(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】駆動装置及び駆動装置を備えた車両
(51)【国際特許分類】
F02B 77/00 20060101AFI20250109BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20250109BHJP
B60K 6/36 20071001ALI20250109BHJP
B60K 6/40 20071001ALI20250109BHJP
B60W 20/17 20160101ALI20250109BHJP
F16D 3/06 20060101ALI20250109BHJP
F16D 3/10 20060101ALI20250109BHJP
F16D 3/12 20060101ALI20250109BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F02B77/00 B
B60K6/46 ZHV
B60K6/36
B60K6/40
B60W20/17
F16D3/06 S
F16D3/10
F16D3/12 G
F16H1/06
(21)【出願番号】P 2020203447
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 竜吾
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳則
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-321088(JP,A)
【文献】特開2011-110966(JP,A)
【文献】特開2017-159722(JP,A)
【文献】米国特許第08700247(US,B1)
【文献】国際公開第2011/074042(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010034130(DE,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0040543(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 77/00
B60W 10/00 - 20/00
F16H 1/00
F16D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の動力を回転装置に伝達するための動力伝達機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、
前記内燃機関の出力軸に設けられた第1噛合部と噛み合う第2噛合部を有する第1回転体を有し、
前記第1噛合部と前記第2噛合部との噛み合い部分における遊びの大きさは、
前記内燃機関の出力トルクが最小限になる所定回転速度で
前記出力軸が回転しているときの前記第1噛合部の回転方向における振動成分の振動幅に対して97%以上であることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載された駆動装置であって、
前記遊びの大きさは、前記振動幅以上であることを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された駆動装置であって、
前記動力伝達機構は、複数の歯車によって構成された歯車機構であり、
前記歯車機構は、前記第1回転体と、前記回転装置の回転軸に設けられた第3噛合部と噛み合う第4噛合部を有する第2回転体と、を有し、
前記第1噛合部と前記第2噛合部との噛み合い部分における前記遊びの大きさは、前記歯車機構における歯車同士の噛み合い部分の遊びの大きさ、及び前記第3噛合部と前記第4噛合部との噛み合い部分における遊びの大きさよりも大きいことを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載された駆動装置であって、
前記内燃機関から前記動力伝達機構に伝達されるトルク変動を抑制する減衰器をさらに備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載された駆動装置であって、
前記内燃機関は、3気筒エンジンであることを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載された駆動装置と、
前記回転装置と、
前記内燃機関と前記回転装置の動作を制御する制御装置と、を備え、
前記回転装置は、電動機であり、
前記制御装置は、
前記出力軸を前記所定回転速度で回転させるときには、前記内燃機関と前記電動機を同期して回転させることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置及び駆動装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関が発生させた動力が伝達される出力軸に電動機が発生させた動力を複数の回転部材の係合部分を介して伝達する伝達機構を備えた車両が開示されている。特許文献1に記載された車両では、伝達機構の係合部分に回転部材の回転方向に沿って、内燃機関と電動機との回転変動位相差が最大のときの内燃機関側の回転部材と電動機側の回転部材との相対変位量より大きな遊びを形成することで、歯打ち音を抑制し、騒音を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された車両では、内燃機関が発生した動力が、大きな遊びを形成した箇所に至るまでの間に、複数の歯車機構を介している。このため、この歯車機構において、内燃機関からの動力の変動成分によって歯打ち音が発生し、騒音が大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、内燃機関の動力の変動成分による歯打ち音を抑制し、騒音が大きくなることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、駆動装置は、内燃機関と、内燃機関の動力を回転装置に伝達するための動力伝達機構と、を備える。動力伝達機構は、内燃機関の出力軸に設けられた第1噛合部と噛み合う第2噛合部を有する第1回転体を有し、第1噛合部と第2噛合部との噛み合い部分における遊びの大きさは、内燃機関の出力トルクが最小限になる所定回転速度で出力軸が回転しているときの第1噛合部の回転方向における振動成分の振動幅に対して97%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力軸が所定回転速度で回転しているときに、第1噛合部と第2噛合部との相対変位が変動しても、第1噛合部と第2噛合部とが衝突して歯打ち音が発生することを抑制できるので、騒音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態の車両の駆動系及び制御系の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の車両におけるエンジン-第2モータジェネレータ間の動力伝達経路の模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のダンパの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3の領域Bの拡大図であり、内ハブと外ハブとが接触していない状態を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3の領域Bの拡大図であり、内ハブと外ハブとが接触している状態を示す図である。
【
図6】
図6は、エンジンを所定の回転速度Netで駆動した時のエンジンの回転速度Neの変動を示す図である。
【
図7】
図7は、エンジンを所定の回転速度Netで駆動したとき、スプライン歯の変位量の変化を示す図である。
【
図8】
図8は、スプライン結合における遊びを説明するための図である。
【
図9】
図9は、ギヤ結合における遊びを説明するための図である。
【
図10】
図10は、スプライン歯とスプライン溝の相対変位と遊びD1の関係を説明する図である。
【
図11】
図11は、振動幅Wに対する遊びD1の大きさd1の比率と音圧レベルの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る車両Vの駆動系及び制御系の概略構成図である。車両Vは、例えば、バッテリ5の充電率が高い間はエンジン1を停止して走行用の電動機(第1モータジェネレータ2)により走行し、バッテリ5の充電率が低くなると、エンジン1により発電機(第2モータジェネレータ3)を駆動して発電しながら走行用の電動機(第1モータジェネレータ2)により走行するシリーズハイブリッド車両である。
【0011】
車両Vは、
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン1(ENG)と、第1モータジェネレータ2(MG1)と、回転装置としての第2モータジェネレータ3(MG2)と、動力伝達機構を有するギヤボックス4と、を備える。
【0012】
エンジン1は、例えば、クランクシャフト1aの軸方向を車幅方向として車両Vのフロントルームに配置した3気筒のガソリンエンジンやディーゼルエンジンである。エンジン1の本体は、ギヤボックス4のギヤケース40に連結固定される。エンジン1のクランクシャフト1aは、フライホイール1b及び減衰器としてのダンパ1cを介して、ギヤボックス4のエンジン軸41に接続される。なお、エンジン1は、第2モータジェネレータ3をスタータモータとしてエンジン始動する。
【0013】
第1モータジェネレータ2は、走行駆動源として搭載されたバッテリ5を電源とする三相交流の永久磁石型同期モータであり、減速時やブレーキ時の回生機能を併せ持つ。第1モータジェネレータ2のステータケースは、ギヤボックス4のギヤケース40に連結固定される。ここで、第1モータジェネレータ2のステータコイルには、力行時に直流を三相交流に変換し、回生時に三相交流を直流に変換する第1インバータ6が、第1ACハーネス6aを介して接続される。第1インバータ6とバッテリ5とは、第1DCハーネス6bを介して接続される。
【0014】
第2モータジェネレータ3は、発電機として搭載されたバッテリ5を電源とする三相交流の永久磁石型同期モータであり、エンジン1のスタータモータ機能やモータリング運転機能を併せ持つ。第2モータジェネレータ3のステータケースは、ギヤボックス4のギヤケース40に連結固定される。そして、第2モータジェネレータ3のロータは、ギヤボックス4の第2モータ軸43に接続される。ここで、第2モータジェネレータ3のステータコイルには、力行時に直流を三相交流に変換し、回生時に三相交流を直流に変換する第2インバータ7が、第2ACハーネスを介して接続される。第2インバータ7とバッテリ5とは、第2DCハーネス7bを介して接続される。第2モータジェネレータ3が、本発明の回転装置に相当する。
【0015】
ギヤボックス4は、エンジン1と第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3が連結固定されるギヤケース40内に収容された、減速用ギヤトレーン44と、デファレンシャルギヤユニット45と、ギヤトレーン46と、を備える。なお、本実施形態では、エンジン1とギヤトレーン46が本発明の駆動装置に相当する。
【0016】
減速用ギヤトレーン44は、第1モータジェネレータ2の回転を減速し、モータトルクを増大して走行駆動トルクを確保するための2段減速によるギヤトレーンであり、第1モータ軸42と、第1アイドラー軸47と、を有する。減速用ギヤトレーン44は、複数の歯車によって構成された歯車機構であり、具体的には、第1モータ軸42に設けられた第1モータギヤ44aと、第1アイドラー軸47に設けられた大径アイドラーギヤ44bと、を備える。減速用ギヤトレーン44では、第1モータギヤ44aと大径アイドラーギヤ44bとを互いに噛み合わせることで第1減速ギヤ段が構成される。また、減速用ギヤトレーン44では、第1アイドラー軸47に設けられた小径アイドラーギヤ44cと、デファレンシャルギヤユニット45の入力側に設けられた出力ギヤ44dと、を互いに噛み合わせることで第2減速ギヤが構成される。
【0017】
デファレンシャルギヤユニット45は、減速用ギヤトレーン44の出力ギヤ44dを介して入力された駆動トルクを、回転差動を許容しつつ左右のドライブシャフト8、8を介して左右の駆動輪9、9(
図1は片輪のみ示す)に伝達する。
【0018】
ギヤトレーン46は、エンジン1と第2モータジェネレータ3(発電機)を、クラッチを介装することなく直結するギヤトレーンであり、エンジン軸41と、第2アイドラー軸48と、第2モータ軸43と、を有する。ギヤトレーン46は、複数の歯車によって構成された歯車機構であり、具体的には、エンジン軸41に設けられたエンジンギヤ46aと、第2アイドラー軸48に設けられた第2アイドラーギヤ46bと、第2モータ軸43に設けられた第2モータギヤ46cと、を備える。ギヤトレーン46では、エンジンギヤ46aと、第2アイドラーギヤ46bと、第2モータギヤ46cと、を互いに噛み合わせることでギヤトレーン46が構成される。
【0019】
図8に示すように、エンジン軸41の外周面には第1噛合部としてのスプライン歯41aが等間隔で複数設けられる(
図8では6か所)とともに、エンジンギヤ46aにはエンジン軸41が挿通される貫通孔46a1と、この貫通孔46a1の内周面にスプライン歯41aが嵌合する第2噛合部としてのスプライン溝46a2と、が設けられる。これにより、エンジン軸41とエンジンギヤ46aは、スプライン結合によって結合される。また、第2モータ軸43と第2モータギヤ46cも、同様に、第2モータ軸43の外周面に設けられた第3噛合部としてのスプライン歯43aと第4噛合部としての第2モータギヤ46cの第2モータ軸43が挿通される貫通孔46c1に設けられたスプライン溝46c2とが嵌合することで、スプライン結合される。
【0020】
エンジンギヤ46a、第2アイドラーギヤ46b、及び第2モータギヤ46cは、例えば、平歯車によって構成される。エンジンギヤ46a、第2アイドラーギヤ46b、及び第2モータギヤ46cは、それぞれの歯が互いに噛み合うことで、動力を伝達する。ギヤ歯数の関係は、エンジンギヤ46a>第2モータギヤ46cに設定される。これによりギヤトレーン46は、発電運転時にはエンジン1の回転速度を増速し、第2モータジェネレータ3に向かって燃焼運転(ファイアリング運転)により発電に必要なエンジントルクを伝達する。一方、スタータ運転時やモータリング運転時には、第2モータジェネレータ3の回転速度を減速し、エンジン1に向かってスタータ運転やモータリング運転に必要なモータトルクを伝達する。
【0021】
車両Vの制御系は、
図1に示すように、ハイブリッドコントロールモジュール10(以下、HCM)と、発電コントローラ11(以下、GC)と、バッテリコントローラ12(以下、BC)と、モータコントローラ13(以下、MC)と、エンジンコントローラ14(以下、EC)と、を備える。
【0022】
HCM10と他のコントローラ(GC11、BC12、MC13、EC14等)とは、CAN通信線15により双方向情報交換可能に接続されている。なお、CANとは、Controller Area Networkの略である。また、HCM10と他のコントローラ(GC11、BC12、MC13、EC14)をまとめてコントローラ100と称する。このコントローラ100が本発明の制御装置に相当する。
【0023】
HCM10は、車両全体の消費エネルギを適切に管理する機能を担う統合制御手段である。すなわち、CAN通信線15を介してBC12からバッテリ充電率(以下、SOC(State Of Charge)という)の情報を読み込む。これ以外に、アクセル開度センサ16、車速センサ17、エンジン回転速度センサ18、エンジン冷却水温センサ19、外気温センサ20、ドアスイッチ21、ボンネットスイッチ22、イグニッションスイッチ23、等から情報を読み込む。そして、これらの情報に基づいて種々の制御を行なう。
【0024】
次に、エンジン1と第2モータジェネレータ3との間の動力伝達経路A(
図1の一点鎖線で囲まれた部分)について説明する。
【0025】
【0026】
エンジン1と第2モータジェネレータ3との間の動力伝達経路Aには、フライホイール1bと、ダンパ1cと、ギヤボックス4と、が配置されている。ダンパ1cは、エンジン1から第2モータジェネレータ3に伝達されるトルク変動を抑制する。
【0027】
本実施形態で使用し得るダンパ1cの一例を
図3に示す。
図3は、ダンパ1cの正面図である。
図3に示すように、ダンパ1cは、ギヤボックス4のエンジン軸41に接続される内ハブ30と、内ハブ30に低弾性ダンパ31を介して接続される外ハブ32と、外ハブ32とフライホイール1bとを接続する高弾性ダンパ33と、を備える。低弾性ダンパ31及び高弾性ダンパ33は、いずれも金属バネであり、低弾性ダンパ31の方が高弾性ダンパ33よりバネ定数が低くなるように構成される。
【0028】
内ハブ30は、中心部にエンジン軸41が挿入される孔30bを有し、外周部に切り欠き部を有する。外ハブ32は、内周部の、内ハブの切り欠き部と対向する位置に切り欠き部を有する。低弾性ダンパ31は、内ハブ30の切り欠き部と外ハブ32の切り欠き部とで画成される位置に、伸縮可能に配置される。本実施形態では低弾性ダンパ31が4本配置されているが、これに限られるわけではなく、たとえば2本や3本であってもよい。
【0029】
また、外ハブ32は、外周部にも切り欠き部を有する。フライホイール1bは、内周部の、外ハブ32の外周部の切り欠き部と対向する位置に切り欠き部を有する。高弾性ダンパ33は、外ハブ32の外周部の切り欠き部とフライホイール1bの切り欠き部とで画成される位置に、伸縮可能に配置される。本実施形態では高弾性ダンパ33が4本配置されているが、これに限られるわけではなく、たとえば2本や3本であってもよい。
【0030】
図4、
図5は、
図3の領域Bで囲まれた部分の拡大図であり、
図4は内ハブ30と外ハブ32とに捩じれがない状態を示し、
図5は内ハブ30と外ハブ32とが接触している状態を示している。
【0031】
図3では省略したが、内ハブ30の外周部には突起部30aが設けられ、外ハブ32の内周部には突起部32aが設けられている。内ハブ30と外ハブ32とに捩じれがない状態では、
図4に示すように突起部30aと突起部32aとは周方向に所定の間隔を有している。内ハブ30と外ハブ32とに捩じれが生じると、突起部30aと突起部32aとが相対的に回転し、これに伴い低弾性ダンパ31が縮む。そして、
図5に示すように突起部30aと突起部32aとが接触するまでは、低弾性ダンパ31でトルク変動を吸収可能である。
【0032】
外ハブ32とフライホイール1bと高弾性ダンパ33との関係も上述した内ハブ30と外ハブ32と低弾性ダンパ31との関係と同様である。そして、トルク変動が低弾性ダンパ31で吸収しきれない大きさになると、高弾性ダンパ33が伸縮してトルク変動を吸収する。
【0033】
このような構成により、車両Vでは、エンジン1のトルクが小さい場合には低弾性ダンパ31によってトルク変動を吸収し、エンジン1のトルクが大きい場合には高弾性ダンパ33によってトルク変動を吸収する。つまり、車両Vは、低弾性ダンパ31と高弾性ダンパ33とを備えることにより、幅広いエンジン運転領域においてエンジン1のトルク変動を吸収することができる。
【0034】
ところで、車両Vにおいて、例えば、バッテリ5のSOCが充電上限に達して充電ができない状態で、暖房などのためにエンジン1を駆動することがある。このとき、コントローラ100は、燃費の悪化を防止するために、エンジン1の出力トルクを最小限になるようにしてエンジン1及び第2モータジェネレータ3を駆動する。具体的には、コントローラ100は、エンジン1を所定の回転速度Netで駆動するとともに、第2インバータ7を制御して、第2モータジェネレータ3を駆動し、第2モータジェネレータ3の動力によってギヤトレーン46を回転させる。このとき、コントローラ100は、ギヤトレーン46の入力軸であるエンジン軸41の回転速度Nginが、エンジン1の回転速度Netと等しくなるように、第2モータジェネレータ3の回転速度Nmを制御する。つまり、コントローラ100は、エンジン1と第2モータジェネレータ3を同期するように駆動する。これにより、エンジン1の回転に対して第2モータジェネレータ3が負荷として作用することを抑制できるので、エンジン1の出力トルクを最小限にすることができる。
【0035】
しかしながら、エンジン1は、コントローラ100によって所定の回転速度Netで回転するように指示されていても、実際の回転速度Neは、
図6に示すように、目標値である回転速度Netを中心にして周期的に変動する。
【0036】
ギヤトレーン46におけるスプライン結合部、具体的には、スプライン歯41aとスプライン溝46a2の噛み合い部分には、遊びD1が存在し、スプライン歯43aとスプライン溝46c2の噛み合い部分には、遊びD4が存在する(
図8参照)。また、ギヤトレーン46におけるギヤ結合部、具体的には、エンジンギヤ46aと第2アイドラーギヤ46bの噛み合い部分には、遊びD2が存在し、第2アイドラーギヤ46bと第2モータギヤ46cの噛み合い部分には、遊びD3が存在する(
図9参照)。エンジン1の回転速度Neの変動は、これらの遊びD1~D4によって吸収することができる。
【0037】
しかしながら、エンジン1の回転速度Neの変動が、エンジン軸41に伝達されたときに、遊びD1においてエンジン1の回転速度Neの変動によるエンジン軸41の回転速度Nginの変動を吸収できない場合には、スプライン歯43aがスプライン溝46c2の側面に周期的に衝突することになる。このとき、スプライン歯43aとスプライン溝46c2の側面との衝突音(歯打ち音)が発生し、騒音が生じるおそれがある。さらに、上記変動を遊びD1で吸収できない場合には、エンジンギヤ46aの回転速度も変動することになる。この結果、エンジンギヤ46aと第2アイドラーギヤ46bの噛み合い部分に変動が伝達される。そして、この変動を遊びD2において吸収できない場合には、エンジンギヤ46aの歯と第2アイドラーギヤ46bの歯との衝突音(歯打ち音)が発生し、さらに大きな騒音が生じるおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態では、ギヤトレーン46における最もエンジン1側に位置するスプライン歯41aとスプライン溝46a2との遊びD1の大きさd1を、エンジン1が所定回転速度Netで回転しているときのスプライン歯41a(エンジン軸41)の変動量以上にする。以下に、この構成について、
図7や
図10などを参照しながら、具体的に説明する。なお、本実施形態でいう遊びは、円周方向の遊びを意味している。
【0039】
図7は、エンジン1を所定の回転速度Netで駆動させたときのスプライン歯41aの変位量を示す図である。なお、
図7では、円周方向におけるスプライン溝46a2の中心と円周方向におけるスプライン歯41aの中心が一致しているときを0としている。
図10は、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との間の遊びD1とスプライン歯41aの変動領域との関係を示す図であり、スプライン歯41aとスプライン溝46a2の円周方向に沿う断面を平面に展開した概念図である。また、
図10は、円周方向におけるスプライン溝46a2の中心と円周方向におけるスプライン歯41aの中心が一致している状態、別の言い方をすると、スプライン歯41aの両側にそれぞれd1の半分の遊びがある状態を示している。
【0040】
上述のように、エンジン1は、コントローラ100によって所定の回転速度Netで回転するように指示されていても、実際の回転速度Neは回転速度Netを中心にして若干変動する。これに伴い、エンジン1のクランクシャフト1aに連結されたエンジン軸41のスプライン歯41aが、スプライン溝46a2内において円周方向に周期的に変位する(
図7参照)。このとき、スプライン歯41aは、エンジン1の変動に応じた振動幅W(振幅Dの2倍)の範囲内で変位することになる(
図7及び
図10参照)。なお、ここでいう変位とは、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との円周方向における相対的な位置の変化(
図10における左右方向の変位)を意味する。
【0041】
そこで、本実施形態では、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との間の遊びD1の大きさd1をスプライン歯41aの変動における周波数成分の振動幅W(
図7参照)以上とする。これにより、上述のようなエンジン1の出力トルクが最小限になるようにして所定の回転速度Netで駆動しているときに、スプライン歯41aが振動幅W(振幅Dの2倍)の範囲(
図10の点線)で変動しても、スプライン歯41aとスプライン溝46a2とが接触することがない。これにより、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との歯打ち音の発生を防止し、騒音を抑制することができる。さらに、エンジン1の回転速度Neの変動を遊びD1において吸収することができるので、ギヤトレーン46における他のギヤ結合部やスプライン結合部において歯打ち音が発生することも防止できる。
【0042】
なお、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との間の遊びD1の大きさd1を振動幅W以上として説明したが、遊びD1の大きさd1は、少なくとも振動幅Wの97%以上であればよい。
図11に示すように、振動幅Wに対する遊びD1の大きさd1の割合が97%以上であれば、仮に、スプライン歯41aとスプライン溝46a2とが接触しても、スプライン歯41aとスプライン溝46a2との歯打ち音の音圧レベルが騒音として許容できる範囲まで低下する。その理由は、振動幅Wに対する遊びD1の大きさd1の割合が97%以上であれば、スプライン歯41aとスプライン溝46a2とが接触するときに、接触直前のスプライン歯41aとスプライン溝46a2との速度差が小さくなるため、接触する際に発生する衝撃力が大幅に減少するからである。したがって、遊びD1の大きさd1を振動幅Wの97%以上とすることにより、十分騒音を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態では、遊びD1の大きさd1を、エンジンギヤ46aと第2アイドラーギヤ46bの噛み合い部分の遊びD2の大きさd2、第2アイドラーギヤ46bと第2モータギヤ46cの噛み合い部分の遊びD3の大きさd3、及び、スプライン歯43aとスプライン溝46c2の噛み合い部分の遊びD4の大きさd4よりも大きくする。つまり、本実施形態では、ギヤトレーン46における最もエンジン1側に位置する遊びD1の大きさを最も大きくする。遊びD2、D3、D4を大きくしすぎると、動力伝達の遅れや制御性が悪化してしまうおそれがある。さらに、通常動作時の歯打ち音による騒音が大きくなるおそれがある。そこで、遊びD1のみを大きくすることにより、エンジン1の回転速度Neの変動を吸収しつつ、他のギヤ結合部及びスプライン結合部の動力伝達の遅れや制御性の悪化を抑制できる。
【0044】
上記実施形態では、コントローラ100が、エンジン1と第2モータジェネレータ3との間にトルク伝達が生じないように、エンジン1と第2モータジェネレータ3を同期して回転させている場合を例に説明したが、この他の状況においても、騒音を低下することができる。例えば、第2モータジェネレータ3がエンジン1の動力によって駆動された場合には、スプライン歯41aは、スプライン溝46a2の一方の側面に当接した状態で回転する。この状態で、エンジン1の回転速度Neが変動しても、遊びD1の大きさd1を少なくとも振動幅Wの97%以上としておくことで、スプライン歯41aがスプライン溝46a2の他方の側面に衝突することを防止できる。これにより、騒音の発生を抑制することができる。
【0045】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0046】
駆動装置は、エンジン1(内燃機関)と、エンジン1(内燃機関)の動力を第2モータジェネレータ3(回転装置)に伝達するためのギヤトレーン46(動力伝達機構)と、を備える。ギヤトレーン46(動力伝達機構)は、エンジン1(内燃機関)のエンジン軸41(出力軸)に設けられたスプライン歯41a(第1噛合部)と噛み合うスプライン溝46a2(第2噛合部)を有するエンジンギヤ46a(第1回転体)を有する。スプライン歯41a(第1噛合部)とスプライン溝46a2(第2噛合部)との噛み合い部分における遊びD1の大きさd1は、エンジン軸41(出力軸)が所定回転速度Netで回転しているときのスプライン歯41a(第1噛合部)の回転方向における振動成分の振動幅Wに対して97%以上である。
【0047】
エンジン軸41(出力軸)が所定の回転速度Netで回転しているときに、スプライン歯41a(第1噛合部)との相対変位が変動しても、スプライン歯41a(第1噛合部)とスプライン溝46a2(第2噛合部)とが衝突して歯打ち音が発生することを抑制できるので、騒音を抑制することができる。
【0048】
遊びD1の大きさd1は、振動幅W以上である。
【0049】
遊びD1の大きさd1を振動幅W以上とすることにより、スプライン歯41a(第1噛合部)とスプライン溝46a2(第2噛合部)とが衝突することをより確実に抑制できるので、より確実に騒音が発生することを防止できる。
【0050】
ギヤトレーン46(動力伝達機構)は、複数の歯車(エンジンギヤ46a、第2アイドラーギヤ46b、第2モータギヤ46c)によって構成された歯車機構であり、歯車機構は、エンジンギヤ46a(第1回転体)と、第2モータジェネレータ3(回転装置)の第2モータ軸43(回転軸)に設けられたスプライン歯43a(第3噛合部)と噛み合うスプライン溝46c2(第4噛合部)を有する第2モータギヤ46c(第2回転体)と、を有する。スプライン歯41a(第1噛合部)とスプライン溝46a2(第2噛合部)との噛み合い部分における遊びD1の大きさd1は、歯車機構における歯車同士の噛み合い部分の遊びD2、D3の大きさs2、d3、及びスプライン歯43a(第3噛合部)とスプライン溝46c2(第4噛合部)との噛み合い部分における遊びD4の大きさd4よりも大きい。
【0051】
遊びD1のみを大きくすることにより、エンジン1(内燃機関)の回転速度Neの変動を吸収しつつ、他のギヤ結合部及びスプライン結合部の動力伝達の遅れや制御性の悪化を抑制できる。
【0052】
駆動装置は、エンジン1(内燃機関)からギヤトレーン46(動力伝達機構)に伝達されるトルク変動を抑制するダンパ1c(減衰器)をさらに備える。
【0053】
ダンパ1c(減衰器)によって、エンジン1の回転速度Neの変動を吸収することができる。よって、ダンパ1c(減衰器)をさらに備えることにより、より確実に歯打ち音が発生することを防止できる。
【0054】
エンジン1(内燃機関)は、3気筒エンジンである。
【0055】
3気筒エンジンは、回転速度Neの変動が大きいため、遊びD1の大きさd1を上述のように設定することにより、より大きな効果を得ることができる。
【0056】
車両Vは、エンジン1(内燃機関)と、ギヤトレーン46(動力伝達機構)と、第2モータジェネレータ3(回転装置)と、エンジン1(内燃機関)と第2モータジェネレータ3(回転装置)の動作を制御するコントローラ100(制御装置)と、を備える。コントローラ100(制御装置)は、エンジン1(内燃機関)と第2モータジェネレータ3(回転装置)との間にトルク伝達が生じないように、エンジン1(内燃機関)と第2モータジェネレータ3(回転装置)を同期して回転させる。
【0057】
コントローラ100(制御装置)が、エンジン1(内燃機関)と第2モータジェネレータ3(回転装置)を同期して回転させているときには、スプライン歯41a(第1噛合部)とスプライン溝46a2(第2噛合部)との間に押し付け力が発生しないので、歯打ち音が顕著になる。そこで、遊びD1の大きさd1を振動幅Wに対して97%以上とすることにより、顕著な効果を得ることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0059】
なお、上記実施形態では、車両Vがダンパ1cを備えている場合を例に説明したが、ダンパ1cを必ずしも備えている必要はない。
【0060】
また、上記実施形態では、エンジン1が3気筒である場合を説明したが、4気筒などどのような気筒数であってもよい。
【0061】
上記実施形態では、回転装置が第2モータジェネレータ3である場合を例に説明したが、これに限らず、回転装置は、例えば、発電機、あるいはコンプレッサなどの補機であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、動力伝達機構としてギヤトレーン46を例に説明したが、他の歯車機構などであってもよい。
【0063】
上記実施形態では、第1~第4噛合部として、スプライン結合部を例に説明したが、第1~第4噛合部は、ギヤ結合部であってもよい。例えば、エンジン軸41とエンジンギヤ46aが一体として構成されているものであれば、エンジンギヤ46aと第2アイドラーギヤ46bの噛み合い部分を第1噛合部及び第2噛合部とすることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン(内燃機関、駆動装置)
1c ダンパ(減衰器)
2 第1モータジェネレータ
3 第2モータジェネレータ(回転装置)
41 エンジン軸
41a スプライン歯(第1噛合部)
42 第1モータ軸
43 第2モータ軸
43a スプライン歯(第3噛合部)
46 ギヤトレーン(動力伝達機構、駆動装置)
46a エンジンギヤ(第1回転体)
46a2 スプライン溝(第2噛合部)
46b 第2アイドラーギヤ
46c 第2モータギヤ(第2回転体)
46c2 スプライン溝(第4噛合部)
100 コントローラ(制御装置)
D1,D2,D3,D4 遊び