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特許7615437乾燥装置及びプラズマ含有ガスの保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】乾燥装置及びプラズマ含有ガスの保存方法
(51)【国際特許分類】
   F26B 3/34 20060101AFI20250109BHJP
   F26B 23/04 20060101ALI20250109BHJP
   F26B 21/04 20060101ALI20250109BHJP
   F26B 13/10 20060101ALI20250109BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250109BHJP
   B41F 23/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F26B3/34 ZAB
F26B23/04 Z
F26B21/04 B
F26B13/10 D
F26B13/10 E
B41J2/01 121
B41F23/04 Z
B41F23/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021543949
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2020018365
(87)【国際公開番号】W WO2021044669
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2019162367
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】石塚 崇
(72)【発明者】
【氏名】望月 保嗣
(72)【発明者】
【氏名】塩島 瑞生
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-103141(JP,A)
【文献】特表2014-523611(JP,A)
【文献】特開2019-108458(JP,A)
【文献】特開2019-059800(JP,A)
【文献】特許第5118823(JP,B2)
【文献】特開平11-058687(JP,A)
【文献】特開2013-129123(JP,A)
【文献】特開2013-199017(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024586(WO,A1)
【文献】特開昭63-276853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 3/34
F26B 23/04
F26B 21/04
F26B 13/10
B41J 2/01
B41F 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体にプラズマを添加するプラズマ添加部と、
プラズマ添加部でプラズマが添加されて得られたプラズマ含有ガスを、印刷装置から排出された印刷後の印刷媒体に吹き付ける乾燥部と、
を備える乾燥装置であって、
前記プラズマ添加部が、空気であるプラズマ原料ガスをプラズマ化するプラズマ生成機を備え、
前記プラズマ生成機が、大気圧プラズマを生成するものであり、
前記乾燥部が、2つ以上の乾燥室を備え、前記印刷媒体の搬送方向下流側にある乾燥室の排気が、前記印刷媒体の搬送方向上流側にある乾燥室に給気されるものであり、
前記乾燥部からの排気を脱臭する脱臭部を備え、前記脱臭部が、乾燥室から排出された被処理ガス中のプラズマを処理するプラズマ処理機を備える、前記乾燥装置。
【請求項2】
前記乾燥部が、前記印刷媒体の搬送経路を挟んで所定の間隔をあけて配置された1つ以上の吹付ノズルを備え、プラズマ生成機から出たプラズマ含有ガスの温度が150℃以下である、請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記脱臭部で処理された処理ガスの少なくとも一部を、プラズマを添加する気体として再利用する、請求項1又は2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
得られたプラズマ含有ガスを、-25~100℃で保存する手段を有する、請求項1~のいずれかに記載の乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥装置に関する。
また、本発明は、プラズマ含有ガスの保存方法に関する。より詳しくは、印刷機の乾燥ユニットから印刷物に噴射するプラズマ含有ガス中に含まれる、プラズマ(プラズマ活性種)の活性を持続させるために用いられる、プラズマ含有ガスの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))や海洋プラスチック問題をはじめ、環境対応への取り組みが急速に進んでいる。製品開発においても、低炭素化やリサイカブルへの対応が非常に重要となり、印刷市場においてもバイオマス化及び省エネへの取り組みが盛んになっている。
記録用組成物が十分に定着された印刷物は、後加工や重ねることが可能となる。しかし、定着が不十分な場合には、重ねた際に裏移りが生じる、後加工の際に印刷表面に傷が生じる、後加工の際に装置が汚染される等のおそれがある。

印刷媒体表面に付着した記録用組成物を定着させる方式として、乾燥室を有する乾燥装置を用いるヒートセット印刷方式が知られている。乾燥室では、印刷機から排出された印刷媒体の印刷面に、乾燥ドライヤー部の温風ノズルから温風が吹き付けられ、記録用組成物の中の溶媒が蒸発除去される。乾燥室からの排ガスは、揮発性有機溶媒等のVOC成分が含まれることから、脱臭室に送られ、加熱・燃焼等により溶媒が分解される。このような乾燥装置としては、特許文献1、2に示されるものが知られている。
乾燥装置を用いる方法は、温風を印刷媒体に吹き付けることから、印刷された記録用組成物中の溶媒の蒸発には有効である。しかし、記録用組成物の硬化能力が低く、迅速な乾燥・硬化には、多くのエネルギーを必要とする。 しかし、ヒートセット印刷方式は、乾燥ドライヤー部の温風生成やVOC成分の脱臭等で多大なエネルギーを消費するため、環境負荷やランニングコスト等が大きな課題となっている。
【0003】
また、印刷に用いるインキについても、近年の環境配慮に対する意識が急速に高まっている中、石油由来の鉱物油成分が大量に含まれるヒートセットインキのバイオマス化設計が大きな課題となっている。
本発明者は、プラズマの酸化促進性を利用したインキの速乾技術を応用し、ヒートセット印刷方式を代替する、高い環境配慮性と省エネルギー化を実現した新規印刷システムに有用な技術の開発を進めてきた。そして、プラズマ照射を含む印刷方式が有望であるとの知見を得た。

プラズマ照射を含む印刷方式は、印刷媒体に印刷された記録用組成物を化学反応させて硬化するには有効である。中でもリモート型プラズマ照射方式は、放電空間でプラズマ化されたガスを放電空間外で照射対象と接触させるもので、印刷速度に応じて、プラズマと記録用組成物との接触が調整される。
【0004】
プラズマ照射を含む印刷方式として、例えば、特許文献3~6に開示の方法が知られている。
例えば、特許文献4には、枚葉オフセットインキの新たな乾燥・定着方式として、大気圧プラズマで発生した陰イオンを印刷面と接触させることが提案されている。しかし、乾燥・定着までに時間を必要とするため、速乾性の点で問題があり、大量に早く印刷する方式に適用することは困難である。
特許文献5、6には、インクジェット印刷後のインキを、大気圧プラズマを用いて乾燥・硬化させることが記載されている。
【0005】
ここで、特許文献3~6に記載されている印刷方式で用いられているプラズマ含有ガスは、プラズマ活性の持続時間についての考察がなされていない。また、プラズマ含有ガスを長距離移送することや循環利用することについても検討されていない。さらに、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応のために、高いプラズマ濃度のプラズマ含有ガスを低コストで得ることについて記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-52754号公報
【文献】特開2009-56702号公報
【文献】特開2007-106105号公報
【文献】特開2007-54987号公報
【文献】特開2008-12919号公報
【文献】特開2020-11460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、印刷後の記録用組成物を迅速に乾燥・硬化することができ、エネルギー消費量を減らすことができる装置、さらに、揮発性有機溶媒及びプラズマの大気中への放出が抑制された乾燥装置を得ることである。
また、本発明の解決しようとする課題は、プラズマ含有ガス中のプラズマ(プラズマ活性種)を長寿命とすることで、プラズマ含有ガス中のプラズマ濃度の減少を抑制し、プラズマを高濃度で含み、高いプラズマ活性を持続できるプラズマ含有ガスを得ることである。
さらに、プラズマ含有ガスの長距離移送や循環利用等を可能とすることで、印刷機において、プラズマ含有ガスを用いた乾燥装置の設計の自由度を向上させることも課題である。さらに、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応と、乾燥コストの低減とを両立させ、従来の油性枚葉印刷にプラズマ含有ガスによる印刷インキの乾燥・硬化を適用し、汎用性の高い印刷システムを構築することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
[1] 気体にプラズマを添加するプラズマ添加部と、
プラズマ添加部でプラズマが添加されて得られたプラズマ含有ガスを、印刷装置から排出された印刷後の印刷媒体に吹き付ける乾燥部と、
を備える乾燥装置。
[2] 前記プラズマ添加部が、プラズマ原料ガスをプラズマ化するプラズマ生成機を備える、[1]に記載の乾燥装置。
[3] 前記プラズマ生成機が、大気圧プラズマを生成する、[2]に記載の乾燥装置。[4] 前記乾燥部が、前記印刷媒体の搬送経路を挟んで所定の間隔をあけて配置された1つ以上の吹付ノズルを備える、[1]~[3]のいずれかに記載の乾燥装置。
[5] 前記乾燥部が、2つ以上の乾燥室を備え、前記印刷媒体の搬送方向下流側にある乾燥室の排気が、前記印刷媒体の搬送方向上流側にある乾燥室に給気される、[1]~[4]のいずれかに記載の乾燥装置。
[6] 前記乾燥部からの排気を脱臭する脱臭部を備え、前記脱臭部が、乾燥室から排出された被処理ガスを分解して処理ガスとするガス処理機及び/又はガス中のプラズマを処理するプラズマ処理機を備える、[1]~[5]のいずれかに記載の乾燥装置。
[7] 前記脱臭部で処理された処理ガスの少なくとも一部を、プラズマを添加する気体として再利用する、[6]に記載の乾燥装置。
[8] 得られたプラズマ含有ガスを、-25~100℃で保存する手段を有する、[1]~[7]のいずれかに記載の乾燥装置。
[9] プラズマ含有ガスを、-25~100℃で保存する、プラズマ含有ガスの保存方法。
[10] プラズマ含有ガスを、0~65℃で保存する、[9]に記載のプラズマ含有ガスの保存方法。
[11] プラズマ含有ガスが、0.1~10気圧の圧力及び150℃以下の温度で発生させた大気圧プラズマ含有ガスである、[9]又は[10]に記載のプラズマ含有ガスの保存方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、印刷後の記録用組成物を迅速かつ十分に乾燥・硬化することができ、エネルギーの消費量を減らすことができる装置、さらに、揮発性有機溶媒及びプラズマの大気中への放出を抑制できる乾燥装置を得ることができる。 また、本発明によれば、プラズマ含有ガス中のプラズマ(プラズマ活性種)を長寿命とすることができ、プラズマ含有ガス中のプラズマ濃度の減少を抑制できることから、プラズマを高濃度で含み、高いプラズマ活性を持続できるプラズマ含有ガスを得ることが可能となる。
そして、プラズマ含有ガスの長距離移送や循環利用等が可能となり、印刷機において、プラズマ含有ガスを用いた乾燥装置の設計の自由度が向上する。これにより、ヒートセット輪転機の印刷速度(例えば、400m/min)への速乾対応と、乾燥コストの低減との両立により、従来の油性枚葉印刷にプラズマ含有ガスによる印刷インキの乾燥・硬化を適用し、汎用性の高い印刷システムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る乾燥装置の実施形態を示す概略構成図
図2】本発明に係る乾燥装置の別の実施形態を示す概略構成図
図3】本発明に係る乾燥装置の別の実施形態を示す概略構成図
図4】本発明に係る乾燥装置の別の実施形態を示す概略構成図
図5】本発明に係る乾燥装置の別の実施形態を示す概略構成図
図6】本発明に係る乾燥装置が備えるプラズマ添加部の概略構成図
図7】本発明に係る乾燥装置が備えるプラズマ添加部の別の概略構成図
図8】プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ発生装置)の概略構成図
図9】プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ発生装置)の別の概略構成図
図10】本発明に係るプラズマ含有ガスの保存温度ごとの経時的変色(色差ΔE)を示す図
【符号の説明】
【0011】
1 乾燥装置
2 プラズマ添加部
20 給気機
21、21a、21b プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)
211 プラズマ生成室
212 プラズマ生成室筐体
213 導入口
214 プラズマ含有ガス放出口
22 電源
231a、231b 電極
232 コイル
233 電極芯

3 乾燥部
30 筐体
301 印刷媒体入口
302 印刷媒体出口
303 加熱室形成隔壁
304 冷却室形成隔壁
305 隔壁
31 乾燥室
31x 上流側乾燥室
31y 下流側乾燥室
311、311n、311x、311y 給気機
312、312p、312x、312y 吹付ノズル
312a、312pa、312xa、312ya 上側吹付ノズル
312b、312pb、312xb、312yb 下側吹付ノズル
313、313x、313y 排気機
32 加熱室
321 加熱室用給気機
322 温風ノズル
322a 上側温風ノズル
322b 下側温風ノズル
323 排気機
33 冷却室
331 冷却室用給気機
332 冷風ノズル
332a 上側冷風ノズル
332b 下側冷風ノズル
333 排気機
34 外気給気機
4 脱臭部
41 ガス処理機
42 プラズマ処理機
43 排気機
44 熱交換機
5 印刷媒体入口ガス回収部
51 排気機
6 印刷媒体出口ガス回収部
61 排気機
70 プラズマ原料ガス供給機
P 印刷媒体
G1 プラズマ原料ガス
PL プラズマ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[乾燥装置]
本発明の乾燥装置の実施の形態について、図1図9を参照して説明する。
図1図5は、本発明の実施形態に係る乾燥装置の実施形態を示す概略構成図である。乾燥装置1は、印刷装置(不図示)の下流側に配置されている。乾燥装置1は、気体にプラズマを添加するプラズマ添加部2と、プラズマ添加部でプラズマが添加されて得られたプラズマ含有ガスを、印刷装置から排出された未乾燥記録用組成物を表面に有する印刷媒体Pに気体を吹き付ける乾燥部3を備えている。
乾燥装置1は、乾燥部3からの排気を脱臭する脱臭部4を備えていてもよい。
さらに、乾燥装置1は、乾燥部3の印刷媒体入口301から流出する気体を回収するための印刷媒体入口ガス回収部5、及び/又は、乾燥部3の印刷媒体出口302から流出する気体を回収するための印刷媒体出口ガス回収部6、を備えていてもよい。
【0014】
<プラズマ添加部>
図1~5に示されるように、プラズマ添加部2は、給気機20から供給される気体及び/又は脱臭部4から返送された処理ガスの少なくとも一部に、プラズマを添加する。プラズマ添加部2でプラズマが添加されて得られるプラズマ含有ガスは、必要に応じて温度が調整され、乾燥部3の給気機311に送られる。
一実施形態として、図2に示されるように、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21から生成されたプラズマ含有ガスと、乾燥部3の任意の部位、印刷媒体入口ガス回収部5及び印刷媒体出口ガス回収部6の1つ以上の部位から回収された気体(プラズマを含む場合がある。)を混合することができる。
一実施形態として、図6に示されるように、プラズマ原料ガス供給機70からプラズマ原料ガスがプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21に供給される。プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21は、プラズマ原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化し、プラズマ含有ガスを生成する。プラズマ含有ガスは、給気機20から供給される気体及び/又は脱臭部4から返送された処理ガスの少なくとも一部に添加される。
一実施形態として、図7に示されるように、給気機20から供給される気体及び/又は脱臭部4から返送された処理ガスの少なくとも一部をプラズマ原料ガスとして、直接プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21に供給してプラズマを添加することができる。
一実施形態として、図6に示されるように、安定的な運転、プラズマ原料ガス種の変更の容易性、プラズマの確実な添加等の観点から、プラズマ原料ガス供給機70からプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21にプラズマ原料ガスを供給し、生成されたプラズマ含有ガスを、給気機20から供給される気体及び/又は脱臭部4から返送された処理ガスの少なくとも一部に添加することが好ましい。
【0015】
<プラズマ>

本発明におけるプラズマとしては、科学的に定義されたプラズマが制限なく用いられる。プラズマは、電離によって生じた荷電粒子を含むエネルギーの高い気体の状態のもので、イオンと電子の数が同数又はほぼ同数で、電気的に中性又はほぼ中性の状態であればよい。プラズマは、互いに離間した電極間での放電等の種々の方法で生成することができる。 生成直後のプラズマ含有ガス中のプラズマは、プラズマ原料ガスの種類に応じた色の発光を伴う高エネルギー状態となっている。その後、プラズマ含有ガス中のプラズマは、エネルギーの一部を失う又はエネルギーの一部を奪うことで不可視状態となるが、不可視状態であっても、様々な化学反応・処理を誘起させることが可能である。
本発明においては、プラズマ含有ガスを、特定の温度(-20~100℃)により保存することで、プラズマ含有ガス中のプラズマ(プラズマ活性種)の消失・失活が効果的に抑制できる。
【0016】
本発明者は、プラズマインジケーター(サクラクレパス社製PLAZMARK(登録商標))による変色評価(ΔEの評価)により、プラズマ含有ガス中のプラズマの濃度を観察した。その結果、およそ1時間経過しても、プラズマ含有ガス中のプラズマの濃度は、プラズマ処理効果を発現するのに十分なものであること、そして、プラズマ生成からおよそ1時間経過したプラズマ含有ガスを用いた場合であっても、特段の問題なくインキを乾燥・硬化できるとの知見を得た。これにより、プラズマ添加部2やプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21を、乾燥部3(乾燥室31)の内部に設ける必要がなくなり、乾燥装置の設計の自由度を向上させることができる。
【0017】
<プラズマ含有ガス>
プラズマ含有ガスは、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21のプラズマ生成室で発生させたプラズマを含むガス(気体)である。プラズマ原料ガスをプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21に供給することにより、プラズマ原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化することで得ることができる。

本発明のプラズマ含有ガスは、プラズマ原料ガスの種類に応じた色の発光を伴い高エネルギー状態である、生成直後のプラズマを含むもの(プラズマ変性ガスともいわれる。)、及び/又は、発光を伴い高エネルギー状態であったプラズマがエネルギーを失って消光し不可視状態となったプラズマを含むもの(プラズマ消光ガスともいわれる。)を含むものであり、様々な化学反応を誘起させることができる。
【0018】
プラズマの特性を利用して各種の処理を行う際に、プラズマ含有ガスを用いると、処理後にその余の操作(例えば、洗浄、プラズマ以外の成分の除去等)を必要としないことから、適用範囲が広く有利である。このため、例えば、印刷物の乾燥・硬化に際して好ましく用いることができる。なお、プラズマ含有液を用いると、処理後に液体を除去(例えば熱による乾燥)する必要が生じる場合があり、適用範囲が限定されてしまう。
本発明におけるプラズマ含有ガスは、種々の用途に用いることができる。例えば、印刷機における乾燥装置において、印刷インキの乾燥・硬化のために印刷物と接触させる用途(印刷物用)に有用であるが特に限定されない。印刷物との接触手段としては、特に限定されず、例えば、印刷物にプラズマ含有ガスを噴射させてもよく、また、プラズマ含有ガス雰囲気中で印刷物を移動させてもよい。
【0019】
本発明におけるプラズマ含有ガスは、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21から出た際の温度が低温(150℃以下)であることが好ましい。プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21から出た際の温度が高温(150℃超)のプラズマ含有ガスは、冷却効率が悪くコストの点で不利である。また、高温であると、プラズマの消失・失活が起こるおそれがあり、プラズマ含有ガス中のプラズマ濃度を高くすることが難しくなるおそれがある。
なお、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21から出る際のプラズマ含有ガスは、一般的に、電離により生じ比較的高いエネルギーを有している高温の電子と、高温の電子と比較して比較的低温の電子以外の成分(イオン、プラズマ原料ガス等)を含んでいる。ここで、プラズマの電離度は、通常0.1%未満であり、プラズマ含有ガス自体の温度は、高温の電子と、比較的低温の電子以外の成分の存在率により決まることとなる。
【0020】
<プラズマ含有ガスの保存温度>
本発明のプラズマ含有ガスの保存方法における保存温度は、-20~100℃、好ましくは-5~65℃、より好ましくは0~65℃、さらに好ましくは10℃を超え55℃以下である。
-20℃以下では、冷却コストがかかり、装置が大掛かりとなり、また、ガス中の水分の凍結の問題が生じるおそれがある。さらに、印刷物に接触させる場合には、ガスの温度が低すぎるため、インキの乾燥・硬化等に時間がかかるおそれがある。特に、10℃以下では、インキの種類にもよるが、インキの乾燥・硬化性、特に、インキ中の揮発成分の除去が難しくなったり、インキの反応硬化性が低下したりするおそれがある。
100℃を超えると、失活するプラズマが増えてしまい、プラズマ含有ガス中のプラズマの濃度が低下し、プラズマ処理効果、例えば、インキの乾燥・硬化に影響が出るおそれがある。
【0021】
本発明において、プラズマを大気圧で発生させたプラズマ含有ガスは、プラズマが気体状態でガス中に存在するものであり、その保存温度を-20~100℃とすることで、ガス中のプラズマ(プラズマ活性種)の消失・失活を効果的に抑制することができる。
プラズマ含有ガスを所定の保存温度とするための方法は、特に限定されず、例えば、恒温槽、加熱装置、冷却装置等を用いる方法があげられる。
【0022】
本発明において、「-25~100℃で保存」とは、プラズマ含有ガスを-20~100℃の状態に保つことである。これにより、プラズマ含有ガス中のプラズマ(プラズマ活性種)の消失・失活を抑制することができる。保存温度とは、保存の際のプラズマ含有ガスの温度を指す。
本発明においては、プラズマ含有ガスの保存として、例えば、
(i)プラズマ含有ガスを循環利用する際に、プラズマ含有ガスを使用し回収してから、循環させて再度使用するまでの間、保存温度を-20~100℃とすること
(ii)プラズマ含有ガスを発生源から使用場所までの移送する際に、例えば温度調整手段(冷却機構等)等を設けることにより、保存温度を-20~100℃とすること
(iii)プラズマ含有ガスを容器等に入れて保存する際に、保存温度を-20~100℃とすること、
等があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
<プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)>
本発明において、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21は、例えば、図8又は図9に示されるような構造のものがあげられる。
図8又は図9において、プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21は、内部がプラズマを生成させるためのプラズマ生成室211を備え、プラズマ生成室211は、プラズマ生成室筐体212によって形成されている。プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21は、プラズマ原料ガスG1をプラズマ生成室211に導入するための導入口213と、プラズマ生成室211内に電界を形成して放電させるための手段と、プラズマ生成室211で発生させたプラズマPLを含むプラズマ含有ガスを、プラズマ生成室211から外に放出させるプラズマ含有ガス放出口214と、を少なくとも有する。
【0024】
プラズマ生成室211を形成するプラズマ生成室筐体212は、例えば、ガラス、セラミックのような誘電性を備えた材料で構成できる。また、チタン酸バリウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の誘電率が2000以下の誘電体を用いることもできる。また、プラズマ生成室筐体212の少なくとも一部を導電性の材料で構成することで、プラズマ生成室筐体212自体を電極として用いることもできる。
プラズマ生成室211を形成するプラズマ生成室筐体212の形状は、特に限定されず、筒状、球状、箱状等の任意の形状とすることができる。プラズマ生成室211を形成するプラズマ生成室筐体212は、プラズマ含有ガス放出口214に近づくほど細くなるように加工されてノズル形状となっていてもよい。
【0025】
プラズマ生成室211内に電界を形成して放電させるための手段は、特に限定されず、公知の任意の手段を用いることができる。
プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21の一実施態様である図8のプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21aは、プラズマ生成室筐体212の外面又は内面に、互いに極性の異なる一対の電極231a、231bを互いに離間して対向して形成し、それぞれの電極231a、231bを、電源22に接続して、電界を形成して放電させるための手段としている。一対の電極231a、231bは、プラズマ生成室211を形成するプラズマ生成室筐体212の内部に対向して設けられてもよい。また、表面に絶縁体等による層が形成された一対の電極231a、231bの少なくとも一方を設置することもできる。放電用電極の間隔は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化すればよく、例えば0.5~5.0mm程度とすることができる。電極を用いて放電した場合、プラズマ濃度を高くすることができる。
【0026】
プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21の一実施態様である図9のプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21bは、プラズマ生成室筐体212の外周又は内周に、コイル232を設けるとともにプラズマ生成室211内に電極芯233を設け、コイル232と電極芯233とを電源22に接続して、電界を形成して放電させるための手段としている。コイル232の間隔、巻長、巻径、線径、電極芯233とコイル232の間隔、電極芯233の形状等は、特に限定されず、電圧等を考慮して適宜好適化される。例えば、導入口213からプラズマ含有ガス放出口214が細長い筒状形状であるプラズマ生成室筐体212を構成し、プラズマ生成室筐体212の外周又は内周に設けたコイル232及び対応する電極芯233を用いて放電すると、放電密度は比較的低いものの、プラズマ原料ガスG1が通過する放電体積が大きくなり、多量のプラズマを生成できることから、本発明のプラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21として好ましく用いられる。

前記電極231a、231b又はコイル232は、安定したプラズマ放電を得るために、プラズマ原料ガスG1と直接接触しない構成とするのが好ましい。そのため、電極231a、231b、コイル232及び電極芯233のいずれか1つ以上の表面に、コーティング等の公知の手段により、石英、アルミナ等のガラス質材料やセラミック材料等の絶縁性被膜を設けてもよい。
【0027】
プラズマ原料ガスG1としては、空気、酸素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、水蒸気等の気体からなる群より選ばれる1種以上が例示されるが特に限定されない。これらの中でも、空気、酸素ガス、窒素ガス及び二酸化炭素ガスからなる群より選ばれる1種以上のガスが好ましい。
【0028】
プラズマ原料ガスG1は、給気機20又はプラズマ原料ガス源GPから供給され、導入口213を通りプラズマ生成室211内に導入される。給気機20又はプラズマ原料ガス源GPは、プラズマ原料ガスの収容容器(ガスボンベ)であってもよく、プラズマ原料ガスG1が空気である場合には、給気機20を外気取入れブロアとしてもよい。また、プラズマ原料ガスG1の一部として、脱臭部4からの処理ガスを用いてもよい。この場合、脱臭部4内のガス処理機から放出された高温の処理ガスを用いてもよく、任意に設けられる熱交換機44により熱交換された後の処理ガスを用いてもよい。
【0029】
プラズマ原料ガスG1は、導入口213からプラズマ生成室211の内部へ吹き込まれる。プラズマ原料ガスG1の供給量は、特に限定されないが、0.1~100m/min、好ましくは0.5~30m/minとすることができる。
電極231a、231b、又は、コイル232と電極芯233には、電源22から高周波、パルス波、マイクロ波等が印加され、放電開始電圧を超えると、プラズマ生成室211内に電界が形成される。プラズマ原料ガスG1は、プラズマ生成室211でプラズマ化された後に、プラズマ含有ガス放出口214から、プラズマ含有ガスとして放出される。プラズマ含有ガスは、原料ガスの少なくとも一部をプラズマ化処理して得られるすべてのガスを含む。
【0030】
プラズマ含有ガス製造装置(プラズマ生成機)21は、0.1~10気圧、好ましくは0.7~1.5気圧の圧力範囲においてプラズマ(大気圧プラズマ)を生成させるもので、リモート型のものが例示される。プラズマを生成する際の温度は、特に限定されないが、取扱性等を考慮すると、低温(150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは50℃以下)とすることが好ましい。
【0031】
本発明においては、電界の立ち上がり及び立ち下がりに要する時間(立ち上がり及び立ち下がりとは、電圧が連続して増加又は減少することである。)を短くするために、パルス波を印加することが好ましい。電界の立ち上がりや立ち下がりに要する時間は、10μs以下とされ、好ましくは50ns~5μsとされる。
プラズマ生成室211において発生させる電界強度は、特に限定されない。1kV/cm以上、好ましくは20kV/cm以上とすることができる。また、1000kV/cm以下、好ましくは300kV/cm以下とすることができる。パルス波により電界をかけるときの周波数としては、特に限定されない。0.5kHz以上が好ましく、10~20MHz程度や50~150MHz程度とすることができる。電力としては、40W/cm以下、好ましくは30W/cm以下とすることができる。
【0032】
<乾燥部>
図1図5に示されるように、乾燥部3は、印刷媒体Pの搬送経路の少なくとも一部を覆う筐体30により形成されている。筐体30には、印刷媒体Pを乾燥部3に導入する印刷媒体入口301と、印刷媒体Pを乾燥部3から排出する印刷媒体出口302が設けられている。また、乾燥部3の内部は、任意に加熱室形成隔壁303及び/又は冷却室形成隔壁304を用いることで、印刷媒体Pの搬送経路上流側の乾燥室31と、下流側の加熱室32及び/又は冷却室33とに分けられていてもよい。加熱室32及び/又は冷却室33の設置は必要に応じて行われ、加熱室32及び/又は冷却室33を備えていなくてもよい。
また、図1図5では、加熱室32が印刷媒体Pの搬送経路上流側となっているが、冷却室33が印刷媒体Pの搬送経路上流側となってもよい。さらに、加熱室32及び/又は冷却室33を1つ以上備えていてもよく、その際の加熱室32と冷却室33の位置関係は、任意に設計することができる。
【0033】
印刷媒体入口301及び印刷媒体出口302の開口面積を必要最小限のものとすれば、乾燥部3(乾燥室31)を閉鎖空間に近づけることができ、乾燥部3のプラズマ濃度や熱効率等を容易に調整することができる。特に、印刷媒体P表面の記録用組成物と接触するプラズマ濃度をより高くできるため、乾燥・硬化の効率が向上する。なお、必要最小限の開口面積は、印刷媒体Pの大きさ、印刷媒体Pを搬送する機構の大きさ、紙詰まり防止等のクリアランスを考慮して定められる。
また、図2に示されるように、印刷媒体入口301から流出する気体を回収するために、排気機51を備える印刷媒体入口ガス回収部5を設けることができる。さらに、印刷媒体出口302から流出する気体を回収するために、排気機61を備える印刷媒体出口ガス回収部6を設けることもできる。印刷媒体入口ガス回収部5及び印刷媒体出口ガス回収部6は、両方を設けることができ、いずれか一方を設けてもよく、両方とも設けなくてもよい。
【0034】
筐体30、加熱室形成隔壁303及び冷却室形成隔壁304は、断熱性を有していることが好ましい。これにより、乾燥部3、乾燥室31、加熱室32及び冷却室33の熱効率がより向上し、エネルギー消費量を低減させることができる。
乾燥部3(乾燥室31)の長さ(印刷媒体入口301と印刷媒体出口302との間隔)は、印刷媒体Pの表面の記録用組成物の乾燥・硬化が十分に行われるものであれば、特に限定されない。例えば、1~20m程度とすることができる。また、乾燥部3(乾燥室31)の幅及び高さは、吹付ノズル312等の各種機器等の設置スペース、プラズマ濃度、エネルギー消費量等を考慮して適宜定めることができる。加熱室32及び冷却室33の長さ、幅及び高さについても、同様の要件を考慮して適宜定めることができる。
【0035】
乾燥部3は、プラズマ含有ガスを乾燥室31に供給する給気機311、乾燥室31内を搬送される印刷媒体Pにプラズマ含有ガスを吹き付ける吹付ノズル312、乾燥部3(乾燥室31)で発生した排ガスを排気する排気機313を少なくとも備えている。
給気機311及び排気機313は、給気効率や排気効率等を考慮して、乾燥室31の任意の場所に備えることができる。また、給気機311の給気量と排気機313の排気量は、乾燥室31内の圧力等を考慮してそれぞれ適宜定めることができる。排気量が給気量と等しいか若干大きくなるように設定することが好ましい。給気量に比べて排気量が大きい場合、乾燥室31内に負圧が発生する等の問題が生じるおそれがある。
【0036】
吹付ノズル312から吹き付けられた気体には、プラズマ添加部2で添加されたプラズマが、含まれる。プラズマ含有ガスは、乾燥室31内を搬送される印刷媒体Pの表面と接触し、印刷媒体Pの表面に付着している印刷直後の記録用組成物を乾燥・硬化させて定着する。印刷媒体Pに吹き付けられるプラズマ含有ガスの温度は特に限定されず、加熱されていてもよく、加熱されていなくてもよい。加熱されたプラズマ含有ガスを吹き付ける場合、例えば、給気機311と吹付ノズル312との間に、加熱装置を設けることができる。
【0037】
図1~4に示されるように、吹付ノズル312は、印刷媒体Pの搬送経路を挟んで所定の間隔をあけて配置された1個以上の上側吹付ノズル312a及び1個以上の下側吹付ノズル312bにより構成されていてもよい。この場合、上側吹付ノズル312aと下側吹付ノズル312bは、互いに印刷媒体の搬送経路を挟んで千鳥状となるように配列するのが好ましい。これにより、印刷媒体Pを乾燥部3(乾燥室31)内をエアーフロートさせて搬送することができる。上側吹付ノズル312a及び下側吹付ノズル312bそれぞれのノズルの数は、特に限定されない。例えば、それぞれ20個程度とすることができる。また、吹付ノズル312は、印刷媒体の一方の面にのみに設けられていてもよい。その場合には、もう一方の面をローラー又は支持板等とすることができる。
【0038】
図1、2に示される乾燥装置において、プラズマ添加部2でプラズマが添加されて得られるプラズマ含有ガスは、給気機311から吹付ノズル312pに供給され、印刷媒体Pに吹き付けられる。吹付ノズル312pは、乾燥室31内における印刷媒体Pの搬送経路の最上流に設けられており、1個以上の上側吹付ノズル312pa及び1個以上の下側吹付ノズル312pbにより構成されていてもよい。また、吹付ノズル312pは、印刷媒体の一方の面にのみに設けられていてもよい。その場合には、もう一方の面をローラー又は支持板等とすることができる。
この実施形態は、印刷直後の印刷媒体に、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを吹き付けることができることから、記録用組成物の乾燥・硬化をより効率的に行うことが可能となる。
プラズマ含有ガスは、吹付ノズル312pから吹き付けられた後、乾燥室31内に充満する。
そして、乾燥室31内に任意に設けた給気機311nにより、乾燥室31内に充満したプラズマ含有ガスを吹付ノズル312に供給し、再び印刷媒体Pに吹き付けて、記録用組成物の乾燥・硬化をより確実に行ってもよい。
【0039】
図3に示される乾燥装置において、プラズマ添加部2でプラズマが添加されて得られるプラズマ含有ガスは、給気機311により乾燥室31内に導入される。その後、乾燥室31内に充満したプラズマ含有ガスは、乾燥室31内に設けられた給気機311nにより吹付ノズル312に供給され、印刷媒体Pに吹き付けられ、記録用組成物の乾燥・硬化が行われる。
【0040】
図4に示される乾燥装置において、プラズマ添加部2でプラズマが添加されて得られるプラズマ含有ガスは、給気機311から吹付ノズル312に供給され、印刷媒体Pに吹き付けられる。この実施形態は、乾燥室31内を搬送される印刷媒体Pに、プラズマ濃度が高いプラズマ含有ガスを偏りなく吹き付けることができる。
【0041】
また、図5に示されるように、乾燥部3は、印刷媒体Pの搬送開口部を設けた隔壁305を境にして、搬送方向上流側の上流側乾燥室31xと、搬送方向下流側の下流側乾燥室31yとの2つの乾燥室を備えていてもよい。さらに、下流側乾燥室31yには、任意に加熱室形成隔壁303及び冷却室形成隔壁304を用いることで、印刷媒体Pの搬送経路終端部の上流側に加熱室32及び最下流側に冷却室33が設けられていてもよい。加熱室32及び/又は冷却室33の設置は必要に応じて行われ、加熱室32及び/又は冷却室33を備えていなくてもよい。
この実施形態は、下流側乾燥室31yで使用した気体を、上流側乾燥室31xに送気し使用することで、乾燥・硬化に必要な気体の流量(風量)を下げることできる。下流側乾燥室31yを搬送される印刷媒体Pの表面にある記録用組成物の乾燥・硬化が比較的進んでいるため、下流側乾燥室31yで使用されたプラズマ含有ガスを、上流側乾燥室31xに送り再利用することができる。特に、揮発性有機溶媒を含む記録用組成物を使用する場合において、揮発性有機溶媒を含む排ガスの処理等の観点から好ましい実施形態である。
【0042】
上流側乾燥室31xは、吹付ノズル312xに気体を給気する給気機311x、印刷媒体Pに気体を吹き付ける吹付ノズル312x、上流側乾燥室31xで発生した排ガスを排気する排気機313xを備えている。
下流側乾燥室31yには、プラズマ添加部2でプラズマが添加されて得られたプラズマ含有ガスを吹付ノズル312yに給気する給気機311y、印刷媒体Pに気体を吹き付ける吹付ノズル312y、下流側乾燥室31y内に充満した気体を上流側乾燥室31xの給気機311xに送気する排気機313yを備えている。
吹付ノズル312x、312yは、印刷媒体Pの搬送経路を挟んで所定の間隔をあけて配置された1個以上の上側吹付ノズル312xa、312yaと、1個以上の下側吹付ノズル312xb、312ybとにより構成されていてもよい。上側吹付ノズル312xa、312yaと下側吹付ノズル312xb、312ybとは、互いに印刷媒体Pの搬送経路を挟んで千鳥状となるように配列するのが好ましい。これにより、印刷媒体Pを上流側乾燥室31x内でエアーフロートさせながら搬送することができる。
上側吹付ノズル312xa、312ya、下側吹付ノズル312xb、312ybそれぞれのノズルの数は、特に限定されない。例えば、それぞれ10個程度とすることができる。また、吹付ノズル312x、312yは、印刷媒体の一方の面にのみに設けられていてもよい。その場合には、もう一方の面をローラー又は支持板等とすることができる。
【0043】
図1図5に示される乾燥装置において、吹付ノズル312、312p、312x及び312y(上側吹付ノズル312a、312pa、312xa及び312ya、下側吹付ノズル312b、312pb、312xb及び312yb)の気体吹出口の形状は、印刷媒体Pの表面、特に幅方向にムラなく気体を吹き付けられるものであれば特に限定されない。例えば、印刷媒体Pの幅方向に開口するスリット形状、少なくとも印刷媒体Pの幅方向に並んだ多数の孔を有するシャワー形状等とすることができる。
吹付ノズル312、312p、312x及び312yの気体吹出口は、任意の方向に向けることで、気体の吹付方向を調整することができる。例えば、印刷媒体Pの搬送方向、印刷媒体Pの搬送方向と逆の方向、印刷媒体Pの搬送方向と交差する方向(印刷媒体Pの幅方向)、印刷媒体Pの表面に向かう方向等のいずれかに向けることができる。
吹付ノズル312、312p、312x及び312yから吹き付けられる気体の吹付量は、特に限定されない。例えば、1~200m/min、好ましくは30~100m/minとすることができる。また、個別のノズルごとに、気体の吹付量を調整することもできる。
印刷媒体Pの搬送速度は、特に限定されない。例えば、1~1000m/min、好ましくは10~600m/minとすることができる。
【0044】
図1図5に示される乾燥装置において、吹付ノズル312から、任意に設けた加熱装置(不図示)で加熱した気体を吹き付ける場合や加熱室32を設ける場合には、乾燥室31又は下流側乾燥室31yに冷却室33を設けることができる。
加熱室32は、温風を給気する加熱室用給気機321と、前記加熱室用給気機321から給気された温風を前記印刷媒体Pに吹き付ける温風ノズル322とを備えていてもよい。加熱室32における加熱手段としては、温風を用いた加熱手段以外に、赤外線を用いた加熱手段等を用いることもできる。また、加熱室32は、排気を行うための排気機323を備えていてもよい。
加熱室用給気機321には、外気給気機34から供給される気体及び/又は脱臭部4からリサイクルされる処理ガスが供給され加熱室に給気される。加熱室用給気機321に給気される前に加熱装置(不図示)により気体を加熱してもよく、温風ノズル322に供給される前又は温風ノズル322において任意の手段により加熱されてもよい。
【0045】
温風ノズル322は、少なくとも1個の上側温風ノズル322a及び少なくとも1つの下側温風ノズル322bを有していてもよく、どちらか一方のみでもよい。また、加熱室形成隔壁303及び冷却室形成隔壁304の材質・形状等に応じて、加熱室32からの排気を排出する排気機(不図示)を備えることができる。少なくとも1つの上側温風ノズル322a及び少なくとも1つの下側温風ノズル322bにより印刷媒体Pに温風を吹き付けることで、乾燥室31、31x、31yを搬送されてきた印刷媒体Pを加熱することができる。温風の吹付に際しては、少なくとも1つの上側温風ノズル322a及び少なくとも1つの下側温風ノズル322bの角度や温風吹付速度等を調整することができる。
加熱室32において印刷媒体Pを加熱することで、記録用組成物の乾燥・硬化をより一層確実にすることができ、また、印刷媒体Pに随伴・付着した気体等を除去・引きはがすことができる。例えば、記録用組成物として、揮発性有機溶媒を含むものを用いた場合、印刷媒体Pに随伴する揮発性有機溶媒を含む気体等を除去・引きはがすことで、印刷媒体出口302から放出される揮発性有機溶媒等を低減するとともに、印刷媒体に随伴・付着した臭気を除去することが可能である。さらに、排気機323を設けることで、より確実に印刷媒体Pに随伴・付着した気体等を除去・引きはがすことができる。
【0046】
冷却室33は、冷風を給気する冷却室用給気機331と、前記冷却室用給気機331から給気された冷風を前記印刷媒体Pに吹き付ける冷風ノズル332とを備えていてもよい。冷却室33における冷却手段としては、冷風を用いた冷却手段以外に、冷媒を用いた冷却手段等を用いることもできる。また、冷却室33は、排気を行うための排気機333を備えていてもよい。
冷却室用給気機331には、外気給気機34から供給される気体及び/又は脱臭部4からリサイクルされる処理ガスが供給され冷却室33に給気される。冷却室用給気機331に給気される前に冷却装置(不図示)により気体を冷却してもよく、冷風ノズル332に供給される前又は冷風ノズル332において任意の手段により冷却されてもよい。
【0047】
冷風ノズル332は、少なくとも1個の上側冷風ノズル332a及び少なくとも1つの下側冷風ノズル332bを有していてもよく、どちらか一方のみでもよい。また、冷却室形成隔壁304の材質・形状等に応じて、冷却室33からの排気を排出する排気機(不図示)を備えることができる。少なくとも1つの上側冷風ノズル332a及び少なくとも1つの下側冷風ノズル332bにより印刷媒体Pに冷風を吹き付けることで、乾燥室31、31x、31y及び加熱室32を搬送されてきた印刷媒体Pを冷却することができる。また、少なくとも1つの上側冷風ノズル332a及び少なくとも1つの下側冷風ノズル332bの角度や冷風吹付速度等を調整することで、印刷媒体Pに随伴・付着した気体等を除去・引きはがすことができる。例えば、記録用組成物として、揮発性有機溶媒を含むものを用いた場合、印刷媒体Pに随伴・付着した揮発性有機溶媒を含む気体を除去・引きはがすことで、印刷媒体出口302から放出される揮発性有機溶媒を低減するとともに、印刷媒体に付着した臭気を除去することが可能である。さらに、排気機333を設けることで、より確実に印刷媒体Pに随伴・付着した気体等を除去・引きはがすことができる。
【0048】
[印刷装置]
印刷装置(不図示)は、搬送されてきた印刷媒体Pに対して記録用組成物を用いて印刷を行う装置である。このような印刷装置としては、公知のものを用いることができ、例えば、オフセット印刷装置、フレキソ印刷装置、グラビア印刷装置、インクジェット印刷装置、電子写真装置等があげられる。また、各印刷装置は、一枚ずつ印刷媒体Pが供給される枚葉方式のものでもよいし、連続した印刷媒体Pの巻き取りを用いた輪転方式のものでもよい。
本発明においては、印刷装置として、輪転方式のオフセット印刷装置を好適に用いることができる。
【0049】
[印刷媒体]
印刷媒体Pとしては、塗工紙や普通紙等の紙、各種樹脂フィルム、金属フィルム、及び金属層や金属化合物層を有する積層フィルム等、印刷可能な各種媒体等が例示される。また、印刷媒体は、長尺状のウエブ形態であっても、枚葉形態であってもよい。なお、乾燥装置から搬出された印刷媒体Pは、必要に応じてさらに冷却された後に、折りや裁断等といった必要な処理を受け、書籍やポスター等といった印刷製品となる。
【0050】
[記録用組成物]
記録用組成物は、印刷部に含まれる印刷機に適したものを選択すればよい。例えば、オフセット印刷機であれば、オフセット枚葉印刷用インキ、オフセット輪転印刷用インキ、新聞印刷用インキ等が用いられる。フレキソ印刷機であれば、フレキソ印刷用インキ等を、グラビア印刷機であれば、グラビア印刷用インキ等を、インクジェット印刷機であれば、インクジェット印刷用インキ等を、電子写真装置であれば、静電荷像現像用トナー組成物(感光ドラム上に形成された静電荷像に付着して画像を形成させる粉体(トナー組成物))等を、それぞれ用いることができる。記録用組成物は、顔料成分、バインダー成分、溶剤成分等から選ばれた1種以上を含む、公知のものが用いられる。また、揮発性有機溶媒を含まないタイプの記録用組成物を用いることもできる。使用される記録用組成物は、透明、1色又は多色の何れでもよい。
本発明においては、プラズマに対して反応性を備えているプラズマ硬化型の記録用組成物であって、揮発性有機溶媒を含まないものを用いることが好ましい。
【0051】
[脱臭部]
本発明の乾燥装置は、必要に応じて、脱臭部4を有していてもよい。脱臭部4は、ガス処理機41と、ガス処理機41で処理された処理ガスを放出する排気機43を備える。ガス処理機41は、乾燥部3から排気機313により排出された被処理ガスを、分解して処理ガスとする。
脱臭部4は、必要に応じて、処理ガス中のプラズマ等を処理するプラズマ処理機42及び/又は処理ガスから熱回収して低温の被処理ガスを予熱する熱交換機44を備えていてもよい。
【0052】
ガス処理機41により、揮発性有機溶媒等を含む被処理ガスが分解されて脱臭・浄化される。処理方式としては、公知の方式を用いることができる。例えば、被処理ガスを直接燃焼させる方式や酸化触媒を用いる方式等の熱分解処理、吸着等による処理、化学的分解処理のいずれも用いることができる。
必要に応じて設けられるプラズマ処理機42は、被処理ガス及び/又は排気機43により大気中に放出する処理ガス中のプラズマ等を処理する。被処理ガス及び/又は処理ガス中には、プラズマだけでなく、プラズマを生成する際の放電やプラズマにより生成された各種ラジカルやオゾン等が含まれる可能性がある。このため、被処理ガス中の揮発性有機溶媒は、プラズマ(及び、含まれる可能性がある各種ラジカルやオゾンの1種以上)による分解処理によっても脱臭されるため、より一層脱臭効果が高くなる。プラズマ処理機42におけるプラズマ等の処理手段としては、公知の方法を制限なく用いることができる。例えば、プラズマ等の処理として、荷電粒子から電荷を奪う処理、触媒等に吸着させる処理等があげられる。また、オゾンの処理として、活性炭吸着、触媒分解、水洗等の1つ以上の処理があげられる。これらの処理に際しては、ガス中のプラズマ等の濃度、放出ガス量、維持コスト等を考慮して、適当な処理方式を用いることができる。
【0053】
必要に応じて設けられる熱交換機44は、ガス処理機41で熱分解処理された高温の処理ガスから熱回収して低温の被処理ガスを予熱するものである。これにより、ガス処理機41に導入する被処理ガスの温度を上げることができ、ガス処理機41で使用する燃料等のエネルギー消費量を抑えることができる。また、プラズマ処理機42の熱劣化を抑えることができ、ランニングコストを抑えることができる。さらに、熱交換機44は、熱を必要とする場合の熱源として用いることもできる。
【0054】
乾燥室31の排気機313、加熱室32の排気機323、冷却室33の排気機333、印刷媒体入口ガス回収部5の排気機51、及び、印刷媒体入口ガス回収部5の排気機61のいずれか1つ以上により排出された被処理ガスは、必要に応じて設けられる熱交換機44により予熱された後、ガス処理機41にて分解されて処理ガスとされる。処理ガスの少なくとも一部は、直接又はプラズマ添加部2を通り乾燥部3に戻されて再利用される。また、少なくとも一部は、必要に応じて設けられるプラズマ処理機42に送られ、処理ガス中のプラズマ等の処理を行った後に排気機43から放出される。
なお、乾燥室31の排気機313、加熱室32の排気機323、冷却室33の排気機333、印刷媒体入口ガス回収部5の排気機51、及び、印刷媒体入口ガス回収部5の排気機61のいずれか1つ以上により排出された被処理ガス(気体)について、ガス処理機41を用いた処理の必要がない場合等には、図2に示されるように排出された被処理ガス(気体)を循環使用することも可能である。
【0055】
以上、本発明の乾燥装置の実施の形態について説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加え実施することができる。
【0056】
本発明の乾燥装置の実施形態として、例えば、以下のようなものが挙げられる。
プラズマ添加部と吹付ノズルとの間等の任意の場所に温度調整機を設けることで、乾燥装置内における任意の場所のガスの温度を調整することができる。
任意に、流量計、温度計、圧力計、濃度計等のセンサーを設け、それらの測定値に応じて、排気機、給気機、プラズマ添加機、ガス処理機、弁等の運転制御、開閉制御、気体流路・流量の変更・制御等を行うことができる。また、乾燥室よりも印刷媒体搬送経路下流に、加熱室を設けることもできる。
【実施例
【0057】
以下、プラズマ含有ガスの保存方法について、実施例及び比較例をあげてさらに詳細に説明するが、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
[評価方法]
プラズマ含有ガス製造装置から得たプラズマ含有ガスを一定量袋に注入し、4℃、20℃(室温)、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃又は90℃とした各恒温槽内に入れて、一定時間保管する。
一定時間保管後、プラズマインジケーターを導入し、1分間振とうする。
変色したプラズマインジケーター(サクラクレパス社製PLAZMARK(登録商標))のΔEを測定する。
【0059】
保存温度(恒温槽の温度)ごとの、経過時間(分)によるプラズマインジケーターのΔEの変化は、図10に示されるとおりとなった。
図10より、プラズマ含有ガスを低温下で保存することにより、プラズマ含有ガスの活性を長時間持続できることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10