(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】物体検出装置及び移動体制御装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/526 20060101AFI20250109BHJP
G01S 15/931 20200101ALI20250109BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01S7/526 Z
G01S15/931
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021041700
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇田 幸典
(72)【発明者】
【氏名】菅江 一平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 真吾
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166767(JP,A)
【文献】国際公開第2019/211169(WO,A1)
【文献】特開平08-201513(JP,A)
【文献】実開平03-099384(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52 - 7/64
15/00 - 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受により、路面を移動する移動体の周辺に存在する物体を検出する物体検出装置であって、
物体からの反射波の強度を示す反射強度情報を取得する第1取得部と、
閾値を超える強度の前記反射波を受信した場合に所定の検出対象物の存在を示す物体情報を生成する第1生成部と、
前記路面からの前記反射波の強度である路面反射強度に基づいて風速を推定する推定部と、
前記風速に応じて前記閾値を変化させる設定部と、
前記路面反射強度の変化に基づいて前記路面の状態の変化を検出する検出部と、
を備え
、
前記推定部は、前記検出部により変化が検出された前記路面に対応する前記路面反射強度を棄却する、
物体検出装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記風速の上昇に応じて前記閾値を上昇させる、
請求項1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記推定部は、複数回の超音波の送受により取得される複数の前記路面反射強度のばらつき度合いが大きいほど風速が大きいと推定する、
請求項1又は2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記移動体の移動速度に関する速度情報を取得する第2取得部、
を更に備え、
前記推定部は、更に前記移動速度に基づいて前記風速を推定する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記風速が上限値を超える場合に、超音波の送受による前記検出対象物の検出が不可能であることを示す不能情報を生成する第2生成部、
を更に備える請求項1~4のいずれか1項に記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記検出部は、連続して行われた複数回の超音波の送受により取得された複数の前記路面反射強度からなる路面反射強度群のうち初期に取得された複数の路面反射強度の平均値と、前記路面反射強度群のうち終期に取得された複数の前記路面反射強度の平均値との差が閾値以上である場合に、前記路面の状態が変化すると判定する、
請求項
1に記載の物体検出装置。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の物体検出装置と、
前記物体検出装置から出力された前記物体情報に基づいて前記移動体を制御するための処理を行う制御装置と、
を備える移動体制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置及び移動体制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制御システム等において、超音波の送受により車両の周辺に存在する物体を検出する装置が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波を利用した物体検出においては、検出領域に吹いている風の影響により検出精度が低下する場合がある。
【0005】
本開示が解決しようとする課題の一つは、超音波を利用して物体を検出する装置において風の影響を低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての物体検出装置は、超音波の送受により、路面を移動する移動体の周辺に存在する物体を検出する物体検出装置であって、物体からの反射波の強度を示す反射強度情報を取得する第1取得部と、閾値を超える強度の反射波を受信した場合に所定の検出対象物の存在を示す物体情報を生成する第1生成部と、路面からの反射波の強度である路面反射強度に基づいて風速を推定する推定部と、風速に応じて閾値を変化させる設定部と、路面反射強度の変化に基づいて路面の状態の変化を検出する検出部と、を備える。そして、推定部は、検出部により変化が検出された路面に対応する路面反射強度を棄却する。
【0007】
上記構成によれば、路面反射波強度に基づいて推定された風速に応じて、風速による影響が低減されるように、検出対象物を検出するための閾値を調整できる。これにより、風の影響を低減できる。また、路面の状態の変化に起因する路面反射強度のばらつきと、風の影響による路面反射強度のばらつきとが混同される可能性を低減でき、風速の推定精度を向上させることができる。
【0008】
また、設定部は、風速の上昇に応じて閾値を上昇させてもよい。
【0009】
これにより、風速が大きい状況下で誤検出が発生する可能性を低減できる。
【0010】
また、推定部は、複数回の超音波の送受により取得される複数の路面反射強度のばらつき度合いが大きいほど風速が大きいと推定してもよい。
【0011】
これにより、風速を高い精度で推定できる。
【0012】
また、物体検出装置は、移動体の移動速度に関する速度情報を取得する第2取得部、を更に備え、推定部は、更に移動速度に基づいて風速を推定してもよい。
【0013】
これにより、風速を更に高い精度で推定できる。
【0014】
また、物体検出装置は、風速が上限値を超える場合に、超音波の送受による検出対象物の検出が不可能であることを示す不能情報を生成する第2生成部、を更に備えてもよい。
【0015】
これにより、信頼性の低い検出結果が移動体の制御等に利用される可能性を低減できる。
【0018】
また、検出部は、連続して行われた複数回の超音波の送受により取得された複数の路面反射強度からなる路面反射強度群のうち初期に取得された複数の路面反射強度の平均値と、路面反射強度群のうち終期に取得された複数の路面反射強度の平均値との差が閾値以上である場合に、路面の状態が変化すると判定してもよい。
【0019】
これにより、路面の状態の変化を高い精度で検出できる。
【0020】
また、本開示の一例としての移動体制御装置は、上記物体検出装置と、物体検出装置から出力された物体情報に基づいて移動体を制御するための処理を行う制御装置と、を備える。
【0021】
上記構成によれば、物体検出装置により生成された物体情報に基づいて移動体を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両の構成の一例を示す上面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る車両制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る物体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態において検出対象物を検出する際のエコー情報の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る風速テーブルの特徴の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態において風速に対して車速に応じた重み付けを行うゲインの特徴の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る閾値テーブルの特徴の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る閾値マージンの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る物体検出装置における処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。以下に記載する実施形態の構成、並びに当該構成によってもたらされる作用及び効果は一例であって、本発明は以下の記載内容に限定されるものではない。
【0024】
図1は、実施形態に係る車両1の構成の一例を示す上面図である。車両1は、本実施形態に係る物体検出装置が搭載される移動体の一例である。本実施形態に係る物体検出装置は、車両1から超音波を送信し物体からの反射波を受信することにより取得されるTOF、ドップラーシフト情報等に基づき、車両1の周辺に存在する物体を検出する装置である。
【0025】
本実施形態に係る物体検出装置は、複数の送受信部21A~21H(以下、複数の送受信部21A~21Hを区別する必要がない場合には送受信部21と略記する。)を有する。各送受信部21は、車両1の外装としての車体2に設置され、車体2の外側へ向けて超音波(送信波)を送信し、車体2の外側に存在する物体からの反射波を受信する。
図1に示す例では、車体2の前端部に4つの送受信部21A~21Dが配置され、後端部に4つの送受信部21E~21Hが配置されている。なお、送受信部21の数及び設置位置は上記例に限定されるものではない。
【0026】
図2は、実施形態に係る車両制御装置10の構成の一例を示すブロック図である。車両制御装置10(移動体制御装置の一例)は、物体検出装置11及びECU12を含む。車両制御装置10は、物体検出装置11から出力される情報に基づいて車両1を制御するための処理を行う。
【0027】
物体検出装置11は、複数の送受信部21及び制御部22を含む。各送受信部21は、圧電素子等を利用して構成される振動子31、増幅器等を含み、振動子31の振動により超音波の送受信を実現するものである。具体的には、各送受信部21は、振動子31の振動に応じて発生する超音波を送信波として送信し、当該送信波が物体により反射された反射波によりもたらされる振動子31の振動を検出する。当該物体には、車両1が接触を避けるべき検出対象物Oと、車両1が走行する路面Gとが含まれる。振動子31の振動は、電気信号に変換され、当該電気信号に基づいて、物体からの反射波の強度(振幅)の経時的変化を示すエコー情報を取得できる。当該エコー情報に基づいて、送受信部21(車体2)から物体までの距離に対応するTOF等を取得できる。
【0028】
エコー情報は、1つの送受信部21により取得されるデータに基づいて生成されてもよいし、複数の送受信部21のそれぞれにより取得される複数のデータに基づいて生成されてもよい。例えば、車体2の前方の存在する物体についてのエコー情報は、車体2の前方に配置された4つの送受信部21A~21D(
図1参照)のうちの2つ以上により取得された2以上のデータ(例えば平均値等)に基づいて生成されてもよい。同様に、車体2の後方の存在する物体についてのエコー情報は、車体2の後方に配置された4つの送受信部21E~21H(
図1参照)のうちの2つ以上により取得された2以上のデータに基づいて生成されてもよい。
【0029】
なお、
図2に示す例では、送信波の送信と反射波の受信との両方が単一の振動子31を利用して行われる構成が例示されているが、送受信部21の構成はこれに限定されるものではない。例えば、送信波の送信用の振動子と反射波の受信用の振動子とが個別に設けられた構成のように、送信側と受信側とが分離された構成であってもよい。
【0030】
制御部22は、入出力装置41、記憶装置42、及びプロセッサ43を含む。入出力装置41は、制御部22と外部(送受信部21、ECU12等)との間で情報の送受信を実現するためのインターフェースデバイスである。記憶装置42は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置を含む。プロセッサ43は、制御部22の機能を実現するための各種処理を実行する集積回路であり、例えばプログラムに従い動作するCPU(Central Processing Unit)、特定用途向けに設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を含む。プロセッサ43は、記憶装置42に記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の演算処理及び制御処理を実行する。
【0031】
ECU12は、物体検出装置11等から取得される各種情報に基づき、車両1を制御するための各種処理を実行するユニットである。ECU12は、入出力装置51、記憶装置52、及びプロセッサ53を有する。入出力装置51は、ECU12と外部機構(物体検出装置11、駆動機構、制動機構、操舵機構、変速機構、車内ディスプレイ、スピーカ等)との間で情報の送受信を実現するためのインターフェースデバイスである。記憶装置52は、ROM、RAM等の主記憶装置、HDD、SSD等の補助記憶装置を含む。プロセッサ53は、ECU12の機能を実現するための各種処理を実行する集積回路であり、例えばCPU、ASIC等を含む。プロセッサ53は、記憶装置52に記憶されたプログラムを読み出して各種の演算処理及び制御処理を実行する。
【0032】
図3は、実施形態に係る物体検出装置11の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る物体検出装置11は、信号処理部101、反射強度情報取得部102(第1取得部)、物体情報生成部103(第1生成部)、路面変化検出部104(検出部)、車速情報取得部105(第2取得部)、風速推定部106(推定部)、閾値設定部107(設定部)、及び不能情報生成部(第2生成部)を含む。これらの機能的構成要素101~108は、
図2に例示するような物体検出装置11のハードウェア構成要素、及びファームウェア、プログラム等のソフトウェア構成要素の協働により実現される。
【0033】
信号処理部101は、送受信部21により取得されたデータを処理し、各種情報を生成する。信号処理部101は、例えば、振動子31の振動に対応する電気信号に対する増幅処理、フィルタ処理、包絡線処理等を行い、送受信部21により送信され物体により反射された反射波の強度(振幅)の経時的変化を示すエコー情報を生成する。当該エコー情報に基づいて、車両1の周辺に存在する物体に対応するTOFを検出し、車体2から物体までの距離等を算出できる。
【0034】
反射強度情報取得部102は、信号処理部101により生成されたエコー情報等に基づいて、物体からの反射波の強度を示す反射強度情報を取得する。反射強度情報には、所定の検出対象物Oからの反射波の強度と、路面Gからの反射波の強度である路面反射強度とが含まれる。所定の検出対象物Oとは、車両1が接触を避けるべき物体であり、例えば他車両、構造物、歩行者等であり得る。路面反射強度は、送受信部21から路面Gまでの距離に対応するTOFを有する反射波の強度である。送受信部21から路面Gまでの距離は、既知の値であってもよい。
【0035】
物体情報生成部103は、所定の検出閾値を超える強度の反射波を受信した場合に、検出対象物Oの存在を示す物体情報を生成する。検出閾値は、送受信部21により受信された全反射波から検出対象物Oからの反射波を特定(抽出)するために設定される閾値である。換言すれば、検出閾値は、送受信部21により受信された全反射波から検出対象物O以外の物体(路面G等)からの反射波を除外するために設定される。通常、検出閾値が高くなるほど、検出対象物Oを検出する感度が低下する(検出可能な距離が短くなる)。
【0036】
路面変化検出部104は、反射強度情報に含まれる路面反射強度の変化に基づいて、路面Gの状態の変化を検出する。路面Gの状態の変化とは、例えば、材質、水分量、温度等の変化であり得る。このような変化は、路面Gの摩擦抵抗の変化の要因となる。路面反射強度は、このような路面Gの状態の変化に応じて変化する。例えば、摩擦抵抗が低下するように変化する場合(例えば路面Gの材質がアスファルトからコンクリートに変化する場合等)、路面反射強度は低下する。このような路面反射強度の変化を監視することにより、路面Gの状態の変化を検出できる。
【0037】
路面反射検出部104は、例えば、連続して行われた複数回の超音波の送受により取得された複数の路面反射強度からなる路面反射強度群のうち初期に取得された複数の路面反射強度の平均値と、路面反射強度群のうち終期に取得された複数の路面反射強度の平均値との差が閾値以上である場合に、路面の状態が変化すると判定してもよい。初期に取得された複数の路面反射強度とは、例えば、100個の路面反射強度からなる路面反射強度群のうち、初期に取得された20個の路面反射強度等であり得る。同様に、終期に取得された複数の路面反射強度とは、例えば、100個の路面反射強度からなる路面反射強度群のうち、終期に取得された20個の路面反射強度等であり得る。なお、「100」及び「20」という数字は単なる例示であり、これに限定されるものではない。
【0038】
車速情報取得部105は、車両1の移動速度(車速)を示す速度情報を取得する。速度情報は、例えば、車両1の走行制御を行うECU12等から取得され得る。
【0039】
風速推定部106は、反射強度情報に含まれる路面反射強度に基づいて風速を推定する。風速推定部106は、複数回の超音波の送受により取得される複数の路面反射強度のばらつき度合いが大きいほど風速が大きいと推定してもよい。送受信部21が送受信する超音波は、検出領域(車両1の周辺)を吹いている風(超音波の媒質である空気の歪み)の影響を受けるものであり、その影響は、風速が大きくなるほど大きくなる。従って、路面反射強度のばらつき度合いが大きいほど風速が大きいと判断できる。風速推定部106は、路面反射強度のばらつき度合いと風速とを対応付ける風速テーブル121を利用して風速を推定してもよい。風速テーブル121は、例えば、予め適宜な記憶装置(記憶装置42,52等)に記憶されていてもよい。
【0040】
また、風速推定部106は、路面反射強度に加え、車速に基づいて風速を推定してもよい。この場合、車速が大きいほど風速が大きくなるような処理(例えばゲイン処理等)を行ってもよい。
【0041】
また、風速推定部106は、路面Gの状態の変化が検出された場合に、当該路面Gに対応する路面反射強度を棄却してもよい。これにより、路面Gの状態の変化に起因する路面反射強度のばらつきと、風の影響による路面反射強度のばらつきとが混同される可能性を低減でき、風速の推定精度を向上させることができる。
【0042】
閾値設定部107は、風速推定部106により推定された風速に応じて検出閾値を変化させる。閾値設定部107は、風速の上昇に応じて検出閾値を上昇させる。これにより、風の影響が比較的大きい場合には、検出対象物Oの検出感度を低下させ、誤検出を抑制することができる。また、閾値設定部107は、風速の低下に応じて検出閾値を低下させてもよい。これにより、風の影響が比較的小さい場合には、検出感度を上昇させることができる。閾値推定部107は、風速と検出閾値とを対応付ける閾値テーブル122を利用して検出閾値を設定してもよい。閾値テーブル122は、例えば、予め適宜な記憶装置(記憶装置42,52等)に記憶されていてもよい。
【0043】
不能情報生成部108は、風速推定部106により推定された風速が所定の上限値を超える場合に、超音波の送受による検出対象物Oの検出が不可能であることを示す不能情報を生成する。これにより、風の影響が大きく十分な検出精度が得られない場合には、物体検出装置11の検出結果の利用を停止させること等が可能となり、信頼性の低い検出結果が車両制御等に利用される可能性を低減できる。
【0044】
図4は、実施形態において検出対象物Oを検出する際のエコー情報の一例を示す図である。
図4には、送受信部21が送受信する超音波の強度の経時的変化を示すエコー情報としての包絡線L11が例示されている。
図4に示すグラフにおいて、横軸は時間(TOF)に対応し、縦軸は送受信部21により送受信される超音波の強度に対応する。
【0045】
包絡線L11は、振動子31の振動の大きさを示す強度の経時的変化を示している。この包絡線L11からは、振動子31がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間、慣性による振動子31の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。従って、
図4に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0046】
包絡線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子31の振動の大きさが検出閾値Th1以上となるピークを迎える。この検出閾値Th1は、振動子31の振動が検出対象物O(他車両、構造物、歩行者等)からの反射波の受信によってもたらされたものか、又は、検出対象物O以外の物体(例えば路面G等)からの反射波の受信によってもたらされたものかを識別するために設定される値である。ここでは検出閾値Th1が一定値として示されているが、本実施形態に係る検出閾値Th1は、状況(風速等)に応じて変化する変動値である。検出閾値Th1以上のピークを有する振動は、検出対象物Oからの反射波の受信によってもたらされたものとみなすことができる。
【0047】
本例の包絡線L11では、タイミングt4以降で振動子31の振動が減衰していることが示されている。従って、タイミングt4は、検出対象物Oからの反射波の受信が完了したタイミング、換言すればタイミングt1で最後に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミングに対応する。
【0048】
また、包絡線L11において、タイミングt4におけるピークの開始点としてのタイミングt3は、検出対象物Oからの反射波の受信が開始したタイミング、換言すればタイミングt0で最初に送信された送信波が反射波として戻ってくるタイミングに対応する。従って、タイミングt3とタイミングt4との間の時間ΔTは、送信波の送信時間としての時間Taと等しくなる。
【0049】
以上のことから、TOFを利用して超音波の送受信元から検出対象物Oまでの距離を求めるためには、送信波が送信され始めたタイミングt0と反射波が受信され始めたタイミングt3との間の時間Tfを求めることが必要となる。この時間Tfは、タイミングt0と反射波の強度が検出閾値Th1を超えてピークを迎えるタイミングt4との差分としての時間Tpから、送信波の送信時間としての時間Taに等しい時間ΔTを差し引くことで求めることができる。
【0050】
送信波が送信され始めたタイミングt0は、物体検出装置11が動作を開始したタイミングとして容易に特定することができ、送信波の送信時間としての時間Taは、設定等によって予め定められている。従って、反射波の強度が検出閾値Th1以上となるピークを迎えるタイミングt4を特定することにより、送受信元から検出対象物Oまでの距離を求めることができる。物体情報生成部103は、例えば上記のような方法により検出対象物Oに関する物体情報を生成する。
【0051】
以下に、風速推定部106による風速の推定方法の一例を説明する。本実施形態に係る風速推定部106は、路面反射強度のばらつき度合いと車速との対応関係を示す風速テーブル121を利用して風速を推定する。
【0052】
図5は、実施形態に係る風速テーブル121の特徴の一例を示す図である。
図5には、超音波の複数回の送受信により取得された複数の路面反射強度のばらつき度合いと風速との対応関係を示すグラフが例示されている。ばらつき度合いとは、例えば、標準偏差等であり得る。
図5に示すように、本実施形態に係る風速テーブル121は、路面反射強度のばらつき度合いが大きくなるほど風速が大きくなるように推定させるものである。
【0053】
また、本実施形態に係る風速推定部106は、上述したように、車速を考慮して風速を推定する。基本的には、車速が大きくなるほど風速が大きくなるように推定される。車速を風速に反映させる方法は特に限定されるべきものではないが、例えば、上記のように推定された風速に対して車速に応じた重み付けを行うゲインを設定する方法がある。
【0054】
図6は、実施形態において風速に対して車速に応じた重み付けを行うゲインの特徴の一例を示す図である。
図6に示すように、ゲインは、車速の上昇に応じて上昇するように設定される。このようなゲインを利用することにより、風速は、同一のばらつき度合いであっても車速が大きくなるほど大きく推定される。このようなゲインは、予め風速テーブル121に含まれてもよいし、風速を推定するタイミング毎に算出されてもよい。
【0055】
本実施形態に係る閾値設定部107は、上記のように推定された風速と検出閾値Th1とを対応付ける閾値テーブル122を用いて検出閾値Th1を設定する。
【0056】
図7は、実施形態に係る閾値テーブル122の特徴の一例を示す図である。ここで例示する閾値テーブル122は、風速と閾値マージンとの関係を示すものである。
【0057】
図8は、実施形態に係る閾値マージンMの一例を示す図である。
図8には、基準検出閾値Thsと、風速に応じて設定された検出閾値Th1とが例示されている。基準検出閾値Thsとは、予め設定された検出閾値であり、例えば、風速が0である場合における検出閾値であり得る。なお、ここで例示する基準検出閾値Thsは、送受信部21から物体までの距離(TOF)に応じて変化しているが、基準検出閾値Thsの形態はこれに限定されるものではない。閾値マージンMは、基準検出閾値Thsと最終的な検出閾値Th1との差、換言すれば、最終的な検出閾値Th1の基準検出閾値Thsからの変化量(増加量)を示す値である。本実施形態に係る閾値テーブル122は、
図7に示すように、風速が大きくなるほど閾値マージンMを大きく設定させるものである。
【0058】
図9は、実施形態に係る物体検出装置11における処理の一例を示すフローチャートである。送受信部21により超音波の送受がN回実行されると(S101)、反射強度情報取得部102は、N回分の路面反射強度を取得し、取得された路面反射強度が記憶装置に蓄積される(S102)。Nは、複数の路面反射強度のばらつき度合い(例えば標準偏差)を十分な精度で算出可能な値であることが好ましく、例えば100程度の値であり得る。
【0059】
その後、路面変化検出部104は、N回分の路面反射強度のうち初期に取得されたS回分の路面反射強度の平均値と、N回分の路面反射強度のうち終期に取得されたS回分の路面反射強度の平均値との差が閾値以下か否かを判定する(S103)。ここではN>Sの関係がなりたち、具体的には、例えばN=100、S=20等であり得る。初期の強度平均値と終期の強度平均値との差が閾値以下でない場合(S103:No)、路面変化検出部104は、路面Gの状態が変化したと判定し、風速推定部106は、蓄積されたN回分の路面反射強度を棄却し(S104)、ステップS101が再度実行される。一方、初期の強度平均値と終期の強度平均値との差が閾値以下である場合(S103:Yes)、車速情報取得部105は、車速(車両1の移動速度)を取得し、記憶装置に蓄積する(S105)。
【0060】
風速推定部106は、蓄積されているN回分の路面反射強度のばらつき度合いを算出し(S106)、算出されたばらつき度合いと蓄積されている車速とに基づいて、上記風速テーブル121等を利用して風速を推定する(S107)。不能情報生成部108は、風速推定部106により推定された風速が上限値以下か否かを判定する(S108)。風速が上限値以下である場合(S108:Yes)、閾値設定部107は、推定された風速に基づいて閾値(閾値マージン)を設定し(S109)、記憶装置に蓄積されたデータが棄却された後(S111)、本ルーチンが終了する。一方、風速が上限値以下でない場合(S108:No)、不能情報生成部108は、超音波の送受による検出対象物Oの検出が不可能であることを示す不能情報を生成し、ECU12等に出力する(S110)。その後、記憶装置に蓄積されたデータが棄却された後(S111)、本ルーチンが終了する。
【0061】
上記実施形態によれば、超音波を利用して物体を検出する装置において風の影響を低減させることが可能となる。
【0062】
上記実施形態における各種機能を実現するための処理をコンピュータ(例えば制御部22のプロセッサ43、ECU12のプロセッサ53等)に実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供することが可能なものである。また、当該プログラムは、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布されてもよい。
【0063】
以上、本開示の実施形態について説明したが、上述した実施形態及びその変形例はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態及び変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、及び変更を行うことができる。上述した実施形態及び変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…車両、2…車体、10…車両制御装置(移動体制御装置)、11…物体検出装置、12…ECU(制御装置)、21,21A~21H…送受信部、22…制御部、31…振動子、41…入出力装置、42…記憶装置、43…プロセッサ、51…入出力装置、52…記憶装置、53…プロセッサ、101…信号処理部、102…反射強度情報取得部(第1取得部)、103…物体情報生成部(第1生成部)、104…路面変化検出部(検出部)、105…車速情報取得部(第2取得部)、106…風速推定部(推定部)、107…閾値設定部(設定部)、108…不能情報生成部(第2生成部)、121…風速テーブル、122…閾値テーブル、G…路面、O…検出対象物、Th1…検出閾値、Ths…基準検出閾値