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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0265 20160101AFI20250108BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250108BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20250108BHJP
   H01M 8/0204 20160101ALI20250108BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20250108BHJP
   H01M 8/2484 20160101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M8/0265
H01M8/10 101
H01M8/023
H01M8/0204
H01M8/2465
H01M8/2484
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020185618
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075071
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】干鯛 将一
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102969(JP,A)
【文献】特表2014-504439(JP,A)
【文献】特開2009-158202(JP,A)
【文献】特開2004-146247(JP,A)
【文献】特開2005-166543(JP,A)
【文献】特開2007-123123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルとセパレータとが積層方向において交互に積層された積層体を備える燃料電池スタックであって、
前記燃料電池セルは、燃料極と空気極との間に高分子電解質膜が介在しており、
前記セパレータは、
前記燃料極へ供給する燃料極ガスが流れる燃料極ガス流路が形成されている燃料極側セパレータ部と、
前記空気極へ供給する空気極ガスが流れる空気極ガス流路が形成されている空気極側セパレータ部と
を含み、
前記燃料極側セパレータ部は、多孔質板で構成されており、
前記空気極側セパレータ部は、前記多孔質板よりもガスが透過しにくい緻密板で構成されており、
前記積層方向は、鉛直方向に対して直交する水平方向であり、
前記積層体は、前記鉛直方向において上方から下方へ向けて水が導入されるように構成されている、
燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料極ガス中の水素と空気極ガス(空気)中の酸素との結合エネルギーを直接的に電気に変換する発電システムであって、発電効率が高く、環境性に優れている。燃料電池システムは、一般に、燃料電池スタック、改質器、制御部、および、その他装置を備えている。燃料電池スタックは、燃料極と空気極との間に電解質膜が介在している燃料電池セルを含み、複数の燃料電池セルが積層されている。燃料電池スタックでは、改質器で作り出された水素を含む燃料極ガスが燃料極に供給されると共に、空気が空気極(酸化剤極)に供給されることによって、電気化学反応が生じて発電が行われる。
【0003】
高分子電解質形燃料電池スタックでは、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜を用いた燃料電池セルとセパレータとが積層方向において交互に積層されている。セパレータは、燃料極へ供給する燃料極ガスが流れる燃料極ガス流路、および、空気極へ供給する空気極ガスが流れる空気極ガス流路が設けられている。
【0004】
高分子電解質膜のプロトン抵抗は、高分子電解質膜の含水率に対して反比例する。このため、プロトン抵抗を小さくして発電性能を高くするためには、高分子電解質膜を加湿して、含水率を高くする必要がある。高分子電解質膜の加湿方法として、外部加湿方式と内部加湿方式とが知られている。外部加湿方式では、燃料極ガスあるいは空気極ガスに蒸気を供給する。内部加湿方式では、セパレータを介して液体の水を供給する。
【0005】
また、燃料電池セルの温度を適切な範囲内に維持するために、燃料電池反応での発熱によって温度が上昇した燃料電池セルを冷却する必要がある。そのために、冷却水を流して燃料電池スタックを冷却する。発電で得られる電力とともに、反応熱を利用するコージェネレーションシステムでは、その冷却水から熱交換して回収した熱で温水を得る。冷却水を流すための冷却水流路は、たとえば、燃料極ガスセパレータと空気極ガスセパレータの間に形成される。いずれかのセパレータの背面に冷却水溝を形成し、貼り合わせることで、両極セパレータの間に冷却水を流すことができる。
【0006】
上記の他に、潜熱冷却方法による冷却が知られている。潜熱冷却方法では、微細孔を有する導電性多孔質板をセパレータとして使用し、燃料電池セルに水流路を設ける。そして、導電性多孔質板を介して、水を燃料電池セルに供給することによって、加湿と共に、水の蒸発潜熱による冷却を行う。潜熱冷却方法においては、燃料極ガスおよび空気極ガスの圧力を冷却水の圧力よりも高くする。これにより、生成水や凝縮した水分を導電性多孔質板から除去するとともに、燃料電池セルの反応面の全体で、加湿と冷却を実現している。
【0007】
水流路を全ての燃料電池セルに導入する場合、1つの燃料電池セルに対して2枚のセパレータが必要になるため、コストが上昇する。このため、水流路を不要とするために、セパレータである導電性多孔質板の側面から冷却水を供給する方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平11-508726号公報
【文献】特許第4738979号公報
【文献】特開2017-188224号公報
【文献】特開2017-188226号公報
【文献】特開2014―102969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来においては、導電性多孔質板の側面から供給した水が空気極ガス中に蒸発することで、導電性多孔質板が局所的に乾燥し、加湿と冷却を十分に行うことが困難な場合がある。このとき、局所的に乾燥した導電性多孔質板では、燃料極ガスと空気極ガスを隔離する機能が失われ、燃料極ガスと空気極ガスが混合される恐れがある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、加湿と冷却を十分に行うことが可能な燃料電池スタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の燃料電池スタックは、燃料電池セルとセパレータとが積層方向において交互に積層された積層体を備える。燃料電池セルは、燃料極と空気極との間に高分子電解質膜が介在している。セパレータは、燃料極へ供給する燃料極ガスが流れる燃料極ガス流路が形成されている燃料極側セパレータ部と、空気極へ供給する空気極ガスが流れる空気極ガス流路が形成されている空気極側セパレータ部とを含む。燃料極側セパレータ部は、多孔質板で構成されており、空気極側セパレータ部は、多孔質板よりもガスが透過しにくい緻密板で構成されている。積層方向は、鉛直方向に対して直交する水平方向であり、積層体は、前記鉛直方向において上方から下方へ向けて水が導入されるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1実施形態に係る燃料電池スタック1の全体構成を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、第1実施形態に係る燃料電池スタック1において、積層体10の詳細構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第2実施形態に係る燃料電池スタック1bの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
[A]燃料電池スタック1の全体構成
図1は、第1実施形態に係る燃料電池スタック1の全体構成を模式的に示す斜視図である。図1において、y軸は、鉛直方向に沿っている。そして、z軸は、第1水平方向に沿っており、x軸は、第1水平方向に直交する第2水平方向に沿っている。
【0014】
燃料電池スタック1は、図1に示すように、積層体10と、第1の水マニホールド21と、第2の水マニホールド22と、第1の燃料極ガスマニホールド31と、第2の燃料極ガスマニホールド32と、第1の空気極ガスマニホールド41と、第2の空気極ガスマニホールド42とを備える。
【0015】
なお、図1においては、理解を容易にするために、積層体10と各マニホールド21,22.31,32,41,42との間に隙間が介在させて図示しているが、実際には、各マニホールド21,22.31,32,41,42は、積層体10に接するように取り付けられている。
【0016】
燃料電池スタック1を構成する各部について順次説明する。
【0017】
[A-1]積層体10
燃料電池スタック1において、積層体10は、図1に示すように、複数の燃料電池セル11と複数のセパレータ12とを含む。積層体10では、燃料電池セル11とセパレータ12とが積層方向において交互に積層されている。
【0018】
本実施形態では、積層方向は、鉛直方向(y)に対して直交する第1水平方向(z)に沿っている。積層体10は、積層方向において一対の締付板15の間に介在しており、一対の締付板15の間は、タイロッドやバンドなどの締結部材(図示省略)を用いて締め付けられている。
【0019】
積層体10の詳細構成については、別途、後述する。
【0020】
[A-2]第1の水マニホールド21
第1の水マニホールド21は、積層体10の上方に設置されている。つまり、第1の水マニホールド21は、積層体10において積層方向に沿った水平面(xz面)のうち上側に位置する上面に対面するように配置されている。
【0021】
第1の水マニホールド21には、水入口配管部211が設置されている。第1の水マニホールド21は、水入口配管部211から水が内部へ流入し、その流入した水を積層体10に供給するように構成されている。ここでは、第1の水マニホールド21は、下面に形成された開口(図示省略)から、積層体10の上面に水を供給する。水は、積層体10を冷却すると共に積層体10を加湿するために供給される。
【0022】
[A-3]第2の水マニホールド22
第2の水マニホールド22は、積層体10の下方に設置されている。つまり、第2の水マニホールド22は、積層体10において積層方向に沿った水平面(xz面)のうち下側に位置する下面に対面するように配置されている。
【0023】
第2の水マニホールド22には、水出口配管部221が設置されている。第2の水マニホールド22は、積層体10を通過した水が内部へ流入し、その流入した水が水出口配管部221から外部へ排出されるように構成されている。ここでは、第2の水マニホールド22は、上面に形成された開口(図示省略)へ積層体10の下面から水が流入し、水出口配管部221を介して流出する。
【0024】
[A-4]第1の燃料極ガスマニホールド31
第1の燃料極ガスマニホールド31は、積層体10の上方において、第1の水マニホールド21と並ぶように設置されている。つまり、第1の燃料極ガスマニホールド31は、第1の水マニホールド21と同様に、積層体10において積層方向に沿った水平面(xz面)のうち上側に位置する上面に対面するように配置されている。
【0025】
第1の燃料極ガスマニホールド31には、燃料極ガス入口配管部311が設置されている。第1の燃料極ガスマニホールド31は、燃料極ガス入口配管部311から燃料極ガスが内部へ流入し、その流入した燃料極ガスを積層体10に供給するように構成されている。ここでは、第1の燃料極ガスマニホールド31は、下面に形成された開口(図示省略)から、積層体10の上面に燃料極ガスを供給する。燃料極ガスは、水素(燃料)を含み、積層体10での発電反応の反応物として供給される。
【0026】
[A-5]第2の燃料極ガスマニホールド32
第2の燃料極ガスマニホールド32は、積層体10の下方において、第2の水マニホールド22と並ぶように設置されている。つまり、第2の燃料極ガスマニホールド32は、第2の水マニホールド22と同様に、積層体10において積層方向に沿った水平面(xz面)のうち下側に位置する下面に対面するように配置されている。
【0027】
第2の燃料極ガスマニホールド32には、燃料極ガス出口配管部321が設置されている。第2の燃料極ガスマニホールド32は、積層体10での電気化学反応で消費されずに積層体10を通過した燃料極ガスが内部へ流入し、燃料極ガス出口配管部321から外部へ排出されるように構成されている。ここでは、第2の燃料極ガスマニホールド32は、上面に形成された開口(図示省略)へ燃料極ガスが積層体10の下面から流入し、燃料極ガス出口配管部321を介して流出する。
【0028】
[A-6]第1の空気極ガスマニホールド41
第1の空気極ガスマニホールド41は、積層体10において積層方向に沿った鉛直面(yz面)のうち一方(図1では左側)に位置する側面(左側面)に対面するように配置されている。
【0029】
第1の空気極ガスマニホールド41には、空気極ガス入口配管部411が設置されている。第1の空気極ガスマニホールド41は、空気極ガス入口配管部411から空気極ガスが内部へ流入し、その流入した空気極ガスを積層体10に供給するように構成されている。ここでは、第1の空気極ガスマニホールド41は、側面に形成された開口(図示省略)から、積層体10の側面に空気極ガスを供給する。空気極ガスは、酸素(酸化剤)を含む空気であって、燃料極ガスと同様に、積層体10での発電反応のための反応物として供給される。
【0030】
[A-7]第2の空気極ガスマニホールド42
第2の空気極ガスマニホールド42は、積層体10において積層方向に沿った鉛直面(yz面)のうち他方(図1では右側)に位置する側面(右側面)に対面するように配置されている。
【0031】
第2の空気極ガスマニホールド42には、空気極ガス出口配管部421が設置されている。第2の空気極ガスマニホールド42は、積層体10での電気化学反応で消費されずに積層体10を通過した空気極ガスが内部へ流入し、空気極ガス出口配管部421から外部へ排出されるように構成されている。ここでは、第2の空気極ガスマニホールド42は、上面に形成された開口(図示省略)へ空気極ガスが積層体10の下面から流入し、空気極ガス出口配管部421を介して流出する。
【0032】
[B]積層体10の詳細構成
図2は、第1実施形態に係る燃料電池スタック1において、積層体10の詳細構成を模式的に示す断面図である。図2では、図1において水平面(xz面)に対応する断面の一部を示している。
【0033】
積層体10の詳細構成について図2を用いて説明する。
【0034】
既に説明したように、積層体10は、燃料電池セル11とセパレータ12とが積層方向zにおいて交互に積層されることで構成されている。
【0035】
[B-1]燃料電池セル11
積層体10において、燃料電池セル11は、高分子電解質膜110と燃料極111と空気極112とを含む。燃料電池セル11は、高分子電解質膜110が燃料極111と空気極112との間に介在している膜/電極接合体である。
【0036】
高分子電解質膜110は、たとえば、スルフォン酸基を有するフッ素系高分子材料で構成されている。燃料極111および空気極112は、たとえば、カーボンブラック担体に白金触媒が担持されることで構成されている。
【0037】
[B-2]セパレータ12
積層体10において、セパレータ12は、燃料極側セパレータ部121と空気極側セパレータ部122とを含み、導電性材料で構成されている。ここでは、セパレータ12は、燃料極側セパレータ部121と空気極側セパレータ部122とが積層された組合体である。
【0038】
[B-2-1]燃料極側セパレータ部121
セパレータ12において、燃料極側セパレータ部121は、燃料極ガス流路F121が形成されている。
【0039】
燃料極ガス流路F121は、鉛直方向(y軸方向)に沿うように形成されており、燃料電池セル11の燃料極111へ供給する燃料極ガスが流れる。燃料極ガス流路F121は、複数であって、複数の燃料極ガス流路F121が、第2水平方向(x軸方向)において間を隔てて設けられている。
【0040】
燃料極ガス流路F121は、燃料極側セパレータ部121のうち燃料極ガスを供給する燃料電池セル11の燃料極111側の面に形成されている。たとえば、図2で中央に示すセパレータ12を構成する燃料極側セパレータ部121は、図2で示す隣り合う2つの燃料電池セル11のうち一方(図2では上方)の燃料電池セル11の燃料極111へ燃料極ガスを供給するように、燃料極ガス流路F121が形成されている。
【0041】
燃料極ガス流路F121は、鉛直方向において積層体10の上方に位置する第1の燃料極ガスマニホールド31(図1参照)から燃料極ガスが流入する。そして、燃料極ガスは、燃料極ガス流路F121を通過後に、鉛直方向において積層体10の下方に位置する第2の燃料極ガスマニホールド32(図1参照)へ流出する。
【0042】
本実施形態では、燃料極側セパレータ部121は、多孔質板で構成されている。たとえば、多孔質板は、カーボン粒子とフェノール樹脂を固めた板で成形時に気孔が適量残るような圧力でプレス成型されている。
【0043】
[B-2-2]空気極側セパレータ部122
セパレータ12において、空気極側セパレータ部122は、空気極ガス流路F122が形成されている。
【0044】
空気極ガス流路F122は、積層方向に沿った第1水平方向(z軸方向)に直交する第2水平方向(x軸方向)に沿うように形成されており、燃料電池セル11の空気極112へ供給する空気極ガスが流れる。図示を省略しているが、空気極ガス流路F122は、複数であって、複数の空気極ガス流路F122が、第1水平方向(y軸方向)において間を隔てて設けられている。
【0045】
空気極ガス流路F122は、空気極側セパレータ部122のうち空気極ガスを供給する燃料電池セル11の空気極112側の面に形成されている。たとえば、図2で中央に示すセパレータ12を構成する空気極側セパレータ部122は、図2で示す隣り合う2つの燃料電池セル11のうち他方(図2では下方)の燃料電池セル11の空気極112へ空気極ガスを供給するように、空気極ガス流路F122が形成されている。
【0046】
空気極ガス流路F122は、第2水平方向(x軸方向)において積層体10の一方の側方に位置する第1の空気極ガスマニホールド41(図1参照)から空気極ガスが流入する。そして、空気極ガスは、空気極ガス流路F122を通過後に、第2水平方向(x軸方向)において積層体10の一方の側方に位置する第2の空気極ガスマニホールド42(図1参照)へ流出する。
【0047】
本実施形態では、空気極側セパレータ部122は、燃料極側セパレータ部121を構成する多孔質板よりもガスが透過しにくい緻密板で構成されている。たとえば、緻密板は、多孔質セパレータと同様にカーボン粒子とフェノール樹脂で構成される。ただし、成形時に高圧でプレスすることで、気孔を持たず、ガスの透過量を抑制した緻密な構造が得られる。
【0048】
[C]作用および効果
本実施形態の燃料電池スタック1の作用および効果について説明する。
【0049】
本実施形態の燃料電池スタック1において発電を行う際には、上述したように、燃料極111へ燃料極ガスを供給し、空気極112へ空気極ガスを供給する。燃料極ガスは、たとえば、水素(H)が80体積%以上100体積%以下の割合で含有する。空気極ガスは、たとえば、空気であって、酸素(O)が21体積%程度の割合で含有する。
【0050】
そして、燃料極111へ供給された燃料極ガスと空気極112へ供給された空気極ガスとの間において発電反応が生ずることで、燃料電池セル11において発電が行われる。具体的には、燃料極111では、燃料極ガスに含まれる水素(H)がプロトン(H)と電子(e)に分解される。その分解されたプロトン(H)は、高分子電解質膜110を介して、空気極112へ移動する。空気極112では、空気極ガスである空気に含まれる酸素(O)が、プロトン(H)および電子(e)と反応する(4H+O+4e→2HO)。その結果、水(HO)が生成物として生成される。
【0051】
燃料電池セル11の発電性能を向上させるためには、高分子電解質膜110の含水率を高めることによって、高分子電解質膜110のプロトン抵抗を低下させる必要がある。また、発電反応による発熱によって燃料電池セル11の温度が上昇するため、燃料電池セル11の温度を適切な範囲に保持する必要がある。
【0052】
このため、本実施形態では、鉛直方向(y軸)において積層体10の上方から下方へ向けて水を導入する。具体的には、水は、積層体10の上方に位置する第1の水マニホールド21(図1参照)から積層体10に導入される。そして、積層体10を通過した水は、積層体10の下方に位置する第2の水マニホールド22に排出される。
【0053】
上述したように、本実施形態の積層体10において、セパレータ12は、多孔質板で構成されている燃料極側セパレータ部121と、緻密板で構成されている空気極側セパレータ部122とを含む。第1の水マニホールド21(図1参照)から積層体10に導入された水は、緻密板で構成されている空気極側セパレータ部122よりも、多孔質板で構成されている燃料極側セパレータ部121に浸透する。このため、本実施形態では、主に、燃料極側セパレータ部121に浸透した水によって、高分子電解質膜110の含水率が高められると共に、燃料電池セル11が冷却される。
【0054】
本実施形態では、空気極側セパレータ部122は、緻密板で構成されているので、積層体10に導入された水の浸透がほとんどない。このため、積層体10に導入された水が乾燥することを防止可能である。その結果、本実施形態では、高分子電解質膜110の含水率の向上と、燃料電池セル11の冷却との両者を効率的に実行可能である。
【0055】
特に、本実施形態では、積層体10の積層方向は、鉛直方向に対して直交する水平方向であり、積層体10は、鉛直方向において上方から下方へ向けて水が導入される。つまり、積層体10においては、水が自重で上方から下方へ流れる。このため、本実施形態では、高分子電解質膜110の含水率の向上、および、燃料電池セル11の冷却を簡便な構成で実現可能である。
【0056】
[D]変形例
上記の実施形態のセパレータ12は、燃料極側セパレータ部121が多孔質板で構成され、空気極側セパレータ部122が緻密板で構成されている場合について説明したが、これに限らない。燃料極側セパレータ部121が緻密板で構成され、空気極側セパレータ部122が多孔質板で構成されていてもよい。つまり、燃料極側セパレータ部121と空気極側セパレータ部122とのうち、一方は、多孔質板で構成されており、他方は、緻密板で構成されていればよい。
【0057】
ただし、上記の実施形態で例示したように、セパレータ12は、燃料極側セパレータ部121が多孔質板で構成され、空気極側セパレータ部122が緻密板で構成されている方が好ましい。上記の実施形態において、燃料極ガスは、たとえば、水素(H)が80体積%以上100体積%以下の割合で含まれる。そして、空気極ガスは、たとえば、空気であって、酸素(O)が21体積%程度の割合で含まれる。つまり、燃料極ガスにおいて反応物として含まれる成分(水素成分)の割合(80体積%以上100体積%以下)よりも、空気極ガスにおいて反応物として含まれる成分(酸素成分)の割合(21体積%程度)の方が小さい。このため、発電反応を効率的に進行させるためには、空気極ガスの供給量を燃料極ガスの供給量よりも多くする必要があるので、空気極側セパレータ部122の方が燃料極側セパレータ部121よりも乾燥しやすい。しかし、本実施形態では、空気極側セパレータ部122は、多孔質板よりもガスが透過しにくい緻密板で構成されているので、空気極ガスによる乾燥を効果的に防止可能である。
【0058】
<第2実施形態>
[A]構成
図3は、第2実施形態に係る燃料電池スタック1bの全体構成を模式的に示す斜視図である。
【0059】
図3に示すように、本実施形態の燃料電池スタック1bでは、第1実施形態の場合(図1参照)と異なり、第1の空気極ガスマニホールド41および第2の空気極ガスマニホールド42が設けられていない。本実施形態では、空気供給部60が設けられている。この点、および、これに関連する点を除き、本実施形態は、第1実施形態の場合と同様である。このため、重複する事項については、適宜、説明を省略する。
【0060】
空気供給部60は、冷却媒体として空気を用いて積層体10を冷却するように構成されている。ここでは、空気供給部60は、図3に示すように、冷却ファン61と筒部62とを含み、冷却ファン61から筒部62の内部を介して空気を積層体10へ冷却媒体として供給する。筒部62は、冷却ファン61から積層体10へ向かうに伴って、内部が広がるように構成されている。
【0061】
空気供給部60から積層体10へ供給される空気は、空気極ガスであると同時に、冷却媒体として機能する。
【0062】
[B]作用および効果
以上のように、本実施形態では、空気供給部60が冷却媒体として空気を用いて積層体10を冷却する。このため、本実施形態では、積層体10の冷却を効率的に実行可能である。
【0063】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1:燃料電池スタック、10:積層体、11:燃料電池セル、12:セパレータ、21:第1の水マニホールド、22:第2の水マニホールド、31:第1の燃料極ガスマニホールド、32:第2の燃料極ガスマニホールド、41:第1の空気極ガスマニホールド、42:第2の空気極ガスマニホールド、110:高分子電解質膜、111:燃料極、112:空気極。
図1
図2
図3