(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】シラン基を有する(メタ)アクリル樹脂を含有するコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 143/04 20060101AFI20250108BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250108BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20250108BHJP
C08F 220/28 20060101ALI20250108BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20250108BHJP
【FI】
C09D143/04
C09D7/63
C09D7/20
C08F220/28
C09D133/04
(21)【出願番号】P 2022506411
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 EP2020071358
(87)【国際公開番号】W WO2021018945
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-07-28
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】レフェント,エムレ
(72)【発明者】
【氏名】ツァミナー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】カサノヴァ サンチェス,イヴォンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル,クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】オット-アレンス,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】ミッターク,フリーデリケ
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214755(JP,A)
【文献】特表2012-522850(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098112(WO,A1)
【文献】特表2010-539299(JP,A)
【文献】特開平06-248233(JP,A)
【文献】特開昭62-034910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0163645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 133/04
C09D 7/63
C09D 7/20
C08F 220/28
C09D 143/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(I)の部位を含む1つ以上の(メタ)アクリルポリマーと、
*-C(=O)-O-CH
2-Si(R
a)
3-x(R
b)
x (I)
式中、
R
aはメトキシ基であり、
R
bは、1~4つの炭素原子を含むアルキル基又は1~4つの炭素原子を含むアルコキシ基であり、
xは0又は1であり、
アスタリスク
*は、式(I)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す;
(B)式(II)の1つ以上の触媒と、
H
3C-C(R
c)(R
d)-C(=O)-O
-M
+ (II)
式中、
R
c及びR
dは、独立して、1~6つの炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、残基R
c及びR
dの炭素原子数の合計は2~7つであり、Mは、Li、K又はNaを表す;
(C)1つ以上の非プロトン性有機溶媒と、
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
xが0、又は、R
bがメチルである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
式(II)の触媒の残基R
c及びR
d中の炭素原子数の合計が5~7つである、請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記(A)の1つ以上の(メタ)アクリルポリマーは、
式(III)の部位、
*-C(=O)-O-R
e(III);
式中、R
eは、直鎖状又は分岐状のアルキル基と;シクロアルキル基と;アリール基と;アラルキル基と;からなる群から選択されるヒドロカルビル基であり、又は、
R
eはアルコキシアルキル基であり、及び
アスタリスク
*は、式(III)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す、
及び/又は、
式(IV)の部位、
*-R
f (IV)
式中、R
fは、6~10個の炭素原子を含有するアリール基であり、アスタリスク
*は、式(IV)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す、
をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
式(I)の部位は、式(Ia)の(メタ)アクリレートモノマーに由来し、
H
2C=CR
g-C(=O)-O-CH
2-Si(R
a)
3-x(R
b)
x (Ia)
式中、R
a、R
b及びxは、請求項1~4のいずれかで定義されている通りであり、R
gは、H又はCH
3である、
式(III)の部位は、式(IIIa)の(メタ)アクリレートモノマーに由来し、
H
2C=CR
g-C(=O)-O-R
e (IIIa)
式中、R
eは、請求項4で定義されている通りであり、R
gは、H又はCH
3である、及び、
式(IV)の部位は、式(IVa)のビニルモノマーに由来する、
H
2C=CR
g-R
f (IVa)
式中、R
fは、請求項4で定義されている通りであり、R
gはH又はCH
3である、
請求項
4に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記(A)の(メタ)アクリルポリマーは、
i. 20~60質量%の式(Ia)のモノマーと;
ii. 25~65質量%の式(IIIa)のモノマーと;
iii.5~25質量%の式(IVa)のモノマーと;
の混合物を重合することによって得られることができ、
式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノマーの量の合計は、重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて、少なくとも80質量%である、請求項
5に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記(A)の(メタ)アクリルポリマーは、
i. 25~55質量%の式(Ia)のモノマーと;
ii. 30~60質量%の式(IIIa)のモノマーと;
iii.10~20質量%の式(IVa)のモノマーと;
の混合物を重合することによって得られることができ、
式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノマーの量の合計は、重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて、少なくとも90質量%である、請求項6に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノマーの量の合計は、重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて、100質量%である、請求項6又は7に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
(D) 式(V)の1つ以上のカルボン酸をさらに含み、
H
3C-C(R
h)(R
i)-COOH (V)
式中、R
h及びR
iは、独立して1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、残基R
h及びR
iの炭素原子数の合計が2~7の範囲である、
及び/又は、
(E) レベリング剤、消泡剤、スリップ添加剤、UV吸収剤からなる群から選択される1つ以上のコーティング添加剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
35~60質量%の式(I)の前記(A)の1つ以上の(メタ)アクリルポリマーと、
(A)の100gあたり、0.3~40mmolの前記(B)の式(II)の1つ以上の触媒と、
少なくとも25質量%の前記(C)の1つ以上の非プロトン性溶媒と、
0~8質量%の請求項9の式(V)の前記(D)の1つ以上のカルボン酸と、
0~20質量%の前記(E)の1つ以上のコーティング添加剤と、を有し、
全パーセンテージは前記コーティング組成物の総質量に基づく、請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
クリアコート組成物である請求項1~10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に定義されたコーティング組成物で基板をコーティングする方法であって、
i.前記コーティング組成物を基板上に塗布してコーティング層を形成することと;
ii.前記コーティング層を20℃から100℃の範囲の温度で硬化させること、
を含む、方法。
【請求項13】
前記コーティング層を40℃から80℃の範囲の温度で硬化させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法によって得られることができるコーティングされた基板。
【請求項15】
輸送手段の本体又はその部品;内装及び外装建築物;家具、窓;ドア;プラスチック成形品;小型工業部品;コイル;容器;包装;白物家電;シート;光学部品、電気部品及び機械部品;ガラス製品;及び日常生活用品からなる群から選択される、請求項14に記載のコーティングされた基板。
【請求項16】
少なくとも2つのコーティング層を有する多層コーティングであって、前記コーティング層の少なくとも1つは請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング組成物から形成された、または。請求項12又は13に記載の方法によって得られる、多層コーティング。
【請求項17】
請求項16に記載の多層コーティングによってコーティングされた基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物、特に(メタ)アクリルポリマーを有する加水分解性シラン基に基づくクリアコート組成物に関する。本発明はさらに、本発明のコーティング組成物で基板をコーティングする方法、ひいてはコーティングされた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの従来のコーティングシステムでは、結合剤の架橋は、イソシアネート化学によって、又はアミノプラスト樹脂を使用することによって実現される。しかし、アミノプラスト樹脂ベースの架橋及びブロックイソシアネートを用いた架橋は、通常比較的高い架橋温度を必要とする。したがって、このようなシステムは、低温硬化が必要な場合には適していない。一方、架橋剤としての遊離イソシアネートの使用は、高い環境上の及び労働安全上の予防措置が必要である。
【0003】
そのため、イソシアネート及び/又はアミノプラスト樹脂をベースとした架橋剤を使用する必要がなく、100℃よりも十分に低い温度で硬化し、十分な硬度、耐スクラッチ性及び耐溶剤性を示すコーティングを形成する、高度に架橋された速硬化性のコーティング組成物に対する継続的な需要がある。
【0004】
イソシアネート化学及び/又はアミノプラスト化学を含まないコーティング組成物を提供する1つの試みは、シラン架橋化学を利用することに基づいている。加水分解性のシランは、硬質な表面コーティングを提供する安定した無機Si-O-Siのネットワークを形成しやすいことはよく知られている。
【0005】
いくつかの用途、例えばシーラント又は接着剤の製造において、加水分解性シラン基はポリエーテル又はポリウレタンなどの有機ポリマーに結合される。このような修飾された有機ポリマーは、エラストマー製品の形成下で架橋する。
【0006】
さらなる用途において、加水分解性アミノシランは、イソシアネート基を完全に又は部分的に消費してポリイソシアネートと反応する。得られた化合物は、例えば、(メタ)アクリル樹脂などのヒドロキシル官能性有機ポリマーを架橋するための架橋剤として使用されることができる。
【0007】
US2012/045586A1は、アルコキシシラン基を有する少なくとも1つの結合剤及び少なくとも1つの架橋触媒を含む、非プロトン性溶媒に基づく湿気硬化コーティング組成物を開示している。
【0008】
US5,356,996Aは、アルコキシシラン含有ビニルモノマーとアミノ樹脂を共重合させることによって調製されたアクリルポリマーを含むコーティング組成物を開示している。このコーティングは、低温で硬化可能である。
【0009】
さらに、US4,614,777Aには、低温での硬化を可能にする主なフィルム形成剤としてコーティング組成物に含めることができる付加インターポリマーを開示している。このインターポリマーは、イソボルニル(メタ)アクリレートを用いて調製され、シラン基を含む。
【0010】
US2011/118406Aは、シラノール官能性シリコーン、アルコキシ官能性シリコーン、2つ以上の反応物を含む柔軟剤、及び硬化剤を含む、一成分の低温湿気硬化性コーティング組成物を開示している。
【0011】
しかし、多くの場合、触媒作用が不十分なために架橋効率が制限され、遅い硬化、時に粘着性のフィルム、溶剤及びスクラッチに対する低い耐性を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、イソシアネート架橋剤又はアミノプラスト架橋剤を利用することなく、低温で硬化するシラン架橋に基づく速硬化性コーティング組成物を提供し、耐スクラッチ性を示す耐溶剤性硬化コーティングを提供することである。さらに、スズ又は他の重金属含有触媒を避ける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的は、
(A)式(I)の部位を含む1つ以上の(メタ)アクリルポリマーと、
*-C(=O)-O-CH2-Si(Ra)3-x(Rb)x (I)
式中、
Raはメトキシ基であり、
Rbは、1~4つの炭素原子を含むアルキル基又は1~4つの炭素原子を含むアルコキシ基であり、
xは0又は1であり、
アスタリスク*は、式(I)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す;
(B)1つ以上の式(II)の触媒と、
H3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-O-M+ (II)
式中、
Rc及びRdは、独立して、1~6つの炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdの炭素原子数の合計は2~7つであり、Mは、Li、K又はNaを表す;
(C)1つ以上の非プロトン性有機溶媒と、
を含むコーティング組成物を提供することによって達成された。
【0014】
以下では、上記のコーティング組成物は「本発明によるコーティング組成物」として参照される。
【0015】
本明細書で使用される「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」及び「メタクリル」を表す。同様に、「(メタ)アクリルポリマー」は、重合形態のアクリルモノマー及び/又はメタクリルモノマーを含む。しかしながら、前述のアクリルモノマー及び/又はメタクリルモノマーの他に、スチレンなどのエチレン性不飽和モノマーを(メタ)アクリルポリマーに含めることができる。
【0016】
本発明のさらなる目的は、本発明によるコーティング組成物で基板をコーティングする方法であり、この方法は
a.コーティング層を形成するために、本発明によるコーティング組成物を基板上に塗布することと;
b.前記コーティング層を20℃から100℃の範囲の温度で硬化させること、
を含む。
【0017】
以下では、上記の方法を「本発明による方法」と呼ぶ。
【0018】
本発明の別の目的は、本発明による方法によって得られ得るコーティングされた基板である。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、多層コーティング及び多層コーティングされた基板である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細説明
コーティング組成物
本発明によるコーティング組成物は、上記式(I)の部位を含む少なくとも1つの(メタ)アクリルポリマーと、上記式(II)の触媒と、1つ以上の非プロトン性溶媒と、を含み、最も好ましくはクリアコート組成物である。
【0021】
(メタ)アクリルポリマー(A)
本発明の(メタ)アクリルポリマーは、この分野で任意の既知の重合技術を使用して合成することができる。特に連続的又はバッチ式のフリーラジカルに開始される共重合を、特に、大気圧又は超大気圧下で、撹拌タンク、オートクレーブ、チューブ反応器、ループ反応器又はテイラー反応器を用いて、好ましくは50~200℃の温度で、バルク、溶液、乳化、ミニ乳化又はマイクロ乳化中で、行うことができる。
【0022】
適切な共重合技術の例は、特許出願DE19709465A1、DE19709476A1、DE2848906A1、DE19524182A1、DE19828742A1、DE19628143A1、DE19628142A1、EP0554783A1、WO95/27742、WO82/02387又はWO98/02466に記載されている。
【0023】
適切なフリーラジカル開始剤の例としては、ジアルキルパーオキシド、例えばジ-tert-ブチルパーオキシド又はジクミルパーオキシドなど;ヒドロパーオキシド、例えばクメンヒドロパーオキシド又はtert-ブチルヒドロパーオキシドなど;ペルオキソエステル、例えば、ペルオキソ安息香酸tert-ブチル、過酸化ペルオキソtert-ブチル、tert-ブチルペルオキソ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート又はtert-ブチルペルオキソ-2-エチルヘキサノエート;又はペルオキソ二炭酸塩;カリウム、ナトリウム又はアンモニウムペルオキソ二硫酸塩が挙げられる。上述の開始剤の組み合わせを採用することも可能である。
【0024】
比較的多量のフリーラジカル開始剤を添加することが好ましく、該開始剤の量は、モノマーと開始剤の総量に基づいて、好ましくは0.2~20質量%であり、より好ましくは0.5~15質量%である。
【0025】
(メタ)アクリルポリマー(A)の調製に採用されるエチレン性不飽和単量体は、モノエチレン性不飽和単量体であることが好ましい。エチレン性不飽和基は、(メタ)アクリル基及びビニル基からなる群から選択される。
【0026】
(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合しているのは、式(I)の部位である。
*-C(=O)-O-CH2-Si(Ra)3-x(Rb)x (I)
式中、
Raはメトキシ基であり、
Rbは
i. 1~4つの炭素原子、好ましくは1又は2つ、最も好ましくは1つの炭素原子を含有するアルキル基、又は
ii. 1~4つの炭素原子、好ましくは1又は2つの炭素原子、最も好ましくは1つの炭素原子を含有するアルコキシ基;
であり、
xは0又は1であり、好ましくはx=0であり、アスタリスク*は、式(I)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す。
【0027】
好ましい実施形態では、Rbは、メチル基又は1又は2つの炭素原子を有するアルコキシ基であり、さらにより好ましいRbは、1又は2つの炭素原子を有するアルコキシ基であり、最も好ましくは、x=0である。
【0028】
上記の式(I)の部位は、加水分解性ヒドロキシメチルシランの(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって導入することができ、重合性(メタ)アクリルモノマーは式(Ia)を有し、
H2C=CRg-C(=O)-O-CH2-Si(Ra)3-x(Rb)x (Ia)
式中、Ra、Rb及びxは、式(I)で定義されている通りであり、Rgは、H又はCH3である。好ましくは、Rgはメチルである。
【0029】
このような式(I)のモノマーは、例えば、ワッカー社からGeniosil(登録商標)XL 33及びGeniosil(登録商標)XL 32の商標で市販されている。
【0030】
(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合しているさらなるエチレン性不飽和部位は、好ましくは式(III)で示され、
*-C(=O)-O-Re(III);
式中、Reは、
好ましくは1~18個の炭素原子、より好ましくは2~12個の炭素原子、さらに好ましくは例えば4個の炭素原子などの3~8個の炭素原子を含有する、直鎖状又は分岐状のアルキル基と;
好ましくは3~8個の炭素原子、より好ましく例えば4個の炭素原子などの4~6個の炭素原子を含有する、シクロアルキル基と;
好ましくは6~12個の炭素原子、好ましくは例えば6~8個の炭素原子などの6~10個の炭素原子を含有する、アリール基と;
好ましくは7~12個の炭素原子、より好ましくは7~10個の炭素原子を含むアラルキル基;からなる群から選択されるヒドロカルビル基を示し、又は、
Reは、好ましくはアルコキシアルキル基のアルコキシ残基に1~6個の炭素原子を含有するアルコキシアルキル基と、アルコキシアルキル基のアルキル残基に2~6個の炭素原子を含有するアルコキシアルキル基を示し;及び
アスタリスク*は、式(III)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す。
【0031】
Re基がヒドロカルビル基である場合、好ましくは、Reは、1~8個の炭素原子を含有するアルキル基、及び3~8個の炭素原子を含有するシクロアルキル基からなる群から選択されるヒドロカルビル基を示す。
【0032】
上記の式(III)の部位は、モノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを重合することによって導入することができ、重合性(メタ)アクリルモノマーは、式(IIIa)を有し、
H2C=CRg-C(=O)-O-Re (IIIa)
式中、Reは、式(III)で定義されている通りであり、Rgは、H又はCH3である。好ましくは、Rgはメチルである。
【0033】
高いガラス転移温度、例えば0℃より上、好ましくは10℃より上のガラス転移温度を有する(メタ)アクリルポリマー(A)を生成するには、シクロヘキシル基などのシクロ脂肪族残基Reを使用することが好ましい。しかしながら、低いガラス転移温度を有する(メタ)アクリルポリマー(A)が所望される場合、例えば0℃未満、好ましくは-10℃より上、さらには-20℃未満である場合、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基のようなアルキル基などの脂肪族残基が好ましい。
【0034】
(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合しているのが好ましく、さらなるエチレン性不飽和部位は、好ましくは式(IV)で示され、
*-Rf (IV)
Rfは、フェニル基などの6~10個の炭素原子を含有するアリール基を表し、アスタリスク*は、式(IV)の部位が(メタ)アクリルポリマーのポリマー主鎖に結合している位置を示す。
【0035】
式(IV)の部位は、好ましくは式(IVa)のビニルモノマーに由来し、
H2C=CRg-Rf (IVa)
Rfは、式(IV)で定義されている通りであり、RgはH又はCH3である。好ましくは、Rgは水素である。
【0036】
式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)の前述のタイプのモノエチレン性不飽和モノマーの他に、さらにモノエチレン性不飽和モノマーを(メタ)アクリルポリマー(A)、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;又はメチル-2-ヒドロキシメチルアクリレート、エチル-2-ヒドロキシメチルアクリレート及びブチル-2-ヒドロキシメチルアクリレートのようなアルキル-2-ヒドロキシメチルアクリレート;又は(メタ)アクリル酸など;又は、アミノアルキル(メタ)アクリレートなど、の生成に採用されることができる。
【0037】
しかし、好ましくは、(メタ)アクリルポリマー(A)は、ヒドロキシル基、アミノ基又はカルボキシル基を含有するモノエチレン性不飽和モノマー、例えば、特にヒドロキシル官能性(メタ)アクリレート、アミノ官能性(メタ)アクリレート又はカルボキシ官能性(メタ)アクリレートを含有しない。
【0038】
好ましくは、式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノエチレン性不飽和モノマーの合計は、(メタ)アクリルポリマー(A)の生成に採用されるすべてのエチレン性不飽和モノマーの少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%又は100質量%である。式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノエチレン性不飽和モノマーの量が合計で100質量%に達しない場合、100質量%までの残留量は、上記の式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)とは異なるさらなるモノエチレン性不飽和モノマーによって構成される。
【0039】
(メタ)アクリルポリマー(A)は、
i. 好ましくは20~60質量%の量であり、より好ましくは25~55質量%の量であり、最も好ましくは30~50質量%の量である、式(Ia)のモノマーと;
ii. 好ましくは25~65質量%のであり、より好ましくは30~60質量%のであり、最も好ましくは35~58質量%である、式(IIIa)のモノマーと;
iii. 好ましくは5~25質量%の量であり、より好ましくは10~20質量%の量であり、最も好ましくは12~18質量%の量ある、式(IVa)のモノマーと;
の混合物を重合することによって得られることができ、
式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)のモノエチレン性不飽和モノマーの量の合計は、(メタ)アクリルポリマー(A)を得るための重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて、好ましくは少なくとも80質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、最も好ましくは少なくとも95質量%又は100質量%である。
【0040】
式(Ia)のモノマーの量を変化させることで、コーティングの架橋密度と硬度に影響を与えることが可能である。式(Ia)のモノマーの量が多いほど、架橋密度は高くなる。しかし、その量が(メタ)アクリルポリマー(A)を得るための重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて60質量%を超えると、得られる架橋フィルムにクラックが発生する傾向がある。その量が(メタ)アクリルポリマー(A)を得るための重合に採用されるエチレン性不飽和モノマーの総質量に基づいて20質量%未満である場合、得られるフィルムは硬度が不十分であり、その結果、耐スクラッチ性が不十分となる。
【0041】
式(Ia)のモノマーの量が変化した場合、その変化を補うために、式(IIIa)のモノマーの量を増減させることが好ましい。
【0042】
(メタ)アクリルポリマー(A)は、好ましくはランダムコポリマーである。しかし、他のポリマー構造も可能であり、例えば、勾配構造又はブロック構造などが挙げられる。
【0043】
コーティング組成物の総質量に基づく(メタ)アクリルポリマー(A)の量は、好ましくは35~60質量%の範囲であり、最も好ましくは40~50質量%の範囲である。本発明によるコーティング組成物に採用される(メタ)アクリルポリマー(A)の量は、(メタ)アクリルポリマー(A)の生成で得られた反応混合物の一部(約1~2g)を130℃で1時間乾燥させることによって決定される。反応混合物中の(メタ)アクリルポリマー(A)の固形分として3回の決定の平均値が用いられる。
【0044】
(メタ)アクリルポリマー(A)と触媒は、早期の架橋を避けるために、コーティング組成物の使用直前に組み合わされることが好ましい。両者を組み合わせた後、コーティング組成物は30分以内に使用されることが好ましい。
【0045】
触媒(B)
本発明のコーティング組成物に使用される触媒は、式(II)の分岐カルボン酸のアルカリ金属塩であり、
H3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-O-M+ (II)
式中、Rc及びRdは、1~6個の炭素原子を含有するアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdの炭素原子数の合計は2~7個の範囲であり、Mは、Li、K又はNaであり、好ましくはLiである。
【0046】
最も好ましい触媒(B)は、ネオデカン酸のアルカリ金属塩であり、特に好ましいのはネオデカン酸リチウムである。
【0047】
典型的には、式(II)の触媒は、DUROCT Lithium 2(マドリッドのDURA社製)のような酸安定化形態で製造業者によって供給される。式(II)のこのような酸で安定化された触媒を使用するは、貯蔵安定性が高いためだけでなく、本発明によるコーティング組成物に遊離酸を導入するためにも好ましい。安定化酸は、一般に、式(II)の触媒に対応する分岐遊離カルボン酸と同じである。触媒の供給形態がH3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-OHを含有する場合、この酸の含有量は、以下に記載するように、式(V)のカルボン酸(D)の下に包含される。
【0048】
コーティング組成物に採用される(メタ)アクリルポリマー(A)の量に基づいた触媒(B)の量は、(メタ)アクリルポリマー(A)100gあたり、好ましくは0.3~40mmol、より好ましくは1.0~30mmol、最も好ましくは10~20mmolの範囲である。
【0049】
非プロトン性有機溶媒(C)
本発明によるコーティング組成物は、1つ以上の非プロトン性溶媒を含有する。コーティング組成物中の非プロトン性溶媒は、(メタ)アクリルポリマー(A)に対して化学的に不活性であり、すなわち、コーティング組成物を硬化させるときに(A)と反応しない。
【0050】
このような溶媒の例としては、例えばトルエンなどの脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、キシレン、溶媒ナフサ、Solvesso 100又はHydrosol(登録商標)(APAL社製)、例えばアセトンなどのケトン、メチルエチルケトン又はメチルアミルケトン、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル又はエポキシプロピオン酸エチルなどのエステル、エーテル、又は前述の溶媒の混合物が挙げられる。非プロトン性溶媒又は溶媒混合物は、好ましくは、溶媒に基づいて1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下の含水量を好ましくは有する。
【0051】
本発明によるコーティング組成物は、好ましくは実質的に水を含まず、プロトン性有機溶媒を含まない(コーティング組成物の総質量に基づいて、水及び/又はプロトン性有機溶媒が0.5質量%未満、好ましくは0.05質量%未満)。しかしながら、本明細書で使用される添加剤又は触媒は、プロトン性有機溶媒で販売され、したがって、場合によっては、それらの使用前に溶媒交換を行わない限り、いくつかの不要なプロトン性溶媒を導入することは避けられない。そのようなプロトン性溶媒の量が上記の制限内に保たれている場合、そのような量は通常は無視することができる。例えば添加剤によって導入されるようにプロトン性溶媒の存在により望ましくない早期架橋が生じる場合、そのような添加剤は、コーティング組成物の塗布の直前にコーティング組成物に導入されることが好ましい。別の可能性は、溶媒交換を行うことである。
【0052】
非プロトン性溶媒は、典型的には、非プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒の混合物に(メタ)アクリルポリマーの溶液又は分散液を用いることによって導入される。非プロトン性溶媒のさらなる部分は、コーティング組成物の粘度を適切な塗布粘度に調整するために導入される。
【0053】
好ましくは、非プロトン性有機溶媒(C)の量は、コーティング組成物の総質量に基づいて少なくとも25質量%であり、上限は他の成分の量によって決定され、非プロトン性有機溶媒(C)を含む全ての成分は合計で100質量%である。非プロトン性有機溶媒(C)のより好ましい量は、30質量%~約64質量%であり、さらに好ましくは40質量%~60質量%であり、最も好ましくは45質量%~55質量%であり、すべての質量%の値は、コーティング組成物の総質量に基づいている。
【0054】
カルボン酸類(D)
好ましくは、本発明のコーティング組成物は、式(V)の1つ以上のカルボン酸をさらに含み、
H3C-C(Rh)(Ri)-COOH (V)
式中、Rh及びRiは、1~6個の炭素原子を含有するアルキル基を示し、ただし、残基Rh及びRiの炭素原子数の合計が2~7の範囲である。
【0055】
特に好ましいのは、式(V)のカルボン酸が、式(II)の触媒に対応する遊離カルボン酸であることである。最も好ましいのは、カルボン酸(D)が酸安定化触媒(B)を用いて導入されることである。
【0056】
含有する場合、コーティング組成物の総質量に基づいたカルボン酸(D)の量は、好ましくは0~8質量%であり、より好ましくは1~6質量%であり、特に2~5質量%である。
【0057】
添加物(E)
本発明のコーティング組成物は、典型的な量、すなわち、コーティング組成物の総質量に基づいて、それぞれの場合において、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0.005~15質量%、特に0.01~10質量%の量の、少なくとも1つの慣用的で既知のコーティング添加剤をさらに含んでよい。前述の質量%の範囲が、同様にすべての添加剤の合計量に適用される。
【0058】
適切なコーティング添加剤の例としては、特にUV吸収剤;HALS化合物、ベンゾトリアゾール又はオキサニリドなどの光安定剤;フリーラジカル捕捉剤;スリップ添加剤;重合阻害剤;消泡剤;シロキサン、フッ素化合物、接着促進剤などの湿潤剤;レベリング剤;セルロース誘導体などのフィルム形成補助剤;シリカ、アルミナ又は酸化ジルコニウムをベースとするナノ粒子などの充填剤;さらなる詳細については、Roempp Lexikon「Lacke und Druckfarben」,George Thieme Verlag,Stuttgart,1998年,250頁~252頁を参照のこと;例えば特許WO94/22968、EP-A-0276501、EP-A-0249201又はWO97/129457からのものなどのレオロジー制御添加剤;例えばEP-A-0008127に開示されているような架橋ポリマーマイクロ粒子;モンモリロナイト型のアルミニウムマグネシウムシリケート、ナトリウムマグネシウム及びナトリウムマグネシウムフッ素リチウムフィロシリケートなどの無機フィロケイ酸塩;Aerosils(登録商標)などのシリカ;有機増粘剤;及び/又は難燃剤、が挙げられる。
【0059】
上記の添加剤量に、触媒(C)とは異なる触媒をさらに添加することも可能である。例えば、カルボン酸(D)の他の塩、例えば、そのビスマス塩などを加えることができる。好ましくは、さらなる触媒が使用されない。
【0060】
上記の添加剤量で、ヒドロキシル官能結合剤、例えば(メタ)アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、又はポリウレタンポリオールを、コーティング組成物に添加することがさらに可能である。しかしながら、本発明によるコーティング組成物がヒドロキシル官能性結合剤を含有しないことが好ましい。
【0061】
基板のコーティング方法
本発明のさらなる目的は、本発明によるコーティング組成物で基板をコーティングする方法であり、この方法は、本発明によるコーティング組成物を基板上に塗布してコーティング層を形成すること、及び、20℃から100℃の範囲の温度でコーティング層を硬化させることを含む。
【0062】
基板
本発明の方法では、広範囲の材料が基板として使用されることができる。好ましくは、基板材料は、金属、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベースの材料、及び前述の材料のいずれかの複合材料からなる群から選択される。
【0063】
金属という用語は、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅などのような金属元素、同様に冷間圧延鋼、亜鉛めっき鋼のような鋼などの合金を含む。ポリマーは、熱可塑性ポリマー、デュロプラスチックポリマー、エラストマーポリマーであり得、デュロプラスチックポリマー及び熱可塑性ポリマーが好ましい。鉱物ベースの材料は、例えば、硬化セメント及びコンクリートなどの材料を包含する。複合材料は、例えば、繊維強化ポリマーなどである。
【0064】
もちろん、前処理された基板を使用することは可能であり、前処理は決まって基板の化学的性質に依存する。
【0065】
好ましくは、基板は、例えば埃、脂肪、油、又は他の通常コーティングの良好な接着を妨げる物質を除去するために、使用前に洗浄される。さらに、後続のコーティングの接着性を高めるために、基板を接着促進剤で処理することができる。
【0066】
金属基板は、本発明によるコーティング組成物でコーティングされる前に、いわゆる化成コート層(コート)及び/又は電着コート層を含んでいてよい。
【0067】
ポリマー基板の場合、前処理は、例えばフッ素処理、プラズマ処理、コロナ処理、又は火炎処理などを含み得る。多くの場合、表面は研磨及び/又は仕上げ研磨される。洗浄は、事前の研磨の有無にかかわらず、手動で溶剤で拭くことによって、又は、二酸化炭素洗浄などの一般的な自動化された手順によって行われることもできる。
【0068】
上記の基板のいずれも、コーティング層の形成前に、1つ以上の充填剤及び/又は1つ以上のベースコートでプレコーティングされることもできる。このような充填剤は、カラー顔料及び/又は効果顔料、例えばアルミニウム顔料などのメタリック効果顔料;又はマイカ顔料などの真珠光沢顔料を含むことができる。
【0069】
塗布
本発明のコーティング組成物は、例えばスプレー、ナイフコーティング、ブラッシング、フローコーティング、ディッピング、含浸、トリッキング、ローリングなどの慣用的な塗布方法のいずれかによって塗布されることができる。コーティングされる基板は、それ自体は静止し、塗布装置又は塗布ユニットは動いていてもよい。あるいは、コーティングされる基板、特にコイルは動いていてもよく、塗布ユニットは基板に対して静止しているか、あるいは適切に動いていてもよい。
【0070】
工業規模では、圧縮空気噴霧、エアレス噴霧、高速回転、又は静電噴霧(ESTA)などの噴霧塗布方法を採用することが好ましい。
【0071】
硬化
コーティング層の硬化は、一定の静置時間の後に行われ得る。静置時間は、例えば、コーティングフィルムのレベリング及び脱気、又は溶媒の蒸発などに用いられる。静置時間は、コーティングフィルムの損傷又は変化、例えば早期完全架橋などを伴わないことを条件として、高温を適用することによって補助及び/又は短縮することができる。
【0072】
コーティング組成物の硬化は、その方法に関する限り、特に特徴はなく、強制空気オーブンでの加熱又はIRランプへの曝露など、代わりに従来の方法によって行われる。また、硬化は段階的に行われてもよい。他の好ましい硬化方法は、近赤外線(NIR)放射で硬化する方法である。硬化は、20~100℃、より好ましくは30~90℃、最も好ましくは40~80℃又は50~70℃の温度で、2分~2時間、より好ましくは3分~1時間、特に5分~30分の時間で行うのが有利である。塗布時の相対湿度は好ましくは、25~45%、より好ましくは30~35%であることを要する。
【0073】
本発明のコーティング組成物は、新規な硬化コーティング、特にクリアコート、成形品特に光学成形品、及び高い耐スクラッチ性を有し、特に溶媒安定性を有する自己支持型シートを提供する。本発明のコーティング及びコーティングシステム、特にクリアコートは、応力亀裂の発生なしに、特に100μmを超えるコート厚で生成されることができる。
【0074】
コーティングされた基板
本発明のさらなる目的は、本発明による方法で得られるコーティングされた基板である。
【0075】
選択された基板材料に応じて、コーティング組成物は広範な異なる塗布領域に塗布されることができる。多くの異なる種類の基板がコーティングされて、耐スクラッチ性及び耐溶剤性を向上させることができる。
【0076】
したがって、本発明のコーティング組成物は、輸送手段(特にオートバイ、バス、トラック又は自動車などの自動車両)の本体又はその部品上の;建築物、内装及び外装上の;家具、窓及びドア上の;プラスチック成形品、特にCD及び窓上の;小型工業部品、コイル、容器、及び包装上の;白物家電上に;シート上の;光学部品、電気部品及び機械部品上の、ならびに中空ガラス製品及び日常生活用品上の、高い耐スクラッチ性を有する装飾及び保護コーティングシステムとしての使用に適している。
【0077】
多層コーティング及び多層コーティングされた基板
本発明のさらに別の目的は、少なくとも2つのコーティング層からなる多層コーティングであって、そのうちの少なくとも1つは本発明によるコーティング組成物から形成されている。
【0078】
典型的には、多層コーティングは2つ以上のコーティング層を含む。
【0079】
好ましい多層コーティングは、少なくともベースコート層とクリアコート層を含む。本発明のコーティング組成物は、好ましくはクリアコート層を形成する。
【0080】
さらにより好ましいのは、少なくとも1つのベースコート層でコーティングされた少なくとも1つの充填剤コート層を含み、該充填剤コート層はまた、少なくとも1つのクリアコート層でコーティングされ、該クリアコート層は好ましくは本発明のコーティング組成物から形成されている、多層コーティングである。
【0081】
特に、自動車用コーティングに限定されないが、多層コーティングは、好ましくは、電着コート層と、電着コート層上の少なくとも1つのベースコート層でコーティングされた少なくとも1つの充填剤コート層を含み、充填剤コート層はまた、少なくとも1つのクリアコート層でコーティングされ、該クリアコート層は好ましくは本発明のコーティング組成物から形成されている。
【0082】
上記の多層コーティングは、上記の基板のいずれにも適用することができ、典型的には、前処理された基板に限定されない。したがって、本発明の他の目的は、上記の多層コーティングのいずれかでコーティングされた多層コーティング基板である。
【0083】
以下の実施例のセクションでは、本発明についてさらに説明する。
【実施例】
【0084】
(メタ)アクリルポリマー(A)の一般的な合成例
反応器に54,7gの溶媒ナフサを入れ、所望の重合温度(145℃)まで加熱する。反応器への開始剤の供給を開始した(10gの溶媒ナフサ160/180中の12gのTBPEHの溶液)。15分後、モノマー混合物を反応器に供給した(式(Ia)の(メタ)アクリレートモノマー25~50g、式(IIIa)の(メタ)アクリレートモノマー35~60g、及び式(IVa)の(メタ)アクリレートモノマー10~20g、全3種類の(メタ)アクリレートモノマーを合計して混合物100gまでのモノマー混合物)。モノマーの供給を4時間後に停止した。さらに30分後に開始剤溶液の供給を停止した。145℃で2時間にわたる追加後重合段階の後、ポリマー溶液は室温まで冷却された。
【0085】
固形分は約61質量%であり、130℃で1時間乾燥させ、その結果を平均化して三重定量した。
【0086】
実施例A1及びA2は、式(Ia)、(IIIa)及び(IVa)の(メタ)アクリレートモノマーの同じ質量含有量を有する、上記一般的な合成手順に従って得られた(メタ)アクリルポリマーであり、しかし、式(IIIa)の異なる(メタ)アクリレートモノマーの使用は、ポリマーの異なるガラス転移温度及び異なる質量平均分子量が生じる。
【0087】
(A)のガラス転移温度の決定
樹脂のガラス転移温度は、一般にDSC測定によって決定される。適切なサンプルは、ガラス板上に液体樹脂を約50μmの層厚で塗布し、その後、例えば130℃で例えば30分間乾燥させることによって調製される。乾燥したフィルムのごく一部をDSCるつぼ(アルミニウム製、非気密性)に入れる。るつぼを手で押して蓋で密閉する。その後、サンプルるつぼを熱量計(TA Instruments社製Q2000)に取り付ける。測定には、10K/分の加熱速度で-90℃から100℃までの1回目の加熱実行(heating run)、10K/分の冷却速度で100℃から-90℃までの冷却実行(cooling run)、及び10K/分の加熱速度で-90℃から100℃までの2回目の加熱実行が含まれる。測定中、サンプルは一定の窒素フローによって確保された不活性雰囲気下にある。ガラス転移温度は、2回目の加熱実行で測定された熱流信号が、2つの外挿されたベースラインに等距離の線と交差する温度に割り当てられる(EN ISO 11357に従ったハーフステップハイト法)。
【0088】
【0089】
A1(「高Tg」ポリマー)及びA2(「低Tg」ポリマー)のさらなる変異体を、上記の一般的な合成手順に従って合成し、表2にまとめる。
【0090】
【0091】
コーティング組成物
本発明のコーティング組成物(I1)及び比較コーティング組成物(C1~C5)は、酢酸ブチル(11.63g)中にレベリング剤(0.005g)の溶液を供給し、コーティング組成物に採用されている場合には、金属含有触媒を、(メタ)アクリルポリマーA1(25.25g)の固形分の総質量に基づいて、総金属が20mmol使用されるような量で添加することにより得られた。(メタ)アクリルポリマー(A)を最後に添加し、すぐに使用可能なコーティング組成物を製造から30分以内に使用した。
【0092】
本発明のコーティング組成物I1は、ネオデカン酸で安定化されたネオデカン酸リチウムを利用している。情報が入手できるところは、ネオデカン酸と遊離ネオデカン酸の金属塩の量を表3に別々に示す。比較例C1では、触媒を使用せず、比較例C2では、ネオデカン酸のみを使用したが、これは通常、安定剤として市販のネオデカン酸の金属塩に含まれるものである(ネオデカン酸リチウムに関する上記コメントを参照)。比較例C3、C4、C4では、ビスマス(C3)、亜鉛(C4)、ジルコニウム(C5)のネオデカン酸塩が使用されている。C4及びC5については、比較例C4のネオデカン酸亜鉛は、遊離ネオデカン酸の他にイソプロパノールを未知の量でさらに含有しており、比較例C5では、2価と4価のジルコニウムの比率が不明であるため、遊離ネオデカン酸の量は計算することができず、したがって、遊離ネオデカン酸の量を計算することができなかった。
【0093】
【0094】
ネオデカン酸リチウムに化学的に近く、金属原子が異なるだけの上記比較例C3、C4及びC5に加えて、ジオクチルスズジラウレート(DOTL;組成物の全固形質量に対して0.1質量%)を用いた比較例C6、及び部分的にブロックされたフェニルリン酸(トリス-(2-エチルヘキシル)アミンで75%ブロックされている)-以下、「PBP」と呼ぶ-を様々な量で用いた比較例C7、C8及びC9について検討した。このような触媒は、加水分解能なシラン基の架橋を触媒することが知られている。
【0095】
それぞれのコーティング組成物を表4に示す。
【0096】
【0097】
コーティング組成物から形成されたコーティングの評価
本発明及び比較のコーティング組成物は、ED-Coatでコーティングされた金属パネル、タイプGardobond 26s/6800/OC(Chemetall,Frankfurt)上に、ドクターナイフで150μmのフィルム厚でコーティングされた。その後、形成されたコーティングを60℃のオーブンで10分間乾燥させた。こうしてコーティングされたパネルを以下のようにテストした。
【0098】
Zaponタックテスト(ZTT)
厚さ0.5mm、幅2.5cm、長さ11cmのアルミニウムストリップを2.5×2.5cmの面ができるように110°に曲げる。金属板の長辺は、さらに2.5cm、約15°で、正方形の中心に位置づけられた重り(5g)によって、ちょうどバランスを保つように曲げらる。ZTTタックフリー状態を測定するために、曲げた板をコーティングフィルム上に置き、30秒間、100gの重りをかける。重りを取り除いた後、5秒以内に金属の角度が変われば、コーティングはタックフリーであるとみなされる。このテストは、間隔を置いて(上述のようにフィルムを乾燥させた後、0、15、30及び60分)繰り返される。テストを展開する前に、フィルムを5分間冷却し、コーティングフィルムの粘着性を接触によって定性的に評価した。
【0099】
プリントテスト(PT)
コーティングされた金属パネルを市販の実験用天秤に載せる。次いで親指圧を用いて、フィルムに2kgの質量を20秒間かけて負荷をかける。このテストを60分後に繰り返す。コーティングフィルム上に視認可能な親指の跡がない場合、コーティングは十分であると考えられる。結果は、十分であれば「オーケー」(OK)、十分でなければ「オーケーではない」(NOK)と表示される。
【0100】
指爪テスト(FNT)
指爪テストは、コーティングフィルムの完全な硬化に対して印象を与える。指爪でフィルムの中に入り、フィルムを移動させることを試みる。評価は以下の基準で行う:
0=フィルムが硬く、指爪で入ることができない
1=フィルムはほとんど硬く、わずかな侵入は可能
2=フィルムは柔らかく、指爪で動くことができる
3=フィルムは非常に柔らかく、指紋が見えない
4=フィルムに粘着性があり、指紋がはっきり見える
5=フィルムは濡れており、目に見える硬化はない
【0101】
MEKテスト(MEK)
MEKテストは、溶媒に対するコーティングフィルムの耐性を決定するためのものである(摩擦テスト)。このテストは、上記の乾燥手順の2日後に行われた。綿湿布(Art.No.1225221 Lohmann & Rauscher Cotton Wool Gauze Compress 両面 40cm×5m)をMEKハンマーの頭部に輪ゴムで固定し、MEKに浸たす。ハンマーの重さは1200gで、配置面積が2.5cm2のハンドルがある。ハンマーには同様に溶媒が充填されており、この溶媒が綿湿布に連続的に流れ込む。これにより、テスト全体を通して、湿布が滴り落ちることが保証される。テスト片を湿布で前後に1回ずつ(=1DR、1往復)擦られる。ここでのテスト距離は9.5cmである。ここでの1DRは、1秒で行われる。この手順の間、ハンマーには追加の力を加えない。テスト片の端にある反転の上下点は評価しない。テスト片上のコーティングフィルムを損傷させるのに必要なDRをカウントし、この値と損傷の種類を報告する。最大200DRに達するまでに、そのような損傷が得られない場合は、最大200DRでテストを終了する。
【0102】
本発明のコーティングと比較のコーティングに関する上記4つのテスト及び結果を表5にまとめる。
【0103】
【0104】
比較例C1は、いずれかの触媒の欠如が粘着性のあるフィルムをもたらし、指爪テストに失敗し、1往復擦りにも耐えられないことを示す。遊離ネオデカン酸のみをその金属含有塩の代わりに、コーティング組成物に用いた場合も、ほぼ同様の結果が得られた(比較例C2)。本発明のリチウム塩以外のネオデカン酸の金属塩は、Zaponタックテスト及びプリントテストにおいてある程度十分なコーティング結果を示すが(C3:ネオデカン酸ビスマス、C4:ネオデカン酸亜鉛)、依然として指爪でのわずかな侵入又はわずかな移動が可能であり、いずれもMEKテストで不合格である。ネオデカン酸ジルコニウム含有コーティング組成物(比較例C5)は、DOTL含有コーティング組成物と同様に、明らかにすべてのテストに不合格である。PBPの量を増加させると、比較例C7~C9は、プリントテストにおいて改善された特性を示すが、それらは依然として、指爪テスト及びMEKテストに不合格である。
【0105】
上記の結果は、本発明によるコーティング組成物I1から得られた硬化コーティングのみが、Zaponタックテスト、プリントテスト、指爪テストならびにMEK往復テストに合格することを示す。
【0106】
したがって、結果は、請求項に記載のカルボン酸のアルカリ金属塩と請求項に記載の(メタ)アクリレートポリマー(A)を組み合わせることで、短い硬化時間と高い耐溶媒性が提供されることが証明している。
【0107】
非発明のネオデカン酸ビスマス触媒の比較例C3を用いた場合、2番目に良い結果が観察された。そこで、この比較例及び従来の金属触媒を用いた実施例C6は、それらの耐スクラッチ性について、(メタ)アクリルポリマー(A)のシラン官能性モノマーの量をさらに変えて(実施例A1(37.2質量%)、A3(28質量%)、A5(47質量%))、本発明の実施例I1とさらに比較された。
【0108】
テストしたコーティング組成物を表6に示す。
【0109】
【0110】
本発明の実施例I2及びI3は、本発明の実施例I1に従って作られたが、A1の代わりにそれぞれA3及びA5を使用したものである。比較例C10及びC11は、比較例C3従って作られたが、A1の代わりにそれぞれA3及びA5を使用したものである。比較例C12及びC13は、比較例C6に従って作られたが、A1の代わりにそれぞれA3及びA5を使用したものである。
【0111】
スクラッチ性テストは、金属パネルにコーティングされ、オーブンで60℃で10分間乾燥させた表6による組成物から作られたコーティングで実施した。
【0112】
スクラッチ抵抗は、以下に説明するように、ダイムラー社によるクロックメーターテスト(CT)を用いて決定された。
リニア摩耗テスター(クロックメーター)を用いたスクラッチ性テスト(DIN 55654)
この規格は、表面全体に負荷をかけて直線的に移動するスクラッチ材料によって生じるスクラッチに対するコーティングの耐性を測定する手順を規定している。この方法は、プラスチック、コーティング及び金属などの他の材料表面にも適用することができる。リニアリフティング装置(クロックメーター)を用いて、合意したスクラッチ材料(9μmと2μmの研磨紙)で被覆した負荷摩擦ピンを、合意したスクラッチ媒体の影響下でコーティング上を移動させた。モーターバージョンでは、ダブルストローク数の事前選択カウンターを統合し、ストローク周波数が(1.0±0.1)Hzになるようにドライブを設計する必要がある。10回のダブルストロークを実施した。スクラッチマークの評価は、残留光沢度を測定することで直接行った。
【0113】
表7にクロックメーターテストの結果を示す(残留光沢、再流なし)。
【0114】
【0115】
表7に示すように、本発明の実施例から得られたコーティングは、同じ(メタ)アクリルポリマー(A)であるが異なる触媒を使用した各比較例と比較した場合、クロックメーターテスト後の残留光沢が良好であった。特に、(メタ)アクリルポリマー(A)の製造に用いられるモノマーの総質量に基づいて、47質量%もの量の(メタ)アクリルポリマー(A)含有(メタ)アクリルモノマー(Ia)は、優れた耐スクラッチ性を示した。