装置の設置スペースを縮小し、測定装置の小型化を図ることができる。
【0068】
第1の実施形態の第1及び第2の変形例において、指向性超音波センサ113nは、中心位置240を中心とする同心円上に、互いに必ず等間隔に配置されていなくてもよく、互いに異なる間隔をあけて配置されてもよい。また、指向性超音波センサ113nは、中心位置240を中心として円以外の形状の同心枠上に配置されてもよく、例えば中心位置240を中心として矩形状に、互いに間隔をあけて配置されてもよい。即ち、第1の実施形態の測定装置101は、法線15に沿って見たときに、表面10Aの所定の中心位置240に対して放射状に配置された指向性超音波センサ113nを備えてもよい。第1の実施形態の測定装置101は、前述のように平面視で中心位置240から放射状に配置された指向性超音波センサ113nを持つことにより、表面10Aにおいて任意の方向から放出される音波231を効率良く検出することができる。
【0069】
次いで、第2の実施形態の測定装置102及び測定方法について、説明する。先ず、表面波202を用いて発生源200の深さDに関する情報を得る第2の原理について説明する。
【0070】
図2に例示した表面波202であるレイリー波232の振幅は、発生源200が表面10Aに近づく程、大きくなることが知られている。即ち、レイリー波232の振幅は、深さDが減少するにしたがって大きくなる。AEにおいても、同様の傾向がみられる。
【0071】
例えば、構造物10において、不図示の深さD11の発生源200から放出されるP波223-1から生成されるレイリー波232-1を検出する。続いて、不図示の深さD12の発生源200から放出されるP波223-1から生成されるレイリー波232-1を検出する。検出したレイリー波232-1の各々の振幅に関する情報を検出し、互いに比較することによって、深さD11が深さD12よりも浅いか、或いは深いかという相対関係(深さDに関する情報、深さ評価)がわかる。また、不図示の深さD13の発生源200に起因するレイリー波232-1の振幅情報と既知の深さの発生源200に起因するレイリー波232-1の振幅情報との差分を定量的に評価することによって、深さD13と既知の深さとの相対関係に留まらず、深さD13を定量的に推定することができる。
【0072】
図13は、第2の実施形態の測定装置102の側面図である。図13に示すように、測定装置102は、超音波センサ(第1の検出器)111と、AEセンサ(第2の検出器)112と、増幅器121、122と、バンドパスフィルタ(BPF)131、132と、信号処理装置(情報処理装置)150と、を備える。第2の実施形態では、信号処理装置150は、第5プロセッサ155と、第6プロセッサ156と、第7プロセッサ157と、第8プロセッサ158と、を備える。第5から第8のプロセッサ155、156、157、158は、次に説明する各々の処理や演算等を実行可能に構成された計算機等であり、例えば各々の処理や演算等を実行するLSI、或いは各々の処理や演算等を実行するプログラムが内蔵されたコンピュータである。
【0073】
第5プロセッサ155は、BPF131から出力された電圧信号に基づいて音波231の振幅情報を検出する。第6プロセッサ156は、BPF132から出力された電圧信号に基づいてP波222の振幅情報を検出する。
【0074】
第7プロセッサ157は、第5プロセッサ155から出力された音波231の振幅情報及び第6プロセッサ156から出力されたP波222の振幅情報を受信し、受信した各振幅情報に基づいて振幅比、或いは振幅に関連する物理量を算出する。第8プロセッサ158は、第7プロセッサ157から出力された振幅比等に基づいて深さDを評価し、深さDに関する情報、物理量を算出する。
【0075】
上述の構成及び処理等によって、測定装置102は、指向性超音波センサ113で検出された音波231の振幅情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDの情報を得る。
【0076】
一例として、構造物10を形成する固体材料がコンクリートであり、深さD11=65mm[mm]、D12=165[mm]のそれぞれの場合に、P波(実体波)223-1と音波231とを含む合成波と、表面波であるレイリー波232-1に起因する音波231とを検出した。AEセンサ112を用いて、P波223-1と音波231とを含む合成波を検出した。指向性超音波センサ113を用いて、音波231を検出した。図14は、深さD11=65mm[mm]の場合において、合成波と音波231(グラフ中では表面波としhて図示)とを検出したときの各々の波の測定時間と振幅値との関係を示すグラフである。図15は、深さD12=165mm[mm]の場合において、合成波と音波231とを検出したときの各々の波の測定時間と振幅値との関係を示すグラフである。
【0077】
図14及び図15に示すように、深さD11の場合の合成波の最大振幅値に対する音波の最大振幅値の振幅比は、深さD12のときの振幅比よりも大きいことを確認した。即ち、互いに異なる深さDの発生源200について、合成波の最大振幅値に対する音波の最大振幅値の振幅比を比較することによって、深さDの相対関係を評価することができる。
【0078】
次いで、測定装置102を用いて発生源200の深さDに関して測定する測定方法について、説明する。図16は、第2の実施形態の測定方法の流れの一例を示すフローチャートである。図16に示すように、ステップS302までは、第1の実施形態の測定方法と同様の処理ステップを実行する。
【0079】
次に、音波231の振幅情報及びP波222の振幅情報を算出する(ステップS311)。算出した各波の振幅情報に基づいて、音波231を生成するレイリー波232-1とP波222との振幅比又は振幅に関連する物理量を算出する(ステップS312)。
算出した振幅比又は物理量をふまえて、発生源200の深さDを算出し、深さDに関する情報を得る(ステップS313)。
【0080】
上述の流れによって、指向性超音波センサ113を用いて検出した音波231の振幅情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDの情報を得ることができる。
【0081】
第2の実施形態の測定装置102において、信号処理装置150は、超音波センサ111で検出されたレイリー波232-1の振幅情報に基づいて構造物10内のP波221の発生源200の深さDに関する情報を得る。
【0082】
第2の実施形態の測定装置102によれば、超音波センサ111と、AEセンサ112と、信号処理装置150とを持つことにより、第1の実施形態と同様に、従来の位置評定解析等の方法では測定が困難であった所定値以上の厚みを有する構造物10内の亀裂等の発生源200(即ち、損傷源)の深さDを測定することができる。第2の実施形態の測定装置102によれば、音波231を生成するレイリー波232-1の振幅情報とP波222との振幅情報とを算出するため、到着時間差Δtp-rを算出する場合に比べて簡便に深さDに関する情報を得ることができる。
【0083】
また、第2の実施形態の測定装置102によれば、指向性超音波センサ113を持つことにより、構造物10の固体材料及び表面10Aで構造物10と隣接する媒体の種類に応じて、指向性超音波センサ113で検出する音波231の選択性を高くすることができる。なお、第2の実施形態の測定装置102は、第1の実施形態の第1及び第2の変形例の構成を採用してもよい。
【0084】
第2の実施形態の測定方法によれば、P波223-1に加えて、表面波202であるレイリー波232-1に起因する音波231を検出することにより、レイリー波や音波を検出せずに弾性波のみを検出する測定方法では困難であった深さDに関する測定を実行することができる。
【0085】
上述のように、第1の実施形態では指向性超音波センサ113で検出された音波231のTOAの情報に基づいて深さDに関する情報を取得し、第2の実施形態では指向性超音波センサ113で検出された音波231の振幅情報に基づいて深さDに関する情報を取得する。なお、信号処理装置150において指向性超音波センサ113で検出された音波231のTOA及び振幅情報の両方の情報を得てもよく、両方の情報に基づいて深さDに関する情報を取得してもよい。
【0086】
なお、測定装置101、102は、指向性超音波センサ113と、増幅器121と、BPF)131と、信号処理装置150によって構成されていてもよい(図6参照)。この場合、信号処理装置150は、第1プロセッサ151及び第5プロセッサ155の少なくとも一方と、第3プロセッサ153及び第7プロセッサ157の少なくとも一方と、第4プロセッサ154及び第8プロセッサ158の少なくとも一方とを備えてもよい。第3プロセッサ153及び第7プロセッサ157は、指向性超音波センサ113によって検出された音波231のTOA及び振幅情報の少なくとも一方の情報と、前述の第1の原理等で説明した幾何学的関係に基づいて、深さDに関する情報を取得することができる。
【0087】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、レイリー波232-1に起因する音波231を選択的に検出する超音波センサ111を持つことにより、所定値以上の厚みを有する構造物における損傷源の深さに関して測定することができる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
10…構造物、10A…表面、101、102…測定装置、111…超音波センサ(第1の検出器)、112…AEセンサ(第2の検出器)、113…指向性超音波センサ(第3の検出器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16