(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】判定装置、判定システム、判定方法、プログラム、及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20250108BHJP
【FI】
G01N21/88 J
(21)【出願番号】P 2020174804
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 佑介
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英典
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-037415(JP,A)
【文献】特開2019-008739(JP,A)
【文献】特開2014-119363(JP,A)
【文献】特開2010-203157(JP,A)
【文献】特開2015-203586(JP,A)
【文献】特開2013-224833(JP,A)
【文献】特開平03-280167(JP,A)
【文献】特開昭63-225111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G06T 1/00 - G06T 1/40
G06T 3/00 - G06T 7/90
G06V 10/00 - G06V 20/90
G06V 30/418
G06V 40/16
G06V 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算処理装置を備え、複数の画素単位を含む画像に写った物品の良否を、前記複数の画素単位の画素値と複数の閾値とのそれぞれの比較に基づいて判定する判定装置であって、
前記複数の閾値をそれぞれ初期値に設定する第1処理と、
複数の良品画像の少なくとも一部に写った物品の良否を、前記複数の閾値に基づいて判定する第2処理と、
前記複数の良品画像の1つ以上に写った前記物品が不良と判定された場合、前記複数の閾値の少なくとも一部を緩和する第3処理と、
複数の不良品画像に写った物品の良否を前記複数の閾値に基づいて判定する第4処理と、
を実行し、
前記第2処理において前記複数の良品画像のそれぞれの前記物品が良品と判定されるまで、前記第2処理、前記第3処理、及び前記第4処理を含む処理セットを繰り返すことで、前記複数の閾値を調整し、
前記第4処理において、前記複数の不良品画像の所定割合以上に写った前記物品が良と判定された場合、繰り返しの処理を中止する、判定装置。
【請求項2】
前記初期値にそれぞれ設定された前記複数の閾値に基づく判定では、前記複数の良品画像の少なくとも1つに写った前記物品が不良と判定される、請求項1記載の判定装置。
【請求項3】
前記第2処理では、前記複数の良品画像の前記少なくとも一部のそれぞれに対して、複数の前記画素単位から、前記閾値を逸脱した1つ以上の異常画素単位を抽出し、
前記第3処理では、前記1つ以上の異常画素単位に対する1つ以上の前記閾値の少なくとも一部を緩和する、請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記第1処理では、それぞれの前記画素単位について、前記複数の良品画像の間での前記画素値の平均値及び散布度を算出し、前記平均値及び前記散布度に基づいて前記初期値を設定する、請求項1~3のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項5】
前記第1処理では、前記複数の不良品画像に写ったそれぞれの前記物品が不良と判定されるように、前記複数の閾値のそれぞれに対する前記初期値が設定される、請求項1~4のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項6】
前記第2処理では、前記複数の良品画像の前記少なくとも一部のそれぞれに対して、
複数の前記画素単位から、前記閾値を逸脱した異常画素単位を抽出し、
前記異常画素単位に基づいて、異常領域を推定し、
前記異常領域の特徴に基づいて、前記物品の良否を判定する、
請求項1~5のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項7】
前記第2処理の前記異常領域の推定において、前記異常画素単位に対してノイズ除去、膨張、収縮、及びラベリングを実行して生成された前記異常画素単位の塊を
前記異常領域として推定
する、請求項6に記載の判定装置。
【請求項8】
前記第3処理では、
前記異常領域の面積が最も大きい1つの前記良品画像を選択し、
前記1つの良品画像における前記異常画素単位に対する前記閾値を緩和する、
請求項6又は7に記載の判定装置。
【請求項9】
前記異常領域の前記特徴は、前記異常領域の面積、前記異常領域の形状、及び前記異常領域における前記画素値の分布から選択される少なくとも1つである請求項6~8のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項10】
前記第2処理及び前記第3処理の繰り返しにおいて、既に良と判定された前記物品が写った前記良品画像に対しては、前記第2処理を実行しない、請求項1~9のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項11】
調整された前記複数の閾値を用いて、検査画像に写った物品の良否を判定する検査処理をさらに実行する、請求項1~10のいずれか1つに記載の判定装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1つに記載の判定装置と、
撮像装置と、
を備えた判定システム。
【請求項13】
コンピュータに、複数の画素単位を含む画像に写った物品の良否を、前記複数の画素単位の画素値と複数の閾値とのそれぞれの比較に基づいて判定させる判定方法であって、
前記複数の閾値をそれぞれ初期値に設定する第1処理と、
複数の良品画像の少なくとも一部に写った物品の良否を、前記複数の閾値に基づいて判定する第2処理と、
前記複数の良品画像の1つ以上に写った前記物品が不良と判定された場合、前記複数の閾値の少なくとも一部を緩和する第3処理と、
複数の不良品画像に写った物品の良否を前記複数の閾値に基づいて判定する第4処理と、
を前記コンピュータに実行させ、
前記第2処理において前記複数の良品画像のそれぞれの前記物品が良品と判定されるまで、前記第2処理、前記第3処理、及び前記第4処理を含む処理セットを前記コンピュータに繰り返させることで、前記複数の閾値を調整させ、
前記第4処理において、前記複数の不良品画像の所定割合以上に写った前記物品が良と判定された場合、繰り返しの処理を中止させる、判定方法。
【請求項14】
請求項
13に記載の判定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項15】
請求項
14に記載のプログラムを記憶した記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、判定装置、判定システム、判定方法、プログラム、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
画像に写った物品の良否を判定する技術がある。この技術について、判定精度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、判定精度を向上可能な、判定装置、判定システム、判定方法、プログラム、及び記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る判定装置は、複数の画素単位を含む画像に写った物品の良否を、前記複数の画素単位の画素値と複数の閾値とのそれぞれの比較に基づいて判定する。前記判定装置は、前記複数の閾値をそれぞれ初期値に設定する第1処理を実行する。前記判定装置は、複数の良品画像の少なくとも一部に写った物品の良否を、前記複数の閾値に基づいて判定する第2処理をさらに実行する。前記判定装置は、前記複数の良品画像の1つ以上に写った前記物品が不良と判定された場合、前記複数の閾値の少なくとも一部を緩和する第3処理をさらに実行する。前記判定装置は、前記第2処理において前記複数の良品画像のそれぞれの前記物品が良品と判定されるまで、前記第2処理及び前記第3処理を繰り返すことで、前記複数の閾値を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る判定システムの構成を表す模式図である。
【
図2】実施形態に係る判定装置による検査処理を表すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る判定装置による閾値の調整方法を表すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る判定装置による別の調整方法を表すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る判定装置による別の調整方法を表すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る判定装置からの出力例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。本願明細書と各図において、既に説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る判定システムの構成を表す模式図である。
図1に表したように、実施形態に係る判定システム1は、判定装置10、入力装置11、表示装置12、記憶装置20、及び撮像装置30を含む。実施形態に係る判定システム1は、物品の外観検査に用いることができる。
【0009】
撮像装置30は、検査対象の物品Aを撮影し、画像を取得する。撮像装置30は、取得した画像を記憶装置20に保存する。撮像装置30は、物品Aの静止画を取得する。撮像装置30は、動画を取得し、動画から静止画を切り出しても良い。物品Aを撮影する向きは、検査に適した画像が得られるように、適宜設定される。例えば、複数の物品Aが、搬送装置40によって順次搬送される。撮像装置30は、固定され、搬送されている複数の物品Aを順次撮影する。
【0010】
判定装置10は、記憶装置20に保存された画像を取得する。又は、画像は、撮像装置30から判定装置10に直接送信されても良い。判定装置10は、画像に写った物品Aの良否を判定する。入力装置11は、判定装置10にユーザがデータを入力するために用いられる。表示装置12は、判定装置10から出力されたデータをユーザが視認できるように表示する。
【0011】
図2は、実施形態に係る判定装置による検査処理を表すフローチャートである。
判定装置10は、記憶装置20にアクセスし、画像を取得する(ステップS1)。1つの画像は、X方向及びY方向に配列された複数の画素単位を含む。例えば、画素単位は、1つの画素から構成される。又は、画素単位は、隣接する2つ以上の画素から構成されても良い。
【0012】
判定装置10は、記憶装置20にアクセスし、複数の閾値を取得する(ステップS2)。複数の閾値は、複数の画素単位が正常かそれぞれ判定するために用いられる。1つの画素単位に対して、1つの閾値が設定される。具体的には、閾値として、画素値の上限及び下限が設定される。一般的には、画素値は、0から255までのいずれかの整数である。上限及び下限として、0から255までのいずれかの整数がそれぞれ設定される。画素値が下限と上限の間である場合、その画素値を有する画素単位は、正常と判定される。画素値が下限と上限の間から逸脱している場合、その画素値を有する画素単位は、異常と判定される。
【0013】
1つの画素単位が、1つの画素から構成される場合、当該1つの画素の画素値を、当該1つの画素単位の画素値として用いることができる。1つの画素単位が、2つ以上の画素から構成される場合、2つ以上の画素のそれぞれの画素値の平均を、当該1つの画素単位の画素値として用いることができる。
【0014】
判定装置10は、画像中の複数の画素値を複数の閾値とそれぞれ比較し、閾値を逸脱した異常画素単位(第1異常画素単位)を抽出する(ステップS3)。判定装置10は、抽出した異常画素単位に基づいて、異常領域(第1異常領域)を推定する(ステップS4)。例えば、異常領域の推定では、ノイズ除去、膨張、収縮、及びラベリングが実行される。これらの処理により、異常画素単位の塊(パーティクル)が生成され、識別される。判定装置10は、異常画素単位のパーティクルを、異常領域と推定する。
【0015】
判定装置10は、異常領域の特徴に基づいて、画像に写った物品の良否を判定する(ステップS5)。特徴としては、異常領域の面積、異常領域の形状、及び異常領域における画素値の分布から選択される少なくとも1つが用いられる。
【0016】
特徴として面積が用いられる場合、面積に対する閾値が予め設定される。面積は、異常領域に含まれる画素の数で表される。判定装置10は、異常領域の面積が閾値を超えているとき、物品を不良と判定する。
【0017】
形状として、例えば、アスペクト比が用いられる。アスペクト比は、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比である。長軸方向は、パーティクル外縁上の任意の2点を結んで得られる線分のうち、最も長い線分と平行な方向である。短軸方向は、長軸方向に対して垂直である。特徴として形状が用いられる場合、アスペクト比に対する閾値が予め設定される。アスペクト比と閾値の大小関係は、物品に応じて設定される。例えば、検査対象の物品の品質が悪いときに、異常領域のアスペクト比が大きくなる傾向にある場合には、判定装置10は、アスペクト比が閾値を超えているときに当該物品を不良と判定する。
【0018】
分布として、例えば、異常領域の画素単位数に対する下限閾値を下回った画素単位数の比(第1比)、異常領域の画素単位数に対する上限閾値を上回った画素単位数の比(第2比)などが用いられる。特徴として分布が用いられる場合、第1比に対する第1閾値及び第2比に対する第2閾値がそれぞれ予め設定される。判定装置10は、第1比が第1閾値を超えているとき、又は第2比が第2閾値を超えているときに当該物品を不良と判定する。
【0019】
判定装置10は、判定結果を出力する(ステップS6)。例えば、判定装置10は、判定結果を記憶装置20に保存する。判定装置10は、判定に用いられた画像を判定結果と紐付けて記憶装置20に保存しても良い。画像には、抽出された異常画素単位又は推定された異常領域が示されていても良い。判定装置10は、判定結果及び画像を表示装置12に表示しても良い。
【0020】
図3(a)~
図3(c)及び
図4(a)~
図4(c)は、検査処理を説明するための画像である。
ここでは、1つの画素単位が、1つの画素から構成される場合について説明する。
図3(a)は、物品A1を撮影して得られた画像IM1を表す。
図3(b)及び
図3(c)は、検査のために設定された各画素の閾値を表す画像である。具体的には、
図3(b)に表した画像IM2は、各画素の閾値の上限を表す。
図3(c)に表した画像IM3は、各画素の閾値の下限を表す。画像IM1のいずれかの画素が、画像IM2における同一座標の画素よりも明るいとき、又は画像IM3における同一座標の画素よりも暗いとき、画像IM1における当該画素は、異常と判定される。この例では、画像IM1に写る物品A1は、良品と判定される。
【0021】
図4(a)は、物品A2を撮影して得られた画像IM4を表す。物品A2の一部は、物品A1に比べて、黒ずんでいる。判定装置10は、複数の閾値を用いて、複数の画素から、異常画素を抽出する。
図4(b)に表した画像IM5は、抽出された異常画素を表す。
図4(b)の例では、異常画素のパーティクルP1~P6が抽出されている。
【0022】
判定装置10は、パーティクルP1~P6に基づき、異常領域を推定する。例えば、ノイズ除去及び収縮により、パーティクルP5及びP6は、消滅する。膨張により、パーティクルP1~P4は、互いに結合する。これにより、
図4(c)に表した画像IM6が得られる。画像IM6では、異常画素を含むパーティクルP7が表されている。判定装置10は、パーティクルP7を、異常領域と推定する。判定装置10は、推定された異常領域の特徴に基づいて、物品A2の良否を判定する。
【0023】
画像に写された物品の良否を精度良く判定するためには、複数の閾値がそれぞれ適切に設定されることが好ましい。
【0024】
図5は、実施形態に係る判定装置による閾値の調整方法を表すフローチャートである。
まず、判定装置10は、複数の良品画像を取得する(ステップS10)。複数の良品画像は、ユーザにより準備される。良品画像は、品質の良い物品が写っているとユーザが認定した画像である。判定装置10は、複数の閾値を初期値に設定する(ステップS11、第1処理)。このとき、閾値として、厳しい値が設定される。具体的には、複数の閾値に基づく物品の良否の判定において、少なくとも1つの良品画像に写った物品が不良と判定とされるように、複数の閾値が設定される。複数の良品画像に写った全ての物品が不良と判定とされるように、複数の閾値が設定されても良い。
【0025】
判定装置10は、複数の閾値を用いて、良品画像に写った物品の良否を判定する(ステップS12)。ステップS12は、第2処理又は第1判定処理の一例である。判定では、
図2に表したフローチャートの処理が実行される。以降では、説明の便宜のために、写った物品が不良と判定された良品画像のことを、不良と判定された良品画像とも言う。写った物品が良と判定された良品画像のことを、良と判定された良品画像とも言う。判定装置10は、良品画像に対する判定において、不良と判定された良品画像が有るか判断する(ステップS13)。1回目のステップS12では、閾値が厳しく設定されているため、少なくとも1つの良品画像が不良と判定とされる。
【0026】
不良と判定された良品画像が有る場合、判定装置10は、少なくとも一部の閾値を緩和する(ステップS14)。ステップS14は、第3処理又は緩和処理の一例である。閾値の緩和により、良品画像に写った物品が、不良と判定され難くなる。具体的には、閾値の緩和では、上限の引き上げ及び下限の引き下げから選択される1つ又は2つが実行される。少なくとも一部の閾値が緩和されると、判定装置10は、ステップS12を再度実行する。
【0027】
ステップS12~S14は、ステップS12で全ての良品画像が良と判定されるまで、繰り返される。ステップS13で不良と判定された良品画像が無い場合、判定装置10は、処理を終了する。複数の閾値の調整が完了する。
【0028】
以降は、調整した複数の閾値を用いて、検査処理が実行される。検査では、検査対象の物品が写った検査画像に対して、
図2に表すフローチャートの処理が実行される。これにより、検査画像の物品の良否が判定される。例えば、良と判定された物品については、検査が合格となる。不良と判定された物品については、検査が不合格となる。
【0029】
実施形態の利点を説明する。
例えば、従来、閾値は、平均値及び散布度に基づいて設定されている。この方法によれば、判定の精度を高めつつ、閾値を容易に設定できる。一方で、この方法を用いた場合、準備した良品画像の全てが良と判定されるとは限らない。このため、実際の検査において、一部の良品が、不良と誤判定される可能性がある。
【0030】
上述した課題に対して、良品が不良と誤判定されたときに、その良品の画像を用いて、閾値を再調整する方法がある。例えば、再調整では、予め準備された良品画像に、その良品の画像を加えて、平均値及び散布度が新たに計算される。閾値は、新たな平均値及び散布度に基づいて設定される。しかし、1つの画像を追加して閾値を再調整しても、閾値への影響は小さい。特に、検査を継続的に実行し、閾値の設定に用いられる良品画像の数が多くなるほど、1つの画像による閾値への影響は小さくなる。このため、誤検出が発生しているときに、その誤検出を解消するように閾値を再調整することは、実際には容易では無い。
【0031】
これらの課題について、実施形態では、判定装置10が、判定と閾値の緩和を繰り返すことで、それぞれの良品画像が良と判定されるまで閾値を調整する。実施形態によれば、全ての良品画像が良と判定されるように、複数の閾値が設定される。これにより、実際の検査において、良品が不良と誤判定される可能性を低減できる。
【0032】
また、実施形態において、初期値にそれぞれ設定された複数の閾値に基づく判定では、複数の良品画像の少なくとも1つに写った物品が不良と判定される。すなわち、初期値は、良品画像であっても、その良品画像に写った物品が不良と判定されるように厳しく設定される。この初期値に対して、それぞれの良品画像が良と判定されるまで、少なくとも一部の閾値が緩和される。実施形態によれば、閾値が緩くなりすぎることを抑制できる。これにより、実際の検査において、不良品が良と誤判定される可能性を低減できる。
【0033】
実施形態によれば、複数の閾値をより適切に調整でき、画像に写った物品の良否の判定精度を向上可能である。
【0034】
以降では、判定装置10による処理について具体的に説明する。
閾値に対する初期値は、予め設定された固定値であっても良いし、平均値及び散布度に基づいて設定されても良い。平均値は、複数の良品画像の同一座標に位置する画素値を平均することで算出される。散布度として、複数の良品画像における同一座標の画素値の、標準偏差、分散、又は平均偏差などを用いることができる。初期値を厳しく設定するために、散布度は、小さく設定される。例えば、平均値μ及び標準偏差σを用いる場合、典型的には、(μ-3σ)及び(μ+3σ)が閾値として設定される。これに対して、実施形態では、(μ-σ)及び(μ+σ)が閾値として設定される。初期値の設定に平均値及び散布度を用いることで、初期値が固定されている場合に比べて、その後に閾値を調整するために必要な、ステップS12~S14の繰り返し回数を低減可能である。
【0035】
初期値の設定において、複数の不良品画像が用いられても良い。判定装置10は、複数の閾値をそれぞれ初期値に設定した後、複数の不良品画像に写った物品の良否を判定する。全ての不良品画像が不良と判定された場合、判定装置10は、設定されたそれぞれの初期値を容認する。いずれか1つの不良品画像が良と判定された場合、判定装置10は、全ての閾値を、予め設定された量だけ狭める。すなわち、判定装置10は、画素値の上限を予め設定された量だけ小さくする、又は画素値の下限を予め設定された量だけ大きくする。判定装置10は、異常と判定されなかった画素単位に対する閾値のみを狭めても良い。
【0036】
ステップS12において、判定装置10は、過去の繰り返し処理において、既に良と判定された良品画像を判定の対象から除外しても良い。1度でも良と判定された良品画像は、以降の判定処理でも同様に良と判定される。良と判定された良品画像を対象から除外することで、ステップS12~S14の繰り返しに要する計算量を低減できる。
【0037】
図6は、実施形態に係る判定装置による別の調整方法を表すフローチャートである。
1回のステップS12において、判定装置10は、準備された全ての良品画像について良否を判定しても良いし、一部の良品画像のみについて良否を判定しても良い。例えば
図6に表したように、ステップS11の後、判定装置10は、複数の良品画像から、予め設定された数の良品画像を作為的又は無作為的に選択する(ステップS12a)。判定装置10は、選択した良品画像に対して、ステップS12を実行する。ステップS12において不良と判定された良品画像が有ると、判定装置10は、ステップS14を実行する。ステップS12において選択した良品画像の全てが良と判定されると、判定装置10は、準備された全ての良品画像が選択されたか判定する(ステップS12b)。未だ選択されていない良品画像が有る場合、判定装置10は、ステップS12aを再度実行する。このとき、判定装置10は、一度良と判定された良品画像を選択の対象から除外する。
【0038】
1回のステップS12において、一部の良品画像のみについて良否が判定される場合、閾値の調整に必要な計算量を低減できる。一方で、一部の良品画像の判定結果のみに基づいてステップS14が実行されると、一部の閾値が必要以上に緩和される可能性がある。
【0039】
一例として、最初のステップS12aにおいて、異常画素単位が比較的少ない第1良品画像が選択される。ステップS12において、第1良品画像は、不良と判定される。第1良品画像に基づいて、ステップS14が実行され、少数の閾値が緩和される。その後のステップS12aにおいて、異常画素単位が比較的多い第2良品画像が選択される。ステップS12において、第2良品画像は、不良と判定される。第2良品画像に基づいて、ステップS14が実行され、多数の閾値が緩和される。この例では、少数の閾値が緩和された後に、さらに多数の閾値が緩和される。
【0040】
これに対して、全ての良品画像が選択され、第2良品画像に基づいて前記多数の閾値が緩和された場合、前記少数の閾値を緩和しなくても良い可能性がある。このため、閾値の過度の緩和を抑制して判定精度を向上させるためには、1回のステップS12において、全ての良品画像について良否を判定し、その判定結果に基づいて閾値を調整することが好ましい。
【0041】
例えば、閾値を緩和する際、判定装置10は、ステップS12において不良と判定された良品画像から全ての異常画素単位を抽出し、それらの異常画素単位に対する閾値を緩和する。具体的には、判定装置10は、不良と判定された良品画像の数が2つ以上である場合、それらの良品画像における異常画素単位の和集合を取得する。判定装置10は、和集合に含まれる異常画素単位に対する閾値を緩和する。この方法によれば、効率的に閾値を緩和でき、閾値の調整に必要な計算量を低減できる。
【0042】
閾値を緩和する際、判定装置10は、ステップS12において不良と判定された良品画像から、異常領域に基づいて一部の良品画像を選択しても良い。判定装置10は、選択した良品画像における異常画素単位に対する閾値を緩和する。一例として、判定装置10は、異常領域の面積が最も大きい良品画像を選択する。判定装置10は、選択された良品画像における異常画素単位に対する閾値を緩和する。この方法によれば、閾値が必要以上に緩和されることを抑制でき、良否の判定精度を向上できる。
【0043】
閾値を緩和できる画素単位が、ユーザにより予め制限されていても良い。判定装置10は、ステップS14において、制限されていない画素単位に対する閾値を緩和する。少なくとも一部の閾値に対して、緩和の制限が設定されていても良い。例えば、閾値の上限に対する制限、又は閾値の下限に対する制限が設定される。ステップS14において、制限に達した閾値については、緩和されない。画素単位又は閾値に対して制限が設定されることで、異常の有無を厳しく判定したい画素単位に対して、判定が緩くなりすぎることを防止できる。
【0044】
例えば、緩和される閾値の大きさは、ユーザにより予め設定される。閾値を緩和する際、判定装置10は、画素値の上限にユーザによる設定値を加え、画素値の下限から設定値を減じる。これにより、下限と上限との間の範囲が広がり、閾値が緩和される。
【0045】
緩和される閾値の大きさは、対応する画素単位の画素値と、閾値が緩和される画素単位の集合の面積と、から選択される1つ又は2つに基づいて決定されても良い。例えば、画素値と閾値との差が大きいほど、閾値を大きく緩和する。閾値が緩和される画素単位の集合の面積が大きいほど、閾値を大きく緩和する。これにより、複数の閾値の調整に必要な時間を短縮できる。
【0046】
図7は、実施形態に係る判定装置による別の調整方法を表すフローチャートである。
判定装置10は、不良品画像を用いて、複数の閾値が適切か判定しても良い。具体的には、
図7に表したように、判定装置10は、複数の良品画像及び複数の不良品画像を取得する(ステップS10a)。複数の不良品画像は、ユーザにより準備される。不良品画像は、品質の良くない物品が写っているとユーザが認定した画像である。
【0047】
その後、判定装置10は、ステップS12~14を実行する。判定装置10は、ステップS14の後、複数の閾値を用いて、それぞれの不良品画像に写った物品の良否を判定する(ステップS15)。ステップS15は、第4処理又は第2判定処理の一例である。判定装置10は、準備された不良品画像の数に対する良と判定された不良品画像の数の割合が所定割合未満か判断する(ステップS16)。所定割合は、ゼロに設定されても良い。すなわち、不良品画像が1つでも良と判定された場合、前記割合は所定割合以上となる。
【0048】
不良品画像に写った物品の良否は、良品画像に写った物品の良否と同様に判定される。すなわち、判定装置10は、不良品画像中の複数の画素値を複数の閾値とそれぞれ比較し、閾値を逸脱した異常画素単位(第2異常画素単位)を抽出する。判定装置10は、抽出した異常画素単位に基づいて、異常領域(第2異常領域)を推定する。判定装置10は、異常領域の特徴に基づいて、不良品画像に写った物品の良否を判定する。
【0049】
複数の不良品画像の所定割合以上に写った物品が良と判定された場合、判定装置10は、繰り返し処理を中止する(ステップS17)。判定装置10は、繰り返し処理の中止を、ユーザに向けて通知しても良い。例えば、判定装置10は、表示装置12への表示、特定の端末装置へのデータの送信などにより、ユーザに通知する。
【0050】
不良品画像が良と判定されることは、少なくとも一部の閾値が緩和され過ぎていることを示す。それらの閾値を実際の検査に用いた場合、不良品を良品と誤判定する可能性がある。繰り返し処理を中止することで、無用な計算を回避できる。
【0051】
判定装置10がユーザに向けて通知することで、ユーザに注意を促すことができる。閾値が緩和され過ぎる原因として、ユーザによって準備された良品画像の中に、不良品画像が混ざっていることが挙げられる。通知により、ユーザに対して、閾値の調整方法に不備が無かったか確認を促すことができる。
【0052】
なお、
図7に表したフローチャートにおいて、ステップS15は、ステップS14の前に実行されても良い。例えば、ステップS15は、ステップS12と同時に実行されても良い。ステップS15がステップS12と同時に実行される場合、ステップS16は、ステップS12及びS15の後であって、ステップS13の前に実行されても良い。
【0053】
図8(a)及び
図8(b)は、実施形態に係る判定装置からの出力例を表す模式図である。
例えば、判定装置10は、
図8(a)に表したテーブルT及び
図8(b)に表したチャートCを表示する。テーブルTにおいて、行は、予め準備された良品(OK)の画像の数と不良品(NG)の画像の数とを表す。列は、良と判定された画像の数と不良と判定された画像の数とを表す。この例では、良品画像が18枚準備され、不良品画像が5枚準備されている。判定では、5枚の画像が良と判定され、18枚の画像が不良と判定されている。実際の不良品画像の数に比べて、不良と判定された画像の数が多いことから、一部の閾値が未だ厳しいことが分かる。
【0054】
チャートCにおいて、横軸は、
図5に表したフローチャートにおけるステップS12~S14の繰り返しの回数を表す。縦軸は、異常領域の特徴を示す値である。プロットOKは、良品画像から推定された第1異常領域の特徴を示す第1値を表す。プロットNGは、不良品画像から推定された第2異常領域の特徴を示す第2値を表す。プロットTHは、第1値及び第2値に対する閾値を表す。例えば、第1値及び第2値として、異常領域の面積、異常領域のアスペクト比、第1比、又は第2比を用いることができる。
【0055】
上述した通り、判定装置10は、良品画像に写った物品(第1物品)の良否の判定(第1判定処理)と、不良品画像に写った物品(第2物品)の良否の判定(第2判定処理)と、第1物品が不良と判定された場合における少なくとも一部の閾値の緩和(緩和処理)と、を含む処理セットを繰り返し実行する。判定装置10は、処理セットを実行するたびに、第1値、第2値、及び閾値を表示装置12に表示する。
【0056】
図8(b)の例では、縦軸の値は、異常領域の面積である。プロットOKは、複数の良品画像で推定された異常領域のうち、最大の異常領域の面積を表す。プロットNGは、複数の不良品画像で推定された異常領域のうち、最小の異常領域の面積を表す。プロットTHは、異常領域の面積に対する閾値を表す。良品画像を良と判定しつつ、不良品画像を不良と判定するためには、プロットNGがプロットTHを上回ったまま、プロットOKがプロットTHを下回るように、複数の閾値を調整する必要がある。
【0057】
図8(b)から、繰り返し回数が増えるほど、プロットOKの面積値が低下し、プロットTHに近づいていることが分かる。また、プロットOKの低下量は、プロットNGの低下量よりも大きい。これは、不良品画像を不良と判定したまま、少なくとも一部の閾値を緩和できていることを示す。
図8(a)のテーブルTは、
図8(b)のチャートCにおいて、31回目の繰り返し処理が完了したときの情報を表している。
【0058】
図8(a)及び
図8(b)に表したデータは、繰り返し回数が増えるにつれて、リアルタイムで更新されても良い。例えば、判定装置10は、チャートCと、各繰り返し回数におけるテーブルTと、を記憶装置20に保存する。又は、判定装置10は、チャートC及びテーブルTから選択される1つ又は2つを表示装置12に表示させても良い。これにより、ユーザは、閾値の調整がどの程度進んでいるか、閾値の調整が適切に進んでいるか、を容易に把握できる。
【0059】
図9は、ハードウェア構成を表す模式図である。
例えば、判定装置10は、コンピュータであり、Read Only Memory(ROM)10a、Random Access Memory(RAM)10b、Central Processing Unit(CPU)10c、及びHard Disk Drive(HDD)10dを有する。
【0060】
ROM10aは、コンピュータの動作を制御するプログラムを格納している。ROM10aには、上述した各処理をコンピュータに実現させるために必要なプログラムが格納されている。
【0061】
RAM10bは、ROM10aに格納されたプログラムが展開される記憶領域として機能する。CPU10cは、処理回路を含む。CPU10cは、ROM10aに格納された制御プログラムを読み込み、当該制御プログラムに従ってコンピュータの動作を制御する。また、CPU10cは、コンピュータの動作によって得られた様々なデータをRAM10bに展開する。HDD10dは、判定装置10の処理に必要なデータや、処理によって得られたデータを記憶する。HDD10dは、例えば、
図1に表した記憶装置20として機能しても良い。
【0062】
判定装置10は、HDD10dに代えて、embedded Multi Media Card(eMMC)、Solid State Drive(SSD)、Solid State Hybrid Drive(SSHD)などを有していても良い。
【0063】
入力装置11は、例えば、マウス、キーボード、マイク(音声入力)、及びタッチパッドから選択される少なくともいずれかを含む。表示装置12は、例えば、モニタ及びプロジェクタから選択される少なくともいずれかを含む。タッチパネルのように、入力装置11と表示装置12の両方の機能を備えた機器が用いられても良い。
【0064】
以上で説明した、判定装置、判定システム、又は判定方法によれば、複数の閾値をより適切に設定でき、判定精度を向上可能である。また、コンピュータを、判定装置として動作させるためのプログラムを用いることで、同様の効果を得ることができる。
【0065】
上記の種々のデータの処理は、コンピュータに実行させることのできるプログラムとして、磁気ディスク(フレキシブルディスク及びハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD±R、DVD±RWなど)、半導体メモリ、または、他の記録媒体に記録されても良い。
【0066】
例えば、記録媒体に記録された情報は、コンピュータ(または組み込みシステム)により読み出されることが可能である。記録媒体において、記録形式(記憶形式)は任意である。例えば、コンピュータは、記録媒体からプログラムを読み出し、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させる。コンピュータにおいて、プログラムの取得(または読み出し)は、ネットワークを通じて行われても良い。
【0067】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:判定システム、 10:判定装置、 11:入力装置、 12:表示装置、 20:記憶装置、 30:撮像装置、 40:搬送装置、 A:物品、 A1,A2:物品、 C:チャート、 IM1~IM6:画像、 P1~P7:パーティクル、 T:テーブル