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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-07
(45)【発行日】2025-01-16
(54)【発明の名称】電極、電池、及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20250108BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250108BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/131
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022570957
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048780
(87)【国際公開番号】W WO2022137516
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 諒
(72)【発明者】
【氏名】大谷 夏希
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 陸遙
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-006777(JP,A)
【文献】特開2007-018882(JP,A)
【文献】特開2013-206869(JP,A)
【文献】特開2014-024723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
H01M 4/131
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
00nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有するチタン含有酸化物を含む活物質を含み、窒素吸着法による比表面積Sと水銀圧入法による細孔比表面積Sとが0.3≦S/S<0.6の関係を満たす、電極。
【請求項2】
前記電極の粒子径分布において、小粒子径側からの累積頻度が50%となる粒子径D50に対する小粒子径側からの累積頻度が90%となる粒子径D90の比D90/D50が、5以上10以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記チタン含有酸化物についてのX線回折スペクトルにおける(111)ピークの半値幅が0.15以下である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質を含み、且つ、20μm以上80μm以下の厚みを有する活物質含有層を含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載の電極。
【請求項5】
前記チタン含有酸化物はスピネル構造を有するチタン酸リチウムを含む、請求項1乃至4の何れか1項に記載の電極。
【請求項6】
正極と、
負極と、
電解質とを具備し、
前記正極と前記負極との少なくとも一方は請求項1乃至3の何れか1項に記載の電極を含む、電池。
【請求項7】
請求項6に記載の電池を具備する、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電極、電池、及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが正極と負極の間を移動することにより充放電が行われるリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度・高出力が得られる利点を生かし、携帯電子機器などの小型用途から電気自動車や電力需給調整などの大型用途まで広く適用が進められている。
【0003】
負極活物質としては炭素材料の代わりに、リチウム吸蔵放出電位がリチウム電極基準で約1.55V(vs.Li/Li)と高いスピネル型チタン酸リチウムを用いた非水電解質電池も実用化されている。スピネル型チタン酸リチウムは、充放電に伴う体積変化が少ないためサイクル性能に優れている。また、スピネル型チタン酸リチウムを含む負極は、リチウム吸蔵・放出時にリチウム金属が析出しないため、この負極を備えた二次電池は大電流や低温での充電が可能になる。大電流性能や低温性能をさらに向上させるため、スピネル型チタン酸リチウムの粒子を小径化することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2009-158396号公報
【文献】日本国特開2013-105704号公報
【文献】日本国特開2007-18882号公報
【文献】国際公開2018/110708号公報
【文献】日本国特開2018-156865号公報
【文献】日本国特開2014-143004号公報
【文献】日本国特開平9-161801号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「微粒子ハンドブック」朝倉書店(1991年)神保元ニ等著 151~152頁
【文献】「粉体物性測定法」朝倉書店(1973年)早川宗八郎編 257~259頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低温での大電流性能やサイクル寿命性能に優れ、ガス発生が少なく、エネルギー密度の高い電池を実現することができる電極、この電極を具備した電池、及びこの電池を具備する電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によれば、チタン含有酸化物を含んだ活物質を含む電極が提供される。チタン含有酸化物は、200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有する。電極についての窒素吸着法による比表面積Sと水銀圧入法による細孔比表面積Sとが、0.3≦S/S<0.6の関係を満たす。
【0008】
他の実施形態によれば、正極と、負極と、電解質とを具備する電池が提供される。正極と負極との少なくとも一方は、上記電極を含む。
【0009】
さらに他の実施形態によれば、電池パックが提供される。電池パックは、上記電池を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係る一例の電極を概略的に示す平面図である。
図2図2は、実施形態に係る一例の電極についての粒子径分布を示すグラフである。
図3図3は、実施形態に係る一例の電池を厚さ方向に切断した断面である。
図4図4は、図3のA部の拡大断面図である。
図5図5は、実施形態に係る他の例の電池の一部切欠き斜視図である。
図6図6は、実施形態に係る一例の電池パックの分解斜視図である。
図7図7は、図6に示す電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【実施形態】
【0011】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。
【0012】
また、各図は実施の形態の説明とその理解とを促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0013】
(第1の実施形態)
第1の実施形態によると、電極が提供される。電極は、活物質を含む。活物質は、チタン含有酸化物を含み、且つ、200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有する。電極について、窒素吸着法によって求められる比表面積Sと水銀圧入法によって求められる細孔比表面積Sとが、0.3≦S/S<0.6の関係を満たす。
【0014】
実施形態に係る電極は、電池用電極であり得る。実施形態に係る電極が含まれ得る電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池などといった二次電池を挙げることができる。二次電池には、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池が含まれる。当該電極は、例えば、電池用の負極であり得る。
【0015】
チタン含有酸化物を含む負極を備えた二次電池は、サイクル寿命性能に優れるとともに、大電流での使用や低温条件下での充電が可能となる。しかしながら、チタン含有酸化物を含む負極を備えた二次電池は、大電流や低温で充放電サイクルを繰り返した場合に、可逆的な容量の低下が生じる。本発明者らは、チタン含有酸化物を含む負極を備えた非水電解質電池に関するこの問題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、第1の実施形態に係る電極を見出した。
【0016】
第1の実施形態に係る電極は、電極活物質として平均一次粒子径が200nm以上600nm以下のチタン含有酸化物を含む電極であって、窒素(N)吸着法により測定した比表面積Sと水銀圧入法により測定した細孔比表面積Sが、0.3≦S/S<0.6の関係を満たしている。当該電極は、このような構成を有することで、電池を大電流や低温で繰り返し充放電サイクルに供した場合においても、容量低下を抑制することができ寿命性能に優れた電池を提供することができる。
【0017】
このような電極で充放電サイクル性能が向上するメカニズムは、完全には分かっていないが、次のとおりと考えられる。活物質の粒子の一次粒子径を小さくすることで比表面積が増大するため、活物質自体の大電流や低温でのリチウムイオンの受入性能は向上する。しかしながら、一次粒子径が小さくなることで、電極内の細孔のうち相対的に細孔径の小さい細孔が占める体積が増加する。細孔径の小さい細孔では大電流や低温ではリチウムイオンが拡散しにくいため、電極全体の電流分布が不均一となる。そのため充放電サイクルを繰り返すことにより、容量の低下が生じ易くなると考えられる。また細孔径の小さい細孔では過電圧が大きくなるため、副反応によりガス発生が生じ易くなる。加えて、一次粒子径が小さい材料では高い結晶性を得ることが難しく、初期の状態でも活物質の容量が低くなって電極のエネルギー密度が低くなり得る。
【0018】
係る電極では、活物質粒子の平均一次粒子径が200nm以上600nm以下であるため、大電流条件や低温条件においても良好な入力性能を示すことができる。具体的には、平均一次粒子径が200nm以上であるため、活物質の結晶性を高くすることができるので、電極を用いた電池の充放電サイクル性能やエネルギー密度を向上させることができる。平均一次粒子径が600nm以下であることで、低温入力性能に優れた電池を得ることができる。
【0019】
電極に対する窒素吸着法により測定される比表面積Sには、電極内の細孔のうち0.1nmから100nm程度のスケールの細孔直径を有する相対的に小さい細孔の比表面積が主に反映される。対して、電極に水銀圧入法により測定した細孔比表面積Sには電極内の細孔のうち1nmから1mm程度のスケールの細孔直径を有する相対的に大きい細孔の比表面積が主に反映される。即ち、両者の比S/Sは、電極における小さめの細孔と大きめの細孔との割合を表す指標となる。係る電極では、0.3≦S/S<0.6の関係を満たしているため、当該電極を用いた電池では大電流や低温でのサイクル劣化が抑制され寿命性能が向上する。電極はさらに、ガス発生が少なく、エネルギー密度の高い電池を実現することができる。具体的には、比S/Sが0.3以上であることで、大きい細孔が電極内を占める割合が多くなり過ぎないので電極に含まれる体積あたりの活物質の量を充分に多くできるため、高いエネルギー密度を示す電極を得ることができる。また、比S/Sが0.6未満であると、電極に含まれる小さい細孔の割合が少ないため、上述した不均一な電流分布やガス発生が抑えられる。
【0020】
電極についてのレーザー回折・散乱法による粒子径分布において、小粒子径側からの累積頻度が50%となる平均粒子径D50に対する小粒子径側からの累積頻度が90%となる粒子径D90の比D90/D50が5以上10以下であることが好ましい。このような粒子径分布を有する電極は、細孔径および細孔比表面積の状態が、上述した比S/Sの範囲となり易くなる。そのため、サイクル寿命性能の改善効果がより得られ易くなる。
【0021】
活物質に含むチタン含有酸化物について、後述する粉末X線回折(X-Ray Diffraction;XRD)によって測定されるXRDスペクトルにおいて、(111)面に帰属されるピークの半値幅が0.15以下であることが望ましい。(111)ピークの半値幅が0.15以下である場合、チタン含有酸化物の粒子の結晶性が高く、粒子内のリチウムイオンの拡散性が良好であるため、低温入力性能が高くなり、過電圧に起因するガス発生が低減される。又は、結晶子径が大きい場合にも、半値幅が0.15以下になり得る。結晶子径が大きい粒子では粒子内の粒界が少なく、粒子内のリチウムイオンの拡散性が向上しているため、低温入力性能が高くなり、過電圧に起因するガス発生が低減される。なお、ここでいう(111)面とは、ミラー指数で表す結晶格子面を指す。
【0022】
次に、第1の実施形態に係る電極を、更に詳細に説明する。
【0023】
電極は、集電体と、活物質含有層(電極合材層)とを含むことができる。活物質含有層は、例えば、帯形状の集電体の片面又は表裏両面に形成され得る。活物質含有層は、活物質と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
【0024】
活物質は、200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有するチタン含有酸化物を含む。チタン含有酸化物は、リチウムチタン複合酸化物を含むことが好ましい。リチウムチタン複合酸化物のようなチタン含有酸化物を含む電極は、リチウムの酸化-還元電位に対する値で0.4V(vs.Li/Li+)以上のLi吸蔵電位を示すことができるため、大電流での入出力を繰り返した際の電極表面上での金属リチウムの析出を防止することができる。チタン含有酸化物は、スピネル型の結晶構造を有するリチウムチタン複合酸化物を含むことが特に好ましい。このようなスピネル型のリチウムチタン複合酸化物の具体例として、Li4+aTi12で表され、添字aの値は0≦a≦3の範囲内で充放電により変化する、スピネル構造を有するチタン酸リチウムを挙げることができる。
【0025】
活物質は、上記チタン含有酸化物の一次粒子および二次粒子を含み得る。チタン含有酸化物の一次粒子は、上記平均一次粒子径を有する。チタン含有酸化物の二次粒子は、上記平均一次粒子径を有する一次粒子を複数含む。
【0026】
二次粒子の平均粒子径(平均二次粒子径)は1μm以上100μm以下であることが好ましい。二次粒子の平均粒子径がこの範囲内にあると、工業生産上扱い易く、また、電極を作製するための塗膜において、質量及び厚さを均一にすることができる。さらに、電極の表面平滑性の低下を防ぐことができる。二次粒子の平均粒子径は、2μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0027】
BET法によって測定された二次粒子の比表面積が、3m/g以上50m/g以下であることが好ましい。比表面積が3m/g以上である場合には、リチウムイオンの吸蔵・脱離サイトを十分に確保することが可能になる。比表面積が50m/g以下である場合には、工業生産上、扱い易くなる。より好ましくは、二次粒子は、BET法によって測定された比表面積が、5m/g以上50m/g以下である。BET法よる比表面積の測定方法については、後述する。
【0028】
活物質は、上記チタン含有酸化物以外の更なる活物質を含んでいてもよい。ここでは、上述したチタン含有酸化物を含む活物質を便宜上“第1活物質”と呼び、それ以外の更なる活物質を“第2活物質”と呼ぶことがある。第1活物質に加え第2活物質をさらに含む場合、第2活物質として0.4V(vs.Li/Li+)以上のLi吸蔵電位を示すことができる活物質材料を使用することが望ましい。第2活物質が含まれる場合、第1活物質に対する第2活物質の質量割合は、5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑える作用を有することができる。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブのような炭素質物が含まれる。これらの炭素質物を単独で用いてもよいし、又は複数の炭素質物を用いてもよい。
【0030】
結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有することができる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、及びフッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂及びその共重合体、ポリアクリル酸、並びにポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0031】
活物質、導電剤及び結着剤の配合比は、それぞれ、活物質については70質量%以上96質量%以下、導電剤については2質量%以上28質量%以下、結着剤については2質量%以上28質量%以下の範囲内にあることが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層の集電性能を向上させ、優れた大電流性能および低温性能を期待できる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層と集電体の結着性が十分になり、優れたサイクル性能を期待できる。
【0032】
一方、高容量化の観点から、導電剤及び結着剤は各々28質量%以下であることが好ましい。
【0033】
活物質含有層の厚みは、20μm以上80μm以下であることが望ましい。集電体の表裏の両方の主面に活物質含有層が設けられている場合、ここでいう厚みは、片面あたりの厚みをいう。活物質含有層の厚みが20μm以上であると、電池において、電池内の集電体やセパレータ等といった活物質含有層以外の副部材に対し活物質含有層が占める割合が相対的に多くなるため、電池のエネルギー密度を高くできる。厚みが80μm以下であることで、活物質含有層中をリチウムイオンが拡散する距離が短くなり、電解質の抵抗による影響が少なくなるため、電極内の電流分布がより均一になる。活物質含有層の厚みが厚めである方が、充電末期において活物質粒子内のリチウムイオン拡散よりも活物質含有層中のリチウムイオンの拡散が律速となり易く、電解質の抵抗の影響が現れる傾向がある。
【0034】
集電体は、アルミニウム箔、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiのような元素を含むアルミニウム合金箔から形成されることが好ましい。集電体の厚さは20μm以下が好ましく、15μm以下の厚さがより好ましい。
【0035】
次に、第1の実施形態に係る電極の具体例を、図面を参照しながら説明する。
【0036】
図1は、実施形態に係る電極の一例を概略的に示す一部切欠平面図である。ここで、電極の例として一例の負極を図示する。
【0037】
図1に示す負極4は、負極集電体4aと、負極集電体4aの表面に設けられた負極活物質含有層4bとを具備する。負極活物質含有層4bは、負極集電体4aの主面上に担持されている。
【0038】
また、負極集電体4aは、その表面に負極活物質含有層4bが設けられていない部分を含んでいる。この部分は、例えば、負極集電タブ4cとして働く。図示する例では、負極集電タブ4cは、負極活物質含有層4bよりも幅の狭い狭小部となっている。負極集電タブ4cの幅は、このように負極活物質含有層4bの幅より狭くてもよく、或いは、負極活物質含有層4bの幅と同じであってもよい。負極集電体4aの一部である負極集電タブ4cの代わりに、別体の導電性の部材を負極4に電気的に接続し、電極集電タブ(負極集電タブ)として用いてもよい。
【0039】
[電極の製造]
係る電極は、次のようにして製造することができる。
【0040】
先ず、チタン含有酸化物を含んだ活物質を準備する。チタン含有酸化物は、例えば、固相法にて合成することができる。チタン含有酸化物は、その他、ゾルゲル法、水熱法など湿式の合成方法でも合成することができる。
【0041】
まず、目的組成に合わせて、例えば、Ti源およびLi源を準備する。これらの原料は、例えば、酸化物又は塩などの化合物であり得る。Li源としては、水酸化リチウム、酸化リチウム、炭酸リチウムなどを用いることができる。
【0042】
次に、準備した原料を、適切な化学量論比で混合して、混合物を得る。例えば、組成式LiTi12で表されるスピネル型リチウムチタン複合酸化物を合成する場合、酸化チタンTiOと、炭酸リチウムLiCOとを、混合物におけるLi:Tiのモル比が4:5となるように混合することができる。
【0043】
原料の混合の際、原料を十分に粉砕して混合することが好ましい。十分に粉砕した原料を混合することで、原料同士が反応しやすくなり、チタン含有酸化物を合成する際に不純物の生成を抑制できる。また、Liは、所定量よりも多く混合してもよい。特に、Liは、熱処理中に損失することが懸念されるため、所定量より多く入れてもよい。
【0044】
湿式法とする場合は、純水に原料を溶解し、得られた溶液を攪拌しながら乾燥させ、焼成前駆体を得る。乾燥方法としては、噴霧乾燥、造粒乾燥、凍結乾燥あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
次に、先の混合により得られた混合物または焼成前駆体に対し、750℃以上1000℃以下の温度で、30分以上24時間以下の時間に亘って熱処理を行う。750℃以下では十分な結晶化が得られにくい。一方、1000℃以上では、粒成長が進み過ぎ、粗大粒子となり好ましくない。同様に、熱処理時間が30分未満であると、十分な結晶化が得られにくい。また、熱処理時間を24時間より長くすると、粒成長が進み過ぎ、粗大粒子となり好ましくない。焼成は大気中で行えば良い。また、酸素雰囲気、窒素雰囲気、又はアルゴン雰囲気中で焼成を行っても良い。
【0046】
800℃以上950℃以下の温度で、1時間以上5時間以下の時間に亘って、混合物の熱処理を行うことが好ましい。このような熱処理によりチタン含有酸化物を得ることができる。また、本焼成を行う前に仮焼成を行ってもよい。仮焼成は、450℃以上700℃以下の温度で、5時間以上24時間以下に亘って行う。
【0047】
本焼成により得られた試料に粉砕処理を施して、凝集体(二次粒子)が解砕された一次粒子とすることができる。粉砕方法として例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル等を用いることができる。粉砕の際には、水、エタノール、エチレングリコール、ベンゼン又はヘキサンなどの、液体粉砕助剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。粉砕助剤は、粉砕効率の改善、微粉生成量の増大に効果的である。より好ましい方法は、ジルコニア製ボールをメディアに用いたボールミルであり、液体粉砕助剤を加えた湿式での粉砕が好ましい。更に、粉砕効率を向上させるポリオールなどの有機物を粉砕助剤として添加しても良い。ポリオールの種類は特に限定されないが、ペンタエリトリトール、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパンなどを単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、粉砕処理を施した後に再焼成を行っても良い。焼成条件を調整して、チタン含有酸化物の粒子の平均結晶子径を制御することができる。再焼成は大気中で行えば良く、又は酸素雰囲気、窒素、アルゴンなどを用いた不活性雰囲気中で行っても良い。再焼成は、250℃以上900℃以下の温度で、1分以上10時間以下程度行えば良い。900℃以上であると、粉砕した粉末の焼成が進み、短時間の熱処理であっても粉末粒子間の焼結により電極においての細孔がつぶれてしまい、上述した細孔径の関係が得られ難い。250℃未満であると湿式粉砕時に付着する不純物(有機物)を除去することができず、電池性能が低下してしまう。好ましくは、再焼成は、400℃以上700℃以下の温度で10分以上3時間以下に亘って行う。また、再焼成前に水系溶媒により洗浄することが好ましい。
【0049】
また、二次粒子を得るために、スプレードライヤーなどの手法を用いることができる。特定の粒子径を有する一次粒子もしくは二次粒子を得るために、必要に応じて分級することができる。
【0050】
次に、以上のようにして用意したチタン含有酸化物を含んだ活物質を用いて、電極スラリーを調製する。チタン含有酸化物以外の第2活物質を更に用いる場合は、チタン含有酸化物を含む活物質(第1活物質)とともに第2活物質を用いて、電極スラリーを調製する。具体的には、活物質、導電剤、及び結着剤を溶媒に懸濁して、スラリーを調製する。溶媒(分散媒)としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0051】
電極に含ませる各部材(活物質、導電剤、結着剤)の含有割合や粒径、並びに活物質の一次粒子および二次粒子の含有割合を調整することで、電極における細孔の状態や粒子径分布を制御することができる。なお、粒子径分布には、活物質の一次粒子および二次粒子のみならず、導電剤の含有割合や活物質と導電剤との凝集の有無も反映される。即ち、電極スラリーにおける各部材の含有割合、並びに活物質の一次粒子および二次粒子の状態や含有割合によって、得られる電極の細孔の状態や粒子径分布が左右される。例えば、含まれる粒子の一次粒子径が小さい方が相対的に小さい細孔径の細孔が多くなる傾向があり、細孔比表面積の比S/Sの値が大きくなる傾向がある。但し、一次粒子の割合に対する二次粒子の割合が多くなると、比S/Sの値が小さくなる傾向がある。つまり、平均一次粒子径が比較的小さくても、一次粒子と二次粒子との含有割合を適切に制御することで、細孔径が小さい細孔の増加を抑えることができる。
【0052】
スラリーの調製にて、活物質、導電剤、及び結着剤を溶媒に懸濁する際に、二次粒子を崩さないように、かつ均一に混合する観点から、自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、ジェットペースタ、ホモジナイザー等を用いることが好ましい。スラリーの固形分濃度は、40wt%以上70wt%以下とすることが好ましい。導電剤の添加には、分散材を加えた溶媒に導電剤が予め分散されたペーストを用いても良い。このようなペーストを用いることで、混錬時間を短縮でき、二次粒子の解砕を抑制できる。
【0053】
スラリーに対するレーザー回折・散乱法による測定で得られる粒子径分布は、得られる電極について得られる粒子径分布と一致する。そのため、レーザー回折・散乱法によりスラリーにおける粒子径分布を測定し、粒子径D50に対する粒子径D90の比D90/D50が5以上10以下であるか事前に確認することができる。そうすることで、細孔比表面積の比S/Sが0.3≦S/S<0.6の範囲内である電極の製造をより確実にできる。
【0054】
以上のようにして調製したスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布し、次いで塗膜を乾燥させる。かくして、電極合材層(活物質含有層)を形成することができる。その後、電極合材層にプレスを施す。かくして、第1の実施形態に係る電極を得ることができる。
【0055】
<電極の測定>
電極に対する各種測定方法を説明する。具体的には、電極にチタン含有酸化物が含まれていることを確認する方法、チタン含有酸化物の粒子の平均一次粒子径の測定方法、窒素吸着法による細孔比表面積Sの測定方法、水銀圧入法による細孔比表面積Sの測定方法、粒子径分布の測定方法、及び活物質含有層の厚みの測定方法をそれぞれ説明する。
【0056】
測定する対象の電極が電池に組み込まれている場合は、次のとおり測定試料としての電極を電池から取り出す。電池を放電し、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体して電極を取り出す。電極をジエチルカーボネートで洗浄した後、真空乾燥する。こうして測定試料を得る。
【0057】
[チタン含有酸化物の確認]
電極に含まれている活物質を下記のとおり同定し、チタン含有酸化物の含有の有無を確認することができる。
【0058】
上述のとおり電池から取り出した電極を洗浄および乾燥した後、得られた電極をガラス試料板に貼り付ける。このとき、両面テープなどを用い、電極が剥がれたり浮いたりしないように処置を行うよう留意する。必要であれば、電極をガラス試料板に貼り付けるのに適切な大きさに切断してもよい。また、ピーク位置を補正するためのSi標準試料を電極上に加えてもよい。
【0059】
次いで、電極が貼り付けられたガラス板を粉末X線回折(X-Ray Diffraction;XRD)装置に設置し、Cu-Kα線を用いて回折パターンを取得する。Cu-Kα線を線源とし、2θを5~90°の測定範囲で変化させて測定を行って、X線回折パターンを得ることができる。
【0060】
粉末X線回折測定の装置としては、例えば、Rigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:
X線源:Cuターゲット
出力:45kV、200mA
ソーラスリット:入射及び受光共に5°
ステップ幅:0.02deg
スキャン速度:20deg/分
半導体検出器:D/teX Ultra 250
試料板ホルダー:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm)
測定範囲:5°≦2θ≦90°の範囲。
【0061】
その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行って、上記装置によって得られる結果と同等のピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件を見つけ、その条件で試料の測定を行う。
【0062】
測定対象の活物質にスピネル型リチウムチタン複合酸化物が含まれている場合、X線回折測定により、空間群Fd-3mに帰属されるX線回折パターンが得られることを確認することができる。このX線回折パターンにおける2θが17~19°である範囲内に存在するピークが、(111)面に帰属できる。
【0063】
続いて、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)によって、活物質を含有する試料を観察する。SEM観察においても試料が大気に触れないようにし、アルゴンや窒素など不活性雰囲気で行うことが望ましい。
【0064】
3000倍のSEM観察像にて、視野内で確認される一次粒子あるいは二次粒子の形態を持つ幾つかの粒子を選定する。この際、選定した粒子の粒度分布ができるだけ広くなるように選定する。観察できた活物質粒子に対し、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)で活物質の構成元素の種類、組成を特定する。これにより、選定したそれぞれの粒子に含まれる元素のうちLi以外の元素の種類及び量を特定することができる。複数の活物質粒子それぞれに対し同様の操作を行い、活物質粒子の混合状態を判断する。
【0065】
続いて、例えば、スパチュラなどを用いて活物質含有層を集電体から分離することで、活物質を含んだ粉末状の電極合材試料を得る。採取した粉末状試料をアセトンで洗浄し乾燥する。得られた粉末を塩酸で溶解し、導電剤をろ過して除いた後、イオン交換水で希釈して測定試料を準備する。誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy;ICP-AES)により測定試料中の含有金属比を算出する。
【0066】
活物質が複数種類ある場合は、各活物質に固有の元素の含有比率からその質量比を推定する。固有の元素と活物質の質量との比率は、エネルギー分散型X線分光法により求めた構成元素の組成から判断する。
【0067】
かくして、電極に含まれている活物質を同定することができる。
【0068】
[活物質の平均一次粒子径の測定]
上述のとおり電池から取り出した電極を洗浄および乾燥した後、例えば、スパチュラなどを用いて活物質含有層を集電体から分離することで、活物質を含んだ粉末状の電極合材試料を得る。
【0069】
次に、粉末状の試料を、以上に説明したX線回折測定及びSEM-EDXを用いて分析し、測定対象の活物質粒子の存在を確認する。
【0070】
SEM観察の際の倍率は、5000倍程度が望ましい。導電剤などの添加物により粒子形態が判別しにくい場合は、集束イオンビーム(Focused ion beam: FIB)を備えたSEM(FIB-SEM)などを用い、電極断面(例えば、活物質含有層の断面)の像を取得し、これを観察する。倍率は、50個以上の粒子を含む像が得られるように調整する。
【0071】
次いで、得られた像に含まれる全ての粒子の粒子径を測定する。二次粒子の形態を有する粒子については、二次粒子に含まれている各々の一次粒子について粒子径を測定する。粒子が球状の場合は、その直径を粒子径とする。粒子が球状以外の形状を有する場合は、まず、粒子の最小の径の長さと、同じ粒子の最大の径の長さとを測定する。これらの平均値を、平均一次粒子径とする。
【0072】
[窒素吸着法による細孔比表面積の測定]
電極についての窒素吸着法による細孔比表面積Sは、電極のBET比表面積に対応する。BET比表面積とは、BET法によって定められる比表面積のことであり、窒素吸着法により算出される。分析は、例えば以下の方法で実施する。
【0073】
上述のとおり電池から取り出した後洗浄および乾燥して得られた電極を、測定用セルのサイズに合わせて裁断し、測定試料として用いる。測定用セルには、例えば1/2インチのガラスセルを使用する。前処理方法として、この測定用セルに対し、温度約100℃以上で15時間の減圧乾燥をすることにより、脱ガス処理を実施する。測定装置としては、例えばカンタクローム社製 カンタソーブQS-20を用いる。
【0074】
測定試料としての裁断済み電極を測定用セルに入れ、窒素30%‐ヘリウムバランスの混合ガスを流す。ガスを流しながら、ガラスセルを液体窒素に浸漬して、サンプル表面に混合ガス中の窒素を吸着させる。吸着が終了したら、ガラスセルを常温に戻し、吸着した窒素を脱離させる。すると、混合ガスの窒素濃度が増加するので、増加量を定量する。この窒素量と、窒素分子の断面の面積とから、サンプルの表面積(m2)を計算する。これをサンプル量(g)で割り算して、比表面積(細孔比表面積S;数値単位:m2/g)を算出する。
【0075】
[水銀圧入法による細孔比表面積の測定]
水銀圧入法による電極の細孔比表面積Sの測定方法を以下に説明する。
【0076】
測定装置には、島津製作所製の細孔分布測定装置オートポア9520型またはこれと等価な機能を有する装置を用いることができる。試料としては、洗浄および乾燥させた電極を約12.5mm×25mmの短冊片に切断した試料片を用いる。
【0077】
16枚の試料片を標準大片セルに採り、初期圧20kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)及び終止圧414000kPa(約60000psia、細孔直径約0.003μm相当)の条件で測定する。細孔比表面積(細孔比表面積S;数値単位:m2/g)は、細孔の形状を円筒形として計算する。
【0078】
なお、水銀圧入法の解析原理は下記Washburnの式(1)に基づく。
【0079】
D=-4γcosθ/P (1)
ここで、Dは細孔直径、γは水銀の表面張力(480dyne・cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角(140°)、Pは加える圧力である。γ、θは定数であるからWashburnの式(1)より、加えた圧力Pと細孔径Dの関係が求められ、そのときの水銀侵入容積を測定することにより、細孔径とその容積分布を導くことができる。測定法・原理等の詳細は、非特許文献1或いは非特許文献2などを参照することができる。
【0080】
[粒子径分布の測定]
電極についての粒子径分布は、次に説明するレーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0081】
電池から取り出した電極を洗浄および乾燥した後、例えば、スパチュラなどを用いて活物質含有層を集電体から分離することで、活物質を含んだ粉末状の電極合材試料を得る。次に、粉末状の試料を、N-メチルピロリドン(NMP)で満たした測定セル内に、測定可能濃度になるまで投入する。なお、粒度分布測定装置により、測定セルの容量及び測定可能濃度は異なる。
【0082】
NMP及びこれに溶解した電極合材試料を入れた測定セルに対し、超音波を5分間照射する。超音波の出力は、例えば、35W~45Wの範囲内にする。例えば、溶媒としてNMPを約50mlの量で用いた場合、測定サンプルを混合した溶媒に約40Wの出力の超音波を300秒照射する。このような超音波照射によると、導電剤粒子や活物質粒子を溶媒中で均一に分散させることができる。
【0083】
測定セルをレーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置に挿入し、粒度分布の測定を行う。粒度分布測定装置の例としては、Microtrac3100及びMicrotrac3000IIを挙げることができる。
【0084】
かくして、電極の粒子径分布を得ることができる。
【0085】
係る電極に対するレーザー回折・散乱法により測定される粒子径分布の一例を、グラフとして図2に示す。当該グラフは、電極が含む粒子の粒子径分布を表すヒストグラムに該当する。
【0086】
[活物質含有層の厚みの測定]
活物質含有層の厚みは、SEM観察により測定できる。上述のとおり電池から取り出した電極を洗浄および乾燥した後、SEMにて集電体を除いた活物質含有層の厚みを計測する。
【0087】
第1の実施形態に係る電極は、200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有する活物質を含む。活物質は、チタン含有酸化物を含む。窒素吸着法によって求められる電極の比表面積Sと、水銀圧入法によって求められる電極の細孔比表面積Sとが、0.3≦S/S<0.6の関係を満たす。当該電極は、低温での大電流性能やサイクル寿命性能に優れ、ガス発生が少なく、エネルギー密度の高い電池を実現することができる。
【0088】
(第2の実施形態)
第2の実施形態によると、電池が提供される。電池は、正極と、負極と、電解質とを具備する。正極および負極の少なくとも一方は、第1の実施形態に係る電極を含む。
【0089】
係る電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。正極、負極、及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
【0090】
また、係る電池は、電極群および電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
【0091】
さらに、係る電池は、正極に電気的に接続された正極端子および負極に電気的に接続された負極端子を更に具備することができる。正極端子の少なくとも一部および負極端子の少なくとも一部は、外装部材の外側に延出し得る。
【0092】
係る電池は、例えば、リチウムイオン二次電池であり得る。また、電池は、例えば、電解質として非水電解質を含んだ非水電解質電池を含む。
【0093】
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、正極端子及び負極端子について詳細に説明する。
【0094】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体の片面もしくは表裏両面に担持され、負極活物質、導電剤、及び結着剤を含む負極活物質含有層(負極合材層)とを含む。
【0095】
負極は、第1の実施形態に係る電極であり得る。負極としての態様では、負極の負極集電体、負極活物質、及び負極活物質含有層が、第1の実施形態に係る電極の集電体、活物質、及び活物質含有層にそれぞれ相当する。第1の実施形態に係る電極は先に詳細に説明したので、ここでの負極の説明は省略する。
【0096】
(2)正極
正極は、正極集電体と、正極集電体の片面もしくは表裏両面に担持され、正極活物質、導電剤及び結着剤を含む正極活物質含有層(正極合材層)とを含む。
【0097】
第2の実施形態に係る電池は、第1の実施形態に係る電極を正極として含み得る。或いは、電池は、第1の実施形態に係る電極とは異なる構成の正極を含み得る。以下、第1の実施形態に係る電極とは異なる態様の正極を説明する。
【0098】
正極活物質としては、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン酸化物(例えば、LiNiCoMnで表され、式中、0<w≦1、x+y+z=1である化合物;又は、Li1-sNi1-t-u-vCoMnM1で表され、式中、M1はMg、Al、Si、Ti、Zn、Zr、Ca及びSnからなる群より選択される1以上であり、-0.2<s<0.5,0<t<0.5、0<u<0.5、0≦v<0.1、t+u+v<1である化合物)を挙げることができる。その他に、種々の酸化物、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(例えば、LiCoO)、二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物(例えば、LiMn、LiMnO)、リチウム含有ニッケル酸化物(例えば、LiNiO)、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えば、LiNi0.8Co0.2)、リチウム含有鉄酸化物、リチウムを含むバナジウム酸化物や、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物などを含んでいてもよい。使用する正極活物質の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0099】
結着剤の例には、例えばポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber;SBR)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、ポリイミド、ポリアミドなどを挙げることができる。結着剤の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0100】
導電剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを挙げることができる。導電剤の種類は1種類または2種類以上にすることができる。
【0101】
正極活物質含有層における正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80質量%以上95質量%以下、導電剤3質量%以上18質量%以下および結着剤2質量%以上17質量%以下にすることが好ましい。
【0102】
集電体としては、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が好ましく、その平均結晶粒径は50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。このような平均結晶粒径を有するアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔からなる集電体は、強度を飛躍的に増大させることができ、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
【0103】
平均結晶粒径が50μm以下のアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴ならび焼なましの加熱条件など多くの因子に複雑に影響され、上記(直径)は製造工程の中で、上記の諸因子を組み合わせて調整される。
【0104】
集電体の厚さは、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下にすることが好ましい。
【0105】
正極は、例えば正極活物質、導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁させ、得られたスラリーを集電体に塗布して乾燥させることにより正極活物質含有層を作製した後、プレスを施すことにより作製される。その他、正極活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成し、正極活物質含有層として用いてもよい。
【0106】
正極活物質含有層は、20%以上50%以下の気孔率を有することが好ましい。このような気孔率を有する正極活物質含有層を備えた正極は高密度で、かつ電解質との親和性に優れる。より好ましい気孔率は、25%以上40%以下である。
【0107】
正極活物質含有層の密度は、2.5g/cm以上にすることが好ましい。
【0108】
(3)電解質
電解質としては、電解質塩(溶質)を非水溶媒に溶解し調製される液状非水電解質、液状非水電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質等が挙げられる。
【0109】
電解質塩は、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]などのリチウム塩を挙げることができる。これらの電解質塩は、単独または2種類以上を混合しても良い。
【0110】
電解質塩は、非水溶媒に対して0.5mol/L以上2.5mol/L以下の範囲で溶解させることが好ましい。
【0111】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)などの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate;EMC)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)などの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)などの環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)などの鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;BL)などの環状エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの鎖状エステル;アセトニトリル(acetonitrile;AN);スルホラン(sulfolane;SL)等の有機溶媒を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。
【0112】
ゲル状非水電解質に用いる高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide;PEO)等を挙げることができる。
【0113】
(4)セパレータ
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布などを挙げることができる。
【0114】
(5)外装部材
外装部材は、ラミネートフィルムから形成しても金属製容器で構成してもよい。金属製容器を用いる場合、蓋は容器と一体または別部材にすることができる。金属製容器の肉厚は0.5mm以下、0.2mm以下であるとより好ましい。外装部材の形状としては、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、積層型などが挙げられる。外装部材は、携帯用電子機器などに搭載される小型電池用の他、二輪ないしは四輪の自動車に搭載される大型電池用の外装部材でもよい。
【0115】
ラミネートフィルム製外装部材の肉厚は0.2mm以下であることが望ましい。ラミネートフィルムの例には、樹脂フィルムと樹脂フィルム間に配置された金属層とを含む多層フィルムが挙げられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂フィルムは、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)などの高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
【0116】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金などから作られる。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。アルミニウムまたはアルミニウム合金において、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は100ppm以下にすることが高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させる上で好ましい。
【0117】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属製容器は、平均結晶粒径が50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが望ましい。平均結晶粒径を50μm以下とすることによって、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属製容器の強度を飛躍的に増大させることができ、容器のより一層の薄肉化が可能になる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた車載などに適切な電池を実現することができる。
【0118】
係る電池の一例を図3および図4を参照して説明する。図3に示す扁平型電池は、扁平形状の捲回電極群1、外装部材2、正極端子7、負極端子6、及び電解質(図示しない)を備える。外装部材2はラミネートフィルムからなる袋状外装部材である。捲回電極群1は、外装部材2に収納されている。捲回電極群1は、図4に示すように、正極3、負極4、及びセパレータ5を含み、外側から負極4、セパレータ5、正極3、セパレータ5の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成されている。
【0119】
正極3は、正極集電体3aと正極活物質含有層3bとを含む。正極活物質含有層3bには正極活物質が含まれる。正極活物質含有層3bは正極集電体3aの両面に形成されている。負極4は、負極集電体4aと負極活物質含有層4bとを含む。負極活物質含有層4bには負極活物質が含まれる。負極4のうち最も外側に位置する部分では、負極集電体4aの内面側の片面にのみ負極活物質含有層4bが形成されている。負極4のその他の部分では、負極集電体4aの両面に負極活物質含有層4bが形成されている。
【0120】
図3に示すように、捲回電極群1の外周端近傍において、正極端子7が正極3に接続されている。また、負極端子6が最外層の部分の負極4に接続されている。正極端子7及び負極端子6は、外装部材2の開口部を通って外部に延出されている。
【0121】
係る電池は、前述した図3および図4に示す構成のものに限らず、例えば図5に示す構成にすることができる。
【0122】
図5に示す角型電池において、捲回電極群11は、外装部材としての金属製の有底矩形筒状容器12内に収納されている。容器12の開口部に矩形蓋体13が溶接されている。扁平状の捲回電極群11は、例えば、図3及び図4を参照して説明した捲回電極群1と同様の構成を有し得る。
【0123】
負極タブ14は、その一端が負極集電体に電気的に接続され、他端が負極端子15に電気的に接続されている。負極端子15は、矩形蓋体13にガラス材16を介在するハーメチックシールで固定されている。正極タブ17は、その一端が正極集電体に電気的に接続され、他端が矩形蓋体13に固定された正極端子18に電気的に接続されている。
【0124】
負極タブ14は、例えば、アルミニウム又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金などの材料で製造される。負極タブ14は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0125】
正極タブ17は、例えば、アルミニウム又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金などの材料で製造される。正極タブ17は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料であることが好ましい。
【0126】
なお、図示した電池はセパレータを正極および負極と共に捲回した捲回型の電極群を用いたが、セパレータを九十九折りし、折り込んだ箇所に正極および負極を交互に配置した積層型の電極群を用いてもよい。
【0127】
第2の実施形態に係る電池は、第1の実施形態に係る電極を含んでいる。そのため、当該電池は、大電流での使用や低温条件下でも優れたサイクル寿命性能を示すことができる。また、電池におけるガス発生が少なく、電池は高いエネルギー密度を有する。
【0128】
(第3の実施形態)
第3の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第2の実施形態に係る電池を具備する。
【0129】
第3の実施形態に係る電池パックは、先に説明した第2の実施形態に係る電池(単電池)を1個又は複数個具備することができる。係る電池パックに含まれ得る複数の電池は、互いに電気的に直列又は並列に接続されて、組電池を構成することもできる。係る電池パックは、複数の組電池を含んでいてもよい。
【0130】
次に、第3の実施形態に係る一例の電池パックを図面を参照しながら説明する。
【0131】
図6は、第2の実施形態に係る一例の電池パックの分解斜視図である。図7は、図6の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0132】
図6及び図7に示す電池パック20は、複数個の単電池21を備える。単電池21は、図5を参照しながら説明した第2の実施形態に係る一例の扁平型電池であり得る。
【0133】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子51及び正極端子61が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図7に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0134】
プリント配線基板24は、単電池21の負極端子51及び正極端子61が延出する側面に対向して配置されている。プリント配線基板24には、図7に示すようにサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、プリント配線基板24には、組電池23と対向する面に組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0135】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子61に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子51に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板24に形成された配線32及び33を通して保護回路26に接続されている。
【0136】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出し、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件の一例とは、例えば、サーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件の他の例とは、例えば、単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21もしくは組電池23全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図6及び図7の電池パック20の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35が接続されている。これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0137】
正極端子61及び負極端子51が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0138】
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0139】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0140】
図6及び図7では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。さらに、組み上がった電池パックを直列及び/又は並列に接続することもできる。
【0141】
また、係る電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途としては、大電流を取り出したときに良好なサイクル性能が望まれるものが好ましい。具体的な用途としては、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。係る電池パックは、車載用として特に好適に用いられる。
【0142】
第3の実施形態に係る電池パックは、第2の実施形態に係る電池を具備している。そのため、係る電池パックは、大電流での使用や低温条件下でも優れたサイクル寿命性能を示すことができる。また、電池パックにおけるガス発生が少なく、電池パックは高いエネルギー密度を有する。
【0143】
[実施例]
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものではない。
【0144】
(実施例1)
実施例1では、以下の手順により、実施例1の非水電解質二次電池を作製した。
【0145】
[負極の作製]
以下の手順で、LiTi12の組成およびスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物の粉末を準備した。
【0146】
まず、純水に水酸化リチウムを溶解させた溶液にアナターゼ型酸化チタンを投入し、攪拌・乾燥した。これらの原料は、混合物におけるLi:Tiのモル比が4:5となるように混合した。混合に先立ち、原料を十分に粉砕した。
【0147】
混合した原料を、大気雰囲気において、870℃での2時間にわたる熱処理に供した。ついで、焼成物をジルコニア製ボールをメディアに用いたボールミルで粉砕した後、水で洗浄した。大気雰囲気において、600℃での30分間にわたる熱処理に供した後、分級した。かくして、生成物の粉末を得た。
【0148】
得られた生成物の粉末の平均一次粒子径をSEMにて分析した。その結果、得られた生成物の粉末は、平均一次粒子径が400nmの一次粒子状の粒子であることが分かった。
【0149】
上記一次粒子の一部をスプレードライヤーを用いて造粒した。かくして、一次粒子が凝集した二次粒子状の粉末を得た。
【0150】
また、得られた生成物の組成及び結晶構造を、ICP及びX線回折測定を用いて分析した。その結果、得られた生成物は、スピネル型の結晶構造を有し且つLiTi12の組成を有するリチウムチタン複合酸化物であることが分かった。X線回折スペクトルにおいて、(111)面に帰属されるピークの半値幅が0.15以下であったため、高い結晶性を有する生成物が得られたことが分かった。この生成物の粉末を、負極活物質として用いた。
【0151】
次に、負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末に、導電剤としてのアセチレンブラックを添加し、ヘンシェルミキサーで混合して、混合物を得た。このとき、スピネル型リチウムチタン複合酸化物の一次粒子と二次粒子の比率が重量比で2対3(一次粒子:二次粒子=2:3)となるよう、調整を行った。次に、この混合物に、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、分散媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)とを加え、ジェットペースタで混錬した。かくして、スラリー(負極作製用スラリー)を得た。
【0152】
以上の混合では、得られるスラリーにおける負極活物質:アセチレンブラック:PVdFの比が85質量部:10質量部:5質量部となるように、アセチレンブラック及びPVdFの添加量を調整した。
【0153】
このスラリーを、厚さが15μmであるアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、125℃で塗膜を乾燥させた。更に、乾燥させた塗膜をロールプレス処理に供した。かくして、集電体と、この集電体の両面上に形成され且つ電極密度(集電体含まず)が2.1g/cmである負極活物質含有層とを具備する負極を作製した。集電体の各面に形成された負極活物質含有層の厚みは、それぞれ60μmだった。
【0154】
[正極の作製]
まず、正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)の粉末を準備した。正極活物質90質量部に導電剤としてのアセチレンブラック5質量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合して混合正極活物質とした。ついで、この混合正極活物質にPVdF5質量部とN-メチルピロリドン(NMP)を一定の割合で加え、プラネタリーミキサーで混錬してスラリーとした。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。更に、乾燥させた塗膜をロールプレス処理に供した。かくして、集電体と、この集電体の両面上に形成され且つ電極密度(集電体含まず)が3.0g/cmである正極活物質含有層とを具備する正極を作製した。
【0155】
[電極群の作製]
厚さ20μmのポリエチレン製多孔質フィルムからなる2枚のセパレータを準備した。
【0156】
次に、先に作製した正極、1枚のセパレータ、先に作製した負極及びもう1枚のセパレータをこの順序で積層して積層体を得た。この積層体を、渦巻き状に捲回した。これを90℃で加熱プレスすることにより、幅が30mmであり厚さが3.0mmである偏平状電極群を作製した。
【0157】
得られた電極群を、ラミネートフィルムからなるパックに収納し、85℃で24時間真空乾燥を施した。ラミネートフィルムは、厚さ40μmのアルミニウム箔の両面にポリプロピレン層を形成して構成され、全体の厚さが0.1mmであった。
【0158】
[液状非水電解質の調製]
プロピレンカーボネート(PC)及びジメチルカーボネート(MEC)を1:1の体積比率で混合して混合溶媒とした。この混合溶媒に電解質であるLiPFを1M溶解することにより、液状非水電解質を調製した。
【0159】
[非水電解質二次電池の製造]
先のようにして電極群を収納したラミネートフィルムのパック内に、液状非水電解質を注入した。その後、パックをヒートシールにより完全密閉した。かくして、前述した図3及び図4に示す構造を有し、幅35mm、厚さ3.2mm、高さが65mmであり、定格容量が1Ahの非水電解質二次電池を製造した。
【0160】
次に、作製した非水電解質二次電池を25℃環境下、1A(1C)の充電レートで充電してSOC50%に調整し、70℃で48時間熱処理に供した。ついで、室温まで放冷した電池を25℃環境下、1Aで1.5Vに放電した後、1Aで充電してSOC50%に調整した。
【0161】
(実施例2)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を200nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対2(一次粒子:二次粒子=1:2)に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0162】
(実施例3)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を600nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を3対2に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0163】
(実施例4)
負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対2に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0164】
(比較例1)
負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対4に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0165】
(比較例2)
負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を3対2に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0166】
(比較例3)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を100nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対20に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0167】
(比較例4)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を100nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対4に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0168】
(比較例5)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を100nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対2に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0169】
(比較例6)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を700nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を1対20に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0170】
(比較例7)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を700nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を4対1に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0171】
(比較例8)
負極活物質としてのスピネル型リチウムチタン複合酸化物の粉末を準備する際、焼成条件を調整して一次粒子径を700nmとし、負極作製用スラリーにおける一次粒子と二次粒子の比率を9対1に調整したこと以外は、実施例1と同様の手順で非水電解質二次電池を製造した。なお、ロールプレス処理は、実施例1と同じ線圧で実施した。
【0172】
<測定>
実施例1-4及び比較例1-8においてそれぞれ製造した各々の非水電解質二次電池について、先に説明した窒素吸着法により負極の細孔比表面積S(BET比表面積)を測定した。また、各電池について、先に説明した水銀圧入法により負極の細孔比表面積Sを測定した。後者に対する前者の比S/Sを算出した。算出結果を下記表1に示す。
【0173】
各電池が含む負極に対し、先に説明したレーザー回折・散乱法により粒子径分布測定を行った。得られた粒子径分布におけるD50に対するD90の比D90/D50を算出した。算出結果を下記表1に示す。
【0174】
<評価>
実施例1-4及び比較例1-8においてそれぞれ製造した各々の非水電解質二次電池に対し、下記のとおり性能評価を行った。具体的には、各電池についての低温環境下における入力性能の評価、エネルギー密度の測定、サイクル寿命試験、及びサイクル寿命試験の際のガス発生量の測定をそれぞれ行った。
【0175】
(低温入力性能)
低温条件下における電池の入力性能は、次のとおり評価した。
【0176】
先ず、電池を25℃の恒温槽にて、1A(1C)の充電レートで電池電圧が2.7Vに達するまで定電流充電し、続いて電流値が50mAになるまで定電圧充電した後、10分間の休止時間を設けた。次いで、200mAの定電流で1.5Vまで放電した後に、10分間の休止時間を設けた。この充放電サイクルを3回繰り返した後、1Aの定電流で2.7Vまで充電したときに得られる充電容量を測定し、基準充電容量とした。
【0177】
その後、200mAの定電流で1.5Vまで放電した後に、10分間の休止時間を設けた。再度、先の充放電サイクルを1回行った。恒温槽の温度を-20℃に設定し、電池を恒温槽内で3時間待機させた。低温(-20℃)の恒温槽にて電池を1Aの定電流で2.7Vまで充電したときに得られる充電容量を測定した。得られた低温条件での充電容量を基準充電容量で除することで算出した値を、低温入力性能とした。
【0178】
(エネルギー密度)
電池のエネルギー密度は、次のとおり測定した。
【0179】
先ず、電池を25℃の恒温槽にて、1A(1C)の充電レートで電池電圧が2.7Vに達するまで定電流充電し、続いて電流値が50mAになるまで定電圧充電した後、10分間の休止時間を設けた。次いで、200mAの定電流で1.5Vまで放電した後に、10分間の休止時間を設けた。この充放電サイクルを3回繰り返し、3サイクル目の放電時に得られる放電容量を測定し、基準放電容量とした。
【0180】
基準放電容量に、放電時の平均作動電圧を掛けることで、電池エネルギーを求めた。次いで、電池エネルギーを電池の体積で除することで、電池の(体積)エネルギー密度を算出した。
【0181】
(サイクル寿命性能)
下記サイクル寿命試験を行って、電池のサイクル寿命性能を評価した。
【0182】
電池を25℃の恒温槽にて、1A(1C)の充電レートで電池電圧が2.7Vに達するまで定電流充電し、続いて電流値が50mAになるまで定電圧充電した後、10分間の休止時間を設けた。次いで、200mAの定電流で1.5Vまで放電した後に、10分間の休止時間を設けた。この充放電サイクルを3回繰り返し、3サイクル目の放電時に得られる放電容量を測定し、基準放電容量とした。
【0183】
電池を45℃の恒温槽にて、8Aの充電レートで電池電圧が2.7Vに達するまで定電流充電し、続いて電流値が50mAになるまで定電圧充電した後、5分間の休止時間を設けた。次いで、5Aの定電流で1.5Vまで放電した後に、5分間の休止時間を設けた。この充放電サイクルを1000回繰り返した。
【0184】
充放電を1000サイクル繰り返した後の電池を、25℃の恒温槽にて1Aの定電流で2.7Vまで充電し、続いて電流値が50mAになるまで定電圧充電した後、10分間の休止時間を設けた。その後、200mAの定電流で1.5Vまで放電したときに得られる放電容量を測定し、回復容量とした。回復容量を基準放電容量で除することで容量維持率を算出した。このようにして得られたサイクル寿命試験前の放電容量(基準放電容量)に対し試験後に維持された放電容量(回復容量)の比率(容量維持率)を、サイクル寿命性能を評価するうえでの指標とした。
【0185】
(ガス発生量)
次のとおり、サイクル寿命試験を行った際に発生したガスの量を測定した。
【0186】
サイクル寿命試験を行う前の電池を、水を入れた直方体状の目盛付きの容器に水没させ、水面の位置変化から電池の体積を読み取った。サイクル寿命試験後の電池についても同様にして体積を読み取り、試験前の電池体積との変化分を算出し、ガス発生量とした。
【0187】
下記表1に、実施例1-4及び比較例1-8においてそれぞれ製造した各々の非水電解質二次電池について、負極の設計および性能評価の結果をまとめる。負極の設計としては、負極活物質として含むスピネル型リチウムチタン複合酸化物の平均一次粒子径、窒素吸着法及び水銀圧入法によりそれぞれ測定した負極の細孔比表面積S及びSの間の比S/S、及びレーザー回折・散乱法により測定した粒子径分布におけるD50に対するD90の比D90/D50を示す。性能評価の結果として、上述した低温入力性能、エネルギー密度、サイクル寿命性能、及びガス発生量の評価結果を、実施例1についての性能値・測定値を基準値100とし、この基準値に対する相対的な数値を示す。
【0188】
【表1】
【0189】
表1が示すとおり、負極活物質として200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有するチタン含有酸化物(スピネル構造を有するチタン酸リチウム)を含み、且つ、負極についての窒素吸着法による比表面積Sと水銀圧入法による細孔比表面積Sとの比S/Sが0.3以上0.6未満であった実施例1-4の電池では、良好な低温入力性能を示し、良好なエネルギー密度および良好なサイクル寿命性能が得られ、ガス発生量が抑えられていた。
【0190】
対して、比較例1では、電池のエネルギー密度が低かった。比較例1では、比S/Sが低かったことから、負極内の小さい細孔に対する大きい細孔の割合が多かったことが分かる。負極を占める大きい細孔が多かったことに起因して、電池のエネルギー密度が低かったものと推察される。
【0191】
比較例2では、低温入力性能が低く、また、ガス発生量が多かった。比較例2では、比S/Sが高かったことから、負極内に小さい細孔が多く存在していたことが分かる。負極中の小さい細孔が多かったことに起因して、入力性能が低くなり、ガス発生量が多くなったものと推察される。
【0192】
比較例3-5では、エネルギー密度およびサイクル寿命性能が低く、そのうえガス発生量が多かった。比較例3-5では、負極活物質の一次粒子径が小さかったことから結晶性が低く、それ起因してエネルギー密度およびサイクル寿命性能が低かったものと推察される。また、一次粒子径の小ささに起因して負極内の細孔の大きさが総じて小さかったことからも、サイクル寿命性能が低かったものと推察される。さらに、一次粒子径が小さいことで活物質粒子の比表面積が大きかったため、低温入力性能が良好だった半面、活物質と電解質との副反応が多くなってガス発生量が増加したものと推察される。
【0193】
比較例6-8では、低温入力性能が低かった。比較例6-8では、負極活物質の一次粒子径が大きく活物質粒子の比表面積が小さかったため、リチウムイオンの受入性能が低かったものと推察される。
【0194】
以上説明した1以上の実施形態および実施例によれば、チタン含有酸化物を含んだ活物質を含む電極が提供される。活物質は、200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有する活物質を含む。電極について、窒素吸着法によって求められる比表面積Sと、水銀圧入法によって求められる細孔比表面積Sとは、0.3≦S/S<0.6の関係を満たす。当該電極は、低温での大電流性能やサイクル寿命性能に優れ、ガス発生が少なく、エネルギー密度の高い電池および電池パックを実現することができる。
【0195】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載されていた発明を付記する。
[1] チタン含有酸化物を含み且つ200nm以上600nm以下の平均一次粒子径を有する活物質を含み、窒素吸着法による比表面積S と水銀圧入法による細孔比表面積S とが0.3≦S /S <0.6の関係を満たす、電極。
[2] 前記電極の粒子径分布において、小粒子径側からの累積頻度が50%となる粒子径D 50 に対する小粒子径側からの累積頻度が90%となる粒子径D 90 の比D 90 /D 50 が、5以上10以下である、[1]に記載の電極。
[3] 前記チタン含有酸化物についてのX線回折スペクトルにおける(111)ピークの半値幅が0.15以下である、[1]又は[2]に記載の電極。
[4] 前記活物質を含み、且つ、20μm以上80μm以下の厚みを有する活物質含有層を含む、[1]乃至[3]の何れか1つに記載の電極。
[5] 前記チタン含有酸化物はスピネル構造を有するチタン酸リチウムを含む、[1]乃至[4]の何れか1つに記載の電極。
[6] 正極と、
負極と、
電解質とを具備し、
前記正極と前記負極との少なくとも一方は[1]乃至[3]の何れか1つに記載の電極を含む、電池。
[7] [6]に記載の電池を具備する、電池パック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7