(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】脱脂装置
(51)【国際特許分類】
C04B 35/638 20060101AFI20250109BHJP
F27D 7/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C04B35/638
F27D7/02 A
(21)【出願番号】P 2021155545
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】田中 優
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223561(JP,A)
【文献】特開2017-119592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/638,
F27D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂処理の対象物である処理対象物を収容する加熱炉と、
該加熱炉に脱脂ガスである過熱蒸気を導入する第1導入路と、
該第1導入路とは別に設けられた、前記加熱炉に連通する炉連通空間と、
該炉連通空間に前記過熱蒸気が流入することを防止する蒸気流入防止機構と、を備え
、
前記蒸気流入防止機構が、前記炉連通空間に所定のパージガスを送入して、該炉連通空間内の圧力を前記加熱炉内の圧力よりも高くするものであり、
前記加熱炉に過熱蒸気とは異なる種類の脱脂ガスである第2脱脂ガスを導入する第2導入路と、
前記第1導入路または第2導入路を開通させて、前記過熱蒸気または第2脱脂ガスを前記加熱炉に導入する脱脂ガス供給機構と、をさらに備え、
前記第2導入路が前記炉連通空間であり、前記蒸気流入防止機構により前記第2導入路に前記パージガスが送入される、脱脂装置。
【請求項2】
前記蒸気流入防止機構が、前記炉連通空間にパージガスの流れを作り、前記加熱炉内からの過熱蒸気の流入を抑制するものである請求項1記載の脱脂装置。
【請求項3】
前記第2脱脂ガスがパージガスとして用いられる
請求項1記載の脱脂装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱炉内にセラミック材料等の処理対象物を収容して脱脂処理を施す脱脂装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、脱脂ガスとして過熱蒸気を用い、該過熱蒸気を加熱炉内に導入してその内部の処理対象物を脱脂する脱脂装置が知られている。
【0003】
しかしながら、脱脂ガスとしては、過熱蒸気のみならず、N2やエアーなどがあるところ、これらを別配管で加熱炉に導く構造の場合、過熱蒸気での脱脂処理時にこの過熱蒸気が使用されていない前記別配管に流入し、結露する恐れがある。そして、このような箇所に結露が生じると次回プロセスに影響を及ぼすため、ドレインなどを設けてこれを排出しなければならないが、そのための専用の機構を設けなければならないうえ、排出のための時間が必要となるなどの問題が生じ得る。
そして、かかる結露問題は、前記別配管のみならず、加熱炉に通じながらも加熱炉と同様には昇温せず、加熱炉よりも低温となる構造部分の全てに共通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した問題に着目して初めてなされたものであって、脱脂ガスとして過熱蒸気を用いても、結露を確実に防止できる脱脂装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る脱脂装置は、処理対象物を収容する加熱炉と、該加熱炉に連通して脱脂ガスである過熱蒸気を導入する第1導入路と、該第1導入路とは別に設けられた、前記加熱炉に連通する炉連通空間と、該炉連通空間に前記過熱蒸気が流入することを防止する蒸気流入防止機構とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上の構成によれば、加熱炉とは同等に加熱されず、それよりも低温となり得る炉連通空間内に過熱蒸気が侵入して結露することを未然に防止でき、結露排出のための専用機構や時間を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態における脱脂装置の全体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0010】
本実施形態にかかる脱脂装置100は、
図1に示すように、処理対象物Wが収容される加熱炉1と、該加熱炉1を加熱する図示しないヒータと、加熱炉1内に脱脂ガスを供給する脱脂ガス供給機構2と、加熱炉1内で脱脂ガスを循環させるファン3と、処理対象物Wから離脱した揮発性の分解ガス等を脱脂ガスとともに加熱炉1外に排出するガス排出路4とを備えている。
【0011】
各部を説明する。
前記加熱炉1は、例えば、処理対象物Wを出し入れするための扉11が設けられた金属製のものである。
前記ヒータは、加熱炉1内に挿入された例えば棒状のもので、図示しない熱電対等の温度制御手段により、加熱炉1内を所定の脱脂温度に維持するものである。
【0012】
前記脱脂ガス供給機構2は、ここでは、複数種の脱脂ガス、すなわち、過熱蒸気、窒素ガスおよび空気の3種類をそれぞれ単独で、またはこれらの2種以上を混合して加熱炉1に供給できるようにしたものである。
【0013】
より具体的にこの脱脂ガス供給機構2は、加熱炉1に過熱蒸気を導入する第1導入路21と、当該加熱炉1に前記窒素ガスおよび/または空気(以下、これらを第2脱脂ガスともいう。)を導入する第2導入路22と、これら導入路21、22を流れるガスの切り替えや流量を調整するガス制御デバイスとを備えている。
前記第1導入路21は、その上流端が過熱蒸気発生器6に接続され、その下流端が加熱炉1に設けられた過熱蒸気導入ポート13に接続されたものである。
【0014】
前記第2導入路22は、前記第1導入路21とは別に設けられたものであり、その下流端は加熱炉1に設けられたガス導入ポート12に接続されている。一方、その上流側は、図示しないボンベ等の窒素供給器から窒素ガスが供給される窒素供給路221および図示しないエアコンプレッサなどの空気供給器から空気が供給される空気供給路222に分岐している。
【0015】
前記ガス制御デバイスは、具体的には、前記窒素供給路221上および空気供給路222上にそれぞれ設けられたスピコン等の流量調整器231、232及び開閉バルブ241、242である。
【0016】
なお、前記開閉バルブ241、242は電磁弁であり、コンピュータやシーケンサなどのコントローラ7から遠隔操作できるように構成してある。また、このコントローラ7は、前記過熱蒸気発生器6にも接続されてこれを制御できるようにしてある。
【0017】
前記ファン3は、加熱炉1内のガスを循環させるためのものであり、その駆動軸31は、加熱炉1の外壁を貫通してその外側に設けられたモータMに連結されている。
【0018】
前記ガス排出路4は、前記加熱炉1内の処理対象物Wから発生した分解ガス等を脱脂ガスとともに排出するものであり、該ガス排出路4から排出された分解ガス等は、フィルタリングしたり燃焼させたりする図示しない処理機構に送られる。
【0019】
しかして、この実施形態の脱脂装置100は、加熱炉1に連通し、かつ該加熱炉1外にまで延伸する空間である炉連通空間9に対して、所定のパージガスを送入することにより、該炉連通空間9を加熱炉1よりも高圧に維持し、加熱炉1内の過熱蒸気が該炉連通空間9に流入することを防止する蒸気流入防止機構8をさらに備えている。
この蒸気流入防止機構8について、より具体的に説明する。
【0020】
前記炉連通空間9は、この実施形態では、前記第2導入路22および前記駆動軸31周りに形成された軸周囲隙間31aである。また、前記パージガスとしては、ここでは、第2脱脂ガスでもある窒素ガスを共用している。
【0021】
そして、前記窒素供給路221を、一方の炉連通空間9である前記第2導入路22および他方の炉連通空間9である前記軸周囲隙間31aに、それぞれ第1送入路81および第2送入路22を介して連通させることにより、前述したように、各炉連通空間9に対し、パージガスである窒素ガスを送入できるように構成してある。
【0022】
すなわち、前記各送入路81、82上には、前記窒素供給路221及び空気供給路222と同様、スピコン等の流量調整器831、832及び開閉バルブ841、842がそれぞれ設けられており、これら開閉バルブ841、842の開成時には、前記流量調整器831、832でそれぞれ設定された流量のパージガス(窒素ガス)が各炉連通空間9(22、31a)に送入され、その内部圧力が加熱炉1の内部圧力よりも高圧となるようにしてある。その結果、パージガスも加熱炉1に流れ込むことになるが、それによる脱脂ガスへの温度影響等を排除するため、ここでは、パージガスの流量が脱脂ガス(過熱蒸気)の流量よりも非常に小さい、例えばその1/10以下に設定されている。
次に、以上のような構成の脱脂装置100による脱脂処理動作を、加熱炉1へ流入する各ガスに着目して説明する。
【0023】
初期状態では、前記開閉弁241、242、841、842は閉じられているとともに、過熱蒸気発生器6は非稼働状態となっており、いずれのガスも加熱炉1には流入しない状態となっている。
【0024】
この初期状態から、ファン3が駆動されるとともに、蒸気流入防止機構8が駆動される。すなわち、開閉弁841、842が開かれて第1送入路81及び第2送入路22が開通し、炉連通空間9である第2導入路22及び軸周囲隙間31aにパージガス(窒素ガス)が流入する。
【0025】
その後あるいは同時に、過熱蒸気発生器6が稼働し、前記第1導入路21を介して過熱蒸気が加熱炉1に導入される。このことにより、内部の処理対象物Wに対する脱脂処理が始まる。
【0026】
脱脂処理が終了すると、まず、過熱蒸気発生器6が非稼働状態となり、加熱炉1への過熱蒸気の供給が停止する。そして、加熱炉1内に残存する過熱蒸気がガス排出路4から排出された後、蒸気流入防止機構8が停止し、前記初期状態に戻る。
【0027】
なお、空気または窒素ガスを脱脂ガスとして用いる場合は、過熱蒸気発生器6を非稼働状態にして開閉弁241または242を開成するが、この場合は、結露問題は顕著化しないので、蒸気流入防止機構8を停止させておいて構わない。
【0028】
以上に述べた脱脂装置100によれば、過熱蒸気が導入されている状態での加熱炉1内の圧力よりも、炉連通空間9(22、31a)内の圧力の方が高圧に維持されるので、過熱蒸気が炉連通空間9(22、31a)に侵入して結露することを未然に防止できる。
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
流入防止機構として、炉連通空間の加熱炉内への開口を機械的に閉止するバルブ等の開閉部材を用いてもよい。
【0029】
炉連通空間は前記実施形態に限られず、加熱炉に連通しながら、該加熱炉1よりも低温となって結露を引き起こす可能性のある空間であれば、本発明を適用して同様の効果を奏し得る。
【0030】
ガス経路構成やガス制御デバイスは、前記実施形態に限られない。例えば、第1送入路81を省略するとともに、第2導入路22上に設けられた流量調整器231の設定流量を外部信号により変更可能なマスフローコントローラなどにして、過熱蒸気による脱脂処理が行われる場合は、前記流量調整器231の設定流量を絞って、第2導入路22を第2脱脂ガス(窒素ガス)でパージするようにしてもよい。
その他、本発明は上述した各変形例の一部を組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲で変形可能してもよい。
【0031】
以上に述べた本実施形態の特徴は以下のようにまとめることができる。
【0032】
(1)本脱脂装置100は、脱脂処理の対象物である処理対象物Wを収容する加熱炉1と、該加熱炉1に脱脂ガスである過熱蒸気を導入する第1導入路21と、該第1導入路21とは別に設けられた、前記加熱炉1に連通する炉連通空間9と、該炉連通空間9に前記過熱蒸気が流入することを防止する蒸気流入防止機構8と、を備えていることを特徴とする。
【0033】
(2)加熱炉外部のガス系統の改良のみで実現できる蒸気流入防止機構8としては、前記炉連通空間9に所定のパージガスを送入して、該炉連通空間9内の圧力を前記加熱炉1内の圧力よりも高圧に維持するものを挙げることができる。
(3)また、前記蒸気流入防止機構が、前記炉連通空間にパージガスの流れを作り、前記加熱炉内からの過熱蒸気の流入を抑制するものであってもよい。
【0034】
(4)具体的な実施態様としては、前記加熱炉1に過熱蒸気とは異なる種類の脱脂ガスである第2脱脂ガス(ここでは窒素ガスおよび/または空気)を導入する第2導入路22と、前記第1導入路21または第2導入路22を開通させて、前記過熱蒸気または第2脱脂ガスを前記加熱炉1に導入する脱脂ガス供給機構2と、をさらに備えたものを挙げることができる。
この構成の場合、過熱蒸気による脱脂処理時に、前記第2導入路22に過熱蒸気が流入し、結露を引き起こす恐れがあるので、該第2導入路22を前記炉連通空間9とみなし、過熱蒸気による脱脂処理時には、該第2導入路22に前記パージガスが送入されるように構成しておくことが望ましい。
【0035】
(5)専用のパージガスを用いることなく、構成の簡単化を図るには、過熱蒸気による脱脂処理時には、前記第2脱脂ガスをパージガスとして用いるようにしておくことが好ましい。
【0036】
(6)前記加熱炉1内のガスを循環させるファン3をさらに備え、該ファン3の駆動軸31が加熱炉1を貫通してその外部に延伸しているものにおいては、前記駆動軸31の周囲に形成される軸周囲隙間31aを前記炉連通空間9とみなし、該軸周囲隙間31aに前記パージガスが送入されるように構成しておくことが望ましい。特にこのような構成であれば、駆動軸31周りに装着されているシール部材を前記パージガスで冷却することができ、加熱炉1の熱によるシール部材の劣化を低減できるという効果も奏し得る。
【符号の説明】
【0037】
100・・・脱脂装置
W・・・処理対象物
1・・・加熱炉
2・・・脱脂ガス供給機構
21・・・第1導入路
22・・・第2導入路(炉連通空間)
3・・・ファン
31・・・駆動軸
31a・・・軸周囲隙間(炉連通空間)
8・・・蒸気流入防止機構
9・・・炉連通空間