(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】繊維、成形体、繊維の廃棄方法および成形体の廃棄方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/90 20060101AFI20250109BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20250109BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20250109BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20250109BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D01F6/90 301
C08G69/26
C08K5/098
C08L77/06
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2020193582
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩介
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-026686(JP,A)
【文献】特表2002-542313(JP,A)
【文献】米国特許第05308906(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0072866(US,A1)
【文献】特開2018-043773(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010389(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-6/96
D01F9/00-9/04
C08G69/00-69/50
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂とコバルト塩を含み、
前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む、
繊維
であって、
前記繊維に含まれる可塑剤の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対し、0.5質量部未満である、繊維。
【請求項2】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%である、請求項1に記載の繊維;ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。
【請求項3】
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、炭素数
11~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸を含む、請求項1または2に記載の繊維。
【請求項4】
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、1,12-ドデカン二酸を含む、請求項1または2に記載の繊維。
【請求項5】
前記コバルト塩が、コバルトのカルボン酸塩を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項6】
前記コバルト塩が、ステアリン酸コバルトを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項7】
前記コバルト塩中のコバルト原子の含有量が、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10~2000質量ppmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項8】
生分解性である、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項9】
前記繊維を、58±2℃、相対湿度100%のコンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維:ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO
2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維から形成された成形体。
【請求項11】
前記成形体が漁網である、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維を、生分解させることを含む、繊維の廃棄方法。
【請求項13】
請求項10または11に記載の成形体を、生分解させることを含む、成形体の廃棄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維、成形体、繊維の廃棄方法および成形体の廃棄方法に関する。特に、ポリアミド樹脂を用いた、生分解性に優れた繊維等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂を繊維に用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂を含むモノフィラメントであって、前記ポリアミド樹脂がε-カプロラクタムおよび/またはε-アミノカプロン酸に由来する単位(以下、これを「単位1」とも称する。)、アジピン酸に由来する単位(以下、これを「単位2」とも称する。)並びにヘキサメチレンジアミンに由来する単位(以下、これを「単位3」とも称する。)を含み、単位1、単位2および単位3の合計に対し、単位1が60質量%超80質量%未満であるモノフィラメントが開示されている。
また、特許文献2には、ペンタメチレンジアミンを主要成分として含有する脂肪族ジアミンと、アジピン酸を主要成分として含有するジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂を含むポリアミドフィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-223037号公報
【文献】特開2010-281027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリアミド樹脂を繊維(フィラメント)に用いることは行われているが、近年の環境保全に対する取り組みの一環として、生分解性能を有するポリアミド樹脂繊維が求められている。しかしながら、生分解性能に優れていても、強度が劣れば実用性が低い。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリアミド樹脂を用いた繊維であって、生分解性に優れ、かつ、強度が高い繊維、成形体、繊維の廃棄方法および成形体の廃棄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、繊維の原料として、所定のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用い、かつ、コバルト塩を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂とコバルト塩を含み、
前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む、繊維。
<2>前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%である、<1>に記載の繊維;ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。
<3>前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、炭素数11~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸を含む、<1>または<2>に記載の繊維。
<4>前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、1,12-ドデカン二酸を含む、<1>または<2>に記載の繊維。
<5>前記コバルト塩が、コバルトのカルボン酸塩を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の繊維。
<6>前記コバルト塩が、ステアリン酸コバルトを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の繊維。
<7>前記コバルト塩中のコバルト原子の含有量が、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10~2000質量ppmである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の繊維。
<8>生分解性である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の繊維。
<9>前記繊維を、58±2℃、相対湿度100%のコンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の繊維:ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。
<10><1>~<9>のいずれか1つに記載の繊維から形成された成形体。
<11>前記成形体が漁網である、<10>に記載の成形体。
<12><1>~<9>のいずれか1つに記載の繊維を、生分解させることを含む、繊維の廃棄方法。
<13><10>または<11>に記載の成形体を、生分解させることを含む、成形体の廃棄方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリアミド樹脂を用いた繊維であって、生分解性に優れ、かつ、強度が高い繊維、成形体、繊維の廃棄方法および成形体の廃棄方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、ppmは質量ppmを意味する。
【0008】
本実施形態の繊維は、ポリアミド樹脂とコバルト塩を含み、前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含むことを特徴とする。
このような構成とすることにより、生分解性に優れ、かつ、強度が高い繊維が得られる。この理由は以下の通りであると推測される。
樹脂を生分解させるため、例えば、コンポスト環境下に長期間放置すると、微生物が樹脂に作用し、樹脂の分子量を低下させる。その結果、微生物がさらに樹脂の内部まで入り込みやすくなり、生分解が進行し、オリゴマー、モノマー、さらには、さらなる低分子に分解する。しかしながら、ポリアミド樹脂は、一般的に、アミド結合が強く、また、通常、結晶性樹脂であるため、微生物の影響を受けにくく、分子量低下が起こりにくい。そのため、ポリアミド樹脂は、微生物による分解が進行しにくい。本実施形態では、ポリアミド樹脂として、所定のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、キシリレンジアミンのNH2-CH2-ベンゼン環の部位が、コバルトによって酸化分解され、ベンジル部位とNH2の間で切断されると推測された。結果として、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の分子量低下が促進され、生分解を促進できたと推測される。さらに、本実施形態の繊維は、生分解前の強度も、ポリアミド樹脂繊維が本来的に有している強度を維持している。
以下、本実施形態の繊維の詳細について説明する。
【0009】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の繊維は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む。本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂である。このようなキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用い、さらに、コバルト塩を配合することにより、繊維本来の強度を維持しつつ、生分解性に優れた繊維が得られる。
【0010】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジアミン由来の構成単位は、その50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するが、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。上限は、100モル%であってもよい。
【0011】
キシリレンジアミンは、0~100モル%のメタキシリレンジアミンと0~100モル%のパラキシリレンジアミンを含むことが好ましく、0~90モル%のメタキシリレンジアミンと10~100モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがより好ましく、0~80モル%のメタキシリレンジアミンと20~100モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがさらに好ましい。パラキシリレンジアミンを含むことにより、生分解性がより向上する傾向にある。また、キシリレンジアミンにおいて、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が95モル%以上を占めることが好ましく、99モル%以上を占めることがさらに好ましく、100モル%であることが一層好ましい。
【0012】
キシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0013】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジカルボン酸由来の構成単位は、その50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するが、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。上限は、100モル%であってもよい。
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、10以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましく、12以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、微生物による生分解をより受けやすくなる傾向にある。また、前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、21以下であることが好ましく、20以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、親水性が向上し、微生物による分解をより受けやすくなる傾向にある。前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、10または12であることが好ましく、12であることがより好ましい。
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカン二酸、1,12-ドデカン二酸、1,13-トリデカンニ酸、1,14-テトラデカン二酸、1,15-ペンタデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,17-ヘプタデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、1,19-ノナデカンニ酸、1,20-エイコサン二酸、1,21-ヘンエイコサン二酸、1,22-ドコサン二酸が例示され、セバシン酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、1,20-エイコサン二酸、1,21-ヘンエイコサン二酸、1,22-ドコサン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸がより好ましい。炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が1,12-ドデカン二酸であると上記効果が特に顕著に発揮される。
【0014】
炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、アジピン酸等の炭素数7以下のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
尚、「ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み」とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成するアミド結合の少なくとも一部がジカルボン酸とジアミンの結合によって形成されていること意味し、さらに、ジカルボン酸由来の構成単位と、ジアミン由来の構成単位以外に、末端基等の他の部位を含みうる。また、ジカルボン酸とジアミンの結合に由来しないアミド結合を有する繰り返し単位や微量の不純物等が含まれる場合もあるであろう。具体的には、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する成分として、本実施形態の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましくは90質量%以上が、より好ましくは95質量%以上が、さらに好ましくは98質量%以上がジアミン由来の構成単位またはジカルボン酸由来の構成単位である。
【0016】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、キシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%であることが好ましい。このような構成とすることにより、樹脂の低分子量化と分解生成物の生分解性をバランスよく向上させることができる。ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。キシリレンジアミン構造とは、「-HN-CH2-ベンゼン環-CH2-NH-」で表される部分をいう。
前記キシリレンジアミン構造の質量比率の下限値は、25質量%以上であることが好ましく、28質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、さらには35質量%以上であってもよく、特には40質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、分解の起点が増加し、生分解をより受けやすい低分子量成分が生じやすくなる傾向にある。また、前記キシリレンジアミン構造の質量比率の上限値は、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、48質量%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、生分解をより受けにくいキシレン骨格が減少し、樹脂全体としての生分解度がより向上する傾向にある。
【0017】
本実施形態の繊維におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、繊維中、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、繊維の強度がより効果的に達成される。上限値としては、コバルト塩以外のすべての成分がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂となる量である。
本実施形態の繊維は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0018】
本実施形態の繊維は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
前記他のポリアミド樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環式ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂等の1種または2種以上が挙げられ、脂肪族ポリアミド樹脂および脂環式ポリアミド樹脂が好ましく、脂肪族ポリアミド樹脂がより好ましい。
前記他のポリアミド樹脂は、具体的には、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6/6T、ポリアミド66/6T、ポリアミド6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/12、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミド9T、ポリアミド9I、ポリアミド9T、9I、ポリアミド10T、1,3-BAC10I(1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンとセバシン酸とイソフタル酸から構成されたポリアミド樹脂)、1,4-BAC10I(1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサンとセバシン酸とイソフタル酸から構成されたポリアミド樹脂)が挙げられ、ポリアミド6および/またはポリアミド66が好ましい。
これらの他のポリアミド樹脂を含む場合、その含有量は、繊維中、5~15質量%であることが好ましい。
【0019】
<コバルト塩>
本実施形態の繊維は、コバルト塩を含む。コバルト塩を含むことにより、本実施形態の繊維をコンポスト環境下等においたときに生分解を促進する。特に、コバルト塩はコンポスト環境下に置く前は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂に悪影響を殆ど与えないため、繊維の使用時には、繊維が本来的に有している性能(特に、強度)を阻害しにくい点で好ましい。
コバルト塩の種類は特に定めるものではなく、2価の塩および3価の塩のいずれであってもよいが、2価の塩が好ましい。
コバルト塩はコバルトのカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を用いることにより、ベンジル位の酸化分解による低分子量化がより効果的に促進される傾向にある。
コバルトのカルボン酸塩の場合、カルボン酸は、脂肪族カルボン酸であることが好ましい。前記脂肪族カルボン酸は、コバルトによる樹脂の酸化分解挙動に顕著な影響を与えないため、特に定めるものではないが、直鎖または分岐の脂肪族カルボン酸のいずれも好ましく採用でき、直鎖の脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数は、コバルトによる樹脂の酸化分解挙動に顕著な影響を与えないため、特に定めるものではないが、2以上であることが好ましく、10以上であってもよく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、24以下であることがさらに好ましい。特に、炭素原子の数が偶数である脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
脂肪族カルボン酸の具体例としては、酢酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ネオデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリシン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸が例示され、物性面から、酢酸、ネオデカン酸、ステアリン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
本実施形態におけるコバルト塩は、ステアリン酸コバルトが好ましい。ステアリン酸コバルトは、(C17H35COO)2Coが好ましい。
【0020】
本実施形態の樹脂におけるコバルト塩(好ましくはステアリン酸コバルト)中のコバルト原子の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、80質量ppm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、ポリアミド樹脂が生分解を受けやすい分子量まで分解しやすくなる傾向にある。また、本実施形態の樹脂におけるコバルト塩(好ましくはステアリン酸コバルト)中のコバルト原子の含有量は、2000質量ppm以下であることが好ましく、1800質量ppm以下であることがより好ましく、1500質量ppm以下であることがさらに好ましく、1200質量ppm以下であることが一層好ましく、1000質量ppm以下であることがより一層好ましく、800質量ppm以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂調製時の劣化や外観不良を効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態の繊維は、コバルト塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
<他の成分>
本実施形態の繊維には、本実施形態の目的・効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂およびコバルト塩以外の他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分の具体例としては、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、表面活性化剤、染色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載、特開2010-281027号公報の段落0021の記載、特開2016-223037号公報の段落0036の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
ポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、熱可塑性ポリエーテルイミド等が例示される。本実施形態の繊維では、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、例えば、本実施形態の繊維において、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が、ポリアミド樹脂の質量の5質量%以下であることをいう。
また、本実施形態の繊維は、ガラス繊維、炭素繊維等の充填材を含んでいてもよいが、実質的に含まないことが好ましい。充填材を実質的に含まないとは、例えば、充填材の配合量が、本実施形態の繊維の3質量%以下であることをいう。
本実施形態の繊維は、また、可塑剤(例えば、芳香族エステル化合物)を実質的に含まない構成とすることもできる。可塑剤を実質的に含まないとは、例えば、可塑剤の配合量が、本実施形態の繊維に含まれるポリアミド樹脂100質量部に対し、0.5質量部未満であることをいい、0.3質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
また、本実施形態の繊維はプラズマ処理を行うことで、任意の表面性を付与することができる。この詳細は、特開平06-182195号公報の0019~0022の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0022】
<延伸>
本実施形態の繊維は、延伸されていてもよいし、延伸されていなくてもよいが、延伸されていることが好ましい。延伸されていることにより、より強度に優れた繊維が得られる傾向にある。延伸は、繊維の長手方向(繊維長方向)に延伸されていることが好ましい。また、一段階延伸であっても、二段階以上の延伸であってもよいが、二段階延伸であることが好ましい。延伸倍率(総延伸倍率)は、2.5倍以上であることが好ましく、3.0倍以上であることがより好ましく、3.5倍以上であることがさらに好ましく、4.0倍以上であることが一層好ましく、4.5倍以上であることがより一層好ましく、5.0倍以上であることがさらに一層好ましい。前記延伸倍率の上限は、8.0倍以下であることが好ましく、7.5倍以下であることがより好ましく、7.0倍以下であることがさらに好ましく、6.5倍以下であることが一層好ましく、6.0倍以下であることがより一層好ましく、5.5倍以下であることがさらに一層好ましい。
【0023】
<繊維の特性、物性>
本実施形態の繊維は、生分解性であることが好ましい。生分解性とは、微生物などによって、最終的に水と二酸化炭素に分解されうる性能をいい、例えば、コンポスト環境下一定期間保存したとき、分子量の低下が認められるものが含まれる。
本実施形態の繊維は、58±2℃、相対湿度100%のコンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、21%以上であることがさらに好ましく、25%以上であることが一層好ましく、30%以上であることがより一層好ましく、35%以上であることがさらに一層好ましい。生分解度の上限は100%が理想であるが、例えば80%以下、さらには70%以下でも十分に要求性能を満たすものである。ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。詳細は、実施例の記載に従う。
【0024】
本実施形態の繊維の長さ(質量平均長)は特に定めるものでは無いが、通常、2cm以上であり、0.1m以上であることが好ましく、より好ましくは1m以上、さらに好ましくは100m以上である。また、繊維の長さ(質量平均長)の上限値としては、20,000m以下であることが好ましく、より好ましくは1,000m以下、さらに好ましくは100m以下である。
【0025】
本実施形態の繊維は、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよいが、マルチフィラメントであることが好ましい。マルチフィラメントとすることにより、様々な成形体へ加工が容易となることに加え、マルチフィラメントの方がモノフィラメントよりも、単繊度が細いため、生分解がより効果的に進行する傾向にある。
本実施形態のフィラメントがマルチフィラメントである場合、一本のマルチフィラメントを構成するフィラメントの数は、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であってもよい。また、一本のマルチフィラメントを構成するフィラメントの数の上限は、100以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましく、55以下であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、紡糸時の単糸間の融着を効果的に防ぐことができる。
マルチフィラメントとする場合、集束剤を用いてもよく、集束剤としては、ポリアミド樹脂繊維を収束する機能を有するものであれば、その種類は特に定めるものではないが、鉱油および動・植物油などの油剤、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤および両性界面活性剤などの界面活性剤を例示できる。より具体的には、エステル系化合物、アルキレングリコール系化合物、ポリオレフィン系化合物、フェニルエーテル系化合物、ポリエーテル系化合物、シリコーン系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、アミド系化合物、スルホネート系化合物、ホスフェート系化合物、カルボキシレート系化合物およびこれらを2 種以上組み合わせたものが好ましい。また、集束剤の量は、繊維100質量部に対し、0.1~5.0質量部であることが好ましい。
【0026】
本実施形態の繊維の繊度(単繊度)は、下限値は、50d(デニール)以上であることが好ましく、100d以上であることがより好ましく、300d以上であることがさらに好ましく、500d以上であることが一層好ましく、600d以上であることがより一層好ましい。上限値は、1500d以下であることが好ましく、1300d以下であることがより好ましく、1200d以下であることがさらに好ましく、1100d以下であることが一層好ましい。
繊度は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0027】
本実施形態の繊維の断面は、通常円形である。ここでの円形とは、数学的な意味での円形の他、本実施形態の技術分野において、概ね円形と認められるものも含む趣旨である。また、本実施形態における繊維の断面は、円形以外の形状であってもよく、例えば、楕円形、長円形などの扁平形状であってもよい。
【0028】
本実施形態の繊維の直線強さは、3.0gf/d以上であることが好ましく、3.5gf/d以上であることがより好ましく、4.0gf/d以上であることがさらに好ましく、さらには4.5gf/d以上、特には5.0gf/d以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、繊維の引張方向の荷重による破断防止効果がより向上する傾向にある。本実施形態の繊維の直線強さの上限は、特に定めるものではないが、例えば10.0gf/d以下、さらには8.0gf/d以下、特には7.0gf/d以下であっても、要求性能を満たすものである。
【0029】
本実施形態の繊維の結節強さは、2.0gf/d以上であることが好ましく、2.5gf/d以上であることがより好ましく、3.0gf/d以上であることがさらに好ましく、さらには3.5gf/d以上、特には3.8gf/d以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、例えば、漁網用途などにおける結び目での破断抑制効果がより向上する傾向にある。本実施形態の繊維の結節強さの上限は、特に定めるものではないが、例えば8.0gf/d以下、さらには6.0gf/d以下、特には7.0gf/d以下であっても、要求性能を満たすものである。
直線強さおよび結節強さは、後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0030】
<製造方法>
本実施形態の繊維は、ポリアミド樹脂およびコバルト塩を含む組成物を成形して得られる。その成形方法は任意であり、溶融紡糸などの、従来公知の任意の成形方法により所望の形状に成形すればよい。例えば、国際公開第2017/010389号の段落0051~0058の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
成形条件や成形後の形状などは、その用途に応じて適宜選択し決定すればよく、例えば漁網用繊維、釣り糸用繊維、産業資材用繊維、衣類やカーペット等の織布用繊維、ラケット用ガット等により適宜変更すればよい。
【0031】
<用途>
本実施形態の繊維は、そのまま用いてもよいが、混繊糸、組紐、より紐等の糸状材料に加工してもよい。また、織物、編み物、不織布等の成形体としても好ましく用いられる。さらに、前記成形体は完成品であってもよいし、部品であってもよく、さらに加工される材料であってもよい。
本実施形態の繊維は、芯材に巻き取ってもよい。すなわち、芯材と芯材に巻き取られた繊維を有する巻取体とすることもできる。
本実施形態の繊維ないし成形体は、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品(例えば、釣り糸)、農林水産業用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム、衣類等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
特に、本実施形態の繊維ないし成形体は、生分解性に優れることから、濾布、レジャースポーツ用品(例えば、釣り糸)、漁網に好ましく用いられ、漁網により好ましく用いられる。
本実施形態の繊維および本実施形態の成形体は生分解させることによって、廃棄できる。本実施形態の繊維および成形体は、微生物の作用によって、分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水になって自然界へ循環させることができる。よって、自然破壊することなく、自然に廃棄することができる点で有益である。すなわち、本明細書では、本実施形態の繊維または成形体を、生分解させることを含む、繊維の廃棄方法も開示する。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0033】
1.原料
<MXD10の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤したセバシン酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で170℃まで昇温し、セバシン酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、メタキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に250℃まで昇温させ、パラキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラキシリレンジアミン滴下終了後、250℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。このペレットを真空乾燥機にて150℃5時間乾燥した。得られたポリアミド樹脂(MXD10)のDSCに従って測定した融点は191℃であった。
キシリレンジアミン構造の質量比率は、44.4質量%である。
【0034】
<PXD10の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤したセバシン酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で170℃まで昇温し、セバシン酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、パラキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に285℃まで昇温させ、パラキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラキシリレンジアミン滴下終了後、290℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を305℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。このペレットを真空乾燥機にて150℃5時間乾燥した。得られたポリアミド樹脂(PXD10)のDSCに従って測定した融点は290℃であった。
キシリレンジアミン構造の質量比率は、44.4質量%である。
【0035】
<MXD12の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤した1,12-ドデカン二酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で180℃まで昇温し、1,12-ドデカン二酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、メタキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に250℃まで昇温させ、メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、250℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。得られたペレットを熱媒加熱の外套を有するタンブラー(回転式の真空槽)に、室温で仕込んだ。タンブラーを回転しながら槽内を減圧状態(0.5~10Torr)とし、流通熱媒を150℃まで加温し、ペレット温度130℃まで昇温してその温度で3時間保持した。その後、再び窒素を導入して常圧にし、冷却を開始した。ペレットの温度が70℃以下になったところで、槽からペレットを取り出し、固相重合品を得た。
得られたポリアミド樹脂(MXD12)のDSCに従って測定した融点は190℃であった。
キシリレンジアミン構造の質量比率は、40.6質量%である。
【0036】
<MP12の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤した1,12-ドデカン二酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で180℃まで昇温し、1,12-ドデカン二酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、ジアミン成分の40mol%をパラキシリレンジアミン、60mol%をメタキシリレンジアミンとしたパラ/メタキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に250℃まで昇温させ、またパラ/メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラ/メタキシリレンジアミン滴下終了後、250℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。得られたペレットを熱媒加熱の外套を有するタンブラー(回転式の真空槽)に、室温で仕込んだ。タンブラーを回転しながら槽内を減圧状態(0.5~10Torr)とし、流通熱媒を150℃まで加温し、ペレット温度130℃まで昇温してその温度で3時間保持した。その後、再び窒素を導入して常圧にし、冷却を開始した。ペレットの温度が70℃以下になったところで、槽からペレットを取り出し、固相重合品を得た。
得られたポリアミド樹脂(MP12)のDSCに従って測定した融点は216℃であった。
キシリレンジアミン構造の質量比率は、40.6質量%である。
【0037】
<MXD20の合成例>
上記MP12の合成例において、ジアミン成分の100mol%をメタキシリレンジアミンとし、1,12-ドデカン二酸を1,20-エイコサン二酸に変更した他は同様に合成して得た。
得られたポリアミド樹脂(MXD20)のDSCに従って測定した融点は168℃であった。
キシリレンジアミン構造の質量比率は、30.3質量%である。
【0038】
ステアリン酸コバルト(StCo):関東化学社製、品番:07423-02
【0039】
2.実施例1~5、比較例1~5
<繊維の製造>
後述する表1または表2に示す組成となるように、ポリアミド樹脂とステアリン酸コバルトをそれぞれ秤量し、タンブラーにてブレンドした。これを、単軸押出機を用いて溶融し、紡糸温度をポリアミド樹脂の融点+20℃として紡糸口金を通して紡出した。温度50℃の水浴中に引き取り、一旦巻き取ることなく連続して延伸した。延伸は延伸2段、熱固定1段で実施し、延伸手段として第1段延伸域に75℃の温水浴を、第2段延伸180℃の乾熱空気浴を用いた。延伸条件としては全延伸倍率を3~4.5、2段延伸倍率を1.0~1.5、弛緩率を5%とし、表1または表2に示す延伸倍率とし、繊維(モノフィラメント)を得た。
【0040】
<繊度>
JIS L 1013:2010の規定に従い、乾時の繊維の繊度(正量繊度)をそれぞれ測定した。単位は、デニール(d)で示した。
【0041】
<直線強さ>
乾時の繊維について、JIS L 1013:2010に従い、直線強さを測定した。直線強さの単位は、gf/dで示した。
【0042】
<結節強さ>
乾時の繊維について、JIS L 1013:2010に従い、結節強さを測定した。結節強さの単位は、gf/dで示した。
【0043】
<生分解度>
生分解度はJIS K 6953-1(好気コンポスト系生分解試験法)に従い測定した。繊維10gと乾燥質量60gのコンポストと混合し、含水率を45~50質量%とした。この混合物を58±2℃、相対湿度100%のコンポスト環境下に置き、空気を水で飽和させて二酸化炭素を除いた気体を通気し、90日間生分解試験を行った。発生した二酸化炭素量を測定し、理論二酸化炭素発生量の総量から、下記式に従って生分解度を算出した。
生分解度(%)=[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(理論二酸化炭素発生量の総量)]×100
理論二酸化炭素発生量の総量は、あらかじめCHN分析計で測定した試験材料の全有機炭素量(TOC)と試料量10gから下記式に従って算出した。
理論二酸化炭素発生量(g)=[(試験材料の全有機炭素量(TOC)/100]×3.67×10
コンポストは、八幡物産製YK-11を用いた。二酸化炭素量の測定は、非分散型赤外線分析計(LI-COR製 LI-830)を用いた。CHN分析計はパーキンエルマー製PE2400シリーズIIを用いた。
【0044】
【0045】
【0046】
上記表1および表2におけるStCoの欄における配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対するステアリン酸コバルト量中のコバルト原子の量で示している。
上記結果から明らかなとおり、本発明の繊維は、生分解性に優れていた(実施例1~5)。特に、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5との比較から明らかなとおり、生分解前は、コバルト塩を含まない生分解性に優れていない繊維と同等の強度を有していた。