(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、冷凍ペストリー生地
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20250109BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20250109BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20250109BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20250109BHJP
A21D 2/22 20060101ALI20250109BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20250109BHJP
A21D 10/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/16
A21D2/22
A21D13/80
A21D10/02
(21)【出願番号】P 2020107658
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 栄一
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-129755(JP,A)
【文献】特開2019-004780(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)食用油脂100質量部に対して、(B)アスコルビン酸又はその塩類を0.2~1.0質量部、及び(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.5~5.0質量部含有する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物
(但し、前記油脂組成物中、ステアリン酸カルシウムを含まない。)。
【請求項2】
穀粉100質量部に対して、請求項1記載の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を3~20質量部含有する冷凍ペストリー生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、冷凍ペストリー生地に関する。より詳しくは、ペストリーにおける作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させる冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、及び前記冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を含有する冷凍ペストリー生地に関する。
【背景技術】
【0002】
ペストリーとは、薄い生地膜から形成される多層構造を有するベーカリー製品である。パイ、デニッシュ、クロワッサンに代表されるペストリーは、サクサクとして歯切れの良い、特有の食感を有するために消費者から広く支持されている。
ペストリーの製造工程では、まず、小麦粉、砂糖、食塩、イースト、水などを練り込み用油脂とともに捏和して作製した穀粉生地に、シート状に成形された油脂組成物(ロールイン用油脂組成物)を乗せ、その上に穀粉生地を折り返してロールイン用油脂組成物を挟み込む。そして、このロールイン用油脂組成物を挟み込んだ穀粉生地に対して、圧延と折りたたみの操作を繰り返すことにより、ロールイン用油脂組成物と穀粉生地の多層構造を形成させる。この多層構造を有するものをペストリー生地といい、これを発酵、焼成することによりペストリーが得られる。
【0003】
生地を薄く伸展し、重ねることで多層構造を形成する工程は、ペストリー生地特有の工程である。このとき、ペストリー生地の伸展性が変化すると、過剰な縮みや伸びが発生し、分割後のペストリー生地重量の差異が生じる要因となる。ペストリー生地重量の差異を抑制するためには、ペストリー生地の状態に応じて、ペストリー生地の品温や圧延条件、圧延回数などの製造工程や製造機器の設定を変更しなければならないので作業性が低下する。そのため、ペストリー生地の伸展性を維持することは、良好な作業性を得るうえで重要な課題である。
【0004】
近年、ペストリー生地は、簡便性、省力化、生産性などの観点から、冷凍ペストリー生地の形態で保管、流通されている。冷凍ペストリー生地は、店頭や工場などで発酵、焼成することで、焼き立てに近い状態のペストリーを提供することができることから需要が高まっている。
しかし、冷凍ペストリー生地では、ペストリー生地に含まれる水分が氷結晶となることで生地へのダメージが生じるので、冷凍期間に比例して焼成したペストリーのボリュームや特有の食感が低下していく傾向にある。
【0005】
そこで、冷凍ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感の低下を改善する製造方法が検討されている。冷凍ペストリー生地の製造方法としては、例えば、特許文献1には、食感や焼成後のペストリーのボリュームを向上させるために、生地に含まれるグルテンを架橋させる作用を有するアスコルビン酸を冷凍生地中に添加する方法が記載されている。しかし、アスコルビン酸を冷凍ペストリー生地中へ添加することで、十分なボリュームの焼成したペストリーを得るためには、ペストリー生地の物性が硬くなり、伸展性が低下するので、冷凍ペストリー生地の製造においては、作業性が下がることになる。また、アスコルビン酸を冷凍ペストリー生地中へ添加することで、焼成したペストリーの食感が硬くなり、本来の歯切れのよさを低下させる。
【0006】
特許文献2には、水溶性大豆多糖類とアスコルビン酸を冷凍ペストリー生地に配合することで、冷凍障害の抑制や食感が改善することが記載されている。しかし、水溶性大豆多糖類とアスコルビン酸の配合は、冷凍1日後における焼成したペストリーのボリュームを向上させる効果があるものの、長期間冷凍保管した場合では、焼成したペストリーのボリュームを向上させる作用が低下して十分なボリュームを得られなくなる。また、水溶性大豆多糖類とアスコルビン酸の配合は、生地の伸展性を低下させるので、冷凍ペストリー生地の製造における作業性が下がることになる。
【0007】
特許文献3には、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼを冷凍ペストリー生地に配合することで、冷凍障害の抑制や焼成したペストリーのボリュームが向上することが記載されている。しかし、アスコルビン酸とアスコルビン酸オキシダーゼの配合は、生地の伸展性を低下させるので、冷凍ペストリー生地の製造における作業性が下がることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-4780号公報
【文献】国際公開第2014/017139号
【文献】特開平9-56323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冷凍ペストリー生地における焼成後のボリュームや食感を改善するための既存の方法は、冷凍ペストリー生地における3つの課題、すなわち、良好な作業性、焼成後のペストリーにおける十分なボリューム及び歯切れの良い食感を全て満たすものではない。そのため、ペストリー生地における作業性、焼成後のペストリーのボリューム及び食感を改善した冷凍ペストリー生地が望まれている。
本発明の課題は、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させる冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、及び前記冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を含有する冷凍ペストリー生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、食用油脂中に、アスコルビン酸又はその塩類、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有した油脂組成物を冷凍ペストリー生地に配合することによって、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上することができるという知見に至り、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]、[2]である。
[1](A)食用油脂100質量部に対して、(B)アスコルビン酸又はその塩類を0.2~1.0質量部、及び(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.5~5.0質量部含有する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物。
この冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物によれば、冷凍ペストリー生地に練り込んで用いることにより、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させる冷凍ペストリー生地を提供することができる。
[2]穀粉100質量部に対して、[1]の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を3~20質量部含有する冷凍ペストリー生地。
この冷凍ペストリー生地によれば、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させる冷凍ペストリー生地を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷凍ペストリー生地の製造工程における良好な作業性、焼成したペストリーにおける十分なボリューム及び歯切れの良い食感を有する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、冷凍ペストリー生地の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
[冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物]
本発明の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物は、(A)食用油脂100質量部に対して、(B)アスコルビン酸又はその塩類を0.2~1.0質量部、及び(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.5~5.0質量部含有するものである。
冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の形態は、本発明の効果が奏されるものであれば、特に制限されるものではない。冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の形態としては、例えば、ショートニング、油中水型乳化物、水中油型乳化物などが挙げられる。
本発明に含有するアスコルビン酸が、ペストリー生地中のグルテン同士の結びつきを強化し、冷凍によるペストリー生地へのダメージを低減させることにより、解凍後に焼成しても十分なボリュームが得られる。また、本発明に含有するジグリセリンモノ脂肪酸エステルが、ペストリー生地中のグルテンを細かくすることにより、ペストリー生地の伸展性を向上させる。これにより、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルが、アスコルビン酸の添加による生地の伸展性低下及び焼成品の歯切れの悪さを改善することができる。
【0015】
((A)食用油脂)
食用油脂は、食用に適する油脂であれば、特に制限されるものではない。食用油脂としては、例えば、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、コーン油などの天然の動植物油脂及びこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油などが挙げられる。また、これらの食用油脂は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0016】
食用油脂にアスコルビン酸又はその塩類、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを分散して油脂組成物とし、油脂組成物として冷凍ペストリー用生地に混合することにより、効率的かつ均一に冷凍ペストリー生地に各成分を分散することができる。
また、食用油脂は、生地へ練り込むことで、グルテンの形成を促す作用を有する。このグルテン形成の促進作用は、食用油脂中に含有するアスコルビン酸又はその塩類とジグリセリンモノ脂肪酸エステルのペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を改善する作用を相乗的に向上させることができる。一方、アスコルビン酸又はその塩類、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを食用油脂に分散しないで用いた場合では、効率的かつ均一に冷凍ペストリー生地へ分散することができないので、アスコルビン酸又はその塩類とジグリセリンモノ脂肪酸エステルのペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を改善する作用を向上させることは期待できない。
【0017】
食用油脂は、冷凍ペストリー生地への混合性、及びアスコルビン酸又はその塩類、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルとの相乗効果の観点から、硬過ぎず、軟らか過ぎない物性が必要である。食用油脂の物性としては、特に制限されるものではないが、例えば、(A)食用油脂の25℃におけるSFC(固体脂含量)が4%以上40%以下である。下限値としては、より好ましくは6%以上、更に好ましくは8%以上、特に好ましくは10%以上である。一方、上限値としては、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。食用油脂の25℃におけるSFC(固体脂含量)を4%以上40%以下とすることにより、本発明の効果をより一層発揮することができる。
なお、固体脂含量の測定は、例えば、測定装置として「SFC-2000R」(アステック(株)製)を使用して「2.2.9 固体脂含量(NMR法):基準油脂分析試験法2013」に準じて測定することができる。
【0018】
((B)アスコルビン酸又はその塩類)
アスコルビン酸又はその塩類は、食用に用いられるものであれば、特に制限されるものではない。アスコルビン酸又はその塩類としては、例えば、L-アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウムなどが挙げられる。また、アスコルビン酸又はその塩類は、多糖類や食用油脂でコーティングされたものを使用してもよい。
アスコルビン酸又はその塩類の市販品としては、例えば、Northeast Pharmaceutical Group Co.,Ltd.製の商品名「L-アスコルビン酸(ビタミンC)」、商品名「L-アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンCナトリウム)」、DSM株式会社製の商品名「アスコルビン酸(結晶)」、商品名「アスコルビン酸(微粉末)」、商品名「アスコルビン酸(超微粉末)」、商品名「アスコルビン酸(細粒)」、商品名「L-アスコルビン酸(結晶)」、商品名「L-アスコルビン酸(微粉末)、商品名「L-アスコルビン酸(超微粉末)、商品名「L-アスコルビン酸(細粒)」、商品名「アスコルビン酸散」、商品名「アスコルビン酸散 タイプEC」、商品名「アスコルビン酸カルシウム」、商品名「L-アスコルビン酸カルシウム」、商品名「アスコルビン酸ナトリウム(結晶)、「L-アスコルビン酸ナトリウム(結晶)」、BASFジャパン株式会社製の商品名「アスコルビン酸」、HEBEI WELCOME PHARMACEUTICAL CO.,LTD製の商品名「L-アスコルビン酸カルシウム」などが挙げられる。
また、これらのアスコルビン酸又はその塩類は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0019】
アスコルビン酸又はその塩類の含有量は、特に制限されるものではない。アスコルビン酸又はその塩類の含有量としては、例えば、食用油脂100質量部に対して0.2質量部以上1.0質量部以下である。下限値としては、より好ましくは0.4質量部以上である。一方、上限値としては、より好ましくは0.8質量部以下である。
アスコルビン酸又はその塩類の含有量を上記範囲とすることで、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上することができる。
なお、アスコルビン酸又はその塩類の含有量が食用油脂100質量部に対して0.2質量部未満の場合では、焼成したペストリーに十分なボリュームが得られず、食用油脂100質量部に対して1.0質量部より多い場合では、ペストリー生地における作業性や食感が低下する。
【0020】
((C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル)
ジグリセリンモノ脂肪酸エステルは、食用に用いられるものであれば、特に制限されるものではない。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、例えば、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノオレエート、ジグリセリンモノステアレートなどが挙げられる。また、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルのHLBは、5~8のものが好ましい。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの脂肪酸としては、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよいが、飽和脂肪酸の方が好ましい。また、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は、特に制限されるものではないが、炭素数12~22のものが好ましい。
ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、理研ビタミン株式会社製の商品名「ポエムDS-100A」、商品名「ポエムDO-100V」、商品名「ポエムDP-95RF」、商品名「ポエムJ-2081V」、商品名「ポエムDM-100」などが挙げられる。
また、これらのジグリセリンモノ脂肪酸エステルは、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0021】
ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は、特に制限されるものではない。ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量としては、例えば、食用油脂100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下である。下限値としては、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、特に好ましくは2.0質量部以上である。一方、上限値としては、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましく3.5質量部以下、特に好ましくは3.0質量部以下である。
ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量を上記範囲とすることで、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上することができる。
なお、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの含量が食用油脂100質量部に対して0.5質量部未満の場合では、生地の伸展性が下がることで、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーの食感が低下する。食用油脂100質量部に対して5.0質量部より多い場合では、伸展性が過剰となることで、ペストリー生地における作業性や焼成したペストリーのボリュームが低下する。
【0022】
(その他の成分)
本発明における冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)アスコルビン酸又はその塩類、(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステル以外に、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム、食感及び風味などを損なわない限り、必要に応じて、一般的に食品用途で使用される添加物を含有してもよい。添加物としては、例えば、加工澱粉、酵素、乳化剤、保存料、pH調整剤、色素、香料などが挙げられる。
乳化剤の具体例としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、重合度3以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ポリグリセリン縮合脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
本発明の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の製造方法としては、例えば、食用油脂を加熱、溶解し、アスコルビン酸又はその塩類及びジグリセリンモノ脂肪酸エステルを添加して混合した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーターなどの冷却混合機により急冷捏和することが挙げられる。
冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の混合に用いる混合装置としては、特に制限されるものではなく、例えば、プロペラ攪拌機、ホモミキサー、ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0024】
以上の特徴により、本発明の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)アスコルビン酸又はその塩類、(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステルの作用によって、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させるという効果を発揮することができる。
【0025】
[冷凍ペストリー生地]
本発明の冷凍ペストリー生地は、(A)食用油脂100質量部に対して、(B)アスコルビン酸又はその塩類を0.2~1.0質量部、及び(C)ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.5~5.0質量部含有する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を配合するものである。
本発明の冷凍ペストリー生地は、穀粉と冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を混錬した穀粉生地に、ロールイン用油脂組成物を挟み込み、圧延と折りたたみにより多層構造を有するペストリー生地とした後に冷凍したものである。冷凍ペストリー生地は、焼成することにより、例えば、クロワッサン、デニッシュ、パイなどの製造に用いられる。なお、冷凍ペストリー生地を焼成して得られるペストリーには、フィリングなどの詰め物をしたペストリーも含まれる。
穀粉は、食用に用いられるものであれば、特に制限されるものではない。穀粉としては、例えば、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉などが挙げられる。
【0026】
冷凍ペストリー生地における冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の配合量は、特に制限されるものではない。冷凍ペストリー生地における冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の配合量としては、例えば、穀粉100質量部に対して3質量部以上20質量部以下である。下限値としては、より好ましくは5質量部以上である。一方、上限値としては、より好ましくは10質量部以下である。
冷凍ペストリー生地における冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の配合量を上記範囲とすることで、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上することができる。
【0027】
冷凍ペストリー生地の製造方法は、冷解凍する点以外は通常のペストリー生地の製造方法と同様であり、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。
冷凍ペストリー生地の製造方法としては、例えば、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を配合した穀粉生地の間に、シート状に成形されたロールイン用油脂組成物を挟み込み、その後、圧延と折りたたみを繰り返すことによって生地中にロールイン用油脂組成物を層状に折り込んで、穀粉生地とロールイン用油脂組成物の薄い層を何層にも作り上げる。層状のペストリー生地は、圧延、切断、計量、成型、冷凍などの工程により冷凍ペストリー生地となる。冷凍ペストリー生地は、解凍して発酵、焼成することにより、ペストリー生地が膨化してペストリーとなる。
なお、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物と穀粉を混錬する混錬方法としては、例えば、ストレート法、中種法などの製パン法が挙げられる。冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物と穀粉の混練に用いる混錬装置としては、特に制限されるものではなく、例えば、ミキサーボウルなどの練り上げ装置が挙げられる。
【0028】
冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を含有するペストリー生地を冷凍する際には、冷凍ペストリー生地へのダメージを軽減するため、できるだけ急速に冷凍することが好ましい。ペストリー生地の成型については、冷凍前に行ってもよいし、冷凍後に行ってもよい。
また、冷凍ペストリー生地における発酵工程は、冷凍前に行ってもよいし、行わないで冷凍処理してもよい。
【0029】
本発明における冷凍ペストリー生地は、穀粉、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物以外に、必要に応じて、その他の原材料を含有してもよい。その他の原材料としては、例えば、イースト、イーストフード、乳化剤、ショートニングやラード、マーガリン、バター、液状油など油脂類、水、卵、加工澱粉、乳製品、食塩、糖類、グルタミン酸ソーダ類や核酸類などの調味料、保存料、ビタミン、カルシウムなどの強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー、粉末状のカカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、乾燥果実、小麦粉ふすま、全粒粉などが挙げられる。なお、イーストは、発酵作用の観点から、冷凍耐性を有するものが好ましい。
【0030】
以上の特徴により、冷凍ペストリー生地は、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物として、食用油脂、アスコルビン酸又はその塩類、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを加えることにより、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感を向上させるという効果を発揮することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0032】
(冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の製造)
表1、表2、表4に示す配合割合のとおり、以下の方法により冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を製造した。
すなわち、実施例1ではパーム油700g、菜種油200g、パームステアリン100gを70℃で加熱溶解したのち、乳化剤としてジグリセリンモノステアレート25gを添加し十分に撹拌させた後、50~55℃に降温し、粉末状のアスコルビン酸2gを添加して十分に撹拌を行った。ついでこれを、コンビネーターを用いて急冷練り上げすることで冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物を得た。実施例2~8又は比較例1~5は、表1又は表2に示す配合割合に従って、同様に製造した。
実施例6については、食用油脂に乳化剤を添加した後に水を加え、乳化させること以外は同様に製造した。
【0033】
各試験例で用いたアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ジグリセリンモノステアレート、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンポリリシノレート、テトラグリセリントリステアレートは、以下の商品を用いた。
〔アスコルビン酸〕
商品名「L-アスコルビン酸(ビタミンC)」(Northeast Pharmaceutical Group Co.,Ltd.製)
〔アスコルビン酸ナトリウム〕
商品名「L-アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンCナトリウム)」(Northeast Pharmaceutical Group Co.,Ltd.製)
〔ジグリセリンモノステアレート〕
商品名「ポエムDS-100A」(理研ビタミン株式会社製)
〔モノグリセリン脂肪酸エステル〕
商品名「エマルジーMS」(理研ビタミン株式会社製)
〔ポリグリセリンポリリシノレート〕
商品名「サンソフト818H」(太陽化学株式会社製)
〔テトラグリセリントリステアレート〕
商品名「SYグリスターMS-3S」(阪本薬品工業株式会社製)
【0034】
(冷凍ペストリー生地の製造)
表3に示す配合割合のとおり、以下の方法により冷凍ペストリー生地を製造した。すなわち、ミキサーボールに、強力粉1000gに対して50gの割合で実施例及び比較例で得た冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物、その他全ての原料を入れ、低速3分、中高速4分ミキシングして穀粉生地を製造した。
穀粉生地の捏ね上げ温度を25℃とした後に、-3℃の恒温庫に生地を入れて2時間冷やした。得られた穀粉生地1761gに対してロールイン用油脂組成物(商品名「ロワイヤルシートLT」(日油株式会社製))500gを折り込み、3つ折りを3回行い、-3℃の恒温庫で3時間寝かせてペストリー生地とした。冷やしたペストリー生地は、2.5mmまで圧延した後、9cm四方に分割、俵成型し、-30℃で急速冷凍して冷凍ペストリー生地とした。冷凍ペストリー生地は、ビニール袋へ密封して14日間、-20℃で冷凍保管した。冷凍保管した冷凍ペストリー生地は、ビニール袋から取り出して鉄板上で20℃、1時間解凍し、33℃、湿度75%のホイロにて60分間発酵させた後に、210℃のオーブンで12分間焼成してペストリー焼成品(デニッシュ)とした。
【0035】
(生地の作業性の評価)
生地の作業性の評価は、成型時の生地の伸展性を指標とし、作業性に問題がなく、良好な伸展性を有する比較例1を基準として比較した。伸展性は、9cm四方に分割した10個の生地の重量を測定して、試料の平均生地重量の差を下記の式1により算出して数値化した。
なお、伸展性の悪い生地では、成型時に2.5mmまで圧延した後に過剰な縮み(生地の収縮)が生じ、9cm四方に分割した際に重量が重くなる。一方、過剰な伸展性を示す生地では、同様の処理により生地重量が軽くなる。
【0036】
【0037】
生地の作業性は、以下のとおり評価した。
◎:比較例1との平均生地重量の差が5重量%未満
○:比較例1との平均生地重量の差が5重量%以上8重量%未満
△:比較例1との平均生地重量の差が8重量%以上12重量%未満
×:比較例1との平均生地重量の差が12重量%以上
なお、生地の作業性の評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0038】
(焼成品のボリュームの評価)
焼成品のボリュームの評価は、20℃で1時間冷却したペストリー焼成品の比容積をレーザー体積計(Selnac-Win VM2100A、株式会社アステックス製)で測定することにより行った。測定結果は、10個の焼成品にて測定し、その平均値とした。
焼成品のボリュームの評価は、以下のとおり評価した。
◎:比容積6.0以上
○:比容積5.0以上6.0未満
△:比容積4.0以上5.0未満
×:比容積4.0未満
なお、焼成品のボリュームの評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0039】
(焼成品の食感の評価)
焼成品の食感の評価は、20℃で1時間冷却したペストリー焼成品の最大応力値(N)を食品物性試験機(RHEONERII、株式会社山電製)で測定することにより行った。最大応力値(N)の測定は、長さ10cmのカッター歯の付いた治具で、焼成品の短面中央部を5mm/secで切断した時の最大応力値(N)を測定した。測定結果は、10個の焼成品につて測定し、その平均値とした。
焼成品の食感の評価は、比較例1の最大応力値(N)を100としたものに対する相対値を以下のとおり評価した。
◎:相対値が85未満
○:相対値が85以上95未満
△:相対値が95以上105未満
×:相対値が105以上
なお、焼成品の食感の評価については、◎、○を合格とし、△、×は不合格とした。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
表1、2に示すように、実施例1~8、比較例1~5を比較すると、食用油脂にアスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム及びジグリセリンモノステアレートを配合した実施例1~8の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物では、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感の全てが良好であった。一方、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はジグリセリンモノステアレートを所定量含まない比較例1~5の冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物では、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感の全てが良好となることはなかった。
また、実施例1~8より、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感が全て良好となる冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物に含有するアスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムとジグリセリンモノステアレートの含有量は、それぞれ0.2質量部以上1.0質量部以下及び0.5質量部以上5.0質量部以下であった。
【0044】
したがって、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物は、食用油脂にアスコルビン酸又はその塩類を0.2~1.0質量部、及びジグリセリンモノ脂肪酸エステルを0.5~5.0質量部含有することにより、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感の全てが良好となることが明かとなった。
【0045】
次に、穀粉に対する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の配合量について検討した。実施例9、10、比較例6、7の作製方法、評価方法は以下のとおりであり、評価結果は表4に示した。
(実施例9)
実施例3の油脂組成物30gを強力粉1000gに配合した。
(比較例6)
比較例1の油脂組成物30gを強力粉1000gに配合した。
冷凍ペストリー生地の製造、生地の作業性の評価、焼成品のボリュームの評価、焼成品の食感の評価は、実施例1~8、比較例1~5と同様である。ただし、生地の作業性の評価の指標である生地の伸展性における実施例9、比較例6との平均生地重量の差は、下記の式2により算出して数値化した。
【0046】
【0047】
(実施例10)
実施例3の油脂組成物200gを強力粉1000gに配合した。
(比較例12)
比較例1の油脂組成物200gを強力粉1000gに配合した。
冷凍ペストリー生地の製造、生地の作業性の評価、焼成品のボリュームの評価、焼成品の食感の評価は、実施例1~8、比較例1~5と同様である。ただし、生地の作業性の評価の指標である生地の伸展性における実施例10、比較例7との平均生地重量の差は、下記の式3により算出して数値化した。
【0048】
【0049】
【0050】
表4に示すように、実施例9、10、比較例6、7を比較すると、アスコルビン酸及びジグリセリンモノステアレートを含有する冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物の配合量は、穀粉100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の範囲において、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感が全て良好であった。
【0051】
したがって、冷凍ペストリー生地練り込み用油脂組成物は、穀粉100質量部に対して3質量部以上20質量部以下の含有量で配合することにより、ペストリー生地における作業性、焼成したペストリーのボリューム及び食感の全てが良好となることが明かとなった。