(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ヨウ化物イオンの分離方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20250109BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20250109BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20250109BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/44
C02F1/44 D
(21)【出願番号】P 2021104314
(22)【出願日】2021-06-23
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591236437
【氏名又は名称】株式会社 東邦アーステック
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】塚越 徹
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094525(JP,A)
【文献】特開2021-079318(JP,A)
【文献】特開2008-272602(JP,A)
【文献】特開2006-240961(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0207083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44-1/48
C01B7/13-7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室に続けて、
nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第1原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第2原料室、・・・陰イオン交換膜である第nの陰イオン交換膜、第n原料室の(n+1)膜(n+1)室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記正極室及び前記負極室以外のすべての前記室に前記原料液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記製品室を通過させた前記原料液を製品液として取得する、ことを特徴とするヨウ化物イオンの分離方法。
【請求項2】
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室に続けて、
陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室の4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記濃縮室には濃縮液を循環で通過させ、前記第一中間室には前記原料液もしくは前記原料液に対して請求項1記載の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記第二中間室には前記第一中間室をワンパスもしくは循環で通過させた液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記脱塩室には前記第二中間室をワンパスもしくは循環で通過させた液をワンパスもしくは循環で通過させる、ことを特徴とするヨウ化物イオンの分離方法。
【請求項3】
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極の間に、前記正極側から、正極室に続けて、
nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室兼製品室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室兼第1原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、第2原料室・・・
陰イオン交換膜である第(n+1)の陰イオン交換膜、第n原料室の(n+3)膜(n+3)室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記第一中間室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して請求項1記載の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記濃縮室には、濃縮液を循環で通過させ、
前記第二中間室兼製品室には、前記第一中間室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記脱塩室兼第1原料室には、前記第二中間室兼製品室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記第2原料室・・・前記第n原料室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して請求項1記載の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記濃縮室を循環で通過させた液の増加分を前記濃縮液として取得する、ことを特徴とするヨウ化物イオンの分離方法。
【請求項4】
前記原料液が、水溶性天然ガス付随かん水である、請求項1ないし3記載のヨウ化物イオンの分離方法。
【請求項5】
前記電気透析槽に用いる前記陽イオン交換膜のすべてが一価陽イオン選択交換膜であり、前記原料液が硫酸イオンを含む場合には、前記電気透析槽に用いる前記陰イオン交換膜が一価陰イオン選択透過膜である、請求項1ないし4記載のヨウ化物イオンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化物イオンを含む水溶液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスには、大別して構造性ガスと水溶性ガスとがある。そのうち、水溶性の天然ガスは、地下の帯水層に埋蔵された地下かん水中に溶存している。地下に埋設された揚水井により地表に汲み上げ、水溶性天然ガスを気化させた後に残る地下かん水である天然ガス付随かん水は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の海水塩と同様の食塩成分の他に、ヨウ化物塩を相当な濃度で含有する場合がある。
【0003】
このような天然ガス付随かん水からのヨウ素分離取得方法は、工業的に成立している。令和3年段階では、例えば、ブローイングアウト法(例えば、特許文献1)及びイオン交換樹脂法(例えば、特許文献2)等が行われている。このうち、ブローイングアウト法は、地下かん水に塩素水、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム溶液等の酸化剤を加えて遊離ヨウ素(I2)を生成させ、生成した遊離ヨウ素を気流中に抽出し取得する方法である。また、イオン交換樹脂法は、地下かん水に塩素水、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム溶液等の酸化剤を加えて地下かん水中に存在するヨウ化物イオンを部分的に酸化し、三ヨウ化物イオン(I3
-)を生成させ、生成した三ヨウ化物イオンを陰イオン交換樹脂上に吸着させ取得する方法である。
【0004】
いずれの方法も優れた方法ではあるが、地下かん水中に酸化剤を投入するため、様々な問題を生じている。以下に、地下かん水に酸化剤を投入することで生じる問題を挙げる。
【0005】
(1)地下かん水中に存在する鉄、マンガン等の遷移金属イオンが酸化されて不溶性金属酸化物を生じる。不溶性金属酸化物は、しばしば流路を閉塞させる。そのため、これらの不溶性金属酸化物を除去するために、酸化剤の投入前の前処理として造水設備が必要となる。この造水設備は、しばしばヨウ素取得設備よりも巨大で、複雑であり、メンテナンスも容易ではない。
【0006】
(2)巨大な造水設備で鉄イオンを取り除いても、わずかに残るマンガンイオン等が、酸化剤の投入時に不溶性の金属酸化物になり、ブローイングアウト法の放散設備、イオン交換樹脂法の吸着設備等で沈殿及び堆積し、最悪の場合、流路の閉塞に至る。そのため、沈殿物を取り除くための定期的なメンテナンスを必要とする。
【0007】
(3)ヨウ素取得後の地下かん水である排かん水は、温度も高く、海水に近い清浄な塩水であるが、残留塩素等の酸化性物質が比較的多く存在するため、養殖や培養等の生物的な三次利用が難しい。
【0008】
(4)地盤沈下防止のため、排かん水を地下のかん水帯水層に還元圧入する場合(例えば、特許文献3)、残留酸化剤とかん水帯水層中にある二価鉄イオン等とが反応して沈殿物を生じるため、還元圧入を困難にしている。
【0009】
以上の理由から、地下かん水に直接酸化剤を投入しないヨウ素取得方法の開発が望まれた。
【0010】
また、ブローイングアウト法においては、ヨウ化物イオンを遊離ヨウ素(I2)にしてから分離するが、遊離ヨウ素は、ヨウ化物イオン⇔遊離ヨウ素⇔ヨウ素酸イオン(IO3-)の化学平衡の中央に位置するため、全量が遊離ヨウ素になることはない。
【0011】
そのため、ブローイングアウト法では、5mg/L以上のヨウ素のロスを生じる。また、地下かん水中に在る有機物の存在のため、結合ヨウ素あるいは有機態ヨウ素と呼ばれる不明分が5mg/L以上生成する。これらの結果、地下かん水中のヨウ素濃度にかかわらず、10mg/L以上のヨウ素をロスする。
【0012】
さらに、地下かん水中に含まれるヨウ素濃度は稀薄なため、投入する酸化剤の多くの割合が、ヨウ化物イオンの酸化ではなく、地下かん水の酸化還元電位を上げるために消費される。pH調整用に投入される酸も、地下かん水体積に対応して投入されるため、ヨウ素比に換算して非常に高くなる。
【0013】
このため、地下かん水中に含まれるヨウ化物イオン濃度が100mg/Lを超えるときは、経済性に優れているが、50mg/L以下になると難しく、30mg/L以下では、経済的に成り立たないとされる。
【0014】
イオン交換樹脂法においては、三ヨウ化物イオンと塩化物イオンとの吸着平衡により、10mg/L以上のロスを生じ、不明分として5mg/Lのロスを生じる。このため、やはりヨウ化物イオン濃度が50mg/L以下では難しく、30mg/L以下では成り立たないとされる。
【0015】
以上の理由から、ヨウ素をさらに経済的に濃縮できる方法の開発が望まれた。
ヨウ素を濃縮する方法として、電気透析法にて地下かん水からヨウ素濃縮液を取得する方法が提案されている。電気透析法によれば、有機物を実質的に含まない濃縮液を得ることができる。陽イオン交換膜として、一価陽イオン選択性のある一価陽イオン選択透過膜を使用することで、鉄、マンガンを実質的に含まない濃縮液を得ることができる。
【0016】
しかしながら、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とを交互に配置し、脱塩室と濃縮室とを交互に配置した二室電気透析装置(例えば、特許文献4)では、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができなかった。これは、濃縮室のヨウ化物イオン濃度が上昇すると、濃度差を動力とする、陰イオン交換膜を介しての濃縮室から脱塩室への電気的な移動とは逆方向の移動速度が上昇することと、陽イオン交換膜をすり抜けて濃縮室から脱塩室に移動するヨウ化物イオンの移動速度が上昇するためである。
【0017】
すなわち、二室電気透析装置を用いてヨウ化物イオンを分離する場合、収率を優先した場合には、濃縮室のヨウ化物イオン濃度を十分に上げることができず、一方、濃縮倍率を優先した場合には、収率を落とすしかなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特公昭28-006615号公報
【文献】特開昭48-018187号公報
【文献】特開昭50-129405号公報
【文献】特開2005-58896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、ヨウ化物イオンを含む水溶液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法において、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができ、経済的にも優れたヨウ化物イオンの分離方法を提供することにある。また天然ガス付随かん水からヨウ素を分離するに際し、天然ガス付随かん水に酸化剤を投入しない方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の第1の態様のヨウ化物イオンの分離方法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室に続けて、
nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第1原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第2原料室、・・・陰イオン交換膜である第nの陰イオン交換膜、第n原料室の(n+1)膜(n+1)室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記正極室及び前記負極室以外のすべての前記室に前記原料液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記製品室を通過させた前記原料液を製品液として取得する、方法である。
【0021】
本発明の第2の態様は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室に続けて、
陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室の4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記濃縮室には濃縮液を循環で通過させ、前記第一中間室には前記原料液もしくは前記原料液に対して前記第1の態様の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記第二中間室には前記第一中間室をワンパスもしくは循環で通過させた液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記脱塩室には前記第二中間室をワンパスもしくは循環で通過させた液をワンパスもしくは循環で通過させる、方法である。
【0022】
本発明の第3の態様は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極の間に、前記正極側から、正極室に続けて、
nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室兼製品室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室兼第1原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、第2原料室・・・陰イオン交換膜である第(n+1)の陰イオン交換膜、第n原料室の(n+3)膜(n+3)室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記第一中間室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して前記第1の態様の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記濃縮室には、濃縮液を循環で通過させ、
前記第二中間室兼製品室には、前記第一中間室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記脱塩室兼第1原料室には、前記第二中間室兼製品室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記第2原料室・・・前記第n原料室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して前記第1の態様の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記濃縮室を循環で通過させた液の増加分を前記濃縮液として取得する、方法である。
【0023】
本発明のヨウ化物イオンの分離方法では、特に、前記原料液が、水溶性天然ガス付随かん水である、ことが好ましい。
【0024】
また、本発明のヨウ化物イオンの分離方法では、前記電気透析槽に用いる前記陽イオン交換膜のすべてが一価陽イオン選択交換膜であり、前記原料液が硫酸イオンを含む場合には、前記電気透析槽に用いる前記陰イオン交換膜が一価陰イオン選択透過膜である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ヨウ化物イオンを含む水溶液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法において、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができ、経済的にも優れたヨウ化物イオンの分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態のヨウ化物イオンの分離方法で用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態のヨウ化物イオンの分離方法で用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の全体の流路の例を示した模式図である。
【
図4】
図4は、実施例1の陽複陰法での各室のヨウ化物イオン濃度の時間変化を示したグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2の陽陽陰陰法での各室のヨウ化物イオン濃度の時間変化を示したグラフであり、
図5(A)は、第一中間室、第二中間室及び脱塩室について示したグラフであり、
図5(B)は、濃縮室について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態のヨウ化物イオンの分離方法で用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
図2は、本発明の第2実施形態のヨウ化物イオンの分離方法で用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
図3は、本発明の実施形態の全体の流路の例を示した模式図である。
【0028】
本発明の第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、正極2と負極3との間に、正極側から、正極室10に続けて、nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜4c、製品室11、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜5a、第1原料室12、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜6a、第2原料室13、・・・陰イオン交換膜である第nの陰イオン交換膜、第n原料室の(n+1)膜(n+1)室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜8c、負極室15を配置した電気透析槽である第1の電気透析槽1を用い、正極室10及び負極室15以外のすべての室に原料液21をワンパスもしくは循環で通過させ、製品室11を通過させた原料液21を製品液22として取得することを特徴とする。
図2においては、n=3の例を示す。
【0029】
なお、本明細書において、第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法を、以下、「陽複陰法」と記す。
【0030】
陽複陰法では、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21を濃縮して、体積を減らした製品液22を製造することができる。具体的には、陽複陰法では、一組の膜室組中にn室の原料室を備えた場合、原料液21を(n+1)分の1に減容した製品液22とすることができる。
【0031】
なお、本明細書において、「減容」とは、希薄で多量の原料液を濃縮することにより、容積を減らすことを意味する。
【0032】
陽複陰法で得られる製品液22に対して、ブローイングアウト法やイオン交換樹脂法を適用して、ヨウ素を好適に取得することができる。特に、製品液22中のヨウ化物イオン濃度が高くなることで、収率を向上することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、二室電気透析装置を用いた二室電気透析法に比べて、電気透析槽のサイズ及び使用電力を少なくすることができる。例えば、第1の電気透析槽1において原料室数(n)を3室とした場合、同一量の原料液21を処理する時に必要な電気透析槽のサイズ及び使用電力は、二室電気透析法に比べておよそ2分の1になる。また、原料液21をおよそ4分の1に減容した製品液22が得られる。
【0034】
したがって、本実施形態によれば、原料液中のヨウ化物イオン濃度が低い場合でも収率を十分に高いレベルにすることができ、経済的にも優れたヨウ化物イオンの分離方法を提供することができる。
【0035】
また、本発明の第2実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、正極32と負極33との間に、正極側から、正極室40に続けて、第1の陽イオン交換膜35c、第一中間室42、第2の陽イオン交換膜36c、濃縮室43、第1の陰イオン交換膜37a、第二中間室44、第2の陰イオン交換膜38a、脱塩室45の4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて、陽イオン交換膜39c、負極室46、を配置した電気透析槽である第2の電気透析槽31を用い、濃縮室43には濃縮液49を循環で通過させ、第一中間室42には前記原料液そのものもしくは前記原料液に対して第1実施形態に係る方法を施すことにより得られた製品液22をワンパスもしくは循環で通過させ、第二中間室44には第一中間室42をワンパスもしくは循環で通過させた処理液48をワンパスもしくは循環で通過させ、脱塩室45には第二中間室44をワンパスもしくは循環で通過させた処理液50をワンパスもしくは循環で通過させることを特徴とする。
【0036】
本実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法では、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができ、経済的にも優れたヨウ化物イオンの分離方法を提供することができる。
【0037】
なお、本明細書において、本発明の第2実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法を、以下、「陽陽陰陰法」と記す。
【0038】
陽陽陰陰法では、遷移金属イオンや有機物を実質的に含まない濃縮液49を製造することができる。
【0039】
第一中間室42に通過させる室液としては、上述した第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法(陽複陰法)で得られた製品液22、又は、原料液21を用いることができるが、図示の構成では製品液22を用いている。
【0040】
第一中間室42に通過させる室液として原料液21を用いることで、陽複陰法で生じるロスをなくすことができ、収率をより高くすることができる。特に、ヨウ素の濃縮倍率と収率とをさらに高いレベルで両立させることができる点で有利である。
【0041】
一方、第一中間室42に通過させる室液として陽複陰法で得られた製品液22を用いること、言い換えると、陽陽陰陰法の前段にて、陽複陰法を用いて、原料液21を予め減容しておくことで、第一中間室42に通過させる室液として原料液21を用いる場合に比べて、第2の電気透析槽31のサイズ及び使用電力量を大幅に小さくすることができる。減容していない原料液を直接用いた場合には、陽陽陰陰法の第2の電気透析槽31の電気透析槽サイズ、および電力は、二室電気透析法で用いる電気透析槽サイズ、電力のおよそ2倍となる。
【0042】
例えば、第1の電気透析槽1において原料室数(n)を3室とした場合、陽複陰法によって、原料液21をおよそ4分の1に減容した製品液22が得られる。この4分の1に減容された製品液22を用いて、陽陽陰陰法で電気透析を行うことで、第2の電気透析槽31のサイズ及び使用電力を、原料液21を減容しない場合に比べておよそ4分の1(二室電気透析法の2分の1)にすることができる。
【0043】
原料室数(n)を3室としたとき、第1の電気透析槽1の電気透析槽サイズおよび電力は二室電気透析法の2分の1なので、第1の電気透析槽1と第2の電気透析槽31とを合計しても、二室電気透析法の電気透析槽の1基分のサイズ及び使用電力に収まる。すなわち、陽複陰法と陽陽陰陰法とを組み合わせることで、原料液21を直接、陽陽陰陰法の1段で処理する場合に比べて、およそ2分の1の電気透析槽サイズ、使用電力とすることができる。
【0044】
また、陽複陰法によって得られた製品液22中には、原料液21中に含まれていた多価金属イオンや有機物がそのまま残るが、本実施形態では陽陽陰陰法を採用することにより、遷移金属イオンや有機物を実質的に含まない濃縮液49を製造することができる。
【0045】
また、陽複陰法で予め減容された製品液22を用いることで、収率と濃縮倍率とをより高いレベルで両立することができ、経済的にもより優れたものとなる。
【0046】
本実施形態では、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21としては、例えば、水溶性天然ガス付随かん水を用いることができる。
【0047】
本実施形態により天然ガス付随かん水よりヨウ化物イオンを分離濃縮した場合、遷移金属イオンや、有機物を含まない高濃度のヨウ化物イオン濃縮液を高収率で得ることができる。そのため、次に、例えばブローイングアウト法などの方法でヨウ素を分離取得する場合、設備サイズの減容や、薬品使用量、電力等のすべてが少なく済み、ヨウ素濃度がかん水に比べ著しく高いため収率も高くなる。得られるヨウ化物イオン濃縮液には、有機物が含まれていないため、有機態ヨウ素の生成もなく、さらに収率が上がる。また、得られる濃縮液は遷移金属イオンを含まないため、設備が遷移金属酸化物の沈殿によって汚染されることもない。
【0048】
特に、天然ガス付随かん水中に酸化剤を投入しない方法で、天然ガス付随かん水からヨウ素を効率よく分離濃縮することができるのでヨウ化物イオン分離後に排出される透析排水61には、残留塩素などの酸化物が含まれていない。地下還元を容易に行え、さらには温和な塩水として、培養や養殖といった生物的三次利用も容易に行えるようになる。
【0049】
なお、本明細書において、「効率がよい」とは、ヨウ素回収率が高く、ヨウ素濃縮倍率が高いことを意味するものとする。
【0050】
以下の説明では、ヨウ化物イオンの分離方法において、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液として、水溶性天然ガス付随かん水を用い、電気透析槽を用いてヨウ化物イオンを含む水溶液を電気透析する場合、特に、互いに接続された第1の電気透析槽1及び第2の電気透析槽31を用いて、水溶性天然ガス付随かん水を電気透析する場合について中心的に説明するが、かん水以外のヨウ化物イオンを含む水溶液の使用や、第1の電気透析槽1又は第2の電気透析槽31を単独で用いての電気透析を排除するものではない。
【0051】
[1]全体の構成について
以下、
図3を用いて、陽複陰法と陽陽陰陰法とを組み合わせた電気透析法について説明する。また、以下に陽複陰法として原料室数が3の電気透析槽を用いた場合を例として説明する。
【0052】
図3は、本実施形態の全体の流路の例を示した模式図である。
図3では、直列に連結された2つの電気透析槽、すなわち、第1の電気透析槽1及び第2の電気透析槽31を備える電気透析装置を示している。
【0053】
各電気透析槽に通電し、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21を、前段の第1の電気透析槽1の製品室11及び第1原料室12~第3原料室14に通液する。第1の電気透析槽1の製品室11から得られた製品液22を、後段の第2の電気透析槽31の第一中間室42に通液する。第1の電気透析槽1の第1原料室12~第3原料室14を通過した処理液23は、ヨウ素取得後の透析排水61とされる。
【0054】
第2の電気透析槽31の第一中間室42に通液された製品液22は、第一中間室42、第二中間室44、脱塩室41、45に順に通液される。第2の電気透析槽31の濃縮室43から得られる濃縮液49は、運転中、体積が増加してくる。この増加分を取得濃縮液62とするとともに、その残りの濃縮液49を第2の電気透析槽31の濃縮室43に循環させる。第2の電気透析槽31の脱塩室41、45を通過した処理液51は、ヨウ素取得後の透析排水61とされる。
【0055】
[2]水溶性天然ガス付随かん水について
本実施形態では、ヨウ化物イオンを含む水溶液として、例えば、ヨウ化物イオンを含有するかん水を、原料液として使用する。具体的には、例えば、水溶性天然ガス付随かん水、言い換えると、地中の地下かん水帯水層から汲み上げたかん水から水溶性天然ガスを採取した後に残る、地下由来のかん水を使用することができる。さらに、本実施形態では、複数の坑井から随時集めた混合かん水等、ヨウ化物イオン濃度、被酸化物濃度、pHの値に変動がある地下かん水も使用することができる。
【0056】
使用される地下かん水のヨウ化物イオン含有量は、特に限定されないが、10mg/L以上であることが好ましく、20mg/L以上であることがより好ましい。直接かん水に酸化剤を加える従来法に比べ、ヨウ化物イオン含有量が80mg/L以下、特に50mg/L以下のヨウ化物イオン濃度の低いかん水に対して、本発明の有利性が顕著に現れる。本発明は、これまで経済的に利用できなかった、ヨウ化物イオン含有量30mg/L以下のかん水の使用も可能にする。
【0057】
[3]前処理について
地下かん水に対しては、後に詳述するような電気透析処理を施す前に、例えば、電気透析槽における流路の目詰まりの発生を防止するための、地下かん水中の不溶物や微生物等の夾雑物を除去する前処理を施すことが好ましい。前処理は、例えば、凝集沈殿工程、砂濾過工程、多孔濾過膜工程等を単独で又は組み合わせて行うことができる。
【0058】
濾過材としては、例えば、砂、石炭、活性炭、無機酸化物もしくは樹脂等の粒子、又は、精密濾過膜もしくは限外濾過膜等の多孔濾過膜を用いることができる。多孔濾過膜の平均孔径は、特に限定されないが、除去性能と透過水量とのバランスから、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0059】
本実施形態において、地下の帯水層から汲み上げた地下かん水は、空気に触れさせずに非酸化性状態にて扱うことが好ましい。そのためには、地下由来のかん水を、酸化性を有しない雰囲気下、例えば、窒素ガス雰囲気下等で、光を当てることなく取り扱うこと、及び、酸化性を有する物質を加えないことにより、非酸化性状態で扱うことが好ましい。なお、天然ガス分離後のかん水中には、天然ガスが残留していることがあり、液槽のヘッドスペースなどに爆発限界を超えて蓄積することもあるので注意されたい。非酸化性状態の地下かん水は、酸化性を有しないかん水であり、白金電極電位で0mV以下、好ましくは0~-50mVの酸化還元電位を有する。地下かん水を非酸化性状態にて扱う場合は、地下かん水に含有される鉄イオン等の遷移金属成分が酸化されないため、装置や配管における不溶性酸化物の析出を防止することができる。
【0060】
また、前処理として、上述した方法以外にも、例えば、予め、地下かん水を曝気し、遷移金属酸化物を析出させ、該遷移金属酸化物を濾過等により取り除く方法を用いることもできる。
【0061】
[4]第1実施形態
以下、
図1を用いて、第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法として陽複陰法による電気透析について詳細に説明する。
【0062】
図1は、第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法(陽複陰法)で用いる第1の電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【0063】
[4-1]第1の電気透析槽について
第1の電気透析槽1は、正極2と負極3との間に、正極側から、正極室10に続けて、陽イオン交換膜4c、製品室11、第1の陰イオン交換膜5a、第1原料室12、第2の陰イオン交換膜6a、第2原料室13、・・・第nの陰イオン交換膜、第n原料室の(n+1)膜(n+1)室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜8c、負極室15を配置している(ただし、nは2以上の整数。)。
【0064】
図1に示す例では、原料室数(n)が3室の場合を示している。すなわち、陽イオン交換膜4c、製品室11、第1の陰イオン交換膜5a、第1原料室12、第2の陰イオン交換膜6a、第2原料室13、第3の陰イオン交換膜7a、第3原料室14の4膜4室を一組の膜室組としている。
【0065】
第1の電気透析槽1では、両側に一対の電極が配置され、これら一対の電極のうちの一方が正極2(陽極)とされ、他方が負極3(陰極)とされる。
【0066】
正極2を構成する材料としては、例えば、白金(Pt)、カーボン(C)、ニッケル(Ni)や、チタン(Ti)/白金、ルテニウム(Ru)/チタン、イリジウム(Ir)/チタン、チタン/パラジウム(Pd)等の複合材料(例えば、合金、メッキ等)等が挙げられる。
【0067】
負極3を構成する材料としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル、白金、チタン/白金、カーボン、ステンレス鋼としてのクロム(Cr)鋼等が挙げられる。
【0068】
そして、これら正極2、負極3は、例えば、細長矩形平板状であるノベ板状やメッシュ状、格子状等の形状に形成されている。
【0069】
第1の電気透析槽1は、図示しない切欠部を有する平面視で矩形状の枠体としての室枠を備えている。
【0070】
この室枠の長手方向に沿った両端部の内側に正極2、負極3が取り付けられ、この第1の電気透析槽1の正極2の負極側に配置された陽イオン交換膜4cによって正極側の電極室(正極室10)が構成され、負極3の正極側に配置された陽イオン交換膜8cによって負極側の電極室(負極室15)が構成される。
【0071】
これら正極室10と負極室15との間には、正極側から負極側へ向かって、陽イオン交換膜4c、第1の陰イオン交換膜5a、第2の陰イオン交換膜6a、第3の陰イオン交換膜7a、陽イオン交換膜8cが順次配置されている。そして、これらイオン交換膜によって、正極室10から負極室15へ向かって、製品室11、第1原料室12、第2原料室13、第3原料室14に仕切られている。
【0072】
言い換えると、陽イオン交換膜4cと第1の陰イオン交換膜5aとで仕切られた室枠内が製品室11となる。第1の陰イオン交換膜5aと第2の陰イオン交換膜6aとで仕切られた室枠内が第1原料室12となる。第2の陰イオン交換膜6aと第3の陰イオン交換膜7aとで仕切られた室枠内が第2原料室13となる。第3の陰イオン交換膜7aと陽イオン交換膜8cとで仕切られた室枠内が第3原料室14となる。
【0073】
そして、陽イオン交換膜4cから第n原料室までの(n+1)膜(n+1)室、図に示す構成の第1の電気透析槽1ではn=3であるので、陽イオン交換膜4cから第3原料室14までの4膜4室、言い換えると、陽イオン交換膜4c、製品室11、第1の陰イオン交換膜5a、第1原料室12、第2の陰イオン交換膜6a、第2原料室13、第3の陰イオン交換膜7a及び第3原料室14の4膜4室を一組とする膜室組が、複数繰り返し配置される。前記膜室組の繰り返し回数(m)は、特に限定されないが、例えば、数組から数百組程度、より具体的には、4組以上1800組以下であることが好ましい。
【0074】
各イオン交換膜は、張力を持たせるために、縦方向(
図1中上下方向)及び横方向(
図1中奥行方向)のそれぞれに沿って引っ張られて緊張された状態にて、両端が室枠の両側面に締め付け固定されている。
【0075】
なお、以下の説明では、陽イオン交換膜4c及び陽イオン交換膜8cを総称して「陽イオン交換膜」と記す場合がある。
【0076】
また、以下の説明では、第1の陰イオン交換膜5a、第2の陰イオン交換膜6a及び第3の陰イオン交換膜7aを総称して「陰イオン交換膜」と記す場合がある。
【0077】
また、以下の説明では、正極室10、製品室11、第1原料室12、第2原料室13、第3原料室14及び負極室15を総称して「液室」と記す場合がある。
【0078】
また、以下の説明では、第1原料室12、第2原料室13及び第3原料室14を総称して「原料室」と記す場合がある。
【0079】
各イオン交換膜にてそれぞれ仕切られた各液室における室枠の内面には、この室枠の内部に連通した図示しない液供給口及び液排出口が設けられている。また、室枠内には、この室枠内の厚みを均一にする配流作用を有する図示しないスペーサが設けられている。
【0080】
これら正極室10、製品室11、第1原料室12、第2原料室13、第3原料室14及び負極室15には、それぞれ目的に応じた室液が、所定濃度及び所定液量に調製され、それぞれ個別に、ワンパスもしくは循環で通過される。
【0081】
また、これら室液を供給させる図示しない外部タンクを設けて、これら室液を液室と外部タンクとの間でそれぞれを循環させてもよい。
【0082】
(陰イオン交換膜)
陰イオン交換膜としては、陰イオンの選択透過性を高めた膜を好適に用いることができる。
【0083】
原料液21、例えば、地下かん水に含まれる塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)等の陰イオンは、陰イオン交換膜を選択的に透過して原料室から製品室11に移動する。非電離性無機化合物及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、陰イオン交換膜を透過せずに原料室内に残存し、処理液23中に含まれて透析排水61として排出される。
【0084】
使用する原料液21、例えば、地下かん水が硫酸イオン(SO2-)を含む場合には、陰イオン交換膜として、一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を使用することが好ましい。
【0085】
一価陰イオン選択性の無い陰イオン交換膜を用いた場合、硫酸イオンは、陰イオン交換膜を透過して製品室11に移動して、製品室11の硫酸イオン濃度が高まることで難溶性の硫酸カルシウムが析出する可能性がある。
【0086】
一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を用いることで、上記のような問題の発生を好適に防止することができる。
【0087】
このような一価陰イオン選択透過膜としては、例えば、強酸性スチレン-ジビニルベンゼン系均一陰イオン交換膜等が用いられ、より具体的には、例えば、セレミオンASV-N膜(AGC株式会社製)、セレミオンAMV-N膜(AGC株式会社製)、ネオセプタACS膜(株式会社アストム製)等が挙げられる。
【0088】
(陽イオン交換膜)
陽イオン交換膜としては、一価陽イオンの選択性を高めた膜である一価陽イオン選択透過膜を好適に用いることができる。
陽イオン交換膜のすべてが、一価陽イオン選択透過膜であることが好ましい。
【0089】
陽イオン交換膜として一価陽イオン選択透過膜を用いることにより、かん水中に含まれる遷移金属イオンが濃縮されない製品液が得られる。一価陽イオン選択性の無い陽イオン交換膜を用いた場合、遷移金属イオンは製品液中に濃縮される。一価陽イオン選択透過膜を用いた場合には、製品液からヨウ素を取得する際に、遷移金属酸化物による沈殿が発生しない。また、カルシウムイオンや、マグネシウムイオンのような不溶性の炭酸塩や硫酸塩を作りやすい二価イオンが濃縮されないので不溶性塩析出による電気透析槽内やバルブ等での流路の閉塞が起きないという効果が得られる。
【0090】
一価陽イオン選択透過膜としては、例えば、強酸性スチレン-ジビニルベンゼン系均一陽イオン交換膜等が用いられ、より具体的には、例えば、セレミオンCSO膜(AGC株式会社製)、ネオセプタCIMS膜(株式会社アストム製)等が使用できる。
【0091】
[4-2]陽複陰法によるヨウ化物イオンの分離方法について
陽複陰法では、まず、第1の電気透析槽1の正極室10に正極液24を供給し、負極室15に負極液25を供給する。
【0092】
電極液(正極液24及び負極液25)には、例えば、硫酸ナトリウム水溶液等が用いられる。
なお、電極液は、正極室10と負極室15との間を循環で供給してもよい。
【0093】
そして、正極室10及び負極室15以外の全ての室、言い換えると、製品室11、第1原料室12、第2原料室13及び第3原料室14には、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21をワンパスもしくは循環で通過させる。
【0094】
なお、第1の電気透析槽1の運転中は、各液室内の温度を、使用するイオン交換膜の耐熱温度以下に保つ。
【0095】
そして、正極2(陽極)と負極3(陰極)との間に、イオン交換膜メーカー指定の最高使用電圧以下の直流電流を供給する。
【0096】
正極2と負極3との間に供給される電流の電圧は、特に限定されないが、例えば、原料液21の組成と目標組成、また、用いる第1の電気透析槽1のサイズ(流路長)、室厚さ、流速等を考慮して個々に判断し、技術的及び経済的に有利な電圧を設定する。電圧を上げるとヨウ化物イオンと塩化物イオンの移動速度が上昇するが、ヨウ化物イオンの選択率が下がる。脱塩室から塩化物イオンが無くなるとそれ以上電流が流れなくなり、電気透析は終了するので、電圧を上げると電気透析にかけられる時間も短くなる。収率を上げるためには、電圧を下げて透析時間を長くする方が有利ではあるが、拡散移動の影響を受ける第1原料室12に残るヨウ化物イオン量も増える。また、電気透析槽のサイズが大きくなる。電圧を好ましい値に設定することで、陰イオン交換膜での選択性の高いヨウ化物イオンの移動率をさらに高めることができる。
【0097】
なお、電気透析槽1の運転は、定電流運転であっても、定電圧運転であってもよい。
定電流運転であれば、室膜数の増減や一部の膜の変更があっても1膜あたりにかかる電圧がほぼ等しくなるので使用する透析膜の選定など予備試験等に好適に対応することができる。一方、定電圧運転であれば、原料液中のイオン濃度が低下した時には低電流に、濃度が上昇した時には、高電流になるので、濃度変化がある場合にも都合が良い。
【0098】
正極2と負極3との間に、電流を供給すると、それぞれの室液中に含まれる陰イオンは、正極側に電気的にひきつけられ、陽イオンは、負極側に電気的にひきつけられる。
【0099】
このとき、陰イオンは、陰イオン交換膜を透過して移動できるが、陽イオン交換膜を透過できない。同様に、陽イオンは、陽イオン交換膜を透過して移動できるが、陰イオン交換膜を透過できない。
【0100】
なお、
図1において、陰イオンに付した実線矢印は、陰イオン交換膜を介しての各陰イオンの移動を示す。
【0101】
透析運転開始時(ワンパス運転では電気透析槽入り口付近)には、第1原料室12~第n原料室のヨウ化物イオンは、実質的に同じ速度で正極側に向かって移動する。すなわち、第1原料室12~第(n-1)原料室では、正極側の室にヨウ化物イオンが移動するが、実質的に同じ速度で負極側の室からヨウ化物イオンが移動してくる。そのため、第1原料室12~第(n-1)原料室のヨウ化物イオンの濃度は、実質的に変化しない。
【0102】
第n原料室では、正極側の室、すなわち、(n-1)原料室にヨウ化物イオンが移動するが、負極側の室、すなわち、負極室15からはヨウ化物イオンが移動してこない。そのため、第n原料室のみ、ヨウ化物イオンの濃度は減少する。
【0103】
図1に示す構成の第1の電気透析槽1では、n=3であるので、第1原料室12及び第2原料室13のヨウ化物イオンの濃度は、実質的に変化しないが、第3原料室14のみ、ヨウ化物イオンの濃度は減少する。
【0104】
また、製品室11では、正極側の室、すなわち、正極室10にはヨウ化物イオンが移動しないが、負極側の室、すなわち、第1原料室12からヨウ化物イオンが移動してくる。そのため、製品室11のみ、ヨウ化物イオンの濃度は増加する。
【0105】
透析運転が進むと、第n原料室のヨウ化物イオン濃度が有意に低下するため、第n原料室から第(n-1)原料室へのヨウ化物イオンの移動速度が減少し、第(n-1)原料室のヨウ化物イオン濃度が低下する。
図1に示す構成の第1の電気透析槽1では、第2原料室13のヨウ化物イオン濃度が低下する。
【0106】
透析運転がさらに進むと、第1原料室12~第n原料室のすべての原料室で、ヨウ化物イオン濃度が低下する。第1原料室12においては、ヨウ化物イオン濃度が減少に至るのが最後であることと、製品室11のヨウ素濃度上昇の影響を受けるので、収率が若干低下する。
【0107】
なお、ワンパス運転の場合、製品室11のみ向流、言い換えると、製品室11に供給した原料液21の流方向と、第1原料室12~第n原料室に供給した原料液21の流方向とが、第1の陰イオン交換膜5aを挟んで向かいあう方向になるように通液することで、第1原料室12の収率を改善向上することができる。
【0108】
電気透析では、イオン交換膜上のイオン交換基に吸着されたイオンが移動する。イオン交換膜上での存在比は、溶液中の存在比と吸着力比を掛け合わせた比なので、イオン交換基に吸着されやすいイオン種の移動は速く、吸着されにくいイオン種の移動は遅い。ヨウ化物イオンは、塩化物イオンよりも強く吸着されるため、塩化物イオンよりも移動速度が速い。しかし、塩化物イオンの量がヨウ化物イオンよりも圧倒的に多量に含まれている場合には、ヨウ化物イオンの吸着が阻害されるため、ヨウ化物イオンの移動速度は低下する。
【0109】
一組の膜室組中の原料室数をnとした場合、陽複陰法では、ヨウ化物イオンの濃縮倍率は、最大で(n+1)倍となる。すなわち、原料室数n=3の場合、ヨウ化物イオンの濃縮倍率は、最大で4倍となる。一方、塩化物イオンの濃縮倍率は、最大で2倍となる。ゆえに、2≦nであれば、製品液22のヨウ素:塩素比が、原料液21よりも上昇するため、次段で再度、電気透析法を用いて濃縮を行う場合に好適である。
【0110】
また、原料室数nをいくつにするかは、原料液21、例えば、地下かん水の性状によるが、原料室を多くすると、例えば、次段で陽陽陰陰法によりさらに電気透析を行う場合、第2の電気透析槽31のサイズ及び電力量を少なくすることができるが、陽複陰法による電気透析時間が延びる(ワンパス運転であれば、処理速度が落ちる)ため、第1の電気透析槽1のサイズを大きくする必要がある。また、透析終了時の第1原料室12と製品室11との濃度差が大きくなるため、第1原料室12に残るヨウ化物イオンの量が増えることから、収率が低下する。
【0111】
したがって、原料室数nをいくつにするかは、地下かん水の性状、コスト、及び収率から最も合理的な室数を選択することができる。
【0112】
一組中の原料室数(n)は、
図1中では3室であるが、2室以上であればよく、2室以上5室以下であることが好ましく、2室以上4室以下であることがより好ましい。
【0113】
これにより、第1の電気透析槽1のサイズ及び電力量を好適に抑えつつ、製品液22における濃縮倍率と収率とをより高いレベルで両立させることができる。
【0114】
そして、製品室11を通過させた原料液21を製品液22として取得する。この製品液22は、原料液21を濃縮して容積を減らしたものである。
【0115】
製品液22に対して、ブローイングアウト法やイオン交換樹脂法を適用することにより、ヨウ素を取得することができる。特に、製品液22中のヨウ化物イオン濃度が高くなることで、収率を向上することができる。また、ブローイングアウト法やイオン交換樹脂法の設備もサイズダウンすることができ、経済的にも有利である。
【0116】
第1の電気透析槽1で得られた製品液22を、後段の第2の電気透析槽31に供給し、陽陽陰陰法により電気透析することで、製品液22に含まれる有機物や、多価金属イオンを好適に除去することができる。
【0117】
なお、製品液22は、空気と接触すると水酸化第2鉄などの不溶物を生じるので、第2の電気透析槽31に供給する前に、空気と遮断するか、予め、製品液22を曝気し、遷移金属酸化物を析出させ、該遷移金属酸化物を濾過により取り除いておくことが好ましい。
【0118】
[5]第2実施形態
以下、
図2を用いて第2実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法として、陽陽陰陰法による電気透析について詳細に説明する。
図2は、第2実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法(陽陽陰陰法)で用いる第2の電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【0119】
なお、以下の第2実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法についての説明では、上述した第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0120】
[5-1]第2の電気透析槽について
第2の電気透析槽31は、正極から負極側に向かって、正極32、正極室40に続けて、第1の陽イオン交換膜35c、第一中間室42、第2の陽イオン交換膜36c、濃縮室43、第1の陰イオン交換膜37a、第二中間室44、第2の陰イオン交換膜38a、脱塩室45の4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜39c、負極室46を配置している。
【0121】
図2に示す構成の第2の電気透析槽31では、正極室40と第1の陽イオン交換膜35cとの間に、正極側から、陽イオン交換膜34c及び脱塩室41がさらに配置されている。
【0122】
第2の電気透析槽31において、脱塩室41との間に、第1の陽イオン交換膜35c及び第2の陽イオン交換膜36cで両側を仕切った第一中間室42を設け、第一中間室42に製品液22を通過させることで、濃縮室43から第2の陽イオン交換膜36cを介して漏れ出したヨウ化物イオン、言い換えると、濃度差を動力とする、第2の陽イオン交換膜36cを介しての拡散により第一中間室42に移動したヨウ化物イオンを第一中間室42で製品液22中に捕捉して、脱塩室41に到達することを防ぐことができる。
【0123】
濃縮室の負極側に陰イオン交換膜を介して接する室のヨウ化物イオンの濃縮室への(見かけの)移動速度は、濃縮室のヨウ化物イオン濃度の影響を受ける。透析終盤(ワンパス運転では、出口付近)で、濃縮室と接する室のヨウ化物イオン濃度が低下し、両室の濃度差が大きくなると、ヨウ化物イオンの(見かけの)移動速度が遅くなり、やがて移動しなくなる。言い換えれば、濃縮室に接する室には、濃縮室のヨウ化物イオン濃度に比例して必ずヨウ化物イオンが残る。そのため濃縮室と接する室を脱塩室にした場合には、高い濃縮倍率と高い収率の両方を期待することはできない。
【0124】
この問題を解決する方法として、脱塩室45の正極側に両側を一価陰イオン選択透過膜で仕切られた第二中間室44を設け、第二中間室44を通過させた液は脱塩室41を通過させる。透析終了時(ワンパス運転では出口)、第二中間室44にはヨウ化物イオンが残るが、脱塩室41で分離取得されるため、ロスにならない。第二中間室44にヨウ化物イオンを残すことで、濃縮室43のヨウ素濃度を高くする(濃縮倍率を上げる)ことが可能となる。
【0125】
第二中間室44のヨウ化物イオン濃度は、第一中間室42で、濃縮室43から、陽イオン交換膜を介してくるヨウ化物イオンを補足するため透析開始時(ワンパス運転では、入り口)では、原料液よりも高いが、透析終了時には、原料液よりも低くなる。いずれにせよ濃縮室43よりは著しく低い。そのため、脱塩室45からのヨウ化物イオンの(見かけの)移動速度は、第二中間室44を設けなかった場合に比べ大きくなる。そのため透析時間の短縮(ワンパス運転では原料液処理速度を上げること)ができる。また、透析終了時(ワンパス運転では出口)に脱塩室45に残るヨウ化物イオン濃度を下げることができる。このことで高い収率を確保することが可能となる。さらに、第二中間室44を通過した液は、原料液よりもヨウ化物イオン濃度が低いので、脱塩室45での分離も容易になり、これも収率向上につながる。
【0126】
このように、第2の電気透析槽31において、濃縮室43の両側に第一中間室42及び第二中間室44を設けることで、脱塩室41、45からのヨウ化物イオンの移動速度は、濃縮室43中のヨウ化物イオン濃度の影響を受けなくなる。このことにより、収率と濃縮倍率との両方を十分に高いレベルで両立して、製品液22からヨウ化物イオンを濃縮液49中に分離及び回収することができる。また、電気透析時間の短縮も図れる。
【0127】
第2の電気透析槽31では、両側に一対の電極が配置され、これら一対の電極のうちの一方が正極32(陽極)とされ、他方が負極33(陰極)とされる。
【0128】
正極32及び負極33を構成する材料としては、上述した第1の電気透析槽1の正極2及び負極3を構成する材料と同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0129】
室枠の長手方向に沿った両端部の内側に正極32、負極33が取り付けられ、この第2の電気透析槽31の正極32の負極側に配置された陽イオン交換膜34cによって正極側の電極室(正極室40)が構成され、負極33の正極側に配置された陽イオン交換膜39cによって負極側の電極室(負極室46)が構成される。
【0130】
これら正極室40と負極室46との間には、正極側から負極側へ向かって、陽イオン交換膜34c、第1の陽イオン交換膜35c、第2の陽イオン交換膜36c、第1の陰イオン交換膜37a、第2の陰イオン交換膜38a及び陽イオン交換膜39cが順次配置されている。そして、これらイオン交換膜によって、正極室40から負極室46へ向かって、脱塩室41、第一中間室42、濃縮室43、第二中間室44及び脱塩室45に仕切られている。
【0131】
言い換えると、陽イオン交換膜34cと第1の陽イオン交換膜35cとで仕切られた室枠内が脱塩室41となる。第1の陽イオン交換膜35cと第2の陽イオン交換膜36cとで仕切られた室枠内が第一中間室42となる。第2の陽イオン交換膜36cと第1の陰イオン交換膜37aとで仕切られた室枠内が濃縮室43となる。第1の陰イオン交換膜37aと第2の陰イオン交換膜38aとで仕切られた室枠内が第二中間室44となる。そして、第2の陰イオン交換膜38aと陽イオン交換膜39cとで仕切られた室枠内が脱塩室45となる。
【0132】
そして、第1の陽イオン交換膜35cから脱塩室45までの4膜4室、言い換えると、第1の陽イオン交換膜35c、第一中間室42、第2の陽イオン交換膜36c、濃縮室43、第1の陰イオン交換膜37a、第二中間室44、第2の陰イオン交換膜38a及び脱塩室45を一組として、複数繰り返し配置される。繰り返し回数(m)としては、特に限定されないが、例えば、数組から数百組程度、より具体的には、4組以上1800組以下であることが好ましい。
【0133】
なお、以下の説明では、陽イオン交換膜34c、第1の陽イオン交換膜35c、第2の陽イオン交換膜36c及び陽イオン交換膜39cを総称して「陽イオン交換膜」と記す場合がある。
【0134】
また、以下の説明では、第1の陰イオン交換膜37a及び第2の陰イオン交換膜38aを総称して「陰イオン交換膜」と記す場合がある。
【0135】
また、以下の説明では、正極室40、脱塩室41、第一中間室42、濃縮室43、第二中間室44、脱塩室45及び負極室46を総称して「液室」と記す場合がある。
【0136】
(陰イオン交換膜)
陰イオン交換膜としては、陰イオンの選択透過性を高めた膜を好適に用いることができる。
【0137】
製品液22に含まれる塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)等の陰イオンは、陰イオン交換膜を選択的に透過して脱塩室45から第二中間室44を介して濃縮室43に移動する。非電離性無機化合物及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、陰イオン交換膜を透過せずに脱塩室45内に残存し、処理液51中に含まれて透析排水61として排出される。
【0138】
ただし、製品液22が硫酸イオン(SO2-)を含む場合には、一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を使用することが好ましい。
【0139】
一価陰イオン選択性の無い陰イオン交換膜を用いた場合、硫酸イオンは、陰イオン交換膜を透過して濃縮室43に移動することができ、濃縮室43の硫酸イオン濃度が高まることで難溶性の硫酸塩が析出する可能性がある。
【0140】
一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を用いることで、上記のような問題の発生を好適に防止することができる。
【0141】
陰イオン交換膜、特に、一価陰イオン選択透過膜としては、上述した第1の電気透析槽1の陰イオン交換膜と同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0142】
(陽イオン交換膜)
陽イオン交換膜としては、一価陽イオンの選択性を高めた膜である一価陽イオン選択透過膜を好適に用いることができる。陽イオン交換膜の全てが、一価陽イオン選択透過膜であることが好ましい。
【0143】
一価陽イオン選択透過膜を用いることにより、製品液22に含まれるナトリウムイオン(Na+)等の一価陽イオンは、陽イオン交換膜を選択的に透過して脱塩室41から濃縮室43に向けて移動する。カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、遷移金属イオン等の多価陽イオンは、一価陽イオン選択透過膜を透過せずに残存し、脱塩室41から処理液51中に含まれて透析排水61として排出される。
【0144】
陽イオン交換膜、特に、一価陽イオン選択透過膜としては、上述した第1の電気透析槽1の陽イオン交換膜と同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0145】
イオン交換膜として一価陰イオン選択透過膜及び一価陽イオン選択透過膜を用いることにより、多価金属イオンや、非電離性無機化合物及びフルボ酸等の高分子有機化合物も実質的に含まれない濃縮液49を得ることができる。
【0146】
(脱塩室)
第2の電気透析槽31において、正極室40の負極側に位置する室が脱塩室41もしくは第一中間室42であることが好ましい。
図2に示す構成の第2の電気透析槽31では、正極室40の負極側に位置する室が脱塩室41とされている。
【0147】
これは、正極室40の隣に位置する室から、陽イオン交換膜34cを介して正極室40に移動してくる、ヨウ化物イオンをできるだけ少なくするためである。正極室40に移動したヨウ化物イオンは、ロスになるだけでなく、正極32(極室液を正極室40と負極室46との間で循環させる場合には、両極)の材質によっては、正極32を腐食させる可能性がある。あるいは、正極32で酸化されてI2となり、周囲を腐食させる可能性がある。
【0148】
陽イオン交換膜34cを透過するヨウ化物イオンの移動速度は、ヨウ化物イオン濃度に比例するので、正極室40の隣に位置する室は、ヨウ化物イオン濃度が最も低い室であることが好ましい。ヨウ化物イオン濃度は、平均値では、低い順から、脱塩室41<第二中間室44<第一中間室42<<濃縮室43であり、ワンパス運転での入口濃度においては、脱塩室41<第一中間室42<第二中間室44<<濃縮室43である。正極室40の隣に位置する室としては、上記4室の中では脱塩室41が最も好ましく、濃縮室43が最も好ましくない。
【0149】
正極室40の負極側に位置する室を脱塩室41とすることで、上記のような、陽イオン交換膜4cを介して移動してくる、ヨウ化物イオンによる影響を好適に抑えることができる。
【0150】
ただし、この電気透析法において正極室40の隣の室が脱塩室41である場合、この脱塩室41から陰イオンは移動しないので、効率が悪くなる。循環運転であれば問題はないが、ワンパスで通過させる場合には、一室分がまるまるロスとなる。脱塩室41をワンパスで通過させ、かつ、このロスをなくしたいのであれば、正極室40の隣の室は、第2の電気透析槽31の入口でのヨウ素濃度が脱塩室41の次に低い、第一中間室42とすることが好ましい。
【0151】
(第一中間室)
第一中間室42は、上述したように、濃度差を動力として、濃縮室43から第2の陽イオン交換膜36cを介して正極側に移動するヨウ化物イオンを捕捉し、脱塩室41に到達することを防ぐために設置される室である。
【0152】
これにより、製品液22から効率よくヨウ化物イオンを濃縮液49中に分離及び回収することができる。
【0153】
(濃縮室)
濃縮室43は、濃縮液49を循環させることで、該濃縮液49中に、製品液22からヨウ化物イオンが分離及び濃縮される。
【0154】
(第二中間室)
第二中間室44は、上述したように、濃度差を動力として、濃縮室43から陰イオン交換膜を介して負極側に移動するヨウ化物イオンを捕捉し、脱塩室45に到達することを防ぐために設置される室である。
【0155】
(脱塩室)
図2に示す構成の第2の電気透析槽31において、負極室46の正極側に位置する室を脱塩室45としている。
【0156】
これは、負極室46の隣にある室を、負極室46から陰イオン交換膜を介して移動する硫酸イオンの影響ができるだけ小さい室にするためである。負極室46から硫酸イオンが移動することによる影響が最も大きいのは濃縮室43であり、次が同等で第一中間室42及び第二中間室44である。硫酸イオンの脱塩室45への移動は、ほとんど影響を与えない。
【0157】
負極室46の正極側に位置する室を脱塩室45とすることで、負極室46から陽イオン交換膜39cを介して移動する硫酸イオンによる影響、具体的には、例えば、難溶性の硫酸塩等の析出を最小限に抑えることができる。
【0158】
これら正極室40、脱塩室41、第一中間室42、濃縮室43、第二中間室44、脱塩室45及び負極室46には、それぞれ目的に応じた室液が、所定濃度及び所定液量に調製され、それぞれ個別に、ワンパスもしくは循環で通過される。
【0159】
また、これら室液を供給させる図示しない外部タンクを設けて、これら室液を液室と外部タンクとの間でそれぞれを循環させてもよい。
【0160】
[5-2]陽陽陰陰法によるヨウ化物イオンの分離方法について
陽陽陰陰法によるヨウ化物イオンの分離方法では、まず、第2の電気透析槽31の正極室40に正極液52を供給し、負極室46に負極液53を供給する。また、第一中間室42には、原料液21もしくは第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法(陽複陰法)で得られた製品液22をワンパスもしくは循環で供給し、濃縮室43には濃縮液49を供給する。また、第二中間室44には、第一中間室42を通過した処理液48をワンパスもしくは循環で供給し、脱塩室41及び脱塩室45には、第二中間室44を通過した処理液50をワンパスもしくは循環で供給する。
【0161】
以下の説明では、第一中間室42に供給する室液として、第1実施形態に係るヨウ化物イオンの分離方法(陽複陰法)で得られた製品液22を用いた場合について中心的に説明するが、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液21、例えば、地下かん水を第一中間室42に供給することを排除するものではない。
【0162】
電極液(正極液52及び負極液53)には、例えば、硫酸ナトリウム水溶液等が用いられる。
なお、電極液は、正極室40と負極室46との間を循環で供給してもよい。
【0163】
第2の電気透析槽31の運転中は、各液室内の温度を、使用するイオン交換膜の耐熱温度以下に保つ。
【0164】
そして、正極32(陽極)と負極33(陰極)との間に、膜メーカー指定の最高使用電圧以下の電流を供給する。
【0165】
正極32と負極33との間に供給される電流の電圧は、特に限定されないが、例えば、製品液22の組成と目標組成、また、用いる第2の電気透析槽31のサイズ(流路長)、室厚さ、流速等を考慮して個々に判断し、技術的及び経済的に有利な電圧を設定する。電圧を好ましい値に設定することで、陰イオン交換膜での選択性の高いヨウ化物イオンの移動率をさらに高めることができる。
【0166】
なお、第2の電気透析槽31の運転は、定電流運転であっても、定電圧運転であってもよい。
【0167】
定電流運転であれば、室膜数の増減があっても1膜あたりにかかる電圧がほぼ等しくなるので試験研究には好適に対応することができる。一方、定電圧運転であれば、原料液中のイオン濃度が低下した時には低電流に、濃度が上昇した時には、高電流になるので、濃度変化が激しい晶析排水を原料液として扱う場合に都合が良い。
【0168】
正極32と負極33との間に、電流を供給すると、それぞれの室液中に含まれる陰イオンは、正極側に電気的にひきつけられ、陽イオンは、負極側に電気的にひきつけられる。
【0169】
このとき、陰イオンは、陰イオン交換膜を透過して移動できるが、陽イオン交換膜を透過できない。同様に、陽イオンは、陽イオン交換膜を透過して移動できるが、陰イオン交換膜を透過できない。
【0170】
なお、
図2において、陰イオンに付した実線矢印は、陰イオン交換膜を介しての各陰イオンの移動を示し、陰イオンに付した点線矢印は、陽イオン交換膜を介しての非主体的な各陰イオンの移動を示す。陽イオンに付した実線矢印は、陽イオン交換膜を介しての各陽イオンの移動を示す。
【0171】
したがって、第一中間室42に供給された製品液22中のナトリウムイオン(Na+)は、第2の陽イオン交換膜36cを負極側に透過して濃縮室43に移動するが、さらに濃縮室43から第1の陰イオン交換膜37aを透過して第二中間室44へは移動できないため、濃縮室43の濃縮液49中に残留する。
【0172】
また、製品液22中に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、遷移金属イオン等の多価陽イオン、非電離性無機化合物、及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、一価陰イオン選択透過膜である第2の陽イオン交換膜36cを透過できず、第一中間室42の製品液22中に残留する。
【0173】
一方、製品液22中のヨウ化物イオン(I-)、硫酸イオン(SO4
2-)及び塩化物イオン(Cl-)等の陰イオンは、第2の陽イオン交換膜36cを透過できず、第一中間室42の製品液22中に残留する。
【0174】
第一中間室42を通過した処理液48は、第二中間室44へと供給され、第二中間室44をワンパスもしくは循環で通過させる。
【0175】
第二中間室44では、処理液48内のヨウ化物イオン及び塩化物イオン等の陰イオンは、第1の陰イオン交換膜37aを透過して濃縮室43に移動するが、さらに濃縮室43から第2の陽イオン交換膜36cを透過して第一中間室42へは移動できないため、濃縮室43の濃縮液49中に残留する。このとき、第1の陰イオン交換膜37aが一価陰イオン選択透過膜であるので、硫酸イオンは、第1の陰イオン交換膜37aを透過できずに処理液48中に残留する。
【0176】
また、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン、非電離性無機化合物、及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、第1の陰イオン交換膜37aを透過できずに処理液48中に残留する。
【0177】
第二中間室44を通過した処理液50は、脱塩室41及び脱塩室45にそれぞれ供給され、脱塩室41及び脱塩室45をワンパスもしくは循環でそれぞれ通過させる。
【0178】
脱塩室41では、処理液50内のナトリウムイオンは、第1の陽イオン交換膜35cを透過して第一中間室42に移動する。
【0179】
また、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の多価陽イオン、非電離性無機化合物、及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、一価陽イオン選択透過膜である第1の陽イオン交換膜35cを透過できずに脱塩室41の処理液50中に残留する。
【0180】
脱塩室45では、処理液50内のヨウ化物イオン、塩化物イオン及び硫酸イオン等の陰イオンは、第2の陰イオン交換膜38aを透過して第二中間室44に移動する。
【0181】
ここで、第二中間室44では、脱塩室45内の処理液50のヨウ化物イオン濃度が十分な間は、第二中間室44から濃縮室43に移動した分のヨウ化物イオンが、脱塩室45から移動してくるので、ヨウ化物イオン濃度は、大きく変動しない。このため、濃度差を動力とする濃縮室43から第二中間室44へのヨウ化物イオンの逆移動の影響を受けにくい。また、第二中間室44のヨウ化物イオン濃度は、濃縮室43よりも低いので、脱塩室45から正極側へのヨウ化物イオンの移動も、第二中間室44から脱塩室45への逆移動の影響を受けにくくなる。
【0182】
また、第二中間室44の通過後は、元の製品液22よりヨウ化物イオン濃度が低下するため、ヨウ化物イオン回収率が向上する利点もある。
【0183】
また、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の多価陽イオン、非電離性無機化合物、及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、第2の陰イオン交換膜38aを透過できずに脱塩室45の処理液50中に残留する。
【0184】
脱塩室41及び脱塩室45を通過した処理液51は、透析排水61として排出される。カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、遷移金属イオン等の多価陽イオン、非電離性無機化合物、及びフルボ酸等の高分子有機化合物は、処理液51中に含まれて排出される。
【0185】
濃縮室43には、濃縮液49が循環供給される。運転の開始時で種となる濃縮液49がない場合には、通電に不都合の無い濃度の塩化ナトリウム溶液等を用いることができる。
【0186】
濃縮室43では、濃縮液49中のナトリウムイオンは、第1の陰イオン交換膜37aを透過できずに濃縮液49中に残留する。また、ヨウ化物イオン及び塩化物イオン等の陰イオンは、第2の陽イオン交換膜36cを透過できずに濃縮液49中に残留する。
【0187】
一方で、上述したように、第一中間室42中のナトリウムイオンが、第2の陽イオン交換膜36cを負極側に透過して濃縮室43に移動してくる。また、第二中間室44内のヨウ化物イオン及び塩化物イオン等の陰イオンが、第1の陰イオン交換膜37aを透過して濃縮室43に移動してくる。このとき、第1の陰イオン交換膜37aが一価陰イオン選択透過膜であるので、第二中間室44内の硫酸イオンは第1の陰イオン交換膜37aを透過できない。
【0188】
このため、濃縮室43内の濃縮液49中のナトリウムイオン、ヨウ化物イオン及び塩化物イオンの濃度が上昇、言い換えると、濃縮される。この後、この濃縮室43内のイオン濃度が上昇した処理液、すなわち、濃縮液49を濃縮室43から抜き出すことによって、ヨウ素を高濃度で取得することができる。
【0189】
また、濃度差を動力とするヨウ化物イオンの逆移動、言い換えると、濃縮室43から第2の陽イオン交換膜36cを介してヨウ化物イオンが第一中間室42に漏れ出すが、第一中間室42に漏れ出したヨウ化物イオンは、製品液22中に捕捉される。
【0190】
このように、本実施形態では、濃縮室43の正極側に第2の陽イオン交換膜36cを介して第一中間室42を設け、第一中間室42に製品液22を通過させることで、濃縮室43から第2の陽イオン交換膜36cを介して第一中間室42に逆移動してきたヨウ化物イオンを製品液22中に捕捉、回収することができる。
【0191】
製品液22中に回収されたヨウ化物イオンは、その後、上述したサイクルにより、第二中間室44から濃縮室43の濃縮液49中に分離される。
【0192】
これにより、濃縮室43内の濃縮液49中にヨウ化物イオンをより高収率及びより高濃縮倍率で取得することができる。
【0193】
濃縮液49は、運転時間の経過とともに体積が増していくので、増量分を分取し、取得濃縮液62として取得される。
【0194】
得られる取得濃縮液62、すなわち、ヨウ化物イオン濃縮液は、ヨウ化物イオン濃度が高く、鉄、マンガン、カルシウムなどの多価金属イオンが実質的に含まれず、フルボ酸等の高分子有機化合物も実質的に含まれないため、ヨウ素分離取得を容易に行うことができる。
【0195】
例えば、取得濃縮液62からヨウ素を分離取得する際に、装置や配管における、遷移金属イオンの酸化による不溶性酸化物の析出を効果的に防止することができる。
【0196】
本実施形態によれば、ヨウ化物イオンを含む水溶液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離する方法において、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができ、また、経済的にも優れた結果を得られる。
【0197】
特に、ヨウ化物イオンを含む水溶液を、電気透析(陽複陰法)により減容して製品液とし、この製品液をさらに電気透析(陽陽陰陰法)することで、電気透析槽のサイズ及び使用電力をより効果的に少なくすることができ、経済的にさらに優れたものとなる。
【0198】
また、本実施形態において電気透析で生じる透析排水は、塩素等の酸化剤を含まず、酸化性を有しないため、これが地中の帯水層に圧入されて地下かん水と接触した際、地下かん水に溶解している遷移金属イオンが酸化されて不溶性酸化物を形成することがなく、地下かん水の流動阻害が防止される。そのため、透析排水は、地下かん水帯水層、特に地下かん水を汲み上げた地下かん水帯水層に、流動阻害を生じることなく良好に還元圧入することができる。また、透析排水は、酸化剤、特に残留塩素を含まないため、温和で清浄な塩水として、水産養殖や培養等への生物的な利用も容易に行える。
【0199】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の趣旨に沿った範囲内で条件を変更したり、他の工程を加える等の改変を加えることは差し支えない。
【0200】
例えば、上述した実施形態では、第2の電気透析槽において、正極室の負極側に位置する室を脱塩室とした場合を例に挙げて説明したが、正極室の負極側に位置する室が第一中間室であってもよい。上述したように、正極室の負極側に位置する室を第一中間室とすることで、効率の低下を抑えることができる。
【0201】
また、例えば、上述した第2の電気透析槽において、
図2に示した構成の電気透析槽から、第一中間室及び第二中間室のいずれか一方の中間室を省くことも可能である。
【0202】
図2に示した電気透析槽から、第一中間室及び第二中間室のいずれか一方の中間室を省いた場合であっても、前述した実施形態と同様に、電気透析法によるヨウ化物イオンの分離方法において、収率と濃縮倍率とを十分に高いレベルで両立することができ、また、経済的にも優れた結果を得られる。特に、電気透析槽の小型化、省電力化の観点でさらに有利であり、経済的にさらに優れたものとなる。
【0203】
また、前述した第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせた構成の電気透析槽を用いてもよい。より具体的には、本発明のヨウ化物イオンの分離方法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液から電気透析法にてヨウ化物イオンを分離するヨウ化物イオンの分離方法であって、
正極と負極の間に、前記正極側から、正極室に続けて、
nを2以上の整数とした場合に、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室兼製品室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室兼第1原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、第2原料室・・・陰イオン交換膜である第(n+1)の陰イオン交換膜、第n原料室の(n+3)膜(n+3)室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、
前記第一中間室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して前記第1実施形態を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、前記濃縮室には、濃縮液を循環で通過させ、
前記第二中間室兼製品室には、前記第一中間室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記脱塩室兼第1原料室には、前記第二中間室兼製品室を通過した液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記第2原料室・・・前記第n原料室には、前記原料液もしくは前記原料液に対して前記第1実施形態の方法を施すことにより得られた前記製品液をワンパスもしくは循環で通過させ、
前記濃縮室を循環で通過させた液の増加分を前記濃縮液として取得する、方法であってもよい。
【0204】
このような構成でも、前述した実施形態と同様の効果が得られる。また、6膜6室を一組とする電気透析槽を用いることにより、6室中3室に原料液を通過させるので電気透析槽サイズおよび電力を、二室法一基分におさめることができる。
【0205】
最後に本発明の特徴について記す。
第一に、濃縮室もしくは製品室に移動した取得目的とする陰イオンうち、わずかではあるが陽イオン交換膜を通過して脱塩室に戻る陰イオンがあることと、濃度差を動力として陰イオン交換膜を介して脱塩室に戻る陰イオンがあること。目的とする陰イオンの濃度が比較的低い場合でかつ高い収率を上げるためにはそれらの量が無視できないものであることに注目し、この問題を解決する方法であること。また、例えば、本発明第2実施形態においては、濃縮室から陽イオン交換膜を通過して出てくるヨウ化物イオンを第一中間室中に捕獲することで収率を上げる。また、濃縮室から陰イオン交換膜を介して逆移動してくるヨウ化物イオンを第二中間室で捕獲することで収率を上げかつ濃縮倍率を上げる。また第1実施形態においては、濃縮倍率を最大4倍までに下げることで収率を上げている。
【0206】
第二に、本発明で用いる電気透析槽は、従来の電気透析槽のように陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に配置したものでないこと。本発明においては、陽陰陰・・、もしくは陽陽陰陰の配置にすることによって発明の目的を達成している。
【0207】
第三に、原料液を原料以外の目的で多重使用することである。例えば、本発明第2実施形態において、原料液は、まず初めに第一中間室に送られ、濃縮室から陽イオン交換膜を通過して出てくるヨウ化物イオンを捕獲するために使われる。次に第二中間室に送られ、濃縮室から陰イオン交換膜を介して逆移動してくるヨウ化物イオンを捕獲する。そして最後に脱塩室に送られ、原料として使われる。
【0208】
第四に、経済的に優れたものとするため、原料液の減容を行っていることである。
第五に、本発明では、かん水に塩素系酸化剤を投入しないので、ヨウ素取得後の透析排水(排かん水)中には、残留塩素や有機塩素化合物が含まれないことである。
【実施例】
【0209】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
<電気透析槽の構成>
電気透析槽(旭化成株式会社製、G4型)を用いて、陽複陰法により電気透析を行った。
【0210】
電気透析槽の両側に一対の電極を配置し、一方の電極を正極(陽極)、他方の電極を負極(陰極)とした。これら正極と負極との間には、正極側から負極側へ向かって、陽イオン交換膜、第1の陰イオン交換膜、第2の陰イオン交換膜、第3の陰イオン交換膜、陽イオン交換膜を順次配置した。
【0211】
陽イオン交換膜には、一価陽イオン選択透過膜であるセレミオンCSO(AGC株式会社製)を用いた。第1~第3の陰イオン交換膜には、一価陰イオン選択透過膜であるセレミオンASV-N(AGC株式会社製)を用いた。イオン交換膜の有効面積は、1枚当たり0.02m2とした。
【0212】
これらイオン交換膜によって電気透析槽は、正極側から負極側へ向かって、正極室、製品室、第1原料室、第2原料室、第3原料室及び負極室に仕切られ、陽イオン交換膜、製品室、第1の陰イオン交換膜、第1原料室、第2の陰イオン交換膜、第2原料室、第3の陰イオン交換膜及び第3原料室の4膜4室を一組として、4組の膜室組を配置した。
【0213】
かん水は、新潟県新潟市の地下1300m以上600m以下のかん水帯水層からくみ上げたかん水を曝気し、遷移金属酸化物を析出させ濾過により取り除いたものを使用した。このかん水のヨウ化物イオン濃度は、29mg/L以上32mg/L以下であった。
【0214】
<電気透析>
負極と正極との間に2.5A(電流密度1.25A/dm2)の定電流を通電し、正極室及び負極室には極室液として3質量%硫酸ナトリウム水溶液2,000mLを1,000mL/分でそれぞれ通液した。
【0215】
製品室、第1原料室、第2原料室及び第3原料室には、それぞれ、上記かん水6.0Lを0.2L/分で循環させた。このときの地下かん水のヨウ化物イオン濃度は、32.0mg/Lであった。
【0216】
<イオン濃度分析>
運転を5.5時間行い、製品室、第1原料室、第2原料室、第3原料室からの排出液を取得し、それぞれの取得液中の、ヨウ化物イオン(I-)についてイオン濃度を分析した。
【0217】
なお、分析にあたっては、イオンクロマトグラフ(メトローム社製「883プロフェッショナル」、サプレッサー付き、Asap5カラム150mm、Na2CO3(3.2mM)及びNaHCO3(3.2mM)混合液溶離液)を用いて測定した。
【0218】
各室における仕込み液と取得液とについて、ヨウ化物イオン(I
-)のイオン量及びイオン濃度を表1にそれぞれ示す。
また、各室液におけるヨウ化物イオン濃度の時間変化を
図4に示す。
【0219】
【0220】
表1及び
図4に示されるように、第1~第3原料室では、ヨウ化物イオンの濃度が減少しているのに対し、製品室では、ヨウ化物イオンの濃度が大きく増加していることから、ヨウ化物イオンは、原料室から製品室に移動したことがわかる。
【0221】
特に、透析運転の開始当初は、第1原料室及び第2原料室のヨウ化物イオンの濃度は、ほとんど変化しないが、第3原料室のみ、ヨウ化物イオンの濃度は減少した。透析運転が進むと、第3原料室のヨウ化物イオン濃度が有意に低下し、第2原料室のヨウ化物イオン濃度も低下した。透析運転がさらに進むと、第1~第3原料室のすべての原料室で、ヨウ化物イオン濃度が低下した。
【0222】
本実施例では、陽複陰法による電気透析の結果、ヨウ化物イオン濃度104.0mg/Lの製品液が得られた。ヨウ素収率は83%であった。
【0223】
(実施例2)
<電気透析槽の構成>
電気透析槽(旭化成株式会社製、G4型)を用いて、陽陽陰陰法により電気透析を行った。
【0224】
電気透析槽の両側に一対の電極を配置し、一方の電極を正極(陽極)、他方の電極を負極(陰極)とした。これら正極と負極との間には、正極側から負極側へ向かって、第1の陽イオン交換膜、第2の陽イオン交換膜、第1の陰イオン交換膜、第2の陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を順次配置した。
【0225】
これらイオン交換膜によって電気透析槽は、正極側から負極側へ向かって、正極室、一中間室、濃縮室、第二中間室、脱塩室及び負極室に仕切られ、第1の陽イオン交換膜、第一中間室、第2の陽イオン交換膜、濃縮室、第1の陰イオン交換膜、第二中間室、第2の陰イオン交換膜及び脱塩室までの4膜4室を一組として、4組の膜室組を配置した。
【0226】
<電気透析>
(1回目)
負極と正極との間に4.0A(電流密度2A/dm2)の定電流を通電し、正極室及び負極室には、実施例1と同様にして調製した極室液2,000mLを1,000mL/分でそれぞれ通液し、濃縮室には、3質量%食塩水500mlを0.2L/分で通液し、第一中間室には、実施例1で得た製品液6.0Lを0.2L/分で通液し、第二中間室には、実施例1で得た製品液6.0Lを0.2L/分で通液し、脱塩室には、実施例1で得た製品液6.0Lを0.2L/分で通液し、各室から出た液を循環させる運転を3時間行った。
なお、実施例1で得た製品液のヨウ化物イオン濃度は118.9mg/Lであった。
【0227】
(2回目)
負極と正極との間に4.0A(電流密度2A/dm2)の定電流を通電し、濃縮室には1回目の濃縮室の残液をそのまま通液し、第一中間室には実施例1で得た製品液6.0L、第二中間室には、1回目の第一中間室の残液をそのまま通液し、脱塩室には、1回目の第二中間室の残液をそのまま通液し、各室から出た液を循環させる運転を3時間行った。
【0228】
(3回目)
負極と正極との間に4.0A(電流密度2A/dm2)の定電流を通電し、濃縮室には2回目の濃縮室の残液のうち600mLを通液し、第一中間室には実施例1で得た製品液6.0L、第二中間室には、2回目の第一中間室の残液をそのまま通液し、脱塩室には、2回目の第二中間室の残液をそのまま通液し、各室から出た液を循環させる運転を3時間行った。
【0229】
<イオン濃度分析>
上記1回目~3回目の運転を行い、第一中間室、第二中間室、脱塩室及び濃縮室からの排出液を取得し、それぞれの取得液中の、ヨウ化物イオン(I-)について、実施例1と同様にしてイオン濃度を分析した。
【0230】
1回目~3回目の電気透析での、各室における仕込み液と取得液とについて、ヨウ化物イオン(I-)のイオン濃度を表2~表4にそれぞれ示す。また、第一中間室への仕込み液と、脱塩室からの取得液とにおけるイオン量から算出した収率を示す。
【0231】
また、実施例2の陽陽陰陰法での各室のヨウ化物イオン濃度の時間変化を示したグラフを
図5に示し、特に、3回目の電気透析での、第一中間室、第二中間室及び脱塩室におけるヨウ化物イオン濃度の時間変化を
図5(A)に示し、濃縮室におけるヨウ化物イオン濃度の時間変化を
図5(B)に示す。
【0232】
【0233】
【0234】
【0235】
表2~表4及び
図5から、脱塩室及び第二中間室におけるヨウ化物イオン濃度が低下している一方で、濃縮室におけるヨウ化物イオン濃度が増加していることから、ヨウ化物イオンは、脱塩室から第二中間室に移動し、さらに第二中間室から濃縮室へ移動したことがわかる。
【0236】
また、第一中間室のヨウ化物イオン濃度がわずかに上昇しているが、これは、濃縮室から第2の陽イオン交換膜を介して漏れ出したヨウ化物イオンが、第一中間室において製品液中に捕捉されたためと考えられる。
【0237】
本実施例では、陽陽陰陰法による電気透析の結果、3回目での収率は、94%であった。実施例1の収率と合わせて、トータルでの収率は、77%であった。
【0238】
実施例1と合わせて、ヨウ化物イオン濃度32.0mg/Lの地下かん水から、ヨウ化物イオン濃度1400mg/Lの濃縮液が得られた。
【0239】
実施例1で原料液として用いた地下かん水から、実施例2で得られた濃縮液について、ヨウ化物イオンの最終的な濃縮倍率は、44倍であった。
【0240】
また、電気透析槽として、正極と負極の間に、前記正極側から、正極室に続けて、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第一中間室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、濃縮室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第二中間室兼製品室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、脱塩室兼第1原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、第2原料室、陰イオン交換膜である第4の陰イオン交換膜、第3原料室の6膜6室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置したものを用い、前記第一中間室には、前記原料液を循環で通過させ、前記濃縮室には、濃縮液を循環で通過させ、前記第二中間室兼製品室には、前記第一中間室を通過した液を循環で通過させ、前記脱塩室兼第1原料室には、前記第二中間室兼製品室を通過した液を循環で通過させ、前記第2原料室には、前記原料液を循環で通過させ、前記第3原料室には前記原料液を循環で通過させ、前記濃縮室を循環で通過させた液の増加分を前記濃縮液として取得した以外は、前記実施例と同様にして電気透析を行ったところ、前記と同様に優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0241】
本発明のヨウ化物イオンの分離方法は、ヨウ化物イオンを含有する天然ガス付随地下かん水より、電気透析法を用いてヨウ化物イオンを経済的かつ高収率で取得する方法である。特にヨウ化物イオン濃度が低くこれまでヨウ素採取に利用されていなかったかん水からも高収率で取得することを可能にする方法である。
【0242】
また、ヨウ素分離に塩素系酸化剤を用いないため、ヨウ素取得後の排かん水は、残留塩素、有機塩素化合物などを含まない。環境保護上素晴らしい方法である。また、残留塩素等の酸化性物質を含まないため、地盤沈下防止のためにかん水帯水層に還元圧入する際にも非常に有利である。さらには、この排かん水は、温和な塩水として水産養殖や、培養にも容易に使えるものである。
【0243】
したがって、本発明のヨウ化物イオンの分離方法は、産業上の利用可能性を有する。
本発明により分離されるヨウ化物イオンは、重要な産業製品であるヨウ素として精製される。
【符号の説明】
【0244】
1 第1の電気透析槽
2 正極
3 負極
4c 陽イオン交換膜
5a 第1の陰イオン交換膜
6a 第2の陰イオン交換膜
7a 第3の陰イオン交換膜
8c 陽イオン交換膜
10 正極室
11 製品室
12 第1原料室
13 第2原料室
14 第3原料室
15 負極室
21 原料液
22 製品液
23 処理液
24 正極液
25 負極液
31 第2の電気透析槽
32 正極
33 負極
34c 陽イオン交換膜
35c 第1の陽イオン交換膜
36c 第2の陽イオン交換膜
37a 第1の陰イオン交換膜
38a 第2の陰イオン交換膜
39c 陽イオン交換膜
40 正極室
41 脱塩室
42 第一中間室
43 濃縮室
44 第二中間室
45 脱塩室
46 負極室
48 処理液
49 濃縮液
50 処理液
51 処理液
52 正極液
53 負極液
61 透析排水
62 取得濃縮液