(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】木造トラス架構の接合部構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20250109BHJP
E04C 3/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
E04B1/58 M
E04C3/12
(21)【出願番号】P 2021209616
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000153616
【氏名又は名称】株式会社巴コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】向山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】廣田 勇
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-034011(JP,B1)
【文献】特開2004-137783(JP,A)
【文献】米国特許第05031371(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04C 3/12-3/18,3/292
E04B 1/18-1/19
E04B 7/02-7/10
E04B 1/32-1/342
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材をトラス部材として用いた木造トラス架構の接合部構造において、
1)複数のトラス部材が集まるトラス節点について、そのトラス節点から隣接トラス部材同士の干渉を避けるのに十分な一定寸法を控えて、相隣接する前記トラス節点の2点間寸法よりも短い寸法にて前記トラス部材の木部長さが決定され、前記トラス節点に集まるトラス部材の前記木部の端部には、前記トラス部材の軸方向に突出した材端プレートが設けられている。
2)相隣接する前記トラス部材の前記材端プレート同士を接続するU字状の節点プレートの両翼部が、相隣接する前記トラス部材の軸が相互に成す角度および材端プレートの面の傾斜に合わせたハの字状の広がりを有し、そのハの字状の広がり形状が保持されるように、前記U字状の節点プレートの両翼部および底部の面の中央付近に台形状に取り付けられたリブプレートの3辺が接合され固定されている。
3)前記節点プレートの両翼部の面は、相隣接する前記トラス部材の前記材端プレートの面とそれぞれが肌隙なく、綴り材にて接合され
ることにより、U字状の節点プレートの底部がリング状のトラス節点を構成するように配置されている。
以上の構成から成ることを特徴とする、木造トラス架構の接合部構造。
【請求項2】
請求項1記載の木造トラス架構の接合部構造において、前記材端プレートの上縁もしくは上縁および下縁にフランジ部が設けられていることを特徴とする、木造トラス架構の接合部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根等に用いられる単層トラス架構等のトラス部材として木材を用いた木造トラス架構において、トラス節点(複数の前記トラス部材の軸芯が交差する点をいう。以下同じ。)に集合する複数の木部材同士を接合する接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、ドーム屋根等の曲面を有する屋根に用いられる単層トラス架構の外観イメージ(トラス部材は木材を想定)を例示したものであり、
図2は、前記トラス部材が集合するトラス節点近傍(
図1の破線楕円部)の拡大図である。曲面を形成する単層トラス架構では、トラス節点部の節点部材には、様々な方向から集合する複数のトラス部材相互を無理なく接合できる構造が要求される。ここで、「トラス節点部」とは、前記トラス節点を中心として複数の前記トラス部材の端部が接合されている部分をいい、「節点部材」とは、トラス節点に集まるトラス部材相互を接合する部材のことを言う。以下同じ。
【0003】
1つのトラス節点に集まる各トラス部材の部材軸芯を偏芯なく1点に引き付けることは、概念的には容易だが実際には部材は断面を持つので、隣接部材との干渉を避けるため、トラス節点からいくらか手前で部材を短く留める必要があり、また、相隣接した前記トラス節点の節点部材の軸方向(前記屋根の内外方向)は、必ずしも同じ向き(即ち、両節点部材の軸が同一平面内にある)とは限らない。
【0004】
従って、トラス部材両端と節点部材との接合において、トラス部材両端に材端プレートを取り付け、前記トラス部材両端の断面(部材軸との直交面)の強軸回りに有効になるように断面の向き(一般的には前記屋根の内外方向)が決定された材端プレートと、節点部材にその軸芯(前記屋根の内外方向)に一致する向きで取り付けられたガセットプレート(以下、節点プレートと称す。)の面とが、例えばボルト等で肌隙なく接合されるようにするには、トラス部材を捩る等の処理により、トラス部材側の材端プレートの面を節点プレートの傾斜角度に合わせることが必要となる。
【0005】
しかし、部材を捩ることは、鉄骨部材であれば比較的容易であるが、木部材では困難なので、部材両端部に取り付ける接合金物もしくは節点部材の形状を工夫する必要がある。
【0006】
木造トラス架構のトラス節点に集合する複数の木部材同士を接合する接合部構造に関する先行技術としては、例えば特許文献1記載の発明、および出願人による未公開の先願である特許文献2記載の発明がある。特許文献2記載の発明では、円筒状の中空金物の内部に補強として支圧板を設置した節点部材の表面に、任意の方向から集まってくる前記各木部材の端面から一定の長さ(深さ)で設けられたスリット2a(
図2参照)の面に合わせた角度で、前記各木部材を取り付けるための節点プレートが溶接で取り付けられている。
【0007】
特許文献2記載の発明では、前記節点プレートを、各木部材の端部に設けられたスリットに挿入して、貫通ボルトで綴るので、極めてコンパクトな木造トラス部材の接合部となるが、現場での貫通ボルト取り付け作業に必要な空間が狭いこと、また、前記円筒状の中空金物の軸に対する前記節点プレートの傾きは多様なので、前記節点プレートの方向と傾斜角度の誤差が1枚でも大き過ぎると、前記節点プレートと一体化されている当該中空金物はそっくり取り替えになる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3691926号公報
【文献】特願2021-065923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、木造トラス架構のトラス節点に集合する複数の木部材同士を接合する接合部において、現場施工が容易で、節点部材と木部材との取り付け角度等の製作上の不具合が生じた場合でも、節点部材の部分手直しで対処できる接合部構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の手段は、トラス節点部が以下のような構成から成る、木造トラス架構の接合部構造である。
【0011】
1)複数のトラス部材が集まるトラス節点について、そのトラス節点から隣接トラス部材同士の干渉を避けるのに十分な一定寸法を控えて、相隣接する前記トラス節点の2点間寸法よりも短い寸法にて前記トラス部材の木部長さが決定され、前記トラス節点に集まるトラス部材の前記木部の端部には、前記トラス部材の軸方向に突出した材端プレートが設けられている。
2)相隣接する前記トラス部材の前記材端プレート同士を接続するU字状の節点プレートの両翼部が、相隣接する前記トラス部材の軸が相互に成す角度および前記材端プレートの面の傾斜に合わせたハの字状の広がりを有し、そのハの字状の広がり形状が保持されるように、前記U字状の節点プレートの両翼部および底部の面の中央付近に台形状に取り付けられたリブプレートの3辺が接合され固定されている。
3)前記節点プレートの両翼部の面は、相隣接する前記トラス部材の前記材端プレートの面とそれぞれが肌隙なく、ボルト等の綴り材にて接合されることにより、U字状の節点プレートの底部がリング状のトラス節点を構成するように配置されている。
【0012】
本発明は以上のような構成であるので、前記節点プレートの両翼部の開き角度および面の傾斜角度を、トラス節点に集まる前記トラス部材の軸方向および前記材端プレートの面の傾斜に合わせた時、前記底部の面の方向(屋根の内外方向)を任意に決めれば、両翼部と底部の平面同士が交差する相関直線を折り曲げ線とするU字状の広がり形状が一義的に決まるので、前記節点プレートの形状決定は自由度が高く容易である。
【0013】
トラス節点に集まったトラス部材が全て接合完了すると、トラス節点部は、接合された前記節点プレートの両翼部と前記トラス部材の前記材端プレートとによりリング状に閉じるので、前記節点プレートの両翼部の広がり形状を固定するリブプレートは、トラス節点部の補強と補剛の役割を果たし、木造トラス架構の構造安定性を向上させることができる。
【0014】
また、前記U字状の節点プレートの底部は一定の幅があり、前記両翼部間の空間が確保されるので、前記材端プレートと前記両翼部とを接合するボルト等の取り付け作業が容易である。
【0015】
更にまた、前記U字状の節点プレートの形状あるいは寸法の精度が許容限界を超えていて、その節点プレートの両翼部に取り付けるべきトラス部材の材端プレートと肌隙なく接合ができない場合、許容限界を超えているその節点プレートのみを取り換えればよい。
【0016】
既述の通り、前記節点プレートの形状決定は自由度が高く容易であるので、前記取り換えによる再製作は容易であり、また、前記材端プレートの方はそのままでよい。
【0017】
また、本発明は、前記トラス部材の前記材端プレートの片縁もしくは両縁にフランジ部を設けたことを特徴とする、木造トラス架構の接合部構造である。
【0018】
前記材端プレートの片縁もしくは両縁にフランジ部を設けることにより、材端プレートの面外方向の曲げ剛性が向上するので、トラス部材が圧縮力を受けた時、材端プレートが薄い板であった場合に起こり得る、節点プレートの両翼部との重なりから外れた材端プレート単独部分での局部曲げが生じにくくなり、トラス節点部における不安定現象として知られている節点回転の発生を防ぐことができる。
【0019】
また、本発明は、前記不安定現象防止の別案であって、隣接する前記トラス部材の端部同士を繋ぐ連結拘束材が取り付けられていることを特徴とする、木造トラス架構の接合部構造である。
【0020】
トラス節点に集まるトラス部材の応力状態は必ずしも一様ではなく、前記トラス部材の最も余力のない何れかの材端プレートが軸力を受けて曲げ変形を生じることで、節点回転の引き金になると考えられるが、相隣接するトラス部材の端部同士が前記連結拘束材で繋がることにより、前記材端プレートの曲げ変形が抑制され、節点回転が回避される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上のような木造トラス架構の接合部構造であるので、以下のような効果がある。
【0022】
1)木造トラス架構において、任意の方向からトラス節点に集まる木部材同士を、鋼板とボルトを用いて容易に現場接合できる。
2)トラス節点部のU 字状の節点プレートは、当該トラス節点に集まる木部材の軸方向および材端プレートの傾斜に合わせて個別に製作されるので、組み立ての際に、接合上の不具合があった場合には、当該箇所の節点プレートのみ再製作して容易に取り替えることができ、トラス部材の材端プレートはそのままでよい。
3)トラス節点部のU字状の節点プレートにリブが取り付けられているので、組み上がったトラス節点部の強度、剛性が高まり、木造トラス架構の構造安定性が高まる。
4)トラス部材の材端プレートにフランジ部を設けた場合、あるいは、相隣接するトラス部材の端部同士を連結拘束材で繋げた場合、トラス節点部における不安定現象である節点回転の発生防止に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】トラス部材に木材を用いた単層トラス架構の一例を示すイメージ図である。
【
図2】
図1において、トラス部材が集合するトラス節点近傍(
図1の破線楕円部)の拡大図である。
【
図3】本発明の第1実施例におけるトラス節点部の斜視図である。
【
図4】
図3のトラス節点部の一部を分解して示したものであり、(a)はU字状の節点プレートと材端プレートとを接合する前の状態を示した図、(b)は節点プレートの分解展開図である。
【
図5】トラス部材の材端プレートの別案であり、木部材にドリフトピンにて固定された場合を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施例であり、トラス部材の材端プレートの下縁にフランジ部を設けた場合であって、(a)は
図4(a)に図示の材端プレートに対応する場合の斜視図、(b)は
図5に図示の材端プレートに対応する場合の斜視図である。
【
図7】本発明の第3実施例であり、隣接するトラス部材の軸端部同士を連結拘束材で連結した状態の1例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1実施例を
図3~5を参照して説明する。
図3は、木部材から成る単層トラス架構を想定したトラス節点部1の斜視図であり、
図4(a)は、
図3のトラス節点部1を組み立てる前の部分図である。
【0025】
複数のトラス部材2、2、…が集まるトラス節点において、そのトラス節点から一定寸法を控えてトラス部材2、2、…の木部長さが決定され、トラス節点部1に接合されるトラス部材2、2、…の端部には、トラス部材2、2、…の軸方向に突出した材端プレート3、3、…が設けられている。
【0026】
図4(a)を参照して、材端プレート3、3は、定着板3a、3aと溶接され一体化しており、ラグスクリューボルト10、10、…により、トラス部材2、2の材端の小口に固定されている。
【0027】
図4(a)に図示のように、相隣接するトラス部材2、2の材端プレート3、3同士を接続するU字状の節点プレート4の両翼部4a、4aが、底部4bを挟んで、トラス部材2、2の軸が相互に成す角度および材端プレート3、3の
面の傾斜に合わせた
ハの字状の広がりを有し、両翼部4a、4aのその
ハの字状の広がり形状が
保持されるように、両翼部4a、4aおよび底部4bの
面の中央付近
に、
台形状のリブプレート4c
の3辺が溶接にて固定されている。
【0028】
節点プレート4は、
図4(b)に図示のように、両翼部4a、4a、底部4b、リブプレート4cの4つの部分から成り、溶接による組み立て後の形状および寸法が、隣接するトラス部材2、2の軸が相互に成す角度および材端プレート3、3の
面の傾斜に合うように、それぞれが加工される。両翼部4a、4aと底部4 b については、1枚の板を折り曲げて製作してもよい。
【0029】
トラス部材2、2と節点プレート4とを組み立てる時に、材端プレート3、3の面と両翼部4a、4aの面とを重ねて、ボルト(図示せず。)にて接合するが、その時、肌隙無く締め付けることが出来ない場合は、その節点プレート4の方を材端プレート3、3に合うように作り直せばよい。
【0030】
トラス節点部1に集まったトラス部材2、2、…が全て接合完了すると、トラス節点部1は、節点プレート4、4、…の両翼部4a、4a、…とトラス部材2、2、…の材端プレート3、3、…とが接合されてリング状に閉じるので、節点プレート4、4、…の両翼部4a、4a、…のハの字状の広がり形状を固定するリブプレート4c、4c、…は、トラス節点部1に作用する応力に対する補強と補剛の役割を果たし、木部材から成る単層トラス架構としての構造安定性向上に寄与する。
【0031】
また、U字状の節点プレート4の底部4bは一定の幅があり、両翼部4a、4a間の空間が確保されるので、材端プレート3、3と両翼部4a、4aのそれぞれに設けられたボルト孔11、11、…にボルト(図示せず。)を挿通して締め付ける作業が容易である。
【0032】
トラス部材2の材端プレート3は、
図4(a)に図示のようなラグスクリューボルト10、10、…による固定ではなく、例えば、
図5に図示のように、材端プレート3をトラス部材2のスリット2aに挿入して、ドリフトピン12、12、…で固定してもよい。勿論、材端プレート3をトラス部材2に固定する方法は、これらに限定されるものではない。
【0033】
また、本発明に係る材端プレート3の取り付け方として、
図6に図示のように、材端プレート3の下縁にフランジ部3bを一体的に設けてもよい。
図6(a)は、材端プレート3と定着板3aの下縁に溶接にてフランジ部3bを取り付けた場合、
図6(b)は、スリット2aの中まで伸びる材端プレート3の下縁に溶接にてフランジ部3bを取り付け、止めねじ13、13、…にてトラス部材2の下面に固定した場合である。
【0034】
材端プレート3にフランジ部3bを設けるのは、単層トラス架構において、そのトラス節点部1に接合されたトラス部材の端部接合部の曲げ剛性が低い場合、節点回転を生じる不安定現象が知られており、上記のように、トラス部材2の材端プレート3にフランジ部3bを取り付ければ、材端プレート3の面外方向の曲げ剛性が高まるので、その不安定現象防止に効果がある。
【0035】
なお、
図6に図示のフランジ部3bは、材端プレート3の片側のみに取り付けられているが、フランジ部3bが材端プレート3の両側にあると、材端プレート3、3を節点プレート4の両翼部4a、4aにボルトで接合する時、ホルト締め付け工具が入らなくなるので、片側を開けておく必要があるためである。
【0036】
勿論、フランジ部3bは、材端プレート3の上下両方の縁に取り付けてもよく(図示せず。)、その場合、前記面外方向の曲げ剛性がより高まり、不安定現象の防止効果は更に大きい。
【0037】
前記不安定現象防止の別案として、例えば、
図7に図示のように、隣接するトラス部材2、2の軸端部同士を連結拘束材14、14で繋ぐ方法も考えられる。
図7では、トラス部材2、2の軸端部上下2箇所を繋いでいるが、片端もしくは中段の1箇所だけでも一定の効果が期待できる。
【0038】
トラス節点部1に集まるトラス部材2、2、…の応力状態は必ずしも一様ではなく、トラス節点部1に集まるトラス部材2、2、…の内、最も余力のない何れかの材端プレート3に曲げ変形が生じることで、節点回転の引き金になると考えられるが、隣接するトラス部材2、2、…の軸端部同士が連結拘束材14、14、…で繋がることにより、前記材端プレート3の曲げ変形の進行が抑制され、節点回転が回避される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、木部材を用いるトラス架構において、任意の方向からトラス節点に集合する複数の木部材同士を接合する際に、現場施工が容易であり、節点部材の手直しにおいても対応し易いので、木部材を用いた単層トラス架構等の普及に貢献できる。
【符号の説明】
【0040】
1:トラス節点部
2:トラス部材
2a:スリット
3:材端プレート
3a:定着版
3b:フランジ部
4:節点プレート
4a:両翼部
4b:底部
4c:リブプレート
10:ラグスクリューボルト
11:ボルト孔
12:ドリフトピン
13:止めねじ
14:連結拘束材