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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0258 20160101AFI20250109BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20250109BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/023
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020174158
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065525
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 大輝
(72)【発明者】
【氏名】下新原 岳
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072584(WO,A1)
【文献】特開2008-047299(JP,A)
【文献】特開2006-172871(JP,A)
【文献】特開2008-097944(JP,A)
【文献】国際公開第2017/006907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極、固体高分子膜、およびカソード極を一体化した膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、
前記一対のガス拡散層を介して前記膜電極接合体を表裏から挟む一対のセパレーターと、を備え、
それぞれの前記セパレーターは、対応する前記ガス拡散層を臨む平面を有し、
それぞれの前記ガス拡散層は、多孔質状であって、前記アノード極または前記カソード極へ供給される気体を流通させる複数の気体通路を有し、
前記複数の気体通路は、前記ガス拡散層の一方の縁に配置される第一開口から延びて下流端が前記ガス拡散層の内部で途切れる上流側通路と、前記ガス拡散層の他方の縁に配置される第二開口から延びて上流端が前記ガス拡散層の内部で途切れる下流側通路と、を含み、
前記上流側通路の前記下流端と前記下流側通路の前記上流端とは前記ガス拡散層の一部を介して隔てられる、燃料電池。
【請求項2】
前記複数の気体通路は、前記上流側通路の前記下流端および/または前記下流側通路の前記上流端から前記ガス拡散層の一部を介して隔てて形成された非開放の中間通路を含む請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記複数の気体通路は、複数の前記中間通路と、少なくとも2つの前記中間通路を繋ぐ中継通路と、を含む請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記中継通路は、それぞれの前記中継通路の非端部に繋がれている請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記上流側通路の前記下流端と前記下流側通路の前記上流端とは、前記気体の流れに交差する方向において重なり合うように前記ガス拡散層の一部を介して隔てられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガス拡散層電極基材は、一方の面から他方の面にわたる貫通孔を複数有し、かつ貫通孔の密度および孔径の少なくとも一方が面方向に異なる。
【0003】
ターボコンプレッサーから吐出された空気のうち燃料電池スタックに供給される空気の量と燃料電池スタックを迂回するバイパス管を介して排気される空気の量とを制御するバイパス制御弁を備える燃料電池が知られている。この燃料電池は、ターボコンプレッサーの動作点が非サージ領域に属するようバイパス制御弁の開度を制御する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-038738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のガス拡散層電極基材は、貫通孔を有しているために反応ガスの流路抵抗が低い。そのため、反応ガスの流量を増加させてガス拡散層内に溜まった生成水の排水を促す必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため本発明に係る燃料電池は、アノード極、固体高分子膜、およびカソード極を一体化した膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、前記一対のガス拡散層を介して前記膜電極接合体を表裏から挟む一対のセパレーターと、を備えている。それぞれの前記セパレーターは、対応する前記ガス拡散層を臨む平面を有し、それぞれの前記ガス拡散層は、多孔質状であって、前記アノード極または前記カソード極へ供給される気体を流通させる複数の気体通路を有し、前記複数の気体通路は、前記ガス拡散層の一方の縁に配置される第一開口から延びて下流端が前記ガス拡散層の内部で途切れる上流側通路と、前記ガス拡散層の他方の縁に配置される第二開口から延びて上流端が前記ガス拡散層の内部で途切れる下流側通路と、を含んでいる。前記上流側通路の前記下流端と前記下流側通路の前記上流端とは前記ガス拡散層の一部を介して隔てられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立可能な燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池の概略的な斜視図。
図2】本発明の実施の形態に係る燃料電池セルの分解斜視図。
図3】本発明の実施の形態に係る燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図。
図4】本発明の実施の形態に係る燃料電池に流れる反応ガスの流れ方向に交差する部分断面図。
図5】本発明の実施の形態に係る燃料電池に流れる反応ガスの流れ方向に沿う部分断面図。
図6】本発明の実施の形態に係る第二例の燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図。
図7】本発明の実施の形態に係る第二例の燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図。
図8】本発明の実施の形態に係る第三例の燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る燃料電池用セパレーターの実施形態について図1から図8を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号を付す。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池の概略的な斜視図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池1は、燃料ガスとしての水素ガスと酸化剤ガスとしての酸素(空気に含まれる酸素)とを反応させて発電する。燃料電池1は、積層された複数の燃料電池セル2を有する積層体5と、複数の燃料電池セル2の積層方向Lの外側から積層体5を挟み込む一対のエンドプレート6と、一対のエンドプレート6に架け渡されて積層体5と一対のエンドプレート6とを一体化する複数の締結部材8と、を備えている。
【0013】
なお、燃料ガスおよび酸化剤ガスを、単に反応ガスと総称する。
【0014】
燃料電池1は、積層される多数の燃料電池セル2を備えている。そのため、燃料電池1は燃料電池スタックとも呼ばれる。燃料電池1は、燃料電池セル2を最小単位とし、積層された数十から数百の燃料電池セル2を備えている。積層される燃料電池セル2の数量は、燃料電池1に要求される発電能力による。
【0015】
一対のエンドプレート6は、燃料電池セル2より大きい長方形状を有している。一対のエンドプレート6は、その間に架け渡される締結部材8によって連結されている。
【0016】
締結部材8は、一対のエンドプレート6を介して複数の燃料電池セル2に積層方向L内向きの荷重を付与する。この荷重は、一対のエンドプレート6が近づく方向へ作用し、積層体5を積層方向Lに圧縮している。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態に係る燃料電池セルの分解斜視図である。
【0018】
図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池1の燃料電池セル2は、膜電極接合体11(Membrane Electrode Assembly、MEA)と、膜電極接合体11を挟む一対のガス拡散層12、13(Gas Diffusion Layer、GDL)と、一対のガス拡散層12、13を介して膜電極接合体11を表裏から挟む一対のセパレーター15、16と、を備えている。
【0019】
また、燃料電池セル2は、積層方向に隣り合うセパレーター15、16の間に、燃料電池1を冷却する冷媒としての空気を流通させる冷媒流通路(図示省略)を有している。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態に係る燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図である。
【0021】
図4は、本発明の実施の形態に係る燃料電池に流れる反応ガスの流れ方向に交差する部分断面図である。
【0022】
図5は、本発明の実施の形態に係る燃料電池に流れる反応ガスの流れ方向に沿う部分断面図である。
【0023】
なお、図3は、空気極としてのカソード極19を臨むセパレーター16側から見たガス拡散層13の模式図であり、図4は、カソード極19を臨むセパレーター16およびガス拡散層13の部分断面図である。燃料極としてのアノード極18を臨むセパレーター15側から見たガス拡散層12も図3および図4と同様に構成されていても良い。
【0024】
図2に加えて、図3および図4に示すように、燃料電池1の膜電極接合体11は、電解質としての固体高分子膜17と、アノード極18と、カソード極19と、を備えている。膜電極接合体11は、一体化された固体高分子膜17、アノード極18、およびカソード極19である。一対の電極18、19は、固体高分子膜17を表裏から挟んでいる。
【0025】
一対のガス拡散層12、13は、多孔質状の膜である。一対のガス拡散層12、13は、水素ガスや空気を一対の電極18、19へ供給し、化学反応により生じた電子を集電し、固体高分子膜17の保湿および生成水の排出を行う。
【0026】
一対のガス拡散層12、13の周囲には、一対のサブガスケット21が配置されている。一対のサブガスケット21は、ガス拡散層12、13よりもガス透過係数の小さい、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂の薄膜である。
【0027】
また、それぞれの燃料電池セル2は、アノード極18に水素ガスを供給する水素ガス流路22(気体通路)と、カソード極19に空気を供給する空気流路23(気体通路)と、を有している。水素ガス流路22は、アノード極18を臨むガス拡散層12とセパレーター15との間に区画されている。空気流路23は、カソード極19を臨むガス拡散層13とセパレーター16との間に区画されている。
【0028】
そして、図3に示すように、ガス拡散層13は、カソード極19へ供給される気体を流通させる複数の空気流路23を有している。複数の空気流路23は、ガス拡散層13のセパレーター16を臨む面13aに開放し、セパレーター16に閉じられる溝形状を有している。
【0029】
複数の空気流路23は、ガス拡散層13の一方の縁に配置される開口23iから延びてガス拡散層13の内部で途切れる複数の上流側通路31と、ガス拡散層13の内部から延びてガス拡散層13の他方の縁に配置される開口23oに達する複数の下流側通路32と、を含んでいる。換言すると、上流側通路31および下流側通路32は、ガス拡散層13の一方の縁から他方の縁へと一続きに繋がることのない、断絶された通路であって、ガス拡散層13の一方の縁と他方の縁との間で貫通していない。なお、図3に気体の流れに沿う方を実線矢印Xで示す。
【0030】
複数の上流側通路31および複数の下流側通路32は、互いに繋がることなく、平行に延びている。複数の上流側通路31および複数の下流側通路32は、図3に示すような直線状の通路であっても良いし、蛇行した通路であっても良い。
【0031】
また、複数の上流側通路31および複数の下流側通路32は、図3に示すように互い違いに並んでいても良いし、一直線上に並んでいても良い。
【0032】
さらに、図3に示すように、互い違いに並ぶ複数の上流側通路31および複数の下流側通路32は、気体の流れに交差する方向(図2中の実線矢印Y方向)において重なりOLを有していても良いし、重なりを有していなくても良い。また、気体の流れに交差する方向(図3中の実線矢印Y方向)において重なりOLを有する上流側通路31および下流側通路32と、重なりを有していない上流側通路31および下流側通路32と、が混在していても良い。なお、気体の流れに交差する方向Yは、複数の上流側通路31および複数の下流側通路32の整列方向でもある。
【0033】
これらのように並ぶ複数の上流側通路31および複数の下流側通路32は、それぞれの上流側通路31の下流端と、それぞれの下流側通路32の上流端との間に、ガス拡散層13によって隔てられる部位を有する。この部位は、ガス拡散層13内の多数の細孔(図示省略)を有している。換言すると、上流側通路31および下流側通路32は、ガス拡散層13内の多数の細孔を介して繋がっている。この部位は、上流側通路31および下流側通路32に比べて、極めて圧力損失が高い。そこで、この部位を、便宜上、高圧力損失部33と呼ぶ。
【0034】
つまり、カソード極19へ供給される気体は、上流側通路31から高圧力損失部33に流れ込み、高圧力損失部33から下流側通路32へ流れ出る。そして、高圧力損失部33では、上流側通路31から流れ込む気体の流速が上昇する。この流速の上昇した気体は、高圧力損失部33の細孔に溜まった生成水を下流側通路32へ容易に排水する。
【0035】
また、隣り合う上流側通路31の間も、ガス拡散層13内の多数の細孔を介して繋がっている。そのため、カソード極19へ供給される気体は、隣り合う上流側通路31の間の細孔に溜まった生成水も容易に排水する。下流側通路32も同様である。
【0036】
空気流路23は、セパレーター16に設けられる空気入口41および空気出口42に繋がっている。
【0037】
空気入口41と空気流路23との間には、空気入口側マニホールド45が設けられている。空気入口側マニホールド45は、空気入口41から流れ込む空気を空気流路23へ導く。空気入口側マニホールド45は、空気入口41から流れ込む空気を、それぞれの上流側通路31へ分岐させる。空気出口42と空気流路23との間には、空気出口側マニホールド(図示省略)が設けられている。空気出口側マニホールドは、空気流路23から流れ出る空気を空気流路23へ導く。空気出口側マニホールドは、空気流路23から流れ出る空気を、それぞれの下流側通路32から空気出口42へ集約する。
【0038】
なお、図5は、空気入口41近傍における燃料電池セル2の断面図である。空気出口42、水素ガス入口31、および水素ガス出口32も同様の構造を有している。そのため、空気出口42近傍における燃料電池セル2の断面図、水素ガス入口31近傍における燃料電池セル2の断面図、および水素ガス出口32近傍における燃料電池セル2の断面図を省略する。
【0039】
ガス拡散層12は、アノード極18へ供給される気体を流通させる複数の水素ガス流路22を有している。水素ガス流路22についても、図3の空気流路23のように構成することで、カソード極19からの逆拡散で生成される水の排水性が向上し、アノード極18の有効反応面積の向上を見込むことができる。
【0040】
水素ガス流路22は、セパレーター15に設けられる水素ガス入口および水素ガス出口32に繋がっている。
【0041】
水素ガス入口31と水素ガス流路22との間には、水素ガス入口側マニホールド35が設けられている。水素ガス入口側マニホールド35は、水素ガス入口31から流れ込む水素ガスを水素ガス流路22へ導く。水素ガス入口側マニホールド35は、水素ガス入口31から流れ込む水素ガスを、それぞれの上流側通路へ分岐させる。水素ガス出口32と水素ガス流路22との間には、水素ガス出口側マニホールド36が設けられている。水素ガス出口側マニホールド36は、水素ガス流路22から流れ出る水素ガスを水素ガス出口32へ導く。水素ガス出口側マニホールド36は、水素ガス流路22から流れ出る水素ガスを、それぞれの下流側通路から水素ガス出口32へ集約する。
【0042】
セパレーター15、16は、例えば炭素繊維強化プラスチック製、導電性樹脂製、または金属製である。それぞれのセパレーター15、16は、対応するガス拡散層12、13を臨む平面15a、16aを有している。これら平面15a、16aは、対応するガス拡散層12、13の溝状の気体通路を閉じている。
【0043】
アノード極18を臨むガス拡散層12に対面するセパレーター15は、カソード極19を臨むガス拡散層13に対面するセパレーター16へ空気を供給する空気導入口51と、セパレーター15から空気を排出させる空気導出口52と、を有している。
【0044】
セパレーター15の面15aには、膜電極接合体11に向かって突出する水素ガス側シール59が設けられている。
【0045】
カソード極19を臨むガス拡散層13に対面するセパレーター16は、アノード極18を臨むガス拡散層12に対面するセパレーター15へ水素ガスを供給する水素ガス導入口61と、セパレーター15から水素ガスを排出させる水素ガス導出口62と、を有している。
【0046】
セパレーター16の面16aには、膜電極接合体11に向かって突出する空気側シール69が設けられている。
【0047】
次に、本実施形態に係る燃料電池1の他の例を説明する。なお、各例で説明する燃料電池1A、および1Bにおいて燃料電池1と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0048】
図6および図7は、本発明の実施の形態に係る第二例の燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図である。
【0049】
図6および図7に示すように、本実施形態に係る第二例の燃料電池1A(以下、単に「燃料電池1A」と言う。)のガス拡散層13Aは、複数の空気流路23Aを有している。
【0050】
複数の空気流路23Aは、上流側通路31および下流側通路32から離れた箇所に延びる、ガス拡散層13の縁に非開放の中間通路71を含んでいる。
【0051】
中間通路71は、上流側通路31および下流側通路32と同じようにガス拡散層13のセパレーター16を臨む面13aに開放し、セパレーター16に閉じられる溝形状を有している。
【0052】
そして、中間通路71は、ガス拡散層13のいずれの縁にも達しておらず、かつ上流側通路31および下流側通路32にも直接的には繋がっていない。
【0053】
中間通路71は、複数の上流側通路31および複数の下流側通路32に平行に延びている。中間通路71は、図6および図7に示すような直線状の通路であっても良いし、蛇行した通路であっても良い。
【0054】
また、中間通路71は、図6に示すように上流側通路31および下流側通路32の延長線上になく、上流側通路31および下流側通路32に平行であっても良いし、図7に示すように上流側通路31および下流側通路32のいずれか一方の延長線上に配置されていても良いし、上流側通路31および下流側通路32の延長線上に一直線に並んでいても良い。
【0055】
さらに、図6に示すように、中間通路71は、気体の流れに交差する方向(図6中の実線矢印Y方向)において上流側通路31および下流側通路32の両方に重なりを有していても良いし、重なりを有していなくても良い。また、図7に示すように、中間通路71は、気体の流れに交差する方向(図7中の実線矢印Y方向)において上流側通路31および下流側通路32のいずれか一方に重なりを有していても良いし、重なりを有していなくても良い。さらに、隣り合う中間通路71は、気体の流れに交差する方向(図7中の実線矢印Y方向)において重なりを有していなくても良いし、有していなくても良い。また、気体の流れに交差する方向(図2中の実線矢印Y方向)において重なりを有する中間通路71、上流側通路31、および下流側通路32と、重なりを有していない中間通路71、上流側通路31および下流側通路32と、が混在していても良い。なお、気体の流れに交差する方向Yは、中間通路71、上流側通路31、および下流側通路32の整列方向でもある。
【0056】
これらのように並ぶ複数の上流側通路31、複数の下流側通路32、複数の中間通路71は、それぞれの上流側通路31の下流端と、それぞれの下流側通路32の上流端と、中間通路71の上流端と、中間通路71の下流端との間に、ガス拡散層13によって隔てられる高圧力損失部33を有する。
【0057】
つまり、カソード極19へ供給される気体は、上流側通路31から高圧力損失部33に流れ込み、高圧力損失部33を経て中間通路71へ流れ込み、さらに高圧力損失部33を経て下流側通路32へ流れ出る。そして、高圧力損失部33では、上流側通路31から流れ込む気体の流速、および中間通路71から流れ込む気体の流速が上昇する。この流速の上昇した気体は、高圧力損失部33の細孔に溜まった生成水を中間通路71および下流側通路32へ容易に排水する。
【0058】
また、隣り合う上流側通路31の間も、ガス拡散層13内の多数の細孔を介して繋がっている。そのため、カソード極19へ供給される気体は、隣り合う上流側通路31の間の細孔に溜まった生成水も容易に排水する。中間通路71および下流側通路32も同様である。
【0059】
図8は、本発明の実施の形態に係る第三例の燃料電池のセパレーター側から見たガス拡散層の模式図である。
【0060】
図8に示すように、本実施形態に係る第三例の燃料電池1B(以下、単に「燃料電池1B」と言う。)のガス拡散層13Bは、複数の空気流路23Bを有している。
【0061】
複数の空気流路23Bは、上流側通路31および下流側通路32から離れた箇所に延びる、ガス拡散層13の縁に非開放の中間通路71と、少なくとも2つの中間通路71を繋ぐ中継通路75と、を含んでいる。
【0062】
中継通路75は、中間通路71、上流側通路31、および下流側通路32と同じようにガス拡散層13のセパレーター16を臨む面13aに開放し、セパレーター16に閉じられる溝形状を有している。
【0063】
そして、中継通路75は、複数の中間通路71に交差する方向へ延びている。中間通路71は、図8に示すような直線状の通路であっても良いし、蛇行した通路であっても良い。
【0064】
また、中継通路75は、それぞれの中間通路71の中途の部位(非端部)に繋がれている。中継通路75は、図8に示すように、気体の流れに交差する方向(図6中の実線矢印Y方向)に一直線に並んでいても良いし、並んでいなくても良い。さらに、中継通路75は、中間通路71の延伸方向に対して図8のように直交していても良いし、傾斜していても良い。
【0065】
中継通路75は、図8に示すように、多数の中間通路71が上流側通路31と下流側通路32との間に配置されて、上流側通路31と下流側通路32との間の圧力損失が増加しすぎた場合に、好適な圧力損失を得られるように、圧力損失の調整を調整する機能を有している。そのため、中継通路75は、全ての中間通路71を繋ぐ必要は無く、適宜の箇所、適宜の数量で調整される。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池1、1A、1Bは、ガス拡散層13の一方の縁に配置される開口23iから延びてガス拡散層13の内部で途切れる上流側通路31と、ガス拡散層13の内部から延びてガス拡散層13の他方の縁に配置される開口23oに達する下流側通路32と、を含む複数の空気流路23を備えている。ガス拡散層13は、多孔質状であり、空気流路23の入口としての開口23iから空気流路23の出口としての開口23oに一続きに繋がる通路が無く、上流側通路31と下流側通路32とのように途切れた通路によって反応ガスとしての空気を流通させることができる。そのため、空気流路23には高圧力損失部33が含まれる。この高圧力損失部33では、上流側通路31から流れ込む反応ガスとしての空気によって、細孔に溜まった生成水が下流側通路32へ容易に排水される。そのため、燃料電池1は、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立できる。
【0067】
また、本実施形態に係る燃料電池1、1A、1Bの上流側通路31と下流側通路32とは、反応ガスの流れに交差する方向において重なりを有する。この重なり部分では、上流側通路31の下流端部と下流側通路32の上流端部との間の直線距離が最も近く、高圧力損失部33における圧力損失の影響が小さい。つまり、重なり部分では、反応ガスは、上流側通路31から下流側通路32へ容易に流れ込む。そのため、重なり部では、反応ガスがガス拡散層13へ拡散しすぎることによる減速が抑制され、高圧力損失部33に溜まった生成水をより高効率に排水することができる。そのため、燃料電池1は、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立できる。
【0068】
さらに、本実施形態に係る燃料電池1、1A、1Bは、ガス拡散層13のセパレーター16を臨む面13aに開放し、セパレーター16に閉じられる溝形状を有する空気流路23を備えている。そのため、ガス拡散層13に比べて排水性の劣るセパレーター16に空気流路を有する従来の燃料電池に比べて、燃料電池1は、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立できる。
【0069】
また、本実施形態に係る燃料電池1A、1Bは、上流側通路31および下流側通路32から離れた箇所に延びる、ガス拡散層13の縁に非開放の中間通路71を有している。中間通路71は、上流側通路31および下流側通路32のいずれにも繋がらず、離れている。そして、中間通路71は、上流側通路31および下流側通路32のみが設けられている場合に比べて、ガス拡散層13のより広範囲に反応ガスを拡散させつつ、かつ反応ガスの流速の低下を抑制する。そのため、燃料電池1は、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立できる。
【0070】
さらに、本実施形態に係る燃料電池1Bは、少なくとも2つの中間通路71を繋ぐ中継通路75を有している。そのため、燃料電池1Bは、中間通路71、上流側通路31、および下流側通路32全体での圧力損失を適宜に調整し、反応ガスの供給性と生成水の排水性を両立できる。
【0071】
また、本実施形態に係る燃料電池1Bの中継通路75は、それぞれの中間通路71の非端部に繋がれている。そのため、燃料電池1Bは、中間通路71、上流側通路31、および下流側通路32が密集している部位で、より広範囲に反応ガスを効率的に拡散できる。
【0072】
なお、水素ガス流路22についても、図3から図8の空気流路23、23A、23Bのように構成することで、カソード極19からの逆拡散で生成される水の排水性が向上し、アノード極18の有効反応面積の向上を見込むことができる。
【0073】
したがって、本発明に係る燃料電池1、1A、1Bによれば、反応ガスの供給性と生成水の排水性を容易に両立することができる。
【符号の説明】
【0074】
1、1A、1B…燃料電池、2…燃料電池セル、5…積層体、6…エンドプレート、8…締結部材、11…膜電極接合体、12、13、13A、13B…ガス拡散層、13a…ガス拡散層の面、15、16…セパレーター、15a、16a…セパレーターの面、17…固体高分子膜、18…アノード極、19…カソード極、21…サブガスケット、22…水素ガス流路、23、23A、23B…空気流路、23i…開口、23o…開口、25…上流側通路、26…下流側通路、31…水素ガス入口、32…水素ガス出口、33…高圧力損失部、35…水素ガス入口側マニホールド、36…水素ガス出口側マニホールド、41…空気入口、42…空気出口、45…空気入口側マニホールド、51…空気導入口、52…空気導出口、59…水素ガス側シール、61…水素ガス導入口、62…水素ガス導出口、69…空気側シール、71…中間通路、75…中継通路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8