(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B41J2/165 305
B41J2/165 401
B41J2/165 303
(21)【出願番号】P 2020086693
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎平
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-221406(JP,A)
【文献】特開2011-101997(JP,A)
【文献】特開2015-096581(JP,A)
【文献】特開2011-079185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0030898(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルからインクを吐出するヘッドと、
上記ヘッドのノズル面を拭う先端部を有するワイパと、
上記先端部と接触するクリーニング部材と、
上記クリーニング部材に保持されるクリーニング液と、を具備しており、
上記インクは、色材を含んでおり、
上記クリーニング液の粘度は、
5mPa・S以上80mPa・S以下であり、
上記クリーニング部材は、
支持体と、
上記支持体に支持されており、発泡体によって形成されたワイパクリーナと、を有しており、
上記インクの密度をAとし、上記クリーニング液の密度をBとしたとき、下記式
2が成り立
ち、
上記ワイパクリーナは、
上記ワイパの上記先端部と接触する接触部分と、
当該接触部分より上方に位置し、かつ、上記ワイパクリーナの上面及び上部であって上記ワイパの上記先端部よりも上方に位置しており、上記先端部と接触しない非接触部分と、を有している記録装置。
(式2) 0.03≦B-A≦0.17
【請求項2】
上記ワイパの上記先端部が上記接触部分に接触することによって上記先端部から上記接触部分に移動したインクは、時間の経過に伴って、上記接触部分から上記非接触部分に移動する請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
上記クリーニング液の密度Bは、1.08g/cm
3
以上1.22g/cm
3
以下である請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
上記インクの密度Aは、1.05g/cm
3
以上1.10g/cm
3
以下である請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
上記インクは、上記色材としての顔料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含を含
む水性インクであり、
上記クリーニング液は、水溶性有機溶剤を含む請求項1から4のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
上記水性インクは、樹脂微粒子を更に含む請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
上記クリーニング液は、水溶性有機溶剤を含み、
上記水溶性有機溶剤は、20℃における飽和蒸気圧が0.1hPa以下であり、上記クリーニング液全量に対して50質量%以上含む請求項1から6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
上記クリーニング液が含む上記水溶性有機溶剤は、20℃における飽和蒸気圧が0.02hPa以下であり、上記クリーニング液全量に対して50質量%以上含む請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
上記クリーニング液は、さらに水を含み、
上記クリーニング液全量における水の含有量は、50質量%以下である請求項7又は8に記載の記録装置。
【請求項10】
上記クリーニング部材は、上記ワイパが上記先端部を上方へ向けた姿勢において、当該先端部より上方に位置しつつ、相対移動するものである請求項1から9のいずれかに記載の記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体へ向かってヘッドから水性インクが吐出される記録装置であって、ヘッドのノズル面を拭うワイパの先端部が、クリーニング液を保持するクリーニング部材により洗浄される記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷ヘッドのノズルから吐出されたインクが付着した記録媒体が、ヒータにより加熱されることによって、インクが記録媒体に定着する印刷装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷ヘッドのノズルからインクを強制的に排出するパージや、印刷ヘッドのノズルからインク滴を連続的に吐出するフラッシングなどが実行された後、印刷ヘッドのノズル面がワイパにより拭われることによって、ノズル面に付着したインクが除去される。ノズル面から除去されたインクはワイパに付着するので、クリーニング液を保持するクリーニング部材がワイパと接触して、ワイパが洗浄される。
【0005】
クリーニング部材は繰り返しワイパと接触するので、クリーニング部材にはインクが累積的に貯まっていく。ワイパの洗浄を効果的に行うには、クリーニング部材においてワイパと接触する部分に、インクが蓄積されていない方が望ましい。
【0006】
本発明は、前述された事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリーニング液を保持するクリーニング部材において、ワイパの先端部と接触する部分に水性インクが留まりにくい手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る記録装置は、ノズルから水性インクを吐出するヘッドと、上記ヘッドのノズル面を拭う先端部を有するワイパと、上記先端部と接触するクリーニング部材と、上記クリーニング部材に保持されるクリーニング液と、を具備する。上記水性インクは、色材を含んでいる。上記クリーニング液の粘度は、120mPa・S以下である。上記水性インクの密度をAとし、上記クリーニング液の密度をBとしたとき、下記式1が成り立つ記録装置。
(式1) B>A
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クリーニング液を保持するクリーニング部材において、ワイパの先端部と接触する部分に水性インクが留まりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、記録装置10の内部構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、印刷ヘッド34、キャップ71、ワイパ72、及びクリーニング部材74を示す模式図である。
【
図4】
図4は、クリーニング動作を示す模式図である。
【
図5】
図5は、クリーニング部材74の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る記録装置10について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが向きと表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が方向と表現される。また、以下の説明においては、記録装置10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、排出口13が設けられている側を手前側(前面)として前後方向8が定義され、記録装置10を手前側(前面)から視て左右方向9が定義される。
【0011】
[記録装置10の外観構成]
図1に示されるように、プリンタ10は、筐体20と、筐体20に保持されるパネルユニット21、カバー22、給紙トレイ23、及び排紙トレイ24と、を備える。プリンタ10は、シート6(
図2参照)に画像を記録する。
【0012】
シート6は、記録媒体の一例である。シート6は、所定の寸法にカットされた記録媒体であってもよいし、シートが円筒形状に巻かれたロールから引き出されたものであってもよいし、ファンフォールドタイプのものであってもよい。また、シート6は、非コート紙であってもよいし、コート紙であってもよい。「コート紙」とは、例えば、上級印刷紙、中級印刷紙等のパルプを構成要素とした紙に、平滑性、白色度、光沢度等の向上を目的として、コート剤を塗布したものをいい、具体的には、上質コート紙、中質コート紙等があげられる。また、シート6は、粘着剤と剥離紙とが組み合わされたタック紙であってもよい。
【0013】
パネルユニット21は、タッチパネル及び複数の操作スイッチを備える。パネルユニット21は、ユーザの操作を受け付ける。
【0014】
図1に示されるように、給紙トレイ23は、筐体20の下部に位置する。排紙トレイ24は、筐体20の下部であって、給紙トレイ23の上に位置する。カバー22は、筐体20の前面の右部に位置する。カバー22は、筐体20に対して回動可能である。カバー22が開かれると、インクを貯留するタンク70にアクセス可能である。
【0015】
なお、本実施形態では、1つのタンク70のみが示されているが、タンク70は、ブラックなどの1色のインクを貯留するものに限定されず、例えば、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクをそれぞれ貯留する4つの貯留室を有するものであってもよい。
【0016】
[印刷エンジン50]
図2に示されるように、筐体20は、印刷エンジン50を内部に保持する。印刷エンジン50は、印刷ヘッド34、給送ローラ25、搬送ローラ26、排出ローラ27、プラテン28、及びヒータ38を主に備える。給送ローラ25は、給紙トレイ23に載置されたシート6に当接可能に、筐体20内に設けられた不図示のフレームに保持されている。給送ローラ25は、不図示のモータによって回転される。回転する給送ローラ25は、シート6を搬送路37に送り出す。搬送路37は、不図示のガイド部材によって区画された空間である。図示例では、搬送路37は、給紙トレイ23の後端から給紙トレイ23の上方となる位置まで湾曲して延びており、次いで、前方に向かって延びている。
【0017】
搬送ローラ26は、シート6の搬送方向における給紙トレイ23の下流に位置している。搬送ローラ26は、搬送ローラ26は、従動ローラ35とともに、ローラ対を構成している。搬送ローラ26は、不図示のモータによって回転される。回転する搬送ローラ26及び従動ローラ35は、給送ローラ25によって搬送路37に送り出されたシート6を挟持しつつ搬送する。排出ローラ27は、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流に位置している。排出ローラ27は、従動ローラ36とともに、ローラ対を構成している。排出ローラ27は、不図示のモータによって回転される。回転する排出ローラ27及び従動ローラ36は、シート6を挟持しつつ搬送し、排紙トレイ24に排出する。プラテン28は、前後方向8における搬送ローラ26と排出ローラ27との間であって、シート6の搬送方向における搬送ローラ26の下流、かつ排出ローラ27の上流に位置している。
【0018】
印刷ヘッド34は、搬送ローラ26と排出ローラ27との間に位置する。印刷ヘッド34は、いわゆるシリアルヘッドである。つまり、印刷ヘッド34は、左右方向9に沿って移動可能である。印刷ヘッド34は、常時は、後述されるメンテナンス位置に位置してキャップ71(
図3参照)により覆われている。印刷ヘッド34は、インクが流通する流路を内部に有する。当該流路は、チューブ31によって、タンク70と連通されている。すなわち、チューブ31を通じて、タンク70が貯留するインクが印刷ヘッド34に供給される。印刷ヘッド34は、プラテン28へ向かって開口する複数のノズル33を有する。流路を通じて印刷ヘッド34に供給されたインクは、印刷ヘッド34が移動しているときに、複数のノズル33から選択的にインク滴として吐出される。なお、印刷ヘッド34はシリアルヘッドではなく、ラインヘッドであってもよい。ラインヘッドの場合、ワイパ72(
図3参照)がラインヘッドに対して移動してノズル面が拭われる。
【0019】
印刷ヘッド34の下方に、プラテン28が位置する。プラテン28は、その上面がシート6の支持面である。各図には現れていないが、プラテン28の上面には、吸引圧が生ずる開口が形成されている。プラテン28の上面に生じた吸引圧によって、シート6がプラテン28の上面に密接する。
【0020】
図2及び
図3に示されるように、搬送路37の上方において、印刷ヘッド34の下流であって、且つ排出ローラ27の上流に、ヒータ38が位置する。ヒータ38は、所謂ハロゲンヒータである。
【0021】
図2に示されるように、ヒータ38は、印刷ヘッド34より搬送方向の下流、すなわち前方に位置する。ヒータ38は、赤外線を放射する発熱体であるハロゲンランプ40、反射板41、及び筐体42を有する。筐体42は、概ね直方体形状であり、下向きに開口する。筐体42の下壁に、開口43が位置する。開口43を通じて、ハロゲンランプ40や反射板41からの熱が外部へ放射されたり、遮断されたりする。
【0022】
筐体42の内部空間に、ハロゲンランプ40が位置する。ハロゲンランプ40は、細長な円筒形状であり、左右方向9が長手方向である。筐体42の内部空間において、ハロゲンランプ40の上方に、反射板41が位置する。反射板41は、セラミック膜などがコーティングされた金属板であり、開口43付近を中心軸とする円弧形状に湾曲している。なお、反射板41に代えて、セラミック膜などがコーティングされたハロゲンランプ40が用いられてもよい。
【0023】
ヒータ38は、開口43の下方を通過するシート6、またはシート6に付着したインクの少なくとも一方を加熱する。本実施形態では、ヒータ38は、シート6及びインクの双方を加熱する。インクが加熱されることによって、樹脂微粒子がガラス転移し、ヒータ38の下方を通過したシート6が冷えることによって、ガラス転移した樹脂が硬化する。これにより、シート6にインクが定着される。
【0024】
なお、ヒータ38は、シート又はインクを加熱可能なものであれば、ハロゲンヒータに限らない。例えば、ヒータ38は、カーボンヒータ、ドライヤー、オーブン、ベルトコンベアオーブン等であってもよい。
【0025】
[キャップ71及びワイパ72]
図3に示されるように、キャップ71は、ゴム等の弾性材料により構成される。キャップ71は、メンテナンス位置の印刷ヘッド34の下方に位置する。キャップ71は、上方に向かって開口するカップ形状である。キャップ71は、上下方向7に移動可能である。
図3において破線で示されるように、キャップ71は、メンテナンス位置にある印刷ヘッド34のノズル面33Aに密着して、全てのノズル33の開口を覆う。
【0026】
キャップ71には、廃インクチューブ71Aが接続されている。具体的には、キャップ71の底部には排出口が形成されている。排出口には、廃インクチューブ71Aの一端が流体連通可能に接続されている。廃インクチューブ71Aの他端は、廃インクタンク(図示せず)と接続されている。
【0027】
印刷ヘッド34は、キャップ71に覆われた状態で、フラッシング処理又はパージ処理が実行される。フラッシング処理又はパージ処理によって、印刷ヘッド34内のインクは強制的に排出される。印刷ヘッド34から排出されたインクは、キャップ71により受けられ、廃インクチューブ71Aを介して廃インクタンクに案内される。
【0028】
図3に示されるように、ワイパ72は、キャップ71の側方において上下方向7に移動可能である。ワイパ72は、ゴム等の弾性材料で構成されたワイパーブレードの先端を上向きに保持しつつ、上下方向7に移動する。ワイパ72が上方に位置するとき、左右方向9に沿って移動する印刷ヘッド34のノズル面33Aに、ワイパブレードの先端部72Aが当接する。これにより、印刷ヘッド34のノズル面33Aに付着したインク滴が、ワイパ72によって拭い取られる。
【0029】
[クリーニング部材74]
図3に示されるように、印刷ヘッド34の下方には、クリーニング部材74が位置する。クリーニング部材74は、クリーナキャリッジ75、及びワイパクリーナ76を備えている。クリーナキャリッジ75は、上面視で矩形形状の外形を有する樹脂製の枠体である。ワイパクリーナ76は、クリーナキャリッジ75に支持されている。ワイパクリーナ76は、概ね直方体形状を有する。ワイパクリーナ76は、ワイパ72の先端部72Aに付着したインクを拭うフォーム(発泡体)であって、例えばメラミンフォームなどが挙げられる。ワイパクリーナ76は、クリーニング液を保持する。ワイパクリーナ76の下面は、前後方向8及び左右方向9に沿っており、
図3に実線で示されるように下方(クリーニング位置)に位置するワイパ72の先端部72Aよりも若干下方に位置する。ワイパクリーナ76の上面及び上部は、下方(クリーニング位置)に位置するワイパ72の先端部72Aよりも上方に位置する
【0030】
[インクの組成]
以下、タンク70に貯留されるインク(水性インクの一例)の詳細が説明される。本実施形態においては、インクは、顔料としての樹脂分散顔料(色材の一例)と、樹脂微粒子と、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。
【0031】
顔料は、分散剤を伴わずに分散可能な自己分散顔料であってもよいし、樹脂分散顔料であってもよい。樹脂分散顔料は、例えば、顔料分散用樹脂(樹脂分散剤)によって、水に分散可能なものである。樹脂分散顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等があげられる。有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。これら以外の樹脂分散顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、78、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、48:3、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224、238及び254;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等があげられる。なお、インクは、樹脂分散顔料に加え、さらに、他の顔料及び染料等を含んでもよい。また、インクは、色材として染料のみを含んでいてもよい。
【0032】
インク全量における樹脂分散顔料の顔料固形分含有量は、特に限定されず、例えば、所望の光学濃度又は彩度等により、適宜決定できる。顔料固形分含有量は、顔料のみの質量であり、樹脂微粒子の質量は含まない。樹脂分散顔料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
樹脂微粒子としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。樹脂微粒子は、例えば、モノマーとして、さらに、スチレン、塩化ビニル等を含んでもよい。樹脂微粒子は、例えば、樹脂エマルジョンに含まれるものであってもよい。樹脂エマルジョンは、例えば、樹脂微粒子と、分散媒(例えば、水等)とで構成されるものである。樹脂微粒子は、分散媒に対して溶解状態ではなく、特定の粒子径の範囲で分散している。樹脂エマルジョンに含まれる樹脂微粒子としては、例えば、アクリル酸系樹脂、マレイン酸系エステル樹脂、酢酸ビニル系樹脂、カーボネート型樹脂、ポリカーボネート型樹脂、スチレン系樹脂、エチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂及びこれらの共重合体樹脂等があげられる。インク全量における樹脂微粒子の含有量は、特に限定されない。樹脂微粒子は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。これらの有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。
【0036】
インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0037】
インクは、例えば、樹脂分散顔料と、樹脂微粒子と、特定有機溶剤と、水と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0038】
[クリーニング液の組成]
以下、クリーニング部材74のワイパクリーナ76に保持されるクリーニング液の詳細が説明される。クリーニング液は、水溶性有機溶剤と、水と、を含む。
【0039】
水溶性有機溶剤の20℃における飽和蒸気圧が0.1hPa以下であることが好ましく、更に好ましくは20℃における飽和蒸気圧が0.02hPa以下である。水溶性有機溶剤の飽和蒸気圧がこの範囲であることにより、クリーニング液から水溶性有機溶剤が揮発しにくい。その結果、ワイパ72に付着したインクとワイパクリーナ76に保持されたクリーニング液とが置換されやすく、ワイパ72のクリーニング効果が長時間保持される。水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。これらの水溶性有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。クリーニング液全量における水溶性有機溶剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは70質量%以上である。ポリエチレングリコールの平均分子量は、例えば180~200である。
【0040】
水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。クリーニング液全量における水の含有量は、例えば、50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは30質量%以下である。水の含有量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0041】
クリーニング液の粘度は、120mPa・S以下であることが好ましく、更に好ましくは、80mPa・S以下であり、特に好ましくは、5mPa・S以上80mPa・S以下の範囲内である。
【0042】
クリーニング液の密度(B)は、インクの密度(A)に対して(式1)の関係であることが好ましくは、更に好ましくは(式2)の関係である。
(式1) B>A
(式2) B-A≧0.03
【0043】
[ワイパ72のクリーニング動作]
図3において実線で示されるように、先端部72Aを上方へ向けたワイパ72が印刷ヘッド34よりも下方に位置するときに、クリーニング部材74が左右方向9に沿って移動すると、ワイパ72の先端部72Aに、ワイパクリーナ76の下面及び下部が当接する。ワイパ72の先端部72Aにクリーニング液が付着することによって、先端部72Aに付着していたインクがワイパクリーナ76に流動して吸収される。クリーニング部材74が、ワイパ72の先端部72Aに当接しつつ、左右方向9に往復して移動することによって、先端部72Aに付着しているインクがクリーニングされる。
【0044】
クリーニング動作において、ワイパクリーナ76の上面及び上部は、ワイパ72の先端部72Aに当接しない。したがって、
図4(A)に示されるように、ワイパ72の先端部72Aからワイパクリーナ76に流動したインク5は、クリーニング動作の直後は、ワイパクリーナ76の下面付近に存在する。インク5の密度(A)は、クリーニング液の密度(B)よりも小さいので(B>A)、時間の経過に伴って、
図4(B)に示されるように、ワイパクリーナ76の下面付近に存在するインク5が上方に移動する。これにより、その後のクリーニング動作においては、インク5が殆ど存在しないワイパクリーナ76の下面及び下部に、ワイパ72の先端部72Aが当接することとなる。
【0045】
なお、クリーニング部材74は、ワイパ72が先端部72を上方へ向けた姿勢において、先端部72より上方に位置しつつ相対移動するものであれば、必ずしもワイパクリーナ76の下面が前後方向7及び左右方向9に沿っていなくてもよい。例えば、
図5(A)に示されるように、クリーニング部材74は、ワイパクリーナ76の下面が水平方向(左右方向9)に対して傾斜した状態で、クリーニング動作においてワイパ72の先端部72Aに対して相対移動してもよい。
【0046】
また、クリーニング部材74は、ワイパ72の先端部72Aと接触する接触部分と、当該接触部分より上方に位置しており、ワイパ72の先端部72Aと接触しない非接触部分と、を有すればよい。例えば、
図5(B)に示されるように、ワイパクリーナ76においてワイパ72と接触する面が上下方向7に沿っており、ワイパ72の先端部72Aが前後方向8又は左右方向9(
図5(B)では左右方向9)に沿った側方に向いた状態で、クリーニング部材74に対して相対移動してもよい。このとき、ワイパ72の先端部72Aが、ワイパクリーナ76の上部76Uまで相対移動しなければ、ワイパクリーナ72Aの上部76Uが非接触部分となる。そして、ワイパクリーナ76の下部76Lが接触部分となる。したがって、ワイパ72の先端部72Aからワイパクリーナ76の下部76Lに流動したインクは、時間の経過に伴って、ワイパクリーナ76の上部76Uに移動する。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実
施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0048】
[顔料分散液A]
顔料(カーボンブラック)20質量%、スチレン-アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物7質量%(酸価175mgKOH/g、分子量10000)に、純水を加えて全体を100質量%とし、攪拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れて、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルタでろ過することにより、顔料分散液Aを得た。なお、スチレン-アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0049】
[インクの調製]
以下の成分を表1に示す組成における樹脂微粒子及び樹脂分散顔料分散液を除いた成分を均一に混合してインク溶媒を得た。つぎに、樹脂微粒子を加え、均一に混合した後、樹脂分散顔料分散液を加えて全体を100質量%として混合物を得た。得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、インク1,2をそれぞれ得た。
樹脂微粒子:星光PMC(株)製の「ハイロース-X(登録商標)QE-1042」
水溶性有機溶剤:プロピレングリコール(20℃における飽和蒸気圧:0.1hPa)、グリセリン(20℃における飽和蒸気圧:0.001hPa)
界面活性剤:日信化学工業(株)製「オルフィン(登録商標)E1010」
【0050】
[クリーニング液の調製]
水に対して水溶性有機溶剤を表2に示す配合量として均一に混合して実施例1~8、及び比較例1~3のクリーニング液を得た。
水溶性有機溶剤:グリセリン(20℃における飽和蒸気圧:0.001hPa)、ジエチレングリコール(20℃における飽和蒸気圧:0.03hPa)、プロピレングリコール(20℃における飽和蒸気圧:0.1hPa)、トリエチレングリコールブチルエーテル(20℃における飽和蒸気圧:0.01hPa)
【0051】
【0052】
[インクの上昇]
実施例1~8及び比較例1~3のクリーニング液をメラミンフォーム(表面積400mm2、厚み5mm)に吸収させた。そのメラミンフォームの下面から、2μLのインク1又はインク2を接触させて、メラミンフォームにインクを吸収させた。1時間後及び2時間後にメラミンフォームをそれぞれ裁断して、その断面を観察して、下記基準に従って評価した。
AA:1時間後にメラミンフォームの上部までインクが上昇していた。
A:2時間後にメラミンフォームの上部までインクが上昇していた。
C:2時間後にメラミンフォームの上部までインクが上昇していなかった。
【0053】
[クリーニング液の保持性]
実施例1~8及び比較例1~3のクリーニング液をメラミンフォーム(表面積100mm2、厚み100mm)に吸収させた。24時間後にメラミンフォームを観察して、下記基準に従って評価した。
AA:メラミンフォームに吸収させたクリーニング液の24時間後の液面が、上面から20mm以下の高さにある。
A:メラミンフォームに吸収させたクリーニング液の24時間後の液面が、上面から20mmより下方の高さにある。
【0054】
実施例1~8及び比較例1~3の評価結果を表2に示す。
【0055】
【0056】
表2に示すとおり、実施例1~8では、インクの上昇にC評価がなかったが、比較例1~3では、インクの上昇がいずれもC評価であった。
また、インクの密度(A)とクリーニング液の密度(B)との関係が(式2)を満たさない実施例6では、インクの上昇がA評価であった。
また、クリーニング液の粘度が80mPa・Sより大きい実施例5では、インクの上昇がA評価であった。また、クリーニング液の粘度が、5mPa・S未満である実施例6では、クリーニング液の保持性がA評価であった。
【符号の説明】
【0057】
10・・・記録装置
28・・・プラテン
34・・・印刷ヘッド(ヘッド)
72・・・ワイパ
72A・・・先端部
74・・・クリーニング部材