(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】混繊糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20250109BHJP
D02G 3/22 20060101ALI20250109BHJP
D01F 8/12 20060101ALI20250109BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/22
D01F8/12 Z
D01F8/14 C
(21)【出願番号】P 2020164823
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼田 紘佑
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 則雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 正人
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-099631(JP,A)
【文献】特開平02-307931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00- 3/48
D02J1/00-13/00
D01F8/00- 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径の異なる3種類の繊維が混在したマルチフィラメントにおいて、繊維径が最大の繊維(繊維A)、繊維径が中間の繊維(繊維B)および繊維径が最小の繊維(繊維C)が偏りなく均質に存在し、繊維Aに対する繊維Bの存在比R
ABが1.0~3.0、繊維Aに対する繊維Cの存在比R
ACが14.8~98.0であり、繊維Aがポリアミド、繊維Bおよび繊維Cがポリエステルからな
り、繊維Aに対する繊維Bの繊維径比が0.25以上0.60以下、繊維Aに対する繊維Cの繊維径比が0.05以上0.25以下であり、繊維Aの繊維径が7.5μm以上25μm以下、繊維Cの繊維径が0.50μm以上5.0μm以下であり、繊維Aの異形度が1.2以上2.0以下であることを特徴とする混繊糸。
【請求項2】
請求項1
に記載の混繊糸を含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維径の異なる3種類の繊維が混在したマルチフィラメントに関するものであり、天然綿調布帛を得るのに適した混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドなどからなる合成繊維は優れた力学特性や寸法安定性を有しているため、衣料用途から非衣料用途まで幅広く利用されている。しかし、人々の生活が多様化し、より良い生活を求めるようになった昨今では、衣料をはじめとする多くの用途で、より高度な風合いや機能が求められている。なかでも、“繊維の極細化”は、繊維自体の特性や布帛とした後の特性に対する効果が大きく、繊維の断面形態制御という観点で、繊維の高付加価値化における主流技術のひとつである。
【0003】
繊維は細くて長い形態的な特徴を有した素材であり、その極細化はその特性を高めることを意味し、具体的には、その重量当たりの表面積である比表面積や材料のしなやかさが増加する。このため、ソフトな風合いに加え、布帛表面の微毛タッチ、ドレープ性といった極細繊維ならではの特長を訴求するテキスタイルになり、比較的古くから人工皮革や新触感テキスタイルとして利用され、最近では緻密な布帛形態を利用した防風性や吸水性、撥水性といった機能性衣料にも利用されている。
【0004】
しかしながら、材料力学の観点から考えると、繊維径の縮小化に伴い、繊維径の4乗に比例して断面2次モーメント(材料の剛性)が低下することとなり、極細繊維単独では、布帛に仕立てた際のハリコシや嵩高性が低下してしまうため、テキスタイルに仕立てる際には、その他の繊維と混繊したりする等して構成する場合が多い。具体的には、極細繊維を繊度や力学特性、収縮特性の異なるマルチフィラメントとの混繊糸とすることで、極細繊維特有の特徴を活かしつつも嵩高感や力学特性も兼ね備えた布帛を得ることができることが知られている。
【0005】
一般的に、マルチフィラメントの紡糸・延伸工程にて混繊する手法や、エアー交絡や合撚などの高次加工により混繊糸を得る手法が用いられている。これら製造方法は、期待する混繊糸の形態に応じて選択することができ、様々な機能性を有する布帛を可能とすることができる。
【0006】
特許文献1では、単糸繊度の異なる2種類の繊維をエアー交絡により混繊することで、細繊度でありながら嵩高でソフトな風合いを有する極細混繊糸が提案されている。
【0007】
特許文献2では、割繊性複合繊維と沸水収縮率が5%以上高いポリエステル繊維との異収縮混繊糸とした後に、割繊性複合繊維を割繊させることにより極細繊維を発生させて得た、優れた風合いと自然な杢調外観を有する混繊仮撚糸が提案されている。
【0008】
特許文献3では、少なくとも3種類以上のフィラメント糸条群の混繊糸において、低収縮性の極細繊維を混繊糸表面に配し、高収縮性の太繊度糸を内層、低収縮性の中繊度糸を中間層および表層に配することで、さらに機能的な布帛を可能とする異繊度異収縮混繊糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-196227号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開2005-290638号公報(特許請求の範囲)
【文献】特開平10-212629号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、後加工で別々に採取した糸を混繊状態とし、収縮性の高い繊維を芯部に、極細繊維を鞘部に配した2層構造糸を形成させるものであり、各繊維が偏在していることをその技術思想としている。この場合、布帛表面には極細繊維が主として配されることとなり、織編の組織を工夫しないと、過度な摩擦で鞘部として配置された極細繊維が不必要に毛羽立ってしまう場合がある。また、ここで開示される繊維存在形態では、極細繊維が緻密に存在することとなるため、糸束全体で見るとその嵩高性の発現には制約があり、狙いとした特性を十分に発揮できない場合がある。
【0011】
特許文献2では、割繊性複合繊維と高収縮繊維との混繊糸とし、割繊処理により極細繊維を発生させているが、これら繊維の混繊は仮撚りや交絡といった後混繊により達成されることに起因して、極細繊維が部分的に密に配置されることとなり、更には、高次加工工程で加わる熱によって、高収縮繊維が大きく収縮し、糸束中心方向に偏在化する。このため、上記した極細繊維の偏在化が更に顕著となり、繊維径が異なる繊維が均一分散された混繊糸が織りなす独特の触感や風合いを達成できる形態にならない場合があった。
【0012】
特許文献3では、極細繊維を含む繊度の異なる3種類以上のフィラメント糸条群が一定の比率で混繊されていることを技術ポイントとしている。この効果により、糸束内で中繊度糸が太繊度糸間に存在することになり、高次加工工程中に起こる繊維の収縮に起因した太繊度糸および細繊度糸の偏在化が抑制される効果を狙うものである。しかしながら、3種類以上の糸条群は別々に製造した後に、最終的に後混繊工程で混繊するものである。このため、各糸条群の偏在化が解消されたことにはならず、それぞれの糸条群が部分的には密に配置された、不均質分散状態となり、狙いとする効果を最大限に発揮できるものではなく、表面の外観や触感が悪化する場合があった。
【0013】
以上のように、従来技術により達成される極細繊維が混在した混繊糸は、極細繊維の部分的な偏在化に起因して、極細繊維ならではの布帛特性を十分に発揮できる形態とは言い難く、マルチフィラメント中において極細繊維が均質に、かつ嵩高く存在し、極細繊維由来の触感、更には比表面積の増加による機能を効果的に発揮する布帛を実現する混繊糸が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した従来技術の課題は、以下によって解消される。すなわち、
(1)繊維径の異なる3種類の繊維が混在したマルチフィラメントにおいて、繊維径が最大の繊維(繊維A)、繊維径が中間の繊維(繊維B)および繊維径が最小の繊維(繊維C)が偏りなく均質に存在し、繊維Aに対する繊維Bの存在比RABが1.0~3.0、繊維Aに対する繊維Cの存在比RACが14.8~98.0であり、繊維Aがポリアミド、繊維Bおよび繊維Cがポリエステルからなり、繊維Aに対する繊維Bの繊維径比が0.25以上0.60以下、繊維Aに対する繊維Cの繊維径比が0.05以上0.25以下であり、繊維Aの繊維径が7.5μm以上25μm以下、繊維Cの繊維径が0.50μm以上5.0μm以下であり、繊維Aの異形度が1.2以上2.0以下であることを特徴とする混繊糸、
(2)前記(1)に記載の混繊糸からなる繊維製品、
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の混繊糸は、3種類の異なる繊維径を有する繊維、すなわち繊維径が最大の繊維(繊維A)と繊維径が中間の繊維(繊維B)と繊維径が最小の繊維(繊維C)とが混在するマルチフィラメントでありながら、各繊維が均質分散状態で存在するものである。このため、本発明の混繊糸よりなる布帛では、繊維Cすなわち極細繊維が布帛の表面およびその断面方向においても均質分散状態にあるため、嵩高性を損なうことなく、極細繊維由来の特性を如何なく発揮することができ、特徴的な柔軟性や風合いを生み出すとともに、極細繊維が織り成す緻密構造による優れた吸水拡散性などの機能性を有する、従来の極細繊維からなる布帛では達成できなかった独特の触感を有した天然綿調布帛になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の混繊糸を構成する繊維の繊維径分布の一例の概要図である。
【
図2】本発明の混繊糸の横断面構造の概略図である。
【
図3】本発明の異形度を説明するための繊維断面の概略図である。
【
図4】本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について望ましい実施形態と共に記述する。
【0018】
本発明の混繊糸は、繊維径の異なる3種類の繊維が混在しているマルチフィラメントを言い、繊維径が最大の繊維(繊維A)、繊維径が中間の繊維(繊維B)および繊維径が最小の繊維(繊維C)が偏りなく均質に存在することが必要であり、本発明における重要な要件である。
【0019】
本発明でいう“繊維径の異なる3種類の繊維が混在しているマルチフィラメント”とは、混繊糸の横断面における各繊維径を測定したとき、横軸を繊維径、縦軸を本数とした図において、
図1に例示するような3つの繊維径分布を有する(3つのピークを有する)状態のことを示す。ここで、各分布の範囲(分布幅)に入る繊維径を有した繊維の群を1種類とし、この繊維径分布が3個存在することが、本発明でいう繊維径の異なる3種類の繊維が混在しているということを意味している。
【0020】
ここでいう繊維径は以下のようにして求めるものである。すなわち、混繊糸をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋したもの、または混繊糸より構成される布帛の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で50本以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影する。混繊糸の断面が撮影された画像から無作為に抽出した50本の繊維の断面積を測定する。ここでいう断面積とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面の面積のことを意味する。得られた断面積を真円の面積として換算した際の直径を繊維径とし、μm単位で小数点第2位を四捨五入した値とする。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を繊維径とした。
【0021】
また、繊維径の分布幅とは、各繊維の群の中で最も存在数が多い繊維径(ピーク値)の±30%の範囲を意味する。当該分布幅においては、繊維製品としての品位を向上させるといった観点から、各繊維群はピーク値±20%の範囲で分布していることが好ましく、さらにピーク値±10%の範囲で分布していることがより好ましい。また、本発明の目的をより効果的にするためには、各繊維径分布は不連続であり、独立した分布をなすことが好適である。
【0022】
本発明の目的を達成するためには、前述したような3種類の異なる径を有する繊維がマルチフィラメントの同一断面内において、繊維径が最大の繊維(繊維A)、繊維径が中間の繊維(繊維B)および繊維径が最小の繊維(繊維C)が偏りなく均質に存在することが重要である。
【0023】
ここでいう“偏りなく均質に存在する”とは、繊維A、繊維B、繊維Cについて、下記式で定義される存在指数バラツキ(存在指数CV%)が20%以下であることを意味するものである。
存在指数バラツキ=(存在指数の標準偏差/存在指数)×100(%)
ここで、存在指数は以下のようにして求めるものである。混繊糸または混繊糸より構成される布帛の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維Aが10本以上観察できる倍率として画像を撮影する。2次元的に撮影された画像について、
図2に一例を示すように、繊維A(
図2中の4)を1本無作為に抽出(
図2中の(1))し、抽出した繊維Aの中心点から繊維Aが10本含まれるように真円を描き(
図2中の破線7)、該真円の内側に存在する繊維A、繊維B(
図2中の5)、繊維C(
図2中の6)の本数を計数して、該真円内に存在する繊維の総数に対する繊維A、繊維B、繊維Cそれぞれの本数の割合を存在指数とする。この際、該真円の内側に繊維断面積の1/2以上が含まれている場合は繊維1本として計数する。この値を同様に撮影した20画像について評価し、その平均値を存在指数として評価し、この存在指数バラツキから混繊糸に含まれる各繊維の均質性を評価した。
【0024】
ここでいう存在指数バラツキが、繊維A、繊維B、繊維Cのいずれにおいても20%以下であれば、混繊糸中に存在する各繊維が実質的に偏りなく均質に存在するものと判断することができ、本発明の目的を鑑みると、各繊維の存在指数バラツキを係る範囲とすることが重要な要素であることを見出したのである。係る範囲であれば、本発明の混繊糸からなる布帛において、繊維Cすなわち極細繊維が、布帛の表面およびその断面方向においても均質分散状態にあるため、嵩高性を損なうことなく、極細繊維由来の独特の触感や風合いを如何なく発揮することができるのである。更には、高次加工工程での熱収縮により引き起こされる繊維の偏在化を抑制するという観点からも、繊維Bがマルチフィラメント内で均質分散していることが効果的であり、特に繊維Aを高収縮繊維とした場合には、より顕著な嵩高性を発現することが可能となる。
【0025】
極細繊維の機能をより顕著にするという観点では、各繊維がマルチフィラメント内で均質分散していることが好ましいことから、各繊維の存在指数バラツキが15%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10%以下が好ましい範囲として挙げられる。
【0026】
また、本発明の混繊糸は、各繊維が担う役割を効果的に発揮するため、繊維Aに対する繊維Bの存在比RABが1.0~3.0、繊維Aに対する繊維Cの存在比RACが3.0~100を満たすことを要件としている。
【0027】
ここでいう存在比とは、下記式で定義するものである。
RAB=(繊維Bの存在指数)/(繊維Aの存在指数)
RAC=(繊維Cの存在指数)/(繊維Aの存在指数)
本発明における繊維Bは、マルチフィラメント内で各繊維が均質な混繊状態を保持するために不可欠な存在であり、3種類の繊維が均等に配置されながら、かつ糸束の嵩高い形態を維持する役割を担っている。
【0028】
すなわち、例えば、本発明の繊維は織編等の加工を受け、布帛になった後に、様々な乾熱、あるいは湿熱の状態で高次加工されることとなる。この際、各繊維は、それぞれの糸特性に応じて収縮することとなるが、3種類の繊維が不均一に存在する場合や2種類の繊維により構成される場合には、太繊維の収縮に、その他の繊維が引っ張られ、繊維の偏りが助長されることとなる。
【0029】
本願発明の繊維の場合には、中間の繊維径を持った繊維Bが糸束中に均等に配置されている。特に、糸束中における繊維Aに対する繊維Bの存在比RABが上述する範囲内にある場合には、繊維Bが繊維Aと繊維Cの間に存在する橋掛けとなることで、繊維Aが収縮することにより生じる糸束中心方向への移動を大きく抑制し、繊維Bに支えられながらも、糸束表面に浮いたような状態が維持されることで、極細繊維による嵩高構造が形成され、極細繊維独特の柔軟性や風合いを効果的に発現することができるのである。この繊維Bによる橋掛け構造は、マルチフィラメント全体においても、各糸束が嵩高く形態を維持されることでも、繊維の偏りが起こりにくくなり、このマルチフィラメントからなる布帛の外観や触感を非常に優れたものにするのである。
【0030】
この状態が維持されることが本発明の特徴となるが、混繊糸内における隣り合う2本の繊維Aの間に繊維Bが少なくとも1本存在する状態が好ましい形態であることから、本発明における存在比RABの下限は1.0となり、繊維Aならびに繊維Bの効果が優位に働く範囲として、存在比RABの実質的な上限は、3.0ということになる。
【0031】
また、本発明の混繊糸において、繊維Aに対する繊維Cの存在比RACが上述する範囲内にあれば、繊維Cすなわち極細繊維が生み出す比表面積効果を優位に発揮することができる布帛となり、ドレープ性などの優れた特性を発揮することが期待できる。すなわち、該存在比が大きいほど、極細繊維由来の特性をより顕著に発揮するという点では好ましいが、布帛としての嵩高性や力学特性といった観点から鑑みると、存在比RACの上限は100としている。また、本発明において、極細繊維特有の効果が優位に働く範囲として、存在比RACの下限を3.0ということにしている。
【0032】
以上の要件を満たす混繊糸は、織編物などの布帛とした場合に、繊維径の異なる各繊維が均質分散した状態で存在することとなり、好適な嵩高性を確保するとともに、極細繊維独特の柔軟性や風合い、適度な毛羽感を効果的に発現し、従来にはない天然調布帛となり得るのである。
【0033】
次いで、本発明の混繊糸は、繊維Aに対する繊維Bの繊維径比が0.60以下、繊維Aに対する繊維Cの繊維径比が0.25以下であることが好ましい範囲として挙げられる。
【0034】
本発明の目的は、極細繊維独特の触感や風合いに優れた混繊糸あるいはその混繊糸からなる布帛を得ることにあり、本発明の効果をより効率的に発揮するためには、繊維Aに対する繊維B、繊維Cの繊維径比が上記の範囲内であることが好適なのである。
【0035】
本発明の混繊糸においては、混繊糸よりなる布帛の触感や風合いといった点については繊維Aおよび繊維Cが担うこととなることから、本発明の目的効果を損なわないために、本発明では繊維Aに対する繊維Bの繊維径比を0.60以下が好ましい範囲として挙げられる。しかしながら、繊維Bの繊維径が過度に小さくなると、繊維Bの剛性が低下し、混繊糸の骨格をなす繊維Aの収縮による局在化がテキスタイルの一部では発生する場合もある。このため、本発明では繊維Aに対する繊維Bの繊維径比の下限は0.25とすることが好ましい。
【0036】
また、本発明の目的とする極細繊維の独特の優れた風合いをより効率的に活かすためには、繊維Aに対する繊維Cの繊維径比が0.25以下であることが好適な範囲として挙げられる。一方で、繊維Cの繊維径が小さくなりすぎると、布帛として過剰に柔軟性が発現することになる。このため、テキスタイルのへたりの抑制や、膨らみ感の維持という観点から、本発明では繊維Aに対する繊維Cの繊維径比の下限は0.05とすることが好ましい。
【0037】
ここでいう極細繊維とは、本発明で期待する効果を効率的に発揮するためにミクロンオーダー以下である必要があり、本発明においては、繊維Cの繊維径が5μm以下であれば、布帛としての風合いや機能性といった観点から好ましい。極細繊維特有の機能をより顕著にするという観点では、繊維径が小さいほど好ましいが、テキスタイルとしての展開を鑑みると、極細繊維表面で光が乱反射したり通過することで極細繊維を含む布帛は白ボケし、発色性に欠ける場合があることから、発色性を確保するという観点から、繊維Cの繊維径は0.50μm以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の混繊糸における繊維Aは、混繊糸ならびに混繊糸よりなる布帛の力学特性やハリコシを担う役割が期待されている。これは、材料の剛性の指標である断面2次モーメントに着目すると、断面2次モーメントは繊維径の4乗に比例するため、繊維径が小さい繊維と比較して、明瞭に剛性が高く、混繊糸中における骨格として存在するためである。以上の観点から鑑みると、繊維Aの繊維径は7.5μm以上であることが、布帛として十分な剛性を発揮することができるため、好ましい範囲として挙げられる。一方で、繊維Aの繊維径が過剰に大きすぎると、混繊糸全体の剛性が必要以上に高まり、極細繊維の優れた柔軟性を活かしきれない場合があることから、繊維Aの繊維径は25μm以下であることが好ましい。
【0039】
一般的に、繊維を異形断面とすることで剛性や光沢感を生じることが知られているように、本発明の混繊糸における繊維Aについても例外ではなく、異形断面とすることで、布帛のハリコシや光沢感といった布帛の品位を向上させることが可能となる。なかでも、繊維Aが凹部を有する異形断面であれば、繊維間に適度な空隙を生むことができ、極細繊維が3次元的に均等配置されることで織り成す緻密構造と相まって、毛細管現象が効果的に作用することで吸水拡散性等の機能性を如何なく発揮することが可能となることから、好ましい形状として挙げられる。このような観点から、本発明の混繊糸における繊維Aの異形度は1.2以上であることが好ましい。係る範囲内であれば、異形度に応じた特異的な性質を発現することができ、従来にはない独特な布帛を得ることが可能となる。なお、本発明の目的とする柔軟性を損なわないという観点や高次加工における断面形状の安定性という観点を踏まえ、異形度の上限値を2.0とした。
【0040】
ここでいう異形度は
図4に例示する方法に従って求める。存在指数の評価と同様の方法で、混繊糸および混繊糸よりなる布帛の横断面を2次元的に撮影する。その画像から、任意に抽出した5本の繊維Aについて、画像処理ソフトを用いて繊維A断面外周の凸部先端に最も多く外接する真円(
図3中の破線8)を外接円とし、その直径をL
1とする。次いで、該外接円から繊維A断面の凹部最深部までの距離を測定し、その値をL
2として、異形度=L
1/(L
1―L
2)から、小数点3桁目までを求め、小数点3桁目以下を四捨五入したものを異形度とした。この異形度を異なる同様に撮影した20画像について評価し、その単純な平均値の小数点第2位を四捨五入した値を異形度とした。
【0041】
本発明の混繊糸を構成するポリマーは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイドなどの溶融成形可能なポリマーおよびそれらの共重合体であれば限定されるものではないが、本発明の目的効果の観点から鑑みると、繊維Aがポリアミド、繊維Bおよび繊維Cがポリエステルから構成されることが好ましいポリマーの組合せとして挙げられる。
【0042】
ここでいうポリアミドとは、力学特性に優れ、テキスタイルとしての展開が容易なポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)が好ましく、製糸過程でのゲル化を起こしにくく、製糸性も優れるという観点ではポリカプロアミド(ナイロン6)がより好ましい。その他の成分としては、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を挙げることができる。ポリアミドは、一般的にポリエステルと比較して、そのポリマー特性として柔らかさの指標である弾性率が半分以下程度と低く、本発明の訴求点のひとつである柔軟性という観点から鑑みると、繊維Aがこれらポリマーから選択されることが好ましい。
【0043】
一方、ここでいうポリエステルとは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステルおよびその共重合体から選択されることが好ましい例として挙げられる。本発明の目的とする、柔軟性を持ちながら適度なハリコシを発現するという観点から鑑みると、繊維Bならびに繊維Cが、剛性に優れたポリエステルであることが好ましい。
【0044】
また、これらポリマーについては、必要に応じて酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲でポリマー中に含んでいてもよい。
【0045】
本発明の混繊糸が少なくとも一部を構成する繊維製品とすると、繊維径の異なる各繊維が均質分散した状態で存在することで、好適な嵩高性を確保するとともに、極細繊維独特の柔軟性や風合い、適度な毛羽感を効果的に発現する、新触感テキスタイルとして好適に用いることができる。さらに、極細繊維が3次元的に均等配置されることで織り成す緻密構造により、毛細管現象が効果的に作用することで優れた吸水拡散性が発現したり、撥水加工を施すことで表面の微細凹凸構造と相まって優れた撥水性能も期待できることから、本発明の混繊糸は、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品、各種フィルターなどの生活用途など多岐に渡る繊維製品に好適に用いることができる。
【0046】
以下に本発明の混繊糸の製造方法の一例を詳述する。
【0047】
本発明の混繊糸を得る方法として長繊維の製造を目的とした溶融紡糸法、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法、シート状の繊維構造体を得るのに適したメルトブロー法およびスパンボンド法などによって製造することも可能であるが、生産性を高めるという観点から、溶融紡糸法が好適である。
【0048】
本発明の混繊糸を製造する方法としては、紡糸時に口金の吐出孔から別々に吐出された異なる繊維径を有する繊維を同時に引き取る紡糸混繊方式や別々に紡糸して得られた各繊維を後加工工程で交絡等により混繊させる後混繊方式など様々な方法が存在するが、マルチフィラメント中に繊維径の異なる各繊維を均質な分散状態で混在させるという観点からすると、繊維横断面において
図4に例示する断面図を一例とするような、サイズの異なる3種類のセグメント(連続して存在するセグメントA(
図4中の9)、面積が大きいセグメントB(
図4中の10)、面積が小さいセグメントC(
図4中の11))により構成されるような、芯鞘構造の分割型複合繊維を利用して製造することが最も好適である。すなわち、繊維表層にポリマーが交互に配された分割型複合繊維を選択することで、高次加工工程における熱や物理的な衝撃力により、セグメントAとセグメントBおよびセグメントAとセグメントCとの間で剥離分割が引き起こされ、1本の繊維Aの周状に繊維Bならびに繊維Cがセグメントの数だけ配される形態となることから、分割型複合繊維のマルチフィラメントを適用することで、本発明の混繊糸を達成することができるのである。
【0049】
本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維は、繊維軸に垂直方向の繊維断面において、セグメントBの平均面積が、セグメントCの平均面積の3倍以上の面積であることが好ましい。
図4に例示するように、セグメントBのような面積の大きいセグメントを有することで、繊維断面に非対称性が生じ、分割時の応力が分散されにくくなり、熱処理や物理衝撃により分割が促進されやすくなるのである。さらに、セグメントBの面積がセグメントCの平均面積の2.0倍以上であることで、セグメントBに分割時の応力がかかりやすくなり、このセグメントBが優先的に外れることで繊維断面中に可動空間が生じ、セグメントCが剥離しやすい構造となるのである。このように、サイズの異なるセグメントが3種類存在することで、加工工程通過性を良好に担保しつつも、精練や染色などの熱や物理衝撃が印加されるような高次加工工程において剥離分割性を発揮し、本発明の混繊糸が得られやすくなるのである。
【0050】
上記した分割機構から鑑みると、剥離分割を促進させるといった観点では、異種ポリマーの組合せとすることが好ましく、熱収縮特性の異なるポリマーの組合せが好ましい。
【0051】
本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維を構成するポリマーは、一般的な合成繊維の製造に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル等が挙げられるが、セグメントの界面での剥離分割を促進する上では、隣接するセグメント同士(セグメントA/セグメントBおよびセグメントA/セグメントC)の親和性が低いポリマーの組み合わせとすることが好ましく、例えば、ポリエステルとポリアミド、ポリエステルとポリオレフィン、ポリオレフィンとポリアミドの組み合わせが例示される。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびその共重合体等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12およびこれらの共重合体等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンポリブテンおよびこれらの共重合体等が挙げられる。セグメントBとセグメントCのポリマーの組合せについては特に限定されるものではないが、テキスタイルへの展開という観点から鑑みると、ポリエステルやポリアミドから選択されることが好ましい。また、これらのポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤をポリマー中に含んでいてもよい。
【0052】
溶融紡糸法にて、本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維を製造するのに用いる口金については、2成分以上のポリマーを複合できるものから適宜選択されるものであるが、複数成分のポリマーを所望のセグメント数とそのサイズを精密に制御する観点からは、特開2011-174215号公報に記載の複合口金が好適に用いられる。この複合紡糸口金を利用することで断面形状を精度良く形成できるため、繊維断面中における各セグメントの形状、サイズおよび配置等を制御することが可能であることから、上記口金を選択することが好適なのである。
【0053】
本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維を製造する場合には、紡糸温度は前述した観点から決定した使用ポリマーのうち、主に高融点や高粘度のポリマーが流動性を示す温度とすることが好適である。この流動性を示す温度とは、ポリマー特性やその分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下で設定すればよい。これ以下の温度であれば、紡糸ヘッドあるいは紡糸パック内でポリマーが熱分解等することなく、分子量低下が抑制され、良好に分割型複合繊維を製造することができる。この際のポリマーの吐出量は、安定性を維持しつつ溶融吐出できる範囲として、吐出孔当たり0.1g/min/holeから20.0g/min/holeを挙げることができる。この際、吐出の安定性を確保できる吐出孔における圧力損失を考慮することが好ましい。ここでいう圧力損失は、0.1MPa~40MPaを目安にポリマーの溶融粘度、吐出孔径、吐出孔長との関係から吐出量を係る範囲より決定することが好ましい。
【0054】
本発明の混繊糸を得るのに適した分割型複合繊維を紡糸する際の芯成分(セグメントA)と鞘成分(セグメントB+セグメントC)の比率は、吐出量を基準に重量比で芯/鞘比率で5/95~95/5の範囲で選択することができる。分割型複合繊維の安定的な製造や、分割型複合断面の長期安定性という観点から鑑みると、芯/鞘比率が40/60~80/20の範囲内とすることが好ましい。
【0055】
紡糸パック内を流れて、口金から吐出された複合ポリマー流は冷却固化された後、油剤を付与されて周速が規定されたローラーによって引き取られることにより、複合繊維が得られる。この引取速度は、500~6000m/分程度にするとよく、ポリマーの物性や繊維の使用目的によって変更可能である。特に、高配向とし力学特性を向上させるという観点からすると、500~4000m/分とし、その後延伸することで、繊維の一軸配向を促進できるため、好ましい。延伸に際しては、ポリマーのガラス転移温度など、軟化できる温度を目安として、予熱温度を適切に設定することが好ましい。予熱温度の上限としては、予熱過程で繊維の自発伸長により糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましい。
【0056】
上記のようにして得られた分割型複合繊維について、熱処理を施したり物理的衝撃を施すことで、本発明の混繊糸を製造することができる。また、溶剤等による減量処理やポリマーの溶媒膨潤差を利用することによっても混繊糸を得ることが可能であるが、製造工程の省略化および低コスト化を推し進める観点からは、熱収縮差の利用や物理衝撃を利用する方法が好ましい様態といえる。この際、予め分割型複合繊維を混繊糸として製織編してもよく、分割型複合繊維を製織編後に精練や染色加工などの高次加工工程を経て混繊糸よりなる布帛としてもよい。
【実施例】
【0057】
以下実施例を挙げて、本発明の混繊糸について具体的に説明する
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s-1での溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0058】
B.ポリマーの融点
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、約5mgを秤量し、TAインスツルメント製示差走査熱量計(DSC)Q2000型を用いて、0℃から300℃まで昇温速度16℃/分で昇温後、300℃で5分間保持してDSC測定を行った。昇温過程中に観測された融解ピークより融点を算出した。測定は1試料につき3回行い、その平均値を融点とした。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も高温側の融解ピークトップを融点とした。
【0059】
C.繊度
100mのマルチフィラメントの重量を測定し、その値を100倍した値を算出した。この動作を10回繰り返し、その平均値の小数点第2位を四捨五入した値をマルチフィラメントの繊度(dtex)とした。
【0060】
D.繊維径
混繊糸をエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋したもの、または混繊糸より構成される布帛の横断面をHITACHI製 走査型電子顕微鏡(SEM)で50本以上の繊維が観察できる倍率として画像を撮影する。混繊糸の断面が撮影された画像から無作為に抽出した50本の各繊維について、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて断面積を測定する。ここでいう断面積とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面の面積のことを意味する。得られた断面積を真円の面積として換算した際の直径を繊維径とし、μm単位で小数点第2位を四捨五入した値とする。以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を各繊維の繊維径とした。
【0061】
E.存在指数、存在指数バラツキ
混繊糸または混繊糸より構成される布帛の横断面をHITACHI製 走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維Aが10本以上観察できる倍率として画像を撮影する。2次元的に撮影された画像について、繊維Aを1本無作為に抽出し、抽出した繊維Aの中心点から繊維Aが10本含まれるように真円を描き(
図2中の破線7)、該真円の内側に存在する繊維A、繊維B、繊維Cの本数を計数する。該真円内に存在する繊維の総数に対する繊維A、繊維B、繊維Cそれぞれの本数の割合を存在指数として評価した。この際、該真円の内側に繊維の1/2以上が含まれている場合は繊維1本として計数する。この値を同様に撮影した20画像について評価し、下記式
存在指数バラツキ=(存在指数の標準偏差/存在指数の平均値)×100(%)
により存在指数バラツキを算出した。
【0062】
F.存在比
E項で評価した存在指数から、繊維Aに対する繊維Bの存在比RAB、繊維Aに対する繊維Cの存在比RACを下記式
RAB=(繊維Bの存在指数)/(繊維Aの存在指数)
RAC=(繊維Cの存在指数)/(繊維Aの存在指数)
で定義するものである。
【0063】
G.繊維Aの異形度
E項で撮影した画像から、任意に抽出した5本の繊維Aについて、画像処理ソフトを用いて繊維A断面外周の凸部先端に最も多く外接する真円(
図3中の破線8)を外接円とし、その直径をL
1とする。次いで、該外接円から繊維A断面の凹部最深部までの距離を測定し、その値をL
2として、異形度=L
1/(L
1―L
2)から、小数点3桁目までを求め、小数点3桁目以下を四捨五入したものを異形度とした。この異形度を異なる同様に撮影した20画像について評価し、その単純な平均値の小数点第2位を四捨五入した値を異形度とした。
【0064】
H.嵩高性
経糸が一般に使用される丸断面N6単独糸(56detx-40フィラメント)、緯糸が混繊糸より構成される織物について評価を実施した。ここでいう織物は、経糸方向のカバーファクター(CFA)が1000、緯糸方向のカバーファクター(CFB)が1200となるように繊維本数を調整し、1/3ツイル組織に製織した。ただし、CFAおよびCFBとは、織物の経密度および緯密度をJIS-L-1096:2010 8.6.1に準じて2.54cmの区間にて測定し、CFA=経密度×(経糸の繊度)1/2、CFB=緯密度×(緯糸の繊度)1/2の式より求めた値である。
【0065】
染色加工後の上記織物について、下記式によって嵩高度を算出し、小数点第3位を四捨五入したものを嵩高度として評価した。
嵩高度Bu(cm3/g)=t/w×1000
式中、tは織物の厚さ(mm)、wは織物の目付(g/m2)である。
【0066】
ここで、厚みはJIS-L-1096:2010に記載のA法(JIS法)に準じて行った。即ち、試料の異なる5か所について厚さ測定器を用いて、一定時間および一定圧力の下で厚さ(mm)を測り、その平均値を算出し、小数点第3位を四捨五入して厚み(mm)とした。測定時の一定圧力は、23.5Kpaとした。
【0067】
また、目付はJIS-L-1096:2010に記載のA法(JIS法)に準じて行った。即ち、20cm×20cmの試験片2枚を採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を量り、次の式によって1m2当たりの質量(g/m2)を求め、その平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入して目付(g/m2)とした。
【0068】
上記のようにして得られた嵩高度から、嵩高性をそれぞれ次の基準に基づき3段階判定した。
◎:優れた嵩高性(2.0<嵩高度)
○:良好な嵩高性(1.6≦嵩高度≦2.0)
×:嵩高性に劣る(嵩高度<1.6)。
【0069】
I.吸水拡散性・撥水性
H項で得た織物について、JIS-L-1907:2010に記載の滴下法に準じて実施し、織物表面における水滴消失時間から吸水拡散性を評価した。ここで、水滴消失時間は、1サンプル毎に5回測定を実施した水滴消失時間の平均値の小数点第1位を四捨五入した値とし、吸水拡散性をそれぞれ次の基準に基づき3段階判定した。なお、水滴1滴量は平均0.040mLであり、観察時間の上限は300秒とした。
A:優れた吸水拡散性(水滴消失時間<15秒)
B:優れた撥水性(300秒<水滴消失時間)
C:吸水拡散性・撥水性に劣る(15秒≦水滴消失時間≦300秒)。
【0070】
J.柔軟性・風合い評価
混繊糸からなる筒編地サンプルを25℃×55%RHの雰囲気下に24時間以上放置した後に、下記の評価基準にて、5人の試験者が触覚判定で行い、柔軟性、風合いの観点から総合的に下記4段階で評価し、5人の平均を布帛の風合い評価結果とした。
◎:優れた柔軟性、風合いを感じる。
○:良好な柔軟性、風合いを感じる。
△:柔軟性は良好であるが、風合いに劣る。
×:柔軟性、風合いに劣る。
【0071】
[実施例1]
特開2011-174215号公報に記載の複合口金の技術を用いて、ポリマーAからなるセグメントA(
図4中の9)の周囲に、ポリマーBからなる1つの大きなセグメントB(
図4中の10)と、ポリマーCからなる16個の微細なセグメントC(
図4中の11)から構成される繊維断面(
図4(a))を形成するように設計、製作した口金を使用して、ポリマーAとしてナイロン6(N6、溶融粘度190Pa・s)、ポリマーBおよびポリマーCとしてポリエチレンテレフタレート(PET、溶融粘度120Pa・s)として、体積比率をN6/PET=70/30になるように調整し、紡糸温度290℃、総吐出量32.4g/min、紡糸速度900m/minにて巻き取った。次いで、60℃と110℃に設定した加熱ローラー間で延伸速度600m/minとし、3.3倍延伸を実施することで、108detx-72フィラメントの分割型複合繊維の延伸糸を採取した。
【0072】
得られた分割型複合繊維を織編物に加工後、精練工程を経て、分散染料Disperse Blue(5%owf)を用いて、130℃に加熱した浴中で60分間処理することで、混繊糸よりなる布帛を採取した。得られた混繊糸は、繊維径の異なる3種類の繊維(繊維A、繊維B、繊維C)より構成されており、いずれの繊維の存在指数バラツキは20%以下であったことから、マルチフィラメント内に各繊維が均質に分散して存在する混繊糸であった。該混繊糸は、存在比RAB=1.0、存在比RAC=14.8、繊維Aに対する繊維Bの繊維径比は0.44、繊維Aに対する繊維Cの繊維径比は0.10であった。
【0073】
該混繊糸を含む織物は、繊維Bによる橋掛け構造に起因して、極細繊維(繊維C)による嵩高構造が形成されるとともに、マルチフィラメント全体においても各糸束が嵩高く形態を維持されることから、優れた嵩高性(嵩高度2.2)を示すものであった。さらに、3次元的な緻密構造ならびに繊維Aの異形化に由来した毛細管現象により、優れた吸水拡散性(A、水滴消失時間4秒)を示すものであった。
【0074】
また該混繊糸よりなる編物は、繊維Cが編物の表面およびその断面方向において均質分散状態にあるため、極細繊維に由来する優れた柔軟性を示すとともに、適度なハリコシ、表面の微毛タッチ性を有する、優れた風合いを発現するもの(◎)であり、光沢感も観察される布帛であった。結果を表1に示す。
【0075】
[
参考例2、3]
図4(b)に示す繊維断面となるように、セグメントBが1個(
図4中の10)、セグメントCが4個(
図4中の11)形成されるように口金孔配置を変更し、総吐出量32.4g/min(
参考例2)、総吐出量43.2g/min(
参考例3)の分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0076】
参考例2、3においては、繊維Cの存在比ならびに繊維径を適度に調整することで、極細繊維特有の柔軟性ならびに吸水拡散性を有しつつも、膨らみやハリコシを兼ね備えた風合いに優れたものであり、さらには実施例1と比較しても白っぽさが低下し、発色性にも優れるものであった。結果を表2に示す。
【0077】
[実施例4]
セグメントCが100個形成されるように口金孔配置を変更し、総吐出量43.2g/minの分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0078】
実施例4においては、繊維Cの存在比が増大した場合でも各繊維は均質に分散した状態で存在することが確認され、実施例1と比較して、柔軟性やドレープ性、ぬめり感といった、極細繊維由来の特徴的な風合いも発現するものであった。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例とは異なり、別々に紡糸して得られた各繊維を後加工工程で交絡等により混繊させる、後混繊により混繊糸を製造した。
【0080】
まず、ポリマーは上記したN6(実施例1のポリマーA)を使用し、φ0.3(L/D=1.5)-12holeの通常口金を利用して、紡糸温度290℃、紡糸速度900m/minにて巻き取り、60℃と110℃に設定した加熱ローラー間で延伸速度600m/minとし、3.3倍延伸を実施することで、72dtex-18フィラメントのN6単独糸(繊維A)を得た。次いで、上記したPET(実施例1のポリマーB)について、同様の条件で巻き取った未延伸糸を、90℃と110℃に設定した加熱ローラー間で3.5倍延伸を実施し、18dtex-18フィラメントのPET単独糸(繊維B)を得た。
【0081】
さらに、繊維Cを得るために、従来公知の海島複合口金(吐出孔1孔当たり島数:15)を使用し、島成分として上記したPET(実施例1のポリマーB)、海成分として5-ナトリウムスルホイソフタル酸8.0mol%および分子量1000のポリエチレングリコール10wt%が共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET、溶融粘度121Pa・s)を体積比率PET/共重合PET=70/30として、紡糸温度290℃、紡糸速度900m/minにて巻き取り、90℃と130℃に設定した加熱ローラー間で、3.5倍延伸を実施することで海島型複合繊維を得た。
【0082】
これら採取した単独糸と海島繊維を合わせて巻取り機を具備したローラーに供給し、後混繊糸を得た。該後混繊糸を織編物に加工後、90℃に加熱した1重量%の水酸化ナトリウム水溶液(浴比1/100)にて、海成分を99%以上溶解除去することで、繊維Cを含む混繊糸とした後、実施例1の条件にしたがうことで、混繊糸よりなる布帛を採取した。
【0083】
得られた混繊糸は、後混繊に起因して繊維Aおよび繊維Bの存在指数バラツキは20%以上となり、マルチフィラメント内に各繊維が不均一に存在することが確認された。すなわち、繊維Cが部分的に密に存在し、極細繊維特有の効果を発揮することができないため、該混繊糸よりなる布帛は、本発明品と比較すると、嵩高性(嵩高度1.4)に劣り、水滴消失時間の測定バラツキも大きく吸水拡散性・撥水性も発現しない評価(C、水滴消失時間24秒)であった。また、繊維の偏在化に起因して風合いも劣る結果(×)であり、布帛の部分で色目に濃淡(スジ)が見られ、品位も劣るものであった。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例2]
セグメントCが300個形成されるように口金孔配置を変更し、総吐出量33.6g/minの分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0085】
得られた混繊糸よりなる布帛は、極細繊維の存在比が大きすぎることに起因して、嵩高性は実施例1と比較して劣るものであった。また、極細繊維由来の特性が必要以上に発現されることで、布帛はへたりやすくなり、ぬめり感が強調されるものであり、テキスタイルとしての風合い評価は劣るものであった。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例5]
セグメントBが3個、セグメントCが16個形成されるように口金孔配置を変更し、総吐出量32.4g/minの分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
実施例5においては、繊維Bの存在比が増大した場合でも、各繊維は均質に分散した状態で存在することが確認され、繊維Aおよび繊維Cの特性を十分に発現し、良好な風合いを示す布帛であった。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例3]
セグメントBが10個、セグメントCが16個形成されるように口金孔配置を変更し、総吐出量64.8g/minの分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0088】
比較例3においては、繊維Bが必要以上に存在することに起因して、繊維Aが担う布帛の力学特性を十分に発揮することができず、実施例1と比較しても膨らみ感やハリコシが劣る評価であった。結果を表2に示す。
【0089】
[実施例6]
ポリマーBおよびポリマーCとしてポリプロピレンテレフタレート(PPT、溶融粘度120Pa・s)に変更し、紡糸温度を285℃として分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0090】
実施例6においては、PPTが有するゴム弾性の特性が相まって、得られる布帛は、より柔軟性に優れた風合いを発現するのみならず、実施例1では見られなかったようなストレッチ機能も有する、特徴的な布帛であった。またPPTはPET対比低屈折率であることから、得られた布帛は発色性にも優れるものであった。結果を表2に示す。
【0091】
[参考例7]
ポリマーAをPET、ポリマーBおよびポリマーCをN6に変更して分割型複合繊維を採取すること以外は、実施例1に従い実施した。
【0092】
参考例7においては、繊維AにはPETの剛性、繊維CにはN6のしなやかさの特性が相まって、得られる布帛は実施例1と比較して、ソフトでありながら適度なハリコシを発現する特徴的なものであった。結果を表2に示す。
【0093】
[参考例8]
ポリマーAをポリブチレンテレフタレート(PBT、溶融粘度130Pa・s)、ポリマーBおよびポリマーCをポリプロピレン(PP、溶融粘度70Pa・s)に変更し、紡糸温度270℃、総吐出量27.2g/min、紡糸速度1200m/minにて巻き取った後、50℃と90℃に設定した加熱ローラー間で延伸速度600m/minとし、2.1倍延伸を実施することで、108detx-72フィラメントの分割型複合繊維の延伸糸を採取したこと以外は、実施例1に従い実施した。
【0094】
参考例8においては、PPの特性により、得られる布帛は軽量感を感じるものであり、PP極細繊維による微細凹凸構造に起因した撥水性能を発現(B、水滴消失時間300秒以上)するものであった。結果を表2に示す。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の混繊糸よりなる布帛では、繊維Cすなわち極細繊維が布帛の表面およびその断面方向においても均質分散状態にあるため、嵩高性を損なうことなく、極細繊維由来の特性を如何なく発揮することができる。そのため、特徴的な風合いや適度な毛羽感を生み出し、従来の極細繊維からなる布帛では達成できなかった独特の触感を有した天然綿調布帛として期待でき、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品、各種フィルターなどの生活用途など多岐に渡る繊維製品に好適に用いることができる。
【0096】
【0097】
【符号の説明】
【0098】
1:繊維Aの繊維径分布
2:繊維Bの繊維径分布
3:繊維Cの繊維径分布
4:マルチフィラメント中の繊維A
5:マルチフィラメント中の繊維B
6:マルチフィラメント中の繊維C
7:任意に抽出したマルチフィラメント中の繊維Aを中心点として、繊維Aが5~10本含むように描いた真円
8:繊維Aにおける外接円
9:セグメントA
10:セグメントB
11:セグメントC