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  • 特許-吹付け方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】吹付け方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20250109BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D7/24 303A
B05D7/24 303B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020156204
(22)【出願日】2020-09-17
(65)【公開番号】P2022049910
(43)【公開日】2022-03-30
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 拓雄
(72)【発明者】
【氏名】板場 建太
(72)【発明者】
【氏名】木村 志照
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-051506(JP,A)
【文献】特開平02-099587(JP,A)
【文献】特開2008-045314(JP,A)
【文献】特開2007-031214(JP,A)
【文献】特開2012-006999(JP,A)
【文献】特開昭49-039620(JP,A)
【文献】特開2008-223359(JP,A)
【文献】特開2010-095867(JP,A)
【文献】特開平08-188459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
E04G 21/00-21/10
C04B 2/00-32/02
40/00-40/06
C09K 17/00-17/52
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
E02D 3/12
17/00-17/20
E21D 10/00-19/06
23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付け位置に対し、吹付け装置の配管を介して、ベントナイト混合物、水、及びポリカルボン酸塩を主成分とする分散剤を含む材料を吹付ける吹き付け方法であり、
前記材料の含水比が、JIS A 1210で規定される最適含水比の±2%であることを特徴とする吹き付け方法
【請求項2】
前記材料が、珪砂を更に含む請求項1記載の吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃棄物の処分方法として、専用の坑道を使用し、放射性廃棄物を地下施設に運搬することが計画されている。このような地下施設を閉鎖する場合、使用した坑道を埋め戻す必要がある。ここで、埋め戻しに際しては、地下水による放射性廃棄物の流出を防止するため、坑道内に低透水層を形成することが検討されている。
【0003】
このような低透水層を形成するために、ベントナイトを含む材料を用いた吹付け方法が検討されている。吹付け方法は、たとえば湿式及び乾式がある。湿式は、所定量の水分を加えて粘着力を持たせたベントナイトを吹付け用のホースで空気圧送する方法である。乾式は、乾燥したベントナイトを吹付け用のホースで空気圧送し、吹付ける直前において水分を供給しつつ吹付ける方法である。
【0004】
特許文献1には、ベントナイトを用いる湿式の吹付け工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-223359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ベントナイトは水分を含むことにより膨潤する。湿式の吹付け方法を用いる場合、膨潤したベントナイトが吹付け用のホースやノズルの内面に徐々に付着し、結果的に吹付け用のホースやノズルが閉塞する可能性が高い。
【0007】
本発明は、ベントナイトを用いる吹付け方法において、配管の閉塞を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ベントナイトを含む材料に分散剤を添加した場合、当該材料の粘性が低下し、吹付け用のホースやノズルを閉塞させることなく吹付けが可能となるという知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0009】
具体的には、本発明の一実施態様は、吹付け位置に対し、吹付け装置の配管を介して、ベントナイト混合物及び分散剤を含む材料を吹付ける吹き付け方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ベントナイトを用いる吹付け方法において、配管の閉塞を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る吹付け装置を示す図である。
図2】実施例において、配管内に付着した材料を示す図である。
図3】実施例における吹付け状況(分散剤なし)を示す図である。
図4】実施例における吹付け状況(分散剤あり)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0013】
本実施形態に係る吹付け方法で使用する材料は、ベントナイト混合物及び分散剤を含む。
【0014】
==ベントナイト混合物==
ベントナイト混合物は、少なくともベントナイト及び水を含む。
【0015】
ベントナイトは、ベントナイト鉱石から製造した粉状または粒状の材料である。ベントナイトは、高い粘性及び吸水性を有する。ベントナイトは、吸水により膨潤し、固形状態では低い透水性を示す。
【0016】
具体的に、ベントナイトは、Na型ベントナイトやCa型ベントナイトを用いることができる。たとえば、粉状のNa型ベントナイトとして、クニゲルV1(「クニゲル」は登録商標。クニミネ工業株式会社製)を用いることができる。
【0017】
また、ベントナイト混合物の含水比は、JIS A 1210で規定される最適含水比の±2%程度であることが好ましい。ベントナイト混合物の含水比をこのように設定することにより、低透水層(後述)の密度を高くすることができる。
【0018】
ベントナイト混合物は、ベントナイト以外の他の固形分として、砂(たとえば珪砂)、礫、土等を含んでもよい。
【0019】
==分散剤==
分散剤は、ベントナイト混合物の粘性を低下するためのものである。分散剤は、スルホン酸塩を主成分とするものが好ましく、ポリカルボン酸塩またはポリリン酸塩を主成分とするものがより好ましい。なお、分散剤は水を含む。
【0020】
本実施形態に係る吹付け方法で使用する分散剤の割合は、ベントナイト混合物の重量比で0.1~0.5質量%であることが好ましい。分散剤の割合が0.1質量%より低い場合、材料全体に十分に混ざりきらない。分散剤の割合が0.5重量%より高い場合、ベントナイト混合物が凝集する可能性がある。
【0021】
また、本実施形態に係る吹付け方法で使用する材料全体(ベントナイト混合物及び分散剤)の含水比は、JIS A 1210で規定される最適含水比の±2%程度であることが好ましい。
【0022】
==その他の添加剤==
本実施形態に係る吹付け方法で使用する材料は、ベントナイト混合物及び分散剤の性能に影響を及ぼさない範囲で適宜の添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
==吹付け方法==
本実施形態に係る吹付け方法は、吹付け位置に対し、吹付け装置の配管を介して、ベントナイト混合物、及び分散剤を含む材料を吹付ける。
【0024】
吹付け位置は、材料が吹付けられる部分である。たとえば、放射性廃棄物を地下施設に運搬するための坑道を埋める場合、吹付け位置は坑道内部となる。なおこの場合、材料は坑道の埋め戻し材として用いられることとなる。
【0025】
吹付け装置は、吹付け位置に対して材料を吹付ける。吹き付け装置は、装置単独で用いてもよいし、重機のような他の装置に取り付けた状態で用いてもよい。
【0026】
図1は、本実施形態に係る吹付け装置1を示したものである。吹付け装置1は、本体部10、ホース20、及びノズル30を有する。
【0027】
本体部10は、材料を収容する収容部や材料を空気圧送するためのコンプレッサー(いずれも図示なし)等を含む。材料は、外部のミキサー装置で予め混合したものを本体部10の収容部に供給してもよいし、本体部10にミキサーを設け、本体部10内で混合してもよい。
【0028】
ホース20は、一端が本体部10と接続され、空気圧送された材料をノズル30まで導くための長尺の管である。ホース20は、可撓性を有してもよいし、剛性を有してもよい。ノズル30は、ホース20の他端(本体部10と接続される端部とは反対側の端部)に設けられた、材料を吐出するための管である。坑道を埋める際に用いる吹付け装置の場合、ホース20及びノズル30の長さは、15m~30m程度が好ましい。また、ホース20の内径は60~80mm程度、ノズル30の内径は30~60mm程度が好ましい。なお、ホース20とノズル30の内径は同じでもよいし、異なっていてもよい。具体例として、ノズル30の先端の直径が、ホース20の先端の直径よりも小さくなっていてもよい。ホース20及びノズル30は、「配管」の一例である。
【0029】
なお、吹付け装置は、吹付け位置に対して材料を吹付けるための配管を有する構成であれば、図1の構成に限られない。一方、放射性廃棄物を地下施設に運搬するための坑道は狭いため(たとえば、直径4m程度)、坑道を埋める際に用いる吹付け装置は、一般的な吹付け装置よりも小さいことが好ましい。
【0030】
ベントナイト混合物に対して分散剤を添加することよりベントナイト混合物の粘性が低下するため、材料が吹付け装置の配管内を通過する際に付着しにくくなる。すなわち、ベントナイト混合物及び分散剤を含む材料は、配管を閉塞することなく、吹付け位置に吹付けることができる。
【0031】
吹付け位置に吹付けられた材料は、固化することで低透水層を形成する。低透水層は、地下水等の流出を抑制するための層である。低透水層の透水係数は、たとえば1.0×10-8m/s以下である。
【0032】
==実施例==
分散剤を含む材料または分散剤を含まない材料を用いた吹付けの実験を行った。
【0033】
(使用した材)
使用した材は以下のとおりである。
ベントナイト:クニゲルV1(Na型ベントナイト。クニミネ工業株式会社製)
珪砂:3号及び5号の混合物(乾燥質量比は50:50。鹿島産)
分散剤:ポリカルボン酸塩を主成分とする分散剤
【0034】
(吹付け用の材料の作製方法)
珪砂3号(湿潤質量125.3kg)と珪砂5号(湿潤質量125.6kg)をミキサーに投入し、30秒間撹拌した。その後、ベントナイト(湿潤質量276.8kg)を投入し、30秒間撹拌した。ミキサーは、2軸の強制練りミキサー(容量0.5m)を用いた。
【0035】
その後、ミキサーに分散剤の水溶液を投入し、300秒間撹拌して吹付け用の材料を作製した。一方、分散剤を含まない場合は水のみを投入した。なお、水の量は、それぞれ材料全体の含水比が15.8%となるように調整を行った。
【0036】
(材料の吹付け)
上記作製方法により作製された材料のうち、50mmのふるい目を通過したものを吹付け装置に投入し、吹付けを開始した。吹付け装置は、材料の圧送距離(配管の長さ)が20m、ホースの内径75mm、吹付け用のノズルの内径が40mmのものを用いた。また、吹付け装置において、吹付けの空気量を12m/hとし、ローターの回転数を5rpmとした。なお、材料の吐出量は、吹付けの空気量とローターの回転数により決定される。
【0037】
(実験結果)
分散剤を含まない材料を用いた場合、吹付け開始後1分で吐出量が大きく低下し、吹付け装置の運転を停止した。配管内を確認したところ、図2(a)、(b)に示すような材料の塊が形成されていた。この塊は、水分を含んで膨潤したベントナイトを含む材料が配管内に付着したものであり、この塊により配管が閉塞したものと考えられる。また、分散剤を含まない材料を用いた場合、図3に示すように、作業時にベントナイト混合物による粉塵が発生した。
【0038】
一方、分散剤を含む材料を用いた場合、吹付け装置の運転を停止することなく、全ての材料(1パッチ分の500kg)を吐出することができた。また、図4に示すように、作業時にベントナイト混合物による粉塵は殆ど発生しなかった。
【0039】
この結果は、たとえば以下のような理由によると考えることができる。すなわち、分散剤を含まない材料の場合、材料中において水分を含んで膨潤した状態のベントナイトと、膨潤していない状態のベントナイトとが混在している。そして、膨潤した状態のベントナイトの粒子間に更に水分が存在することにより、ベントナイトの粘性が高まる結果、配管内に付着しやすくなる。また、膨潤していないベントナイトは、乾燥した状態であるため、吹き付けに伴って飛散しやすくなる。一方、分散剤を添加することにより、材料中において水分が均一になる結果、ほとんどのベントナイトが膨潤した状態となる。すなわち、乾燥した状態のベントナイトは殆ど存在しないため吹付けに伴って飛散することがない。また、膨潤した状態のベントナイトが互いに静電気的に反発しあうことにより、粘性が低下するため、配管内に付着することなく、吐出することが可能となったと考えることができる。
図1
図2
図3
図4