(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】駆動装置、半導体装置、および駆動方法
(51)【国際特許分類】
H03K 17/16 20060101AFI20250109BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20250109BHJP
H02M 1/34 20070101ALI20250109BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H03K17/16 M
H03K17/687 A
H02M1/34
H02M1/08 A
(21)【出願番号】P 2020205998
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 征輝
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221417(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/075500(WO,A1)
【文献】特開2013-027231(JP,A)
【文献】特開平08-162930(JP,A)
【文献】特開2020-048361(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008398(WO,A1)
【文献】特開2015-061406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00-17/70
H02M 1/34
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主端子および第2主端子と、前記第1主端子および前記第2主端子の間の
オンオフを制御する制御端子とを有し、前記第1主端子および前記第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の前記制御端子を、外部から入力される制御信号に応じて駆動する駆動部と、
前記半導体素子をターンオフする期間において、前記第1主端子および前記第2主端子の間の主端子間電圧が第1閾値未満の間は前記制御端子を前記駆動部により第1駆動能力で駆動させ、前記主端子間電圧が前記第1閾値以上となると前記制御端子を前記駆動部により前記第1駆動能力よりも高い第2駆動能力で駆動させる駆動制御部と
を備える駆動装置。
【請求項2】
前記駆動制御部は、前記半導体素子をターンオンする期間において、前記主端子間電圧が第2閾値以上の間は前記制御端子を前記駆動部により第3駆動能力で駆動させ、前記主端子間電圧が前記第2閾値未満となると前記制御端子を前記駆動部により前記第3駆動能力よりも低い第4駆動能力で駆動させる請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記第1閾値および前記第2閾値は、前記半導体素子がオフの定常状態における前記主端子間電圧の60%以上100%未満である請求項
2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記第1閾値および前記第2閾値は、前記半導体素子がオフの定常状態における前記主端子間電圧の80%以上95%未満である請求項
2または3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記第1閾値および前記第2閾値は同一値である請求項
2から
4のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項6】
第1主端子および第2主端子と、前記第1主端子および前記第2主端子の間のオンオフを制御する制御端子とを有し、前記第1主端子および前記第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の前記制御端子を、外部から入力される制御信号に応じて駆動する駆動部と、
前記半導体素子をターンオンする期間において、
前記第1主端子および前記第2主端子の間の主端子間電圧が第2閾値以上の間は前記制御端子を前記駆動部により第3駆動能力で駆動させ、前記主端子間電圧が前記第2閾値未満となると前記制御端子を前記駆動部により前記第3駆動能力よりも低い第4駆動能力で駆動させる
駆動制御部と
を備える
駆動装置。
【請求項7】
前記駆動制御部は、前記制御端子と基準電位の間に接続する抵抗の大きさ、または前記制御端子と前記第1主端子または前記第2主端子との間に接続するコンデンサの容量の少なくとも1つを変更することにより、前記制御端子の駆動能力を変更する請求項1から6のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
前記駆動部は、基準電位および前記制御端子の間に、抵抗またはコンデンサと駆動用スイッチとがそれぞれ直列に接続された複数の駆動回路を有し、
前記駆動制御部は、前記複数の駆動回路のそれぞれの前記駆動用スイッチを切り換えて、前記駆動部の駆動能力を変更する
請求項1から7のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項9】
前記半導体素子は、SiC-MOSFETまたはSiC-IGBTである請求項1から8のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項10】
前記半導体素子と、
前記半導体素子の制御端子を駆動する、請求項1から9のいずれか一項に記載の駆動装置と
を備える半導体装置。
【請求項11】
第1主端子および第2主端子と、前記第1主端子および前記第2主端子の間の
オンオフを制御する制御端子とを有し、前記第1主端子および前記第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の前記制御端子を、駆動部によって、外部から入力される制御信号に応じて駆動することと、
前記半導体素子をターンオフする期間において、前記第1主端子および前記第2主端子の間の主端子間電圧が第1閾値未満の間は前記制御端子を前記駆動部により第1駆動能力で駆動させ、前記主端子間電圧が前記第1閾値以上となると前記制御端子を前記駆動部により前記第1駆動能力よりも高い第2駆動能力で駆動させることと
を備える駆動方法。
【請求項12】
第1主端子および第2主端子と、前記第1主端子および前記第2主端子の間のオンオフを制御する制御端子とを有し、前記第1主端子および前記第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の前記制御端子を、駆動部によって、外部から入力される制御信号に応じて駆動することと、
前記半導体素子をターンオンする期間において、前記第1主端子および前記第2主端子の間の主端子間電圧が第2閾値以上の間は前記制御端子を前記駆動部により第3駆動能力で駆動させ、前記主端子間電圧が前記第2閾値未満となると前記制御端子を前記駆動部により前記第3駆動能力よりも低い第4駆動能力で駆動させることと
を備える駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置、半導体装置、および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等の半導体スイッチング素子(以下、「半導体素子」とも示す。)を備える電圧型インバータ等の電力装置においては、半導体素子の高速なスイッチングに伴い、高周波の電圧および電流振動が発生する。特許文献1には、半導体装置100の筐体10の外部に付加する振動抑制回路20を開示する(段落0018、
図1A、1B、および
図2等)。特許文献2には、半導体スイッチング素子がターンオンする場合とターンオフする場合とで、半導体スイッチング素子の制御電極と出力ノードとの間の抵抗値を異なる値に切替えることが記載されている(請求項1)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第6597902号公報
[特許文献2] 国際公開第2017/026367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、半導体素子が高性能化しており、また例えばSiC-MOSFET等の高速にスイッチング可能な半導体素子も実現されている。そこで、半導体素子を高速にスイッチングさせた場合においても半導体素子の振動抑制を低損失で行うことができる駆動方式を実現することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、駆動装置を提供する。駆動装置は、第1主端子および第2主端子と、第1主端子および第2主端子の間の接続状態を制御する制御端子とを有し、第1主端子および第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の制御端子を、外部から入力される制御信号に応じて駆動する駆動部を備えてよい。駆動装置は、半導体素子のスイッチングに伴って第1主端子および第2主端子の間の主端子間電圧が予め定められた基準電圧差分変化する期間の間、他の少なくとも一部の期間と比較して駆動部の駆動能力を低下させる駆動制御部を備えてよい。
【0005】
駆動制御部は、半導体素子をターンオフする期間において、主端子間電圧が第1閾値未満の間は制御端子を駆動部により第1駆動能力で駆動させてよい。駆動制御部は、半導体素子をターンオフする期間において、主端子間電圧が第1閾値以上となると制御端子を駆動部により第1駆動能力よりも高い第2駆動能力で駆動させてよい。
【0006】
駆動制御部は、半導体素子をターンオンする期間において、主端子間電圧が第2閾値以上の間は制御端子を駆動部により第3駆動能力で駆動させてよい。駆動制御部は、半導体素子をターンオンする期間において、主端子間電圧が第2閾値未満となると制御端子を駆動部により第3駆動能力よりも低い第4駆動能力で駆動させてよい。
【0007】
第1閾値および第2閾値は、半導体素子がオフの定常状態における主端子間電圧の60%以上100%未満であってよい。
【0008】
第1閾値および第2閾値は、半導体素子がオフの定常状態における主端子間電圧の80%以上95%未満であってよい。
【0009】
第1閾値および第2閾値は同一値であってよい。
【0010】
駆動制御部は、制御端子と基準電位の間に接続する抵抗の大きさ、または制御端子と第1主端子または第2主端子との間に接続するコンデンサの容量の少なくとも1つを変更することにより、制御端子の駆動能力を変更してよい。
【0011】
駆動部は、基準電位および制御端子の間に、抵抗またはコンデンサと駆動用スイッチとがそれぞれ直列に接続された複数の駆動回路を有してよい。駆動制御部は、複数の駆動回路のそれぞれの駆動用スイッチを切り換えて、駆動部の駆動能力を変更してよい。
【0012】
半導体素子は、SiC-MOSFETまたはSiC-IGBTであってよい。
【0013】
本発明の第2の形態においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体素子と、半導体素子の制御端子を駆動する駆動装置とを備えてよい。
【0014】
本発明の第3の形態においては、駆動方法を提供する。駆動方法は、第1主端子および第2主端子と、第1主端子および第2主端子の間の接続状態を制御する制御端子とを有し、第1主端子および第2主端子がスナバと並列に接続される半導体素子の制御端子を、駆動部によって、外部から入力される制御信号に応じて駆動することを備えてよい。駆動方法は、半導体素子のスイッチングに伴って第1主端子および第2主端子の間の主端子間電圧が予め定められた基準電圧差分変化する期間の間、他の少なくとも一部の期間と比較して駆動部の駆動能力を低下させることを備えてよい。
【0015】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係る電力装置100の構成を負荷140と共に示す。
【
図2】本実施形態の変形例に係る電力装置100の構成を負荷140と共に示す。
【
図3】半導体素子のターンオン時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。
【
図4】半導体素子のターンオフ時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。
【
図5】本実施形態に係る半導体装置115の構成を示す。
【
図6】半導体素子のターンオフ時の動作波形を示す。
【
図7】半導体素子のターンオン時の動作波形を示す。
【
図8】半導体素子のターンオフ時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
図1は、本実施形態に係る電力装置100の構成を負荷140と共に示す。負荷140は、電力装置100からの電力供給を受けて動作する、モーター、電気機器、またはその他の電力を消費する装置である。電力装置100は、電解コンデンサ110と、半導体装置115と、インダクタ150と、スナバ180とを備える。
【0019】
電解コンデンサ110は、電力装置100の正側母線および負側母線の間に接続され、半導体装置115および負荷40の電圧源として機能する。電解コンデンサ110は、不図示の電源から正側母線および負側母線の間に供給される電源電圧を蓄積して、半導体装置115へと供給する。
【0020】
半導体装置115は、1または複数の半導体素子120a~b(「半導体素子120」とも示す。)と、1または複数の駆動装置130a~b(「駆動装置130」とも示す。)とを有する。本実施形態においては、説明の便宜上、半導体装置115が2つの半導体素子120および2つの駆動装置130を有する場合について説明するが、半導体装置115は、半導体素子120および駆動装置130を1つまたは3以上有してもよい。半導体装置115は、1または複数の半導体素子120および1または複数の駆動装置130を樹脂封止等によって一体化した半導体モジュールであってよい。
【0021】
各半導体素子120は、MOSFETまたはIGBT等の半導体スイッチ素子である。各半導体素子120は、より高速にスイッチング可能なSiC-MOSFETまたはSiC-IGBTであってよい。各半導体素子120は、第1主端子および第2主端子と、第1主端子および第2主端子の間の接続状態を制御する制御端子とを有する。半導体素子120がMOSFETである場合、半導体素子120は、第1主端子および第2主端子としてドレインおよびソースを有し、制御端子としてゲートを有する。半導体素子120がIGBTである場合、半導体素子120は、第1主端子および第2主端子としてコレクタおよびエミッタを有し、制御端子としてゲートを有する。本実施形態においては、説明の便宜上、半導体素子120がMOSFETである場合について示す。半導体素子120a~bは、正側母線および負側母線の間に、この順に主端子間が直列に接続される。
【0022】
駆動装置130a~bは、半導体素子120a~bにそれぞれ対応して設けられる。各駆動装置130は、対応する半導体素子120の制御端子に接続され、制御端子を、外部から入力される制御信号に応じて駆動する。本図においては、各半導体素子120に対して個別に駆動装置130が設けられるが、複数の駆動装置130をまとめて「駆動装置」と称してもよい。
【0023】
インダクタ150は、正側母線と半導体素子120aおよび半導体素子120bの間の中間端子との間に負荷140と直列に接続される。スナバ180は、半導体装置115の外部において正側母線および負側母線の間に接続される。これにより、スナバ180は、正側母線および負側母線の間に、各半導体素子120の第1主端子および第2主端子と並列に接続される。スナバ180は、半導体素子120のスイッチングによる電圧および電流の振動を抑制する。本実施形態においてスナバ180は、一例としてRCスナバであり、正側母線および負側母線の間に直列に接続された抵抗185およびコンデンサ190を有してよい。
【0024】
本図の電力装置100の動作は、次の通りである。まず、駆動装置130a~bは、外部からの制御信号を受けて、半導体素子120aをオフ、半導体素子120bをオンに駆動する。これにより、電解コンデンサ110の正側からインダクタ150、負荷140および半導体素子120bを介して電解コンデンサ110の負側へと電流が流れ、負荷140に電力が供給されると共に、インダクタ150にエネルギーが蓄積される。
【0025】
次に、駆動装置130a~bは、外部からの制御信号を受けて、半導体素子120aをオン、半導体素子120bをオフに駆動する。インダクタ150は、蓄積されたエネルギーによって電流を流し続け、インダクタ150から出力される電流が負荷140および半導体素子120aを介してインダクタ150に還流するフリーホイル動作を行う。負荷140に供給される電力が減衰すると、駆動装置130a~bは、外部からの制御信号を受けて、半導体素子120aをオフ、半導体素子120bをオンに戻す。
【0026】
図2は、本実施形態の変形例に係る電力装置100の構成を負荷140と共に示す。
図2の電力装置100は、スナバ180に代えて複数のスナバ280a~b(「スナバ280」とも示す。)を備える点を除いて
図1の電力装置100と同様であるから、同一または類似の機能および構成を有する部材に同じ符号を付して、相違点を除き説明を省略する。
【0027】
本変形例において、各スナバ280は、各半導体素子120に対応して設けられ、対応する半導体素子120の主端子間に接続される。これにより、各スナバ280は、対応する半導体素子120の第1主端子および第2主端子と並列に接続される。本変形例においてスナバ280aは、一例としてRCスナバであり、対応する半導体素子120の主端子間に直列に接続された抵抗285aおよびコンデンサ290aを有してよい。同様にスナバ280bもまた一例としてRCスナバであり、対応する半導体素子120の主端子間に直列に接続された抵抗285bおよびコンデンサ290bを有してよい。
【0028】
なお、
図1および
図2において、半導体素子120aに代えて、正側母線側をカソード、中間端子側をアノードとする整流ダイオードを用いてもよい。この整流ダイオードは、一例として高速にスイッチング可能なSiCダイオードであってもよい。
【0029】
図3は、半導体素子のターンオン時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。本図は、特許文献1の
図5を抜粋したものである。本図における「比較例」、「実施例1」、および「実施例2」は、特許文献1における比較例、実施例1、および実施例2を指すものであって、本願明細書における比較例および実施例を指すものではない。
【0030】
「比較例」は、特許文献1の「半導体装置100」が「振動抑制回路20」を含まない場合における、コレクタ電流I
C(すなわち主端子間に流れる電流)およびコレクタ-エミッタ電圧V
CE(すなわち主端子間の電圧)の過渡的な変化を示す。「実施例1」は、特許文献1の「半導体装置100」が本願の
図1におけるスナバ180と同様の接続関係を有する「振動抑制回路20」を備える場合における、電流
I
c
および電圧V
CEの過渡的な変化を示す。「実施例2」は、特許文献1の「半導体装置110」が本願の
図2における各スナバ280と同様の接続関係を有する複数の「振動抑制回路20」を備える場合における、電流I
Cおよび電圧V
CEの過渡的な変化を示す(特許文献1の段落0049)。
【0031】
本図に示されているように、「半導体装置100」に「振動抑制回路20」を付加しない「比較例」においては、「半導体素子14a」のターンオン時に電流I
Cおよび電圧V
CEが大きく振動する。これに対し、「半導体装置100」に「振動抑制回路20」を付加した「実施例1」および「実施例2」においては、「半導体素子14a」のターンオン時に電流I
Cおよび電圧V
CEの振動が抑えられる。特許文献1の「振動抑制回路20」は、「半導体素子14a」のターンオフ時も同様に、電流I
Cおよび電圧V
CEの振動を抑える。なお、特許文献1の
図5においては、電圧V
CEは、「半導体素子14a」をオンにした場合における、対向側の「半導体素子15a」の主端子間の電圧を示している(段落0049参照)。
【0032】
図4は、半導体素子120bのターンオフ時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。本図は、
図1の電力装置100において、半導体素子120bの一例としてSiC-MOSFETを用いた場合における、ドレイン電流Idおよびドレイン-ソース電圧Vdsの変化を示す。本図の例においては、1200V/200Aの半導体モジュールを対象とし、
図1における電解コンデンサ110およびスナバ180の間の配線インダクタンスLs1が20nH、スナバ180および半導体装置115内の半導体素子120a~bの間の配線インダクタンスLs2が5nH、抵抗185の抵抗Rsが0.5Ω、コンデンサ190の容量Csが50nF、駆動装置130bおよび半導体素子120bの間の抵抗(ゲート抵抗)が0.1Ωで一定とした。
【0033】
半導体素子120a~bとスナバ180との間には配線インダクタンスLs2が存在する。また、各半導体素子120は、ドレイン-ソース間に接合容量(「Cos」と示す。)を有する。したがって、半導体装置115は、スナバ180よりも半導体装置115に近い側に、インダクタンスLs2および接合容量Cosが直列に接続されたLC回路を含有する。ここで、スナバ180をできる限り半導体素子120a~bに近付けて配線を短くすれば、配線インダクタンスLs2を小さくすることができる。しかし、半導体装置115のパッケージ外にスナバ180を設けること、半導体素子120a~bはある程度の大きさを有することからすると、配線インダクタンスLs2を抑えるのには限界がある。
【0034】
このようなインダクタンスLs2および接合容量CosによるLC回路は、半導体素子120a~bからより離れたスナバ180またはスナバ280によっては十分に抑制できない局所的な電流Idおよび電圧Vdsの変動を生じさせる。本図においては横軸上の15.0μsの時点で半導体素子120bをターンオフさせているが、このタイミングで
図3における電流および電圧の振動と比較して、比較的高周波数における電流および電圧の大きな振動が短期間発生している。
【0035】
ここで、インダクタンスLs2および接合容量CosによるLC回路によって生じる
図3のような局所的な振動を抑えるべく、このLC回路に対して直列にダンピング抵抗Rdを設けることを検討する。このようなダンピング抵抗Rdを設けた場合のダンピング係数ζは、以下の式(1)で表される。
ζ=Rd/2・√(Cos/Ls2) (1)
【0036】
このダンピング係数ζが大きいほど、LC回路による振動を大きく減衰させることができる。この観点から、ダンピング係数ζは、0.8~1.0以上であってよい。電力装置100は、半導体装置115の外部にスナバ180またはスナバ280を設ける場合であっても、半導体装置115のできるかぎり近傍にスナバ180またはスナバ280を配置する。このため、インダクタンスLs1は、インダクタンスLs2の数倍~数十倍以上となりうる。式(1)から明らかなように、ダンピング係数ζはインダクタンスの-1/2乗に比例する。したがって、スナバ180またはスナバ280を設けずにインダクタンスLs1+Ls2および接合容量CosによるLC回路の共振をダンピング抵抗Rdによって抑制するためには、同じ大きさのダンピング係数ζを実現するために、ダンピング抵抗Rdを数倍から数十倍以上とする必要がある。例えばLs1+Ls2がLs2の16倍の場合、同じダンピング係数ζを実現するためにはダンピング抵抗Rdを4倍としなければならない。
【0037】
ここで、半導体素子120bのスイッチング中に失われるエネルギー(または電力)であるスイッチング損失Pswは、スイッチング中において半導体素子120bの主端子間に流れる電流(例えばドレイン電流)Idと、半導体素子120bの主端子間電圧(例えばドレイン-ソース電圧)Vdsと、スイッチング時間Tswとの積となる。ここで、ダンピング抵抗Rdによってスイッチング損失Pswを発生させるとすると、Psw=Vd×Id=Rd×Id2×Tswである。したがって、ダンピング抵抗Rdは、以下の式(2)で表される。
Rd=Psw/(Id2)/Tsw (2)
【0038】
式(2)から、ダンピング抵抗Rdを大きくすると、半導体素子120bのスイッチング損失Pswが大きくなってしまうことが分かる。したがって、スナバ180およびスナバ280を設けずにLC回路の共振をダンピング抵抗Rdによって抑制する場合には、ダンピング抵抗Rdが大きくなるのに伴ってスイッチング損失Pswが大きくなってしまう。
【0039】
そこで、電力装置100は、
図1のスナバ180および
図2のスナバ280のようなスナバを用いて
図3に示したような振動を抑えると共に、インダクタンスLs2および接合容量CosによるLC回路によって生じる局所的な振動を、ある程度のダンピング係数ζを実現するダンピング抵抗Rdを生じるようなスイッチング損失Pswを半導体素子120により発生させる。
【0040】
図5は、本実施形態に係る半導体装置115の構成を電解コンデンサ110と共に示す。半導体装置115は、一例として
図1のスナバ180または
図2のスナバ280のようなスナバを付加する電力装置100において、インダクタンスLs2および接合容量CosによるLC回路により生じる局所的な振動を抑える。
【0041】
本図において、
図1または
図2と同じ符号を付した部材は、
図1または
図2の対応する部材と同様の機能および構成を有するから、以下相違点を除き説明を省略する。
図1および
図2に示したように、半導体装置115は、1または複数の半導体素子120と、1または複数の駆動装置130とを有する。本図においては、1つの半導体素子120(例えば半導体素子120b)および1つの駆動装置130(例えば駆動装置130b)に注目して説明をする。
【0042】
駆動装置130は、駆動部500と、駆動制御部530とを含む。駆動部500は、外部から入力される制御信号に応じた制御を駆動制御部530から受けて、制御信号に応じて半導体素子120の制御端子を駆動する。駆動部500は、負側の基準電位となる負側母線および半導体素子120の制御端子の間に、抵抗510aと駆動用スイッチ520aとが直列に接続された駆動回路、および抵抗510bと駆動用スイッチ520bとが直列に接続された駆動回路(負側の駆動回路)を有する。また、駆動部500は、正側の基準電位となる正側母線および半導体素子120の制御端子の間に、抵抗510cと駆動用スイッチ520cとが直列に接続された駆動回路、および抵抗510dと駆動用スイッチ520dとが直列に接続された駆動回路(正側の駆動回路)を有する。本図の例において、駆動用スイッチ520a~bはpチャネルMOSFETであり、駆動用スイッチ520c~dはnチャネルMOSFETである。これに代えて、駆動用スイッチ520a~dのそれぞれ(「駆動用スイッチ520」とも示す。)は、半導体素子120の制御端子と正側母線または負側母線の間を、抵抗510a~dのそれぞれ(「抵抗510」とも示す。)を介して接続または切断することができる任意のスイッチング素子であってよい。
【0043】
駆動制御部530は、外部から入力される制御信号に応じて、駆動部500を制御する。ここで、駆動制御部530は、半導体素子120のスイッチングに伴って半導体素子120の第1主端子および第2主端子の間の主端子間電圧が予め定められた基準電圧差分だけ変化する期間の間、他の少なくとも一部の期間と比較して駆動部500の駆動能力を低下させる制御を行う。本実施形態において、駆動制御部530は、複数の駆動回路のそれぞれの駆動用スイッチ510を切り換えて、駆動部500の駆動能力を変更する。
【0044】
駆動制御部530は、複数の分圧抵抗540a~b、バッファ545、電圧源550a~b(「電圧源550」とも示す。)、および複数のドライバ560a~d(「ドライバ560」とも示す。)を含む。分圧抵抗540a~bは、半導体素子120の第1主端子および第2主端子の間に直列に接続され、半導体素子120の主端子間電圧を分圧抵抗540aの抵抗値R1および分圧抵抗540bの抵抗値R2の抵抗比で分圧することにより、主端子間電圧に比例する検出信号を出力する。ここで、半導体素子120の主端子間電圧(本図においてドレイン-ソース電圧)をVdsとすると、検出信号は、R2/(R1+R2)・Vdsとなる。
【0045】
バッファ545は、外部から入力される制御信号をバッファして出力する。バッファ545は、ドライバ560a~dを駆動するために、制御信号を増幅して出力してよい。本実施形態において、制御信号は、ローレベルの場合に半導体素子120をオフ、ハイレベルの場合に半導体素子120をオンとすることを指示する。電圧源550aは、主端子間電圧の検出値と比較する閾値電圧Vth1を出力する。電圧源550bは、主端子間電圧の検出値と比較する閾値電圧Vth2を出力する。
【0046】
ドライバ560aは、分圧抵抗540a~bの間、バッファ545、および電圧源550aに接続される。ドライバ560aは、コンパレータ付のドライバであり、バッファ545を介して入力する制御信号がローレベルである場合に、主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth1以上であることを条件として駆動用スイッチ520aの制御端子をローレベルとして駆動用スイッチ520aをオンとする。ドライバ560aは、制御信号がハイレベルである場合、または主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth1未満である場合には、駆動用スイッチ520aの制御端子をハイレベルとして駆動用スイッチ520aをオフとする。ここで、検出信号は半導体素子120の主端子間電圧の抵抗分圧であるから、ドライバ560aは実質的に、主端子間電圧を、閾値電圧Vth1の(R1+R2)/R2倍である第1閾値Th1と比較していることになる。
【0047】
ドライバ560bは、分圧抵抗540a~bの間、およびバッファ545に接続される。ドライバ560bは、制御信号がローレベルである場合に、駆動用スイッチ520bの制御端子をローレベルとして駆動用スイッチ520bをオンとする。ドライバ560bは、制御信号がハイレベルである場合に、駆動用スイッチ520bの制御端子をハイレベルとして駆動用スイッチ520bをオフとする。
【0048】
これにより、ドライバ560a~bは、制御端子がハイレベルからローレベルに切り替わったことに応じて半導体素子120をターンオフする期間において、主端子間電圧がほぼ0の状態から始まって主端子間電圧が第1閾値Th1未満の間は駆動用スイッチ520aをオフ、駆動用スイッチ520bをオンとして、制御端子を駆動部500により第1駆動能力で駆動させる。主端子間電圧が第1閾値Th1以上となると、ドライバ560a~bは、駆動用スイッチ520a~bをオンとして、制御端子を第2駆動能力で駆動させる。
【0049】
ここで、駆動用スイッチ520aがオフ、駆動用スイッチ520bがオンの場合には、ゲート抵抗の大きさは抵抗510bの抵抗値Rg2となるのに対し、駆動用スイッチ520a~bがオンの場合には、ゲート抵抗の大きさは抵抗510a~bの抵抗値Rg1およびRg2の並列接続による合成抵抗値Rg1・Rg2/(Rg1+Rg2)となって抵抗値Rg2よりも小さくなる。したがって、駆動用スイッチ520a~bがオンである場合の第2駆動能力は、駆動用スイッチ520aがオフ、駆動用スイッチ520bがオンである場合の第1駆動能力よりも高い。
【0050】
ドライバ560cは、分圧抵抗540a~bの間、およびバッファ545に接続される。ドライバ560cは、制御信号がハイレベルである場合に、駆動用スイッチ520cの制御端子をハイレベルとして駆動用スイッチ520cをオンとする。ドライバ560cは、制御信号がローレベルである場合に、駆動用スイッチ520cの制御端子をローレベルとして駆動用スイッチ520cをオフとする。
【0051】
ドライバ560dは、分圧抵抗540a~bの間、バッファ545、および電圧源550bに接続される。ドライバ560dは、コンパレータ付のドライバであり、バッファ545を介して入力する制御信号がハイレベルである場合に、主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth2以上であることを条件として駆動用スイッチ520dの制御端子をハイレベルとして駆動用スイッチ520dをオンとする。ドライバ560dは、制御信号がローレベルである場合、または主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth2未満である場合には、駆動用スイッチ520dの制御端子をローレベルとして駆動用スイッチ520dをオフとする。ここで、検出信号は半導体素子120の主端子間電圧の抵抗分圧であるから、ドライバ560dは実質的に、主端子間電圧を、閾値電圧Vth2の(R1+R2)/R2倍である第2閾値Th2と比較していることになる。
【0052】
これにより、ドライバ560c~dは、制御端子がローレベルからハイレベルに切り替わったことに応じて半導体素子120をターンオンする期間において、主端子間電圧が第2閾値Th2以上の間は駆動用スイッチ520c~dをオンとして、制御端子を駆動部500により第3駆動能力で駆動させる。主端子間電圧が第2閾値Th2未満となると、ドライバ560c~dは、駆動用スイッチ520cをオン、駆動用スイッチ520dをオフとして、制御端子を駆動部500により第4駆動能力で駆動させる。ここで、駆動用スイッチ520cがオン、駆動用スイッチ520dがオフの場合のゲート抵抗は、駆動用スイッチ520c~dがオンの場合のゲート抵抗よりも大きいから、第4駆動能力は、第3駆動能力よりも低い。
【0053】
このようにして、駆動制御部530は、制御端子と基準電位の間に接続する制御抵抗(ゲート抵抗)の大きさ、すなわち、合成抵抗の大きさを変更することにより、制御端子の駆動能力を変更することができる。本図に示した構成に代えて、駆動部500は可変抵抗による制御抵抗を有してよく、駆動制御部530は駆動部500の可変抵抗の抵抗値を変更することにより制御端子の駆動能力を変更してもよい。
【0054】
また、駆動部500は、基準電位および制御端子の間に、コンデンサと駆動用スイッチ510とがそれぞれ直列に接続された複数の駆動回路を有する構成を採ってもよい。この場合、駆動制御部530は、制御端子と第1主端子または第2主端子との間に接続するコンデンサの容量を変更することにより、制御端子の駆動能力を変更する。
【0055】
ここで、同じゲート電流を印加する場合において、制御端子と半導体素子120の主端子との間に接続されるコンデンサの合成容量が増加するほどゲート電圧の変化が抑えられ、駆動部500の駆動能力が低くなる。したがって、抵抗510aに代えてコンデンサを用いる場合には、ドライバ560aは、バッファ545を介して入力する制御信号がローレベルである場合に、主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth1未満であることを条件として駆動用スイッチ520aの制御端子をローレベルとして駆動用スイッチ520aをオンとする。また、抵抗510dに代えてコンデンサを用いる場合には、ドライバ560dは、バッファ545を介して入力する制御信号がハイレベルである場合に、主端子間電圧の検出信号が閾値電圧Vth2未満であることを条件として駆動用スイッチ520dの制御端子をハイレベルとして駆動用スイッチ520dをオンとする。
【0056】
図6は、半導体素子120のターンオフ時の動作波形を示す。具体的には、本図は、制御信号、駆動用スイッチ520aの接続状態、駆動用スイッチ520bの接続状態、半導体素子120の制御電圧(ゲート電圧)、並びに、主端子間電圧VDSおよび半導体素子120に流れる電流(ドレイン電流)IDのそれぞれについて、横軸方向に示した時間の経過に伴う変化を示す。
【0057】
半導体素子120がオンの定常状態においては、制御信号がハイレベルとなっており、駆動用スイッチ520a~bがオフ、駆動用スイッチ520c~dがオンとなっている。この状態においては、半導体素子120の主端子間電圧VDSはほぼ0Vとなり、半導体素子120には負荷140が必要とする分の電流IDが流れている。
【0058】
制御信号がハイレベルからローレベルに変化すると、駆動装置130は、半導体素子120のターンオフ動作を開始する。ドライバ560aは、主端子間電圧VDSが第1閾値Th1未満である期間t1の間は駆動用スイッチ520aをオフとする。ドライバ560bは、制御信号がローレベルに変化したことに伴って駆動用スイッチ520bをオンとする。また、ドライバ560c~dは、駆動用スイッチ520c~dをオフとする。これにより、駆動制御部530は、第1駆動能力で半導体素子120の制御端子を駆動して、制御端子の制御電圧を降下させる。
【0059】
制御電圧がある程度降下すると、半導体素子120は、ターンオフを開始する。これに伴って主端子間電圧VDSが上昇し、制御信号がローレベルに変化してから期間t1の後に第1閾値Th1以上となる。ドライバ560aは、主端子間電圧VDSが第1閾値Th1以上となったことに応じて、駆動用スイッチ520aをオンとする。半導体素子120は、ターンオフを開始したことに応じて、電流IDを図中実線で示したように減少させ、制御信号がローレベルに変化してから期間t1+t2の後に電流IDを0としてオフ状態となる。
【0060】
本実施形態に係る駆動装置130によれば、半導体素子120のターンオフ動作において、主端子間電圧VDSがほぼ0から第1閾値Th1まで変化する期間の間(すなわち、主端子間電圧VDSがほぼ第1閾値Th1の電圧差分だけ変化する期間の間)は、主端子間電圧VDSが第1閾値以上となった後の期間と比較して駆動部500の駆動能力を低下させる。ここで、駆動装置130が、抵抗510aおよび駆動用スイッチ520aによる駆動回路を有さず主端子間電圧VDSが第1閾値Th1以上となった後も駆動用スイッチ520bのみによって半導体素子120の制御端子を駆動したとすると、図中破線で示したように電流IDの低下が遅くなる。この場合、主端子間電圧VDSが第1閾値Th1以上となった場合に駆動用スイッチ520aおよび駆動用スイッチ520bの両方を用いて半導体素子120の制御端子を駆動した場合と比較して、ターンオフ期間が図中t11+t22で示したように長くなり、スイッチング損失が増加してしまう。
【0061】
これに対し、本実施形態に係る駆動装置130によれば、主端子間電圧VDSが基準電圧差分変化する期間t1の間は駆動部500の駆動能力を低下させるのに対し、主端子間電圧VDSが比較的変化しない期間t2の間は駆動部500の駆動能力を大きくする。ここで、主端子間電圧VDSの変化速度が大きいほど、半導体素子120のターンオフに伴う振動が大きくなるところ、駆動装置130は、主端子間電圧VDSが大きく変化する期間t1における駆動部500の駆動能力を低下させて電圧VDSの変化速度を抑えることにより、振動の発生を効率よく抑制することができる。
【0062】
図7は、半導体素子120のターンオン時の動作波形を示す。具体的には、本図は、制御信号、駆動用スイッチ520dの接続状態、駆動用スイッチ520cの接続状態、半導体素子120の制御電圧(ゲート電圧)、並びに、主端子間電圧VDS、半導体素子120に流れる電流(ドレイン電流)IDのそれぞれについて、横軸方向の時間の経過に伴う変化を示す。
【0063】
半導体素子120がオフの定常状態においては、制御信号がローレベルとなっており、駆動用スイッチ520a~bがオン、駆動用スイッチ520c~dがオフとなっている。この状態においては、半導体素子120の主端子間電圧VDSはほぼ電解コンデンサ110が発生する電源電圧となり、半導体素子120には電流が流れていない。
【0064】
制御信号がローレベルからハイレベルに変化すると、駆動装置130は、半導体素子120のターンオン動作を開始する。ドライバ560c~dは、主端子間電圧VDSが第2閾値Th2以上の間は駆動用スイッチ520c~dをオンとする。また、ドライバ560a~bは、駆動用スイッチ520a~bをオフとする。これにより、駆動制御部530は、第3駆動能力で半導体素子120の制御端子を駆動して、制御端子の制御電圧を上昇させる。
【0065】
制御電圧がある程度上昇すると、半導体素子120は、ターンオンを開始する。これに伴って主端子間電圧VDSが下降し、制御信号がハイレベルに変化してから期間t3の後に第2閾値Th2未満となる。ドライバ560dは、主端子間電圧VDSが第2閾値Th2未満となったことに応じて、駆動用スイッチ520dをオフとする。半導体素子120は、ターンオンを開始したことに応じて主端子間電圧VDSを図中実線で示したように下降させて、制御信号がハイレベルに変化してから期間t3+t4の後に主端子間電圧VDSをほぼ0とする。また、半導体素子120は、ターンオンを開始したことに応じて電流IDを図中実線で示したように上昇させ、制御信号がハイレベルに変化してから期間t3+t4が経過する時点近くで電流IDを定常電流とする。
【0066】
本実施形態に係る駆動装置130によれば、半導体素子120のターンオン動作において、主端子間電圧VDSが第2閾値Th2からほぼ0まで変化する期間の間(すなわち、主端子間電圧VDSがほぼ第2閾値Th2の電圧差分だけ変化する期間の間)は、主端子間電圧VDSが第2閾値以上の期間と比較して駆動部500の駆動能力を低下させる。ここで、駆動装置130が、抵抗510dおよび駆動用スイッチ520dによる駆動回路を有さず主端子間電圧VDSが第2閾値Th2以上の間も駆動用スイッチ520bcのみによって半導体素子120の制御端子を駆動したとすると、図中破線で示したように主端子間電圧VDSの低下および電流IDの上昇が遅くなる。この場合、主端子間電圧VDSが第2閾値Th2以上の間に駆動用スイッチ520cおよび駆動用スイッチ520dの両方を用いて半導体素子120の制御端子を駆動した場合と比較して、ターンオン期間が図中t33+t44で示したように長くなり、スイッチング損失が増加してしまう。
【0067】
これに対し、本実施形態に係る駆動装置130によれば、主端子間電圧VDSが基準電圧差分変化する期間t4の間は駆動部500の駆動能力を低下させるのに対し、主端子間電圧VDSが比較的変化しない期間t3の間は駆動部500の駆動能力を大きくする。ここで、主端子間電圧VDSの変化速度が大きいほど、半導体素子120のターンオフに伴う振動が大きくなるところ、駆動装置130は、主端子間電圧VDSが大きく変化する期間t4における駆動部500の駆動能力を低下させて電圧VDSの変化速度を抑え、半導体素子120の抵抗値の低下速度を抑えてダンピング抵抗Rdを大きくすることにより、振動の発生を効率よく抑制することができる。
【0068】
なお、ターンオフ期間において主端子間電圧VDSと比較する第1閾値Th1、およびターンオン期間において主端子間電圧VDSと比較する第2閾値Th2の少なくとも一方は、半導体素子120がオフの定常状態における主端子間電圧の60%以上100%未満であってよく、80%以上95%未満であってよい。また、第1閾値Th1および第2閾値Th2は、同一値であっても異なる値であってもよい。
【0069】
図8は、半導体素子のターンオフ時における電流および電圧の過渡的な変化の一例を示す。本図においては、主端子間電圧が基準電圧差分変化する期間の間は駆動装置130bおよび半導体素子120bの間の抵抗(ゲート抵抗)を0.1Ωから2Ωに増加させる他は、
図4と同一条件を適用している。
【0070】
図4においては、横軸上の15.0μsにおいて半導体素子120bをターンオフしたタイミングで、インダクタンスLs2および接合容量CosによるLC回路による局所的な電流Idおよび電圧Idsの高周波振動が見られる。これに対し、本図においては、このような高周波振動を抑えることができている。なお、駆動装置130は、主端子間電圧が基準電圧差分変化する期間の間にゲート抵抗を増加させればよく、例えばゲート抵抗を2倍以上に増加させてもよい。
【0071】
なお、主端子間電圧が基準電圧差分変化する期間の間に駆動装置130の駆動能力をどの程度低下させるか、すなわち例えばゲート抵抗をどの程度増加させるかは、配線インダクタンスLs2の大きさ等によって変わりうる。したがって、半導体装置115の製造者または半導体装置115の使用者は、半導体装置115をシミュレーションした結果、または半導体装置115を試験した結果を用いて駆動装置130の駆動能力を決定してよい。また、駆動装置130は、主端子間電圧が基準電圧差分変化する期間の間における駆動装置130の駆動能力を外部から設定可能な設定メモリ等を有してよく、設定値にしたがって駆動装置130の駆動能力を切替えてもよい。
【0072】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0073】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0074】
100 電力装置
110 電解コンデンサ
115 半導体装置
120a~b 半導体素子
130a~b 駆動装置
140 負荷
150 インダクタ
180 スナバ
185 抵抗
190 コンデンサ
280a~b スナバ
285a~b 抵抗
290a~b コンデンサ
500 駆動部
510a~d 抵抗
520a~d 駆動用スイッチ
530 駆動制御部
540a~b 分圧抵抗
545 バッファ
550a~b 電圧源
560a~d ドライバ