(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20250109BHJP
C08G 18/79 20060101ALI20250109BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A63B37/00 212
A63B37/00 214
A63B37/00 324
C08G18/79 020
C08G18/42
(21)【出願番号】P 2020192127
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-10-12
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 宏隆
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-005102(JP,A)
【文献】特開2012-087183(JP,A)
【文献】特開2018-082759(JP,A)
【文献】特開2017-077357(JP,A)
【文献】特許第4784731(JP,B2)
【文献】特開昭63-164966(JP,A)
【文献】特開2000-051403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、該コアを被覆する1層又は2層以上からなるカバーとを有し、該カバーの最外層には塗料組成物で形成された塗料層を有するゴルフボールであって、上記カバーの各層は樹脂組成物で形成されており、該樹脂組成物の弾性仕事回復率が35%以上であると共に、上記塗料組成物は、主剤としてのポリオールと、硬化剤としてのポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする
塗料組成物であり、上記ポリオールが、1種のみのポリエステルポリオールからなり、上記ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体とアダクト体との2種類を含み
、且つ上記
塗料組成物の弾性仕事回復率が70%以上であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
上記
塗料組成物の弾性仕事回復率が80%以上である請求項1記載の
ゴルフボール。
【請求項3】
上記ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(A)とアダクト体(B)との混合比率(A)/(B)が質量比で、95/5~40/60である請求項1又は2記載の
ゴルフボール。
【請求項4】
上記塗料組成物の弾性仕事回復率(W1)と上記カバー各層の弾性仕事回復率(W2)との関係において、W1-W2の値が50%以下である請求項
1記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用塗料組成物及び該塗料組成物を用いたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの表面を保護する目的で、又は美的外観を良好に維持する目的により、該ボール表面部分に塗料組成物による塗装が施されていることが多い。このようなゴルフボール用塗料組成物としては、大きな変形及び衝撃、摩擦に耐え得るなどの理由から、ポリオールとポリイソシアネートとを使用直前に混合して用いる2液硬化型ポリウレタン塗料が好適に使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
最近のゴルフボールの開発で多く見られるのは、ドライバーによるフルショット時のスピンをより一層低下させることであり、このような低スピン化の流れから、最外層であるカバーは軟質化する傾向にある。
【0004】
また、多くのゴルフボールは、コアと、該コアの外側に位置するカバーと、該カバーの外側に位置する塗膜層とを備えている。この塗膜層を軟質にすることにより、ゴルフボールのスピン速度の安定性に寄与したり、耐久性に優れたりするなどの一定の効果があることも多い(例えば特許文献2)。
【0005】
更には、ポリオール成分として1種類のポリエステルポリオールを単独で使用したゴルフボール用塗料も開発されている。
【0006】
しかし、塗膜層表面における耐摩耗性が良好なものではなく、更に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-253201号公報
【文献】特開2011-67595号公報
【文献】特開2002-53799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、塗膜の耐摩耗性が向上し得るゴルフボール用塗料組成物及びこれを用いたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料組成物について、上記ポリイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体とアダクト体との2種類を用いると共に、上記組成物の弾性仕事回復率が70%以上となるように塗料組成物を調製することにより、この塗料組成物によって得られる塗膜は耐黄変性及び柔軟性に優れるものとなり、特に、柔軟性に優れるアダクト体と比較的強靭なイソシアヌレート体の2種類を用いることで高いスピン性能を得ることができることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.コアと、該コアを被覆する1層又は2層以上からなるカバーとを有し、該カバーの最外層には塗料組成物で形成された塗料層を有するゴルフボールであって、上記カバーの各層は樹脂組成物で形成されており、該樹脂組成物の弾性仕事回復率が35%以上であると共に、上記塗料組成物は、主剤としてのポリオールと、硬化剤としてのポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料組成物であり、上記ポリオールが、1種のみのポリエステルポリオールからなり、上記ポリイソシアネートが、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体とアダクト体との2種類を含み、且つ上記塗料組成物の弾性仕事回復率が70%以上であることを特徴とするゴルフボール。
2.上記塗料組成物の弾性仕事回復率が80%以上である上記1記載のゴルフボール。
3.上記ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(A)とアダクト体(B)との混合比率(A)/(B)が質量比で、95/5~40/60である上記1又は2記載のゴルフボール。
4.上記塗料組成物の弾性仕事回復率(W1)と上記カバー各層の弾性仕事回復率(W2)との関係において、W1-W2の値が50%以下である上記1記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴルフボール用塗料組成物は、自己修復機能が高く、耐摩耗性が高いと共に、耐黄変性及び柔軟性に優れており、更には高いスピン性能が得られる。上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールは、各種性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボール用塗料は、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とするものである。
【0013】
上記ポリオールとしては、特に制限はないが、1種又は2種類以上のポリエステルポリオールを用いることが好適である。特に、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)との2種類のポリエステルポリオールを主剤として用いることが好ましい。これらの2種類のポリエステルポリオールは、重量平均分子量(Mw)が異なるものであり、(A)成分の重量平均分子量(Mw)が20,000~30,000であり、且つ、(B)成分の重量平均分子量(Mw)が800~1,500であることが好適である。(A)成分の重量平均分子量(Mw)のより好ましくは、22,000~29,000であり、さらに好ましくは23,000~28,000である。一方、(B)成分の重量平均分子量(Mw)のより好ましくは、900~1200であり、さらに好ましくは1,000~1,100である。
【0014】
上記2種類のポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。このポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス-2-カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。特に、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0015】
また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000~23,000であり、より好ましくは15,000~22,000である。また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の数平均分子量(Mw)は、好ましくは1,100~2,000であり、より好ましくは1,300~1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。
【0016】
上記2種類のポリエステルポリオール(A),(B)成分の配合量は、特に制限はないが、(A)成分の配合量が、主剤全量に対して20~30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2~18質量%であることが好ましい。
【0017】
また、上記ポリオールとして1種のみ用いる場合は、上記記載のポリエステルポリオール(A)を採用することが好適である。
【0018】
一方、本発明で使用するポリイソシアネートについては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体とアダクト体との2種類が含まれる。通常、イソシアネートプレポリマーは、3種の構造(アダクト体,ビュレット体,イソシアヌレート体)に分けられる。アダクト体(adduct)とは、ジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加体をいう。イソシアヌレート体(isocyanurate)とは、ジイソシアネートの三量体をいう。
【0019】
上記ヘキサメチレンジイソシアネートには、その変性体も含まる。ヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。
【0020】
上記ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(A)とアダクト体(B)との混合比率(A)/(B)は質量比で、95/5~40/60であること好ましく、80/20~55/45がより好ましい。上記混合比率の範囲内でアダクト体(B)の比率が多くなると傷つき性やスピン性が向上する傾向にあるが、上記範囲を逸脱してアダクト体(B)の比率が多くなってしまうと汚染性が低下するおそれがある。
【0021】
ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体としては、例えば、商品名「コロネート2357」(東ソー社製)、「スミジュールN3300」(住化コベストロウレタン社製)、「デュラネートTPA-100」(旭化成社製)、「タケネートD170N」、「タケネートD177N」(いずれも三井化学社製)、「バーノックDN-980」(DIC社製)が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用して採用することができる。
【0022】
また、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のアダクト体としては、例えば、商品名「コロネートHL」(東ソー社製)、「タケネートD160N」(三井化学社製)、「デュラネートE402-80B」、「デュラネートE405-70B」(いずれも旭化成社製)、「バーノックDN-955」、「バーノックDN-955S」(いずれもDIC社製)が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を併用して採用することができる。
【0023】
本発明で用いられるポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)については、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上であり、上限としては、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.9以下である。このモル比が0.6未満の場合には未反応の水酸基が残り、ゴルフボール用塗膜としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方、1.5を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、ゴルフボール用塗膜の性能が低下するおそれがある。
【0024】
硬化触媒(有機金属化合物)としては、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型ウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
【0025】
上記ゴルフボール用塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
【0026】
また、ゴルフボール用塗料組成物の弾性仕事回復率が70%以上とすることを要し、好ましくは80%以上である。この塗料の弾性仕事回復率が上記範囲を逸脱すると、耐摩耗性が悪くなるおそれがある。このように、本発明では、ゴルフボール表面に形成される塗膜が高弾性力を有するため自己修復機能が高く、耐摩耗性に非常に優れる。また、上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの諸性能を向上させることができる。ゴルフボール用塗料組成物の弾性仕事回復率の測定方法については後述する。
【0027】
上記の弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗膜の物性を評価することができると考えられる。ゴルフボール表面の塗膜がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、当該塗膜がゴルフボールの物性に及ぼす影響は小さくないことから、ゴルフボール用塗膜を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0028】
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、本発明の塗料組成物を塗装時に調整し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗膜層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
【0029】
上記ゴルフボール用塗料組成物は、上述したとおり、主剤としてポリエステルポリオールを使用し、ポリイソシアネートを硬化剤として使用するものであり、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0030】
なお、上記の乾燥工程については、公知の2液硬化型ウレタン塗料と同様にすればよく、本発明の塗料組成物は、乾燥温度が約40℃以上、特に40~60℃、乾燥時間20~90分、特に40~50分とすることができる。
【0031】
塗料層の厚さについては、特に制限はないが、好ましくは3~50μm、より好ましくは5~20μmである。
【0032】
上記塗料組成物は、ワンピースゴルフボールやコアと該コアを被覆するカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボール、又は、1層以上のコアと該コアを被覆する多層のカバーとからなるマルチピースソリッドゴルフボール等、いずれのゴルフボールでも用いることができる。
【0033】
また、本発明は、コアと、該コアを被覆する1層又は2層以上からなるカバーとを有するゴルフボールであって、上記カバーの最外層には、上述した塗料組成物で形成された塗料層を有するゴルフボールを提供する。
【0034】
上記カバーについては、コアを被覆する部材であり、少なくとも1層有し、例えば、2層カバーや3層カバー等のものが挙げられる。2層カバーの場合、各層は、内側を中間層、外側を最外層と称することがある。また、3層カバーの場合、各層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。なお、上記最外層の外表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルが多数形成される。
【0035】
カバー各層の材質については、特に制限はなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂、更にはポリウレタン樹脂により形成することができる。例えば、中間層にアイオノマー樹脂や高度に中和したアイオノマー樹脂、最外層にポリウレタン樹脂により形成することができる。
【0036】
上記カバーの各層を形成する樹脂組成物については、弾性仕事回復率が35%以上であることが好ましく、より好ましくは43%以上である。この樹脂組成物の弾性仕事回復率が上記範囲を逸脱すると、カバー材や塗膜の傷つき性が悪くなるおそれがある。上記の弾性仕事回復率は、カバー(各層)の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータであり、その測定方法は上述した塗料組成物の弾性仕事回復率の測定方法と同じである。
【0037】
また、上記塗料組成物の弾性仕事回復率をW1、上記カバー各層の弾性仕事回復率をW2とすると、これらの関係については、差が大きく過ぎると塗膜とカバーとの接着性が悪くなり塗膜が剥がれやすくなる点から、W1-W2の値が50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。
【0038】
コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、チタン系、コバルト系、ニッケル系、ネオジウム系等のチーグラー系触媒,コバルト及びニッケル等の金属触媒により合成することができる。
【0039】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤、ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0040】
このように、上記塗料組成物にて形成された塗膜は、耐摩耗性に優れると共に、その塗料組成物で塗装されたゴルフボールは、ゴルフクラブにより繰り返し打撃が行われた場合であってもスピン性能の著しい低下を防ぐことができる等、性能を向上させることができる。
【実施例】
【0041】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1~5、比較例1~3〕
表1に示す配合によりコア用のゴム組成物を調製した後、155℃、15分間により加硫成形することにより直径36.3mmのコアを作製した。次に、同表に示す各種の樹脂材料により、包囲層、中間層を射出成形法により順次被覆した。包囲層の厚みは1.3mm、材料硬度はショアD硬度で52であり、中間層の厚みは1.1mm、材料硬度はショアD硬度で62である。
【0043】
【0044】
上記コアの材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「ポリブタジエンA」:商品名「BR01」JSR社製
「ポリブタジエンB」:商品名「BR51」JSR社製
「有機過酸化物」:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」日油社製
「硫酸バリウム」:商品名「バリコ#100」ハクスイテック社製
「酸化亜鉛」:商品名「酸化亜鉛3種」堺化学工業社製
「アクリル酸亜鉛」:日本触媒社製
「水」:蒸留水、和光純薬工業社製
「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」:和光純薬工業社製
【0045】
カバー(包囲層及び中間層)の材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「HPF1000」:Dupont社製のアイオノマー
「ハイミラン1605」:Na系アイオノマー、三井・ダウポリケミカル社製
「ハイミラン1557」:Zn系アイオノマー、三井・ダウポリケミカル社製
「ハイミラン1706」:Zn系アイオノマー、三井・ダウポリケミカル社製
【0046】
次に、下記表2に示す最外層の樹脂材料I~IVを用いて、厚さが0.8mmの最外層を射出成形により被覆した。各樹脂材料I~IVのショアD硬度は同表に示す。なお、特に図示してはいないが、最外層の外表面には多数のディンプルが射出成形と同時に形成された。
【0047】
【0048】
カバー(最外層)の材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。「ハイミラン」については表1と同様の説明である。
「TPU1」「TPU2」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン
「ニュクレル」:三井・ダウポリケミカル社製のエチレン系共重体
「AM7329」:三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
【0049】
カバー(最外層)の弾性仕事回復率
最外層の弾性仕事回復率の測定には、カバー材と同じ配合で厚みの平板をサンプルとして用い、測定装置として、東陽テクニカ社の超微小硬度計「G200」を用いた。測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:130.06°)
・荷重F:100mN
・荷重時間:15秒
・保持時間:20秒
・除荷時間:15秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0050】
塗料層(塗膜)の形成
次に、下記表3に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成された最外層の表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗料層(塗膜)を形成した各例のゴルフボールを作製した。
【0051】
塗料層の弾性仕事回復率
塗料層の弾性仕事回復率の測定には、厚み50μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT-2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0052】
【0053】
[ポリエステルポリオール(A)の合成例]
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「ポリエステルポリオール(A)」を得た。
【0054】
実施例1~5及び比較例1,2では、上記「ポリエステルポリオール(B)」を混合せず、表3に示すように、主剤として「ポリエステルポリオール(A)」のみを酢酸ブチルで溶解させた。この溶液は、不揮発分27.5質量%であった。
【0055】
比較例3では、上記ポリエステルポリオール溶液27質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を3質量部と有機溶剤(酢酸ブチル)とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分30.0質量%であった。
【0056】
[分子量(Mw及びMn)の測定]
分子量は、以下の装置により測定した。
装置:東ソー(株)製 高速GPC装置 HLC-8220
カラム:東ソー(株)製 「TSK-GEL G2000HXL」と「TSK-GEL G4000HXL」との2個連結
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
溶離液:THF
カラム流速:0.6ml/min
【0057】
次に、硬化剤のイソシアネートとして、実施例1~5、比較例1,2では、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のイソシアヌレート体である旭化成(株)製の「デュラネートTPA-100」(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)と、HMDIのアダクト体である旭化成(株)製の「デュラネートE402-80B」(NCO含有量7.6%、不揮発分80%)を用いた。比較例3では、硬化剤のイソシアネートとして、HMDIヌレート体のみを用いた。各実施例・比較例におけるヌレート体とアダクト体との混合比率(質量%)は表3に記載のとおりである。有機溶剤として酢酸エチル及び酢酸ブチルを加え、溶剤も含む硬化剤全量に対して、イソシアネートの配合量(濃度)同表に示す値になるよう調整し、塗料を調製した。
【0058】
そして、各実施例、比較例のゴルフボールの塗膜外観を下記の基準に従って評価した。その結果を表4に示す。
【0059】
砂摩耗試験後のボール表面の外観評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により、ボール外観を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面には、剥離や汚れなど目立った外傷なし
○:ボール表面には、小さな傷や汚れが見られる
×:ボール表面には、大きな傷や摩耗によるや剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ
【0060】
砂水摩耗試験後のボール表面の外観評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂及び水を約4kg入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50~60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により、ボール外観を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面には、剥離や汚れなど目立った外傷なし
○:ボール表面には、小さな傷や汚れが見られる
×:ボール表面には、大きな傷や摩耗による大きな剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ
【0061】
【0062】
表4のゴルフボール物性の結果より、以下のことが考察される。
本実施例1~5のゴルフボールは、いずれも、砂摩耗試験及び砂水摩耗試験が良好な結果となり塗膜外観が良好であることが分かる。
これに対して、比較例1及び比較例2は、砂摩耗試験によるボール表面は良好であるが、砂水摩耗試験におけるボール表面は、摩耗による剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ。比較例3は、砂水摩耗試験によるボール表面は良好であるが、砂摩耗試験におけるボール表面は、摩耗による剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ。