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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】密集度推定装置および密集度推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/04 20060101AFI20250109BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20250109BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20250109BHJP
【FI】
G01S13/04
G06N20/00
G06N3/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021017096
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120291
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優太
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223731(JP,A)
【文献】特開2016-218610(JP,A)
【文献】特開2012-108050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0196091(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0233062(US,A1)
【文献】国際公開第2021/002049(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
G06N 3/08
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出する差分算出手段と、
前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する推定手段とを備える
ことを特徴とする密集度推定装置。
【請求項2】
差分算出手段は、偏波レーダデータを用いて算出される二回反射散乱のモデルと、人間の群れの、偏波レーダデータを用いて算出される体積散乱のモデルとを用いて、個体が人間である場合の第1の差分および第2の差分を算出し、
推定手段は、前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、個体が人間である場合の密集度を推定する
請求項1に記載の密集度推定装置。
【請求項3】
領域毎の密集度に基づいて、領域毎の個体数をマップ状に表した情報である個体数マップを生成する個体数マップ生成手段を備える
請求項1または請求項2に記載の密集度推定装置。
【請求項4】
推定手段は、予め学習された学習モデルに対して、第1の差分および第2の差分を適用することによって、密集度を推定する
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の密集度推定装置。
【請求項5】
既知の密集度と、前記既知の密集度に対応する第1の差分および第2の差分とを用いて、機械学習によって、学習モデルを学習する学習手段を備える
請求項4に記載の密集度推定装置。
【請求項6】
学習モデルは、ニューラルネットワークである
請求項4または請求項5に記載の密集度推定装置。
【請求項7】
コンピュータが、
個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出し、
前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する
ことを特徴とする密集度推定方法。
【請求項8】
コンピュータが、
第1の差分と第2の差分とを算出するときに、偏波レーダデータを用いて算出される二回反射散乱のモデルと、人間の群れの、偏波レーダデータを用いて算出される体積散乱のモデルとを用いて、個体が人間である場合の第1の差分および第2の差分を算出し、
前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、個体が人間である場合の密集度を推定する
請求項7に記載の密集度推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出する差分算出処理、および、
前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する推定処理
を実行させるための密集度推定プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
差分算出処理で、偏波レーダデータを用いて算出される二回反射散乱のモデルと、人間の群れの、偏波レーダデータを用いて算出される体積散乱のモデルとを用いて、個体が人間である場合の第1の差分および第2の差分を算出させ、
推定処理で、前記第1の差分および前記第2の差分に基づいて、個体が人間である場合の密集度を推定させる
請求項9に記載の密集度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体の密集度を推定する密集度推定装置、密集度推定方法および密集度推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて、動物の群れにおける動物の個体数を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、レーダの電波の反射強度を用いて、群れをなす鳥の数を測定する方法が記載されている。
【0003】
また、非特許文献1には、森林を対象とした場合のレーダの電波の体積散乱のモデルが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-90409号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Yoshio Yamaguchi, Toshifumi Moriyama, Motoi Ishido, Hiroyoshi Yamada, “Four-Component Scattering Model for Polarimetric SAR Image Decomposition”, IEEE, IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING, VOL. 43, NO. 8, AUGUST 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、電波の反射強度のみを用いて、群れをなす鳥の数を測定する。そのため、特許文献1に記載された技術では、測定対象の個体(特許文献1の場合には鳥)以外の物体も測定対象の個体と認識する可能性があり、その結果、個体数を正確に測定できない可能性があった。
【0007】
ここで、単位面積当たりの個体数を密集度と記す。
【0008】
本発明は、着目している個体の密集度を精度よく推定することができる密集度推定装置、密集度推定方法および密集度推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による密集度推定装置は、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出する差分算出手段と、第1の差分および第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する推定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明による密集度推定方法は、コンピュータが、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出し、第1の差分および第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定することを特徴とする。
【0011】
本発明による密集度推定プログラムは、コンピュータに、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの、偏波レーダデータを用いて算出した体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出する差分算出処理、および、第1の差分および第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する推定処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着目している個体の密集度を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の密集度推定装置の例を示すブロック図である。
図2】偏波レーダが1回の電波の送受信を行う際に電波が照射される領域を示す模式図である。
図3】平面状に広がる多数のピクセルを示す模式図である。
図4】ピクセルの変換の例を示す模式図である。
図5】式(8)で表される確率密度関数を示す模式図である。
図6】式(15)で表される確率密度関数を示す模式図である。
図7】個体が動物である場合において、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかを示す模式図である。
図8】式(18)で表される確率密度関数を示す模式図である。
図9】個体が人間である場合において、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかを示す模式図である。
図10】本実施形態の密集度推定装置がニューラルネットワークを学習するときの処理経過の例を示すフローチャートである。
図11】本実施形態の密集度推定装置が群れに属する個体の密集度を推定するときの処理経過の例を示すフローチャートである。
図12】二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する処理の処理経過の例を示すフローチャートである。
図13】二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する処理の処理経過の例を示すフローチャートである。
図14】本発明の実施形態の密集度推定装置10に係るコンピュータの構成例を示す概略ブロック図である。
図15】本発明の密集度推定装置の概要を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の密集度推定装置の例を示すブロック図である。本実施形態の密集度推定装置10は、レーダデータ取得部11と、密集度取得部12と、散乱モデル電力分解部13と、学習部14と、推定部15と、個体数マップ生成部17と、出力部18とを備える。
【0016】
レーダデータ取得部11は、複数種類の偏波を用いる偏波レーダ(図示略)から、偏波レーダデータを取得する。以下の説明では、複数種類の偏波が、水平偏波および垂直偏波である場合を例にして説明する。このような偏波レーダの例として、水平偏波および垂直偏波を用いる合成開口レーダが挙げられる。合成開口レーダは、航空機、人工衛星、ドローン等の移動体に搭載される。また、水平偏波および垂直偏波を用いる偏波レーダは、電波の照射方向または照射位置を変えることができる地上設置型の偏波レーダであってもよい。
【0017】
レーダデータ取得部11は、偏波レーダと通信可能に接続され、通信によって偏波レーダから偏波レーダデータを取得する。以下の説明では、偏波レーダデータが、水平偏波および垂直偏波それぞれの送信電界強度と、水平偏波および垂直偏波それぞれの受信電界強度とを含んでいるものとする。
【0018】
図2は、偏波レーダが1回の電波の送受信を行う際に電波が照射される領域を示す模式図である。ここでは、この領域を「領域A」と称する。偏波レーダは、1回の電波の送受信を行う際に、図2に示す帯状の領域Aに電波を送信し、領域Aにおける反射波を受信する。図2において、正方形で示した領域は、領域A内の個々の部分に該当する領域である。個々の部分に該当する領域は、偏波レーダの種類等にもよるが、例えば、一辺が1m~10m程度の略正方形である。領域A内の部分毎に、偏波レーダが反射波を受信する時刻がずれるので、領域A内の部分毎に受信電界強度は異なる。また、送信電界強度は、領域A内の各部分で共通である。
【0019】
密集度推定装置10は、領域A内の各部分をピクセルとして扱い、ピクセル毎に個体の密集度を推定する。領域A内の各部分に対応するピクセルの数は、例えば、数千である。また、偏波レーダが電波の照射位置を変え、各回の電波の送受信毎に、または、全ての電波の送受信が終わった後に、レーダデータ取得部11に偏波レーダデータを提供することで、密集度推定装置10は、図3に示すように平面状に広がる多数のピクセルそれぞれに対して、個体の密集度を推定することができる。
【0020】
以下、1つのピクセルおよびその周囲のピクセルに該当する領域に関する偏波レーダデータをレーダデータ取得部11が取得し、密集度推定装置10が、その1つのピクセルに該当する領域(以下、着目領域と記す場合がある。)に関して処理を行う場合を例にして説明する。
【0021】
また、本実施形態において、密集度の推定対象となる個体は、「人間」または「人間以外の動物」である。
【0022】
次に、個体の密集度を推定するための学習モデルを学習する際における密集度推定装置10の要素(図1参照)の処理について説明する。
【0023】
密集度取得部12は、着目領域に個体の群れが発生していることが分かっている場合に、密集度を算出する別のシステム(以下、単に別システムと記す。図示略。)から、その時点における着目領域での密集度を取得する。この密集度は、密集度を推定するための学習モデルを学習するときに用いられる教師データであり、既知の密集度であると言うことができる。
【0024】
密集度取得部12は、例えば、別システムと通信可能に接続され、通信によって別システムから密集度を取得する。
【0025】
別システムが密集度を算出する方法は特に限定されない。例えば、着目領域内に発生している群れに属する個々の個体にGPS(Global Positioning System )端末を所持させておき、別システムが、着目領域内のGPS端末の数をカウントすることによって、着目領域内の個体数を特定し、その個体数と、既知である着目領域の面積とによって、密集度を求めてもよい。また、例えば、別システムが、着目領域を撮影し、その結果得られた画像に基づいて、着目領域内の個体の数をカウントし、その個体数と、既知である着目領域の面積とによって、密集度を求めてもよい。密集度は、単位面積当たりの個体数であるので、個体の群れが発生している領域の面積で個体数を除算することによって、密集度が算出される。
【0026】
また、レーダデータ取得部11は、上記の群れが発生している時点での、着目領域およびその周辺の領域の偏波レーダデータを、偏波レーダから取得する。
【0027】
また、レーダデータ取得部11は、着目領域に個体の群れが発生していないことが分かっている時点での、着目領域およびその周辺の領域の偏波レーダデータを、偏波レーダから取得する。
【0028】
散乱モデル電力分解部13は、レーダデータ取得部11が取得した偏波レーダデータに対して、散乱モデル電力分解を行うことによって、二回反射散乱の散乱電力と、体積散乱の散乱電力とを算出する。散乱モデル電力分解部13は、着目領域に群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力および体積散乱の散乱電力と、着目領域に群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力および体積散乱の散乱電力とを算出する。これらの散乱電力の算出方法については、後述する。さらに、散乱モデル電力分解部13は、着目領域に群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、着目領域に群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分を算出する。同様に、散乱モデル電力分解部13は、着目領域に群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、着目領域に群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分を算出する。以下、群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分を第1の差分と記す。また、群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分を第2の差分と記す。
【0029】
学習部14は、密集度取得部12が取得した密集度(既知の密集度)と、その密集度に対応する第1の差分および第2の差分との組合せを用いて、機械学習によって、密集度を推定するための学習モデルを学習する。この学習モデルは、第1の差分および第2の差分が与えられた場合に、密集度を推定するための学習モデルである。
【0030】
本実施形態では、学習モデルが、ニューラルネットワークである場合を例にして説明する。ニューラルネットワークの層の数、および、個々の層におけるニューロンの数は、予め定められている。ただし、任意の層の任意のニューロンと、その次の層の任意のニューロンとの間の重みは、定められていない。第k層のニューロンと、その次の層(第k+1層)のニューロンとの間の重みを要素とする重み行列を[W]とすると、[W]は、以下に示す式(1)のように表すことができる。
【0031】
【数1】
【0032】
式(1)の右辺においてwij は、第k層のj番目のニューロンと、第k+1層のi番目のニューロンとの間の重みを表す。また、式(1)では、第k層のニューロンの数がn個であり、第k+1層のニューロンの数がnk+1個である場合を示している。この場合、重み行列の要素(重み)の数は、n×nk+1個である。
【0033】
学習部14は、密集度と、その密集度に対応する第1の差分および第2の差分との組合せを用いて、機械学習によって、ニューラルネットワークの隣り合う層の組毎に重み行列を学習することによって、ニューラルネットワークを学習する(すなわち、ニューラルネットワークを定める)。
【0034】
次に、個体の密集度を推定する際における密集度推定装置10の要素(図1参照)の処理について説明する。
【0035】
レーダデータ取得部11は、予め、密集度を推定する対象領域に個体の群れが発生していないことが分かっている時点における、その領域の偏波レーダデータを取得する。そして、散乱モデル電力分解部13は、その偏波レーダデータを用いて、予め、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力および体積散乱の散乱電力とを算出し、その各散乱電力を保持しておく。予め算出して保持しておく、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力をPd0と表す。また、予め算出して保持しておく、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力をPv0と表す。密集度推定装置10は、上記の処理を、各ピクセルに該当する領域毎に行う。
【0036】
また、レーダデータ取得部11は、個体の群れが発生していて、個体の密集度を推定する時点の偏波レーダデータを取得する。そして、散乱モデル電力分解部13は、その時点での二回反射散乱の散乱電力および体積散乱の散乱電力とを算出する。この二回反射散乱の散乱電力をPd1と表し、この体積散乱の散乱電力をPv1と表す。
【0037】
散乱モデル電力分解部13は、第1の差分(群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分)を、以下に示す式(2)で算出する。なお、ΔPは第1の差分を表す。
【0038】
ΔP=Pd1-Pd0 ・・・(2)
【0039】
また、散乱モデル電力分解部13は、第2の差分(群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分)を、以下に示す式(3)で算出する。なお、ΔPは第2の差分を表す。
【0040】
ΔP=Pv1-Pv0 ・・・(3)
【0041】
推定部15は、予め学習部14によって学習されたニューラルネットワークに対して、第1の差分ΔPと第2の差分ΔPとを適用することによって、個体の密集度を推定する。
【0042】
密集度推定装置10は、上記の処理を、各ピクセルに該当する領域毎に行う。
【0043】
この結果、ピクセル毎に個体の密集度が推定される。
【0044】
個体数マップ生成部17は、個体数マップを生成する。個体数マップは領域毎の個体数をマップ状に表した情報である。なお、ピクセル毎に密集度が推定されているものとする。個体数マップ生成部17は、ピクセル毎に推定されている密集度を、個体数に変換することによって、個体数マップを生成すればよい。密集度から個体数への変換は、密集度に、1ピクセルに該当する領域の面積を乗じることによって行える。なお、1ピクセルに該当する領域の面積は既知であるものとする。
【0045】
ここで、1つのピクセルに該当する領域が、一辺が1m~10m程度の略正方形である場合、個体数マップにおける1ピクセルが細分化されすぎていることになり得る。そのような場合には、個体数マップ生成部17は、複数のピクセルを1つのピクセルにまとめるように、ピクセルを変換することによって、個体数マップを生成する。この場合、変換後の1ピクセルに該当する領域の面積は、変換前の1ピクセルに該当する面積よりも大きい。図4は、ピクセルの変換の例を示す模式図である。図4の上段は、変換前のピクセル毎の密集度を示すマップであり、25ピクセル分のマップを示している。ここでは、密集度に応じた態様(例えば、模様。色等でもよい。)で、個々のピクセルの密集度を表現している。図4の上段に示す25ピクセルを、1つのピクセルに変換するものとする。本例では、図4の上段に示す25ピクセルを、図4の下段の第1行第2列の1ピクセルに変換しているものとする。この場合、個体数マップ生成部17は、変換前の25ピクセル(図4の上段を参照)における密集度の平均値を算出する。そして、個体数マップ生成部17は、変換後の1ピクセル(図4の下段における1ピクセル)に該当する領域の面積に、その平均値を乗じることによって、図4の下段の第1行第2列のピクセルの個体数を算出する。個体数マップ生成部17は、図4の下段の他の各ピクセルについても、同様に個体数を算出する。そして、個体数マップ生成部17は、個体数に応じた態様(例えば、模様。色等でもよい。)で変換後の各ピクセル(図4の下段の各ピクセル)の個体数を表現した情報を、個体数マップとして生成すればよい。
【0046】
出力部18は、個体数マップを出力するための出力デバイスである。例えば、出力部18は、ディスプレイ装置であってもよい。この場合、個体数マップ生成部17は、生成した個体数マップ(例えば、図4の下段参照)を、ディスプレイ装置(出力部18)に表示させる。なお、ディスプレイ装置は、出力部18の一例であり、出力部18は、ディスプレイ装置に限定されない。例えば、出力部18がプリンタ装置であり、個体数マップ生成部17は、生成した個体数マップ(例えば、図4の下段参照)を、プリンタ装置(出力部18)に印刷させてもよい。
【0047】
次に、散乱モデル電力分解部13が、二回反射散乱の散乱電力および体積散乱の散乱電力を算出する処理について説明する。なお、レーダデータ取得部11は、着目領域およびその周辺の領域の偏波レーダデータを、偏波レーダから取得しているものとする。
【0048】
水平偏波、垂直偏波それぞれの受信電界強度をE ,E とすると、偏波レーダの受信電界強度は、[E ,E と表すことができる。なお、Tは転置を意味する。同様に、水平偏波、垂直偏波それぞれの送信電界強度をE ,E とすると、偏波レーダの送信電界強度は、[E ,E と表すことができる。添え字のHは、水平偏波を表し、添え字のVは垂直偏波を表す。この点は、以下に示す他の符号でも同様である。
【0049】
ここで、以下に示す式(4)が成り立つ。
【0050】
【数2】
【0051】
式(4)において、右辺の1番目の行列は、散乱行列である。散乱モデル電力分解部13は、式(4)と、受信電界強度[E ,E および送信電界強度[E ,E とによって、散乱行列を求める。さらに、散乱モデル電力分解部13は、以下に示す式(5)のように表される共分散行列を、その散乱行列から求める。
【0052】
【数3】
【0053】
ここで、“<>”は、着目しているピクセルおよびその周辺のピクセルでの集合平均を意味する。また、“*”は、複素共役を表している。
【0054】
また、表面散乱のモデルを表す共分散行列は、以下に示す式(6)のようになる。ただし、式(6)におけるβは、未知数である。
【0055】
【数4】
【0056】
また、二回反射散乱のモデルを表す共分散行列は、以下に示す式(7)のようになる。ただし、式(7)におけるαは、未知数である。
【0057】
【数5】
【0058】
次に、体積散乱のモデルを表す共分散行列について説明する。まず、個体が「人間以外の動物(以下、単に動物と記す。)」である場合の体積散乱のモデルを表す共分散行列について説明する。個体が動物である場合には、個体の群れが森林である場合と同様に考えることができる。個体が動物である場合、ダイポールの向きはランダムに近いと考えられるからである。森林の場合の体積散乱のモデルについては、非特許文献1に記載されている。
【0059】
動物の群れを森林と同様に考え、ダイポールがランダムな方向を向いているものとすると、偏波レーダから見たダイポールの向きの確率密度関数は、式(8)で表される。
【0060】
【数6】
【0061】
図5は、式(8)で表される確率密度関数を示す模式図である。図5は、ダイポールの存在確率が、ダイポールの向きによらずに一定であることを表している。
【0062】
また、θだけ回転させた散乱行列は、以下の式(9)のように表される。
【0063】
【数7】
【0064】
体積散乱のモデルを表す共分散行列は、3行3列の行列であり、9個の要素を持つ。その9個の要素は、式(9)を用いて、以下に示す式(10)のように表される。
【0065】
【数8】
【0066】
式(10)において、Re()は、複素数の実数部を取り出す関数である。また、式(10)におけるa,b,c,I(i:1,2,・・・,10)は、以下に示す式(11)のように表される。
【0067】
【数9】
【0068】
式(8)、式(10)および式(11)を用いて、体積散乱のモデルを表す共分散行列が求められる。ここで、水平方向を向いたダイポールの散乱行列を[S]h-dipole HVと記し、鉛直方向を向いたダイポールの散乱行列を[S]v-dipole HVと記す。[S]h-dipole HVおよび[S]v-dipole HVは、それぞれ、以下に示す式(12)、式(13)のように表される。
【0069】
【数10】
【0070】
式(11)の第1式の右辺に式(12)に示す[S]h-dipole HVを代入した場合の共分散行列と、式(11)の第1式の右辺に式(13)に示す[S]v-dipole HVを代入した場合の共分散行列とをそれぞれ求める。ここでは、式(11)の第1式の右辺に[S]h-dipole HVを代入した場合であっても、式(11)の第1式の右辺に[S]v-dipole HVを代入した場合であっても、同一の共分散行列が求められる。その共分散行列は、以下に示す式(14)のように表すことができ、体積散乱のモデルを表す共分散行列であると言える。
【0071】
【数11】
【0072】
前述のように、動物の群れを森林と同様に考えるものとする。実際の森林はダイポールが鉛直方向を向く構造が支配的であり、非特許文献1では、より正確な森林の確率密度関数(ダイポールの向きの確率密度関数)が示されている。その確率密度関数は、以下に示す式(15)のように表される。
【0073】
【数12】
【0074】
図6は、式(15)で表される確率密度関数を示す模式図である。図6は、上方向を向くダイポールの存在確率が、他の向きのダイポールの存在確率よりも高いことを表している。
【0075】
式(15)で表される確率密度関数を用いた場合の体積散乱のモデルを表す共分散行列も求められる。この場合、式(15)、式(10)および式(11)を用いて、体積散乱のモデルを表す共分散行列が求められる。前述の場合と同様に、式(11)の第1式の右辺に式(12)に示す[S]h-dipole HVを代入した場合の共分散行列と、式(11)の第1式の右辺に式(13)に示す[S]v-dipole HVを代入した場合の共分散行列とをそれぞれ求める。式(11)の第1式の右辺に[S]h-dipole HVを代入した場合には、以下に示す式(16)の共分散行列が得られ、式(11)の第1式の右辺に[S]v-dipole HVを代入した場合には、以下に示す式(17)の共分散行列が得られる。
【0076】
【数13】
【0077】
式(14)、式(16)、式(17)に示す行列は、いずれも、個体が動物である場合における体積散乱のモデルを表す共分散行列である。ただし、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかが定まる。図7は、個体が動物である場合において、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかを示す模式図である。すなわち、10log(<|SVV>/<|SHH>)が-2dB未満である場合には、式(17)に示す共分散行列が用いられる。また、10log(<|SVV>/<|SHH>)が-2dB以上2dB以下である場合には、式(14)に示す共分散行列が用いられる。また、10log(<|SVV>/<|SHH>)が2dBを超える場合には、式(16)に示す共分散行列が用いられる。
【0078】
次に、個体が人間である場合の人間の群れの体積散乱のモデルを表す共分散行列について説明する。この場合にも、式(8)で表される確率密度関数を用いて導出される共分散行列(式(14)に示す共分散行列)が用いられる。
【0079】
また、群れに属する人間の腕は鉛直下向きの方向を向いていることが多い。従って、腕がダイポールであると考えると、ダイポールの向きの確率密度関数は、以下に示す式(18)で表される。
【0080】
【数14】
【0081】
図8は、式(18)で表される確率密度関数を示す模式図である。図8は、下方向を向くダイポールの存在確率が、他の向きのダイポールの存在確率よりも特に高いことを表している。
【0082】
式(18)で表される確率密度関数を用いた場合の体積散乱のモデルを表す共分散行列も求められる。この場合、式(18)、式(10)および式(11)を用いて、体積散乱のモデルを表す共分散行列が求められる。前述の場合と同様に、式(11)の第1式の右辺に式(12)に示す[S]h-dipole HVを代入した場合の共分散行列と、式(11)の第1式の右辺に式(13)に示す[S]v-dipole HVを代入した場合の共分散行列とをそれぞれ求める。式(11)の第1式の右辺に[S]h-dipole HVを代入した場合には、以下に示す式(19)の共分散行列が得られ、式(11)の第1式の右辺に[S]v-dipole HVを代入した場合には、以下に示す式(20)の共分散行列が得られる。
【0083】
【数15】
【0084】
式(14)、式(19)、式(20)に示す行列は、いずれも、個体が人間である場合における体積散乱のモデルを表す共分散行列である。ただし、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかが定まる。図9は、個体が人間である場合において、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じて、どの共分散行列が用いられるかを示す模式図である。すなわち、10log(<|SVV>/<|SHH>)が-3.5dB未満である場合には、式(20)に示す共分散行列が用いられる。また、10log(<|SVV>/<|SHH>)が-3.5dB以上3.5dB以下である場合には、式(14)に示す共分散行列が用いられる。また、10log(<|SVV>/<|SHH>)が3.5dBを超える場合には、式(19)に示す共分散行列が用いられる。
【0085】
以上に述べたように、個体が動物である場合であっても、個体が人間である場合であっても、体積散乱のモデルを表す共分散行列は、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に依存する。
【0086】
次に、二回反射散乱の散乱電力、および、体積散乱の散乱電力の算出方法について、説明する。
【0087】
表面散乱のモデルを表す共分散行列<[C]>surface hv、二回反射散乱のモデルを表す共分散行列<[C]>double hv、体積散乱のモデルを表す共分散行列<[C]>vol hvを用いると、共分散行列<[C]>HVは、以下に示す式(21)のように表される。
【0088】
【数16】
【0089】
式(21)において、f,f,fは展開係数であり、未知数である。また、前述のように、α,βも未知数である。ここで、f,f,f,α,βを用いた以下の式(22)が得られる。
【0090】
【数17】
【0091】
式(22)に示す各式のfの係数におけるmijは、体積散乱のモデルを表す共分散行列の第i行第j列の要素である。体積散乱のモデルを表す共分散行列は、前述のように、個体が動物であるか人間であるか、および、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値によって異なる。以下に、式(22)に示すm11,m22,m33,m13を具体的に示す。
【0092】
群れに属する個体が動物である場合におけるm11,m22,m33,m13の値を、以下の式(23)に示す。
【0093】
【数18】
【0094】
群れに属する個体が人間である場合におけるm11,m22,m33,m13の値を、以下の式(24)に示す。
【0095】
【数19】
【0096】
また、表面散乱の散乱電力をPとする。二回反射散乱の散乱電力をPとする。体積散乱の散乱電力をPとする。これらの散乱電力P,P,Pは、以下に示す式(25)のように表すことができる。
【0097】
【数20】
【0098】
また、散乱電力P,P,Pの合計は、以下に示す式(26)のように表される。
【0099】
【数21】
【0100】
散乱モデル電力分解部13は、レーダデータ取得部11が取得した偏波レーダデータ(具体的には、受信電界強度および送信電界強度)と、式(4)とにより、散乱行列(式(4)の右辺の1番目の行列)を求める。散乱モデル電力分解部13は、その散乱行列から、式(5)で表される共分散行列<[C]>HVを求める。この結果、<|SHH>,<|SHV>,<|SVV>,<|SHHVV |>が得られる。散乱モデル電力分解部13は、それらの値を式(22)に代入し、式(22)、式(25)および式(26)に示す8個の式を用いて、連立方程式を解くことによって、未知数P,P,P,f,f,f,α、βを求める。この結果、二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pが得られる。
【0101】
なお、密集度の推定対象となる個体が動物であるか人間であるかは、予め指定されているものとする。個体が動物である場合には、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じたm11,m22,m33,m13の値を、式(23)に基づいて特定し、その値を式(22)に代入すればよい。また、個体が人間である場合には、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じたm11,m22,m33,m13の値を、式(24)に基づいて特定し、その値を式(22)に代入すればよい。
【0102】
密集度を推定する対象領域に個体の群れが発生していて、個体の密集度を推定する時点の偏波レーダデータを用いて、上記のように算出されたP,Pはそれぞれ、前述のPd1,Pv1に相当する。
【0103】
また、対象領域に個体の群れが発生していないことが分かっている時点の偏波レーダデータを用いて、上記のように算出されたP,Pはそれぞれ、前述のPd0,Pv0に相当する。ここで、対象領域に個体の群れが発生していないことが分かっている時点の偏波レーダデータを用いて、P,Pを算出する場合、群れが発生した場合における群れに属する個体が動物であるか人間であるか指定されてもよい。その場合、前述の場合と同様に、指定された個体が動物である場合には、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じたm11,m22,m33,m13の値を、式(23)に基づいて特定し、その値を式(22)に代入すればよい。また、指定された個体が人間である場合には、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値に応じたm11,m22,m33,m13の値を、式(24)に基づいて特定し、その値を式(22)に代入すればよい。この場合、指定された個体が動物である場合のPd0,Pv0と、指定された個体が人間である場合のPd0,Pv0とが異なる場合が生じ得る。
【0104】
また、対象領域に個体の群れが発生していないことが分かっている時点の偏波レーダデータを用いて、P,Pを算出する場合に、指定された個体が動物であるか人間であるかによらずにP,Pを算出してもよい。対象領域に個体の群れが発生していない場合には、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値が0dB付近の値であると考えられる。この場合、個体が人間である場合であっても動物である場合であっても、(m11,m22,m33,m13)の値は、(3/8,1/4,3/8,1/8)で共通である。よって、m11,m22,m33,m13の値としてそれぞれ、3/8,1/4,3/8,1/8を式(22)に代入して、P,Pを算出してもよい。この場合、個体が動物であるか人間であるかによってPd0,Pv0はそれぞれ変わらない。
【0105】
前述のように、散乱モデル電力分解部13は、第1の差分ΔP(群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分)を式(2)の計算で算出する。また、散乱モデル電力分解部13は、第2の差分ΔP(群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分)を式(3)の計算で算出する。
【0106】
推定部15は、この結果得られた第1の差分ΔPおよび第2の差分ΔPをニューラルネットワークに適用することによって、個体の密集度を推定する。
【0107】
レーダデータ取得部11および密集度取得部12は、例えば、密集度推定プログラムに従って動作するコンピュータのCPU(Central Processing Unit )、および、そのコンピュータの通信インタフェースによって実現される。例えば、CPUが、コンピュータのプログラム記憶装置等のプログラム記録媒体から密集度推定プログラムを読み込み、その密集度推定プログラムに従って、通信インタフェースを用いて、レーダデータ取得部11および密集度取得部12として動作すればよい。また、散乱モデル電力分解部13、学習部14、推定部15および個体数マップ生成部17は、例えば、密集度推定プログラムに従って動作するコンピュータのCPUによって実現される。例えば、CPUが上記のようにプログラム記録媒体から密集度推定プログラムを読み込み、その密集度推定プログラムに従って、散乱モデル電力分解部13、学習部14、推定部15および個体数マップ生成部17として動作すればよい。
【0108】
次に、処理経過について説明する。
【0109】
図10は、本実施形態の密集度推定装置10がニューラルネットワークを学習するときの処理経過の例を示すフローチャートである。既に説明した事項については、適宜、説明を省略する。
【0110】
群れに属する個体が人間であるか動物であるかは、予め指定されているものとする。また、別システムが密集度を算出する領域に、個体の群れが発生しているものとする。さらに、個体の群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力P(Pd0)、および、体積散乱の散乱電力P(Pv0)は、予め算出されているものとする。
【0111】
レーダデータ取得部11は、偏波レーダから、偏波レーダデータを取得する(ステップS1)。この偏波レーダデータは、別システムが密集度を算出する対象の領域に対して偏波レーダが電波を照射することによって得られたデータである。
【0112】
次に、散乱モデル電力分解部13は、ステップS1で得られた偏波レーダデータを用いて、個体の群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力P(Pd1)、および、体積散乱の散乱電力P(Pv1)を算出する(ステップS2)。
【0113】
次に、散乱モデル電力分解部13は、第1の差分ΔP(群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力Pd1と、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力Pd0との差分)、および、第2の差分ΔP(群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力Pv1と、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力Pv0との差分)を算出する(ステップS3)。
【0114】
また、密集度取得部12は、別システムから、その別システムが算出した密集度を取得する(ステップS4)。
【0115】
次に、学習部14は、ステップS4で得られた密集度と、ステップS3で算出された第1の差分ΔPおよび第2の差分ΔPとを用いて、ニューラルネットワークの隣り合う層の組毎に重み行列を学習することによって、ニューラルネットワークを学習する(ステップS5)。なお、既に説明したように、ニューラルネットワークの層の数、および、個々の層におけるニューロンの数は、予め定められている。
【0116】
密集度推定装置10は、個体として動物が指定された場合と、個体として人間が指定された場合それぞれについて、ステップS1~S5を行い、動物に対応するニューラルネットワーク、および、人間に対応するニューラルネットワークを生成する。なお、ステップS2の処理の中で、個体が人間である場合と個体が動物である場合の分岐処理を行う。ステップS2の処理経過については、後述する。
【0117】
図11は、本実施形態の密集度推定装置10が群れに属する個体の密集度を推定するときの処理経過の例を示すフローチャートである。既に説明した事項については、適宜、説明を省略する。
【0118】
群れに属する個体が人間であるか動物であるかは、予め指定されているものとする。また、個体の密集度の推定対象の領域に、個体の群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力P(Pd0)、および、体積散乱の散乱電力P(Pv0)は、予め算出されているものとする。
【0119】
レーダデータ取得部11は、偏波レーダから、偏波レーダデータを取得する(ステップS11)。この偏波レーダデータは、個体の密集度の推定対象の領域に対して偏波レーダが電波を照射することによって得られたデータである。
【0120】
次に、散乱モデル電力分解部13は、ステップS11で得られた偏波レーダデータを用いて、二回反射散乱の散乱電力P(Pd1)、および、体積散乱の散乱電力P(Pv1)を算出する(ステップS12)。
【0121】
次に、散乱モデル電力分解部13は、第1の差分ΔP、および、第2の差分ΔPを算出する(ステップS13)。
【0122】
ステップS12,S13は、前述のステップS2,S3(図10参照)と同様の処理である。
【0123】
次に、推定部15は、第1の差分ΔP、および、第2の差分ΔPをニューラルネットワークに適用することによって、個体の密集度を推定する(ステップS14)。個体として動物が指定された場合には、推定部15は、ステップS14で、動物に対応するニューラルネットワークを用いればよい。また、個体として人間が指定された場合には、推定部15は、ステップS14で、人間に対応するニューラルネットワークを用いればよい。
【0124】
密集度推定装置10は、個々のピクセルに該当する領域毎に、ステップS11~S14の処理を行う。その結果、個々のピクセル毎に個体の密集度が得られる。ピクセル毎に個体の密集度が得られた後、個体数マップ生成部17は、個々のピクセル毎の密集度に基づいて、個体数マップ(例えば、図4の下段を参照)を生成する。個体数マップ生成部17が個体数マップを生成する方法については既に説明したので、ここでは説明を省略する。個体数マップ生成部17は、例えば、ディスプレイ装置(出力部18)に、個体数マップを表示させる。
【0125】
前述のように、ステップS2(図10参照)とステップS12(図11参照)は、同様の処理であり、いずれも、二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する処理である。以下、二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する処理(ステップS2,S12)の処理経過を説明する。図12図13は、二回反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する処理の処理経過の例を示すフローチャートである。既に説明した事項については、適宜、説明を省略する。
【0126】
また、以下の説明では、10log(<|SVV>/<|SHH>)を符号Lで表す。
【0127】
散乱モデル電力分解部13は、式(4)と、偏波レーダデータに含まれる受信電界強度および送信電界強度とを用いて、散乱行列(式(4)の右辺の1番目の行列)を算出する(ステップS21)。
【0128】
次に、散乱モデル電力分解部13は、その散乱行列から、式(5)に示す共分散行列<[C]>HVを算出する(ステップS22)。
【0129】
次に、散乱モデル電力分解部13は、予め指定された個体が人間であるか動物であるかを判定する(ステップS23)。
【0130】
予め指定された個体が人間である場合、ステップS24に移行する。
【0131】
ステップS24では、散乱モデル電力分解部13は、Lの値(すなわち、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値)が属する区分を判定する。
【0132】
Lの値が-3.5dB未満である場合、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、5/8,1/4,1/8,1/8を代入する(ステップS25)。ステップS25の後、ステップS32に移行する。
【0133】
Lの値が-3.5dB以上3.5dB以下である場合、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、3/8,1/4,3/8,1/8を代入する(ステップS26)。ステップS26の後、ステップS32に移行する。
【0134】
Lの値が3.5dBを超える場合には、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、1/8,1/4,5/8,1/8を代入する(ステップS27)。ステップS27の後、ステップS32に移行する。
【0135】
また、予め指定された個体が動物である場合、ステップS28(図13参照)に移行する。
【0136】
ステップS28では、散乱モデル電力分解部13は、Lの値(すなわち、10log(<|SVV>/<|SHH>)の値)が属する区分を判定する。
【0137】
Lの値が-2dB未満である場合、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、8/15,4/15,1/5,2/15を代入する(ステップS29)。ステップS29の後、ステップS32(図12参照)に移行する。
【0138】
Lの値が-2dB以上2dB以下である場合、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、3/8,1/4,3/8,1/8を代入する(ステップS30)。ステップS30の後、ステップS32に移行する。
【0139】
Lの値が2dBを超える場合、散乱モデル電力分解部13は、式(22)におけるm11,m22,m33,m13にそれぞれ、1/5,4/15,8/15,2/15を代入する(ステップS31)。ステップS31の後、ステップS32に移行する。
【0140】
ステップS32(図12参照)に移行した時点で、式(22)におけるm11,m22,m33,m13には値が代入されている。ステップS32では、散乱モデル電力分解部13は、式(22)、式(25)、式(26)に示す8個の式を用いて、連立方程式を解くことによって、二階反射散乱の散乱電力Pおよび体積散乱の散乱電力Pを算出する。
【0141】
図12および図13に示すステップS21~S32が、ステップS2(図10参照)やステップS12(図11参照)における散乱モデル電力分解部13の処理経過の例である。
【0142】
本実施形態によれば、散乱モデル電力分解部13が、群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分(第1の差分)、および、群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分(第2の差分)を算出する。そして、推定部15が、第1の差分および第2の差分をニューラルネットワークに適用して、個体の密集度を推定する。従って、密集度推定装置10は、動かない物体の影響を排除して、個体の密集度を推定できる。
【0143】
また、推定部15は、表面散乱の散乱電力に関するデータは用いずに、個体の密集度を推定する。従って、密集度推定装置10は、表面散乱する物体の影響を排除して、個体の密集度を推定できる。なお、人間や動物は、表面散乱する物体に該当しない。
【0144】
従って、個体の密集度を精度よく推定することができる。
【0145】
また、個体が動物である場合には、散乱モデル電力分解部13は、動物の体積散乱のモデルを表す共分散行列(図7参照)から得られる値を、式(22)のm11,m22,m33,m13に代入する。個体が人間である場合には、散乱モデル電力分解部13は、人間の体積散乱のモデルを表す共分散行列(図9参照)から得られる値を、式(22)のm11,m22,m33,m13に代入する。従って、動物の密集度を推定する場合であっても、人間の密集度を推定する場合であっても、精度よく密集度を推定することができる。
【0146】
また、上記の実施形態では、学習モデルがニューラルネットワークである場合を例にして説明した。学習モデルは、他の機械学習の手法で得られる学習モデルであってもよい。例えば、学習モデルは、線形回帰や対数線形回帰に基づいて得られる学習モデルであってもよい。
【0147】
また、上記の実施形態では、推定部15が、第1の差分ΔPおよび第2の差分ΔPを学習モデルに適用することによって、個体の密集度を推定する場合を説明した。学習モデルを用いずに、推定部15が個体の密集度を推定してもよい。なお、この場合、学習部14は設けられていなくてよい。以下、学習モデルを用いずに、推定部15が個体の密集度を推定する場合について説明する。
【0148】
個体の密集度が低程度から中程度である場合、人の群れおよび動物の群れでは、二回反射散乱が発生し、密集度が増加するにつれて、二回反射散乱の散乱電力は増加する。
【0149】
また、個体の密集度が高程度である場合、人の群れおよび動物の群れでは、二回反射散乱の散乱電力が飽和し、体積散乱が発生するようになる。そして、密集度が増加するにつれて、体積散乱の散乱電力は増加する。
【0150】
従って、密集度が低程度から中程度である場合には、第1の差分ΔPの関数で密集度を表すことができる。以下、この関数を第1関数と記す。また、密集度が高程度である場合には、第2の差分ΔPの関数で密集度を表すことができる。以下、この関数を第2関数と記す。
【0151】
第1関数および第2関数は、予め定めておけばよい。そして、推定部15は、第1関数を用いて密集度を推定するのか、第2関数を用いて密集度を推定するのかを、ΔP/ΔPの値によって判定すればよい。すなわち、推定部15は、ΔP/ΔPの値を算出する。そして、ΔP/ΔPの値が予め定められた閾値(Thと表す。)以上であるならば、推定部15は、第1関数および第1の差分ΔPの値から、密集度を推定すればよい。また、ΔP/ΔPの値が閾値Th未満であるならば、推定部15は、第2関数および第1の差分ΔPの値から、密集度を推定すればよい。
【0152】
図14は、本発明の実施形態の密集度推定装置10に係るコンピュータの構成例を示す概略ブロック図である。コンピュータ1000は、例えば、CPU1001と、主記憶装置1002と、補助記憶装置1003と、インタフェース1004と、ディスプレイ装置1005と、通信インタフェース1006とを備える。
【0153】
本発明の実施形態の密集度推定装置10は、コンピュータ1000によって実現される。密集度推定装置10の動作は、プログラム(密集度推定プログラム)の形式で補助記憶装置1003に記憶されている。CPU1001は、そのプログラムを補助記憶装置1003から読み出し、そのプログラムを主記憶装置1002に展開し、そのプログラムに従って、上記の実施形態で説明した処理を実行する。
【0154】
補助記憶装置1003は、一時的でない有形の媒体の例である。一時的でない有形の媒体の他の例として、インタフェース1004を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory )、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory )、半導体メモリ等が挙げられる。また、プログラムが通信回線によってコンピュータ1000に配信される場合、配信を受けたコンピュータ1000がそのプログラムを主記憶装置1002に展開し、そのプログラムに従って上記の実施形態で説明した処理を実行してもよい。
【0155】
また、各構成要素の一部または全部は、汎用または専用の回路(circuitry )、プロセッサ等やこれらの組合せによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各構成要素の一部または全部は、上述した回路等とプログラムとの組合せによって実現されてもよい。
【0156】
各構成要素の一部または全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントアンドサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。
【0157】
次に、本発明の概要について説明する。図15は、本発明の密集度推定装置の概要を示すブロック図である。本発明の密集度推定装置は、差分算出手段73と、推定手段75とを備える。
【0158】
差分算出手段73(例えば、散乱モデル電力分解部13)は、個体の群れが発生しているときの二回反射散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの二回反射散乱の散乱電力との差分である第1の差分と、個体の群れが発生しているときの体積散乱の散乱電力と、個体の群れが発生していないときの体積散乱の散乱電力との差分である第2の差分とを算出する。
【0159】
推定手段75(例えば、推定部15)は、第1の差分および第2の差分に基づいて、単位面積当たりの個体数である密集度を推定する。
【0160】
そのような構成によって、着目している個体の密集度を精度よく推定することができる。
【0161】
また、差分算出手段73が、二回反射散乱のモデルと、人間の群れの体積散乱のモデルとを用いて、個体が人間である場合の第1の差分および第2の差分を算出し、推定手段75が、第1の差分および第2の差分に基づいて、個体が人間である場合の密集度を推定する構成であってもよい。
【0162】
また、領域毎の密集度に基づいて、領域毎の個体数をマップ状に表した情報である個体数マップを生成する個体数マップ生成手段(例えば、個体数マップ生成部17)を備える構成であってもよい。
【0163】
また、推定手段75が、予め学習された学習モデルに対して、第1の差分および第2の差分を適用することによって、密集度を推定する構成であってもよい。
【0164】
また、既知の密集度と、その既知の密集度に対応する第1の差分および第2の差分とを用いて、機械学習によって、学習モデルを学習する学習手段(例えば、学習部14)を備える構成であってもよい。
【0165】
また、学習モデルは、ニューラルネットワークであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、個体の密集度を推定する密集度推定装置に好適に適用される。
【符号の説明】
【0167】
10 密集度推定装置
11 レーダデータ取得部
12 密集度取得部
13 散乱モデル電力分解部
14 学習部
15 推定部
17 個体数マップ生成部
18 出力部
図1
図2
図3
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図15