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特許7615607析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250109BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20250109BHJP
   C21D 8/00 20060101ALN20250109BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/48
C22C38/54
C21D8/00 E
C21D6/00 102T
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020177624
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2021123792
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020016838
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃彦
(72)【発明者】
【氏名】古庄 千紘
(72)【発明者】
【氏名】高林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小柳 禎彦
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-190416(JP,A)
【文献】特開平06-158228(JP,A)
【文献】特開平01-025952(JP,A)
【文献】特開平02-225649(JP,A)
【文献】特開2014-080656(JP,A)
【文献】米国特許第03342590(US,A)
【文献】特表2016-504498(JP,A)
【文献】特開2013-147698(JP,A)
【文献】特表2004-522859(JP,A)
【文献】特許第5974380(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0<C<0.10mass%、
0<Si≦0.20mass%、
0<Mn≦1.00mass%、
8.0≦Ni≦15.0mass%、
8.0≦Cr≦10.0mass%、
0.10≦Mo≦3.0mass%、及び、
0.4≦Nb≦2.50mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
0.10≦Al≦2.50mass%、又は、
0.10≦Ti≦1.50mass%
をさらに含む請求項1に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
0.10≦Al≦2.50mass%、及び、
0.10≦Ti≦1.50mass%
をさらに含む請求項1に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
0.10≦Co≦10.0mass%
をさらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
0.10≦W≦3.0mass%、
0.3≦V≦2.0mass%、
0.01≦Ta≦1.0mass%、
0.0001≦B≦0.0100mass%、
0.0001≦Ca≦0.0100mass%、
0.0001≦Mg≦0.0100mass%、
0.001≦Zr≦0.050mass%、及び、
0.001≦REM≦0.050mass%
からなる群から選ばれる1種又は2種以上をさらに含む請求項1から4までのいずれか1項に記載の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、さらに詳しくは、室温における強度及び靱性、並びに、低温における靱性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
析出硬化型ステンレス鋼とは、Cr-Ni系ステンレス鋼にAl、Cu、Mo、Tiなどを少量添加し、熱処理によって母相中に金属間化合物を析出させた鋼をいう。析出硬化型ステンレス鋼は、母相の組織に応じて、マルテンサイト系、セミオーステナイト系、及びオーステナイト系に分類される。これらの中でも、SUS630、PH13-8Mo、及び、Custom465をはじめとする析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、耐食性、強度、及び靱性に優れていることから、航空宇宙構造部材などに用いられている。
【0003】
このような析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に関し、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、金属間化合物が分散析出したマルテンサイト系ステンレス鋼であって、0.1質量%以下のCと、11質量%以上13質量%以下のCrと、7.5質量%以上11質量%以下のNiと、0.9質量%以上1.7質量%以下のAlと、0.85質量%以上1.35質量%以下のMoと、1.75質量%以上2.75質量%以下のWとを含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、Mo成分量及びW成分量が所定の関係を満たす析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、このような析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、機械的強度と靭性とが高いレベルでバランスし、かつ、耐食性が優れている点が記載されている。
【0004】
特許文献2には、質量基準で、C:0.1%以下、Cr:11~13%、Ni:10.5~11.5%、Al:0.25%以下、Ti:0.9~1.5%、Mo+0.5W:0.5~1.5%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Mo/W(質量%比)0.4~0.6を含み、残部が鉄及び不可避不純物である析出強化型マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、このような析出強化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、優れた組織の安定性、機械特性及び耐食性を備えている点が記載されている。
【0005】
特許文献3には、質量で、0.1%以下のC、0.1%以下のN、9.0%以上14.0%以下のCr、9.0%以上14.0%以下のNi、0.5%以上2.5%以下のMo、0.5%以下のSi、1.0%以下のMn、0.25%以上1.75%以下のTi、0.25%以上1.75%以下のAlを含み、残部がFeおよび不可避不純物である析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、このような析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、組織の安定性、強度、靭性及び耐食性に優れ、サブゼロ処理を必要としない点が記載されている。
【0006】
特許文献4には、質量で、0.05%以下のC、0.05%以下のN、10.0%以上14.0%以下のCr、8.5%以上11.5%以下のNi、0.5%以上3.0%以下のMo、1.5%以上2.0%以下のTi、0.25%以上1.00%以下のAl、0.5%以下のSi、1.0%以下のMnを含み、残部がFeおよび不可避不純物からなる析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、このような析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、組織の安定性,強度,靭性及び耐食性に優れ、サブゼロ処理を必要としない点が記載されている。
【0007】
特許文献5には、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼ではないが、Feを47.4乃至82.4重量%、Niを6乃至9重量%、Crを11乃至15重量%、Mo+1/2Wを0.5乃至6重量%、Co、Cuの1つ或いは複数を各0乃至6重量%、Ti、Nb、Al、Si、Mn、Vの1つ或いは複数を各0乃至1重量%、希土類もしくは複合金属の1つ或いは複数を各0乃至0.1重量%、C及びNを0乃至0.1重量%を含み、さらにBeを0.1乃至0.5重量%含む耐食性マルエージング合金が開示されている。
同文献には、このような耐食性マルエージング合金は、時効硬化後に既存の耐食性を維持しながら550HV以上の高い硬度を得ることができる点が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献6には、C:0.15%以下(0を含まず)、Si:6.0%以下(0を含まず)、Mn:10.0%以下(0を含まず)、Ni:8.0%以下(0を含まず)、Cr:10.0~17.0%、N:0.3%以下(0含まず)、Mo:4.0%以下(0を含む)、Cu:4.0%以下(無添加を含む)、Co:4.0%以下(0を含む)であって、Ni当量の値が8.0~17.5の範囲内であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼が開示されている。
同文献には、このようなマルテンサイト系ステンレス鋼に適切な熱処理を施すと、疲労特性が改善される点が記載されている。
【0009】
析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼の特徴は、微細な析出物を分散させて強度を得る点である。例えば、PH13-8Moでは、Alを強化元素とし、NiAlを析出させることで高強度かつ高靱性(強靱性)を得ている。また、Custom465では、Tiを強化元素とし、Ni3Tiを析出させることで強靱性を得ている。
しかしながら、従来の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、低温で脆化するため、低温での使用には制約があった。また、低温においても高い靱性を示す析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-093991号公報
【文献】特開2014-201792号公報
【文献】特開2013-147698号公報
【文献】特開2013-001949号公報
【文献】特開平09-143626号公報
【文献】特開平04-173926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、室温における強度及び靱性、並びに、低温における靱性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、
0<C<0.10mass%、
0<Si≦0.20mass%、
0<Mn≦1.00mass%、
8.0≦Ni≦15.0mass%、
8.0≦Cr≦10.0mass%、
0.10≦Mo≦3.0mass%、及び、
0.4≦Nb≦2.50mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【発明の効果】
【0013】
析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼において、従来、Nbは、強化元素として用いられることが少なかった。これは、Nbを添加すると、有害相が出やすいためである。しかしながら、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に対して、強化元素として適量のNbを添加し、かつ、適切な条件下で熱処理すると、室温において高強度かつ高靱性を示すことに加えて、低温においても高い靱性を示す。
適量のNbを添加し、適切な条件下で熱処理すると、母相中にNi3Nbが析出する。低温における高靱性の発現は、析出したNi3Nb粒子の形状、及び、Ni3Nb粒子と母相との整合性が関係していると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼]
[1.1. 主構成元素]
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0015】
(1)0<C<0.10mass%:
Cは、M2X型炭窒化物を析出して母材の強度向上に寄与する。また、Cは、旧オーステナイト粒径の微細化にも寄与する。このような効果を得るためには、C量は、0mass%超である必要がある。C量は、好ましくは、0.0005mass%以上、さらに好ましくは、0.0020mass%以上である。
一方、C量が過剰になると、M2X炭窒化物が多量に析出するために、固溶温度を上げる必要が生じる。そのため、固溶化時にオーステナイト粒が粗大化し、特性バラツキの原因となる。また、時効処理時に(Cr,Mo)系炭化物が過剰に析出し、靱性及び耐食性を低下させる。さらに、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)が低下し、オーステナイト相を安定化させる。従って、C量は、0.10mass%未満である必要がある。C量は、好ましくは、0.05mass%以下、さらに好ましくは、0.01mass%以下である。
【0016】
(2)0<Si≦0.20mass%:
Siは、脱酸剤として作用する。Si量が少なすぎると、溶解時の脱酸が不十分となり、清浄度が低下する。従って、Si量は、0mass%超である必要がある。Si量は、好ましくは、0.005mass%以上である。
一方、Si量が過剰になると、酸化物系介在物が形成され、靱性が低下する。従って、Si量は、0.20mass%以下である必要がある。Si量は、好ましくは、0.15mass%以下、さらに好ましくは、0.10mass%以下である。
【0017】
(3)0<Mn≦1.00mass%:
Mnは、不純物として混入するSの粒界偏析を抑制する効果がある。このような効果を得るためには、Mn量は、0mass%超である必要がある。Mn量は、好ましくは、0.005mass%以上である。
一方、Mn量が過剰になると、硫化物が増加し、靱性が低下する。また、Ms点が低下し、オーステナイト相を安定化させる。従って、Mn量は、1.00mass%以下である必要がある。Mn量は、好ましくは、0.50mass%以下、さらに好ましくは、0.20mass%以下である。
【0018】
(4)8.0≦Ni≦15.0mass%:
Niは、NiAl、Ni3(Al,Ti)などの金属間化合物相を析出させ、母材の強度向上に寄与する重要な元素である。また、Niは、δフェライト相の形成を抑制する作用がある。さらに、Niは、母相の延性脆性遷移温度(ductile-brittle transition temperature, DBTT)を下げ、常温での靱性向上に寄与する。このような効果を得るためには、Ni量は、8.0mass%以上である必要がある。Ni量は、好ましくは、9.0mass%以上、さらに好ましくは、10.0mass%以上である。
一方、Ni量が過剰になると、Ms点が低下する。そのため、残留オーステナイトが増加し、強度が低下する。従って、Ni量は、15.0mass%以下である必要がある。Ni量は、好ましくは、13.5mass%以下、さらに好ましくは、13.0mass%以下である。
【0019】
(5)8.0≦Cr≦14.0mass%:
Crは、Ms点の調整に寄与し、Cr量が少なくなるほど、Ms点が高くなる。そのため、Cr量が少なくなるほど、固溶化熱処理後又はサブゼロ処理後の残留オーステナイトが少なくなる。また、これによって、微細組織の均質性が改善され、0.2%耐力が向上する。
一方、Crは、耐食性を確保するために必要な元素である。Cr量が少ないと、M2X型炭窒化物よりも粗大なM236型炭化物が安定化し、0.2%耐力が低下する。従って、Cr量は、8.0mass%以上である必要がある。Cr量は、好ましくは、8.5mass%以上である。
【0020】
一方、Cr量が多くなるほど、Ms点が低下する。そのため、Cr量が過剰になると、時効処理前の残留オーステナイト量が過剰になり、0.2%耐力が低下する。さらに、Cr量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Cr量は、14.0mass%以下である必要がある。Cr量は、好ましくは、12.0mass%以下、さらに好ましくは、10.0mass%以下である。
【0021】
(6)0.4≦Nb≦2.50mass%:
Nbは、幅2~20nm、長さ数十nm程度の棒状のNi3Nb粒子を析出し、母材強度の向上に寄与する。また、鋼中にAlやTiが添加されている場合、すなわち、鋼中にNiAlやNi3(Al,Ti)などの金属間化合物が含まれる場合、Nbは、NiAlやNi3(Al,Ti)中のAlやTiの一部がNbで置換されたNi(Al,Nb)、Ni3(Al,Ti,Nb)などを形成し、母材の強度向上に起用する。さらに、Nbは、炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。
このような効果を得るためには、Nb量は、0.4mass%以上である必要がある。Nb量は、好ましくは、0.50mass%以上、さらに好ましくは、0.60mass%以上である。
【0022】
一方、Nb量が過剰になると、析出強化相及び介在物炭が増加し、靱性を低下させる。また、Nb量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Nb量は、2.50mass%以下である必要がある。Nb量は、好ましくは、1.50mass%以下、さらに好ましくは、1.00mass%以下である。
【0023】
(7)不可避的不純物:
本発明において、「不可避的不純物」とは、ステンレス鋼を製造する際に、原料や耐火物から混入する微量成分をいう。不可避的不純物としては、具体的には、以下のようなものがある。
(a)P≦0.050mass%:
Pは、鋼の靱延性を低下させる。また、Pは、粒界偏析によって熱間加工性を低下させる。しかしながら、P量が0.050mass%以下であれば、悪影響は少ない。
【0024】
(b)S≦0.050mass%:
Sは、鋼の靱延性を低下させる。また、Sは、粒界偏析によって熱間加工性を低下させる。さらに、Sは、Tiと結合し、硫化物系介在物を形成する。しかしながら、S量が0.050mass%以下であれば、悪影響は少ない。
【0025】
(c)N≦0.050mass%:
Nは、窒化物を形成し、靱延性を低下させる。また、Nは、Ms点を低下させ、オーステナイト相を安定化させる。しかしながら、N量が0.050mass%以下であれば、悪影響は少ない。N量は、好ましくは、0.03mass%以下、さらに好ましくは、0.01mass%以下である。
【0026】
(d)O≦0.010mass%:
Oは、酸化物系介在物を形成し、靱性を低下させる。しかしながら、O量が0.010mass%以下であれば、悪影響は少ない。
【0027】
(e)Al<0.10mass%:
(f)Ti<0.10mass%:
後述するように、Al及びTiは、金属間化合物を析出させ、母材強度の向上に寄与する元素である一方で、不可避的不純物として混入し得る元素でもある。不可避的不純物として管理する場合、Al及びTiは、それぞれ、0.10mass%未満に制限する。また、不可避的不純物として管理する場合、その下限を特に制限する必要はなく、その下限はいずれも0mass%である。
【0028】
(g)Cu<0.30mass%:
Cuは、微量であれば、靱性を大きく損なうことなく、強度を向上させる効果がある一方で、Cu量が過剰になると、靱性及び熱間加工性が低下する場合がある。従って、Cuの上限値は、0.30mass%未満、好ましくは、0.10mass%未満に制限する。また、Cuは、不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0mass%である。
【0029】
(h)Mo<0.10mass%:
(i)W<0.10mass%:
(j)Co<0.10mass%:
(k)V<0.30mass%:
後述するように、Mo、W、Co、及びVは、いずれも母材強度の向上に寄与する元素である一方で、不可避的不純物として混入し得る元素でもある。不可避的不純物として管理する場合、Mo、W、Co、及びVは、それぞれ、上記の値未満に制限する。また、不可避的不純物として管理する場合、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は、いずれも0mass%である。
【0030】
[1.2. 副構成元素]
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、上述した元素に加えて、以下の1種又は2種以上の元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0031】
(8)0.10≦Al≦2.50mass%:
Alは、Niと金属間化合物(2~20nmの球状NiAl)を形成し、母材の強度向上に寄与する。また、Alは、脱酸元素としても機能する。このような効果を得るためには、Al量は、0.10mass%以上とすることができる。好ましくは、0.30mass%以上、より好ましくは、0.50mass%以上、一層好ましくは、0.70mass%以上である。
一方、Al量が過剰になると、析出強化相及び介在物が増加し、靱性が低下する。また、Al量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Al量は、2.50mass%以下が好ましい。Al量は、好ましくは、2.00mass%以下、さらに好ましくは、1.50mass%以下である。
【0032】
(9)0.10≦Ti≦1.50mass%
Tiは、Alと同様に、Niと金属間化合物(幅2~20nm、長さ数十nm程度の棒状Ni3Ti)を形成し、母材の強度向上に寄与する。その結果、粒界強度が向上し、靱性の向上に寄与する。さらに、Tiは、炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。このような効果を得るためには、Ti量は、0.10mass%以上が好ましい。
一方、Ti量が過剰になると、析出強化相及び介在物が増加し、靱性を低下させる。また、Ti量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Ti量は、1.50mass%以下が好ましい。Ti量は、好ましくは、1.30mass%以下、さらに好ましくは、1.10mass%以下である。
【0033】
なお、Ti及びAlは、いずれか一方を添加しても良く、あるいは、双方を添加しても良い。しかしながら、Al量が0.10mass%以上2.50mass%である場合、Ti量は、0.10mass%未満が好ましい。これは、Ni(Al、Nb)系金属間化合物の方がNi(Ti、Nb)系金属間化合物よりも靱性を損なうことなく強度を向上させる効果に優れるためである。
【0034】
(10)0.10≦Co≦10.0mass%:
Coは、強度に影響を与える微細析出相の析出を促進させる作用がある。このような効果を得るためには、Co量は、0.10mass%以上が好ましい。Co量は、好ましくは、3.0mass%以上、さらに好ましくは、6.0mass%以上である。
一方、Co量が過剰になると、コストが上昇する。従って、Co量は、10.0mass%以下が好ましい。Co量は、好ましくは、9.0mass%以下、さらに好ましくは、8.0mass%以下である。
【0035】
(11)0.10≦Mo≦3.0mass%:
Moは、M2X型炭窒化物を析出させ、母材の強度向上に寄与する。また、Moは、旧オーステナイト粒径の微細化にも寄与する。さらに、Moは、強度、靱性、及び耐食性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo量は、0.10mass%以上が好ましい。Mo量は、好ましくは、0.3mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、Mo量が過剰になると、M2X型炭窒化物が多量に析出するために、固溶温度を上げる必要が生じる。そのため、固溶化時にオーステナイト粒が粗大化し、特性バラツキの原因となる。さらに、Mo量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Mo量は、3.0mass%以下が好ましい。Mo量は、好ましくは、2.5mass%以下、さらに好ましくは、2.0mass%以下である。
【0036】
(12)0.10≦W≦3.0mass%:
Wは、M2X型炭窒化物を析出させ、母材の強度向上に寄与する。また、Wは、旧オーステナイト粒径の微細化にも寄与する。さらに、Wは、強度、靱性、及び耐食性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、W量は、0.10mass%以上が好ましい。W量は、好ましくは、0.3mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
一方、W量が過剰になると、M2X型炭窒化物が多量に析出するために、固溶温度を上げる必要が生じる。そのため、固溶化時にオーステナイト粒が粗大化し、特性バラツキの原因となる。さらに、W量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、W量は、3.0mass%以下が好ましい。W量は、好ましくは、2.5mass%以下、さらに好ましくは、2.0mass%以下である。
【0037】
(13)0.3≦V≦2.0mass%:
鋼中にAlやTiが添加されている場合、すなわち、鋼中にNiAlやNi3(Al,Ti)などの金属間化合物が含まれる場合、Vは、NiAlやNi3(Al,Ti)中のAlやTiの一部がVで置換されたNi(Al,V)、Ni3(Al,Ti,V)などを形成し、母材の強度向上に寄与する。さらに、Vは、炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。
このような効果を得るためには、V量は、0.3mass%以上が好ましい。
【0038】
一方、V量が過剰になると、析出強化相及び介在物炭が増加し、靱性を低下させる。また、V量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、V量は、2.0mass%以下が好ましい。V量は、好ましくは、1.5mass%以下、さらに好ましくは、1.0mass%以下である。
【0039】
(14)0.01≦Ta≦1.0mass%:
鋼中にAlやTiが添加されている場合、すなわち、鋼中にNiAlやNi3(Al,Ti)などの金属間化合物が含まれる場合、Taは、NiAlやNi3(Al,Ti)中のAlやTiの一部がTaで置換されたNi(Al,Ta)、Ni3(Al,Ti,Ta)などを形成し、母材の強度向上に起用する。さらに、Taは、炭窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。
このような効果を得るためには、Ta量は、0.01mass%以上が好ましい。
【0040】
一方、Ta量が過剰になると、析出強化相及び介在物炭が増加し、靱性を低下させる。また、Ta量が過剰になると、δフェライト相が形成されやすくなる。従って、Ta量は、1.0mass%以下が好ましい。
【0041】
(15)0.0001≦B≦0.0100mass%:
Bは、粒界強度を高め、靱性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、B量は、0.0001mass%以上が好ましい。B量は、好ましくは、0.0005mass%以上、さらに好ましくは、0.0010mass%以上である。
一方、B量が過剰になると、BNが多量に形成され、靱性を低下させる。従って、B量は、0.0100mass%以下が好ましい。B量は、好ましくは、0.0050mass%以下、さらに好ましくは、0.0030mas%以下である。
【0042】
(16)0.0001≦Ca≦0.0100mass%:
Caは、炭化物や酸化物を微細化し、結晶粒を微細化させる作用があり、靱性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Ca量は、0.0001mass%以上が好ましい。
一方、Ca量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Ca量は、0.0100mass%以下が好ましい。Ca量は、好ましくは、0.0050mass%以下である。
【0043】
(17)0.0001≦Mg≦0.0100mass%:
Mgは、炭化物や酸化物を微細化し、結晶粒を微細化させる作用があり、靱性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mg量は、0.0001mass%以上が好ましい。
一方、Mg量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Mg量は、0.0100mass%以下が好ましい。Mg量は、好ましくは、0.0050mass%以下である。
【0044】
(18)0.001≦Zr≦0.050mass%:
Zrは、炭化物や酸化物を微細化し、結晶粒を微細化させる作用があり、靱性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Zr量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、Zr量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、Mg量は、0.050mass%以下が好ましい。Zr量は、好ましくは、0.030mass%以下である。
【0045】
(19)0.001≦REM≦0.050mass%:
REMは、炭化物や酸化物を微細化し、結晶粒を微細化させる作用があり、靱性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、REM量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、REM量が過剰になると、熱間加工性が低下する。従って、REM量は、0.050mass%以下が好ましい。REM量は、好ましくは、0.030mass%以下である。
【0046】
[1.3. 特性]
[1.3.1. 0.2%耐力]
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、成分を最適化し、かつ、適切な熱処理を施すと、相対的に高い0.2%耐力を示す。
具体的には、成分及び熱処理条件を最適化すると、室温における0.2%耐力は、1300MPa以上となる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、室温における0.2%耐力は、1400MPa以上となる。
【0047】
[1.3.2. 吸収エネルギー]
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、成分を最適化し、かつ、適切な熱処理を施すと、相対的に高い吸収エネルギーを示す。
具体的には、成分及び熱処理条件を最適化すると、室温における吸収エネルギーは、30J以上となる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、室温における吸収エネルギーは、50J以上となる。
さらに、成分及び熱処理条件を最適化すると、-40℃における吸収エネルギーは、10J以上となる。成分及び熱処理条件をさらに最適化すると、-40℃における吸収エネルギーは、20J以上となる。
【0048】
[2. 析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法]
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、
(a)所定の組成となるように配合された原料を溶解・鋳造し、
(b)得られた鋳塊に対し、均質化熱処理を行い、
(c)均質化熱処理後の素材を熱間鍛造し、
(d)熱間鍛造された素材に対し、固溶化熱処理を行い、
(e)固溶化熱処理後の素材に対して、必要に応じてサブゼロ処理を行い、
(f)固溶化熱処理後又はサブゼロ処理後の素材に対して、時効処理を行う
ことにより製造することができる。
【0049】
[2.1. 溶解鋳造工程]
まず、所定の組成となるように配合された原料を溶解・鋳造する。溶解・鋳造の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
【0050】
[2.2. 均質化熱処理工程]
次に、得られた鋳塊に対し、均質化熱処理を行う。均質化熱処理は、鋳造時に生じた偏析を除去するために行われる。均質化熱処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、均質化熱処理は、温度:1150~1240℃、時間:10hr以上の条件で、鋳塊を加熱保持することにより行う。
【0051】
[2.3. 熱間鍛造工程]
次に、均質化熱処理後の素材を熱間鍛造する。熱間鍛造は、粗大な鋳造組織を破壊し、組織を微細化するために行われる。熱間鍛造の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、熱間鍛造は、700~1240℃×1hr以上の条件で素材を加熱し、鍛造終止温度700℃の条件下で鍛造し、その後空冷することにより行う。なお、熱間鍛造は、均質化熱処理を行った後、素材を室温まで冷却することなく、連続して実施しても良い。
【0052】
[2.4. 固溶化熱処理工程]
次に、熱間鍛造後の素材に対して、固溶化熱処理を行う。固溶化熱処理は、素材をオーステナイト単相にした後、マルテンサイト変態させるために行う。固溶化熱処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、固溶化熱処理は、温度:800~1200℃×加熱時間:1~10hrの条件の下で素材を加熱し、冷却することにより行う。冷却方法としては、例えば、空冷、衝風冷却、油冷、水冷などがある。
【0053】
[2.5. サブゼロ処理工程]
次に、固溶化熱処理後の素材に対して、必要に応じてサブゼロ処理を行う。サブゼロ処理は、固溶化熱処理後に残留しているオーステナイトをマルテンサイトに変態させるために行う。サブゼロ処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、サブゼロ処理は、素材を0℃以下の温度において、1~10hr保持することにより行う。
【0054】
[2.6. 時効処理工程]
次に、固溶化熱処理後又はサブゼロ処理後の素材に対して、時効処理を行う。時効処理は、母相中に、B2相、η相などの金属間化合物相を析出させるために行う。時効処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、時効処理は、素材を400~600℃において、1~24hr加熱することにより行う。熱処理後、空冷にて冷却を行う。
【0055】
[3. 作用]
析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、室温では優れた強靱性を有する一方で、低温では脆化するという特性がある。そのため、従来の析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼において、室温での0.2%耐力が1300MPa以上、室温での吸収エネルギーが30J以上、かつ、低温(-40℃)での吸収エネルギーが10J以上という条件を同時に満たすのは困難であった。
そのため、低温環境で使用される部材には、一般に、低温での靱性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼が用いられることが多い。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に比べて室温における強度及び靱性が劣るため、設計上の制約があった。
【0056】
これに対し、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼において、従来、Nbは、強化元素として用いられることが少なかった。これは、Nbを添加すると、有害相が出やすいためである。しかしながら、析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼に対して、強化元素として適量のNbを添加し、かつ、適切な条件下で熱処理すると、室温において高強度かつ高靱性を示すことに加えて、低温においても高い靱性を示す。
適量のNbを添加し、適切な条件下で熱処理すると、母相中にNi3Nbが析出する。低温における高靱性の発現は、析出したNi3Nb粒子の形状、及び、Ni3Nb粒子と母相との整合性が関係していると考えられる。
【0057】
さらに、Nbに加えてAl及び/又はTiを複合添加すると、室温での強度及び靱性、並びに、低温での靱性が更に向上する。
また、Nbに加えてCoを添加すると、室温での強度及び靱性をさらに向上させることができる。これは、Coの添加により、強化相の析出が促進されたためと考えられる。
そのため、本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、
(a)0.2%耐力(@室温)≧1300MPa、
(b)吸収エネルギー(@室温)≧30J、及び、
(c)吸収エネルギー(@-40℃)≧10J
を同時に満たすことが可能となる。
【実施例
【0058】
実施例1~8、参考例9~10、実施例11~21、参考例22~23、実施例24~25、参考例26~27、実施例28~36、比較例1~10)
[1. 試料の作製]
真空誘導炉にて、表1及び表2に示す組成の鋼50kgを溶解し、造塊した。その後、1200℃×24hr、空冷の条件下で均質化熱処理を施した。さらに、スタート温度1200℃、終止温度900℃の条件下でφ24mmの丸棒を鍛造し、その後空冷した。
次に、各鋼塊を、1000℃×1hr、水冷の条件下で固溶化熱処理を行った。続いて、-76℃×6hrの条件下でサブゼロ処理を行った。さらに、530℃×4hr、空冷の条件下で時効処理を行った。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
[2. 試験方法]
[2.1. 引張試験(0.2%耐力の測定)]
ASTM A370に規定する金属引張試験方法に準じて引張試験を行い、0.2%耐力を測定した。試験温度は、室温とした。
[2.2. シャルピー衝撃試験]
長手方向が鍛伸方向と一致するように、2mmVノッチ試験片を採取した。この試験片を用いて、ASTM A370規格に準拠して衝撃特性(吸収エネルギー)の測定を行った。試験温度は、室温又は-40℃とした。
【0062】
[3. 結果]
表3に、結果を示す。表3より、以下のことが分かる。
なお、表3の0.2%耐力(@RT)に関し、「A」は0.2%耐力が1400MPa以上であることを表し、「B」は0.2%耐力が1300MPa以上1400MPa未満であることを表し、「C」は0.2%耐力が1300MPa未満であることを表す。
また、吸収エネルギー(@RT)に関し、「A」は吸収エネルギー(@RT)が60J以上であることを表し、「B」は吸収エネルギー(@RT)が40J以上60J未満出あることを表し、「C」は吸収エネルギー(@RT)が40J未満であることを表す。
さらに、吸収エネルギー(@-40℃)に関し、「A」は吸収エネルギー(@-40℃)が20J以上であることを表し、「B」は吸収エネルギー(@-40℃)が10J以上20J未満であることを表し、「C」は吸収エネルギー(@-40℃)が10J未満出あることを表す。
【0063】
(1)比較例1は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Siが過剰であるためと考えられる。
(2)比較例2は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Niが少ないためと考えられる。
(3)比較例3は、室温における0.2%耐力が低い。これは、Niが過剰であるためと考えられる。
(4)比較例4は、室温における0.2%耐力が低い。これは、Crが少ないためと考えられる。
(5)比較例5は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Crが過剰であるためと考えられる。
【0064】
(6)比較例6は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Moが過剰であるためと考えられる。
(7)比較例7は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Alが過剰であるためと考えられる。
(8)比較例8は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Tiが過剰であるためと考えられる。
(9)比較例9は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Nbが少ないためと考えられる。
(10)比較例10は、室温及び-40℃における吸収エネルギーが低い。これは、Nbが過剰であるためと考えられる。
【0065】
(11)実施例1~8、参考例9~10、実施例11~21、参考例22~23、実施例24~25、参考例26~27、実施例28~36は、いずれも、室温における0.2%耐力が高く、かつ、室温及び-40℃における吸収エネルギーも高い。
【0066】
【表3】
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼は、
(a)地下掘削用ドリル内の泥水モータ部品の、流体の水力により回転するロータと固定子、
(b)ロータと固定子の回転を伝達するドライブシャフト、
(c)ドライブシャフトを保持するベアリングの構造部材、
(d)地下掘削用ドリルのドリルストリングの掘削深度、傾斜角、方位角を測定するMeasurement-while-drilling tools (MWD)の構造部材、
(e)地質の分析を行うLogging-while-drilling tools (LWD)の構造部材、
(f)MWDやLWDのハウジング部材、
として用いることができる。
その他、蒸気タービンブレード、航空宇宙構造部材、高強度ファスナーなどに用いることができる。