(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20250108BHJP
A63B 53/06 20150101ALI20250108BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20250108BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/06 Z
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2020214331
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 梢
(72)【発明者】
【氏名】竹地 隆晴
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-044279(JP,A)
【文献】特許第5542914(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0207552(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00 - 53/14
A63B 102/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部、ソール部、及びクラウン部を有する中空構造体のゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部は、ボールを打撃する前面と、前記前面の反対側に位置する背面と、を有し、
前記ソール部は、突き当て構造を有し、
前記突き当て構造は、前記ソール部に固定される金属製のソール固定部材と、弾性部材と、前記背面側に向かって延伸する金属製のピン部材と、を有し、
前記ピン部材は、前記弾性部材を介して、前記ソール固定部材に接続されており、
前記ピン部材と前記背面との間に0.1mm以上2mm以下の隙間を有する、ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記ピン部材は、軸部と、前記軸部の一端側に連続し、前記背面と対向する先端部と、を有し、
前記先端部は、前記軸部よりも細い部分を含み、
前記先端部と前記背面との間に0.1mm以上2mm以下の隙間を有する、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記先端部は、曲面を有する、請求項2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記ソール固定部材は、一方の端部側に開口する凹部を有し、
前記弾性部材は、前記凹部に挿入されて前記凹部の底面と接し、
前記軸部は、前記先端部の反対側から前記凹部に挿入されて前記弾性部材と接し、
前記先端部は、前記ソール固定部材の一方の端部側に露出する、請求項2又は3に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記軸部は、長手方向の長さの30%以上が前記凹部に収納されている、請求項4に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記軸部は、前記凹部の長手方向に沿って前記凹部内を移動自在である、請求項4又は5に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記凹部の中心軸を通る断面視において、前記弾性部材の幅は、前記凹部の幅よりも狭い、請求項4乃至6のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記弾性部材は、中心側に空間部を有する、請求項4乃至7のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記弾性部材の材料は、樹脂組成物またはゴム組成物のうちのいずれかである、請求項4乃至8のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
前記ピン部材のヤング率は、90GPa以上である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項11】
前記ソール固定部材のヤング率は、60GPa以上である、請求項10に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項12】
前記ピン部材の材料はチタンを主とした材料であり、前記ソール固定部材の材料はアルミニウムを主とした材料またはチタンを主とした材料である、請求項11に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項13】
前記ピン部材は、前記背面のフェースセンターの下方に向かって延伸する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項14】
前記中空構造体の体積は、150
cm
3
以上230
cm
3
以下である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項15】
フェース部、ソール部、及びクラウン部を有し、
前記フェース部は、ボールを打撃する前面と、前記前面の反対側に位置する背面と、を有し、
前記ソール部は、突き当て構造を有し、
前記突き当て構造は、前記ソール部に固定される金属製のソール固定部材と、弾性部材と、前記背面側に向かって延伸する金属製のピン部材と、を有し、
前記ピン部材は、前記弾性部材を介して、前記ソール固定部材に接続されている、中空構造体のゴルフクラブヘッドの製造方法であって、
前記中空構造体を作製する工程と、
前記中空構造体の外部から前記ソール部に対する前記ソール固定部材の締め付けトルクを可変することで、前記ピン部材と前記背面との間に0.1mm以上2mm以下の隙間を設ける工程と、を有する、ゴルフクラブヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記隙間を設ける工程では、前記締め付けトルクを
9.81N・cm以下の範囲内で可変する、請求項15に記載のゴルフクラブヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェース部、ソール部、及びクラウン部を有するウッドタイプのゴルフクラブヘッドが知られている。このようなゴルフクラブヘッドにおいて、例えば、フェース部の補強や剛性分布の調整等のため、少なくとも打撃時にフェース部の背面に接する突き当て構造を設けることが提案されている。
【0003】
このゴルフクラブヘッドでは、ゴルフボールの打撃のたびに、フェース部に衝撃が作用し、フェース部の背面に接する突き当て構造にも衝撃が伝わるため、突き当て構造及びフェース部の耐久性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6093853号
【文献】米国特許第10518150号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、突き当て構造及びフェース部の耐久性を向上したゴルフクラブヘッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ゴルフクラブヘッドは、フェース部、ソール部、及びクラウン部を有する中空構造体のゴルフクラブヘッドであって、前記フェース部は、ボールを打撃する前面と、前記前面の反対側に位置する背面と、を有し、前記ソール部は、突き当て構造を有し、前記突き当て構造は、前記ソール部に固定される金属製のソール固定部材と、弾性部材と、前記背面側に向かって延伸する金属製のピン部材と、を有し、前記ピン部材は、前記弾性部材を介して、前記ソール固定部材に接続されており、前記ピン部材と前記背面との間に0.1mm以上2mm以下の隙間を有する。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、突き当て構造及びフェース部の耐久性を向上したゴルフクラブヘッドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する底面図である。
【
図3】第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する断面図(その1)である。
【
図4】第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する断面図(その2)である。
【
図6】突き当て構造とフェース部の背面との隙間について説明する図である。
【
図7】ゴルフクラブヘッド1の製造工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する斜視図である。
図2は、第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する底面図である。
図1及び
図2において、矢印d
1はトウ-ヒール方向(左右方向)を、矢印d
2はクラウン-ソール方向(上下方向)を、矢印d
3はフェース-バック方向(前後方向)を示している。
【0011】
クラウン-ソール方向は、ゴルフクラブヘッド1を規定ライ角及び規定ロフト角通りに水平面に設置した場合の鉛直方向である。クラウン-ソール方向は、トウ-ヒール方向及びフェース-バック方向と、およそ直角の関係にある。また、トウ-ヒール方向とフェース-バック方向とは、およそ直角の関係にある。
【0012】
図1及び
図2に示すゴルフクラブヘッド1は、ウッド型のゴルフクラブヘッドであって、例えばドライバーであるが、ユーティリティやフェアウェイウッドであってもよい。ゴルフクラブヘッド1は、本体部10と、フェース部20と、第2クラウン32とが接合されて一体化された中空構造体である。なお、中空構造体の内側の面を内面、外側の面を外面と称する場合がある。
【0013】
本体部10は、第1クラウン12と、ソール部13と、サイド部14と、ホゼル15とを有している。第1クラウン12は、第2クラウン32と共にゴルフクラブヘッド1の上部を形成する部分である。つまり、第1クラウン12と第2クラウン32により、クラウン部30を形成している。
【0014】
ソール部13は、ゴルフクラブヘッド1の底部を形成する部分である。サイド部14は、クラウン部30とソール部13との間に位置する部分である。ホゼル15は、シャフトと連結されるスリーブが収容される部分である。
【0015】
本体部10は、フェース側に開口する開口部を備えており、開口部を塞ぐようにフェース部20が接合されている。フェース部20は、ボールを打撃する打撃面となるフェース面20f(前面)を備えている。なお、フェース部20は所定の厚みを有しており、フェース面20fはフェース部20の外面をなしている。
【0016】
本体部10は、クラウン側に開口する開口部を備えており、開口部を塞ぐように第2クラウン32が接合されている。前述のように、第2クラウン32は、第1クラウン12と共にゴルフクラブヘッド1の上部をなすクラウン部30を形成している。
【0017】
本体部10、フェース部20、及び第2クラウン32は、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄系金属、マグネシウム、マグネシウム合金等を用いて形成できる。本体部10、フェース部20、及び第2クラウン32は、繊維強化樹脂を用いて形成してもよい。本体部10、フェース部20、及び第2クラウン32は、同一材料から形成してもよいし、異なる材料から形成してもよい。
【0018】
なお、繊維強化樹脂とは、補強部材となる繊維と樹脂との複合材料である。繊維強化樹脂を構成する繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ザイロン繊維、ボロン繊維等が挙げられる。また、繊維強化樹脂を構成する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0019】
図3及び
図4は、第1実施形態に係るゴルフクラブヘッド1を例示する断面図である。
図1及び
図2に加えて
図3及び
図4を参照しながら、突き当て構造について説明する。
【0020】
図1~
図4に示すように、ソール部13は、フェース部20の背面20bと接する突き当て構造40を有している。より詳しくは、ソール部13には中空構造体の内側に向かって窪む凹部131が設けられており、凹部131のフェース部20側の壁部に固定部132が形成されている。固定部132は、フェース部20からd
3方向に離間した位置に設けられ、突き当て構造40を本体部10に固定する。換言すると、固定部132は、突き当て構造40の取付部である。
【0021】
本実施形態では、固定部132のd1方向の位置は、中央部であるが、固定部132はトウ側に位置していてもよいし、ヒール側に位置していてもよい。また、本実施形態では、固定部132のd3方向の位置はフェース部20側であるが、バック側であってもよい。なお、固定部132の配設部位は、サイド部14やクラウン部30であってもよい。また、本実施形態の場合、固定部132及び突き当て構造40の組みは1組であるが、異なる部位に2組以上設けてもよい。
【0022】
突き当て構造40は、フェース部20の背面20b側に向かってd4方向に延伸する軸状の部材である。背面20bは、フェース面20fの反対側に位置する面である。突き当て構造40の中心軸CLは、d4方向と平行である。なお、d4方向は、d3方向でバック側からフェース部20側へ向かって斜め上方へ向かう方向である。
【0023】
図5は、突き当て構造について説明する図であり、
図5(a)は側面図、
図5(b)は中心軸CLを通る縦断面図、
図5(c)は分解図である。
図1~
図4に加えて
図5を参照すると、突き当て構造40は、ソール固定部材41と、弾性部材42と、ピン部材43とを有している。なお、本願において、弾性部材には、弾性体及び粘弾性体も含むものとする。
【0024】
ソール固定部材41は、頭部411と、筒状部412と、ねじ部413とを含む軸状の一体部品であり、ソール部13に固定される。筒状部412は、頭部411の一端側に頭部411と同心的に設けられている。筒状部412の長手方向の一部分には、外周側にねじ部413が設けられている。筒状部412は、例えば、円筒形である。ソール固定部材41は金属製であり、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、タングステン等から形成できる。
【0025】
筒状部412は、中心軸CL上に位置し、一方の端部側(頭部411とは反対側の端部側)に開口する有底の凹部415を有している。凹部415の横断面(中心軸CLと垂直な方向の断面)の形状は例えば円形である。この場合、円の中心は中心軸CLを通る。凹部415の底面は、例えば、ねじ部413の頭部411側の端部と同程度の位置にある。筒状部412が円筒状である場合、筒状部412の外径は、例えば、5mm以上7mm以下である。この場合、凹部415の直径(筒状部412の内径)は、例えば、3mm以上5mm以下である。
【0026】
弾性部材42は、例えば、穴や溝のない円盤状に形成されている。弾性部材42は、中心側に空間部(穴や溝)を有する形状であってもよい。弾性部材42は、中心側に複数の空間部(穴や溝)を有する形状であってもよい。弾性部材42の外径は、例えば、2mm以上4mm以下である。弾性部材42の厚さは、例えば、1mm以上4mm以下である。弾性部材42は、凹部415に挿入できるように、凹部415よりも若干小さく形成されている。弾性部材42の材料は、樹脂組成物またはゴム組成物のうちのいずれかである。樹脂組成物としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン等が挙げられる。ゴム組成物としては、ポリブタジエン等の合成ゴムや天然ゴムからならゴム組成物が挙げられる。
【0027】
なお、弾性部材42は、単純な構造であるため、成形性の悪い材料でも利用可能である。また、弾性部材42は、小型であり材料が少なくて済むため、余計な重量を増やすことがない。また、弾性部材42は、小型であり材料が少なくて済むため、エンジニアリングプラスチック等の非常に高価な材料も利用可能である。
【0028】
ピン部材43は、円筒状の軸部431と、軸部431の一端側に連続して設けられた先端部432と、軸部431の他端側に連続して設けられた基端部433とを有している。ピン部材43は、フェース部20の背面20b側に向かって延伸し、先端部432はフェース部20の背面20bと対向する。軸部431は、凹部415に挿入できるように、凹部415よりも若干小さく形成されている。ピン部材43は金属製であり、例えば、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、タングステン等から形成できる。
【0029】
ピン部材43は、弾性部材42を介して、ソール固定部材41に接続されている。具体的には、凹部415には、底面側(頭部411側)に弾性部材42が挿入され、さらにピン部材43の軸部431の基端部433側が挿入されている。言い換えれば、弾性部材42は、凹部415に挿入されて凹部415の底面と接し、軸部431は、先端部432の反対側に位置する基端部433側から凹部415に挿入されて、基端部433が弾性部材42と接している。基端部433は、例えば、平面で弾性部材42と接することができる。基端部433は、例えば、外周側が面取りされてもよい。
【0030】
ピン部材43は、凹部415に支持されるため、力を逃がさずに効率的にフェース部20の背面20bを押圧できる。軸部431は、長手方向の長さの30%以上が凹部415に収納されている。これにより、フェース部20の背面20b側に延伸するピン部材43がずれることを防止できる。
【0031】
弾性部材42の厚さ方向の中心からピン部材43の先端部432の最先端までの長さは、弾性部材42の厚さ方向の中心からソール固定部材41の筒状部412の最先端までの長さよりも長い。また、ピン部材43の設計を変えることで、ドライバーからユーティリティまでの異なる付き当て距離のゴルフクラブヘッドにおいてソール固定部材41の共有が可能となる。ピン部材43の設計事項は、例えば、軸部431または先端部432のd4方向の長さや形状である。
【0032】
軸部431の外側面は、凹部415の内側面に接しても良いが、軸部431は凹部415には固定されていない。すなわち、軸部431は、凹部415の長手方向に沿って(中心軸CLに沿って)凹部415内を移動自在である。なお、軸部431が凹部415内に最も深く挿入された場合でも、先端部432はソール固定部材41の一方の端部側に露出する。
【0033】
先端部432は、軸部431よりも細い部分を含んでいる。先端部432は、例えば、中心軸CLに沿って軸部431から離れるにしたがって横断面積(中心軸CLと垂直な方向の断面積)が漸減する形状であり、曲面を有する。先端部432は、例えば、半球状である。
【0034】
図6は、突き当て構造とフェース部の背面との隙間について説明する図である。
図6の矢印の左側は、フェース面20fでボールを打撃していない状態(非打撃時)を示し、
図6の矢印の右側は、フェース面20fでボールを打撃した瞬間の状態(打撃時)を示している。
図6の矢印の左側に示すように、フェース面20fでボールを打撃していない状態では、突き当て構造40のピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間には隙間Sが形成されている。隙間Sは、0.1mm以上2mm以下である。
【0035】
これに対して、
図6の矢印の右側に示すように、フェース面20fでボールを打撃した瞬間の状態では、突き当て構造40のピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとが接している。打撃時のフェース部20撓みは通常2mm程度であるから、隙間Sを0.1mm以上2mm以下とすることで、打撃時にピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとが接するようにできる。
【0036】
ただし、打撃するごとに必ずピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとが接する設計にする必要はない。例えば、強く打撃してフェース部20が大きく撓んだときだけ、ピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとが接する設計にしてもよい。反対に、打撃したときにピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとが接する確率を高めるために、隙間Sを0.1mm以上1mm以下としてもよい。
【0037】
突き当て構造40が延伸するd4方向の延長線上に位置する背面20bの部位はフェース部20の下部であり、特にフェースセンターの下方である。すなわち、突き当て構造40のピン部材43は、フェース部20の背面20bのフェースセンターの下方に向かって延伸する。打撃時にフェース部20の下部(ソール部13側)に突き当て構造40が接することで、フェース部20の下部が突き当て構造40に支えられる。なお、CT値とは、フェース部の反発係数を示す値である。
【0038】
フェースセンターは、所定のライ角及びロフト角になるようにソール部13を接地させたときに、フェース面20fのd1方向におけるトウ-ヒールの中間付近の位置にあり、フェース面20fのd2方向における最も低い位置と最も高い位置の中間付近の高さにあると特定できる。ここで、d1方向における「中間付近」とは、トウ-ヒール方向における一端を0%、他端を100%としたときに、45%以上55%以下となる範囲と定義する。また、d2方向における「中間付近」とは、クラウン-ソール方向における一端を0%、他端を100%としたときに、45%以上55%以下となる範囲と定義する。
【0039】
本実施形態では、固定部132とソール固定部材41との固定構造は、ねじ構造であり、固定部132にはd4方向のねじ穴133が形成されている。ソール固定部材41の頭部411には、例えば、六角形の溝が設けられている。頭部411の溝に六角レンチ等の先端部を挿入することでソール固定部材41を回転させ、ソール固定部材41のねじ部413を、ねじ穴133に螺合できる。
【0040】
突き当て構造40では、固定部132からフェース部20へ向かう方向(d4方向)に、ソール固定部材41の固定位置を調整できる。すなわち、ねじ穴133に対するねじ部413のねじ込み量により、固定部132に対するソール固定部材41の固定位置がd4方向に沿って変化する。これにより、ソール固定部材41の、固定部132のフェース部20側の端面からフェース部20への延出長さ(突出量)を調整できる。すなわち、先端部432のd4方向の位置を調整できる。その結果、ピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間の隙間Sの値を調整できる。
【0041】
突き当て構造40と固定部132にそれぞれ個体差があっても、ねじ穴133に対するねじ部413のねじ込み量の調整によって、ピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間の隙間Sの値を調整できる。なお、突き当て構造40において、固定部132からの延出長さが最大となるソール固定部材41の固定位置は、ソール固定部材41の頭部411が固定部132のバック側の端面に接する位置である。
【0042】
[打撃耐久試験]
【0043】
【表1】
表1は、発明者らが、一定の強度で打撃を繰り返す専用装置を用いてフェース部の割れの有無を確認する打撃耐久試験を実施した結果である。この専用装置では、フェース部を固定し、ゴルフボールを一定距離から一定スピードでフェース部に繰り返し衝突させる。また、CT値の測定結果も併せて示す。なお、打撃は4000発を最大とし、それ以上の試験は継続しなかった。4000発の打撃で割れが発生しなければ、市場に導入可能な十分な耐久性を有するゴルフクラブヘッドと考えられるためである。
【0044】
表1において、比較例1は、突き当て構造を有していないゴルフクラブヘッドの試験結果である。比較例2は、突き当て構造を有しており、常に(非打撃時及び打撃時に)突き当て構造がフェース部の背面に接しているゴルフクラブヘッドの試験結果である。実施例1は、ゴルフクラブヘッド1の試験結果である。つまり、実施例1では、非打撃時にはピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間には隙間Sが形成されており、打撃時のみに先端部432とフェース部20の背面20bとが接する。
【0045】
なお、比較例1、比較例2、及び実施例1の各ゴルフクラブヘッドにおいて、フェース部の材質と肉厚は同一とした。また、専用装置における打撃時のボールスピードは55m/Sで一定とした。
【0046】
表1に示すように、比較例1のゴルフクラブヘッドはCT値が240μsであり、2507発の打撃でフェース部に割れが発生した。これに対し、比較例2のゴルフクラブヘッドはCT値が220μsであり、4000発の打撃でもフェース部に割れが発生しなかった。また、実施例1のゴルフクラブヘッドはCT値が240μsであり、4000発の打撃でもフェース部に割れが発生しなかった。
【0047】
この結果から、突き当て構造を有していないゴルフクラブヘッドは、突き当て構造を有しているゴルフクラブヘッドに比べて繰り返し打撃に対する耐久性が大きく劣ることがわかる。また、少なくとも打撃時に突き当て構造がフェース部の背面に接することで、繰り返し打撃に対する耐久性が大きく向上し、4000発の打撃でも割れは発生しない。
【0048】
ただし、常に(非打撃時及び打撃時に)突き当て構造がフェース部の背面に接している比較例2のゴルフクラブヘッドでは、突き当て構造がフェース部の背面を強く拘束する。そのため、フェース部の撓みが抑制されて大きなCT値が得られず、飛距離性能において不利である。実施例1の構造とすることで、CT値の確保と繰り返し打撃に対する耐久性の向上とを両立できる。
【0049】
[ゴルフクラブヘッド1の製造方法]
図7は、ゴルフクラブヘッド1の製造工程の一例を示す図である。
図7に示すように、まず、ステップS1では、部材の準備を行う。具体的には、本体部10、フェース部20、第2クラウン32、及び突き当て構造40を準備する。これらの部材は、例えば、鋳造、鍛造、プレス成形、3Dプリンタ、その他の成形方法により作製できる。この段階で、フェース部20に、バルジやロールが形成されている。また、本体部10に、固定部132を含む必要な構造が形成されている。
【0050】
次に、ステップS2では、本体部10、フェース部20、及び第2クラウン32を接合し、中空構造体を作製する。接合は、接着や溶接等の適宜な方法で行うことができる。必要に応じ、接合した部分の近傍の研摩を行い、接合した部分の起伏を滑らかにする。研磨には、例えば、グラインダ等の研磨装置を使用できる。
【0051】
次に、ステップS3では、中空構造体のソール部13の固定部132に突き当て構造40を取り付けて、ピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間の隙間Sの値を調整する。具体的には、中空構造体の外部からソール部13の固定部132に対する突き当て構造40のソール固定部材41の締め付けトルクを可変することで、ピン部材43とフェース部20の背面20bとの間に0.1mm以上2mm以下の隙間を設ける。
【0052】
例えば、締め付けトルクと隙間Sとの対応関係を事前に取得しておく。これにより、締め付けトルクを所定範囲に調整することで、隙間Sの調整が可能となる。例えば、締め付けトルクを0よりも大きく1kgf・cm以下の範囲内で可変することが好ましく、0よりも大きく0.5kgf・cm以下の範囲内で可変することがより好ましい。これにより、隙間Sを0.1mm以上2mm以下の所定範囲内に調整できる。隙間Sの調整後に、調整値が狂わないように、ソール部13の固定部132に対して突き当て構造40のソール固定部材41を接着してもよい。
【0053】
次に、ステップS4では、必要に応じて、模様の形成や塗装等を含む仕上げを行う。例えば、レーザ加工機から中空構造体の表面にレーザ光を照射し、模様を形成できる。塗装を施すには、中空構造体の表面に対して、プライマー処理やイオンプレーティング処理等の下地処理を施すことが好ましい。塗装方法としては、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装等の各種の方法を使用できる。以上の工程により、ゴルフクラブヘッド1が完成する。
【0054】
このように、ゴルフクラブヘッド1は、打撃時に突き当て構造40がフェース部20を支える構造であるため、打撃時のフェース部20の負担を軽減できる。これにより、フェース部20の耐久性が向上し、フェース部20の破壊抑止に繋がる。また、フェース部20の耐久性が向上したことにより、フェース部20の薄肉化が可能となる。
【0055】
また、非打撃時にはピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間には隙間Sが形成されており、打撃時のみに先端部432とフェース部20の背面20bとが接する構造である。そのため、打撃時に突き当て構造40がフェース部20を強く拘束しすぎることがない。その結果、フェース部20は高いCT値を維持したまま、繰り返し打撃に対する耐久性を向上できる。
【0056】
特に、ゴルフクラブヘッド1がフェアウェイウッドである場合、複数本をそろえることが多いなどの理由により、フェース部20の材料として比較的安価なステンレスを用いる場合が多い。しかし、ステンレスは耐久性が高くないため、打撃時のみに先端部432とフェース部20の背面20bとが接する構造とすることによりフェース部20の耐久性を向上するメリットが大きい。なお、フェアウェイウッドは、中空構造体の体積が150cc以上230cc以下程度である。
【0057】
また、突き当て構造40の中心軸CLは、背面20bの法線方向と平行ではなく、交差している。打撃時に、突き当て構造40が、フェース部20の背面20bに対して斜めに接することで、打撃時に突き当て構造40や固定部132、或いはフェース部20の突き当て構造40が接する部位に、必要以上の応力が集中することを防止できる。
【0058】
また、先端部432は例えば半球状であり、半球を形成する曲面の一部が打撃時にフェース部20の背面20bと接する。先端部432が曲面でフェース部20の背面20bに接することで、突き当て構造40の個体差によらず背面20bに対する接触態様をより均一化できる。また、先端部432が曲面でフェース部20の背面20bに接することで、突き当て構造40によって、打撃時のフェース部20の変形を不必要に拘束することを防止できる。先端部432とフェース部20の背面20bとは、点接触に近いことが特に好ましい。
【0059】
また、突き当て構造40では、先端部432を含むピン部材43を金属製とすることで、先端部が弾性体である従来構造に比べ、ピン部材43の耐久性(破壊耐性)を向上できる。
【0060】
また、突き当て構造40の構成部品をすべて金属製にしたと仮定した場合、フェース部20から受ける力の逃げ場がないため、打撃時の衝撃により突き当て構造40の構成部品及び本体部10が破壊するおそれがある。しかし、ゴルフクラブヘッド1では、突き当て構造40の構成部品である金属製のソール固定部材41と金属製のピン部材43との間に弾性部材42を配置しているため、突き当て構造40がフェース部20から力を受けたときに弾性部材42が変形する。これにより、フェース部20から力を逃がすことが可能となるため、打撃時の衝撃による金属製のソール固定部材41及び金属製のピン部材43の破壊を防止できる。つまり、突き当て構造40及び本体部10の耐久性を向上したゴルフクラブヘッド1を実現できる。
【0061】
また、非打撃時にはピン部材43の先端部432とフェース部20の背面20bとの間には隙間Sが形成されており、打撃時のみに先端部432とフェース部20の背面20bとが接する構造であるため、非打撃時に弾性部材42は変形していない。そのため、打撃時に、弾性部材42の弾力を最大限に発揮させることができる。
【0062】
金属製のソール固定部材41及び金属製のピン部材43の耐久性を一層向上する観点から、ソール固定部材41のヤング率は、60GPa以上であることが好ましく、90GPa以上であることがより好ましい。また、フェース部20からの直接力を受けるピン部材43のヤング率は、90GPa以上であることが好ましい。
【0063】
ソール固定部材41及びピン部材43の材料例については前述のとおりであるが、耐久性を向上可能なソール固定部材41及びピン部材43の好適な材料の一例としては、ヤング率が90GPa以上であるチタンを主とした材料(例えば、チタン、チタン合金等)が挙げられる。また、軽量化を重視する場合には、ソール固定部材41の材料としてヤング率が60GPa以上であるアルミニウムを主とした材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等)を使用し、ピン部材43の材料としてヤング率が90GPa以上であるチタンを主とした材料(例えば、チタン、チタン合金等)を用いることができる。なお、チタンの比重が約4.5であるのに対して、アルミニウムの比重は約2.7である。
【0064】
また、突き当て構造40がフェース部20から力を受けたときの力の逃げ場を十分に確保する観点から、凹部415の中心軸CLを通る断面視において(つまり、
図5(b)の状態で)、弾性部材42の幅は、凹部415の幅よりも狭いことが好ましい。これにより、突き当て構造40がフェース部20から力を受けたときに、弾性部材42が外側に十分に変形できる空間を形成可能となり、突き当て構造40の耐久性をいっそう向上できる。
【0065】
例えば、凹部415の中心軸CLを通る断面視において、凹部415の幅(凹部415の対向する内側面の間隔)が4mmであれば、弾性部材42の幅を3mmとすることができる。この場合、前記断面視における弾性部材42の側面と凹部415の内側面との間隔が0.5mmとなり、弾性部材42が外側に十分に変形できる空間を形成可能となる。
【0066】
また、弾性部材42の幅を凹部415の幅よりも狭くすることに代えて、或いは、弾性部材42の幅を凹部415の幅よりも狭くすることに加えて、弾性部材42の中心側に空間部を有してもよい。この場合、突き当て構造40がフェース部20から力を受けたときに、弾性部材42が中心軸CLの方向に変形できるため、フェース部20からの力を逃がすことができる。
【0067】
以上、好ましい実施形態について詳説したが、上述した実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 ゴルフクラブヘッド
10 本体部
12 第1クラウン
13 ソール部
14 サイド部
15 ホゼル
20 フェース部
20b 背面
20f フェース面
30 クラウン部
32 第2クラウン
40 突き当て構造
41 ソール固定部材
42 弾性部材
43 ピン部材
131 凹部
132 固定部
133 ねじ穴
411 頭部
412 筒状部
413 ねじ部
415 凹部
431 軸部
432 先端部
433 基端部