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特許7614981使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法および使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法および使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/40 20060101AFI20250108BHJP
   G21C 17/06 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
G21C19/40 100
G21C17/06 070
G21C17/06 010
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021137126
(22)【出願日】2021-08-25
(65)【公開番号】P2023031564
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】小田 直敬
(72)【発明者】
【氏名】小田中 滋
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特公平04-026718(JP,B2)
【文献】特許第3651716(JP,B2)
【文献】特開2012-163379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/00-19/50
G21C 23/00
G21C 17/00-17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合酸化物燃料を有する混合酸化物燃料集合体が原子炉内で燃焼した後の使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界管理方法であって、
前記混合酸化物燃料集合体の臨界安全評価を行う臨界安全評価ステップと、
前記臨界安全評価ステップの結果を用いて前記使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界安全管理を行う燃料集合体臨界安全管理ステップと、
を有し、
前記臨界安全評価ステップは、
前記混合酸化物燃料集合体の前記原子炉内での燃焼特性を評価し、当該混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するMOX燃料燃焼特性評価ステップと、
前記使用済み混合酸化物燃料集合体の燃焼度を得る対象集合体燃焼度取得ステップと、
前記混合酸化物燃料集合体と共通の仕様を有するウラン燃料集合体について前記原子炉内での燃焼特性を評価し、当該ウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するウラン燃料燃焼特性評価ステップと、
前記MOX燃料燃焼特性評価ステップで得られた前記混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への前記依存特性と、前記対象集合体燃焼度取得ステップで得られた前記使用済み混合酸化物燃料集合体の燃焼度とに基づいて、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の無限増倍率を導出するMOX燃料無限増倍率導出ステップと、
前記使用済み混合酸化物燃料集合体の無限増倍率に基づいて前記ウラン燃料集合体が前記原子炉内で燃焼した後の使用済みウラン燃料集合体の等価残留ウラン濃縮度を導出する使用済みウラン燃料等価条件導出ステップと、
を有し、
前記燃料集合体臨界安全管理ステップにおいては、前記等価残留ウラン濃縮度を有する前記使用済みウラン燃料集合体の臨界安全管理を、前記使用済み混合酸化物燃料集合体に適用する、ことを特徴とする使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項2】
前記燃料集合体臨界安全管理ステップは、質量管理、形状・寸法管理、濃度管理、減速材管理の少なくともいずれかを行うことを特徴とする請求項1に記載の使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項3】
混合酸化物燃料を有する混合酸化物燃料集合体が原子炉内で燃焼した後の使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界管理方法であって、
前記混合酸化物燃料集合体の臨界安全評価を行う臨界安全評価ステップと、
前記臨界安全評価ステップの結果を用いて前記使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界安全管理を行う燃料集合体臨界安全管理ステップと、
を有し、
前記臨界安全評価ステップは、
前記混合酸化物燃料集合体の前記原子炉内での燃焼特性を評価し、当該混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するMOX燃料燃焼特性評価ステップと、
前記混合酸化物燃料集合体と共通の仕様を有するウラン燃料集合体について前記原子炉内での燃焼特性を評価し、当該ウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するウラン燃料燃焼特性評価ステップと、
前記ウラン燃料集合体が前記原子炉内で燃焼した後の使用済みウラン燃料集合体の残留ウラン濃縮度の制限値を設定するウラン燃料残留濃縮度制限値設定ステップと、
前記使用済みウラン燃料集合体の前記残留ウラン濃縮度の制限値に基づいて、前記使用済みウラン燃料集合体の燃焼度制限値を導出する使用済みウラン燃料集合体燃焼度制限値導出ステップと、
前記ウラン燃料燃焼特性評価ステップで算出された前記ウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への前記依存特性と、前記使用済みウラン燃料集合体燃焼度制限値導出ステップで導出された前記使用済みウラン燃料集合体の前記燃焼度制限値とに基づいて、前記使用済みウラン燃料集合体の無限増倍率の制限値を導出するウラン燃料集合体無限増倍率制限値導出ステップと、
前記MOX燃料燃焼特性評価ステップで算出された前記混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への前記依存特性と、前記ウラン燃料集合体無限増倍率制限値導出ステップで導出された前記使用済みウラン燃料集合体の無限増倍率の前記制限値とに基づいて、前記混合酸化物燃料集合体の燃焼度の制限値を導出する混合酸化物燃料集合体燃焼度制限値導出ステップと、
を有し、
前記燃料集合体臨界安全管理ステップにおいては、前記混合酸化物燃料集合体燃焼度制限値導出ステップで導出された前記混合酸化物燃料集合体の燃焼度の前記制限値に基づいて、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の受け入れを制限する、
ことを特徴とする使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項4】
前記MOX燃料燃焼特性評価ステップは、
前記混合酸化物燃料集合体の幾何形状、前記混合酸化物燃料の新燃料の初期組成、比出力並びに沸騰水型原子炉燃料においてはボイド率、加圧水型原子炉燃料においてはホウ酸濃度の時間的履歴を含む燃焼計算条件を設定するMOX燃料集合体燃焼計算条件設定ステップと、
前記MOX燃料集合体燃焼計算条件設定ステップで設定された燃焼計算条件に基づいて前記混合酸化物燃料集合体の前記原子炉内での燃焼履歴を算出するMOX燃料集合体燃焼計算ステップと、
前記MOX燃料集合体燃焼計算ステップで得られた前記混合酸化物燃料集合体の前記燃焼履歴に基づいて、前記混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を導出するMOX燃料集合体燃焼特性導出ステップと、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項5】
前記MOX燃料集合体燃焼計算条件設定ステップにおいては、前記混合酸化物燃料集合体に含まれる材料の密度、前記混合酸化物燃料集合体の幾何形状、前記混合酸化物燃料の初期燃料の同位体組成、比出力の時間的履歴に関しての設計上の違いを考慮し、最も無限増倍率が高くなる代表的燃料集合体を用いることを特徴とする請求項4に記載の使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項6】
前記ウラン燃料燃焼特性評価ステップは、
前記ウラン燃料集合体の幾何形状、ウラン燃料の新燃料の初期組成、比出力並びに沸騰水型原子炉燃料においてはボイド率、加圧水型原子炉燃料においてはホウ酸濃度の時間的履歴を含む燃焼計算条件を設定するウラン燃料集合体燃焼計算条件設定ステップと、
前記ウラン燃料集合体燃焼計算条件設定ステップで設定された燃焼計算条件に基づいて前記ウラン燃料集合体の前記原子炉内での燃焼履歴を算出するウラン燃料集合体燃焼計算ステップと、
前記ウラン燃料集合体燃焼計算ステップで得られた前記ウラン燃料集合体の前記燃焼履歴に基づいて、前記ウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を導出するウラン燃料集合体燃焼特性導出ステップと、
を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法。
【請求項7】
混合酸化物燃料を有する混合酸化物燃料集合体が原子炉内で燃焼した後の使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界安全管理のために、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界安全評価を行う使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置であって、
対象とする前記混合酸化物燃料集合体の仕様、これに対応するものとして想定されたウラン燃料集合体の仕様、前記原子炉内での運転履歴を含む演算用データである外部入力を受け入れる入力部と、
前記入力部が受け入れた前記外部入力を記憶する記憶部と、
前記混合酸化物燃料集合体および前記ウラン燃料集合体の燃焼計算を行い、前記ウラン燃料集合体の使用済みウラン燃料集合体の等価残留濃縮度を導出する演算部と、
を備えることを特徴とする使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法および使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軽水炉では、燃料として、ウラン酸化物(UO2)を用いたウラン燃料が用いられてきた。ウラン燃料を軽水炉で燃焼させた使用済み燃料(使用済みウラン燃料)は再処理工場に送られ、燃え残ったウランや燃料中に生成したプルトニウムが抽出され、新たに混合酸化物燃料(MOX燃料)のために再利用される。
【0003】
ウラン燃料には、初期には多くの核分裂性のウラン235が含まれる。初期に全ウラン中に含まれるウラン235の含有率は初期濃縮度と呼ばれ、燃料集合体平均で3~4%程度である。使用済みウラン燃料におけるウラン235の濃縮度は、ウランの核分裂による減損により1~2%程度までに減少している。しかしながら、使用済みウラン燃料にもまだ核分裂の能力が残っており、使用済み燃料再処理工場においては、使用済みウラン燃料が「臨界」とならないように、臨界安全管理を行う必要がある。
【0004】
ここで、臨界安全管理とは、核燃料物質が誤って臨界になることがないように管理することである。すなわち、核燃料物質は所定の物理的条件を満たすと臨界になり、大事故に至る可能性があるので、そのような条件にならないように管理する。具体的な管理方法として、質量管理、形状・寸法管理、濃度管理、減速材管理などを行う。
【0005】
臨界安全管理を行う上では、対象とするたとえば燃料集合体の中に残存する核分裂性物質の量を評価して把握する臨界安全評価が重要である。以下では、「臨界安全評価」と「臨界安全管理」を総称して「臨界管理」と総称することとする。
【0006】
臨界安全評価において、核燃料物質の残存量の想定として最も保守的な方法は、「新燃料仮定」と呼ばれる方法である。この方法では、使用済み燃料が燃焼していない、すなわち核分裂性物質が減少していないものと仮定する。この条件の下で、使用済み燃料の配置や核分裂を抑制する中性子吸収材の配置を決める等の臨界安全管理を行う。したがって、コストは上昇する。
【0007】
そこで、コスト上昇を抑えるために、燃料の燃焼に伴い使用済み燃料の反応度が低下することを考慮して、臨界安全評価を行う「燃焼度クレジット」と呼ばれる合理的な方法が提案されている。
【0008】
燃焼度クレジットを採用するためには、燃料の燃焼度を把握する必要がある。そのために、使用済み燃料からのγ線の測定や中性子の測定を行い、その測定結果に基づいて燃料の燃焼度を非破壊で評価する手法および装置が知られている。
【0009】
核燃料についての臨界になりやすさの指標として、中性子増倍率kが用いられる。中性子増倍率kは(中性子の生成)/(中性子の消滅)で定義され、評価対象とする燃料集合体が無限に配置されていると仮定した場合の中性子増倍率kは無限増倍率k∞として知られている。
【0010】
ウラン燃料集合体の燃焼に伴い、ウランの濃縮度が低下し、この無限増倍率k∞が減少することによって、臨界になりにくくなる。従来の使用済みウラン燃料の再処理工場では、無限増倍率k∞が一定値以上に低下している、すなわち、燃料がある燃焼度(制限燃焼度)以上に燃焼していることを受け入れ条件とする受け入れ制限を設けている。制限燃焼度に対応するウラン濃縮度(残留濃縮度)に基づいて、臨界安全設計を行っている。これは残留濃縮度管理と呼ばれる。残留ウラン濃縮度については、γ線や中性子測定を用いて燃焼度を評価し、得られた燃焼度から残留濃縮度を算出している。
【0011】
一方、今後、MOX燃料の利用が進むと、MOX燃料の使用済み燃料が発生する。MOX燃料の使用済み燃料も、ウラン燃料の使用済み燃料と同様に、再処理工場において、燃焼度クレジットを考慮した合理的な臨界安全管理を行うために、残留濃縮度管理を行う必要がある。MOX燃料の燃焼度評価方法についてはこれまでも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3651716号公報
【文献】特許第3628111号公報
【文献】特公平04-026718号公報
【文献】特許第5752467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
MOX燃料の場合は、ウランではなくプルトニウムが核分裂性物質である。プルトニウムには、核分裂性の同位体であるPu239やPu241の他に核分裂を起こしにくいPu240やPu242も含まれる。MOX燃料の新燃料中のPu同位体組成にはある程度ばらつきがある。これは、使用済みウラン燃料の運転履歴により、生成されるPu同位体組成がばらつくことによる。例えば、より高燃焼度のウラン燃料は、低燃焼度のウラン燃料より全Pu同位体中のPu240やPu242の割合が大きいことが知られている。また、MOX燃料の製造時は、反応度のばらつきを抑えるために、Pu中の核分裂性同位体(Pu239とPu241)を保存するように燃料中に全Pu同位体が含まれる量(プルトニウム初期富化度)が調整される。これは「反応度補償設計」と呼ばれる。この結果、Pu240やPu242の核分裂性でないPuの割合のばらつきはさらに増加する。
また、MOX燃料とウラン燃料は燃焼に伴う無限増倍率の変化が異なり、単純に燃焼したMOX燃料に含まれるプルトニウムの量を残留富化度として、残留ウラン濃縮度に置き換えて臨界安全管理を行うことは困難である。
【0014】
さらに、残留富化度に基づき、新たな臨界安全設計を行うことは、設備や設計の変更が伴い、コスト上昇につながるという課題がある。
【0015】
MOX燃料などの初期にプルトニウムを含む使用済み燃料の取り扱い施設の臨界安全管理に燃焼度クレジットを取り入れる際には、設備更新等のコストの上昇を抑制するための合理的な臨界安全管理方法が望ましい。
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、使用済み混合酸化物燃料の臨界安全管理を、既存設備を用いて合理的に行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
実施形態によれば、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法は、混合酸化物燃料を有する混合酸化物燃料集合体が原子炉内で燃焼した後の使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界管理方法であって、前記混合酸化物燃料集合体の臨界安全評価を行う臨界安全評価ステップと、前記臨界安全評価ステップの結果を用いて前記使用済み混合酸化物燃料集合体の臨界安全管理を行う燃料集合体臨界安全管理ステップと、を有し、前記臨界安全評価ステップは、前記混合酸化物燃料集合体の前記原子炉内での燃焼特性を評価し、当該混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するMOX燃料燃焼特性評価ステップと、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の燃焼度を得る対象集合体燃焼度取得ステップと、前記混合酸化物燃料集合体と共通の仕様を有するウラン燃料集合体について原子炉内での燃焼特性を評価し、当該ウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性を算出するウラン燃料燃焼特性評価ステップと、前記MOX燃料燃焼特性評価ステップで得られた前記混合酸化物燃料集合体の無限増倍率の燃焼度への依存特性と、前記対象集合体燃焼度取得ステップで得られた前記使用済み混合酸化物燃料集合体の燃焼度とに基づいて、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の無限増倍率を導出するMOX燃料無限増倍率導出ステップと、前記使用済み混合酸化物燃料集合体の無限増倍率に基づいて前記ウラン燃料集合体の等価残留ウラン濃縮度を導出するウラン燃料等価条件導出ステップと、を有し、前記燃料集合体臨界安全管理ステップにおいては、前記ウラン燃料集合体の等価残留ウラン濃縮度に基づく使用済みウラン燃料集合体の臨界安全管理を、前記使用済み混合酸化物燃料集合体に適用する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図である。
図2】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の対象となるMOX燃料集合体の例を示す横断面図である。
図4】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法におけるMOX燃料集合体の無限増倍率の燃焼度依存特性の算出ステップで得られる特性の例を示すグラフである。
図5】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法における燃焼度評価のための測定を説明するブロック図である。
図6】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法で用いるウラン燃料集合体の例を示す横断面図である。
図7】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法におけるウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度依存特性の算出ステップで得られる残留ウラン濃縮度の燃焼度への依存特性の例を示すグラフである。
図8】第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を説明するグラフである。
図9】第2の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法において用いるモデルバンドルの例を示す横断面図である。
図10】第3の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法および使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図である。
【0021】
使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法は、臨界安全評価ステップS100と、燃料集合体臨界安全管理ステップS200を有する。
【0022】
臨界安全評価ステップS100は、混合酸化物燃料集合体(以下、「MOX燃料集合体」)の燃焼特性評価を行うステップS10、使用済みMOX燃料集合体の燃焼度を取得するステップS20、ステップS10とステップS20の結果に基づいて使用済みMOX燃料集合体の無限増倍率を導出するステップS30、ウラン燃料集合体(以下、「U燃料集合体」)の燃焼特性評価を行うステップS40、および、ステップS30とステップS40の結果に基づいて使用済みウラン燃料(使用済みU燃料)等価条件を導出するステップS50を有する。
【0023】
図2は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100の構成を示すブロック図である。使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100は、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の臨界安全評価ステップS100に対応する装置である。使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100は、入力部110、記憶部120、演算部130、および出力部140を備える。ここで、使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100は、計算機システムでもよいし、あるいは、PC、モニタ、制御盤等の複数の装置を組み合わせて構成してもよい。
【0024】
入力部110は、対象とするMOX燃料集合体の仕様、対象とするMOX燃料集合体に対応するものとして想定されたU燃料集合体の仕様、原子炉内での運転履歴、燃焼計算に用いられる核定数等の演算用データなどの外部入力を受け入れる。
【0025】
記憶部120は、入力部110が外部入力として受け入れたMOX燃料集合体の仕様、U燃料集合体の仕様、原子炉内での運転履歴、燃焼計算に用いられる核定数等の演算用データをそれぞれ記憶するMOX燃料集合体仕様記憶部121、U燃料集合体仕様記憶部122、運転履歴記憶部123、および演算用データ記憶部124を有する。また、記憶部120は、演算部130による各演算結果を記憶する演算結果記憶部125を有する。
【0026】
演算部130は、燃料集合体燃焼計算条件設定部131、燃料集合体燃焼計算部132、無限増倍率燃焼度依存特性導出部133、使用済みMOX燃料集合体無限増倍率導出部134、使用済みU燃料集合体相当燃焼度導出部135、および使用済みU燃料集合体等価残留濃縮度導出部136を有する。
【0027】
燃料集合体燃焼計算条件設定部131は、記憶部120に収納されているデータから、燃焼計算を実施する条件を設定する。たとえば、燃焼計算対象がMOX燃料集合体の場合は、MOX燃料集合体仕様記憶部121、運転履歴記憶部123、および演算用データ記憶部124から必要なデータを読み出して設定する。また、燃焼計算対象がU燃料集合体の場合は、U燃料集合体仕様記憶部122、運転履歴記憶部123、および演算用データ記憶部124から必要なデータを読み出して設定する。
【0028】
燃料集合体燃焼計算部132は、燃料集合体燃焼計算条件設定部131により設定された燃焼計算条件に基づいて、燃焼計算対象とする燃料集合体の燃焼計算を実施する。燃焼計算には、ORIGENコードなどの燃焼解析コード、あるいは、原子炉製造者あるいは燃料製造者等が独自に開発している燃料集合体設計コードなどが利用できる。
【0029】
無限増倍率燃焼度依存特性導出部133は、燃料集合体燃焼計算部132による燃焼計算の結果に基づいて、燃焼計算対象とする燃料集合体の無限増倍率と燃焼度との関係、すなわち、無限増倍率の燃焼度への依存特性を導出する。
【0030】
使用済みMOX燃料集合体無限増倍率導出部134は、対象とするMOX燃料集合体の使用済み燃料集合体について後述する非破壊燃焼度測定装置50により得られた燃焼度と、対象とするMOX燃料集合体について無限増倍率燃焼度依存特性導出部133により導出された無限増倍率の燃焼度依存特性とに基づいて、使用済みMOX燃料集合体の無限増倍率を導出する。
【0031】
使用済みU燃料集合体相当燃焼度導出部135は、対象とするMOX燃料集合体に対応するU燃料集合体について無限増倍率燃焼度依存特性導出部133により導出された無限増倍率の燃焼度依存特性と、使用済みMOX燃料集合体無限増倍率導出部134により導出された使用済みMOX燃料集合体の無限増倍率とに基づいて、対応するU燃料集合体の相当する燃焼度を導出する。
【0032】
使用済みU燃料集合体等価残留濃縮度導出部136は、使用済みU燃料集合体相当燃焼度導出部135により導出された対応するU燃料集合体の相当する燃焼度に基づいて、当該使用済みU燃料集合体の等価残留濃縮度を導出する。
【0033】
出力部140は、最終的な出力である使用済みU燃料集合体等価残留濃縮度、および演算部130での各要素での演算結果を出力する。なお、入力部110および出力部140は、ユーザインタフェースであってもよい。
【0034】
以下、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順にしたがって、各ステップの内容を説明する。
【0035】
まず、MOX燃料集合体の燃焼特性評価を行うステップS10の内容について説明する。
【0036】
ステップS10においては、まず、燃料集合体燃焼計算条件設定部131が、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の対象とするMOX燃料集合体10(図3参照)の燃焼計算条件を設定する(ステップS11)。
【0037】
図3は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の対象となるMOX燃料集合体10の例を示す横断面図である。
【0038】
臨界管理方法の対象とするMOX燃料集合体は、図3で示すものと異なる構成のものでもよいし、あるいは、加圧水型原子炉(PWR)用のMOX燃料集合体でもよいが、以下は、図3で示すものを例に説明する。
【0039】
図3で例示するMOX燃料集合体10は、沸騰水型原子炉(BWR)用の9×9格子燃料である。MOX燃料集合体10は、46本の高富化度燃料棒11、12本の低富化度燃料棒12、16本の可燃性毒物燃料棒13、2本のウォーターロッド14、およびこれらを側方から取り囲むチャンネルボックス15を有する。
【0040】
ステップS11のMOX燃料集合体10の燃焼計算条件の設定としては、具体的には、新燃料すなわち製造後炉内に装荷する前の状態の燃料としてのMOX燃料集合体10の条件と、新燃料としてのMOX燃料集合体10を炉内に装荷して後の時間的な履歴に関するものがある。
【0041】
新燃料としてのMOX燃料集合体10の条件としては、MOX燃料集合体10の幾何形状、新燃料としてのMOX燃料集合体10の各部すなわち高富化度燃料棒11、低富化度燃料棒12、および可燃性毒物燃料棒13の初期組成がある。軸方向に組成の分布がある場合はこれらを含む。
【0042】
新燃料としてのMOX燃料集合体10を炉内に装荷して後の時間的な履歴に関するものとしては、MOX燃料集合体10の比出力およびボイド率の履歴がある。なお、PWR用のMOX燃料集合体においてはホウ酸濃度の時間的履歴も含む。
【0043】
次に、燃料集合体燃焼計算部132が、ステップS11において設定されたMOX燃料集合体10の燃焼計算条件に基づいて、MOX燃料集合体10の燃焼計算を行う(ステップS12)。
【0044】
次に、無限増倍率燃焼度依存特性導出部133が、ステップS12の燃焼計算の結果から、燃焼度と無限増倍率の相関関係、すなわち無限増倍率の燃焼度への依存特性を導出する(ステップS13)。
【0045】
図4は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法におけるMOX燃料集合体の無限増倍率の燃焼度依存特性の算出ステップで得られる特性の例を示すグラフである。横軸は、燃料集合体の燃焼度(GWd/tHM)すなわち核燃料物質(HM:Heavy Metal)の単位重量当たりの積算熱出力、縦軸は、無限増倍率である。
【0046】
なお、図4では、単純化のため、可燃性毒物の寄与を無視した場合を示しているが、可燃性毒物の寄与を考慮してもよい。破線で示す曲線AはMOX燃料集合体の場合を示す。なお、実線で示す曲線Bは、後述するステップS30において得られるU燃料集合体の場合の無限増倍率の燃焼度依存特性を示す。
【0047】
次に、使用済混合酸化物(MOX)燃料集合体30の燃焼度を取得するステップS20の内容について説明する。
【0048】
まず、MOX燃料集合体10の原子炉内での照射後の使用済みMOX燃料集合体30(図5参照)の非破壊測定を行う(ステップS21)。
【0049】
図5は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法における燃焼度評価のための測定を説明する概念的なブロック図である。なお、第1ないし第n評価断面を図示しているが、これらの評価断面については、ステップS50の説明の際に後述する。
【0050】
図で示す使用済みMOX燃料集合体30は、上部タイプレート31と下部タイプレート32とに挟まれた領域に高富化度燃料棒11および低富化度燃料棒12があり、スペーサ33により拘束され、チャンネルボックス15に囲まれている。
【0051】
使用済みMOX燃料集合体30は、炉心内で照射された後、原子炉から取り出されて一定期間置かれ、その後、再処理工場に輸送され、非破壊測定・評価装置である非破壊燃焼度測定装置50に設置される。非破壊燃焼度測定装置50は、中性子検出器51、ガンマ線スペクトル検出器52、およびデータ処理部54を有する。
【0052】
中性子検出器51は、当該中性子検出器51が、測定対象である使用済みMOX燃料集合体30の側面に対向するように配置されて、使用済みMOX燃料集合体30中の使用済みMOX燃料で発生する自発中性子を検出する。
【0053】
ガンマ線スペクトル検出器52は、当該ガンマ線スペクトル検出器52が測定対象である使用済みMOX燃料集合体30の側面に向かうように配置されて、測定対象である使用済みMOX燃料集合体30の側面に対向するように配置される。なお、使用済みMOX燃料集合体30とガンマ線スペクトル検出器52との間に、使用済みMOX燃料集合体30におけるガンマ線測定を行う部位を限定するために、図5に示すようにガンマ線をコリメートするコリメータ53を設置してもよい。ガンマ線スペクトル検出器52は、使用済みMOX燃料集合体30中の使用済みMOX燃料で発生する自発ガンマ線を検出する。
【0054】
データ処理部54は、記憶部54a、評価部54b、および制御部54cを有している。中性子51から伝達された中性子の計数は、記憶部54aに記憶される。また、ガンマ線スペクトル検出器52から伝達されたガンマ線スペクトルのデータも、記憶部54aに記憶される。評価部54bは、評価対象の使用済みMOX燃料集合体30の燃焼度を導出する。制御部54cは評価部54bを制御する。データ処理部54は、たとえば1台のコンピュータ上に構築される。あるいは、データ処理部54は、使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100と同じコンピュータ上に構築されてもよい。
【0055】
通常、使用済みMOX燃料集合体30の非破壊測定は、放射線遮蔽のために使用済みMOX燃料集合体30を水中で貯蔵した状態で、1体ごとに行われる。
【0056】
次に、MOX燃料集合体10の原子炉内での照射後の使用済みMOX燃料集合体30の燃焼度BUMOXの算出を行う(ステップS22)。
【0057】
燃焼度BUMOXの算出に際しては、たとえば、自発中性子放出率法、これに加えてさらに、セシウム134、セシウム137のガンマ線強度を用いる方法等、従来知られている方法を用いることができる。
【0058】
次に、使用済みMOX燃料集合体無限増倍率導出部134が、ステップS20における使用済みMOX燃料集合体30の非破壊測定および評価により得られた使用済みMOX燃料集合体30の燃焼度BUMOXと、ステップS10において導出されたMOX燃料集合体10の無限増倍率の燃焼度依存性とから、当該使用済みMOX燃料集合体30の無限増倍率を導出する(ステップS30)。すなわち、図4に示した特性曲線A上で、BUMOXに対応する無限増倍率を使用済みMOX燃料集合体30の無限増倍率kMOXとして導出する。
【0059】
次に、U燃料集合体の燃焼特性評価を行うステップS40の内容について説明する。
【0060】
ステップS40においては、まず、燃料集合体燃焼計算条件設定部131が、対象とするMOX燃料集合体10に対応するU燃料集合体の燃焼計算条件を設定する(ステップS41)。
【0061】
図6は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法で用いるウラン燃料集合体20の例を示す横断面図である。
【0062】
図6で例示するU燃料集合体20は、沸騰水型原子炉(BWR)用の9×9格子燃料である。U燃料集合体20は、46本の高濃縮度燃料棒21、12本の低濃縮度燃料棒22、16本の可燃性毒物燃料棒23、2本のウォーターロッド24、およびこれらを側方から取り囲むチャンネルボックス25を有する。
【0063】
ここで、対象とするMOX燃料集合体10に対応する、すなわち共通の仕様を有するものとして想定するU燃料集合体20は、高濃縮度燃料棒21、低濃縮度燃料棒22、可燃性毒物燃料棒23、ウォーターロッド24、およびチャンネルボックス25を有する。U燃料集合体20の高濃縮度燃料棒21、低濃縮度燃料棒22、可燃性毒物燃料棒23、ウォーターロッド24、およびチャンネルボックス25のそれぞれは、MOX燃料集合体10の高富化度燃料棒11、低富化度燃料棒12、可燃性毒物燃料棒13、ウォーターロッド14、およびチャンネルボックス15のそれぞれと、本数、幾何形状、寸法、被覆管(図示しない)を含めた材質等の仕様が一致している。
【0064】
これに基づいて、新燃料としてのU燃料集合体20の条件として、U燃料集合体20の幾何形状、新燃料としてのU燃料集合体20の各部すなわち高富化度燃料棒11、低富化度燃料棒12、および可燃性毒物燃料棒13の初期組成を設定する。軸方向に組成の分布がある場合はこれらを含む。
【0065】
新燃料としてのU燃料集合体20を炉内に装荷して後の時間的な履歴に関するものとしてのU燃料集合体20の比出力およびボイド率の履歴についても、MOX燃料集合体10と同様の条件を用いる。なお、PWR用のMOX燃料集合体においてはホウ酸濃度の時間的履歴も含む。
【0066】
次に、燃料集合体燃焼計算部132が、ステップS41において設定されたU燃料集合体20の燃焼計算条件に基づいて、U燃料集合体20の燃焼計算を行う(ステップS42)。
【0067】
次に、無限増倍率燃焼度依存特性導出部133が、ステップS42の燃焼計算の結果から、燃焼度と無限増倍率および残留ウラン濃縮度の相関関係、すなわち無限増倍率および残留ウラン濃縮度の燃焼度への依存特性を導出する(ステップS43)。得られた無限増倍率の燃焼度への依存特性は、前述のように、図4の実線で示した特性曲線Bで示している。
【0068】
図7は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法におけるウラン燃料集合体の無限増倍率の燃焼度依存特性の算出ステップで得られる残留ウラン濃縮度の燃焼度への依存特性の例を示すグラフである。横軸は、ウラン燃料集合体20の燃焼度(GWd/t)を、縦軸は、残留ウラン濃縮度(wt%)を示す。
【0069】
ここで、残留ウラン濃縮度とは、U燃料集合体20が炉心内で照射された後に、原子炉外に取り出された使用済みU燃料集合体に残留する核分裂性ウランの全ウラン中の濃度、すなわち残留するウラン濃縮度を意味する。
【0070】
次に、使用済みU燃料等価条件を導出するステップS50の内容について説明する。
【0071】
図8は、第1の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を説明するグラフである。図8のグラフの横軸は、共通しての燃焼度(GWd/t)、縦軸は、上側が無限増倍率、下側が残留ウラン濃縮度(wt%)である。以下、図8を参照しながら、図1のフロー図に沿って説明する。
【0072】
まず、使用済みU燃料集合体相当燃焼度導出部135が、使用済みU燃料集合体についての、使用済みMOX燃料集合体30の燃焼度BUMOXに相当する燃焼度BUを導出する(ステップS51)。具体的には、ステップS40で導出されたU燃料集合体20についての無限増倍率の燃焼度への依存特性を用いて、ステップS30で導出された使用済みMOX燃料集合体30の無限増倍率kMOXと同じ値の無限増倍率を与えるU燃料集合体20の燃焼度BUを導出する。この導出されたU燃料集合体20の燃焼度BUを使用済みU燃料集合体についての相当する燃焼度BUとする。
【0073】
次に、使用済みU燃料集合体等価残留濃縮度導出部136が、U燃料集合体20の使用済みU燃料集合体の等価残留ウラン濃縮度を導出する(ステップS52)。具体的には、ステップS40で導出されたU燃料集合体20についての残留ウラン濃縮度の燃焼度への依存特性を用いて、ステップS51で導出されたU燃料集合体20の燃焼度BUに対応するU燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eを導出する。
【0074】
なお、U燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eを導出する際には、たとえば、図5で示した使用済みMOX燃料集合体30について図示した第1評価断面ないし第n評価断面に相当する位置のU燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eをそれぞれ算出する。その上で、残留ウラン濃縮度Eが最も大きくなる評価断面における残留ウラン濃縮度Eを、U燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eとして用いてもよい。
【0075】
BWRでは、軸方向にボイド分布が存在し、残留ウラン濃縮度Eも軸方向に分布をもつ。ボイド率が高い上端部すなわち第1評価断面近傍が、ウランからプルトニウムへの転換が促進される傾向があり、残留ウラン濃縮度Eも高くなる傾向がある。したがって、U燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eとして、上端部(第1評価断面)の残留ウラン濃縮度Eを用いることで、臨界安全設計の保守性を確保できる。
【0076】
以上のように得られたU燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留ウラン濃縮度Eを、使用済みMOX燃料集合体30の等価残留ウラン濃縮度EUMOXとする。
【0077】
以上が、臨界安全評価ステップS100の内容である。次に、燃料集合体臨界安全管理ステップS200について説明する。
【0078】
燃料集合体の臨界安全管理とは、受け入れた使用済み燃料集合体に起因する臨界状態の発生を防止するための管理である。具体的には、一定量以上の燃料を扱わない質量管理、一定の形状・寸法以外の形状・寸法管理、一定の濃度以上の燃料を扱わない濃度管理、あるいは水、プラスチック、人などの中性子減速効果のあるものを燃料に近づけない減速材管理などを行う。
【0079】
燃料集合体の臨界安全管理は、現在、再処理工場、貯蔵施設等において、原子力発電所から受け入れた使用済みウラン燃料集合体について行われている。したがって、これらの施設は、使用済みウラン燃料集合体の取り扱いに適合した設備となっており、また、実務上の規則等も、使用済みウラン燃料集合体の取り扱いを前提として整備されている。
【0080】
上述した各臨界安全管理上の手法を行う上で、キーパラメータ、すなわち最も重要な指標は、受け入れた使用済みウラン燃料集合体の残留ウラン濃縮度である。使用済みウラン燃料集合体の残留ウラン濃縮度は、使用済みウラン燃料集合体における核分裂性核種の残留濃度である。たとえば、残留ウラン濃縮度の値によって、管理レベルを区分する等が行われる。
【0081】
本実施形態においては、受け入れた使用済みMOX燃料集合体30の臨界安全管理を行う上で、等価残留ウラン濃縮度Eと同じ値の残留濃縮度を有する使用済みウラン燃料集合体の臨界安全管理を、等価残留ウラン濃縮度Eを有する使用済みMOX燃料集合体30に適用するものである。
【0082】
すなわち、等価残留ウラン濃縮度Eを有する使用済みMOX燃料集合体30の臨界安全管理における核的な影響は、等価残留ウラン濃縮度Eと同じ値の残留濃縮度を有する使用済みウラン燃料集合体残留濃縮度の臨界安全管理における核的な影響と同等であると考えられる。したがって、MOX燃料集合体10と基本仕様および照射履歴がほぼ同様のウラン燃料集合体20の使用済み燃料中の核分裂性核種の残留濃度を、使用済みMOX燃料集合体30の核分裂性核種の等価な残留濃度であるとみなして等価残留ウラン濃縮度Eとして用いている。この結果、従来、手法が確立され、かつ実績のあるウラン235の残留濃縮度に基づいた臨界安全管理方法を適用し、従来の設備を使用できる。
【0083】
以上、説明した実施形態によれば、MOX燃料集合体10に対応するU燃料集合体20を想定し、使用済みMOX燃料集合体30の燃焼度に基づいて等価残留ウラン濃縮度を導出することにより、使用済み混合酸化物燃料30の臨界安全管理を、既存設備を用いて合理的に行う方法を提供することを可能とする。
【0084】
[第2の実施形態]
図9は、第2の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法において用いるモデルバンドル40の例を示す横断面図である。
【0085】
MOX燃料集合体10の幾何学的形状およびMOX燃料集合体10の各構造材等の密度が同じであっても、富化度分布を含む初期組成および運転条件に関して異なる設計のバリエーションが想定される。モデルバンドルとは、これらのバリエーションの範囲について、燃焼度に対する無限増倍率の値が、それぞれのバリエーションの設計における無限増倍率より、大きくなるように設定された燃料集合体のモデルを意味するものとする。具体的には、濃縮度分布を含む初期組成、比出力、ボイド率、ホウ素濃度(PWRのみ)を想定の範囲内でそれぞれ変動させた設計のバリエーションを想定する。その上で、それぞれのバリエーションについて燃焼計算を行い燃焼度に対する無限増倍率を得て、これらを包絡する条件を設定することによりモデルバンドルの設定が行われる。
【0086】
図9に示す例では、モデルバンドル40は、MOX燃料集合体10の幾何学的形状、各要素の密度と同じもので、チャンネルボックス15内の低富化度燃料棒12、可燃性毒物燃料棒13およびウォーターロッド14を高富化度燃料棒11に置き換えたものである。
【0087】
なお、図9では、ウォーターロッド14を含まない例を示しているが、ウォーターロッド14を含むモデルバンドルとなることも考えられる。
【0088】
以上のように、本実施形態では、特定のMOX燃料集合体10に限定せず、これを含めたモデルバンドル40を想定することにより、モデルバンドル40の条件に包絡される範囲で、他の設計のMOX燃料集合体についても、一括して、同じ等価残留ウラン濃縮度に基づく臨界安全管理を行うことができ、管理の信頼性の向上、および評価の省力化を図ることができる。
【0089】
[第3の実施形態]
図10は、第3の実施形態に係る使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順を示すフロー図である。なお、本実施形態における使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置の図示は省略するが、図1に示した第1の実施形態におけるフロー図と異なるステップについては、図2に示した使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置100から変更してこれに対応した要素を有している。
【0090】
使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法は、臨界安全評価ステップS100aと、燃料集合体臨界安全管理ステップS200aを有する。
【0091】
臨界安全評価ステップS100aは、MOX燃料集合体10の燃焼特性評価を行うステップS10、U燃料集合体20の燃焼特性評価を行うステップS40、使用済みU燃料集合体の制限値を導出するステップS60、ステップS40とステップS60の結果に基づいて使用済みU燃料集合体の無限増倍率制限値を導出するステップS71、および、ステップS10とステップS71の結果に基づいて使用済みMOX燃料集合体30の制限燃焼度を導出するステップS81を有する。
【0092】
ここで、MOX燃料集合体10の燃焼特性評価を行うステップS10およびU燃料集合体20の燃焼特性評価を行うステップS40の内容は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0093】
以下、使用済み混合酸化物燃料の臨界管理方法の手順にしたがって、ステップS10およびステップS40の後の各ステップの内容を説明する。
【0094】
まず、U燃料集合体20を原子炉内で照射した後の使用済みU燃料集合体の制限値を導出するステップS60の内容を説明する。
【0095】
ステップS60では、まず、使用済みMOX燃料集合体30の受け入れ施設でのU燃料集合体20の使用済み燃料集合体の残留濃縮度制限値を設定する(ステップS61)。詳細には、まず、使用済みMOX燃料集合体30の受け入れ施設を特定する。次に、その施設において規定されているU燃料集合体の使用済み燃料集合体の残留濃縮度制限値を、本実施形態における残留濃縮度制限値として設定する。残留濃縮度は、使用済みMOX燃料集合体30からみて、等価残留ウラン濃縮度ということになる。
【0096】
次に、ステップS61において設定された残留濃縮度制限値に対応する使用済みU燃料集合体の燃焼度を導出する(ステップS62)。
【0097】
次に、ステップS40とステップS60の結果に基づいて、使用済みU燃料集合体の無限増倍率制限値を導出する(ステップS71)。すなわち、U燃料集合体20の燃焼特性評価を行うステップS40において得られた無限増倍率の燃焼度依存特性を用いて、ステップS62で得られた使用済みU燃料集合体の燃焼度に対応する無限増倍率を導出して、無限増倍率制限値とする。
【0098】
次に、ステップS10とステップS71の結果に基づいて、使用済みMOX燃料集合体30の制限燃焼度を導出する(ステップS81)。すなわち、MOX燃料集合体10の燃焼特性評価を行うステップS10において得られた無限増倍率の燃焼度依存特性を用いて、ステップS71で得られた使用済みU燃料集合体の無限増倍率制限値の値を、使用済みMOX燃料集合体30の無限増倍率制限値とする。さらに、この無限増倍率制限値に対応する燃焼度を導出して使用済みMOX燃料集合体30の制限燃焼度とする。
【0099】
以上が、臨界安全評価ステップS100aの内容である。次に、燃料集合体臨界安全管理ステップS200aについて説明する。
【0100】
燃料集合体臨界安全管理ステップS200aにおいては、受け入れ施設は、ステップS100aにおいて得られた使用済みMOX燃料集合体30の制限燃焼度を基準として、受け入れ制限を行う。すなわち、受け入れ施設は、制限燃焼度以下の燃焼度の使用済みMOX燃料集合体30は受け入れるが、制限燃焼度を超える燃焼度の使用済みMOX燃料集合体30は受け入れないという管理を行う。
【0101】
以上、説明した実施形態によれば、MOX燃料集合体に対応するU燃料集合体を想定して、無限増倍率を等しくする残留ウラン濃縮度をMOX燃料集合体の等価残留ウラン濃縮度として取り扱うことにより、既存設備で使用済みMOX燃料の臨界安全管理を合理的に行う方法を提供することを可能とする。
【0102】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0103】
10…混合酸化物燃料集合体、11…高富化度燃料棒、12…低富化度燃料棒、13…可燃性毒物燃料棒、14…ウォーターロッド、15…チャンネルボックス、20…ウラン燃料集合体、21…高濃縮度燃料棒、22…低濃縮度燃料棒、23…可燃性毒物燃料棒、24…ウォーターロッド、25…チャンネルボックス、30…使用済み混合酸化物燃料集合体、31…上部タイプレート、32…下部タイプレート、33…スペーサ、40…モデルバンドル、50…非破壊燃焼度測定装置、51…中性子検出器、52…ガンマ線スペクトル検出器、53…コリメータ、54…データ処理部、54a…記憶部、54b…評価部、54c…制御部、100…使用済み混合酸化物燃料臨界安全評価装置、110…入力部、120…記憶部、121…MOX燃料集合体仕様記憶部、122…U燃料集合体仕様記憶部、123…運転履歴記憶部、124…演算用データ記憶部、125…演算結果記憶部、130…演算部、131…燃料集合体燃焼計算条件設定部、132…燃料集合体燃焼計算部、133…無限増倍率燃焼度依存特性導出部、134…使用済みMOX燃料集合体無限増倍率導出部、135…使用済みU燃料集合体相当燃焼度導出部、136…使用済みU燃料集合体等価残留濃縮度導出部、140…出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10