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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】抗菌コーティングされた粒子
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20250108BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20250108BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20250108BHJP
   B01J 47/014 20170101ALI20250108BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 E
B01J20/26 H
C02F1/28 B
C02F1/28 A
B01J47/014
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021546769
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020056866
(87)【国際公開番号】W WO2020187746
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】102019106646.8
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521075206
【氏名又は名称】インストラクション・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】instrAction GmbH
【住所又は居所原語表記】Carl-Friedrich-Gauss-Ring 5,69124 Heidelberg(DE)
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルター,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ルンクフィール,クリスティアン
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/025488(WO,A1)
【文献】特表2017-528312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/34
B01J 39/00-49/90
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌コーティングされた粒子の製造方法であって、
(a)ポリアミン、架橋剤、および、粒子状の多孔質な有機担体材料を含む水性懸濁液を、前記ポリアミンで前記担体材料を前記担体材料の外表面のみにおいてコーティングするためにミキサー中に10℃以下の温度で供給する工程;および、
(b)前記担体材料の外表面のみにおいて前記ポリアミンを架橋させつつ水を除去する工程、を含む方法であって、
前記有機担体材料は、強アニオン交換体または弱アニオン交換体であり、
前記有機担体材料の細孔径が20nmから100nmの範囲であり且つ前記ポリアミンが10,000~20,000g/molの大きさを有する、方法。
【請求項2】
工程a)および工程b)が少なくとも1回繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記架橋が撹拌反応器中で行われる、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミンが非脱塩状態で使用される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機担体材料がポリスチレン、ポリメタクリレート、又はポリアクリレートである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアミンがポリビニルアミンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって製造された多孔質粒子。
【請求項8】
水、飲料水、または他の水溶液から細菌を除去するための請求項7に記載の多孔質粒子の使用。
【請求項9】
水、飲料水、または他の水溶液から重金属を除去するための請求項7に記載の多孔質粒子の使用。
【請求項10】
元素酸アニオンおよび元素亜酸アニオンを除去するための請求項に記載の多孔質粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属、元素酸アニオンまたは元素亜酸アニオン、並びに、特定の微小汚染物質および細菌を水溶液から除去するための吸着樹脂の製造に関し、市販のイオン交換体の純粋な外部コーティング、または、多孔質ポリマー粒子のアミノ基含有ポリマーによる完全なコーティング、および、その後の官能化配位子によるポリマーの修飾を含むプロセスを提供するものである。
【0002】
世界経済フォーラムの報告書(2015年)によると、水危機は、世界の全人口に影響を及ぼす世界第1位のリスクと定義されている。
【0003】
また、世界保健機関(WHO)およびUNICEF(ユニセフ)は、現在、世界で6億6,300万人が清潔な飲料水を利用できず、24億人が不適切な水資源を利用していることを強調している(2015年現在)。
【0004】
このような状況には、継続的な人口増加、気候変動、若しくは地球温暖化による水源の減少、また、産業廃棄物で汚染された汚染水源の増加など、いくつかの原因がある。そのため、飲料水の水質を高め、水汚染を減らすことが非常に重要である。
【0005】
飲料水源は、様々な汚染物質によって汚染される可能性がある。汚染物質の中には、化学物質、細菌、微小汚染物質、重金属などが含まれる。これらの汚染物質は、健康上の理由から、飲む前に水から除去される必要がある。
【0006】
安全できれいな飲料水を得るために汚染物質を除去できる方法がいくつかある。最も広く普及している技術は、機械的なろ過であり、さまざまな技術またはプロセスを利用して実現されている。汚染物質よりも小さい所定孔径のフィルター、メンブレン等を用いて汚染物質を濾過することが必要不可欠である。
【0007】
逆浸透膜は、このようなろ過方法の1種であり、ろ過される水の大部分(約90%)が廃棄物として破棄され、運転コスト(電力需要など)が高い。現状、世界の水源が枯渇していることを考えると、飲料水のろ過のために、費用対効果が高く且つ節水できる技術開発が重要である。
【0008】
商業利用されているいずれの技術も、単独では汚染物質の全想定範囲を対象にできないことは、現在のところ明らかである。これは、例えば水から「塩素」を除去することができない、instrAction Gmbhから供給される樹脂にも当てはまる。その結果、既知の浄化技術(例えば「塩素」用の活性炭)と、重金属、元素酸または元素酸のアニオン、微小汚染物質、および細菌を除去するための革新的な吸着樹脂とを、知的且つ斬新的に組み合わせるという需要がある。
【0009】
生産性は、既知の汚染物プロフィールと所望の除去率とを伴って、吸着樹脂床において必要とされる滞留時間によって実質的に決定される。例えば、小さな粒子は、汚染物質の拡散経路が短いため好ましいが、他方では、望ましくない態様で対抗圧力を増大させる。小さな床に大きな粒子のみを安定的に簡便に充填することが難しいため、より大きな粒子は、より大きな床を必要とすることがある。一方で、大きな粒子は、拡散経路が長くなるため、より長い滞留時間が必要になる可能性が高くなる。
【0010】
市場の競合技術に関して、逆浸透(RO)は、最も広く使用されている技術である。グランドビューリサーチ社(Grand View Research)(Market Research Reports & Consulting)の2017年の市場調査によると、逆浸透は、国内の飲料水処理分野において約44%の市場シェアを有する。2016年には、全世界で約2億1,000万台が販売された。
【0011】
ROモジュールの重大な欠点は、収率が非常に低いことである。導入された水のわずか約10~20%が、実際に浄化され、顧客に提供される。さらに不利な点は、必要とされるポンプが電力を使用する点、および、水質の点である。すなわち、ROシステムは、必須塩を含まない純水を供給するため、必須塩(例えば、カルシウムやマグネシウム)を再度添加しなければならない。
【0012】
エネルギー消費量が非常に大きいという欠点は、蒸留プロセスに共通する。さらに、逆浸透の場合と同様に、健康を促進する成分も除去されるため、その結果、長期的な摂取に適さない蒸留水が作り出され、マグネシウム塩といった重要成分を後の工程で再度添加する必要がある。
【0013】
複数のろ過技術を別々のユニット/カートリッジで組み合わせた浄水機器は、対応するバルブまたはコネクタとの複雑な配管を必要とするが、これらは故障しやすく、漏水などの可能性を高める。さらに、接合部は、水流の都合上、まさしく細菌等が特に増殖しやすい箇所である。
【0014】
市販されている既知のろ過媒体は、例えば、活性炭であり、直線的な貫流路を有するカートリッジ中で粒子の充填床として、または、放射方向の貫流路を有する圧縮中空シリンダーとして使用される。
【0015】
同様に重金属を結合するイオン交換樹脂は、カルシウムおよびマグネシウムと競合して重金属と結合するため信頼性が低く、または、イオン交換の全処理能力が消耗する直前に、濃縮された状態で重金属が少量ずつ樹脂から洗い流されてしまう。同時に、特に硬水が存在する場合には、非常に急速に消耗状態に達する。この時点から、重金属も除去されなくなる。むしろ、イオン交換体にすでに固定化されている重金属イオンは、過剰に存在するアルカリ土類金属に置換されるため、比較的少量溶出される。同時に、ナトリウムイオンはイオン交換体によって水中に放出される。飲料水に含まれるナトリウム含有量が高いことは、ベビーフードおよび循環器系疾患と関連付けられて、次第に懐疑的に考えられてきている。重金属に加えて、セレン化物、セレン酸塩、ヒ化物、およびヒ酸塩などの元素酸アニオン並びに元素亜酸塩アニオンは、消費者および水需要者の健康に関して懐疑的に考えられている。
【0016】
その結果得られた課題は、水を確実かつ高収率で浄化し、同時に細菌も除去できる、重金属、元素酸アニオンおよび元素亜酸塩アニオンのための吸着材を、安定的且つ安価に製造することである。
【発明の概要】
【0017】
この課題は、抗菌コーティングされた粒子を製造する製造方法によって達成され、この製造方法は、以下の工程を含む:
(a) ポリアミン、架橋剤、および、多孔質な粒子状の有機担体材料または無機担体材料を含む水性懸濁液を、前記無機担体材料を前記ポリアミンでコーティングするために、ミキサー中に10℃以下の温度で供給する工程;
(b) 前記無機担体材料の細孔内の有機ポリマーを架橋させつつ、水を除去する工程。
【0018】
本発明の意義の範囲内で、工程a)および工程b)を少なくとも1回繰り返すことが好ましい。
【0019】
本方法の好ましい実施形態において、撹拌反応器内で架橋を実施する。
【0020】
前記ポリアミンを非脱塩状態で使用することは、有利であると証明されている。
【0021】
有機担体ポリマーは、好ましくはポリスチレンである。
【0022】
さらなる態様において、前記有機担体ポリマーは、その外表面のみがポリマーによってコーティングされた強アニオン交換体または弱アニオン交換体である。スルホン酸基を有する有機ポリマーは、強アニオン交換体と称される。弱アニオン交換体は、カルボン酸基を有するポリマーである。
【0023】
本発明のさらなる態様において、前記有機ポリマーは、ポリスチレン、ポリメタクリレート、およびポリアクリレートから選択される。
【0024】
また、前記ポリマー(高分子化合物)は、シリカゲルおよびハイドロキシアパタイトから選択される無機ポリマー(無機高分子化合物)であってもよい。
【0025】
さらに、前記ポリアミンは、ポリビニルアミンであることが好ましい。
【0026】
本発明のさらなる目的は、好ましくは架橋ポリアミンの抗菌性多孔性粒子であり、上述した方法に従って、これを得ることができるかまたは製造できる。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、上述した方法に従って製造される重金属吸着性多孔質粒子である。
【0028】
本発明のさらに別の目的は、セレン化物、セレン酸塩、ヒ化物、およびヒ酸塩などの元素酸アニオン並びに元素亜酸アニオンを吸着する吸着性多孔質粒子であり、上述した方法に従ってこの粒子を得ることができるかまたは製造できる。
【0029】
4つの酸素原子を有する周期表の15族および16族(以前の第5主族および第6主族)からの化合物は、元素酸または元素酸アニオン(Elementsauren bzw. Anionen der Elementsauren)と称され、従って、例えばHAsOまたはAsO 3-、HSeOまたはSeO 3- がある。
【0030】
3つの酸素原子を有する周期表の15族および16族からの化合物は、元素亜酸または元素亜酸アニオン(elementige Sauren bzw. die Anionen der elementigen Sauren)と称され、従って、例えばHAsOまたはAsO 3-、HSeOまたはSeO 3-がある。
【0031】
活性炭と同様にイオン交換体も、表面における微生物汚染およびバイオフィルム形成の問題を被る。従って、最終的には、微生物汚染の少ない飲料水であっても、いわゆる「浄化」の後に、その前よりも多くの細菌を含むことになる。
【0032】
これによって生ずる課題は、イオン交換体の能力を大幅に低下させることなく、飲料水の軟化に使用されるようなイオン交換体を抗菌性表面とともに提供することである。
【0033】
同時に、潜在的な毒性を持つ微小汚染物質は、次第に社会的関心および専門家の注目点となりつつある。
【0034】
これは、特にペルフルオロ界面活性剤(ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸など)に当てはまり、これらの界面活性剤は生分解されないか、ほとんど生分解されないため、残留性が非常に高い(「Sachstandsbericht ADONA und perfuroriente Substanzen」(「Assessment report ADONA and perfluorinated substances」)、出典:バイエルン州衛生食品安全局)。
【0035】
飲料水からペルフルオロ界面活性剤を除去するための非常に非効率で高価な方法が数多く存在し、例えば、この種の汚染物質に対して非常に低い能力しか持たない活性炭によるろ過、または、清浄な飲料水が得られるものの同時にペルフルオロ界面活性剤を含有する大量の廃水を濃縮された形態で生じる膜処理などがある。また、これらはコストのかかる方法(一般的には焼却)で廃棄されるか、または、廃水に再び戻されることとなる。我々の知る限りにおいて、現状、ペルフルオロ界面活性剤に対して大処理能の選択的吸着材はない。
【0036】
このことから得られる課題は、重金属および細菌に加え、ペルフルオロ界面活性剤も飲料水から除去できるように既知の樹脂を改良し、さらに開発することである。
【0037】
飲料水から重金属(WO2015EP01754、WO2016EP78787)および細菌(DE102017007273.6)を除去できる樹脂が知られている。これらにおいて、アミノポリマーは、付随する担体に固定化され、二官能性架橋剤と反応して安定な三次元ネットワークを形成する。従って、これらの樹脂は、飲料水浄化プラントにおける重金属用のフィルターとして、また、直交法による浄化カスケードの最終段階において重金属を除去するための「ポリスフィルタ」として、これら両方に適している。
【0038】
樹脂製造の第一段階では、必要なコーティングポリマーであるポリビニルホルムアミドを合成し、高分子類似反応において水酸化ナトリウム水溶液によって加水分解して、ポリビニルアミン(PVAm)を調製する。その後、時間およびコストのかかるクロスフローろ過によって、試薬および分離生成物を除去する。脱塩された斯かるポリマー溶液は、次に、第二段階において担体材料のコーティングに使用される。
【0039】
環境問題(エネルギー消費量および廃水量の削減)並びに飲料水浄化システム市場の需要から、製造工程を簡素して、低コスト化、省資源化を図るという課題が生じている。
【0040】
これまで、シリカゲルを基材にするか、または、担体なしで、いわゆるMetCap(登録商標)粒子が、溶液から細菌をうまく取り除くことができることのみ知られていた(DE102017007273.6)。調製法および活性検出法は、DE102017007273.6に開示されている。この文献では、非脱塩ポリマーによるシリカゲル粒子(鋳型として)のコーティングと、その後の無機担体の溶解と、その抗菌活性とについて説明されている。
【0041】
例えばポリスチレンなどの有機担体に基づく粒子について、同様の活性はこれまで知られていなかった。今や驚くべきことに、この活性は、新しいプロセスによって製造されたポリスチレンベースの樹脂で確立されるであろう。ポリスチレンは、通常、非常にバイオフィルムを形成する傾向があり、まったく細菌を除去しないことから、この所見は驚くべきものである。明らかにこの新しいコーティングによって、細菌がポリスチレン表面で増殖せず、むしろ、マトリックス(ここでは飲料水)から締め出されることが確実になる。
【0042】
以上の理由の結果として生じる様々な課題は、以下の目的で既知の樹脂を改良し、さらに発展させることである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、グリシジル2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルエーテルである。
図2図2は、ペルフルオロ界面活性剤(R=ポリマー)の吸着体の2つの構造異性体のうちの1つである。
図3図3は、PV 150772(instrAction 樹脂バッチ:バッチ番号ND 150201)のクロマトグラフィー破過プロファイルである;破過は、約900分後まで、または、樹脂1mLあたり220mgのペルフルオロオクタン酸まで起きない。
図4図4は、BacCap樹脂による細菌減少を調査するための実験セットアップ;1.E. coli, 10 Cfu/Lの細菌懸濁液を含む貯蔵容器、2.ポンプ、3.instrAction BacCap樹脂を含むカラム/カートリッジ、4.画分 である。
図5図5は、外側のみコーティングされたイオン交換体上における細菌除去の動的な結果である。
図6図6は、instrAction BacCap樹脂存在下での静的条件下におけるPseudomonas aeruginosaの濃度の時間経過である。
図7図7は、静菌作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
instrAction MetCapおよびBacCap樹脂を製造するための現状の製造プロセスを簡素化すること、廃棄物処理を減少させること、軟化のためのイオン交換特性と金属またはバクテリアの既知の結合特性との組み合わせによって製品範囲を拡大すること、さらに、飲料水処理において増々問題となっているペルフルオロ界面活性剤を吸着させるための吸着樹脂を製造すること。さらに、例えばポリスチレンなどの有機担体へ製品範囲を拡大することによって、粒子径や細孔径について様々な仕様のものが安価に入手できるため、非常に有利である。ポリスチレンは、この用途に適した機械的特性を有し、定着した市販品である。
【0045】
ポリスチレン系樹脂を用いた製造プロセスの簡略化は、ポリマー加水分解物の脱塩の省略によって、また、特にポリマー溶液を調製するための担体ポリマーの添加および乾燥に関するさらなるプロセス変更によって達成される。
【0046】
驚くべきことに、ポリマー溶液を事前に脱塩することなく、多孔質ポリスチレン粒子への固定化によって、MetCap(登録商標)およびBacCap(登録商標)樹脂を調製することができる。これまでの研究において、多孔質担体へのポリマーの沈着速度または固定化速度が、ポリマー加水分解物の塩含有量にあきらかに依存することが実証されていたため、これは驚くべきことである。
【0047】
コーティングプロセスの調整(例えば、多重コーティング、Lodigeプラウシェアミキサーでの乾燥、新しい洗浄方法の導入)によって、製品性能の欠点を容認することなく、ポリマー加水分解物の脱塩という複雑でコストのかかる工程段階を省略することができる。
【0048】
以上のことから、製造プロセスを変更すること、特に膜ろ過による脱塩を省略すること、また、有機担体材料へ展開することによって、決定的な利点がもたらされるといえる。
【0049】
ポリマー含有量は、重合中のバッチ計算によって決定されることとなる。著者らが驚いたことに、Lodige社の真空ショベルドライヤー内でエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いたコーティングおよび予備架橋は、塩を含まないPVAmポリマー溶液を用いた場合とまったく同じ機能を果たす。次に、含有されている塩は、後架橋のための懸濁液の調製中に部分的に溶出される。担体のシリカゲルが水酸化ナトリウム溶液によって溶液化された後、全ての塩(ケイ酸塩、ギ酸塩、塩化物など)が、架橋された純粋な鋳型有機材料から洗い流される。このようにして得られたBacCap(登録商標)T材料またはMetCap(登録商標)T材料は、脱塩PVAポリマーを用いたプロセスによって製造された吸着樹脂と同等の特性を有する。これはプロセスの第1の改良であるが、大きな驚きである。なぜなら、文献のデータによっても証明されているように、従前の一般的な仮定によると、ポリマー溶液中の高濃度の塩が体積を必要とするため、単にそのかさ高さによって、ポリマーを粒子に効率的且つ完全に充填することが妨げられるからである。
【0050】
第2の方法は、市販されている強イオン交換体または弱イオン交換体を抗菌性PVAポリマーシェルでコーティングすることに関する。
【0051】
市販のイオン交換体、特にここで使用されるカチオン交換体は、通常、ポリマー担体(例えば、ポリスチレン、アクリレートなど)に共有結合している酸基を有する。酸基は、弱イオン交換体の場合にカルボン酸またはカルボン酸塩であり、強イオン交換体の場合にスルホン酸またはスルホン酸塩である。いずれのタイプも飲料水の軟水化に使用される。
【0052】
これらのイオン交換体に抗菌性を与え、同時にそれらの軟化能力を著しく低下させないためには、性能のある酸基の大部分が存在する、粒子細孔内の酸基を改質することなく、粒子の外部コーティングのみが求められる。
【0053】
この目標は、その大きさおよび流体力学的半径が原因でイオン交換体粒子の細孔に侵入できない該当ポリマーを使用することによって達成される。市販のイオン交換体の孔径は、20nmから100nmの範囲である。10,000~20,000g/molの大きさのポリマーは、これらの孔に侵入できない。
【0054】
この手順において、好ましい実施形態では、粒子の放射方向で測定したときに粒子の外側2~25%のみがコーティングされる。より好ましくは、粒子の放射方向で測定したときに粒子の外側2~10%のみがコーティングされる。最も好ましくは、放射方向で測定したときに粒子の外側2~5%のみがコーティングされる。
【0055】
イオン交換が可能な基の間違いなく大部分は、このようにして水の軟化に利用できる。
【0056】
対応するサイズの非脱塩ポリマーもこの目的のために使用することができるが、これは必須要件ではない。非脱塩ポリマーの使用も、脱塩ポリマーによるコーティングも可能である。
【0057】
ポリビニルアミンのアミド基を水酸化ナトリウム溶液で加水分解し、続いて塩酸で中和した後に、ポリマーは、ギ酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムの形で約15~25質量%の塩を含有する。水溶液のポリマー含有量は、非脱塩ポリマーの場合、9~13質量%に相当する。
【0058】
これまでのプロセスでは、逆浸透による複雑なやり方で塩を除去し、塩含有量が2.5質量%未満のポリマーを使用していた。新プロセスでは、この複雑で高価な脱塩工程を省略することができる。従って、新プロセスでは、塩含有量が2.5~15質量%の部分的に脱塩されたポリマーを使用することが好ましい。塩含有量が10~15質量%の部分的に脱塩されたポリマーを使用することがより好ましい。塩含有量が15~25質量%の非脱塩ポリマーを使用することが最も好ましい。
【実施例
【0059】
実施例1
1712gの湿った担体材料であるLewatit S1567イオン交換体を、Lodige社製のVT5プラウシェアミキサーに直接運び入れる。次に、イオン交換体を80℃で60分間乾燥させる。乾燥したイオン交換体の質量を測定することにより、水分損失を測定する。380gの水を除去した。乾燥機における生成物の温度は、10℃に設定されている。ミキサーは、毎分180回転で作動される。混合槽内の生成物温度が10℃に達したら、イオン交換体225g、非脱塩ポリビニルアミン溶液バッチ:PC18007(ポリマー含有量10%)を10℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)[2224-15-9]1gを容器に秤量し、総量が350mLになるまで脱イオン水を加える。この混合物を10分以内にミキサーに入れ、10℃で1時間混合する。続いて、ポリマー吸着体を80℃、50mbarの減圧下で2時間架橋させる。さらに、ポリマーコーティングされたイオン交換体を室温まで冷却した。
【0060】
次に、粒子を適切な吸引フィルターに移し、以下の溶媒(BV=床体積)で洗浄する:3BV 0.1M NaOH、3BV 脱イオン水、3BV 0.2M HCl、3BV 水、6BV 0.1M NaOH、6BV脱イオン水。生成物であるBacCapは、水で湿った粒子として得られる。
【0061】
実施例2
多孔度3のフリット上で、Lanxess社製の3LのLewatit S 8227を、15Lの脱イオン水で洗浄する。次に、2270gの湿式イオン交換体を計量し、Lodige社製のVT 5真空ショベル乾燥器に入れる。イオン交換体をジャケット温度80℃、圧力30mbar、回転速度57rpmで2時間乾燥する。乾燥後、915gの乾燥イオン交換体をVT 5真空ショベル乾燥器に戻し入れる。ジャケット温度を4℃に調整し、生成物温度が20℃未満になったときに、15分以内に600mLの脱イオン水を蠕動ポンプによってミキサーに運び入れ、ミキサーを180rpmの回転速度で作動させる。コーティングには、227gのポリビニルアミン溶液(ポリマー含有量10%)バッチ:PC18007、および、227gの脱イオン水を計量して容器に入れる。架橋剤として、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)[2224-15-9]9.20gを別の容器で秤量する。架橋剤をポリマー溶液に添加し、強力に混合する。続いて、蠕動(ぜんどう)ポンプを用いてこの混合物を5分以内にLodigeミキサーに移す。ミキサーの回転速度を240rpmに調整し、ジャケット温度を4℃に保つ。添加後、混合を240rpmで15分間続けた。その後、乾燥機のジャケット温度を80℃に調整し、回転速度を120rpmに制御する。
【0062】
その後、粒子を室温まで再度冷却し、続いて、適切な吸引フィルターに移し、以下の溶媒で洗浄する:3BV 0.1M NaOH、3BV 脱イオン水、3BV 0.1M HCl、6BV 水。生成物BacCapは水で湿った粒子として得られる。
【0063】
実施例3
500gの担体材料である1.35mL/gの吸水能力を有するスルホン化ポリスチレンPRC 15035(平均孔径450オングストローム、平均粒径500μm)を、Lodige社製のVT5プラウシェアミキサーに直接吸入させる。乾燥機の生成物の温度を10℃に調整する。ミキサーを毎分180回転で作動させる。混合槽内の生成物温度が10℃に達したら、10℃に冷却した225gの非脱塩ポリビニルアミン溶液バッチ:PC16012(ポリマー含有量12%)、20gのエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)CAS No.[2224-15-9]、および430gの脱イオン水を容器に計量する。混合物を10分以内にミキサーに入れ、10℃で1時間混合する。次に、ポリマー吸着体を65℃で架橋する。その後、生成物を室温まで冷却する。続いて、粒子を適切な吸引フィルターに移し、以下の溶媒で洗浄する:3BV 1M NaOH、3BV 脱イオン水、3BV 2M HCl、3BV 水、6BV 1M NaOH、6BV脱イオン水。1297gの生成物を水で湿った粒子として得る。アニオン容量(AIC):471μmol/g。
【0064】
実施例4
粒子サイズが100μmの架橋ポリマーの多孔質粒子の調製(バッチ:BV 18007)について説明:ポリマー吸着体の第1調製:担体材料である750gのシリカゲル(AGC Si-Tech Co.M.S Gel D-200-100 バッチ:164M00711)を、Lodige社製のVT5プラウシェアミキサーに直接運び入れる。生成物温度を10℃に調整する。ミキサーを毎分180回転で作動させる。混合槽内の生成物温度が10℃に達したら、1125gの非脱塩ポリビニルアミン溶液バッチ:PC18007(ポリマー含有量10%)を10℃に冷却し、計量して容器に入れ、23.2gのエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)CAS No.[2224-15-9]を加える。混合物を10分以内にミキサーに入れ、10℃で1時間混合する。次に、ポリマー吸着体を80℃および50mbar(約2時間)で乾燥する。続いて、コーティングされたシリカゲルを10℃に冷却した。2回目のコーティングでは、ポリマー溶液PC18007(ポリマー含有量10%)750gを10℃に冷却し、容器に秤量し、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE)CAS No.[2224-15-9]15gを添加した。ポリマー溶液を5分以内に混合ドラムに注ぎ入れた。ポリマー吸着体を10℃で30分間混合した。さらに、Lodige社製ミキサー内の温度を1時間再度65℃に上昇させた。3Lの脱イオン水をポリマー吸着体に添加した。この懸濁液を架橋に用いる。水中に懸濁しコーティングされたシリカゲルを、自動温度制御しつつ、10Lのガラス反応器に移す。懸濁液を撹拌し、80℃に加熱する。その後、エピクロロヒドリンCAS番号[106-89-8]317gを20分以内に添加し、それに伴い反応器内の温度が85℃を超えないようにする。さらに、211gの1,2-ジアミノエタン[107-15-3]を20分以内に滴下する。続いて、エピクロロヒドリンCAS No.[106-89-8]317gの2回目の添加を20分以内に行い、続いて、211gの1,2-ジアミノエタンCAS No.[107-15-3]を再度加える。最後に、317gのエピクロロヒドリンCAS No.[106-89-8]を最終段階で加え、反応物を85℃で1時間撹拌する。さらに、反応混合物を25℃に冷却し、1500mLの50% NaOHを添加し、反応混合物を12時間撹拌する。続いて、鋳型粒子を適切な吸引フィルターに移し、以下の溶媒で洗浄する:3BV 1M NaOH、3BV脱イオン水、3BV 2M HCl、3BV 水、6BV1M NaOH、および6BV 脱イオン水。
【0065】
生成物は湿ったフィルターケーキとして得られる。
【0066】
実施例5
実施例1、実施例3、または実施例4に従って調製した吸着樹脂を、溶媒、例えばDMF中に懸濁させる。次に、110モル%グリシジル-2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルエーテル(出発樹脂のアミノ基に基づく、図2)を樹脂の撹拌懸濁液に添加し、懸濁液を70℃で12時間撹拌する。続いて、懸濁液を以下の溶媒でシリンジを用いて洗浄する:3BV DMF、3BV n-ヘプタン、3BV 1M DMF中HCl、3BV 1M DMF中NaOH、および3BV DMF。再度、DMF中の50%懸濁液を調製する。2回目の反応工程において、110モル%グリシジル-2,2,3,3,4,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルエーテルをこの懸濁液に再度添加する。さらに、反応混合物を70℃で12時間撹拌する。また、吸着樹脂を以下の溶媒で洗浄する:3BV DMF、3BV n-ヘプタン、3BV 1M DMF中HCl、3BV 1M DMF中NaOH、3BV MeOH。最後に、吸着樹脂を減圧下で一定質量になるまで乾燥させてもよい。
【0067】
吸着樹脂の構造を図1に示す。
【0068】
実施例6
実施例5で調製した吸着樹脂、活性炭(100オングストローム、45μm)、および市販のC-18クロマトグラフィーゲル(Kromasil、C18、100オングストローム、10μm)を、それぞれ、大きさ33.5×4mmのHPLCカラムに充填し、カラムをシールし、前端分析に供する。この分析のため、100ppmのペルフルオロオクタン酸の水溶液を調製し、性能が失われるまでポンプでカラムに通す。破過は、205nmでのUV分光法により測定される。
【0069】
以下の表(表1)は、3つの吸着体で測定したペルフルオロオクタン酸の吸着能を示している。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、ペルフルオロオクタン酸の吸着能力は、instrAction phase(バッチ番号ND 150201)において、活性炭におけるよりも約3~4倍大きい。市販のRP18ゲルは、ペルフルオロオクタン酸の吸着を示さない。
【0072】
前端分析の破過(ブレークスルー)曲線を図3に示す。
【0073】
実施例7
instrAction樹脂(BV 18009、実施例3のように調製)の水中懸濁液を調製し、床容積が約100mL(床寸法:平均約6.3×9cm)となるように、軸方向に流路を有するカートリッジに充填する。
【0074】
次に、大腸菌(10~10CFU/L)の懸濁液を、100~500mL/min(60~300BV/h)/hという段階的に増加する流速で、ポンプによってカートリッジに通す。約3~5分後に各流速段階で流出液を回収し、その後、標準的な手順を用いて残留菌の有無を調べる。
【0075】
調査結果を図5に示す。全調査範囲にわたって、流出液中に細菌は検出されない。これは、飲料水に匹敵する濃度で細菌が完全に除去されることを意味する。
【0076】
実施例8
P. aeruginosaに対する活性について、実施例3で調製したinstrAction樹脂を以下のように調べる:水道水で洗浄した500gの樹脂を、10mL水道水中のPseudomonas aeruginosaの10 CFU懸濁液と共に、反応容器中でインキュベートする。3時間後、6時間後、12時間後、24時間後に、試料を採取し、標準的な方法を用いてPseudomonas aeruginosaについて調べる。結果が図6に示されており、3時間のインキュベーションだけで、もはや細菌は検出されない。
【0077】
実施例9
水ろ過ボトル
Brita社およびBWT社製の市販の水ろ過ボトルに、実施例1または実施例2および実施例3に従って調製した本発明のinstrAction樹脂の混合物を充填し、活性炭を1:1の比率で添加し、そして、銀を添加した元のカートリッジと比べて、細菌増殖について比較した。
【0078】
この目的のために、まず、E. coli (大腸菌)の8.3×10 cfu/L懸濁液1Lをカートリッジに加え、保管し、3週間後に溶出された菌について調べた。
【0079】
調査結果を図7に示す。
【0080】
予想されるように、カートリッジに添加された銀の一部が溶出し、よってろ濾液中の細菌増殖を妨げるため、銀を添加したBWT社およびBrita社製の元のカートリッジの洗浄媒体中に細菌を検出することはできない。本願で請求された樹脂と活性炭との混合物を含むカートリッジも同様に、細菌を全く検出できないか、または、添加量に比べ検出限界に近くなるまで非常に減少した数だけの細菌を検出する。
【0081】
従って、本出願において請求された樹脂の静菌効果が実証される。そのため、望ましくない銀をカートリッジに添加する必要はない。
【0082】
本願で請求された樹脂と活性炭との混合物を充填したカートリッジのろ過速度は、用途上重要であるところ、銀を添加した市販カートリッジと比較して同程度である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7