(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-08
(45)【発行日】2025-01-17
(54)【発明の名称】鞍乗型車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B62J 27/00 20200101AFI20250109BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20250109BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20250109BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250109BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20250109BHJP
B62J 45/00 20200101ALI20250109BHJP
【FI】
B62J27/00
B60W10/00 120
B60W10/06
B60W10/184
B62J45/00
(21)【出願番号】P 2021076225
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】持山 博俊
(72)【発明者】
【氏名】岡村 拓哉
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-38332(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113318(WO,A1)
【文献】特表2019-521031(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0327109(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102008011575(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 27/00
B62J 45/00
B60W 10/00
B60W 10/02
B60W 10/04 - 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/101- 10/18
B60W 10/184- 10/26
B60W 10/28
B60W 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、
前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、
前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、
前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、
前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、
前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え、
前記角速度判断部は、前記被検角速度が、前記第1の角速度基準値よりも大きい所定の第2の角速度基準値以下であるか否かを判断し、
前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度が前記第2の角速度基準値以下でない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記角速度判断部は、第1の所定時間内に前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超えた回数が所定の基準回数を超えたか否かを判断し、
前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記第1の所定時間内に前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超えた回数が前記基準回数を超えていない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする請求項
1に記載の走行制御装置。
【請求項3】
鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、
前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、
前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、
前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、
前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、
前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え
、
前記角速度判断部は、前記角速度検出装置から出力された第2の所定時間内における前記被検角速度の信号波形からオフセットが除去され、当該オフセットが除去された第2の所定時間内における被検角速度の信号波形の正の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積と、当該オフセットが除去された第2の所定時間内における被検角速度の信号波形の負の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積の絶対値とが互いに加算されたものである被検角速度信号波形積算面積を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積が所定の面積基準値を超えたか否かを判断し、
前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度信号波形積算面積が前記面積基準値を超えていない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【請求項4】
鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、
前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、
前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、
前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、
前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、
前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え
、
前記角速度判断部は、前記角速度検出装置から出力された第3の所定時間内における前記被検角速度の信号波形からオフセットが除去され、当該オフセットが除去された第3の所定時間内における被検角速度の信号波形の正の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積と、当該オフセットが除去された第3の所定時間内における被検角速度の信号波形の負の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積の絶対値とが互いに加算されたものである被検角速度信号波形積算面積を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積を前記第3の所定時間で割ることにより被検角速度信号波形積算面積平均値を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積平均値が所定の面積平均基準値を超えたか否かを判断し、
前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度信号波形積算面積平均値が前記面積平均基準値を超えていない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする走行制御装置。
【請求項5】
前記走行制御部は、前記速度抑制制御において、前記車両におけるスロットルバルブの開度を小さくすることにより前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させることを特徴とする請求項1ないし
4のいずれかに記載の走行制御装置。
【請求項6】
前記走行制御部は、前記速度抑制制御において、前記車両におけるエンジンへの燃料の供給を減少またはカットすることにより前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させることを特徴とする請求項1ないし
5のいずれかに記載の走行制御装置。
【請求項7】
前記走行制御部は、前記速度抑制制御において、前記車両におけるブレーキ制御装置を制御して後輪ブレーキ液圧を発生させることにより前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させることを特徴とする請求項1ないし
6のいずれかに記載の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗型車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、車体やステアリングがおよそ1Hz~10Hzの周波数で振動することがある。この現象は、一般に、ウィーブ現象またはウォブル現象と呼ばれている。詳しく述べると、ウィーブ現象は、鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、ヨーとロールが連成した方向の振動が鞍乗型車両に発生する現象である。また、ウォブル現象は、鞍乗型車両が中高速で直進しているときに、鞍乗型車両のステアリングの操舵軸が振動する現象である。また、ウィーブ現象における振動の周波数はおよそ1Hz~4Hzであり、ウォブル現象における振動の周波数はおよそ5Hz~10Hzである。ウィーブ現象およびウォブル現象はいずれも鞍乗型車両の直進安定性を低下させる要因となる。
【0003】
下記の特許文献1には、車速および振れ状態が一定以上に達した場合に、車両の操縦性を向上させるためにキャスタ角を大きくする二輪車用キャスタ角可変装置が記載されている。この二輪車用キャスタ角可変装置は、キャスタ角を変えるために、二輪車の前輪ホークを変位させるアクチュエータを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鞍乗型車両の中高速走行時の直進安定性を低下させないようにするために、ウィーブ現象またはウォブル現象を抑制することが望まれる。しかしながら、ウィーブ現象またはウォブル現象を抑制するために、鞍乗型車両が大型化し、または重量化することは好ましくない。例えば、ウィーブ現象またはウォブル現象を抑制するために、上記特許文献1に記載されたキャスタ角可変装置を鞍乗型車両に適用した場合には、前輪ホークを変位させるためのアクチュエータを鞍乗型車両に追加することによって、鞍乗型車両が大型化し、または重量化する可能性がある。
【0006】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウィーブ現象またはウォブル現象を抑制して中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる鞍乗型車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の走行制御装置は、鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え、前記角速度判断部は、前記被検角速度が、前記第1の角速度基準値よりも大きい所定の第2の角速度基準値以下であるか否かを判断し、前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度が前記第2の角速度基準値以下でない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の第2の走行制御装置は、鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え、前記角速度判断部は、前記角速度検出装置から出力された第2の所定時間内における前記被検角速度の信号波形からオフセットが除去され、当該オフセットが除去された第2の所定時間内における被検角速度の信号波形の正の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積と、当該オフセットが除去された第2の所定時間内における被検角速度の信号波形の負の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積の絶対値とが互いに加算されたものである被検角速度信号波形積算面積を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積が所定の面積基準値を超えたか否かを判断し、前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度信号波形積算面積が前記面積基準値を超えていない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の第3の走行制御装置は、鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、前記車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、前記車両に設けられた角速度検出装置により検出された前記車両のヨー角速度またはロール角速度である被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、前記被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部と、前記車速判断部、前記走行状態判断部、前記角速度判断部および前記周波数判断部による判断の結果、前記車両の走行速度が前記速度基準値を超え、前記車両が定常走行しまたは加速している状態であり、前記被検角速度が前記第1の角速度基準値を超え、かつ前記被検角速度の周期的変化の周波数が前記周波数基準範囲内である場合に、前記車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部とを備え、前記角速度判断部は、前記角速度検出装置から出力された第3の所定時間内における前記被検角速度の信号波形からオフセットが除去され、当該オフセットが除去された第3の所定時間内における被検角速度の信号波形の正の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積と、当該オフセットが除去された第3の所定時間内における被検角速度の信号波形の負の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積の絶対値とが互いに加算されたものである被検角速度信号波形積算面積を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積を前記第3の所定時間で割ることにより被検角速度信号波形積算面積平均値を算出し、前記被検角速度信号波形積算面積平均値が所定の面積平均基準値を超えたか否かを判断し、前記走行制御部は、前記角速度判断部による判断の結果、前記被検角速度信号波形積算面積平均値が前記面積平均基準値を超えていない場合には前記速度抑制制御を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避しつつ、ウィーブ現象またはウォブル現象を抑制して鞍乗型車両の中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施例の走行制御装置を含む走行制御システムを示すブロック図である。
【
図2】
図1中の走行制御装置における振動抑制処理を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の第2の実施例の走行制御装置における振動抑制処理を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第3の実施例の走行制御装置における振動抑制処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の走行制御装置は、鞍乗型の車両の走行を制御する走行制御装置であって、車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する車速判断部と、車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断する走行状態判断部と、被検角速度が所定の第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する角速度判断部と、被検角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する周波数判断部とを備えている。ここで、被検角速度とは、車両に設けられた角速度検出装置により検出された車両のヨー角速度またはロール角速度である。さらに、本実施形態の走行制御装置は、車速判断部、走行状態判断部、角速度判断部および周波数判断部による判断の結果、車両の走行速度が速度基準値を超え、車両が定常走行しまたは加速している状態であり、被検角速度が第1の角速度基準値を超え、かつ被検角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内である場合に、車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う走行制御部を備えている。
【0011】
ウィーブ現象またはウォブル現象は車両の走行速度が中高速であるときに発生する。本実施形態の走行制御装置の車速判断部は、車両の走行速度が速度基準値を超えたか否かを判断する。速度基準値を例えば100km/h~130km/h程度に設定することにより、車両の走行速度が中高速であること、すなわち、車両の走行速度がウィーブ現象またはウォブル現象が発生しうる速度であることを認識することができる。
【0012】
また、ウィーブ現象により車両に発生する振動は、ヨーとロールが連成した方向の振動である。また、ウォブル現象により車両のステアリングの操舵軸に発生する振動には、ヨー方向およびロール方向の振動が含まれている。本実施形態の走行制御装置の角速度判断部は、被検角速度、すなわち、車両のヨー角速度またはロール角速度が第1の角速度基準値を超えたか否かを判断する。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動が車両に発生していることを認識することができる。なお、第1の角速度基準値として設定する値の大小によって、角速度判断部による車両の振動の認識の感度が変わる。すなわち、第1の角速度基準値を大きい値に設定した場合には、車両の振動の振幅が大きくならないと、車両が振動していると角速度判断部により判断されないのに対し、第1の角速度基準値を小さい値に設定した場合には、車両の振動の振幅が小さい場合でも、車両が振動していると角速度判断部により判断される。
【0013】
また、ウィーブ現象またはウォブル現象における車両の振動の周波数はおよそ1Hz~10Hzである。また、車両の振動は被検角速度の周期的変化として現れる。本実施形態の走行制御装置の周波数判断部は、被検角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であるか否かを判断する。例えば、周波数基準範囲を1Hz~10Hzに設定することにより、車両の振動の周波数が1Hz~10Hzの範囲内であること、すなわち、車両の振動の周波数がウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数範囲内であることを認識することができる。
【0014】
本実施形態の走行制御装置は、車速判断部、角速度判断部および周波数判断部により、車両の走行速度が速度基準値を超えたか否か、被検角速度が第1の角速度基準値を超えたか否か、かつ被検角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であるか否かを判断する。これらの判断結果に基づき、車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生していることを高精度に認識することができる。
【0015】
本実施形態の走行制御装置の走行判断部は、このように車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生していることが認識され、かつ車両が定常走行しまたは加速している状態であることが認識された場合には、車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を行う。速度抑制制御を行って車両の走行速度または走行の加速度を減少させることにより、ウィーブ現象またはウォブル現象による車両の振動を減少させ、または除去することができる。これにより、鞍乗型車両の中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる。
【0016】
また、本実施形態の走行制御装置において、走行状態判断部は、車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否か、すなわち、車両が減速していない状態であるか否かを判断する。そして、走行判断部は、走行状態判断部による判断の結果、車両が定常走行しまたは加速している状態でない場合、すなわち、車両が減速している状態である場合には速度抑制制御を行わない。これにより、車両が減速しているときに、車両の走行速度を減少させる速度抑制制御が行われることによって、車両の走行速度が短時間のうちに大きく減少し、車両の走行安定性が低下することを防止することができる。
【0017】
また、本実施形態の走行制御装置によれば、車両の走行速度または走行の加速度を減少させることによって、車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象を抑制することができるので、車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象を抑制するために、例えば車両の前輪ホークを変位させるアクチュエータ等、大きく、または重量のある部品を車両に追加する必要がない。したがって、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避することができる。
【実施例1】
【0018】
(走行制御システム)
図1は鞍乗型車両に設けられた走行制御システム1の構成を示している。走行制御システム1は鞍乗型車両の走行を制御するシステムである。
図1において、走行制御システム1は、鞍乗型車両の走行の動力源であるエンジン11を備えている。エンジン11には、エンジン11の燃焼室に供給する空気の量を制御するスロットルバルブ12、およびエンジン11の燃焼室に供給される空気に燃料を噴射して混合気を生成するインジェクタ13が設けられている。
【0019】
また、走行制御システム1は、鞍乗型車両の前輪の制動を行う前輪ブレーキシリンダ15、前輪ブレーキ液圧を発生させて前輪ブレーキシリンダ15を動作させる前輪ブレーキ液圧装置16、鞍乗型車両の後輪の制動を行う後輪ブレーキシリンダ17、後輪ブレーキ液圧を発生させて後輪ブレーキシリンダ17を動作させる後輪ブレーキ液圧装置18、およびブレーキ制御装置19を備えている。ブレーキ制御装置19は、前輪ブレーキ液圧装置16および後輪ブレーキ液圧装置18を制御することにより鞍乗型車両の前輪および後輪の制動を制御する装置である。ブレーキ制御装置19は、鞍乗型車両の操縦者のブレーキ操作に応じて前輪および後輪のそれぞれの制動を制御する他、アンチロックブレーキ制御、トラクションコントロールおよび横滑り防止制御等を行う。
【0020】
また、走行制御システム1は、アクセルポジションセンサ21、スロットルポジションセンサ22、車速センサ23および慣性計測装置24を備えている。アクセルポジションセンサ21は鞍乗型車両の操縦者によるアクセルグリップの操作量を検出する装置である。スロットルポジションセンサ22はスロットルバルブ12の開度を検出する装置である。車速センサ23は鞍乗型車両の走行速度を検出する装置であり、例えば前輪または後輪の回転数を測定する。慣性計測装置24は、三次元空間における3軸の各方向の並進運動(加速度)および回転運動(角速度)を検出することにより、鞍乗型車両の挙動を検出する装置である。慣性計測装置24は、鞍乗型車両における前後方向、左右方向および上下方向の加速度を検出する加速度センサ、および鞍乗型車両における上下方向の軸回り、前後方向の軸回りおよび左右方向の軸回りの角速度(ヨー角速度、ロール角速度およびピッチ角速度)を検出するジャイロまたは角速度センサを有している。なお、慣性計測装置24は特許請求の範囲の記載における角速度検出装置の具体例である。
【0021】
また、走行制御システム1はコントロールユニット31を備えている。コントロールユニット31は、ECU(エンジンコントロールユニット、またはエレクトロニックコントロールユニット)と呼ばれるものに相当する。コントロールユニット31は、鞍乗型車両の走行制御に係る処理、判断、演算、指令出力等を行う走行制御装置32、走行制御装置32からの指令に従ってスロットルバルブ12を制御するスロットル制御部42、走行制御装置32からの指令に従ってインジェクタ13を制御する燃料制御部43、およびプログラムおよびデータを記憶する記憶部45を有している。走行制御装置32、スロットル制御部42および燃料制御部43はそれぞれ、例えばCPU(中央演算処理装置)を含む集積回路等により構成されている。記憶部45は例えば半導体メモリ等により構成されている。
【0022】
また、アクセルポジションセンサ21、スロットルポジションセンサ22および車速センサ23はコントロールユニット31に電気的に接続されている。アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセルグリップの操作量を示す検出信号、スロットルポジションセンサ22により検出されたスロットルバルブ12の開度を示す検出信号、および車速センサ23により検出された鞍乗型車両の走行速度を示す検出信号はコントロールユニット31の走行制御装置32にそれぞれ入力される。また、ブレーキ制御装置19はコントロールユニット31に電気的に接続されている。ブレーキ制御装置19は、走行制御装置32からの指令に基づいて鞍乗型車両の前輪および後輪の制動を制御する。また、慣性計測装置24はブレーキ制御装置19に電気的に接続されている。慣性計測装置24は、鞍乗型車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度をそれぞれ示す検出信号、並びに鞍乗型車両のヨー角速度、ロール角速度およびピッチ角速度をそれぞれ示す検出信号を出力する。慣性計測装置24から出力されたこれらの検出信号はブレーキ制御装置19に入力される。また、慣性計測装置24から出力されたこれらの検出信号はブレーキ制御装置19を介してコントロールユニット31の走行制御装置32に入力される。
【0023】
また、走行制御システム1は、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生したときに、ウィーブ現象またはウォブル現象における鞍乗型車両の振動を減少させ、または除去する機能を有している。具体的には、走行制御システム1における走行制御装置32は、例えば記憶部45に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより、車速判断部33、走行状態判断部34、角速度判断部35、周波数判断部36および走行制御部37として機能する。これら車速判断部33、走行状態判断部34、角速度判断部35、周波数判断部36および走行制御部37は振動抑制処理を行う。振動抑制処理とは、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生したことを認識し、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または除去する処理である。
【0024】
(振動抑制処理)
図2は本実施例における振動抑制処理を示している。振動抑制処理は鞍乗型車両の走行中に実行される。
図2に示す振動抑制処理において、まず、車速判断部33が、車速センサ23により検出された鞍乗型車両の走行速度に基づいて、鞍乗型車両の走行速度が所定の速度基準値を超えたか否かを判断する(ステップS1)。
【0025】
速度基準値は、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生し得る速度に設定する。ウィーブ現象またはウォブル現象が発生する鞍乗型車両の走行速度は、鞍乗型車両の大きさまたは具体的な構造等によって異なるのであるが、多くの鞍乗型車両において、走行速度が100km/h~130km/hを超えたときにウィーブ現象またはウォブル現象が発生する。それゆえ、速度基準値は、およそ100km/h~130km/hの範囲に含まれる一の値に設定することが好ましい。また、速度基準値は、鞍乗型車両の製品の種類ごとに設定することが好ましい。速度基準値は、ウィーブ現象またはウォブル現象が発生する速度を鞍乗型車両の製品の種類ごとに実験により決定することができる。
【0026】
また、速度基準値は、ウィーブ現象またはウォブル現象を、鞍乗型車両の走行時に発生する他の振動現象、例えば低速シミー現象等から識別することを考慮して設定する。低速シミー現象が発生する鞍乗型車両の走行速度は、鞍乗型車両の大きさまたは種類等により異なるのであるが、一般的には、30km/h~100km/h程度である。したがって、速度基準値をおよそ100km/h~130km/hの範囲に含まれる一の値に設定することで、ウィーブ現象またはウォブル現象を低速シミー現象から識別することができる。本実施例においては、速度基準値が例えば100km/hに設定されている。
【0027】
車速判断部33による判断の結果、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値を超えた場合には(ステップS1:YES)、走行状態判断部34が、スロットルポジションセンサ22により検出されたスロットルバルブ12の開度に基づいて、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否か、すなわち、鞍乗型車両が減速していない状態であるか否かを判断する(ステップS2)。なお、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かの判断を、アクセルポジションセンサ21により検出されたアクセルグリップの操作量、またはブレーキ制御装置19による前輪ブレーキ液圧装置16および後輪ブレーキ液圧装置18の制御状態に基づいて判断してもよい。
【0028】
走行状態判断部34による判断の結果、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態である場合には(ステップS2:YES)、角速度判断部35が、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が所定のヨー角速度下限基準値を超えたか否かを判断する(ステップS3)。
【0029】
ウィーブ現象により鞍乗型車両に発生する振動は、ヨーとロールが連成した方向の振動である。また、ウォブル現象により鞍乗型車両のステアリングの操舵軸に発生する振動には、ヨー方向およびロール方向の振動が含まれている。したがって、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度に基づいて、ウィーブ現象またはウォブル現象における鞍乗型車両の振動の大きさ(振動の振幅)を認識することができる。また、ヨー角速度下限基準値として設定する値の大小によって、角速度判断部35による鞍乗型車両の振動の認識の感度が変わる。すなわち、ヨー角速度下限基準値を大きい値に設定した場合には、鞍乗型車両の振動の振幅が大きくならないと、鞍乗型車両が振動していると角速度判断部35により判断されないのに対し、ヨー角速度下限基準値を小さい値に設定した場合には、鞍乗型車両の振動の振幅が小さい場合でも、鞍乗型車両が振動していると角速度判断部35により判断される。ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、それが発生してから早期に抑制するために、ヨー角速度下限基準値を小さい値に設定することが好ましい。本実施例においては、ヨー角速度下限基準値が例えば0.14rad/s~0.21rad/sの範囲に含まれる一の値に設定されている。なお、第1の角速度基準値は特許請求の範囲の記載における第1の角速度基準値の具体例である。
【0030】
角速度判断部35による判断の結果、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度下限基準値を超えた場合(ステップS3、YES)、角速度判断部35は、続いて、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が所定のヨー角速度上限基準値以下であるか否かを判断する(ステップS4)。
【0031】
ヨー角速度上限基準値は、ヨー角速度下限基準値よりも大きい値に設定する。また、ヨー角速度上限基準値は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両が他の物体に衝突または接触したとき、または操縦者が鞍乗型車両の極端な操作を行ったときに生じる振動から識別することを考慮して設定する。鞍乗型車両が他の物体に衝突または接触したとき、または操縦者が鞍乗型車両の極端な操作を行ったときに生じる振動に起因する鞍乗型車両のヨー角速度は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動に起因する鞍乗型車両のヨー角速度よりも大きい場合がある。したがって、ヨー角速度上限基準値は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動に起因するものと考えられる鞍乗型車両のヨー角速度の範囲を超えた大きい値に設定する。本実施例においては、ヨー角速度上限基準値が例えば1.75rad/sに設定されている。なお、ヨー角速度上限基準値は特許請求の範囲の記載における第2の角速度基準値の具体例である。
【0032】
角速度判断部35による判断の結果、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度上限基準値以下である場合には(ステップS4:YES)、周波数判断部36が、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が所定の周波数基準範囲内であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0033】
慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数に基づいて、鞍乗型車両の振動の周波数を認識することができる。また、周波数基準範囲は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数の範囲に合致するように、またはウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数の範囲の一部または全部を含むように設定する。ウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数の範囲は、鞍乗型車両の大きさまたは具体的な構造等によって異なるのであるが、多くの鞍乗型車両において1Hz~10Hzとなる。それゆえ、周波数基準範囲は、基本的には、1Hz~10Hzに設定することが好ましい。また、周波数基準範囲は、鞍乗型車両の製品の種類ごとに設定することが好ましい。周波数基準範囲は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数を鞍乗型車両の製品の種類ごとに実験により測定して決定することができる。本実施例においては、周波数基準範囲が1Hz~10Hzに設定されている。
【0034】
また、周波数基準範囲は、ウィーブ現象またはウォブル現象を、鞍乗型車両の走行時に発生する他の振動現象から識別することを考慮して設定することが好ましい。例えば、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数の範囲と他の振動現象における振動の周波数の範囲とに重複がある場合には、その重複部分をウィーブ現象またはウォブル現象における振動の周波数の範囲から除外した範囲を周波数基準範囲として設定してもよい。
【0035】
周波数判断部36による判断の結果、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内である場合には(ステップS5:YES)、角速度判断部35が、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が所定の基準回数を超えたか否かを判断する(ステップS6)。
【0036】
上記第1の所定時間および基準回数は、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両に生じた連続的なキックバックまたは急なハンドル操作等から識別することを考慮して設定する。例えば、連続的なキックバックの回数、または急なハンドル操作による鞍乗型車両の変位の回数等を実験により確認し、その結果に基づいて上記第1の所定時間および基準回数を設定することができる。例えば、キックバックが1秒間内に3回を超えて生じることは希である。したがって、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が1秒間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が3回を超えた場合、鞍乗型車両に生じている変位は連続的なキックバックではない可能性が高い。本実施例では、上記第1の所定時間が1秒に設定され、基準回数が3回に設定されている。なお、実験の結果に基づき、上記第1の所定時間を1秒よりも短く、または長くしてもよく、また、基準回数を2回、4回または5回程度に設定してもよい。
【0037】
ステップS1~S6の6つの判断のいずれもがYESとなった場合、すなわち、車速判断部33、走行状態判断部34、角速度判断部35および周波数判断部36による判断の結果、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値を超え、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態であり、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度下限基準値を超え、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度上限基準値以下であり、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であり、かつ慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が基準回数を超えた場合には、走行制御部37が、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を開始する(ステップS7)。すなわち、ステップS1~S6の6つの判断のいずれもがYESとなった場合には、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生していると考えられる。この場合、走行制御部37は、速度抑制制御を開始して、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または当該振動を除去することができる。
【0038】
鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる方法として、(1)鞍乗型車両におけるスロットルバルブ12の開度を小さくする方法、(2)エンジン11への燃料の供給を減少またはカットする方法、および(3)後輪ブレーキをかける方法がある。
【0039】
(1)の方法を採用した場合、走行制御部37は、速度抑制制御として、スロットルバルブ12の開度を小さくすることを命じる指令をスロットル制御部42へ出力する。スロットル制御部42はその指令に応じてスロットルバルブ12の開度を減少させる。
【0040】
(2)の方法を採用した場合、走行制御部37は、速度抑制制御として、燃料噴射量を減少させ、または燃料カットを行うことを命じる指令を燃料制御部43に出力する。燃料制御部43はその指令に応じてインジェクタ13の燃料噴射量を減少させ、またはインジェクタ13から燃料が噴射されないようにする。
【0041】
(3)の方法を採用した場合、走行制御部37は、速度抑制制御として、後輪ブレーキをかけることを命じる指令をブレーキ制御装置19に送る。ブレーキ制御装置19はその指令に応じ、後輪ブレーキ液圧装置18を制御して後輪ブレーキ液圧を発生させ、後輪ブレーキシリンダ17を動作させ、後輪ブレーキをかける。前輪ブレーキをかけずに後輪ブレーキをかけることで、ブレーキ時の加重が鞍乗型車両の前側にかかることを抑制することができ、ウィーブ現象またはウォブル現象による前輪の振動に起因するステアリング振動を効果的に抑制することができる。なお、前輪ブレーキおよび後輪ブレーキの双方をかけることとし、前輪ブレーキをかけるタイミングを、後輪ブレーキをかけるタイミングよりも遅くしてもよい。また、前輪ブレーキおよび後輪ブレーキの双方をかけることとし、前輪ブレーキを後輪ブレーキよりも弱くしてもよい。
【0042】
本実施例においては(1)の方法を採用しているが、(2)または(3)の方法を採用してもよいし、(1)~(3)の方法のうちのいずれか2つの方法を組み合わせてもよいし、(1)~(3)の3つの方法を組み合わせてもよい。
【0043】
また、速度抑制制御では、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を徐々に減少させるようにする。すなわち、走行速度または加速度の急な減少によって鞍乗型車両の走行安定性が低下することを避ける。
【0044】
また、鞍乗型車両のメータ等、操縦者が視認することができる箇所に、速度抑制制御が実行されていることを示す表示器としてのインジケータを設け、ステップS7において、速度抑制制御が開始されたときに当該インジケータを点灯または点滅させるようにしてもよい。これにより、速度抑制制御が開始されたことを操縦者に知らせることができる。
【0045】
一方、ステップS1~S6の6つの判断のうちのいずれかがNOとなった場合、すなわち、車速判断部33、走行状態判断部34、角速度判断部35および周波数判断部36による判断の結果、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値を超えていない場合、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態でない場合(すなわち、鞍乗型車両が減速している状態である場合)、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度下限基準値を超えていない場合、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度上限基準値以下でない場合、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内でない場合、または慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が基準回数を超えていない場合には、走行制御装置32は処理をステップS1に戻す。すなわち、ステップS1~S6の6つの判断のいずれかがNOとなった場合には、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生していないと考えられる。この場合、速度抑制制御は実行されない。
【0046】
さて、ステップS1~S6の6つの判断のいずれもがYESとなり、ステップS7において速度抑制制御が開始された後、走行制御部37は、速度抑制制御を停止するための制御停止条件が満たされたか否かを判断し、この制御停止条件が満たされた場合には(ステップS8:YES)、速度抑制制御を停止する(ステップS9)。
【0047】
速度抑制制御を停止するための制御停止条件として、例えば、次の5通りの条件がある。
(a)鞍乗型車両の走行速度が上記速度基準値以下になったこと
(b)慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が上記ヨー角速度下限基準値以下になったこと
(c)慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が上記ヨー角速度上限基準値を超えたこと
(d)慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が上記周波数基準範囲外になったこと
(e)慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が上記第1の所定時間内に上記ヨー角速度下限基準値を超えた回数が上記基準回数以下になったこと
これら(a)~(e)のうちの少なくともいずれか1つの制御停止条件が満たされた場合に、走行制御部37は速度抑制制御を停止する。具体的には、速度抑制制御が行われている間、車速判断部33、角速度判断部35および周波数判断部36が上記ステップS1、S3、S4、S5およびS6と同様の判断処理を繰り返し行う。そして、車速判断部33、角速度判断部35および周波数判断部36による判断処理の結果、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値以下になった場合、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度下限基準値以下になった場合、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度上限基準値を超えた場合、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲外になった場合、または慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が基準回数以下になった場合には、走行制御部37は速度抑制制御を停止する。上記5通りの制御停止条件のうちの少なくともいずれか1つが満たされた場合には、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動が十分に減少し、または消えたと考えられるので、直ちに速度抑制制御を停止して、鞍乗型車両の走行速度が不必要に減少することを防ぐ。また、速度抑制制御を停止したときには、速度抑制制御が実行されていることを示すインジケータを消灯する。また、速度抑制制御の停止後、処理はステップS1に戻る。なお、速度抑制制御を停止するための制御停止条件から上記(c)、(d)および(e)の条件のうちのいずれか1つ、いずれか2つ、またはこれら3つすべてを除外してもよい。また、制御停止条件を、上記(a)の条件のみとしてもよいし、上記(b)の条件のみとしてもよい。
【0048】
以上説明した通り、本発明の第1の実施例の走行制御装置32は、
図2中のステップS1~S6の判断の結果、鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象が発生していることが認識された場合には、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または当該振動を除去することができ、鞍乗型車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象を抑制し、または消すことができる。すなわち、ウィーブ現象またはウォブル現象が発生する鞍乗型車両の走行速度は、鞍乗型車両の大きさまたは具体的な構造等によって異なるのであるが、多くの鞍乗型車両において、走行速度が100km/h~130km/hを超えたときにウィーブ現象またはウォブル現象が発生する。したがって、例えば、走行速度が130km/hを超えたときにウィーブ現象またはウォブル現象が発生する傾向のある鞍乗型車両においては、走行速度を130km/h以下に減少させることにより、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または除去することができる。また、走行速度が100km/hを超えたときにウィーブ現象またはウォブル現象が発生する傾向のある鞍乗型車両においては、走行速度を100km/h以下に減少させることにより、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または除去することができる。ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を減少させ、または除去することにより、鞍乗型車両の中高速走行時における直進安定性の低下を抑えることができる。
【0049】
また、本実施例の走行制御装置32によれば、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させることによって、鞍乗型車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象を抑制または消すことができるので、鞍乗型車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象を抑制または消すために、例えば車両の前輪ホークを変位させるアクチュエータ等、大きく、または重量のある部品を車両に追加する必要がない。したがって、鞍乗型車両の大型化または重量化を回避することができる。
【0050】
また、本実施例の走行制御装置32は、ヨー角速度に基づいて、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることを判断する。ウィーブ現象による振動はヨーとロールが連成した方向の振動であり、ウォブル現象による振動にはヨー方向およびロール方向の振動が含まれているので、ヨー角速度に基づくことにより、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断を精度良く行うことができる。
【0051】
また、本実施例の走行制御装置32は、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値を超えたか否かを判断することにより、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることを判断する。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、低速シミー現象における振動等から識別することができる。したがって、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断の精度を一層高めることができる。
【0052】
また、本実施例の走行制御装置32は、鞍乗型車両のヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であるか否かを判断することにより、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることを判断する。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象を他の振動現象から識別することができる。したがって、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断の精度をより一層高めることができる。
【0053】
また、本実施例の走行制御装置32は、鞍乗型車両のヨー角速度がヨー角速度上限基準値以下であるか否かを判断する。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両が他の物体に衝突または接触したとき、または操縦者が鞍乗型車両の極端な操作を行ったときに生じる振動から識別することができる。したがって、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断の精度をより一層高めることができる。
【0054】
また、本実施例の走行制御装置32は、鞍乗型車両のヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が所定の基準回数を超えたか否かを判断する。これにより、ウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両に生じた連続的なキックバックまたは急なハンドル操作等から識別することができる。したがって、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断の精度をさらに一層高めることができる。
【0055】
また、本実施形態の走行制御装置32は、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態であるか否かを判断し、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態でない場合、すなわち、鞍乗型車両が減速している状態である場合には速度抑制制御を行わない。これにより、鞍乗型車両が減速しているときに、鞍乗型車両の走行速度を減少させる速度抑制制御が行われることによって、鞍乗型車両の走行速度が短時間のうちに大きく減少し、鞍乗型車両の走行安定性が低下することを防止することができる。
【0056】
また、本実施形態の走行制御装置32は、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御の方法として、鞍乗型車両におけるスロットルバルブ12の開度を小さくする方法を採用している。これにより、早期に速度抑制を開始することができる。また、緩やかな速度抑制が可能であるので、操縦安定性および交通の安全性を確保することができる。また、速度抑制制御の方法として、エンジン11への燃料の供給を減少またはカットする方法を採用した場合でも、速度抑制を早期開始、および緩やかな速度抑制を実現することができる。また、速度抑制制御の方法として、後輪ブレーキをかける方法を採用した場合には、上述したように、ブレーキ時の加重が鞍乗型車両の前側にかかることを抑制することができ、ウィーブ現象またはウォブル現象による前輪の振動に起因するステアリング振動を効果的に抑制することができる。
【実施例2】
【0057】
図3は、本発明の第2の実施例の走行制御装置における振動抑制処理を示している。
図3の処理において、
図2に示す第1の実施例における振動抑制処理と同一のステップには同一の符号を付し、その説明を簡略化または省略する。
【0058】
第2の実施例における振動抑制処理では、速度抑制制御を開始するか否かを決する判断内容が、第1の実施例における振動抑制処理におけるものと一部異なる。すなわち、第1の実施例の振動抑制処理において、角速度判断部35は、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が所定の基準回数を超えたか否かを判断する(
図2中のステップS6)。これに対し、第2の実施例における振動抑制処理では、角速度判断部35は、この判断を行わず、その代わりに、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第2の所定時間内の面積(積分値)が所定の面積基準値を超えたか否かを判断する(
図3中のステップS21)。
【0059】
ここで、
図4中の信号波形Wは、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形を、当該信号波形からオフセットを除去して単純化して示したものである。信号波形Wの第2の所定時間T内の面積は、
図4においてハッチングを付した部分の面積である。すなわち、信号波形Wの第2の所定時間T内の面積は、第2の所定時間T内における信号波形Wの正の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積と、第2の所定時間T内における信号波形Wの負の部分と時間軸とにより囲まれた部分の面積の絶対値とを加算したものである。
【0060】
また、第2の所定時間および面積基準値は、鞍乗型車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両に生じた連続的なキックバックまたは急なハンドル操作等から識別することを考慮して設定する。第2の所定時間および面積基準値は、実験により鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象を発生させ、そのときの鞍乗型車両のヨー角速度の信号波形を分析して決定する。
【0061】
第2の実施例の振動抑制処理において、走行制御部37は、
図3中のステップS1~S5およびS21の6つの判断のいずれもがYESとなった場合、すなわち、車速判断部33、走行状態判断部34、角速度判断部35および周波数判断部36による判断の結果、鞍乗型車両の走行速度が速度基準値を超え、鞍乗型車両が定常走行しまたは加速している状態であり、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度下限基準値を超え、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度がヨー角速度上限基準値以下であり、慣性計測装置24により検出されたヨー角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であり、かつ慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第2の所定時間内の面積が所定の面積基準値を超えた場合に、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を開始する。一方、
図3中のステップS1~S5およびS21の6つの判断のうちのいずれかがNOとなった場合には、速度抑制制御は実行されない。
【0062】
また、第2の実施例においても、第1の実施例と同様に、走行制御部37は、速度抑制制御を開始した後に、速度抑制制御を停止するための制御停止条件が満たされたか否かを判断し、この制御停止条件が満たされた場合に(ステップS22:YES)、速度抑制制御を停止する(ステップS9)。速度抑制制御を停止するための制御停止条件は例えば5通りあり、これらの条件のうちの4つは第1の実施例における上記(a)~(d)の条件と同じである。しかしながら、残りの1つの条件は、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の上記第2の所定時間内の面積が上記面積基準値以下になったことである。これら5通りの制御停止条件のうちの少なくともいずれか1つが満たされた場合に、走行制御部37は速度抑制制御を停止する。
【0063】
本発明の第2の実施例によっても、本発明の第1の実施例とほぼ同様の作用効果を得ることができる。さらに、本発明の第2の実施例の走行制御装置32は、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第2の所定時間内の面積が所定の面積基準値を超えたことに基づいて、鞍乗型車両におけるウィーブ現象またはウォブル現象の発生を認識する。これにより、鞍乗型車両のヨー角速度の信号が安定せず、鞍乗型車両のヨー角速度が第1の所定時間内にヨー角速度下限基準値を超えた回数が所定の基準回数を超えたか否かを判断することが困難な場合でも、ウィーブ現象またはウォブル現象による鞍乗型車両の振動を、鞍乗型車両に生じた連続的なキックバックまたは急なハンドル操作等から識別することができ、鞍乗型車両におけるウィーブ現象またはウォブル現象の発生を高精度に認識することができる。
【実施例3】
【0064】
図5は、本発明の第3の実施例の走行制御装置における振動抑制処理を示している。
図5の処理において、
図3に示す第2の実施例における振動抑制処理と同一のステップには同一の符号を付し、その説明を簡略化または省略する。
【0065】
第2の実施例の振動抑制処理において、角速度判断部35は、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第2の所定時間内の面積が所定の面積基準値を超えたか否かを判断する(
図3中のステップS21)。これに対し、第3の実施例における振動抑制処理では、角速度判断部35は、この判断を行わず、その代わりに、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第3の所定時間内の面積平均値(積分の平均値)が所定の面積平均基準値を超えたか否かを判断する(
図5中のステップS31)。
【0066】
慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第3の所定時間内の面積平均値とは、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の第3の所定時間内の面積を、第3の所定時間で割った値である。また、第3の所定時間および面積平均基準値は、鞍乗型車両に発生したウィーブ現象またはウォブル現象における振動を、鞍乗型車両に生じた連続的なキックバックまたは急なハンドル操作等から識別することを考慮して設定する。第3の所定時間および面積平均基準値は、実験により鞍乗型車両にウィーブ現象またはウォブル現象を発生させ、そのときの鞍乗型車両のヨー角速度の信号波形を分析して決定する。
【0067】
第3の実施例の振動抑制処理において、走行制御部37は、
図5中のステップS1~S5およびS31の6つの判断のいずれもがYESとなった場合、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる速度抑制制御を開始する。一方、
図5中のステップS1~S5およびS31の6つの判断のうちのいずれかがNOとなった場合には、速度抑制制御は実行されない。
【0068】
また、第3の実施例においても、第1の実施例と同様に、走行制御部37は、速度抑制制御を開始した後に、速度抑制制御を停止するための制御停止条件が満たされたか否かを判断し、この制御停止条件が満たされた場合に(ステップS32:YES)、速度抑制制御を停止する(ステップS9)。速度抑制制御を停止するための制御停止条件は例えば5通りあり、これらの条件のうちの4つは第1の実施例における上記(a)~(d)の条件と同じである。しかしながら、残りの1つの条件は、慣性計測装置24から出力されたヨー角速度の信号波形の上記第3の所定時間内の面積平均値が上記面積平均基準値以下になったことである。これら5通りの制御停止条件のうちの少なくともいずれか1つが満たされた場合に、走行制御部37は速度抑制制御を停止する。
【0069】
本発明の第3の実施例によっても、本発明の第2の実施例とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0070】
なお、上記各実施例では、鞍乗型車両のヨー角速度に基づいて、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることを判断する場合を例にあげたが、鞍乗型車両のロール角速度に基づいて、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることを判断してもよい。この場合、
図2、
図3または
図5に示す振動抑制処理において、ステップS3では、慣性計測装置24により検出されたロール角速度がロール角速度下限基準値を超えているか否かを判断し、ステップS4では、慣性計測装置24により検出されたロール角速度がロール角速度上限基準値以下であるか否かを判断し、ステップS5では、慣性計測装置24により検出されたロール角速度の周期的変化の周波数が周波数基準範囲内であるか否かを判断する。また、
図2に示す振動抑制処理のステップS6では、慣性計測装置24により検出されたロール角速度が第1の所定時間内にロール角速度下限基準値を超えた回数が基準回数を超えたか否かを判断する。また、
図3に示す振動抑制処理のステップS21では、慣性計測装置24から出力されたロール角速度の信号波形の第2の所定時間内の面積が所定の面積基準値を超えたか否かを判断する。また、
図5に示す振動抑制処理のステップS31では、慣性計測装置24から出力されたロール角速度の信号波形の第3の所定時間内の面積平均値が所定の面積平均基準値を超えたか否かを判断する。また、この場合、速度抑制制御の開始後に速度抑制制御を停止させることの判断も、鞍乗型車両のロール角速度に基づいて行ってもよい。また、鞍乗型車両のヨー角速度およびロール角速度の双方に基づいて、ウィーブ現象またはウォブル現象が鞍乗型車両に発生していることの判断等を行ってもよい。
【0071】
また、鞍乗型車両の操縦者に振動抑制処理を行うか否かを選択する手段を鞍乗型車両に設けてもよい。例えば、振動抑制処理のオン・オフボタンを鞍乗型車両のハンドルバーに設けてもよい。
【0072】
また、上記各実施例では、本発明の走行制御装置を、走行の動力源がエンジン(内燃機関)である鞍乗型車両に適用した場合の例をあげたが、本発明は走行の動力源が電動モータである鞍乗型車両にも適用することができる。この場合、走行制御装置の走行制御部は、電動モータのトルクまたは回転数を制御することにより、鞍乗型車両の走行速度または走行の加速度を減少させる。
【0073】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う走行制御装置もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
11 エンジン
12 スロットルバルブ
13 インジェクタ
17 後輪ブレーキシリンダ
18 後輪ブレーキ液圧装置
19 ブレーキ制御装置
22 スロットルポジションセンサ
23 車速センサ
24 慣性計測装置(角速度検出装置)
31 コントロールユニット
32 走行制御装置
33 車速判断部
34 走行状態判断部
35 角速度判断部
36 周波数判断部
37 走行制御部
42 スロットル制御部
43 燃料制御部