(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドおよび画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20250109BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 303
B41J2/14 613
B41J2/16 503
(21)【出願番号】P 2021038274
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 拳也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-253565(JP,A)
【文献】特開2009-178951(JP,A)
【文献】特開2020-090054(JP,A)
【文献】特開2001-130011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に沿って配置された電気配線からの電圧の印加により変形する複数の壁部により、体積可変の圧力室を形成する第1基板と、
貫通孔を有し、前記隣接する前記壁部の間で前記貫通孔が前記圧力室に連通する位置で前記第1基板に接着される第2基板と、を有し、
前記圧力室の内側表面に保護膜が形成され、
前記第1基板と前記第2基板とを接着する接着剤が、前記第2基板の前記圧力室側の表面に沿って、前記壁部よりも前記貫通孔側にはみ出しており、
前記はみ出した接着剤により、前記圧力室の角部がフィレット形状とされた、
インクジェットヘッド。
【請求項2】
前記第2基板は、インクが吐出される方向において、前記圧力室よりも上流側に配置されている、
請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記貫通孔の前記圧力室側の縁は、前記壁部に対して圧力室側に配置される、請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記接着剤は、前記第2基板側から見て、前記壁部と前記第2基板との接合部の全幅にわたって前記貫通孔側にはみ出している、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記接着剤は、第2基板側から見て、前記壁部と前記第2基板との接合部の全幅にわたってフィレットを形成している、請求項4に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
前記接着剤は、前記第2基板側から見て、前記壁部と前記第2基板との接合部の中央部におけるはみ出し長さが、前記貫通孔の縁における前記壁部側の端部と、前記接合部の中央部との距離よりも短い、請求項4または5に記載のインクジェットヘッド。
【請求項7】
前記接着剤は、前記壁部と前記第2基板との接合部の端部におけるはみ出し長さが、前記接合部の中央部におけるはみ出し長さよりも長い、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項8】
前記はみ出した接着剤の端部は、前記貫通孔よりも前記壁部側に位置する、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項9】
前記貫通孔の前記圧力室側の縁における前記壁部側の端部と、前記壁部と前記第2基板との接合部の中央部との距離は、45μm以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項10】
前記貫通孔は、前記圧力室に向かって径が大きくなる形状を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項11】
前記隣接する前記壁部間の幅よりも小径の連通孔を有し、前記隣接する壁部の間で前記連通孔が前記圧力室に連通する位置で、前記圧力室に対して前記第2基板とは反対側に、前記第1基板と接着される第3基板を、さらに有し、
前記第1基板と前記第2基板とを接着する接着剤が、前記第3基板の前記圧力室側の表面に沿って、前記壁部よりも前記連通孔側にはみだしており、
前記はみだした接着剤により、前記圧力室の角部がフィレット形状とされた、
請求項1~10のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項12】
前記接着剤は、エポキシ系接着剤である、請求項1~11のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項13】
水系インクを吐出する、請求項1~12のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項14】
前記第2基板は、ガラスを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項15】
前記保護膜はパラキシリレンを含む、
請求項1~14のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項16】
前記第1基板の表面に電極が配置され、前記電極は、アルミニウムを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドを含む、画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出するためのインクジェットヘッドとして、インクジェットヘッドに備えられた圧力室の体積を、圧電部材(ピエゾ素子)に電圧を印加することによって変化させ、インクの導入および吐出を行う、ピエゾ型インクジェットヘッドがある。その中でも、シェアモード型インクジェットヘッドは、駆動効率がよく、画像を高画質で、かつ、高速で形成することができるインクジェットヘッドとして知られている。シェアモード型インクジェットヘッドは、圧電部材が、インクジェットヘッドの圧力室の壁を構成し、これらが伸長および屈曲することで、圧力室の体積を変化させて、インクを吐出する。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク室の壁を形成する圧電部材の内側面に電極を形成したアクチュエータ部と、各電極に電気的に接続された駆動回路を含み、インク室の壁間の幅よりも径が大きい貫通孔が形成された基板とが、接着されたインクジェットヘッドが開示されている。特許文献1によれば、アクチュエータ部と基板との間に充填された接着剤によって、インクがインク室や貫通孔の外部に漏れ出すことを抑制できたとされている。
【0004】
そして、近年、このようなシェアモード型インクジェットヘッドを備える画像形成装置において、画像を高画質で、かつ、高速に形成するために、多数のノズルを高密度に配列することが求められている。これを実現するために、圧力室にインクを導入するための流路の径を小さくすることや、圧電部材を駆動させるための電気配線を、圧力室の壁面(圧電部材)の一部に配置することが必要とされる。
【0005】
例えば、特許文献2では、液体を貯留するための圧力室と、空気室と、上記圧力室と上記空気室との間に設けられた圧電体とを有し、上記圧力室を構成する壁が伸長及び収縮することで上記吐出口から液体を吐出する液体吐出ヘッドを有する、液体吐出装置の製造方法が開示されている。特許文献2では、上記液体吐出装置は、上記圧力室の開口断面積よりも断面積が小さい貫通穴が形成された配線基板と、上記液体吐出ヘッドとを、接着性フィルムで接着して製造される、と記載されている。また、特許文献2によれば、上記製造方法により、液体吐出装置の圧力室内やインク流路内に接着剤が侵入することを防ぐことができたと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-86741号公報
【文献】特開2014-24325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、シェアモード型インクジェットヘッドとして、様々なものが知られている。
図1Aは、従来のシェアモード型インクジェットヘッドの要部の構成を模式的に示した側面断面図であり、
図1Bは、
図1Aにおけるα部の部分拡大図である。
図1A,Bでは、圧電部材を駆動させるための電気配線(不図示)が、圧力室C1の壁面(圧電部材)の一部に配置されている。また、
図1A、Bでは、配線基板C6と圧電部材C4とが接着剤C5で接着されている。特許文献2のような、シェアモード型インクジェットヘッドでは、圧電部材に配置された電気配線や電極に、インクが接触することを防ぐため、圧力室C1の内表面およびインク流路の内表面に保護膜C2が形成されている。このとき、圧力室C1の角部C3が屈曲しているため(
図1A)、角部C3において、保護膜C2の成膜前に細かい異物が残存しやすく、取り除きにくい。そのため、保護膜C2を形成しても、インクジェットヘッドを繰り返し使用すると、上記異物を起点にして保護膜C2に欠陥C7が生じてしまい(
図1B)、欠陥C7が生じた保護膜C2からインクが漏れ出してしまう。漏れ出したインクは、圧電部材C4に配置された電気配線や電極に接触し、漏電や電極の腐食を引き起こし、インクジェットヘッドの故障、またはインクジェットヘッドの耐久性の低下を引き起こしてしまう。
【0008】
そこで、本発明者らは、基板と圧電部材とを接着する際、接着剤をあふれさせて、異物が残存しやすい圧力室の角部を接着剤で覆い、角部の屈曲を緩やかにすることで、異物がたまりにくくなると考えた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シェアモード型インクジェットヘッドにおいて、インクが電気配線や電極に接触することを抑制し、耐久性を向上させることができるインクジェットヘッドおよび画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドは、壁面に沿って配置された電気配線からの電圧の印加により変形する複数の壁部により、体積可変の圧力室を形成する第1基板と、前記隣接する前記壁部間の幅よりも小径の貫通孔を有し、前記隣接する壁部の間で前記貫通孔が前記圧力室に連通する位置で前記第1基板に接着される第2基板と、を有し、前記第1基板と前記第2基板とを接着する接着剤が、前記第2基板の前記圧力室側の表面に沿って、前記壁部よりも前記貫通孔側にはみ出しており、前記はみ出した接着剤により、前記圧力室の角部がフィレット形状とされた、インクジェットヘッドである。
【0011】
また、上記課題を解決するための、本発明の一実施形態に係る画像形成装置は、上記インクジェットヘッドを含む、画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、シェアモード型インクジェットヘッドにおいて、インクが電気配線や電極に接触することを抑制し、耐久性を向上させることができるインクジェットヘッドを提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、従来のシェアモード型インクジェットヘッドの要部の構成を模式的に示した断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の全体構成を示した模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの概要を示す分解斜視図である。
【
図5】
図5Aは、圧力室の角部が屈曲している場合におけるインクジェットヘッドの側面断面図であり、
図5Bは、
図5Aにおけるδ部の拡大図である。
【
図6】
図6は、
図4Bにおけるγ部分を、第2基板側から見た平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態の変形例に係るインクジェットヘッドのヘッドチップの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0015】
(画像形成装置)
図2は、本発明の一実施形態に係る、画像形成装置100の構成を模式的に示した図である。
【0016】
画像形成装置100は、
図2に示すように、インクジェットヘッド1と、インク供給装置110と、搬送装置120と、メインタンク130とを有している。
【0017】
インクジェットヘッド1は、インク滴を被印刷物である用紙などの記録媒体Mに吐出するための複数のノズルを有する。たとえば、インクジェットヘッド1には、色の異なる複数種のインクがそれぞれ特定のノズルに供給されるように構成される。インクジェットヘッド1は、例えば、画像を形成すべき記録媒体Mの搬送方向Dを横切る方向に走査自在に配置されている。インクジェットヘッド1の構成についての詳細は後述する。
【0018】
本実施形態において、インクジェットヘッド1が吐出するインクの種類は、特に限定されず、例えば、水系インクである。
【0019】
搬送装置120は、インクジェットヘッド1に対して記録媒体Mを搬送するための装置である。搬送装置120は、例えば、ベルトコンベア121と、回転自在な送りローラー122とを備える。ベルトコンベア121は、回転自在な複数のプーリー121a、プーリー121aに張設されている無端状のベルト121bと、から構成される。送りローラー122は、記録媒体Mの搬送方向Dにおける上流側のプーリー121aに対向する位置に、ベルト121bと記録媒体Mを挟持してベルト121b上に記録媒体Mを送り出すように配置されている。
【0020】
インク供給装置110は、インクジェットヘッド1と一体的に配置されている。インク供給装置110は、インクの種類ごとに配置されている。たとえば、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)およびK(ブラック)の4色のインクを用いるときは、インク供給装置110は、インクジェットヘッド1に四つ配置される。
【0021】
各インク供給装置110は、メインタンク130に接続された管151および弁152を介して、メインタンク130内のインクを供給される。また、各インク供給装置110は、管154を介してインクジェットヘッド1の後述する共通インク室2と連通し、各色のインクを所望の共通インク室2のインク供給口2aへ供給可能に接続されている。
【0022】
インクジェットヘッド1は、上記の管151から分岐するバイパス管153によってメインタンク130にも接続されている。管151とバイパス管153との分岐点には、これら管151およびバイパス管153の一方または両方にインクの流路を切換、設定可能な弁152が配置されている。管151、管154、およびバイパス管153は、例えばいずれも可撓性を有するチューブである。弁152は、例えば三方弁である。
【0023】
メインタンク130は、インクジェットヘッド1に供給されるべきインクを収容するためのタンクである。メインタンク130は、インクジェットヘッド1とは分離して配置されている。メインタンク130は、例えば、不図示の撹拌装置を有している。メインタンク130は、画像形成装置100の画像形成性能や大きさなどに応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、画像形成装置の画像形成速度が1~3m2/分である場合、メインタンク130の容量は、例えば1Lである。
【0024】
(インクジェットヘッド)
図3は、上述した画像形成装置100に用いられるインクジェットヘッド1の概要を示す分解斜視図である。
図2に示すように、インクジェットヘッド1は、共通インク室2と、保持部3と、ヘッドチップ4と、を有する。
【0025】
共通インク室2は、中空の略直方体状に形成されており、保持部3と対向する一面が開口している。共通インク室2の上記開口と対向する一面には、インク供給装置110のインクを供給するためのインク供給口2aと、インクをインク供給装置110に排出するためのインク排出口2bが設けられている。インク排出口2bには後述する多孔体2cが設けられている。共通インク室2は、内部にフィルターを備え、上記フィルターによりインク供給口2aから供給されたインクから異物を取り除くと共に、インク内に含有する気泡を細かく破砕する。
【0026】
保持部3は、略中央に開口部3aを有する略平板状に形成されており、共通インク室2の上記開口を覆うように配置されている。これにより、保持部3の一方の面には、開口部3aを覆うようにして共通インク室2が接続される。また、保持部3の他方の面には、開口部3aを覆うようにしてヘッドチップ4が接続される。保持部3は、開口部3aを介して、共通インク室2とヘッドチップ4とを連通させる。
【0027】
保持部3の外周部には、挿通孔3bが設けられている。挿通孔3bには、フレキシブル配線基板5が挿通される。フレキシブル配線基板5は、その一方の端部が、後述するヘッドチップ4に接続される。また、フレキシブル配線基板5は、その他方の端部が、保持部3に設けた挿通孔3bを保持部3の他方の面から挿通して、共通インク室2側に引き出される。
【0028】
図4Aは、
図3のヘッドチップ4における、A-A線断面図である。
図4Bは、
図4Aにおけるβ部の部分拡大図である。
【0029】
図4A、Bに示されるように、インクジェットヘッド1における、ヘッドチップ4は、第1基板10と、第1基板10と接着される第2基板20と、第1基板10と接着される第3基板30と、第3基板30に接着される第4基板40と、を有する。また、本実施形態において、ヘッドチップ4は、インクジェットヘッドの吐出面側から、第4基板40、第3基板30、第1基板10、第2基板20の順に積層されている。
【0030】
第1基板10は、インクジェットヘッド1の圧力室12の壁部11を有し、壁部11の壁面に沿って配置された電気配線からの電圧の印加により、変形する。すなわち第1基板10は、電圧が印加されることによって、複数の壁部11が伸長または屈曲し、圧力室12の体積を変化させる圧電部材として機能する。これにより、インクを吐出口41へ吐出することができる。第1基板10に含まれる材料は、特に限定されず、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)である。
【0031】
第1基板10の壁部11には、壁面に沿って電気配線(不図示)が配置されている。また、第1基板10の表面の一部には、上記電気配線が接続する電極(不図示)が形成されている。電極(不図示)に含まれる材料は、特に限定されず、例えば、ニッケル、アルミニウムである。加工性およびコスト低減の観点から、電極に含まれる材料は、アルミニウムであることが好ましい。
【0032】
圧力室12は、インクを収容するための液室である。本実施形態では、圧力室12は、第1基板10の壁部11と、第2基板20(後述)と、第3基板30(後述)と、接着剤60(後述)と、に囲まれて形成されている。圧力室12は、角部12aを有する。詳細は後述するが、本実施形態では、圧力室12の角部12aは接着剤60によってフィレットを形成している。
【0033】
角部12aは、圧力室12の角である。本実施形態において、圧力室12は、接着剤60によってフィレット形状とされた角部12aを第2基板20側に有している。また、圧力室12は、壁部11と第3基板30の接合部である、角部12bを第3基板側に有している。
【0034】
インクジェットヘッド1において、圧力室12の内側表面には、保護膜50が形成されている。圧力室12の内側表面は、第1基板10、および第2基板20(後述)のうち、圧力室12を構成する部分の表面と、フィレットとされた角部12aの表面の総称である。保護膜50は、壁部11に配置された電気配線や電極に、インクを接触させにくくすることができるほか、インクジェットヘッド1の耐久性を向上させることができる。
図4Bに示されるように、本実施形態では、圧力室12の内側表面および貫通孔21の表面に、保護膜50が形成されている。壁部11および保護膜50に含まれる化合物は、特に限定されず、例えば、パラキシリレンである。なお、保護膜50は、貫通孔21の表面に形成されていてもよく、第1基板10と第3基板30との間に形成されていてもよい。本実施形態では、保護膜50は圧力室12の内側表面、第1基板10と第3基板30の間隙、および貫通孔21の表面に形成されている。
【0035】
第2基板20は、貫通孔21を有する基板であり、隣接する壁部11の間で、貫通孔21が圧力室12に連通する位置で第1基板10に接着される。本実施形態では、第2基板20は、インクが吐出される方向(
図4Bにおける矢印B)において、圧力室12よりも上流側に配置されている。第2基板20に含まれる材料は、特に限定されないが、絶縁性および加工性の観点からガラスであることが好ましい。第2基板20において、貫通孔21は、サンドブラストまたはエッチングなどによって、形成することができる。
【0036】
貫通孔21は、圧力室にインクを導入するためのインク流路として機能する。貫通孔21の配置は、圧力室12に連通する位置であれば、特に限定されない。
【0037】
貫通孔21の圧力室12側の縁21a(以下、単に貫通孔21の縁21aと称する。)は、壁部11に対して、圧力室12側に配置されていてもよく、空気室70(後述)側に配置されていてもよいが、圧力室12側に配置されることが好ましい。本発明者らによると、貫通孔21の圧力室12側の縁21a(以下、単に貫通孔21の縁21aと称する。)において、保護膜50に欠陥が生じ、インクが漏れ出してしまうことがある。そのため、貫通孔21の縁21aを、壁部11に対して圧力室12側に配置することで、上記欠陥からインクが漏れ出しても、インクが電極に到達しにくくすることができる。
【0038】
上記観点から、貫通孔21の縁21aにおける壁部11側の端部21b(以下、単に貫通孔21の端部21bと称する。)と、壁部11と第2基板20との接合部の中央部11bとの距離(
図6におけるLa)は45μm以上であることが好ましく、45μm以上200μm以下であることが好ましく、60μm以上200μm以下であることがより好ましく、65μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。上記距離が45μm以上であると、貫通孔21の縁21aと第1基板10との距離をより十分に確保して、インクが電極に接触することを抑制できる。また、上記距離が200μm以下であると、インクジェットヘッド1を高密度に配列させることができる。なお、
図6では、説明のため、壁部11と第2基板20との接合部の中央部11b、および、貫通孔の端部21bに黒丸を伏している。
【0039】
貫通孔21の形状は、特に限定されないが、圧力室12に向かって径が大きくなる形状であることが好ましく、圧力室12に向かって連続的に径が大きくなる形状であることがより好ましい。貫通孔21が、このような形状を有することで、貫通孔21から圧力室12へ、インクが流れる際に、流路径が急激に拡大することによる、圧力損失を少なくすることができる。本実施形態では、貫通孔21は、壁部11間の幅(
図4BにおけるX)よりも径が小さく、かつ、圧力室12に向かって連続的に径が大きくなる、テーパー形状を有する。
【0040】
上述のように、第2基板20は、隣接する壁部11の間で、貫通孔21が圧力室12に連通する位置で、第1基板10に接着剤60によって接着される。接着剤60は、第2基板20の圧力室12側の表面に沿って、壁部11よりも貫通孔21側にはみ出しており、はみ出した接着剤60により、圧力室12の角部12aがフィレット形状とされている。
【0041】
図5Aは、圧力室12の角部12aが屈曲している場合におけるインクジェットヘッド1の側面断面図であり、
図5Bは、
図5Aにおけるδ部の拡大図である。インクジェットヘッド1において、壁部11および貫通孔21の内壁の表面に、圧力室12の角部12aが屈曲していると(
図5A)、角部12aの屈曲部分に、保護膜50の成膜前に細かい異物が残存しやすく、取り除きにくい。上記異物が残存したまま、保護膜50を形成しても、インクジェットヘッド1を繰り返し使用すると、上記異物を起点にして保護膜50に欠陥51が生じてしまい(
図5B)、欠陥が生じた保護膜50からインクが漏れ出してしまう。漏れ出したインクは、壁部11に配置された電気配線や電極に接触し、漏電や電極の腐食を引き起こし、インクジェットヘッド1の故障、またはインクジェットヘッド1の耐久性の低下を引き起こしてしまう。
【0042】
そこで、本発明者らは、第1基板10と第2基板20とを接着させる接着剤60を、第1基板10と第2基板20との接合部からはみ出させて、角部12aを接着剤60で覆い、角部12aの屈曲を無くし、角部12aを湾曲させるようにすることで、上記異物を残存しにくくさせることができると考えた。そして、接着剤60によって、圧力室12の角部12aにフィレットを形成することで、角部12aの屈曲部分をなくすことができ、かつ、上記異物を残存させにくくすることができ、インクジェットヘッド1を繰り返し使用しても、保護膜50の欠陥が生じにくくなることを見出した。上記フィレットは、第1基板10と第2基板20との接合部からはみ出した接着剤60の凹状の曲面である。すなわち、接着剤60の凹状の曲面を、圧力室12の角部12aとすることで、圧力室12の角部12aにフィレットを形成することができる。これにより、保護膜50からインクが漏れ出しにくくすることができる。また、仮に保護膜50からインクが漏れ出したとしても、接着剤60が角部12aに沿うようにして配置されているため、接着剤60により、漏れ出したインクが電気配線や電極に向かうこと阻害することができる。その結果、漏電や電極の腐食を抑制できるため、インクジェットヘッド1の耐久性を向上させることができる。
【0043】
接着剤60の種類は、液状で流動性を有するものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、フッ素系接着剤、ゴム系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤である。また、接着剤60によって角部12aをフィレットとする方法は、特に限定されない。本実施形態では、第2基板20に接着剤60を塗布し、第1基板10との接着時に平行に押圧し、第1基板10と第2基板20との隙間の全域から均一に接着剤60をあふれ出させることで、フィレットを形成している。このようにすることで、あふれ出した接着剤60が、壁部11および第2基板の圧力室側の表面に沿って塗布され、余剰分が角部12aを覆い、凹状の曲面が形成される。
【0044】
図6は、
図4Bにおけるγ部分を、第2基板20側から見た平面図である。
図6では、説明のため、第1基板10を破線で示している。接着剤60の配置は、特に限定されないが、
図6に示されるように、第2基板側から見て、壁部11と第2基板20との接合部の全幅(
図6におけるY)にわたって貫通孔21側にはみ出していることが好ましい。また、上記全幅にわたってフィレットを形成していることが好ましい。これにより、角部12aと、壁部11と、第2基板20と、で囲まれた領域に接着剤60が充填されて存在するため、保護膜50からインクが漏れ出したとしても、電気配線や電極にインクが接触しにくくなる。この場合において、第2基板20に接着剤60を塗布し、第1基板10との接着時に平行に押圧し、第1基板10と第2基板20との隙間の全域から均一に接着剤60をあふれ出させることで、上記接合部の全幅(
図6のY)においてもフィレットを形成することができる。
【0045】
はみ出した接着剤60のはみ出し長さは、大きいほど好ましい。ここで、本明細書において、「はみ出し長さ」は、第1基板10からはみ出した接着剤60の、壁部11間の幅方向における長さのことを意味する。接着剤60のはみ出し長さを大きくすることで、角部12aのフィレットを、より緩やかな曲面にすることができるため、角部12aにおける異物の残存を抑制することができ、形成された保護膜50に欠陥が生じさせにくくすることができる。また、仮に保護膜50に欠陥が生じても、角部12aから第1基板10までの距離を確保することができ、これらの間に接着剤60が存在するため、インクが電気配線や電極に接触することを抑制できる。
【0046】
また、接着剤60の、壁部11と第2基板20との接合部の中央部11bにおけるはみ出し長さ(
図6におけるLb)が、貫通孔21の端部21bと、壁部11と第2基板20との接合部の中央部11bとの距離(
図6におけるLa)よりも短いことが好ましい。これにより、接着剤60が貫通孔21を塞ぐことを抑制できるため、インクの吐出安定性を確保しやすくなる。上記観点から、はみ出した接着剤60の端部60aは、貫通孔21よりも壁部11側に位置することがより好ましい。ここで、「接着剤60の端部60a」とは、はみ出した接着剤60において、最も貫通孔21側に位置する、接着剤60の端を意味する。
【0047】
表1に、インクジェットヘッド1の耐久性に対する、貫通孔21の端部21bと、壁部11と第2基板20との接合部の中央部11bとの距離(La)と、接合部の中央部11bにおけるはみ出し長さ(Lb)との比率の影響を示した。本実施形態では、表1に示した、「耐久性結果」は、インクジェットヘッド1に水系インクを充填し、保護膜50に欠陥が生じるまでインクを吐出した。保護膜50に欠陥が生じたときの、インクの吐出回数(パルス)について、以下の基準に沿って評価した。
×:100億パルス以下
△:100億パルス以上500億パルス以下
○:500億パルス以上1000億パルス以下
◎:1000億パルス以上
【0048】
【0049】
表1に示したように、インクジェットヘッドNo.1~5では、角部12aがフィレットとされることにより、耐久性評価が良好であった。さらに、インクジェットヘッドNo.2~4では、Laが45μm以上であるため、インクジェットヘッド1の耐久性がより向上した。これは、上述のように、貫通孔21の縁21aから第1基板10の電極までの距離を確保することで、貫通孔21の縁21aの欠陥から流出するインクが電極に接触することを抑制できたためであると考えられる。また、インクジェットヘッドNo.5では、Laが増加した結果、耐久性がさらに向上した。これは、角部12aのフィレットを、より緩やかな曲面にすることができ、形成された保護膜50に欠陥が生じさせにくくすることができたため、インクジェットヘッド1の耐久性がさらに向上したと考えられる。
【0050】
また、接着剤60は、壁部11と第2基板20との接合部の端部11aにおけるはみ出し長さ(
図6におけるLc)が、接合部の中央部11bにおけるはみ出し長さ(
図6におけるLb)よりも長いことが好ましい。これにより、La>Lbの関係を満たしつつ、より広範囲に接着剤60を塗布することができるため、インクが電極に接触することをより十分に抑制することができる。なお、
図6では、説明のため、接合部の端部11aに黒丸を付している。
【0051】
第3基板30は、連通孔31を有する基板であり、隣接する壁部11の間で連通孔31が圧力室12に連通する位置で、圧力室12に対して第2基板20とは反対側に、第1基板10と接着される。第3基板30に含まれる材料は特に限定されず、例えば、シリコーン、樹脂系材料などである。
【0052】
第3基板30と第1基板10とが接着される方法は、特に限定されず、液状接着剤で接着されてもよく、接着フィルムで接着されてもよい。
【0053】
連通孔31は、隣接する壁部11間の幅よりも小径であり、圧力室12と第4基板40の吐出口41とを連通する孔である。連通孔31の形状は、特に限定されない。
【0054】
第4基板40は、吐出口41を有する基板であり、吐出口41が連通孔31に連通する位置で第3基板30と接着される。第4基板40に含まれる材料は、特に限定されず、例えば、シリコーン、樹脂系材料である。
【0055】
第4基板40と第3基板30とが、接着される方法は、特に限定されず、液状接着剤で接着されてもよく、接着フィルムで接着されてもよい。
【0056】
吐出口41は、インクを圧力室12から連通孔31を通じてインクジェットヘッド1の外部へ吐出するノズルとして機能する。吐出口41の形状は、上記機能を有していれば、特に限定されない。本実施形態では、吐出口41の形状は、連通孔31から、インクが吐出される外部に向けて、徐々に径が小さくなる形状である。
【0057】
本実施形態において、インクジェットヘッド1のヘッドチップ4は、空気室70を有する。空気室70は、ヘッドチップ4において、圧力室12の両隣に形成される空隙である。このような構成とすることで、第1基板10が、圧力室12と空気室70との間に配置されるため、第1基板10が伸長または屈折しても、別の圧力室12の体積に影響を与えることなく、インクを吐出することが可能になる。
【0058】
かかる構成を備えたインクジェットヘッド1では、共通インク室2に収容されたインクは、貫通孔21を通過して、圧力室12に流れ込む。そして、壁部に配置された電極に電圧が印加されることで、壁部11が伸長または屈曲し、圧力室12の体積を変化させる。これにより、圧力室12内にインクを吐出するための圧力が発生する。かかる圧力の発生により、圧力室12内のインクは、連通孔31および吐出口41に押し出され、記録媒体Mに向けて吐出される。
【0059】
[変形例]
図7に示されるように、本実施形態では、圧力室12は、フィレットとされた角部12aを、貫通孔21側に2カ所有しているが、これに限定されない。第1基板10と第3基板30とを、接着剤60で接着し、接着剤60が第3基板30の圧力室12側の表面に沿って、壁部11よりも連通孔31側にはみ出させて、はみ出した接着剤60によって、角部12bをフィレット形状としてもよい。これにより、角部12bの屈曲を緩やかにすることができ、圧力室12全体における、屈曲部分を減らすことができる。したがって、保護膜50の成膜前における、異物の残存をさらに抑制し、保護膜50の欠陥によるインクの漏れ出しをさらに抑制することができる。また、仮に保護膜50からインクが漏れ出したとしても、接着剤60が角部12bに沿うようにして配置されているため、漏れ出したインクが、電気配線や電極に接触することを抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るインクジェットヘッドおよび画像形成装置によれば、インクジェットヘッドの圧力室からのインク漏れ出しを抑制することができる。よって、インクジェットヘッドおよび画像形成装置の耐久性を高めることができるため、例えば、画像形成の分野などにおいて有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 インクジェットヘッド
2 共通インク室
3 保持部
4 ヘッドチップ
5 フレキシブル配線基板
10 第1基板
11 壁部
12 圧力室
20 第2基板
21 貫通孔
30 第3基板
31 連通孔
40 第4基板
41 吐出口
50 保護膜
60 接着剤
70 空気室