(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】バイナリー発電システム
(51)【国際特許分類】
F01K 25/10 20060101AFI20250109BHJP
F01D 25/16 20060101ALI20250109BHJP
F01D 15/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F01K25/10 H
F01D25/16 C
F01D15/10 A
(21)【出願番号】P 2021087982
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2023-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】519079968
【氏名又は名称】株式会社アース・テクノ・サポート
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 昌利
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0283702(US,A1)
【文献】特開2010-164043(JP,A)
【文献】特開2014-199027(JP,A)
【文献】特開2006-283675(JP,A)
【文献】特開2013-007367(JP,A)
【文献】特開2004-346824(JP,A)
【文献】特開2018-031381(JP,A)
【文献】特開2019-027389(JP,A)
【文献】特開2005-345084(JP,A)
【文献】特開2001-116391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01K 25/08 - 25/10
F01D 25/00
F01D 11/04
F01D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源流体の熱エネルギーにより低沸点作動媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器において蒸発して高圧となった前記低沸点作動媒体によってローター軸を回転駆動し発電する膨張発電機と、前記膨張発電機を出て低圧となった前記低沸点作動媒体を冷媒により冷却し凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器から前記蒸発器に向かって前記低沸点作動媒体を循環させる低沸点作動媒体ポンプとを備え
、前記膨張発電機の膨張機と発電機との間に前記膨張発電機の内部雰囲気を隔てる機構を設けたバイナリー発電システムにおいて、
回転駆動する前記ローター軸の膨張機側の支持にガス軸受を用い、回転駆動する前記ローター軸の発電機側の支持に、転がり軸受を用い
、前記転がり軸受の取付け部分には前記ローター軸の発電機側の熱膨張による伸びを吸収させるためのバネが設けられ、
さらに前記膨張発電機は、タービン部と、メカニカルシール部と、発電部とからなり、前記メカニカルシール部は、前記ローター軸に固定されたシールリングライナーと、前記シールリングライナーに取付けられたシールリングと、前記メカニカルシール部のシールフランジに取付けたインサートとからなり、前記メカニカルシール部の内部空間にはオイルが封じ込められており、前記シールリングと前記インサートとの隙間が開き過ぎないよう前記インサートには、バネが設けられていることを特徴とするバイナリー発電システム。
【請求項2】
前記シールリングライナーと前記シールリングの回転運動によって生じる摩擦熱によって加熱されたオイルを冷却するための水冷ジャケット構造が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバイナリー発電システム。
【請求項4】
回転駆動する前記ローター軸の膨張機側の支持に、磁気軸受を用いることを特徴とする
請求項1又は2に記載のバイナリー発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱源流体の熱エネルギーを用い、低沸点作動媒体を加熱・蒸発させて、その蒸気の圧力で、膨張発電機を駆動させ発電を行う、バイナリー発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱蒸気や熱水あるいは、加熱処理工程のある工場廃熱や、焼却炉の廃熱などからの熱源流体の熱エネルギーを用い、石油系炭化水素や代替フロン・アンモニア等の低沸点作動媒体を蒸発器において加熱・蒸発させて、その蒸気の高い圧力で、膨張発電機を駆動させ発電を行い、その後、膨張発電機を出て低い圧力となった蒸気を凝縮器において冷媒で冷却することで、作動媒体を凝縮させ液体とし、それを再び低沸点作動媒体ポンプによって、この発電サイクル内を循環させ、連続的に発電を行うシステムがバイナリー発電システムであり、一般的な約300℃以上の水蒸気を用いた蒸気膨張発電機と比べると、利用の進んでいない300℃未満(場合によっては100℃未満)の低温な熱源からも発電が可能なシステムとして、実用化されている。
【0003】
昨今、化石燃料の過剰な使用による地球温暖化と、地球人口の増大やモビリティの電動化による電気エネルギーへの需要の高まりを鑑みると、現状、廃棄されてしまっている熱エネルギーをできる限り有効活用して発電が可能なバイナリー発電システムは、時代の要請として、さらなる実用化・適用化が期待されている。
【0004】
また、台風や地震などの自然災害の多いわが国の災害時における電力系統ネットワークの強靭化を図る上でも、大規模発電所への依存から、分散化電力のスマートグリッド化への移行によるリスク低減が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4311982号公報
【文献】特許第5447677号公報
【文献】特許第6339908号公報
【文献】特開2016-61237号公報
【文献】特開2019-22261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化石燃料の過剰な使用による地球温暖化に対し、今世紀の人類は喫緊の対策が迫られている現状、廃棄されてしまっている熱エネルギーを有効活用して安定して発電することが可能なバイナリー発電システムの実用化・適用化が期待されており、先行技術文献には、バイナリー発電システムの膨張発電機の軸受の潤滑に関するものがいくつかある。
【0007】
特許文献1では、膨張発電機の軸受への潤滑油の供給に加圧ポンプを使用することなく、エジェクターを用いて、潤滑油と低沸点作動媒体の混合液を噴射して、軸受を潤滑冷却している。
潤滑油の加圧ポンプを使用しない分、システム構成が簡素化、また、加圧ポンプに必要なエネルギーの消費も低減し、経済性を高めている。
しかしながら、低沸点作動媒体の循環経路に入り込んだ潤滑油を回収するために、蒸発器内部に気液分離器・油溜まり部を設け、そこから配管して、潤滑油タンクへ導き一時貯蔵し、そこからまた配管して、エジェクターを通じて、軸受へと至るといった、まだまだ複雑化した機構となっている。
【0008】
また、特許文献2では、膨張発電機の軸受の潤滑機構を、さらに簡素化し、グリス供給装置とそれを制御する制御装置を設け、制御装置による制御でグリス供給装置を機能させ、軸受の潤滑に必要となる適切な量のグリス供給を行う機構としている。
【0009】
特許文献3,4は、特許文献2の機構を、さらに適切な量のグリス供給を行う機構へと改良している。
【0010】
特許文献5では、膨張発電機の軸受の近傍に設けた温度センサーの計測値に基づいて、軸受のグリス不足を検知し、軸受へのグリス供給を行う制御を行うことで、軸受の焼付き、発電機の損傷といった障害を未然に防ぎ、バイナリー発電システムの安定した稼働に寄与するものとなっている。
【0011】
しかしながら、特許文献1~5に記載されている発電システムの膨張発電機では、高圧となった低沸点作動媒体ガスが膨張するタービン部内部空間は、当然、低沸点作動媒体ガスの雰囲気であるが、さらに、軸と直結し回転運動するローター、ローターを支持する軸受、およびケーシングに固定されているステーターのある発電部内部空間も、低沸点作動媒体ガスの雰囲気となっている。
【0012】
バイナリー発電システムにおいて、低沸点作動媒体は、石油系炭化水素や代替フロンなどが用いられることが主であり、これらは有機化合物である。
また、潤滑油やグリスなども、有機化合物であり、有機化合物同士は、なじみやすく、溶け合わさりやすい性質がある。
それゆえ、軸受に、潤滑油やグリスを供給したとしても、軸受が低沸点作動媒体の雰囲気にあるため、潤滑油やグリスが低沸点作動媒体へと溶け出し、洗い流されるような状態となり、軸受の潤滑の機能に必要となる適切な量を欠かさぬためには、頻繁な潤滑油あるいはグリスの補給が必要となってしまう。
また、低沸点作動媒体の循環経路に流出した潤滑油やグリスなどを、蒸発器内部の気液分離器などで回収するとしても、一部の回収できなかった潤滑油やグリスは、ミストとなって、低沸点作動媒体ガスと混合し、膨張機へと導入され、動翼(インペラー)へと衝突し、浸食(エロージョン)を発生させる惧れもある。
【0013】
本発明は、このような頻繁な軸受への潤滑油やグリスの補給の負担や、潤滑油やグリスのミストによる動翼の浸食といった障害を軽減あるいは、なくすため、軸受への潤滑油およびグリスの補給機構を簡素化あるいは不要とした、バイナリー発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためのバイナリー発電システムは、以下の通りである。
本発明のうち請求項1に記載の発明は、熱源流体の熱エネルギーにより低沸点作動媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器において蒸発して高圧となった前記低沸点作動媒体によってローター軸を回転駆動し発電する膨張発電機と、前記膨張発電機を出て低圧となった前記低沸点作動媒体を冷媒により冷却し凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器から前記蒸発器に向かって前記低沸点作動媒体を循環させる低沸点作動媒体ポンプとを備え、前記膨張発電機の膨張機と発電機との間に前記膨張発電機の内部雰囲気を隔てる機構を設けたバイナリー発電システムにおいて、
回転駆動する前記ローター軸の膨張機側の支持にガス軸受を用い、回転駆動する前記ローター軸の発電機側の支持に、転がり軸受を用い、前記転がり軸受の取付け部分には前記ローター軸の発電機側の熱膨張による伸びを吸収させるためのバネが設けられ、
さらに前記膨張発電機は、タービン部と、メカニカルシール部と、発電部とからなり、前記メカニカルシール部は、前記ローター軸に固定されたシールリングライナーと、前記シールリングライナーに取付けられたシールリングと、前記メカニカルシール部のシールフランジに取付けたインサートとからなり、前記メカニカルシール部の内部空間にはオイルが封じ込められており、前記シールリングと前記インサートとの隙間が開き過ぎないよう前記インサートには、バネが設けられていることを特徴とするバイナリー発電システム。
【0015】
本発明のうち請求項2に記載の発明は、前記シールリングライナーと前記シールリングの回転運動によって生じる摩擦熱によって加熱されたオイルを冷却するための水冷ジャケット構造が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバイナリー発電システム。
【0016】
本発明のうち請求項3に記載の発明は、前記ガス軸受に供給するガスとして、前記蒸発器より前記膨張発電機へと至る配管を分岐させて、高圧となった前記低沸点作動媒体の一部を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイナリー発電システム。
【0017】
本発明のうち請求項4に記載の発明は、回転駆動する前記ローター軸の膨張機側の支持に、磁気軸受を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のバイナリー発電システム。
【0018】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、回転駆動するローター軸の発電機側が空気雰囲気下となり、軸受への潤滑油およびグリスの補給機構を、一般的なモーター等と同様程度に簡素化することができ、あるいはグリス封入式の軸受を適用することで不要とすることもできる。
かつ、回転駆動するローター軸の膨張機側のラジアル方向への振動やブレを抑え、ローター軸の膨張機側のラジアル方向の位置を安定させることができ、
さらに、発電部の転がり軸受の取付け部分に設けられたバネは、回転駆動するローター軸の発電機側の熱膨張による伸びを吸収し、メカニカルシール部のインサートに設けられたバネは、シールリングとインサートとの隙間が開き過ぎないようにして、膨張発電機を構成する各部品の熱膨張や振動の影響によるシール機能の低下を防ぐことができる。
【0019】
本発明のうち請求項2に記載の発明によれば、水冷ジャケット構造により、メカニカルシール部に封じ込められたオイルを冷却し、気化や性能劣化を防ぎ、シール機能を保つことができる。
【0020】
本発明のうち請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明を実現するためのガスの供給の機構を簡素にできる。
【0021】
本発明のうち請求項4に記載の発明によれば、回転駆動するローター軸の膨張機側のラジアル方向への振動やブレを抑え、ローター軸の膨張機側のラジアル方向の位置を安定させることができる。
【0022】
以上、本発明によるバイナリー発電システムの継続的かつ安定的な稼働への信頼性の向上は、総じて、バイナリー発電システムを適用する用途の幅を広げ、バイナリー発電システムの普及・発展を促進し、地球温暖化問題の解決への一助と成り得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るバイナリー発電システムを模式的に示している。
【
図2】
図1に示す「膨張発電機」を模式的に示している。
【
図3】
図2に示す「メカニカルシール部」のシール機構の部分を模式的に示している。
【
図4】
図2に示す「タービン部」の静圧気体軸受の部分を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のバイナリー発電システムの一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1は、第一実施形態のバイナリー発電システムGを模式的に示したものである。
熱源流体HWの熱エネルギーにより低沸点作動媒体LMを蒸発させる蒸発器1と、蒸発器1において蒸発して高圧となった低沸点作動媒体LMガスによって回転駆動し発電する膨張発電機2と、膨張発電機2を出て低圧となった低沸点作動媒体LMガスを冷媒CWにより冷却し凝縮させる凝縮器3と、凝縮器3から蒸発器1に向かって低沸点作動媒体LMを循環させる低沸点作動媒体ポンプ4とを備えた、バイナリー発電システムGであり、低沸点作動媒体LMとして、石油系炭化水素や代替フロン・アンモニア等を用い、熱源流体HWの圧送を担う熱源流体ポンプ5と、冷媒CWの圧送を担う冷媒ポンプ6と、必要に応じ外気を利用して冷媒CWを冷却する冷却塔ファン7を備えている。
【0026】
図2は、第一実施形態のバイナリー発電システムGの膨張発電機2を模式的に示したものである。
膨張発電機2は、タービン部・メカニカルシール部・発電部で構成されており、内部に回転体として一体になった動翼11・ローター軸12・永久磁石13を収め、タービン部・メカニカルシール部・発電部が、ボルトで固定されることで一体化し、発電するためのモジュール(構成要素)として機能する。
【0027】
その原理は、蒸発器1において、熱源流体HWの熱エネルギーを受け、蒸気化して高圧となった低沸点作動媒体LMガスを、タービン部ケーシング14にある媒体ガス導入口16aより導入し、低沸点作動媒体LMガスが高圧から低圧へと開放する際の圧力エネルギーを、ローター軸12のタービン部に取付けた動翼11が受け、ローター軸12の回転運動エネルギーへと変換し、ローター軸12の発電部に取付けた永久磁石13が、発電部のステータコア17内部に磁界の変化を生じさせ、ステータコア17に巻かれたコイル18に起電力が生じ、発電する仕組みとなっている。
【0028】
本発明のバイナリー発電システムGの第一実施形態においては、高圧の低沸点作動媒体LMガスが持つ圧力エネルギーをローター軸12の回転運動エネルギーへと変換するタービン部と、ローター軸12の回転運動エネルギーを電気エネルギーへと変換する発電部との間に、メカニカルシール部を設けることで、タービン部内部空間は低沸点作動媒体LMガス雰囲気、発電部内部空間は空気雰囲気とに、分離することを可能としている。
【0029】
メカニカルシール部内部空間はオイル雰囲気であり、ローター軸12に固定されたシールリングライナー21に取付けたシールリング22と、シールフランジ20に取付けたインサート23との、わずかな隙間である摺動面に、オイルが入り込み、シール機能が発揮される。
また、オイルは、シールリングライナー21とシールリング22の回転運動によって生じる摩擦熱によって加熱され、気化や性能劣化の惧れがあるため、シールフランジ20に水冷ジャケットの構造を設け、冷却水を循環させることで、オイルを冷やし気化や性能劣化を防ぎ、シール機能を保っている。
なお、オイルは密閉封じ込めの状態であり、半年から一年の定期点検時に性状を確認し、適宜、必要に応じ、新しいオイルへの交換を行う。
【0030】
ローター軸12の発電部側は、発電部の発電部フランジ25と発電部ボトムフランジ27に、それぞれ取付けられたアンギュラ玉軸受29によって支持され、ローター軸12のスラスト方向・ラジアル方向の位置が固定される。
また、ローター軸12の発電部側の熱膨張による伸びが危惧されるため、発電部ボトムフランジ27へのアンギュラ玉軸受29bの取付け部分に、バネ30を用いたダンピング構造を設け、ローター軸12の発電部側の熱膨張による伸びを吸収させる。
【0031】
ローター軸12のタービン部側は、先端に動翼11が取付けられ、その動翼11は、蒸気化して高圧となった低沸点作動媒体LMガスの圧力のエネルギーを受ける力の掛かる部分であるが、メカニカルシール部がある構造上、動翼11と発電部フランジ25に取付けたアンギュラ玉軸受29aとの間には距離があるため、ローター軸12のタービン部側は、ラジアル方向に振動し、位置がブレる惧れがある。
【0032】
このラジアル方向への振動を防止するため、タービン部フランジ15に静圧気体軸受の構造を設け、この静圧気体軸受の気体絞りノズル31より流れ出る低沸点作動媒体LMガスの圧力により、ローター軸12の振動を軽微の状態に留め、ローター軸12のタービン部側のラジアル方向の位置を安定させる。
【0033】
静圧気体軸受の気体絞りノズル31より流れ出る低沸点作動媒体LMガスは、蒸発器1の出口側から膨張発電機2へと至る配管を分岐させた軸受用ガス配管8より供給を受けるが、最低限必要な流量のみを静圧気体軸受としての機能を果たすために用いる。
また、ローター軸12のタービン部側も熱膨張による伸びによる動翼11とタービン部ケーシング14との接触が危惧されるが、動翼11とタービン部ケーシング14との隙間を、ローター軸12のタービン部側の熱膨張による伸びを十分に考慮した設計値とすることで、動翼11とタービン部ケーシング14との接触を回避することができる。
【0034】
これら機構により、ローター軸12を安定した状態で回転運動させることができ、膨張発電機2の劣化や故障の危険を減少させるとともに、熱から電力へのエネルギー変換効率の向上にも寄与することができる。
【0035】
図3は、
図2中のメカニカルシール部のシール機構の部分を取り出し、模式的に示したものである。
膨張発電機2のメカニカルシール部は、タービン部と発電部との間に設けられ、タービン部と発電部の内部雰囲気を隔てている。
これにより、メカニカルシール部は、バイナリー発電システムG内部に低沸点作動媒体LMを封じ込め、大気中へ逃がさない役割も担っている。
【0036】
ローター軸12の回転運動を支持するアンギュラ玉軸受29の潤滑には、有機化合物である潤滑油やグリスが用いられており、同じ有機化合物である低沸点作動媒体LM雰囲気では、溶け出し、洗い流されやすいといった問題があるが、メカニカルシール部を設けることにより、アンギュラ玉軸受29のある発電部を空気雰囲気とすることでき、解決ができる。
【0037】
メカニカルシール部の内部空間には、オイルが封じ込めてあり、ローター軸12に固定されたシールリングライナー21に取付けたシールリング22と、シールフランジ20に取付けたインサート23とのわずかな隙間である摺動面に、オイルが入り込み、シール機能が発揮される。
【0038】
シールリング22とインサート23との隙間が開き過ぎないよう、インサート23は、バネ40の力でシールリング22側へ押される機構となっており、膨張発電機2を構成する各部品の熱膨張や振動の影響による、シール機能の低下を防いでいる。
【0039】
ただし、メカニカルシール部のシール機構は、軸受のようにローター軸12を支持する役割を担っておらず、また、膨張発電機2のタービン部と発電部の間にメカニカルシール部がある構造上、動翼11と発電部フランジ25に取付けたアンギュラ玉軸受29aとの間に距離が生じ、ローター軸12のタービン部側は、ラジアル方向に振動し、位置がブレる惧れがある。
そこで、このラジアル方向への振動を防止するため、タービン部フランジ15に静圧気体軸受の構造を設ける。
【0040】
図4は、
図2中のタービン部の静圧気体軸受の部分を取り出し、模式的に示したものである。
タービン部フランジ15に、静圧気体軸受の主要部品である気体絞りノズル31を取付けてあり、この気体絞りノズル31へと、高圧の低沸点作動媒体LMガスが導入されると、気孔32を通過してローター軸12の円周上に設けられた溝である表面絞り空間33に、静的なガス圧が生じ、ローター軸12を回転軸中心へと押す力が働き、ローター軸12のラジアル方向の位置を安定させることができる。
【0041】
気体絞りノズル31へと供給される高圧の低沸点作動媒体LMガスは、蒸発器の出口側から膨張発電機へと至る配管を分岐させた軸受用ガス配管8より得るが、静圧気体軸受では、高圧の低沸点作動媒体LMガスは、ゆっくり流れるため、発電のために膨張発電機2へと供される量と比べると、軸受機能のために消費される量は少ない。
【0042】
図5は、
図2中のA-A線の断面矢視図である。
気体絞りノズル31外側も円周上に溝を設け、そこから4つの気孔32を通じて、ローター軸12の円周上に設けた表面絞り空間33へ、高圧の低沸点作動媒体LMガスを導入している。
このような機構とすることで、ローター軸12を円周上から均一に、回転軸中心へ押す力を働かせて、ローター軸のラジアル方向の位置を安定させることができる。
【0043】
以上、一実施形態を例に挙げ、バイナリー発電システムにおける、軸受への潤滑油およびグリスの補給機構を簡素化あるいは不要とした、本発明について説明したが、本発明のローター軸を支持する転がり軸受は、上記一実施形態に限定されることはなく、それぞれ単数でなくとも、複数を連結したものでもよい。
また、本発明のガス軸受は、上記一実施形態に限定されることはなく、単段でなくとも、複数段で構成されたものでもよい。
【0044】
バイナリー発電システムにおいて、核となる駆動モジュール(構成要素)である膨張発電機のローター軸を支持する軸受への潤滑油およびグリスの補給機構は、システムを継続的に安定的に稼働させるに当たって、重要な要素である。
本発明により、そのような頻繁に潤滑油およびグリスの補給が必要な軸受を空気雰囲気下に設けることを可能としたことで、軸受への潤滑油およびグリスの補給機構を、一般的なモーター等と同様程度に簡素化することができ、あるいはグリス封入式の軸受を適用することで不要とすることもできる。
バイナリー発電システムの継続的な安定的な稼働への信頼性の向上は、総じて、バイナリー発電システムを適用する用途の幅を広げ、バイナリー発電システムの普及・発展を促進し、地球温暖化問題の解決への一助と成り得る。
【符号の説明】
【0045】
1 蒸発器
2 膨張発電機
3 凝縮器
4 低沸点作動媒体ポンプ
5 熱源流体ポンプ
6 冷媒ポンプ
7 冷却塔ファン
8 軸受用ガス配管
11 動翼
12 ローター軸
13 永久磁石
14 タービン部ケーシング
15 タービン部フランジ
16a媒体ガス導入口
16b媒体ガス吐出口
17 ステータコア
18 コイル
19 電力出力コネクター
20a,b,cシールフランジ
21 シールリングライナー
22 シールリング
23 インサート
24a冷却水入口
24b冷却水出口
25 発電部フランジ
26 発電部ケーシング
27 発電部ボトムフランジ
28 発電部ボトムケーシング
29a,bアンギュラ玉軸受
30 バネ
31 気体絞りノズル
32 気孔
33 表面絞り空間
34a,b軸受用媒体ガス導入口
40 バネ
G バイナリー発電システム
HW 熱源流体
LM 低沸点作動媒体
CW 冷媒
M 冷却塔ファン駆動モーター