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特許7614880凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20250108BHJP
   B01D 24/02 20060101ALI20250108BHJP
   B01D 21/00 20060101ALI20250108BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20250108BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20250108BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D23/10 Z
B01D21/00 C
B01D21/01 B
C02F1/52 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021024132
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126203
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 清一
(72)【発明者】
【氏名】早見 美意
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】黒川 太
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】金谷 道昭
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043139(JP,A)
【文献】特開2017-077525(JP,A)
【文献】特開2017-018879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-37/08
C02F1/52-1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象水に凝集剤を注入する凝集剤注入設備と、前記凝集剤の注入位置よりも後段に配置され前記処理対象水のろ過処理を行うろ過処理設備と、を有した固液分離を行う水処理設備に適用可能な装置であって、
前記ろ過処理設備を通過したろ過処理水の濁度と損失水頭の上昇速度とを演算するろ過処理予測部と、
前記ろ過処理水の濁度の目標値および前記損失水頭の上昇速度の目標値を設定し、前記ろ過処理予測部で算出される値が前記目標値を達成するための、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を算出する目標値算出部と、
前記流入水の濁度が前記最大値を超えないように、前記処理対象水に注入される前記凝集剤の注入率を制御する凝集剤注入制御部と、
を備え、
前記ろ過処理予測部は、ろ過が進行するにつれて変化する時間の関数であるろ過係数を用いて前記処理対象水中の懸濁物質の除去量を演算し、所定時間先までの前記ろ過処理水の濁度を算出する濁質除去量演算部と、層流状態の粒状層の流れの圧力損失を表す式を用いて圧力損失の時間変化を算出し、所定時間先までの前記損失水頭の上昇速度を算出する損失水頭演算部と、を備える、凝集剤注入制御装置。
【請求項2】
前記ろ過処理設備がろ材を充填したろ過層を含む、請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項3】
前記水処理設備は、前記凝集剤の注入位置の後段であって前記ろ過処理設備の前段に、前記処理対象水中に形成されたフロックの沈殿処理を行う凝集沈殿処理設備を有する、請求項1記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項4】
前記水処理設備は、前記凝集剤の注入位置の後段であって前記ろ過処理設備の前段に、前記処理対象水中に形成されたフロックの沈殿処理を行う凝集沈殿処理設備を有する、請求項2記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項5】
前記ろ過処理予測部は、前記流入水の濁度、前記流入水の懸濁物質の粒子数、前記流入水のpH、前記流入水の水温、前記流入水の流量、前記ろ過層に含まれるろ材の粒子径、前記ろ材の形状情報、前記ろ過層の層厚、前記凝集剤の注入率のうち少なくとも1つを用いて、前記ろ過処理水の濁度と前記損失水頭の上昇速度とを演算する、請求項2または請求項4に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項6】
前記ろ過処理予測部は、前記流入水の濁度、前記流入水の懸濁物質の粒子数、前記流入水のpH、前記流入水の水温、前記流入水の流量、前記凝集剤の注入率のうち少なくとも1つを用いて、前記ろ過処理水の濁度と前記損失水頭の上昇速度とを演算する、請求項3に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項7】
前記凝集剤注入制御部は、前記凝集剤注入後の処理水に含まれる懸濁物質の荷電状態を指標として、前記凝集剤の注入量率を制御する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項8】
処理対象水に凝集剤を注入する凝集剤注入設備と、前記凝集剤の注入位置よりも後段に配置され前記処理対象水のろ過処理を行うろ過処理設備と、を有した固液分離を行う水処理設備に適用可能な制御方法であって、
ろ過が進行するにつれて変化する時間の関数であるろ過係数を用いて前記処理対象水中の懸濁物質の除去量を演算し、所定時間先までの前記ろ過処理設備を通過したろ過処理水の濁度を算出するとともに、層流状態の粒状層の流れの圧力損失を表す式を用いて圧力損失の時間変化を算出し、所定時間先までの前記ろ過処理設備における損失水頭の上昇速度を算出し、
前記ろ過処理水の濁度の目標値および前記損失水頭の上昇速度の目標値を設定し、演算した前記ろ過処理水の濁度と前記損失水頭の上昇速度値が前記目標値を達成するための、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を算出し、
前記流入水の濁度が前記最大値を超えないように、前記処理対象水に注入される前記凝集剤の注入率を制御する、凝集剤注入制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の固形分を除去する固液分離工程は、上水、下水、産業排水などの水処理において重要な役割を果たす処理工程である。凝集剤を添加し、水中の微細な固形分を凝集させ、そのまま或は沈殿処理工程を経てからろ過処理することで固液分離を行う工程は、固液分離工程の中でも最も一般的に用いられている方法である。例えば、浄水場では、原水に凝集剤を添加することで原水に含まれる微細な懸濁成分を互いに凝集させ、フロックと呼ばれる懸濁成分の集合体とする。大きさ数ミリメートルから数センチメートル程度まで成長したフロックは沈降速度が大きくなり、沈殿処理により分離除去できる。上澄みの清澄な水は、砂をろ材に用いた砂ろ過の層に通すことで僅かに残留していた微細な懸濁成分やフロックが除去され、水道水質基準を満たす非常に低濁度の水が得られる。
【0003】
一般的に、凝集剤を添加し、フロックを形成して沈殿分離する工程を凝集沈殿工程、砂などのろ材を用いたろ層にて懸濁成分をろ過分離する工程をろ過工程と呼ぶ。凝集沈殿工程では、沈降性の良いフロックを形成し、凝集沈殿処理水の濁度を低く保つよう適切な凝集剤注入率を維持する必要がある。凝集剤注入率に過不足が生じると、凝集沈殿処理にてフロックを沈殿処理しきれずに後段のろ過工程に供給してしまい、ろ過池の損失水頭の上昇を早め、その結果として逆洗頻度を増加させてしまう。また、微細な懸濁成分がろ過池で除去しきれずにろ過不十分の水を送水してしまう。従って、凝集沈殿工程において凝集剤の注入量をうまく調整し、凝集処理工程で最適な処理がなされるよう管理し、後段のろ過工程に水を送るのが一般的な方法である。そのため、凝集剤の注入制御には様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1では、混和池20の水を採取し電圧を印加して複数のフロックの移動速度を測定し、その結果からフロックの凝集状態の良否を評価して、凝集剤の注入制御を行う方法が提案されている。これにより、原水の水質特性に基づいて適切な凝集条件に設定した運転を実現できる。
【0005】
また、例えば特許文献2では、ろ過工程について、重力式ろ過装置にて、原水量が変化した場合にろ過装置1台あたりのろ過速度の変化を一定範囲内になるように調整する方法が提案されている。処理水を原水に返送することで処理量を一定とでき、安定したろ過運転を持続できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-054603号公報
【文献】特開2012-045448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、凝集沈殿工程とろ過工程との各々に対し運転を最適化するような方法が多く提案されているが、両者を一体として適切な運転を行う方法は提案されていない。実際の運転では、凝集沈殿工程を最適となるような運転管理をしていることから、ろ過工程には処理能力に余裕があり、ろ層で除去される懸濁物質がほとんどなくろ層の損失水頭がほとんど上昇しない場合もある。このような場合、ろ層での微生物増加を抑えるために、損失水頭が十分に低くても一定時間経過する毎に逆洗を行う必要がある。例えば、凝集沈殿工程とろ過工程との両者を一体として捉え、ろ過工程にもある程度処理の負荷を分担するような運転管理を行うことができれば、凝集沈殿工程の負担を軽減し、凝集剤の使用量をより低く抑えるような運転が可能となる。
【0008】
本発明の実施形態は上記の事情を鑑みて成されたものであって、適切な凝集剤の注入制御を行う凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態による凝集剤注入制御装置は、処理対象水に凝集剤を注入する凝集剤注入設備と、前記凝集剤の注入位置よりも後段に配置され前記処理対象水のろ過処理を行うろ過処理設備と、を有した固液分離を行う水処理設備に適用可能な装置であって、前記ろ過処理設備を通過したろ過処理水の濁度と損失水頭の上昇速度とを演算するろ過処理予測部と、前記ろ過処理水の濁度の目標値および前記損失水頭の上昇速度の目標値を設定し、前記ろ過処理予測部で算出される値が前記目標値を達成するための、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を算出する目標値算出部と、前記流入水の濁度が、前記最大値を超えないように、前記処理対象水に注入される前記凝集剤の注入率を制御する凝集剤注入制御部と、を備え、前記ろ過処理予測部は、ろ過が進行するにつれて変化する時間の関数であるろ過係数を用いて前記処理対象水中の懸濁物質の除去量を演算し、所定時間先までの前記ろ過処理水の濁度を算出する濁質除去量演算部と、層流状態の粒状層の流れの圧力損失の式を用いて圧力損失の時間変化を算出し、所定時間先までの前記損失水頭の上昇速度を算出する損失水頭演算部と、を備える
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置の一構成例を概略的に示す図である。
図2図2は、一実施形態の凝集剤注入制御方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、一実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置の一構成例を概略的に示す図である。
【0012】
なお、本実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置が適用される水処理システムは、上水、下水のいずれの水処理システムであり得る。以下の説明では、浄水場における上水の浄化処理システムに適用した例を一例として説明する。
一般的に浄水場における水処理システムは、着水井10と、混和池20と、フロック形成池30と、沈殿池40とを備えている。
【0013】
処理すべき原水は着水井10に取り込まれ、着水井10から混和池20に処理対象水が送られる。着水井10から混和池20へ処理対象水が送られる経路には、流量計S1と水質計S2とが取り付けられる。流量計S1は、混和池20へ流入する処理対象水の流量を計測する。水質計S2は、混和池20へ流入する処理対象水の濁度、懸濁物質の粒子数、pH、水温等の水質を計測する。なお、水質計S2は、処理対象水の濁度、懸濁物質の粒子数、pH、水温等の水質を計測する個々の計測器を備え得る。流量計S1と水質計S2との計測結果は、凝集剤注入制御装置60へ供給される。
【0014】
混和池20には着水井10から処理対象水が送られるとともに、凝集剤注入設備50から凝集剤が注入される。ここで、凝集剤は、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウム(硫酸ばんど)といったアルミ系の無機凝集剤を用いることができる。このうち、浄水場においてはPACが主に用いられる。凝集剤注入設備50は、凝集剤注入制御装置60から入力される注入量を指定する情報に従って、混和池20に注入する凝集剤の注入量を調整する。
【0015】
混和池20は撹拌機22を含み、撹拌機22の回転によって処理対象水が攪拌され凝集剤との混和が促進される。混和池20から排出される処理対象水は、フロック形成池30へと送られる。
混和池20には、フロック形成池30へ送られる処理対象水(混和地出口水)のゼータ電位または流動電位(電流)を計測する水質計S3が取り付けられていてもよい。水質計S3の計測結果は、凝集剤注入制御装置60に供給される。
【0016】
フロック形成池30では、混和池20において形成されたフロックが凝集し、より大きなフロックが形成される。フロック形成池30は、例えば処理対象水を緩速撹拌する緩速撹拌装置を有する。緩速撹拌装置は、下流に向けて段階的に撹拌の強度が小さくなるように設定されている。これにより、処理対象水中のフロック同士の衝突が繰り返されることとなり、フロックが巨大化して沈降しやすくなる。フロック形成池30でフロックが大きくなった後、処理対象水が沈殿池40へと送られる。
【0017】
沈殿池40では、フロック形成池30から供給される水を所定時間(例えば3時間程度)以上滞留させて、水に含まれるフロックを沈殿させる。沈殿池40で処理対象水を所定時間以上滞留させ、処理対象水中のフロックが沈殿除去された後、次工程であるろ過処理設備へ処理対象水が移送される。沈殿池40で大きく成長して沈殿したフロックは、汚泥として排泥池へ排出される。沈殿池40には例えば傾斜板が配置されてもよい。傾斜板によりフロックの成長が促進され、フロックの沈降性を高める場合もある。
なお、排泥池には、排泥池水位を計測する計測装置S10が取り付けられていてもよい。計測装置S10の計測結果は、凝集剤注入制御装置60に供給される。
【0018】
沈殿池40には、フロックが沈澱除去される位置の後段に水質計S4が取り付けられる。水質計S4は、沈殿池40から排出される水(処理対象水)のpHや濁度や色度、有機物濃度、懸濁質の粒子数等の水質情報を計測し、計測結果(処理対象水の水質情報)を凝集剤注入制御装置60に出力する。なお、沈殿池40の処理対象水の水質情報は、沈殿池40からろ過処理設備へ送られる水が貯水される位置に設けられた水質計S5により計測されてもよい。また、水質計S4と水質計S5とは少なくとも一方が取り付けられていればよく、水質計S4、S5のいずれか一方が凝集剤の注入位置よりも後段に取り付けられていればよい。
【0019】
ろ過処理設備のろ過池70では、ろ過層において例えば砂ろ過により、沈殿池40で沈殿除去されなかったフロックや懸濁物質が除去される。ろ過池70によりフロックや懸濁物質が除去された清浄水は、図示しない浄水配水池において塩素による殺菌等が行われた後、配水管へと分配される。なお、ろ過池70で除去されたフロックや懸濁物質を洗浄する際に生じる排水は排水池へ排出され、上澄みの比較的清澄な水は排水池から着水井10へ供給される。
なお、排水池には、排水池水位を計測する計測装置S11が取り付けられてもよい。計測装置S11の計測結果は、凝集剤注入制御装置60に供給される。
【0020】
ろ過処理設備には、ろ過処理設備の損失水頭を計測する損失水頭計測装置S7と、ろ過処理水濁度を計測する計測装置S8とが取り付けられている。また、ろ過処理設備の流量を計測する流量計S6と流量計S9との少なくとも一方が取り付けられている。流量計S6は、ろ過池70に流入する処理対象水の流量を計測する。流量計S9は、ろ過池70から排出される処理対象水の流量を計測する。損失水頭計測装置S7、計測装置S8、流量計S6および流量計S9の計測結果は、凝集剤注入制御装置60へ供給される。
ろ過処理設備で処理された後の処理対象水には塩素が加えられ、配水池(図示せず)を介して配水管へと水が分配される。なお、処理対象水は、砂ろ過に通される前に、適宜、オゾン処理や生物活性炭処理が施されたりする場合もある。
【0021】
凝集剤注入制御装置60は、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を含む演算装置である。凝集剤注入制御装置60は、ソフトウエアにより、若しくは、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより、種々の機能を実現することが出来る。
【0022】
凝集剤注入制御装置60は、ろ過処理予測部62と、目標値算出部64と、凝集剤注入制御部66と、を備えている。
ろ過処理予測部62は、ろ過池70への流入水質の情報として、例えば、沈殿処理水の濁度、懸濁物質の粒子数、pH、水温、運転の情報として、流量、ろ層の砂の粒子径、形状情報、砂層の層厚、凝集剤の注入率を用い、ろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度を算出する。ろ過処理予測部62は、濁質除去量演算部621と、損失水頭演算部622とを備えている。
【0023】
目標値算出部64は、ろ過池の運転管理上の管理目標値としてろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度を設定する。そして、上記管理目標値を満足するろ過池への流入水質として、沈殿処理水の濁度の目標値(最大値)と、懸濁物質の粒子数の目標値(最大値)を算出する。なお、懸濁物質の粒子数の目標値は、例えば、ある特定の粒径範囲の懸濁物質の粒子数である。
【0024】
凝集剤注入制御部66は、目標値算出部64で算出した沈殿処理水の濁度の目標値(最大値)、または懸濁物質の粒子数の目標値(最大値)を超えないように凝集沈殿処理がなされるよう凝集剤注入率を制御する。
【0025】
次に、本実施形態の凝集剤注入制御装置60の動作の一例について説明する。
図2は、一実施形態の凝集剤注入制御方法の一例を説明するためのフローチャートである。
まず、ろ過処理予測部62は、ろ過池への流入水質の情報、運転の情報から、ろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度を算出する(ステップS1)。
【0026】
濁質除去量演算部621は、ろ過池70のろ層を処理水が通過する際に濁質が一定の割合で除去されていくと考えるIwasakiの下記式を基本として、水中の懸濁物質の除去量を演算し、ろ過処理水濁度を算出する。
【数1】
(C(個/mL):懸濁物質の濃度、z(cm):ろ層の深さ)
【0027】
ろ過係数λは、流量、ろ層を構成する砂径や砂の形状などの情報、ろ層の空隙率ε、流入水中の懸濁物質の粒子径、流入水質に残存する凝集剤の量などに影響を受ける係数である。ろ過が進むにつれてろ層に流入水中の懸濁物質が捕捉されろ過処理される過程でろ層の空隙率εが変化する(εが時間の関数である)ため、λもろ過が進行するにつれて変化する時間の関数となる。
【0028】
濁質除去量演算部621は、ろ過池への流入水質の情報として、沈殿処理水の濁度、懸濁物質の粒子数、pH、水温、運転の情報として、流量、ろ層の砂の粒子径、形状情報、砂層の層厚、凝集剤の注入率を用いて、時間的に変化する係数としてλを算出する。演算する際、濁質除去量演算部621は、その時点(演算時点)のεを用いてλを算出し、ろ過処理水濁度を算出し、その時点の流入水質情報、及び運転情報が継続すると仮定して、εとλとの時間変化を考慮しつつ、数時間先までのろ過処理水濁度を演算結果として算出する。
【0029】
損失水頭演算部622は、層流状態の粒状層の流れの圧力損失の式であるKozeny-Carmanの下記式を基本として、ろ層の損失水頭を演算する。
【数2】
Δp:g/cm/s 圧力損失(1g/cm/s=0.1Pa)
L :cm 粒子充填層の高さの合計
:cm/s 空塔速度(充填層がない状態を仮定したときの速度)(=ろ過速度)
μ :g/cm/s 流体の粘性係数
ε :- 気孔率(=ろ層の空隙率)
Φ :- 充填層内の粒子の球形度
:cm 粒子の球相当径
損失水頭演算部622は、時間に応じて変化するろ層の空隙率εを用いて上記数式を演算し、圧力損失Δpの時間変化を算出し、数時間先までの損失水頭の上昇速度を演算結果として出力する。
上記のように、ろ過処理予測部62は、現状のろ過池への流入水質の情報、運転の情報から、ろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度を算出することができる。
【0030】
目標値算出部64では、まず、ろ過池の運転管理上の管理目標値としてのろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度を設定する(ステップS2)。
また、目標値算出部64は、沈殿処理水の濁度(ろ過池への流入水の濁度)を変更して、ろ過処理予測部62に入力する。目標値算出部64は、設定したろ過処理水濁度、ろ過池の損失水頭の上昇速度の管理目標値を満たす最大の沈殿処理水の濁度が得られるまで、ろ過処理予測部62に変更した沈殿処理水の濁度を繰り返し入力する。沈殿処理水の濁度の最適化する手法としては、GA(遺伝的アルゴリズム)や線形計画法などを採用することができる。なお、最適化の演算速度は30秒以内となるような演算設定が望ましい。
【0031】
凝集剤注入制御部66は、目標値算出部64で算出した沈殿処理水の濁度の目標値上限を下回るように凝集剤注入率を制御する(ステップS3)。凝集剤注入制御の方法は、オペレータによる手動の凝集剤注入率設定であってもよく、フィードフォワード制御であってもよく、フィードバック制御であってもよい。オペレータによる手動操作の場合、例えば、原水濁度などに応じて凝集剤注入率を定める対応表に従って注入率を決定する方法などがある。目標値算出部64で算出される沈殿処理水の濁度の目標値が高い場合と、低い場合となど、複数の場合に対しても同様の対応表を作成しておくことで注入率を決定することができる。
【0032】
フィードフォワード制御においても、同様の考え方として、例えば、目標値算出部64で算出される沈殿処理水の濁度の目標値が高い場合と低い場合となど、複数の場合に対して、各々フィードフォワード制御での凝集剤注入率算出式に係数を設けるなどで対応できる。
【0033】
フィードバック制御を行う場合、凝集剤注入制御部66は、例えば混和地出口水のゼータ電位や流動電位など、凝集剤添加後の処理対象水に含まれる懸濁物質の荷電状態を測定しながら、凝集剤添加により原水中の懸濁物質の表面電荷の荷電中和状況を連続的に計測して凝集剤注入制御を行うことができる。この場合、制御目標値として設定するゼータ電位や流動電位などの数値を、目標値算出部64で算出される沈殿処理水の濁度に応じて変更させることで対応できる。目標値算出部64で算出される沈殿処理水の濁度が高い場合は、凝集沈殿工程での処理の負荷を少し下げた運転が可能なため、混和地での凝集剤による荷電中和は少し弱くてもよく、制御目標値として設定するゼータ電位や流動電位などの数値を少しマイナスよりの値を設定する。制御周期は1~10分程度が望ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置によれば、ろ過工程での処理結果を予測でき、当該予測結果を元にろ過工程に適切な処理負荷を分担させるような凝集沈殿工程の処理水質の目標値を算出でき、算出した目標値をもとに凝集剤注入制御を運用することで、凝集沈殿工程が常に最適処理を発揮するような凝集剤注入率に比べてトータルで凝集剤注入率を低減しつつ、ろ過工程の処理水質である濁度は同程度を維持する運転を実現ことができる。
【0035】
また、本実施形態の凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置によれば、トータルで凝集剤注入率を低減できることから、排水処理への負荷を軽減でき、汚泥発生量を削減することができる。
【0036】
すなわち、本実施形態によれば、適切な凝集剤の注入制御を行う凝集剤注入制御方法および凝集剤注入制御装置を提供することができる。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
[付記1]
処理対象水に凝集剤を注入する凝集剤注入設備と、前記凝集剤の注入位置よりも後段に配置されろ過処理を行うろ過処理設備と、を有した固液分離を行う水処理設備に適用可能な装置であって、
前記ろ過処理設備における処理水濁度と損失水頭の上昇速度とを演算するろ過処理予測部と、
前記ろ過処理設備の処理水濁度の目標値および前記損失水頭の上昇速度の目標値を設定し、前記ろ過処理予測部で算出される値が前記目標値を達成するための、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を算出する目標値算出部と、
前記ろ過処理設備における処理水濁度が、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を超えないように、前記処理対象水に注入される前記凝集剤の注入率を制御する凝集剤注入制御部と、
を備えた凝集剤注入制御装置。
[付記2]
前記ろ過処理設備がろ材を充填したろ過層を含む、付記1に記載の凝集剤注入制御装置。
[付記3]
前記水処理設備は、前記凝集剤の注入位置の後段であって前記ろ過処理設備の前段に、前記処理対象水中に形成されたフロックの沈殿処理を行う凝集沈殿処理設備を有する、付記1記載の凝集剤注入制御装置。
[付記4]
前記水処理設備は、前記凝集剤の注入位置の後段であって前記ろ過処理設備の前段に、前記処理対象水中に形成されたフロックの沈殿処理を行う凝集沈殿処理設備を有する、付記2記載の凝集剤注入制御装置。
[付記5]
前記ろ過処理予測部は、前記ろ過処理設備への流入水の濁度、前記流入水の懸濁物質の粒子数、前記流入水のpH、前記流入水の水温、前記流入水の流量、前記ろ過層に含まれるろ材の粒子径、前記ろ材の形状情報、前記ろ過層の層厚、前記凝集剤の注入率のうち少なくとも1つを用いて、前記ろ過処理設備における処理水濁度と前記損失水頭の上昇速度とを演算する、付記2または付記4に記載の凝集剤注入制御装置。
[付記6]
前記ろ過処理予測部は、前記ろ過処理設備への流入水の濁度、前記流入水の懸濁物質の粒子数、前記流入水のpH、前記流入水の水温、前記流入水の流量、前記凝集剤の注入率のうち少なくとも1つを用いて、前記ろ過処理設備における処理水濁度と前記損失水頭の上昇速度とを演算する、付記3に記載の凝集剤注入制御装置。
[付記7]
前記凝集剤注入制御部は、前記凝集剤注入後の処理水に含まれる懸濁物質の荷電状態を指標として、前記凝集剤の注入量率を制御する、付記1乃至付記6のいずれか記載の凝集剤注入制御装置。
[付記8]
処理対象水に凝集剤を注入する凝集剤注入設備と、前記凝集剤の注入位置よりも後段に配置されろ過処理を行うろ過処理設備と、を有した固液分離を行う水処理設備に適用可能な制御方法であって、
前記ろ過処理設備における処理水濁度と損失水頭の上昇速度とを演算し、
前記ろ過処理設備の処理水濁度の目標値および前記損失水頭の上昇速度の目標値を設定し、演算した前記ろ過処理設備における処理水濁度と前記損失水頭の上昇速度値が前記目標値を達成するための、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を算出し、
前記ろ過処理設備における処理水濁度が、前記ろ過処理設備の流入水濁度の最大値を超えないように、前記処理対象水に注入される前記凝集剤の注入率を制御する、凝集剤注入制御方法。
【符号の説明】
【0038】
10…着水井、20…混和池、22…撹拌機、30…フロック形成池、40…沈殿池、50…凝集剤注入設備、60…凝集剤注入制御装置、62…過処理予測部、64…目標値算出部、66…凝集剤注入制御部、621…濁質除去量演算部、622…損失水頭演算部、S1、S6、S9…流量計、S8、S10-S11…計測装置、S7…損失水頭計測装置、S2-S5…水質計
図1
図2