(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】中性子検出器の感度校正方法
(51)【国際特許分類】
G01T 3/00 20060101AFI20250108BHJP
G21C 17/12 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
G01T3/00 A
G21C17/12 100
(21)【出願番号】P 2021169504
(22)【出願日】2021-10-15
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小田 直敬
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-031688(JP,A)
【文献】特開2015-040720(JP,A)
【文献】特開2005-024465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 3/00
G21C 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器の準備時第1出力を測定するステップと、
原子炉の出力状態における中性子検出器の準備時第2出力を測定するステップと、
前記準備時第1出力と前記準備時第2出力とから感度係数を算出するステップと、
を有する準備ステップと、
原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器の校閲時第1出力を測定するステップと、
原子炉の出力状態における中性子検出器の校閲時第2出力を測定するステップと、
前記校閲時第1出力と前記校閲時第2出力とから感度を算出するステップと、
を有する校閲ステップと、
を有することを特徴とする中性子検出器
の感度校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、中性子検出器の感度校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、起動領域中性子モニタ(SRNM:Start up Range Neutron Monitor)用あるいは局所出力モニタ(LPRM:Local Power Range Monitor)用の中性子検出器には、電離箱型放射線検出器が多く用いられる。これらの中性子検出器においては、測定対象である中性子に対する有感物質は、たとえば、中性子により核分裂するウラン235(235U)などの核分裂性物質が用いられている。中性子による核分裂により生じた核分裂生成物(FP:Fission Product)は電離箱中に封入されたAr等のガスを電離する。この電離により生ずる電流を測定することによって中性子が検出される。中性子束レベルを測定するためには、この検出器の中性子束レベルに対する感度を測定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、中性子検出器では、中性子に対する感度が低下することから、所定の時間間隔ごとに感度校正を行う必要がある。
【0005】
SRNM用あるいはLPRM用の中性子検出器の校正については、たとえば、プラントのヒートバランスから原子炉出力を推定することにより、中性子検出器の出力を校正する方法が知られている。しかしながら、この方法は、中性子検出器自体の感度を直接確認するものではなく、原子炉出力の分布に偏りがある場合などでは、誤差が大きくなるという問題がある。
【0006】
また、起動領域中性子モニタ用の中性子検出器では、感度校正に、カリフォルニウム252(252Cf)などの中性子源を用いる方法が知られている。252Cfの半減期は265年である。たとえば18.7年経過ごとに線源強度は5%低下する。線源強度が低下すれば、新規の線源を手配する必要がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、外部の中性子源やヒートバランス計算に拠らずに、自身の校正が可能な中性子検出器および放射線検出器の感度校正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、中性子検出器の感度校正方法は、原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器の準備時第1出力を測定するステップと、原子炉の出力状態における中性子検出器の準備時第2出力を測定するステップと、前記準備時第1出力と前記準備時第2出力とから感度係数を算出するステップと、を有する準備ステップと、原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器の校閲時第1出力を測定するステップと、原子炉の出力状態における中性子検出器の校閲時第2出力を測定するステップと、前記校閲時第1出力と前記校閲時第2出力とから感度を算出するステップと、を有する校閲ステップと、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る中性子モニタの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る中性子検出器の構成を示す縦断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る中性子モニタの信号処理部の構成を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る中性子モニタの信号処理部の第1波高弁別器の出力例を示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態に係る中性子モニタの信号処理部の第2波高弁別器の出力例を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態に係る中性子モニタの演算装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】第1の実施形態に係る中性子検出器の感度校正方法の手順を示すフロー図である。
【
図8】第2の実施形態に係る中性子モニタの信号処理部の構成を示すブロック図である。
【
図9】第2の実施形態に係る中性子モニタの演算装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】核分裂計数管の出力電流のパルス波高分布の例を示すグラフである。
【
図11】第3の実施形態に係る中性子モニタの演算装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る中性子検出器、中性子モニタおよび中性子検出器の感度校正方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0011】
[第1の実施形態]
本実施形態以降においては、電離箱型の起動領域中性子モニタ(SRNM)あるいは局所出力モニタ(LPRM)用の中性子検出器を総称して中性子検出器、これを用いた起動領域中性子モニタ(SRNM)あるいは局所出力モニタ(LPRM)を中性子モニタと総称する。以下では、SRNMの場合を例にとって説明するが、中性子検出器の構成は、LPRMの場合についても同様である。
【0012】
図1は、第1の実施形態に係る中性子モニタ60の構成を示すブロック図である。
【0013】
中性子モニタ60は、中性子検出器10、中性子検出器10に直流電圧を印加し電流信号を取り出す検出器回路20、電流信号を増幅する前置増幅器30、信号処理部40、および演算装置50を有する。
【0014】
検出器回路20は、中性子検出器10に直流電圧を印加する直流電源21、中性子検出器10に流れる電流を検出し出力する電流計22を有する。電流計22の出力は、微弱であることから同軸ケーブル24で取り出され前置増幅器30に出力される。また、中性子検出器10から引き出される電流計22を含む回路のケーブルにも同軸ケーブル18が用いられる。
【0015】
図2は、第1の実施形態に係る中性子検出器10の構成を示す縦断面図である。
【0016】
中性子検出器10は、陽極12、陰極13、陰極側物質14、およびこれらを収納する筐体11を有する。
【0017】
筐体11は、中心軸方向に延びた円筒状で両側の端部が、閉止部11bおよび閉止部11cにより閉止された容器である。筐体11の閉止部11cの外側には、金属・セラミックス部16が設けられている。金属・セラミックス部16も、閉止空間を構成する要素の一部である。この結果、筐体11内に密閉部分が形成されている。筐体11内の密閉部分には、内部ガス17が封入されている。
【0018】
陽極12は、筐体11の中心軸に沿って延びた円柱状である。陽極12の両端は、径が細く一方の端部12aは絶縁体15aにより,また、他方の端部12bは絶縁体15bによりそれぞれ支持されている。絶縁体15aおよび絶縁体15bは、筐体11内の密閉部分に配されている。なお、陽極12の両端が細くない場合であってもよい。
【0019】
陰極13は、絶縁体15aと絶縁体15bとの間にあって径が均一な陽極12の領域から所定の間隙をあけた径方向外側に設けられている。具体的には、陰極13は、筐体11の側部11aの内面の周方向に亘って取り付けられている。
【0020】
陽極12の絶縁体15bに支持されている側の端部12bには、外部に引き出される内部導体18aが接続されている。内部導体18aは、たとえばハーメチックシールなどの図示しないシール構造により金属・セラミックス部16を貫通している。金属・セラミックス部16の外側には、内部導体18aと同芯で円管状の外部導体18bが取り付けられ、端部12bを貫通している。内部導体18aは外部導体18bとともに同軸ケーブル18を形成している。
【0021】
次に、陰極13側に設けられている陰極側物質14について説明する。陰極側物質14は、陰極13の径方向内側すなわち陰極13の内面を覆うように設けられている。陰極側物質14は、有感物質14aと放射線源同位体14bとを有する。陰極側物質14が陰極13の内面に存在する、すなわち設けられる形態は、たとえば、陰極13の内面に塗布される、あるいは、陰極13の内面に蒸着等されることでもよい。あるいは、陰極13の内面に含浸されることでもよい。あるいは、金属箔状に形成されて陰極13の内面に取り付けられていてもよい。また、その形態は、陰極側物質14と陰極13の性状に応じて選択されることでよい。
【0022】
有感物質14aは、中性子検出器10の外部からの中性子を受けて、核反応により内部ガス17を電離する物質を発生するものである。有感物質14aとしては、ウラン235(235U)、プルトニウム239(239Pu)などの核分裂性核種、あるいは、ホウ素10(10B)などが利用できる。核分裂性核種の場合は、内部ガス17を電離する物質は核分裂生成物(FP:Fiision Product)である。また、10Bの場合は、内部ガス17を電離する物質はアルファ粒子である。
【0023】
放射線源同位体14bとしては、自然崩壊により内部ガス17を電離する物質としてアルファ線あるいはベータ線を放出する放射線同位体である。放射線源同位体14bの要件としては、その半減期が原子力発電所の耐用年数に対して十分に長い同位体であることが好ましい。このような要件を満たすものとしては、たとえばアルファ線源としては、ラジウム226(226Ra:半減期1600年)、239Pu(半減期2.4×104年)、ウラン234(234U:半減期2.48×105年)などがある。
【0024】
なお、有感物質としてU235が使用されている場合に、U235の低減を緩和するためにU234がU235への転換源として使用されている場合がある。このように、従来、中性子検出器10の陰極側物質14として、多くはウラン同位体が用いられている。すなわち、従来の陰極側物質は、有感物質としてのウラン同位体であり、本実施形態で設けられているような放射線源同位体は設けられていない。
【0025】
一方、本実施形態においては、陰極側物質14としてウラン同位体を使用することができる。この場合、従来例はU235への転換物質として使用されているU234を、本実施形態における放射線源同位体14bとして用いることができる。すなわち、有感物質14aとして235Uを、放射線源同位体14bとしてU234を用いることができる。前述のように、U234はアルファ線源であり、その半減期は2.48×105年である。以下では、有感物質14aとして235Uを、放射線源同位体14bとしてU234をそれぞれ用いる場合を例にとって説明する場合がある。
【0026】
図3は、第1の実施形態に係る中性子モニタ60の信号処理部40の構成を示すブロック図である。
【0027】
信号処理部40は、前置増幅器30によって増幅された電流信号を受け入れて、処理した信号を演算装置50に出力する。
【0028】
信号処理部40は、第1波高弁別器41、第1計数器42、第2波高弁別器43、および第2計数器44を有する。
【0029】
図4は、第1の実施形態に係る中性子モニタ60の信号処理部40の第1波高弁別器41の出力例を示すグラフである。横軸は時間、縦軸は波高値を示す。破線領域Aは、有感物質14aに中性子が入射した際の電流信号Isのグループを示す。また、破線領域Bは、放射線源同位体14bからのアルファ線などによる電流信号Irのグループを示す。
【0030】
第1波高弁別器41は、電流信号Isおよび電流信号Irを電気的ノイズから区別するために設けられている。したがって、第1波高弁別器41の弁別レベルである第1波高弁別器設定値Cth1は、ノイズレベルより高い値に設定されている。
【0031】
第1計数器42は、有感物質14aに中性子が入射した際の電流信号Isおよび放射線源同位体14bからのアルファ線などによる電流信号Irを受け入れて、これらをカウントする。すなわち、破線領域Aで示す電流信号Isのグループの計数率Cs(cps)と、破線領域Bで示す電流信号Irのグループの計数率Cr(cps)との合計値を出力する。
【0032】
図5は、第1の実施形態に係る中性子モニタ60の信号処理部40の第2波高弁別器43の出力例を示すグラフである。
【0033】
第2波高弁別器43は、有感物質14aに中性子が入射した際の電流信号Isを、放射線源同位体14bからのアルファ線などによる電流信号Irから区別するために設けられている。したがって、第2波高弁別器43の弁別レベルである第2波高弁別器設定値Cth2は、破線領域Bで示す電流信号Irのグループのレベルよりは高く、かつ破線領域Aで示す電流信号Isのグループのレベルよりは低い値に設定されている。
【0034】
第2計数器44は、有感物質14aに中性子が入射した際の電流信号を受け入れて、これをカウントする。すなわち、破線領域Aで示す電流信号Isのグループの計数率Cs(cps)を出力する。
【0035】
図6は、第1の実施形態に係る中性子モニタ60の演算装置50の構成を示すブロック図である。
【0036】
演算装置50は、信号処理部40からの出力を受け入れて、中性子検出器10の感度を算出し、出力する。演算装置50は、入力部51、記憶部52、演算部53、および出力部54を有する。演算装置50は、たとえば計算機システムである。あるいは、それぞれの機能を有する個別の装置の集合であってもよい。
【0037】
入力部51は、中性子検出器10に関する情報を外部から受け入れる。中性子検出器10に関する主要情報としては、たとえば、陽極12と陰極13間のギャップ寸法を含めた主要寸法、陰極側物質14における有感物質14aおよび放射線源同位体14bの重量、内部ガス17の核種、ガス圧等の仕様、および、有感物質14a、放射線源同位体14b、内部ガス17等に関する核定数である。入力部51はその他、必要に応じて、外部入力を受け入れる。
【0038】
記憶部52は、入力部51で受け入れた中性子検出器10に関する情報を収納、記憶する検出器等情報記憶部52a、信号処理部40により得られた計数率Crと計数率Csの合計値を記憶する第1計数記憶部52b、信号処理部40により得られた計数率Cs(cps)を記憶する第2計数記憶部52c、演算部53の演算結果を記憶する演算結果記憶部52d、および感度係数記憶部52fを有する。
【0039】
演算部53は、存在比算出部53a、感度係数算出部53b、および感度算出部53cを有する。
【0040】
存在比算出部53aは、検出器等情報記憶部52aに記憶されている有感物質14aおよび放射線源同位体14bのそれぞれの重量から、有感物質14aの原子の個数Nnおよび放射線源同位体14bの原子の個数Nrを算出し、さらに、NnをNrで除してこれらの比NNRを算出する。
【0041】
感度係数算出部53bは、検出器等情報記憶部52aおよび感度係数記憶部52fに収納されたデータに基づいて、感度係数SCFを算出する。以下に、感度係数SCFの算出の過程を示す。
【0042】
まず、有感物質14aの中性子による核反応の核反応断面積をσn(核分裂ならσf)、放射線源同位体14bにおけるアルファ線などの注目放射線による崩壊定数をλrとする。
【0043】
ゼロ出力(Φn=0)の場合の放射線源同位体14bによるカウント数Cr0(cps)は、次の式(1)を用いて得られる。
Cr0=λr・Nr・Er・Fr ・・・(1)
ただし、Erは、核反応による生成物のガスの電離効率、Frは検出器の効率である。
【0044】
所定の出力(中性子束レベルΦn)における感度Cn0(cps/nv)は、次の式(2)を用いて得られる。
Cn0=(σn・Nn・Φn・En・Fn)/Φn
=σn・Nn・En・Fn ・・・(2)
ただし、Enは、放射線によるガスの電離効率、Fnは検出器の効率である。
【0045】
感度係数SCFは、式(1)と式(2)とから、次の式(3)を用いて得られる。
SCF=Cn0/Cr0
=(σn・Nn・En・Fn)/(λr・Nr・Er・Fr)
=(σn・En・Fn)/(λr・Er・Fr)・(Nn/Nr)
=A・NNR ・・・(3)
ここで、
A=(σn・Nn・En・Fn)/(λr・Nr・Er・Fr)
であり、Aは、核定数、検出器の効率等による定数である。
また、NNRは、演算結果記憶部52dに収納された存在比算出部53aでの算出結果である。
【0046】
感度係数算出部53bにより算出された感度係数SCFは、感度係数記憶部52fに記憶、保存される。
【0047】
感度算出部53cは、感度係数SCFに基づいて、中性子検出器10の中性子検出の感度を算出する。なお、感度算出部53cは、まず、中性子検出器10の校正を実施する際に得られて第1計数記憶部52bに収納された値から第2計数記憶部52cに収納された値を減じて、計数率Crを算出する。次に、感度算出部53cは、中性子検出器10の校正を実施する際に得られた計数率Cr(cps)と、感度係数記憶部52fに保存されている感度係数SCFとを用いて、次の式(4)を用いて、当該校正の際の感度SCを算出する。
SC=SCF・Cr ・・・(4)
【0048】
図7は、第1の実施形態に係る中性子検出器の感度校正方法の手順を示すフロー図である。中性子検出器の感度校正方法は、感度係数SCFを予め算出し収納、記憶する校正準備ステップS10と、その後に、校正が必要な時点で行う校正ステップS20を有する。
【0049】
校正準備ステップS10としては、まず、原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器10の出力の測定を行う(ステップS11)。具体的には、第1計数の値を入力部51が受け入れ、第1計数記憶部52bに収納される。この段階では、外部から中性子検出器10に流入する中性子の量はほぼ無視できる。したがって、中性子検出器10においては、自身の放射線源同位体14bからのアルファ線等の放射線による内部ガス17の電離によるパルス電流のカウント数Cr0(cps)が測定される。
【0050】
次に、原子炉の出力状態における中性子検出器10の出力の測定を行う(ステップS12)。具体的には、第2計数の値を入力部51が受け入れ、第2計数記憶部52cに収納される。すなわち、有感物質14aの中性子との核反応の生成物による内部ガス17の電離による感度Cn0(cps/nv)が得られる。
【0051】
次に、感度係数SCFの算出を行う(ステップS13)。具体的には、感度係数算出部53bが、ステップS11で得られたカウント数Cr0(cps)で、ステップS12で得られた感度Cn0(cps/nv)を除することにより、感度係数SCFを算出する。算出された感度係数SCFは、感度係数記憶部52fに収納、記憶される。
【0052】
次に、校正ステップS20としては、まず、原子炉のゼロ出力状態における中性子検出器10の出力の測定を行う(ステップS21)。具体的な内容は、ステップS11と同様であり、放射線源同位体14bからのアルファ線等の放射線による内部ガス17の電離によるパルス電流のカウント数Cr(cps)が測定される。
【0053】
次に、原子炉の出力状態における中性子検出器10の出力の測定を行う(ステップS22)。具体的な内容は、ステップS11と同様であり、有感物質14aの中性子との核反応の生成物による内部ガス17の電離による感度Cn(cps/nv)が得られる。
【0054】
次に、感度算出部53cが、中性子検出器10の中性子検出の感度を算出する(ステップS23)。すなわち、感度算出部53cが、まず、中性子検出器10の校正を実施する際に得られて第1計数記憶部52bに収納された値から第2計数記憶部52cに収納された値を減じて、計数率Crを算出する。次に、感度算出部53cが、当該校正時点で得られた計数率Cr(cps)と、感度係数記憶部52fに保存されている感度係数SCFとを用いて、感度SCを算出する。
【0055】
以上のように、本実施形態における中性子検出器10、中性子モニタ60および中性子検出器の感度校正方法によって、中性子検出器10に内蔵されている放射線源同位体14bからの放射線を用いて、当該中性子検出器10の感度校正が可能である。
[第2の実施形態]
【0056】
本第2の実施形態は、第1の実施形態の変形である。以下、第1の実施形態と相違する部分のみを説明する。本実施形態は、その他の点については、第1の実施形態と同様である。
【0057】
図8は、第2の実施形態に係る中性子モニタ60の信号処理部40aの構成を示すブロック図である。
【0058】
本実施形態における信号処理部40aは、波高分布取得部45を有する。波高分布取得部45は、たとえば波高分析器であり、前置増幅器30から出力される電流パルス信号の波高分布を取得する。なお、対象とする電流パルス信号は、発生する電流パルス全体でもよいし、あるいは、所定のサンプリング間隔での電流パルス信号でもよい。なお、波高分布取得部45は、波高分布をディジタル値で出力する。なお、波高分布のチャンネル番号すなわちエネルギーレベルの基準は、後述する波高分布データベース52hに収納された波高分布データのチャンネル番号の基準と対応するあるいは同一であることが好ましい。
【0059】
図9は、第2の実施形態に係る中性子モニタ60の演算装置50aの構成を示すブロック図である。
【0060】
演算装置50aにおいて、記憶部52は、波高データ記憶部52gおよび波高分布データベース52hを、また、演算部53は波高分布評価部53dをさらに有する。
【0061】
波高データ記憶部52gは、信号処理部40aの波高分布取得部45からの出力を記憶する。なお、波高データ記憶部52gは、所定の時間幅分の波高分布データを記憶し、順次、更新する。所定の時間幅は、たとえば、後述する波高分布データベース52hに収納された波高分布データについての時間幅(
図10では500秒)の場合であってもよい。
【0062】
波高分布データベース52hは、正常時の波高分布データを収納する。
【0063】
図10は、核分裂計数管の出力電流のパルス波高分布の例を示すグラフである。横軸は波高(チャンネル番号)、縦軸は計数率であり、この例では10分ごとの計数である。印加電圧と内部ガスの温度がパラメータとなっている。また、
図10の例では、電極間の距離dが1mm、内部ガスの圧力が4atm(4×0.101325MPa)、中性子束φnが550(n/cm
2sec)の場合を示している。
【0064】
波高分布データベース52hは、当該中性子検出器10における電極間の距離dと直流電源21による印加電圧の場合の正常時の波高分布データを収納する。なお、電極間の距離dは、陽極12の表面と陰極13の内面との間の距離である。また、内部ガス17の圧力および直流電源21による印加電圧Vをパラメータとし、パラメータの値についての内挿計算および外挿計算機能を有している。なお、波高分布データベース52hが収納するデータは、詳細計算により求められたデータでもよいし、正常時に測定されたデータでもよい。
【0065】
演算部53の波高分布評価部53dは、当該中性子検出器10についての前述のパラメータの条件に対応する基準波高分布を、波高分布データベース52hから読み出す。波高分布評価部53dは、さらに、波高データ記憶部52gに収納された対象とする電流パルスの波高分布を、基準波高分布と照合する。
【0066】
照合は、たとえば、互いに対応するチャンネル番号ごとに、対象とする波高分布の計数と基準波高分布の計数との比を算出し、チャンネルごとの比の分布の分散あるいは標準偏差が所定の値を超えると、異常と判定する。
【0067】
なお、以上の説明では、波高分布の形でデータ採取し評価を行ったが、これに限定されない。波高分布も波形に対応するものであるので、たとえば、波高の時間的変化すなわち波形そのものの形態でのデータ採取および評価であってもよい。この場合は、基準とするデータベースも波形の形態で収納することとなる。
【0068】
パッシェンの法則によれば、放電開始電圧は、内部ガスの種類ごとに、内部ガスの圧力と電極間の距離の積に依存する。したがって、この条件が満たされていれば、放電が安定して持続し、正常な波高分布および波形を示すことになる。逆に、この条件が満たされていない場合は、波高分布および波形が正常の分布から逸脱し、内部ガスの圧力、電極間の距離d、印加電圧Vの少なくともいずれかが正常ではないと判断できる。印加電圧Vが正常であれば、中性子検出器10自体が正常な状態ではないことを判定することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態によれば、中性子検出器10が正常状態か否かを判定することが可能となる。
【0070】
[第3の実施形態]
本第3の実施形態は、第1の実施形態の変形である。以下、第1の実施形態と相違する部分のみを説明する。本実施形態は、その他の点については、第1の実施形態と同様である。
【0071】
図11は、第3の実施形態に係る中性子モニタ60の演算装置50bの構成を示すブロック図である。本実施形態における演算装置50bは、放射能比算出部53fをさらに有する。
【0072】
放射能比算出部53fは、有感物質14aの放射能Rnと、放射線源同位体14bの放射能Rrとの比RRを算出する。
【0073】
第1の実施形態で説明したように、感度係数算出部53bは、感度係数SCFについて、式(1)と式(2)とから、次の式(3)のように算出する。
SCF=Cn0/Cr0
=(σn・Nn・En・Fn)/(λr・Nr・Er・Fr)
=(σn・En・Fn)/(λr・Er・Fr)・(Nn/Nr)
・・・(3)
【0074】
ここで、式(3)は、次のように書き換えられる。
SCF=(Rn/Rr)・(Nn/Nr)=RR・NNR ・・・(5)
ここで、NNRは、存在比算出部53aにより算出された有感物質14aと放射線源同位体14bとの存在比である。
【0075】
感度係数算出部53bにより算出された感度係数SCFは、感度係数記憶部52fに記憶、保存される。
【0076】
感度算出部53cは、感度係数SCFに基づいて、中性子検出器10の中性子検出の感度を算出する。なお、感度算出部53cは、第1の実施形態と同様に、まず、中性子検出器10の校正を実施する際に得られて第1計数記憶部52bに収納された値から第2計数記憶部52cに収納された値を減じて、計数率Crを算出する。次に、感度算出部53cは、中性子検出器10の校正を実施する際に得られた計数率Cr(cps)と、感度係数記憶部52fに保存されている感度係数SCFとを用いて、次の式(6)を用いて、当該校正の際の感度SCを算出する。
SC=SCF・Cr ・・・(6)
【0077】
以上のように、本実施形態では、存在比算出部53aにより算出された存在比NNRと、放射能比算出部53fにより算出された放射能比RRにより、感度SCを算出することができる。
【0078】
以上、説明した実施形態によれば、外部の中性子源やヒートバランス計算に拠らずに、自身の校正が可能な中性子検出器および放射線検出器の感度校正方法を提供することを可能とする。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各第2の実施形態と第3の実施形態の特徴を組み合わせてもよい。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
10…中性子検出器、11…筐体、11a…側部、12…陽極、12a、12b…端部、13…陰極、14…陰極側物質、14a…有感物質、14b…放射線源同位体、15a、15b…絶縁体、16…金属・セラミックス部、17…内部ガス、18…同軸ケーブル、18a…内部導体、18b…外部導体、20…検出器回路、21…直流電源、22…電流計、23…同軸ケーブル、24…接地部、30…前置増幅器、40…信号処理部、41…第1波高弁別器、42…第1計数器、43…第2波高弁別器、44…第2計数器、50…演算装置、51…入力部、52…記憶部、52a…検出器等情報記憶部、52b…第1計数記憶部、52c…第2計数記憶部、53…演算部、53a…感度係数算出部、53b…存在比算出部、53c…放射能比算出部、53d…感度算出部、54…出力部、60…中性子モニタ