(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】ノズル故障を予測し、補償するための方法および処理ユニット
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 205
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020171090
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】10 2019 127 279.3
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516255493
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング ビー. ヴィ.
【氏名又は名称原語表記】Canon Production Printing Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Van der Grintenstraat 10, 5914 HH Venlo, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クラウス シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ シュテックレ
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-093715(JP,A)
【文献】特開2019-093713(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174224(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0102792(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷画像を印刷するためにインク滴を記録媒体(120)に向けて噴射するように構成されている少なくともノズル(21,22)を含んでいるインクジェット印刷装置(100)用の処理ユニット(101)であって、該処理ユニット(101)は、
一連の連続する時点において、前記記録媒体(120)上のそれぞれの時点において前記ノズル(21,22)により吐出されたインク滴のずれに関するそれぞれ1つのずれ測定値(203)を求め、
前記一連の時点における前記ずれ測定値(203)の時間的な経過(210)に基づいて、前記ノズル(21,22)の故障に至るまでの、または前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)がずれ閾値(213)に達する時点に至るまでの継続期間(224)を予測し、
前記予測された継続期間(224)に応じて、前記ノズル(21,22)の故障を、または吐出されたインク滴の前記ずれ閾値(2
13)を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、補償措置を開始する、
ように構成されて
おり、
前記インクジェット印刷装置(100)は、該補償措置が開始される時点から、所定の間隔時間の経過後にはじめて、前記インクジェット印刷装置(100)により印刷される印刷画像に前記補償措置が作用するように、構成されていて、
前記処理ユニット(101)は、前記間隔時間にも応じて前記補償措置を開始するように、構成されており、
前記処理ユニット(101)は、
前記予測された継続期間(224)を前記間隔時間と比較し、
前記比較に応じて、前記補償措置を開始するまたは開始しない
ように構成されている、インクジェット印刷装置(100)用の処理ユニット(101)。
【請求項2】
印刷画像を印刷するためにインク滴を記録媒体(120)に向けて噴射するように構成されている少なくともノズル(21,22)を含んでいるインクジェット印刷装置(100)用の処理ユニット(101)であって、該処理ユニット(101)は、
一連の連続する時点において、前記記録媒体(120)上のそれぞれの時点において前記ノズル(21,22)により吐出されたインク滴のずれに関するそれぞれ1つのずれ測定値(203)を求め、
前記一連の時点における前記ずれ測定値(203)の時間的な経過(210)に基づいて、前記ノズル(21,22)の故障に至るまでの、または前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)がずれ閾値(213)に達する時点に至るまでの継続期間(224)を予測し、
前記予測された継続期間(224)に応じて、前記ノズル(21,22)の故障を、または吐出されたインク滴の前記ずれ閾値(213)を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、補償措置を開始する、
ように構成されており、
前記インクジェット印刷装置(100)は、該補償措置が開始される時点から、所定の間隔時間の経過後にはじめて、前記インクジェット印刷装置(100)により印刷される印刷画像に前記補償措置が作用するように、構成されていて、
前記処理ユニット(101)は、前記間隔時間にも応じて前記補償措置を開始するように、構成されており、
前記処理ユニット(101)は、
前記予測された継続期間(224)が前記間隔時間をバッファ期間だけまたはバッファ期間よりも小さく上回った場合にまたは上回るとすぐに、前記補償措置を開始し、かつ/または
前記予測された継続期間(224)が前記間隔時間をバッファ期間よりも大きく上回った場合に、前記補償措置を開始しない、
ように構成されている、
インクジェット印刷装置(100)用の処理ユニット(101)。
【請求項3】
前記処理ユニット(101)は、前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)を、その先の予測時間間隔(223)に外挿し、これにより、前記ノズル(21,22)の故障に至るまでの、または前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)が前記ずれ閾値(213)に達する時点に至るまでの前記継続期間(224)を予測することができるように、構成されている、請求項1
または2記載の処理ユニット(101)。
【請求項4】
前記処理ユニット(101)は、前記一連の時点における前記一連のずれ測定値(203)を、ローパスフィルタにより、かつ/または移動平均の形成により平滑化し、これにより前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)を求めることができるように、構成されている、請求項1から
3までのいずれか1項記載の処理ユニット(101)。
【請求項5】
前記処理ユニット(101)は、
前記ノズル(21,22)に、前記一連の時点における1つの時点において、前記記録媒体(120)上にテスト印刷画像(200)を印刷させ、かつ
前記
インクジェット印刷装置(100)のセンサユニット(150)に、前記テスト印刷画像(200)に関するセンサデータを検出させ、かつ
前記センサデータに基づいて前記時点における前記ずれ測定値(203)を求める
ように構成されている、請求項1から
4までのいずれか1項記載の処理ユニット(101)。
【請求項6】
前記テスト印刷画像(200)が、複数のドットを備えたライン(201)を含み、
前記処理ユニット(101)は、
前記センサデータに基づいて前記ライン(201)の実際位置を求め、かつ
前記実際位置を前記ライン(201)の目標位置と比較し、これにより前記ずれ測定値(203)を求める
ように構成されている、請求項
5記載の処理ユニット(101)。
【請求項7】
前記
インクジェット印刷装置(100)が、複数のノズル(21,22)を含み、
前記処理ユニット(101)は、前記複数のノズル(21,22)のうちの各ノズルのために、
ずれ測定値(203)を求め、
前記各ノズル(21,22)の起こり得る故障に至るまでの、または前記ずれ閾値(213)に達するまでの継続期間(224)を予測し、かつ
前記予測された継続期間(224)に応じて、前記各ノズル(21,22)のための補償措置を開始する
ように構成されている、請求項1から
6までのいずれか1項記載の処理ユニット(101)。
【請求項8】
インク滴を記録媒体(120)に噴射し、これにより印刷画像を印刷するように構成されている少なくとも1つのノズル(21,22)を含むインクジェット印刷装置(100)を運転するための方法(300)であって、
前記方法は、
一連の連続する時点のために、前記記録媒体(120)上のそれぞれの時点において前記ノズル(21,22)により吐出されたインク滴のずれに関するずれ測定値(203)を求めるステップ(301)と、
前記一連の時点における前記ずれ測定値(203)の時間的な経過(210)に基づいて、前記ノズル(21,22)の故障に至るまでの、または前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)がずれ閾値(213)に達する時点に至るまでの継続期間(224)を予測するステップ(302)と、
前記予測された継続期間(224)に応じて、補償措置を引き起こすステップ(303)であって、該補償措置は、前記ノズル(21,22)の故障または吐出されたインク滴の、前記ずれ閾値(2
13)を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、構成されているステップと
を含
み、
前記インクジェット印刷装置(100)は、該補償措置が開始される時点から、所定の間隔時間の経過後にはじめて、前記インクジェット印刷装置(100)により印刷される印刷画像に前記補償措置が作用するように、構成されていて、
前記補償措置を引き起こすステップ(303)では、前記予測された継続期間(224)を前記間隔時間と比較し、前記比較に応じて、前記補償措置を開始するまたは開始しない、インクジェット印刷装置(100)を運転するための方法。
【請求項9】
インク滴を記録媒体(120)に噴射し、これにより印刷画像を印刷するように構成されている少なくとも1つのノズル(21,22)を含むインクジェット印刷装置(100)を運転するための方法(300)であって、
前記方法は、
一連の連続する時点のために、前記記録媒体(120)上のそれぞれの時点において前記ノズル(21,22)により吐出されたインク滴のずれに関するずれ測定値(203)を求めるステップ(301)と、
前記一連の時点における前記ずれ測定値(203)の時間的な経過(210)に基づいて、前記ノズル(21,22)の故障に至るまでの、または前記ずれ測定値(203)の前記時間的な経過(210)がずれ閾値(213)に達する時点に至るまでの継続期間(224)を予測するステップ(302)と、
前記予測された継続期間(224)に応じて、補償措置を引き起こすステップ(303)であって、該補償措置は、前記ノズル(21,22)の故障または吐出されたインク滴の、前記ずれ閾値(213)を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、構成されているステップと
を含み、
前記インクジェット印刷装置(100)は、該補償措置が開始される時点から、所定の間隔時間の経過後にはじめて、前記インクジェット印刷装置(100)により印刷される印刷画像に前記補償措置が作用するように、構成されていて、
前記補償措置を引き起こすステップ(303)では、
前記予測された継続期間(224)が前記間隔時間をバッファ期間だけまたはバッファ期間よりも小さく上回った場合にまたは上回るとすぐに、前記補償措置を開始し、かつ/または
前記予測された継続期間(224)が前記間隔時間をバッファ期間よりも大きく上回った場合に、前記補償措置を開始しない、インクジェット印刷装置(100)を運転するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル故障を予測し、かつ必要に応じて少なくとも部分的に予め補償することを可能にする方法および対応する処理ユニットに関する。
【0002】
記録媒体に印刷するための印刷装置、特にインクジェット印刷装置は、それぞれ1つ以上のノズルを備えた1つ以上の印刷ヘッドを有している。ノズルは、記録媒体上に印刷画像のドット(Bildpunkt)を印刷するために、インク滴を吐出するようにそれぞれ構成されている。その際に、1つ以上の印刷ヘッドと記録媒体とは、互いに対して相対的に運動させられ、これにより特に種々異なる列の種々異なる位置においてドットを記録媒体上にインク付けし、かつこれにより印刷画像を記録媒体上に印刷することができる。
【0003】
種々異なる外的要因または内的要因により、ノズルから吐出されたインク滴の位置精度の悪化が時間の経過とともに生じてしまう。劣化現象、摩耗、インクの気泡形成および/または乾燥に基づいて、ノズルのアクチュエータの力は、液滴を所要の速度および精度で記録媒体上に位置決めするために、もはや十分ではなくなってしまう。この状態は、次第に悪化し、したがって場合によってはノズルの故障につながってしまう。
【0004】
印刷ヘッドのノズルの位置精度を特定するために、印刷装置に、記録媒体上に特別なラインパターンを印刷させることができる。次いで、記録媒体上のラインパターンに基づいて、ノズルにより印刷されたラインが欠けていないか、または比較的高い位置のずれを有していないかを検査することができる。次いで、これに基づいて、ノズル故障が存在しているか否かを決定することができる。さらに、1つ以上の補償措置を開始することができ、これにより、検出されたノズル故障を少なくとも部分的に補償することができる。
【0005】
ノズル故障の検出および続く補償措置の開始は、補償措置が作用し始める時点まで少なくとも一時的に印刷装置の印刷品質が損なわれていることにつながる。
【0006】
本明細書は、インクジェット印刷装置の印刷品質へのノズル故障の影響を減じるという技術的な課題に関する。特に、効率的かつ確実な形式でノズル故障に基づく印刷品質の一時的な低下を少なくとも部分的にまたは完全に阻止することが望ましい。この課題は、装置クレームである請求項1に記載の特徴および方法クレームである請求項10に記載の特徴により解決される。
【0007】
本発明の1つの態様によれば、インクジェット印刷装置用の処理ユニットが記載されている。この印刷装置は、少なくとも1つのノズルを含んでいて、ノズルは、印刷画像を印刷するためにインク滴を記録媒体に向けて噴射するもしくは放出するように、構成されている。処理ユニットは、一連の連続する時点において、記録媒体上のそれぞれの時点においてノズルにより吐出されたインク滴のずれ、特に横方向のずれに関するずれ測定値を求めるように、構成されている。さらに処理ユニットは、一連の時点におけるずれ測定値の時間的な経過に基づいて、ノズルの故障に至るまでの、またはずれ測定値の時間的な経過がずれ閾値に達する時点に至るまでの継続期間を予測するように、構成されている。さらに処理ユニットは、予測された継続期間に応じて、ノズルの故障または吐出されたインク滴のずれ閾値を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、少なくとも補償措置を開始するように、構成されている。
【0008】
本発明の別の1つの態様によれば、インク滴を記録媒体に噴射し、これにより印刷画像を印刷するように構成されている少なくとも1つのノズルを含むインクジェット印刷装置を運転するための方法が記載されている。方法は、一連の連続する時点のために、記録媒体上のそれぞれの時点においてノズルにより吐出されたインク滴のずれに関するずれ測定値を求めるステップを含む。さらに方法は、一連の時点におけるずれ測定値の時間的な経過に基づいて、起こり得るノズルの故障に至るまでの、またはずれ測定値の時間的な経過がずれ閾値に達する時点に至るまでの継続期間を予測するステップを含む。方法はさらに、予測された継続期間に応じて、補償措置を引き起こすステップを含む。
【0009】
以下に本発明の実施例を概略的な図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】例示的なインクジェット印刷装置のブロック図である。
【
図2b】ずれ測定値の例示的な時間経過を示す図である。
【
図3】印刷装置を運転するための例示的な方法のフローチャートである。
【0011】
図1に図示された印刷装置100は、枚葉紙、シートまたはプレート状または帯状の記録媒体120上に印刷するように設計されている。記録媒体120は、紙、厚紙、ボール紙、金属、プラスチック、布地、これらの組み合わせおよび/または印刷可能であるその他の適当な材料から製造されていてもよい。記録媒体120は、矢印により図示されている搬送方向1に沿って、印刷装置100の印刷ユニット140を通ってガイドされる。
【0012】
印刷装置100の印刷ユニット140は、図示された例では2つの印刷バー(Druckriegel)102を含んでいる。各印刷バー102は、特定の色、たとえばブラック、シアン、マゼンタおよび/またはイエローのインクおよび場合によってはMICRインクでの印刷のために使用することができる。互いに異なる印刷バー102は、それぞれ異なるインクでの印刷のために使用することができる。さらに、印刷ユニット140は、少なくとも1つのセンサユニット150、たとえばカメラを含んでいてもよい。カメラは、記録媒体120上に印刷された印刷画像に関するセンサデータを検出するように、構成されている。
【0013】
印刷バー102は、1つ以上の印刷ヘッド103を含んでいてもよい。これらの印刷ヘッドは、場合によっては複数の列で相並んで配置されていて、これにより、記録媒体120上に印刷画像の種々異なる行31,32のドットを印刷することができる。
図1に図示された例では、印刷バー102は、5個の印刷ヘッド103を含んでいる。各印刷ヘッド103は、記録媒体120上に印刷画像の行31,32の群のドットを印刷する。印刷画像の互いに異なる行31,32は、横方向2に沿って相並んで配置されている。さらに、個別の行31,32はそれぞれ搬送方向1に沿って延びている。
【0014】
印刷ユニット140の各印刷ヘッド103は、
図1に示された実施形態では、複数のノズル21,22を含んでいる。各ノズル21,22は、インク滴を記録媒体120に向けて噴射するまたは放出するように、構成されている。印刷ユニット140の1つの印刷ヘッド103は、たとえば効果的に使用される数千個のノズル21,22を含んでいてもよく、これらのノズル21,22は、搬送方向1に対して直交する複数の列に沿って、つまり記録媒体120の横方向2に沿って配置されている。印刷ユニット140の1つ印刷ヘッド103のノズル21,22によって、印刷画像の1つの行のドットを記録媒体120上に搬送方向1に対して横方向に、つまり記録媒体120の幅に沿って印刷することができる。
【0015】
印刷装置100は、印刷ユニット140の個別の印刷ヘッド103の個別のノズル21,22のアクチュエータを駆動するように構成されている制御もしくは処理ユニット101、たとえば制御ハードウェアおよび/またはコントローラをさらに含んでいて、これにより、印刷データに応じて印刷画像を記録媒体120に被着させることができる。
【0016】
冒頭で述べたように、印刷装置100が運転するにつれて、印刷ヘッド103のノズル21,22の損傷が生じてしまう。特に、時間がたつにつれて、ノズル21,22はインク滴を搬送方向1に対して横方向のずれを伴って吐出し、したがって印刷すべき印刷画像の行31,32に沿ってノズル21,22により印刷されたラインが、搬送方向1に対して横方向のずれを有することが生じてしまう。このような横方向のずれの大きさは、場合によってはノズル21,22の完全故障に至るまで、時間がたつにつれて増大してしまう。
【0017】
印刷装置100の個別のノズル21,22の状態を特定するために、例示的に
図2aに図示されているように、テストパターンを備えたテスト印刷画像200を印刷することができる。テストパターンは、個別のライン201を含んでいてもよい。各ライン201は、それぞれまさに個別のノズル21,22によって印刷される。したがって、印刷装置100の各個別のノズル21,22に、まさに1つのライン201を印刷させることができる。テストパターンを備えたテスト印刷画像200は、センサユニット150によって検出することができる。
【0018】
次いで、センサユニット150のセンサデータに基づいて、各個別のノズル21,22のために、実際に印刷されたライン201が目標位置202に対して横方向2に沿ってずれているか否かを検査することができる。目標位置202と、印刷されたライン201の、センサデータに基づいて求められた実際位置との間の横方向のずれの量は、ずれ測定値203として提供することができる。したがって、印刷装置100の各ノズル21,22のために、テストパターンを備えたテスト印刷画像200の印刷によって、それぞれ1つのずれ測定値203を求めることができる。このずれ測定値203は、場合によってはライン201の複数のドットを介して求められる、各ノズル21,22により吐出されたインク滴の横方向のずれを示す。
【0019】
一連の時点において個別のノズル21,22のためのずれ測定値203を求めるために、一連の時点においてテストパターンを備えたそれぞれ1つのテスト印刷画像200を印刷することを特に周期的に繰り返すことができる。したがって、1つのノズル21,22のために、対応する一連の時点のために一連のずれ測定値203が生じる。
図2bは、1つのノズル21,22のための例示的な一連のずれ測定値203を示している。ずれ測定値203は、初期時間間隔221において、かつ続く測定時間間隔222において求めることができる。
【0020】
一連の測定されたずれ測定値203に基づいて、ずれ測定値203の時間的な経過210、特に平滑化された時間的な経過210を求めることができる。ずれ測定値203の時間的な経過210は、ずれ測定値203の今後の経過211,212を予測するために、現在の時点を起点として外挿することができる。換言すると、一連の測定されたずれ測定値203に基づいて、その先の予測時間間隔223においてずれ測定値203がどのように展開するかを予測することができる。
【0021】
ずれ測定値203の1つ以上の予測された経過211,212に基づいて、ノズル21,22の完全故障に至るまでの継続期間224を予測することができる。このためには、1つ以上の予測された経過211,212をずれ閾値213と比較することができる。ずれ閾値213は、ノズル21,22が故障していることが想定される横方向のずれを示すか、かつ/または補償措置により補償されるべき横方向のずれを示す。
【0022】
図2bに図示された例では、第1の予測された経過211は、ずれの比較的緩慢な時間的増大を想定しながら求められる。さらに、第2の予測された経過212は、ずれの比較的強い時間的増大を想定しながら求められる。ノズル21,22の完全故障に至るまでの継続期間224として、たとえば、第1の予測された経過211と、第2の予測された経過212との加重平均値がずれ閾値213に達する、かつ/またはずれ閾値213を上回る時点までの期間を求めることができる。
【0023】
ノズル21,22の故障は、1つ以上の補償措置によって少なくとも部分的に補償することができるので、ノズル21,22の故障は印刷画像において見ることができない、または減じられた程度でしか見ることができない。たとえば、高められた量のインクを吐出し、かつこれにより故障したノズル21,22を少なくとも部分的に補償するために、故障したノズル21,22の1つ以上の隣接したノズル21,22を制御することができる。
【0024】
ノズル故障の検出および続く補償措置の開始は、印刷画像200の印刷品質が故障したノズル21,22により損なわれている特定の期間を必要とする。ノズル故障の補償に至るまでに必要となる期間、つまり間隔時間のための例示的な成分は、以下の通りである:
・故障したノズル21,22もしくは高い横方向のずれを有するノズル21,22による印刷画像200の最初の印刷までに必要となる時間
・ノズル故障を検出するためのテストパターンを備えたテスト印刷画像200が印刷されるまでの時間的な遅延
・テストパターンを備えた記録媒体120をセンサユニット150にまで搬送するために必要となる期間
・テストパターンに関するセンサデータを検出するために必要となる期間
・テストパターンに関するセンサデータを評価するために必要となる期間
・印刷装置100の制御装置に評価の結果を伝達するために必要となる期間
・補償アルゴリズムを使用するため、もしくは補償措置を実施するために必要となる期間
・第1の補償されたページに達するまでの印刷装置100のページバッファを印刷するために必要となる期間
・能動的な補償を有する第1のページを印刷するために必要となる期間。
【0025】
したがって、全体的に、補償措置が開始されるべき否かかが決定される決定時点と、補償措置が印刷装置100の印刷品質に効果的に補償するように作用し始める作用時点との間の特定された最低所要期間、つまり間隔時間が生じる。
【0026】
印刷装置100の処理ユニット101は、ノズル21,22の故障に至るまでの予測された期間224を、補償措置を開始するための最低所要期間、つまり不動作時間と比較するように、構成されていてもよい。さらに処理ユニット101は、たとえば時間的な安全バッファを考慮しながら、ノズル21,22の故障が印刷品質に作用する前に補償措置を開始するためにノズル21,22の故障に至るまでの予測された期間224が辛うじて足りていることが検出されるとすぐに、補償措置を開始するべきか否かを決定するように、構成されていてもよい。したがって、補償措置のこのような早期かつ/または適宜の開始により、確実な形式で印刷装置100の印刷品質の一時的な低下を阻止することができる。さらに、これにより、補償措置が過度に早く開始され、これによりノズル21,22の故障より前に印刷品質が損なわれることを阻止することができる。
【0027】
したがって、テスト印刷画像200のラインパターンから、ライン201の位置のずれ203を求め、連続する複数の時点における複数の測定にわたって観察することができる。場合によっては比較的頻繁に、たとえば4ページ毎にテストパターンを印刷し、測定を実施することができる。位置のずれ203の実施された測定を介して、たとえばスライディングウィンドウによる継続的な平均化を行うことができる。平均化は、初期時間間隔221の経過後に、初期時間間隔221において検出された測定値203に基づいて開始することができ、次いで測定時間間隔222内で継続することができる。たとえば、平均化は、それぞれ10個の測定値203を介して行うことができる。したがって、測定値203の平滑化されたもしくは平均化された時間的な経過210を求めることができる。平均化により、個別の異常値が排除され、測定が安定化される。これにより個別の異常値が補償措置の開始につながることを確実に阻止することができる。
【0028】
位置のずれ203の時間的な経過210をトレースし、品質関数を使用しながら今後の続く経過211,212を予測することができる。ずれ203のこの予測は、
図2bにおいて、予想間隔223内で点線として図示されている。これにより、今後の経過211,212が、たとえば21μmの閾値213をいつ上回るかを確認することができ、その時点までの継続期間224を計算することができる。継続期間224が、補償ループのために必要となる期間、すなわち不動作時間よりも短い場合、補償を直ちに開始することができる。これにより、補償が、もはや許容不能である位置のずれ213の発生後にできるだけ迅速に適用されることが達成される。
【0029】
したがって、少なくとも1つのノズル21,22を含んでいるインクジェット印刷装置100のための処理ユニット101が説明される。特に、印刷装置100は、たとえば
図1に関連して示されているように、1つ以上の印刷ヘッド103内かつ/または1つ以上の印刷バー102内に配置されていてもよい複数のノズル21,22を含んでいてもよい。印刷されるべき記録媒体120を、1つ以上の静止したノズル21,22の傍らを通ってガイドすることができる。印刷装置100の1つのノズル21,22は、記録媒体120上に印刷画像のまさに1つのライン201もしくは行31,32のドットを印刷するように、構成されていてもよい。印刷画像のライン201もしくは行31,32と印刷装置100の1つのノズル21,22との間には、1対1の関係が成り立っていてもよい。印刷装置100のノズル21,22は、印刷画像を印刷するために、記録媒体120に向けてインク滴を噴射するもしくは放出するように、構成されていてもよい。印刷すべき各ドットのために、1つ以上のインク滴を吐出することができる。
【0030】
処理ユニット101は、記録媒体120上のそれぞれの時点においてノズル21,22から吐出されたインク滴のずれに関するそれぞれ1つのずれ測定値203を、1つの時点または一連の連続する時点において求めるように、構成されていてもよい。たとえば、それぞれ1つのずれ測定値203を周期的に求め、場合によっては記憶することができる。したがって、ずれ測定値203の時系列を求めることができる。
【0031】
特に、処理ユニット101は、ノズル21,22に一連の時点のうちの1つの時点において、テスト印刷画像200を記録媒体120上に印刷させるように、構成されていてもよい。テスト印刷画像200は、複数のドットを備えたライン201を含んでいてもよく、ドットはそれぞれ観察されているノズル21,22により印刷されている。
【0032】
さらに、処理ユニット101は、印刷装置100のセンサユニット150、たとえばカメラに、テスト印刷画像200に関するセンサデータを検出させるように、構成されていてもよい。この場合、各時点におけるずれ測定値203は、センサデータに基づいて正確な形式で求めることができる。特に、処理ユニット101は、センサデータに基づいて記録媒体120上のライン201の実際位置を求めるように、構成されていてもよい。さらに、処理ユニット101は、ライン201の実際位置を目標位置202と比較し、これにより、これによりずれ測定値203を、特に実際位置と目標位置202との間の間隔として求めるように、構成されていてもよい。したがって、ずれ測定値203を正確な形式で求めることができる。
【0033】
一連の時点は、過ぎた時点を含んでいてもよい。換言すると、過去のずれ測定値203がどのように発展したのかを求めることができる。さらに換言すると、過去におけるずれ測定値203の時間的な経過210を求めることができる。
【0034】
処理ユニット101は、一連の時点におけるずれ測定値203の時間的な経過210に基づいて、ノズル21,22の起こり得る故障に至るまでに、またはずれ閾値213に達するまでにその先の継続期間224を予測するように、構成されていてもよい。特に、過去の時点におけるずれ測定値203の時間的な経過210に基づいて、未来における継続期間224を予測することができる。たとえば、処理ユニット101は、決定時点において継続期間224を予測するように、構成されていてもよい。ずれ測定点203の時間的な経過210は、決定時点の少なくとも部分的にまたは完全に前にあってもよい。他方では、予測された継続期間224は、決定時点後の時点にまで延びていてもよい。
【0035】
処理ユニット101は、ノズル21,22の起こり得る故障に至るまで、またはずれ閾値213に達するまでの継続期間224を予測するために、ずれ測定値203の時間的な経過210をその先の予測時間間隔223に外挿するように、構成されていてもよい。その際に、1つ以上の外挿ルールを使用することができる。次いで、ずれ測定値203の外挿された経過211,212をずれ閾値213と比較することができ、これにより、継続期間224を求めることができる。特に、決定時点から、ずれ測定値203の外挿された経過211,212がずれ閾値213に達する時点に至るまでの継続期間224を求めることができる。このようにして、継続期間224を特に正確に求めるか、もしくは予測することができる。
【0036】
処理ユニット101は、ローパスフィルタを用いて、かつ/または移動平均を形成することによって、一連の時点での一連のずれ測定値203を平滑化し、これによりずれ測定値203の時間的な経過210を求めることができるように、構成されていてもよい。その後、ずれ測定値203の平滑化された時間的な経過210は、特に正確な形式で継続期間224を求めるか、もしくは予測するために使用することができる。
【0037】
継続期間224の予測は、機械学習された人工的なニューラルネットワークを用いて実施することができる。ニューラルネットワークは、入力値としてずれ測定値203の時間的な経過210を取り入れることができる。さらに、ニューラルネットワークは、出力値として継続期間224を提供するように、構成されていてもよい。ニューラルネットは、多数のトレーニングデータセットを含むトレーニングデータに基づいて学習されていてもよい。トレーニングデータセットは、印刷装置100の個別のノズル21,22における測定に基づいて求めることができる。トレーニングデータセットは、ずれ測定値203の測定された時間的な経過210と、ずれ測定値203の測定された時間的な経過210のために測定された継続期間224とのタプルであってもよい。学習されたニューラルネットワークを使用することにより、継続期間224を特に正確な形式で予測することができる。
【0038】
処理ユニット101はさらに、ノズル21,22の故障、または吐出されたインク滴の、ずれ閾値203を超えるずれを少なくとも部分的に補償するために、予測された継続期間224に応じて補償措置を開始するように、構成されていてもよい。補償措置は、決定期間において開始することができる。換言すると、補償措置が開始されるか否かを、決定期間において決定することができる。したがって、補償措置は、ノズル故障が発生する前に、かつ/またはノズル21,22により吐出されるインク滴の過大なずれが行われる前に、開始することができる。これにより、印刷装置100の印刷品質の低下を確実に阻止することができる。
【0039】
補償措置は、ノズル21,22の故障および/またはノズル21,22によって印刷されたドットの過大なずれを少なくとも部分的に補償するように構成されていてもよく、これによって、ノズル21,22の損傷の影響は印刷画像においてあまり見ることはできない、または全く見ることができない。補償措置の枠内において、損傷したノズル21,22の1つ以上の隣接するノズル21,22に、補償措置を有しない状態とは異なり、より多くまたはより少ないインクを吐出させることができる。
【0040】
印刷装置100は、補償措置が開始される決定時点から、不動作時間の経過後にはじめて、補償措置が印刷装置100によって印刷された印刷画像に影響を与えるように、構成されていてもよい。不動作時間は、上記で挙げた時間成分のうちの1つ以上の時間成分を含んでいてもよい。
【0041】
処理ユニット101は、不動作時間に応じて補償措置を開始するように、構成されていてもよい。特に、処理ユニット101は、決定時点において補償措置を開始するか否かの決定時に、不動作時間を考慮するように、構成されていてもよい。特に、処理ユニット101は、予測された継続期間224と不動作時間とを比較するように、構成されていてもよい。次いで、この比較に応じて、補償措置を決定時点において開始すべきか否かを確実な形式で決定することができる。
【0042】
好適な例では、処理ユニット101は、予測された継続期間224が不動作時間をバッファ期間だけ上回った、またはバッファ期間よりも小さく上回った場合に、または上回るとすぐに、決定時点において補償措置を開始するように、構成されている。他方では、処理ユニット101は、予測された継続期間224が不動作時間をバッファ期間よりも大きく上回った場合に、補償措置を決定時点において開始しないように、構成されていてもよい。バッファ期間は、比較的小さく、たとえばゼロであってもよい。したがって、印刷品質がノズル故障の前に損なわれることを阻止するために、補償措置をできるだけ遅く開始するが、ノズル故障の結果、印刷品質が一時的に低下することを阻止するために、十分に早く開始するようにすることができる
【0043】
処理ユニット101は、ずれ測定値203の経過210を更新し、それぞれ更新されたずれ測定値203の経過210に基づいて、それぞれ更新された継続期間224を予測するために、連続する決定時点においてそれぞれ1つの現在のずれ測定値203を繰り返し求めるように、構成されていてもよい。次いで、それぞれ更新された継続期間224に基づいて、それぞれの決定時点において、補償措置を開始するか否かを決定することができる。これにより、高い印刷品質を継続的に提供することができる。
【0044】
上で説明したように、印刷装置100は、典型的には、複数のノズル21,22を含んでいて、処理ユニット101は、以下のように構成されていてもよい:複数のノズル21,22の各ノズルのためにずれ測定値203を求める;各ノズル21,22の起こり得る故障に至るまでに、またはずれ閾値213に達するまでの継続期間224を予測する;かつ予測された継続期間224に応じて、各ノズル21,22のための補償措置を開始する。したがって、印刷装置100の各個別ノズル21,22の位置ずれ状況の監視および予測を行うことができる。これにより、印刷装置100の印刷品質をさらに向上させることができる。
【0045】
したがって、ノズル21,22により吐出されるインク滴のずれ、特に横方向ずれに関するずれ測定値203の時間的な経過210に基づいて、ノズル21,22の故障に至るまでの継続期間224を予測するように構成されている、インクジェット印刷装置100の処理ユニット101が記載されている。予測に基づいて、補償措置が遅くとも、好適にはまさにノズル21,22の実際の故障または予測された故障の時点において有効であり、したがって印刷品質の低下を確実に回避することができるようにするために、ノズル21,22の実際の故障の前に適宜、補償措置を開始することができる。
【0046】
さらに本明細書では、本明細書において説明した処理ユニット101を含むインクジェット印刷装置100を説明する。
【0047】
図3は、少なくとも1つのノズル21,22を含むインクジェット印刷装置100を運転するための例示的な方法300のフローチャートを示しており、ノズル21,22は、印刷画像を印刷するために、インク滴を記録媒体120に放出させるように、構成されている。方法300は、印刷装置100の処理ユニット101によって実施することができる。
【0048】
方法300は、記録媒体120上のそれぞれの時点においてノズル21,22から吐出されたインク滴のずれに関連したそれぞれ1つのずれ測定値203を、一連の連続する時点のために求めるステップ301を含んでいる。さらに、方法300は、一連の時点におけるずれ測定値203の時間的な経過210に基づいて、ノズル21,22の起こり得る故障に至るまでの、かつ/または時間的な経過210がずれ閾値213に達するまで、またはずれ閾値213を上回る時点に至るまでの継続期間224を予測するステップ302を含んでいる。さらに方法300は、予測された継続期間224に応じて補償措置を引き起こすステップ303を含む。補償措置は、ノズル21,22の故障、または吐出されたインク滴の、ずれ閾値203を超えるずれを少なくとも部分的に補償するように、構成されていてもよい。
【0049】
本明細書に記載された措置により、インクジェット印刷装置100の故障補償の安定化を引き起こすことができる。さらに、目に見える印刷品質の損傷につながるノズル故障を確実に阻止することができる。さらに、印刷装置100で発生する刷損じを減少させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 搬送方向
2 横方向
21,22 ノズル
31,32 行
100 印刷装置
101 制御もしくは処理ユニット
102 印刷バー
103 印刷ヘッド
120 記録媒体
140 印刷ユニット
150 センサユニット
200 印刷画像(テストパターン)
201 印刷されたライン
202 1つのラインの目標位置
203 ずれ測定値
210 ずれ測定値の平滑化された時間的な経過
211,212 ずれ測定値の予測された経過
213 ずれ閾値
221 初期時間間隔
222 測定時間間隔
223 予測時間間隔
224 ノズル故障に至るまでの継続期間
300 ノズル故障を補償する方法
301~304 方法ステップ