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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】織編物および病院用白衣
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/533 20210101AFI20250109BHJP
   A41D 31/26 20190101ALI20250109BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20250109BHJP
   A41D 13/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D03D15/533
A41D31/26 100
A41D31/00 503G
A41D31/00 502B
A41D31/00 502C
A41D13/12 109
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021024234
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126261
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 克哉
(72)【発明者】
【氏名】勝部 禎一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敬人
(72)【発明者】
【氏名】松生 良
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-207319(JP,A)
【文献】特開2004-027425(JP,A)
【文献】特開2006-328590(JP,A)
【文献】特開2005-281907(JP,A)
【文献】特開2007-126799(JP,A)
【文献】特開2015-021193(JP,A)
【文献】特開2003-227032(JP,A)
【文献】特開2010-059588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00 -27/18
A41D31/00 -31/26
A41D13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン可染ポリマーを主成分とした導電糸および制電糸の一以上ならびに原着糸を使用した織編物であって、摩擦帯電電荷量が7μC以下かつ耐光堅牢度が6級以上であり、前記導電糸および制電糸の一以上がカチオン可染ポリエステル糸と混紡または交撚されたものであり、前記織編物がカチオン染料を用いて染色されたものであることを特徴とする織編物。
【請求項2】
請求項1に記載のカチオン可染ポリマーがカチオン可染ポリエステルを主成分とすることを特徴とする織編物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の織編物を使用したことを特徴とする病院用白衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電糸や制電糸を挿入した際に外観に現れる筋を可能な限り軽減するとともに、糸の構成を最適化することで帯電防止性能と高い耐光堅牢度の両立を実現した織編物および病院用白衣に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から導電糸や導電糸を使用した高耐久の帯電防止素材・衣類(例えば特許文献1)は一般的に普及している。しかしながら、地の生地と異なる構成の糸を挿入することで、導電糸や制電糸を挿入した部分は染着性や物理的な観点から筋状に外観に現れ、品位を損ねる状況にあった。特に、薄地~中厚地に使用した場合には筋が目立ち品位に課題があった。
【0003】
この様な課題を解決するために地の生地と挿入糸に別素材を使用し、別々の染料を用いて染色するなどの方法もあるが、一方の染料が多方の糸を汚染するなどでやはり、筋状に見えることを改善することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再表2017-69100公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、導電糸使い織編物の課題である、表面の筋状の外観を改善するために、地の生地と導電糸の染色を別の染着方法で行うことで染着差を抑え、経て筋の欠点が目立ちにくい織編物および病院用白衣を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明の織編物は次の構成を有する。すなわち、
カチオン可染ポリマーを主成分とした導電糸および制電糸の一以上ならびに原着糸を使用した織編物であって、摩擦帯電電荷量が7μC以下かつ耐光堅牢度が6級以上であり、前記導電糸および制電糸の一以上がカチオン可染ポリエステル糸と混紡または交撚されたものであり、前記織編物がカチオン染料を用いて染色されたものであることを特徴とする織編物、である。
【0007】
本発明の病院用白衣は次の構成を有する。すなわち、
上記織編物を使用したことを特徴とする病院用白衣、である。
【0008】
本発明の織編物は、前記カチオン可染ポリマーがカチオン可染ポリエステルを主成分とすることが好ましい。
【0009】
本発明の織編物は、導電糸および制電糸の一以上がカチオン可染ポリエステル糸と混紡または交撚されたものである。
【0010】
本発明の織編物は、前記織編物がカチオン染料を用いて染色されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、導電糸や制電糸を使用した織編物において、挿入した導電糸、制電糸の長手方向に発生する筋状の外観を改善するとともに、カチオン染料を使用した際に生じる課題であった耐光堅牢度に劣る問題を解決し、前述にて挙げた、摩擦帯電電荷量、耐光堅牢度、意匠性の3つの課題を同時に解決することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における原着糸とは合成繊維を紡糸する際に、顔料などの着色された粒子を練り込むことに得られる着色されたマルチフィラメント糸や紡績糸などの公知の手段で得られる一般的な原着糸である。カチオン可染ポリマーとしては、アクリル繊維やカチオン可染ポリエステルなどが挙げられるが、カチオン可染ポリエステルが好適である。導電糸や制電糸については、繊維の一部に白色金属粒子やカーボンブラックを含有させた導電糸や、制電性ポリマーを含有させた制電糸を使用することができるが、本発明においては、白色金属含有粒子を用いた導電糸がより好適である。なお、導電糸とは、1.0×10Ωcm以下の比抵抗値を有する糸を言い、一般に繊維内部にカーボンブラックや白色金属などを練り込むことにより得られる。制電糸とは、1.0×1010Ωcm以下の比抵抗を有する糸を言い、一般に繊維に特殊ポリマーを含有させることにより得られる。なお、通常のポリエステル繊維の比抵抗は1013Ωcm程度となっている。
【0013】
織編物の構成糸としては、カチオン可染ポリマーを主成分とした導電糸および制電糸の一以上ならびに原着糸であれば特に指定はなく、織物、編物問わず、使用することが可能である。これらを複合して使用することで、目標の摩擦帯電電荷量7μC以下と耐光堅牢度6級以上を達成することが可能である。
【0014】
本発明におけるカチオン可染ポリエステルは、通常ポリエステルに5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分を1.0~3.0モル%を共重合することにより得ることが可能である。
【0015】
本発明においては、導電糸および制電糸の一以上として、導電糸および制電糸の一以上がカチオン可染ポリエステル糸と混紡または交撚されたものを用いることが、染色時に互いの同色性を高め、品位を向上させる観点から必要である。混紡または交撚させるには、公知の手段を採用できる。
【0016】
本発明の織編物は、カチオン染料を用いて染色されたものであることが、表面の原着ポリエステルの汚染を抑え、品位を向上させる観点から必要である。織編物を染色する方法として、分散染料を使用した場合、表面に配した原着糸と裏面に配したカチオン可染ポリエステルが染まり、両者の間に染着差が出ることから、筋状の外観が改善されないことから不適である。この要因から、カチオン可染ポリエステル導電糸および制電糸の一以上のみを染色する方法が好適であり、また、導電糸および制電糸の一以上として、導電糸および制電糸の一以上がカチオン可染ポリエステル糸と混紡または交撚されたものを用いる場合には、当該混紡糸または交撚糸のみを染色する方法が好適である。換言すれば、原着糸については染色しないのが好ましい。具体的方法としては、一般的なカチオン染料で染色する方法でよく、染色されない原着糸の色に合わせる形で染色条件を調整することはより好ましい。
【0017】
本発明の織編物の具体的用途としては、高発色性を求められ、より高強度の洗濯条件下で使用される病院白衣が特に好ましく挙げられる。
【実施例
【0018】
次に本発明の織編物を実施例によって詳細に説明する。
(評価方法)
(1)耐光堅牢度
JIS L 0842紫外線カーボンアーク灯光法(第3露光法)、JIS L 0843(キセノンアーク灯法:ISO法)の両者で評価を行った。評価結果の表には悪い結果となった評価結果を級数として表記した。
(2)摩擦帯電電荷量
JIS L 1094 C法(摩擦帯電電荷量測定法)により評価を行った。
(3)外観
外観については、評価者3名による目視判定で筋状に見えるか否かを判定基準とした。2名以上が筋状に見えないと判定したものを○、筋状に見えるものを×とした。
【0019】
(実施例1)
経糸および緯糸共にポリエチレンテレフタレートからなる原着仮撚り糸(75デシテックス72フィラメント)を用い、導電糸としてカチオン可染ポリエステル製の白色導電糸とカチオン可染ポリエステル糸を合撚したものを1cm間隔で経糸に挿入した。組織は平織りとした。カチオン染料を使用し、液流染色機を用い、染色した。評価結果を表1に示した。耐光堅牢度8級、摩擦帯電電荷量6μCと併せ、優れた外観を有していた。
(実施例2)
織組織を2/1ツイルに変更した他は実施例1と同様の条件でツイル織物を得、染色した。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度7級、摩擦帯電電荷量6μCと併せ、優れた外観を有していた。
(実施例3)
織組織を2重構造の平織りに変更した他は実施例1と同様の条件で平二重織物を得、染色した。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度8級、摩擦帯電電荷量5μCと併せ、優れた外観を有していた。
(実施例4)
ポリエチレンテレフタレートからなる原着仮撚り糸(75デシテックス、72フィラメント)を用い、プレーティング(添え糸編)により、カチオン可染ポリエステル製白色導電糸とカチオン可染ポリエステル糸の合撚糸を挿入した、簡易的なダブルニットとした。カチオン染料を使用し、液流染色機を用い、染色した。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度6級、摩擦帯電電荷量4μCと併せ、優れた外観を有していた。
(比較例1)
原着ポリエチレンテレフタレート糸をポリエチレンテレフタレート無着色糸(75デシテックス、72フィラメント)に変更した他は実施例1と同様の条件で平織物を得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度5級、摩擦帯電電荷量4μCと劣る結果であり、外観も劣っていた。
(比較例2)
導電糸をカーボンブラック含有ポリエチレンテレフタレート導電糸とカチオン可染ポリエステル糸の合撚糸に変更した他は実施例1と同様の条件で平織物を得、カチオン染料を使用し、液流染色機を用い、染色した。評価結果を表1に併せて示した。耐光堅牢度6級、摩擦帯電電荷量5μCであったが、外観が劣っていた。
(比較例3)
ポリエチレンテレフタレート原着糸をカチオン可染ポリエチレンテレフタレート無着色糸(75デシテックス、72フィラメント)に変更した他は実施例1と同様の条件で平織物を得、カチオン染料を使用し、液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。摩擦帯電電荷量5μCであったが、耐光堅牢度2-3級と劣り、外観も劣っていた。
(比較例4)
ポリエチレンテレフタレート原着糸をポリエチレンテレフタレート無着色糸(75デシテックス、72フィラメント)に変更した他は実施例2と同様の条件でツイル織物を得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。摩擦帯電電荷量6μCであったが、耐光堅牢度4級と劣り、外観も劣っていた。
(比較例5)
導電糸をカーボンブラック含有ポリエチレンテレフタレート導電糸とカチオン可染ポリエステル糸の合撚糸に変更した他は比較例4と同様の条件でツイル織物を得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。摩擦帯電電荷量5μCであったが、耐光堅牢度4級と劣り、外観も劣っていた。
(比較例6)
導電糸を使用せずに製織した他は比較例5と同様の条件でツイル織物を得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。摩擦帯電電荷量13μC、耐光堅牢度4-5級と劣り、外観も劣っていた。
(比較例7)
ポリエチレンテレフタレート原着糸をポリエチレンテレフタレート無着色糸(75デシテックス、72フィラメント)に変更した他は実施例4と同様の条件でダブルニットを得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。外観に優れ、摩擦帯電電荷量も6μCと優れていたが、耐光堅牢度が4級と劣っていた。
(比較例8)
ポリエチレンテレフタレート原着糸をポリエチレンテレフタレート無着色糸(75デシテックス、72フィラメント)に変更した他は実施例3と同様の条件で平二重織物を得、分散染料を使用して液流染色機を用いて染色した。評価結果を表1に併せて示した。摩擦帯電電荷量は5μCと優れていたが、耐光堅牢度が5級と劣り、外観も劣っていた。
【0020】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、病院白衣のみならず、高い耐光性、制電性、品位を求められる一般ユニフォームや衣料用にも展開することが可能である。